ミア聖女伝〜身勝手な理由で召喚された聖女ですが、何故か世界を救えそうです?!〜
編集者:ことり
どうやら私、山名結海(ゆみ)は佐藤結海(ゆうな)と共に異世界召喚されたようだ。結海はいじめっ子。名前のせいで、そうなった。
召喚された理由は聖女が不足したうえに、働くのに危険があるからと聖女が働かなくなったから。……そっちの勝手だよね? 私、関係ないよね?
佐藤さんは持ち前のコミュ力で王室に気に入られ、私は神殿で働く。
あちらは仕事をしない。私はしている。
明暗はくっきり分かれている。
結局働いちゃっっているのだが、そのついでにこの世界の問題の解決方法を探ることにした。
これは、聖女となった少女ミアが、異世界で奮闘して、みんなを幸せにする物語だ。
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目次
1.ここが……どこ?
「やーまーなさん!」
「……何? 佐藤さん」
「何って酷いなぁ。おしゃべりしに来ただけだよ?」
「分かったから後ろに乗っからないで」
「何で? あたしを乗せられるとか名誉だよ?」
「やめてよ」
それは、いつも通り佐藤さんに絡まれているときのことだった。
突然、白い光が生まれて……
気が付いたら、目の前に豪華な服を着た人後いかつい感じの衛兵のような人がいた。
「「「「「「聖女様、ようこそいらっしゃいました!!」」」」」」
そして、それが土下座のような体制をとっている。
ん? 聖女様?
よくある異世界召喚みたいなやつなのかな?
まさか私がこんなものに巻き込まれるなんて……
「みんな、顔をあげて。あたしはみんなの顔をみたいな」
「「「「ははー!」」」」
佐藤さんの物言いに、みんな顔をあげた。
そして、その瞬間どよめきが走った……気がした。
「二人……ですか?」
「片方が負ぶられているように感じるが……上の方が聖女様なのか?」
その発言が聞こえて、現状を認識する。
そうだった、佐藤さんに乗っかられた状態のまま召喚? されて、今もその状態が続いているんだ。
「佐藤さん、降りて」
「うん!」
さすがにこの人たちの前で我が儘を見せる必要はないとでも思ったのか、すんなり降りてくれた。
「おい、結果は?」
「どちらにも聖属性の反応があります!!」
「なんと……!?」
「お二方とも聖女だというのか?」
「サムエル、よくやってくれた!!」
「嬉しい限りです」
「状況を説明してよ!?」
あーあ、佐藤さんが怒った。
「申し訳ありません、ですが我々も戸惑っていまして……」
「今わかっていることだけでもいいから!」
「……はっ!」
そして、彼らは説明を始めた。
「今、この世界では聖女が不足しておりまして、この度召喚することにしたのです。そしてあらわれたのがあなた方二人です。
そして、先ほど、どちらも聖女様であることが判明しました」
「こいつも?」
「……です」
「あのー……」
「で、聖女が不足しているからあたしに活躍してほしいの?」
「ええ、お二方に、ですが。
今この世界の聖女様は大変危険な目に遭っておりまして……」
「細かいところはどうでもいいから。あたしが聖女としてちょー活躍すればいいんでしょ?」
「そうです」
「あ、さっきからあたしに話しかけているけど、あんた誰?」
どうやら佐藤さんはこの偉い立場にいそうな人たちを下の立場に見たようだ。
私たちが聖女として召喚されたのなら、確かに、あの人たちは下手に出るかもしれない。
だけど、それじゃあこれから先はやっていけないと思う。
そんなことを言っても佐藤さんは受け入れないんだろうな。
そんなことは分かり切っている。
「名乗るのが遅れてしまい申し訳ありません! 私はこのデカンダ王国の国王でございます」
「わたくしは王妃ですわ」
やっぱり。
あるあるとしては始めに私たちと話しているのが偉い人だよね。
「あたしは佐藤|優海《ゆうな》」
「ユウナ様でございますね」
そして、国王は私の方に顔を向ける。
「私は山名|優海《ゆみ》です」
「ユミ様……名前が似ていらっしゃる。二人同時の召喚ができたのは名前のおかげかもしれませぬな」
間違ってはいない。
私は、名前の漢字が、佐藤さんと同じだから、目を付けられた。
だからこそ絡まれ、だからこそ同時に召喚されてしまったのだろう……引っ付かれたがゆえに。
「あたしの名前のほうがかっこいいっしょ?」
佐藤さんは自慢げに言う。
彼女はそんなことは思っていない。
だからこそ私は絡まれていたんだから。
今は、ただ、私から優位になるためだけに言っている。
なんか……哀れだな。私は絡まれている側だけど。
「いえ、どちらの名前も素晴らしいと存じます」
「……そう」
急に不機嫌になった。
面倒くさい。
本当に彼女は聖女なのだろうか?
私も聖女なのだろうか?
理解できない、分からないことが多すぎだ。
大体、佐藤さんの所為で私たちが呼ばれた理由もまともに聞くことができなかった。
……彼女は、私にとっては疫病神だ。
「どこで仕事をするの?」
山名さんは国王にも気軽に質問している。
「神殿ですか? 余裕があるときは王宮も雇っていたのですが……」
余裕があるとき?
あ、そっか、今聖女は足りないんだったっけ。
なんでだろう?
よくあるのは魔物が多くやってきて、今いる聖女じゃあ対処しきれない、ってところかな?
どうなんだろう?
「え、けど今回山名さんが来たんだよ。彼女は仕事はちゃんとすると思うよ、愛想はないけど。彼女だけで十分じゃないかな?」
「そうでしょうか? 今、聖女の人手不足は深刻で……」
山名さんはどうやら王宮に雇われる方になりたいらしい、
その思考回路はきっと、王宮の方がぜいたくな暮らしが出来そうだとかそんな感じなんだろうな。
「ユミ様、ユミ様は神殿で働いてもいいと考えているのですか?」
「私は構いません」
「あ、そうそう。ユミはね、あたしのことなぜか嫌っているんだよね。だから、あたしとは別のところがいいんじゃないかな?」
「そうですか?」
嫌っているって……それ、あなたの方だよね?
「王様は今子供とかいないの?」
「いますが……? 彼が私の息子ですよ」
そして王子をユウナに紹介する?
「あのさ、あたしが王宮で働いちゃダメ?」
「……構わないよ」
今度は王子を落としいったか。
しかし上手くいきそうな気がする。
「では、ユウナ様は王室専用聖女、ユミ様は神殿で、いろんな方々の役に立つ聖女様で構いませんか?」
「はい」
……どうしてか、こうなった
なんやかんやあり、佐藤さんは国王、王妃、そして王子に気に入られることに成功したようだ。
彼女のように自信満々なほうが聖女らしいから、だから気に入られたのかもしれない。
彼女は王室専属、私は神殿。
明暗ははっきり分かれた。
まあこうなってしまったものは仕方がない、と諦めることにする。
ただ、佐藤さんと離れられたことは、純粋にうれしかったから。
多少面倒ごとを押し付けられようと、佐藤さんに会わなくていいなら、許容範囲内だ。
ゆうな、という名前を私が変に思っているわけではなく、ユウナの性格上、ストレートに読む方が、変にひねった読み方をするよりかっこいい、と思いそうだったので……
気を悪くされたらすみません
2.召喚の理由と魔法
「私が、此度ユミ様の護衛になりました第八隊の隊長、ベノンです」
「私は副団長のカンゲと申します」
「これからよろしくお願いします」
「「はっ!」」
「あなたたちはこの国の事情をちゃんと把握していますか?」
「ある程度は」
「だったら、私たちが召喚された理由も知っている?」
「はい」
「それでは、私たちの召喚の理由を説明してくれますか?」
「分かりました」
彼らが護衛だと公表された時の周りの反応を見るに、彼らは不遇にされている騎士のようだ。
私と同じ。
だから、国王とかは佐藤さんと上手くいくのだろうな。
似ているもん。
まあ、その後の国は滅びるかもしれないけど。これはよくあるストーリーだし。
私はやるべきことをするだけだ。
「実は、聖女様は光魔法を使えるのですが、自身には使えないのです」
「だったら他の人にかけてもらえば問題ないのでは?」
「それも効かないそうです。聖女様はなかなか生まれてきませんので、その存在が分かるとすぐに神殿に引き取られるのです。
そして聖女様の機嫌を損ねないようにと守られて育てられ……」
「傲慢になった、のですか?」
「そこは正直どうでもいいんです。問題は聖女様に治癒が聞かないことを利用した輩が出てくることでございまして……」
「どのように利用するのですか?」
「脅すのです」
「脅す……そしたら甘やかされた聖女は死にたくなくて、相手の言いなりになるかもしれませんね」
「我々の仕える聖女様が聡明な方で嬉しい限りです。その通りでして、今では多数の聖女様があまりいいとは言えない組織にとらわれております」
「だから、私たちに活躍してほしいのですね」
「そうです。……ただ、陛下はあちらの方に期待していそうですけどね」
「それは、私にあなたたちがあてがわれたからですか?」
「そうです。我々はあまり上層部にいい顔はされていないので、嫌われて、難しい課題を押し付けられているのです。
おかげで任務達成率は低く、それを見て、陛下は我々を付けたのでしょう」
そっか、少し希望が見えてきた。
「では、あなたたちには期待しておきます」
「分かってもらえたなら嬉しいです」
私に随分と優秀なものをあてがってくれた陛下には感謝しないとね。
くっくっく
笑いが込み上げてきた。
……ああ、この笑い方の時点でもう異世界に毒されているなぁ。
そんなことを思った。
どうやら、異世界転移というものをとおして、私は少なからず興奮しているようだ。
「ベノン、まず何の仕事をすればいいですか?」
「そうですね……あ、確かやることのリストが作られていると伝えられていました。持ってきます」
「ありがとう」
忘れていたなんて、ベノンは少し抜けているところでもあるのかな?
それを言ったら私を見る目が厳しくなっちゃうから言わないけど。
「持って参りました」
「ありがとう。それでどんなことが書いてありますか?」
「ええっと……孤児院の訪問、病院の訪問、畑の訪問、などが書いてありますね」
「そうですか……けど、その前に聖魔法の使い方が分からないといけませんね」
「あ、そうですね。考えていませんでした」
……。
私も途中まで気づいていなかったから何も言えないや。
「魔法はどのように習得するのですか?」
「まず感知できるようになって、その後に使い方を学び、後は詠唱するだけで使えるようになります」
「ベノンはどれくらいで使えるようになりましたか?」
「あ……私はあまり魔力量が多くなく、質もそこまで高くないので、魔法は使いません」
「そうなんですか? そういう人は多いのでしょうか?」
「多いと思います」
「そうですか」
それは、なんだか残念だな。
ただ、魔法を使えない人で作った隊があるのなら、魔法が使えない人も別に差別されているわけではないのだろうし、問題ないんだろうな。
「誰か私に教えられる人はいるのでしょうか?」
「私の隊にはいません」
「ベノン、あなたが信用できる、魔法の使える人を呼んできてくれませんか? カンゲの信用できる人でも構いません」
「分かりました」
こんなことを話したのが召喚された日の夜のこと。
そしてその次の日である今日。
「ユミ様、彼女が教師をしてくれることになりました」
「エンナと申します」
「彼女は私の幼馴染で、そこまで権力とかは気にしない人物なので信用にたるかと思います。どうでしょうか?」
「構いません。聖魔法も教えることができるのでしょう?」
「もちろんです! 文献で聖魔法の記述をたくさん見てきて、いずれ聖女様に会ってみたいと常々思っていたのです。神殿のガードが固く、今まで会うことは出来ませんでしたが。
私の念願を叶えてくださったのです。いろんなことを教えて差し上げましょう」
なんていうか……研究馬鹿?
信用には足ると思うし、構わないかな。
「これからよろしくお願いします、エンナ……先生?」
先生、が適切だよね?
