一話完結。
単発シリーズ↓
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全部読んでみると、最後の話がより楽しめる…かもね?
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目次
帰宅部
あたしは|日下稔《くさかみのり》、帰宅部の中1だ。
「稔、今日はどうする?一緒に帰る?」
帰りのホームルームが始まる前、同じく帰宅部の同級生・|森下沙綾《もりしたさあや》が話しかけてきた。
「いや、今日は別々で。ほら、《《あれ》》もあるし?」
「あ、そうだね」
着席して、先生の話を聞く。その後、「さようなら」の声で、静かだった教室が一気に声で溢れる。その後、みんな散り散りになっていく。
「稔、行きます!!」
今日は補習もなく、放課後残っていく用事は何らない。なら、《《練習》》しなきゃね!
そう言って、わたしは廊下を校則ギリギリラインで早歩きした。
---
校舎を出たら、猛ダッシュ…とはいかない。寧ろダッシュすると、一番はじめにある信号に捕まって、余計体力が削られる。早歩き程度だと、きっちりストレスなく歩くことができる。その後は駅に行く。切符は買ってあるし、信号のことも計算して、一度も立ち止まらずに電車に乗ることができる。
いかに早く帰宅をすることができるか。それが、あたしがやっている『帰宅部』だ。なんにも部活をしていない『帰宅部』ではない。
もちろん、家からの距離などもあるので、いろいろと計算しなきゃでもある。大体は『距離÷時間』。単にタイムを競うだけでなく、披露加減等も考慮する。運動部の一面も持ち合わせながら、計算力と思考力が試される。
来月にある『全国帰宅部大会』に出場するべく、あたしたちは最善の帰宅ルートを考える。沙綾も、あたしと同じ帰宅部の仲間だ。
「よしっ、今日は…」
昨日より、1分早くなっている。手にしたストップウォッチを、あたしは思いっきり握り締めた。
---
『全国帰宅部大会予選通過』と書かれた紙が、学校掲示板に貼り出された。
「えーと。日下と森下……あ、あったっ!」
よしっ、予選通過。かなり順位もいい。
「やったね、稔っ!」
「うんうん、嬉しい!」
次はどのルートでいったら、1位をとれるのか。また、いろいろ計算しなくちゃな。
寝る前に思いついて書きました
とにかくおかしな中学校
わたし・|森由紀《もりゆき》は今日、|東ヶ丘《ひがしがおか》中学校に入学する。かなーり成績はいいらしいが、《《とある問題》》があるらしい。
今日は始業式、クラスを確認して教室へ入る。ワイワイ賑わっている。
「うひゃぁ…」
これぞ、リア充。非リアなんかそっちのけで、自分らばっか…(※個人の意見です!!)ひぃぃ、非リアは黙ってろ、ってわけですかぁ…
だが、そういうことが問題ではない。
ガラガラガラっとドアを開け__
「は〜い、静かに静かに〜っ☆」
っと、底抜けに明るい声。ネームプレートには、『1年2組担任 理科担当 |水科理香《みずしなりか》』と書かれている。
「わたしは、水科理香、み・ず・し・な・り・か!といいま〜すっ☆理科の先生で、好きなものは実験と実験!みんな、よろしくお願いしますっ☆」
問題児__いや、問題…教師?__第1号?は、この水科先生だ。
理科が大好きすぎるあまり、とにかく頭は実験でいっぱい。生徒らを実験台にしようとは思わないものの、古くからの付き合いの先生を実験台にするのがちょくちょくなんだとか。一言で言ったら、『実験狂』。
「|42《静》!」
そう言って入ってきたのは、隣のクラスの先生。|三津七花《みづななは》先生だ。数学の先生で、正確自体は冷静沈着、常識人なのだが__
三津先生は、自分を指さして言った。
「|7、3278。4649《名、三津七花。よろしく》」
…っと、この具合だ。つまり、語呂合わせでしか喋ろうとしない。そこを除けば、間違いなく常識人だ。
「ちょっと、なんなんですか…。私、まだ1000字しかいってないんですが…」
隣からやつれ顔で出てきたのは、国語担当の|与語国葉《よごくには》先生。暇さえあれば、お金のために小説を書く先生だ。
「与語先生、疲れすぎじゃありませんっ!?」
と、廊下を走りまくった足音の後出てきたのは、社会担当の|歴社会花《れきしゃあいか》先生だ。「自分が東ヶ丘中…いや世界の歴史に残る人物になる!!」と、暴走気味かつ変人(…といったらアレかな?)の先生だ。
「ダイジョーブです?」
顔を出したのは、4組の|英川話子《えいかわわこ》先生だ。れっきとした日本人で、外国へ行ったことも外国人の友達がいたこともないのに、常にカタコト日本語&部分的英語で話す。
「…先が思いやられるなぁ…」
そうつぶやきながら、わたしは消しゴムのカスをこね始めた。
