真夏の日差しが降り注ぐ、あの出会いからすべてが始まった。
お笑いの夢を追いかける彼と、その隣で微笑む彼女。
手と手を取り合って紡がれる、笑いと涙に満ちた日々は、いつしか永遠の物語へと変わっていく。
これは、浪花の街で繰り広げられる、世界で一番幸せな「笑い話」。
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目次
 
    
        #01
        
        
        --- 中学1年の夏、8月 ---
蝉しぐれが降り注ぐ中、教卓に立つ担任の先生が朗らかな声で告げた。
「はい、みんな静かにしぃ。今日は転校生が来とるで」
(こんな暑い時に転校生て、珍しいやんか)
窓の外にぼんやりと視線を向けていた簓は、ふとそんなことを思った。教室のざわめきがドアのほうへ向かう。
「さあ、入ってきて」
ガラガラとドアが開く音に、クラスメイトの視線が一斉に注がれる。
「初めまして、琥珀です。よろしくお願いします」
入ってきたのは、まるで天使のように透き通った髪を持つ、穏やかな雰囲気の女の子だった。夏の日差しを反射して、少しだけ輝いて見える。
「じゃあ琥珀さん、白膠木さんの隣の席へ」
「へ?お、俺!?」
突然の指名に、簓は素っ頓狂な声を上げた。
「だって、今空いてる席はあんたの隣しかないんよ」
後ろの席に座っていた同級生が面白がってニヤニヤとからかってくる。
「せ、せやけど……」
簓は少しむすっとしながらも、妙な緊張感を覚えていた。
--- 午前の授業が終わり、昼休み ---
静かに昼食を広げている琥珀に、簓は勇気を出して声をかけた。
「なぁ、名前なんていうん」
「あ、えっと……琥珀やで」
「琥珀ちゃんよろしゅう」
「…よろしゅう」
気まずい沈黙が流れたとき、琥珀の視線が簓の鞄に付けられたキーホルダーに留まった。
「そ、そのキーホルダーって……もしかして、『もうかりまっか本舗』の?」
指を差されたキーホルダーを見て、簓の目がキラキラと輝き出す。
「え!あんたも分かるんか!?」
「う、うん。いつも家族みんなで見てたから……。特にあのコンビが面白くて」
そこから二人の会話は止まらなかった。お互いがお笑い好きだと分かった途端、簓は身を乗り出して熱心に話し始める。
--- そして30分後 ---
キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴り響く。
「まさか琥珀ちゃんも好きやったなんて、思いもよらんかったわ〜!」
「ふふ、こっちこそ。あんなに熱く語れる人が身近にいるなんて思わんかった」
初めて会ったばかりだとは思えないほど、二人は楽しそうに笑い合っていた。
「いつか、あの人たちみたいに舞台で人を笑わせる芸人になるのが夢なんや」
目を輝かせて夢を語る簓に、琥珀は優しく微笑んで言った。
「…きっと、なれるよ」
その言葉に、簓は顔を赤くして、そっと視線を逸らした。
ーー転校して数日後、放課後の教室ーー
「そういえば、琥珀ちゃんって好きなタイプとかあるん?」
と、仲良くなった同級生の女の子がニヤニヤと聞いてきた。
「///急になんや」
琥珀は頬を染めて、口元を隠す。
「ふふ、あるってことでええんかな?」
「う、流石に一つや二つはあるわ」
必死に取り繕う琥珀の様子が面白くて、簓は思わず聞き耳を立ててしまう。
「じゃあ、どんな人がタイプなん?」
「うーん……おもろい人、かな」
琥珀の言葉に、簓は一瞬だけ胸が高鳴る。
「じゃあ、白膠木くんぴったりじゃん!」
女の子の言葉に、琥珀は真っ赤になって否定した。
「はぁ!?// あんなアホそうな奴のこと、好きになるわけないやろ!」
「はいはーい、そう言ってぇ好きなんやろぉ?」
からかわれて、琥珀は口を尖らせる。
その日、初めて自分の心に芽生えた特別な感情に、琥珀は気づいたのだった。
--- その日の夕方 ---
「可愛くて、大好きな女の子」
簓は、自室のベッドで天井を見上げながら、そう呟いた。
琥珀と出会って数日共に過ごす時間が増えるたびに、琥珀のことが頭から離れなくなっていく。
(他の男には絶対取られたくない)
心に強く誓った簓は、告白することを決意した。
---半年後の春休み---
「なぁ、琥珀ちゃん。伝えたい事あるんやけど、ええか?」
公園のベンチで話していた簓が、真剣な顔で琥珀に声をかけた。
「ん?どうしたん、簓くん」
いつもより少し大人びた声に、琥珀はドキリとする。
(伝えるんや…ちゃんと)
緊張で声が震えそうになるのを必死に抑えながら、簓は琥珀の手をそっと握った。
「初めて出会ってから、ずっと……その、琥珀ちゃんのことが好きや僕と、その…付き合ってくれませんか?」
簓の精一杯の告白に、琥珀は少し驚いた顔をした後、ふっと笑った。そして、ぎゅっと簓の手を握り返す。
「うん、いいよ。うちも、簓くんのこと、ずっと好きやった」
「えっ…ほんまに!?ほんまにええの!?」
簓の目は、まるでヒーローが夢を叶えたかのように輝いていた。
--- 付き合って半月後---
待ち合わせの公園で、簓の姿を探す琥珀。
「簓、どこにおるんやろう…」
キョロキョロと周りを見渡すと、遠くから弾んだ声が聞こえた。
「琥珀!ここや!」
琥珀を見つけた簓が、大きく手を振って駆け寄ってくる。
「あっはは、琥珀は相変わらずかわええな。まるでべっぴんさんや」
「もう、簓のばかぁ…///」
琥珀が照れて口元を隠した瞬間、簓は琥珀の唇にそっとキスをした。
「ん…//」
「それ以上は聞かへんで」
耳元で囁かれた言葉に、琥珀は顔をさらに赤くする。
「もう、知らん!はよ行こ!」
繋いだ手を引き、琥珀は走り出す。
「せやな、行こか」
二人の手は、春の優しい日差しの中で、しっかりと繋がれていた。
        
