閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
私の彼
一目見たとき、私は確信した。
この人だ、そう思った。
綺麗な目、黒くてさらさらな髪、太陽みたいにかがやく笑顔。
私の好みにぴったりだった。
その日の放課後、私は彼に話しかけた。
「あの、一緒に帰りませんか?」
彼は私の想像とは裏腹に「いいよ」と言った。
帰っている時はテストのこととか他愛のない話をした。
それから何日か経ち、彼とは席が近いのもあってよく話す関係になった。
彼とは今まで関わってきた人の中で一番続いた。
彼が私の好み過ぎたから、もう少し関わっていたかった。
半年がたった頃、私は彼を家へ招いた。
彼は一瞬戸惑っていたけれど、家へ来てくれた。
彼を家へ招き入れた後、私は彼にお茶を注いだ。
それも私が好きな烏龍茶を。
彼はおいしいと言ってくれた。
彼は少し前に漫画が好きだと言っていた。
だからおすすめの漫画を彼に貸した。
彼はおもしろいと言ってくれた。
そのあとは一緒にゲームをした。
時はあっという間に過ぎ、外も暗くなってきた。
部屋にはお母さんが作っているであろう豚汁のにおいが漂ってきた。
「じゃあ俺、そろそろ帰るね!」
彼はそう言った。
私はもう少し彼といたかった。
彼に恋愛的感情を抱いていた。
私は彼に話しかけた。
「…ねぇ、」
「ん?」
彼がふり返った時、私は手に隠し持っていたナイフを彼のお腹に刺した。
彼は驚いていたし苦しんでいた。
今までとは違う快感だった。
だって彼だもの。
私のだーいすきな彼だもの。
私だけの彼。
誰にも渡さない。
触れさせない。
私だけのモノ。
「ねぇ、ずっと一緒にいてくれるよね?」
鳥
私には付き合って半年の彼氏がいる。
彼とは一か月前から同棲していて、仕事の時以外いつも一緒にいる。
彼はいつも私より先に起きていて朝ご飯を作ってくれる。
私が「おはよう」と言うと彼も「おはよう」と言いながら頭をなでてくれる。
料理もできて優しい最高の彼氏だ。
ある日いつものように職場で仕事をしていると知らない番号から電話がかかってきた。
恐る恐る出てみると相手は警察だった。
何かしてしまったのかと思いながら警察と軽く挨拶をする。
しかし、数秒後私は手に持っていた携帯を落としてしまった。
彼が交通事故で死んだというのだ。
ショックで言葉が出なかったし動けなかった。
悲しみと同時に怒りがこみあげてくる。
その日はそのまま会社を早退して病院に行った。
彼は静かな顔でベッドに横たわっていた。
彼の死体を見ると強い悲しみが水滴となって目からあふれ出た。
何日か経ったあと、お葬式をして遺骨をお墓に納めた。
それも彼と一緒に選んだ結婚指輪を添えて。
彼と出会ってからのことを思い返すと涙があふれてくる。
彼のいない生活は思った以上に過酷だった。
唯一の癒しだった彼がいなくなってしまい、私は引きこもるようになった。
ある日ふとベランダの方を見ると鳥が鳴いていた。
きれいな青い鳥だった。
私はその鳥に引き込まれるようにしてベランダに出た。
するとその鳥が私の頭に乗って羽を擦りつけてきた。
彼がよく頭をなでてくれていたのを思い出す。
彼が目の前にいるような感覚だった。
彼が鳥になって私に会いに来てくれたのかもしれない、そんな気がした。
手。
「なんで手、挙げなかったの?」
そんな簡単な問いに私は駄作だったから、と短く答えた。
一時間前のこと。
掃除が終わり、椅子に座って終礼を待っているといつもと違う表情をした先生が教室に入ってきた。
いいのか悪いのかよくわからない顔をしている。
少しの沈黙後、ようやく先生が口を開いた。
「これ、落としたの誰ですか?」
先生の手には見覚えのあるルーズリーフがあった。
あ、私のだ。
それは私が授業中にこっそりと描いていた落書きだった。
「心当たりがある人は手を挙げてください。」
先生の変わらない表情に背筋が凍る。
だが想像とは裏腹に先生は続けて「すごく上手ですね」と言った。
少し驚いた後胸をそっと撫で下ろした。
怒っていなかったんだ。
