ミリアーナは公爵家の令嬢。
長年婚約していたシェイとの関係が、父親同士の政治的思惑によって突然破棄されてしまう。
ショックを受けたミリアーナだったが、側仕えのリリに支えられ、
「もう誰かに選ばれる人生は嫌。自分で未来を選ぶ」と決意。
そこでなぜか方向を間違えて――
「魔王と結婚する!」
と宣言し、家を抜け出すことに。
途中、奴隷商で出会ったエルフの少女ネオを買い取り、仲間に加える。
ネオは実は高い身体能力を持つが臆病で、ミリアーナに振り回されがち。
ミリアーナは昔拾った双子のフェンリルを従魔にしており、実はレベルも魔力量も規格外。
彼女自身はあまり自覚していない。
旅の途中、ミリアーナ・ネオ・リリの3人はダンジョンに挑む。
そこでネオの成長や、ミリアーナの派手な戦いぶりが見られた。
さらに合流するのが、ミリアーナの親友・ルシア。
水色髪の理性的な少女で、昔ミリアーナと庭園で出会って以来の大親友。
ミリアーナの無茶やネオの暴走をまとめる“拍子”のような存在。
合流後は四人で旅を続けることに。
休憩中の会話では、ネオが「ルシアとミリアーナは“つよつよコンビ”」と言い出し、二人が慌てたり照れたりする騒がしいひと幕も。
そこにリリが戻ってきて、冒険は再び道を進む。
――――――――――――――――
「ほら、休憩はここまでにしましょう」
「そうね! 魔王城までまだまだ道のりは長いわよ~!」
四人と二匹の冒険はにぎやかに続いていく。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
1 婚約破棄
「シェイが、婚約破棄したですって?」
私はショックで顔を青ざめていた。
今日の朝、父上から呼び出しを受け、「シェイとミリアーナの婚約破棄が決まった」と言われたのだ。
「ああ、そうだ」
「そんなはず……ないわ」
私は胸の前で小さく手を握る。
だって、あんなに優しくしてくれたじゃない。
いろいろなところに連れて行ってもらって、婚約指輪だってくれたじゃない!
「シェイも、了承しているの……?」
「シェイが決めた」
「そんなはずないわ!」
私は父上の言葉にかっとなり、声を荒げる。
「お嬢様」
隣で見ていたお付きのメイド、リリが私の背中をなでる。
「……確かに、シェイは望んでいなかったかもしれない」
「なら、なぜ!?」
「お嬢様」
ついついかっとなってしまう私をなだめながらリリは目を伏せる。
「……私たちがお前たちの婚約の解消を望んだからだ」
「……っ!」
どういうこと?!
ぐわんと頭に衝撃が走り立っていられなくなる。
そんな姿を見て父上はあざ笑うかのように付け足した。
「確かに、シェイはお前のことをよく愛していた」
「父上が決めたの? シェイのお義父様は!?」
「ああ、彼も望んでいた」
なんで、という言葉がのどにせまる。
でも、私はわかっていた。
私の家、フラーゼ家は最も王族に近い血筋の公爵家だった。
そして、シェイの家は二番目に近い血筋。
つまり、私の父上は私が王妃になることを望んでいて、シェイの父上は今の王家の長女、イザベラを婚約者にしようとしている。
「……そんなっ……!」
私は目の淵に涙を浮かべたまま父上の部屋を出た。
2 胸の痛み
バタン!
私は勢いよく自分の部屋のドアを閉めると、ベッドの上に横になった。
結局、結婚できなかったし、甘い時間も大して過ごしていないし。
何も考えずに寝ていたけれど、ここで二人で寝ていた時は幸せな時間だったんだろう。
つつー、と鼻のほうに涙が垂れていく。
その時、コンコン、とドアが叩かれ誰かが部屋の中に入ってくる。
「お嬢様」
リリは私の頭の方に座ると持ってきたお盆を膝の上において、目を伏せながら言った。
「主の」
「父上の話はあまりしてほしくないの」
私がそう言うと彼女はベッドに近くに椅子を置き、その上にお菓子や果物や飲み物が置いてあるお盆を置く。
私がむくっと起き上がるとリリはそっと私の肩に毛布をかけてくれた。
そして、穏やかな声で言った。
「お嬢様、ご気分はいかがですか? 少しでも、お菓子を召し上がれば気が紛れるかと……」
私は視線を落とし、お盆の上に整然と並べられたお菓子や果物を見る。
リリの思いやりが伝わってきて、少しだけ心がやわらぐのを感じた。
「ありがとう、リリ。……でも、まだ胸が苦しいの」
私がそう答えると、リリは私の手をそっと握った。
「お嬢様、私はずっとおそばにいます。たとえ皆が背を向けても、私だけは、お嬢様の味方です」
その言葉に、ぽたりと涙がこぼれ落ちる。リリの優しさに、どれだけ救われてきたことか。
「……ねえ、リリ。私はシェイにとって、何だったのかしら」
リリは答えに迷うように視線を揺らしたが、やがて静かに言った。
「それを決められるのは、きっとシェイ様ご自身です。でも――お嬢様がシェイ様を大切に思っていたこと、それは誰よりも深く、強かったと思います」
私はただ、うなずくことしかできなかった。
3 優しすぎるわ
「……ねえ、リリ。私、これからどうしたらいいのかしら」
リリは少しの間だけ黙り、そっと私の髪を撫でながら微笑んだ。
「お嬢様が何を望むのか、ゆっくり考えればよろしいかと。焦る必要はございませんわ」
「でも……このままじゃ、気持ちのやり場がなくて……」
「ですからこそ、お嬢様にふさわしい未来を、ご自身の手で選んでいただきたいのです」
その言葉はまるで、重たい霧の中に差し込む一筋の光のようだった。
たしかに、私は誰かに選ばれるのを待ってばかりいたかもしれない。
「……リリ。私、ちょっとだけ歩きたいわ」
「かしこまりました。支度を整えてまいります」
リリは立ち上がると、手早く外出のための羽織を用意してくれた。私はその間にゆっくりと立ち上がり、鏡の前に立つ。
「私も、愛しているわ」
リリに聞こえないような小さな声で心を込めてそう言った。
もしかしたら、聞こえていたかもしれないけれど、リリは気にかけないでいてくれた。
外に出ると、私たちの婚約破棄のうわさが村中に広がっていた。
「ミリアーナ様よっ!」
「ミリアーナ様!」
「婚約破棄されたの?」
「シェイ様が悪いの?」
子供たちが私たちのところに集まってくる。
親はにっこり微笑んでいる人も少しはいたが、私の心を気遣ってか、「こら」と戻す人が多かった。
「いいんですよ。……あのね、シェイは悪くないわ?」
「そうなの!?」
「ままー、お話聞きたいー!」
私は近くのベンチのところに座ると子供たちが戯れてくる。
「私のお父様が勝手に決めちゃったことなの」
「ミリアーナ様はシェイ様のこと、まだ好き?」
一人の子供が私に質問してくる。
私は少し迷ってからこくりとうなづいた。
「ええ。愛しているわ」
婚約が解消されたのに、と思った親も多かったかもしれない。
でもこんな小さい子たちになら本音を言えると思った。
子供たちは目を丸くしていたが、一人の女の子がにっこりと笑っていった。
「ミリアーナ様みたいにかっこいい人になりたい!」
かっこいいかしら、と少し困りながら私はにっこりとほほ笑んだ。
4 笑ってないわ
私がベンチから立ち上がると、子供たちはわらわらとそれぞれのお店に戻っていった。
「お嬢様はやはり、気がお強いのですね」
「そんなのことはないわ。私、笑えないんだもの」
リリははっとしたような顔をして、ぺこりとお辞儀をする。
「すみませんっ!」
「えっと……どうしたの?」
私はリリを連れて町の中へ入った。
町の中は私の心とは裏腹にワイワイとしていて、気分が少しほぐれる。
こんな時にシェイとか殿下が来たらな、と思うと背筋がぞっとする。
「何か欲しいものとか、ある?」
私がリリに聞くと彼女はほっとしたような顔をして、「はい!」と答えた。
「言いにくいんですけど……」
彼女はそう言って私の耳に口を近づける。
「正直言って、今のメイドと執事の人数じゃ、仕事が終わらないんです。人数が少なすぎて」
「えっ」
メイドと執事はこれでも多いほうなんだけど……。
それでも王宮と比べたら比にもならないわ。
「奴隷でも買うことにしましょう」
なんでもお金で手に入っちゃうから貴族はいいのだけど、嫌なのよね。
私たちが奴隷店に入ると強烈な殺気を感じた。
あら、私たちが助けてあげると言っているのだから少しはおとなしくすればいいのに。
「どうぞ」
犯罪奴隷ではない、貧しくて自分を売っている奴隷の方に行く。
「リリが決めていいわよ」
「え、じゃあ……。この中で家事が得意な人を鑑定させていただきます」
リリがそういうと大半が手を挙げる。
連れて行ってもらいたいだけね。
リリはそれでも懲りずに一人ひとり鑑定していった。
でも私の場合見ればわかる。
一番家事ができそうな人は、私に一番近い手前のエルフの女の子。
水色のストレート髪でちゃんと整えたら絵になりそうだわ。
でも、メイドとしていやっていくには品が足りないし、何より年が低すぎるわ。
目からも強烈な殺気を感じるし……。
リリはこの子が一番使えるとわかってもほかの人を選びそうね。
私は私で勝手に買っちゃおうかしら。
「ねえねえ、あなた、なんていう名前なの?」
私が彼女に話しかけると彼女は小さな声で答えた。
「ネオ」
「ネオっていうのね。苗字は? ないなんて言わせないわよ」
いかにも悪役令嬢の発言だわ。
本当に私、聖女としてやっていけるのかしら。
「ない」
「ないなんて言わせないわよ」
私は暗い笑みを見せる。
「……前は、フィバレットだった」
「そう。じゃああなたの名前はネオ・フィバレットね。……よろしく、ネオ」
「私のことを買うの?」
「ええ、そうよ」
私は牢に貼ってある値段表を見てぎょっとする。
「あなた、安いわね」
「子供だし、犯罪奴隷の女と犯罪奴隷の男の娘だから」
「あら、そう」
私は店主から鍵を受け取ると、ガチャリと牢を開ける。
「よろしくねっ……危ないわね」
私が手を出した途端彼女は隠し持っていたナイフで私のことを殺そうとする。
この子、本気だわ。
「お嬢様!」
「こっちは魔法が使えるのよ」
拘束魔法で彼女を捕まえるとナイフを奪い取る。
「んーっ、ん"!」
「あなた、犯罪奴隷になりたいの?」
5 奴隷ちゃん
「あなた、犯罪奴隷になりたいの?」
私が彼女を見下ろしながら言うと、彼女は苦しそうな顔をしながら言った。
「私は……いざと……なったら……暴力を……しろと教育……された」
「あなたの両親はどこにいるの? ちゃんとした教育をしなくちゃ」
私が暗い笑みで首をぱきっと鳴らすとネオは少しおびえた目と、震えた声をしていった。
「それ……でも私は……お父さんとお母さんが好き……犯罪者……だけど」
私が拘束魔法をとくと、彼女は諦めた顔をしてゆっくりと立ち上がった。
牢の中では暗くてわかりにくかったけれど、結構な美形ね。
「それっぽいわ」
私が皮肉を込めて言うと彼女は殺意のこもった目でぎっと私を睨んだ。
リリは私が勝つことを知っていてもなお、こちらのほうを心配そうに見つめている。
彼女は彼女で新しく引き取る奴隷を決めたようだ。
まあ、こっちの家に来たら大体の奴隷の奴隷認証の首輪を取ってあげるんだけどね。
でも、ネオの奴隷認証の首輪を取ったら暴れそうだし、何より彼女の身体に傷をつけてしまうかもしれない。
万が一ネオが私の家から出て行ってほかの奴隷商人などに買われたりしたときには最悪だわ。
「あなたはどこでその高い身体能力を身に着けたの?」
私は店主の方にお金を渡し、ネオに奴隷認証の首輪をつけながら聞いた。
「お母さんもお父さんも何百回も犯罪を犯し、人を殺した人だ。その子供の身体能力が高くても違和感はないでしょ」
「それにしてもすごすぎるわ」
「……小さいころ二人に教えてもらった。私が好きだったのはバク転」
あら、身体能力が高いわりにバク転が好きとかかわいいこと言っちゃうのね。
「本当に私を買うの」
「ええ。…__任務に使えそうだし__」
私は誰にも聞こえないような声でつぶやいた。
私たちが家に戻り、私の部屋に行くまでの間に、私は父上の姿を見てしまった。
その瞬間この家に私の居場所はないことをふと思い出してしまった。
私もシェイと婚約破棄されるぐらいだったら聖女になんてなりたくないわよ。
6 家から出るか
登場人物
ミリアーナ・フラーゼ:聖女の任務を与えられた公爵令嬢。聖女は王子と婚約しなければならないという法則に従わず、公爵のシェイと婚約をしていたが、父親に二人の婚約を解消された。
シェイ・レッドガルド:ミリアーナの元婚約者。
リアム・アッシュ:アッシュ国の第一王子。
イザベラ・アッシュ:王族アッシュ家の長女。リアムの妹。
「私、全属性魔法を使えるようになりたいのよね」
私は自分の部屋に戻り、リリにそう相談した。
この世界には五大魔法の水、炎、雷、土、風がある。
これは基本の属性で、そこから派生した魔法は、水魔法から派生した魔法の属性は、氷属性魔法、炎属性魔法から派生した魔法は毒属性魔法、そしてその毒属性魔法から派生した魔法が闇属性魔法だ。雷属性魔法から派生したのが、光属性魔法で、闇属性魔法と融合することで魔界と天界ができた。そしてその境目がこの地上だ。それは置いておいて。土属性魔法単体から派生した魔法はなく、風属性魔法と融合することで派生したのは、音属性魔法だ。
つまり、この世界にある魔法の属性は、水、炎、雷、土、風、氷、毒、闇、光、音属性魔法の全10種類だ。
そして人間が生まれ持った才能として、スキルがあり、スキルには数えきれないほどの量がある。
今だって新しいスキルが発見されているのかもしれないのだから。
私のスキルは、鑑定スキルと、感情移入のスキルだ。
また、10歳から与えられるスキル、又の名を「ギフト」というものもある。
それは職業のようなもので、私のギフトは「聖女」だった。
「それはいいのではないでしょうか。お嬢様は何の属性の魔法が使えるのです?」
リリにとっさに聞かれ、覚えていなかったっけ、と少し疑問に思う。
「水、炎、雷、土、風……闇、光……だけ」
「新たに光属性魔法が使えるようになったのですね」
覚えてはいたけれど、何を使えるようになったのか聞きたかったのか。
「うん」
「では今お嬢様が使えない魔法属性は、氷、毒、音……ですか」
「うん」
「私の属性は水と音……。では氷魔法は二人で頑張ればできるかもしれませんね!」
「うん」
リリ、ごめんなさい。
あなたの話には何というか|間《ま》がなくて……。
リアクションする暇がないのよ。
リリに手を引かれ私は頷くが儘に庭に出た。
ちゃんとネオもついていて少し感心よ、私。
7 奴隷が優秀すぎる
「音魔法からお教えいたしますね。音魔法は主に振動の魔法です。音魔法を使うときは空気が震えるイメージをします」
空気が震える……ね。
大太鼓を叩いたら蠟燭が消える的なやつかしら。
「魔力の中心部分は心臓です。そこから魔力とともに体の中を振動が通っていく感じです。手の中に魔力を流し込み終わったら、その振動とともに音として魔法を変換します」
う~ん、言いたいことはわかるんだけど、難しいわね。
魔力の中心部分が心臓ってことは知っている。
「魔力とともに体の中を振動が通っていく?」
私が思っていた質問をネオがトンボ返しにする。
「では少し見ていてください」
リリはそういうと、手を胸の前に当てる。
手の中からオレンジ色の光がぽわっとあたりに広がる。
それと同時に温かみのある音楽が私の鼓膜を揺さぶった。
「これは、音魔法の中でも高度な魔法です。自分の魔力を振動に変えて、その振動の種類を変え、音楽を奏でます」
なるほど。
つまり音魔法はすべてイメージってことね。
「じゃあ、真空だったら音魔法は使えないのかしら」
「……どうでしょうね?」
リリは少し含みのある答え方をした。
何よ、ちゃんと教えてくれたっていいじゃない。
「確かに、音は真空では伝わらない。でも魔法だから、イメージだから、どうにかなるのかな」
「魔法をなめちゃだめよ、イメージっていうけど相当難しいわよ」
「……そうなんだ」
リリの話や私の疑問をちゃんと受け取ってまじめに考えてくれていることがネオから伝わってくる。
「でも、正直魔法イコールイメージっていう概念は正しいですよね」
リリはにっこりとほほ笑んだ。
8 頭がいいのかしら
リリの説明からするに、音魔法はイメージとか感覚という点が多いようね。
「やってみるわ」
私は手に力を込める。
イメージ……。
心臓から魔力が出るところまではわかるのよね。
その魔力に振動を足す……。
魔力は細い糸だという仮定があるから、その糸を揺らすイメージでいいのかしら?
振動を細かく、細かくする。
振動が音になるぐらいに。
超音波のイメージをしながら魔力を少しずつ手の方に押し出していく。
**キーン**
「うるさっ」
うるさかったけれど、私の手から超音波が出ているのだから耳を塞げないわ。
魔力をしまい込むとほっと安心感に包まれる。
「超音波でも出そうとした? 蝙蝠でも目指してるの」
「違うわよ」
ネオの皮肉にむっとほおを膨らませる。
ふと、超音波を出そうとしたのなら聞こえるはずないわ、と思った。
……下手くそね。使えたけれど。
「使えたから下手くそなものの、いいではないですか!」
リリがにこにこ笑顔で返す。
ディスらないでほしいわ。
ファンレターありがとうございます!
励みになります。
うれしっ
9 冒険にでるわよ①
※人が多くなってきたのと、前回の登場人物まとめでリリとネオを記載し忘れたので定期的に更新したいと思います。
登場人物
ミリアーナ・フラーゼ:聖女の任務を与えられた公爵令嬢。聖女は王子と婚約しなければならないという法則に従わず、公爵のシェイと婚約をしていたが、父親に二人の婚約を解消された。
シェイ・レッドガルド:ミリアーナの元婚約者。
リアム・アッシュ:アッシュ国の第一王子。
イザベラ・アッシュ:王族アッシュ家の長女。リアムの妹。
リリ・ミナンティオ:ミリアーナお付きのメイド。小さなころからミリアーナの母親のメイドとして働いていたため、フラーゼ家の主格のメイド。
ネオ・フィバレット:ミリアーナが奴隷市場で買った犯罪奴隷の子供。今は魔力や戦力を抑えられているため、反撃することはなく、ミリアーナの仲間になっている子供のメイド。
まえがきなのに長くなってすみません(._.)!
「そうだ、もう音魔法や氷魔法、毒魔法は使えなくても死にゃあしないから冒険に出ない?」
「なぜそのような発想に至るのでしょうか……?」「なんでそんな考えになったの」
ネオとリリがハモリながらそう言うのでえっと言葉が詰まる。
「シェイとの婚約がなくなったんだから、魔王と結婚しようと思って」
「「はい?」」
リリははぁーっと長い溜息をつきながら目を伏せる。
ちゃんとことばにしてくれないと私みたいな純粋聖女にはわからないわよ。
純粋で……単純で……鈍感だもの。
「私が一番愛していた|男《ひと》が|魔王《ファイナル》だからね」
「シェイ様以上に、ですか?」
リリが怪訝そうな顔をして私に聞く。
「さあ、どうかしらね」
いつもお世話になっております!
これからもよろしくお願いします!
登場人物的にみんなは誰が好きなのかな……?
(素朴な疑問です)
S1 番外編
婚約を解消された朝、空はやけに晴れ渡っていた。
こんなに痛みの伴う結果なのに、雲一つない青空がひどく皮肉だった。
「シェイ様、本当にこれでよろしいのですか?」
執事の声が耳に届いても、シェイは応えずに窓の外を見つめていた。眼下には、風に揺れる花畑。その向こうに、もうすぐ忘れるべき女性――ミリアーナの面影がちらつく。
(俺は……あれほど彼女を愛していたのに)
それでも、王族の血筋に仕える者として、父の意志に背くことは許されない。「イザベラ姫との婚姻は家の繁栄と誇りのため」などという綺麗事の裏で、自分の人生が切り売りされていくような気がして、シェイはひとり部屋に立ち尽くしていた。
だがミリアーナの涙だけは、脳裏から離れない。あのとき、何も告げずに去った自分を、彼女はどれほど恨んだだろう。怒り? 憎しみ? それとも……
「――お嬢様はまだ、あなたを……」
あの家のメイド、リリがそっと言い残した言葉が胸を刺す。ミリアーナは、まだ自分を想ってくれているのか? そうだとしたら、せめて心から詫びるべきだったのではないか?
シェイは、机の上の指輪――彼女に贈った婚約の証に、そっと手を伸ばした。
(愛する者を守れなかった俺が、王族として何を誇れるのだろうか)
シェイを主人公に書いてみました!
バッドエンドでもいいんですけど、ミリアーナたちは結ばれてほしいっていう作者の思いがあるのです。
S2 番外編
もう、ミリアーナが何もしても……。
婚約者だったころには浮気といえた行為も。
もう彼女は俺のものではなくなった。
正直父親の権力を手に入れるために王妃と結婚するなどありえない。
彼女も同じことを考えている…………はず。
新しい王宮の回廊を歩くたびに、過去の記憶がふと蘇る。
手を取り合って未来を語った夜。
風にそよぐ花畑の中、何度も誓った永遠。
すべてが幻だったのか、それとも今もどこかに残っているのか――。
ふと、脳裏に彼女の笑顔が浮かんできた。
ミリアーナはいつでもどんな困難があろうとも乗り越えて見せるだろう。
シェイは足を止め、新しい王宮の石壁にそっと手をあてる。
冷たい感触が現実を思い出させる。
ここはもう、夢を語ったあの場所ではない。
そのとき、遠くから足音が響いた。石畳に反響する軽やかな音。
そのリズムは、かつてよく知っていた誰かの歩み。
「……シェイ」
振り返った先に、ミリアーナがいた。まるで時間だけが逆流したかのように、彼女はあの日と同じ微笑みを浮かべて。
「こんなところで、何をしてるの?」
そこで、すべては途切れた。
夢だったのか。
10 冒険にでるわよ②
「わかりました、わかりましたから、どういうスケジュールで魔王城に行くつまりですの?」
「ダンジョンクリアしながら向かうわ」
「は?」
ネオが目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。
「お嬢様ならやりかねないことですが、大丈夫です」
「どこが」
「私たちもついていけばいいだけの話ですかから」
リリは私のほうを見ながら、また大きなため息をついた。
本当、大げさだわ。
「わかったならさっさと荷物をまとめて! 私もう行くから」
「早い」
ネオはフラーゼ家に来た初日にフラーゼ家を出たのであった。
-----------------------------------------------------------------------
「ネオは一階層ぐらいの魔物なら倒せるかもしれないわね」
私を買った主人、ミリアーナが私の顔の高さに合わせて腰をかがませて言った。
「えっ。 私家事しかできないんだけど……」
「大丈夫だってば。さっきも強かったでしょ」
「弱いけど……女に負けたし」
私はぷいっとそっぽを向きながら言う。
「__それはお嬢様が強すぎるだけですよ__」
ミリアーナに聞こえないようにリリが私の耳元でささやく。
「ほら、こそこそしてないで、バレないうちに出るわよ」
「もう夜じゃん」
私はむっとして言い返す。
「夜だからでるのですよ、ネオ」
「夜逃げってこと? 謀反扱いになるよ」
私がリリに聞くとリリはにっこりとほほ笑んだ。
「お嬢様はそれをご承知なのですよ」
11 冒険にでるわよ③
「ねーえー準備終わった?」
「終わりましたよー。__続きは後でお話いたしますね__」
「え、あ、うん」
私は曖昧な笑みを浮かべ、リリとミリアーナについていく。
当分ここには帰ってこないだろう。
-----------------------------------------------------------------------
やっとこの家から抜け出せるわ。
私たちは家の裏口まで回り、そっと家を後にする。
すると、護衛が「誰だ!」と大声を上げた。
悪いけど、ここで止まるわけにはいかないわ。
最低限のダメージで済むように催眠術をそっとかける。
護衛が寝たのを確認して家の裏の森に入っていった。
「暗……。こんな森がひろがっているんだ」
「ええ。魔物も多いのよ。例えばフェンリルレベル1000」
「え」
ネオをいじるのは何よりも楽しいわ。
私はぱちんと指をならす。
「あら、噂をすれば影ね」
「はわわ……」
このフェンリルは私が小さいころに親を亡くしさまよっていたところを拾った双子のフェンリルだ。
「お嬢様」
「はいはい」
「……ふぇ?」
『ミリアーナ、どうかしたの?』
「いいえ?」
なにがなにやら、という顔でネオが私を見る。
「後で話すわ」
12 双子の神狼
前回分かりにくかったかもしれません!
ミリアーナが小さいころに拾ったフェンリルはミリアーナの従魔です。
で、ミリアーナはこの世界ではとてもつよーい魔法使いで、レベル上限の枠を越しているとかいうチート枠です。
それで、この、
「お嬢様」
「はいはい」
「……ふぇ?」
『ミリアーナ、どうかしたの?』
「いいえ?」
ていうのは、
「お嬢様」☞リリがたしなめている
「はいはい」☞それに対してミリアーナが答える
「……ふぇ?」☞理解していないネオ
『ミリアーナ、どうかしたの?』☞フェンリルの双子の姉フェン
「いいえ?」☞ミリアーナ
っていう感じです!
どうか読み取ってくれると幸い……。
「後で話すわ」
ぴしっと私の「常識」が割れた音がした気がした。
は? は? はぁぁぁ!?!?
たぶん、たぶん。
ミリアーナは今指を鳴らしたらフェンリルが出てきた。
つまり、このフェンリルはミリアーナの従魔で、そのフェンリルのレベルは1000!?
つまりミリアーナレベルは1000以上で??
え、それだとレベル上限越してませんか??
「ちょっと、どういう、こと」
深呼吸しながらミリアーナたちに聞く。
「この子たちは私が小さいころに迷子になっていたフェンリルよ。それで……」
「ちょっと待って。ミリアーナが小さいころ? それともその子たちが……」
「ああ、この子たちが、よ。そして……」
「あーちょっと待って。ミリアーナが小さいころに、フェンリルの子供を従魔にした……と」
「子供……なのかしらね。まあフェンリルの子供よね」
「えっと、それは、つまり……」
「今1000歳超えているのではないかしら」
ミリアーナの言葉を聞いてワウ、と黒い毛のフェンリルが呻く。
「あら、そうなの。この子たちもう1500歳なんだって」
「え」
ちょっと待って。
そのレベルのフェンリルだと全然レベル1500以上ですが。
「ミリアーナ、は、の、その時の、レベル、は?」
ちょっと噛んでしまったが、まあいい。
「うんーと。レベルカーストが10歳だから……」
ミリアーナは指を折り曲げて数え始める。
「……ん? あ? は?? ミリアーナは私より小さいころにレベル上限達してたってこと? 聞きたいことがいろいろあるんだけど……」
ミリアーナは私の言葉など何も聞かずに遮って、けろっとした顔で言った。
「ねね、聞いてほしいの。また壁が現れちゃってんの」
「え? 何の」
「レベルだわ。10歳の時、999行ってから11歳後半ぐらいで解放して、ぐんぐんレベル上げってたんだけど。今……ていうか1,2年前から? レベル9999でまた止まってしまったの」
「もうそれでいいじゃんか」
私が混乱してフラっとするとリリがそっと支えてくれた。
「……お嬢様。もうこの話はおしまいにいたしましょう」
「なぜ? ……ああ、そうね」
久しぶりの更新です!
ファンレターありがとございます!
⇓……よければお名前もどうぞ……⇓
13 いざ冒けn……て、え?
私が気付くともふもふしたものに包まれていた。
気持ちいなぁ……。
無意識に左向きに寝返りを打つ。
すると。
目の前には鋭い歯と赤黒い眼光が光っている。
**「ぎゃぁぁ!!!」**
私は毛から抜け出すとサササッとミリアーナの後ろに回り込む。
「起きたの? この子かわいいでしょう?」
ミリアーナが近寄って首元をなでると目が金色に代わった。
「……あ、カメレオンなのか。通りで色が変わる」
「はい? フェンリルだけど」
ミリアーナがすりすりと頬を“それ”にこすりつけた。
「かあいい~~! 私の子~~」
それと同時にフェンリルらしきものがグルルルと唸る。
「ひえっ」
私は短く叫び声をあげると、リリの背中に回り込んだ。
「なんで金色に目が変わったの?」
「気分が良くなったのよ。赤いときはほほえましい気分の時の目」
「変わんないじゃん」
私がむっとして言うと、リリがそっとつぶやいた。
__「まあ、ネオは子供らしいですからね」__
14 フェンリルが地味に怖くてぴえん
マジで更新遅くなってごめんなさい!
登場人物紹介します……(許して(。-人-。) ゴメンネ)
登場人物
ミリアーナ・フラーゼ:聖女の任務を与えられた公爵令嬢。聖女は王子と婚約しなければならないという法則に従わず、公爵のシェイと婚約をしていたが、父親に二人の婚約を解消された。
シェイ・レッドガルド:ミリアーナの元婚約者。
リアム・アッシュ:アッシュ国の第一王子。
イザベラ・アッシュ:王族アッシュ家の長女。リアムの妹。
リリ・ミナンティオ:ミリアーナお付きのメイド。小さなころからミリアーナの母親のメイドとして働いていたため、フラーゼ家の主格のメイド。
ネオ・フィバレット:ミリアーナが奴隷市場で買った犯罪奴隷の子供。今は魔力や戦力を抑えられているため、反撃することはなく、ミリアーナの仲間になっている子供のメイド。
※これからは気が向き更新なりそうです
まえがきなのに長くなってすみません(._.)!
「ふぁい? 子供らしいっつった? 子供じゃないですー」
「そういう言葉遣いはしてはいけません」
「ちょっと、話題変えないで」
「あ、ほら。フェンさんが構ってほしそうです」
そういうとリリは私のことを持ち上げて、ぐいっとフェンリルの目の前に持っていく。
**「ぎゃああああ!!!」**
目に涙を浮かべて叫ぶと、フェンリルは**うばふ**といった。
「そうよね~。怖がられたら悲しいわよね」
皮肉を込めてミリアーナが言うので、私はぶっさいくな顔のまま、「……ごめんね」といった。
「ネオうるさいわ。リルが出てきた」
そういうとミリアーナの後ろからフェンリルがぴょこりと飛び出す。
**「んわぁぁぁぁ!!!! てか全然静かだったじゃ~~ん!!!!」**
「そうかしら」
ミリアーナがカクッと首を斜めにするのと同時に**わふ~ん**とリルと呼ばれし方のフェンリルが吠える。
「も……やだ……」
私はそういうと視界がぼやけて意識が途切れていくのを感じた。
更新遅くなりました。
ごめんなさい!
S3 番外編
「ほわぁぁぁ~」
ぐぐっと私は腕を伸ばす。
今日も変わらない毎日が始まる。
------------------------------
「お嬢様。早くなさってください」
このメイドは私が小さいころから専属のメロディというメイドだ。
「わかってるよ~」
メロディに口答えしながら渋々着替える。
着替え終わり、メロディに手を引かれて廊下に出た。
メイドたちがこそこそと何かを話していたので、近くによって「何話してるのー?」と聞いた。
メイドはすこしうろたえてから、ゆっくりと話し出す。
「ミリアーナ様とシェイ様が……」
私はそこまで聞いて、すっと表情が消えていくのが分かった。
「……うん」
「……婚約解消なさったそうです」
私たちの間に沈黙が走った。
S4 番外編
「……そっかぁ。あんなにイチャイチャして自慢してきたのにね!」
私は元気を振り絞って言ったが、それが精一杯だった。
「……あ~あ。そっかー」
「お嬢様、大広間に参りましょう」
メロディが背を向けて歩き出す。
私もついていった。
ただ、朝食をとるために。
ただ、それだけのはずなのに、足取りは重かった。
大広間の扉を開けると、香ばしいパンの香りと、焼きたての肉の匂いが鼻をくすぐる。
銀器が並び、召使いたちが忙しなく動いている。
けれど、空気はどこかざわついていた。
「ミリアーナ様、もうご出発なさったそうですわ」
「ええ、今朝早くに。お付きの者も最小限で……」
「まさか魔王城へ向かうなんて……」
貴族たちの会話が耳に入る。
私は席につきながら、パンをちぎる手を止めた。
(……ほんとに行ったんだ)
ミリアーナは言っていた。
「魔王と結婚する」って。
冗談かと思っていたけど、あの子は本気だった。
「お嬢様、紅茶を」
「ありがとう」
メロディがそっとカップを置く。
私はそれを見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……ミリアーナ、ほんとに行っちゃったんだね」
メロディは静かにうなずいた。
「ええ。お嬢様が止めようとしていたことも、きっと伝わっていたと思います」
「止めてないよ。……止められなかっただけ」
私はカップを持ち上げ、口元に運ぶ。
紅茶の香りが広がるけれど、味はよくわからなかった。
(ミリアーナ。あんた、どこまで本気なの)
(魔王城なんて、行ってどうするつもりなの)
(……でも、あんたなら、きっとやり遂げるんだろうな)
私は静かにパンを口に運びながら、心の中で彼女の背中を見送った。
なんて。
私―――ルシアが思っている間のお話。
気がつくと、目の前には天井が広がっていて、ミリアーナとリリが心配そうに私の顔をのぞいていた。
「フェン達ってそんなに怖いのかしら」
「まあ、私もお嬢様がフェンリルを連れて帰ってきたときは腰抜かしましたけども」
「そうね……。リリが仰天したんだからね~」
「馬鹿にしないでください。本当に吃驚したんですよ。あれは驚愕モノです」
なんて、馬鹿なことを言ってる。
「あー、静かにしてよ」
「それは無理ね」
ミリアーナが肩をすくめて笑うと、私はむっとした顔で彼女を睨んだ。
「……フェンとリルは?」
「外で待機中です。ネオが気絶したので、ちょっと落ち込んでるみたいですよ」
とリリが言った。
私は上体を起こそうとして、頭がずきんと痛むのを感じて思わず顔をしかめた。
「……ああ、まだちょっとクラクラする」
「無理しないでください。ネオが目を覚ましたって伝えたら、きっと喜びますよ」
リリが優しく微笑む。
「それはちょっと……。微妙なラインだと思う。怖がって気絶なんてちょっとひどすぎたかも」
「それはそうね」
「お嬢様」
ミリアーナのことをリリがたしなめるのを見て、私は思わずフッと笑ってしまった。
「馬鹿にしてるの? ネオ」
「いや、そんなことはない」
私がきっぱりというとほぼ同時に、フェン(だと思う)が入ってきた。
ガッシャーン、とすごい音がしたのは気のせいだろう。
フェン(だと思う)は、私の近くまで来ると、ぺろぺろと顔を舐めて、**わふ**と吠えた。
でも、不思議とあまり怖さはなかった。
私がそっと触れると、彼女は微笑んだ―――ように見えた。
15 森の奥深くに何とフラーゼ家の別荘がありました。
ネオが起きてから丸一日が経った。
ここは私の家―――フラーゼ家の別荘の小屋。
つまり、メイド寮だ。
そして、お父様達が次別荘を訪れるのが―――来年のエイプリル。
あと約3カ月だ。
つまり、とてつもなく、ここは放置される。
「一応出よう。見つかったらまずい」
「……。う~ん、そうね。でましょうか!」
私は少し頷くと、ネオとリリの手を引いて別荘から出ることにした。
-----------------------
「これ、どこまで行くの?」
「まあ、もうじきつくわよ。ダンジョンも行きたいし……」
私がそう答えると、「つきましたよ」とリリが声をかける。
「え、ここ? 何もないけどっ……」
と、ネオが一歩踏み出した瞬間、ずるっと足を滑らせて、派手に転ぶ。
「わわっ、大丈夫?」
「あ……、ここが入り口だったんだ。地面濡れててぬかるんでる……。泥ついた」
それどころの騒ぎじゃないと思うんだけど……。
魔法で泥を落としてあげると、ネオは満足そうにした顔で、ダンジョンに入っていった。
私たちも続く。
「ねえ、リリ。ネオって意外に勇敢よね。私ならここに入っていく勇気はないわ」
「そうやって言っておいて、ミリアーナ様も入っているじゃないですか」
「……精神年齢が高いのかしら」
話題をそらしながらリリに問うてみる。
「そうですね……」
リリが真面目に話し出したので、無視しながらネオについていく。
「ネオ、待ってよ。このダンジョン全属性の魔物が出るから気を付けてね」
「あ、そう。……ねえ、見て、ミリアーナ。ほら、あそこに蝙蝠いるよ。でかいやつ」
「魔物だから気をつけなさいよ」
魔物、という単語が出た瞬間、ネオはぶるっと身震いさせた。
そういう反応が楽しくてかわいいから、ついついいじっちゃうのだけどね。
「あの魔物に嚙みつかれたら終わりよ。毒を注入されて、内臓から骨までドロドロになって……。最後は心臓と脳がはじけ飛んで死ぬわ」
「えっ。うそ」
ミリアーナがいれば大丈夫かな、と言いながら私とリリの間に挟まれてじっと蝙蝠を見ている。
「見てて」
私はそういうと、地面を強く蹴って一瞬で蝙蝠の目の前まで行く。
感情移入で恐怖の感情にさせた後、闇魔法で心臓を貫く。
魔物はギャアアアと悲鳴を上げると、ポトリ、と地面に落ちた。
というのを私は2秒で成し遂げる。
「えー、すご! ミリアーナ最強じゃん!」
「そんなことはないけど。あ、また来たよ」
「ミリアーナ全部倒しておいてね」
「私は機械じゃないのよ」
16 ダンジョン攻略1
そのままどんどん進んでいくと、「あら?」とリリが首を傾げた。
「な、なに……? めちゃめちゃ怖いんだけど」
「いや、最下層についただけでしょ」
「そうなのですが……。意外に弱めでしたね」
リリがそういったので、私はぎょっとしながら見た。
「え、強かったですか?」
「笑うな」
「まあ、ここまでで結構経験値溜まったでしょ? ネオそのままがんばれー!」
「えっ」
最後ってことは……。
ボス出てくるのでは!?!?
「ちょっと、ミリアーナも助けてよ~」
「……」
「聞いてる?」
「死にそうになったらね」
目に涙を浮かべながらずんずん前に進んでいくと、二人がこそこそ話しているのが聞こえる。
「何か文句でもある?」
「いや、そういいながら一番最初に言ってるのはネオだな~って! ね、リリ!」
「……まあ」
薄暗い通路の先に、ぽっかりと広い空間が開けていた。
足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。ひやりとした冷気が肌を撫で、背筋がぞくりと震えた。
「……ねえ、絶対なんかいるよね、これ」
私が小声で言うと、後ろの二人はまったく緊張感のない声で返してきた。
「まあ、ボス部屋って感じですね」
「ネオ、がんばれー。応援してるよ」
「応援じゃなくて援護してよ!」
二人の雰囲気に押し負かされないようきっぱりとして言う。
「ダイジョブだから! ほら、いって!」
「早くしてくださいってば。お嬢様は一人で攻略していたんですよ」
「ま???」
私はミリアーナを凝視しながら渋々中央へ向かう。
「ネオ、上、注意しなよ?」
「……上?」
バリバリ、という音がして、上から大きな物体が落ちてくる___。
17 ダンジョン攻略2
バリバリッ――!
天井の岩盤が砕け散り、粉塵が舞い上がる。
その中心から、黒い影がずしん、と床を揺らして着地した。
「ひっ……!」
思わず情けない声が漏れた。
ゆっくりと立ち上がったそれは、二メートルを優に超える巨体。
全身を覆う黒鉄の甲殻、赤く光る眼。
まるで悪夢をそのまま形にしたような魔物だった。
「……倒せる?」
後ろからミリアーナの、やけに冷静な感想が聞こえる。
「いやいやいや! 冷静すぎない!? これ絶対ボスだよ!?」
私が叫ぶと、リリがひょこっと顔を出した。
「うーん、見た目は強そうですけど……どうでしょうね?」
「どうでしょうね、じゃないよ!? 絶対強いよ!!」
「いやー。私たちは一撃必殺だからなぁ」
「一撃必殺って……それ、私には関係ないよね!? ねぇ!?」
私の悲鳴じみた訴えをよそに、黒鉄の巨体はぎしり、と首をこちらへ向けた。
赤い双眸が、まるで獲物を見つけた捕食者のようにぎらりと光る。
「うわ、完全にロックオンされてるじゃん……!」
次の瞬間、魔物の足元が爆ぜた。
巨体とは思えない速度で、まっすぐこちらへ突進してくる。
「ちょ、ちょっと待って待って待って!? 早い早い早い!!」
私は慌てて横へ飛び退く。
さっきまで立っていた場所に、魔物の拳が叩きつけられ、床石が砕け散った。
「ひぃぃぃぃ!! 当たったら死ぬやつ!!」
後ろから、のんきな声が飛んでくる。
「ネオ、がんばれー。避けるの上手くなったねー」
「褒めてる場合じゃないから!!」
リリがぽそっと呟く。
「でも、ネオ……そろそろ反撃しないと、体力持ちませんよ?」
「そんな冷静に言われても!! てかアンタたち防御魔法でさらっと受け流してんのちょーむかつくんだけど!!!!」
魔物が再び拳を振り上げる。
私は咄嗟に武器を構え、ぎゅっと目をつぶった。
「うわああああああああああああ!!」
ガキィィィンッ!!
衝撃が腕を通って全身に響く。
吹き飛ばされそうになりながらも、なんとか踏みとどまった。
「……え?」
自分でも驚くほど、ちゃんと受け止められていた。
「わあっ、やるじゃん、ネオ!」
「成長してますね!」
後ろの二人が、まるで観戦しているかのように拍手している。
「いや、助けて!? 今でしょ!? 今が助け時でしょ!!」
しかしミリアーナは、すっと目を細めて言った。
「……まだ大丈夫だって!」
「どこが!?!?」
その瞬間、魔物の甲殻が赤く脈動し始めた。
「え、ちょっと待って……これ、第二形態とかじゃないよね?」
リリがさらっと言う。
「たぶん、怒りましたね」
「たぶんじゃなくて確定でしょ!!」
魔物の口元がぱかりと開き、灼熱の光が集まり始める。
「え、これ……ビーム……?」
ミリアーナが頷く。
「大丈夫? 当たったら本当に死ぬよ~」
「は……? ちょっと待って!! 今やばいこと言わなかった????」
戦いながらのため、口調がつい乱暴になる。
「ねえ!!! これさ、来たらどうするの??」
「頑張ってよけて~!」
「お前マジで貴族?? 乱雑すぎんの!!」
「仕方ないよ~」
ミリアーナがけらけらしながら言う。
「あ、ネオ、攻撃来ますよ! ……あと、お嬢様も言ってあげてください。初心者なんですから」
「え、ごめん」
平謝りしてて笑いそうになったが、それどころじゃない。
18 ダンジョン攻略3
灼熱の光が、魔物の口腔で渦を巻く。
空気が焼けるような熱気が押し寄せ、頬に汗が滲んだ。
「やばい……!」
私は歯を食いしばり、足を踏み込む。逃げるか、攻めるか――一瞬の判断が命を分ける。
「ネオ、右へ!」
リリの鋭い声が飛ぶ。反射的に身体をひねった瞬間、灼熱の奔流が床を薙ぎ払った。
石畳が溶け、赤く灼ける。熱風が背中を焼き、息が詰まる。
「っ……危なっ!」
心臓が跳ねる。あと一歩遅れていたら、今頃灰になっていた。
「ネオ、今だよ」
ミリアーナの声が響く。
「ありがとうっ!!」
彼女らの声にひかれて、ロックオンが外されたのが狙い目。
「よいっしょ」
魔物の甲殻に手をつき、割れ目のもろいところに魔力をつぎ込む。
「……ここだ!」
私は全身の魔力をそこへ叩き込む。
青白い光が腕を駆け上がり、甲殻の隙間へと流れ込む。
轟音が響いた。
甲殻がひび割れ、赤い光が暴れ狂うように溢れ出す。
魔物が咆哮し、巨体を震わせた。
「ネオ、離れなさい!」
リリの声に反射的に飛び退く。次の瞬間、魔物の体内で爆発が起き、黒鉄の巨体が崩れ落ちた。
粉塵が舞い、視界が白く染まる。
耳鳴りの中、私は膝をつき、荒い息を吐いた。
「……終わった……?」
その瞬間今までの疲れと痛みが同時に襲い掛かり、その場で倒れてしまった。
19 ダンジョン攻略4
「おーい」
ぺちぺちと頬を叩かれ、むっとしながら起き上がる。
「あ、起きた! リリ、起きたよ~」
「おはようございます。ネオ、昨日はよく頑張りましたね」
「……」
「……覚えてない?」
うんうん、とうなづくと、ミリアーナが言った。
「ほら、昨日ダンジョンでボスに一人で戦ってたじゃない」
「……ああ! 思い出した!」
声を上げた瞬間、腕に鈍い痛みが走る。
昨日の戦いの代償だ。
「うっ」
「ほら、痛いなら寝てな」
ミリアーナがそっと布団をかけるのと同時に睡魔が襲ってくる。
――どれくらい眠っただろう。
目を覚ますと、窓の外は淡い朝の光に包まれていた。
ぼんやりとした視界に、リリの顔が飛び込んでくる。
「おはようございます。ご気分はいかがですか?」
「まあまあかな。べつに気にしなくて大丈夫だよ」
私がそう言い、起き上がると「嘘つきはドロボーの始まりだよっ!」とミリアーナがけらけらしながら言った。
「本当に元気だってば……っ」
「熱あるんだよ」
私が戸惑ってると、「多分戦いの後遺症だろうね」と、ミリアーナは軽い口調で言ったが、目つきだけはどこか真剣だった。
「後遺症……?」
思わず聞き返すと、リリがそっと椅子を引き寄せて座る。
「ネオ、昨日の魔力の使い方、少し無理がありました。甲殻の隙間に魔力を叩き込むなんて、本来は上級魔導士でも難しい方法なんですよ」
「えっ……そうなの?」
あんなの、勢いでやっただけなのに。
ミリアーナが肩をすくめる。
「自覚ないでしょ? だから熱が出てるのよ。魔力酔いみたいなもの」
魔力酔い。
聞いたことはある。
無理な魔法の行使をすると、身体がついていかず発熱したり頭痛になったりする、あれだ。
私が考え込むと、リリがそっと冷たい布を額に置いてくれた。
「魔力酔い……。それなら上級層で魔法を連発していたミリアーナはどうなの?」
「……ま。私は強いし。聞かないほうがいいよ」
「……?」
「まあ、今日はよく眠るべきです」
リリがそっと言ってくれたのをきっかけに私たちの会話は途切れる。
しかし、なぜミリアーナが強い理由を聞いてはいけないのだろう?
S5 番外編
昼前、魔導報を受け取った。
差出人はリリ。
ミリアーナの側仕え。
筆致は端正、言葉はやさしい。
ご安心ください。
道中順調。
新しい召使のネオは勇敢で、可愛いです。
お嬢様は元気です。
たぶん元気すぎます。
追伸:フェンとリルも元気です。
ルシア様もどうかお健やかに。
……ずるい。
「元気です」をこんなに重ねて、私の不安をほぐしてくるなんて。
胸の真ん中が、きゅっと鳴った。
安心して、悔しくて、置いていかれた気もして――でも嬉しい。忙しい感情。
「メロディ」
呼ぶと、いつものように三歩で現れる。うちの専属メイドは忍者なの?
「はい、お嬢様」
「支度を。軽装。走れるやつね」
「……承知しました。追いつくおつもりですね?」
「ちがうよ! ……ただ、散歩に行くだけ」
メロディは目を細めて微笑む。
完全にバレてる。
私は机にペンを走らせる。
返事は短く――いや、短いふりをして、要点は全部。
無茶したら叱るからね。
合流するよ。
砂糖漬けレモン持参。
追伸:フェンとリルは撫でさせて。
――ルシア
封をして、魔導報に結ぶ。
窓を開けると、軽やかな風が紙ごとさらっていった。
(待ってて、ミリアーナ)
今回は短いです。
ルシアと合流させます!!
S6 番外編
あの日の空は、妙に静かだった。
風もなく、雲もなく、ただただ――広すぎて、少しだけ寂しい。
私は「面倒な集まり」と父に呼ばれて、王都の貴族子女が集まる茶会に参加していた。
名ばかりの交流会。
本当は順位付けや見栄の張り合い。
私はそんな場が嫌いだった。
「ルシア様、次は東側の令嬢との――」
「行かない。喉が渇いた」
メロディのため息が背後で聞こえる。
何度も聞いた音。
歩き出した私は、庭園の端にある大木のそばに目を留めた。
庭園の端。
風に揺れる花の音だけが静かに聞こえる。
私はいつものように退屈したふりをして、こっそり抜け出しただけだった。
人付き合いは嫌いじゃないけれど、形式だけの会話は息が詰まる。
そんなときだった。
大きな木の陰に、ひとりの少女が座っていた。
黒髪が光を受けて、羽のように揺れている。
年は私と同じくらい……いや、少し幼く見えるかもしれない。
(こんな場所に誰かいるなんて珍しい)
声をかけるべきか迷っていたら、少女がぱっと顔を上げた。
「……あ。こんにちは」
柔らかい声。
驚くほどまっすぐな瞳。
私はとっさに背筋を伸ばす。
「……ごきげんよう。ここで何をしていらっしゃるのですか?」
少女は少し首を傾げ、小さく笑った。
「うーん……逃げてきました。あの場、息がつまるので」
(……この子、正直すぎない?)
普通、貴族の令嬢がそんな本音を初対面で言う?
私は思わず問い返す。
「逃げてきた……と?」
「はい。言ってしまいましたけど、嘘ではありませんから」
黒髪の少女はひょい、と立ち上がる。
スカートから葉っぱを払って、私に向き直る。
「あなたも……逃げてきたんですか?」
「っ……わ、わたくしは、散歩です」
「ふふっ。じゃあ、お仲間ですね」
この子は、なんでこんなに自然体なんだろう。
私は水色の髪をそっと耳にかけ直し、姿勢を整えた。
「……お名前をうかがっても?」
「ミリアーナ・フラーゼです。あなたは?」
(フラーゼ……あの、王族に次ぐ公爵家?)
肩書きを思い出した瞬間、全身が固くなる。
もっと丁寧にしておけばよかった……!
「ル、ルシア・エヴァレット、と申します」
深く礼をすると、ミリアーナは両手をぶんぶん振った。
「そんな、そんな! わたし、偉い人じゃないですよ?」
(いや、偉いでしょ……!)
思わず心の中で突っ込む。
けれど、ミリアーナは本当にそんなこと気にしていません、という顔だった。
「ルシア様の髪、きれいですね。水色、すごく好きです」
「えっ……あ、ありがとうございます」
初対面でそんな素直に褒める?
私は一瞬戸惑ったが、嫌な気持ちは全くなかった。
ミリアーナは続ける。
「ここ、座ってもよろしいですか?」
「もちろん……どうぞ」
彼女が私の横に腰かけると、不思議なくらい空気が柔らかくなる。
鳥のさえずりが近くで聞こえ、木漏れ日が揺れた。
ふと、ミリアーナが空を見上げたまま言う。
「ルシア様は……とても頑張っている方なんですね」
「え?」
「雰囲気で、なんとなく」
なんでわかるの? と聞きかけたけれど、喉が詰まった。
私の努力は誰にも見られないのが普通だと思っていたから。
ミリアーナはほんの少しだけ微笑む。
「わたし、こういう場所でうまく立ち回れなくて。それで、どうしても逃げちゃうんです」
「わたくしは……」
言いかけて、言葉を探す。
本当の気持ちを言うのは、少しだけ怖い。
でも、この子になら。
「……わたくしも、あの場は得意ではありません。演じているような気分になりますから」
ミリアーナは嬉しそうに頷いた。
「わかります。わたしも同じです」
その瞬間、すとんと胸が軽くなる。
(……あ、この子、嫌いじゃない)
ミリアーナは水色の私の髪をそっと指さした。
「ルシア様。もしよろしければ……またここで、お話してもいいですか?」
「……もちろん。わたくしでよければ」
「やった!」
ぱあっと花が咲くみたいに、ミリアーナは笑った。
その笑顔を見て、私はふと悟った。
この出会いは、きっと忘れられないものになる。
これが、私とミリアーナの“最初の会話”。
そして知らないうちに、後に続く“親友”という関係の、最初の一歩となった。
「ねえ、覚えてる?」
「う~ん、どうだったかな?」
「すごいなんかドラマチックだね~」
ネオがにこにこしながら言う。
……当事者に言う? それ。
私は軽く睨むけれど、ネオはぜんぜん怯まない。
むしろ楽しそうに足をぱたぱたさせている。
今はあんな国を抜け出して、ミリアーナたちと一緒に冒険している最中。
ダンジョンの外、森の小さな休憩スポットでの会話だ。
「あ、思い出した! あの日のルシア、ものすっごく緊張してて、かわ……」
「言わなくてよろしい!!」
あのときの私を知るミリアーナは、たまに余計なことを言いかけるから厄介だ。
ネオは目を輝かせながら、「ルシア、そんな緊張することあるんだ……!」という。
「あるよ。わたしだって普通の令嬢だよ?」
ミリアーナとネオがそっと目を合わせる。
「「……普通……?」」
「二人同時に言うのはやめて!」
まったく、失礼な。
20 新しい仲間1
わたしはふくれ面になりながら、水筒の水をひと口飲んだ。
森の木漏れ日が揺れている。風が少し冷たい。
魔物の気配は薄い。――休憩にはちょうどいい。
ネオは相変わらずぴょこんと足を揺らしながら、
「でもさ、ルシアが緊張してたって、なんか安心したかも。
だって、ミリアーナの隣にいると、なんか……こう……」
言いよどんだ。
ミリアーナが首を傾げる。
「なんか?」
ネオは真剣な顔で言った。
「……つよつよコンビに見えるんだよね」
私は飲んでいた水を吹き出しそうになった。
「いやいや、私そんな強くないよ!?」
ネオはきょとんとしている。
「え? 強いよ? なんなら今日もミリアーナと一緒にわたし庇ってくれたじゃん!」
「そ、それは……状況がそうだっただけだよ~!」
と、わたしが必死に言い訳していたその時だった。
「……お嬢様。そろそろ休憩はおしまいですよ?」
「リリ!!」
ネオが真っ先に叫んだ。
いや、泣きそうな顔で飛びついている。かわいい。
ミリアーナもぱっと顔を明るくする。
「リリ、迷わなかった? この森入り組んでるのに」
リリはにこりと微笑む。
「お嬢様が残した靴跡を辿れば、迷うわけがありませんよ」
「わたし、そんな残してた??」
「はい。派手に」
ミリアーナが笑っている一方で、リリはわたしのほうに少しだけ深く頭を下げた。
「ルシア様、先ほどは……お嬢様とミリアーナ様をお守りいただき、感謝いたします」
「えっ……いや、それほどじゃないよ……! 正直私は何の役にも立てなかったし……。ミリアーナが強すぎるせいかな!」
言った瞬間、ミリアーナがむっと頬をふくらませた。
「え~? 何それ。わたしばっかり強いみたいじゃん。ルシアだって十分強いよ?」
「そうだよルシア!」
ネオまで元気いっぱいに続ける。
「さっきの魔物もさ、わたし先に逃げかけてたのに……ルシアが止めてくれたじゃん! 前見て! って!」
「いや、あれは……ただ状況を見て言っただけで……」
完全に照れ隠しだった。
リリがそんなわたしを見て、ふわりと優しく微笑む。
「ご謙遜を。ルシア様がいなければ、お嬢様は突撃、ネオさんは逃走、そして私は胃痛です」
「ちょっとリリ? わたし突撃してる?」
ミリアーナが苦笑する。
「自覚ないんだ……」とネオ。
「ないんだね……」とわたし。
三人が同時に言ったので、ミリアーナの笑顔がひきつる。
「みんなでいじめるのやめてよ~!」
「いじめてないよ~。事実を確認しただけだよ~」
ネオが変な声で笑う。
「ほら、休憩はここまでしましょう」
「そうね! ほら、魔王城までまだまだ道のりは長いわよ~」
21 新しい仲間2
それから20分ほど歩いた時。
不意に、ミリアーナが地図を指しながら言った。
「あ、思い出した。確かね、ここら辺! あるんだよ~」
「「何が」」
「何がですか?」
ミリアーナは3人の質問ににまにましながら答えた。
「旅で一番うれしいものと言えば?」
「村?」
「風呂?」
「お食事ですか?」
ミリアーナは「むっふふ~」と言った。
「正解あるよ! そのなかに」
「じゃあ、私のじゃない? 村はめっちゃ嬉しい!」
「村かあ……。まあ、あったらうれしいけど、それちょっとチートじゃない?」
「違うんだ……。じゃあ、ルシアのかな? 温泉!」
「違うよ! 正解はご飯でした! ここら辺はね、昔住んでた人たち……。って言ってもまあ、10年ぐらい前なんだけどね、畑が残ってるの。もちろん古い家もね。今はだれも住んでないんだけど。私は小さいころ一人で来たことがあって、ニンジンにかぶりついたり、大根引っ張ったり……」
私たちは絶句した。
あんなかわいくておとなしかった「ミリアーナ様」がそんなことしてたなんて。
本当に貴族かと疑うレベルだ。
ネオが最初に声を取り戻した。
「ちょ、ちょっと待って!? ミリアーナって……そんな野生児だったの!?」
「野生児じゃないよ~! ただ、なんかね、生えてたから。食べてもいいかなって思って? あ、ちゃんと水魔法で洗ったけど」
「生えてた!」
リリが額に手を当てる。
「……お嬢様。その頃、わたくしはまだメイド見習いでしたが……。勝手に出歩かないよう、何度も申し上げたはずです」
ミリアーナは「えへへ」と笑う。
「だっておいしかったんだもん」
(その理由で許される世界があると思ってるの、この人……)
私は深くため息をつきつつ、ちらっとミリアーナを見る。
「でもさ、その……畑って、まだ残ってるの?」
「残ってるはずだよ! ほら、ここからちょっと北に行ったところ。あ、泊まる場所はそこにしよっか!」
「……泊まるの?」
「うん! 古いけど、ちゃんと雨風はしのげるはず!」
ネオが不安げに手を挙げた。
「ねえ、それって……お化けとか出ない? 夜にガタッとか言ったら絶対無理なんだけど!」
ミリアーナは即答。
「出るよ?」
「え、出るの!?」
ネオがそこまでいったところで、私は小さいころのことを思い出してしまった。
それはミリアーナも同様だったようだ。
「あ、お化けが出るといえば――――」
「ぜっっったいに言うな!!!!!」
私はミリアーナの口をふさぐが、魔法でちょちょいのちょいと離させられてしまう。
「ちっちゃいころね? 私たちが二人で怪しい旅館に泊まったんだけど……」
私はもうなにを言っても通じないことが分かっていたから、顔を伏せながらミリアーナの話に耳を傾けた。
私たちは、ギルドで任務をもらい、海を挟んだ隣の国の島まで船で向かった。
が、その途中にものすごい嵐に遭ってしまい、命からがら自国からも隣の国の島からも遠く離れた無人島についてしまった。
森の奥のほうにどんどん進んで一時間ほど。
無人島と思ったが、森の奥に一つの明かりが見えた。
私たちはそれを頼りに、奥へ奥へと進んでいった。
着いたところは、広い、とは言い難い質素な家だった。
「失礼します」
ルシアが先に言ったので、私も「失礼します」と言って、その家の中に入った。
誰もいない。
そう思った矢先、奥から「いらっしゃいませ」と、男の人の声がした。
私たちはびくびくしながら、「泊まらせていただいてもよろしいですか?」と問うた。
男の人は朗らかな笑みで言った。
「もちろんですとも。しかし、ここら辺は幽霊が出ると有名でしてね」
その言葉を聞いた瞬間、
ルシアの動きはぴたっと固まった。
「……ゆ、幽霊……?」
ルシアの声がほんのわずかに震えたのを、私は聞き逃さなかった。
男の人は、にこ〜っと穏やかな笑顔のまま続ける。
「ええ。夜な夜な、窓を叩く音がするんです。トン……トン……とね」
私は悟った。
この人は、私たちを怖がらせるために嘘をついている。
「……本当ですか?」
私が怖がっている風を装うと、「もちろんです」と男の人はにこにことしながら言った。
……はい、確定。
絶対、この人は怖がらせて遊んでる。
ルシアは完全に顔が青くなっていた。
「み、ミリアーナ……ここ泊まるの……?」
「大丈夫よ……ほら、安全そうだし。ね?」
私は全くおびえていないのを見ると、男の人はすっと笑みを消した――――気がした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ~、怖い怖い怖い。……寝れないよぉ」
メソメソしているルシアを横目に、私は通された部屋で荷物の整理をしていた。
「明日朝になったらどうするかー。ここから隣の国の島まで行けるかなあ」
「もう私たちの間で性格がにじみ出てる気がすんだけど!?」
「仕方ない、仕方ない。あんなの嘘に決まってんでしょ」
と、私が言った瞬間、ドン、と音が響いた。
「ぎゃあああああああ!!!!!」
「……風だね」
私は心底めちゃめちゃ驚いたが、邪気がしないのを感じ、ただの風だと安心する。
が、ルシアは布団を頭までかぶって、小刻みに震えている。
「み、みりあ……な……」
「大丈夫だって。ほら、邪気ゼロだし」
「邪気とか言われても分かんないよぉぉ……」
鼻声になりながら泣き笑いみたいな声を出していた。
「大きくなった時に黒歴史になりそうね」
「絶対誰にも言うなよ!!!」
「メソメソしてるくせに、説得力ないわね」
私がふっと鼻で笑うと、カンカンカンと何かを打つような音が聞こえた。
「うわああああああああ!!! お化け!! お化けだああああああああ!!!!」
「だから違うってば! あんたの大声のほうが怪物級だよ」
私がそう言った瞬間——
カン、カン、カンッ!
また音が響いた。
今度はさっきよりも近い。
ルシアは布団ごと飛び上がった。
「ひいいいぃ!! さ、さっきより速いって!! 絶対なにか来てるよぉぉ!!」
「落ち着きなって。ほら……気配がないのよ。魔物の気配も、邪気も、霊力も。なーんにも感じない」
「……それが逆に怖いんだけど……」
(確かにね〜)
気配のゼロは、逆に不気味だ。
私は寝台を降りて窓へ近づいた。
ルシアは必死に私の服の裾をつかんで引き止めようとしたが、
その手はぷるっぷる震えていた。
「ミリアーナ……! やばいって……! 絶対、絶対なんかいるって……!」
「いたら私が倒すから」
「なんでそんな自信あんのぉ!?」
うるさい、と思いながら窓際へ。
カンッ。
また一回だけ何かを打つ音がする。
私はそっと窓に手を添え、
魔力をほんの少しだけ送り込んで周囲を探った。
……やっぱり、生物の気配も、魔物の気配もなし。
風圧でなにかがぶつかってるだけ……?
「ね、ルシア。やっぱり——」
と言いかけたとき。
ガラッ!!
突然、窓が強風で開いた。
「ぎゃあああああああああああ!!!!!」
「うっわ」
ルシアは絶叫。
私は驚愕。
嵐の風が部屋に吹き込み、
カーテンがぐおぉっと宙を踊る。
ルシアは泣きながら私の背中に隠れ、私は思わず防御魔法を張った。
目の前、窓の外、なにか黒い影が、横切った。
(……え?)
鳥? 木の枝?
それとも……ほんとに?
