恐怖の金曜病ウイルス
編集者:L・L・マーシャ
月曜病ならぬ金曜病が毎週金曜日になると決まって大流行しフライデーな気持ちになるのだ。
6月28日、製薬工場で試薬が流出した問題。所長が現場に現れた際、職員は「早く止めろ」と声を荒げていたという。原因は不明だが、タンクが破壊されて試薬が流出したとのこと。
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目次
6月28日
6月28日 16時25分 A県の某地方都市に聳える製薬工場、そこに隣接する研究施設では3時間前までの平穏を取り戻しつつあった。
空調設備がフル回転して室内を快適に保ち、研究員たちが汗まみれになって試験薬の製造にあたっている。そんな中にあって一人の女性が不機嫌そうにしている理由は単純だった。彼女こそが今回の騒動の原因なのだ。
彼女はついさっきまで実験装置の中で、様々な色に変化し続ける液体を見つめながら結果を記録していたところだったが、突如として鳴り響いたサイレンによって仕事を切り上げさせられ、いまはその不満を口にしたところだったのだ。
彼女は自分がなぜここに居なくてはならないのかわからなかった。ただ、誰かが自分の代わりを務めてくれていることを願っている。彼女が知る由もないが、その期待はある種適中している。彼女の上司たる主任が有給休暇を取ったからだ。
警報ランプの下、コンソールの前で腕を組んでいるのが、今年40歳になる女所長だった。名前は笹谷亜希という。背広を着た姿しか知らない職員も多い。
「それで何が起こったの?!」
声を荒げているのには訳があった。モニター上に映し出された数値が予想値を大きく上回っている。
彼女は自分のミスだとは思っていなかった。もちろん計器の故障や予期せぬアクシデントである可能性も考えてはいるが、どちらかと言えば後者ではないような気がした。『原因は不明ですが、タンクが破壊されて試薬が流出しました』
マイクを通して聞こえる声はどこか間延びしているように聞こえ、語尾が上がる口調もあいまって眠気覚ましのような印象を与える。しかし、今は非常招集の最中であり本来なら誰も居眠りなんてできるはずはない。だからきっと寝ぼけているに違いない、というのが彼女に下された結論だった。あるいは、いつもの調子で話していても周囲の人間からはそう取られてしまうほど緊迫感に欠ける声質をしているのかもしれない。
「とにかく復旧急いで! あなた達も手を貸してちょうだい!」
3Dモデリングによるシミュレーションモデルが表示され、リアルタイムの数値と折れ線グラフが表示されているが、その値は変動を続け予測できない状態に陥っている。このままでは通常業務さえおぼつかなくなる。そんな事態に陥ることはまずありえないことではあったが、最悪の状況は常に頭の片隅に置いておくべきだろう。
幸いなことに被害規模はごく小さいものに抑えられているらしく人的被害の報告はまだ入っていない。もっともこれは幸運ではなくて、事前に防ごうと動いた努力が報われただけだということは重々承知していた。
しかし、それがわかっていても所長は自分の采配が完璧だったとは断言できなかった。そもそものところ何故こうなってしまったのかが理解できずにいた。
原因はどうあれ結果は出ている。そのことが彼女を苛立たせる要因の一つになっていた。
彼女にとっての誤算は試薬管理責任者だった沢木恭平が不在であったことと試薬の量が予定より多すぎたことだ。どちらも誰の落ち度でもないのだが、もし責任者が健在だったとしてもこの結果を回避できたかと問われれば、自信をもってノーと答えられるだけの備えができていなかったと、自らを省みざるをえなかった。
彼女の責任を問うとすればそれは、もっと前にこの可能性を想定しておくことができなかったことにあったのかもしれない。
「所長。まだ何かやることがあるんですか?」
部下の一人が怪訴な顔で問いかけてきた。
時刻は午前10時を回っていた。通常ならば始業していなければならない時間だったがすでに臨時体制に移行していたこともあってか咎める人間はだれ一人として存在しない。もちろんそのことに安堵する余裕もなくて、所長は今自分ができることを探して必死にもがいていた。
彼女が何を考えているにせよこんなところにいつまでも座っている理由が見つからないこともまた事実だった。しかし彼女は、この場で自分に何ができるのかがわからなくて、ただ漫然とモニターを眺めていた。いや違う。5自分のやるべきことはなんなのかを懸命に模索しようとしている最中だったのだ。「ごめんなさい。邪魔したわね」
彼女は椅子を引き立ち上がると足早に立ち去った。
沢木恭平は昨日の昼から帰っていなかった。連絡すらつかず、心配になった同僚たちは何度か自宅まで出向いたが結局空振りに終わったようだった。
彼はどこに消えたのだろうか。まさかテロに巻き込まれているわけでもないだろうが、もしも万が一そうであれば大変だぞと思えなくもない。
もちろん彼の安否は気になるがそれ以上に、彼が消えてからの研究所全体の様子が気がかりでならなかった。主任はともかくとして他の研究員たちのことを思うと胸の奥底から嫌な感じが込み上げてくるのを止められない。
不安を振り払うかのように仕事に没頭したが、その思いは的中してしまったらしい。
モニター上で赤い文字が流れ出した時には思わず耳を塞ぎたい衝動を抑えられなかった。そしてそれは、悪い予感が当たったことを意味した。『施設内システムへの不正アクセスを確認しました』
そのアナウンスが流れた途端周囲では喧騒が巻き起こった。誰もが口を開きっぱなしになって、その様子はどこか間の抜けたものに見えてしまうが仕方がないことだろう。何しろ今まで聞いたことのない警告が出たのだから。
沢木の身に危険が迫っているのではないかと一瞬頭を過る。しかしすぐに打ち消された。沢木に限って、それこそあり得ないだろうと。
扉が開け放たれるなり罵声が響いた。『お前ら、なにやらかしてくれた?!』
『ただちに対応してください。侵入者はセキュリティを突破しています……速やかに対策を講じない場合、生命維持に支障をきたします』
「冗談じゃないよまったく!」モニターに向かいながらひとり言を口にしているのを見て周囲の人間から不審がられたのは言うまでもないが、それでも気にせず続けてしまったくらいなのだから無理もないことだった。「一体何やってるんだ?! 早く止めろ!!」