    
     
    
        #00
        
        
        名前:白膠木 琥珀
年齢:26
身長:165㎝
体重:60kg
好物:和菓子 お笑い番組 簓
職業:表面上は歌手兼チームリーダー
誕生日:9/3
MCネーム:traitor singer(トレイターシンガー)
名前:白膠木 簓
年齢:26
身長:174㎝
体重58kg
好物:クリームソーダ 人を笑わせること 琥珀
職業:お笑い芸能人
誕生日:10/31
MCネーム: Tragic Comedy(トラジックコメディー)
        
    
     
    
        #02
        
        
        繋いだ手を引き、琥珀は走り出す。
「せやな、行こか」
二人の手は、春の優しい日差しの中で、しっかりと繋がれていた。
---
少し息を切らしながら公園の小道を駆け抜けると、二人の目の前に大きな桜の木が現れる。満開の桜が、春の風に揺られて花びらを散らしていた。
「うわあ……すごい、簓」
琥珀が立ち止まり、思わず見上げる。
「せやろ?ここ、前々から琥珀に見せたかってん。ええ感じやろ?」
簓は琥珀の隣に並び、いたずらっぽく微笑む。
「うん、すごくきれい。空がピンク色みたいや……」
琥珀は夢見心地で、空を仰ぐ。
桜の花びらが、琥珀の頬にひらりと舞い降りる。簓はそれをそっと指でつまみ、琥珀の髪に飾ってやった。
「あはは、ほんま、絵になるわぁ。桜も琥珀も、どっちも負けへんくらい可愛ええな」
「ッ//もう!やめてや……」
琥珀は照れて俯き、口元を隠す。
「なんや、照れてる顔も可愛いな。な、琥珀。おいで」
簓は琥珀の手を引くと、桜の木の根元に敷かれたベンチに座るよう促した。
並んで腰を下ろし、しばらく二人で無言のまま桜を眺める。
「な、琥珀」
心地よい沈黙を破ったのは、簓の声だった。
「ん?」
琥珀は視線を簓に向ける。
「あのな、俺、琥珀と付き合い始めてから、ほんま毎日楽しいねん」
簓は少し照れくさそうに笑う。
「ふふ、私もだよ。簓と一緒にいると、毎日笑ってばっかりや」
「やろ?俺も、琥珀の笑ってる顔見るのが一番好きや見てるだけでなんかこう、胸ん中がぽかぽかするねん」
簓は琥珀の繋いだ手に、そっと自分の手を重ねた。
「なんか急にどうしたん?簓、真面目やん」
真面目な表情に、琥珀は少しだけ戸惑う。
「せやからな、言いたなってん。あんまりにも可愛くて、愛おしすぎて、どうにかなりそうやねん」
簓は琥珀の目をまっすぐ見つめる。
「簓……」
「俺、琥珀のこと、めっちゃ好きやで。ほんま、心臓が痛なるくらい」
真っ直ぐな言葉に、琥珀は胸が熱くなるのを感じた。顔が熱くなって、また赤くなるのが自分でもわかる。
「ば……か。うちも、好きやもん。簓のこと、大好きやもん」
俯いてそう呟くと、簓はくすぐったそうに笑い、琥珀の頭を優しく撫でた。
「せっかくやし、写真でも撮ろか」
スマホを取り出し、簓は琥珀に顔を寄せる。
「ちょ、近いっ!」
「ええやんか、恋人同士やねんから」
「むぅ……。もう、撮ろ!」
結局、琥珀のぷくっと膨れた頬の横で、簓が満面の笑みを浮かべた写真が残された。
「あはは、この琥珀の顔、おもろいなぁ!」
「もう!簓のせいやん!」
---
二人で画面に映る写真を見ながら笑い合っていると、ベンチに座る琥珀の肩に、簓の頭がこてんと乗せられる。
「……簓?」
「……んー、なんか、眠くなってきたわ。琥珀の隣、あったかいし、ええ匂いするし……」
幸せそうに目を閉じた簓の寝顔に、琥珀は胸がきゅんと締め付けられる。
「もう……寝るん?」
「寝てへんて。ただ、このままおってほしいだけや」
少し甘えたような声に、琥珀は愛おしさを覚える。
「……うん、いいよ。ずっといるから」
琥珀はそっと、簓の頭に自分の頭をくっつけた。
「……琥珀、大好きや」
「うちも、簓、大好き……」
桜の花びらが、ひらひらと二人を祝福するように舞い落ちてくる。
二人の間に流れる穏やかな時間は、春の陽だまりのように温かかった。
終
        
    
     