これが平常運転。ったく、とんでもない学校に入学してしまった。
深夜テンションって怖いね☆
線香花火
ボチャっという水がこぼれる音とともに、|誠真《せいま》は来た。
「んで、あった?」
「うん、古いけど」
どぎまぎした会話を交わし、わたしはカラフルな線香花火のパッケージを開ける。粘着がなかなかだった。
「ハサミ持ってくるから、破っちゃえば?」
「えー…」
幼稚園の頃の、線香花火の思い出がフラッシュバックする。そういえば、あの時も誠真は隣にいた。
「ライターは?」
「あ、ライター。持って来る」
誠真は自分の家に乗り込み、「ライターあるー?」と言った。数分して戻ってきた誠真の手には、確かにライターが握られていた。
「やるか」
ぶっきらぼうにそう言って、誠真は線香花火を一本取り出す。すこしねじって、火薬の詰まっている方に火をつけたライターを近づけ、火をうつした。
パチパチッ、という音を立てながら、線香花火の先っぽは輝いた。暗い夜を照らす明かりのように、赤と橙と黄色に輝く。その光が誠真を照らして、わたしを照らした。背中のほうから、ヒューッという音が聞こえた。その後、数秒経って、ドンッという音が、わたしの背中を震わせる。
水色の浴衣は、闇にのまれてあまり見えなかった。燃えないように、裾のところを折る。
「…綺麗だね」
「うん」
やがて、線香花火は勢いを失い、光を失った。あたりが暗くなる。背中のほうから、また音とともに、光がはじけて、消える。
「ほら、綺麗だね、誠真?」
誠真は乱雑に、線香花火をバケツの方に放り込んだ。なんの音も立てず、線香花火は冷えていく。
「…こんなことして良かったの?」
「何が」
「ほら…あの件」
「別にいいよ」
そう言って、誠真はわたしに線香花火をもたせた。そして、ライターを近づけて、また火を灯す。
パッと視界が明るくなった。暖色で彩られた目の前は、綺麗だった。焦げ臭い香りもする。熱気を感じた。
「あ、もうおさまった」
そう言って、誠真は線香花火を取って、バケツに放り込む。さっきのが、最後の線香花火だった。
中学3年生の夏。最後の思い出に、という線香花火は、わたしの恋とともに消えていった。
落ちない線香花火が脳内を圧迫してくる〜〜
リクエストありがとうございました。
鏡
鏡は不思議だ。
|自分《オリジナル》と同じに見えるのに、すこしずつ違う。
左右反対だから、だ。
それに、わたしは鏡の子と冷やかされている。
なぜ鏡かって?
左右反対、コピーだから。
---
鏡をじっと覗き込むと、あの子みたいに見える。
わたしは、鏡を割りたくなる衝動を抑え、冷静さを保ちながら家を出た。水たまりに映るわたし、車のサイドミラーに映るわたし、ガラス窓に映るわたし、わたし、わたし___
全部同じなのに、左右が違う。それが気持ち悪くて、視界を塞いでやりたかった。足を止めることもできず、そのまま、ベルトコンベヤーに乗せられたかのように、学校に着いた。
挨拶もろくにせず、そのまま入る。4年生だからって、この空気感はきつい。わたし以外は全員楽しそうに喋っている。あの子も。
そのまま健康観察の時間になって、「|相崎優香《あいざきゆうか》」と呼ばれた。ぼそぼそと言い、そのまま次に流れていく。
「先生、ハンコお願いします」
愛想よく先生のもとへ行ったのは、|和田理衣《わだりい》。右のほうでヘアピンをとめていて、右側に三つ編みを垂らしている。
左側に視線を落とす。理衣の髪は艶がある。わたしの髪は、ガサガサだった。ぼさついていて、ぐしゃっと潰れている。三つ編み一つで、世知辛い世の中を思い知らされる。もうおしゃれという意味もなさなくなってきたヘアピンを、わたしは外す。三つ編みをほどいて、ヘアゴムを机の中にしまう。そのままお茶を飲み干す。
これで、もう鏡の子なんて言われないんだろうか。
あの子が、本当の|鏡の子《コピー》なのに。
人気者に真似された結果、自分が真似したと言われてしまった子の物語。
5分前、
『世界5分前仮説』というものを、貴方はご存知だろうか?イギリスの哲学者である、バートランド・ラッセルが考え出した、哲学の仮説だ。
『10分前』、貴方はお茶を飲んだとする。そして、お茶が入っていたコップは空っぽ。そして、スマホかタブレットかを開き、この小説を読んでいるだろう。
果たして、この『お茶を飲んだ』という動作は、本当にしたのだろうか?というものだ。
普通に考えると、
「ちゃんと飲みました」
と思うだろう。
でも、本当にお茶を飲んだのだろうか?
「コップは空っぽだし、喉は乾いていません。それに、飲んだ記憶もあります」
と思うはず。
でも、世界が『5分前』に作られたとしたら?
空っぽのままコップが生まれ、乾いていない喉を持った貴方が生まれ、飲んだ記憶が刷り込まれていたとしたら?
