とあるフランスの非日常訳して「とあフラ」シリーズです。
○自己紹介○
・ポインセチア
フランスに住むお嬢様。小さな見た目に反し実はギリギリ成人している。仕事はフランスで起こる事件の解決。いわば探偵。(趣味)
・アーヴェ
フランスの路地裏で様々な「物」を売る売人。
実はギリギリ成人してない。
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目次
とあるフランスの非日常 #1「日常の架け橋 their life」
○自己紹介○
・ポインセチア
フランスに住むお嬢様。小さな見た目に反し実はギリギリ成人している。仕事はフランスで起こる事件の解決。いわば探偵。(趣味)
・アーヴェ
フランスの路地裏で様々な「物」を売る売人。
実はギリギリ成人してない。
フランス語辞典📕
・フィユ:女の子
・メルシィ:ありがとう
・マドモアゼル:お嬢さん(今のフランスでは使用禁止らしい)
これは、いつか起きるかもしれない、あるいは起きたかもしれない物語。
2人の少女が紡ぐ、フランスのどこかでのお話。
「18歳の誕生日おめでとう。ポインセチア。」
「メルシィ。お母様。」
フランスのどこかにひっそりと建つ屋敷の中で、小さな少女は誕生日を迎えた。
「ふふっ、結局成人するまで背は伸びなかったわね。この高さじゃあ、フィユと間違われてしまうわ。」
ころっと小さく笑う、ベッドの上の女性。ポインセチアと呼ばれるその少女は、女性の手をしっかりと握りしめていた。
「これからどうするの?お仕事は?1人で大丈夫かしら。」
「趣味の仕事で食い繋ぎます。むしろ、お母様の病気の方が心配です。」
ポインセチアはきゅっと眉をひそめ、母ーーピオニーの手を強く握る。
「私は大丈夫よ。メイドさんがいるから。…これから、寂しくなるわね。」
窓の外の木の葉がそっと落ちると同時に、ドアが閉まる音がした。
---
「お客さん、これなんかどう?私が苦労して手に入れた最高の逸品だよ!」
「だから、客じゃないって言ってるだろ!勘弁してくれよ、こんなもん買えるか!」
「あぁっ、待ってよ〜!せめてあと10分だけ…はぁ、行っちゃった。」
フランスのどこかにある路地裏で、1人の少女がため息をついて座り込んだ。
「やっぱり売れないか〜。今月のご飯どうしよう…。あぁ、お金が欲しい〜!」
風通りのいい路地裏で叫ぶ少女の名はアーヴェ。様々なところで手に入れた珍品を、路地裏に入った人に売りつけるのだ。もちろん、高額で。
「はぁ、苦労して手に入れた意味なかったな。本人もも気づかないくらいこっそりスったのに…。やっぱりこの路地はダメだな。他のところに行こう…。」
風で結われた長い髪をなびかせながら、アーヴェはトボトボと路地を歩いた。
---
「なるほど、時計を見つけて欲しいと。」
「お願いします、ポインセチアさん。あの時計は妻から貰った大切なもので…。無くすわけにはいかないのです。どんなにお金を払ってもいいから、どうか見つけていただけませんか?」
昼のフランスのどこかの街。「ポインセチア探偵事務所」と書かれた看板を掲げた建物の中で、中年男性とポインセチアが話をしている。
「大丈夫、そんなにお金は要りません。ただこの仕事自体単なる趣味ですので。見つかるかは保証しかねますが。」
「お願いします。もうここで12件目なのです。どの探偵さんも見つけてくださいませんでした。」
「…手がかりは?」
「申し訳ないのですが…外で無くしたということしか…。」
12件目、と言われれば、今までの探偵も相当意地を見せて探し回ったことだろう。それでも見つからないとなると、趣味で探偵をしているポインセチアにできるかと言われればまず間違いなくできない。この広いフランスの中で、小さな腕時計を見つけることなど不可能だ。
「まぁ、やるだけやりますけど。」
依頼人の男性ーードゥースが言うには、この大通りで無くしたのだそうだ。あの必死さを見ると、後日相当焦って探し回ったことだろう。
「でもここには見つからなかった。あの状態で単に見逃しただけとは思えない…。やっぱりスリですか。」
たっ、とポインセチアは路地裏に入り込む。しばらく入り組んだ迷路のような路地を歩くと、やがて一つの人影を見つけた。
その陰に向かって、ポインセチアは歩く。
(路地の近くに住む人なら、情報を聞き出せるかもしれない。)
曲がり角を曲がった時、
その人影とぱっと目が合った。
「こんにちはマドモアゼル、ここで私に出会えて幸運だね。よければ何か買って行かない?」
売るための珍品の中に、小さな腕時計を混ぜたかごを左手で持って、アーヴェはそう言った。
とあるフランスの非日常 #2「少女の名は it hasn't started yet」
○自己紹介○
・ポインセチア