    
        #03
        
        
        --- 数日後の球技大会---
グラウンドでは、クラス対抗のドッジボールが行われていた。琥珀はベンチで応援しながら、少し離れたところで仲間と話している簓の姿を目で追う。
「簓、楽しそうやな……」
ふと漏らした独り言に、隣に座っていた結衣が「あんたも好きだねぇ」とニヤニヤしながら琥珀の肩を小突いた。
「な、なに!?」
「いやいや。付き合い始めてから、ほんまにわかりやすくなったわ。簓くんのこと、目線で追いかけすぎやって
「そ、そんなことあらへんもん!」
慌てて反論するが、顔が熱くなるのを止められない。
結衣は「はいはい」と笑って流し、再びグラウンドに目を向けた。
その時、グラウンドで簓が大きな声で笑い、手を振っているのが見えた。
「…ん?どうしたん?」
そう言って琥珀がグラウンドを見ると、簓が大きく手を振っている。
「琥珀〜!俺が活躍したら、ちゃんと見ててや〜!」
簓の声が、グラウンドいっぱいに響き渡る。周りの生徒たちが、一斉に琥珀の方を振り返った。
「っ……!ば、ばかぁ!なに言っとんの!」
琥珀は真っ赤になり、顔を手で覆う。結衣は腹を抱えて笑い、琥珀の背中を叩いた。
「簓くん、やるなぁ!公開イチャつきやん!」
「ち、違う……!」
顔を赤くして否定する琥珀だったが、簓は楽しそうに笑っている。
試合が始まると、簓は持ち前の身体能力を発揮して大活躍。相手のボールを華麗によけたり、鋭いボールを投げ込んだりするたびに、グラウンドからは歓声が上がった。
「流石やな、簓……」
琥珀は顔を赤くしながらも、その姿を誇らしく思った。
---
休憩時間になり、簓が琥珀の元へとやってくる。
「どうやった?琥珀、俺の勇姿、ちゃんと見ててくれた?」
汗をかいた顔で、楽しそうに笑う簓。
「……別に、普通やったし」
素直になれずにそっけなく答える琥珀だが、簓はお見通しというようにニヤニヤしている。
「嘘つけ。顔真っ赤やん。俺のこと、見すぎたんとちゃうか?」
「そ、そんなことないもん!」
「はいはい。ほな、なんか奢ったるわ」
簓が顔を近づけてくる。
「な、なに……?」
ドキドキしながら琥珀が尋ねると、簓は琥珀の耳元で囁いた。
「今日の帰り、一緒にアイス食べに行こ」
くすぐったい声と息遣いに、琥珀の心臓が跳ね上がる。
「もう……!からかわんといて!」
琥珀が軽く簓を叩くと、簓は笑い声を上げた。
---
その後、閉会式が終わる。
琥珀が片付けをしていると、簓が近づいてきた。
「琥珀、後で校門前で待っててな」
「うん」
頷く琥珀に、簓はにっこりと微笑む。
---
放課後、校門前で簓を待っていると、後ろから声をかけられた。
「琥珀、待たせたな」
振り返ると、少し照れたような、けれど優しい顔をした簓が立っている。
「ほな、アイス食べに行こか」
そう言って、簓は琥珀の手を握った。
「……うん」
琥珀が握り返すと、簓は琥珀の手をきゅっと握り直した。
---
「そういや、今日のアイス、どれにするか決めた?」
「……まだ考えてへんかった」
琥珀が顔を赤くしながらそう言うと、簓は琥珀の頭を撫でる。
「ふふ、じゃあ俺のおすすめ教えてあげるわ」
「もう、からかわんといて!」
琥珀が簓の胸を叩く。
「なぁ、今日さ、俺の家でたこ焼きパーティーせーへん?」
「え?」
「二人きりやで?」
いたずらっぽく、耳元で囁く簓の声に、琥珀の心臓は再び跳ね上がった。
終
        
    
     
    
        #04
        
        
        「な、なに言うてんの!?」
「あはは、冗談や」
くすくすと笑いながら、簓は琥珀の手を引いて歩き出す。
「もう……!からかわんといて!」
「からかってへんて。琥珀とたこ焼きパーティーしたいのは、ほんまやもん。あかんな?」
「あかんってわけやないけど……」
「なら決まりやな!材料買うて、早よ行こ!」
簓は琥珀の手をぎゅっと握り、楽しそうに歩き出した
--- スーパーにて---
スーパーで買い物をする間も、簓は楽しげだ。
「琥珀は、タコ好き?」
「うん」
「ほな、タコは多めに入れよか。あと、俺はチーズも好きやから、チーズも入れよ」
「え、タコとチーズって合うん?」
「合うで!めっちゃ美味しいねん。琥珀にも食べさせてあげたい」
簓は琥珀の好きなものを尋ね、自分の好きなものを嬉しそうに話す。その様子に、琥珀は自然と笑顔になる。
---
簓の家に着くと、琥珀は少し緊張した。
「おじゃまします……」
「おう!いらっしゃい。ここ、俺ん家やで。遠慮せんでええからな」
簓の部屋は、壁にポスターが貼ってあったり、机の上に漫画が積んであったり、簓らしさが溢れていた。
「さて!たこ焼きパーティー始めるで!」
簓が手際よくたこ焼き器を準備し、材料を並べる。
「琥珀、たこ焼き作ったことある?」
「うん、家族でたまに」
「そっか。俺も昔、家族とよう作ってたわ」
簓の少し懐かしむような声に、琥珀は胸が温かくなる。
「ほな、琥珀、タコ入れてくれる?」
「うん」
二人は向かい合って、たこ焼きを作り始める。
「見て見て、簓!めっちゃ上手に焼けた!」
琥珀が嬉しそうに焼きあがったたこ焼きを見せる。
「ほんまやな!琥珀、やるやん!」
簓は琥珀の頭を優しく撫でた。
焼きたてのたこ焼きを、二人で頬張る。
「んー!うまい!」
「ほんまやな!美味しい!」
「このチーズ入りも、めっちゃうまいやろ?」
簓が琥珀にチーズ入りのたこ焼きを差し出す。
琥珀がそれを食べると、とろりとしたチーズが口の中に広がる。
「ほんとだ!美味しい!」
琥珀は驚いたように目を丸くした。
二人でたこ焼きを食べながら、他愛ない話をする。
「そういや、球技大会の時、簓、めっちゃ目立ってたな」
「あはは、せやろ?琥珀にええとこ見せたかったからな」
「もう……」
「でも、一番良かったのは、琥珀が見ててくれたことやな」
そう言って、簓は琥珀に優しく微笑む。
--- タコパが終わって数分後 ---
「琥珀、ありがとうな。楽しかったわ」
「うん、私も。ありがとう、簓」
片付けが終わると、簓は琥珀を家の近くまで送ってくれると言ってくれた。
帰り道、二人でゆっくりと歩く。
「なぁ、琥珀」
「ん?」
「……俺、琥珀のこと、めっちゃ好きやわ」
少し照れたように、簓はぽつりと呟いた。
琥珀は驚いて簓を見つめる。
「急に、どうしたん?」
「いや、なんか、こうやって二人でいてると、改めて思うねん。琥珀と出会えて、ほんま良かったなって」
簓は琥珀の手をそっと握った。
「簓……」
「これからも、ずっと俺の隣におってほしい。あかんかな?」
簓は琥珀の目をじっと見つめる。
「ば……か。そんなん、うちも同じやもん」
琥珀は簓に優しく微笑んだ。
「ありがとう、琥珀」
簓は嬉しそうに笑い、琥珀をぎゅっと抱きしめた。
春の夜風が、二人を優しく包み込む。
これからも、二人の温かい日々は続いていく。
終
        