沢木がモニタールームに入るなり大声で指示を出すが返事はない。全員が固唾を飲んでモニターに注目しており所長に至っては青ざめた顔をして、唇は微かに震動を繰り返していた 所長が怯えているのは、それが沢木に対するメッセージであることを理解しているからだ。しかし彼にはそれを気に留めるような心のゆとりはなく、ただただ焦りを感じていただけだったのだが、だからといって現状は変わるわけではない 所長が手近にいた職員を怒鳴りつける。モニター越しではなく実際に面と向かって
「聞いてんのか?!」
『現在対応にあたっています。もう少し待ってください。お願いします!』
所長の剣幕にも負けずに若い男の職員は食い下がるように言った 所長は、自分の言っている言葉に矛盾を感じないではなかったが、それよりも沢木がどうなっているかの方が重要だったため職員の言葉を遮るように声を張り上げた
「お前ふざけてる場合か?! いいからさっさとなんとかしてくれ!! それとも俺が何とかすれば済むと思って言ってんなら……」
「やめなさい!」
所長の声を途中で遮ると笹谷亜希は自分のマイクに向かって言い放った
笹谷亜希
「あんた達もいつまでも呆けてないで、この馬鹿げた騒動を終わらせてちょうだい!」
彼女は自分が発した命令に対して疑問を抱くこともなければ違和感を覚えることもない。
なぜなら彼女こそがこの事件の原因だから 笹谷亜希がモニターを睨みつけながら拳を握りしめている一方で、モニター内の画面では施設管理システムを支配下に置いた人物が、まるでゲームでもプレイしているかのように好き勝手に操作を続けていた。画面に映るのは見覚えのある3Dグラフィックだった その映像が何を意味しているかは明白だ。モニター上に表示されているデータと実際のデータを比較すれば、数値にどれだけの開きがあるかを簡単に確認することができる。
もちろんその逆もあるわけだが
「くそぉ」彼は呟いた。そしてキーボードに手を置いた
「こんな時に何考えてんだよあの人は」沢木は不愉快さを隠そうともせずに舌打ちをする
『侵入者は第1実験室に立てこもっている模様です。至急対策本部まで応援願います』スピーカーから流れる女性職員の声が室内に響き渡る。「おい誰かいないか?」沢木は呼びかけた。しかし誰一人として答えようする者はいなかった 彼の声はマイクが拾わない場所へと移動したためだった。沢木は肩を落としたが気を取り直して再び声を上げた。
その時にはもう彼の存在は誰にも感知されることのない存在となっていた。
*
***
【5分前】
A県の某市郊外の雑居ビル、そこの一室に彼らは身を潜ませていた。彼らが身に纏う黒い衣服には血糊が付着しており、床には人間の残骸とも言うべき肉片がいくつか転がっていた。壁には赤黒いものがへばりついている。彼らの目的はここに集まっていた者たちを殺すことだったようだ。つまりはこの部屋にいる連中はすでに全滅させられた後ということになる 部屋には6人おり、部屋の隅の方に身を潜ませる男が4名に対して入り口付近に佇む女がひとり。男は手にショットガンを持っていた。それは彼が所持する唯一の武器だったが、すでに使い物にならない状態である。銃口から煙が上がり弾痕からは白い硝煙が立ち上っているが、それでも男は満足そうだった。むしろ誇らしげでさえあった。
女は彼の様子を観察すると静かに息を吐き、傍らに立つ仲間を見上げる。すると視線に気が付いたのであろうかその男は口を開いた。顔には笑みを浮かべている。この状況にあって、それがどれほど異様な光景であるのか当人たちは気が付いてはいないのだろう。
彼らの目的は単純だった
「これで全部ですかねー。結構な数が居ましたしぃ、まあ問題ないかと」男の口調には緊張感の欠片もない。その隣で壁を背にして腕組みをしているのはリーダーであるらしい。
女が答えるよりも早く、もう一人の仲間が彼女の横に並び立つ
「そうね。これだけ殺れば十分でしょう。目的は果たしたわ。帰る準備を始めましょう」女の声に淀みはない。まるでこの場で起こっている出来事を気に留めていないかのような自然さだ。しかしそれも当然と言えるだろう 何故なら彼女の認識においてはここは現実ではないからだ。彼女はこの場所がどこかも知らない そもそも彼女自身はこの場所について何も知らされてはいないのだ。それ故に彼女は今自分が何をすべきかもわかっていない 彼女にできるのはただ一つ、男たちを見つめることだけだった。「いやぁにしてもお姉さん凄いですねぇ。僕びっくりですよ。こんな綺麗なお嬢様だなんて思わなかったんで」「……」
褒められてる気がしなかったので、彼女は沈黙を守る。「ちょっとだけ僕の趣味につきあってもらってもいいですか?もちろん報酬は出しますから」彼は右手の指を五本立てて見せる「いくら何でもそれだけでは多すぎるわよ。それにそんなことする必要がどこにあるって言うの?」彼女の表情には警戒の色が浮かぶ。彼にとってみれば彼女もまた自分たちと同類であることくらいわかっているのだ。それを金で買おうと言うわけだから彼女は少しばかり驚いているのだった。
だが次の瞬間彼女は後悔することになる。
彼の左手の指は六本増えていた。彼女は思わず悲鳴を上げた 彼女が知る由もないのだが、彼は最初から五本のつもりだった。
それが彼女の声を聞いたことにより六本になったことについては、単なる偶然だった。
しかし、彼にとってそれは幸運以外の何者でもなかった。
【1時間ほど遡る。
5月27日 16時35分 B県 山中にて―――
雨合羽のフードを被ったままではさすがに落ち着けなかったので、俺はそれを外すことにした。そして腰に手を当てて深呼吸をしてみる。少しだけ落ち着いてきたので懐中電灯を点けて辺りの様子をうかがった。
視界は良好とは言い難かったが、それでも何とかなりそうな程度だった。どうやら道はそれなりに整備されているらしく土がむき出している部分もあるが、砂利敷きになっている箇所も散見された。もっとも歩きづらくはなさそうだが、水はけが悪いのだろうか時折水が溜まりかけているような場所がある。注意しながら歩く必要があるだろう。
時刻はまだ16時過ぎだというのに随分と暗いと思った。曇天模様なのは間違いないだろう。周囲が木々に覆われていることに加えて、夜目の効かない俺にとっては光量が不足していることもあって薄気味悪い雰囲気を醸している。正直に言えば引き返したくなっていた。
「まぁここまで来ておいて今更引き返すってのはあり得ないんだけどな」
自分にいい聞かせるように呟いてから先へと進む。山肌の傾斜は急というわけではなかったが、緩くもない。緩やかな坂といった感じか しばらく行くうちに勾配は徐々にきつくなってきたようで息が上がってくる。気温が低いことも影響しているのかもしれないが体力的にかなり辛い状況だ。とはいえここでへばっていては目的地に着く前にバテてしまいかねないので気力で我慢するしかない。何しろここに入る前には登山装備まで持ち出したのに結局使わずじまいになってしまった。あの荷物を持って山の中を引き返さなければならないことを考えるとげんなりした。いっそ途中で放棄してしまいたいという気持ちがないでもなかったが とにかく今は少しでも前に進むことに集中しよう。そう思っていたのだが、前方で何かが動く気配があった。目を凝らすと暗闇の中から白い手がゆっくりと現れてこっちの方に向かって伸びてきているのが見えた。
「…………!」反射的に立ち止まって距離を取り懐中電灯を向けた。すると手はすっと闇の中に引っ込んでいく。その光景に思わず後ずさりをしたその時だった、背筋を走る感覚があった 俺は本能に従い後ろを振り向いたそこには何の変哲もない森が広がっているだけだ。ただ木の影に隠れているだけで何もないと思わせる演出にしてはいささかもったいない。
もう一度正面を見るとやはり何者かが居るようにしか見えなかった。
「金曜病」の患者
だがいくら見ても木しか見当たらない。そもそもこんな場所で人が何をやっているというのか? 疑問はあったがそれを口に出すよりも先に体が動いていたことに他ならない。もし相手が友好的な存在であったならそれでよかったのだ。仮に危険があったとしても対処することはできるだろうし、もしもの場合に逃げ出せばよい 懐中電灯を消し、忍び足で相手との距離を詰めるつもりだったが、相手の姿を認めたことでその考えを改めざるを得なかった。そこには何も存在していなかった。確かに人の形に切り抜かれた闇の奥は静まりかえっていた。ただそれだけのことだった。「なんだこれは?」と口に出た。恐怖心よりは困惑の方が勝っていたせいもある。俺は今見たものをすぐに受け入れることができなかった しかし、いつまでもぼんやりしているわけにもいかない。得体の知れない存在をこのまま放っておくことはできなかった。
意を決して近づいてみると再び腕らしきものが地面から生えていることに気が付いた。さっきと同じようにゆっくり手が伸びてくる。その指先は俺の靴を掴もうとしているようだ。恐ろしさもあったが同時に興味もあった。果たしてどんな生き物なのか。
「うおっ!? びっくりした」突然の出来事に驚いてしまい素っ頓狂な声を出してしまったが、それと同時に足元を取られてつんのめってしまう。どうやらこの空間において相手の方に主導権を握られてしまっているようだ。俺の腕力では払いのけることはできないらしい。このままなすがままにされてしまうしかないのだろうか? 諦めかけた時だった。頭上で羽音が聞こえたかと思うと同時に光が辺りに降り注いだ。見上げるとヘリコプターが旋回していた。どうやら救助隊が来たらしく、ヘリからは照明器具を吊り下げて俺たちがいる地点を目指しているようだったが、こちらからは何も見えないのが不安要素ではあるが他に頼れるものはない やがて地上の明かりが見え始めた。徐々に高度を下げてきたそれは着地したかと思うとその真上にあった照明灯も地面に接触させ、周囲一帯を眩いばかりに照らした 救助対象が居ると思われる場所に視線を送ると人の形をしたシルエットを見つけることができた あれがおそらくそうだと判断したところで、今度は視界の端にちらりと何か黒いものが映ったが確認する間もなく光に包まれた次の瞬間には姿を消してしまっていた。結局それが何者だったのかわからぬまま、俺は助かった。そして今に至る 。これら一連の事件の背後に潜むものは何だろう?それともただの偶然の一致だろうか。あの晩以来ずっとそのことだけを考えていた。答えは出なかったがそれでも考えるのを止めることはできなかった。何にせよ、あの森だけは二度と近寄るまいと思っている。
5月16日 15時50分 都内の病院の一室で意識不明のまま眠る男の顔はひどく青白く見える。まるで蝋のようだ。顔立ちそのものは端正と言ってもよいくらいなのに肌の色がそれを邪魔してどこか不気味ささえ感じさせる。そんな彼の様子を少し離れた場所で見守っているのは彼の妻である
「……さん」彼女の声に応えるように病室のカーテンの隙間からそっと風が吹き抜けていった 男は今日目を覚ますことができるのかどうか。少なくとも明日目覚めることができるとは限らなかった。何故なら彼は今命の危機に瀕しているからだ。原因不明。治療法はなし。まさに死への誘いそのものと言える状況だった。医師は「これは金曜病に違いない!」と確信し興奮した。症例は僅かに報告されていたがどれも軽症で学会では問題視されていなかった。ところがここ最近になり発症者が急増加。その原因として有力な説とされていたのが『週末の夜にテレビを見るようになった若者が増えている』というものだったのだが今回は当てが外れた。なぜなら発症者は全員40代以上の中年男性なのだから 金曜日の18時から20時の間に発症することが多く月曜日になると回復。このことから当初は「月曜病」「週休二日論」「週末型社畜化」など様々な名前で呼ばれることになるこの奇妙な病気だったが症状自体はさほど重篤ではないということから、人々は冷静に対応していった やがてある共通点が発見されたことで、事態は急速に悪化することになる それは『曜日に関係なく深夜に発症することが多い』ということだった当初こそ「徹夜でもしてるんじゃないか?」などと言われたりもしたがそんなことをしたところで体力的に問題があるのなら、とっくの昔に倒れていただろうとすぐに否定され、「きっと不規則な生活をしているのよ」とか「ゲームをやりすぎなんだ」といった噂話がささやかれる程度で特に大きな問題ともならなかったが、ある日を境に突然その認識が一変してしまったのだ そしてついに先週の火曜日のことだった「うわあああ!俺じゃないぞおお!!」その悲鳴を聞いて駆け付けてみれば「俺の腕じゃねー!」そこには左腕を失い錯乱状態に陥った患者の姿が その事件を皮切りに同様の事件が相次ぎ世間を恐怖へと陥れていった 今となっては「金曜病だ」などと口走る人間は誰一人おらず、「感染が疑われる場合速やかに最寄りの病院で隔離されることが求められる。それが患者本人であれ周囲の家族や友人であれ一切の例外なく!」
その日以来男は毎週1人ずつ仲間を増やし続けていくことになるのだ――
「何やってんだろ……」
5月23日 17時35分 私はため息をつく「ウイルスが5G電波で運搬されるという都市伝説はあったけど、まさか本当に開発する人がいたなんて」そう金曜病ウイルスは極めて軽量で電気を帯びる性質が高い。したがって空気中を特定の電磁波に誘導されて漂い、感染するのだ。ただし実際に運ぶためにはある程度の大きさが必要だし人体には有害であることに変わりはない。しかし今回開発されたものは小型化されていて肉眼ではほぼ確認不能であり(とはいえ電子顕微鏡を通せば見えてくる)しかも人体の免疫系にも影響されないらしい。さらに今回のウイルスは感染経路が経口によるという。そのおかげで飲み食いには十分注意してさえいれば日常生活を送っていくうえではまず罹患しないと言われているがそれでも不安を感じる人は大勢いたはずだ。私もその一人だ
「それにしても何考えてるんだか。こんなもの作って誰が得をするっていうのかしらね……ん?」
窓の外に見覚えのある人物が立っていることに気が付いた。あの子だろうか。いやそんなことはないだろうと思いながらも、念のためスマートフォンを手に取りメッセージアプリを開く。そこにはたったいま送られてきたばかりと思われるメッセージが残っていた。差出人の名は「田中花子さんへ」。
「金曜日病ウイルス」
内容は次の通りだ このメッセージをご覧になっている方へお話があります。先日の電話についてお答えしたいと思います。私の父は生前とても変わった人物として知られていましたが、それはある意味正しいのです。なぜならば父の作った「金曜日病ウイルス」によって殺されたからなんですから。私はずっとそれが父の仕業だと思い込んできましたし警察もそれを信じていました。そして今日ついに犯人を特定したというわけです。もうわかっているかもしれませんけれど私はあなたのクラスメイトである笹谷亜希ではありません。あれは父の秘書を務めていた女性の端末の中身を書き出しただけなのです。秘書の名前は笹谷咲夜といいます。彼女の連絡先は知りませんでしたので直接会いに行く必要がありましたがようやく居場所を突き止めることができました。
さてこれからどうなるでしょうか。私が犯人だということに気づいた父がどういう行動を取るか非常に興味深いですね。でもおそらく無駄に終わることでしょう。父はもう死んでいますので、すでに死んでいる人間を止めることはできません。さようなら。
「……あれ、なんだそりゃ」
こんなメッセージが入っていた。
『昨日の朝、田中さんからメッセージがきました。今日一日お願い、できるだけ早く帰って欲しい。どうしても帰りたい人たちのために早く家へと帰りたい。どうやら父は自分の居場所を見つけ出すためにウイルスを作り出していたようです。もちろんそんなウイルスなんて簡単には作れやしません。でもこのメッセージを見て私はその可能性を確信しました。今から彼女のもとへ向かわせて下さい』
どうやらこのメッセージを読んでいる間は母がここにいないようだが、それは本人が誰かに聞かれたくないのかもしれない。
「なんだろうこれっていうか私はなんでこんなこと送ってるんだろう……」
気になってメッセージをクリックした。すると今度はメッセージと同じ文面で、
『本当にごめん!!本当にごめん、私から連絡が遅れて。ごめんなさい、本当にごめんね。……もしもし』
という表示が出てきた。
「なんじゃらほーん……」
「お疲れ様、あれ」
そういえば母が言っていたのだが、母が亡くなってからずっと連絡が途絶えている。それを聞いて少し安心する。今ならきっと母を呼んでくれると思った。それに父からの連絡で帰ってこなくても母に心配したってもらえるからだ。母とふたりで話したい。でもどうしていいのかわからない。……こんな私であるが家に帰ったらきっと母は怒るだろう。だからそんな言葉が頭に浮かんだ。そんなことは私は絶対に嫌だ。どう考えてもあいつは自分の居場所を見いだしてくるだろうし。それなのにどうして私は母の居場所を見いださなかったんだろうな。あいつがどんどん来なくなるじゃねぇか。なんで自分が来てないって思わされねぇんだ。
「……とりあえず家に帰って寝よう」
と思ってベッドに入ろうとしたとき、ふとメッセージが入った。
【明日も学校だから寝たら連絡して。明日も学校だから寝よう】と。
ん? 明日は学校? 私は思わずメッセージに既読を付けた。
【明日は休みだけど大丈夫?】
【大丈夫大丈夫。ちょっと行ってくるだけだから】
【わかった。じゃあおやすみ】
寝ぼけた頭の中を駆け巡るメッセージを見ながら私は思わずメッセージの送り主の文面を読み直した。
【明日も休み。学校休んでいいから】
【わかった。じゃあえっと、おやすみ】
母さんごめん。私はスマホを枕元に置きメッセンジャーを外した。でもまさかこれが最後の会話になるとは思わなかった。金曜病ウイルスが
、金曜日にしか活動しなかったことが唯一の救いだったと思う 五月二十四日 0時00分
(木曜日 深夜)
5 田中さんの家のインターホンが鳴り、私はモニターを確認した。すると、
「笹谷さん!?」「田中さん!!」
彼女は急いで出てきたようで肩が大きく上下している。「田中さ~ん!」と言って抱きつかれた私はそのまま玄関先で倒れこんでしまった。「いったい何があったんですか!一体どうして今まで連絡してくれなかったんですか、どれだけ待ったと思っているんですか、本当に田中さんじゃないんですか、本当にあのメッセージの通りの人が?」「はい、そうです」
彼女の腕の力が強まり私への抱擁はさらに強まったように感じた。彼女の顔が胸に押し付けられる。そして彼女が口を開いた。
「やっとあなたに会えた……。良かった、田中花子さん、生きていて本当によかった……」
彼女の吐息の温かさを感じながら、その声の響きを聴いて、そしてその胸に頬を押し付けられながらも、