「誠心誠意頑張ります!」
「聖女様は魔力の感知は出来ますか?」
「できます。あの、聖女様じゃなくてミユでいいですよ?」
魔力感知については昨日ベノンに聞いた後に、少し頑張ってみたんだよね。
体に日本にいるときにはなかった違和感があったからそれを動かしたりしていた。
これが魔力かは確定できないけど、これ以外に特に変わったものは感じられなかったから、これだと思う。
「ではミユ様ですね」
……。
様付けなのは変わらないんだ。
「一度魔力を手に集めてもらっても構いませんか?」
「はい」
「確かに集まっていますね。普通の人はここで戸惑うのですが。
では次の方に行きたいと思いますが、その前に、これに魔力を流してもらって構いませんか?」
「分かりました」
水晶みたいなものに魔力を通す。
「なんと……!?」
水晶が白色に光った。
……と思えば、白、赤、青、緑、水色、この5色が出てきた。
「非常に安定したバランスですね。さすがとしか申せません」
「どういうことですか?」
「白は聖属性、赤は火属性、青は水属性、緑は土属性、水色は風属性、黒は闇属性を示しているのです。黒はありませんが」
「白は聖属性なのに黒は闇属性なんですね」
「闇属性も国は丁重に扱っておりますが、やはり重要になってくるのは聖属性の方なので、闇属性と同列なのは失礼だろう、と聖に変えたそうです。そして、聖属性を使える女だから聖女、と。」
「聖属性を使える男性はいないのですか?」
「おりません。逆に女性で闇属性を使える方もいらっしゃらないのでユミ様にも闇属性はありません。闇属性をもつ男性はいい言い方が思い浮かばなかったので、悪魔、となりました。男は皆悪魔を夢見るんですよ? 面白いでしょう?」
「はい、そうですね」
悪魔をみんなが夢見ている……くっくっく
また笑いが込み上げてしまった。
3.聖魔法の練習
「すみません、笑ってしまって」
「構いませんよ。ユミ様は出来るだけ早く仕事は始めたいのでしょうか? 遅いならどの属性についても魔法を教えたりできますが……均等ですしね、教えがいがありそうです」
へぇ~。私の魔法の属性って結構均等なんだ。
どこで知ったんだろう?
「どちらでもいいですが、仕事は多いので、まずは聖魔法を習得したいです」
「分かりました。まず、怪我を治癒する魔法の呪文を教えましょう。呪文は『光——汝の糧になれ』らしいです。
魔力を怪我した部位に持っていくことによって、補われるようですが……私は使う事が出来ないので分かりません」
ですからはやく試してみてくださいよ!
そんな声が聞こえてきそうだ。
「けが人は今いませんけど……」
「あ、そうですね。ではしばしお待ちを。小刀を持って参ります」
「え? 小刀? 何をやるつもりですか?」
「もちろんユミ様の実験台になるためですよ! こんな機会は滅多にありません!!」
「待ってくださいよ! それなら、一度孤児院か病院にでも行きましょう!?」
思わず声を荒げてしまった。
孤児だったら小さな怪我は放っている可能性が高いから、いい練習になりそう。
「いえいえお構いなく」
「構いますから! ……ベノン、孤児院に連絡を。他の者は先生が何かしないように見張っておいてください」
「「「「はっ!」」」」
「ちょっと!?」
カンゲたちに囲まれて叫んでいる先生がいる。
ふぅ……。これで一安心、かな?
「連絡が取れました。準備が出来てなくてもよければ、来ても構わないそうです」
「ありがとう。先生、孤児院に行きますよ」
「はぁい。仕方ないわね。だけど、私が怪我をした場合は、治癒して頂戴ね? 授業料の代わりよ?」
「授業料はいいんですか?」
「もちろんよ」
研究馬鹿ならそういうものなのかな?
「そうと決まったなら、早速孤児院に行きましょう!!」
となって孤児院に今いる。
「こんにちは~。お邪魔します」
「ええっと?」
「聖女のミアです。今日は急だったのにありがとうございます」
「ミア様!? それは失礼しましたっ!」
「こちらこそ急に失礼しました。事情は聞いていますか?」
「はい。たしか魔法の練習をしたいとは聞きましたが、詳細は……」
「では詳細を説明しますね。実は今聖魔法を習得しようとしているんですけど、怪我を治そうにも怪我をしている人が今いなかったので、孤児たちなら、小さな怪我はそのままにしているんじゃないかなーって思いまして」
「確かに、それならご希望に添えそうです。すみません、準備ができないっといったから来るとは思っておらず、子どもたちにも伝えていないんですけど」
「構いませんよ。そのつもりでしたし」
「では子どもたちのところに行きましょうか」
「「お願いします」」
「みなさん、お客さんですよ」
「おきゃくさん!?」
「だれだれ?」
「偉い人?」
「どうぞ、ミア様」
「はい。みなさんこんにちは。この前この世界に召喚された聖女のミアです。今日は、魔法の練習をここでしたいと考えているんだけど、いいかな? 小さな怪我とかを治す練習をしたいんだけど」
「けがを治してくれるの?」
「わたし、今日こけちゃったんだよね」
「じゃあ最初はジャスミンだな!」
「いいの?」
「いいよな?」
「「「「「「うん!!」」」」」」
てくてく。
一人の女の子がやってきた。紫の髪の毛の女の子だ。
「こんにちは、聖女さま」
「こんにちは、何か怪我したの?」
「うん、ここ」
「膝かぁ。痛かったね」
えーと、確か、「光——汝の糧になれ」だよね?
「光——汝の糧になれ」
そう言って、魔力を怪我に込める。
暖かな印象をもたらす白い光が、手からあふれてきて、傷口を囲み、けがを癒した。
「うわあ! すごいすごい! あっという間にきれいになった!」
「見せて!」
「本当だなぁ」
「俺のこの古い傷もなおるかな?」
「おい、カンダも行ってみたらどうだ?」
「うん! 行ってくるぞ!」
「聖女様、この傷は治りますか?」
火傷……かな?
本人が言っていたように古傷のようだ
「光——汝の糧になれ」
また、白い光が生まれた。
そして、その傷は治った。
「すげぇ……! 聖女様、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
なんだか私も嬉しくなった。
「私も行こう!」
「俺も俺も!」
「わたしもいいですか? せいじょさま」
「いいよ。 光―—汝の糧になれ」
そんな風にどんどん治していった。
途中からは先生の助言も活用して、全体的な治癒もやってみた。
これだと魔力の消費量は多くなるけど、子どもたちについているいろんな傷を治すことができる。
「どうですか、先生?」
「素晴らしいわ!! いいなぁ、私も治癒されてみたい……!!」
魔力もかなり減ってきたので、今日はこれで終わることにした。
「ではミア様、呪文を今からたくさん覚えてくださいね」
笑顔の先生がいた。
そして、私はたくさん呪文を覚えさせられた。
そう、聖魔法だけでなく他のものも……
「ベノン、明日はどうするのがいいと思いますか?」
「そうですね……ミア様はもう病院に行っても問題ないと思いますか?」
「まだ試していない呪文があるのでそれは遠慮したいかもしれません」
「でしたら明日も孤児院でいいのではないでしょうか?」
「明日も?」
でも、今日であらかたの傷を治しちゃったよ?
「今回は民の間にも広めましょう」
「え?」
まさかそんな大ごとになるなんて。
だけど、確かに昨日の調子だと上手くいくかもしれないな。一発目から上手くいくことが出来たし、もしかしたら魔法の才能があるのかもしれない。
この油断が、危ない事態を引き起こさないことを、神様にでも祈っておこうかな。
「一応、治らない可能性があることも伝えてくださいね。あと、病院でも問題ない怪我は、するつもりはない、ということも出来れば伝えていただけるとありがたいです」
「……! 畏まりました」
なぜだろう、ベノンが一瞬驚いた顔をしたような気がした。気のせいだよね?
それにしても、今は夜なのに、その時から明日聖女が神殿に現れるなんてこと、そんなに広まるのかな?
あまりにも少ないと、さすがに悲しいんだけど。
それに、病院に行っても治らなそうなものを持っている人って、そこまで多くないと思うけど……
一体どれぐらい来るのか、明日が楽しみだ。
ちなみに先生が均等なのを知っているのは、水晶の魔力が均等に光っていたからです。
4.聖女様は人気
「ミア様―! 今日も来ましたよ~!1」
せっかく敬語が外れていたのに、今日は先生は敬語のようだ。
このまえは興奮するようなことがあったからなのかな?
出来れば今日も普通に話してほしかった。
まだ、どんな話し方をすればいいのか分からなくて、敬語でずっと喋っちゃっている私が言うのも何だけど。
「先生、今日も孤児院に行く予定なので、準備をよろしくお願いします」
「ん? そのことなら聞いていますよ、ベノンが教えてくれましたから」
なんと!
どうやらベノンは魔法の才はなかったとはいえ、他のことは優秀なようだ。
「そうですか、それでは行きましょう」
「はい! ……ああ、今日は傷だけでなく病気の治癒も見られるかもしれない! なんと幸せなんだろう!!」
先生は何やらぶつぶつ呟いているが、楽しそうなので良しとしよう。
孤児院は、昨日よりも騒がしい様に感じた。
みんな楽しんで遊んでいるのかな?
そんなことを思っていたら裏口から通された。
なんでだろう?
「こんにちは~、連絡しておいた聖女のサナです」
「サナ様ですね、お待ちしておりました。裏口から来てくださったのは助かりました。ありがとうございます」
どういうことだろう?
「あなたは?」
それよりも、今日は孤児院の院長ではないようだ。
「失礼いたしました。私はこの孤児院の一番年上で、エリーゼと申します。といっても、もうすぐ成人するので、ここから離れることになるんですけどね。普段は院長の代わりをしたりしています。以後、お見知りおきを」
「……」
同い年ぐらいにしか見えない。
なのに、もうこんなしっかりとした仕事を任されているの?
すごいなぁ。
……あっ
「エリーゼは孤児院を出た後働く場所は見つかっていますか?」
「いえ。それがどうかしましたか?」
「私の手伝いをする気はありませんか? ベノンにいろんなことを任せきりにしちゃっているので、誰か欲しいなと思っていたんです。もちろんタイミングは成人してからで構いませんから、考えてみてください」
「私に……ですか?」
「そうですよ」
「願ってもいない提案です。院長と話し合ってからになりますが……出来るだけ早くそのご期待に応えられるように頑張ります」
「ありがとう、エリーゼ」
エリーゼが仕事を手伝ってくれるなら、本当に助かる。
「あの……」
「ベノン? 何かありますか?」
「ミア様にただいま侍女がおられないので、この者に侍女を任せることは出来ないのでしょうか?」
「侍女? 別にいりませんよ?」
「いえ、これはミア様の問題ではありません! 聖女様に一人の侍女もいないとなれば責められるのはこちらです! どうかお考え下さい」
「エリーゼは? どう思っているのですか?」
「その方が都合がよいのでしたら構いません」
「だったら……不本意ですけど、エリーゼは侍女として雇うことにしましょう。エリーゼ、引き受けてくれてありがとう」
「勿体ないお言葉です」
ほんとにこの子孤児出身?
孤児院だったらなめられることも多いからそれを任されるということは実力は結構あるのかな? とは思っていたけど、ここまですごいなんて……
誰が教育をしたんだろう?
気になるなぁ。
「ミア様、もうすぐ行きませんと」
「あ、そうですね。エリーゼ、案内をお願いしていいですか?」
「はい」
「それにしてもどれくらいの人が来てくれたのでしょうね? そんなに病院で治せない傷なんて少ないと思うんですけど……」
「きっとミア様が想定している10倍以上の人数がいますよ」
「10倍? まさかベノンは200人以上もくると思っているのですか!?」
「はい」
うぅぅ……
なんかぞわぞわする。
この喧噪って、さっきは子どもたちが遊んでいるからだと思ったけど……まさかね。
急いでその考えを振り払う。
が、その想像の通りだった。
「あの水色の髪の子かな? ミア様というのは」
「なんか神々しいなぁ」
「美しい……!」
「まあ、可愛らしい子ね」
「あのおねえちゃんがせいじょさま?」
「多分ね」
うん。どうやらいろいろ言われているようだ。
「ミア様、ここにどうぞ」
そうエリーゼから椅子を貸されたんだけど。
その椅子は、孤児院で一番かそれぐらいに高いものじゃないかな? そんな気がする。
これ、壊したら怒られるよね。
別の椅子が欲しいなぁ、とエリーゼを見るも、早く座ってください、とばかりに待っている。
表情がそこまであるわけでもないのになんでそんなに伝わってくるのかが分からない。
エリーゼは不思議な人物だ。
椅子に関しては諦めて座ることにする。
「このけがをなおしてください」
始めにいたのは女の子だった。
顔には火傷のような怪我がある。
痛そう……
「光——汝の糧になれ」
そうするといつも通り、白い光が現れて傷がきえていく。
「うわぁ! ありがとう、せいじょさま! おかあさん! なおったよ!」
「よかったわね」
「俺は持病があるんだが、治してもらえるか、いや、治してもらえますか?」
「試してみないと分かりませんが。ちなみにどこら辺が悪いかは想像がつきますか?」
「そうだなぁ、ときどき呼吸が苦しくなるんだよな」
呼吸? ということは肺かな?
肺だったらこれも怪我の範疇でいいよね?
「光——汝の糧になれ」
どうだ!