記憶が『5分前』に作られたとしたら、『世界5分前仮説』を反論することも、証明することもできない。本当に世界は『5分以上前』から存在していたのか、『5分前』に作られたのか、わからない。
話の本質はそこではなく、
「私たちが『過去に起こったこと』と信じていることは、本当に起こったと断言できるのか?」
という、哲学的なものだ。
「わたしたちが信じている『過去』や『真実』は本当なのだろうか?」
「『正しい』『事実だ』と思われているものは、本当にそうなのだろうか?」
そんな問いをわかりやすくしたのが、『世界5分前仮説』。
絶対に違う?本当にそう思います?
この物語、『5分前』に____
むっっっっっっっっっず
オリキャラ
#よるそら と検索欄に打ち込み、虫眼鏡アイコンをタップ。ざっと出てきたのを眺め、ふうっと息を吐く。息はタブレットに引っかかって消えた。
よるそら、というのは、わたしのオリキャラのグループ名だ。|月野《つきの》ルナ、|星川《ほしかわ》スター、|夜色《よるいろ》ネロ、|空木《そらき》スカイ、|座村《ざむら》サイン、|天ノ川《あまのがわ》ミルキの6人。それぞれ夜空に関連するモチーフで、わたしが作り上げた可愛いオリキャラだ。
元々、オリキャラ投稿サイトにアップしたものだ。最初は『安直』『ありきたり』などの辛辣コメントが飛び交っていた。でも、超有名なファンアート専門絵師さんが『愛を感じる6人組描きました〜』と投稿すると、一気に人気になった。辛辣コメントは削除され、褒めるコメントが書き込まれている。
それから、『#よるそら とつけていただければ、二次創作は常識の範囲内でOKです!』と投稿してみると、あっという間に二次創作が増えた。
エゴサじゃないが、そういうものをして、時折二次創作を眺めている。文才も画力もあんまりないので、『素敵な二次創作をありがとうございます!』としかコメントはできない。でも、『ご本人様巡回済み』というコメントがつく。あまりにエロ・グロがすぎるものは運営に報告して、わたしは関与していないようにする。
ただ、時折ものすごい気持ちに襲われる。
あの絵師さんが描いてくれなければ、#よるそら は今頃、情報の海に溺れ、飲み込まれていたはずだった。上品なルナ、明るいスター、控えめなネロ、元気なスカイ、親しみやすいサイン、きらびやかなミルキ。あの子たちは、わたしの力だけでは、死んでいたも同然だった。
あの絵師さんは、もう今はいない。どの活動サイトのアカウントもすべて削除済みで、彼女が描き残したファンアートだけが、いつまでも残っている。
微笑む6人を眺める。生き生きとしたタッチ、綺麗な塗り。ただアイコンメーカーを使い、プロフィール欄を埋めただけのわたしとは違う。
これがオリジナルな気がしてきた。#よるそら は、この絵師さんが作ったオリキャラで、わたしは単に#よるそら のプロフィールをまとめただけ。有名になったのは、絵師さんが作ったオリキャラだから。
そう思えて仕方がなかった。今更『削除してください』とは言えない。大切なファンアートだし、100を超えるコメントがついているし、これで有名になったし、今お願いしたら炎上も免れない。
光る画面に、雫が落ちた。視界が滲む。微笑む彼女らを、どういう気持ちでみればいいのかわからない。
#よるそら は実在しないからね、うちのオリキャラは いろはな だからね
雨の日の出来事
7月だというのに、梅雨が開けていないような雨が続くとある日に、それは起こった。
窓ガラスに点々と雫がつき、その雫が電球の光を反射していた。休み時間、3階にある教室から見ると、すでに部活終わりで帰っている人がぽつぽついた。色とりどりの鮮やかな傘の花が、濡れた地面を華やかにしていた。
「うわー、雨か」
隣でそう言ったのは、|杉森七海《すぎもりななみ》。僕の腐れ縁兼幼馴染的な存在だ。小5までは馬鹿やるぐらいの間柄だったが、今では想いを寄せるような間柄になっている。一方的なのだが。
「雨だね、傘ある?」
「折りたたみあるんだけど、ちっさいからなー。ま、しゃーない、突っ走ればなんとかなるっ!」
活発で元気なところだろうか。どこに惹かれたのか、明確にはわからない。
七海は恋愛に疎い。だから、僕と抵抗なく一緒に帰ろうとしてくる。変な勘違いも起こりそうだ。
「いやー、マジできっついわ。濡れるし、最悪」
「ね…じゃあ、ね」
交差点で、僕と七海は別れる。15分ぐらい歩いてきた。僕の家までは、あと10分だ。バイバイ、と別れる彼女の顔が、すこし傘で隠れる。控えめに手をふるぐらいしか、僕には出来なかった。
---
