名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
人気者のあの人と恋できるって夢見たい!
注意
このお話はホラーや暴力などの描写を含みます。
「いいなぁ〜。」
わたし・|佐野彩香《さのあやか》は教室のすみにある机に突っ伏した。そして、黒板の方をチラチラ見る。
そこには大勢の女子___いやライバルが1人の男の子を取り囲む。
彼は|岸谷理生《きしたにりお》。私が恋している人気者だ。かっこよく、運動もできる秀才。つんとしているがときどき優しい。
わたしが手に持っている恋愛小説は、見事なまでにハッピーエンドなのに、なんで現実はつらく厳しく、うまくいかないんだろう。
はあ。
どうしたら、うまくいくんだろう。
「席替えをします。」
そういえば、今日は席替えだっけ。
ぼーっとしつつ机を動かす。指定の位置へ揃え、ため息をつく。
「よろしく。」
「あ、うん。」
「わたし、彩香。…知っているよね。」
「俺は理生。」
「えっ?」
り、理生くん!?
「はい、授業はじめます。今日は…。」
授業が頭に入ってこない。
まじめに授業を受ける理生くん、かっこよすぎるよ…!!
汗がだくだくたれていそう。
「はい、ノートとって。」
ノートの字が震える。ああ、最高!
「あ、あのぅ。」
休み時間、話しかけてみる。
「ん?」
「理生くーん♡」
女の子たちをよそに、話す。
「えっと、えっと。」
チャンスはつかむしかない!!
「前から、す、好きでした。付き合ってください!」
「い、いいよ。俺も好きだった。付き合おう。最近話題になっている連続殺人犯からも、守ってみせる。」
えっ!!
付き合えるのっ!?
う、嬉しすぎる!!今どんな顔してるんだろ、わたし、幸せっ!!
「…やか!彩香!」
「わっ!…友美。」
|長谷川友美《はせがわともみ》。席が隣で、仲良くなった子だ。
「5分前、もうじき授業!」
「えっ!ありがとう。」
夢、か…。
正夢だといいな。
「なあ。」
「えっ?」
図書室に行き、本を返却する。
すると、理生くんがいた!
夢じゃないよね?
「放課後、自習室に来い。」
「わあ、うん。」
放課後。わたしは自習室に来た。
「彩香、ありがとな。俺にしつこくつきまとわれなくて、嬉しくて。地味だけど、さ?俺、彩香に惚れたんだ。」
「う、うん。」
「だからさ。」
カチカチカチ。
どこかで、音がした。
理生くんが、自習室のカギをしめ、ポケットに入れた。
「俺、彩香を傷つけてみたい。」
「えっ?」
カッターナイフ!
怖い怖い怖い怖い!!
「助けて!助けて!!」
泣き叫ぶ。理生くんが、狂った!
「お願い!助けて!やめて!」
「ふふふ。かわいいなぁ、そんな泣き顔が。もっと泣いてよ、さあ!!殺さないよ。だって彩香は俺の彼女なんだもん。たったひとりの彼女、殺すわけにはいかないさ。暴れないで。殺さないから。大人しくしていれば、いいんだ。」
「そう。」
理生が恋愛対象から外れた。今は殺すべき相手に変化した___
「なら護衛するわ。わたしはね、戦うのは大好きなの。」
なんだろう。この人といると、狂ったようになってしまう。
この人の泣き顔を見てみたい。さぞかわいいだろう。
ペンケースからペン型のハサミとナイフを取り出す。
「覚悟ぉぉぉ!!」
「ひぃっ…!」
かっわいい…!
「ずっと見ていたいなあ。」
次は誰に恋しようかな。
おみくじ −恋愛編−
ザ・恋愛小説はじめて書いてみました!!
ガランガラン。
パンッパンッ。
(蒼真くんと、両思いになりますように。)
白い息を吐きながら、わたし・|坂本つむぎ《さかもとつむぎ》はお参りを済ませた。
1月2日、神社はさほど混んではいない。ベビーカステラとフランクフルトだけしか屋台が出ていないあたり、やっぱりこの|寄糸神社《よりいとじんじゃ》はさほど大きくない神社なのだと感じさせられる。
|北上蒼真《きたかみそうま》くん、わたしが片思いしている相手だ。さほど目立っていないが、雰囲気がどことなく好きだ。一緒にいると落ち着けるというか。
「え!?」
キョロキョロしている蒼真くんを発見!!
な、何してるんだろ??
とりあえず、ベビーカステラを買う。ほかほかと紙袋の中から湯気が立つ。
「うん、美味しー!!」
ほんのり甘くて、毎年1回だけ食べてる味。
「つむぎ?」
「むっ!?」
どこかで蒼真くんの声が聞こえた。
わたしの名前を言っている。
「あ、やっぱりつむぎじゃん!」
「そっ!!あっ!べ、ベビーカッ!ステラ食べますぅ!?」
「じゃ、食べるわ!」
しまったっ!!適当なことを言ってしまった!
「美味しい!ほんとつむぎは美味しそーに食べるよな!」
「え、あ、うんっ。」
なぜわたしは食いしん坊キャラとして蒼真くんに定着してるんだろ。
「お、おみくじひいてくるからぁ!!」
ベビーカステラの袋を押し付け、おみくじへと向かう。
しまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまったしまった
恥ずい恥ずい恥ずいいい!!
とりあえず、おみくじ引いてみるか。
「すみませーん!おみくじ、引きたいですけど。」
百円玉を巫女さんにわたす。
「どーぞ。」
あ、このタイプなんだ。
箱の中に手を直に入れるタイプではなく、箱の中から棒が出てきてその棒に書かれている数字を伝えて対応するものをもらうタイプ。
「えーっと、53です。」
「はいはい。どうぞ。」
げっ!!
き、凶っ!
新年早々、不安すぎる…
「つむぎ〜、おみくじどうだった?」
「え!あ、うん…そ、蒼真くんも引くの?」
「うん、どうなるかな〜。」
でも、おみくじのアドバイス通りに行動してみよう。
恋愛のところを見る。よし、決めた!もうすぐに行動してやる!!
「29です!…き、凶じゃん。くそー!俺さ、友達とおみくじ言う通りゲームやってるからなぁ。」
「あっ、あの。」
「つむぎ?」
「えっと、そのぅ。」
こ、告白してみよっかな。
「俺さ、つむぎが好きなんだよなっ…あ、ごめ、変なこと言った。」
「えっ、い、いいですよっ、よ、喜んで。」
「マジ?やった!今日から彼女な!」
「うん。」
わたしのおみくじが、大吉に思えた。
2人の恋愛の結果は、大吉。
恋愛:自ら進むと吉。
こんにちは、むらさきざくらです💜🌸
テーマはおみくじ。1月8日だからお正月めっちゃ過ぎてるんですけどね〜
今回は恋愛小説、純粋な。
王道になっちゃいましたね💦ちょっと風変わりなやつ好きなんですけど。
まあ王道以外だとだいたいホラー絡むかするのでバッドエンドになっちゃうんですよね。だれかコツ教えてほしい。
ちなみに恋愛編ってあるけど特に続編とか考えてない(リクエストほしー!)
ではぁ!
捨てられたあの日。
ぼとっ。
「ごめんね、ごめんね。」
主人の声は、これが最後だった___
いつ生まれたのか、わたしは覚えていない。
なぜか命が宿り、意識が芽生えた。気づいたらわたが中に入っている人形になっていた。肌色の布で作られた、着せ替え人形。目は黒いくるみボタン、口は刺繍されてにっこりと笑っていた。黄色の細い毛糸や糸を縫い付け、金髪に見立てていた。
そしてさまざまな服も用意してもらった。パッチワークでつくられた青い服や、カラフルな小さい花柄の服、無地の白い服。ヨーヨーキルトを縫い付けた小さなバッグ。
主人と呼んでいる少女は、わたしのことをリリカと名付けた。だから、わたしはリリカなんだと思っていた。
まだ1年生ぐらいの年齢だった。わたしを三つ編みのおさげにして、主人が気に入っているしろと水色のさわやかなチェックのワンピースを着た。そしてビーズ刺繍でつくられたバッグを持って、遊んでいた。
主人の家庭に弟が生まれ、主人にまた1年生がまわってきたころ。
ぼとっ。
「ごめんね、ごめんね。弟が、引き裂いちゃうから。」
主人の最後の声を聞いた。
紙袋に入れられて、服も一式ビニール袋に入れてゴミ捨て場に捨てられた。
悲しかった。捨てられたんだ。
待った。主人が、ここへと来て、
「久しぶり。元気だった?」
とひょっこり現れてくれるのを。
「かわいい!」
いくつのときが経っただろう。わたしは久しぶりにめざめた。よく晴れた日のことだった。
男の子が、中2くらいの男の子がわたしを拾った。ずいぶん汚れていたと思う。
わたしは洗濯され、綺麗になった。
第二の主人に出会った。男の子の妹だ。わたしをよく遊んでくれた。
嬉しくて、感動した。
主人の部屋のクローゼットに飾られ、数年後。
「おじゃましまーす。」
「いらっしゃい。」
女の子、高2くらい。主人の部屋に来た。そして、わたしと目が合う。
「…リリカちゃん?」
「どしたん?」
「なあ、彼女?」
「うっせーな、彼女だよ。」
主人だ。前の。
わたしは、嬉しかった。
主人と再会できたんだ。
こんにちはむらさきざくらです💜🌸
今回は感動系!捨てられたけれど、妹のためにお兄ちゃんが拾ってくれた。そのお兄ちゃんが昔の主人と付き合って再会!みたいな超わかりにくいストーリーです…もっとわかりやすい小説を書きたい!!
名前のリクエスト待ってます!
ゴミ拾い
わたしは小学校の先生をしている。
クラスには1人、わたしが一目置いている生徒がいる。|友子《ともこ》だ。
勉強がよくでき、リーダーシップもあり、家庭科、音楽ができる素晴らしい生徒だ。運動神経は悪いが話をよく聞くため跳び箱と水泳くらいはできる。運動ができないといってもクラスには大きくプラスにはたらいてくれる。
今日は短縮授業。宿題プリントを取りに行くためわたしは言った。
「ごみを集めて捨てておいてください。」
ごまかす人がいるためあまりやりたくないが、仕方がない。
「みんな、ごみ集めて〜!」
友子が引率してくれている。
安心して、わたしは教室を出た。
しばらく歩くと、佐藤先生に遭遇した。
「佐藤先生、こんにちは。」
「こんにちは、そちらのクラスはどうですか。友子さんがいるので、やはりいいクラスなのでしょう。」
「ええ、まあ。そちらはどうですか?」
他愛のない会話をし、わたしは佐藤先生の抱えている宿題プリントを見た。
1単元先の基礎プリント。
わたしは焦り、そっと立ち去った。
“友子さんがいるので、やはりいいクラスなのでしょう。”
本当に、いいクラスなのだろうか?
見かけは友子がまとめてくれるため、いいのかもしれない。
でも、友子自身は?
このクラスが嫌になっているのだろうか?
まとめるのに苦労しているのだろうか?
もし、友子がいなくなったらわたしはやっていけるのだろうか?
わたしだけで、友子相応の、世間の力に合わせられるのだろうか?
自問自答の渦に巻き込まれ、わたしは気づけば宿題プリントを手に取り教室のある廊下へといた。
やけにシーンとしていた。
他のクラスは多少のおしゃべりが聞こえるが、わたしのクラスだけ静かすぎる。
そっとドアを開ける。
「あ、先生!ゴミ、集めときました!どこに出せばいいんでしょうか?あ、まだゴミが残ってましたね。」
手にはさみとカッターナイフを持ち、笑顔でそう言う友子。赤黒い血と涙の跡、そして倒れている友子以外の生徒らが、夢であれとわたしは願うしかなかった。
むらさきざくらです💜🌸
すっごいホラーな作品になりました…!
過去作品のリメイクです!
特に話すこともないので名前リクエストしていってくださいね〜
わたし、モブじゃないので。
「おい、モブゥ!」
「はいっ、なんでしょうか?」
わたしはルエム、この屋敷のメイドだ。
二食、住み込みで働いている。この屋敷の主人はルリアだ。傲慢でいつもきらびやかな格好をし、自慢と悪口、嫌味ばかりのお金持ちだ。
わたしの親がこっそり契約したらしく、死ぬまで働き、しかもお金は全て親のもとへと行く。
わたしは奴隷同然だ。
---
今日も、わたしはルリアから「モブ」と呼ばれている。ぼろぼろのメイド服を着て、むだにだだっ広い、まるで見かけはいいのに中身がすっからかんのルリア同然の屋敷を掃除する。
時を止める能力があればいいのにな。
そう思いつつ、わたしは怒られながら掃除をしていた。
---
「新しいメイドだ。コーラルという。」
「よろしくお願いします。」
「こんなダメイドだが、しっかり教育を受けるように。」
「はい。」
美人で清楚そうな少女だ。かわいそうに、と哀れに思う。
「ルエムさん、よろしくね。」
「うん。」
---
コーラルはよく働き、要領も良かった。新人なのにわたしにアドバイスまでしてくれて、とてもいい気持ちだ。
ある日、わたしはコーラルに誘われた。
「一緒にこの部屋を掃除しましょう。」
「わかった。」
そう言って、雑巾を手に取った。
「ここだけなんです。」
「え?」
「調べたんです。ここだけ監視カメラがない。ご主人様のお部屋だけ、安心しきっているようにカメラをつけていない。」
ぼそぼそとつぶやくコーラルが、わたしには不思議だった。
「わたしはコーラル、コードネームはジュエリー。薬物捜査派遣部員のひとりよ。周辺に薬物反応があって、調べるとここにたどりついた。さらに精密な検査を重ねると、この部屋に薬物があるとわかった。そして、ついに発見したのだ。これを。」
コーラルは小さな袋に入れられた粉を見せつけた。
「いま、連絡を入れた。早急に仲間は来る。安心して、ルリアは逮捕される。」
「モブ!コーラル!掃除をさっさとしろ!おい、モブ!」
「あの、ご主人様。」
逮捕されるなら、不満をぶちまけてやろう。
「わたしの名前、お忘れになりました?」
「モブ、はやく掃除をしろ!」
「わたしの名前はルエムです。モブではありません。」
「お前の名前はルエム、それはわかっている、早くしろ!」
「では、モブとはどういう意味で?」
ルリアを引き付けている間、コーラルは仲間に説明していた。
「脇役だってことだよ!そんなこともわからないのか!?」
「そもそも、なぜ脇役と思ったのです?」
「お前がダメだからだよ!地味だからさ!!」
「そうですか。でも、ダメなのはあなたでは?紅茶の佐藤加減にうるさい、こんな屋敷の掃除を毎日、頭が悪いのではないでしょうか?だいいち、あなたが富豪なのは先祖のおかげです。働きもしないで、あなたは財を食いつぶしていく。わたしはきちんと仕事をこなしている。どちらがダメでしょうか?」
「うるさいな、モブ!!」
「わたしが脇役とでも言いたいのでしょうか。しかし、わたしという人生ではわたしが主人公です。あなたを意地悪で傲慢なモブとして認識させていただきますね。」
感情的なルリアにわたしは淡々と返していく。
「薬物を発見した、ルリア!」
凛とした声が聞こえた。
「違法ドラッグの罪で逮捕する!!」
「ルエム。」
「コーラル、!」
頼れる相棒、みたいなたくましさでコーラルは立っていた。
「失礼だけど、今回でここを脱退するわ。仲間が見つかったんですもの。」
「そうか、ならそうしろ。」
何やら話していたけれど、わたしはルリアがいなくなって気持ちよくなった。
ある殺し屋の物語
「なんですか?」
「…殺す依頼です。」
カランコロン、ととびらの鈴が鳴る。
物語に登場しそうな静かなバーではないが、そういった雰囲気を醸し出すわたしの店。
わたしの職業は殺し屋だ。商店街の裏通りにある店。
「そうですか。でも、最近の殺し屋はむやみに殺してお金をいただくというわけではないんです。わたしだって、見つかったら捕まってしまうんです。そうなったら、あなたも終わりなんです。最近は、バーとして運営する方が儲けているので、そろそろ殺し屋を降りようと思っていまして。」
「そんなの、百も承知ですわ。」
亜麻色の髪を巻いていて、上品そうな若い女の人だった。目つきは鋭く、凛としていた。
「わたしの名前は、|林すみれ《はやしすみれ》です。」
「すみれさん、簡単にこの紙に書いてください。そのあと、わたしの質問にお答えください。」
「わかりましたわ。」
コピー用紙をすっと差し出す。
ボールペンの音が、静かな店内に響く。
「この店は、バーと殺し屋のお店です。殺し屋をしていると知ったら、酔った客が通報してしまうと思いまして、急遽プレートを『close』にしています。どうですか、ワインでも飲みますか。」
「いえ、大丈夫ですわ。」
「書けましたわ。」
「そうですか。」
わたしは紙をさっと見た。
名前 林すみれ
年齢 25
性別 女
出身 ーー大学
住所 ーー町
電話番号 ーーー
これがすみれのプロフィールだ。わたしは悪用されると思われないよう、最低限のことを聞いている。
名前 奥木みのり
年齢 25
性別 女
殺したい相手はみのりらしい、出身大学も同じだ。
「さて、なぜ殺したいと思ったのです?」
スッとワインを差し出す。特製のノンアルコールだ。
「ありがとう。
わたしのクラスに、みのりがいたの。彼女はわたしの彼氏をとって、手柄も取ったの。詳しいことはあまりいいたくないけれど、とにかく憎いの。幸せなときを過ごして死にたいんだけど、あいつがいたら無理なのよ。」
「そうですか。ご契約、しますか?」
「するわ。どれくらい払えばよいの?」
「成功払いなので、まだです。ただし、ご忠告しておきます。そのみのりさんとやらがいなくなっても、本当にあなたは幸せをつかみ取れるのでしょうか?」
「…!」
「できれば、わたしも殺したくないのです。本当に、良いのですね?」
「ええ。」
そう言って、ワインを飲んだあと、すみれは帰って行った。
わたしは休日、住所を見てみのりのところへ向かう。
そして、特殊な睡眠薬を飲ませた。
「もしもし。」
「あ、どうだったんですか?」
「成功です。来てください。」
そう電話をして、待つ。
鈴が鳴る。
「殺せましたよ。これで、あなたは幸せなんでしょう?」
「ええ、そうよ。それに、わたし、幸せをつかみ取れたわ!」
「そうですか。」
わたしは銃を取り出し、一瞬の隙も残さずに首元めがけて撃った。
ばたり。
血が飛んでいた。
「幸せの絶頂で死ぬ。叶えましたよ。」
わたしは、静かにかばんから財布をぬきとり、処理をはじめた。
夢追人 −本屋の場合−
「売れないなぁ。」
ほまれは、ぶつぶつつぶやいた。
大学生くらいだが、髪はボサボサ、身なりは質素な服装にぼろぼろのエプロン。地味な色合いだ。
絵を描きながら、ほまれはそう言う。ほまれは絵描きだ。幼いときの夢は、絵を描きながら本屋さんをする。そんな夢だった。
くじけず頑張った結果がこれだ。
そろそろ、本屋の看板を下ろそうかな。
---
「わあ。すごおい!」
「あ、どうしました?」
幼い少女だ。
(夢を抱いたあの頃のわたしとそっくりだ…。)
「あたし、本がとっても好きなの。」
「そうですか、どのような本がお好きですか?」
「えーとね、あたしね、お父さんたちが“テンキンゾク”なの。もう少しで、引っ越しちゃうんだ。だから、その前に、そこだけにある、古い本屋さんで本を買いたいの!」
つたない喋り方で、少女は言う。
「ねえねえ、この絵、とっても素敵!あと、ここにしか売ってない本をちょうだい!」
「……。」
ほまれは黙り込む。
「おねえちゃんがかいた本はないの?」
「あ、ありますよ。でも、それを売るのはっ…。」
「この絵といっしょに買うから、いいでしょ?いくらでもいいから、ね?」
「では、いくらお持ちでしょうか?」
「にひゃくえん!」
「では、100円で売りましょう。」
そう言って、ほまれは100円を受け取った。
---
そして、何年も時が経った。ほまれは40代半ばになった。
「もう、しめるか…。」
「すみません!」
声が響いた。
「誰ですか?」
「あのときの子供です。ほら、絵を買いたい、貴方が描いた絵はないのとしつこく聞いてきた子供です!」
「あ、ア…!」
記憶が蘇る。あのときの。
「今、書店をめぐる旅をしています。何か、とっておきのはありますか?」
「あ、あります!」
ほまれは慌てる。
「これ、まだ持ってるんですよ。」
そういって女性は、ぼろぼろで黄ばんだ本と色あせた絵を出した。
タイトル『ほんやさんのゆめ』
魔訶不思議な実験室
「きゃあ!」
「わあ!」
廊下を歩いていると、とつぜん悲鳴が聞こえた。右にある空き教室のようだ。
バッと少女が飛び出してくる。
「わああーっ!」
さらに少女は悲鳴をあげる。
「す、すみません!!お怪我はありませんでしたか!?」
「え?あ、うん、大丈夫。」
「よかったあ、さ、入ってください。何かの縁ですし!」
少女はわたしと同じくらいだったが、見たことない顔だったし、白衣の中にニットと風変わりな服だった。
「えっ?あ、あなたは??」
「よろしく!」
「え、あ、うん…。」
「助手さんって呼んでいいですか?」
「あ、うん…。」
わたしの名前、助手じゃないんだけどな。
教室のたなにズラリと機械がならび、はんだごて、基盤、その他諸々もあった。机の上には失敗したであろう機械が無残な姿で置かれている。
「これって、何をつくっているんですか?」
「『ドリコン』です。『ドリームコントローラー』の略ですね、リモートコントローラーとかをリモコンっていうような感じです。」
「??」
「夢をコントロールできる道具です。じつはわたしはチャペ星というところから来ていて、いま、わたしはあなたと『通訳アクセ』で話せています。」
「ち、チャペ星?『通訳アクセ』?」
わからないことだらけだった。
「この道具、廃盤になったんです。夢をコントロールできるのは危険だ、と。悪夢をみせつけて、トラウマを植え付けることもできる。だから、完成はかなわなかった。でも、わたしはこう見えて理系です。父がつくっていたグループのひとりだったので、こっそり情報を集め、つくっていくのです。情報のかけらを寄せ集めたのですから、案の定うまくいかなくて。材料はとてもあるので、いいのですが。
そして、完成したら安全装置をつけるつもりです。高性能な人工知能が、安全か判断してから夢遊電波を放出。悪夢にうなされる人も、夢で楽しいことをしたい人も、幸せになれるんです。」
「素晴らしい発明ですね。」
わたしにはそう返すことしかできなかった。
「だから、手伝って欲しいんです。」
「何を手伝えば?」
「いえ、《《手伝ってもらっています》》。ありがとう。」
「え?」
にっこりと微笑む彼女の口から、言葉がこぼれた。
「いま、貴方を実験体として使ってもらっています。おかげで成功しましたよ!」
単発続きだけど書きかけをためたのを放出してるからごめんね!