フランスに住むお嬢様。小さな見た目に反し実はギリギリ成人している。仕事はフランスで起こる事件の解決。いわば探偵。(趣味)
・アーヴェ
フランスの路地裏で様々な「物」を売る売人。
実はギリギリ成人してない。
フランス語辞典📕
・フラン:かつてのフランスで流通していた通貨の単位。大体20から30円ほど。
「こんにちはマドモアゼル、ここで私に出会えて幸運だね。よければ何か買って行かない?」
売るための珍品の中に、小さな腕時計を混ぜたかごを左手で持って、アーヴェはそう言った。
ポインセチアは一瞬ぎょっとした顔を見せ、すぐに目をかごへ向けた。
「その、時計は…」
「これ?わぁ、お客さんお目が高いね〜。これはすごく苦労して手に入れた逸品なんだよ!今なら50000フランで譲ってあげよう!」
「ポインセチアです。店員さん。」
「じゃあ、セチアの姉ちゃんだね!」
そう言って手に小さな腕時計を乗せ、得意げに見せるアーヴェ。ポインセチアはその時計をじっと見つめる。
(間違いない。ドゥースさんの時計ですね。)
時計はドゥースが見せてくれた写真と同じであるし、ドゥースから教えてもらった小さなキズの位置も合致している。何より、金具に彫られた「D」の文字が1番の証拠だ。
「それ、探していたんですよ。どうか譲っていただけませんか?」
交渉を持ちかけるポインセチアに、アーヴェは答える。
「セチアの姉ちゃん、この時計には高価さと苦労が詰まってるんだよ。50000フランも払えないなら、特別に割引してあげないこともないけど…」
「…いえ、それは知り合いのものですから。返さないといけないのです。いいでしょう、買い取ります。」
そういって、ポインセチアは財布を取り出した。
アーヴェは耳をぴーんと立てて財布の中を覗き込むように背伸びする。
「ただ、今手持ちが少ないんです。どうか20000フラン分、待っててくださいませんか?」
すると、アーヴェはご機嫌に時計を手渡して言った。
「いいよいいよ〜!むしろ50000フランも払えると思ってないから!あー、よかった!苦労して金持ちからスった甲斐が…あっ!」
マズイ、とアーヴェはその口を押さえた。ポインセチアはその言葉を聞いて、ニヤ、と小さく笑う。
「あぁ、やっぱりそうですか。あなたが盗ったんですね、この時計。」
そう言ってポインセチアは、ずっと手を突っ込んでいたポケットの中から録音機を取り出した。再生ボタンを押すと、さっきまで話していた声が鮮明に録音されている。盗んだという決定的証拠の部分まで、しっかり。
「ちょ、ちょっと待って!そうだ、冗談で言ったんだよ!ね、お願い、それちょうだい!生活できなくなるのは嫌だったんだよ!」
「ではこの録音機を警察に渡して、三食労働付きの冷たい牢屋に行ってもらいましょうか…。どうです?生活できますよ?嫌ならお金、返してください。」
アーヴェの顔は完全に青ざめている。してやられた、とでも言いたそうな顔でぺたんとその場に座り込んだ。
「…返すから…。お金、返すから!勘弁してよー!」
---
「ありがとうございます、ポインセチアさん。なんとお礼を言ったらいいか…。」
「これしきのこと、お礼を言われるまでもありません。次からは無くさないようにしてくださいね。」
涙をこぼしながらポインセチアの後ろに立つアーヴェの姿を見て、ドゥースはキョトンとした顔を見せる。
「そういえば…。なぜ無くしたのでしょう。」
ぎょっとした顔をしてアーヴェは上を向く。そして、必死にポインセチアに何かを言いたそうな顔を向けた。
「落としただけですよ、ただ単にね。また無くした時は言ってください。」
ポインセチアがそう言うと、ドゥースは安心したような顔を見せて事務所を出て行った。
「さて…。どうしますか、あなた。」
「うぅ…。もうおしまいだ。このまま牢屋生活にまっしぐらなんだ。私の人生大暴落だー!」
その場で座って泣きじゃくるアーヴェ。やれやれ、という顔でポインセチアはその場にしゃがみ込む。
「この録音機を世に出されたくなかったら、私のお願いを聞いてください。」
「えっ…。なんなのセチアの姉ちゃん。もうお金返したよ。まさか今までのやつも全部返せとか言うんじゃ…。」
再び青ざめるアーヴェに、ポインセチアはため息をつく。
「はぁ…。あなた、名前は?」
「え、アーヴェだけど…。」
恐る恐る答えるアーヴェに、ポインセチアはにっこり笑って言った。
「アーヴェ、私の助手になってください。」
とあるフランスの非日常 #3「彼女達の物語 walk together」
○自己紹介○
・ポインセチア
フランスに住むお嬢様。小さな見た目に反し実はギリギリ成人している。仕事はフランスで起こる事件の解決。いわば探偵。(趣味)
・アーヴェ
フランスの路地裏で様々な「物」を売る売人。
実はギリギリ成人してない。
「アーヴェ、私の助手になってください。」
……え?
「はぁぁぁぁぁああぁ!?何言ってんのセチアの姉ちゃん!」
「…聞こえませんでしたか?助手になってくれと…」
「そういう意味じゃないってわかってるでしょ!」
アーヴェの顔に冷や汗が溜まる。こいつ何言ってんだ、とでも言わんばかりの顔。ポインセチアはまるでノミでも見るような見下した目線をアーヴェに向け、ムッとした表情で言った。
「普段なら刑務所行きのあなたを引き取ってやると言っているのに…何ですかその態度は。」
「いやいやいやいやいや!セチアの姉ちゃんの言ってることがおかしいんだよ!何なの助手って、やらないよ!?」
両手を前に押し出して、アーヴェは拒否の意を示す。そりゃそうだ、普通急に助手をやれと言われてやる馬鹿はいない。居れば相当の物好きだ。
ふと、アーヴェの脳内に一つの考えが浮かぶ。
「そ〜だ分かった、セチアの姉ちゃんは私のことが好きなんだ〜!だからこんな薄汚い私を引き取ろうとするんでしょ!?」
「え、違いますけど。」
「やめてよっ!見苦しく見えるでしょ!」
冷たくあしらうポインセチアに、恥ずかしそうに顔を赤くするアーヴェ。コントのような流れの中で、ポインセチアがポケットから何かを取り出した。
「…何?何を出されてもやらないよ、それこそお金でも払ってくれなきゃ!」
スッ、とアーヴェの目の前に出されたのは、一つの録音機だった。
カチ。『あー、よかった!苦労して金持ちからスった甲斐が…あっ!』
カチ。『あー、よかった!苦労して金持ちからスった甲斐が…あっ!』
カチ。『あー、よかった!苦労して金持ちからスった甲斐が…あっ!』
見せしめとでも言わんばかりの連打。ついさっき録音された自分の声を聞き、アーヴェの背中を冷や汗が伝う。
「あ〜どうしましょう。今すぐ交番に駆け込みたい気分ですね〜。何だか気が変わりました。この後は予定もないし交番に行きましょうかね」
「助手でも何でもするから!お願いだからやめてー!」
---
こうして、アーヴェは半強制的にポインセチアの助手になったのであった。
「ひどいよこんなの…あんまりだぁ…。てか、今日はもう予定ないんじゃなかったの…!?」
ポロポロ涙をこぼしながらコーヒーを淹れるアーヴェ。ここのところ彼女はポインセチアにしてやられてばかりだ。そんな彼女の嘆きを無視するように、ポインセチアは机の先の依頼人に目を向けた。
「さて、今回はどのようなご用件で?」
ニヤ、と笑いながら頬杖をつくポインセチア。コーヒーを3杯淹れてアーヴェが机にたどり着く頃に、依頼人は口を開いた。
「お願いします探偵さん、どうか娘を見つけてくださいませんか?」
焦ったような表情で、依頼人の女性はそう言った。
とあるフランスの非日常 #4「嘘つき! invisible part」
○自己紹介○
・ポインセチア
フランスに住むお嬢様。小さな見た目に反し実はギリギリ成人している。仕事はフランスで起こる事件の解決。いわば探偵。(趣味)
・アーヴェ
フランスの路地裏で様々な「物」を売る売人。
実はギリギリ成人してない。
「お願いしますポインセチアさん、どうか娘を見つけてくださいませんか?」
「…ふぅ…。」
ポインセチアは静かに息を吹く。ため息、というよりは呼吸を整えるためだった。
「娘、ですか…。いつから行方不明に?」
いつもと表情は変わらない…が、その顔にはやんわりと真剣さが隠れていた。腕を組み直し、そっとテーブルに乗せる。その雰囲気に合わせるように、アーヴェはすっとソファの後ろに立った。
「1週間前からです。警察にも相談したのですが忙しいようで取り合ってもらえず…。どうか、どうかお願いします。心配なのです。あの子に何かあったらと思うと…。」
そう言いながら、依頼者ーートゥールは、娘であろう少女が映る写真をポケットから取り出した。写真は最近撮ったものだろうか、表面には艶が光る。バックには丁度今咲き始めているモクレンの木が見えていた。
