事故にあった美玲は、異世界への切符を得る。自ら世界を選択することを選択し、くじを引いたその手にあったのは、人間のいない世界「オーレリア」
人間がいない? じゃあ私、一人で生きて、一人で死ぬの?
そんな美玲には、不老の体質が……
いくら時間がかかってもいい。
人間がいないなら、人間を作ってやる!
美玲は決意新たに、新たな目標に向けて、頑張るのであった。
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目次
1.人間、新天地(生き物の上)へ足を踏み入れ(命を)破壊する
入学式の日のことだった。
朝、|鴨志田《かもしだ》|美玲《みれい》が青信号を渡っていた時だった。
——キィィ!
——ドン!
「きゃあ!」
「うわぁあ!」
——その車が突っ込んできたのは。
鴨志田美鈴は、高校1年生になれず、死んだ。
◇
「ん?」
美鈴は、目を覚ました。
「ここは……確か私って車に轢(ひ)かれなかったっけ?」
「そうじゃよ」
声が聞こえてきて、美鈴はそちらの方向を見た。
そこには、白い服を着て、長い白い髭のあるおじいさんがいた。
「誰?」
「神じゃ」
美鈴は、特に驚くことはなかった。
正直言って、ライトノベルをよく読んでいる美鈴からしてみれば、こんな展開、物足りない。
そりゃあ初めての経験とはいえ、もっと面白いことがあってもいいじゃん、と思う。
「へえ、それでなんで出てきたの?」
ただ、そんなふうにライトノベルをよく読んでいた美鈴には、いつも疑問があった。
それが、なんで彼らが選ばれたのか、ということだ。
理由があるときもあるけど、どこにでもいる普通の人間がいつの間にかそうなっている、ということが非常に多い。
それが、美鈴には不満だった。
「ん? そこが気になるのか……実はな、そなたにはとある才能があってな、それが地球以外にいると開花する才能でなぁ。死んでしまったことだし、転移させてみようと思うのじゃよ」
「転移!? 異世界に!?」
理由は正直納得しがたかったが、異世界転移というのは、それ以上に美鈴にとっては魅力的だった。
「うん、まあそうじゃのう。一応おすすめの異世界を選んでおいたし、そこでいいか?」
「やだ」
「うん、そうじゃな……って、え!? いかんのか!?」
「うん、自分で選びたい」
「そうか……じゃが、くじ引きになるぞ?」
「それでいいよ」
美鈴は、運ゲーが好きだった。
理由は、美鈴の「運がいい」から。
だから、おすすめの異世界に行くよりも、自分で選んでいった方が、自分にとっていい異世界を選べる。そう信じていた。
「本当にそんな人がおるのか……」
神は、茫然としている。
「ちょっと待ってな」
神は、急ぎながら、念のため……本当に念のために……10万年前くらいに準備していたくじを引っ張りだしてきた。
「これじゃ、ここから引いてくれ。
これは人が住んでいるところの世界が書かれたくじじゃ。
先に言っておくが、くじから手を出した途端、その異世界に飛んでいくからの。
まあ飛んでいくと言っても、まず異世界に体を慣らすために1日、意識を失った状態になるがな」
「うん、わかった」
美鈴は、1番初めに触れたくじを、取り出した。
そして、そこに、「オーレリア」とだけ書かれているのをちらりと見た後、ふっと意識が途切れた。
「……行ったか」
神は、美鈴がくじを引いたのを見て、思わずつぶやいた。
「まさか自分で引きたがるとは思っておらんかったな。神として過ごして何百万年もたっておるが、こんなのは初めてじゃ。
どこにいったんじゃろう? どれどれ?」
神は、美鈴が取り出して、転移された時に床にに落ちたくじを取り出した。
「何々、オーレリア? 確か10万年前は人がたくさん住んでいてのどかなところだったがのう、今はどうなっていることやら」
神は、覗いてみることにした。
「なっ!?」
神は、驚いた。
その、覗いた先に……
「これは頑張って美鈴に謝らなくてはならぬな……それに、補償もちゃんとしておこうか。不老の体質を持つそなたには、長生きをしてもらわなくては」
神は、そう呟き、準備を始めた。
1日の猶予があるのは、神にとってはとても運のいいことだった。
◇
「え? ここ……どこ……?」
美玲は目覚めた。
取り敢えず定番ゼリフが口から出てしまったものの、今はこんな流暢に過ごしている時じゃない。
美玲が今いるのは、地面……じゃない。空中だ。
しかも落ちている状況。
かなり高さがあるからまだ地面は見えないが、衝突したら間違いなく死ぬだろう。
「そんな! こんなことで死にたくないのに!」
美玲は思わずそう叫んでしまった。
その時。
——ピコーン!