復讐、代行しましょうか?
「な、何これ…??」
わたし・|燐《りん》は戸惑っていた。ダイレクトメール。
---
こんにちは、 一ノ瀬燐 さん。
妬み、嫉妬などなら、本店にお任せあれ!
復讐の代行、完璧に行います。
住所 横風町2940 横風|2940《ふくしゅう》で覚えましょう!
初回の代金はいただきません、お気軽にお越しください! 横風妬み店
---
だいたい、横風妬み店なんて知らないし、大して妬みも抱えていない。
でも、知っておいて損はないかもしれない。お店、行くだけ行ってみようかな。
---
カーナビに横風妬み店と入れてみる。すると自動的にスタートした。
風変わりな商店街の裏に駐車場があり、ぶらぶら歩いてみる。
横風幸せ店。
横風関係店。
横風価値店。
横風旅行店。
似通った風変わりな店たち。そして、横風妬み店があった。
ぼろぼろの小屋だ。
木のドアを開いてみる。
「やあやあ、燐。来てくれて光栄さ。」
妙な口ぶりで、少女は言う。目つきも悪く、この小屋含め趣味が悪い感じだ。
「あたしゃ宣伝したいんだよ、でもお金がなくてね、燐は幸運さ。そして来てくれてあたしも幸運。」
けらけらと少女は笑った。
「さあ、どんなプランがいいのかい、燐?」
紙を差し出された。
---
⑴ 復讐代行
お名前と住所を言うだけで、かんたんに復讐代行します。運が悪くなるから殺すまで、さまざまなレベルに対応!
⑵ 心を汚す
綺麗な心の人に汚れをつけこみ、悪人にするプラン。罪悪感がそこまでないし、自爆してくれるのでラクラク!
⑶ 呪い・魔術の伝授
さまざまなニーズに対応した魔法をお教え。ことづけを守れば安全安心なので初心者さんにオススメです!
⑷ 心を清める
心を綺麗にするプラン。
支払い方法
お金には対応しておりません。
記憶や大切なものをいただきます。
返却不可能なので、あしからず。
---
「まあ、心を清めるにしておきます。」
少女はつまらなそうな顔をして、わたしに手をかざす。すると、なんだか綺麗なモノが体に染み込んで行く気がした。
「じゃあね。」
「ありがとう。」
---
なんなんだ、あの女。
普通、妬みがあるんじゃないか?
あいつは客にならない。復讐してもいいけど、しゃくになるし商売だからやらないが。
もう二度とここに行き着かないようにしてやる。
あんなやつがいたら世の中すでに幸せになってるはずだから。
掴み取れない幸せを維持して、人々がそれに努力できるよう、今日も商売をする。
幸せな家族
短いよ
わたしには、家族がいる。
母、父、姉。
でも、母は家事をしない。
父はニート。
姉はヤンキー。
すべてわたしの役目になっている。
「どこで育て方を間違ったんだろう…。」
深夜、そんな声がする。
リセットボタンを押した。
すべてを、リセットして、幸せな家族をつくらなければ。
記憶が飛んだ。
破壊
比較的短めで雑(ネタ尽き)
あるとき、わたしは能力を手に入れた。
破壊する能力だ。
ぎゅっと念じれば、かんたんに破壊できる。たとえば鏡餅を割るときだって簡単だ。たやすいことである。
---
ある日のこと。
ウザい先生、いじめて煽ってくる友人に酷い目にあって帰ってきた。
いじめを報告しても、そんなことはないと言ってきた。
そして、名案を思いついた。
壊れちゃえ。
先生、友人、校舎。
全部壊れちゃえ。
__ドッカーン__
遠くでそんな声が聞こえた気がした。
---
翌日、先生と友人が死んでいたと報告された。死体がばらばらになっていたらしい。
そして、校舎も無惨な姿で破壊されていた。
「あはは。やったあ。」
そして、ニュースが相次ぐ。
政治家の問題、環境問題、戦争のニュース。
ぜんぶ、こわれちゃえばいいのに。
ぎゅっと右手を握る。
**ドッカーン**
「えっ?」
わたしだけが生き残った。
すべてが無惨な姿で残されていた。
「そ、そんなっ…。」
わたしのせいだ。
わたしは念じた。
わたしを破壊してください。
ドッカーン。
紅魔館の日常
「咲夜〜。」
カチッ
わたし・|十六夜咲夜《いざよいさくや》は時を止める。
わたしはレミリア・スカーレット、レミリア様が主である紅魔館で働いているメイドだ。種族は人間、能力は時間を操る程度の能力。
レミリア・スカーレット。わたしの主人で、吸血鬼、運命を操る程度の能力の持ち主だ。
わたしはレミリア様のところへ行き、時間を再び流す。
「どうしましたか、お嬢様。」
「いえ、読んでみただけよ。」
「お姉様ー!」
フランドール・スカーレット。レミリア様の妹で、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持っている。
「わたしのプリン、食べたでしょ!」
「知らないわよ、小悪魔かが食べたんでしょう?咲夜、プリン買って、小悪魔を呼びつけといて。」
「かしこまりました。」
そしてプリンとその他の買い出しに行く。
豪華な扉を開けると、そこには美鈴がぐうぐう眠っている。
しょうがない。
わたしは時を止めてナイフをセット。そして時止めを解除。
「ふぇっ!?あ、咲夜さん!すみませんねぇ…。」
「眠らないように。」
|紅美鈴《ほんめいりん》。紅魔館の門番だがいつも眠っている妖怪だ。気を使う程度の能力を持っている。
---
プリンの買い出しを終えたあと、レミリア様にお出しし、図書館へ向かう。
ここにはパチュリー・ノーレッジと小悪魔がいる。
パチュリーは月火水木金土日を操る程度の能力を持つ。精霊魔法とかが操れる。
「小悪魔。」
「パチュリー様ですね!パチュリーさ…。」
「プリン、食べた?」
「プリン?あ、美味しかったですよお!とろとろで、ぅ!」
「あれ、お嬢様のプリンだったんだけど??」
「す、すみませぇん!」
わたしは小悪魔に言っておいた。
「うるさいわねぇ…小悪魔、どうしたのよ?」
パチュリーだ。
「あ、すみません、魔道書の整理で!じゃあ!」
「あとで覚えてなさいよ。」
そう言い残し、わたしは、図書館を立ち去る。
何気ない日常の一コマだけど、わたしにとってはまあまあ楽しい。
いや、すごく楽しい。
東方の二次創作物です。
地球侵略計画実行中。
「今から、地球侵略計画会議を実行します。会議に来ていただいたみなさんを紹介します。以後、お見知りおきを。
議長、マーラ。
副議長、ユンレ。
書記、オーク。
賛成派長、ミライ。
反対派長、ミレイ。その他のみなさんで議論して、最終的に投票で決まります。」
高度な知能を持つインレ人が住む星でのこと。祖先は絶滅をまぬがれるため、地球という星に避難用として人間、ヒトを置いた。だが、争い合い、殺し合いが多発して、滅ぼすべきか議論するべきとなり、いまこうしている。
武力は圧倒的な差があり、巨大な額をつぎこまなくても滅ぼすことなどたやすいことである。|ここ《インレ星》では争いも起きず、平和な星だ。
|わたし《リンダ》はいま、多数決を取らなければいけない。
さて、議論を聞こう。
個人的には賛成なのだが…
「では、ミライ、賛成意見を言ってください。その後、質問時間を取り、反論時間を取ります。」
「ただいま、資料が到着しました!」
オークが叫ぶ。
「時差でしょうか、たった今観測したら、すでに滅んでいました!」
ネタの消化だから雑い。
あの子殺し
このクラスに殺された人が現れた。彼女は学校内で殺されたまま放置されていたという…
** `あたしだけ死ぬなんて、許さない`**
---
ある日のこと。
「莉子が、死んだ…。」
先生がそう告げた。
|山中莉子《やまなかりこ》。
わたしのクラスメートだ。
莉子はなにかといじめられている子だった。
だから、自殺したんだろうか?
いじめリーダーは|木下優樹菜《きのしたゆきな》だったけど…。優樹菜が殺したの…?
---
「`ねえ。優樹菜を殺してよ。`」
莉子の声だ。殺気に満ちた声だ。
「っ!莉子。」
「`じゃあ、あたしが死んだ意味がないじゃない。`」
じ、自殺…?
幸い、わたしは殺し屋の物語を愛読する。マネをすれば、いいのかな?
---
わたしは、優樹菜を殺すことに成功した。一ヶ月ほどかかったが、確実なる毒を飲ませ続け、じっくりと毒殺した。
でも、わたしは知らなかった。
優樹菜の親しい人から恨まれ、着実に殺される計画が進んでいることを。
そうやって、負の連鎖がつながってゆく。
優樹菜って、雪菜さんと間違えないでくださいね!ね!ね?短くてごめんね!ね?
自分
|私《わたし》は、中学生になった。
新しいことだらけで、ワクワクしていた。
そんな期待も虚しく、|私《わたし》は浮いた。
なじめなかった。
混ざることすら不可能だった。
そんな気はしていた。
校風が、合わなかったんだ。
親も、何も救いの手を差し伸べてくれなかった。
|私《わたし》は、どうすればいいのか分からなかった。
もう、無理なんだよ。
どうせ、変わり者だよ。
「普通」でも「あたりまえ」でもないんだから。
そんなとき、ふと、思い立った。
あれからずいぶん経った。
みんな、忘れてくれたんじゃないだろうか。
少しずつ、|私《ぼく》は覚悟を決めた。
その覚悟は、本物へと変わって行く。
|私《ぼく》は、学校へ足を踏み入れた。
話した。
みんな、気づいてなかった。
ほっとした。
ありのままではないけれど、
少しでも受け入れてくれたんだ。
少しずつ。
少しずつ。
|私《ぼく》は安心していく。
よかった。
受け入れてくれて。
|僕《ぼく》が、学校に来られなかった理由。
すべてを受け入れる人にも出会えた。
---
スカートに足を入れれなかったんだ。
髪も伸ばせなかったんだ。
みんなの輪にも入れなくて。
好きになっちゃいけないのに好きになって。
こんな|僕《ぼく》を受け入れてくれて
ありがとう。
天然な夢の支配者たち
ちなみに「雪女との物語」にも登場予定だよ!やったね!
「もぉ、またですかあ?疲れましたよぉ〜…。」
「ほら、もっと仕事しなさい!」
「厳しいですよっ!」
|一ノ瀬 燐《いちのせりん》
|夢遊森《むゆうもり》の主人。
夢と幻惑を操り、作る。別名多忙な夢の支配者。
関西弁がややある、しっかり者のど天然。
|凛花《りんか》
燐に召喚されたお手伝いさん。夢を整理して取り出す。分厚い本「夢道書」に夢を書き記し、不必要だと判断した夢を食う。
標準語で話す、常識からやや外れたどど天然。
夢遊森の奥の奥に、小さな小さな小屋があります。そこには2人の夢を操るひとが住んでいます。燐と、凛花。それから、ペットの夢魔・ゆめ。
分厚い「夢道書」を抱え込み、ぱらぱらと凛花はめくります。
「凛花?まだなの?」
「ちょ、ちょっと、待ってくださいよぉ!」
「もう、効率が悪いわね。」
ぶつぶつつぶやいています。
「目次もさくいんもないんですもの!燐様は夢道書を一発で開けられるんでしょうけど、わたしは無理なんです!」
「10万年鍛えたらたやすくなる。貴方はまだまだいっぱいの時間があり、幸い不死身なんやよ。そんなの、鍛えるしかないでしょう?」
じつは、燐は100億歳を超え、凛花はもうすぐ900歳になります。
「あっ、あっ、燐しゃま!悪夢が!」
「どうしたん、ゆめ?…た、大変!悪夢のウイルスがっ…!凛花、わたしはこの事件の対処をするから、夢の管理をしていて。」
パソコンにむかい、燐とゆめは焦ったように睨みつけます。
そう。ごくたまに夢の管理をしていてもエラーが起こってしまい、悪夢のウイルスがはびこってしまうのです。こうなったら、不可解な夢が連続した!と騒ぎになってしまいます。
そのエラーを見つけ、伝えるのがゆめの役目です。軽いものだとしょっちゅう起きていて、その度にゆめが食べているのですが…
たまに、対処できないものが現れてしまうのです。
「ゆめ、破片でもかけらでも食べれない?」
「これが精一杯なんです。」
「そう。えーと、この…。」
忙しそうにカタカタとパソコンを打ち込む燐。
「ゆめ、わたしがいなくなった時のために覚えて欲しいんや。まず、この『夢検索ソフト』を使って、エラーの夢を探す。そして『エラー発見』をするためすべてを選択してここの『エラーを探す』をタップ…。」
今日も燐はせわしなく、凛花はほそぼそと、ゆめは癒すという仕事をしています。
リクエストいただいたお名前
一ノ瀬 燐 光来仙さん
凛花 莉南さん
お名前のリクエスト待っています!!
(単発では結構名前使うので)
現実
「っ…助けて…。」
わたしは、そうつぶやく。
親はわたしに虐待まがいのことをし、学校ではいじめられ、唯一のよりどころだった友達も自殺して亡くなった。
わたしには保険がかけられていて、死亡するとお金がもらえるとかなんとか。
狭いアパートの一室。母と父が開けたであろうアルコールの瓶と、ごみ、ごみ、ごみがよりいっそうアパートを狭くさせる。
もし、神様がいるのであれば、こんなことはしないだろう。
わたしは《《ひとりの人間》》なのに。
!!
急に、部屋ががらりと変わる。
《《みんなにとって普通》》の、《《わたしにとって豪華》》な、子供部屋。
神様は、やっぱり、いたんだ!
すると、ひとりの少女が現れた。
「神様です。あなたを酷い目に遭わせすぎました。反省の意を込めて、貴方を幸せにしてあげましょう。ただし、いじめなど、人が傷つくことをしないように。」
「はい、わかりました!」
さっきまでかすれていた声が、たちまち潤う。
それから、わたしは幸せに暮らした。
少女にとっての《《神様》》__この物語の《《作者》》は、とても満足しているそうです。
傍点使いたさに書いたとってもメタい(?)お話。たまにはいいんじゃないかな。
不老不死の少女
不老不死。
老いることも死ぬこともない力。
それは死ぬことの恐怖を和らげ、一生の孤独という恐怖を脅かす。
わたしは、不老不死だ。
100年ほど前…
---
「飲め。」
「イヤです!やめてください!」
わたしは秘密薬品開発グループ『コマエリ』に買い取られていた。友人もポツポツできたが、その大半が死んだ。
大人たちはわたしを実験体として薬を飲ませた。失敗や副作用で、友人は死んだ。
わたしはある日、病を完全に治す薬を飲まされた。事前にインフルエンザにかかり、飲まされた。病気は治った。
そして、1年ほどそのままだった。副作用がないか、じっくり調べられた。
そして、驚くべき副作用が発見された。
不老不死という副作用だ。
カプセルホテルのような部屋で、ただ眠っていた。やがてグループの長が逮捕されても、わたしはなぜかカプセルホテルのままだった。
助けて。呪縛から、わたしを開放して。
しわがれた声で、少女は叫ぶ。
お隣さんは殺人鬼。
「こんにちは。」
すがすがしい青空の下、その声とともにインターホンが鳴る。
ここは霞が原アパートの一室、405だ。
そこには|江藤真子《えとうまこ》が住む。
「はーい。どうしました?」
活発で元気な大学生だ。素直だけれど常識人で、人から好かれている。
「わたし、隣の404室に引越ししました、|細田舞子《ほそだまいこ》です。よろしくお願いします。」
ふかぶかとお辞儀をした彼女・舞子は、礼儀正しくにっこりと微笑む。大学生くらいだと推測できるが、真子よりも小さく、幼く見える。それは、真子が身長が高く、凛としているからかもしれなかった。
「よろしくね、何かあったら聞いて。」
「はい、これからよろしくお願いします。」
そう言って舞子は引っ込んでいった。
---
真子はため息をつき、ふぅっとソファーにもたれかかる。
「はあ。疲れちゃった。」
そうつぶやき、スマホを探る。テレビで好きな曲を流し、コーヒーを淹れる。
なかなか優雅なひとときだ。
そしてゲームアプリを開く。
「ま、ちがえた。」
手元が狂い、ニュースアプリが開く。ずっと使ってなかった。
あわてて戻そうとした真子は、戻さなかった。ゲームアプリよりおおごとなものが飛び込んできたのだ。
---
--- |豊木町《とよきちょう》で殺人事件 ---
きのう、豊木町にて殺人事件が発生。殺されたのは|的場香織《まとばかおり》さんと見られる。アパートの一室で倒れており、毒殺と見られる。防犯カメラに犯人が写っていたが、いまだ犯人は捕まえられていない。
---
そこに添付された写真は、アパートの防犯カメラにうつる写真だった。
それには女性がひとり。顔や髪型こそ違っていたが、どこか舞子のようだった。そう真子は感じた。
豊木町は真子の住む地域よりは遠いが、車や交通機関を用いればたやすくいけるところにある。
ニュースでも豊木町のあたりでアパート殺人事件が発生していた。
「嫌…ああ…っ!」
ピンポーン。
インターホンの音がなった。
真子は恐る恐るドアの前を見た。
舞子さんじゃないように。お願いします。殺されたくないです…!
そう願いながら覗く。
「ひっ…!」
舞子だった。にっこりして待っている。その笑みが、逆に怖い。
「あ、ぁ、ああっ…!!」
真子は恐怖に飲み込まれていった。
ドアを開ける。
思い込みすぎのはずだ。
「引っ越しの記念品として、みかん、いかがですか。お祝いというか。」
「あ、ありがとうございます。見たいテレビがあるので、また。」
適当な理由をつけて、真子はドアを閉めた。
みかん。毒が入ってるのかもしれない。
怖い。怖い。
真子はうずくまっていた。
そして、舞子はゆっくりとドアを開け__
この先は、あなたの想像にお任せします。
賭け事とバー
太陽が照りつけるほど蒸し暑い日のこと。
外はぎらついていたが、マイクはすずしんでいた。親のバーを受け継ぎ、「ワインズ・バー」を営んでいる。クーラーも効いていて、涼しい。
けれど、少し暑かった。それはワインや酒を飲んでいたからだ。
ワインを飲みながら、常連と長話。それこそがマイクの至高の時間で、生きがいだった。
その日は暑すぎて客も来なかった。ワインも気持ち生ぬるくなっているような気がする。
「すみません、この店で上等なワインをひとつ。」
カランコロンとドアが開き、客はメニューも見ずに注文した。
常連だろうか。
そう思ったが違った。こんな安ったるい店に似合わない美しい女だ。美しいドレスを身にまとい、綺麗でつやつやさらさらな髪は綺麗にカーブ、巻かれている。化粧も濃すぎない、薄すぎない、絵に描いたような女だ。
マイクは手際よくワインを出した。女はカウンター席に座り、べっとり話しかけてきた。
「わたしはエマよ。賭け事が大好きなのよ。」
紅の唇を開き、話す。そのあと、ワインをちびちびと飲む。
「そうですか。あいにくここはバーです。賭け事をする場ではありません。ここで宝くじを買うか、どこに賭けるか、そういうのを悩むのが常識です。ここではそれだけしかできません。ここはカジノルームもありません。」
「いいえ、わたしはそんなつまらないものになんて賭けないわ。だって、そんなの嫌よ。損しか考えられないでしょ?」
「まあ、そうですか。」
「だから、ここで賭けようと思って。わたしが勝ったら…そうね、このワインが気に入ったわね。このワインをひとびんちょうだい。貴方が勝ったら、いくらほしい?」
「…大してお金を持っていないですよね?賭け事が好きなのならば。」
「いいえ?」
くすっとエマは笑う。そしてワインのグラスに口をつける。
「ふふ、わたし?賭け事が好きなんだけど、お金はありふれているのよ。お金がありすぎるから、こうやってお金以外の、例えばワインを賭けているの。」
自分のことを高く感じている女だとマイクは思いつつ、グラスを拭く。
「お金を持っています?嫌ですよ、持ち逃げなんて。」
「お金ならちゃあんとあるわ。わたしはリンダの娘なのよ。」
「り、リンダ夫人!」
一代にして財をなした、凄腕の元社長。まさか、こんなお方にあんなことを、とマイクは焦る。
「ふふふ、だからお望み次第よ。」
「け、けれども、働いているのです?」
「もちろんよ。母にしつけられたもの。だから今は兄が社長、わたしが秘書。数少ない休日にはこうやってバーを巡って賭けているのよ。」
そして微笑みながら、エマは寄り添いつつ言う。
「ふふ、わたしが求めているのは商売繁盛、景気が上がること。だから、こうしましょう?この店の売上額が、例年より上回ったらわたしの勝ち。どう?」
マイクはふっと笑った。
最近、大っぴらに言えることじゃあないが売上額は減っている。ここらへんで一度損をして、がっぽり得したほうが経営も楽だ。
「乗りましょう!」
---
一ヶ月後、エマはマイクの店へ来た。
「計算してちょうだい。」
「…ま、まさか。」
最高記録更新。本当だ。なぜ?落ち気味だったのに。
「卑怯な手段なんて使ってないわよ。わたしは知人に勧めただけ。」
エマは前と同じワインを飲んでいた。
そしてグラスを置いた。
「美味しかったわ。また来るわね。」
「ま、待ってください!なんで、売り上げが!」
「知人に勧めた。それだけのことを、何度言わせるのかしら?わたしは商売繁盛を願うだけよ。得したいとかは思っていないわ。」
迷いつつ、マイクはできるだけエマを足止めした。
「そうそう、ワイン、気に入ったわ。ありがとうね。しつこい男は嫌いなのよ。」
そう言って、エマはドアを閉じた。
カランコロン、と虚しいベルの音が響いた。
よくわからない長いだけの物語。
五分後に意外な結末を目指したつもりだったのに。
貧しいパーティ衣装
エイラは、貧しい家系に生まれた。
幼い頃からひもじい思いをしてきたため、お金のことに対してはすごく敏感で、大切だった。
欲しいものがあっても、憧れるだけだった。
その反対がメイラである。
裕福な家系に生まれたメイラは何かとわがままだったが、親はそれを何も思わず、ほしいものを買い与えた。
二十歳になり、エイラとメイラは大学生になった。エイラはなんとか職場を見つけ、夜通し働いていた。
ある日、エイラたちに何かと親しいアン先輩が、パーティを開くと知らせた。もちろん、エイラもメイラも招待された。
「まあ。誰でも好きなものを着てきなさい、って?じゃあ、わたしは美しい、華やかなドレスを着てこようかしら。」
誰もがそう言うに違いなかった。が、エイラは違った。
「…どうしよう。わたしはお金を全然持っていない。ドレスなんて、着れるわけがないわ。招待されたのだから、いきたいのに!どうしようかしら…。」
そして、街中のドレス店に来た。
しかし、格安のドレスでもエイラにはとても払えなかった。
「どうしよう!」
そうエイラはつぶやいた。
---
ついにパーティ当日だった。
エイラはなるべく良さげなワンピースにフリルをつけて来た。
ワンピースはひもじい思いを重ねに重ねてようやく買った代物だった。
「あら、エイラ。ずいぶん質素なドレス。いや、ワンピースね。」
メイラがエイラに話す。
これでも、自分は頑張ったつもりなのに。
真紅とホワイトのきらびやかなドレスを見にまとったメイラは、高らかに笑った。
「こんにちは、エイラ。素敵な《《ドレス》》ね。」
「あ、アン先輩…。」
素敵なドレス?このワンピースが?
黒と白のチェック模様で、首元には黒い襟に白い刺繍。明らかに浮いていた。
「そうよ。変えるとは言わないけれど、わたしには一人前の裁縫力があるの。貸してもらえれば、素敵なドレスに仕立てられるわ。それまでは、衣装ルームにある好きなドレスを着てていいから。」
エイラの顔が輝く。
「アン先輩!わたしはどうなのですか?」
メイラが尋ねる。
「貴方はそのドレスがあるでしょう?心は汚れているのにそんな美しいドレスを着る権利なんてあると思うかしら。」
そう吐き捨てて、アンはエイラと共に衣装ルームへと向かった。
嫌いな先生
短め!
わたしには嫌いな先生がいる。
担任の|岡田《おかた》だ。
話が長く、説教、説教、説教。その上クラスは無法地帯であり、静かな子やまとめ役の子は苦行を強いられるのである。
学級遊びをちょくちょくやっているので、嫌われはしていないのかもしれない。
それでも、わたしは、心の底から嫌いだった。
---
嫌な思い出がよみがえる。
嫌いな子が給食をぶちまけたとき、わたしには関係ないと思ってほっておいたら怒られた。
クラスメートだろ!と。
好きでもないクラスにされて好きでもない子がクラスメートになって好きでもない境遇で好きでもないことをしなければならないの?
体育の帰りが遅い!と。
わたしは鍵を閉めてしたのに。早い子は給食当番で急いでるか手伝わずに勝手に行った。わたし、悪くないよね?
---
そんな先生も、先日、交通事故で亡くなった。
ひかれてしんだらしい。
死んでからありがたみがわかる。
…はずなかった。
憎しみや苦しみから解放されて、言えないけれど幸せだった。
隣のクラスの先生が、教室に駆け込んできた。
「岡田先生が、交通事故で、死にました。」
息を切らしながら、確実に、ひとことひとこと、言った。
そしてその先生は戻っていった。
涙にくれる人は、いなかった。
狂気ともいえる声が、涙声のかわりだった。
** ` やったあ!!あはははははは!!これで説教から解放される!バンザイ!!新しい先生、確実に良い先生と言えるよ! `**
第1回放課後恋愛委員会
「第1回!放課後恋愛委員会スタートッ!」
|敏夫《としお》がそう高らかに叫んだ。
「なんだよ、敏夫。こんなふざけた委員会作りやがって。俺は清掃美化委員会だぜ?」
彼の名は|佐久間《さくま》。
「なんだそりゃ?」
ケータイを持ってきた|和樹《かずき》が言う。
「宝の持ち腐れだよ、カズキチ。ケータイで調べろよ。」
「カズキチ言うなよ、トッシー。」
「敏夫って言え、敏夫!」
和樹が打ち込む。
「清掃バカ委員会?」
「美化だっつーの!」
「予測変換に出てきた。」
そう言いつつ、敏夫が叫ぶ。
「では、好きな人を発表してくださーい!」
「敏夫、おめーがやれよ。」
「チッ…。」
こんな《《ふざけた》》委員会を作ったのは敏夫である。
「|田町詩乃《たまちうたの》。次はカズキチ、おめーだ。」
「…はぁ!?俺は|虎井こまみ。」
「俺は|白川和音《しらかわかずね》。」
ふーん、と相槌をお互い打つ。
「で、なんでだよ?」
「おれぇ!?詩乃は…まあ、可愛いし?いや、顔は中の下だけどさ…いつもあれ、一つ結びだろ?おろしたとき、可愛くてさ?成績もいいし…。はい、佐久間。」
「俺!なんで?」
「話題ぶっかけやがっただろが。」
「まあ、こまみは愛嬌があるから。おっとりしているから、一緒にいて気楽。」
「俺は反対。和音はクールでしっかりしてっから。俺はめっちゃ頼りねえからさ…。」
流れるように言う。
「で、接近したのかよ?佐久間、トッシー。」
「トッシー言うな、カズキチ。」
「カズキチ言うなよって!!」
「ま、俺はさ、もう接近したぜ。」
得意げに敏夫が言う。
「まじかよ!何話したんだよ?」
「何も話してないぜ。」
「は?ストーカーっつーわけ?」
「ちげーよ。」
さらににやりながら敏夫が続けた。
「《《将来的な接近》》さ。いわば投資っつーわけ。詩乃は教育ママがいるだろ?私立青葉ヶ丘高校行くって決まってっだろ?んじゃ、この1年で付き合えても高校が違えりゃすぐパァさ。だからな、もっとここを使うんだよ。」
敏夫は頭を指差す。佐久間と和樹がむかっとするのは言うまでもなく。
「ふっ、それは詩乃だからだろ?俺の和音はそうはいかねえ。」
「まだお前のもんじゃねえだろカズキチ。」
「佐久間まで!」
さらにむかっとした和樹は、なんなんだよと愚痴を吐いた。むかついていた佐久間の顔が、いたずら顔に変わる。
「すでにしゃべったさ。今日はちゅーくらいの天気ですね、つってさ。」
「おっじゃまっしまーす!」
高校2年のみどりである。
そう、今は佐久間の自室でおこなっていた。水割りのカルピスと軽いせんべいを昔ながらのおぼんで持ってきた。
「ね、ね、もっと聞かせてよー!ほら、が〜んばれっ、が〜んばれっ!告白宣言ぶちかませっ!」
みどりは青葉ヶ丘高校出身だが、ユーモアたっぷりである。
「ねーちゃん、来んなよ!死ねっつーの!」
「あっれ〜?あたし、まだJKよ!」
JKというところを強調した。
「だからぁ、僕は死にましぇーん!」
「こいつが一番むかつく…!」
「じゃあね〜、ほら、邪魔者は消えて差し上げますわ、わたくしお嬢様ですもの!」
高らかに笑いつつ、みどりは去った。
「…このカルピス、薄くねぇか?」
「へ、へ、へ。すまねぇな、薄くてよ!」
そうほざきながら、会議はすすまった。
---
その頃。
詩乃、こまみ、和音の3人はつぶやいていた。
「やっぱぁ、わたしは敏夫。けっこう真面目だし。ね、こまみ、和音?」
「まーあー、あたしはぁ、佐久間くん!努力家だし!」
「こまみは佐久間だよねー。あたしは和樹。」
じつは両想いの3人組は、その思いを知る由もなかった。
クラスにいるうるさい男子らの口調を真似ましたー。おかげで超絶口が悪くなりました!てへぺろ☆
夢遊病
|猪俣病院《いのまたびょういん》の医師である|猪俣和子《いのまたかずこ》は困り果てていた。
妙な症状の患者が来たのだ。
猪俣病院とは、和子の親がかつて医師をつとめていた精神科である。
「ネットで調べてみたんですよ、そしたら夢遊病だって!」
「そうですか…。」
彼女は|秋山花梨《あきやまかりん》。20代、独身であり、とある企業のお客様相談窓口で働いている。
お客様相談窓口はクレームなどが多いイメージである。そのクレームでストレスが溜まってしまったのかもしれない。
「あのですね、ネットのものは信用しないほうが良いと思われます。」
「なぜ?わたしは重度の夢遊病って!」
「ネットのものは不安にさせて病院へ来させ、儲けようとしているのです。」
「でも、検査してください!」
夢遊病とは、夢と現実がごっちゃになる症状もあれば、夢に魅入って昏睡状態に陥る症状も確認されていて、対策が難しい病のひとつである。
「分かりました、検査しましょう。」
和子は睡眠薬を飲ませ、特殊な機材で検査を始めた。
そして、数十分後。
精密な検査の結果を花梨に伝えた。
「夢遊病には、4つの症状があります。
夢と現実が入り組み、今が夢か現実かわからなくなる症状。
夢に魅入って昏睡状態に陥る症状。この昏睡状態とは、自然となる場合。本能です。
夢に魅入って永眠状態に陥る症状。これは睡眠薬を過剰に飲みすぎる、自らの意思でいわば睡眠中毒になることです。
悪夢をみてトラウマになり、不眠症になってしまう症状。
しかし、どの検査をしても反応は0でした。一般人でさえ1は出ますが、いたって心は健康ですよ。」
そう言ってみたが、花梨の反応はなかった。
なぜなら、睡眠薬の飲み過ぎで花梨は死亡したからである。
お題が精神科医だったので。
拝啓、母へ。
拝啓、母へ。
お変わりありませんか。わたしは元気です。
お母さんへ手紙を書くのは久しぶりですね。今でも他人という雰囲気が否めません。
中学生の手紙練習以来の手紙です。今度はもう少しかたくるしくない、自由な手紙を書こうとしております。
けれど、やはり他人だからでしょうか、とうしても母という字が震えてしまいます。
今回は、貴方に真実を伝えたくて書いたばかりです。
あの|酷い《むご》事件を、当時小学生のわたしは伝えることができませんでした。待ち合わせの語彙力では伝えることが困難で、同時に信じたくないという衝動にかられてしまいました。
しかし、徐々に心の整理がつき、こうして間接的に知ってもらうことにいたしました。全て包み隠さず、真実を教えてあげたくて。
覚えておりますか?当時、父がひどい酒癖がありまして、度々事件になっていたことを。
その日は、母はわたしの好きな揚げ焼きをしたプリプリのエビマヨを作ってくれました。我が家ではキュウリとコーンを入れるのが鉄則で、母はキュウリを切っておりました。そのとき、父がふらついた勢いで包丁を母にグサリと刺してしまったのです。
なぜ鮮明に覚えているのか、わたしも分かりません。そのショッキングなできごとを、わたしはパニックで記憶がなくなったと解釈してもらえたのが幸いでした。
そのあとです。わたしは逃げ込み、通報をしてもらいました。そのとき、父は警察に包丁で殺しかかろうとし、父は死にました。
そのように伝えられていると思います。しかし、違うのです。
わたしは、自らの手で父を殺めてしまいました。キッチンに逃げ込み、パン用ナイフで父を血に染めてしまったのです。
そのあと、わたしはひとを殺めたという罪悪感にかられてしまいました。理由と年で事件にはなりませんでした。
この記憶から逃れるため、わたしは記憶を抹消し、貴方が実の母という記憶に作り直そうと思います。そのときに、大切な貴方にこのことを知ってもらいたく、書いたばかりです。
トラウマだからエビマヨはやめてくださいと伝えておりましたが、作ってください。あの自然と懐かしい味を再び味わいたいのです。
また、記憶を作り直してからうかがいます。
境界の図書館
それは、得体の知れない場所にあった。
境界の図書館と呼ばれているそこは、見かけは高い高いツリーハウスだった。中は螺旋階段が最上階へと続き、手すりの代わりに本棚があるという奇妙な図書館だった。
そこには、これまた奇妙な少女がパソコンを睨んでいた。
「ねえ、ログ。」
「ドウシタノサ、フーク。」
「水菜氏先生の新作だって!」
「水菜氏?アノファンタジーカ。フークノ趣味モカワッタナ。500年前ハ現実的ナホラーガ趣味ダッタダロ?」
「そうよ。」
ログと呼ばれたパソコンは、機械的な音声を出しつつフークと呼ばれた少女に話していた。
一階はやけに広かったが本棚は小さかった。そこには、運命の本10冊、新作20冊、フークのおすすめ5冊というポスターがはられていた。
しんとした図書館で、フークはまた本を読み進めた。
ラベンダー
|彼女《きね》とぼくは、カップル同士である。
---
出会いはとあるカフェ。小腹がすいたのでふらりと寄ってみたカフェだ。内装はクリーム色を基調とした内装にレースとラベンダーをぽつぽつと描いていた。
彼女__|花田きね《はなた》はカフェ『ラベン・ア・カフェ』の店員だった。
「ラベン・ア・カフェオリジナルブレンドアイスコーヒー、ラベンダーモーニングセットのお客様ぁー。」
透き通るようになめらかな声だった。
そして、アイスコーヒーを運ばれて、口にした。ほんのりラベンダーの香りがした。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、仕事ですから。」
にっこりと彼女は微笑む。その上品だけれど親しみやすい振る舞いに、ぼくは惚れた。
「すみません、」
「どうしました?」
連絡先教えてくれませんか。
そう言いかけたけれど、ぼくは勇気が出なかったし、一目惚れが成就するとは思わなかった。
「いえ、ステキなおコーヒーですね。」
まずい、ヘンな日本語だ。
「ふふふ、ありがとうございます。これ、わたしが淹れたおコーヒーを褒めていただいて。
おまけです。わたしが作ったアロマです。」
レースとラベンダーがあしらわれた紙袋をわたしてくれた。
それには、ラベンダーがほんのり香っていた。
ぼくはカフェに通い続けた。
そのうち彼女と仲がよくなり、付き合い始めた。
---
ぼくはラベンダーのアロマをたいている部屋で、ワクワクしていた。
今日はきねが来てくれる日だ。
「いらっしゃい。」
「ユウくん、おはよう。」
きねは「アロマの詰め替えあげるね。」と微笑む。そして、あのときと変わらない紙袋を渡してくれた。付き合い始めてから、いつもプレゼントしてくれている。
「お返ししないとね。ビーフシチュー作ろうか。仕込みはしておいたから、盛り付けるだけだよ。」
「ユウくんのビーフシチュー美味しいもんね。」
ぼくは大鍋に向かった。
きねは具材がゴロゴロの、甘めのビーフシチューが好きという好みも知った。
「ジャガイモ!ジャガイモ!」
子供みたいにきねはせかして、甘えてくる。
ぼくはきねの器にたっぷりのジャガイモを盛り付けた。
昔、きねの両親はフラワーショップを営んでいたらしい。
鼻歌を歌いながら、きねはラベンダーを飾っていた。
「わあ!ありがとう、ユウくん。」
「ラベンダー、いい香りだよ。」
「美味しいね。絶品だよ。」
「ありがとう。」
穏やかで、和やかな会話。
「ラベンダーの花言葉って、幸せが来る、とか、優美、あなたを待っています、なんだって。素敵よね。」
「そうだね。」
ぼくは、覚悟を決めた。
「…そろそろ、結婚しませんか?」
「…えっ?」
「ぼくは、きみを本当に愛していると思う。信じているんだ。きみの、《《あなたを待っている》》。」
ぼくは、小さな箱をきねに手渡した。
「ラベンダー、好きだったよね。ダイヤじゃないけれど…ごめん。」
「わあ…!」
それは、レジンやガラスでコーティングされた、ラベンダーのドライフラワーが入っている指輪だった。
「ダイヤが買えるように、頑張るよ。《《幸せが来る》》ように、家庭を築いていこう?」
「…。」
きねが黙った。そして、涙を流す。
「ダイヤなんて、要らない。この指輪が、わたしたちにとって、本当に価値があるもの。」
枯れ朽ちることのないドライフラワーの指輪が、きねの指で太陽の光を受けて光った。
世界楽園計画
短いです!!
世界楽園計画。
罪を償う為の懺悔として、人間たちを洗いざらい消滅させて行くものだ。
それでこそ、本当の楽園だった。
しかし、本当に、それが楽園なのだろうか?
人間にとって、楽園ではない。
そして、愚かな人間は気づいた。
全ての、完全なる楽園はないのだと。
それは、気づくのには、あまりにも遅すぎた。
春夏秋冬会議
ネタがつきたわよ!
「今から、春夏秋冬会議を始める。」
ここは四季会社。四季をはっきりさせ、安らぎを与えるための会社だ。
その社長は|四季《しき》。
会議に参加したのは__
春部署 |春子《はるこ》
夏部署|夏子《なつこ》
秋部署|秋子《あきこ》
冬部署|冬子《ふゆこ》
だ。
「まずは、それぞれの業績を見せてもらいたい。」
春子たちが資料をわたし、四季が一瞬目を細め、にらみ、眉間にしわを寄せ、口から笑みがこぼれる。
反応に夏子たちは緊張だった。
「いいか?わたしたちの目的は《《業績を上げること》》ではない。《《人々が心地よく過ごせるようにすること》》なんだよ。その点、今年の業績はバランスが悪すぎる。たくさん働いたから良いというわけではないことは、ないんだ。」
最後を強調して、四季は言った。
「「「「はい…」」」」
そして、四季が言った。
「春子!」
「は、はい!」
「最もこの中でバランスが優れている。ただ、気温の手を抜いただろう!花粉という、人にとって嫌なものだけ運ばない!」
春子がほっとしているのは、誰の目にも見えていた。
「夏子!」
「はい!」
「働きすぎだ。気温が極端すぎる。長々と働きすぎだ。残暑をするなと言っているだろう!
あんなに暑くしなくてもプールやアイスは楽しめる。電気代も考えろ!次!」
夏子が口ごもる。
「秋子!」
「は、はい。」
「もう少し働け!夏子の残暑に頼りすぎだ!いつ働いたんだ!?次!」
秋子がしゅん、と落ち込む。
「冬子!」
「は、はい!」
「寒くしすぎだ。おかげで運動不足が増えている。もう少し気温を上げてもこたつやお風呂は楽しめる。」
冬子も少し落ち込む。
「しかし!」
夏子が叫ぶ。
「人間どもが地球温暖化を進めております。そのせいで、わたくし、夏子は働かないとなりません!」
「…そうか、なら持ちかけてみようか。」
そんな四季会議をおこなう部屋のドアの前に、2人がいた。
「わたし、一応季節なんだけどな…。」
「わたしだって、れっきとした《《季語》》になってるのに…。」
その2人の担当する部署は、梅雨と新年である。
ふと思いついた物語。
昇降口の読書会
今週の、わたしの掃除当番の担当場所は昇降口前だ。
そして、わたしの日課は昼休みに図書室へ行くことである。
本を借りて、昇降口前へ__
「しまったっ」
借りている本を、持ってきてしまった。本は教室へ置いておかなければいけないのに。
どうしよう?
「__…貴方、誰よ?__」
「!?」
そこには、高学年の少女が座っていた。かべにそって、手には本を持っている。
小5じゃない、6年生。わたしは知らないから。
「あっ、貴方こそ!わたしは|高井ともえ《たかい》。名前は?」
「__なんで、名前なんか聞くの?わたしは、まあ、|登紀子《ときこ》って呼んで?」
登紀子は、わたしの持つ本をにらんだ。
「それ、いいセレクト」
心なしか、大きく聞こえた。登紀子の顔が、笑みを隠しきれない。
「貴方はっ…」
「貴方、運がいいね?わたしは本好きにしか見えないの。選ばれし者、明日、ここに集合ね。早めに本を借りて、|ここ《昇降口》にきて」
チャイムがなり、わたしは掃除を始めた。
登紀子は、いなくなっていた。
---
それから、登紀子の好みもわかってきた。
恋愛系じゃなくて、ホラー。感動系はそんなにだけど、ミステリーはじっくり読む。長編より短編集が好みで、ノンフィクションや伝記、図鑑は絶対に読まない。詩も読まない。
「登紀子、この本どう?」
図書館で借りてきた本は、だいたい、
「それ、読んだ」
と生返事される。
最近は読み飽きたようにみえる。
---
あれから、十数年__
登紀子は、もう見なくなった。
「…久しぶり…!」
わたしは教育実習生となった。そして、あの学校で実習することになった。
今も、たまに見る。
「ねえ、登紀子。この本、おすすめだよ」
「読んだ」
そんなやりとりをしている1人の少女を。
東方好きにはまた違った感じ(?)の物語になりますよ〜(言うほどではない)
誘拐犯のパラドックス
皆さん、『人食いワニのパラドックス』をご存知でしょうか?
川に子供が落ち、子供はワニに見つかってしまいます。そして、ワニは子供を食おうとします。そのとき、ワニはこう提案しました。
「自分の今からやることが分かったら食わずに返してやろう。もし外れたら子供を食ってやる」
そして、母親は言ったのです。
「あなたは、今から我が子を食べてしまうでしょう?」
ワニは、こう言いました。母親は、続けて言いました。
「子供を返してあげるつもりだった。約束通り、食べてやる」
「最終的には食べるのですよね?なら、当たっています」
「じゃあ返してやろう。でも、そうしたら最終的には食べていないから…」
そうして、子供を食べることも逃すこともできなくなるのです。
このお話は、そんなパラドックスを、ちょっと応用したお話です。
「いたわ!」
母親は、そう言いました。
我が子が行方不明になり、探していたのです。
そこは、小さな森の奥にある家でした。ぼろぼろで、怖い雰囲気です。
GPSをたどり、ようやく着いたのです。
「お母さん!」
「不安だったね、頑張ったね…!」
そう涙ぐむとき、1人の目つきが悪い男がずかずかと来ました。
「っ…!」
驚きを隠せません。
「くそっ、なんでバレたんだッ!!殺してやる!お前の子供を!!」
「やめてください!」
そして、男は提案をしました。
「なら、今から俺がやることを当てることができたら、子供を無事に返してやろう。しかし、はずれたら殺してやる」
男は、血まみれのナイフを見せました。
そして、母親はすぐに言いました。スマホに指を当て、警察を呼びました。
「あなたは、わたしの子供をナイフで殺してしまいます!」
「違う。俺は返してやるつもりだったのにな」
そして、母親は混乱させようとたくらみました。そのすきに、警察が来ると願ったのです。
「なら、ナイフで殺してしまいます。どうでしょう、わたしの予想は当たっていますよね?」
すると、男は子供をかついで家を出ました。
「何するんですか!」
ざぼーん!
男は子供を川へ投げてしまいました。
「あんたの予想ははずれだ。殺すという点では合っているが、《《ナイフで》》とは言ってないからな」
遠くから、手遅れのパトカーの音が聞こえてきました。
前書き長いよ!
境界の図書館 リメイク版
前に書いた「境界の図書館」に納得がいかなかったのでリメイクしました!
#あなた#は深い深い眠りについていた。
なぜなのかは分からない。何者かのいたずらかもしれないし、生命的な危機かもしれなかった。
#あなた#は、とある場所に辿り着いた。
---
「ねえ、フーク。何か、音がしない?」
「ソウダナ。来客ダッタラ、ヒサシブリダナ」
和服にレースやフリルを縫い付けてメイド服のようにした服に寝巻きを羽織っている彼女は、楽しそうに本を読んでいた。その表紙は、まだ誰も見たことがないものだった。
そして、おしゃべり相手は、パソコンに見えた。機械的で、感情があるのか曖昧な声を出していた。
「す、すみませんっ」
#あなた#は、恐る恐る少女を呼ぶ。彼女はたしかに小学高学年にみえるが、何者かならぬ長寿の雰囲気をまとっていた。
「あら、当たったわね。あなたは、誰?」
「#一人称#は、#あなた#です。あなたこそ、誰ですか?」
「わたしはフーク。この図書館の主人よ」
「ワタシハ図書館管理人ノログ。ヨロシクナ」
「見たところ、あなたに危険性は感じないわね。また、誰かのいたずらかしら?」
ちんぷんかんぷんな#あなた#に、フークと名乗る少女は続ける。
「あなた、読書は好き?」
好き、と答える。
「そうなの!ここは、『境界の図書館』。世界中のありとあらゆる本が、品質を保たれて並んでいるわ。絶版になったものから、学生のものをコピーしたノート、人気にならなかった本、そもそも本にならなかったボツ原稿…今売ればきっとプレミア価格のものばかりよ。でも、売ろうとしたら、本にしちゃうから」
ともかく、ありとあらゆる本があることは分かった。
「奇妙でしょ、案内してあげる」
ツリーハウスのような内装。その真ん中にはシンボルのような螺旋階段。それがまた特殊で、手すりの上に小さな本棚がならんでいる。
「ここは、『伝記螺旋』。世界中の人物の物語が、きざみこまれているのよ。あなたみたいに、決して偉人ではなくても、現在進行形で伝記が記されてゆくの。下にはあなたに合っていないもの、上に行けば行くほど合っているものに巡り合う」
しかし、この高い高い螺旋階段の上へのぼりつめるのは、誰であれ不可能だった。
「わたしだって、時間が有り余っているから上ってみたのよ。でも、全然追いつかなくてね」
ふっと、フークは微笑む。
「この1階フロアは、いろんなおすすめ本が並ぶフロア」
本屋のように、ポップが並び、そのわきに本が並んである。
「ここがわたしのおすすめ本5選、ここは運命の本10選、最後に新作20選」
「へえ」
#あなた#は感心した。
「ほかのジャンルを読むにはこのエレベーターを使うの。螺旋階段とはまた違う空間につながっているから」
草と蔓、つたが絡み合ってできているもろそうなエレベーターに乗る。
普段はフロアボタンのものが、ジャンルが示されたボタンになっていた。
恋愛、ホラー、感動…
「す、すごい…」
#あなた#は感嘆の声をもらす。
「まだまだ案内してあげるから」
いつのまにか、小型ロボットとして歩いていたログと久しぶりの来客にわくわくしているフークとともに、
「上へ参ります」
と何故か懐かしい声がもろそうなエレベーターを上へ動かした。
ファンレター一件でも来たら続編書きます!
わたしは不登校を卒業する。
今日も、行けなかった。
不登校になってから1年弱。直感的に「あ、無理だな」と思ったクラスメートたちと離れたかったから、不登校になった。
少しずつ学校にも行ってみた。あれがわたしの思い込みと信じたかった。
でも、嫌な予感というものは当たるもの。
煩いクラスメート、厳しく当たる先生、なんとなく、どことなく居づらい雰囲気、下級生をまとめなければいけないという責任感、そして係の仕事、委員会とクラブ活動と__
速攻、わたしは不登校になる決意を定めた。
よく本では「〜〜という理由があって__」と、不登校の理由はひとつだけ。でも、現実は小さなことが積み重なって、からみあって、理由となる。復活するためには、ひとつひとつを紐解いて、ほどいていかなければいけない。
そういうのが難しいな、と思う。
休むことに抵抗はなくなった。でも、罪悪感ばかりが募る。
一応、勉強はしている。すでに小6の勉強は終わらせ、中1の予習へといっている。学力は心配いらない。
両親は仕事。ふらふらと着替えをして、テレビをみる。
ピンポーン、とインターホンが鳴る。
「…?誰、ですか?」
「|鈴木紗弓《すずきさゆみ》さん?」
柔らかな声。これは、|伊藤千紘《いとうちひろ》先生だな、と思う。5年生のころの先生で、優しくておもしろい先生だ。
たまに、わたしに会いに来てくれる。
紗弓というのは、わたしのお母さんの名前。
「伊藤先生?」
「あ、|沙織《さおり》ちゃん。どう?元気?」
「はい。あ、伊藤先生、仕事は?」
「もう春休み。今日、卒業式だったの」
「そうなんですか」
でも、きっと卒業式にも出られない。視線が怖い。
卒業式があるからって、だからって、行く気に、行く理由にはならない。
「この玄関だと狭いから、リビングに行ってもいい?」
「はい」
伊藤先生ははじめて靴をぬぎ、リビングへと行く。
「沙織ちゃん。卒業、おめでとう」
「ありがとうございます」
「勉強、してたの知ってるよ。教科書を読んで、ノートにまとめて、何度も練習問題を解いて、してたよね」
いつの間にこんなに知っているのか、と思う。
「卒業証書を渡すから」
「そつ、ぎょうしょうしょ…」
わたしが、不登校のわたしが卒業証書を貰えるの?
「不登校だからもらえるのかって思う?もらえるよ。少なくとも、わたしはそう思うな。だから、もらえる。じゃあ、座って。名前が呼ばれたら、立って受け取って」
わたしは椅子に座った。
「6年B組、鈴木沙織」
わたしの名前が呼ばれた。立つ。
「ありがとうございます」
受け取って、ぺこりと礼をする。
そのあと、伊藤先生は帰っていった__
---
卒業したんだ。学校も、不登校も__
ポンッ。
YouTubeで散々見た、わたしにとって『学校へ行った人がもらえる音』《《だった》》音が、いま、わたしの手の中で響いた。
四葉のパフェ
|綾《あや》、|莉子《りこ》、|由美《ゆみ》(3)
---
--- 4月11日(金) ---
<「ねーねー。聞いて〜あしたクレープ食べるの!!」
<「え、いいなぁ。どこ?」
「『アラザン』?」>
<「え、『アラザン』ていま流行ってるやつ?」
<「そ。まじで嬉しい!前一度いったことあるだけどボリュームがやばい。残した」
「あー、聞いたことあるわ。」>
<「そういえば前四葉チョコはなかったの?」
<「なかった。あの抹茶チョコでしょ?あれ確率も教えてくれないもん」
「へー。あ、おやすみ」>
<「おつ〜。(つ∀-)オヤスミー」
---
もう、なんなの!
『アラザン』は駅前にできたおしゃれなクレープ屋さん。大人気で、そこそこ裕福な莉子は行ったことがあるとか。
羨ましいなぁ…
まあ、いいや。寝て忘れよ。
---
--- 4月12日(土) ---
<「なに食べんの?」
<「決めてない。教えて」
「チョコバナナが無難だと思うけど」>
<「🍫🍌受理。ありがと、綾。由美はなんかある?」
<「チョコバナナにイチゴのせが美味しいらしい。ミリィやってた」
<「え、あの有名インフルエンサーのミリィ!?」
「へー😮」>
<「じゃあ報告待ってまーす。」
<「🫡」
--- 4月13日(日) ---
<「行ってきました〜。なんと!!」
「どしたん?」>
<「🍀🍫入り!!最高すぎ」
<「いいなぁ。SNSにあげたん?」
「てかアカウントなに?」>
<「えーと、リリィ子ってとこがアカウント。」
<「いちおーあげた。」
<「あ、ミリィクレープ」
「ミリィクレープww」>
<「ww」
「ちゃんと四葉チョコうつってんじゃん!すご」>
<「着色したチョコっぽい。抹茶は無しだったわ。。全然。もう抹茶皆無」
<「ww」
「でも莉子は抹茶嫌いでしょ?」>
<「だから結果オーライww」
<「てか眠すぎ。寝るわ😴」
--- 4月13日(月) ---
--- 莉子 さんが退出しました ---
---
12日のメッセージをのこして、莉子は行方不明になった。
リリィ子というアカウントにあげられていたのは、
「家の近くのアラザンでクレープタイム!めっちゃ美味し〜!」
という文章と、莉子とクレープの自撮りが添付されているものだった。
「…?」
もしかして…
--- 解説 ---
莉子の自撮りと写真で、莉子のことが特定されました。家の近くなどの情報を出しているからだと思われますし、身バレするようなことをアップしつづけていたからかもしれません。
そして、四つ葉のクローバーの花言葉は『復讐』。以前クレープを残して悪びれもしない客への、店員からの『復讐』なのかもしれません。
眠いということは睡眠薬も混ぜられていた?メールが途絶え、行方不明になったのは睡眠薬で眠っていた時に、殺されたから?というと、4月12日のメールは、誰かがなりすましたもの?
いえいえ、それは考えすぎというものかもしれません。
__そう願いたいものです。
帰り道だけの友達
「じゃあね!」
|美月《みつき》と|翠《すい》がわたしに向かって手をふる。
美月と翠は、また仲良くしゃべって帰ってゆく。美月たちは団地住みだから、こうして帰れるのだ。
「あーあ、つまんないや。さみしいし」
そうつぶやいていた。いつも通りの帰り道、特に歌いたい歌もないし、かといって巡らしたい想像もない。この一日を振り返る気なんてしない。
いつものスーパー、いつものちょっと怖い墓地、いつもの田んぼ。
「やっほー、|愛梨《あいり》ちゃん!」
「あ、美月、翠、こっちまで来てたの__え?」
目の前には、美月でも翠でもない、知らない女の子。
同い年くらいだけど、知らない。うちの学校はそんなに多くないし、転校生が来たという話も聞いてない。
「えっと__誰?」
「やだなぁー、みおだよ」
「み、お?どんな字?」
「え、忘れたの?」
「いや…」
でも、今どきの服じゃない。白いブラウスに黒いワンピースっていう感じで、ダサい。地味。ランドセルも母親に言われたように赤。
「うーん…さんずいに、ゆきかんむりに、レイ」
「レイ?なんのレイ?」
「号令のレイ」
まだわたしの中にははてなが浮かんでいる。
「待っててねー」
ランドセルからノートを取り出す。
山村 澪
「やまむらみお、だよ」
「へー、澪ちゃんって言うんだ〜。よろしくね!」
「…もしかして、愛梨、記憶喪失?」
「え?そんなことはないけど」
「そっかー、でもいいやっ」
澪は驚くほど家が近かった。それに、話もまあまあ合う。
ただ流行りに疎いらしく、流行ってるものはあまり分からないらしい。
でも、澪の家は知らない。澪の帰り道にわたしの家があるから、いつもわたしが先に帰っているのだ。
いつの間にか、わたしは美月と翠ではなくて澪と帰るようになった。
---
「それでさー?」
「え、なにそれ!ふっるー!」
澪は古いものが好きらしく、何十年前?っていう話題を出してくる。
「というか、澪って、何組?全然知らないんだけど」
「え?もう、なんで忘れたのー?2組だよ」
「あー、そっかぁ」
2組に、山村っていたっけ?
山中、はいた。その次は確か、代々木。
隣の隣のクラスだけど。
「クラス数まあまあ多いからさ。ほんと、4組、憧れる」
「よ、4組?あったっけ?」
「え、あるじゃん!何言ってんの?」
「??」
4組は人数が多い昔にあったところだ。いまは物置だけど。
「あ、家。じゃあね〜」
ったく、四月バカもいい加減にしたほうがいいと思うけど。
---
「おはよー、美月、翠!」
美月たちにあいさつする。教室に入っていちばん、あいさつするのが日課だ。
いつもなら「おはよー」と言うけれど、今日はない。
「え、美月?翠?ね、どうしたの?」
「うるさいなっ!気持ち悪いんだよっ!!」
「え___」
キモチワルイ。
初めて聞いた外国の言葉みたいに、意味がわからなくて右耳から左耳へと、言葉が抜ける。
「ねえ、どうしちゃったの、美月!翠もなんか言ってよっ!」
「は?当たり前じゃん。関わってくんな」
「そんなっ、どうしちゃったの___」
「あんたが悪いんでしょ!?もう話しかけないで」
え、なんで?わたし、何をしたの__?
---
「今、通り魔殺人鬼がはびこってるんだって。気をつけないとね」
「えー、そうなの!?まあ、でもわたしは大丈夫だよ」
美月と翠の言葉を記憶から掻き消して、澪と話す。
このひとときが、最高に楽しい。
「あーあ、美月も翠も、なんであんなこと言うんだろ?キモチワルイとか言ってくるんだよ?」
「え、もうそれ友達じゃないじゃん。わたしはそんなこと言わないからね!」
「ありがと〜!」
澪はにっこり笑った。おひさまみたいで、美月と翠よりももっと優しい微笑みだった。
「今、シャケが不作なんだってー、好きなのになー」
そして、学校にいづらくなったことも話した。美月と翠が、うわさを流したみたい、みんなから避けられ、悲しい学校生活を送った、って。
なんで、避けられなきゃいけないの?
そんな愚痴を澪にこぼすと、何故か澪は謝っていた。
---
「ねえねえ!今日の給食、美味しかったよね」
澪にしゃべりかける。
「美味しかったよねぇ」
うんうん、とあいづを打つ。
すると__
ガシッ。
「…!!!」
誰かに掴まれた?誰?
「愛梨っ…!!」
「たす…け…て…んんっ」
首を絞められてるみたい。
苦しい…苦しい…
「おらっ!!」
あ!?
いきなり、ナイフをつきつけられる。ここは人通りが少ない墓地。
助けを求めようも、人がいない。
「犯罪者!!わたしを殺せよ!!」
「だめ、澪…!!」
澪、何を言ってるの…?
「じゃあ先にお前を殺してやる。これで言うことを聞いただろう?」
「いいわよ、殺しなさい!一生かけて呪ってやるわ!」
「澪っ!!」
わたしは目を瞑った。
---
___パトカーのサイレンの音と、救急車の音がする。
「あ…」
警察?
「生きています」
「…??」
「事情聴取をしたいのですが。まずはゆっくりと休んでください」
ショックで声が出ない。
澪が、いない。あの犯罪者もいない。
まさかっ…
「み、澪は!?澪は、どこですかっ!?」
「澪?」
「えっと___白いブラウスに黒いワンピースの、同い年の女の子です。知りませんか!?」
「__知らないな」
「こ、殺されたんですか!!」
わたしの目から涙があふれた。
「いや、愛梨さんの防犯ブザーがなって、近くにいた大人が通報してくれたんだ。そのとき、犯罪者は死んでいた。愛梨さんと犯罪者の2人だけだったよ」
「え…」
「周辺に遺体らしきものもなかった」
み、澪が、いないなんて…
「そんなの嘘ですっ…確かに、いつも一緒に帰っていました」
泣いた。泣くことしかできなかった。
その夜、わたしは眠った。
夢を見た。
---
〝愛梨。ねえ、愛梨ってば!!〟
「あ…誰…」
〝澪だよ。澪!〟
「…え?」
澪なはずないよ。だって、死んだんだから…
〝死んだんじゃないよ。《《死んでた》》んだよっ〟
「そ、そんな、はずないよっ」
〝ほんとなんだよ!〟
だって、澪といっしょに、帰っていたんだもの。
〝よく聞いて。わたしは幽霊なの。でも、さみしくて、誰かと一緒がいいなあって思ってた。そしたら、さみしそうなあなたがいたから、一緒にかえろうって思った。それだけなの。
愛梨に死んでほしくなかったから。でも、そのせいで人間化できる力が弱まって、一緒にいれなくなった。でも、やっぱりさみしいの。
だから、お願い。毎日じゃなくてもいいから、思い出したときにお墓参りをして、わたしとしゃべって。これが、わたしが伝えることのできる、最後のメッセージだから…〟
よく分からない。
〝もうすぐ朝だから…覚えていて…いままで、ありがとう〟
---
目覚めた。
今までにないくらい、夢の内容をはっきりとおぼえている。
澪、今から、会いに行く。
だから、待ってて。
わたしは着替えて、お墓へと向かった。
空は晴れて、けれど涼しい、おひさまが照っていた。
2902文字。
春休み特別長編、いかがでしたか?実はもう夏休み特別長編も書き上げています笑
お楽しみに♪
人形のキヨ
解説はあとがきにあります。
また、ぬいぐるみを人形にかえました。(同じだよね…?)
「今日は文化祭だね!」
友達の|望愛《みあ》が微笑む。彼女は幼馴染で、かなり顔立ちやスタイルがととのっていて、おまけに中身もきれいという人気者。
そんななか、望愛はわたしを選んでくれた。過度に接されないのがいいんだとか。
ちなみにわたしと望愛は手芸クラブで、1年かけて作ってきた力作も展示される。
望愛は不器用なのにわたしと同じクラブがいい、といって手芸クラブに入った。
「何作ったの?」
じつは、わたしも知らない。
「キヨ」
「き、よ?」
「そう。人形のキヨ。カタカナでキヨなの」
得意げにタブレットに撮った写真を見せてくる。その人形は黒いボブヘアに白いブラウス、赤いスカートとなかなか古風な仕上がり。不器用なりに頑張ったところが、さらに昭和お母さんが徹夜で頑張った人形、という感じを醸し出す。
「きせかえ人形なの。いろんな服も作ったんだ!」
水色チェックのワンピースに白くてまるい襟が縫い付けられた服。花のワンポイントが入った端切れを使った服。不器用な簡易的刺繍をすそにほどこしたデニムのズボン。
どれも昭和なおしゃれ。今どきの流行りに乗らない、おしゃれな望愛らしい服、といえば服。
「で、|萌花《もえか》は何作ったの?」
「えーと、移動ポシェット」
「え、かわいい!」
写真を見せる。淡い水色と紫のジュースをこぼしたような色合いの布を土台に、水色と紫のパッチワークで作ったもの。
「ありがと。さ、一緒に行こ!」
それから、おしゃべりも交えつつ作品鑑賞。来週の給食揚げパンだね、おまじないにハマってるとか、そんな感じ。
「次、手芸クラブだね〜」
「うん!萌花、わたしのキヨ、見てね!」
キヨ、という名前が古さを加速させている気がする。
「わぁ〜」
黒い髪。ボタンが目がわりにぬいつけてあり、赤色の刺繍糸か手縫い糸で、簡易的刺繍__性格にはバックステッチ、またの名を返しぬい__が施されていた。
ところどころ綿が出てしまっているが、なかなかの出来栄え。
「萌花だけ、特別ね。触っていいよ!」
「え、いいの?ありがと!」
かがりぬいの幅が大きいのが綿がはみ出している要因だった。
「ね、次行こ!」
そう言って、望愛はたっとかけていった。
すると、人形から、ぽろりと一枚の紙が落ちた。
そこには、人の名前がびっしり。でも、わたしの名前はない。
「萌花〜、遅いよ〜!」
「あ、ごめんごめん!」
わたしは小さく折りたたまれた紙をキヨの体に押し込み、望愛のもとへ行った。
解説
人形のキヨから、ぽろりと落ちた小さな紙。
その紙が示す意味とは、何だったのでしょうか?
そういえば、望愛はおまじないにハマっているそうでした。おまじないを漢字で書くと「お呪い」。呪い、と読めます。
そう、この紙はお呪いに使う紙でした。
そのお呪いの方法とは、人形に呪いたい人の名前を書いて入れ、その人形をみんなに見てもらうという方法。望愛は、過度に接される人々全員に恨みを持ち、呪っていました。
どうすればよいか考えていたところ、文化祭に出品するという考えに至りました。「1年かけて作ってきた」のですから、かなり前から恨んでいたのかもしれません。しかし、不器用な望愛はきちんとぬえておらず、紙が落ちてしまいました。
失敗すると呪いが跳ね返ってしまうお呪いもありますが、どうだったんでしょう。
とある掲示板にて。
kidshora-/keizibann/153bbogoo90kuzq7
に アクセスしました。
お楽しみください。
1 かりんとう
みなさん、こんにちは。この書き込み閲覧ありがとうございます。
子供用怪談掲示板で活動しています、新規のかりんとうです。由来はかりんとうが好きだからです。
2 ミミィ
軽く自己紹介お願いします!
3 かりんとう
小6女子です。ホラーやミステリーが好きな優等生、と言われています。
今回は、不可思議なできごとを聞いたので、書き込みたいと思います。
4 猫好きさん
もしかして、入学式のやつの?
5 かりんとう
はい、そうです。入学式のできごと、という書き込みをしました。
これですね
kidshora-/keizibann/wakpajdib1009/92aizu
6 猫好きさん
あのお話結構面白かったので楽しみ!
敬語はいらないよー
7 かりんとう
ありがとう。ではここでは敬語はNGということで。
さて、15から書き込みしていくから、少々お待ちを。
8 手帳@読む専
面白そうな書き込み見つけたので見る!小6って同じすぎ。
9 片付けしなきゃ
入学式のできごとおもしろかったよ!ぜひ読んでみて。
かりんとうさん、楽しみにしてます!!
10 匿名希望
あ、もうちょい
11 ミミィ
かりんとうさんが投稿してるのって他にあったっけ?
12 片付けしなきゃ
いや、なかったはず。入学式のやつで「初投稿よろしくお願いします」って言ってた。
それにしては投稿うまかったよね
13 猫好きさん
パスワードとID忘れたのかな?新アカウント?
14 ミミィ
いやいや、どっちも4桁だし、自動保存されるけど。
あ、始まる!
15 かりんとう
では、投稿いくよ
わたしは、今、はやりのこっくりさんをやっているんだ。
あかりと雫もノリノリ。
「こっくりさん、こっくりさん、わたしの運命の人は?」
あかりは、そう聞いた。
16 猫好きさん
きた、こっくりさん
17 ミミィ
ありがちすぎ。
18 片付けしなきゃ
てか、なんて読むの?
19 匿名希望
雫→しずく
でしょ。あかりは読めるよね?
20 片付けしなきゃ
なんで軽くディスってくんの
21 匿名希望
別にいいじゃんw
22 かりんとう
ちなみに、5の倍数ごとに投稿していくよ。
23 手帳@読む専
おけ
24 ミミィ
了解🫡次だね
25 かりんとう
あ・ゆ・み
こっくりさんは、そう答えた。
「え?女子なの?」
普通の女子だ。少し馬鹿にしているけど、普通。
「歩美が運命の人なのかぁ…わたし、相馬が好きなんだけど」
あかりが残念そうにつぶやく。
その瞬間___
「えっ、あ!?」
学校が燃えた。火事…?
「きゃあああっ」
放火の犯人は、歩美だった…
26 かりんとう
これで終わり。
27 ミミィ
え、つまんな
28 手帳@読む専
え、嘘だよね?26の書き込み
29 かりんとう
嘘じゃない。あなたたちに読んでほしいもの。
30 猫好きさん
解説求む
31 かりんとう
解説なんてないよ
32 片付けしなきゃ
は?バカじゃないの?なんでこんなに短いのwつまんねwww
33 匿名希望
そんなに言ったらダメじゃない?
34 片付けしなきゃ
は?ついてくんな。死ね
35
片付けしなきゃ を かりんとう さんがBANしました
36 匿名希望
かりんとうさんありがとう
37 かりんとう
これで分かったよね?
わたしが言いたいのはこっくりさんの恐ろしさじゃないから。
38 ミミィ
???
つまんないだけじゃねww
39
ミミィ を かりんとう さんがBANしました
40 猫好きさん
ど、どういうこと…?
41 手帳@読む専
めっちゃBANしてるんだけど。
かりんとうさん、ミミィさんはアドバイスしてくれてるだけだと思う。
少々待ったほうがよかったのでは?
42
手帳@読む専 を かりんとう さんがBANしました
43 猫好きさん
え!?
44 匿名希望
投稿ボタンとBANボタン間違えているのでは?
右の青いほうが投稿ボタンだよ。
45 かりんとう
それくらい分かってるよ。
46 猫好きさん
じゃあなんで手帳@読む専さんをBAN?
47 かりんとう
知るか。
48 かりんとう
お前らは分かってない。
49 かりんとう
人間の大切さを。
50 かりんとう
画面の奥底に相手がいることを。
51 猫好きさん
どうしたんですか!!
52 かりんとう
60番に到達した時、この書き込みを締める。
53 匿名希望
どうしたの!?
54 かりんとう
8.ぅえ
55 匿名希望
???
猫好きさん、意味分かる?
56 猫好きさん
わかんない。いっつも意味怖解説を最速するタイプだから。
57 かりんとう
BANdq7zb¥r
58 猫好きさん
BANが〜〜っていう意味のことだけはわかる。
58 匿名希望
もうすぐ締めてしまう。
59 猫好きさん
60番で意味を教えてください!
60 かりんとう
d,
61
かりんとう さんがこの書き込みを締めました。
次はあなたの番です。さあ、書き込んでみませんか?
*書き込んでみる*
作中に出てくるリンクは架空のものです。
醜い悪魔
__どうして、わたしがこんな目に__
物心ついた頃から、この屋敷に閉じ込められていた。
漆喰が汚れた小さな小さな小屋には、かたいパンとぬるいミルクしかなかった。
洋服はあなだらけ、ほつれた灰色のワンピースだけ。
一応トイレやお風呂もあり、使えるが、汚れていた。数十年前に作られたまま取り残されたような小屋を、彼女はトリカゴ、とよんでいた。
今日もかたいパンを頬張る。ずうっと食べていても、不思議と顎がなれずいつも疲れが残る。
「ヴィラン」
女の声が聞こえた。
「…」
「ヴィラン!返事をなさい!!」
彼女は11歳でも、返事という言葉が分からなかった。
「ヴィラン!…くたばったのね、それは素晴らしいわ。このままこの小屋とくたばってしまえばいいのよ」
「トリカゴ!クェート!」
「…何を言っているのかしら?」
彼女は自分で、言葉を生み出していた。
クェート、は、彼女の中で嫌い、という意味だった。
「ミィキィ、クェート!ピンキー、クェート!」
「うるっさいわねっ!」
ミィキィ、はパンを、ピンキー、はミルクを示すものだった。
ヴィラン、と呼ばれた彼女は、叫んだ。
「クェート!!」
「やかましいわ、殺してやる!」
女は、近くにあった毒草を摘み取って、イチゴジャムにまぜた。
その色は、悪魔の目だと恐れられ避けられた彼女の目と同じくらい紅かった。
「パンよ」
「ミィキィ、クェート…」
彼女は床に座り込んだ。
それでも彼女はジャムという珍しさに、パンをかんだ。
「っ…!」
「醜い悪魔よ、とっととくたばってしまえ!」
彼女は倒れ、死んだ。
真のヴィランは高らかな笑い声をあげて、去っていった。
何を書きたかったんだろう…
冬の登下校
冬の冷たさは、体にしみる。
走ると白くなる息を横目に、わたしは登校していた。
「ゆ〜きやこんこん、あ〜られやこんこん__」
横断歩道を渡る小学生の大合唱、というほどでもないけど、その歌が響く。
「よお」
「あ、おはようございます…」
|古川和也《ふるかわかずや》さんが、わたしを呼び止めた。
クラスのキラキラ女子たちはカズとか和也とか呼んでる。でも、そんな勇気なんてない。
「登校、同じなんだな」
1週間前くらいに初めて鉢合わせした。この10ヶ月間、なんで気づかなかったんだろう。って思うくらい、初耳だった。
彼はスポーツ万能で、モテル?とかなんとか。
「そ、そうんですよね…」
「寒いよな」
どういう反応をすればいいの?どういう会話?
雪みたいに真っ白になる頭をフル回転させてみる。
「さ、先行ってますねっ…!」
わたしは走って登校した。あんなところ、キラキラ女子に見られたらハブられコース直行だ。
---
授業が終わり、下校時間。授業内容で頭がパンパン。一応、授業内容を思い出しつつ下校するから成績はいい方。ぶつぶつつぶやきながら、帰る。
御守り代わりのカイロをぎゅっとにぎりしめた。朝に比べればまだ寒さはマシな方だけど、それでも寒いのには変わりない。
「よっ」
「あっ!?」
やややや、やばいっ、変な声出ちゃったッ…!!
「カイロ?」
「あっっ、はっ、はいぃ…」
あわわわわ、という言葉で頭がいっぱい。
「さっ!寒い!ですよねっ…だだから、カカイロ持っててて…」
ただでさえ女子にも打ち解けてないのに、男子と打ち解けろなんてハードすぎるよ…
「なあ、さっきぶつぶつ言ってたの、何?」
「ふぇえっ!?」
授業内容、なんて噛まずに言えるかな…今まで、噛み噛みだったもん。
「えっ、とっ。じゅ、じゅぎょお内容です…」
「ふーん、真面目じゃん」
あわわわわ。しかもかんだ気がするし…うう。
顔を真赤になるのをマスクとマフラーで隠す。花粉症用のメガネも持ってこればよかった…
「じゃっ、ね…っ!!」
古川さんとなんて、あまりにも不釣り合いだから。
「ふーん。またな」
「はいっ」
うわあああああ、恥ずかしい!これ夜眠る前絶対思い出すやつじゃん…
古川さん、なんて思ってんだろ。ほんと、恥ずかしいや…
…でも。古川さんと話すのは、なかなか楽しい。そう想い始める自分がいたのは否めなかった。
光来仙さん、冬に関する暖かくなる小説というリクエスト、ありがとうございます!
雪の妖精
しんしんと突き刺すような寒さの冬の夜。
わたしは布団乾燥機であっためた布団に潜り込み、家族に「おやすみ」と伝えた。
さっきまでテレビとスマホを見てたから、ブルーライトのせいか眠くない。
「…起きて。…ねえ、起きてってば!」
「もぉ、夜中なんだから静かにしてよ…」
そこには、見たこともない女の子がいた。
「あっ!?」
わたしよりも小さな、白く透き通った肌と水色の髪を持ち合わせてる女の子。
「あなたは…」
「わたしはユキ。雪の妖精だよ。あなたが素敵だなって思ったから、来ちゃったんだ」
ふふっと無邪気に、彼女は微笑む。
「妖精…?」
---
ユキは仲間はずれにされていたという。いつもツンとしている、と噂されてしまったそうだ。
そんなユキを、わたしは受け入れた。わたしも全然友達ができなかったから、一緒だなと思ったからだ。
冬の寒い夜はいつも来てくれた。そして、時を止めて雪を降らせ、一緒に遊んだ。疲れたから、一瞬で眠れてしまった。ユキと一緒に過ごす時間が、何よりの宝物。
「ユキ、今日はかまくらを作ろう!」
「そうしよう!」
冬も半ばを過ぎたくらい。手袋をはめて、白い息をハアハアはいてかまくらを作る。ユキはふわふわ飛んで、にこにこ微笑んで、一緒に楽しむ。
秘密の時間に作った、秘密基地みたいだった。楽しい時間。一緒に食べたアイスは頭がキーンとしたけど、とっても美味しかった。秘密基地で食べたアイスは、別格中の別格。
雪の結晶を作った。それを埋めれば、明日には、半年溶けない「雪の花」が育つという。わたしは脆い雪の結晶を大切に埋めた。
それは、翌日、キラキラと煌めく雪の結晶になった。青緑っぽい茎に、大ぶりな雪の結晶。
---
とある日を境に、ユキは来なくなった。
それは、3月の上旬のこと。ひょっとして、ユキはもう来てくれないのかな。もう、春だから。
雪の花がキラキラと揺らめく。わたしは眠ろうとした。すると、今度はピンクっぽい女の子が来た。
「起きて〜!」
「わっ!?」
「あたしはサクラ。ユキに誘われてきたんだ!」
バナナジュース
「ねえ早く作って!」
幼い頃、僕はそうやって母にねだってた。
母は僕が何かすごいことをしたり、機嫌が良かったりするとバナナジュースを作ってくれた。バナナとミルクとはちみつをミキサーで混ぜ合わせた、とろりとしたジュース。ときどきバナナの種みたいなのがあるジュース。
母は「熟したものがいいのにね」と言っていたけど、待ち切れない僕はまだ黒い点がつき始める前に作ってもらっていた。
---
「ねえ早く作ってよ、母さん」
母さんに、僕の声は届かない。
早く、バナナジュースが飲みたいのに。母さんはないてばかりで、ちっとも作ろうとしない。
僕の前に、やっとバナナジュースのコップが置かれた。ほんのり黄色い、とろっとしたバナナジュースだった。
母さんがこの部屋を去っていった。それを確認して、僕はコップを手に取った。
ゴクン、ととろりとバナナジュースが喉を通った。
「母さん…また、会いたいよ…」
あのときのバナナジュースよりも、わずかに甘い。
母さんがつぶやくのが聞こえた。
「なんで死んでしまったの…」
感情を捨てた。
嬉しい。
楽しい。
辛い。
悲しい。
ひどい。
恥ずかしい。
___なにそれ?
あ、でもこれだけはわかるよ。
感情をなくしちゃ、駄目なんだって…
…何がしたかったんだろう。
ヒーロー
「今日も街の平和は守られた!」
決め台詞を叫んで、俺は小さくなる。
謎の未確認生物がUFOらしきものに乗って、地球を襲い始めてはや1年。俺はヒーローとして生物を倒していた。
しかし、ヒーローにもプライバシーがある。そのため、生物を倒してヒーローとなるのは選ばれし者が、一回だけ経験することなのである。
政府は俺を選んでくれた。そりゃそうだ。両親はともに他界した。俺は元プロボクサーだから、力には自信があるのだ。もちろん、褒美だって活躍という褒美とともにおくられる。
科学者が開発した『|超《パワー》スーツ』のおかげで大きくなって、攻撃力・防御力・素早さともに約50倍。
「最高だ!」
俺はこころの中で叫んだ。
これで、3年前から憧れていたヒーローとして活躍するという夢を叶えたのだ。
ただ、ヒーローは秘密中の秘密。俺は政府がとある目的があってこうやってしているという噂を聞いたことがある。今日は俺にしかできない秘密を暴いてやろうと思った。もちろん『超スーツ』の力だってある。それに、サイズは自由自在。透明になることもできるし、罠やトラップ、セキュリティをかいくぐることだって可能だ。
政府がいるビルに着く。空をひとっ飛びで、田舎から都会だ。
『超スーツ』がなければ不可能だ。政府もいい人材を選んでくれた。
「誰かしら?」
女の声が聞こえた。アニメの秘書っぽい、いかにも美しい女幹部という感じだ。
ミステリアスな悪役顔にもみえるし、頭脳戦を得意とする味方にもみえる。誰なんだ?こいつは。生物が変身しているのか?
それに、なぜ俺の姿がわかるんだ!?
「あたしは|米田輝美《よねだてるみ》。政府に雇われた番人よ。貴方は?」
「俺はッ…|児玉均《こだまひとし》だ」
とっさに偽名を言った。危ない。
「へぇ…あのヒーローの?」
「はっ…!?」
ニヤリと笑うと、輝美は叫んだ。
「侵入者よ!|岡悠馬《おかゆうま》よっ!!」
「…!!」
嘘だろっ!?
「残念、ここでは『超スーツ』は発動しないわ。貴方は愚かね。もっと目立ちたい、出しゃばりたいなんて…」
その後、俺は取り押さえられた。
---
俺は3年前、親を殺めた。
そのあと、犯罪者を更生させるという『ーロー計画』という計画があるという噂をきいた。そして、元プロボクサーという立ち位置のおかげもあって、俺は捕まった途端すぐにヒーローが決定した。
1週間に1度程度来る生物を倒していき、やっと俺の番が来た。
ところが、俺は愚かだった。
犯罪者のくせに|英雄《ヒーロー》のふりをして、もっと活躍しようとした。
俺は『超スーツ』を奪われ、また牢獄に放り込まれた。
偽りと愛
「大好きだよ♡」
わたしは彼__|伊藤俊介《いとうしゅんすけ》__くんに囁く。
彼は本当は、わたしの親友・|相木《あいぎ》ももの彼氏だ。
ももが告白したんだって。
---
ももと俊介くんは、公園デート。
そして、夕暮れが近いとき、帰ろうと手を降った。
その瞬間__
「きゃあっ!!」
という悲鳴が、俊介くんの耳に突き刺さった。車の走行音が遠く、小さくなっていく。
「もも!?」
そう俊介くんが叫んでも、ももは何も言わなかった。
ももは、車に轢かれて、死んでしまっていた___
---
未だ、ももを轢いた運転手は捕まっていない。
それどころか、もっと重大な問題がある。ももを失ったショックで、俊介くんは意識を失ってしまったのだ。そして意識が奇跡的に蘇った後も、記憶を失ってしまった。
ももに似ているね、といわれ続けたわたしは、もものフリをすることにした。
でも、たまに、記憶がちぐはぐになっている時があるみたいだった。たまに「それ、そんなだったっけ?」と言われてしまう。やっぱり、いくら似ているからと言っても、ももの完全なフリなんてできない。
そういうときは「記憶違いでしょ」と誤魔化す。
そして、なんとか好きだよ、と言い続けた。
次第に、俊介くんは完全にわたしのことをももと認識するようになった__
---
俊介くんが、ある時言った。
「お前はももじゃない。|古本愛羅《ふるもとあいら》だ」
「__!?」
「俺は思い出したよ。俺は、事故でももを失ったんだ」
「ウソ_」
突拍子もない言葉だった。
「すべて思い出した。ふと、思い出したんだ。何故かは分からない。でも、パズルのピースがはまっていくみたいに思い出していったんだ」
「…認めた?」
「うん」
__どうして。どうして、思い出したの。
どうして、どうして、**思い出して《《しまった》》の!?**
「もう一回、忘却させてやるっ!!」
なんで、なんで、なんで。
なんで、思い出したの。
せっかく、せっかく、俊介くんがわたしのものになったのに!
なんで、いなくなったももなんかを思い出したの!?
「愛羅!?」
「うるさああああい!煩い五月蝿い!!忘れろ!前言撤回しろ!わたしの、彼氏め!!」
「ひっ………!?」
なんで?