「ミ、ミリアーナ……黒いのいたよ……ね……?」
「いや、あれ、木、かな? 枝、じゃないかな……?」
自信ゼロだった。
ルシアは半泣きで私の腕を引っ張る。
「ミリアーナ……もう帰る……帰ろう……外で寝てもいいから……!」
「外はダメよ、普通に死ぬわよ……」
ガタンッ!
今度は壁の方だ。
ふたりして硬直。
「みりあ……な……これ……もう風じゃなくない……?」
「……わかんない」
怖い。
こわいけど、でも、負けたくない。
だって、ミリアーナだし。
私は深呼吸して立ち上がり、壁の方へ向かう。
「ま、待って! お願い! 一人で行かないでぇ!」
「大丈夫よ。すぐ戻るから」
そして壁に手を当て、ゆっくり近づこうとした、その瞬間。
ドンッ!!!
部屋全体が揺れるほどの衝撃が走った。
「ぎゃあああああああ!!!」
「……うっぷ」
もう限界だった。
「み、ミリアーナぁぁ!!」
「ルシアの叫び声で私が死にそう」
その時だった。
外から、男の人の声が聞こえてきた。
「お嬢さん方ー! すみませんねー!! 物置の屋根が飛んで、壁に当たってまして!! 今直してるんですよー!!!」
……。
……………。
「……やっぱり風……?」
「……屋根?」
ルシアは涙目のまま、ぽつんと言った。
「……ねぇミリアーナ……」
「なに?」
「私たち……めちゃくちゃ恥ずかしいことしてない……?」
「……たぶんね……」
「ぜっっったい、誰にも言わないでね……?」
「うん。絶対、言わない」
——もちろん。
この後、この話をミリアーナが仲間に全部暴露するなんて
その時のルシアは思っていなかった。
22 ごはん
「ひょえ~! そんなことがあったんだ……。やっぱり、小さいころからの友達はいいね~」
「……そうかな」
ミリアーナが黒歴史を暴露したことにブチぎれているルシア。
私は笑いそうになるのをこらえた。
「そんなんだから約束破られるんですよぉ~」
「……お前マジふざけんな。帰ったらシェイ君にチクるから」
「やめて。本当に。呆れられる」
「……確定。言います」
「本当にやめてください」
「やめません。約束破ったのはそっちでしょ」
「ごめんなさい。許して。絶対に言わないで」
私は喧嘩が始まったのを見ると、「やめてやめて。もういいじゃん。過去は取り戻せないよ~」と二人をなだめる。
けれどルシアは、ぷるぷる震えながらミリアーナに詰め寄る。
「取り戻せないけど!! 蒸し返す必要はなかったよね!? ねぇミリアーナ!?」
「でも~、ほら、思い出話って楽しいし?」
「楽しくない!! 少なくとも私はちっとも楽しくなかった!!」
ルシアの怒りメーターがMAXに近づいている。
ミリアーナは「えへへ~」と笑ってごまかしているが、
あれは確実に悪びれていない顔だ。
「でもいいなぁ~、こんなに昔の話で喧嘩できるの。仲いい証拠だよね~」
「肯定したいのか煽ってるのかどっちなの!?!?」
ルシアが私にまで噛みつく。
私はひゅっと肩をすくめてリリの後ろに隠れた。
「いやいやいや、フォローしただけだよ!? わ、わたし悪くなくない!?」
「そうですね……。ルシア様、ネオさんは無実ですよ」
リリが静かに言う。
落ち着いた声なのに妙に説得力があり、
ルシアは「う……うん、そうだよね……」とペースを乱された。
リリは続ける。
「それに、お嬢様は……その……人の黒歴史を暴露する癖は、昔からです」
「リリ!? 味方して!!」
「事実ですから」
淡々と言い切るリリ。
ミリアーナは「え!? ひどくない!?!?」とショックを受けていた。
だが、ルシアは納得したように頷いた。
「……やっぱりミリアーナは昔からそうなんだ……」
「え!? ルシア!? 違うよ!?」
「違わないよね?」
ルシアがネチッとした笑顔で迫る。
「……違わない、かも……」
「自白したぁぁ!!」
私は面白すぎて爆笑してしまった。
でも、リリは微妙に目をそらしてる。
(……あれ? リリさん、ミリアーナの黒歴史もっと知ってる顔してない?)
そんなことを考えていると、ルシアが急にくるっとこっちを向いた。
「ネオ。笑ってるけどね?」
「ひっ」
嫌な予感しかしない。
「あなたもミリアーナ寄りだよね!? なんなの!? なんで誰も私側に来てくれないの!?」
「い、いやいやいや!!ちがっ……わたしはただ……! ほら! 二人の仲がいいって話で……!!」
「ふぅーん? そう? ほんとに?」
ルシアはじわじわと距離を詰めてくる。
「え、こわっ……ちょ、ちょっと待って!? ルシア!? あの、落ち着いて!?!?」
「落ち着いてるよ。とってもね?」
完全に落ち着いてない声だった。
「ルシア様、ネオさんは本当に無罪ですよ。むしろ火に油を注いでいたのは……お嬢様です」
と、リリがさらっと真実をぶっ刺す。
「リリ!? なんでわたしだけそんな扱いなの!? あなたはメイド、私はお嬢様なんだよ!」
「関係ありません。お嬢様がおバカなのは変わりありませんから」
「ひどぉ」
ミリアーナはしょんぼりした様子。
そんな彼女にルシアが冷たく言う。
「事実、だよね?」
「いやぁの……うぅ……」
ミリアーナ、完全敗北。
私は笑いをこらえきれず、リリの後ろで肩を震わせていた。
「ネオ、笑ってるでしょ?」
「ひぃっ!?」
ルシアがこっちを見る。
が、すぐに「はぁ……」とため息をついた。
「もういい。もう怒り疲れた……」
ミリアーナが「よかった……」と胸をなでおろす。
が。
ルシアはぴしっと指をさした。
「でも、ミリアーナ。黒歴史暴露した罰は受けてもらうからね」
「えっ 何するの?」
「今日の夕飯つくって」
「え!? 少なっ!?!?」
逆に私も驚いた。
「そんなんでいいの?」
「まあね……。私は心が寛大だから」
「「「……」」」
三人で無言を貫いていると、「ミリアーナが悪いんだよ!」と顔を真っ赤にして叫んだ。
ミリアーナはびくっと肩を跳ねさせ、
そのままちょこんと正座した。
「……はい……」
その返事がやけに素直すぎて、私は逆に不安になった。
(え……こんなに弱かったっけ? いや、弱くはないんだけど……なんかしおらしい……?)
リリが腕を組んで、軽くため息をこぼす。
「お嬢様。日頃の行いの成果でございますよ」
「リリまで!? わたしの味方いないの!?」
「うるさいなぁ。ほら、ミリアーナ。夕飯つくるだけだよ?」
ルシアは腕を組んでほほを膨らませている。
「それに私、ミリアーナの料理、地味に好きだし」
「ねえ、なんで地味になの?」
「調子に乗るでしょ?」
「あっはい……」
(ミリアーナ弱っ!?)
今までで一番おとなしい気がする。
いや、普段が自由すぎるだけなのかもしれない。
私は口元を押さえながら、
リリにそっと耳打ちした。
「……リリ、ミリアーナ弱体化してない?」
「怒られ慣れていないだけですね。かわいいものです」
「かわ……? え? かわいい?」
「お嬢様はかわいいですよ?」
リリが平然と断言したので、なんか私が照れてしまった。
しかし、当のミリアーナは、「……うぅ……パワハラだぁ……」と、床に突っ伏している。
ルシアはそんな彼女を見下ろし、にっこり笑って言った。
「罰は罰。実行ね。ミリアーナ」
「はぁい……作らせていただきますぅ……」
語尾がすごく暗い。
私はそっとミリアーナの背中をつついた。
「ね、がんばって? 夕飯、楽しみにしてるよ?」
「……ネオ……」
ミリアーナがこちらを振り向く。
「……私意外に料理うまいんだよ?」
「……そっか。期待してる」
結局彼女が作ったのはカレーだった。
魔物の肉は自分で手に入れてきた……らしい。
まあまあおいしかった。
「次からも作ってほしい! めちゃおいしかった!」
「お嬢様はこれほどの特技を秘めていたのですね……。感激です。明日も作ってくださいますか?」
いつも食料を担当しているルシア、およびリリは自分の仕事がなくなることを期待していった。
「え~本当?? めっちゃ嬉しい! 作ってあげる!」
(ミリアーナって、ちょろいな)
23 夜
「おやすみ、ミリアーナ」
「おやすみ、ネオ」
ネオが早めの睡眠をとり始めた。
「では、私も寝るとします。お嬢様方失礼いたします」
「おやすみ、リリ」
「いい夢見てね」
「夢は見れませんよ。あなたたちのせいで胃が痛いので」
リリの最後の皮肉を聞き流し、私たちは二人になった。
「……ねえ、ルシア」
「なぁに? ミリアーナ」
私はルシアの方を向いた。
「あのさ、ルシアって、私のことを追いかけてきたから、婚約者のアルト君は置いてきたんだよね?」
「うん。ミリアーナもでしょ? 友達がつらい目に遭ってんだから、自分から出会い何て捨てないと」
私はそのルシアの言葉に絶句した。
婚約者より友達の方を大事にするか? 普通。
すごすぎる。
なんて返せばいいか分からず、しばらく黙ってしまった。
ルシアは私の反応に気づいたのか、枕に頬を乗せながら、少し照れたように笑う。
「何その顔。そんな珍しいこと言った?」
「いや……珍しいどころじゃないよ……!」
私は思わず上体を起こした。
「だってさ、ルシア。婚約者だよ? 将来の相手だよ? その人を置いて、私なんかを追いかけてきて……」
「私なんかじゃないよ」
ルシアは私の話を遮るように、少し強めに言った。
その声に、胸の奥がちりっと熱くなる。
「……ミリアーナは、私の大事な友達だよ。普通に考えて、ミリアーナが泣いて出てったって聞いたら追うでしょ」
「いやいやいや、普通は追わないよ!? だって国出てくるんだよ!? そんなことするの、あんたぐらいだよ!?」
「じゃあ私が特別ってことでいいじゃない」
さらっと言うルシア。
なんなのこの子、イケメンなの?