美玲の耳に何かの音が聞こえてきた。
『経験値が一定数に達し、スキル「浮遊」を手に入れました』
スキル「浮遊」とは一体なんぞや。
疑問に思った美玲は早速、
「浮遊!」
叫んでみた。
少しだけ、速さが遅くなった気がする。
さらに美玲は落ちていき、もうかなり地面が近づいてきた頃。
——ピコーン!
また、何かの音がした。
『スキル「浮遊」のレベルが2になりました』
そして……
——ドシーン!
美玲は、地面に突っ込んだ。いや、地面から飛び出ている部分にぶつかった。
「イテテテテ……あれ? 生きてる?」
美玲は、何故か生きていた。手や足は痛い。だけど怪我はしていない。
——ピコーン!
『レベルが25になりました。スキルが解放されました』
「レベルが上がったの? しかもスキル?」
だんだんひとりごとが増えてきた美玲である。
「えーっと?」
そこで、美玲はようやく辺りを見回した。
美玲は一歩進み出そうとして……やめた。
「何、これ」
地面には、ぐちゃぐちゃの柔らかいもの……肉のような血でもありそうな赤いものが、そして、白い骨のようなものがあるのだった。
美玲は、一度スキルのことを考えるのを放棄した。それよりもこちらのほうが重要だと思ったからである。
「まさかこれ、生き物だったりしないよね?」
そのまさかである。
「えーっと……もしかしてこれを殺して、レベルが上がったのかな?」
その通りである。
美玲が、異世界に来て初めての殺し方は、落下衝撃による相手の死亡だった——
不定期投稿ですが、多分そこまで間隔は開かないかと……
始めだけ一気に三話投稿します!
3.人間、子供に名前をつけ、知らぬ間に魔物に恐れられる
この世界……正確に言うとこの星……つまりオーレリア。
地球くらいの大きさの星。
プレートはもちろんあって、地面はわずかながら動いている。
3つに巨大な大陸があり、海の面積は表面積の半分くらいだ。
また、2つの巨大な大陸は近いところにあるが、1つは離れたところにある。
そして、美玲が立っているのは、離れたところにある大陸。
全体的には縦長なこの大陸には、北東の方に巨大な山あり、その周りに少し小さな山がある。
だが、それ以外は多少の凹凸しかない。
そして、その大陸のほぼどまんなか。
腰ほどまでの高さの草原が広がっているその場所には、一体の魔物の死体と、その前に佇(たたず)む人間……そして、その手には一匹の魔物がいた。
そして、その周りの草原に隠れている魔物、森にいる魔物は、その人間の気配をしっかりと感じ取っていた。
——一体この魔力量は何なんだ!?
——初めて見る個体が空から落ちてきて|あ《・》|い《・》|つ《・》を倒しただと!?
——その前に、あの個体は落ちたのに無事だぞ!?
——今確か|あ《・》|い《・》|つ《・》が卵を産んでから10日経ったよな? 卵が生まれている頃じゃあ…… 欲しいなぁ……
——あーあ、|あ《・》|れ《・》の卵、狙っていたのにな…… 食べたら最強になれただろうに…… だが返り討ちに合いたくはねえなぁ……
——あの死体、魔力たくさん詰まっているもんな。食べてえ、だが……あの個体、一体何者だ?
ここにいる魔物たちの思考は一致していた。
魔物の死体は食べたい、卵も欲しい。だが、よく分からん個体がいるせいで行きたくない。
ただ、それだけだった。
もちろん、そんな魔物たちが、ライバルを少しでも減らそうと殺し合いをしたとかしなかったとか……
さて、そんなことは露ほども知らない美玲である。
美玲は、拾った子供の魔物に名前を付けているところだった。
美玲が子供に魔物を拾うことにしたのには理由がある。
それは、そのこの子供の魔物は美玲が置いていこうとすると、ついてきてしまうし、母親なら相手からの信頼があるため、スキル:意思疎通 を成長させることが出来るのではないかと考えたからである。魔物にも効果があるのかは分からないが。
拾った魔物の姿は、まだ子供だからどんな風になるのかは分からないが、母親の姿のように育つと思えば……美玲はそう考えるが、体は潰れていて全く分からない。
美玲は、今のこの魔物を参考に名前を決めるしかなかった。
「うーん……色は……緑? みたいな? いや、これで名前をつけるのもなぁ。難しいに決まってるじゃん!
じゃあ……あ、そう言えば私、この子の性別が分からないんだった」
美玲は、今更ながらにその事実に気がついた。
「それなら男の子でも女の子でも問題ないような名前かぁ。
ひかる……みずき……かなた……ひなた……駄目だ、カタカナにすると違和感がある……
ってあれ? そもそも何でカタカナの名前をつけようとしたんだろう? 今、ここで生きている人間は私だけ。それなのに私が日本風の名前をつけることに何か問題がある?」
ない。
というか美玲も気づいたように、何でカタカナの名前をつけようと勝手に思っているのか、そちらのほうが問題だろう。
「じゃあ……ひなたでいこうかな。漢字は……日向(ひなた)これだったら男の子も女の子も無いだろうしね」
「くくくっ!」
日向も喜んでくれたみたいだ。
「さあて、昼ごはんでも食べようかな。日向は何を食べるんだろう?」
日向はインベントリから食料を取り出そうとして……
「あ、ダメダメ。日向がいるから忘れていたけれど、ここ、臭いんだった。死体からちょっと離れることが出来たから忘れていたよ」
臭さをそんなに簡単に忘れられるか? 忘れられないと思うのだが……
だが、実際に臭さを忘れていた美玲は、かなり臭いに順応的なのだろう……
「どこかにいい場所無いかなぁ?
あ、そうだ。『浮遊』!」
美玲は少しだけ浮き上がった。……1mほど。
「え? あまり期待していなかったけど、しょぼすぎない? これ、どれくらいレベルを上げたら自由に動けるようになるんだろう?」
そんなことをぼやきつつ、美玲は死体の上に乗り立つことが出来た。
「よし。右側に川がある。あそこまで行こーっと。ほら日向、行くよ」
美玲は偶然にもだいたい北の方を見て、この発言をしていた。
……まあ偶然ではなく、もうすぐ12時で、太陽の南中が近かったために南を見ると眩しいという、ただそれだけなのだが。
そんなわけで、美玲は川へと歩き出すことにした。
その間には森があって、魔物がいたが……
——とうとう死体から離れたぞ!
——おい、こっちに来んな!
——ひぇー、何でこっちに来るんだよ! 避けていかなきゃ行けねえからしたいに行くまでに時間がかかってしまうだろうが!
——今だ! 急げ!
——あの死体からあふれる魔力は俺のもんだ!
もちろん美玲がやってきた途端、他の場所へと移動して、死体の方へと慌てて向かっていくのだった。
「あ、しまった。形見とかあったほうが良かったかな? ……まあいいか」
美玲はそんなことに気づいたが、気が付かなかったことにした。
美玲は森を川へと向けて、ただ真っ直ぐ歩いていく。
魔物には襲われない、快適な旅のはず……だが。
「なんで魔物の死体……いや骨が転がっているの? 邪魔だなぁ」
魔物たちがライバルを減らそうとして行った殺し合い。その残骸は骨となって残っていた。
「っていうか、こんなに死体があるのに何で生きている魔物に会わないんだろう? 何か異変でも森に起こっているのかな?」
そういうわけではない。
というか原因は|こいつ《美玲》だ。
いや、美玲が現れたことを異変と言うならば、これは異変が起こったとみなしてもいいだろう。
「よーし、ついたぁ」
美玲はようやく、川の方へとたどり着くことが出来た。
季節は多分日本と同じ春。花が咲いていることもあり、癒されることもあったが、疲れが大きい。
だが、美玲はここに来てようやくインベントリから食料を取り出すことが出来た。
中身はおにぎりにパンに野菜サラダにカレーにパスタにラーメンに餃子などだった……
「料理はあまりしたことがないからこれは嬉しいけれど、これだと日向が食べるものがないなぁ」
ただ、あの体格から肉食かなという検討を勝手につけていたので、ステーキを選び、少しだけ分けて上げることにした。もちろん、おにぎりも美玲の手元にはある。
「ごちそうさまでした! 日向もちゃんと食べれたし……ミルクとかが必要無くて本当に良かった……それなら次は……」
美玲は少し考え込む。
「人間が住んでいた遺跡を目指してみよう!」
美玲の次の行動は決まった。
さすが昼食後。元気が有り余っている美玲なのであった。
2.人間、現状を確認して(2度)絶望する
さて、気がついたら生き物を殺していて、レベルが25になってしまった美玲(みれい)。
そんな美玲が次にすることといえば、一度考えることを放棄したスキルの確認だろう。
「ええっと……ステータス?」
美玲には、何の事前情報もない。
だから、このステータスというのも勘で……いや、本による経験則で言ってみたただけなのだ。
だけど、その水色の透明なものは現れた。
「うわお」
ステータスの表示は、現れてしまった。
————————————————————————
名前:鴨志田(かもしだ)美玲(みれい)
レベル:25
スキル:意思疎通レベル1 文字翻訳レベル1 マップ インベントリ 魔法創造レベル1 浮遊レベル2
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そして、各スキルの説明がこれだ。
————————————————————————
・意思疎通
相手との信頼度が高いほどスムーズな会話が出来る。レベルが上がれば信頼度がなくても難しい言い回しがなければ意思疎通が出来るだろう。
・文字翻訳
この世界の文字を見るとレベルが上がり、レベルが上がるほど早く、正しく文章を読むことができる。書くことも出来るようになる。
・マップ
視界に入ったところが地図に書き込まれ、明らかになってくる。
・インベントリ
容量無限で時間停止機能付きのインベントリ。生き物は入らない。
・魔法創造
知識がない状態でも魔法を創ることができる。レベルが上がれば大きい魔法を想像することが出来る。
・浮遊
浮くことが出来る。レベルが上がれば上がるほど自由度が高くなる。
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「うん、結構贅沢だね、これ」
そして、美玲は次にインベントリを確認することにした。
「インベントリ」
すると、目の前にステータスと同じ透明の板……ただし緑色……が現れた。
『リストを確認しますか? YES NO
(※これが表示されるのは初回のみです。次からはステータス画面から移動して下さい)』
もちろん。美玲はYESを選択した。
すると、中に入っているのは……
・手紙
・食料(一ヶ月分)
・生き物図鑑
・シャツ五着
・ズボン五着
・下着五着
・靴下五着
・特級ポーション3本
・上級ポーション10本
・中級ポーション10本
・初級ポーション10本
・剣
・刀
・完全防御テント(期限:十年)
・……
たくさん入っている。
それはもうたくさん。
だけど、一番おかしいのは……
「手紙?」
美玲は取り出してみることにした。
「何何?」
美玲は、手紙を読みだした。
『すまん、手違いが起こってしまった!
くじの内容は人間がいる世界だったのじゃが、これを作った10万年前にはまだ生きていた人類がこのオーレリアでは絶滅していたんじゃ!
遺跡とかは破壊されていなければ残っているじゃろうが、なかなか遭えんと思う。
今、その世界を跋扈(ばっこ)しておるのは魔物と呼ばれておるもので、成長してかなり大きくなっておる。まあ、恐竜のようなものだと思っておくといい。
ともかく、手違いがあって人類がいなかったから、できる限りのサポートをさせてもらった!
インベントリもあるし、魔法も創り出すことができるようにした。
この世界の魔法は呪文を唱えることで発動するもので、それは創り出すときよりも、創り出して「これはこういうもの」と世界に認識された方が威力は高まる。
まあそんなわけだ。
せっかくの不老の体質、有意義に使ってくれ。長く生きていれば魔物以外の知的生命体も現れるようになるだろうし、自らで作ってもいいとは思うぞ?』
「……は?」
そして、読み終わった後、美玲は一言、そう告げた。
いや、一言では済まなかった。
「人間が、いない? とっくに絶滅している?