父に、ももを轢くように誘導させた。
ショックにさせて、記憶喪失になる薬を飲ませた。
すべて、完璧だと思った。わたしは、ももを演じてるんじゃない。ももなんだ、と言い聞かせた。
愛羅を殺して、ももになった。
「死ね!!わたしも死ぬ!さあ、死ね!」
「っ!?」
わたしの部屋のドアを開けようと、俊介くんが。
バタン!という音がした。
「もも…」
わたしは、ももなんだ…
わたしは、俊介くんに好かれなきゃいけないんだ。
「__俺は、あの時の、愛羅のほうが、好きだったのに____」
その俊介の微かな声は、わたしの耳に届かない。
古参で推しのアイドルは、転校生なんだそうです。
今になって、売れっ子アイドル・|小夜紗由《さよさより》の名を知らない人はいない。
紗由は1人で活躍するソロアイドル。アイドルというよりは、芸能人に近いかもしれない。それでも自分で作った曲でライブをしたり、テレビの歌番組で活躍したりしている。
でも、いつも仮面をかぶって、顔を見せようとはしていなかった。
まさか、YouTuberから派生するとは思わなかった。YouTuberの頃から同い年で親しみやすいと応援していた。
---
「こんにちは。|細田葉燐《ほそだはりん》です。よろしくお願いします」
夏休み明け、転校生がやってきた。
細身で親しみやすい顔立ちと性格。声も結構美声で、わたしは一瞬で思った。
__小夜紗由と、似ているな、と。
でも、葉燐の正体に気づいている人はいない。わたしは葉燐に話しかけてみた。
「はじめまして。わたし、|大田夢羅《おおたゆら》。夢羅ってよんでね。えーと、大きいに田んぼ、夢に一張羅の羅」
「はじめまして、夢羅。よろしくね」
にっこりと、葉燐が微笑む。
それからわたしはひとりぼっちだった葉燐をお弁当に誘った。いろんなことを教えたり、教えられたりした。
---
2週間後__
「あ、のさ」
「なあに?」
「小夜紗由って知ってる?ソロアイドルの。小夜紗由に、葉燐って似てるよね、って」
「__ぇ」
聞いてみた。
意外な返答だった。
「知ってる、よ…」
「えっ、ごめんっ、イヤだった!?ごめんねっ!!」
「ううん」
どうしよう、まずいこと、聞いちゃったかな__
「わたしが、小夜紗由だから…」
「えっ!?」
葉燐が、小夜紗由なの!?
「ほんとはバラしちゃいけないんだけどね。でも、夢羅はすっごく良い人だから、教える」
「わかった。2人だけの秘密ね」
うん、と応答。
お昼ご飯を食べながら、秘密の、禁断の話をした。
---
次の日、葉燐はクラスの中心的女子・|小野瑠夏《おのるか》といた。
瑠夏とも仲良くなったのかな。
「ねえ」
「何、葉燐?」
「わたしが小夜紗由だと知ってから媚び売ってくんな。陰口とかダサい行為、全部知ってるから」
す、すごい。わたしだったら言えない。
「はーーーーー。もう活動やめよ」
「えっ!?」
驚いたのは、わたしだった。
---
「人間ってそんなもんだよね」
そう葉燐が言った。相槌を打つ。
「夢羅。夢羅だけが、いちばんの親友だよ。わたしの親も金目当てだしさ」
「__葉燐?」
葉燐はバッと立ち上がって、階段を駆け上がった。
「葉燐!?」
屋上へ通じる階段に置かれている『この先進入禁止』という三角コーンを乗り越えた。
そして、屋上にわたしもいく。
「__葉燐?」
「わたしの親友は、夢羅だけだよ」
にっこりと微笑んだ後、葉燐は滑るように、落ちていった。
スローモーションに、見えた____
「葉燐!!!」
「葉りぃぃいいん!!!!!」
感情をもとめて。
__ある日、ふと思い出す。
彼女は紳士的な子で。彼女は、みんなを救う|魔法使い《ヒーロー》で。
わたしは剣士で、彼女とふたりっきりで旅をしていた。
魔王討伐とかじゃない、純粋な、人を救う旅。
でも、わたしは改造人間だった。
なんらかの科学者が、感情を抜いたらどうなるのか、という実験の末に生み出された存在だった。
それに、わたしの種族はダークエルフだった。ダークエルフ、とは感情があまりない種族。
そんなわたしに、人間の彼女は手を差し伸べてくれた。
「いっしょに旅をして、感情を見つけよう」
と、言ってくれた。
でも、どう足掻いても、わたしは感情を知ることができなかった。
危険なのに人を助ける感情。
仲間がいなくなった感情。
たいせつな人を、傷つけられた感情。
何もなくふらふらと歩いている感情。
平和を愛する感情____
---
何も、分からなかった。
「感情なんて__わからない」
「そのうち分かるさ。頑張って、旅しよう」
彼女はパチパチと燃える焚き火のそばで、そうつぶやいた。
そして、「おやすみ」と言ってねた。
ツー、と、流れ星が夜空を走ってゆく。
感情が、知れますように____
そう、流れ星に祈った。たとえ人に見捨てられた塵でも__そんな存在でも__こうして、わたしたちにはきれいなものにみえる。そして、わたしたちは祈る。
わたしも、誰かの目には、そうやってみえるのだろうか。
塵のような、ただの一般人でも、誰かの目には__
---
そんな彼女が、死んだ。
純粋な寿命による死だった。
彼女は、無理だ、と悟っていた。
わたしに向けた遺言を、思い出す。
〝自然と涙が、わたしに向けた涙があふれてきたら、あなたはきっと、感情を手に入れた。そう思ったらいいよ〟
彼女が柩に収められ、フタをされそうになる。
わたしの目から、ツー、とあふれた。
ああ、これが感情なんだ。
ありがとう。
あやとり
わたしがあやとりをやり始めたきっかけは、忘れてしまった。忘れたほど遠い昔から、ずぅっとやってきた。
でも、誰かとやることはなく、ただ1人あやとりを本をにらみながらやっていた。
そのうち、親が帰ってこなくなって、施設に引き取られた。その時も、わたしはあやとりの`糸`を握っていたという。
ちなみに今は、|山中幸子《やまなかさちこ》さんという、全くもって別人の人に引き取られている。
中学生になっても、わたしは電車に揺られながらあやとりをする。
親指のひもを小指にとって___
そして、中指のひもをはずして___
ガタンッ、と電車が大きくゆれて、ひもがもつれる。そして、人差し指にかけようとしたひもが滑り、もうどれだか分からなくなる。また最初からだ。
基本の形を作る。
「次はぁー、|善知鳥《うとう》駅ぃー、善知鳥駅ぃー」
善知鳥駅。
わたしの通う私立善知鳥学園は、さみしい、ぼろぼろの中学校。
知ってる人なんてもちろんおらず、ただ、知らなきゃいけない人がいるところ。
赤色のひもを赤色のポーチに入れる。こうしたら、バレる可能性は少ない。それに、頑張れば靴紐という言い訳だってできる。
「降りまぁす」
そうつぶやきながら駅を降り、一気に走る。コンクリートは痛そうだけど。
それも、トイレでまたあやとりを嗜むためだ。
「|渡辺《わたなべ》」
「だっ…」
彼は普通の男子だった。もちろん名前なんて覚えていない。そろそろジメジメする季節だというのに。
小さめの駅で、水筒のお茶を飲む。
「よぉ」
「お、遅れっ…」
「ひも」
「えっ?」
あっ…
スクールバッグの、中から、赤いひもがチラリと見えていた。
「なにそれ」
「あ?えーっと…あやとりのひも、です」
「ふぅん」
あやとりのひも、と聞いた時、彼はつまらなさそうだった。
「何ができんの?」
「八段はしごとかならできます」
「2人でできるやつとか、ないの?」
「え…?」
2人で。できるやつ。
知らない。
いままで1人でやってきたから……
「えーと、ちょっと待ってください」
ひもを手首にまきつけ、そのひもを中指でとる。こうしたら、吊り橋。
「このひもを、こうやってしてください」
「えーと、こう?」
「そんな感じです」
そしたら、田んぼの完成か。そしてクロスの部分を取ると__
「これで、田んぼから川になりました」
「えー、すっご!」
こんなに驚くんだ。
「でも、もうすぐ行かなきゃ遅刻…」
「そうだね、じゃ、行こ。|桜花《おうか》」
「は、はいっ…」
彼が渡してくれたあやとりをぎゅっと握りしめる。
これは、もしかして運命の赤い糸なのだろうか。
あの日カフェ
そのカフェは、なんだか不思議なカフェだった。
店名は『〝あの日〟カフェ』。面白そうだったから、僕は入ることにした。
「いらっしゃいませ」
ちょっと僕好みの、女性が店員だった。ブラウンとクリーム色でできたセピアカラーの服を来ている。お店の壁は少し黄ばんでいて、足元の壁はレンガになっていた。
タブレット注文でもなく、紙のメニューでの注文。今でいう『レトロ』よりも新しく、でも懐かしい感じだった。
「ご注文はお決まりですか?」
「あ…まだ決まってないです」
雰囲気に見惚れていて、すっかりメニューを忘れていた。
少し考えて、すみません、と声をかけた。
「ご注文をどうぞ」
「えーと…スパゲッティのたまごがけ、ほろにがプリンをひとつずつお願いします」
「かしこまりました!ふわたまごのせスパゲティがおひとつ、ほろにがプリンがおひとつですね!少々お待ち下さい。ドリンクバーはご自由にご利用いただけます!」
そして、少しばかり店の雰囲気を眺めていた。
「えーと、ふわふわたまごのせスパゲティです。ほろにがプリンはまた呼んでくださいね」
「ありがとうございます」
がら空きの店内は、太陽の光に満ちていた。クリーム色の壁が、太陽の光とともに店内を染めている。
とりあえず、ドリンクを取りに行こう。
カラン、というグラスの音が店内に響いた。
しゅわしゅわコーラ、シャキッとカルピス、ひらひらメロンソーダ、ドキドキミックスジュース…
凄い品揃えばかりだ。少しいれて、飲む。
う、コーラは炭酸がきつい。あと濃厚というかで、ちょっとうっとくる…
カルピスは薄め。でもカルピスという味がする。小さい頃の、割って飲むタイプを節約するために比率を変えたときみたいだ。
ひらひら、がよく分からなかったがアイスの味もした。ロールアイスかなんかを表してるのだろうか。
…なんか生臭いような、土気臭いというか…なんか合わない。そもそも色合いが紫芋みたいなのだったし。
結局、カルピスを飲んだ。スパゲティも、ケチャップの味が薄くても美味しい。
ほろにがプリンは、カラメルが濃かった。でも、あっさりとした味わいのプリンとの相性は抜群。
__過去の味。昔の味。懐かしい味、〝あの日〟の味だった。
「ありがとうございました。とても美味しかったです」
「ありがとうございます」
お会計を済ませて、店を去る。
〝あの日〟の出来事__すべて思い出した。
僕が好きだった女の子が、店員だった。転校してしまって、もう会えなかった。
「|李衣《りい》!」
「__コウくん。ありがとう、ずうっと待ってたよ…!」
冷蔵庫に座敷わらし
「あ〜、疲れた」
わたしはそう呟いた。
一人暮らしを始めて一ヶ月。普通に大変だ。
すっからかんの冷蔵庫を眺める。もう買い物は予算がかつかつだし行きたくない。
「ばあ〜!」
「うええっ!?」
突然、冷蔵庫から女の子が飛び出してきたっ!!
「誰っ!!」
「わーしは座敷わらし。わらって呼んでね。お姉さんの名前は?」
「|相田真希《あいだまき》、だけど…」
「真希さんって呼ぶね!」
わらは無邪気に微笑んでいた。
「わらは、真希さんに尽くそうと思うんだっ」
「え、え?え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え、え!?」
「パニック?」
「ぱっ、なんでそんなに冷静なの!?」
にっこり笑って、
「じゃ、ご飯ちょうだい」
と言ってきた。
「…ご、ご飯なんてないよぉ」
「そーおー?真希さんの『笑顔』がわーしのご飯だよ?」
「え、あ、そうなの」
随分変わった座敷わらしだな、と思う。
それにしても、炒め物ひとつ作れない冷蔵庫の中身はちょっとなぁ。
「じゃあ、満腹にしてあげる!それで笑顔になって?」
「あ、うん」
すると、舌の上に美味しい味が広がって、満腹になった。
「美味しいっ」
「う〜ん、いい笑顔はやっぱ美味しいなあ」
それから、わらは冷蔵庫で寝るようになった。雪女とのハーフ?って聞いてみたけど、「わーしは座敷わらしのわらだよ?」と答えるばかり。なんで?と聞いてみると、「落ち着くんだもん」と答えた。しつこく聞いてみると、
「わーしゃ小さいから、体力を使うと熱くなって熱中症になっちゃうんだ」
---
それから数カ月。わらは笑顔を見せるとご飯をまかなってくれた。
それに、なんだか毎日楽しくなってきたような気がして、自然と笑顔になった。するとわらもわたしにいいことをしてくれて…という繰り返し。
そんなとき、悲劇は起こった。
「あっ!?」
ぐらぐらぐらり、と大きな揺れ。
「ひいぃぃい!!」
とりあえず、机の中に潜り込む。
「わらっ、大丈夫!?」
「うんっ」
な、なんとか無事…
避難所に向かう。もちろん、わらを抱えて。
「わら、体調はどう?」
「わ、わーしゃ気分が悪い…」
「わらっ!?」
わらはつらそうに眠った。
「わらっ!?返事して!!」
それっきり、わらは目を覚まさなかった。
地震からわたしを救ってくれた__
それこそが、わらがしてくれた幸運。わらはわたしと引き換えに力の使いすぎで死んでしまったんだった。
運命の付箋
付箋を貼った参考書は、いろんな厚みで分厚くなっていた。
絶対に、合格してみせる。
あの人が、通った学校に___
---
わたしの彼氏・|野添斗真《のぞえとうま》くんは、成績優秀。スポーツはできなかったけど、内面の優しさに惹かれて付き合った。
2つ年上の斗真くんは、2つ年上なのに、何歳も年上にみえる、大人っぽい人。きっかけは図書館で、わたしのお気に入りの付箋を持っていたことだ。アザラシのイラストがかかれた、かわいい付箋。
ほんの些細なことだけど、意気投合して喋った。知的な斗真くんは、わたしに勉強を教えてくれた。でも、勉強の話ばかりじゃなくて、普通の雑談も一緒にした。
斗真くんが勉強を頑張っているのは、親のせいだということを、最近知った。親は昔、子供を流産させてしまったという。その時、完璧と言っていいほどの人生計画を立てていたという。
しかし、赤ちゃんができにくい体質の上の流産。それはもう気が狂ったという。そして、当時1歳だった、施設に預けられていた斗真くんを引き取ったという。
計画には一緒に遊んだり、休憩が入ったりしていた。が、他人の子供だからという感覚に囚われていて勉強をさせるようにした。
友だちと遊ぶ時間は勉強に当てられ、ちょっとでも遊ぶと暴力を振るわれたという。その辛さは、痛々しい、隠していたアザが語っていた。
それなのに、あの人は___
---
斗真くんが殺されたと聞いたのは、部活帰りのニュースだった。地元のニュース番組で、「速報」と言われていた。
わたしと付き合っているのがバレて、斗真くんを殺してしまったという。
「そんな…」
ショックと悲しみ、怒りと憎しみ、恨みがごちゃ混ぜになった。彼はようやく志望校に合格し、学校生活を満喫していたのだ。
それが、恋愛をしていたからとだけで、親が全てを奪った。
原因がわたしとの恋愛だから、わたしが斗真くんの命と人生を奪ったみたいだった。辛かった。
でも、本当に辛いのは、斗真くんなんだろうな…
暗い夜空を仰いだ。キラリと星が光った。あの黄色い星が、斗真くんの星なんだろうな…
---
だから、わたしはやる。
斗真くんに会うために。せめて、いた場所に行くために。
受験日が近づいてきた。わたしは参考書を閉じて、付箋を貼った。かわいいアザラシのイラストがかかれた、運命の付箋を。
出会いと将棋①
「はじめまして、|葵井琴海《あおいことみ》です。誕生日は11月17日で、趣味は将棋です。みんなと早く友達になりたいです、よろしくお願いします」
転勤族であるわたしは、この学校ではじめての自己紹介をした。
ともみたちと離れるのは寂しいけど、前みたいに一緒に将棋できる子がいいな。
授業が終わり、休み時間。
「ねえねえ、あの転校生、将棋が好きなんだって。古すぎない?ダサいよね」
「将棋なんて古すぎてちょっとねぇ…。ゲームとか持ってないのかな、昔過ぎるでしょ」
「だよね〜!《《あいつ》》と同じ感じだしね」
…え…
そういう陰口が聞こえてきた。
将棋の何が駄目なんだろう。はあ、この学校でうまくやっていける気がしないや…
---
「琴海さん」
「はい、どうしましたか?」
担任の先生は優しそうな先生。
「転校初日で緊張しているところ悪いのだけれど、|白川愛芽《しらかわまなめ》さんにプリントを届けてくれませんか?」
「わかりました」
「白い家で、青いポストがある家です。インターホンを押して、自己紹介をして、届けてください」
「はい」
白川愛芽さん…休んでいるのかな。
でも、ずいぶん来ていないみたいだった。テストが入ったファイルに貼られたメモに、『未 白川愛芽』とたくさん書かれていた。算数や理科、国語全てがテストを受けてないようだった。
---
「ここか」
白い家に、青いポスト。表札に『白川』と書かれている。
ポストに投函して去ろうとも思ったけど、ちょっと話してみたい。
「__…先生__」
「こ、こんにちは!」
「__…先生じゃ、ない…?__」
パジャマ姿で、熱でもあるのかと思った。
「わたしは転校生の葵井琴海。将棋が趣味なの、よろしくね!」
「将棋っ!?」
わわ、なんかいきなり大声だしてきた…
「中入って、一緒に将棋しよ!」
「えっ!?」
一緒に将棋するって、どういうこと__!?
出会いと将棋②
「さ、将棋やろ!ちょっとまってて、用意するから!」
連れてこられた部屋には、でかでかと将棋盤が置かれていた。丁寧に磨かれているのか、ツルツルピカピカ。でも、あまり使われていないようだった。
「ほら、やろ!先攻?後攻?」
「じゃあ、先攻」
さっきは一体何だったんだろう。
「ねえ」
「どうしたの?」
「なんで学校行かないんだろうなあ、って。別に責めているわけじゃないし、無理に行かせようとも思わない。でも、話が合いそうなのになあ、って思っただけ」
愛芽さんは一瞬うつむいて、言った。
「みんなに、からかわれたから。将棋なんて古い、ダサいって」
「…わたしも」
「だよね?」
脳裏によみがえってくる。
〝ねえねえ、あの転校生、将棋が好きなんだって。古すぎない?ダサいよね〟
〝将棋なんて古すぎてちょっとねぇ…。ゲームとか持ってないのかな、昔過ぎるでしょ〟
〝だよね〜!《《あいつ》》と同じ感じだしね〟
あの子達が言ってた『あいつ』とは、愛芽さんのことだったんだ。
「でも、あいつらは将棋の良さが分かってないだけだよ。ほら、気にせずやろう」
「そうだね」
…あの子達は、将棋の良さが分かっていない。
そう自分に言い聞かせても、どう足掻いても、その脳裏に焼き付いた、張り付いた、住み着いた言葉ははがせなかった。
---
パチン、という木と木が合わさるような、触れ合うような音が響いた。
家にも、もちろん将棋盤と駒はある。でも、とても愛芽さんのような立派なやつじゃない。
あの子は、将棋というものを自分の子供のように、たいせつに扱っている。
わたしのような、ただの趣味でしかないような子じゃない。
---
「えっ?」
「そうなの」
愛芽さんが引っ越すのを聞いたのは、出会ってから翌日のことだった。
場所を変えてみたら、楽になれるのじゃないかと言われたそうだった。
「でも、電話番号だけ交換しておこうね」
「うん」
電話番号だけ伝え合う。その後は荷造りが忙しいそうだったから、もう電話できなかった。
---
10年後___
「21歳白川愛芽さんが、将棋で〜〜」
ニュースをつけると、愛芽が将棋界で活躍しているニュースが読まれた。
「愛芽!?」
「なぜここまで将棋を続けることができたのですか?」
アナウンサーが愛芽に聞いた。
わたしはその言葉を聞いて、愛芽の電話番号が書かれたメモを探した。
「昔、将棋でいじめられたことがありました。嫌になったのですが、転校生が将棋好きと分かったんです。意気投合して、将棋を目指そうと思いました。残念ながらその後すぐ、わたしが転校してもう電話は全然できていません。でも、たいせつな人です。
だから、琴海ちゃん、ありがとう」
海辺で
大学4年生の夏、友人の安藤カナエと筒井レイナから誘われた。
カナエとレイナと、わたし・月野ユナは時々遊ぶくらいだ。その3人に河野ミサトと、植木ミナミが加わった5人が集められた。
正直、カナエたちは強引で我儘だから苦手だ。
「今年は、堀崎海でキャンプをしよう!それで、近くで肝試ししよう。8月19日ね」
堀崎海は、ここらへんで唯一ある海だ。以前は海水浴場だったのだが、危険さがともなうとして閉鎖された。行こうと思えば行けるのだが、安全は保証されていない。
「いや、危ないしやめようよ、カナエ」
「いやいや、いいでしょ!キャンプとか、夢あるしね!」
本心は嫌なんだけど…
カナエとレイナの交流は凄まじく、わたしたちが通う大学で知らない人はいない。そんなカナエたちに、わたしの噂を囁かれたら…そう思うと、鳥肌が立つ。
でも行くのも怖い。
「で?どうすんの」
「え!えーと…」
「あんたみたいな陰キャを誘ってんのに、乗らないの?おかしくない?」
うっ、怖い。
でも、危ないことしなけりゃいいだけか。
---
真夏の日差しが眩しい。テントをはって、お弁当を食べる。
海で遊ぶなんて勇気はない。だいいち、海で遊ぶなんて考えてなかったから水着も持ってきてないし。
「ミナミとミサトはどうするの?」
「えー?なんでもないよ。ユナは泳ぐの?」
「ううん、泳がない」
だよねー、と安堵したようにミサトが言った。
「じゃあさ、わたしとミサトは向こうに行くね。カナエたちが来ないように見張っててくれる?そしたらあとはユナの思惑通りだよ。肝試しのときに会おう」
「え?どういうこと」
「いいからさ!」
どういうことだろう。
ミサトとミナミは岩の方に行ってしまった。
---
ミサトとミナミはなかなか帰ってこなかった。
レイナが、「肝試しをしつつ探そう」と言ったのでそうすることにした。
カン、カン、カン、という音が、静かな海に響き渡る。
なんの音だろう__
「ごめんごめん、遅れちゃった!じゃあ、まずはカナエとレイナだね!」
「えっ、あたしとレイナ!?なんで」
「提案したのはカナエたちでしょ。さ、行って!」
「え、はぁい…」
よし、レイナたちがいない!
