その世界は、文明が発達していた。
こっちの世界よりも、全てが遥かに。
ただひとつ、その世界は、感情が欠落していた。
        続きを読む
     
 
    
    閲覧設定
    
    
    
    
    
        
            
        
        
            
        
     
    
    
    
    
    
    
  
 
    
        名前変換設定
        
            この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
            
            
        
        
         
     
 
 
       
        1 /  
      
目次
 
    
        第1話 謎の転校生
        
        
        転校生が来るという噂で、私の学校は持ちきりになっていた。私は私立いろは学園6年2組、文書本花。私立いろは学園は、小中高一貫校。偏差値が特別高いわけでもないが、校内は少しお洒落だし、いろんな分野を幅広く学ぶことができる。
「本花っ、聞いた、転校生!本花が好きそーだよねー」
「そうだよ!何しろ、謎の転校生ってのはテッパンだから!」
謎の転校生。10月も終わる、寒さが身に染みる頃に来るなんて、謎極まりないじゃないですか。隣はあいていないにしろ、主人公席でないにしろ、謎の転校生ってことは十分ありえる!もしかしたら異能力を持っていたり、組織のスパイだったり…
そう、私は小説執筆が趣味の12歳女子。こういう些細なところから、小説の妄想を考える変人(らしい…)。
今は新しいジャンルにも挑戦してみようと、鬱形ネガティブ小説シリーズを執筆している。最近、『いろは学園小説大会』にもそれを出品。全国で認められる小説となり、金賞を受賞したのだ。ふふ、すごいでしょう。
そんな私をよーく理解する彼女は、幼馴染の咲。彼女は同じ『かく』だが、イラストを『描く』のほうだ。『いろは学園小説大会』の挿絵を描いてもらった。繊細なタッチが綺麗で、彼女も認められる日がいつか来る…はず。
そんな妄想にふけりながら、淡々と朝のホームルームを済ませていく。すると担任の先生が、
「では、入ってきて」
と言う。
確定演出じゃないですかぁ!
「おはようございます。フミヨミカケルといいます、よろしくお願いします」
想像を絶する美男子!…ではない。顔面偏差値平均点の、単なる冷たい男子っぽい。ただ、フミヨミカケルという変わった苗字は、なんとなーくそんな感じはする。
彼は黒板に『文読書』と書き、遠めの席に座った。あれでフミヨミカケル…本を読むために生まれてきたような名前に、ちょっとびっくりする。
がっかりしたのか知らないが、文読さんには誰も話しかけなかった。私は気になったが、グイグイいって「めんどくせー」と思われるといけないので、タイミングを見計らってにしようと思う。
授業が終わり、10分休み。またシャープペンシルを取り出してルーズリーフに書こうとすると、
「文書…さんか?」
という声がした。
「文読さん?」
と言ってみると、フミヨミとフミカキって、ちょっと似ている。やっぱり確定演出だっ!と興奮していると、
「やっと出会えた、《《小説守護神》》」
という声。
「うぇ?」
と素っ頓狂な声を反射的に出し、気まずい空気が流れた。
しょ、ショウセツシュゴシン?
        
    
     
    
        第2話 アパート集合ね。
        
        
        …なんですかそれ?
「ま、いきなり言われてもわからないよな。今日の放課後は空いてるか?」
「あ、暇人。習い事してないから、門限も7時までだし、いつでも」
「じゃ、僕の家に来て。向かいのアパートの、306室」
向かいのアパート。いろは学園の近くに、ちょっと小洒落たアパートがある。そこに住んでいるのだろうか。
第一、なんで家に…いや、もうやめとこう。何も考えずに、家に行こう。
---
帰宅した後、カバンをバッと投げ捨てて、自分のポシェットにスマホを入れて、「行ってきますっ」と家を出る。お母さんの小言は聞こえない(ふりをする)。
エレベーターを待つ時間も鬱陶しく、己の足腰で3階まで上がり、『文読』の表札と『306』を確認してから、インターホンを押す。明日足を筋肉痛で痛めようが、昨日の筋肉痛が今になってぶり返してこようがどうでもいい。
ただ、私は、
**「自分がやりたいことを突き進むんだーーっ!!」**
と叫ぶと、(うわあ)という心の声が聞こえてきそうな表情の文読さんがいた。
うわ…あ…うん。
「ま、取り敢えず入って」
…なんかすみません。
ドアを開けて上がらせてもらうと、殺風景な部屋がある。真っ白の床と壁と天井に、予めあったであろうライト、何もなさそうなキッチン。ただ買ってきたと思うのは、低めの四角いテーブルと座布団のみ。
テレビはない。でも、充電タップでスマホを充電している。
「どうした」
「いや…殺風景だなあって」
「そりゃそうだ。《《ここには住んでいないから》》」
「は?」
ここには住んでいない?じゃ、どこに住んでいるんだ。
実家が遠いとかならわかる。でも、全然使われていなさそうだ。玄関に砂は積もっていたが。
「ここから帰るんだ」
「…ちょっと待って、理解が追いつかない」
「話せば長くなるから、取り敢えず来て」
文読さんは充電コードをスマホから抜き取り、起動させた。
…スマホじゃないのかもしれない。
確かに、カタチはスマホだ。灰色の手帳型のスマホカバーをつけていて、形状は薄い長方形。画面らしきものだってある。
ただ、中身が違いすぎるのだ。アイコンは確かに並んでいるが、全て知らないもの。充電していたのに、充電マークすら見当たらない。メール、電話、インターネット、地図はある。だが、その他に違いすぎるアイコンがある。
水色がバックの、青い矢印マークのアイコン。
オレンジとピンクのグラデーションに、意味不明な文字?と、あ が矢印で繋がっているアイコン。
黒と紫を混ぜたような色のバックに、立体的な立方体のイラストのアイコン。
知らないアイコンがありすぎる。こんなアイコン、アプリストアでも見たことがない。改造?そんなわけがない。
        
    
     
    
        第3話 アグリア・メーリ
        
        
        「このスマホって…」
「スマホ…そうだ、スマホだ」
「文読さんって一体…」
国語の偏差値は高いのに、理解が追いつかない。
スマホを起動させて、それをさりげなく見せてきた文読さんを見る。
「今から行く。助けてほしい」
「どういうこと?」
「…頭がかたいな。じゃあ、今から話す」
---
こっちの世界は、『アグリア・メーリ』という。僕らの言葉で、『アグリア』は君らの言う『感情』、『メーリ』は『世界』を意味する。
つまり、『感情の有る世界』。
僕は元々、君らとは違う世界から来た。僕らの世界は君らの世界より、ずっと文明が進んでいる。こっちに来た時、文明が遅れすぎて驚いた。そんなの、400年前の文明だ。
僕らの世界は、何もかもが君らよりも進んでいる。文明、農業、水産業、工業、林業すべてが進み、環境だって素晴らしい。
ただひとつ、僕らの世界には欠陥があった。僕らの世界には、感情というものがひとつもない。犯罪だって起こらない。何かコンピュータのバグがあっても、それを『みんなが困るから』という理由ではやらない。ただ、『教えられたから』やるんだ。
とある一家がすべてを独占しようとした。その一家はすべてを独占できたが、人々の性格や感情まではコントロールできなかった。しかし、一家は優秀な研究者を雇い、感情を吸い尽くす装置を開発した。研究者は装置を作った後、即座に死んだ。独身なので、家族に何も遺すことはできなかった。一家は感情を吸い尽くしたが、不注意による火事で死んだ。感情を吸い尽くした装置は残ったが、感情を蘇らせる方法は残らなかった。一家と研究者の頭にしか、その方法はなかったんだ。
そう約3400年前の手帳にかかれている。3400年の間、僕らは感情を一切持たなかった。持たなかった先祖から遺伝して、今の僕らにも感情が殆どない。
だが、最近になって、まずいと思ったのか、政府が感情を蘇らせようとしてきた。サボりなどが深刻化してきたんだろう。
感情を蘇らせるための方法を、僕らは知らなかった。発展した文明で、他の世界を見つけた。その世界からランダムに選ばれたのが、この街だった。この街にある学校・いろは学園には、小説大会が存在する。小説大会で金賞を受賞した作品を政府が読むと、少しだけ『悲しみ』と『怒り』と『喜び』の感情が蘇っていた。
この作品の作者は、人々の感情を蘇らせるパワーがある。そう確信して、僕らは君のもとへ来たんだ。