よくある転生、転移ものじゃあ当たり前にいるのに?
というか、あのたくさんのくじがある中で、私が人間のいない世界を引いたの? 噓でしょ? 今まで運が悪かったことなんて起きたことがないのに? まさかこんな重要なところではずれを引くわけ? ありえないでしょ!」
美玲は、一通り人間がいないことに対する不満をぶちかました。
そして……
「それに、不老? 不死じゃないのは嬉しいけど、殺されたりしなければ生き続けられるの? ディストピアでよくあるやつやんけ。しかも人間がいないし!」
次に、美玲は不老に対する不満を言うのだった。
あ、一つ訂正する。
先程、「一通り人間がいないことに対する不満をぶちかました」などと言ったが、美玲にはまだまだ不満はあるようだった。
「あーあ、これからどうなるのかな……」
ただ、さすがに不満を口に出すのはそこまでにしたらしい。
これからのことを考え始めた……死んだ魔物の上で。
「くくくっ!」
そして、そんな美玲の耳にとある声が聞こえてきた。
好奇心が芽生えた美玲は、それを探すことにする。
「あ、そうだ、一応的だったときのために剣でも用意しておこう」
美玲は準備満タンで、その声の主のもとへと歩き始めた。
「おっとっと」
……不安定な魔物の死体の上でときどきバランスを崩しながら。
「くっさ」
声が聞こえた方の地面に降り立った美玲は、かねてから我慢していた匂いについても不満を言った。
……うん、仕方のないことだと思う。
それにしても、今のところ美玲は不満を言ってばかりな気がするが、気のせいだろうか?
「くくっ!」
また聞こえてきた声を頼りに、美玲は探し、草の中にいた一匹の魔物を見つけた。
……卵の殻がついた。
「えーっと、卵でも食べてきたのかな?」
冗談だ。
さすがに美玲も分かっているはずだ。
「……はあ、今生まれてきたのか。面倒な個体を殺しちゃったなぁ……」
ついでに、美玲はちゃんと、この巨大な魔物が親であっただろうという自覚も持っていた。
「くくくっ!」
しばらくその個体を見ていた美玲は、その声で……そのあとに魔物が自分のもとへと歩いてきたことで……ようやく現状を認識した。
「まさか、私が母親だって認識されていたりしないよね?」
……そうじゃないと考えるのは、いささか無理があるだろう。
4.人間、遺跡に辿り着き、悲しさを感じる
「人間が住んでいた遺跡を目指してみよう!」
そう、美玲(みれい)が決意してから3日が経った。
その日の昼が過ぎても、美玲は未だ、川のほとりで日向(ひなた)と共に過ごしていた。
その理由は……
——ピコーン!
『スキル「浮遊」のレベルが10になりました』
「はぁ……ようやくレベル10か……長かったな。けれど、4から5になった時に、動きの種類が増えたから9から10でもきっともっと動きやすくなっているよね」
そう、浮遊のレベル上げのためであった。
美玲は、遺跡を目指してみると決めた。
決めたはいい。
だが、その遺跡はどこにある?
