スタンダード島事件から一ヶ月。
秋から異能特務課で働き始める齢18の少年がいた。
何故か少年は──武装探偵社にて職場体験をするのだった。
──
海嘯です。
今作は55minutesから一ヶ月後が舞台の小説になっています。
ネタバレしかないので、ちゃんと本編(原作と海嘯の小説)読んでから読み始めてください。
そして出来ればファンレターをください((
英国出身の迷ヰ犬の番外編です。
オリキャラ多いです。
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目次
神宮寺ユイハって云います
55minutesの後日談(?)です。
良かったらそっちから見てね。
特務課新人の職業体験、第一話。
No side
スタンダード島事件から一ヶ月。
夏の暑さがまだ残る中、ルイス・キャロルは|異能空間《ワンダーランド》にて──。
ルイス「いよっっっしゃぁぁぁぁああああ!」
──異様な程ハイテンションだった。
ガブ「ついに頭イカれたか、此奴」
アリス「心配しなくても、元から頭はおかしいわよ。あと莫迦」
ルイス「酷い云われようだね」
ガブ「お前のことだぞ」
あー、疲れた。
そうルイスはぬいぐるみの山へとダイブする。
そして携帯電話をイジっていた。
ルイス「あ、もしもしