オリジナルをまとめています。
・新しい作品
・“書いて”というアプリの加筆修正版
などが含まれています。
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目次
 
    
        ザッハトルテ
        
        
        私の手のひらにある、ひときれのザッハトルテ。
それは幼い頃からいつもそばにある物だった。
私の話を聞いて、私の姿を見て、新しく一歩を踏み出す時は決まって一口私に進める。
ずっしりとたたずんでいて、あの子が纏う黒いチョコレートは小さなからだを守る殻だった。
大人に憧れたあのときから変わらない、ビターな味わい…
変わったところと言えば、小さな頃と比べて随分小さくなったこと。
ひときれ568円。お金がない当時は大金で、毎日ちょびちょび食べていた。 
今日はあの子の命日だ。ぽつぽつと降りだした雨は、私の体を湿らせる。
とっくの昔に消費期限は切れた。
でも、あの子の為ならお腹壊したって構わない。
私はぱくっと一口で食べきって、これから巡り会うかわいい子達に胸を膨らませながら、次のケーキ屋さんへと一歩、また一歩と踏み出した。
        
    
     
    
        ぽつぽつ
        
        
        たいせつなひとが死んでさ。
ほんとに君、なーんもいらないの?
僕だけに見える僕よりも背が大きいお兄さん。
生前、母さんが見せてくれた写真に写る子をそのまま大きくしたみたいだ。あの子は母さんの弟―つまり、僕の叔父さんだった。
でも、叔父さんは母さんが幼い頃に病気で亡くなったらしい。ちょうどお兄さんぐらいの歳で。
弟の魂は未だあの病院で、母さんが来るのを待っているんだ。弟と同じ病気で亡くなる母さんを、何年も何十年も。
それで、時折ふらっと患者の前に現れる。ぼくが、入院したときみたいに。
母さんが唯一の家族だった僕は、親戚に連れられ新しい生活をはじめた。
新しい服、新しい家、新しい学校…
たくさんの「あたらしい」が僕のことを着飾ってるけど、まだまだぽっかり穴が空いてる。
おばさんが僕を心配して穴を埋めようとするほど、どんどん穴が広がってく。
だから、お兄さんに聞かれても「いらない」って答えた。僕を満足させるものなんてないんだ。
もし、本当になんでも欲しいものをくれるなら、おかあさんをかえして欲しい。
        
    
     
    
        石楠花
        
        
        私には触ることも出来ないようなあなたを知ったのは、じめじめした夏のはじめだった。駅のホームでこちらを睨むあなたを見た。壁にはりつけにされたあなたを見て、この世の物とは思えないほどに美しいと感じた。優しい眼差しなんて要らない。一目惚れだったのに、なぜ気付かなかったの。
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ひとつあくびをした車内。秋のはじめとは思えないほどに暑苦しい真っ昼間とは比べ、肌寒い空気が私の肌を刺激した。
        
            花言葉は―。どうせ届かないと知っておきながら。