周りの生徒も「うまー」などと言っていた。
でも私は手を挙げなかった。
終礼が終わった後、隣の席の子が「なんで手、挙げなかったの?あれ、あなたのでしょ?」と聞いてきた。
ばれていたのかと思いながら私は駄作だったから、と短く答えた。
「…でも、みんな上手って言ってたでしょ?」
私は「違う」と言い返したい気持ちを抑えて黙り込んだ。
みんなからしたら上手いかもしれない。
でもあれは私からしたらただの駄作。
そんなもので褒められても嬉しくない。
あれで手を挙げたらみんなから私はこのぐらいの絵を描く、このぐらいの上手さ、と思われてしまう。
本当はもっと上手いのに。
知るならそんな中途半端なものじゃなくて本当の実力を知ってほしい。
私はこういうのが嫌い。
だからあの時手を挙げなかったんだ。
雑巾
頭上から灰色の濁った水が降ってきた後少し重い何かが私の頭の上に落ちてきた。
ああまたかと思いながら頭に乗った雑巾を手に取りゴミ箱へと脚を動かす。
周りからはおそらく私に対してであろう笑い声が聞こえてくる。
少し濡れた雑巾をゴミ箱に入れ、机に戻ると机の上に置いてあった筆箱がなくなっていた。
どこへ行ったのかとあたりを見わたすと隣の席に座っているいじめの代表格のような人物の手にあった。
「それ、私の。返して。」と言うと彼女は「え~落ちてたから拾ったの~だからこれはわーたーしのw」と言った。
「落ちてなかったでしょ。机の上にあったはず。」
「いや、お前の机汚いから床と変わんないでしょw」
彼女には私の机が床に見えているようだった。
「汚してるのはあなたたちでしょ。あなたたちが落書きするから汚くなる。」と正論をぶつけながら彼女の横に立っている手下のような存在に目をやる。
手下たちは私の冷たい目に少しおびえているけれどリーダーの彼女は全く動じない。
話が通じない人と話していても時間の無駄だと思い教室を出る。
「え~逃げるの~?よわ~w」という声が後ろから聞こえてくるが彼女たちとは真逆の方向に脚を進める。
私が逃げたと勘違いしているようだ。
人にかまってもらわないと生きていけないだなんて可哀想だなと思いながら水道へ向かい頭を濡らした。
日常
教室に入ると頭がいいのか悪いのかわからないリーダー的存在が笑いながら彼の友達と話している。
私はそれを避けるようにして机へ向かいカバンを置き、先生に提出するノートを手に取り席を立つ。
教室のどこを歩いても次から次へと出てくるさまざまな大きさの丸太のようなものを飛び越えながらドアへと向かい、ドアに黒板消しが挟まっているのを分かっていながらもドアを開け白い粉を被る。
後ろからはやはり笑い声が聞こえてくるが気にしない。
職員室へ行き先生にノートを提出すると先生が困ったような諦めたような顔をして「大丈夫か?」と訊ねてくる。
こいつは自分の生徒がこんな目に合っていてもこうやって声をかけるだけでやってる側には注意しないんだよなと自分自身も諦め「大丈夫です。」と真顔で言う。
先生は何かを恐れているような表情をして「そうか」と言い私と別れる。
「何かあったらすぐ言えよ」とかいう言葉は何一つないんだなと思いながら皆がいる教室へと歩く。
水果
水が撥ねる。
水しぶきが上がる。
影が沈む。
色が広がる。
水が動く。
真夜中に
男が少し肌寒い夜道を歩いていると女がついてきた。
髪は長くきれいだが帽子を深く被っていて顔が見えない。
男が歩く速度を速めると向こうも速めてくる。
不思議に思った彼が彼女に話しかけると彼女は「あ、えっと、かっこよかったのでついてきちゃいました…」と言った。
「かっこいいって?」
「あなたのことです。私すごく好きです!」
「いや全然かっこよくなんか…」
「いやいやかっこいいですよ!今まで見た中で一番かっこいいです!」
年齢=彼女いない歴の彼は少し怪しんだがかっこいいと言われ少し口角が上がった。
しかし初対面で少し怖かったし離れたかったので「えっと、ごめんなさい」と少し意味の分からないことを言ってその場を離れようとしたが彼女に「連絡先だけ交換してもいいですか?」と言われたのでこれも何かの縁だし連絡先だけならと交換した。