無事、白い光が生まれてくれた。
「ありがとうございます! 治った気がします!」
「それはよかったです」
いいことなんだけどね。
列を見ると、先ほどよりも増えている気がする。
「この傷は病院で治療してもらってくださいね」
「そんなぁ……」
ときどきは、こんな人も現れる。
だけど、概ね上手くいっていると思う。
「はぁ……疲れました……」
魔力の限界が来たので、今日はこれにて終わることにする。
一体何人に聖魔法を使ったのかは、数えたくない。
「私は満足いくまで見れました!! ……病気はなかなか見れなかったけど」
「聖女の力とはすばらしいものなのですね」
どうやらエリーゼも先生の仲間入りを果たしたようだ。
誰か私の見方になってくれないかなぁ。
「では今日の反省会でも、神殿に戻ってすることにしましょうか?」
「え?」
「もっとうまくできるようにならなくちゃいけませんからね!」
「はい……」
そして、昨日と内容は違えど、同じような悪夢が待っていた。
指摘がちゃんと当たっているから、怒りはぶつけようがない。
「明日は休んでもいいですか?」
「んーまあいいんじゃないですか? 慣れないことをして疲れているでしょうしね」
先生の承諾は無事に得られたことだし、明日は一日中ごろごろして過ごそう。
そう思っていたんだけど、その目論見ははずれ、本を読まされることになってしまった。
本なら別に嫌いじゃないからいいんだけど、これも聖女とか魔法に関係する本だった。
そして、地理に関係する本や、神話に関係する本もおかれた。
一体どれから読めばいいわけ?
このときは本当に困った。
まずは、神話を読んで、魔法の本も手に取ったけど、先生の方が分かりやすかったからあきらめた。
そして、一日は過ぎる。
ちなみに神話は今のところ、物語の進行に関わらない予定です。
(変更する予定もあり)
5.病院へ訪問、そしてとある訪問
「今日は病院に行く予定です」
エリーゼが教えてくれた。
驚くことに、エリーゼが昨日やってきてくれたのだ。
「成人するまでいなくていいの?」と聞いたものの、「孤児院では稼げませんので」と返された。
さらに、「私には敬語を使わなくていいですよ」とのことだ。
エリーゼの立場からすると会おうかもしれないんだけど……
そう意識すると、これが意外と難しかった。
「分かってる」
「それにしても他の聖女様は何をしているのでしょうか? ユミ様がほとんどの仕事を賄っていそうですが」
「仕方ないでしょ」
「仕方なくなんてありません!」
そうなのかな? 私としてはいつものことなんだけど。
あ、けどそれはユウナに関してで、他の聖女には当てはまらないか。……どっちでもいいや。
そんなふうに二人で話していたら、
「今日の昼頃、ユウナ様がこちらに来られるそうです!」
ベノンが報告してきた。
ちなみに、ベノンにエリーゼとの会話を見られたせいで、「私にも敬語は使わないでください」と言われた。
もう慣れちゃったから、こちらも修正するのが大変だ。最近は、どっちも混ざった状態で接しちゃっている。
気を付けなくちゃな。
「昼って……」
「出かけていますね」
「だったら気にしないでください……あ……」
また敬語使っちゃった。
「……」
じいっと見られてしまっているが暫くの間見つめ返していると、諦めてくれたようだ。
もとの話題に戻った。
「本当に、ですか?」
「あまり会いたくないの」
「……分かりました」
そんなわけで、佐藤さんはほっといて出かけることにした。
ちなみに、今日も先生はこない。
これからも、結構少なく、ある程度の頻度と、困ったときに、呼ぶくらいになると思う。
◇◆◇
「ちょっと! なんで誰もいないの!? あたし、訪問を事前に伝えていたよね!?」
昼下がり、神殿の前に一人の少女と筋肉質な護衛のような人物が複数名、いた。
「そのつもりでしたが……。うまく伝達していなかったのかもしれませんね」
「誰に任せたの!?」
「カミラです」
「カミラ、あなたは解雇よ!」
「え? 理由をお聞きしても?」
「分からないの? 自分の胸にでも聞いてみなさい!」
「はぁ……」
カミラは、解雇された。
「まったく、余計な手間を掛けさせて……そうね、あいつらが帰ってくるまで待ちましょう」
「分かりました」
ここで、良識を咎めるものは、いなかった。
◇◆◇
「これはどんな病気ですか?」
「あー、そうねぇ。何だったかしら? 確かお腹の下の方の……なんて名前だったかしら? まあそこらへんにあるところが機能しにくくなっているらしいわ」
お腹の下の方……小腸とか?
機能を復活させるには……
「光——汝の助けとなれ」
白い光がちゃんと生まれてくれた。
2日前、3日前にして分かったけど、どうやら白い光がでると成功らしい。
今のところそこまでひどい症例の人が来ていないからだろうけど、失敗知らずだ。
……こんなんあったら医者の仕事がなくなるわ。
もっと遠慮したほうがいいのかな?
こんな事まで思ってしまった。
実際はちゃんと治癒してもらう人と治癒してもらわない人を症状によって分けられているはずだ。
それと、孤児院の場合は寄付を代金としているけど、こっちだったらちゃんともらう。
そのうちの少しは医者にも行くらしいから、悪い話ではないのだと思う。多分。
「綺麗ねぇ。これは私は助かったのかしら?」
「そうですよ」
「ありがとうねえ、これで息子の顔をまだまだ見れるわ」
「それは良かったですね」
聞いただけの私も嬉しくなってしまった。
◇◆◇
夕方。
神殿に帰るとき、門の前に、佐藤さんがいた。
「やっと来た! 山名さん、来るのが遅いよ!」
……は?
「なんでいるの?」
「約束したじゃん! 今日の昼、遊びに行くって」
「約束はしていないよね、エリーゼ?」
「はい。一方的に訪問するという旨だけ伝えられました」
「だから約束したでしょ!?」
「あのー」
「何、エリーゼ?」
「あの方は、もしかして一方的なものも約束に入れているのでしょうか?」
「その通り」
「…………。行きましょうか?」
「そうですね、あなた達も神殿に入りましょう?」
「「「了解です」」」
「ちょっと!? あたしはあんたをわざわざ待ってやったのに、なんで無視するわけ? 身の程わきまえたら?」
「身の程をわきまえるなら、私とあなたは同じ立場ですね」
「なわけないじゃん! 王室と神殿よ!? あたしの方が高い!」
この世界くらい、名前の呪縛から解放されたら?
皆漢字は知らないんだから。
そう思うも、言えない。
そして、地位に関してだけど……
どうやら、私の地位は結構高くなるらしい。
まだ決まっていないけど、私がちゃんと仕事をしているから、予定より高くなる、とエリーゼに教えてもらった。
エリーゼは今勤務して二日目なのだけど……
なんでそんなことを知っているのか、本当にわからない。
まあ、もしかしたら私の地位は佐藤さんより高くなるかもしれない、ということだ。
「裏口を使いましょう」
「そうですね」
道を戻ることにした。
「やっぱり逃げた。ね、予想通りだったでしょ?」
「そうですね、さすがユウナ様です」
「このままここにいたらあいつは神殿に帰れないのかなぁ?」
「試してみるのも面白そうですが、危険では?」
「何? あたしに口答えするの?」
「いえ、滅相もない。私どもが精一杯守り抜きますのでご安心を」
「ありがとう、みんな大好き!」
どうやら佐藤さんはもう護衛を自分の取り巻きに変えてしまったようだ。
救いようがない。
まだ、ちゃんとした待遇をするならましだと思っていたけど。
佐藤さんは変わらないようだ。
「ただいま……」
やっと神殿に戻れた。
「今日もお疲れ様です。明日は仕事はありませんので」
「スケジュール管理、ありがとう。助かってる」
「こちらこそこんないい職場に引き取っていただきありがとうございます」
「この場所を気に入ってくれてうれしいよ」
「ユミ様のおかげです」
明日もまた自由時間。有効に使わないと。
部屋には、本が置いてあった。
この前休んだときと同じ。今日が休みでないところは違うけど。
何か一冊は読むことにした。
今日は、歴史の本を読むことにした。
流石に長いのは疲れるから短いやつで。
6.休日と襲撃
「ねえねえ、聖女様がいるよ」
「本当ね、だけど、聖女様が狙われてしまうかもしれないから言ってはダメよ」
「どうして?」
「いろんな聖女様が狙われているのは知っている?」
「うん!」
「だから……」
この町の人はみんな親切だ。
多分、治癒してあげた人たち、もしくは話を聞いた人たちは、私を見つけたら手を振ってくれる。
そしてそれを危険だからとやめてくれる母親のなんと多いことか。
この国は、好きになることができそうだ。
「みんな親切ね」
「そりゃあ聖女様ですから。しかもちゃんと働いてくれているというおまけつき」
「他の聖女は働かないの?」
「働いたら狙われる確率が高まるので働いてくれないのですよ」
「そうなのね」
そう説明された気もする。悲しい現実だ。
「だったら私が活躍しないと」
「その通りです。期待しています」
「おすすめの店はある?」
エリーゼに聞いてみる。
「もともと孤児院にいましたからね、あまり詳しくはありません」
「ベノン、あなたのおすすめの店を教えて?」
「そうですね……ラーギッシュ商会の店なんてどうでしょうか」
「ではそこにしましょう」
私たちはベノンに先導されて歩く。
「到着しました」
「……」
とても混んでいた。
列がずっと続いているのだ。
「少々お待ちください」
そう言ってベノンは店の方に向かった。
「あっ……」
帰ってきた。
意外と早かったけど、何をしていたのだろう?
「何をしていたの?」
「一つのテーブルを開けてもらえることになりました」
「……どうやって?」
ベノン、もしかして護衛以外の仕事も有能なのか?
「もちろん交渉して、ですよ。娘さんが現在病気らしいので、それを治す代わりと言いますか……ユミ様には休みの日にまで仕事を思い出させてしまって申し訳ないのですが……。嫌ならお断りしますが、どういたしますか?」
「そうね……」
困っている人がいるのなら、助けてあげたい、
それは人間として当たり前だろう。
だけど、そのためとはいえ自分のために聖女の力を使うのは、気が引ける……
いや、せっかくのチャンスだ。この世界でぐらい少しは自分の持っているものを使ってもいいかもしれない。
「便乗したい」
「本当ですか!?」
「はい」
「ありがとございます!」
食事は、美味しかった。
昔のおいしいやつと同じくらい。
この世界は、文明は低そうだから、これくらいだったらかなりおいしい部類に入るのだろう。
「娘さんの治癒をすればいいの?」
「そうです」
ベノンが店長……商会長さんを呼んできた。
「この度は承っていただき誠にありがとうございます。娘はただいま病気にかかっているのですが、悪化したらと思うとどうも仕事に集中できなくて。いやー、今回はベノンに助けられましたなぁ」
悪い人ではなさそうな印象を受けた。
「娘さんのところまで案内していただけますか?」
「もちろんです」
娘さんの病気は、大したことが無さそうな風邪だった。
愛されているんだろうなぁ。
そんなことを思う。
「光ーー汝の敵を排せ」
この魔法にも、ちゃんと白い光がうまれてくれた。
「はい、これで治りました」
「ありがとうござます……! 本当になんとお礼を言っていいのか……」
「気にしないでください、おかげで私は並ばずに店に入ることができたのですから」
「もう、お父さん、これくらいで心配しすぎだよぅ」
「そうか?」
「うん!」
「じゃあお父さんは仕事を頑張ってくるな」
「うん、頑張ってね」
「では出ましょうか」
「はい」
「……」
エリーゼからは返事が来たが、ベノンからは返事が来ない。
「どうしたの、ベノン?」
「さっきから見られています」
「商会長さんと会っていたからではないの?」
「いえ、害そうという感じのものでして……」
「分かりました。場所はどこだったらいいですか?」
自然と声が小さくなる
「人通りが多い所で」
「では広場に移動しましょう」
「ありがとうございいます」
それはもう少しで広場だという時だった。
私たちが人通りの多い所に向かおうとしているのを感じ取ったのか、襲われた。
全身黒ずくめの男が8名。
対して護衛は6名。
少し、不利な戦いになりそうだ。
そう思ったのもつかの間だった。
形勢は逆転していた。
こちらが勝ちに向かっていた。
私には、何がどうなっているのかが分からない。
いや、分かってはいる。ある程度は予想していた。
だけど、そうとは言えども、数秒のうちに全員1人ずつ倒すとは思ってもなかった。
彼らが私の護衛として配属されたのが私にとって救いだった。
強いのに、組織では理不尽な目にあわされ、失敗するような課題を与えさせられ、みんなからも顧みられない、だけど、力は確かにある。
そんな人たちが、私にあてがわれたのだ。
結果は、彼らの圧勝。こちらには一人のけが人もいない。
「助かったわ。ありがとう」
「こちらこそお守りできて良かったです」
そして、この会話をしながら思った。
この世界の聖女がいいとは言えない組織……面倒くさいし、悪の組織とでもするとして、……悪の組織がいくら聖女を脅そうとしても、護衛の力が強かったらそれで終わりじゃない?
なんで、連れ去られるなんてことになるのだろうか?
「ねえ、昔の聖女のことを知ってそうな人に心当たりはない?」
「そうですね、ベアンクリス伯爵が知っているのではないでしょうか」
「分かった、今度会いたい」
「明後日なら時間があります」
「では明後日、向かいましょう」
7.新たな出会いと質問
「よく来てくださった。私がこの家の主人、リガンド・ベアンクリスだ。初めてお目にかかりますが、活躍は私のもとにも届いています。ユミ様、これからもよしなに頼みます」
よしなに頼む?
今までこの人と関わったことはないのにこれを言われるの?
この世界ならではの表現なのかもしれない。
「今日は過去の聖女様についてのお話を聞きたいという用件で間違いないでしょうか?」
「はい」
「どのようなことが気になっているのでしょうか? 私ももう高齢である由、聖女様と関わっておきたいのですよ」
そういうことか。
だったら私のためになることをしようとしていることにも納得がいく。
「なぜ、聖女が今のように狙われる状況になったのですか?」
「……ほう、興味深いことをおっしゃる。初めの事件は1500年……いまから200年も昔のことでして、聖女様が一人、盗まれていきました。犯行動機は分かっておりませんが、彼らの手段は実に卑劣でして聖女様の脅しにすぐさま取り掛かったのですよ」
「護衛が強ければ聖女まで危害に遭うことはないのでは?」
「それがあのころから聖女様はごうまんでして、護衛がどうなろうとどうでもいい。護衛が怪我しても治癒さえしなかったそうです」
それは、ひどいなあ。
「それで、護衛が戦うのをただ見ていたと」
「そうです。そればかりではなく、襲撃者と面白い人物だと考えたのでしょうか、近づいていくんですよね」
「それは……捕まりますね」
「そうでしょう?」
そんなに愚かだったのか。
「そして聖女様は脅され、自分が怪我したくないがためにあっけなく投降。そして味を占めた他の組織も同じようなことをやるようになったというわけです」
「聖女に危機意識は生まれなかったのですか?」
「それが……このことは神殿にとっては汚点ですからね。発表されませんでした」
つまり、それが広がったのは悪の組織同士でのこと、ということか。
「そして、かなりが連れ去られ、やっと本格的に動き出したんですね」
「愚かですね」
そのために私がこの世界に連れ去られたの?
迷惑だ。
「その後の被害はどうなったのですか?」
「相変わらずですよ。聖女たちが甘やかされて育っているうちは消えることはないでしょうね」
「では、聖女はなぜ自分に治癒を使えないのか知っていますか?」
「はい」
「……え?」
知っているの?
私から聞いたとはいえ、驚かざるを得ない。
「私の家に文献がありましてね」
「え?」
なんであるの?
国家機密案件くらいじゃない?
「先祖様がちゃんと記録しておいてくれたんでしょうね。王家にも同じようなものはあると思いますよ」
「そうなんですね。それで、理由は?」
あんまり機密ではないのかな?
……ん? 記録?
つまり、何かきっかけがあって使えなくなったってこと?
「あれはそう、被害が出始めたころのことです」
彼は語る。
「あの頃は聖女様も自分自身に治癒が使え、安全に過ごしていたのですが、自分にも治癒が使えるがために、彼女らはひどい扱いをされていました。
いまでこそ聖女の扱いはけがをさせられないものになっていますが、あのころは聖女にけがをさせられることなんてよくあったそうです。そして、それをなおされ、またひどい扱いを受ける。その繰り返しでした」
酷い……
「それに心を痛めた偉大な聖女様がおりまして、名前をミア様ともうします。
彼女は過去の文献を調べ、せめてもの解決策として、聖女には治癒を使えないようにさせようということになりました。
彼女の決断のおかげで、聖女様のとらわれ先での扱いはいいものにはなりましたが、被害は消えませんでした」
「あのー」
「何ですか?」
「私は聖女が連れ去られているのは自身に治癒が効かないからだと聞いたのですが……」
「一般にはそうなっています」
「どうしてですか?」
「こちらに非があると知られたくないからですよ、特に神殿関係者は」
権力争いかな?
「ちなみにその後、ミア様はどうなったのですか?」
「死にました」
やっぱり……
すごい人だなぁ
「一般的には死因はどうなっているのですか?」
「病気ということにしました。そしてそれは自身に治癒が効かないから、と」
都合よく作られている。
ただ、かなり効果的な方法だ。
「どうやったらなくなると思いますか?」
「分かっていたらもう実践しています」
それはそうだ。
「今日はお忙しい所ありがとうございました」
面白い話も聞けたし、ベアンクリス伯には感謝しないと。
◇◆◇
前々から頼んでいた、この前襲撃してきた8人への面会が許可された。
「こんにちは」
「聖女サマともあろう人が一体何の用だ?」
彼らは、牢の中にいた。
「私を襲おうとした理由を教えてください」
「そんなんきまってるだろ。あんたを捕えて自分たちのいい様に使うためだよ」
「私を使おうとしたわけを教えてください」
「その方が有利になるからなぁ」
ここまでは事前に聞いていた通り。
「あなたたちはどんな組織にいるのですか?」
「……」
そして、ここも聞いていた通り。
彼らは、自分の組織のことになると口をつぐむ。
それは、拷問しても同じだったらしい。
「では、あなたの望むものを教えてください」
「ここからの脱出」
「そうですか……」
救いようがない。
「では、最後に一つだけ。
あなたたちの目的は知りませんが、私は召喚された身です。この世界にそこまで愛着はありません。
その点では、お役に立てるかもしれませんよ?
何かありましたらミアを呼べ、とでも仰ってくださいね。もちろん今でも構いません」
彼らは何も言わなかった。
残念だ。
神殿に帰って、私はそう思った。
最近は私の活躍もあってか、多少は仕事が減っている。
そのおかげであのような時間もとることは出来たわけだが……
今はまだ日本での2時くらい。
今日の残りは、自由時間だ。
「山名さ~ん!」
……気のせいだろう。
「山名さ~ん!」
気のせいの……はずだ……
窓を除くと、佐藤さんがいた。
「どういたしますか? ユウナ様がいらしているようですが……」
「気にしないでいいわ」
「ですが、彼女は自分の気に食わない行動をするものに……って今もそうですね」
その通り。私はもう佐藤さんからして気に食わない行動を取っているから関係ないんだよね。
だけど。
最近は余裕が出てきたお陰で別にいいんじゃないか、と思う自分もいる。
聖女の活動が私に自信でも与えたのだろうか?
「いいわ。呼んで」
結局、どうなるのか気になったので、呼んでもらうことにした。
「かしこまりました」
「いらっしゃい」
「山名さん? その口調、一体どうしたの?」
「どうしたも何も……言いやすい時に言いやすい口調を使っているだけだよ?」
「それでいらっしゃい、なの? ウケる〜」
笑われた。どこがおかしいのか全くわからない。
「用事はそれだけ?」
何処からか、佐藤さんとの会話を変に引き伸ばさない勇気が出てきた。
「うん、お話したくて来ただけだから」
「じゃあ帰って」
「なんで?」
「私はあなたと違って仕事で忙しいの」
今日は暇だけど。
「あたしだってちゃんとしているよ!」
「例えば?」
「国王とか王妃様とお話したり……」
「もしかしてあなたそれを仕事だと思っているの?」
「もっちろん!」
あぁぁ…残念な人だ。
「じゃあ私の仕事を教えようか?」
「え…別に?」
なんだそりゃ。それぐらいの好意受け取れよ。好意ではなくて悪意だけど。
「そう、じゃあ帰って。私はあなたほど暇じゃないから」
「あたしも暇じゃないよ。これも他の聖女との交流という重大な任務の一環で……」
「そう、じゃあ他の聖女の方に会いに行ってらっしゃい。そしてこっちには来ないでね。仕事の邪魔だから」
「邪魔? あんた今あたしのことなんつった?」
「聞こえているじゃん。邪魔って言ったんだよ」
「はぁ?」
殴りかかられた。
「障壁」
ちゃんと勉強していれば聖属性以外の魔法も習得できるのに勿体ない。
さっきの攻撃も魔法とかを使っていれば、もっと効く攻撃になったんじゃないのかな?
「なっ!?」
「喋る暇があったら魔法の習得に努めたら? じゃないと誘拐されるよ?」
「誘拐? そんなのされるわけないじゃん、あたしは聖女だもん。それに、あんたと違って心強い騎士がいるもん!」
「ユウナ様……」
周りで騎士たちが感動している。
けどもしかして、佐藤さんはこの世界の状況を知らなかったりするのかな?
まさかそんなことはないと思うけど。
それに、心強い騎士? 取り巻きじゃないの?
ベノンたちのほうが絶対に強いと思う。
「じゃあね」
「聖女様、この者のところにはあまり寄らないようにしましょう。聖女様が不快に思わされるのを見るこちらの身にもなってください」
お、その護衛、結構いいこと言うね。
そっか、始めから護衛の方を不快にさせておけば何もなかったかもしれないな。
今度からはそうしよう……と言っても護衛の人にできるいたずらなんて思いつかないけど。
「大丈夫、あの人はいい役職に就いた私を妬んでいるだけだから」
馬鹿なことが聞こえた。
佐藤さんは分かっているのかな?
こっちの方が絶対仕事は楽しいのに。
ただ、意外なことに今回は私の完全勝利で終わった。
今までだったら黙って聞き流していた言葉。それにちゃんと反論して攻撃を加えるだけでいなんて……
あっちのときもすれば良かったと思わなくはないが、多分、日本だったら今まで通りだった。
あの気に食わない王様も少しは良いことしているじゃん。
何だか、鼻歌でも歌いたい気分だ。
8.枢機卿サムエル
「聖女様、面会者がおりますがどういたしますか?」
「誰?」
「神官のサムエルです」
「えーっと……何をした人?」
「聖女様の召喚を行った人物です」
つまり私をこの世界に連れてきた人か。
まあそこまであっちの世界に未練はないけど。
「会ってみたい」
「了解です」
「本日は面会を認めてくださり誠にありがとうございます」
サムエルがやってきた。
あの後、サムエルについていろいろ聞いてみたんだけど……
やはり私たちの召喚を任されただけあって、枢機卿というまあまあ……かなり? の立場にいた。
まず、神殿には司祭という一番高い立場の人がいる。
そしてその下に十人、枢機卿がいるのだ。
だから枢機卿は神殿のトップイレブンだ。
そして、次期司祭だと噂されるほどの人物らしい。実質トップツーでもいいと思う。考えるのが面倒くさくなってきた。
私たちの召喚の際は、わざわざ王国まで来てくれ、今も王国の様子を見るため、ここに留まっている。
それにしても神殿はなんでこんな国で聖女召喚を行うことを認めたんだろう?
分からない。
だが、不自然な気がする。
「いえ、こちらこそわざわざ枢機卿様にご足労させてしまってすみません」
敬語の使い方が分からない。
ご足労させてしまう……っておかしいよね? おかしkないといいな。
「そんな硬くならなくて構いません」
「ですがあなたは枢機卿なのでしょう? 10人しかいない」
「ですが聖女様の魔力ははるかに多く、いづれは我々をも超える権力の持ち主となるでしょう」
「まさか」
いくら召喚されたからと言って、そんなに実力があるわけがない。
「たしかに魔力の質は高いかもしれませんが、魔力量は少ないのでそんなにお役には立てないかと……」
「魔力量がネックなのですか? でしたら増やす方法をお教えできますよ」
「え?」
それは……知りたい……かも。
「あ、その前に軽く自己紹介を。ある程度は知っておられるようですが、枢機卿のサムエルと申します。しばらく召喚の所為で体調不良に陥ってしまい、ご挨拶が遅れました。申し訳ありません」
優雅に敬語を使っている。
羨ましい。
「二人も召喚させていただいたことでいろんな方に注目させてもらいましてね。こちらとしては少し気恥ずかしいのですが……」
まさかの無自覚な天才ときた。
いや、ただの謙遜なのか?
「では、私からも自己紹介を。聖女であるユミです。闇以外の魔法の行使ができます。」
他に何を言えばいいのかな?
「聞き及んでおります。それで、魔力を増やす方法でしたよね?」
「はい」
「神官の間では結構広がっているのですが……一度魔石に自分の魔力を注ぎ込むと、魔力が回復する分と、魔石から少しずつ戻ってくる分が混ざって、倍近くになるらしいですよ。
最も、不良品の魔石からじゃないと漏れ出さなので不良品を使わないといけないのですが……」
ん? 神官の間では広まっているの?
私、やっぱ聖女としていろいろ活躍しているけど、まだまだ認められずにいるのかな。
「それは、魔石に魔力を入れた後、吸い出すのではできないのですか?」
「あまり効率は良くないようです。じわじわ出てくるのがいいんでしょうな、きっと。
あ、そう。その方法で魔力を増やしていってもさすがに数十回目くらいになるとあまりうまくいかなくなるそうですよ。体に合わない多くの魔力を手に入れるからでしょうな」
「ちなみに魔石から魔力が戻るまでの時間は……?」
「量によって変わりますからね。大きい量を一気に入れると戻ってくるまでに数十年かかったりしますし、小さいの魔石をたくさん用意しても一気に帰ってきたらあまり量は増えません。
こればかりは人それぞれなので自分でいろいろ試してみるといいかもしれませんよ」
すごいな。私の魔力は何倍くらいまで膨れるんだろう?
ただ、話を聞くに、これは長期戦になりそうな気配がする。
「ありがとうございます。話をそらしてしまいましたが、もともとの要件は何だったのでしょうか?」
「いえ、僕が召喚した聖女様がどれくらいの方なのかを見ようと思ったまでですよ」
「もしかしてユウナにも会ったのですか?」
「はい」
その顔は、笑っていた。何かを企んでいるような笑顔。
背中に怖気が走った。
サムエルには、少し気をつけてみよう。
ただ、魔力量を増やす方法は使わずにはいられない。
神官の間で広まっているという話だし、そこまで眉唾物ではないだろう。
次の日。
エリーゼの的確な指示のお陰で、色々なサイズの不良品の魔石が揃った。
私一人のためにこんなに集めさせてしまったことが申し訳ない。
それを無駄にしないためにも、ちゃんと魔力を増やそう。
まず、一番小さい不良品の魔石に魔力を流し込んでみる。
が、あまり魔力が減った気がしない。
十分が経った。
これは感覚だけど、もうその分の魔力は回復した気がする。
何だか物足りなく感じる。
もっと大きい魔石を使ったほうがいいかもしれない。
次の大きさの魔石に流してみる。
これもあっという間満タンになったが、あまり減った気がしない。
思い切ってもっと大きいものを使ってみることにした。
こぶし大のサイズだ。
これにも入れた。だけど、あんまり分からなかった。
次はこぶし大から二回り大きいサイズに入れてみた。
程よい喪失感があった。
これくらいがちょうどいいのかもしれない。
そして、エリーゼにそのサイズの不良品の魔石を探してもらった。
一個、魔力を注いだ魔石が空になるたびに次の魔石に魔力を注ぐ。
こうして、順調に魔力は増えていった……かはまだ実感が持てない。
◇◆◇
「サムエル様がお見えになりましたがどうなさいますか?」
「通して」
「了解しました」
エリーゼは本当によく働いてくれている。
「それで、本日はどういった用件で?」
「一人、聖女様の居場所が分かったかもしれません」
「本当ですか!?」
それはおめでたいことだ。
だけどそれと同時にこの世界のことが心配になる。
「その聖女様はいつ頃さらわれた聖女様なのでしょうか?」
「分かりません。ただいま調査中です」
この世界は腐っているのだろうか?
国をも超える権力を持つ神殿が何年もかかってやっと聖女様を見つけるだと?
こんな世界で、聖女として……
あれ? 今私何を考えたっけ?
この世界で……
あとで思い出そう。
何かが引っ掛かった気がする。
「それで、何の用でしょうか?」
「聖女様奪還のお手伝いをしてもらいたくお願いに参りました」
「断ることは?」
「あまり好ましく思われないでしょうね」
別に好ましく思われる思われないはどうでもいいんだけど……
「どの道断らせてくれないんでしょう? 行きますから安心してください」
ただ、サムエルのお願いでいく、というのはいささか嫌な予感がしなくもないな。
気を付けるに越したことはないだろう。
「ありがとうございます。この奪還が上手くいけばそれ相応の報酬もありますので。結果を楽しみにしています。
明日の会議への参加はできますか?」
「エリーゼ、明日は?」
「孤児院に行く予定でした」
「会議はいつでしょうか?」
「昼からです」
「だったら構いません。エリーゼもいい?」
「はい」
エリーゼとしても少しは滞在時間は短くなるものの、それは早く行けばいいだけだ。
ちょっと不便を強いることになるけど、基本的には大丈夫だと思う。
「では、そういうことで。僕は帰ります」
「どうぞ」
9.聖女様の救出
次の日。
「もうすぐ行く?」
「まだです」
数分後。
「もうすぐ?」
「もう少し」
数分後。
「もうすぐ行く?」
「そうですね。その方がいいでしょう」
エリーゼは、孤児たちとたくさん遊べて満足したようで、ようやく認めてくれた。
私の都合で時間を減らしてしまったから仕方ないよね。
「では、聖女奪還の会議を行う。まずは発見者のサムエル殿から説明してもらう」
「はい、今回聖女が見つかった場所は黒林の真ん中近くにある池のほとりです。目立たないくらいの大きさの家があり、今までは魔法で隠していたようです。
しかし、偶然商人が通った時に家が見えたそうで、それにより発見に至りました。
調査の結果、聖女様が1名以上おられることが判明しました。それはこの国の騎士団にも確認済みです」
「というわけだ。何か質問はあるか?」
私はそっと手を挙げた。
「聖女ユミ、何だ?」
「どうやって聖女様がいることが分かったのですか?」
「聖属性の感知したのだ。あの家は一日に一回ほど、隠ぺいの魔法が消えることがある。そのときに感知した結果、聖属性の反応が二つあった」
「理解しました。ありがとうございます」
「他に質問はあるか?」
みんな首を振った。
「では、作戦会議に移る。
今回は聖女様がいらっしゃる故、それを使った盗賊どもが使っている作戦がいいと思うがどう思う?」
基本的にみんな頷いている。
「あのー、それでは盗賊どもと同じなので勝つには至らないのでは?」
勇敢な人が声を発した。
「確かにそうだな。だが、今まで我々は聖女様なしで対等に渡り合ってきたのだ。聖女様がいるのなら負けるわけがないと思わないか?」
「それは……そうかも」
ガクリ。
なんでそこで納得するのかなぁ。
「やめたほうがいいと思いますけどね」
呟いてみたが、気付かれなかった。
私は私ができることでもやっておこう。
◇◆◇
聖女奪還の日がやってきた。
「行くぞー!」
「「おう!」」
「突撃だぁ!」
司令官のミトメンさんが声を上げた。
それにつられ、みんなも突撃し始める。
今回は、魔法兵は連れてこられていない。魔法が使われると聖女様も巻きこむ恐れがあるかららしい。
聖女様がいるところを避けて打てばいいのに。
作戦の上では、怪我をしたらすぐ私の下へ連れて来る、というような事だったと思うんだけど。
……まだ、誰もここに来ない。
まさかこちらが優勢なわけは無いから、多分負けているんだろうな。それも重傷者を連れてこれないくらいに。
それとも他に何かあったのか。
一応私のそばにはいつもの護衛のみんながいる。
だから、ここまで来られても問題は無いんだけど。
「ベノン、放ってもいい?」
あれから、私は自軍が壊滅した時に備え、大規模魔法を練習していた。
「いいですよ。多分負けていますから」
「じゃあ……土ーー崩壊せよ」
土属性。だから、生物には効かない。だけど、それ以外のものを壊すことが出来る。
聖女がいるところは避けて壊したんだけど……
一箇所、入り口近くにポッカリとした空間が広がっていた。
「あれは……?」
「もしかしたら転移魔法が使用されているかもしれません。お気を付け下さい」
転移魔法か……
あり得るなぁ。
「とりあえず聖女を救出しましょう」
「そうですね」
「念のため護衛もお願いします」
「もちろんです」
「風ーー生と聖を感知せよ」
魔法を使って聖女がいる方向へと歩き出す。
私の魔法は万能型だけど、他の聖女は基本的に、聖属性以外は使いにくかったりする。
だから、ベノンたち護衛に、珍しいとよく言われる。
聖女のところについた。
後ろには、20人ほどの屍ができた。
……少なくてよかった。
生存反応は他に見られなかったから、他の人達は大方瓦礫に埋もれたり、瓦礫が刺さったりでもして死んでいるのだろう。
「ベノン!」
「は!」
まだ全員死んだわけではない。
聖女がいるあたりは壊していないから、そこにいる人はまだ生きている。
「聖ーー汝に神の祝福を」
これも聖魔法。効果は身体強化。そしてこれをみんなにかけた。
まだみんなに死なれるわけには行かないから。
ただ、もともとの強さもあってか、勝った。
「聖女様、 大丈夫ですか?」
駈け寄ろうとしたベノンが……消えた。
試しにそこらにある瓦礫を投げてみた。
そしたらそれも消えた。
……ここにも転移魔法がかかっている。
そのことは、明らかだった。
「とりあえず、救出しましょうか」
「そうですね。隊長ならきっと大丈夫でしょう」
副隊長のカンゲが同意してくれた。
「急いで終わらせて、はやく助けに行きましょう……土ーー崩壊せよ」
壁の一部を壊した。
まずはカンゲがいく……が、消えなかった。
どうやらここは転移魔法がかかっていないようだ。
「聖女様、お迎えに上がりました。城に帰りましょう」
「遅い!」
「……」
騒がしい聖女に返事をしない聖女。
なんとも対極にいそうな二人が同じ場所にいる。
「二人?」
そう、聖女様は二人いた。
よくよく思い出してみると、聖女様は1人以上いると言われていたかもしれない。
「ベノンのことは心配だけど……ひとまず聖女様を連れて帰りましょう」
「そうですね」
「スピードはできるだけ早く」
「了解しました 」
そうして、私たちは二人の聖女様を連れて、慌ただしく帰還した。
10.護衛の行方
「ただ今戻りました」
「聖女ユミ、よく無事に帰ってきましたね」
神殿に戻ると、サムエルに出迎えられた。
サムエルは、私と一緒にいる二人の聖女を見つけたようだ。
「……そちらの二人がこの度救出された聖女様ですか?」
サムエルは一瞬驚いた顔をした。
彼にとっても聖女が二人なのは驚きらしい。
「はい。他の者はほとんどが転移魔法に巻き込まれ、残るは私のところに残っていた護衛たちだけになってしまったのですが、とりあえずは聖女の救出を優先しようと思い、救出し、急いでこのように戻ってきたというわけです」
「それはありがとうございました。この二人の聖女様は僕が責任もって預かります」
……大丈夫かな?
「時々、様子を見に行ってもよろしいですか?」
「ええ、構いません」
これで大丈夫かな?
それにしても、意識しているわけでもないのに私はサムエルを警戒しているようだ。
たしかに佐藤さんと会ったと言っていた時に笑っていたけど、それだけでここまで恐れることになるのだろうか? 自分が分からない。
「カンゲ、いつ行く?」
「できれば今すぐにでも」
「それは無理ね。あなたまだ疲れているでしょう? せめて明日の朝ですね」
あ、また敬語使っちゃった……
「お心遣い、感謝します。では、どうやって救出するか考えましょう」
「そうね」
「まず、隊長たちの居場所が分からないといけないのですが……」
「それが分からないんだよね」
「また転移魔法に巻き込まれるというのは?」
「巻き込まれた後でどうにかなるのだったらもうベノン達が何とかしていると思う」
「魔法兵を巻き込めば?」
「巻き込まれた人に魔法兵はいないわけですから可能性はありそう……行ってくれる人がいるのなら、だけど」
「一応頼んでみます」
「ありがとう、カンゲ。助かるわ」
◇◆◇
「サムエル様から報告がありまして、神殿に行ってもいいという魔法兵はいないそうです。
ですが、王宮からは一人行ってもいいという人がいたという連絡がありました。連れてきましたが……」
「会わせて」
一人の男が通されてきた。
「聖女ユミ様、カミラと申します」
礼儀正しそうな人だった。
「初めまして。カミラ、あなたがこの任務についていいと考えた理由を教えて頂戴」
「はい。実は自分、少し前までユウナ様の護衛についていたんですが、ある日突然解雇されてしまい……ユウナ様に解雇されたものだから信用ならん、と他の仕事にも余りつけさせてもらえず……。
そんなときこの仕事を見つけてこれなら自分でも役に立てるのではないかとおもいました」
佐藤さん……こんな優秀そうな人を解雇しているんだ。
「帰ってこれないかもしれないけどいいの?」
「はい」
「あと、あなたはユウナの護衛にいたのよね? 魔法兵だったの?」
「自分だけ魔法兵でした。国王陛下がユウナ様を心配なさって自分を引き抜いたようです」
私のところに魔法兵はいないのだけど……
「ねえ、もしこの任務から無事戻ってきたら、私の護衛に入る気はない?」
「いいのですか!?」
「ええ、もちろん。この任務からあなたが帰ってくるのを楽しみにしているわ」
「ありがとうございます。無事、この仕事を成し遂げてみます!」
「頼りにしているわ」
誰もいなかったら私が行こうと考えていたけど、今はカミラを信じることにしよう。
◇◆◇
「ここに転移魔法がかかっているのですか?」
カミラがカンゲに尋ねる。
「そうです」
ちなみに、カンゲは転移魔法がかかっている場所を教えていない。
分かりやすい目印(ぽっかりとした空間)があるとはいえ、カミラが自分で当てた。
「この中に入ればいいのですね」
「はい。脱走路を開くのをよろしく頼みます」
「かしこまりました」
「ひとまず安全になれば、我々に位置を教えるのもお忘れなきよう」
「もちろんです。では、行ってまいります」
カミラは、転移魔法がかかっているところに足を踏み出した……とたんに何かギザギザした硬いものにふれた。
「おわっ!」
声が聞こえた。
よく見ると、たくさんの騎士がいる。
「自分はカミラです。皆さんの中には魔法兵がいないそうなので何かお役に立てないかと思ってきました。現状を説明してくれますか?」
「分かった。聞いていることもあるだろうが……」
「構いません」
「では説明しよう」
ここに彼らが来た過程については目新しいことはなかった。
「ここに落ちた時さ、前に落ちた人がいたから俺はその上にのっかったんだよね。だから痛くなくてラッキーと思ってたらさ、上からがれきが降ってくるんだよ。あれは痛かった」
「それは大変でしたね」
ただ、ここについての情報は知らなかった。
「ちゃんとご飯は少しとはいえくれますし、このあと奴隷として売られるとかそんな感じでしょうね」
「見張りは?」
「ずっとはいません」
「ドアは?」
「かなりの数の鍵を持っていましたし……」
「少し待って下さい」
カミラは魔力を広げた。
鍵は……3つほどのようだ。
転移魔法が使えるかもと思ったが、阻止されていた。阻害の魔法がかかっていた。
だけど、解除出来るかもしれない。
そこまで新しいものではない。多分、行ける。
……。
結局、やらないことにした。
今は、どのみち転移魔法は現在地がわからないがために使えない。
もし、解除したら、無駄に敵の警戒心を上げるだけだ。やる意味はないだろう。
「なんだ? 新入りか?」
「そうです」
おっさんが話しかけに来た。
わざわざこれだけのためにあの三つの鍵を開けるとは……
存外ここの仕事も大変だったりするかもしれない。
おっさんは再び外に戻っていった。
魔力を部屋の外に広げる。
ちょうど、鍵を閉めているところだった。
多分、解錠の方法は分かったと思う。
だからと言ってそれが今すぐ役立つわけではないけど。
「次はいつ見張りが来る?」
「一時間後ぐらいです」
「倒したことは?」
「まだないです」
「やってみるか」
「そうですね……痛っ」
上から石が降ってきた。
『はじめからこの石を使っておけばよかった。カミラ、余計な苦労をさせてしまってごめんなさい。ユミより』
そして、それに付いていた紙にはそんなことが書いてあった。
別に迷惑はしていない。おかげで次の就職先が見つかったんだから。
石を見ると、魔石だった。
きっとここにはユミ様の魔力が込められているんだろうな。
「いったん保留にしましょう。きっとユミ様が来ますから」
「本当か!?」
一人、大げさに驚く男がいた。
この男がもしかしたらユミ様の護衛の隊長のベノンかもしれない。
格子窓の隙間から魔石を念のため、部屋の外に置いておくことにした。
退屈な時間を過ごした。
◇◆◇
今はカミラを信じることにした。
だけど、別の案を思いついてしまった。
……カミラが出て行って1時間ほどたったころに。
思いついてしまったものだから、居ても立っても居られない。
「ねえ、カンゲ。魔石を転移魔法にかけたらどうなると思う?」
「その先に飛んでいきますね」
「そして?」
「すみません。魔法はあまり勉強してきませんでした」
「そう、それなら仕方ないか。私の魔力を込めた魔石だったらね、そこから少しずつ魔力が出てくるから場所が分かるかもしれないの!」
結構いいアイディアだと思うんだけど。
「それは……試してみる価値はあるかもしれませんね」
「でしょう? だから、この魔石を持って、行ってきてくれない?」
「かしこまりました」
「あ、念のためこれも持って行っておいて。持っておくだけでいいから」
「はぁ……? 了解です」
うん、理解していない顔だ。仕方ないけど。
12.聖女ミアの帰還
あぁ~づがれだぁ~。
王都に帰るのに5日かかった。
本当は私はさっさと帰ってもよかったんだけど。
なんか見捨てられなくて、つい同行しちゃった。
こういう性格だから損していることは十分に分かっている。
だって、実際損しちゃったから。
なんかさ、周りは全部護衛の皆さんとかで、男の人なのに、私だけ女の子。
私の護衛とカミラはいるんだけど、それでもよくカミラは喋りに行っている。
こうなって初めて、護衛が彼らで良かったと思った。実力以外のことで。
ベノン達はベノンたちだけで何かを話している。
それを見ていてしばらくして気づいたのだ。そう言えば、彼らは嫌われ者だった、と。
道中は特に問題はなく。私は乗馬の練習を兼ねてできるだけ一人で乗りながら移動している。今までは一緒に乗せてもらうことになっていたし、それも申し訳なかったから。
こんなふうに少しでも動いていくことで、申し訳なさが減っていっているのが嬉しい。
けれど、疲れた。
神殿に帰ったらしばらくはゆっくりしたいなぁ。
あ、けどこの奪還騒ぎで飛ばしていたけど、私の地位の話もあるなぁ。……忙しそう。
「「「聖女様! 聖女様!」」」
なんだろう? と思えば私達が門に入るのを国民が出迎えていてくれていた。
現実逃避していいかな?
のびのびしようと考えていたところにこの騒ぎだよ? 呪われているのかも。
「一体何事?」
自分の勘違いかもしれないという可能性を信じたくて、念の為にベノンに聞いてみる。
「さあ……? 我々にも完全には分かりかねます……が、みなさんがユミ様を楽しみにしていたことだけは確実かと」
「だからどうしてそうなるの?」
「聖女を救い、騎士を救いましたからね」
なんだそりゃ。はた迷惑な。
「みんな嬉しいんですよ。聖女は希望ですからね」
「……そっかぁ」
完全に納得したわけではないが、そういうことにしておこう。
そして、この歓待は、神殿に着くまで続いた。
◇◆◇
「よくぞ帰られました。他の騎士の方もいらっしゃるようで……本当にありがとうございます」
いつものことながら、サムエルに迎えられた。サムエルって枢機卿だよね? ……もういいや。
「ところで、早速なのですが、明日には国王陛下に報告をすることは出来ませんか?」
「構いませんが……」
「では早速明日、お願いします」
都合が悪いとかそういうわけではないけど、そんな簡単に陛下に会うことってできるものなの?
それに、全然ゆっくりできなさそう。
「忙しくなりますね」
「そうですね」
自室でエリーゼと二人語り合う。
「報告……なにをすればいいのかな?
……あ、ごめんなさい。聞かれても分からないわよね。とりあえずあるがままを報告するのがいいと思うんだけど……」
「私もそんな感じでいいと思います。ですが、事前に内容を整理していた方がいいかもしれません」
「確かにそうね」
◇◆◇
次の日になった。
あれからは護衛のみんなにも聞いたりして、報告を一通りまとめた。
みんなにも協力をお願いしたおかげか、すぐに終わった。
それは、ちょっと簡易的とは言え、報告書的なものだった。
いっそ、これを提出したらどうなるんだろう?
案外悪くないアイデアな気がする。
「陛下のもとへお連れします」
今回もまたサムエルがやってきた。
「サムエル様」
「何ですか?」
「あなたは枢機卿なのでしょう? もっと仕事とか無いの?」
「今は聖女様に関わることも仕事ですよ?」
「そう」
なかなか心を開いてくれない。
その後、陛下に謁見した。
報告はスムーズにできた……と思う。
特に文句は言われなかった。
「いやー、陛下は完全にユウナ様に騙されていますね」
昨日、無事に私の護衛になってくれたカミラが言った。
「あなたは私を信じてくれるんですね」
「もちろんですよ。だからこそ、あの偏見に満ちた陛下の顔を見ると悲しくなりますね。ユウナ様よりユミ様の方が聖女らしいのに」
「ありがとう」
やっぱなぁ。あまり陛下から好感のある風に見られていないよね。
「お疲れさまでした」
サムエルがやってきた。
「疲れましたよ」
「いやーそれにしても紙でまとめたものを提出した上に説明までしたんですね。その行動力は真似できませんなぁ」
「エリーゼのおかげです」
「ちゃんと政治の方まで造詣が深いのは非常に喜ばしいことですよ。このような聖女様がきてくださって嬉しいです」
「はぁ……」
なんか嘘くさいんだよなぁ。
だけど、昔感じた不気味さは今はない。あれはいったい何だったのか……
「ところで、ミア様に地位に関してですが……」
「あ、はい。どうなりましたか?」
急に話が重要なものに切り替わる。
「この度の活躍も踏まえまして、大教区長レベルの聖女の職についてもらうということになりました。構いませんか?」
「大教区長……ですか?」
何それ?
「枢機卿の1個下の地位ですね。ちなみに今いる聖女としては最高の地位です」
うん、何ていうんだろう。目眩がするね。
「はぁ……ありがとうございます?」
「役職名は大聖女となっています。力に関しては、王族の外戚、くらいの地位となります」
佐藤察よりは高そう……だな。
これで妬みとかそういう言葉を佐藤さんが言うとあっちが妬んでることになる。それは、少しせいせいするかも。
「わかりました。わざわざありがとうございました。」
「どういたしまして。特に授与式とかはありません。ただ、このバッジはつけてもらいます。これが地位を表す証明書となるので、なくさないようにしてください」
「ところでどうですか? こんど、教皇様にお会いしません?」
「いえ、遠慮します」
「そうですか……それでは、他の聖女様を一度連れてきてもいいでしょうか?」
それくらいだったら。
「構いません」
「ではそのようにします」
「それにしても……ちゃんと聖女様は今もいるんですね」
「もちろんですよ。でなければこの世界は人口がかなり減っていたでしょう。感染症をすぐさま抑えられたりできるのも、優秀な妻女様のおかげなんですよ」
「そうなんですね」
楽しみだ。
聖女様がくるまでには20日ほどかかるそう。
準備に移動も丁寧にしないといけない。
私のこの前の移動の方が例外だそうだ。
例外……例外ね。やっぱ私差別されているんじゃないのかなぁ。
そう考えるのも仕方ないと思う。
13.二人の聖女
「こんにちは~」
「こんにちは!」
「……こんにちは」
聖女の二人に会いに行ってみた。
結構久しぶりの訪問だ。
「ヒマリさん、ミレアさん、ひさしぶりね」
「馴れ馴れしくあたしの名を呼ばないでくれる? そう思わない、ミレア?」
「……」
「私は異世界から召喚された聖女ですし、立場もあなたより上ですよ? 呼び捨てでもお咎めはないんでしょうけど一応『さん』つけているんですが……。
なぜ文句を言われなければならないのでしょうか?」
「あたしだって力の強い聖女だよ」
「……」
ミレアは黙っている。
「ですが、誘拐されたのですよね?」
「あれは……事故さ!」
「そうですか。ですが事故でも誘拐されてしまった聖女とそれを助けた聖女、みんなはどちらの方が上だと考えるでしょうね?」
「……」
ヒマリはこんな風に突っかかってくるけど、ちゃんと常識はある。
今はまだ私のことを表面上は認められないっていう感じ。
ツンデレなんじゃないかな、って思っている。
ただ、それを言ったら怒られそうだからやめている。
「どちらが先に|拐《かどわ》かされたんでしたっけ?」
「あたしだよ」
「事故って何があったんですか?」
「護衛が買収されていたんだよ」
へえ、それを事故、と言ってしまえるんだ。ちょっとかっこいい。
けど……やはりこの問題は結構大きいんだな。
そのことが改めて強く感じられる。
「そうですか。それでのこのこと捕まったんですね。その後は?」
「あの屋敷に連れていかれたのさ」
こんな風に細かい話を聞くのは初めてだ。
今まではベノンたちの救出に忙しかったから。サムエルからなにもされていないということだけを確認していた、
「何をさせられたんですか?」
「ずっと聖魔法ばっかり使わされたいたなぁ」
「彼らが何をしていたのかはしっているんですか?」
「いや、知らねえな」
「そうですか……。ミレアさんは?」
「……政治」
「政治に関しての行動をしていたと?」
「……」こくり
頷かれた。
それにしてもミレアは可愛い。聖女らしいふわふわした感じがある。
今のこくり、もめっちゃ可愛かった。
写真があればいいのに。
「え、嘘!? そんなの教えてくれた?」
「……」パタパタ
手を振られた。違うらしい。
「じゃあどうしてあんたは気づいたの!?」
「聞こえた」
「ミレアさんは耳がいいの?」
「……」こくり
「そっか、どんな話をしていたか教えてくれる? 別に今じゃなくても今度来るときに内容を書いた紙をくれる、とかでもいいけれど」
「そうする」
「ありがとう」
あんまり喋りたくなさそうなミレアに合せた方法にしたけど、受け入れてくれたようでよかった。
「そういえば今度、聖女の方がこっちに来るらしいよ」
「そうなの!?」
「……」
「本当よ。私と……ユウナに会いに来るらしい」
「ユウナ……様……ってあなたと一緒に召喚されて、今王宮で働いている人よね?」
「そうよ」
「一度会ってみたいなぁ」
「サムエル様に言ってみたら? サムエル様ならきっと合わせてくれるわ」
「うん、聞いてみる!」
ヒマリが元気そうで何より。
その元気がどうなるのか、ちょっと楽しみだ。
……いかんいかん、性格がどんどん悪くなっている気がする。
なんやかんやあったが、今回の訪問よりは、次回の訪問の方がいい情報を得られそうなのは、分かった。
一応忠告しておいたほうが良かったかな?
そう考えたのは後の祭りだった。
◇◆◇
「ねえ……」
あのヒマリが陰鬱な表情をしている。
「どうしました?」
「あの女、ムカつくね……」
いや、陰鬱な表情ではなく、ただ、怒っているだけのようだ。
「アハハ……」
やっぱそうなるんだ。
ヒマリはどうやら佐藤さんに会って来たみたいだ。
そして……
「なんであんなマウントとってくるの?
私は聖女としての力はあいつには劣るかもしれないし、事故とはいえ拐かされた身だけれど! あんな王宮で魔法も使わずのんきに過ごしているやつには言われたくない!」
この通り、マウントを取られまくったっぽい。
「大変だったでしょう?」
「うん、あんたも大変だったのね。なんかあんたの悪口もたくさん聞いたわよ」
「え?」
ヒマリだけでなく私の悪口も言っていたんだ。
「例えば、あのインキャ、なんで聖属性が使えるのよ! とか、あいつが成果を出しているのはお金を使っている、だとかいろいろ。
いろいろありすぎて、覚えられなかったわ。」
「そう……」
残念だ。
「だけど! あたしは別にあいつが言ったことを信じているわけではないから!
あんたは私たちを助けてくれたし、ここにたまに来てくれるのもあたしのことを心配して、なんでしょう? そこはちゃんと分ってるから!」
「ヒマリさん……」
ちゃんと思いが伝わるってなんて素晴らしいんだろう。
「だからね……その……ありがとう」
あ、ヒマリは完全にツンデレだな。
「どういたしまして。ヒマリさんも私のことを信じてくれて、ありがとう」
なんか気恥ずかしい。
不意に、背中をつんつんつつかれた。
「ん」
紙がミレアにより渡された。
「あ、ありがとう」
そっか、みれらていたのか……
うん、恥ずかしいね。
だけど、悪くはない気分だ。
部屋に戻って紙を除く。
中身を読んで、驚いた。
彼らは、聖女を使って改革を有利に起こそうと考えていたようだ。
そして、他の組織も味方しているらしい。
これが本当だったら……
彼女たちを救ったことを後悔してしまうかもな。
そして、平和なまま時は経つ。
まるで、何かの前触れかのように。
14.目的と聖女リオン
ミレアに情報をもらって、しばらくが経った。
私はまた、|彼《・》|ら《・》に会いに行くことにした。
最近忙しかったおかげでまあまあ昔のことに思えるけど、転移当初に私たちを襲ってきた彼らだ。
ミレアが書いたことが本当なら、彼らの目的も同じ可能性が高い。
「こんにちは」
「誰だ? ……聖女サマか」
「そうですよ、久しぶりですね」
「そうだな」
「今日はあなたたちの目的を聞きに来ました」
「何だ? 俺たちは答えないぞ」
「文章なら答えてくれないでしょうね。ですが、はい、か、いいえ、は答えてくれるのでしょう?」
「……そうだな」
「おい、オレたちの目的が分かったの?」
「あなたたちは知りませんが、他の組織の目的なら分かりました」
「「……」」
急に無言になられた。
「ま、その通りなんだろうな」
「だよな」
「聖女サマもあんまりその内容を言わないほうがいいぜ、あんたまで疑われる」
「別に構いませんけどね」
「……」
「また面白いことがあったら来ますね」
「……」
そう言って立ち去る。
彼らは、牢の中から、私が去るのをじっと見ていた。
「なあ……あんな聖女様で大丈夫なのか?」
「俺らにとっては悪いことではないが……これからが心配だな」
「もうちょっと嘘つこうとした方がよかったのか?」
「いた、それでは聖女様が困るだろう」
「だよな……どうすりゃいいんだよ」
「俺もそれが知りたい」
後ろで、|彼《・》|ら《・》がごにょごにょ喋っていたのに、ミアは気づかなかった。
「ありがとうございました」
牢を出る際、牢番に挨拶をする。
「何かわかりましたか?」
「いいえ。あちらの方は重要なことはしゃべってくれませんでした」
「そうですか……。ミア様には期待しておりますので、是非また訪れて、何か聞いてやってください」
「もちろんです。」
◇◆◇
そして、聖女がやってきた。
「こんにちは、わたくしはリオンと申しますわ。聖女ユミ、どうぞよろしくお願いいたしますわ」
「こちらこそよろしくお願いいたします、聖女リオン」
これはまた個性の強い聖女だなぁ。
まあ聖魔法が使えたら幼いうちから教育が始まるからね。仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。
……リオンはもともと貴族だったのかな?
こんなことを考えることになるくらいだったら、調べておけばよかった。
「私はヒマリよ。リオン、これからよろしくお願いするわ」
ヒマリも今日はいる。
ミレアの方も誘ったんだけど、来なかった。残念だ。
そしてヒマリはもう聖女リオンを呼び捨てにしている。
リオンは大丈夫なのかな?
「聖女リオン、リオンと呼んでも構いませんか?」
「いいわよ。その代わり、わたくしもあなたをユミと呼ぶわ」
「ええ、それで構いません」
「聖女ヒマリ、あなたもヒマリと呼んでもいいかしら?」
「あなたが呼びたいんでしたら構いませんわ」
「ではそう呼ぶわ」
ヒマリのツンデレが出ちゃっているなあ。
「何生暖かい目線をよこしているのよ」
「いえ、なんでもないですよ」
あなたのことをツンデレだと考えていたなんて思っていても言うわけが無いじゃないか。
「あら、ヒマリはそういう感じなのね」
リオンが笑い出した。
賢いな、この子。甘えられて育てられたわがまま女かと思っていたけれど……
そんな人物を教会がこちらによこすわけが無いと言われればそういう気もする。
じゃあリオンは我が儘っぽいけどそうじゃない、ということで考えておいていいかな?
そして、多分リオンはヒマリがツンデレなのに気づいているな。
「そうですよ」
「二人して何かしら!? 私の悪口でも言っていたの!?」
「違いますよ」
「違いますわ」
だよね、ツンデレは悪口なんかじゃないもん。
「二人して本当に何!?」
「ただの内緒話ですよ」
「……そう」
「そうよ、あなたが可愛いわね、と話していたのよ」
あれ、リオン、そのこと言っちゃうんだ。
「可愛い!?」
あ、ヒマリの顔が赤くなった。
「今のお顔も可愛いですよ」
「可愛らしいわよ?」
「二人して……私のことおちょくっていますね!?」
あ、バレた。
「嘘は言っていませんよ。可愛らしいと思ったのは本当のことなんですから」
「本当に可愛らしいと思っているわよ」
「……」
あ、詰まった。
多分、言い返してもいい方向に進まないことを理解してくれたのかな?
だったら行幸だ。
「あなたたち二人は今日が初対面よね?」
「そうですよ」
「そうよ」
「なんでそんなに仲がいいの?」
何故って……
「思考回路が似ているのではないの?」
あ、私もそれを考えた。
だってリオンがヒマリをツンデレだととらえなければこうも仲良くはならなかったと思う。
「けど、ヒマリがいなければこんなに仲良くはなれませんでしたよ。ヒマリのおかげです」
「ユミ……あなた私のこと子供っぽく見ていない?」
「……どうでしょうね?」
「まあ、私が役に立ったならそれでいいわ。だけど……私を置いて話をするのはやめて頂戴!」
ツンデレいただきました。
顔がまた赤くなっているしそっぽ向いてくれている。
典型的なツンデレ……だよね?
「分かりました」
「分かったわ」
そして顔を見合わせて笑った。
「もう、言ったそばから二人してまた私を置いて行って!」
「ごめんなさい」
「申し訳ないわ」
そして、また顔を見合わせて笑うのだった。
聖女リオンとの初対面は、こんな風ににぎやかなまま時間まで続いた。
うん、本当にヒマリのおかげだ。
15.混乱とミレアの助け
聖女リオンと会った次の日。
王都は混乱に包まれた。
「号外だ! 号外だよー! なんと、我が国の第一王子が、国王陛下を殺して、国王になると宣言したよー!!」
情報屋は、仕事で忙しそうだ。
そして、その周りにいる人たちはこぞって号外をもらいに行っている。
「明日、新国王からお言葉が下るらしいぞー!! 広場の前だ! 明日は予定を開けて広場に行こう!!」
私は、窓からそれを覗いていた
どんどん情報が広まっていく。
明日か……
まああまり期待しないほうがいいな。
「エリーゼ、号外もらってきてくれる?」
「かしこまりました」
さてさて、どんなことが書いてあるのか。
「聖女ミア」
呼ばれて振り返ると、ミレアがいた。
「どうしたの?」
「話が、あります」
ミレアは、いつもと違い、はっきりと喋った。
「ここでいい?」
「はい」
「どんなこと?」
「とらえられていた時のことです」
はきはきと喋るミレアは、昨日までのミレアを知っているために、ミレアに見えなかった。
「聞きましょう」
ここで茶化してはいけない。
私は聖女ミレアに向き合った。
「始めのころは、脅されて強制的に魔法を使わされていました。そして、それが嫌でした。
だけど、ひどい怪我をされることはなくて……その前に私が諦めて魔法を使ったからですけど……そのときはこの体質に感謝しました」
大聖女ミアがやったことは間違いではなかったんだ。
そのことに安心した。
「ある日、あの人たちの声が聞こえてきて、この組織の目的が今の王家を壊すことだと知りました。少なくともこの国で動いている組織はその目的で動いていそうです。
そして、その目的に同意してしまって、最後のころは、少しの痛みで聖魔法を使うようになりました。
両親のことを考えると、組織に同意はしていてもやはり少しは抵抗しておくことが必要だと思ったので。
だから、最後のころの私の待遇は、多分、思われているほど悪くありません。
ただ、このことは助けてくれたミア様を裏切ることになるかもしれないので……今まで言えませんでした」
「そう、話してくれてありがとう」
そっか、私に遠慮していたんだ。
「それで……」
あ、まだ話は続いているみたい。
「国王陛下が殺された今、彼らが仕掛けてくる可能性があります」
……こっちの方が本題っぽいな。
「それは、王子暗殺を?」
「多分そうです」
「あまり関わりたくないな……」
「私も同じ気持ちです。ただ、ミア様が私を助けてくれたので、恩返し的なもので警戒するように伝えに来ました。それだけです」
そう言って、ミレアは目を伏せた。
「ミレア」
手を彼女の顔に当て、目を合わせる。
「話してくれてありがとう。注意しておきますね」
ミレアは、数秒目をおろおろさせたが、
「はい」
最後には目を合わせ、そう返事してくれた。
近づけたみたいで嬉しい。
◇◆◇
その日のうちに、また彼らに会いに行くことにした。
「こんにちは」
「……こんにちは。忙しい聖女サマが一体何の用だ?」
「この前言っていた面白いことが起こったので伝えに来たまでです」
「面白いこと?」
「はい。もうほとんどの王都に住んでいる人に知られていることですが」
「おれたちは知らないがな」
あはは……
「あなたたちは自業自得です」
「そうか、それで何なんだ?」
「第一王子が、国王陛下を殺したそうですよ」
「……ほう?」
「面白そうなことが起こっているじゃねえか」
「そうでしょう?」
ホント、王宮の方に行かないですんで良かった。
佐藤さんは……どんな立場になるのだろうな。
「そして、これを機にあなたたちのような組織が動き出すかもしれません。ちなみに、第一王子のその行動の理由はまだ明らかにされていません。
ですが、明日、広場にてお言葉を下すそうですよ」
「何か起こりそうだな」
「ですよね。まあこれを伝えに来ただけです。つまらない獄中ですが、これからの展開を予想したりして楽しく過ごしてくださいね」
そう言って出口に歩みだす。
「なあ」
後ろから声が聞こえた。足を止める。
「何ですか?」
「なんであんたはこちらにいい情報を教えてくれるんだ?」
「いい情報? 私が面白いな、と思ったことを伝えただけですよ。後は、その瞬間を見れないあなたたちの悲しみでも見ようと思ったんですけど……無駄足でしたね」
「嘘言うな」
うん、嘘だ。私の性格はそんなにひねくれていないと思う。
「初めの時に言った通りですよ。それに、あの佐藤さん……ユウナに絆されるような国は終わりだと思っていますから」
そう、この国のために魔法を使いたく……な……い……。
!?