「ふむ…、これがあなたの娘ですか?」
「はい。家から急にいなくなってもう何日も…あぁどうしよう、もし見つからなかったら…」
そう言いながら、トゥールは青ざめた顔を見せた。焦り、不安…いろんな感情が入り混じっている様子は、アーヴェにさえ読み取れる。
ふぅ、と一息ついて、ポインセチアはコーヒーを机に置く。静かに、軽やかに、まるで誰も知らない場所に咲く花のように穏やかな顔で依頼者と向き合う。
「では、引き受けましょう。お代は見つけ次第」
事務所が閉まる音と共に、アーヴェが声を上げた。
「セチアの姉ちゃん、だいぶヤバそうな事件だよ。本当に解決できるの?」
「あまり私のことを舐めないでください、アーヴェ。気づいたことがあります。」
「気づいたこと?私には、さっきの話に違和感なんてなかったけど。」
「あなたはそうでしょうね。」
そう言いながら、音もなく窓際に駆け寄り、下を見下ろす。誰を見ているのか、気づいたこととはなんなのか、そんなことは彼女だけが知っている。そしてアーヴェの方を振り返り、髪をなびかせてこう言った。
「かの有名なシャーロック・ホームズ曰く、「君は眼で見ているだけで、観察をしていない。その違いは歴然だ」ーーーーただ見ているだけでは何も分かりませんよ、アーヴェ?」
不思議そうな顔で、助手の少女は探偵を見つめる。
「…あの人、何かがおかしいってこと?」
「ええ。さっきの依頼人…………。」
名探偵はそう言いかけて、ハハッと乾いた笑いを浮かべた。
「とんだ嘘つきだ。」
とあるフランスの非日常 #5「追跡 overflowing love」
○自己紹介○
・ポインセチア
フランスに住むお嬢様。仕事はフランスで起こる事件の解決。いわば探偵。
・アーヴェ
フランスの路地裏で様々な「物」を売る売人。ポインセチアの助手。
「とんだ嘘つきだ。」
「嘘つき…って、どういうこと?」
窓辺に立っていたポインセチアはくるりと振り返り、テーブルの上に乗っていた写真をひょいと拾い上げる。
「やっぱりそうだ。この写真、よく見るとピントが合っていない。合成したものでしょうね。」
背後からアーヴェは背伸びをして覗き込もうとしたが、すぐにそれをやめた。ポインセチアの身長が小さい故に、背伸びの必要がないと悟ったからだ。それを見て、名探偵は不満げに上着を取る。行きますよ、と言わんばかりにアーヴェに向かってくいと顎を動かす。
「どこに行くっていうの、セチアの姉ちゃん。そもそも情報が少なすぎるよ。」
ポインセチアに渡されたコートにいそいそと腕を通しながら、アーヴェはそう言った。それを聞き流して、ポインセチアはそっと玄関のドアを開ける。
「心当たりがあります。ついて来てください。」
いつも通りの街、それでいて何かが違う。妙に薄暗くて、少し腐臭がする。天気のせいじゃない。その原因は、やはり路地裏だった。
「うっ。ひどい匂い…はぁ。」
思わず声に出した自分自身の言葉に、アーヴェはなんとなく不快な感情を抱いた。
匂いの元は、そこら中に散らばったゴミ。と、ビニール袋に詰められた《《何か》》。
「こんなところに来てどうするの?私、あんまりここ好きじゃないんだけど。」
「さっきから文句ばかりですね。情報収集ですよ、なんの理由もなくここに来るわけがない。」
薄暗く、細い路地裏を2人の少女は歩く。途中で大きなゴミ箱が道を塞ぐと、彼女たちは追跡のために自らの服をわざわざ汚さなければならなかった。一番不満が多いのは、どちらかというと綺麗好きなポインセチアだ。
しばらく歩いて、少し大きな通りに出る。すると、ちらほらと辺りに小さな少年少女が座り込んでいる。
ーーーーストリートチルドレンだ。
「そこの貴方、少し話を聞いても?」
なんの躊躇いもなく、ポインセチアはすぐ近くにいた少年に声をかけた。それを見てギョッとするアーヴェ。慌ててポインセチアに近寄る。
「…何、君たち。食べ物、くれるならいいよ。」
食べ物、という言葉を聞いて、3、4人いた子供たちは一斉にこちらを振り向いた。たっと2人に近寄り、声を上げる。
「お姉ちゃんたちは、話を聞きに来たの?私たち、パンとミルクが飲みたいわ。薄めたものじゃなくて、ちゃんと冷えたミルク。普通の人はそれを飲むのでしょう?」
そう、ポインセチアに求めたのは、子供たちの中でも一番大きな子だった。エリ、と名乗るその少女は、薄汚れた顔をぐいっと手で拭く。まだ春が始まって花が咲いたばかりだというのに、寒そうな布切れを身につけていた。頭には無造作に巻かれたような包帯。
流石、ストリートチルドレンと言わんばかりの見た目。そんな子供たちに、いつ持ってきていたのか、ポインセチアは暖かそうな毛布を人数分渡して言った。
「この辺りで、こんな顔の少女を見かけませんでしたか?」
そう言い終わる前に、ポインセチアは胸元から写真を取り出した。それを見ると、エリはあっと声を出す。
「この子、前にここを通って行ったわよ!ついてきて、案内してあげる。」
とあるフランスの非日常 #6「エリ destination of love」
○自己紹介○
・ポインセチア
フランスに住むお嬢様。仕事はフランスで起こる事件の解決。いわば探偵。
・アーヴェ
フランスの路地裏で様々な「物」を売る売人。ポインセチアの助手。
「この子、前にここを通って行ったわよ!着いてきて、案内してあげる。」
「あーあ、懐かしいわ、ここら辺。前まではよくみんなとここで過ごしたものね。」
そう言いながら、エリはひらけた路地裏をひょいひょいと歩く。その後ろで、エリから少し距離をとってポインセチアとアーヴェが着いてゆく。
終わりのない迷路を歩いているような、入り組んだ道だった。室内に気配を感じられない家々が辺りにひっそりと建っている。
「前まではよく、ですか。拠点を移したのですか?」
「ええ、そうよ。ここにはもう大人が住まなくなったから。生活するには少しでも協力者が必要よ。私たち子供の力では限界があるわ。」
見かけによらず、しっかりした子供だった。流石年長だからか、見た目にそぐわない言動が余計に不気味さを引き立てる。
アーヴェはただひたすら黙っていた。ポインセチアとエリの会話には一切参加せず、じっと辺りを見渡していた。どこか懐かしむように、何かを痛ましむように。
そうこうしている間に、街の外れの一本道に出た。道は背の高い木々に囲まれて、地平線の向こうまで続いている。無駄に生暖かい風が夕方の静寂を飾る。
道の奥の横に、少し崩れた家が建っていた。壁は剥がれ、中の様子がちらりと見える。そこにほんの少し、誰かの気配が感じられた。
「はい、確かこっちの道の方に向かって行ったわ。もしかしたらあの家にいるかもしれないわね。」
そうエリが言い終わるや否や、
「…ねえ君、本当はもうあの場所から出られるんだよね。」
それまでずっと黙っていたアーヴェが、静かにそう言った。ポインセチアは少し距離を置いた場所で、二人の方をちら、と見ると、奥の家に視線を戻す。というよりは、目を背けているように思えた。
「君にはもう、一人で生活できるくらいのお金があるんでしょ。さっきの路地…家の中を少し覗いたけど、小柄な男の人が死んでいたよ。お腹を刺されて。君の特徴的な色の髪の毛を握りしめていた。まだ時間もそんなに経ってない。
…君が、殺したんでしょ。家の金庫が空いていたよ。血の足跡の大きさも同じくらいだ。確証は、ないけれどね。」
アーヴェは淡々とエリに向かって声を上げる。
エリは静かに、冷たい顔をした。その時初めて、ああ、この子は全て分かっているんだ、と悟った。まるで成長しきった15歳くらいの子供のように思えた。長い沈黙の末、やがて彼女は声を上げる。
「…私はあのお金を自分のために使うつもりはないわ。ましてや、路地のみんなを見捨てるなんてことをするわけがない。