帰ってテレビをつけると、ローカルニュースだった。小さくてつまらないものしかない。さっさと切り替えよう。動画サイトでも漁るか。そうチャンネルを変えようとした時、あの交差点がでかでかと映った。
『【速報】交差点にて女子中学生1人車にはねられ死亡』
「…っざけんな…」
こんな暴言が出た自分を初めて感じた。外は雨が強まっている。
---
翌朝学校に来ると、七海のことで色々とあった。七海はいわゆる2軍で、それほど注目されるわけでもない。七海の席はぽかんと空いていた。いつもなら、そこにポニーテールに髪を結った七海がいる。
その後、担任から詳しいことを聞かされた。七海を轢いた奴は、もう逮捕されたこと。七海の葬式は、今週中に身内で行われること___
七海の席を見る。
あの時、雨だった。雨の香りがした。みんな傘をさしていた。七海は折りたたみ傘を広げていた。すこし制服が濡れていた。濡れているのを言ったら、陽気に笑っていた。太陽みたいな感じで、雨なんて飛ばすような感じだった。
なんにも言えなかった。七海に想いを伝えられなかった。ただただ過ごしていただけだった。ただ、幼馴染として喋る日々に満足していただけだった。
ぶわっと後悔が押し寄せてくる。昨日が遠い日のように思えてくる。今日は雨だ。一緒に帰る人も、一緒に喋る人もいない。ただ、1人で帰る。
今日も雨だ。
恋愛叶わなかった系の話というリクエストでした。重めの話になっちゃってごめんなさい。
駄作
【「究極の小説家」ヒット作生み出せず駄作】
その新聞の見出しを見た時、ただただ絶句するしかなかった。
|美空夢羅《みそらゆら》。最初は「変わったペンネームだな」と思い、彼女の書いた「煌めいた光」を興味本位で手にとってみただけだった。でも、そこからどんどん引き込まれていった。
彼女は『究極の小説家』と言われていた。本屋大賞を何度も掴み取り、その繊細な表現と丁寧な描写、綺麗なストーリーで読者を魅了していった。わたしも、そのひとりだった。
毎年1冊、彼女は作品を生み出していく。毎年100版を超えていたのだが、最近は落ち気味であった。ついに、今年は87版になった。
十分すごいのに___
美空夢羅にしか書けないストーリー。美空夢羅だけの表現。美空夢羅ならではの描写。彼女は今まで8冊書いてきたが、どれも美空夢羅らしい作品だった。
ヒット作だけが、美空夢羅を構成する要素じゃない。ヒット作かなんてどうでもいい。誰かのヒット作なら、世間の駄作でも___
---
「ダメだよ、こんなありきたりな。美空夢羅?こんな馬鹿げたペンネーム、誰も使ってないよ」
パンッパンと、原稿用紙を机に叩きつけた編集長は、また深い溜息をついた。
美空夢羅は、自分の境遇とまったく同じだった。自分は売れない小説家で、ヒット作は生み出したことがない。でも、苦しいのは美空夢羅と同じだった。
「いい?ここもそうだけど、世間に認められるかどうか、が全てなのよ。それが嫌なら、ネットで公開するなり、自費出版するなりしなさい。わかった、咲良まり?」
「…すみません、書き直してきます」
美空夢羅ってペンネーム、ちょっとお気に入りだったのに。
編集長は、もうわたしのことを『咲良まり先生』と呼んでくれなくなった。別に、そんな呼び名のことはどうでもよかった。
「…もうやめよう、かな」
誰か1人の心に残ってくれればいいのに。何がいけないのか、もうちょっと教えてほしかった。何が?全てが、よ。そんなことを言われそうだ。
見上げた夜空に、光が煌めく。
すらんぷです
匿名ゲーム
光る画面を凝視する。多分、その表情に苦しみは浮かんでない。興奮と笑みが浮かんでいる。
私は、『アマノベル』というサイトで活動している。『三日月リオナ』というユーザーネームだ。本名は大倉美佐、だが。ユーザーネームの由来は何らなく、見つけた夜の月が三日月だったのと、その時に流し見ていたバラエティ番組で、リオナという主人公がいたのが由来だ。適当な割には、気に入っている。
『アマノベル』。匿名でファンレターを送ることができ、落ち着く場所だ。変に目立つこともなく、変に劣等感を抱くこともない。ただ好きに小説を投稿できる、素敵な場所だ。
そんな場所で、私はかつてないほど興奮していた。
---
こんにちは、三日月リオナさん。貴方は選ばれました。
ミステリーがお好きだと聞いて。
11月3日の7時半に、東京駅にて会いましょう。最高の記憶を提供します。丸一日時間を開けておいてくださいね。
もしも参加したいのであれば、駅のタッチパネルの書き込み欄に『アンネーム』と入力してください。そうすると、公共交通機関が使い放題になります。
Have a nice day!
アンネーム
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1番下に添付されていたリンクは、アンネームのダイレクトメッセージリンクだった。ユーザーページは非公開で、小説も日記もなさそうだ。
勿論参加の意図を示した。
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はじめまして、アンネームさん。
勿論、私はミステリーが好きです。絶対に参加したいと思っています。楽しみにしております。
三日月リオナ
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私は東京から離れたところに住んでいる施設育ちだ。中学2年生が遠出するとき、親は心配するだろう。でも、私は心配する親がいない。公共交通機関が使い放題なら、少し歩いたところに島原駅がある。島原駅は寂れているが、確かタッチパネルはある。アンネーム、と入力することも可能なはずだ。
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11月3日、私は島原駅に来ていた。人は殆どおらず、冷たい風が頬を撫でる。タッチパネルの『書き込み欄』の文字をタップして、フリック入力で『アンネーム』と入力する。
アンネーム、はどこかの国の言葉で、匿名を意味する。こういう細かいネタも、物書きには伝わってくる。
入力すると、『スマホをかざしてください』のメッセージが表示された。スマホをかざすと、機械音が乾いた駅に響く。スマホの画面を見ると、黒いアプリがあった。『アンネームアプリ』という安直なアプリ名をタップすると、説明欄が現れる。『ICを使う場合、このアプリを表示したままかざすと、支払い済みになります。アンネームが払ったことになります』
『アンネーム』、割と親切なんだ。そう思いながら、私は試しに島原駅で使ってみた。改札が閉じることなく、さっと会計が終わる。『島原駅→東京駅 支払い完了』の画面が現れ、数秒してから消えて、もとの真っ黒な画面に戻った。
時間があるので駅のコンビニで買い物をした。持ってきた灰色のリュックサックは、『アマノベル』での活動用のタブレットと無線キーボード、財布、ゴミ袋が入っている。施設育ちなんて、こんなものだ。タブレットとキーボードは、まだ親がいた頃に買ってくれたものだ。親がいない理由は、単なる浮気だ。
無人のコンビニの品揃えは乏しく、取り敢えずサンドイッチの詰め合わせセットとおにぎりの鮭、ペットボトルのお茶を買っておく。駅弁なんて洒落たものはないので、添加物が含まれているこれらしかないのだ。
新幹線に乗り込み、『アマノベル』の小説を書く。日記機能で、非公開状態で今の状況も書いておく。
段々と人が増えていく。隣は空席だ。取り敢えず、買っておいたものとリュックサックをおいておく。サンドイッチはなかなかで、小ぶりのものが5個入りだった。たまごサンド、ハムサンドがあった。
終点の東京駅に着くと、雪崩のように私は押し出された。『アンネームアプリ』を開くと、『青髪のが私だよ』というメッセージが現れた。
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東京駅は人混みでごった返していた。すると、背が高い青髪のボブヘアが目に留まる。前髪は長い。地毛だと思われる青い髪をなびかせ、悠々と歩いている。
謝罪を繰り返しながら行くと、黒いパーカーを着ている女性がいた。高校生ぐらいだ。
「すみません、『アンネーム』さんですか?」
「ああ。アプリはある?」
「はい」
『アンネームアプリ』を見せると、微笑んで、「じゃあ行こう」と言った。
「何処へ?」
「このバスで」
返答になっていない。バス停にバスが来ていた。落ち着いた海色。それに乗り込むと、私はふっと眠っていた。
---
「起きろ。時間だ」
夢と現の境界線を迷いながら目覚めると、『アンネーム』がいた。彼女は私が起きたのを確認すると、また別の人のところに行った。
ほこりっぽい匂いがする。湿った匂い。嫌な匂いが、鼻をつんとつく。
壁にもたれかかって寝ていたようだった。立ち上がって、よく見てみる。コンクリートで作られたような密室。鉄製のドア。そこに、4人の同級生と思わしき女子。『アンネーム』と私を含めると6人。
「うわ、あ…よく寝た」
最後に起こされたくせ毛の彼女は、目を呑気にこする。
「よし、よく来てくれた。自分の誘いに応えてくれて嬉しい。自分は『アンネーム』。荷物は君らが背負っているし、何も取っていない。スマホもタブレットも、何も見ていない。君らについては、『アマノベル』程度の知識しかない。本名は明かさず、ユーザーネームでいいから、各々自己紹介してくれ。じゃあ、自分の隣の君から」
『アンネーム』に指さされた三つ編みの彼女は、ビクッと身震いしてから弱々しく言った。
「私は…『|髙梨純麗《たかなしすみれ》』といいます。恋愛小説をよく書いている中学2年生です。よ、よろしくお願いします。そんなに両親には心配されませんでした。『アンネーム』さんの誘いに参加した理由は、いじめを受けていて不登校だからです。よ、よろしくお願いします」
「いじめ、か。物騒な世の中になったな。次は君」
時計回りなんだろう。指さされた彼女は、はつらつとした声で言った。
「あたしは『アスカ』。よくバトル系の小説を書く中2だ。参加理由は面白そうだったから。両親はしばらく帰ってきてない。よろしく」
「君の小説から、大体の性格は推測できたよ。次は君」
私が指さされる。
「私は『三日月リオナ』。よくミステリー小説を書いています。参加理由は、最高の記憶をもらいたかったからです。両親の浮気で、今は施設で育っています。ここで最高の記憶を手に入れたいし、別に死んでもいいかな、ぐらいです。寧ろ死ねるのは本望」