    
     
    
        #05
        
        
        --- 翌日 ---
授業中、琥珀は真剣な表情でノートパソコンに向かっていた。隣の席の男子生徒と顔を寄せ合い、画面を見ながら何やら話し込んでいる。
「なぁ、ここのデータ、どうやって入力するん?」
「えっとね、こうやって、ここに数字を入れて……」
二人は時折楽しそうに笑い声を上げ、簓はちらりと視線を向ける。
簓は琥珀から少し離れた席に座っていた。いつもなら、休み時間になれば真っ先に琥珀の元へ駆け寄るのに、今日はなぜか足が動かない。琥珀が他の男子生徒と楽しそうにしているのを見て、胸の奥がざわついた。
「簓、どないしたん?なんか元気ないやん」
同じクラスの友人が、心配そうに声をかけてくる。
「いや、なんでもない……」
そう答えながらも、視線はまた琥珀の方へと向いてしまう。
休み時間になっても、琥珀は男子生徒と話している。
「琥珀、この後、ちょっと時間ある?」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、この続き、一緒にやろか」
「うん!」
嬉しそうに頷く琥珀の姿を見て、簓は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
--- 夕方 ---
下校の準備をしている琥珀の元へ、簓が駆け寄る。
「琥珀!な、なぁ、今日、一緒に帰らん?」
簓が声をかけると、琥珀は少し困ったような顔をした。
「あ、ごめん、簓。私、今日、この後の課題、友達とやる約束してて……」
「そう……か」
琥珀の言葉に、簓は肩を落とす。
「ごめんね、簓」
申し訳なさそうに謝る琥珀に、簓は「ええんよ」と無理やり笑顔を作る。
「ほな、また明日な」
そう言って、簓は琥珀に背を向け、一人で下校する。
--- 帰り道 ---
「なんでや……」
一人になった簓は、ぽつりと呟いた。
「俺、琥珀と会えんの、楽しみにしてたのに……」
胸の奥で渦巻くモヤモヤとした感情。それは、たこ焼きパーティーの後の幸せな気持ちとは真逆のものだった。
--- 翌日 ---
学校に来ても、簓は琥珀を避けてしまう。
琥珀はそんな簓の様子に気づき、心配そうに声をかける。
「簓、どうしたん?なんか、元気ないやん」
「なんでもない」
冷たい声でそう答えると、琥珀は少し寂しそうな顔をした。
「……怒ってる?」
「別に」
そっけない態度に、琥珀はそれ以上何も言えなくなってしまう。
--- 放課後 ---
簓は一人で下校しようと、校門を出る。
「簓!」
後ろから、琥珀の声が聞こえた。
「なんで、私と話してくれへんの?」
琥珀は簓の隣に並び、簓の顔を覗き込む。
「別に、話すことないし」
「そんなことない!簓、私といるの、嫌になった?」
琥珀の言葉に、簓は思わず立ち止まった。
「なんで、そうなるねん」
「だって、ずっと冷たいし……」
琥珀の声が、少し震えている。
「ちゃうねん……」
簓は言葉に詰まる。
「……わかった。もう、いい」
琥珀はそう言って、簓に背を向けようとした。
「待って!」
簓は思わず、琥珀の手を掴む。
「ごめん……ごめん、琥珀。俺、寂しかってん」
「え……?」
琥珀は驚いて、簓の顔を見つめる。
「琥珀が、あの男とばっか話してて……俺のこと、構ってくれへんから……」
簓は、まるで子供のように拗ねた表情で呟いた。
「簓……まさか、嫉妬してくれたん?」
琥珀の言葉に、簓は顔を赤くする。
「な、なんやねん、それ!ち、違うし!」
「ふふ、可愛い」
琥珀は、愛おしそうに笑いながら、簓の頬にそっとキスをした。
「なっ……!琥珀!」
「ふふ。簓、大好きだよ」
「も、もう……!」
拗ねた顔の簓と、嬉しそうに笑う琥珀。
二人の間に流れる空気は、またいつものように、温かいものに戻っていた。
終
        
    
     
    
        #06
        
        
        