…ずっと、子供でいたいの、私は。愚かな大人になんてなりたくない、永遠にあの場所で過ごしていたい。
本当はミルクの味も知っている。硬くないパンを食べたこともある。でも私は動物の餌の味も知っているわ。ずっとずっと、昔から。それでも私はあそこにいる。あのお金を使うのは、どうしようもなくなった時だけ。
愛は純粋無垢な子供から貰うべきよ。さよなら、探偵さんたち。」
いつそのことを知ったのか、あるいは既に知っていたのか。探偵たちには知る由もなかった。
「話はもう終わりましたか?」
エリが入り組んだ迷路に戻って行ってから、辺りを伺うようにポインセチアは言った。
「聞いていたんでしょ。…私に似てるなぁと思っただけ。」
「そうですか。」
何も聞かずにポインセチアは歩き始めた。もうこの話は終わったのだ。これ以上掘り下げる必要も、知る必要もない。彼女たちには関係ない。現に彼女たちがあの子を引き止めなかったように。
「…着いた。」
やがて、あの崩れた家にたどり着いた。もう辺りは暗くなっていたが、微かに沈みきっていない太陽の光が家の中に差し込む。
ポインセチアはそっと道を外れ、家の中に潜り込む。さっきまであった気配は消えたように思えたが、まだ誰かの小さな息遣いが聞こえた。
家の裏だ。そう、アーヴェが気づくより先に、ポインセチアは玄関を出て家の後ろに回り込む。
そこには、あの写真と瓜二つの少女が立っていた。
「貴方たちもあいつに言われて私を探しに来たの
…?嫌だ、私は帰らないよ。」
とあるフランスの非日常 番外編 「そして物語は続く forever and ever」
彼女達が共に歩み始めて、少し時が過ぎた頃の話。
「世間はもうクリスマスですか。」
12月25日、クリスマス。紫色の髪の少女は、結露した窓に手を当てて、そっと外を眺め見る。
彼女が居る建物が建つ通りはとても賑わっていて、沢山の人が探偵事務所を行き交う。その様子を見ながら、少女ポインセチアは頭を抱えた。
「クリスマスなんて、今はそれどころじゃないのに…。何なんですかこの依頼は。私は便利屋じゃないと何度も…。」
名探偵は片手に持った髪の束を見つめながら文句を言う。目の下にはうっすらとクマが出来ていた。何日も寝ていないのだろう。
そんな雰囲気を壊すように、暖かそうな服を着た少女がいそいそと事務所に入ってきた。
「たっだいま〜!セチアの姉ちゃん!」
迷惑そうに口をへの字に曲げ、ポインセチアは振り向く。少女アーヴェの手の中には、野菜やらクリスマスの飾りやらが包まれていた。
「いや〜、大変だったよ。みんな鬼の形相でさ。クリスマスセールだからって、いくら何でも人を転ばせるのは良くないと思うんだよね。」
「…食材を買ってきてくれてありがたい限りですが、ちょっと黙っててくれませんか。」
「酷っ!」
相変わらずのポインセチアの毒舌に、慣れたようにアーヴェが返す。これがいつもの日常。彼女達の、いつもの《《非日常》》だ。
「ねえ、せっかくなんだから何処かに出かけようよ。」
紙束を見つめて頭を掻き回すポインセチアに、アーヴェが機嫌をとるように話しかけた。
「それどころじゃ…だったら貴方も手伝ってくださいよ。」
そう言って、彼女はアーヴェの顔に紙束を突きつけた。そこには不可解な文字列が並んでいる。
そういえば、前に死んだ兄弟が遺した遺品を見つけて欲しい、なんて依頼を受けていたなとアーヴェは思い出す。なんでも暗号を解かないと見つけられない、と兄弟に言われてしまったとか。
かなりの報酬を貰っていたのか、どうにも断れない雰囲気だった。
「何これ、暗号?セチアの姉ちゃんにとっては朝飯前じゃないの?」
「ええ、勿論朝飯前でしたよ。ただ…
この暗号が示す場所に行っても、何かが埋まってた跡しかない。誰かに取られているんですよ!誰かに!」
珍しく感情的に、ポインセチアは紙束を床に叩きつけた。遺品が何処に行ったのかを何日も考え続けたと思うと、アーヴェは少し彼女に同情する。
