修学旅行の班決めの話。修学旅行行く話は私が修学旅行行ったら書くかもしれないぜ
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目次
わたしの修学旅行計画
華さんに、修学旅行の万博研修の同行を持ちかけたのがおととい。
五分休みだった。華さんがわたしを呼んだのは。
3年5組と3年2組は、4階と3階で分かれている。華さんは2組から、わざわざわたしの教室まで訪ねてきた。
「さはしー」
去年と変わらぬ呼び方で、わたしを探す声に、ふと懐かしい気持ちがわく。クラスが離れたとて、一緒に帰ることは変わらなかったのだけれど。
「どうしたの」
「万博の件なんだけど」
すぐに、断られたのだとわかった。
だって華さんはわたしと違う。女子力も、コミュ力も。同じ場所にいるべきじゃないと思っていた。
しかしながら彼女も身勝手な人間だ。だいたいわたしを縛りつけたのは彼女だ。わたしが他の友達と疎遠になったのは、華さんがわたしにばかり話しかけるから。それなのに、離れていくときはそっちからなのか。わたしを身寄りなしにして、勝手に離れていく神経にむかりとした。わたしの女子力がないのは知った話だろ。彼女がすでに、2組で陽キャグループと仲良くしいてるのは知っている。
「芦屋もいっしょにいくって言ってるんだけど、大丈夫?」
「へ…」
断られはしなかったらしい。いまからでも別のひとを見つけるかと腹をくくっていたときだったから、なんだか気の抜けた声が出る。
芦屋というのは、3組の芦屋かける。昨年度同じクラスだった男子だ。コミュ力に欠けるわたしにしてはわりと親しかった、のだと思う。まあそれは、もとより華さんと芦屋が親しくしていたからなのだけど。このふたりは習い事が一緒だから、それも納得である。
というか、たぶん芦屋は華さんに好意を抱いている。もし本当にそうだとしたら、いやきっと本当にそうだ、それじゃあすっごい気まずいじゃないか。
「いや、なんでまたしても女子二人のところに…」
「なんか一緒にいく友達がいないらしー」
嘘だ。アレに友達がいないはずがない。
さらに気まずい。というかこれ、わたしが行っていいやつなの?
「えっ、逆にわたしが行って大丈夫なのです…?」
及び腰な言葉が、口をついて出る。そういうのが私の癖で、コミュ症たる所以である。
「えっなんで。あっ芦屋入ってくるのやっぱ嫌?」
こちらのことを何も見越さない発言だった。
なにを考えて、どう配慮しようが、華さんには関係ないのかもしれなかった。
ああ、ここで断らば、わたしはほんとうに己の意思のない人間になる。わたしよ、己の意思を示せ。
「いやいや、ぜんぜんいーよ」
「おけ。先生に伝えとくね」
手を振って彼女を見送る。班のメンバーは、決まればおのおのの先生に報告することになっていた。
芦屋は華さんと回りたかったのだろうか。それだったら申し訳ないことをした。
いや、わたしがいつもの如く遠慮を見せると思っての、かもしれない。しかし先に誘ったのはわたしだし。
それとも、私のことを緩衝材として利用しようとしてるとか。なんかそんな気がしてきた。まあバカの考えることだ、と苦笑してみる。
考えるのはやめた。2組と3組と5組の女子と男子と女子。変なグループだなと思った。
俺の修学旅行計画
斉藤からのLINEを、未読無視していたことに気がつく。
『芦屋、万博誰と行く?』『一緒に行かん?』
修学旅行の、万博研修の誘いだった。
『見るの遅れた』
とりあえず、一言。
どう送ろうかと思案し、指を弄ぶ。
そして、文字盤を打つ。
『ごめん、もう行く人決めた』
LINEのホームに戻って、上から五つ目のアイコンを押した。クロミの、紫っぽい女子のものだ。名前は「hana」。
キーボードを立ち上げる。
『万博なんやけど』
『行く人いないから一緒に回ってもいい?』
何度も見直して書き直して同じような文を作り続けた。『行く人いないから』なんて、嫌な感じにならんな、とか考えて。斉藤に送ったときには気にしていなかったことが、今は無性に気になって仕方がない。なんや俺、ほんとにいつも通りのLINEでいいやんか。