「ねえ、何をしたの…?」
「ふふ、一種のオマジナイ」
そう言ったミナミの目は、笑っていなかった。
__「キャーーーーーーーーーーッ!!」__
「なんか、声がしない?」
「気のせいでしょ〜」
そう言って肝試しを終えた。
カナエたちが、帰ってこないなぁ。
まあ、大丈夫でしょ。うん、それにあの子達がいない方が快適だし。
「おやすみ〜」
---
「8月19日、堀崎海付近で死んだと思われる方がいました。未だ行方が分かっていない安藤カナエさんと筒井レイナさんのものと思われます」
溺愛しているペット、妖精でした。
「かわいい!」
ペットショップで一目惚れした犬は、今ではわたしの相棒だ。
新しくオープンしたショッピングモールでは、いろんなものがあった。100円ショップ、お菓子屋さん、床屋さん、スーパー、服屋さん…。とにかく、いろんなお店が併設されていた。
そんな中、動物好きなわたしは真っ先にペットショップへ向かった。そこに並んでいたのは、かわいい柴犬だった。
その柴犬は、今、わたしの隣でテレビを見ている。名前はおもち。黒い柴犬だけど、おもちだ。
くるんとした尻尾が愛らしくて、白色の麻呂眉がかわいい。
「|愛菜《あいな》ー、もう寝なよ」
「ええ、もっと見たいのに」
「ほら、薬飲んで寝て」
わたしは花粉症の薬を飲み、おもちに「おやすみ」と言ってベッドにもぐりこんだ。
---
一面お花畑だ。花のベッドで目を覚ます。
「む…ここは?」
「愛菜ちゃん」
「わっ!?」
目の前には妖精がいた!手のひらよりひとまわり大きい。透明な羽がついている。麻呂眉で、黒い髪がくるんとカーブになっている。
「あたしは妖精!愛菜ちゃんを見守っていたんだけど、とっても優しいから、ひとつ願いを叶えてあげる!」
「えっ、ほんと!?」
「ほんとだよ!」
どうしようかなぁ。
気になっている人と付き合ってみる?
テストでいつも100点満点が取れる?
お小遣いがもっともらえる?
「う〜ん…」
「迷っちゃうよねぇ。明日また来るから、考えといてね!」
「えっ?」
---
変な夢を見た。でも、楽しかったな…
それで、願いはどうしよう。
欲しいものをたくさん書いてみた。
かわいいふせんと、みんなが持っているカラフルなマーカー。ペンケースにつける好きなキャラクターのキーホルダー。フリルがたくさんついたお洋服もいいし、香り付きの消しゴムも…
「まようなぁ」
おもちにドッグフードをあげながら、考えていた。
---
「こんばんは〜。きまったかな、願い?」
「決まったよ!」
「何々?」
もう、決めてあるんだ。
「素敵な服?かわいい文房具?おそろいのもの?なんでもいいよ!」
「おもちとしゃべりたい!おもちと、ずーっといたいな!」
妖精は一瞬「えっ?」と驚いた。
「そうなんだ。本当にいいの?」
「うん!」
「なら、もう叶っているよ」
「え?」
どういうこと?おもちと、もうしゃべれているの?
「だって、あたしがおもちだもん」
「そうなの!?でも、現実でしゃべりたいなあ。それに、おもちとずっといたい」
「本当?」
「うん!」
妖精はにっこり笑った。
「わかった!」
---
「おもち!」
起きた途端、呼んでみた。
「愛菜ちゃん!」
「わあ!願いが、叶ったんだ!」
わたしはおもちをぎゅーっと抱きしめた。
初デートはスーパーで
スマホ片手に歩く。
はじめてのデートだ。彼氏の|白井直樹《しらいなおき》くんを待たせるわけにはいかないと思ったけど、早くつきすぎてしまった。
今日のデートスポットはスーパーだ。直樹くんの希望で、「気取らずなるべく庶民的なところがいい」だそうだ。散財しすぎないとかがありがたいけど、もうちょっと奮発していいんじゃないか。
だいいち、「初デート」と言えるのはこれが最後。初デートを飾るのがスーパーとは、どうなのだろうか。
---
<「着いた?」
「うん、なんとかw」>
<「まどかは方向音痴だもんね😁」
「だから早く出た!」>
<「そういうとこも可愛いね」
「ありがとう!」>
「ところで、どこにいるの?」>
<「ペルラン」
「ペルラン??」>
<「野菜売り場の奥にあるとこ。若い男がスマホをいじってるのも変かと思って、なるべく人目につかないところ選んだ。」
「わかった!野菜売り場のとこ行くから、キャベツとかあるとこいて」>
<「キャベツwOK!」
---
いつものスーパーなのに、ペルランという名前の店は初めて聞いた。店なのだろうか。一応、小さめの100円ショップは併設されているけど…
「あ、まどか!」
「おはよ〜!」
よかった、直樹くん見つかった…
「ペルランっていうところが、いいらしいんだ!いろいろいいらしい」
「いろいろいいって…分かった、行こう!」
薄暗くてちょっと怖いけど…直樹くんがいるなら大丈夫だよね!
「ねえ、まどか」
「どうしたの?」
「__…|~~~~《結婚しない?》__」
「え?」
なんて言ったんだろ。うまく聞き取れないや…
「あ、いや、なんでもないよ!というか、なんでキャベツ?」
「キャベツ売り場しか覚えていなかったから」
「まどからしいな」
さっきの直樹くんの言葉が気になるけど…まあ、細かいこと気にするのはよそう。
「明日から仕事かぁ」
「ちょっと疲れるよね」
そもそも、馴れ初めは大学4年生の時だ。卒業式にわたしが出席した時、かっこいいなと思っていた。そして、話してみると面白い人で、付き合い始めた。もう付き合って3年ほどだ。
---
「いらっしゃいませ〜!|堀口《ほりぐち》まどかさんと、白井直樹さんですね!」
にこにことした女性が迎えてくれた。
「こんにちは…」
すると、明かりが消えた。
「!?」
突然のできごとに、わたしは困惑する。
どうしたんだろう、と焦る。
パチ、と明かりがともった。
「まどか」
「直樹くん…?」
「結婚してほしい」
「えっ?」
キラキラと、ロウソクの炎を受けてダイヤが輝いていた。
「こんな…なんで…?」
「プロポーズ。このためにこのお店を見つけたんだ」
「わたしのために…?」
「紛れもない、まどかのためだよ」
ダイヤのように綺麗な心に見えた。
「どう言えばいいんだろう……でも、ありがとう。結婚、わたしもしたい」
「ありがとう」
嬉しかった。とっても、嬉しかった。
指輪を手に取った。これは、もしかしたら偽物なのかもしれない。
でも、これだけは言える。
直樹くんは、ほんとうに、わたしと結婚したいんだ。
あの時の
早くに親を亡くした、1人の女の子がいた。名前は|早本亜紀《はやもとあき》。
彼女は事故で両親をなくし、わずか5歳で引き取られた。親の顔をうっすら、なのだろうか、覚えている。記憶のタンスがつっかかえたみたいに、地味に嫌な感じだ。
わたし・児童養護施設の職員である|林瑞穂《はやしみずほ》の仕事は、そういった子たちのお世話だ。
最近気になっている子である亜紀は、たったひとつだけ食べられないものがあった。
シチューを出すといつも、食べるのを拒む。どれだけ工夫を凝らしても、必ず食べようとはしない。にんじんを星型の型抜きで抜いても、かわいい食器を使っても、食べる気配すら感じない。
そんな亜紀も、成人して施設を出ていくことになった。
今思えば、ずいぶん変わった子だった。群れることを好むわけでもないし、1人で遊ぶのも退屈そうだった。わたしが誘うと、ちょっとしぶりぎみに「うん」と頷くだけ。
熱を出してわたしは亜紀の旅立ちに会うことができなかった。けれど、「どこかで幸せになってほしい」と願った。
同僚に、「ひとりひとりにこだわっていたら、やっていけないよ。子供が少子化だったとしてもどれだけいると思うの?」と言われた。そりゃそうなんだけど、とどうも腑に落ちないのを感じた。
---
40代に入ったときも、わたしは児童養護施設で働いていた。
ある若い人が新しく入ってきたと聞いて、わたしは会おうとした。だけど、すれ違いの連続だった。
「こんにちは、林さん」
「あ、こんにちはぁ。…すみません、誰ですか」
ですよね、と不器用な笑みを、彼女は浮かべた。この子が新入りなのだろうか。
「ハヤモトアキです」
「ハヤモト…アキ…?」
聞き馴染みのある名前だった。
「分からないですよね。早朝のソウに本棚のホン、あのー…あ。|亜米利加《アメリカ》のアです。|亜細亜《アジア》の。それに糸へんに記すの右側って書いて早本亜紀です」
「…あっ」
あの時の___
「はい。林瑞穂さんにお世話になりました、早本亜紀です。林さんに会いたくて、林さんのような人になりたくて就職しました」
「亜紀ちゃん!?嬉しい!」
あの時の…
「これから、よろしくお願いします」
亜紀はにっこり微笑んで、そういった。
天罰
嫌な奴、とは誰にでもいると思う。
親にも、学校の先生にも、総理大臣にもいるはずだ。
そんな奴を、もし消すことができるのなら___
それは、だれもが望むこと。
---
「山田さん」
「あ、どうしたの」
クラスメートの|宮本瑞樹《みやもとみずき》が話しかけてきた。彼女はいわゆるうるさいタイプで、ちょっと苦手な子だ。
「いや?なんでもない。ふふふっ」
笑いをこらえて、かみ殺しているような表情だった。
「ど、どうしたの?何か言ってよ」
「えー?山田さん、ダサいなって思ってねぇ」
「え…?」
周囲の女子たちも、吹き出しそうになっていた。そんなに面白いことかな、と思う。
「|那津《なつ》」
「みぞれ。いたんだ」
字面をみて涼しげな子だな、と思ったけど名は体を表さない。熱血で、明るいタイプの子だった。クールな印象だったけど、のろいわたしをグイグイ引っ張っていってくれる。
「どうしたの、浮かない顔してさ」
「みぞれ…宮本さんが、ダサいって」
「ふ〜ん。それだけ?気にしない、気にしない!どうせ天罰が下ってくるよ」
ふふっ、とみぞれは笑っていた。「そうだよね」、とわたしは気楽に流した。
---
「宮本瑞樹さんが、死にました」
え、という声を漏らさずにはいられなかった。
瑞樹と、そのとりまきたちが遊んでると、トラックがつっこんできたという。でも、遊んでいる場所が道路で、いきなり飛び出してきたという。
とりまきたちも、命に別状はなかったけど、無傷では済まなかったとか。
天罰が下ったってことなのかな?
そう思いながら、わたしはふらふら歩いていた。
すると___
コーン、コーン
「え?」
コーン、コーン
そういう音がした。
「何っ…!?」
公園にある茂みのほうから聞こえた。
何かを打ち付ける音___
「みぞれ!?」
「___那津」
白いワンピースを着たみぞれが、にやりと笑った。
「きゃっ!?」
怖い、というのがはじめの感想だった。
「なんで見たの?…まあいいや。那津、わたしが瑞樹たちを呪ってあげてもちっとも喜んでなかったもん。絶好の機会だね。あ、でもそっか、わたしに呪いが跳ね返ってくるのか」
「どっ、どういうことっ!?」
1人でぺらぺらと喋る顔は、気味が悪い。
「やめっ___」
その顔は透き通っていて、わたしの心も透かされて読まれていた。
記憶喪失
妹が、事故に遭った。
詳しいことは分からないけど、記憶を失った、と言われた。
たった1人の妹なのに、なぜ、|真由《まゆ》じゃなきゃいけないのだろう。
記憶喪失になった、と言われた。それなのに、真由は、別な記憶を植え付けられていたのだ。
記憶喪失になっただけなら、新しい記憶を築いていけたのに。
だから、真由は時々、「えっ?」という。違和感を隠しきれていないのだ。
その違和感が築いた記憶どおりに、わたしは動かなきゃいけない。それが、「いつものお姉ちゃん」なんだから。
---
「ねーねー、お姉ちゃん。チョコケーキにしよ〜!」
チョコケーキ、って、真由はチョコレートが苦手なはずだ。勿論、わたしも苦手。
「おわんちゃんのお世話、行ってくるね〜!」
わたしたちが飼っている犬の名前は、おわんじゃない。
「えー?この水色のほうがわたしのだよ!」
水色の箸はわたしのだ。ピンクのほうが、真由のものだから。
「ねえねえ、マモカ、上手に描けたでしょー!」
真由が好きなキャラクターの名前はミモカだ。それに、そのキャラクターは、あなたがあまり好きではない、といったキャラクター。
日々、記憶は塗り替えられてゆく。
チョコケーキ、という、イベントの時にしか食べないような、些細な違和感。それだけに留まらず、いちばんおきにいりのキャラクターでさえ、真由は忘れてしまったんだ。
真由の記憶どおりのお姉ちゃんを演じるのにも、もう疲れた。
---
「|美優《みゆう》お姉ちゃん」
「え___」
唐突に、真由がそう言った。
わたしの名前は、美優じゃない。|高岸周《たかぎしあまね》。男子に、「男の子っぽい名前」とバカにされた、嫌いな名前。美優だったら、どれだけよかっただろう。
わたしの名前を、忘れてしまった。
真柚。あなたは、わたしを、忘れてしまったの。
自分を偽り続けるか、真柚に真実を告げるか。
苦しい。もう、疲れてしまった。
「真柚…」
そう、呟く。
どうしたら、わたしのこと、思い出してくれるのかな。
「あ、それ、美優の箸でしょ。水色のが、真由のだからね」
「ごめん、間違えちゃったぁ」
ハンバーグも、美味しくなくなっていた。
走りまくれメロンジュース
「人気アイドル・リンゴジュースさんの登場です!」
司会が意気揚々と言った。
「こんにちは!リンゴを一個丸つかみ!あなたの心も丸つかみ!リンゴジュースです!」
彼女は驚くほどに美人になっていた。にこにこと微笑む彼女を見て、わたしは悔やんだ。
同級生である彼女がこんなに出世しているのに、わたしはバイトまみれ。青春とか、感じてこなかったタイプの|飲料《人間》だ。
コマーシャルに切り替わった。すると、また、同級生のオレンジジュースが出演していた。
後ろのガヤ担当が「かっこい〜〜〜!!」と叫んでいる。
小綺麗に整えたブドウジュースが、ハイヒールのコマーシャル。
わたしの出身は、名門飲料学園。数々のタレントやアイドルを生み出してきた学校だ。わたしは普通に、高度な勉強がしたいと思っただけだが。
「よし」
わたしも、下剋上するか。
---
わたしの得意分野・小説執筆で世間に戦うことにした。バイトから、正社員にも成り上がった。
なんとか、小説新人賞を受賞した。そこから編集者さんにも出会い、一緒に立ち向かっていくことにした。
だけど、そんなに甘くない。
《ソーダ先生新作!!感動のラスト&衝撃の真実を約束!!》
《ソーダ先生の妹・サイダー先生の初出版!!青春&恋愛続々の短編集☆》
どんどんわたしの作品は埋もれてゆく。次第に編集者のダメだしもひどくなっていった。
「平凡過ぎる」
「不自然じゃない?不自然極まりない」
「面白くないですね」
その悔しさ、悔みをバネにして作品を書いた。でも、出版はされなかった。
こんな努力の結晶を600円くらいで売る、というのはどれだけ大変か分かった。
ただ1冊だけ、『疾風迅雷』という作品を出版できた。そして、それきりで小説家をやめようと思った。
---
「こんにちは!リンゴジュースです♪」
きょうも、同級生が微笑んでいた。
「今日は芸能飲料好きな小説特集〜とさせていただきます!」
小説特集___テレビに、わたしの視線はくぎづけになった。
「リンゴジュースさんの好きな小説はなんですか?」
「はい!メロンメロンさんの__」
「えっ!?」
メロンメロン、とは、わたしのペンネームである。
「『疾風迅雷』という作品です。この方の作品、すごく繊細で丁寧な描写が美しいんです。もっと読みたいんですが、全然売っていなくて。ようやく書店で見つけたんです。主人公の勇気等が、すごくいいんです!」
やっと、報われた___
そこから、わたしは小説家としても名が売れた。
下剋上、完了!
これを…リア友に…?