私は思わず口をぱくぱくさせてしまった。
「ルシア……あんた……すご……」
「でしょ?」
ちょっと得意げな笑顔。
でも、その笑顔はすぐにふわっと柔らかくなる。
「……アルト君のことはね、もちろん大事だったよ? 優しいし、気遣いすごいし、将来を考えたら、たぶん……ミリアーナみたいな子よりずっと良いお嫁さんになれたと思う」
「ちょっと!? 遠回しにけなした!?!?」
「むふふ~。……でも、ミリアーナって、ほっとけないじゃん?」
「……どこが?」
「全部だよ」
ルシアはすごく自然に、当たり前みたいに言った。
その言葉がすうっと胸に沁みてくる。
「……ルシア。なんか……ありがとう。ほんとにありがとう」
「なに急に。気持ち悪いよ?」
「えぇぇ!!?」
「……でも、うん。どういたしまして」
ルシアは照れ隠しみたいににこりと笑った。
沈黙が流れる。
多分それは今までの人生を振り返るものだったのだと思う。
……しかし、その沈黙が、逆に気まずい。
「…………」
「…………」
先に耐えきれなくなったのは私だった。
「……いや、でもさ」
「ん?」
「今の言い方、ちょっと重くない?」
「は?」
ルシアはきょとんとした顔をする。
「全部だよ、ってなに? 告白?」
「ち、違うし!!」
ルシアは勢いよく起き上がった。
「そういう意味じゃないから!! なんでそっちに行くの!? 友達として! 普通に! ほっとけないって意味!」
「普通に言えばいいのに、変な言い回しするからでしょ」
「ミリアーナが変な受け取り方するからだよ!」
「そもそも追いかけてくる判断が普通じゃないんだけど!」
「そこは否定しないけど!」
言い合いになって、二人同時にため息をついた。
「……ほんと、あんたと話してると疲れる」
「それ、私のセリフなんだけど」
でも、ルシアはどこか困ったみたいに笑った。
「アルト君のことはね……置いてきた、っていうより……置いてきちゃった、って感じかな」
「……ふうん」
私がそう返すと、ルシアは少し肩をすくめた。
「まあ、いま私たちがどこにいるか、王都の人たちは正確に知らないしね」
「……そうだね」
ここは、王国の地図には載っていない場所。
正確な位置も、転移経路も、こちらから説明できない。
結果として、手紙も届かない。
「だからさ」
ルシアは天井を見たまま言った。
「怒られてるかもしれないし、心配されてるかもしれないけど……、それは今、どうしようもないじゃんか」
「割り切ってるんだ~」
「割り切ってるっていうか」
ルシアは少し考えてから言い直す。
「今ここで、中途半端に連絡がついて、戻れ、とか話し合おう、とか言われたら、私はたぶん……逃げちゃうかな~……」
「……」
「だから、手紙が届かないのは、ちょうどいいのかな、ってね」
その言い方は軽かったけど、投げやりではなかった。
私は布団の端をつまみながら言う。
「でもさー、アルト君から見たら、いきなりいなくなったみたいなもんじゃない?」
「うん。たぶん最悪だと思う」
即答。
「自分で言うな」
「だって事実だし」
ルシアは小さく笑って、それから続けた。
「でもさ、それで責められるのは、帰ってからでいいかなって」
「……帰る気はあるんだ」
「そりゃあるよ」
即座に返ってきた声。
「ただ、今すぐじゃない。でしょ?」
私はその答えに、なぜか少し安心した。
「違う?」
「確かに……」
「シェイ君と、ちゃんとどうするか決めるの」
「……婚約解消されちゃったし。どうするかはまだ決めてない」
私がそう言うと、ルシアは少しだけ目を細めた。
「そっか」
それだけ。
それ以上追及してこない。
「……なんで聞かないの?」
「え?」
「まだ好き? とかさ。とり戻したい? とか、聞かれそうだと思ってた」
ルシアは一瞬考えて、それから肩をすくめた。
「だって答えにくいでしょ」
「……まあ」
「それに」
少し間を置いてから、ルシアは続けた。
「別に、聞かなくても立ち直ってなさそうだってわかるし。あんたまだシェイ君のこと好きでしょ」
「……まあね」
嫌いになれるわけないよ、と付け足した。
「でもさ、いいにくいけど、シェイ君は渋々ながらもイザベラと婚約してたんだよね」
「……そっか……」
「嫌いになった?」
「……ううん」
「でしょ? でも、一緒に居たいと思う? 多分もう婚約者には戻れないと思う」
「……だね……」
私はずしんと心に重りが乗っかった気がして、つらくて、涙がこぼれた。
「……あ」
慌てて拭おうとしたけど、指先が震えて、うまくいかない。
(あ、やば……)
声も出ない。
鼻もつんと痛い。
ルシアは、少しだけ驚いた顔をしたあと、
何も言わずにこちらを見ていた。
「……ごめ……」
言いかけた私の言葉を、ルシアは軽く遮った。
「謝らなくていい」
静かな声だった。
「あんたは、自分を責めすぎだよ。婚約解消されてからもう丸一年。ずっと泣いてなかった」
ルシアは天井を横目で私を見ながらふっと笑った。
「……笑うなっ……」
「えへへっ。なんか面白くてさ。こうやってきちんと話したのって久しぶりじゃん?」
「……うるさい……」
ルシアはにかっと笑った。
「……昔のミリアーナだったらさ」
「……?」
「ここで感情ぐちゃぐちゃにして、でも私は悪くない! とか言い出してたと思う」
「……ひどくない?」
「事実だって」
私は鼻をすすりながら、苦笑いする。
「……否定できないのが流石に悔しいんだけど」
「でしょ」
ルシアは満足そうに頷いた。
「でも今はさ」
少しだけ声のトーンが落ちる。
「泣けてる。それってすごいことじゃない? 私はずっと貴族だって思ってきたし、泣いたことは生まれてから全然ないよ」
「……うん」
「やっぱさ、人が泣いてるの見ると」
「……ルシア?」
「……悲しくなるよね?」
ルシアはずびっと鼻をすすった。
「えへへっ。私も泣くの、久しぶりだな……」
そう言って、ルシアは目尻を指でこすった。
泣き声は出ていないけど、声の奥が少しだけ揺れている。
「……ちょっと」
私が戸惑って言うと、ルシアは肩をすくめた。
「びっくりした?」
「当たり前でしょ……。ルシアが泣くとか、想定外すぎる」
「私もそう思ってる」
ふふ、と短く笑ってから、ルシアは天井を見つめる。
「ミリアーナが泣いてるの見たらさ」
「……」
「なんて言えばいいか、正直わかんなくて」
私は、何も言えずに頷いた。
「慰めるのも違うし、放っとくのも違うし」
「……うん」
「だから、こうやって並んでるだけでもいいかな、って思ったんだけど」
ルシアは、ちらっとこっちを見る。
「……変じゃない?」
「変じゃない」
即答だった。
「むしろ面白いよ」
そう言うと、ルシアは少し目を見開いてから、
また照れくさそうに笑った。
「……そっか」
しばらく、二人とも黙った。
泣き声も、ため息もない。
「……ねえ、ミリアーナ」
「なに?」
「……面白いよって何」
「……そこ?」
私がそう突っ込むと、沈黙が流れる。
「あははっ」
ルシアが急に笑いだした。
「もう寝よっか」
「ね」
おやすみなさい。
24 廃れた村1
「おはようございます、昨日は遅くまでお話していましたよね」
「「仲良くなった気がする」」
「……そっか、よかったね」
「……なにその反応」
ミリアーナが一瞬だけ怪訝そうな顔をする。
「え? だって仲良くなったんでしょ?」
ネオは首をかしげる。
「だったら、それでいいじゃん。仲悪いより、仲いいほうが絶対いいし」
あまりにもまっすぐで、逆にこっちが何も言えなくなる。
「……単純すぎない?」
「えー、褒め言葉でしょ?」
ネオは本気でそう言っているらしく、机の上のパンをちぎりながらご機嫌だ。
リリは少しだけ微笑んで、静かにお茶を注いだ。
「ネオさんの感覚は、案外大切だと思いますよ」
「え、そう?」
「ええ。複雑に考えすぎない、という意味で」
「へへ。よく言われる」
ルシアは小さく息を吐いた。
「あ~。魔王城まではまだまだだね……」
「そりゃあね。たった1,2年でつくわけないでしょ」
「そうだね。まだ……1年しかたってないの!?」
「……そうだよ? 記憶失った?」
「そういうわけじゃないけど……」
ルシアと私が話をしていると。
「もっと立ってる気がするよね。だって私なんて、奴隷のまま死ぬなかな~とか思ってたらめちゃ強い貴族に拾われて、からかわれて、フェンリルに会って、ダンジョン攻略して……。濃い一年だった!」
「ネオは確かにね……」
「ミリアーナもでしょ。ま、私も劣らないぐらいだけど」
ルシアがけらけらと笑うと、リリがこれまでにないぐらい低い声で言った。
「……私が一番ひどい一年でしたよ。私が買おうとした奴隷は買ったはいいけど執事長に取られてしまいましたし。かと思えばお嬢様が買った奴隷と一緒に旅することになったかと思えば、ルシア様もいらっしゃいますし。ダンジョン攻略には付き合わされますし、お嬢様は全くネオの経験値集めの注意喚起をしてくださいませんし。私が料理を作るのが普通だと思われ……」
そこまで一息で言って、
リリはすう、と深く息を吸った。
「……挙げ句の果てに、私が眠る時間だけが削られていく一年でした」
沈黙。
最初に口を開いたのはネオだった。
「なんか、ごめん」
「今さらです」
即答だった。
「……やっぱ謝らなくていいです。ネオさんは被害者側ですから」
「そ、そうなの?」
「はい。教育不足の責任は主に……」
リリの視線が、無言で私に刺さる。
「……えっ? なにその圧」
「気のせいではありませんよ、お嬢様」
「ごめん、リリ。こんな溜め込んでたとは思わなかった」
「溜め込んでいるつもりはありませんでした」
「今のは?」
「事実の列挙です」
淡々。
ネオはぽつりと呟いた。
「……一番大変なの、裏方の人だよね……」
「分かっていただけて光栄です」
私は咳払いをして言う。
「……えっと。リリには、本当に感謝してる、よ?」
「感謝は言葉だけではなく、行動で示してください」
「ぐっ」
「まずは今日の夕食当番を交代で」
「えっ」
「次に、ネオさんのレベル管理を当人任せにしないこと」
「うぐっ」
「そして、ダンジョンでは――」
「待って待って待って!! 完全に説教モード入ってる!!」
ルシアが慌てて止めに入る。
「抑えて抑えて。朝から胃に重い」
「……失礼」
リリは一歩下がって、咳払いをした。
「つい、溜まっておりました」
私は深く頷いた。
「……はい。反省します」
その素直すぎる返事に、逆に場の空気が和らぐ。
ネオがぱっと明るい声を出した。
「でもさ! こうやって言えるのも仲良くなった証拠だよね!」
「……便利な言葉使うな」
ルシアが苦笑する。
リリは少し考えてから言った。
「……否定はしません」
リリがそういったのを境目に空気がパッと明るくなった。
「じゃ、今日から一年はお嬢様方が夕飯を作ってくださいまし。朝ごはんは作りますので」
にっこりとほほ笑みながら言うリリの姿が凶器に見える。
「「「……わかりました」」」
「「「はぁ……」」」
夕飯を作ることになりそうな私たちの空気。
とっても明るいリリの対局さがもう、それはそれはひどかった。
「では、その『廃れている村』とやらに行ってみましょうか!」
「……はい」