「君は結構論理的なんだろうな。では、君」
よくわからないコメントを返された。さっきのくせ毛が言う。
「私は『むえあ』。よく二次創作を書いてるよ。#よるそら とかの小説だよ。参加理由は、暇だったから。両親は事故でいなくて、おばあちゃんちにいるんだ。おばあちゃんちはお金があるけど無関心だったから、遠出してみよって思ったんだ。よろしくね」
「知らない二次創作だな。最後、君」
彼女の小説は、読んだことがない。というのも、私が全然、よるそら とやらを知らないからだ。
「あ、はーい。私は『さくらん』。よく学園ものの小説を書いてまーす。参加理由は特にないでーす。暇だったから、かな。両親は無関心で、いつも私を邪魔そうに見るから、遠出するからお金頂戴って言ったら喜んで渡してくれましたー」
「わかった、これで自己紹介を終わろう」
『さくらん』については何も言及しなかった。
「では、ゲームの説明をしよう」
そう言って、『アンネーム』は四角い長方形の白い紙と黒いサインペンを配った。白い紙には、真ん中に小さく、両面テープが貼られている。剥離紙がついたままだ。
「そこにユーザーネームを書いて、胸元に貼ってくれ」
「ちょっと待って。あたしらだけじゃなく、『アンネーム』の自己紹介もしてよ」
「それもそうだな」
私はさっと『三日月リオナ』と書き、剥離紙を剥がしてポケットに突っ込む。
「自分は『アンネーム』。適当に呼んでくれ。呼び捨てでも構わない。高校2年生だ。どこの高校かはさすがに個人情報だが、一応関西出身だ。女子、誕生日は6月13日。このゲームを何故実施したか等は、君らがクリアした時に言おうと思う。どうだ、満足か?サインペンは返してくれ」
やや上から目線な態度に苛つきながらも、私はサインペンを返す。彼女はサインペン4本をパーカーの中にしまい込んだ。
「さて、君らにやってほしいことは1つ。ここから脱出してくれ。だが、自分は協力しない。欲しいものがあれば、アプリから注文してくれ。そこのドアから、物資が提供される。トイレに行くときは言ってくれ。専用の個室へ案内する。だが、ドアから物資が提供された瞬間や、トイレに行くときなどに脱出するという卑怯な手は禁止だ。ものに対してならいいが、自分や他のメンバーに暴力などをふるうことは許されない。そのようなことが3回続いた場合、強制退場、失格となる。ただ、故意にやったとみなされない場合はカウントしない。その判定は自分がおこなう。制限は設けない。外では時間が進まないから、安心しろ。5億年までなら許すが、5億年経ったら強制終了、失格となる。失格の場合は、存在自体が抹消される」
ざっと言われた説明を理解する。5億年までなら許す、は5億年ボタンを連想させる。
「ただ、それだと君らは脱出する術がないだろう。ヒント程度に、遠回りな謎を出しておく」
『アンネーム』が壁を押すと、黒いモニターテレビが現れた。そこに表示された謎は、
【🍮→②○○ 🍎→①○③○○ ①②③を使え】
という、実に簡単なものだった。
まあ、少しは付き合ってやるか。
そう思いながら、「まあ、私はわかりました」ともったいぶってみる。案の定、みんなは考え込んでいた。そんな絵面を楽しむように、嗜むように、『アンネーム』は微かに笑う。
「あ、わかったかも。意外と簡単ですね」
声を上げたのは『髙梨純麗』だった。黒いミディアムヘア。青いデニム生地の、膝より少し下まであるジャンパースカートと、白いブラウス。黒いスニーカーは、よくいる中学2年生だった。
「解説しちゃっていいですか?」
「どうぞ」
「1個目は『プリン』で、当てはめると②がプ、になります」
「そこまではわかるよー」
「2個目は『アカリンゴ』で、当てはめると①がア、③がリ、になります。つなげて読むと、ア・プ・リ。アプリ、つまり『アンネームアプリ』を使えってことになる…ますよね?」
「はい、同じです」
2、3分で理解した『髙梨純麗』は、なかなか頭の切れる人物なのだろう。恋愛もいいが、たまには恋愛ミステリーでも書いてみたらどうなんだろう。
アプリを開く。真っ黒の画面ではなく、簡易的なものだった。青い長方形が4つ。灰色の背景に、赤、青、黄、緑。
【物資提供】
【状況整理(AI)】
【小説執筆】
【次の謎】
「あ、言っておくけど、電話やメールはいけないから。助けを呼ばれたら、意味がないだろう?」
要らない説明を聞き流す。
「じゃ、【次の謎】をタップすりゃいいってこと?」
「そういうことだよ」
にしても、何故このような機能の中、【小説執筆】があるのだろう。インターネットが使えるなら、好きなだけ『アマノベル』で書ける。Wi-Fiは繋がっているようだし。
密室をまた観察する。天井には埋め込まれたライトが1つ。コンクリートの灰色の壁は、何もついていない。床は木製。木目はあるが、血痕など、小説に出てきそうな怪しいものはない。
それだけ確認してから、【次の謎】をタップする。
【このゲームには、次の事件が関係している。 於美末无之与无左川之无之計无】
「万葉仮名、かー…」
『さくらん』が諦めたように言う。万葉仮名は、漢字の読みのみをとって表す書き方だ。日本史の教科書のコラム欄についていたような気もしなくない。謎、というには簡単すぎる。
「確か、この无は、ん を表すはずだよ」
「そうですね、『むえあ』。私も同感です。美しいはみ、左はさ、与はよのはず。末はま」
となると、○みまん〇よんさ○○ん○〇ん。計はけだろうから、○みまん〇よんさ○○ん○けん。し、は1番使うらしいから、1番多い「之」にでも当てはめてみるか。
○みまんしよんさ○しんしけん。試験?まんしよん…はマンション、だろうか?
さ〇しんしけん。さあ、さい、さう…さつ?殺人事件?
そういえば、於はお、だった気がする。
おみまんしょんさつしんしけん。
麻績マンション殺人事件、なのか?
その事件は、全国的に有名になった事件だ。麻績マンションで、幼児が酷い姿で殺されていたのだ。未解決のまま、忘れ去られたのだ。
「麻績マンション殺人事件」
そう呟くと、みんなの目が見開いた。
謎の下にある回答入力欄に、【麻績マンション殺人事件】と入力すると、【Clear】という文字が現れる。またホーム画面に戻る。
【次の謎】を迷うことなくタップする。
「…『三日月リオナ』さん、貴方は一体」
「ただのしがないミステリーアマチュア小説家です。典型的な方法を用いただけです。それより、今は私でなく、『アンネーム』に聞くべきではありません?何故『麻績マンション殺人事件』が関係しているのか」
私は『アンネーム』のほうを見た。へらへらと笑う彼女は、「自分の道を進め」と呟く。【状況整理】をタップし、AIへ【麻績マンション殺人事件について教えて】とプロンプトを入力する。
すると、AIはどこかのニュースサイトから引用した文章を出力した。隣りに住んでいた3つ年上の少女の嘆き悲しむ声、殺人犯の予測、麻績マンション周囲の情報。殺害されたのは|板倉綾香《いたくらあやか》という5歳の女児。両親が少しコンビニへ外出している間、2時頃に殺害されていたようだった。
「『アンネーム』、貴方は一体何者なんですか」
『アンネーム』はふっと笑い、スマホを取り出した。深い青のスマホカバー。何かを打ち込んだ。
「あっ…『三日月リオナ』さん、ホーム画面を見てください」
『髙梨純麗』に言われ、私はホーム画面に戻る。【メールが届きました】と上部にかかれていた。タップすると、『omi−manshonn-5 amanoberu6』という文字列があった。差出人は書かれていないが、先程の『アンネーム』の行動的に、『アンネーム』からだろう。
「麻績マンション、5、アマノベル、6…共通項なんてなさそう」
ポニーテールに髪を結っている『アスカ』が言った。
「麻績マンションでは5歳の女児が殺されたんだよね?アマノベルを使っている6人。私・『髙梨純麗』さん、『三日月リオナ』さん、『アスカ』さん、『さくらん』、『アンネーム』ってこと?」
『むえあ』が言った。
「うーん、何にもなさそうだよねー」
『さくらん』が呑気に呟く。
「そもそも、こんな数字とアルファベットがごちゃ混ぜの文字列2つに意味があるとは思えない」
「そうですよね、『アスカ』さん…『三日月リオナ』さんはどう思います」
「こういうタイプのは、大体IDとパスワードな気はしますが」
IDとパスワードなら、こんな文字列が2つあっても説明はつく。パスワードから推測するに、『アマノベル』のIDとパスワードだろう。
インターネットを開き、『アマノベル』のサイトを開く。1度『三日月リオナ』のマイページをログアウトして、ログイン欄に先程の文字列を打ち込む。
エラー404、という表示。
「エラー…」
このIDとパスワードは、『アマノベル』のもののはず。そもそもこのメンバーは、接点が『アマノベル』ぐらいしかないのだ。
『アンネームアプリ』に戻る。そういえば、【小説執筆】がある。タップすると、IDとパスワードが求められた。先程のIDとパスワードを打ち込むと、『omi』というユーザーネームのマイページが現れる。
「この文字列を【小説執筆】のログインフォームに打ち込むと、『omi』というアカウントに入ることができます」
そう言うと、みんなが入ってきた。
執筆した小説一覧を見ると、【最後の謎】というものがあった。非公開状態だ。
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謎を解明できた、ということで合っているかな?