「こーんな依頼断っておけばよかったのに。セチアの姉ちゃんも結局はお金かぁ〜。」
「貴方に言われたくないです。」
「あっ、そういえばさ。今日の買い出しの帰りににちょっと大きな林を歩いてたんだけど、無駄に大きな木の幹の下に変なブローチの箱が置いてあったの〜!」
「それっ…!」
・ ・ ・…
「いやあ、ありがとうございます。一体この暗号は何処を示していたのですか?」
「あはは、近くの林ですよ。近くの…」
依頼人がブローチを持って去って行った頃、むすっとした顔のポインセチアがソファに深々と座り込む。
「もう、最初からブローチって言ってくれればすぐに教えたのに。動物が持って行ったのかな?箱に爪痕あったし。」
そうアーヴェが言うや否や、ポインセチアはぽすっとソファの上に寝っ転がってしまった。そのまま寝てしまいそうな勢いだ。そんなポインセチアを見て、アーヴェは慌てた様子で彼女の肩を揺さぶる。
「待って待って、寝たいのはわかるけど待って。クリスマスなんだから何処かに出かけようよ。そうだ、大通りのツリーでも見に!」
「大通りのツリー…?そんな物、興味な…ぐぅ」
「待ってーーー!あのブローチを見つけたのは私でしょ。私が見つけてなかったらもっと困ってたよね。だったら私のお願いを聞いてよー!」
「はぁ…何でこんな寒い日に寒いところに行かなきゃならないんですか。」
マフラーを首にぐるぐる巻きつけて、ポインセチアは息をふぅっと吐きつける。その息は白く姿を変えて、空へ飛んでいく。
「まあまあ、細かいことは気にしないで。おめでたい日はきちんとお祝いしないと!」
「美味しいものが食べたいだけのくせに。」
「セチアの姉ちゃん、いつもそう言うけど、私より姉ちゃんの方が食べてるよね?」
「知りません。」
大きなツリーには目まぐるしい装飾が沢山付いていて、人々は歓声を上げながらそれを写真に残した。
良家のお嬢様ポインセチアにとって、こんな行事を祝うよりも、勉強やら趣味やらをしていた方がよっぽど楽しかった。家を出た今、彼女にとってのそんな「日常」はとっくの昔に置いてきたのだ。今はこうして、新しい生活が待っているのだから。
勿論それは、アーヴェにだって言えることだ。彼女にとっての「世界」とは、せいぜい自分の存在を説明するお飾りに過ぎない。彼女にはそんなことも全てどうでも良かった。自分のために生きてきた。そんな彼女も、今までになかった生活を、今までの「日常」を捨て去っている。
こうして今、隣に居る誰かと、共に歩むと誓ったのだから。
「綺麗だね。ちゃんと見たのは初めてかもしれない。」
「私もです。」
こんにちは、にしんパイです。ここまで読んでくれてありがとうございます!
あとがき、といえば、その作品における著者の説明、または小話。そんなものが多いですよね。
にしんパイはそんなあとがきにひそかに憧れているので、実際に本の後ろに書いてあるつもりで、今回はお話をしましょう。
このお話は元々書く気はなかったのですが、せっかくのクリスマスなので特別編ということで書かせていただいています。本編(と言ってもまだ六話しか公開していませんが)の重苦しい雰囲気を脱する為に、ポインセチアとアーヴェの微笑ましい会話が中心になっています。にしんサンタからのクリスマスプレゼントというやつです。
このシリーズ自体読んでる方がいらっしゃるのかは神のみぞ知る、ですがそんな一握りの方々の為にも、にしんパイは昨日からコツコツこのお話を書き進めておりました。偉いぞ!
彼女達の今までの「日常」が、共に過ごすことによって変わりつつある、ていうかだいぶ変わってる。そんなお話です。(多少の矛盾点は目を瞑ってください…🫣)
長くなってしまいましたが、言いたいことを言えたのでにしんパイはとても満足です。あとがきを書くの楽しい!ということで、これからもどうぞよろしくお願いします。
メリークリスマス!