その後少しやり取りをし数日後また会うことになった。
仕事を終え待ち合わせ場所へと向かうとコートを着た彼女が黄色く暖かく灯った街灯の下で待っていた。
「待った?」
「ううん、今来たところ」
その日は夕食を取る予定だったので事前に予約しておいた店へと向かった。
「これ、おいしいね!」
「よかった、君の口に合ったみたいで」
「私パスタ大好きなんだ!ピザも大好き!」
「よかった」
向かった先は高級イタリアンレストランだった。
ここは幅広い年齢層に人気の三ツ星高級レストランでデートスポットとして名高い。
そう、彼は彼女に恋心を抱いていた。
それも顔がかっこいいという理由だけで話しかけてきた彼女に。
食事中は、新しいカフェのケーキがおいしかった など他愛のないことを話して楽しい時間を過ごした。
夕食を食べ終えた彼は彼女に誘われてカラオケへ行った。
「歌、うまいんだね!」
「そ、そうかな…笑」
褒められ恥ずかしく思った彼は照れ隠しにトイレに行くと伝えその場から離れた。
しばらくして気持ちが落ち着いてきた頃に部屋に戻ると彼女は満面の笑みで「おかえり!」と言ってくれた。
喉が渇いた彼は口にジュースを含ませ曲を入れる。
曲のイントロが流れ彼が歌おうとした瞬間急激な眠気が彼を襲い彼は膝から崩れ落ちた。
薄れゆく意識の中で彼女の方を見ると彼女は見たことのない顔で笑っていた。
そして彼女はこう言った。
「キミ、数回しか会ったことない人の事信用しすぎだよー。笑」
音と雫
「今まで騙しててごめん。実は私、人間じゃないの。」
「…え?」
驚いた。
あんなに今まで仲良く楽しく過ごしてきたし、どんなに悲しくても辛くても悲しみを共有して乗り越えてきた。
そんな彼女が人間じゃなかったなんて。
「…じゃあ君は一体何なんだい?」
「私は、人間に化けた竜なの。この世界の竜は人間に化けて安心させてから人間を食べなければならないの。この世界には私以外にもたくさんの竜がいるわ。みんなそうしてきたの。これが竜の生き方なのよ。私も最初はすぐ食べようと思ってた。でもあなたとの生活が楽しくてそんなことできなかった。あなたも知っている通り私はあなたに恋をしたの。」
「ああ、知ってるさ。僕もだよ。」
「愛している人を食べるなんてできなかった。でも竜は3年以内に人間を食べなければ死んでしまうの。そして今日はあなたと出会ってちょうど3年。あなたを食べなければいけないの。本当にごめんなさい。」
頭を下げる彼女を見て少ししてから彼は口を開いた。
「僕は君に食べられるのは構わないよ。君のためなら喜んで食べられるさ。」
「…本当?本当にいいの?私が食べたらあなたは死んでしまうのよ?」
「…いいさ。だって僕は君を愛しているんだもの。愛する人に食べられて死ぬだなんて僕は世界で一番幸せな男だよ。」
「あなた…」
泣き崩れる彼女を見る彼は少し笑っていた。
しばらくしてあたりに咀嚼音が響いた。
それと一緒に竜の鳴き声も。
苹果
紅白 悩んだ
目が覚めるとあたりは薄暗く、私が最も嫌う音が狭い空間に鳴り響いていた。
少し前まで視界は真っ茶色でガサガサと紙の音を立てていたのになぜ今私はこんなところにいるんだろう。
しばらくするとドアの向こうからコツコツと足音が聞こえドアが開いた。
白髪で顔には無数のしわがあり、フードがついたマントを身に纏っていた。
老婆は近くの棚から分厚い本を取り出し、小瓶に入っていた粉や液体、よくわからない固形物をぐつぐつとした鍋に入れていった。
そして私をじろっと見てから私の頭をしわがれた手でがしっと掴み鍋の中に放り入れた。
一瞬の痛みを感じた後私は意識を失った。
老婆が鍋を大きなへらでかき混ぜるとあたりには毒々しいにおいが広がった。
既読無視
彼に手料理を振舞った。
彼はありがとうと言った。
彼に腕時計をあげた。
彼はありがとうと言った。
彼を映画に連れて行った。
彼はありがとうと言った。
彼にお小遣いをあげた。
彼はありがとうと言った。
彼を職場まで送ってあげた。
彼はありがとうと言った。