美玲が、浮遊のレベル上げを行い、上空から遺跡の在処を探そうとするのは、至って自然なことであった。
ようやくレベル10になった美玲は、さっそく飛んでみる。
レベル2では1mほどしか浮くことが出来なかった浮遊だが、レベル5では高さ5mほど浮き上がり、横の移動も出来るようになった。さっきまでは高さ10mほどを飛んでいた。
そしてレベル10は……
「『浮遊』!」
美玲の体は持ち上がっていく。
とうとう、さっきまでよりも高い……だいたい12mくらいだろうか……まで浮き上がっていた。しかも、速さも十分ある。
「よっしゃあ!」
美玲は、空からどこに遺跡があるのかを探してそこへ向かうのではなく、移動全般を浮遊でやってしまおうという考えに辿り着いた。
だって……ここから見える範囲に遺跡が……無さそうだったのだ。
そしてそれを探すなら飛んだほうが速い。
外に出しておいたテントなどは全てインベントリ内に収納して、美玲は飛び立った。
「しゅっぱーつ!」
美玲は、日向を抱えたまま、あちこちを見て回る。
まずは、北の方へと向かった。
単純に、その方が眩しくないからだ。
だが、30分ほど飛んでも、遺跡は見つからなかった。
その後は、西に向かった。
理由は、東北東の方に山が見えていて、西の方が可能性がありそうだったからだ。
美玲は、さっきまで進んでいた方向を、西に135度転換して。進んだ。
そんなことを繰り返し。
ようやく、3時くらいになった。
美玲は、だんだん太陽を見ての時間が分かるようになってきた。それに、方向も。
美玲が考えている方角は美玲が北半球にいるという前提なのだが、間違っていないのだからそのままで何の問題もない。
勘違いは勘違いでも、上手くハマればそれは正解として機能してしまうのだった。
まあそこがどうでもいい。
重要なのは、2時間ほど飛び回って、美玲がようやく森の中に遺跡を、西の方で見つけたということだ。
……ついでに浮遊もレベルが11に上がった。きっとスキルを酷使したのだろう……
正直、手紙でなかなか遭えないと書いてあったからさらに行動範囲を広げることになるだろうな、と思っていたのに……
「石で作られた家かぁ。これは良くありがちな中世風の世界観だったっていうことでいいかな?」
「ちゅうせいふう? 何それ?」
そんな美玲に声を掛けるものが現れた。
もちろん、日向だ。
日向は美玲を母として信頼し、美玲も特に自分を攻撃してくるわけではない日向を信用するのは、美玲と会話をするものがいない中では自然なことであった。
さらに、始めは聞き取りにくかった言葉も、意思疎通のレベルが今は10にまで上がっており、難しい単語を使わなければ、普通に会話することが出来るくらいだ。
「中世風っていうのは……」
美玲はしばし逡巡して、答えた。
「こういう遺跡のようなもののことだよ」
「そうなんだ! これはチュウセイフウで、遺跡っていうんだね!」
「そうそう」
美玲は純粋な日向に心を癒された。
うん、きっと可愛いのだろう。
ちなみに、日向の見た目は色は前回美玲が言っていたが緑色。
<i1062919|49212>
こんな風に、恐竜の子供にでもいそうな感じだ。
この姿で「くくっ!」と鳴いていたことを考えると……可愛すぎる……
さて、美玲もようやく遺跡に入る決心がついたみたいである。
「よし、入るか! 行くよ、日向!」
「うん、 ママ!」
日向は、遺跡へと足を踏み出した。
そんな日向を待っていたのは人が住んでいた後が残っており、その跡を歩いているという高揚感……ではもちろんなく、悲しさだった。
まず、遺跡だから仕方が無いとはいえ、草が生えまくっている。
お陰で、歩くたびにちくちくちくちくしてくるのだ。
美玲は、魔法の創造もいくばくか行っているが、草を刈るような便利魔法は……
「ある……!」
美玲には、思い当たりが一つあった。
「どうしたの、ママ?」
「何でも無いよ、いい方法を思いついただけ」
「ふうん」
「じゃあ早速するね。『ウィンドカッター』」
風が、草の根元の方を刈っていく。
順番に草が無くなっていく光景は、思っている以上に綺麗で、爽快感があり、見ものだった。
「さすがママ! 歩きやすくなったね!」
「そうでしょう?」
だが、これでも遺跡を歩く悲しさは癒えない。
建物は生き残っている。だが、綺麗ではない。周りには蔦(つた)が張ってあるし、色が黒ずんでいる。
それが、物寂しさを感じさせられる原因となっていた。
だけど……
他の家の中を覗いた美玲は、こう決心した。
「本があるみたいだし、読みたいから、しばらくこの遺跡に留まることにしようかな。日向はそれでいい?」
「うん、ママがそうしたいなら!」
日向は、元気に答えた。
「分かった、ありがとう」
美玲は、優しく返答した。
遺跡にもだどり着いた美玲。
これからは本を読む毎日……が来ると思われたが、その心には一抹の不安があった。
『今、その世界を跋扈(ばっこ)しておるのは魔物と呼ばれておるもので、成長してかなり大きくなっておる』
神からの手紙には、そんなことが書いてあった。
だが、今までに美玲は始めに殺すことになってしまった魔物と日向以外に、出くわしたことがない。
この静けさが、美玲にとっては微妙に、いや絶妙に、怖いものと感じられるのだった。