「……っぐ」
私の目からは大粒の涙が流れた。
6 笹谷さんの身体を引き離すと彼女の手を取り二階にある私の部屋まで引っ張っていった。「ここに座ってください」と彼女に座るように促すものの、まるで自分の場所だと言わんばかりに笹谷さんは床の上に正座をした。その姿を見た私は笑ってしまった。そして、 笹谷さんを抱きしめてあげたくなったので私も同じように床に正座をして、彼女を強く抱いた。……どのくらいの間こうしていただろう、しばらくそうしたあと、私達は互いの顔を見て少しだけ笑いあった。そこで笹谷さんは急にはっとして、自分のスマホを手に取ってメッセージを確認する。
メッセージアプリは昨日の夜から動いていなかった。そのメッセージは送信者のところに見慣れぬ文字が表示されていたが、無視した。しかし、これが、後悔先に立たずになろうとは、まさか金曜病ウイルスの犯人とつながりができているなんて思ってもみなかったことだ。「このアカウントの人と知り合いですか? メッセージが来たので一応確認のために……」という彼女からの質問に対して「いいえ」と答えた私は、今度こそメッセージを削除しようと思った。削除ボタンを押そうとするとその画面を見て、笹谷さんが、「あぁーこれですね、この前送られてきたんです。私が家に帰ることをお願いするために」と言ってきた。私は「なんのことかわかりませんけど消させて頂きますね」と言ったのだが、彼女はそれを遮ってこういった。
「私達でこの人の願いを叶えませんか?」と。
私はそれについて少し考えた後でこう返事した。
「でももういいですよ、私達が頑張らなくても」と。するとそれに対して返ってきたのは 【わかった。じゃあ明日も連絡よろしくね】
という言葉だった。私はその文章をもう一度よく読んでみるとそこには『母に』と書かれていた。私はその瞬間何かがひらめいて、笹谷さんの顔を見る。「どうしたんですか?……笹谷さん」
そう言った直後、笹谷さんのスマホに電話が掛かってくる。
「……もしもし、……はい、今家に来ています、……わかりました。それでは明日また」
7 次の日の晩、私は学校帰りに駅前の花屋によってバラとカスミソウを買った。店員さんは今日が母の日であることに気づいているらしく笑顔で迎えてくれた。
田中真由
私は家路についた。8 笹谷さんが玄関のドアを開けたと同時に、私は大きな声でただいまと叫んだ。それに驚いた様子を見せる彼女だったが、すぐに満面の笑みを見せてきた。そしておかえりと言う。私は彼女の顔を見ながらゆっくりと歩みを進めた。彼女は私に向かって歩き始めたのだが、その途中私は、持っていた袋の中から小さな花束を取り出し、それを彼女の胸元へ持っていった。そして、 彼女に渡した。
笹谷さんは、突然の出来事に戸惑っている。そんな様子を見た私はふっと笑う。
私は彼女を抱き寄せ、彼女の肩に手を置いて彼女の目をじっと見つめた
「お誕生日おめでとうございます」
8 田中さんから花束を受け取った私はその場に立ち尽くしていました。私は、目の前に立つ彼女を見ていました。彼女も私を見てくれていました。でも何も言葉を発することもなく私は、私の中の気持ちを伝えようとしました。すると私の中にあった思いが自然と口をつきました。「どうして」
それは彼女の方も同じみたいで、
「なんで」
二人の間に沈黙が生まれました。でもそれは決して悪いものでは無く、心地の良い、静寂のような時間です。
しばらくして私が
「さようなら」
と呟くと彼女が「お元気で」と返してきました 私たちはお互いの姿を目に焼き付けるようにしながら、手を振って別れの挨拶を交わしました それが、最後になりました。
それから数日後の夜10時頃でした 私のスマートフォンからメッセージを知らせる通知音が鳴りました メッセージを開く前にそれは着信画面に切り替わりました 電話を掛けて来た相手の名前には 田中さん の文字がありました 私はその画面をしばらく見たあと、電話をかけなおしました 数秒の呼び出し音の後に田中さんは出てくださいました。私は、
『今どこにいますか?』
『……え、今から』……私は今から田中さんの家に向かいます 田中さんの居場所を見つけ出せれば良いのですが、どうなるかはわかりません 田中さん 私は今からあなたのお母さんのお墓へ向かいたいと思います 私がその場所に辿り着いた時にあなたがいなければ私は絶望します 田中さん、私はまだ生きていたいですまだあなたと一緒に過ごしていたい だから田中さん、私のことを見つけ出してもらえませんか?
『見つけ出したらどうするの?』
あなたに会えなくなることを考えるだけでも恐ろしいことですが、それよりも辛いことがあるかもしれません。
でも、もし会えたならば そのとき私は、きっとあなたに、伝えておきたい言葉があります
「愛しています。これからも、ずっと」と 9 夜中に母の墓標へとやってきた私は田中さんが言っていた通りに線香と花を供えてから、田中さんのお父さんのことについて聞いてみることにしました。すると母が「あの子は私の子供よ、あんたがどう思っていても、私は絶対にあいつから離れないし」と言ってくれたことが嬉しくなって、思わず泣きそうになってしまい、必死になって堪える。「じゃあそろそろ帰るか……」とつぶやいたときにふと思い出して、田中さんから送られてきたメッセージの送り主を確認してみると
「あれ、この名前って確か」
と不思議になったので田中さんに連絡をとってみた。そして私は、驚きの事実を知った。
そうしてしばらくの間会話をしていると、 【今から行く】
【私に気づかれないようにしてください】
というメッセージを受け取って通話を終えることになった。
田中さんは私より先に墓場に着いたようだった。私は田中さんが来るまでの間に母の写真を拝んでおいた。
数分して田中さんの姿が現れた。いつもの格好とは違う服だったけど一目見て田中さんだとわかる容姿をした田中さんが、
『こんばんは、お待たせしてすみません』と頭を下げてくる。
私も、お待ちしておりました、と答える。そして、母との話を聞いてもらいたくてここに来たのだ、ということを伝えると、それを聞いた彼女は、私についてきて、と言って私の横を通り過ぎる。そして私をどこかに案内してくれた。そこは薄暗くて長い廊下を進んだところにある部屋だった。そして部屋の奥で田中さんが立ち止まる。