彼を殺した。
彼はありがとうとは言わなかった。
先生
先生が結婚した。
悲しかった。
私は生徒ながら彼のことを愛していた。
彼に嫌われないよう提出物もきちんと出していたし荷物運びを手伝ったりもしていた。
テストも常に学年トップだった。
少なくともほかの生徒よりは好かれていて信頼もあったはずだ。
私が一番だと思っていた。
学校の人以外と結婚するということは考えていなかった。
忘れていた。
彼は学校にいる人と結婚するわけでもなくほかの会社に勤めている人と結婚した。
今考えれば当たり前のことだった。
でも生徒とは結婚できないにしても私が高校を卒業するまで待つとかせめて学校の先生とか私の知ってる人と結婚してほしかった。
私が知らない人と先生が一緒になるなんて考えられなかった。
考えるだけで吐き気がした。
悲しかった。
怒りの感情が腹の底からこみ上げてきた。
少しして先生は育休のため学校を休んだ。
男なんだから休まなくてもいいじゃんと思ったがそこそこの稼ぎがあったらしく彼は休んだ。
無理だった。
何か月も会えなくなるだなんて耐えられなかった。
彼女は人生で一度も振られたことがなかった。
顔が良く学校ではモテる方で月に一度は必ず誰かから告白されていた。
それぐらい、彼女はモテていた。
彼女から告白すれば断る人なんていなかった。
彼女がこれほしいと男子に頼めば何でも手に入れることができた。
手に入らないものは先生が初めてだった。
私は先生をこの世の誰よりも愛していた。
先生がこんな完璧な私以外の人と幸せになるなんて許せなかったしありえなかった。
ただただ悲しかった。
初めて手に入らない感覚を知った。
それからというもの彼女は学校に行かずに引きこもるようになった。
そして何週間か経った後彼女は死んだ。
自殺した。
弟
弟が動いた。
驚いた。
怖かった。
意味が分からなかった。
彼は生まれたての小鹿のように立ち上がりじろりとこちらを睨んだ。
「…なんで、殺したはずなのに!」
男は弟を憎んでいた。
勉強もできて運動もできる彼にうんざりしていた。
なぜ弟はできて俺はできないのかと。
そして男は弟を殺した。
バットで殴りまくった。
日ごろの恨みを込めて。
何発か殴ると弟は倒れて動かなくなった。
ほっとした男はあたりを片付け証拠隠滅作業をしていた。
すると背後から物音がし、驚いて振り返るとそこには殺したはずの弟が立っていた。
手には俺が弟を殺すのに使ったバットがあった。
「な、なんでお前生きてるんだよ!!」
弟は一言も話さないままこちらに近づいてくる。
「や、やめろ!わ、悪かった、悪かったから!」
そんな男の声は弟の耳には届かず、弟はバットを振り下ろした。
最後の日
「…だってよ。」
彼はため息をつきながらリモコンを手に取りテレビをつけ、頭の中をきれいにしようとした。
しかしそんな彼の考えは甘く、かえって彼の頭にそれを刻み込んだ。
明日地球に隕石が落ちるらしい。
現在時刻は21時。
地球滅亡まで残り3時間だ。
皆財産を使い果たそうと物を爆買いし、テレビなどの報道機関は今までにないほど忙しく、どのチャンネルもその話題で持ちきりだった。
そしてSNSが普及した今、案の定ネットにはデマ情報が流れた。
隕石は明日ではなく今日落ちてくると言う者、そもそも隕石など落ちてこないと言う者が現れ、さらには公道を全裸で歩くものまでもが現れた。
こうして世界は混乱に陥った。
しかしあるカップルは違った。
隕石が落ちてくることに関心がないらしく普段と同じ怠惰な生活を送っていた。
少し顔色が悪いことと、動きが鈍いこと以外は何も変わらなかった。
特にデートをするわけでもなく、ただソファに寝転がってゲームをしたりしていた。
どこへ行っても人だらけで外に出る気力が起きないのもその原因の一つかもしれないが、一番はやはり世界に関心がないことだった。
少し時間が経ち、地球滅亡まで残り1時間になると二人はようやく動きだし、最後の食事をしようと料理の準備をした。
最後の食事は二人の好きなオムライスだった。