「ではまた。いい発想をありがとうございます」
「発想? どういうことだ?」
後ろで彼らが何かを言っているが、それにこたえる暇はなかった。
そう、これだ!
これがあれば、いろんな問題が解決する!
聖女が、自分の意思でなくては魔法を使えないようにすればいいんだ!
そしたら、国は聖女に魔法を使ってもらえるような国になる。
組織も、聖女に魔法を使ってもらえるような待遇を取るだろう。
これしかない!
いつの間にか、そこまで強く思うようになっていた。
……まあ、意思、というのが分かりづらいとこなんだけど。
16.第一王子のお言葉(笑)
そして、次の日になった。
今日は、大間抜けの第一王子のお言葉がある日だ。
心なしか、王都全体がざわめいているような気がする。
ちなみに、昨日もらった号外には、大した情報は無かった。
だからこそ見に行きたい。
「サムエル、広場に行っていいよね?」
「もちろんです。……私もついて行ってもよろしいでしょうか?」
「? 構いませんよ」
「ありがとうございます」
何故かいつのまにか部屋の近くにいたサムエルを呼んで、許可をもらった……が、なぜか一緒に行くことになった。
聖女の管轄がだれだかは知らないが、サムエルの立場がこの神殿では一番高いんだから、問題ないだろう。
それにしてもサムエルはいつまでこの神殿にいるんだろう? そして彼は何者なのだろうか?
「ベノン、行くよ」
「かしこまりました」
広場には、もうたくさんの人がいた。
できるだけ目立たない格好で来たつもりだったけど、やっぱ護衛がいるからか、チラチラ見られる。
そして、あれからも聖女としての仕事をしていたせいで……
「聖女様かしら?」
「なぜここに?」
「神殿所属なら関係ないでしょうに。わざわざここにいらっしゃらなくても構いませんのに」
「おかあさん、どうしたの?」
こうなる。
変装とかやったほうがいいかなぁ。
エリーゼ……変装出来るかな? 今度試してもらおうかな。
ちなみに、サムエルは私の後ろでひっそりと立っていた。
これが枢機卿?
知らない人が見たら驚くだろうな、と思う。
そして、第一王子が現れた。
「やあ! 皆の者、初めましてかな?
会ったことがある人もいるだろうが、私がこの国の第一王子、ムニダスだ。
そして! これからのこの国の王だ!」
えーっと、それって確認は済まされているのかな? ちゃんと認証されているのかな?
確か、この国には第三王子までいたと思うんだけど……
「父ちゃん、あの人が新国王なの?」
「さぁ……」
みんなも戸惑っているようだ。
「皆が戸惑うのも分かる。皆は私の治世が来るのがもっと後だと思っていたのだろう?
だが安心してくれ! 今すぐに、私の治世がやってくる!」
「馬鹿ですかね、この王子は」
みんなが戸惑っているのが分かるようだから、と安心したけど、勘違いしているし、あまり期待できないなぁ。
サムエルのあの発言は…聞かなかったことにしよう。
「では、まずなぜ私が父上……国王を殺したのか、を語ろう。
先日、私のもと……父上のもとに報告が来たのだ。
皆も知っているだろう? 聖女奪還の件で、だ。そこで、組織がどんな目的で聖女を誘拐しているかが明らかにされた。
なんと! 彼らは今の政治に問題があると思っているようだ!」
「親殺しの大罪を犯したくせに。あぁ、女神よ、彼に制裁を」
間違ったことは言っていない。
なぜか、ここでの民衆の説得にこの王子が成功してしまうような気がした。
サムエルは……。うん、そのまんまだ。ちゃんと信仰心あったんだ。
「父上は、その報告を無視した。
だから、私が立ち上がったのだ!
彼らはきっと、父上の政治に疑問を抱いているのだろう。だったら私に代われば、彼らは何も文句を言わないのではないか? そう思ったのだ」
「ふん、馬鹿め」
民は、ふうん、と聞き流している。多分、知らない情報だからだろう。
「彼らが不満に思う政策については心当たりがある。私が即位し、1年以内に、その政策を取りやめることを誓おう!」
「嘘つき野郎、お前に出来るものか。というか何だと考えているのか。絶対不要なことをしでかす」
そこからも王子の長い語りは続いた。
サムエルの異常さに気づいたのか、少し、サムエルの周りが、ぽっかり、空いていた。
「そして!」
ああ、もうすぐ終わりかな?
「ここで皆に朗報がある!」
民は、結構この王子に乗せられている。
今の発言にも、皆が興味を引いているのが分かる。
「私は、聖女ユウナと婚約している!」
「聖女ユウナ?」
「誰かしら?」
「ユミ様じゃないの?」
サムエルの突っ込みが聞こえないな、と思ったらいなかった。
何処に行った?
「ゴホン、ユウナは聖女ユミと一緒に召喚された聖女だ。彼女は王宮で働いてくれている」
「へぇ~。けれど、ユミ様じゃあないのか……」
「ユウナ様って何かしてくれたかしら?」
「まあ聖女だから……」
あらら、私の評判で佐藤さんが消えちゃっている。
可哀そう。
さらに、そのせいでさっきまであった期待が少し減っちゃっているような……気の所為だよね。私は何も知らないし気づいていない。
そう言い聞かせることにした。
「ともかく! そういうことだから、これから私の治世をよろしく頼む! 戴冠式は20日後に行う! 私に見合った素晴らしい式典にすると約束しよう!」
一度私のせいで期待を薄めた国民は、今の発言で戻っていった。
こんな簡単に流されちゃう国民というのは問題だな。
ま、私にはあまり関係ないか。
佐藤さんが何処からともなく現れて、王子の下へ向かった。
「ちょうど彼女が来てくれた。彼女が次期王妃、ユウナだ!」
「あら、可愛い」
「そう? 性格悪そうよ?」
「うわぁ」
うん、三種三様の反応だね。
そして、そんなセリフで王子は帰っていった。
今の発言で、これからのみんなの反応が分かれそうだな。どうなるんだろう?
「第一王子様かぁ。今まであまり聞いたことが無いよな?」
「それに聖女ユウナだっけ? 聞いたことないなぁ」
「だよな、最近聖女として活躍してくれた聖女様ってユミ様だけじゃないの?」
「他国もあんまり聞いたことないなぁ」
「ねえねえ、だいいちおうじさまはどんなことをいっていたの?」
「ちょっと待ってな」
私が褒められてしまっている。
気恥ずかしい。
その時。
バァン!
そんな音が聞こえた。
何か起こっちゃったかな?
「何だ?」
「こわいよう」
王子が行ったほうから人がやってきた。
「第一王子が、殺されました!!」
え? 王子の護衛ってそんな弱いの?
11.護衛の奪還
魔石をもっていかせてから2日がたった。
さて、もうそろそろかな。
カンゲが私の魔力入りの魔石を持っていってから、ずっと脳内で後を追っている。
この魔力の使い方は……なんとなく、としかいえない。
なんとなく、あっちの方向に私の魔力がある気がするのだ。
そして、それと今回通る道とを示し合わせて、今ここら辺にいるんだろうな、というのを感じている。
そして、推測が正しければもうすぐ着くころだ。
……と、反応が消えた。これは転移されたということだろうか。
けど、どこに? 転移された先が分からない。
しばらく辛抱強く探した。そしたら、反応があった。
90度ちょっとずれた方角だ。
どうやら、転移されたようで間違いはないらしい。
地図を覗くと、その方向には街があって、山脈と森があって、|隣国《ファステリア》の王都がある。
さすがに隣の国の王都はないだろうから、それまでにはあるだろう、きっと。
「準備はできている? ファステリアの王都の方向に向かうよ」
「かしこまりました」
さあて、今のうちに進むだけ進んでおかないと。
「ちゃんと休憩したから飛ばしていいわ」
「かしこまりました」
護衛の5人くらいと身軽に進む。
もう昼過ぎ。だけど、今行動しておいた方があとからがはるかに楽になる。
カンゲが神殿に戻る前に進んでおかないと。
一晩、徹夜した。
そして、次の日は、早めに宿についた。
カンゲは、まだ神殿に着いていなさそうだ。
朝。目が覚めた。
カンゲが動いているような感じはなかった。もしかしたら神殿についているかもしれない、と方向を確認するとドンピシャだった。
「カンゲを迎えに行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
◇◆◇
おつかいから帰ったカンゲは驚いた。
ユミ様がもう出かけたらしいと聞いたからだ。
俺、おいて行かれたのかなぁ。
分からないが、とりあえず一晩神殿で過ごすことにした。
朝、早起きをして運動をしていた。
ユミ様からは相変わらず何もない。本当に見捨てられたかもしれない。
あぁ……ユミ様……
「カンゲ、おつかいご苦労様」
だから幻聴が聞こえたのだろうか。
ユミ様の声が聞こえた。
「え?」
そして、振り返ってみると身体もあった。
「私は本物ですよ?」
自分の考えも見透かされていた。ちょっと恥ずかしい。
「今から私たちは進んだところまで連れていきますね」
「進んだ? どういうことですか?」
「私は転移魔法が使えるんですよ?」
「だから何なんですか?」
「カンゲを待たず先に進んでそこから転移魔法を使ってカンゲを連れて行くほうがはるかに効率がいいじゃないですか」
「確かに……」
「なにも言わず話を進めてしまってごめんなさい。だけど、これも早くべノンを救出するためだから」
「ありがとうございます」
「わかってくれたならよかったです……風ーー聖転移」
ユミ様は、俺のためだけに聖転移を使ってくださった。
聖転移は、聖属性を使えるものしか使えない魔法。転移時に、その違いは現れる。
そして、一瞬で目の前には仲間がいた。
「進みましょうか」
「はい!」
やはり、このお方は素晴らしい。
◇◆◇
「なあ、ユミ様はまだか?」
「もう4日もたつぜ。食事は与えられているからいいにしてもよぉ」
「ここが王都から離れているとことだったらいくらユミ様とはいえども時間はかかりますよ」
「お前さんはなぜそんなユミ様を信じられるんだ?」
カミラは考える。
「そうですね……強いて言うなら、ユウナ様から解雇された自分をなんの偏見もなしに見てくれたから、ですかね。なぜか信用できると思ってしまったんですよ」
「そうか……なら、俺たちも信じて待つしかねえな」
「だな」
「俺らももう少し頑張ろうぜ」
そして、時を過ごすこと一時間。
「なんだ?」
「さわがしいな」
「待ってくださいね。今、確認します」
魔力を広げる。すると多くの人たちが入って来ていた。
壊すなら今がチャンスだ。
ここにかけられていた阻害を解除する。
だが、外に出られるわけではない。正直手詰まりだ。
「カミラさ~ん」
ユミ様のお声が聞こえた。
助かった。
ひと安心だ。
◇◆◇
「カミラさ~ん」
反応がはっきりしてきた。10,20,30……いったいどれくらいの人がいるんだろう?
こんな人数を生かしておくよりさっさと殺したほうがいいと思うけどな。
何か目的があるのかもしれない。
「この鍵、どうやって開けれますか?」
カミラなら理解していると信じて、聞くことにした。
あの奴らは今頃めっためたにされているだろうから聞くに聞けないんだよね。
「一つ目の鍵は……」
説明してくれた。やっぱり把握していたようだ。
カミラは優秀な人物だと関わりが少ない私でも分かるのに。
佐藤さんは何で無駄なことをするのだろうか?
「ありがとう。少し待ってね」
この鍵はこうして。
あ、だけど3番目は普通に鍵が必要なんだっけ?
どうにかならないかなぁ。
ピッキング……やってみようかな。
鍵の仕組みならわかるし、意外とできるかもしれない。
結果、出来ちゃった。
多分、ただ手さぐりにやるだけでなく、魔力も使って鍵の内部を感じることができたからできたんだと思う。
ここでも魔法……というかもはや魔力だけでも十分な気もするけど……の威力を知る羽目になった。
「助けにしましたよ」
「聖女様……」
「ユミ様だ……」
「尊い……」
なんだろうね、前世でも聞かなかったことを言われているよ。
この人たちの目、大丈夫かな?
「怪我をしている人はいませんか?」
「はい。大きい怪我は誰にもないです」
「それは良かったです。では帰りましょうか。4日5日ほどかかりますけど構いませんよね? あと今日は休養してもらいますからね!」
転移を使うことも考えたけど……
あんまり大人数を転移に巻き込むのは申し訳ないし、報告に行かせる者一人に転移は使うことにした。