「ここで待っていてもらえるかしら」と田中さんが言ってから部屋を出ていくのを見てから私も立ち上がり扉の向こう側に行こうとするが、 田中さんに「待った」と言われる
「ちょっとだけそこで待っていてほしい」
私は言われたとおりに立ち止まった。すると彼女が私のもとへ近づいてくるのが見え、そのまま抱きしめられる。「田中さん?」そう呼びかけても答えてくれることはなく、彼女の腕の力が強くなるだけだった。
そのまま何分くらい時間が経っただろう、田中さんの腕が離れると私は再び部屋の中央あたりに立たされた。すると彼女はポケットの中に手を入れて、何かを取り出して私の目の前に立った 私は彼女に手渡されたものを見る。それを手に取ったまま見上げると彼女は私を見下ろしていた。
手の中の物をしっかりと握って私はこう思った。
(この人なら私に母と同じ言葉を贈ってくれるかもしれない)私が受け取った物は、一通の手紙だった。
10 手紙を読み終えた私はそれを丁寧に折りたたんで胸の前で抱きしめながら、 【ありがとうございました】
とだけ書き込んだ。そして、田中さんにその事を伝えると、彼女は満足そうに私から一歩下がった。
私は彼女の方を見て、少しの間目を合わせていた。そして互いに笑いあった。
私は、彼女から受け取った手紙を胸元に持ってきて抱きしめながら、部屋を出た 外に出ようとしたとき振り返り 【母に会いに来てくれて、ありがとうございます】
そう告げて、私はその場を去った。……。
●沼田製薬中央研究所
日本全国から集められた体液サンプルが24時間体制で分析されていた。金曜病とは果たしてウイルスなのか心因性の病気なのか、公害なのか、解明が急がれていた。今週金曜の発症者は先週比で2倍。昨晩は全国で12名が金曜症候群を発症している。今朝の時点で原因不明。金曜症患者の増加を食い止めるには治療法の確立が急務であった。
そんな中、製薬会社で主任研究員として勤める田中真由は同僚の高橋という女性に金曜病の話をしていた。「それでさー、その人が言うにはこの会社で昔働いていた人の血液を使ってDNA解析したけど、特に問題は無かったって」「まぁこの会社は大病院との繋がりもあるから」などと話してる二人の元に二人の男が現れる。「お二人は仲が良いみたいですね」という質問に対して「ええ」「はい」。
「ところで沢木さんっていう男性、最近、ここに出入りしてなかった? あと、笹谷亜希という研究員も。彼女、3年前までここのスタッフだったらしくて」と尋ねると、「いえ」と答える高橋に「そうですか」と言ってその二人を探し出すことにした。「でもさーその人の言ってることよくわからないよね」と疑問を口にする二人に「いや、確かに意味がわかんないですけど」と答えながら資料室へと向かった二人。「えっと笹谷さんは……」
資料室内では一人の男性が床に座って本を読んでいた。「あの、沢木って人を探されているんですが」
そう聞くと男性は、立ち上がり「あぁそれ、俺です。……なにか?」
田中は「金曜症候群の原因がわかったので来てもらえますか」
金曜病患者の増加
笹谷はその言葉に眉間にシワを寄せ 田中は笹谷に説明を始める。そして田中の話を聞いていた笹谷は怒りの形相で「じゃあなんだ?! 俺は毎週死にそうな思いをしながら働いてたってことか!!」
田中は静かに話を聞き、そして最後に「あなたは悪くありません。私が保証します」と話す。「……そんなこと言われたって……もう無理だ……こんなところ辞める。明日からまた仕事探しだ……」
笹谷は落ち込んでいた。「じゃあそろそろ行きましょうか」
「いやだから行かねぇよ」笹谷がそう言いかけた時「そうですか、ではこれで失礼します」と言い残し田中ともう一人の男が去っていく。笹谷は再び椅子に腰を下ろし、ため息をつくのであった。「はぁ……疲れた。帰ろうかな……」
そうつぶやき、田中達が去った方へ歩いていった 田中達は研究室で顕微鏡を見ながら「これです」と電子顕微鏡の中に写っている赤い斑点のような塊を見せられた。それはまるで寄生虫の卵のように思われた。
田中「これは、一体なんでしょうか」
沼田「恐らく……寄生虫でしょうね」高橋「あのぉ」
田中「どうかしましたか?」
高橋「それってもしかしたら今テレビでやってる金曜症候群ってヤツじゃないっすか?」
田中「ああ。それじゃあ」
高橋「いやそれが、なんか最近流行ってるらしいんですよ」
沼田「詳しく聞かせてください」
日曜日の夕暮れ。田中は一人部屋の中で読書をしていた。するとチャイムの音が聞こえる。インターホンで誰であるかを確認したあと、玄関の扉を開ける。すると目の前には女性が立っており、 田中(あれ、誰だ……)と思いながらも声をかける。女性は田中の顔を見て安心したのか微笑みかける。そして、一言。田中は、一瞬何が起きたか分からずにいたが、どうやら自分は倒れていたようだ。意識は遠のいていき視界は真っ暗になっていった……. 気が付くとそこは知らない天井だった。見知らぬ部屋にいる田中は状況を把握するために起き上がる。辺りを見回すと机とテレビとタンスがあった。机の上にメモがあり、そこには次のように書かれていた。
〈田中さんおはようございます。目が覚めたようで良かったです。あなたは過労による貧血で倒れてここ数日寝ていました。
あなたの症状が軽いのが幸いしました。でも無理しないでください。
それとあなたを看病していた田中さんがお腹が空いて冷蔵庫を開けようとしても鍵が掛かっていて開かなかったと残念そうにしていました。
私が来たら解錠するように頼んでおきます。それじゃあお大事に〉 田中は自分の名前を知っていたことに驚いてから田中さんの筆跡を確認して驚いた。自分が田中さんと呼ばれる人物であることを知っている人間なんてそう多くはないからだ。「じゃあさっきの人は誰なんだろ……ん?待てよ、もしかするとさっきの文章が示している相手は僕自身ということにならないか?だとしたら僕は自分自身に向かって話し掛けていたという事になるじゃないか」田中さんと呼ばれている男は考え込んだ 田中が目をさましてから約1週間後、田中さんに呼び出されて彼の自宅へと向かっていた。「こんにちわ。田中さんいますか?」返事が無いのでドアノブを引くと施錠されてなかったので中に入った。
家に入ってまず感じたのは異様な匂い。