「も、もう……!」
簓は顔を真っ赤にして、琥珀から少し離れようとする。
「せっかく嫉妬してくれたのに。もっと構ってあげなきゃ」
琥珀が追いかけるように簓のそばに寄り、今度は腕にぎゅっと抱きついた。
「な、なんやねん……!こんな校門前で、やめろや……!」
周りに人がいないかチラチラと確認しながら、簓はあたふたと落ち着かない様子だ。
「いいや、やめない。簓、寂しかったんでしょ?」
「……うるさい」
簓はそう言って、琥珀の頭に自分の頭をこつんと乗せる。
「ほら、帰るで」
簓は琥珀の手を握り直し、少し早足で歩き出した。
--- 簓の家にて ---
簓の家に着くと、琥珀はリビングのソファに腰かけた。
「ねえ、簓」
「なんや?」
キッチンで麦茶を淹れていた簓が、琥珀を振り返る。
「さっき、怒った?私、簓が嫉妬してくれたのが嬉しくて……」
「怒ってへんわ。……ただ、あんまり俺以外の人と仲良くせんといて。……いや、仲良くするのはええけど、俺にちゃんと構って。……やっぱちゃう、……もう、なんでもええわ」
簓はブツブツと呟きながら、琥珀の隣に座った。
「ふふ、なにそれ」
琥珀が笑うと、簓はムスッとした顔で琥珀の頭を自分の肩に引き寄せた。
「……なぁ」
「うん?」
「……ほんま、ごめん。俺、嫉妬して、琥珀に冷たくしてもうた」
「いいよ。だって、私も簓が構ってくれなくて、寂しかったから」
琥珀の言葉に、簓は嬉しそうな顔をして琥珀の頭を撫でる。
「……せやろ?俺も同じ気持ちやったわ」
そう言って、簓は琥珀の唇にそっとキスをした。
「……ん」
「もっと、してええ?」
簓が耳元で囁くと琥珀は何も言えず、小さく頷いた。
簓は琥珀の顎をそっと持ち上げ、もう一度キスをした
今度はさっきよりも深くゆっくりとキスが終わると、二人はしばらく見つめ合った。
「なぁ、琥珀」
「うん?」
「……俺、琥珀のこと、ほんまに好きやわ」
「私も、簓のこと、大好き」
琥珀がそう言うと、簓は嬉しそうに笑い、琥珀をぎゅっと抱きしめた。
二人はソファに横になり、簓は琥珀の髪を指で遊びながら、囁くように話しかける。
「なぁ、今日さ……もう帰らんといて」
「……うん」
琥珀は簓の胸に顔を埋め、彼の温もりを感じた。
「じゃあ、このまま、ずっといちゃいちゃしよか」
「……簓、ばかぁ」
琥珀が照れてそう言うと、簓は嬉しそうに笑い、琥珀を抱きしめる腕にさらに力を込めた。
リビングには、二人の甘い声と、時折響く笑い声だけが、優しく満ちていた。
終
        
    
     
    
        #07
        
        
        「じゃあ、このまま、ずっとこのままいよっか」
「……簓、ばかぁ」
琥珀が照れてそう言うと、簓は嬉しそうに笑い、琥珀を抱きしめる腕にさらに力を込めた。
「なぁ、琥珀」
簓が甘えた声で囁く。
「ん?」
「……俺、琥珀のこと、めっちゃ好きや。ほんまに、言葉にできへんくらい」
「うちもだよ、簓」
琥珀は簓の胸に顔を擦り付けた。
「なぁ、さっき、嫉妬した話、もう少し聞かせてや」
琥珀がそう言うと、簓は少し照れくさそうに笑った。
「もう、ええやろ。恥ずかしいやん」
「いいじゃん、教えてよ」
「んー……だって、琥珀が他の男と楽しそうに笑ってんの見てたら、なんかこう、胸ん中がざわざわして……」
「ふふ、可愛い」
「うるさい!……でも、琥珀に構って欲しかったのは、ほんまやから」
簓は琥珀の髪を指で遊びながら、拗ねたような口調で言った。
「わかった。もう浮気しないから、許して?」
「浮気してへんやろ」
「冗談だよ」
琥珀は簓の顔を見上げ、ニコッと微笑む。
簓は琥珀のその笑顔に、たまらなく愛おしさを感じた。
「……なぁ、琥珀」
「うん?」
「俺、もう、琥珀のこと、離したないわ」
「ふふ、うちもだよ」
簓は琥珀の唇に、もう一度キスをした
「……ん」
「琥珀、好き」
「うちも、簓のこと大好き」
二人の甘い声が、静かな部屋に響き渡る。
簓は琥珀を抱きしめ、琥珀は簓の胸に顔を埋める。
二人の間には、温かくて幸せな時間が流れていた
---
しばらくして、簓が琥珀の耳元で囁く。
「なぁ、琥珀。今日は、俺のベッドで寝ようや」
琥珀は何も言わず、ただ、簓の胸に顔を埋める。
簓は琥珀を抱きかかえ、そのままベッドへと向かった。
ベッドに入ると、簓は琥珀をぎゅっと抱きしめる。
「あったかいな、琥珀」
「うん……簓も」
二人はお互いの温もりを感じながら、静かに眠りについた。
終
        
    
     
