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目次
序幕
あの日、医師に『心臓病』と告げられた13年前の時から、私は独り、白く揺れるカーテンとそこから見える景色しかない病室にいる。
普通と違う心臓と、何回も手術した体のせいで私の体は脆く、外なんて身に覚えがある時にはほとんど行っていない。
大人になるまでに心臓の鼓動が止まってしまうらしい。
それならせめて、まだ生きている今、この寂しさから抜け出したい。
沢山お友達を作って、沢山話して、今までがなかったかのような充実した気分で逝きたいなあ。
そんな事をいつも考えて、暇をつぶす。
でも、今日はそんなに暇にはならなかった。
スライドドアが開く音がして、私はそちらに振り向く。
そこに居たのは、担当看護師さんの厚四さん。
「萌歩ちゃん、あのね、隣に新しく此処に入院して来た子がいるの。萌歩ちゃんと同じような患者さん。良ければ仲良くしてくれないかな?」
いつもの日常と、変わったような気がした。
両親だけじゃなく、他の子ともこれから過ごせることが、何より嬉しかった。
かいたび 1
https://solispia.com/novel/6407
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「こっちこっち」
厚四さんがそう呼んだ後、横から黒髪の大人っぽい女の子が、深緑色の目を開いてやって来た。
「初めまして。わたしは稲葉雪。よろしくね」
「鶴来萌歩です。よ、よろしくお願いします…」
あまりにも大人気あって綺麗な人に見えたので、変な緊張感が言葉を詰まらす。
見た感じは私の1つか2つ下に見える。けれど、どうしても口調や笑みで自分よりも年上なんじゃないかと思ってしまう。
「最近は、どこの病院も空いて無くてね。もしかしたら、雪ちゃん以外の子も来るかもしれないけど、仲良くしてあげてね」
「はい!それは勿論です!」
厚四さんが手を振って部屋から出ていくと、私は念願の友達に嬉しくなり、横に
座って良いよと声を掛けた。
雪ちゃんは小さくお辞儀をしながら隣に座った。
「ねぇ、雪ちゃんは何をするのが好き?」
「私は……絵を描いたり、曲を聞いたりするのが好きなの。えっと、萌歩さんは?」
「んー私も絵を描くのが好きなんだ。ここから見える景色を描くの」
光が差し込み、風が入ってカーテンが揺れる。「絵のジャンルが違うかもだけど。っていうか、萌歩でいいよ!私も雪って呼ぶから!」そう言いながら、この部屋でたった1つの窓に指を指した。「わかった。じゃあ、萌歩って言うね。」と笑顔で雪は返す。続けて雪は呟いた。
「この窓……綺麗。窓から見える景色以外、何か描かないの?」
「残念だけど、私はこの窓からの景色しか描かないって約束したんだ」
雪は「どうして?」と言うかのように不思議そうに首を傾げる。
私はもう一度窓の方を見て、こう言った。
「あの人が、私の分まで幸せになってほしいから」
『萌歩、またあそこの景色描いてるの?』
『うん。というか、ここからじゃ他に描くものなんてないからね』
『んーじゃあ、俺を描いてよ!』
『え、■■を?』
『あぁ。俺がいる間、ずっと俺を描いてほしい』
『じゃあ、もし■■が退院したら?』
『そのときは、またこの窓から見える景色を描いて。そして、俺を忘れないように今まで描いた俺を見ていてよ』
『何それ、自画自賛?ナルシスト?』
『そうじゃねーけど、ずっと俺を描いていたってどうせ飽きてくるんだろ?窓もそうだ。だから、一旦窓は休憩して、俺を描いて。俺と離れたら、きっとその頃には俺を描くのも飽きてるはずだから、また窓を描く』
『なんかよく分からないけど、わかった。■■が退院した後に描く窓は、■■が私の分まで幸せになれるようにと想って描くよ』
『それもよく分かんないな』
『えー?折角…………』
そうだ、■■は、今も元気に過ごしているかな。
手紙、全然来ないけど。
「萌歩どうしたの?」
いつの間にか、昔の事を思い出していた。
2人だけでも、とても楽しかったあの頃。もう、戻っては来ない。
「ごめん。何でもないよ。……じゃあ、雪はどんな絵を____。」
https://tanpen.net/novel/8af7d138-e994-4391-bb7c-122104b9db96/
今回登場したのはミニ海月さんの稲葉雪さんです。詳細は上のリンクをご覧ください!