特に急ぐわけでもなく、彼らがいつも通りゆっくり料理をしていると時計の針は地球滅亡の10分前を指していた。
窓の外からはやはり人の騒ぎ声が聞こえてくる。
天と地の差だ。
二人は席に着きオムライスを口に入れた。
「…やっぱりオムライスはいつ食べてもおいしいね。」
「そうだな。」
気がつくと地球滅亡の二分前になっていた。
彼らは全く急ぐ素振りを見せずにオムライスを食べ続けた。
残り1分になり彼女はほほえみながら言った。
「好きだよ。ずっとずっと、これからも。また、天国で会えるといいね。」
「ああ。」
彼もまたほほえみながら言った。
そこには窓の外とは真逆の穏やかな空気が流れていた。
そして世界はだんだんと明るくなり、夜とは思えないほどの明るさになった。
そこには、綺麗な世界が広がっていた。
水葱
水葱は綺麗な女の子だった。
そして上品で誰に対しても優しかった。
要素が揃いに揃っているため案の定みんなから人気があり友達も多かった。
勉強もでき、運動もできた。
完璧な女の子だった。
彼女は休み時間によく本を読んでいた。
イメージ通りだった。
次の日は祝日で学校が休みだった。
複数人のクラスメイトが彼女を目にした。
あの美貌に綺麗な紫のドレスを身に纏っていてよく目立っていた。
すれ違う人すれ違う人が皆振り返って彼女を見た。
スタイルが良く少し巻かれた茶髪が紫のドレスとよく合っていた。
彼女の隣には金髪で背の高い男が立っていて楽しそうに話している。
クラスメイトは驚いた。
翌日、学校に行くと彼女はまだ来ていなかった。
少しすると先生が教室に入ってきて朝のホームルームが始まった。
彼女は今日は休みだと伝えられた。
そして彼女はもうこの学校には来ないことも伝えられた。
クラスメイトは驚いた。
もしかしたら彼女はクラスメイトに見られていることに気づいていたのかもしれない。
彼らは見てはいけないものを見てしまったようだった。
サイン
「サインください」
「え?」
「サインください」
「え?いや俺何もやってないですよ?」
「いいからサインください」
「え…」
俺は困惑しながらも渡された色紙にサインをした。
後日、だらだらとフリマサイトを見ていると俺のサインがかかれた色紙が出品されていた。
そこには、「チー牛のサイン」と書かれていた。
2000円で買われていた。
つまらない
クローバー
この世界では、かかると死ぬ病が流行した。
この国にははまだ感染者はいなかったが、他国では何万人もの人がその病によって命を奪われていた。
私には愛する彼女がいた。
髪は長くウルフカットで、左耳の上には黒いヘアピンをつけていた。
目はぱっちりとしていてかわいかった。
ある日一緒に帰ると、彼女は声がガラガラになっており少し苦しそうにしていた。
彼女は、「明日学校休むかも」と言っていた。
次の日、彼女は学校に来なかった。
彼女からの連絡によると症状が悪化したようだった。
数日後、彼女が死んだとの連絡が来た。
今まであんなに話していたのにと信じられなかった。
これも全部夢なんだと思い込み頬を叩くが、しっかり痛く、頬が微かに赤くなった。
私は、学校に行かなくなった。
数日後、私も彼女と同じ症状が出始めた。
喉の痛み、吐き気、頭痛。
あの日うつってしまったのかもしれなかった。
翌日にはさらに症状が悪化し、ベッドから起き上がることもできなくなった。
天井を見上げると、相変わらず少し黒ずんでおり、少しばかりある黒い点やシミらしきものを見つめる。
別にこれでよかった。
そう思っていたが彼女の視界はみるみるぼやけていく。
天国に行ったら、彼女に会えるといいな。
そう思い、目を瞑る。
彼女は、夢の中で白い狼を見た。
その狼はクローバーに囲まれ、こちらを優しい眼差しで見つめていた。
あ
「あの子なんなの」とかいう声はどうでもよくて
でも少し気にして
勝手に落ち込んで勝手に疲れてる
聞こうなんて思ってもないのに勝手に聞こえてきて
耳は聞くのをやめない
あの子なら助けてくれるかもと希望を抱いても
そんなことはなくて
誰も助けてなんかくれなくて
孤独な世界を一人寂しく生きていく