魔王軍は超未来世界で極彩色に輝く
編集者:奏者ボカロファン
私とそのリア友の#コンパス・魔軍ギルドをストーリー化しました。
~奏者ボカロファン、てふてふ、永遠(エンダー)の3人で構成された魔軍。今日も#コンパスの世界で楽しんでいたが、そんな彼女達には暗く、悲しい裏物語が存在した~
「強さを認めてもらいたい」
「"光"を見たい」
「美しい物が欲しい」
今は何不自由なく、明るく生活している彼女達。
その笑顔に隠された裏物語が今、明らかになる―
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目次
幕開け
「みんな 大切な 仲間!! てふてふ、|永遠《エンダー》 行くよ!!」
「奏者!!|永遠《エンダー》!!そっちの|鍵《キー》は任せたよ!!」
「あ、サメくん待ってよ!?ツノくん!!やっちゃうよ!!」
『ようこそ、#コンパスへ。』
超未来世界で繰り広げられる新たな|物語《ストーリー》。
|鍵《キー》を奪い合い、戦闘摂理を解析していくこの世界で。
今日も魔軍が活躍していた。
「今日も疲れたぁ~。」
平和に暮らす一方で。
「あーあ。この世界は素晴らしく美しい。Bugdollより先に、この世界"制圧"しちゃおっかな~。ってことで、|偽物《イレギュラー》作ろ♪#イレギュラー制作システム、アップロード。」
迫りくる魔の手。
「そんなに知りたい?僕達の過去。」
明かされる過去物語。
新たな世界が幕を開ける。
|物語《世界》の歯車が動き出す―
𝓹𝓻𝓸𝓵𝓸𝓰𝓾𝓮 警鐘
ようやく。
開幕。
―?視点―
ビィーッ···ビィーッ···
「マズいマズい!!早くしろ!!」
「うわァァァッ!!」
「なんで···まさか魔王軍最強の2人が裏切るなんて···ッ!!」
―けたたましく魔王城内に鳴り響くサイレンの音。
それに負けない程の耳障りな大声。
鈍い光を放つ武器や甲冑。
そして···
私達魔族の中でも「王族」と呼ばれた人々の、恐怖に歪んだ表情。
「···行くよ!!一気に殺るよッ!!」
"彼女"の合図がかかる。
それは、魔王軍の「終焉」の合図でもあった。
"彼女"の声と同時に私は飛び出した。
一瞬遅れて王族達も動き出す。
私と"彼女"は武器や魔術を使って奴らを倒していった。
吹き上がる鮮血や響き渡る断末魔の叫び声。
嗚呼···。
前線で戦うって、こんな感じなのかなぁ。
慣れてないから、よく分からないや。
そんな事を思っていても、私達がこの殺戮を止める事はなかった。
つい先日まで、仲間であった軍のみんな。
そんな彼等を裏切って、ここまでする私達。
正直言って、頭がおかしくなりそうだった。
それでも私はやらなければ。
お姉ちゃんの|敵《かたき》を討つ為に。
|何時《いつ》まで待てば、この魔界の美しさに気付く事が出来るのだろうかと、考えた事があった。
こんな下等生物共がいる世界なんて、決して美しくならないと分かっていたのに。
全ては魔王様、アンタのせいだ。
何故あんな些細な理由でお姉ちゃんを魔界から追放した。
何故···
何故ッ!!
「ヴ···ァァァァァァッ!!ふざっ···けるなァァァァッ!!何故お前等は、私達にだけこんな扱いをするんだッ!!何故お姉ちゃんを追放したんだッ···!!全員···全員ここで死ねッ···!!」
もう、こんな扱いを受けるのは嫌だった。
もう、何も失いたくなかった。
魔力が暴走してもいい。
最悪この魔界ごと崩落してしまってもいい。
私達の目的が達成出来るのなら。
魔王様。
私達から「幸福な日常」を奪い去ったアンタの汚らわしいその身体を。
―八つ裂きにする事が出来るのなら。
1話で色々話そう。
では。
𝓮𝓹𝓲𝓼𝓸𝓭𝓮 𝓸𝓷𝓮 #コンパスの魔族ギルド
『ようこそ。#コンパスへ。』
機械的な案内人の声が、|入り口《エントランス》に響く。
近未来···いや、"超"未来的なこの空間で、今日もバトルが繰り広げられていた。
此処は、戦闘摂理を解析する「#コンパス」と呼ばれた場所。
3人のプレイヤーで構成された2チームが、3分間で5つの|鍵《キー》を奪い合い、そこから得られたデータを管理人が解析してゆく。
つまり、自分の戦闘力を計測する事が出来るのだ。
|1人《ソロ》でランダムに構成されるプレイヤーと共に戦う人もいれば、「|組織《ギルド》」を作り、その仲間と共に戦う人もいた。
時は40世紀の事だ。
多種多様な種族のギルドもあれば、1つの種族だけで作られたギルドもあった。
そんな、大量に存在するギルドの中に、一際目立ち、噂されたものがあった。
これは、その「魔軍」と呼ばれた、魔族ギルドの|物語《ストーリー》である。
―奏者視点―
『残り1分です。』
付けられたイヤホンから、そんな音声が聞こえた。
周りを見回しながら、現状を確認する。
1―4···
どう見ても、大差をつけられて負けている。
最低でも、あと2つの|鍵《キー》を奪わなければ。
出来るか、1分で。
|永遠《エンダー》「ツノくん!!後ろ!!」
仲間の|永遠《エンダー》に言われ、はっと我に返る。
慌てて後方を見ると、今回大差をつけられた要因である、Sランク級プレイヤーが2人、迫って来ていた。
マズイ。
今ここで倒されて初期地点に戻ってしまえば、唯一残ったキーが奪われてしまう。
そうなれば、残り時間は関係無く私達の負けだ。
ここは無理矢理でも戦うしか···!!
奏者「いくよ!!」
私は素早くデッキから「遠」と書かれたカードを取り出し、その力で1人を遠くへと吹き飛ばした。
「うわぁ!?」
そいつを倒すのは|永遠《エンダー》に任せるとして···あとは1人か。
自分の武器である斧(|夢遊《むゆう》って名前)を使って攻撃するが、相手の方が格上だ。
ヤバい···負ける···
絶体絶命の大ピンチ。
その時···
ガガガガ···
歪な銃声が鳴り響き···
「ギャアッ!?」
『敵を倒しました。』
私と戦っていた相手が、呆気なく倒されてしまった。
???「ギリギリセーフ!!なんとか間に合ったぜ!!」
奏者「てふてふ!!」
もう1人の仲間、てふてふだ。
彼女の武器、ガトリングを使って後方からサポートしてくれたのだった。
気が付くと、残り30秒を切っている。
今は2―3。
|永遠《エンダー》が1つ、奪ってくれたのだろう。
頑張れば勝てる···!!
私は2人に向かって言った。
奏者「てふてふ |永遠《エンダー》 後方で サポート お願い!! もう1つの キーは 私が 取る!!」
てふてふ「りょーかいっ♪」
私は走り出した。
最後は···
あった。
此処だ!!
キーに手をかざし、範囲を縮めていく。
背後では、2人が全力で守備をしていた。
『残り10秒です。』
間に合えっ···!!
そして、試合終了とほぼ同時に···
『キーを獲得しました。』
|永遠《エンダー》「やった···!!勝った···!!」
結果は3―2。
なんとかギリギリのところで勝つ事が出来たのだった。
てふてふ「いやー、大接戦だったね~。キー4つ取られた時、終わったと思ったもん。」
|永遠《エンダー》「それもこれも、ツノくんのおかげだよ。」
奏者「いや みんな 頑張って くれたから!!」
あの大接戦の試合後、私達は反省会的な事をしていた。
するとそこへ···
???「君達···だよね?さっき僕とバトルしたの···」
|永遠《エンダー》「あ、さっきの人。」
さっき一緒に戦った相手が近づいてきた。
試合中は集中していてあまり気付かなかったが、今こうしてじっくり見てみると、なんか、カラフルで、カッコいい。
透き通ったコバルトブルーの瞳は、まるでサファイアの様に美しく輝いていた。
クロウ「あ、申し遅れた。僕はクロウ。烏と人のハーフさ。」
なるほど。
言われてみればそうかもしれない。
でも、クロウさんは何で話し掛けて来たんだ?
クロウ「間違ってたら謝る。君達···もしかして"魔軍"かい?」
―魔軍。
それは、私が作った、私、てふてふ、|永遠《エンダー》の3人が所属するギルド「魔王軍の残党」の通称だ。
この人、もしかして···?
てふてふ「そう···だけど···?」
クロウ「やっぱり!?戦い方とか、容姿とか見て、そうじゃないかなーって思ってたけど···君達···本物の魔軍なんだね!?どうりで···そりゃ相手が魔軍となれば逆転負けしちゃうか···」
実は、私達のギルド"魔軍"は、この#コンパスの世界でかなり有名になっているのだ。
一部の人は「強者ギルド」と呼んで、一目置いていた。
ランク関係無く、みんなの憧れの存在。
それが、この、私達「魔軍」だった。
クロウ「あの···もし良ければ、一緒に食事でも···?魔軍の皆さんと、ゆっくり話がしたいなって、思ってたんです。」
|永遠《エンダー》「んー···。流石に10連戦して疲れたし···行きたい!!サメくんはどうする?」
てふてふ「僕も勿論行くよ!!」
奏者「私も 行く!! 他の 人とも ゆっくり 話 してみたいし···」
私達が言うと、クロウさんの表情が明るくなった気がした。
よっぽど話したかったんだろうな、この人。
クロウ「いいの!?ありがとう···!!じ、じゃあ、行きましょう!!」
私達4人は、飲食店が立ち並ぶエリアへと歩き出した···。
魔軍のストーリーは1話1話が長いです。
読むの大変ですが、ご了承下さい···💦
クロウの設定後で公開します。
これからどんどんキャラが増える予定。
自主企画も開催しているので、参加してくださると嬉しいです。
次は〈幕間〉です。
続きもお楽しみに。
では。
魔軍用語集
質問等あれば随時追加します
#コンパス→ゲーム。楽しいよ(ついでに宣伝すな)
ヒーロー→#コンパスにいるキャラ達。
プレイヤー→#コンパスをプレイする人。今回はこっちの、プレイヤーの物語。
住人→めんどいからヒーローとプレイヤーをまとめて言う時に使ってる。#コンパスの用語でもなんでもない(は?)
ランク→F~S9まである。
ギルド→組織みたいなの
管理人→#コンパスを管理する、Voidollとか。
#イレギュラー→Bugdollが作り出した偽物のヒーロー。
スプリンター→移動速度が速い。某、アル・ダハブ=アルカティアなど。
アタッカー→攻撃が得意。コラプス、クー・シーなど。
ガンナー→攻撃射程が長い。メグメグ、みりぽゆなど。
タンク→耐久力がある。鬼ヶ式うら、ラヴィ・シュシュマルシュなど。
鬼→自分より上(ステータス、カードデッキ)のプレイヤーに付くマーク。別称クワガタ。
固定→友達やギルドメンバーとチームを組む事。小説内の魔軍は固定してる。
荒らし→ギルドや店を壊していく悪質プレイヤー。
幕間~モノクローム~
また色の無い毎日。
明日には報われる。
信じていたのに。
―?視点―
初めて見た色は、真っ白な色だった。
すごく白くて、目が眩んでしまいそうだった。
もっと他の色が見たかった。
だから、その世界を抜け出した。
次に来た世界は黒かった。
眩しい白よりはマシかも、と思った。
どんな色が見れるのかな。
期待してたのに、見れたのは赤黒い色だけだった。
これじゃあ、白の時と変わらないよ。
カラフルな世界って、あるのかな。
でも、そんな事を人前で言ったらいけないのだと、ある時思い知らされた。
私の様に、「キレイ」「ステキ」を好んだ魔族が、この世界に相応しくないと、角を折られて追放されたのだ。
カラフルが好きだと、痛くて酷い目に合うんだ。
でもやっぱり、沢山の色がある方が飽きないなぁ。
軍の仲間も、私が天界から来た変わり種のせいで、なんだか感じ悪かったし。
あーあ。
もう、裏切った方が早いかなぁ。
でも1人で出来るわけないや。
やっぱり、カラフルな夢を見るしかないか。
|何時《いつ》かそこへ行けるという、
極彩色の夢を。
---
―?視点―
小さい時から、キレイなモノが好きだった。
魔族ではどうも珍しかったらしい。
周りから、変な目で見られる事が多かった。
別にどうでもいいと思ってたし。
私が好きなんだから、それでいいと思ってたし。
そんな私には妹がいた。
でも薄暗い地下室に幽閉され、外に出る事は許されなかった。
それは何故か。
妹が1回、天使軍との戦いに出た時、彼女の魔力が暴走してしまったのだ。
私が駆けつけた時にはもう手遅れだった。
妹以外の人はみんな、敵も味方も関係無く全員死んでいた。
誰も原形を|止《とど》めていなかった。
血の海の真ん中に、妹はいた。
正確には、魔力が尽きて、気を失って倒れていた。
死んではいなかったけど、瀕死状態だった。
それからだ。
私達がこんな扱いをされる様になったのは。
私の好きを認めてもらえず、妹を外に出す事も許されない。
ごめんね。
私、何も出来なくて。
貴方は強すぎる故に軍に入ってすぐ一番上のランク「|10《ヴォラウ》」になったのに。
私なんか、まだ「|8《ユオ》」だよ。
それも、私の「好き」が変わってるせいで、ランクを上げてもらえないんだ。
ねぇ。
私って、そんなに変わってる?
お願い。
誰か···
誰か答えてよ···。
---
―?視点―
薄暗く、寒い部屋にいた。
外に出ようとしても、鎖で繋がれていて、自由に動く事が出来ない。
―そっか。
私、魔力が暴走しちゃったんだ。
そのせいで、こんな所に閉じ込められたんだ。
お姉ちゃんから、様々な事を聞かされた。
そっかあ。
最終兵器になっちゃったんだ、私。
此処にずっといるしかないのかぁ。
でも、割と飽きなかった。
お姉ちゃんが、|何時《いつ》も色んな話をしてくれたから。
でもある時、お姉ちゃんは、魔王城に行ったっきり、戻って来なかった。
不安で不安で、夜も眠れなかった。
お姉ちゃんが帰って来なくなって2日経った時。
王族がやって来て、私を外に出した。
数ヶ月ぶりに見る外の光だった。
私は、城に連れていかれた。
なんだか、嫌な予感がした。
「王の間」にお姉ちゃんがいた。
角を折られ、翼を取られ、血を流しているお姉ちゃんが。
私が絶句している間に、お姉ちゃんは窓から突き落とされた。
私は叫んで、お姉ちゃんと一緒に行こうとした。
でもダメだった。
それから私は元いた地下室に入れられ、二度と外の光を見る事は叶わなかった。
お願い、誰か助けて。
暗いし寒いし、すごくさみしいよ。
魔力は、使わないから。
みんなに迷惑かけない様にするから。
もう、こんな扱いしないで。
お願いだから、外に出して。
外の光を見させて···。
それが無理なら、
お姉ちゃんをかえしてよ···。
てふてふの過去解明まで
あと6話
???~𐎤𐎢𐎣𐎹o𐎢𐎴o𐎣𐎠𐎼𐎠𐎤𐎽~
〈警告〉
―侵入者を検知しました―
〈警告〉
―残り話数が書き換えられました―
〈警告〉
―"からくる"が#コンパスの世界線に侵入しました―
―?視点―
面白そうな世界を見つけた。
ちょっと見てみようか。
へぇ。楽しそうじゃん。
世界線への侵入は得意だから。
今度はこの世界で遊ぼう。
住人の頭を空っぽにして狂わせて。
また新しいお人形さん作って。
管理人さん達も気付いてないし。
ちょーどいいや。
恐れ、怯え、泣くがいい。
そして、ボクの名前を叫んでおくれ。
ボクは
--- `からくる` ---
てふてふ過去解明まで
あと6話
「書キ換えチャった!!ハハハッ!」
縺セ縺滉ス募?縺九〒迢よー励?逕溘∪繧後k
𝓮𝓹𝓲𝓼𝓸𝓭𝓮 𝓽𝔀𝓸 激痛の記憶
後半ちょい注意
―てふてふ視点―
ちょっとした事からクロウと知り合い、仲良く(?)なった僕達。
飲食店が立ち並ぶエリアへと向かう途中、何故かバトル中でやらかした珍プレイ大暴露大会が始まっていた。
クロウ「あー···。最初だとなかなか慣れませんからね···。」
奏者「そう。 あの時 すごく ビックリしたし あと あの···その··· すごく 怖かっ···た···。」
クロウ「えっと···大丈夫···?」
奏者の顔が暗くなる。
そういえば、まだこのギルドを作る前、最初の頃に集団リンチされて怖かった、なんて話してたな。
でも、流石に様子がおかしい様な···。
|永遠《エンダー》「昔の事思い出しちゃった···?大丈夫。大丈夫だから···。」
奏者「うん···。」
昔。
その単語を聞いた途端、心の奥底がチクリと痛くなった気がした。
クロウ「昔···何か?」
てふてふ「···クロウが知るには、まだ早いかな。」
そうだ。
たった今仲良くなった人にあれこれ話すのはまだ早い。
暗くなった空気を明るくしようとしたのか、|永遠《エンダー》は言ってはいけない事を言ってしまった。
|永遠《エンダー》「それより!!昨日のサメくんなんかホント酷かったんだから!!」
てふてふ「|永遠《エンダー》、それは···」
止めようとするが、既に手遅れだった。
|永遠《エンダー》「昨日さ、サメくんが、自分のガトリングで放った弾踏んで大転倒しちゃって、それと同時にステージギミック動いて落下したんだよ!?ホンットあれはビックリしたよ~!!」
···恥ずかしすぎる。
アレはマジで大失態だった。
相手チームが見てなかったのが不幸中の幸いだった。
あのギミック苦手なんだよな···
クロウ「あ、ここです!!」
雑談している間に目的地に着いた様だ。
そこは、僕達もよく利用する店だった。
奏者「ここ 私達も よく来る!! クロウさんも ここの "ジョウレン" なの?」
クロウ「君達もここに来てるの!?すっごい偶然!!僕、週1位の頻度で此処に来るんです。いいですよね、此処!!」
なるほど。
確かに此処の食事は美味しいし、リピーターも多いからね。
中に入ると、店主さんがいつもの様に元気に迎え入れてくれた。
店主「お、クロウに魔軍じゃねぇか!!なんだ、仲良くなったのかい?」
てふてふ「まぁ、そんな感じ?あ、いつものトコ空いてる?」
店主「アァ。もちろんさ!!いつでも空けといてるぜ!!」
店主さんはそう言うと、僕達をいつもの席(個室)に案内してくれた。
それから僕達は、頼んだ料理を食べながら、様々な事について語り合った。
クロウ「じゃあ、魔軍の皆さんは、無課金でここまで強くなった···って事!?やっぱり凄いなぁ···。僕なんか課金してもまだS1ですから···。」
服に着いたランクバッジを見るクロウ。
それには、彼の今現在のランクを表す「S1」の文字と、烏の様な模様が描かれていた。
クロウ「みんな強くていいなぁ···」
クロウが放った「強い」という単語に反応した奏者が騒ぎだした。
奏者「クロウさん 今 "強い"って 言った? 強い 強い!! みんな 強い!! 嬉しいなぁ。 もっと みんなで 強く なりたいね♪」
特殊な両腕をパタパタと動かして笑う奏者のその姿は、なんだか可愛らしかった。
そっか。
奏者は、「強い」と言われる事が好きだったんだっけ。
てふてふ「あの···」
ダァンッ!!!
「キャアァ!?」
僕が口を開いたその瞬間、店内に銃声が響き渡り、辺りは暗闇に包まれた。
入り口をよくよく見ると、|如何《いか》にもタチが悪そうな男が3人、武装をして店に入ってきていた。
てふてふ「うっわ最悪。」
クロウ「何なんですか!?あの人達!!」
てふてふ「え、君知らないの!?絶対アイツら"荒らし"だよもう···。」
―荒らし。
それは、店やギルドなどの建物をめちゃくちゃにしていく悪質プレイヤーの事だ。
警備の奴らが見て回ってるハズなんだけど。
絶対あの荒らし野郎に倒されてるよ···。
クロウ「あれが···荒らし···。」
奏者「そんな事より てふてふ!! |永遠《エンダー》が |永遠《エンダー》が···!!」
奏者に言われてハッとした。
―しまった。
今この空間は···!!
《《暗くて狭い部屋》》と化しているんだった···!!
急いで|永遠《エンダー》の所に行く。
|永遠《エンダー》「くっ暗い···狭い···嫌だ、怖いよっ···!!お姉ちゃん···嫌だ、嫌だ···っ···お姉ちゃん···助けてっ···」
そこには、いつもの笑顔で明るく話す時と真逆の、怯えてガタガタと震える妹の姿があった。
クロウ「え···|永遠《エンダー》さん···!?大丈夫ですか···!?」
てふてふ「|永遠《エンダー》は暗くて狭い場所が苦手なんだ···。」
―昔のトラウマを、思い出すから。
そう言おうとしたが、言葉がつっかえて出て来なかった。
僕も昔の事を思い出してしまったのだ。
鮫の帽子で隠された僕の頭の古傷が、ズキズキと痛みだす。
まるで、昔の僕が、この嫌な記憶を「忘れるな」と言っているかの様に。
まるで、あの憎い連中が「逃がさない」と言っているかの様に。
てふてふ「···っ···。」
いよいよ激痛が奔りだした。
あまりの痛さに、頭を押さえてうずくまる。
|永遠《エンダー》「嫌ぁっ···!!お姉ちゃんっ!!やだよっ···!!行かないで!!私を置いてかないでぇっ···!!」
|永遠《エンダー》の、悲鳴にも似たその声を聞いた途端、脳内にとある記憶がフラッシュバックした。
城内に入ってすぐ、兵···いや、王族に捕らえられ、無理矢理拘束され、連れていかれる。
2日間ろくに食料も与えられず、地下牢に監禁されて。
ようやく出してもらえたと思ったら、最上階に引き摺られていった。
―嫌だ。
ここから先は、何も思い出したくない。
しかし、僕の記憶の歯車は止まる事なく回転し続け、一番思い出したくなかったシーンを映し出した。
王自らの手で制裁が下される。
角をへし折り、翼を引き千切る。
噴水の様に吹き上がる血。響く絶叫。
嗚呼···。
この血は僕の血だ。
この叫び声も。
妹が見ている目の前で、谷底に落とされる。
一瞬身体が宙に浮いて、その後重力に引かれる様に、どんどん落ちていく。
あの感覚は、これからもずっと、忘れる事はないだろう。
てふてふ「痛···いっ···。」
???「―っ。」
誰かが呼んでいる。
一体誰だろう。
???「―っ···!!」
誰···
奏者「てふてふっ!!|永遠《エンダー》っ!! しっかり してっ!!」
我に返る。
そこは、依然として荒らしに占拠されている店内だった。
嗚呼。
また、嫌な夢を見てしまった。
痛みが治まらない頭に手をやりながら顔を上げる。
奏者「てふてふ すごく 苦しそう···。 |永遠《エンダー》も。 大丈夫? 怖いよね? 辛かったよね?」
心配そうに見つめる、奏者の顔があった。
"苦しそう"だなんて。
奏者も一緒なのに。
きっと、少しでも不安にさせない様にしているのだろう。
そんな優しい、仲間想いな所が、如何にも奏者らしかった。
奏者「私に 任せて。···。荒らしは絶対に許さない。」
今さっきまで優しく話し掛けていた彼女の雰囲気がガラリと変わった。
普段のカタコトではなく、ちゃんとした、普通の話し方。
昔の記憶と対峙しているかの様に、荒らしの方を向いて立っている。
人格が変わったかの様な彼女から、葛藤や荒らしに対する静かな怒り、そして、「|階級《ランク》|9《メルア》」の威圧感が、ひしひしと伝わってきた。
集団リンチの話は事実ですww
始めたばかりの頃、操作慣れなくて突っ込んで行っちゃって、相手チーム全員と3―1になってしまい、フルボッコにされました(((
操作って大事ですね((
あと店主ピエールに見えるの助けて((
てふてふ過去解明まで
あと5話
幕間~誘導~
―?視点―
寒い。そして痛い···。
それ以外の感覚は、殆ど無かった。
空腹感も無いし、辺りの音も、何も感じない。
···。
なんだか、寒さも痛みも分からなくなってきた様な気がする。
感覚が分からないって事は、もうすぐ死んじゃうのかな、私。
薄れゆく意識の中、そんな事を考えていたら、視界の端で何かが動いた。
―それは、極彩色の輝きを放つ、1匹の蝶だった。
幻なのだろうか。
それでもいい。
触ってみたい。
感覚が無くなりかけている身体を、無理矢理動かす。
どうやら、「痛い」という感覚はまだあったみたい。
ちょっとでも動く度に激痛が奔り、息が出来なくなりそうだった。
少しずつ、少しずつ、蝶との距離を縮めていく。
そして、私の指が、羽に触れた瞬間。
蝶は飛び上がり、私の頭上を旋回した。
キラキラと輝く鱗粉が私にかかる。
なんだか、身体が軽くなった気がした。
蝶は、「ついて来い」と言わんばかりに目の前を飛んでいる。
私は、ついていく事にした。
キレイな蝶が案内してくれる所なんだから、きっと素晴らしい世界が待っているんだろうな。
―?視点―
蝶の後を追う彼女の姿を見て、私は思わず安堵のため息を吐いた。
そして、手にしていた読みかけのバッドエンド小説に視線を戻す。
個人的には、本の内容と同じ、バッドエンドが美味しいんだけど。
でも案外、ハッピーエンドも悪くないかもな、と思った。
この世界は黒しかない。
こんな世界で、良き|物語《ストーリー》が得られるものか。
つまらないだろう。
そう考えていたが、それは間違っていた様だ。
現にこうして、物語の登場人物が1人、いたではないか。
彼女以外にも、私が今見た限りでは2人いる。
嗚呼、早く話の続きが見たい。
こんな感情、本当に久しぶりだ。
何百年、何千年。
いや、それより前だったか。
···おっと。
執筆そっちのけで、物語に集中してしまっていた。
早く新たな|物語《世界》と、|物語《世界》の|続き《未来》を書かなければ。
此処ではない、別の物語を―
てふてふ過去解明まで
あと4話
𝓮𝓹𝓲𝓼𝓸𝓭𝓮 𝓽𝓱𝓻𝓮𝓮 暗闇の決闘
―奏者視点―
暗闇の中、私は個室から飛び出した。
バタン!!という、ドアが閉まる音が、やけに大きく鳴った。
荒らしはその音でようやく、まだ人がいたと気付いたらしい。
あの部屋防音になってて良かった···。
「まだいるのか!?」
荒らしがゆっくりと動き出す。
なんて愚かなんだろう。
自分で明かりを消しといて、何も見えてないから、あちこちに身体をぶつけている。
奏者「···。フフ···アハハ···!!」
なんだかそれが可笑しくて、思わず笑ってしまった。
「何笑ってんだ···おい!!」
「まて、この声···!!」
どうやら荒らしの1人が、私の笑い声を聞いて全てを悟ったらしい。
焦った様な、そんな声。
「···魔軍···!?嘘だろ···!?」
荒らし共の、恐怖に歪んだ顔。
それもそうだ。
だって私達は、「警備がいない所に荒らしが現れたら、迷わず倒してくれ」と、管理人からお願いをされているのだ。
警備が荒らしを見かけた場合、「追放」の処罰が下される。
魔軍が荒らしを見つけた場合は···
最悪の場合、待ち受けているのは「死」。
奴らはそれを恐れているのだ。
···嗚呼。愚かな悪質プレイヤーよ。
―生き残れるといいな。
「クッ···ソ···!!こうなったらヤケだ!!お、おい!!これ以上動いたら···撃つぞ!?」
だから、アンタ達何も見えてないでしょ?
「撃つ」とか言っておきながら、銃口は誰もいない方向を向いている。
何時の時代も、どの世界も、馬鹿な人はいるんだなぁ。
奏者「―時は満ちた。」
私の腕が、万年筆の様な形に変化する。
その腕を一振りすると、先から刃の様に鋭い黒インクが飛び出し、荒らし達を切り付けた。
「いったあ!?」
奴らは悲鳴を上げる。
その声を聞き、一瞬昔を思い出す。
「あの時」もこんな感じだったな。
前線にいた時と違う、悲鳴。絶望。そして永眠。
アッという間に崩壊し、消え去ってゆく世界。
私が最後に見たのは「黒」。
この世界が壊れる時も、きっと黒いんだろう。
だから守るのだ。
世界が二度と壊れない様に。
黒い過去を背負ってきた訳アリの私達を快く受け入れてくれた、この世界が。
私は荒らしに一歩近づいた。
その瞬間···
耳を劈く様な銃声が鳴り響き、私の左目付近に強い衝撃が加わった。
特殊な魔材で作られた仮面をしていた為、怪我はしていないものの、「ビシッ」と、嫌な音が鳴った。
ショットガンの威力に耐えきれなかった仮面にヒビが入ったのだ。
心の中で、激しい怒りが|蜷局《とぐろ》を巻く。
そして···
もう二度と、物を見る事が出来ない左目に。
―光が宿った。
---
―クロウ視点―
奏者さんが荒らしに向かって行ってからも、僕達はこの部屋で待機していた。
しかし、|永遠《エンダー》さんは憔悴し切ってしまっているし、てふてふさんも、若干頭痛がする様で、頭に手を当てていた。
彼女達の「過去を思い出した」という発言が脳裏に過った。
一体過去に、何があったのだろうか。
そんな事を考えていると、突如として再び銃声が鳴った。
てふてふ「アイツら···やりやがった!!」
てふてふさんが、険しい表情をして言う。
クロウ「ど···どうしたんですか!?」
てふてふ「君は暗闇に目が慣れてないから見えないか···。あ、気にしなくていい。それよりあの荒らし共、奏者に向けてショットガン放ちやがった···!!」
てふてふさんが言った言葉は、衝撃的なモノだった。
奏者さんが···撃たれた···?
一気に不安になる。
クロウ「大丈夫なんですか、それ···!!」
てふてふ「普通のピーポーなら、まず助かんないかな。クロウ、君、ショットガンって知ってる?」
急に質問された。
いや、銃の種類分からないんですけど···
クロウ「い···いや···。」
てふてふ「へぇ···。いい?ショットガンってのは、散弾銃のコト。あんな近距離で放たれたら、間違いなく普通のピーポーの頭はフキ飛ぶね。」
けっこう残酷な事を、表情一つ変えずに言っている。
クロウ「じゃあ、奏者さんは···。」
―死んじゃうんですか!?
そう言いかけて、口を閉ざした。
暗闇であるはずの店内に、1つの赤い光が灯ったのだ。
それも、ルビーの様な美しい輝き方ではない。
血の様な赤黒い色が、鈍く光っていた。
クロウ「あれは···?」
てふてふ「あの感じだと···仮面にヒビでも入ったかな。奏者、あの仮面気に入ってるからなぁ···」
独り言の様に呟いているてふてふさん。
すかさず僕は、どういう意味か質問する。
てふてふ「ん?あぁ、そう。奏者はね、大切にしているモノ···つまり、あの仮面とか、仲間とか。それが傷付けられるとめちゃくちゃキレるの。んで、あんな風に、普段は見えない左目に光が宿る。」
左目が見えない?
視力が弱かったりするのだろうか。
でも、あの仮面、左目しか見えない構造になってなかったか?
てふてふ「あの仮面さ、右側がスモークガラスみたいになってるんだよね。だから一応、外の景色とか分かるらしいよ?」
心が読まれたかの様に話しを続けるてふてふさん。
じゃあ···。
クロウ「"普段は見えない左目"って、視力が弱い···とか?」
その質問の返答は、またしても衝撃的だった。
てふてふ「いや···。"全く"見えないらしい。昔、大怪我をして···その···失明、したんだ。」
失明···。
やはり魔軍には、|惨憺《さんたん》たる過去が存在する様だ。
一体何があったのか。
彼女達は何故、此処に来たのか。
―すごく気になる。
その時、聞いた事の無い異様な音が鳴った。
てふてふ「あ。」
てふてふさんが、意味深そうな声を上げる。
そして次の瞬間···。
店内は光を取り戻した。
|永遠《エンダー》さんが一目散に駆け出して、奏者さんの所へ行った。
他のお客さんも全員無事の様だ。
···あれ?
何かがおかしい。
クロウ「···荒らしは···?」
そう。
さっきまでいた荒らしの姿が何処にも無いのだ。
てふてふ「全員、奏者が描いたブラックホールに呑み込まれて消えたァ。」
クロウ「···え。」
そんな事もしちゃっていちんですね、魔軍って。
奏者「てふてふ |永遠《エンダー》 それに えっと ク···くろう、さん!! 全員 無事。 よかった!!」
奏者さんは、手をパタパタとさせて喜んだ。
そんな彼女に、思い切って尋ねる。
クロウ「あ、あの!!皆さん···過去って···何があったんです···か···?」
最後の方の声が小さくなってしまった。
一気に空気が重くなる。
マズい事聞いちゃったかな···。
てふてふ「···君、そんなに知りたいの?魔軍の過去が。」
僕はゆっくりと、首を縦に振った。
てふてふ「···そう。じゃ、教えてあげる。」
クロウ「えっ?」
てっきり、ダメなのかと思っていたが、アッサリ許してくれた。
|永遠《エンダー》さんが、1枚の紙を渡す。
|永遠《エンダー》「僕達のギルドの場所、そこに書いてるからさ。明日でも来てよ。」
クロウ「あ、ありがとう!!」
奏者「今日 もう 遅い。 みんな 帰ろ!!」
ふと時計を見ると、よる10時を過ぎていた。
てふてふ「んじゃ。また明日ね〜。待ってるから。バイバイ♪」
僕と魔軍は別れを告げ、各自の家へと歩き出した。
てふてふ過去解明まで
あと3話
𝓮𝓹𝓲𝓼𝓸𝓭𝓮 𝓯𝓲𝓿𝓮〜蝶は羽撃いたか 前編〜
蝶は、1人静かに舞っていた
暗い過去を背負った蝶は
どこか寂しげに舞っていた
誰かに認めて貰いたくて
幸せな生活がしたくて
思いを馳せて舞っていた
何時になったら羽撃くか
それを知るのは彼女のみ
再び蝶が舞い上がる時
彼女達の人生は
極彩色に包まれる
蝶は羽撃いたか
開幕
―てふ視点―
小さい時から、軍に所属していた父さんと母さんに憧れていた。
カッコよくて、凄く強い。
そんな存在になりたくて、「私も軍に入りたい」って言った事がある。
その時は嬉しそうにしてたけど、「まだ早い」って言われた。
もう少し大きくならないと、軍には入れないらしい。
魔王様も我が儘な性格してたから、確かに、今軍に入ってもあんまりイイコト無いだろうな、と思った。
私の好きな物は、他の魔族と違う様な物だったし。
私の好み。それは、蝶とか、そういうキレイで素敵なモノ。
「暗」とかそっち系が好きな他のみんなとは正反対。
何なら、父さん、母さんと同じくらい、蝶に憧れていた。
そんな「変人」呼ばわりされる私を認めてくれたのは、恋人のスレッダだけだった。
てふ「じゃ、散歩行ってくる!!」
父さんと母さんに一言だけ告げ、愛犬のパトラシュと共に外へと出る。
そして、いつもの公園へと向かった。
公園に着くと、既にスレッダは来ていて、柵にもたれかかり魔界を一望していた。
てふ「スーレッダっ♪」
スレッダ「わっ!?ビックリした···。なんだ、てふてふか···。もー、ビックリさせるなよ···。」
てふ「ゴメンゴメン!じゃ、一緒に散歩しよ!」
私達は2人並んで歩き出す。
そう。これが日常だった。
いつもの道を、私と、スレッダと、パトラシュで歩いて、いつも最後はベンチに座って様々な話をする。
でもこの日は、"いつも"とは違っていた。
スレッダ「···ん?あの子は···?」
最初に発見したのはスレッダだった。
私は何を言っているか分からなかったが、彼の指差す方を見てみると、確かに"その子"はいた。
少女は、うずくまっていた。
どうしたのかと私は少女に近づく。
―少女は身体中傷だらけで、服もボロボロだった。
びっくりして、声をかける。
てふ「君···傷だらけだよ!?誰にやられたの!?大丈夫!?家族は!?君、この辺じゃ見ない顔だけど···名前は!?」
彼女は、矢継ぎ早に質問する私に見向きもせず言った。
???「···家族···?んなモン知らない···。私に名前なんてあるワケ無い···。ほっといてくれ···。」
家族を知らない?名前が無い?
一体どういう事だ?
てふ「こんな怪我して放っておけないでしょ?てか、名前が無いって···。」
???「うるさい。黙れ。話しかけて来んな···っ···!!」
私の言葉を遮って暴言を吐く。
誰かに助けを求めようかと思ったが、辺りに大人はいない。
流石にこのまま置いていくのも、本人は嫌がっているけど、可哀想だ、と思って一歩近づいた。
その瞬間。
???「私に近づくんじゃねェッ!!」
少女はいきなり立ち上がり、鋭く大きなツメがついた腕を振り回した。
少女の素顔が露わになる。
私は一瞬、目を見張った。
後ろにいるスレッダも息を呑んだのが分かった。
少女は、黄色い瞳をしていた。
しかし、ハイライトが全く無い。死んだ様な目だった。
それだけじゃない。
彼女の顔の左側···つまり、私達から見て右側の部分には、真っ黒な鱗が這っていて、目も、竜の様に鋭かった。
???「さっきからうるさい。近づくな、私に触ろうとすんなっ···!!あっち行けっ···!!」
少女が叫ぶとほぼ同時に、彼女の影が立体化して、私の目の前に現れた。
それが少女と同じ形を保っていたのも一瞬、すぐに姿を変え、大きな黒竜になった。
影で作られた黒竜が私に迫る。
私はたじろぐ事もせずに、指を「パチン!」と鳴らして呟いた。
てふ「|時空傀儡操作《オクロックコントローラー》―|停止《ストップ》。」
その瞬間、竜は動きを止めた。
すぐさま制服のポケットから小型ナイフを取り出し切りつける。
てふ「|再生《スタート》。」
黒竜の時間を|再生《スタート》させてやると、散々切りつけられて魔力が無くなったのか、元の少女の影に戻り、大人しくなった。
???「な···そんな···!?ま、まだ···私···は···。」
少女は驚いて何か呟いていたが、もう体力が残っていないのだろう。
言葉が途切れ、私の方へ倒れてきた。
てふ「···おっ···と。おーい?大丈夫?」
すかさず受け止め声をかけるも、気を失っている様で、返事が返ってくる事は無かった。
···さて、これからどうしよう?
辺りは依然として私達だけだし、この子曰く家族もいない。
スレッダ「その子···どうする?」
パトラシュを優しく撫でながら、スレッダは問いかける。
てふ「んー···。どうしようもないし、一回家に連れて帰る?」
答えは1つしか無かった。
私は少女を背負い、家に向かって歩き出す。
スレッダも後からついて来た。
―一体この子は、何処で何を食べてきたのだろう。
ぐったりしているのに、その身体はすごく軽かった。
しばらく歩いて、家へと着く。
てふ「ただいまー。」
玄関の扉を開けると、案の定、父さんと母さんが困惑して立っていた。
母「その子···どうしたの?」
「やっぱりね」という顔をするスレッダ。
それから私達は、さっきあった出来事を全て話した。
てふ「···だから、一回連れて帰って来たの。あのままだと可哀想だし···。」
父「そうか···。多分この子は、別の世界から来たんだろう。それだとしょうがない。···うちで面倒見るか···。」
こうして、別世界から来た無もなき魔族の少女は、私の家で世話する事になったのだった。
「世話」と言っても、少女は丸2日、目を覚まさなかった。
ものすごい悪夢にうなされている様に、酷く苦しそうな表情をするモンだから、付きっきりで看病してるこっちも、「死ぬんじゃないか」という不安でいっぱいで、本当にハラハラした。
そして3日目。
―彼女は目を覚ました。
???「ん···。···?こ···こは···?」
てふ「···!?ようやく起きた···。良かったぁ···。」
少女は、キョトンとした顔で目をパチパチさせていたが、私の顔を見るなり、始めて会った時の様な鋭い表情になった。
???「アンタ···!!しつこいな···ホントに···!!私に構うなって何回も言っ···て···っ···!!」
言葉が途切れ、苦しそうな顔で腕を押さえる。
てふ「···?まだ傷痛い?どれ···。」
手を伸ばし、触ろうとすると···。
???「触んなっつってんだろ···!!···あっ···。」
てふ「痛っ···。」
大きく鋭いツメが付いた手を振り回され、引っ掻かれてしまった。
傷口から血が滲む。
少女も、流石に傷付けてしまうとは思っていなかったらしく、私の顔と手を交互に見て、焦った様な表情を浮かべる。
てふ「もう···。アンタ急に倒れて2日も起きなかったって言うのに、こっちの気も知らないで···。」
私は立ち上がり、少女に手を伸ばす。
???「あ、えと、あの···ご···ごめんなさ···。」
そして、頭を優しく撫でてやった。
てふ「···怖かったんだよね。辛かったんだよね。···もう···もう、大丈夫だから。」
少女は、今度は驚きの表情を浮かべる。
何回か瞬きをした後、彼女は大粒の涙を零して泣き出した。
???「···っ···!!ごめんなさい···ごめんなさいっ···!!私···私···っ。」
てふ「謝らなくていいよ。···あ、それとあと···。」
私は下に置いていた"あるモノ"を彼女に渡す。
てふ「汚れてたし、壊れかけてたから勝手に洗って直しちゃったけど···ハイ、これ。大事なやつじゃない?」
それは、片腕で抱ける位の大きさのテディベア。
彼女はそれを受け取るや否や、強く抱き締めた。
???「エディ···!!良かった···。」
私は笑顔で見ていたが、ふと、初めて会った時の事を思い出して、少女に質問した。
てふ「そういえば君···家族も名前も無い、って言ってたけど···。」
途端に少女の顔が暗くなる。
しばらくの沈黙の後、彼女は重そうに口を開いて言った。
???「···私、元は魔族じゃない。人間だった。···スラム街の、孤児だった···。だから、家族もいなければ名前も無い···。」
私は言葉を失った。
元人間···?孤児···?
だから、1人でああしてたんだ···。
でも、名前が無いのは流石に困る。
私がつけてやろうかと思ったが、名付けのセンスは無いし···。
???「···じゃあさ、名前、自分で考えたら?無いとなんて呼べばいいか分かんないし···。」
???「···は?···別にいいけど···。じゃあ、アンタの名前、教えてくれる?」
···そういえばまだ名乗っていなかった。
てふ「私はてふ。"ホホジロ・てふ"。みんなからは、渾名的な感じで"てふてふ"って呼ばれてるよ。···君は、何て名乗る?」
···しばらく静寂が訪れる。
やがて少女は思いついた様な顔をして言った。
|永遠《エンダー》「···|永遠《エンダー》···。」
てふ「エンダー?」
私が聞き返すと、少女―|永遠《エンダー》は頷いた。
|永遠《エンダー》「うん。"永遠"と書いて"エンダー"。私は···|永遠《エンダー》!!」
成る程。
どこぞの魔王と違って、分かりやすいかも(この魔界の魔王の名前が長いしめっちゃ噛みやすい為、フルネームを覚えている人は数える程しかいない)。
てふ「···|永遠《エンダー》。君、家族いないんでしょ?」
私はもう一つ、質問をする。
|永遠《エンダー》は、不思議そうに、黙って頷いた。
てふ「じゃあさ···。私達の家族にならない?」
その瞬間、彼女は目を丸くした。
|永遠《エンダー》「···いいの···!?」
てふ「モチロンだよ!!じゃ、これからよろしく。···|永遠《エンダー》。」
手を差し伸べる。
|永遠《エンダー》は、その手を取りながら言った。
|永遠《エンダー》「···よろしく。···《《お姉ちゃん》》。」
···お姉ちゃん、か。
悪くないかもしれないな。
この後私達5人と1匹(?)は、揃って家族写真···的なモノを撮った。
|永遠《エンダー》にもキレイな洋服を買ってあげたし、本当に幸せだった。
···そう。本当に。
だから、数ヶ月後にこの幸せが、いきなり壊れるなんて思ってもいなかった。
―魔界の深くまで侵攻して来た天使軍に、父さんと母さんが殺されるだなんて、尚更。
---
その日は朝から雨が降っていた。
私達は家でゲームをしていた。
|永遠《エンダー》「私は雨降ろうが何降ろうが平気なんだけど。でもお姉ちゃんが風邪引いたら困るもんね。···よっと。」
|永遠《エンダー》は独り言の様に呟きながら、こっちの攻撃を躱しまくる。
てふ「いや攻撃全然当たんないんだけど!?···まぁ、そうだね···。パトラシュだってビショビショになれば今度乾かすの大変だし。···おっと···。あ。」
今度はこっちが攻撃を避けたら、後ろにいた瀕死状態のスレッダに当たってしまい、彼が操作していたキャラが消えてしまった。
スレッダ「ちょっと!?」
思わぬ止めの一撃に素っ頓狂な声を出すスレッダ。
何だか可笑しくて、私達は同時に吹き出してしまった。
|永遠《エンダー》「ちょ···wwwまって今のめっちゃ面白かったwww」
てふ「最高に面白すぎるwww」
スレッダ「もー···。もう1回!!もう1回やろ!!」
もう一度遊ぼうとした、その時だった。
ウゥーッ···ウゥーッ···
突如、今まで聞いた事が無い、サイレンの音が辺りに響いた。
その直後、父さんがノックもせずに部屋へ入ってきた。
てふ「ノックしてよ!?っていうか何!?」
父さんの顔は真っ青だった。
タダゴトではないと感じ取り、立ち上がる。
父「大変だ!!今すぐ逃げろ!!天使軍がこっちに来る!!」
3人「はぁ!?」
私と|永遠《エンダー》、スレッダの声が見事なまでにハモる。
スレッダ「天使軍が!?何でまた···。」
スレッダが驚きの声を上げると、後から来た母さんが言った。
母「詳しい事は分からないけど···。天界から堕天した子を連れ戻す為、とか何とか、って···。」
天界から堕天?連れ戻す?
ワケが分からなかった。
ただ、今逃げないと、命が危ないのは確かだった。
|永遠《エンダー》「お姉ちゃん、スレッダさん、あと···パトラシュ!早く逃げないと!!」
てふ「分かった!!急ごう!!」
すぐに避難の準備をし、玄関へ向かう。
でも···父さんと母さんは···。
父「···済まない。戦わなければ···。」
てふ「そんな···!!」
母「大丈夫だから···。落ち着いたら、戻って来て。きっと、すぐに終わる。」
そう。
父さんも母さんも軍に所属していたから、家に残らなければいけなかったのだ。
少し心細いけど···。
てふ「絶対···生きて会おう。···約束。」
父「分かった···。さあ、早く行きなさい。」
父さんに促され、私達は外に出た。
町はパニックに陥っていた。
人々は叫び、逃げ惑っている。
遠くの方では、火事でも起こっているのだろうか。 赤い炎と黒煙が見えた。
爆発音も聞こえてくる。
スレッダ「早く行こう!!こっちだ!」
スレッダの声を合図に走り出す。
あちこちから、悲鳴が、銃声が、命の灯火が消える音が、聞こえてきた。
耳を塞いでその場にうずくまりたかった。
でも、そんな事したら、絶対に死ぬって分かってた。
全てが怖い···。
|永遠《エンダー》「しっかりして、お姉ちゃん!!」
|永遠《エンダー》の声で、ハッと我に返る。
てふ「···!!ゴメン!!って言うかさ、天使軍にバッタリ会ったらどうすんのさ!?武器持ってないし、攻撃系の能力も無いし···。」
私達は走りながら考える。
スレッダ「そういえば。···あ、|永遠《エンダー》の能力って結構強くなかったっけ?」
スレッダが言うと、|永遠《エンダー》は急に立ち止まり、怒りの感情を剥き出した。
|永遠《エンダー》「強いって···強いって言わないでッ!!」
その声があまりにも大きかったから、私とスレッダも、ビックリして立ち止まり、|永遠《エンダー》の方を見た。
|永遠《エンダー》「何も分かってない!!こんな能力、強くなんか無い!!私に力は要らなかったのにッ!!こんな···こんな呪い、要らない!!この力を···"|黒竜眼《こくりゅうがん》"を強いって言わないでッ!!」
私達は困惑する。
何とかして落ち着かせようと近づくと。
|永遠《エンダー》「着いて来ないで!!」
私を突き飛ばし、1人で何処かへ走り去ってしまった。
てふ「スレッダ何してんの!?」
スレッダ「あ···ごめ···。」
てふ「謝るの後!!早く行かないと!!」
私達は、|永遠《エンダー》が去って行った方向へ走り出す。
もし、彼女の身に何かがあったら···。
それしか考えてなかった。
絶対に、幸せにするって決めたから。
もう、彼女に苦しい思いをしてほしくなかったから。
スレッダ「···ん?あの声···!!」
スレッダは何かに気付いた様だ。
向きを変え、初めて|永遠《エンダー》と会った、あの公園目指して再び走り出した。
てふ「ちょ、待ってよ!?」
慌てて後を追う。
目的地に近づくにつれて···。
|永遠《エンダー》の悲鳴が、はっきりと聞こえてきた。
|永遠《エンダー》「嫌っ!!やめて!!こっち来ないで!!」
彼女は、天使軍に襲われていた。
天使軍は2人。
1人は銃を構え、もう1人は諸刃の剣を振り回している。
てふ「テメェら!!···私の妹に何すんだッ!!」
ナイフを取り出し、怒りに身を任せて突進する。
その切っ先が、銃を持った天使に深々と刺さった。
「ぐあぁっ···!?」
思わぬ奇襲攻撃に遭い、天使軍の奴らは驚いている。
しかし、すぐにもう1人が反応し、剣を振り上げた。
私は躱そうとしたが、相手が剣を振り下ろし、私の顔に傷を付ける方が早かった。
てふ「イッ···タ···!!この野郎ッ!!」
私はそいつを思い切り蹴飛ばす。
そして、もう1人に刺していたナイフを引き抜き、喉を切り裂いて息の根を止めた。
剣を持った天使は、私に気を取られ過ぎて、他の物が見えていなかった。
だから、|永遠《エンダー》が、口が付いた鎌を喰い込ませるまで、私を睨みつけていた。
|永遠《エンダー》「お姉ちゃんに何するのッ!!」
彼女が振った鎌の口が、相手の腕に喰らいつく。
そして···
メリメリと音を立てて、剣を持っていた腕を噛み千切った。
「ぎゃあぁっ!!」
血が吹き上がり、鎌にかかる。
鎌は、その血を吸って、より一層、黒く輝いた気がした。
「コイツ···!!」
|永遠《エンダー》に攻撃しようとする天使軍。
私はすぐに、持っていたナイフを投げつけた。
ナイフは真っ直ぐ飛んでいき、相手の額に刺さる。
相手はその場に倒れ、ピクリともしなくなった。
てふ「ハァ···ハァ···終わっ···た···。だ、大丈夫?怪我してない?ホントゴメン···。」
|永遠《エンダー》「お姉ちゃんっ!!」
飛びつき、泣きじゃくる|永遠《エンダー》。
私はその身体を抱き締め、撫でてやった。
てふ「もう大丈夫。大丈夫だから。|永遠《エンダー》が無事で良かった···。」
一呼吸おいて呼びかける。
てふ「さあ、行こう。このままじゃ危ないし。」
|永遠《エンダー》とスレッダは頷き、そして、避難する為に再び走り出した。
私と並走しながら、|永遠《エンダー》が質問する。
|永遠《エンダー》「···お姉ちゃん、怪我、大丈夫?」
てふ「んー···。まだちょっと痛いけど。血は止まってるし、大丈夫だよ。」
切りつけられた部分をそっと触る。
大丈夫、とは言ったけど···。 手当てしてる時間無いし、傷痕残っちゃうだろうな···。
スレッダ「あ、あそこだ!!」
スレッダが叫ぶ。
彼の指差す方向、入り組んだ道の先に、目指していた避難所が見えてきた。
それから事態が終息したのは数時間後の事。
話によると、天使軍の勢力があまりにも強すぎて魔王様も出動する羽目になったのだが、堕天してきた子が全員倒したらしい。
その後、「軍に入りたい」と申し出たそうだ。
魔王様自らが此処にやって来て、その子を紹介してくれたのだが、実に不思議な子だった。
私と同い年なのに、異様な位小さい。
90センチ程しか無かった。
真っ白な白衣の袖からは、細長く黒いツメが見えている。
髪は薄紫のロングヘアで、先端に行く程青くなるグラデーションで魅せていた。
驚いた事に、その天使には、黒く透き通った細長い角が生えている。
何よりも、その子の「目」が特徴的だった。
アクアマリンみたいな、透き通った海の色。
その天使は、美しいとは違う、何ていうか···
"妖しい"
そう。妖しかった。
凄く神秘的で、何だか不思議な感じがした。
スレッダ「てふてふ。両親が心配だ。早く戻ろう。」
スレッダに言われて、現実に戻される。
その途端、一気に不安が押し寄せてきた。
父さんも母さんも、どうしているんだろう。
怪我して無いよね?ちゃんと生きてるよね?
家に着くまで、ずーっとそんな事を考えていた。
いや···
その事が、頭から離れなかった。
いつもみたいに、扉を開けたら「おかえり」って言って、出迎えてほしかった。
|永遠《エンダー》「···ウソ···でしょ···?」
一番最初にドアを開け、中を見た|永遠《エンダー》が絶句する。
嫌な予感がして、彼女の後ろから中を覗き込んだ。
―視界に飛び込んできたのは、真っ赤に染まった玄関だった。
赤黒い液体が床一面に広がっている。
一歩踏み出すと、雨上がりの道を歩いた時みたいな水音が鳴った。
てふ「何これ···ぜ···全部···血···?」
声が震える。
恐怖で息が出来なくなりそうだった。
|永遠《エンダー》「キャァァァッ!!」
先にズンズン進んで中に入って行った|永遠《エンダー》の叫び声が響く。
何事かと思い、声がしたリビングの方に行くと、|永遠《エンダー》は一点を見つめたまま、ガタガタと震えていた。
彼女の視線の先に、母さんがいた。
てふ「母···さん···?」
母さんは、身体をズタズタに切り裂かれていた。
じゃあ、裂かれた腹の中から出てるやつって···。
てふ「母さん!!大···じょ···。」
母さんに声をかけ、肩を揺さぶる。
その瞬間、母さんの首が落ち、床に転がった。
てふ「う···わぁぁッ!!」
母さんには、目が無かった。
元々目があった場所は黒くポッカリと穴が空いていて、中から、血管なのか、それとも他の筋なのかよく分からない、細長いヒモみたいなのが垂れ下がっていた。
スレッダ「ウワァァァ!!てふてふっ!!|永遠《エンダー》っ!!」
二階から、スレッダの悲鳴が聞こえる。
急いで階段を駆け上がり、彼がいる父さんの部屋に入った。
そこは地獄絵図の様だった。
血や肉片が、あちこちに飛び散って、床や天井、壁一面に張り付いている。
真ん中のベッドに、父さんはいた。
何千発もの銃弾を撃ち込まれ、ぐちゃぐちゃになって、原形を止めていない父さんが。
顔面は疎か、身体全部が崩壊して、ハチの巣状態にされていて、それにズタズタになった服がくっついていた。
|永遠《エンダー》「···こっ···これ···っ。」
遅れてやって来た|永遠《エンダー》が、震えながら壁を指差す。
そこには、飛び散った血肉に混じり、赤い文字の様なモノが書かれていた。
てふ「···そんな···!!」
魔界語で"`お前の負け`"という血文字。
きっと、天使軍の奴らが父さんと母さんを殺した時に遊び半分で書いたんだろう。
激しい怒り、憎悪、悲しさ、悔しさ···。
様々な感情が入り混じり、気が付いたらこう、言い放っていた。
てふ「···軍に入る。」
スレッダ「え···?」
スレッダが、驚いた声を上げる。
てふ「···だから、軍に入る。」
スレッダ「···は···!?そんな、ムチャな···。」
てふ「じゃあ、どうすればいいんだよッ!!」
スレッダの言葉を遮り、怒鳴る様に叫んだ。
てふ「父さんも母さんも、天使軍に惨殺された!!堕天使もいるから、多分天界と魔界の関係はもっと悪くなってる!!それに···それに···ッ!?」
スレッダ「···分かった。···ゴメン。···苦しいって分かってるのに、何も出来なくて。本当に、ゴメン。」
スレッダが、叫んでいた私を抱き締め、優しく頭を撫でて声をかける。
低音だけど、凄く優しく、どこかフワフワした彼の声を聞いた途端、急に涙が溢れてきた。
てふ「···うわぁぁん···。もう···もう嫌だよ···ッ!!どうすればいいんだよォ···!!父さん···母さん···ッ!!」
何も言わずに、優しく頭を撫で続けるスレッダ。
ふと顔を上げると、彼のダークシアン色の瞳も、辛そうに歪んでいるのが見えた。
横にいる|永遠《エンダー》も泣いている。
···みんな、みんな苦しいんだ。悲しんでるんだ。
自分に、そう言い聞かせる。
スレッダ「···僕も軍に入る。僕は、炎魔術が得意だから、火炎放射器でも振り回そうかな。」
どこか寂しそうに笑う彼を見て
てふ「自分の能力持ってないし、ヘナチョコなトコあるからホント気を付けてよね?」
私も寂しげに笑って言い返す。
···カミサマなんて、いないんだろうな。
そう、思った。
---
それから私とスレッダは軍に入ったのだが、ハッキリ言って環境は最悪だった。
みんな···魔王様も含め、私の「好き」が変わっているせいで、陰口を言ったり、嫌な顔をしたりしてくる。
何とかして、|階級《ランク》を「|8《ユオ》」まで上げたのは良いのだが、これ以上上がる事は無かった。
魔王様曰く、「今の"好き"を捨てたらランクを上げてやる」との事。
もちろんその気にはならないし、このままで良いと思った。
私達が軍に入って2年目のある日、妹も「軍に入る」と言い出した。
そこからが絶望の始まりだった。
魔王様の軽いノリで戦場に出た|永遠《エンダー》は、その場で魔力が暴走し、敵味方関係無く惨殺してしまったのだ。
ランクは「|10《ヴォラウ》」にされたものの、あまりの魔力の強大さに魔王様も恐れ、|永遠《エンダー》を最終兵器扱いして、地下室に閉じ込めたのだ。
「|永遠《エンダー》」とは呼ばれずに、「被検体No.0086」と呼ばれた。
···ふざけんなよ···。名前あるんだから、ちゃんと"|永遠《エンダー》"って呼んでやれよ···。
···全部私のせいだ。
私が「軍に入る」だなんて、ムチャ言ったから。
いつも、いつも妹を悲しい目に合わせてしまう。
だから、これ以上悲しくならない様に、私が今まで見聞きした話を沢山してあげた。
そんなある日の事だった。
いつもの様に、妹と話をしていた時。
コン···コン···コン···
てふ「···客?珍しいな···。ちょっと行ってくるね。」
玄関のドアを開けると、そこにいたのは、1人の女性だった。
胸元には、魔王王族を表す「アベル」と呼ばれたバッジがついている。
王族の女性は、うやうやしく一礼をすると、淡々とした敬語口調で言い放った。
「···ホホジロ・てふ様ですね。魔王様がお呼びです。大至急、城に来る様に、と伝達を受けましたので、伺わせていただきました。身支度をした後、魔王城へいらしてください。では、失礼致しました。」
何だか嫌な予感がした。
急いで準備をして、|永遠《エンダー》に声をかける。
てふ「ゴメン···。···王族に呼ばれた。すぐ行かなきゃ。」
|永遠《エンダー》「···気を付けてね。···早めに帰って来てね。···いってらっしゃい。」
|永遠《エンダー》と挨拶をし、家から出て城に向かって走り出した。
---
城に着くと、武装した王族が待ち構えていた。
彼らは何か呟き、私に向かって来る。
手を伸ばせば触れられそうな距離まで近づいた時、私は思い切って尋ねた。
てふ「···な、何ですか···。魔王様は私に···何の用があるのですか···。」
恐怖で声が震える。
王族達は質問に答えず、いきなり私の身体を地面に捻じ伏せた。
てふ「痛ッ···!!何するんだよ!!放せよッ!!」
1人の王族が、低い声で「連れて行け」と命令した。
てふ「やめて!!放してよ!!ねぇ!!何か···何か言ってよ!!」
強引に、城内に連れて行かれる。
そして、私を地下牢に閉じ込めた。
てふ「嫌だ···!!ねぇ!!開けてよ!!此処から出して!!」
どれだけ叫んでも、どれだけ鉄格子を揺らしても、誰1人来なかった。
恐怖でその場にしゃがみ込む。
と、その時、何処からか、コツコツという規則正しい音が聞こえてきた。
音は段々と近づいてくる。
顔を上げて辺りを見回すと、1人の王族が此方に向かって歩いて来ていた。
蝋燭の光に照らされたその顔をよく見ると、私の家にやって来たあの女性だった。
てふ「君···私を呼びに来た···。」
「···来られたのですね。てふ様。···本当の事を言いますと、私は貴方を呼びたくなかった···。···王なんか、大っ嫌いです。」
彼女が放った言葉が信じられなかった。
私を呼びたくなかった?王が嫌い?
何だか、その言葉は戯言ではない様な気がした。
てふ「一体どういう···。」
私が聞くと、王族の女性は頭をかかえて話しだした。
「嗚呼···。どうか···どうか私を許してください···!!私はどうしようもない弱虫です。位を下げられたくないから、嫌でも言う事を聞く、最低の生き物です···!!どれだけ"好き"を認められなくても、自分の意思を貫く貴方とは大違いなんです···!!」
何と声をかけたらいいのか分からなかった。
私は、彼女が震えているのを、ただ黙って見ていた。
少しすると、上の方から声が聞こえてきた。
王族の女性は顔を上げる。
「申し訳ありません。てふ様の件で、上の方が騒がしいのです。私はここで、失礼させて頂きます。」
そう言って、立ち去ろうとした。
てふ「···待って。」
「···何でしょうか?」
てふ「君···名前は···。」
私が聞くと、彼女は優しい笑みを浮かべて言った。
「|王族階級《アベルランク》···"|秘書《シフィー》"···テレシアです。」
それだけ言うと、来た時と同じ様に、規則正しい音を鳴らしながら階段を上っていき、やがて見えなくなった。
それから|秘書《シフィー》の女性―テレシアは、ちょくちょく私の下へやって来て、愚痴を零したり、王族の話をしたりしてくれた。
私が監禁されている事には変わりは無いのだけれど。
それでも少し、彼女と話すのが楽しみになっていた。
···きっと、|永遠《エンダー》もこんな感じなんだろうな。
そう思うと、少し寂しくなった。
私が地下に閉じ込められてから2日後の、3月19日の早朝の事。
兵士が6人程やって来て、私を檻から出した。
そしてそのまま、魔王城最上階にある「王の間」に連れて行かれた。
中に入ってすぐに、私を突き飛ばす。
てふ「イッタ···!!」
直ぐ様数人の|近衛隊《ラクトゥレス》が私を押さえつけ、身動きがとれない様にした。
魔王「···ホホジロ・てふ。」
魔王様の、威圧感のある低音の声が響く。
私は反射的に、キッと睨みつけた。
魔王「貴様は、我々魔族を何だと思っている?魔族がカラフル好きでどうするというのだ。軍に入ったからには、私の掟に従え。そうすれば、自由にしてやろう。」
···何言ってんだよ、コイツ。
頭おかしいんじゃねぇの···。
てふ「···アンタの言う事に"はい"と答えるとでも思ったか···?」
魔王様は何も言わず、私に近づいた。
そして、目の前にしゃがみ込み、私と目を合わせると、大声で怒鳴った。
魔王「貴様は···我々を馬鹿にしているのかァ!!」
そう言うや否や、私の角を掴み···。
―力任せにへし折った。
てふ「イッ···!!」
折った角を放り投げ、今度は私の翼を引き千切った。
ブチブチと音を立てて翼が引き千切られる。
鮮血が吹き上がり、辺りを赤く染め上げた。
てふ「···アァアァッ!!」
···痛い。痛い痛い!!
今まで感じた事の無い激痛が奔り、一瞬息が出来なくなった。
魔王様は、してやったり、という表情で此方を見てほくそ笑んでいる。
···気持ち悪いんだよ、こっち見んなよ···。
魔王「さて···覚悟は出来ているな?···貴様、妹に、何か言い残したい事はあるか?」
そう言って、部屋の入り口を指差す。
そこには―妹の|永遠《エンダー》がいた。
|永遠《エンダー》「···ッ!!お姉ちゃん!!」
てふ「エン···ダ···!?」
いきなり足を掴まれ、開いた窓から下へ落とされた。
|永遠《エンダー》「嫌···嫌だ!!お姉ちゃァんッ!!」
私の身体は、物凄い速さで下へと落ちていき、やがて、城も何も見えなくなり、声も聞こえなくなった。
···何で。
私はただ、自分の好きな様に生活したかったのに。
···。
また、また|永遠《エンダー》に悲しい思いをさせた。
絶対幸せにするって、初めて会った時心に誓ったのに。
てふ「ゴメンね···|永遠《エンダー》···。貴方の事、幸せに出来なくて···。」
次の瞬間、私は地面に全身を強く打ち···。
―そこで意識が途切れた。
3月19日午前4時37分
1人の魔族が魔界から追放された。
両親を亡くし、義理の妹と生活をする
王の掟に反してまで極彩を求め続けた
強く優しい心を持つ
|階級《ランク》「|8《ユオ》」の少女だった。
幕間〜家族〜
―てふてふ視点―
今日は本当に疲れた1日だった。
フリーバトルと言えど、10連戦もすれば体力はかなり使うし、休もうと思ったら荒らしの対応に追われるし。
僕は近くにあったソファにゴロリと横になり、じっと天井を見つめる。
特に意味は無い。
本当に、何も考えず、じっと。
嗚呼···明日はこんなゆっくりしていられないのか。
誰かに過去を話すなんて初めてだ。
上手く伝えられるだろうか。
てふてふ「ハァ···。」
思わず溜息を吐く。
奏者と|永遠《エンダー》は屋上で夜景でも眺めているんだろう。
部屋を見回しても、僕以外の人影は見当たらなかった。
誰もいない事を確認し、制服のポケットから1枚の紙切れを取り出す。
それは、僕も|永遠《エンダー》も魔界にいた時に撮った、家族写真。
すっかり色褪せているが、大切な宝物。
写っているのは、僕、|永遠《エンダー》、そして···
父さんと母さん、それに、恋人のスレッダと、愛犬のパトラシュ。
もう、この世にはいない人達。
···。
···寂しい。
魔軍のみんなといて、すごく楽しいハズなのに。
心に空いた穴は、そう簡単に塞がるモノじゃなかった。
|何時《いつ》、何処にいても。
てふてふ「父さん···母さん···スレッダ···パトラシュ···ッ···。どうすればいいの···?私···。」
私の独り言は、誰にも聞かれる事無く、空気に溶け込んでいった。
てふてふ過去解明まで
あと2話
𝓮𝓹𝓲𝓼𝓸𝓭𝓮 𝓯𝓸𝓾𝓻~極楽蝶案内人~
―クロウ視点―
夜。
僕は魔軍の過去を聞く為に、1人歩いていた。
ふと顔を上げると、僕は何時の間にか、街灯も何も無い森の中に立っていた。
地図を見ると、この先にあるらしいけど···。
あれ?僕はどっちから歩いて来たんだっけ?
下を向きながら歩いていたせいで、よく分からない。
···え?いきなり迷子···?
何か目印になる物は無いかと辺りをキョロキョロと見渡していると。
僕の頭上辺りで、キラキラと輝く何かが飛んでいた。
あれは···蝶···?
今までに見た事が無い程美しく、虹色に輝いている。
蝶は、僕の目の前に来ると、まるで「こっちに来て」とでも言う様にヒラヒラと舞いだした。
···ついて行けばいいのだろうか。
クロウ「···行くしか···ないか···?」
このまま知らない場所で迷子になっているよりはマシだ。
僕は、蝶の後を追って歩き出した。
···それにしても、美しい蝶だ。
|羽撃《はばた》く度に光輝く鱗粉が降り、地面を極彩色に照らしている。
しばらく歩くと、極彩色の案内人はいきなり、蝶とは思えない程の速度で上へ舞い上がり、やがて夜の闇に溶け込んで見えなくなった。
クロウ「え···えぇ···?」
思わず呆気に取られてしまう。
ここから1人で歩けと···?
しかしその心配は無かった。
視線を再び正面に戻した時、目の前にあったのは家のドアだった。
そう。
此処が、僕が目指していた場所―魔軍の基地だった。
じゃあ、あの蝶は彼女達が飼っているペットか何かだったのだろうか。
そんな事を考えながらドアをノックする。
クロウ「···あれ?」
しかし、返事が一向に返ってこない。
留守なのだろうか?
いや、でも部屋の明かりついてるし···。
もう一度ノックをして、今度は大声で呼び掛けてみる。
クロウ「すみませ~ん!!誰かいますか?僕です!!クロウです!!」
そこでようやく、|永遠《エンダー》さんの何だか気怠そうな声が聞こえてきた。
|永遠《エンダー》「···んん···?アァ···昨日のカラスくん?アー···。鍵開いてるから中入っていいよ~···。」
そう言われたので、ドアを開けて中に入る。
まず目に飛び込んで来たのは、なんとも摩訶不思議な光景だった。
|永遠《エンダー》さんとてふてふさんは、ソファに寝転がって、ぐったりとしている。
唯一元気そうにしていた奏者さんは、テーブルに置いてあるゼリーに目を輝かせていた。
クロウ「えっ···と?」
僕が困惑していると、奏者さんがいきなりこっちを見て言った。
奏者「あ、昨日の···えっと···くろ、さん!! ようこそ!! 私達 魔軍の 基地へ!! ねぇ くろ、さん!! みて これ からふる!! この からふるの プルプル 甘くて 美味しい!! くろ、さんも 食べる?」
奏者さんは、僕の目の前に、さっきテーブルの上に置いていたゼリーを差し出してきた。
クロウ「いいの···?ありがとう!!」
僕は喜んで受け取る。
すると今度は、てふてふさんの、これまた気怠そうな声が聞こえてきた。
てふてふ「アー···クロウか。とりあえず座ったらァ···?僕ら今疲れてるからいろいろ話すの後ででもいい···?僕ら復活するまで奏者の相手しといてくんない?」
僕はますます困惑する。
"疲れた"って昨日も言ってた様な気がするけど···。
この状況を見る限り、昨日以上の疲れ方の様な気がする。
そして奏者さんだけピンピンしている。
一体何故···?
とりあえず、てふてふさんに言われたから奏者さんの相手をする事にしよう。
クロウ「奏者さん、一緒に遊んでましょう!!」
奏者「え? いいの? やったぁ♪ じゃあ 私の 部屋で 一緒に あそぼ!! その プルプル 一緒に 食べよ!!」
奏者さんに引っ張られる様にして、僕は部屋へ向かった。
―彼女の部屋は、さっき案内してくれた蝶の様に、美しくキレイだった。
沢山のカラフルが飾られている。
クロウ「キレイ···!!」
僕が呟くと、奏者さんは笑顔になった。
奏者「やった♪ うれしい!! 誰かに からふる みとめて もらえた!! やった やった♪ ありがとう!!」
手をパタパタと動かして喜んでいる。
その仕草が、なんだか可愛らしい。
クロウ「このゼリー···一緒に食べましょう?」
僕がそう言うと、今度は不思議そうな顔をする。
···?
何かしたのだろうか?
奏者「えっと その ぜりーって 何?」
···え?
ゼリーを知らないのか?