やけくそになって、送信ボタンを押した。二通の、緑色の吹き出し。既読はつかない。
送ってしまったメールを見つめながら俺は、これはたぶん、これまでの人生でいちばんの決断だろうなと思った。
○●○
隣のクラスを覗けば、彼女は女子と親しげに話しているようだった。クラス替えで『佐橋がいないと話す人がいない』と嘆いていたわりには楽しそうだった。まあそんなもんか。
あのLINEのあと、比較的すぐに返信はきた。二通。
『あたしは佐橋と行くけど』
『一緒にいく???』
佐橋。佐橋まこと。去年と一昨年、クラス同じだった女子。ちょっと変人。小1から何回かクラスは同じになっていたけど、ちゃんと話したのは中1が初めてだった。たしか小学校のときは、わりとクラスの中心にいたと思う。面白かったかはさておき、面白い奴という認識ではあった。
年が上がるにつれ、彼女はクラス内での発言が減っていったように感じる。雰囲気に乗り遅れたのか。もともと女子力や周りを気にするタイプではなかっただろうから。最近は、申し訳程度の触覚を出しているが、でかくて額のほそい丸眼鏡のせいで形がちょっとおかしい。そんなことで、俺の評価は変人だ。
まあ、別にいいんだけど。一緒に行っても。喋りゃあ面白いことはそうだし。
…いや待てよ、これは逆に好都合かもしれない。俺は考える。
ふたりで行くよりも、一人間にいた方が怪しくないんじゃないか、と。
さすが俺。よく気づいた。心の中で拍手喝采。
男女二人だと、確実に周りからなんか言われるだろうしな。
男子女子女子だったら、別にばれなくね? 違和感は減っただろ。
あたしの修学旅行計画
佐橋に万博研修にさそわれて、正直すごく嬉しかった。
佐橋は、あたしが唯一ではないから。佐橋は、あたしのことを未だに「華さん」と呼んだ。
仲良くなったのが小6。小学生のときは、人のことをさん付けで呼びましょう、というルールがあって、仲のそんなに良くない人には、自然と下の名前にさんを付けていた。あたしと佐橋は、小6までいちども同じクラスになってなかったから、さん付けからの始まりだった。
あたしは「まことさん」から「佐橋」に呼び方を変えた。
佐橋は3年間とすこし、ずっと「華さん」のままだ。
それとなく聞いたら、「人のことをあだ名で呼んだことがないから」と苦笑された。言われて、ひやりとした感覚があたしを襲った。
あたしは、佐橋がまともじゃない、と思う。人と仲良くしたいなら、そんなこと言うだろうか?
佐橋は、あたしとの間に壁をつくろうとしている。距離を一定に保とうとしている。それ以上、近づかれないように。あくまで相手を尊重するようで、それはあたしにとって少しくるしい。
だからあたしは、佐橋がいれば佐橋のほうにいくし、出来るだけ一緒にいなきゃと思う。じゃないと、距離は長くなっていくばかりなんじゃないかと感じてしまうから。
そしてさっき。佐橋から万博研修の誘いがあって、すごく驚いた。カラオケも勉強会も誕プレ交換も、あたしから誘うことはあったけど、佐橋から提案されたことはなかったのに。
うれしい。まわりの女子の誘い、さっきのうちに断っといてよかった。
○●○
『万博なんやけど』
『行く人いないから一緒に回ってもいい?』
濡れた髪を拭きつつ、スマホをいじっていた。LINEの通知が、立て続けに二件。「カケル」という名前が表示されている。
カケル。芦屋かける。同じスクールで、選手コースで水泳をしている。あたしは三歳から、芦屋は十歳から。無論、あたしの方が三秒くらい速く泳げる。
芦屋とはふつうに喋れる。いつも佐橋と別れたあとは二人で帰ってる。いちばん近しい男子だ。
すこし思案。すぐに既読をつけるのは癪で、ちょっと放って通知の表示が消えるのを待った。
どうしよーかな。
佐橋と行きたい。まあ、べつに芦屋が増えて困ることはない。断る道理はない。
芦屋と佐橋も別にいつも喋ってるし、まあ大丈夫だろうな。決めてからは早い。
『あたしは佐橋と行くけど』
『一緒にいく???』
二通立て続けに送信した。
女子二人と男子一人。なんだかんだ面白いメンツになるな、とつくづく思った。