部屋の隅にあるベッドの方を見ると血まみれの人が横になっていた。慌てて駆け寄り、声を掛ける。田中さんは苦しそうな表情を浮かべながら「誰かが来てたんだなぁ。悪い事してしまったよ。せっかくだしこの人も一緒に連れて行くか……」と言う。「この人が田中さんだったのか。それにしても田中さんに何が起こったんだろう。とりあえず田中さんに何か食べ物を持ってくるか」私は台所でカップラーメンを作る事に決めた。お湯を沸かし麺を入れてから5分待ち蓋を開けた。私は思わず驚きの声を上げる。「田中さん?」
そこには、首のない人間の体が横たわっていたのだ。私はそれを持ち上げると部屋から逃げ出そうとするが扉が内側から塞がれており出る事ができないでいた。私は、助けを呼ぼうと携帯電話で電話をかけた。しかし電波が入らないと表示されるだけだった。「田中さんが……田中さんはどこに行ったんだよ……早く帰ってこいよ田中!」すると電話が鳴る音を聞いたような気がしたので私は部屋を出ようとする 扉に手をかけ押してみると意外にも簡単に開いてしまった 外には誰もいなかった 外に出ると先程までの光景は無くなっていたが私の服には返り血が付いていたので、その事を不審に思った。
それからは色々と調べまわったけど特に何も見つからない 仕方なく家に帰ろうとすると後ろから肩に手を置かれる 振り返りその顔を確認すると 田中さんがいた
「さあ、田中さんと一緒に帰るぞ」私はその田中さんに連れられて田中さんの家に帰る そこで目にしたものは先程の人の首なし死体だった 私が「うぅ」というと
「ああ田中さんにはまだ言ってなかったっけ」
と、その首なしに話し始める
「この人死んでないから大丈夫だよ」私は驚き
「この人生きてるんですか」と聞くと
「うん、そう」と言ってから
「でもまぁ死んだも同然だよね。だってほら、首から下がなくなってるわけだし。いやーほんと困っちゃうよね」と続けるので「あの、じゃあどうして私を騙すようなことを?それにあの日私を呼んだ理由も教えてほしいんですが」
そう尋ねると田中さん(以下略 田中「そういやそうだね。えっと、君のことが好きなんだよね、僕」
突然告白された
「え?あ、そうですか」と言っても 田中「だから君を僕のものにしたかったんだけどさ なんかこう、うまくいかなくて それでちょっと意地悪しちゃおうかなって思ってさ」
「なるほど、よくわかりました。それでは失礼します」
田中「え?帰っちゃうの?これからどうするの?」「はい、とりあえず帰ります」
田中「……あ、そうなんだ」
「それじゃあ」
田中「また会えるといいな」
「はぁ」
田中「それじゃあまた」
「また」
こうして物語は終わる。
●金曜病患者の増加について製薬会社にて主任研究員を務める田中真由は同僚の高橋という女性に金曜病の話をしていた。「それでさーその人が言うにはこの会社で昔働いていた人の血液を使ってDNA解析したけど、特に問題は無かったって」「まぁこの会社は大病院との繋がりもあるから」などと話してる二人の元に二人の男が現れる。「お二人は仲が良いみたいですね」と質問する二人に「ええ」「はい」。
「ところで沢木って人を探されているんですが」と聞くと「いえ」と答える高橋に「そうですか」と言ってその二人を探し出すことにした。「でもさーその人の言ってることよくわからないよね」と疑問を口にする二人に「まぁ確かに意味がわかんないですけど」と答えながら資料室へと向かった二人。「えっと沢木さんは……」
資料室内では一人の男性が床に座って本を読んでいた。「あの、沢木って人を探されているんですが」
そう聞くと男性は、立ち上がり「あぁそれ、俺です。……なにか?」
田中は「金曜症候群の原因がわかったので来てもらえますか」
笹谷は、「じゃあ俺は悪くないのかよ!!」
田中「はい」笹谷「そんなこと言われたって……もう無理だ……こんなところ辞める。明日からまた仕事探しだ……」
金曜病の正体
急いで救急車を呼んだが、高橋はそのまま亡くなった。
死因は急性心不全。
原因は不明。
そして、次のターゲットとして選ばれたのが、田中だった。
田中 隆志は、中小企業でサラリーマンをしていた。
ある日、会社の上司に呼び出された。
そこで告げられた言葉は衝撃的なもので、彼は絶望した。
結婚3年目の妻とは、上手くいっていなかったわけではないが、お互いに干渉し合わない関係を保っていた。子供もいないことから共働きという選択をした二人だったが、生活リズムの違いからすれ違いが増え、最近では会話すらほとんどなくなっていた。だがそれでも夫婦関係は続いていたし、お互いそれで納得していたはずだった。それが一体なぜこうなったのか…… それは彼が、とあるウィルスに感染していたことが原因であった。
そのウィルスは、体内の免疫機能を低下させることで、身体の恒常性(ホメオスタシス)を保つ機能を狂わせてしまうというものだった。
それにより、自律神経の乱れを引き起こし、体調不良を引き起こす。
それがやがて、精神的にも影響を及ぼしていく。
田中 隆志は、自分が今置かれている状況を理解しようと必死だった。
目の前にいる女性が、自分を呼んでいる。何だか頭がぼぉっとしている。
そして自分は、その声の主をどこか知っている気がした。
田中 隆志は、夢を見ていた。
いつもと同じ夢だ。
真っ暗な空間に、自分ともう1人誰かがいる。
いつもはそれだけだったはずなのに、今回は違った。暗闇の中に、ぼんやりとした光が浮かんでいるのだ。
その光は徐々に大きくなっていき……やがて人の形になる。
そしてその人物は言った。
「私はあなたです」
その声は、自分自身の声に聞こえた。
「私は、あなた自身なんです」「私はあなたの心の奥底にある願望を具現化したもの」
「あなた自身が望むものを、私は叶えることができるのです」
「私の力を使ってください」
「私と共に歩んでいきましょう」
「私と一緒になってくれるんですよね?」
「私を愛してくれるんですよね?」「一緒に行きましょ」
「ずっと一緒ですよ」
「愛してます」
「大好き」
「結婚してください」
「私と結婚してください」
「田中さん」
「私は田中さんが好きです」
「田中さんは?」
そこまで聞いて田中は我慢の限界に来た。「うるさい!俺を冥土に連れてこうなんて百年早い」