放課後
どんどん進む背中を眺める。いつものろいわたしは、さっさと済ませてしまう|悠羽《ゆうは》が、尚更遠く感じる。「待ってよ、」と言いたいのに、口に何かが詰まったみたいに言えない。
「放課後、空いてる?遊ぼうよ」
と悠羽が、この間、言った。そのときのわたしは「えーっとぉ…」としどろもどろになり、怒らせてしまった。
「空いてるかも。あー、でも、どうだったかなぁ…」
「もう、はっきりしてよ!もういいや、|友奈《ともな》。やめ」
「えーっ」
そんなぁ、と言う暇もなく、悠羽は掃除に行ってしまった。
のろいわたしとせっかちな悠羽で、平均的な速さになっていた。悠羽がいなければ、わたしはずっとのろいままで、取り残されてしまう。
短気な悠羽も、親友だからと我慢してくれたのかもしれなかった。でも、もう今は違うみたいだった。
そのままわたしを取り残せばいいのに、悠羽は放課後、いつもの公園で、と言った。わたしと悠羽の家は近いから、インターホンを押せばすぐに行ける。
遊ばなかったらいいのに、悠羽はインターホンを連打した。ピンポン、ピンポン、ピンポーン、と正直やかましい。でも、いつもの悠羽だった。
「友奈、早くしてよ」
「なんで一緒に行くの、」という言葉をぐっと飲み込んで、わたしは靴を履いた。その動作さえものろく、悠羽は不機嫌そうだった。また、怒り気味にしてしまった。
いつもの公園・|桜町《さくらまち》公園は、今日は珍しくがら空きだった。改めて広く感じる公園。動物の形をした遊具が多めに置かれているのに、虚しく、悲しく、寂しく感じる。こういうのを授業で習った『|伽藍堂《がらんどう》』というのだろうか。
こう考えている間も、悠羽はブランコの方へ行く。「待って、」と小声で言った。なんで小声になったのか、わたしにも分からなかった。
キィコ、キィコ、とブランコの嫌いな音が響く。わたしが地面を眺めていると、悠羽はあっという間に高くこいでいた。
「早いな…」
そうつぶやいた。もしかしたら聞こえてたかもしれない、と思う。
「どうしたらいいんだろう」
という、悠羽のつぶやき声も聞こえてきた。だいぶ早口で聞き取りにくかったけど、ちゃんと聞こえた。
「__友奈ぁ」
「どうしたの」
いつもよりゆっくりな口調だ、と思う。
「わたし、せっかちすぎるよね?」
「そう、思う…」
思わず、そうつぶやいていた。その声もブランコの嫌な音で聞こえないのかな___
「そりゃあさ、友奈だって、のんびりすぎるよ。でもさ、わたしも早すぎるのかなぁって…」
「…確かに。わたしも早くしなきゃ」
いつもより、早口で言ってみた。
早いような、遅いような、日が暮れてきた。
走ってくれメロンパン
「起きろぉおおっ!!」
「煩いなぁ…」
メロンパンはむくりと身体を起こした。彼女の母親・メロンジュースは売れっ子小説家、父親・食パンは普通のサラリーマンである。
彼女は仕事もしていない、家事もしていない、何もしていないだけの25歳ニートである。相棒はパソコン、家計を食いつぶす、見事な落ちぶれっぷりのニートだ。
「少しは働きなさい!昔、わたしは編集者のもとへ走って、家へ走ってこうなったんだから。あなたも走りなさい!《《いまは》》働かなくていいから、ちょっと外へ行ってきなさい」
いまは、というところの裏側は「いつか絶対に」というのをメロンパンは察していた。仕方なく、こそこそとパソコンを片手に公園へ行った。
---
「こんちわ〜」
「あ、ありがとうございます。わたし、メロンジュースです。すみませんが、鍵穴を変えてくれませんか」
「わっかりました〜」
業者はガチャガチャと鍵穴を変えた。
「合鍵が2つですね。娘さんがいるようですが」
「もう独立、というか、家出をしているので大丈夫です。ありがとうございました」
それ相応のお金を払い、「メロンジュース先生の小説、いつも読ませてもらってます。あ、プライベートにこんなこと言うのタブーですよね、すみません。では」と言って業者は去った。
---
日が暮れ、メロンパンは家へ帰った。持ってきた鍵を鍵穴にさす。しかし、どう足掻いてもうまくはまらない。
「あれっ?おかしいなぁ…」
よく見ると、見慣れない形の鍵穴になっている。そういえば、公園で暇をつぶしている時、鍵穴専門の業者トラックが走っていくのを見た。
まさか、と思う。あんな短時間で、鍵穴は変えられるものなのか。メロンパンはがっかりし、公園で夜を過ごした。
---
鍵を作るお金もないので、メロンパンは働くことにした。勿論、職場などどう見つけたらいいかわからない。履歴書どころか、紙一枚さえ持っていない。
さっそくパソコンで調べる。何を調べるかよく考えてから、カタカタと打ち込む。バッテリーは94%。たいせつにしなければいけない。
すると、「時給1万円、簡単なバイト募集中」というサイトが見つかった。闇バイトに見えない人はいないと思うが、時給1万円に引っ張られて応募した。
簡単な仕事をこなすだけで、何万円も稼ぐことができる。闇バイトでメロンパンは稼いでいき、アパートを手に入れた。
---
「次のニュースです。闇バイトが発覚し、チョココロネ、メロンパン、アンパンを逮捕しました」
自分の娘が逮捕されたニュースを、メロンジュースと食パンは何食わぬ顔で見ていた。さも、赤の他人が逮捕されたように。そして、ぽつりとつぶやいた。
「ようやく邪魔者が消えた」
溶けてくれチョコレート
|わたし《アメ》には嫌いなやつがいる。チョコレートだ。
愛称チョコで親しまれている彼女は、誰からも甘やかされている。うらやましいばかりなのに、わたしは人気にならない。
倒してやりたいと思っているところ、弱みを握った。彼女は熱に弱いのだ。
つまり、だ。炎天下の運動場に放置しておいたら、簡単に溶けて跡形も、微塵もなくなる。わたしが危害をくわえたという証拠も、何も残らない。ただただ、学校側は「謎な事件」として封印してしまうだろう。
「チョコさん」
「あ、アメさん。どうしたんですか」
「次、体育ですよね。ちょっと手伝ってもらいたくて。プリンちゃんとナッツちゃんじゃ、疲れるみたいなんです。ごめんね。運動場で待ってて。わたし、ちょっと器具を運んでくるから」
「あ…わかりました、いいですよ」
純粋無垢に引っかかってくれたチョコを見て、笑いをかみしめる以外やることなんてなかった。
---
チョコと一緒に運動場へ行くと決めたのに、チョコがいない。
|あたし《ムース》はチョコが気がかりで、すぐ運動場へ行った。もしかしたら、何か頼まれて運動場にいるのかもしれない。
運動場へ飛び出し、あたしは走った。すると、茶色いものがあった。
「チョコ!?」
「…ムースゥ…」
泣くのをこらえそうな声。最後の命を振り絞ったような声。
「どうしたの、保健室に行って冷やさなきゃ!」
「アメさんが…アメさんが、チョコを放っておいたの。チョコは、準備が必要っていって、ここで待っててって…でも、たぶん、嘘…15分経っても、まだ来ないもの…」
「アメさんが!?とにかく、一緒に!」
---
「アメさん」
ムースさんがわたしのところへ駆け寄ってきた。
「どうしたんですか」
「チョコのこと、知らない?知ってるよね。チョコから聞いたから」
ベッドで横たわっているチョコは、もう形を取り戻しつつあった。
「そんな、嘘…」という言葉をぐっと飲み込み、わたしは演技半分、本気半分の顔をした。
「何を聞いたんですか」
ボロを出すような言葉を言わないよう、一語一時に気をつけた。
「アメ…」
かすれるような声がした。紛れもない、チョコの声。
溶けてくれ、チョコレート。もう、固まらないで…
「次はあなたの番ね」
砂が少しついた顔で、彼女は言った。彼女はまだ、完全には固まっていない。真夏なのに、わたしだけがひんやり寒い。
固まった顔なのが、自分でもわかった。
レッテル
「バカ」「アホ」「いじられキャラ」
そんなレッテル貼って、貼って、貼って
それが生きがいだなんて「バカ」みたいだね
「アホ」みたいなことするなんて
こんなレッテル貼りの人生、何が楽しいの?
って「いじられキャラ」になるんだよ
---
挨拶交わすだけ そんな時にも思うだろう
あいつはあれだ ってレッテルを貼る
その大半はあなたが好きな わたしが嫌いな
嫌な嫌なレッテルだ
「気持ち悪い」「ガリ勉」「嫌われ者」
そのレッテル、そっくりそのままお返しするよ
あなたが好きなレッテルだから
---
人の気持ちも考えらんない むしろそんなこと眼中にないんだろう
自分中心 自己中心 俗に言う「自己中」だね
こんなやつが人を決める そんなことって正当か?
あんなやつが人を叩く そんなことってOKか?
そんなやつが人を落とす そんなことっていいのかな?
今のやつ、どんなやつのことだと思う?誰のことかなぁ?
---
人に貼ったレッテル、そっくりお返ししてあげるよ
「レッテル貼り人間」さん?
ヴァンパイアに感謝を
眠い、と感じる。でも、眠るわけにはいかない。
ゴミと瓶ばかりの部屋しかない。わたしの母親はアルコール中毒。
食べ物を最後にもらったのは4日前だし、お風呂は1ヶ月前に入ったっきりだ。
学校にも行けていない。
---
「美味しそうな血があるわ」
ちょっと不気味な声がした。朦朧としていた意識が吹っ飛び、わたしは本当に目を覚ます。
「!?」
「…あら、期待していたのと違うわね」
暗い夜、黒っぽくみえるワンピースを着た彼女。血しぶきのようなものが飛んでいた。
「きゃぁあっ!?」
「落ち着いて。そしたら、痛くないから」
女は周囲を見渡して電気をともした。
「やめて、ください…電気代が、払えないから」
「えっ?」
女は瞬時に電気を消した。そして、ガサゴソという音を立てて|蝋燭《ロウソク》を取り出す。ライターでカチリ、という音を立てて火をともした。
「これなら電気代を使わないわ」
明かりで女の顔が見えた。日本人っぽくない、外人っぽい整った顔立ち。
「あなたは…」
「え?」
「あなたの名前はなんですか?」
「わたし?えーと…ヴァンパイア。これは偽名だけど」
「ギメイ?」
「本当の名前とは違う名前」
なぜ偽名を使うのだろう。
「ヴァンパイア、さん…?」
「もういいわ、行く」
「待って!!助けてっ!!」
「助ける…?」
ヴァンパイアは困った顔と戸惑った顔、ハッとした顔、なんとも言えない表情を浮かべた。パタパタと飛び立つのをやめ、窓を経由して帰ってきた。
「助けてって…?」
「お腹空いた」
「…どうしたい?」
望みはひとつしかなかった。
「ヴァンパイアさんと一緒に暮らしたい。ひとりぼっちは嫌だ…」
「ダメだから…そんなの、ダメ…」
「なんでっ!?」
ヴァンパイアは黙り込む。そして、言う。
「あなたの幸せを保証できないから」
でも、ヴァンパイアは思ったらしい。どう見ても、この子は幸せじゃない、と。
「…此方の世界へようこそ」
そうつぶやき、わたしはヴァンパイアに連れて行かれた。
「大丈夫。わたしが育ててあげるから。吸血鬼として___」
黒い空に、紅い月が浮かぶ。その世界は、紛れもなく、わたしがいた暗い世界とは別物だった。
普通?な恋
叶わないことは分かってる。それなのに、僕は恋をした。
|白野瑞樹《しらのみずき》さん。彼女はお淑やかで、清楚系。男子に媚びるぶりっ子たちとはつるまない、カリスマ|溢《あふ》れる女子だ。
瑞樹さんはある日、僕に話しかけてきた。1人で本を読んでいる時、
「その本、面白いわよね」
と声をかけてきたのだ。
「あ……はい。僕も、この本好きです」
「そうよね、わたしも大好きよ。|小森《こもり》さん、よく読んでいるの?」
「はい」
ツヤツヤの黒いロングヘア。制服をきちんと着ていて、野暮ったい制服でさえ着こなせている。
まだ僕のことを|陽《ひなた》じゃなくて、小森のところにキョリを感じたけど。
---
一週間前の出来事で、僕は決心した。瑞樹さんに告白しようと思ったのだ。
どうせ叶わなくても、きっぱりと言ってもらえた方がいい。
今日も瑞樹さんは話しかけてきた。2人きりの教室。
「白野さん…」
「どうしたの?」
まだ、「瑞樹さん」とは言えない。
「付き合ってくれませんか」
ちょっとの沈黙が流れた。瑞樹さんは残念そうに言った。
「ごめんなさい、無理なの。小森さんのことは好きだけど…」
好きだけど、なんだろう?
「わたし、男だから無理なの…」
「えっ?」
意外な返答だった。だけど___
「良かった…」
口から、その言葉がこぼれた。
だって、僕は___女の子だから。
「僕だって、女です」
「え?」
「はい。だから、付き合うのは成立できます」
「本当?」
びっくりしている瑞樹さんも、また惚れるひとつの理由となった。
「嬉しい…。良かった。わたし、昔いじめられてたから。だから、頑張って男女関係なく制服が着られる学校も選んだし…本当に良かった。何より、わたしのことを理解してくれる人がいて。その人と付き合えるなんて」
「僕もです。白野さんが___」
その日は、本を読むよりも話した。
---
それから、僕らは付き合って結婚した。
本当は僕が花嫁衣装で、瑞樹がタキシードなんだろうけど__
僕がタキシードで、瑞樹が花嫁衣装を着ていた。お互い、「良かったね」って、笑いあった。
朝
「おはよう」
一人暮らしのアパートの一室。この間から始めた一人暮らしは、まだなれないことも多い。取り敢えず、挨拶は大事ということで、わたしは誰もいない部屋で挨拶を日課としている。
今日は眠い。そう思って、ソファにだいぶする。とてもじゃないけど、目玉焼きなんて作れない。今日は食パンで代用しておこう。
そういえば、ポストに投函されてるチラシを見なきゃ。ガチャリ、とドアを開けてポストを見る。『カスガさん宛』というチラシだけで、特になにもない。そういえば、表札、もうボロボロだな。読めなくなってるし。
わたしはすぐにゴミ箱に捨てて、朝食の支度を始める。
6枚切りのパンにスライスチーズと生ハムを乗せる。あれ、今日で食パン、もうないじゃん…昨日まで、絶対2枚はあったのに。
ちょこちょこっとキャベツなんかを添えると、バランスの整った朝食になる。シメにヨーグルトでも食べれば、充電完了だ。
暗いニュースを切り替えて、動画を見る。特に当てがあるわけでもないけど、なんとなくゲーム配信を見る。
「ふわぁあ〜〜」
遅れて欠伸がこぼれ出る。麦茶を飲み、急いでスーツにきがえる。ぱきっとしたスーツ。
あ、ソファのところに出してくれてる。昨日のわたしかな…
スーツにささっと着替え、歯磨きを済ませて出勤しよう。電車通勤だから、時間きっかりに行かないと。
「いってきまーす」
ガチャリ、と二度目のドアを開ける音が響いた。
「いってらっしゃい、カスガさん」
「いってきます」
何処からか声がした。
あれ、あの人、見たことないな。いや、隣に住人、いたっけな…
---
--- 解説 ---
いつも通りの朝の支度。起きて、ポストを見に行って、朝食、着替え、歯磨き。そして、電車に遅れないように家を出ます。
何気ない日常ですが、どことなく違和感がありますね。
昨日まで2枚はあったパンが、もうなくなっています。スーツを置いたソファにダイブしたら、スーツはしわくちゃになるでしょう。しかし、『ぱきっとしたスーツ』のままですね。
そして、最後の文。『あれ、あの人、見たことないな。いや、隣に住人、いたっけな…』。
違和感が、全てストーカーや忍び込んだ人物の仕業だと考えれば、説明がつきます。表札がボロボロになっているのに、何故声の主は主人公をカスガさんと知っているのでしょうか。
真実か嘘か
--- 一 ---
とあるところに、ふたりの女の子がいました。
ユイという女の子は、いつも素直で、意地悪もしませんでした。
マイという女の子は、いつも嘘つきで、意地悪をしていました。
お母さんは、いつもマイをしかっていました。マイは、
「ユイがやった」
と罪をなすりつけてばかりいました。ユイは、意地悪をされたので、
「お母さん、しかってくれてありがとう」
と言いました。
ある日のこと、マイが死んでしまいました。ユイは悲しんでいました。
マイは、海で自殺していました。
--- ニ ---
わたしはマイ。双子の姉に、ユイがいる。
ある日、わたしはユイのお菓子をつまみ食いしてしまった。その時、「なんで食べたの」としかられた。だから、謝った。そしたら、「いいわよ」とお母さんが言ってくれた。
でも、それからわたしの信用は落ちてしまった。ユイが叫んで、わたしを悪者扱いしてきた。その時、お母さんは一方的にわたしを責めた。だから、
「ユイがやった」
と言った。罪をなすりつけるな、としかられた。
「お母さん、しかってくれてありがとう」
ユイの顔は、全然かわいくなかった。
ある日のこと、わたしはユイに海へ誘われた。その瞬間、海へ突き出された。
自殺で片付けられちゃうのかな。
--- 三 ---
わたしはユイ。双子の妹に、マイがいる。
ある日、マイはわたしのお菓子をつまみ食いした。お母さんがいっぱい責めてくれて、すっごく嬉しかった。謝っても、許さないところが楽しかった。
罪をなすりつけたことにできて、ほっとした。
マイがいなければ、わたしはもっとケーキを食べれた。
マイがいなければ、わたしはもっとお金を使われた。
ぜーんぶ、マイがいるからだ。
だから、ある日、わたしはマイを殺した。
いままで、マイに罪をなすりつけれたから、全然疑われなかった。
だから、自殺で片付けることができた。
犯人:親友
この1周間、本当に信じられないことばかりが続いた。
1週間前、親友のミサが殺された。奥深い森で、死体として見つかったのだ。遺書があったので、警察とかは自殺として片付けた。
わたしはびっくりした。ミサが、自殺するなんて。自殺…。明るいミサが?でも、明るいからの苦しみがあったのかもしれない。
でも、つい一昨日、他殺だと認められた。ミサの親が、どうしても諦めきれなかったから調べ尽くしたらしい。複数のちょっとずつの違和感が、他殺だと認められたみたい。
犯人はミカ。証言によると、
「ミアとばかり付き合っていた。ミアと一緒に遊びたいのに、ミサが邪魔してきた。だから、鬱陶しくなって殺した」
という。
正直、そんな理由で…と思った。ひょっとしたら、ミカとも遊んでいたら、ミサは殺されなくてすんだのだろうか。わたしが間接的に殺したみたいで、さっさと忘れることにした。そのニュースは、大きく報じられることはなく、内密に終わった。
---
他愛もないおしゃべりをしていた。ミキという友達とだ。
中学校生活はそこそこだ。スクールカーストは中くらいのところにいる。
「そういえばさ、ミア。数年前、ミサ、だったっけ?が死んだって覚えてる?」
はっとした。
「うん…。ミカが殺したっていう…。正直、信じられなかった。ミサも、ミカも、友達だったもん…」
「えー、そうなの。で、そのミカがね、本当はあんな理由で殺したんじゃなかったんじゃないかって」
「え、そうなの!?」
「うん。ミアの身体を乗っ取ろうとしてたんだって」
背中に、ぞぞぞっという寒気が走った。
わたしの身体を乗っ取る?
「その呪いは、いちばん身近な人を傷つけて、その肉体を身につける。その状態で乗っ取りたい人に触れると、徐々に乗っ取ることができる…だって。その時、傷つけるだけで、殺したらダメ。そういう儀式みたいなのがあるみたい。不思議だよね、なんでミカがミサを…」
「…なんで」
あの時のニュースは、大きく報じられなかったはずだ。それに、その呪いは検索してもなかなかヒットせず、唯一かかったものが、ミカのブログだった。
「なんで、知ってるの…?」
ミキに聞く。あの時よりもすごいものが、背中に走る。そして、ミキは言った。
「え?次は、貴方の番だから」
※今作に出てくる呪いは、創作です。
親という呪い
「真美は、お母さんの言う通りにすればいいの」
そう聞かされて育ってきたわたしは、親の言う事が絶対だと思っていた。
父は浮気をして、多額の借金を残して行方不明。一人っ子のわたしを、お母さんはたいせつに、頑張って育ててきてくれた。働いているから、いつもお金を残して仕事へ行く。家に来るのは1週間に1度ぐらいだった。
1000円をどうやってやりくりするか、節約するか、とかとにかくいろんなことを考えた。歌を作って、ひまをつぶしていた。
---
ある日、お母さんが久しぶりに家に来た。
「こいつが|志村真美《しむらまみ》か」
男の人が、お母さんといっしょに来た。
「真美です。お好きにお使いください」
「そうか」
わたしの名前を呼んだ。わたしの名前、知ってるんだ…
「来い」
ぼそっと言われ、わたしはびくっとしながら車に乗った。黒塗りで、いかにも高級そうな。
「働け」
そう言われたっきりだった。わたしは重いものを運んだり、家にマークをしたり…危険で怖いことをたくさんした。
お母さんは「生きたいのなら、頑張ってね」と言われた。「お母さんの言う通りにすれば、いいから」とか、言われた。お母さんの身の回りの掃除とかもした。
---
「!!”$()#”’%)」
「はい」
ある日、わたしは監禁された。画質が荒くて、あんまり鮮明に声が聞こえない動画を見た。男の人がうんうんうなずいて、「分かりました。直ちにお送りします」と言った。
また黒塗りの車に乗って、今度はビルに来た。
「この子が真美か」
「はい。どうぞ、お好きにお使いくださいませ」
今度は怖い女の人と優しそうな男の人だ。びくびく怯えていると、優しそうな男の人は、「退出しろ」と男の人に命令した。
「真美ちゃん」
「ひぃっ…!?」
「怖がらないでね。何が好き?」
「…カップ麺」
何が好き、というのは食べ物のことだと思う。カップ麺しか食べたことがなかった。
「ハンバーグでも作ってあげて、D」
「わかった。服なら用意してあるから」
D、と呼ばれた男の人はハンバーグをご馳走してくれた。女の人は素敵な服を用意してくれた。
「ありがとうございます」
「これから、一緒に暮らしていきましょう」
「わかりました」
男の人はリュウト、女の人はナナと名乗った。それで、いろんなことを聞いた。
離婚の原因はわたしの母で、多額の借金を作ったこと。父は、親権を母に渡してしまったこと。母はわたしをこき使って、稼がせようとしたこと。わたしがやってたのは、闇バイトだったこと。リュウトとナナは、子供を保護する団体の偉い人で、はじめに出会った男の人と知り合いだったこと。
びっくりすることがいっぱいだったけど、今は幸せに暮らしてる。
いつもの
「おはよ」
今日も6時半ぐらいに起きる。お母さんがカリッと焼いたトーストを、みんなのお皿へと置いた。
「うげぇ、またトーストかぁ」
「『うげぇ』とか言わないで、早く食べて」
耳のところが分厚くてかたい。トースト単体で食べるのは、本当に美味しくない。
急いで制服に着替えて、準備をととのえる。いつものように、「昨日準備しとけばよかったなぁ」と思った。
「いってきまーすっ」
はじめの1週間ぐらいは「いってらっしゃい」って言ってくれたのになあ。まあ、これも日常だ。
「やっほー、|莉杏《りあん》」
「おはよ、|桃音《ももね》
彼女は最近引っ越してきて、わたしの家の近くに住んでる。そんなに仲が良いわけじゃないけど、よく一緒に登校している。
莉杏。リアンだって。外国の名前みたいだ。カタカナで書くとシュッとしてて、かっこいい。桃音みたいな、よくある日本人の名前は嫌だ。
いつもみたいな話題でおしゃべりをする。いつもの風景だ。
その瞬間、ぐらりと意識がよろめく。視界がどんどん暗くなる。「桃音っ!?」という莉杏の声が、最期に聞こえた。
---
「おはよ」
今日も6時半ぐらいに起きる。お母さんがカリッと焼いたトーストを、みんなのお皿へと置いた。
「うげぇ、またトーストかぁ」
「『うげぇ』とか言わないで、早く食べて」
耳のところが分厚くてかたい。トースト単体で食べるのは、本当に美味しくない。
急いで制服に着替えて、準備をととのえる。いつものように、「昨日準備しとけばよかったなぁ」と思った。
「いってきまーすっ」
はじめの1週間ぐらいは「いってらっしゃい」って言ってくれたのになあ。まあ、これも日常だ。
「やっほー、|莉杏《りあん》」
「おはよ、|桃音《ももね》
彼女は最近引っ越してきて、わたしの家の近くに住んでる。そんなに仲が良いわけじゃないけど、よく一緒に登校している。
莉杏。リアンだって。外国の名前みたいだ。カタカナで書くとシュッとしてて、かっこいい。桃音みたいな、よくある日本人の名前は嫌だ。
いつもみたいな話題でおしゃべりをする。いつもの風景だ。
その瞬間、ぐらりと意識がよろめく。視界がどんどん暗くなる。「桃音っ!?」という莉杏の声が、最期に聞こえた。
___やっぱり、今回もか。
何時からか、無限にループするようになった。
今日も、また、繰り返す。この《《いつも》》を。