君等の推測通り、これには『麻績マンション殺人事件』が関係している。自分は御存知の通り『アンネーム』だ。
最後の謎だ。謎ではないかもしれない。
自分は綾香の隣に住んでいた。綾香の3つ年上で、殺害された時はやるせなさしかなかった。次第に忘れ去られていった。
お願いだ。どんな人にでも記憶に焼き付けることができる、6つの物語を書いてほしい。最高の記憶を、読者に提供してほしい。
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「書こう、得意ジャンルで」
そう言い、私はタブレットを起動させた。私はミステリー担当だろう。『髙梨純麗』は恋愛、『アスカ』はバトル、『むえあ』は二次創作ではなく、友情もの、『さくらん』は学園もの担当だと推測できる。
あと1つ。何がある?…ホラーか。ホラーものがない。だが、このメンバーの中にホラーを得意とするユーザーはいない。
「わかりました」
各々、『麻績マンション殺人事件』を題材に書きすすめた。
『髙梨純麗』は、殺人行為に踏み入った殺人犯の動機の恋愛を。
『アスカ』は、殺人のためにやった行動の計画のバトルを。
『むえあ』は、生前の綾香との友情物語を。
『さくらん』は、犯人の黒い周りの学園物語を。
『三日月リオナ』は、犯人の殺人ミステリーを。
そして、『アンネーム』は、それを全てを繋ぐホラーを。
「『アンネーム』、貴方のやりたいことはわかった。協力しますよね?」
『アンネーム』はふっと笑った。
「自分がしたいことを自分もやるのは、当然のことでしょう?」
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「書いた…」
10000文字の大作。他のメンバーも、完成したようだった。各々の文才が今まで以上に発揮されていた。
固いコンクリートを撫でる。もう乾いていて、冷たい。この感触を感じるのも、あとどれぐらいだろうか。
「投稿、するよね?」
みんなで自分の書いた小説の【投稿】ボタンをタップする。【投稿が完了しました】というのが現れた。
「『アンネーム』、真相を話して」
『アスカ』が言った。
「わかったから、落ち着いて。まずは、協力ありがとう」
そう言って、『アンネーム』はゆっくりと話し始めた。
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自分は麻績マンションに住んでいた。綾香とは仲良しで、いつも遊んでいた。8歳だから、10年前のことだった。いつものように遊ぼうと思っていたら、何故かパトカーが停まっていた。何事かと思い両親に聞くと慌てていて、綾香の親に電話していた。その後、
「あやちゃんはもういないんだって。悪い人にやられちゃったの。ほら、あそこの雲のかげに、あやちゃんがいるよ」
と、わざとらしく幼児にさとすような声で言った。8歳だからその文脈で、綾香は殺されたとわかった。子供扱いされたことより、綾香が殺されたことにショックを受けた。
その後、何度もニュースを見た。犯人、早く捕まれよ、と思っていたが、そんな願い虚しく犯人は捕まらず、ニュースは次第になくなっていた。
7年ぐらい経って、段々と忘れていった。そんな中、小説執筆の趣味を見出し、『アマノベル』を見つけた。気ままに投稿していた。それが3年続いた。ふとニュースサイトを立ち上げると、『麻績マンション殺人事件10年』という見出しが現れた。
綾香の顔が脳裏にふっと浮かんだ。その後、感情の津波が押し寄せてきた。犯人なんて捕まらなくていい。ただ、綾香のことを、あの酷い事件のことを忘れないでほしい。
そんな中募集をかけたのが、君たちだった。
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「じゃあなんで…8歳で10年前なら、今は18歳じゃないですか」
『髙梨純麗』が言った。
「別にどっちでも良かったんだけど。でも、年下のほうが親近感が湧くかと思って。ほら、自分、童顔だろう」
確かに、高校2年生にしては少し大人っぽい感じはする。
「見つけやすくするために、最近青く染めたんだ。見つけやすかっただろう」
どうでもいい情報を出される。
「…これで、もう大丈夫ってことですか」
「そうさ。もう解散、帰りたい人から順番に言ってくれ」
「その前に、やりたいことがあるんだ」
『むえあ』がいい出した。
「LINE、交換しない?メールアドレスでもいいから。なんか、特別な感じがするし」
そう言われ、私は反射的にLINEアプリを開いていた。
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コンクリートの密室から解き放たれた。少しねむったら、東京駅にいたのだ。『アンネームアプリ』をかざして、島原駅へと向かう。『アンネームアプリは最寄り駅したらアンインストールしといてね』と『アンネーム』こと『如月』から来ていたので、島原駅で長押ししてからアンインストールしようと思う。
あの出来事が、本当に夢のようだった。『アマノベル』には、『omi』の投稿が6件あった。
『omi』でログインすると、本当にログインできた。何故かは知らないが、『如月』の技術力なのだろう。
島原駅で降りる。ちゃんとアンインストールしてから、空を見た。前までは、灰色のコンクリートに白いライトが埋め込まれただけだった。でも今は、広くて青い空が広がっている。周りを見ると、田舎っぽい、だだっ広い町並みが広がっている。
麻績マンション殺人事件。綾香さんを想いながら両手を合わせる。酷い事件を子孫に伝えていこう。私も、その一員になろう。
白い雲が視界から外れた。青い空に、自由に飛んでいけと言わんばかりに。
※本作に出てくるものは、実在するものと一切関係がありません。
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