怒鳴ると目が覚めた。同時に熱が引いていく。そうか、わかったぞ。金曜病ウイルスの弱点は怒りだ。アドレナリンだ。アドレナリン分泌を促すために感情を昂らせろ。よし、じゃあ高橋に電話をかけてやるぜ! 私は、今まさに田中に電話をかけようとしていたところだった。だがその直前、高橋は、携帯電話を操作して、発信履歴を見た。するとそこにあったのは彼の名前。私は彼の番号を知っているが、登録していなかったことを思い出した。私は自分の携帯を取り出し、アドレス帳に登録する。
これでいつでも彼に連絡することができる。
だが、私が電話しようとすると、まるでそれを察知しているかのように着信があった。「もしもし?」「おーい、高橋ー」と田中の声がした。「あ、すみません。間違えました」と通話を切る。おかしい。何故私だと分かったのだろう。不思議に思いながら私はまた、田中に電話した。「高橋ー」「あ、すみません。間違えました」
そう言ってすぐに切る。その後、何度も田中に電話をかけたが、
「高橋ー」と出るばかりで繋がらなかった。
仕方がないのでメールを送ることにした。
『田中さん、今日は何の日かご存知ですか?』
送信してから、少し不安になった。
田中は、金曜病に侵されているはずだ。
「あれ?」と高橋は首を傾げた。
おかしい。田中からの返信が来ない。
もしかして、何かあったんじゃ……
高橋は心配になり、田中の自宅へと向かった。
インターホンを押しても反応がない。
ドアノブに手をかけると、鍵がかかっていなかった。
「入るよー」と言いながら部屋に入る。
リビングまで行くとソファの上に横になっている田中を見つけた。「ちょっと大丈夫なの?具合悪いなら病院行かなきゃダメじゃない」と言いながら近寄ると、「うわっ」と言って後ずさりされた。田中の顔や腕に「金」という蚯蚓腫れがたくさん出来ていたからだ。「高橋。近づくな。うつるぞ!」
「え?どういうこと?あんた病気なんでしょ?治らない病気って聞いたんだけど」
「あぁ、そうだよ。でも、感染しない病気なんだ」
「えぇ?なにそれ。意味わかんないよ」
「俺だってわからんさ。ただ、俺が発症したのは、高橋と付き合ってからなんだ」
「え?それって……」
「あぁ、俺はお前のことが好きだったんだと思う」
高橋は絶句していた。まさか、そんな風に思われてるとは思わなかった。「え、でも、私、そんなこと言われても、田中さんのことは……」と言うと田中は泣き出してしまった。「ごめん、困らせて悪かった。今のは忘れてくれ。頼む」そう言われて高橋は戸惑った。正直田中のことが嫌いではなかったが、そういう意味では好きになれなかった。そもそも、自分には夫と子供がいて……などと考えているうちに涙が出てきた。そして高橋は気を失った。薄れゆく意識の中で、ふと思った。もしかすると金曜病の本当の狙いは……
気がつくと高橋は自宅のソファーで眠っていた。田中が隣に座っていた。時計を見ると夜中の3時だった。いつの間に帰って来たのだろうか……と思っていると、彼が口を開いた。どうやら看病してくれたらしい。高橋が寝ている間に近所の薬局に行き、解熱剤や栄養ドリンクなどを買えるだけ買い込んできたようだ。だが高橋には疑問が残る。どうやってこの症状が感染するものだと見破ったのかと。すると彼はこう答えた。高橋にはまだ話していないが、金曜病の正体を突き止めたのは自分だと。そして自分は金曜病を克服できる人間なのだと。その言葉に嘘はないらしく、彼は、自分の身に起きている現象について語ってくれた。曰く、自分の体には他人の思考が流れ込んできているという。最初は、自分がおかしくなったのかと思っていたが、高橋のことも、同僚のこともよく覚えているのだという。どうやらその能力は感染能力があるらしい。そう考えてみると納得できた。彼は私よりもずっと前から金曜病を患っていたことになる。彼は、金曜日に体調が崩れるようになった理由について、ある推論を立てた。
その推論は驚くべきものだった。
それは、この感染症のワクチン開発に必要な要素についてである。彼は、その仮説に基づいて実験を繰り返していたのだと語った。
「高橋、俺はこれからやらなければならないことがある。俺はそのために生きなくちゃいけない。だから俺は、金曜病を克服しようと思う。金曜の夜が来る度に発症するのは、辛いことだけど、それでも乗り越えてみせる。高橋にも協力して欲しい。俺と一緒に頑張って欲しい」
と真剣な表情で訴えかけてきた。彼の気持ちに応えたかった。そのためにも、私も一緒に戦う決意をした。それからというもの、私たちは協力して、研究に取り組んだ。
まず行ったのは血液検査だった。
じゃあ俺と結婚してくれるか
抗体価を測定し、陽性だった場合は投薬を行う必要があるからだ。その結果は陰性だった。だが念のためということで次のステップへ進むことにした。
次の段階は免疫細胞にウィルスに対する耐性を持たせていくことだった。
私はそのことについての知識はなかったが、田中は詳しいようで、彼に任せることにした。
まず、私たちの体内にいるリンパ球に対して様々な薬剤を投与していった。そして一週間が経過したとき、驚くべき結果が出た。
「免疫細胞の遺伝子が書き換えられている?」「その通りだ。俺たちの身体の中に入ってきた細菌ウィルスは、自然免疫系によって駆除されるようになっているんだ。これがワクチンの役割だ。つまり俺がやったのは免疫システムの制御ということだ。これによって、俺達の身体はより強固なものへと生まれ変わることができるようになる」「すごい……!じゃあこれを使えばみんな助かるかもしれないってわけね」そう言うと田中は嬉しそうな顔をした「そうだな」そしてこう続けた。
「ところでお前は俺のことを愛してるか?」
と そう言われた瞬間、私は動揺した。今まで愛してるなんて言ったことはなかった。恥ずかしくて言えなかったのだ。しかし今言わなければ後悔することになる。
私は意を決して言った。「もちろん愛してますよ」
田中の顔が赤くなった気がした。そして彼は、「ありがとう。じゃあ俺と結婚してくれるか」と言った。私は「はい喜んで!」と答えた。すると田中が「よし、契約成立だな」と言い出した。
あれ?何か違うような……と思って聞いてみると「契約書にサインを貰おう」とのことだ。「何の契約ですか?」と聞くと、「夫婦になるためのだよ」「えぇ!?」「何だ嫌なのか?」と聞かれたので「いやいやいや」と答えると、「よし、なら決まりだ」と言ってきた。
こうして私達は結婚した。