そういえば、奏者さんは、「ゼリー」とは一言も言わずに「カラフル」とか「プルプル」と言っていた。
そして、昨日から何となく気付いていたが、話し方が普通の人とは違う、カタコトだ。
これらも"過去"とやらが関係しているのだろうか。
クロウ「このカラフル。これが"ゼリー"って言うんだよ。」
溢れる疑問を抑え、奏者さんに説明する。
すると奏者さんは、表情をパッと輝かせた。
奏者「へぇ···!! これ "ゼリー"って 言うんだ!! ゼリー··· ゼリー··· 覚えた!! くろ、さん 物知り。 私 物知りの人 そんけー する!! 何でも 知ってる カッコいい!! くろ、さん "ゼリー" 食べよ食べよ!!」
奏者さんと話していると、何だか無知の幼子と会話している様で、心がフワフワした。
|永遠《エンダー》「···これでもツノくん、昔は普通の人みたいに話せてたし、知識だって沢山あったんだよ。」
クロウ「うわアびっくりしたァ!?···って|永遠《エンダー》さん!?」
奏者さんとゼリーを食べていたら、いきなり後ろから声がしてビックリした。
声の主は|永遠《エンダー》さんだった。
クロウ「それってどういう···?」
|永遠《エンダー》「サメくんが復活してからネ~。あ、僕もゼリー食べる。」
そう言うと|永遠《エンダー》さんは、僕の隣に座った。
そこからしばらく3人で他愛ない話をする。
|永遠《エンダー》「そういえば、カラスくん。此処来るの大変じゃなかった?街灯少ないし周り木しかないし。」
クロウ「いや、途中で迷子になったけど、蝶が案内してくれたんです。」
僕がそう言うと、|永遠《エンダー》さんと奏者さんは、驚いた様な顔をした。
奏者「···蝶?」
クロウ「はい。凄くキレイな···虹色に輝く蝶でした。」
説明を続ける。
すると|永遠《エンダー》さんはいきなり立ち上がった。
|永遠《エンダー》「こうしてる場合じゃない···。そろそろ話そう。」
そのまま下にいるてふてふさんに向かって叫ぶ。
|永遠《エンダー》「おーい!!サメくん!!あの蝶がカラスくんを案内したって!!」
ちょっとの間の後、てふてふさんの声も響いた。
てふてふ「えぇ!?マジでぇ!?3人共カモーン!!」
呼ばれたので、一階の部屋へと戻る。
僕達3人が座ったのを確認すると、てふてふさんは語り出した。
てふてふ「まず、僕達があんなグデーンってなってたのは、昨日の荒らしピーポーに壊されかけた店の修復作業に行って、その後また10戦ぐらいやってたから。」
···すごい体力だ。
流石だな···。
てふてふ「んで本題はここから。僕ら3人はね、クロウ。君も見たあの蝶に導かれてこの世界に来たの。君、"魔界"って知ってる?···いや、答えなくていい。僕達は、此処に来る前、つまり、魔界にいた時、"魔王軍"って言う、魔王が率いる軍隊に所属してたんだよ。···今日は僕の過去を話そう。クロウ。ここから先は、凄絶な内容だ。覚悟はいい?」
淡々と話すてふてふさん。
僕はただ一言「はい。」と答えた。
てふてふ「···そう。じゃあ···。」
そう言って、過去を語り出す。
―それは、言葉に言い表せない程深く悲しく、辛く、そして、心苦しい物語だった。
てふてふ過去解明まで
あと1話
幕間~孤独とカミサマ~
この行いは是が非でも。
私は「生」を手にしてみせる。
絶対に。
―?視点―
ずっと、ずっと1人だった。
食料も少ない、雨風凌げる家も無い、ちゃんとした服だって着れない様な、そんな所で、ずっと生活していた。
治安だって、すごく悪かった。
自分が生き残る為なら、盗みだって殺しだって、何だってやった。
何年も、そうやって生活してきた。
私だけじゃない。みんなそう。
でも、限界があった。
病気になる人。
餓死する人。
誰かに殺される人。
そして、人身売買の被害に合う人。
そんな人が沢山いた。
誰かが死んでいるのを見ない日なんて無かった。
明日は私の番かもしれない。
だったら、無理矢理でも生き抜いてみせる。
毎日、そう思っていた。
この世界に"神"という者がいるのなら、直接会って問いたい。
何故私を、こんな目に合わせるのだ。
何で私が···。
前世に悪行でも働いたのか?
だとしても何で···。
私だって、ちゃんとした生活がしたかった。
こんな所、もう嫌だった。
こんな···こんなスラム街じゃなく、ちゃんとした、環境も治安も言い所に住みたかった。
身体は平気でも、心が限界に近かった。
私の心は、もう殆ど壊れかけていた。
そんなある時、私は、通りすがりの黒ずくめの男に救われた。
その人は、実は呪術師で
私を助けたのは
"永遠"に解けない呪いを宿らせて魔族にして
利用する為だっただなんて
その時の私は当然
考えてもいなかった。
―?視点―~数千年前~
私の事を「神様」なんて言うヤツは、正直頭がブッ飛んでる。
祖国を滅ぼし、常に物語に飢えている奴のどこが「神」だ。
一つ言える事。それは、「神は気紛れである」という事。
でも
物語に飢え、創造と破壊を繰り返す、何にもなれない"ナニカ"の方が、もっともっと、気紛れで強欲で、狂ってるんだよ?
次回
3/19
てふてふ過去
「蝶は羽撃いたか~前編~」
???~繧キ繧ケ繝?Β繧ィ繝ゥ繝シ~
戦闘摂理偽装システムにエラーが発生しました。
これより、強制転移プログラムを作動致します。
電子機器の使用は控えて下さい。
―?視点―
今日も、「短編カフェ」と呼ばれた小説投稿サイトを立ち上げる。
しかし···
???「あれ?ログイン出来ない···?」
ログイン画面に行こうとすると、強制的に閉じてしまう。
何度か試していると。
〈戦闘摂理偽装システム―エラーコード.2525〉
と現れた。
画面に水色···っていうか、青白い#コンパスのロゴが浮かび上がる。
あれ?
#コンパスのロゴって、オレンジじゃなかった?
っていうか、
戦闘摂理偽装システムって···何?
次の瞬間、身体が強い力で引っ張られた。
???「···え?ちょ···うわぁぁぁ!?」
そのまま···《《スマホの画面に吸い込まれた》》。
〈強制転移プログラム終了〉
〈これより、_____を開始致します。〉
幕間~その日、その時、その森で~
今回から新キャラ、参加キャラが登場します。
―?視点―
ある夜の事。
私は何時もの様に、森の中を歩いていた。
すると···
???「ハァ···ハァ···どうすりゃいいんだよ···。」
荒い息遣い、全力で走っている足音が聞こえてきた。
木の陰から見ると、誰かがこっちに向かって来る。
???「急いでるみたいだけど···どうしt」
???「うぎゃァァァァァッ!!で···出たァァァッ!?」
その人···右腕が無い、シャチみたいな人は、いきなり現れた私に酷く驚き、飛び上がった。
···すっごいビビりだなぁ···。
???「ご、ゴメン!!で、どうしたの?」
私が問い掛けると、その人は焦りながら言った。
???「あ、ここら辺に建物とか何か無いか!?」
建物···?
こんな森の中にあったっけ···?
···あ···。
そういえば···。
???「えっと···ここ真っ直ぐ、ずーっと進んで行った所に、建物の明かりみたいなの見たよ!!」
???「あ、ありがとう!!」
その人はお礼を言うとすぐに、私が指差した方向へ走り去っていった。
···なんだか、不思議な人だったなぁ···。
自分の家に戻ろうとすると···。
???「おーい!そこの君〜!」
また声が聞こえた。
振り返ると、そこには2人の女性がいる。
1人は、緑色のショートヘアが特徴の、片方にだけ角が生えた、恐らく魔族であろう女性。
もう1人、手を振って私を呼んでいる少女は···。
角も羽や翼も、尻尾も何も無い、見た事が無い種族だった。
???「えっと···何かしたの?」
私が聞くと、不思議な種族の少女が言った。
???「あの···シャチみたいな見た目の男性見なかった?その人、私の事見た途端叫んで逃げちゃってさ···。」
シャチみたいな人って···。
???「その人もしかして、右腕無い人の事?」
???「そうそう!!···で、どっちに行ったか分かる?」
???「その人だったら、あっちの方向に走って行ったよ!!ついてきて!案内してあげる!」
私が言うと、その人は嬉しそうな顔をした。
そして3人で走り出す。
???「···本当に、感謝致します。」
走っている途中、今まで一言も発していなかった魔族の女性が口を開き、凄く丁寧な敬語口調で言った。
···なんだか、不思議な人達に会う日だな。
???「あ、あれだ!!もうちょっとだよ!頑張って!」
前の方にうっすらと、人家の明かりが見えてきた。
―?視点―〜3年前〜
遠くから、争いの音が聞こえる。
偽物と本物が争う声。
その日、後に〈雷撃の大災害〉と呼ばれる戦が起こった。
ヒーローだけじゃない、我々プレイヤーも一丸となって戦わなければ、殺されてしまう。
俺達は森で息を潜め、奇襲作戦を考えていた。
残った仲間の数を確認する。
俺、ギルドマスターのラー、ホルス、バステト、トト、イシス、テフヌト、そしてネフテュス。
計8人。
···あの10分足らずで2人殺していきやがった···。
ラー「ハトホルとセベクが殺された今、我々は全力で敵を討たなければならない。お前らに、死ぬまで戦う勇気はあるか?」
ギルドマスターの発言に、全員が頷いた。
森の屋敷に敵が入ってくるのも、時間の問題。
皆が、あーでもないこーでもないと、作戦をかんがえていた時。
扉ご開け放たれ、10数体の「#イレギュラー」が入ってきた。
ホルス「···敵襲だッ!!」
彼の声と同時に、死の戦いが幕を開けた。
···ダメだ。数が多過ぎる。
倒しても倒しても、次から次へと現れる。
テフヌト「バグドールのやつ···プレイヤーのにあまで作ってる!!」
テフヌトの言う通りだった。
ヒーローだけでなく、プレイヤーの偽物までいた為、到底勝てる数じゃ無かった。
ラー「ぐぁぁ···ッ···!!」
その時、ギルドマスターのうめき声が響いた。
見ると彼は、数体の#イレギュラーに囲まれ、そのうちの1体に身体を貫かれている。
「ラー様ッ!!」
直ぐ様彼の元に行く。
あちこちから悲鳴が聞こえてきた。
トト「バステト!!ホルス!!テフヌト!!クッソォォォ!!」
トトの叫びにハッと振り返る。
そこには、偽物に殺された大切な仲間達がいた。
俺が絶望した隙を突いて、1人の#イレギュラーが斬りかかってきた。
防ごうとしたが時既に遅し。
強力な一撃を喰らい、視界は一瞬で暗転した。
「この···っ!!」
何も見えない中で、闇雲に武器を振り回す。
―意識が無くなるその直前、最期に聞いた叫び声は、一体、誰の物だったか。
―時は遊羅戯18年、徒桜舞う上弦の月夜の事であった。