    
        #08
        
        
        --- 卒業式当日 ---
体育館で卒業証書を受け取った後、校庭でクラスの集合写真を撮った。
クラスメイトや先生と別れの挨拶を交わし、琥珀は少し寂しい気持ちになっていた。
「おーい、琥珀!」
いつものように、弾んだ声で簓が駆け寄ってくる。
「卒業、おめでとう!」
「簓も、おめでとう」
二人は顔を見合わせ、幸せそうに笑う。
「なぁ、琥珀。この後、俺ん家こーへん?」
「え、いいの?」
「うん。うちのおかんも琥珀に会いたがっててな。卒業祝いにって、晩御飯作ってくれるらしいねん」
「そ、そっか……」
琥珀は少し緊張しながら頷く。簓のお母さん、どんな人だろう。緊張と期待が入り混じった複雑な気持ちだった。
--- 夕方 ---
簓の家に向かう道中、簓は楽しそうに今日の出来事を琥珀に話していた。
「今日さ、先生が、俺がクラスで一番うるさかったって言ってたんやで。あはは、ほんま、最高の卒業式やったわ」
「ふふ、簓らしいね」
そんな簓の姿に、琥珀の緊張も少しずつ和らいでいく。
---
簓の家に着くと、玄関の扉が開いた。
「ただいまー!」
簓が元気に声をかけると、奥から温かそうな声が聞こえてきた。
「おかえりー!お、琥珀ちゃんやな?いらっしゃい!」
にこやかな笑顔で出迎えてくれたのは、簓の面影がある、可愛らしいお母さんだった。
「初めまして、簓の母です」
「初めまして、琥珀です。いつも簓がお世話になってます」
「あらあら、そんな畏まらんでもええんよ簓からいつも琥珀ちゃん、琥珀ちゃんって聞かされてたから、もう家族みたいなもんやわ!」
簓のお母さんは、琥珀の手を握り、にこにこと笑う。その明るく気さくな人柄に、琥珀はほっと胸を撫で下ろした
リビングに通されると、テーブルには美味しそうな料理がずらりと並んでいた。
「わあ、すごい……!」
「あら、大したことないわよ。さ、どうぞ座って座って!」
簓のお母さんに促され、琥珀は簓の隣に座った。
「うちの簓と仲良くしてくれて、ほんまにありがとうね」
簓のお母さんが琥珀にそう言うと、簓は少し照れくさそうに笑う。
「おかん、なに言うてんねん」
「あら、ええやないの!琥珀ちゃん、簓のこと、よろしくね」
「はい!」
琥珀が元気よく返事をすると、簓のお母さんは嬉しそうに笑った。
食事が始まると、簓は琥珀に気遣いながら、色々なお皿を取り分けてくれた。
「琥珀、これ美味しいで。食べや」
「ありがとう」
簓のお母さんも、二人の仲睦まじい様子を見て、ニコニコと微笑んでいる。
---
食事が終わると、簓のお母さんは「二人でゆっくり話しなさい」と、気を利かせてくれた。
「おかん、ほんまありがとうな」
「どういたしまして。琥珀ちゃん、またいつでも遊びに来てね」
「はい!」
簓のお母さんが部屋を出ていくと、リビングには二人きりになった。
「なぁ、琥珀。楽しかった?」
「うん、楽しかった。お母さん、すごく優しい人だね」
「せやろ?俺のおかん、最高やねん」
簓は誇らしげに笑う。
「ねぇ、簓」
「ん?」
「改めて、卒業、おめでとう」
琥珀はそう言って、簓の頬にキスをした。
「……おう。ありがとう」
簓は少し照れたような、けれど優しい笑顔で、琥珀をぎゅっと抱きしめる。
「これからも、ずっと一緒やで」
「うん!」
卒業という一つの区切りを終え、二人の新しい未来が、今、始まろうとしていた。
終
        
    
     
    
        #09
        
        
        --- 高校入学当日 ---
簓と琥珀は、二人で同じ高校の門をくぐった
「高校生活も、琥珀と一緒やなんて、ほんま幸せやわ」
簓が嬉しそうに言うと琥珀は嬉しそうに微笑んだ後こう言った
「うち、ほんま幸せや」
「せやな!ほなクラスも別々やけどお互い頑張ろうな」
と簓が琥珀の頭をなでなでした後教室に入っていった
--- 放課後 ---
二人は約束通り、駅前にある芸能人養成所の扉を叩く。
「今日から俺らはプロのタレント目指すで!」
簓が意気揚々と話す。
受付で手続きを済ませ、二人で案内された教室へと向かう。
「ほな、また後でな」
「うん!」
簓は芸人コース、琥珀は歌手コースへと分かれて、それぞれのレッスンに向かった。
---
歌手コースの教室では、すでに何人かの生徒がストレッチをしていた。
「初めまして、琥珀です。よろしくお願いします」
琥珀が挨拶をすると、みんな笑顔で迎えてくれた
---
一方、芸人コースでは、簓が自己紹介をしていた
「どうもー!白膠木簓でーす!」
簓はさっそく、場を盛り上げていた。
--- 半年後 ---
その日レッスンが終わり簓が琥珀を迎えに行くと、廊下で一人の男が簓に話しかけていた。
「なぁ、君、さっきのネタ面白かったで」
少し緊張した面持ちで、眼鏡をかけた男が話しかけてくる。
「んー?俺のことか?あはは、ありがとさん!」
「俺、|躑躅森 盧笙《つつじもり ろしょう》って言います。漫才、好きなんや」
「へぇ!俺もや!俺、|白膠木 簓《ぬるで ささら》なぁ、よかったら、今度一緒にネタ合わせでもせーへん?」
簓が目を輝かせてそう言うと、盧笙は驚いた顔をした後、嬉しそうに頷いたあと後ろから声が聞こえた
「簓!」
二人が話し込んでいると、琥珀が駆け寄ってきた。
「お、琥珀!紹介するわ。こいつ、今日知り合った、盧笙や。ほんで彼女の琥珀」
「初めまして、琥珀です」
「初めまして、盧笙です」
三人は挨拶を交わし、簓と盧笙は、お互いの漫才への熱い思いを語り合っていた。
それから、簓と盧笙は、養成所でコンビとして活動するようになる。
--- あれから数ヶ月 ---
「なぁ、簓。このネタ、どうやろか?」
「ええやん!でも、ここのツッコミは、もっとこう、力強く!いや、優しくか?」
二人は放課後、いつも楽しそうにネタ合わせをしていた。
琥珀は、そんな二人を温かく見守っていた。
歌手コースのレッスンも、歌うことの楽しさを知り、充実した日々を送っていた。
簓と盧笙が漫才のネタを考えるのを見て、自分ももっと頑張らないと、と思うようになった。
--- ある日の放課後 ---
簓と盧笙がネタ合わせをしているところに、琥珀が差し入れを持ってやってきた。
「はい、どうぞ。お疲れさま」
「お、琥珀!ありがとな!盧笙、琥珀の手作りクッキーやで!」
「え、ありがとう」
盧笙は少し照れくさそうにクッキーを受け取る。
「なぁ、琥珀。俺らの漫才、どうやった?」
「うん、すごく面白かったよ!簓と盧笙、ほんとに仲良いんだね」
琥珀が微笑むと、簓は嬉しそうに笑った。
「当たり前やろ!俺と盧笙は、最強のコンビになるんやから!」
簓の言葉に、盧笙も静かに頷いた。
養成所でのレッスンや、高校生活、そして互いの夢。
二人の生活に、盧笙という新しい仲間が加わり、さらに賑やかで楽しい日々になっていく。
三人の未来が、今、始まろうとしていた。
終
        
    
     
    
        #10
        
        
        --- ある日の放課後 ---
いつものように養成所の練習室でネタ合わせをしていると、簓が急に手を止めた。
「なぁ、盧笙。俺、どうしてもこれだけは言っとかんとあかんことがあるんや」
「なんや、藪から棒に」
「お前、おもろい漫才師になるって、俺が保証したるわ!」
真剣な眼差しでそう告げる簓に、盧笙は戸惑う。
「何言うてんねん、急に」
「いや、ほんまや!お前のツッコミは、冷静で的確や。俺のボケを最高に引き立ててくれる。お前は、最高の相方や!」
簓の熱い言葉に、盧笙は顔を赤くする。
「…ばか。そんなこと、今更言わんでもええやろ」
「ええんや!大事なことなんやから!」
その様子を見ていた琥珀が、ふふっと笑う。
「琥珀、聞いてくれへんか!」
「簓、急にどうしたの?」
「俺は、最強の漫才コンビ『どついたれ本舗』で、天下取るんや!」
簓の宣言に、盧笙も琥珀も目を丸くする。
「…『どついたれ本舗』?」
「ええやろ?俺と盧笙で、お笑い界をどついたるんや!」
熱く語る簓に、盧笙は照れ臭そうに、でも嬉しそうに呟く。
「…勝手に決めんなや」
「決まりや!盧笙、覚悟しとけよ!」
三人の笑い声が、練習室に響く。
養成所のレッスン、高校生活、そして互いの夢。
三人の未来は、まだ始まったばかり。
しかし、その始まりは最高に楽しいものになった
---
「…『どついたれ本舗』か」
盧笙がもう一度つぶやくと、簓は得意げに胸を張る。
「ええやろ? 覚えときや、歴史に名を刻むで!」
「はぁ、勝手にしろ」
そうは言いながらも、盧笙の顔は緩んでいる。琥珀は、そんな二人のやりとりにくすくすと笑いながら、差し入れのクッキーを口に運んだ。
「なぁ簓、盧笙とコンビ組むなら、漫才のスタイルはどないするん?」
「んー、それはもちろん、俺の天下一品のボケに、盧笙のキレッキレのツッコミで、最強の漫才を見せつけたる!」
「そうやなくて、どんなテーマで、とか」
琥珀の真面目な問いかけに、盧笙は少し考え込む。
「そうやな…日常のちょっとした出来事を題材に、二人でボケてツッコんで…ってのもええし、時事ネタをぶった切るのもおもろいし…」
「色々な可能性がありそうやな」
と盧笙が呟く
「せやろ? 俺らの漫才は、無限大や!」
簓の言葉に、盧笙は静かにうなずく。
「…無限大、か」
「なんや、盧笙不安なんか?」
「不安ちゃう…ただ、ついていけるか心配なだけや」
盧笙の呟きに、簓は驚いたように目を見開く。
「アホか! 俺が、お前を置いていくわけないやろ!」
「簓…」
「俺はお前と、二人で最強になるんや。一人でも欠けたら、最強にはなれへん」
「…うん」
盧笙は、簓の言葉に胸が熱くなるのを感じた。
「ほら、盧笙。元気出せって。これ食って、漫才のネタ考えよ!」
簓が差し出したのは、琥珀が作ってくれたクッキーだった。盧笙は、遠慮がちにクッキーを受け取る。
「ありがとう」
「どういたしまして…ねえ、盧笙もっと自信を持ってええんやで、私、盧笙のツッコミ、すごく好きやし」
琥珀の優しい言葉に、盧笙は顔を赤くする。
「…っ、そんなん…」
「ほんまやでクールででも面白くて、簓くんの暴走を止めるストッパーになってて、最強のコンビだと思う」
琥珀の言葉に、盧笙は少しだけ微笑んだ。
「…おおきに、琥珀」
「えへへ」
三人の間に、温かい空気が流れる。
養成所のレッスン、高校生活、そして互いの夢。
三人の未来は、まだ始まったばかり。
その始まりは最高に楽しいものになるだろう。
        
    
     
    
        #11
        
        
        --- ある日の夜 ---
「あ、おかえりなさい琥珀」
「ただいま那由多さん、今日のご飯何?」
そう聞くと那由多は
「琥珀の大好きなオムライスだよ」
「ファァほんまにおおきに那由多さん!」
「全く琥珀は那由多にべったりだな」
さっき仕事から帰ってきた零だった
「…………詐欺師が」
「詐欺師じゃねえただの研究者だ!」
「…あまり変わらないじゃん」
と近くで聞いていた那由多は
「そのくだらない喧嘩ずっとしてたら今夜の晩御飯は抜きです」
そう言うと2人は
「「そ、それだけは」」
「だったら喧嘩しないでね」
「「は、はい」」
那由多は満足そうに微笑み琥珀はリビングに行き、一瞬だけ視線を交わしすぐにそっぽを向いた
とはいえ、那由多の「ご飯抜き」宣言は二人にとって絶対的な脅威だった
「……何、気持ち悪い顔してんの」
「うるせえな、別にいいだろ」
零は慌てて真顔に戻り、資料に視線を落とす。しかし、すぐにまた琥珀に話しかけた。
「なあ、琥珀。今日養成所はどうだったんだ?」
琥珀はため息をつき零の方に体を向けた。
「別にいつも通り」
「はは、正直だな」
零はからからと笑う
その時、キッチンから美味しそうな匂いが漂ってきた。バターとケチャップの混ざった香りがリビングを満たし、二人の空腹を刺激する。
「……那由多さん、ほんまに料理上手いよな」
琥珀が少しだけ表情を和らげて呟く。
「ああ、まったくだ。俺たちがこうして不自由なく暮らせてるのも、那由多のおかげだな」
零がしみじみと同意すると、琥珀は何も言わずに頷いた。この奇妙な共同生活も、那由多という太陽のような存在がいるからこそ成り立っている。
「ご飯できたよー!」
那由多の明るい声がリビングに響き渡った。その声に、張り詰めていた二人の間の空気がふっと緩む。
「よっしゃ、行くか、__詐欺__………研究者」
琥珀が慌てて言い直す。
「最初からそう言やあいいんだよ」
零は笑いながら立ち上がり、琥珀と共にダイニングテーブルへと向かった。そこには、ふっくらとした卵にケチャップで可愛らしく顔が描かれたオムライスが、湯気を立てて並んでいた。
「わあ、那由多さん、すごい!」
「ありがとう、那由多」
那由多は二人の喜ぶ顔を見て、嬉しそうに目を細めた。
「どういたしまして。さあ、冷めないうちに食べよっか」
三人で囲む食卓は、いつも暖かくて賑やかだった
🔚
        
    
     
    
        #12
        
        
        --- ある日の夜 ---
食後の終盤
「なあ、琥珀。食後に少し話があるんだ」
その声色は、いつものからかいを含んだものではなかった。琥珀もそれを察し、緊張した面持ちで頷く。
那由多が片付けを終え、リビングに戻ってくると、二人はソファに座って既に重い空気を纏わせていた。
「零、琥珀、お茶淹れたよ。……どうしたの?」
那由多は二人の間に割って入るように、テーブルに湯気の立つマグカップを置いた。
「那由多、ごめん。少し真面目な話がある」
零は那由多にだけ優しく告げた後、琥珀に視線を戻す。
「ヒプノシスマイクの開発についてだ。君の技術と知見が必要になる」
琥珀はぴくりと反応し、マグカップを掴む手が震えた。
「……詐欺師。あんた、本気でそれやるつもりなん?」
「本気だ。言葉が力を持つ世界は、不必要な暴力を排除し、新たな秩序を生み出す。これはより良い未来のための、人類の進化なんだ」
零は研究者としての理想を熱弁する。しかし、琥珀は冷ややかな目で零を見つめた。
「進化?笑わせんな。それ、結局は『言葉の暴力』やないか。あんたの研究は、人をコントロールして、踏み躙る道具にしかならん」
「ッ!これは俺たちの、那由多や皆の暮らしを守るためでもあるんだ!」
「守るために、誰かを犠牲にするんか!?うちはそんなもん、絶対に認めへん!」
琥珀は立ち上がり、マグカップをテーブルに叩きつけた。茶が少し飛び散る。
「琥珀、落ち着いて!」
那由多が慌てて二人の間に入ろうとする。
「那由多、大丈夫だ」
零は那由多を後ろに下げさせ、琥珀と向き合った。
「琥珀、お前にはこの研究の重要性がまだ理解できていないだけだ」
「理解なんてしたないわ!あんたのやってることは正しくない!うちはこんな非人道的な研究に加担できへんし、そんなやつとは一緒におれん!」
琥珀は怒りに震えながら、自分の部屋へ駆け戻った。
--- 数分後 ---
最低限の荷物を持った琥珀が玄関に向かっているのが見えた。
「琥珀!どこ行くのよ!?」
那由多が泣きそうな声で呼び止める。
「ごめん、那由多さん。もう限界や。零……あの詐欺師とは、もうやってられへん」
琥珀は振り返りもせず、そのまま玄関のドアを乱暴に閉め、夜の闇へと消えていった。
「琥珀!待て!」
零が追いかけようとしたが、時すでに遅かった
---
琥珀の失踪後、あの平和な日常は崩壊した。
零は、自責の念と研究への使命感の間で深く悩み、憔悴しきった。那由多もまた、愛する夫とのような存在を一度に失ったショックで、塞ぎ込んでしまった。
「零……琥珀、今頃どこで……」
那由多は食卓に並んだオムライスを見つめ、涙を流す。ケチャップの顔は、もう描かれていなかった。
🔚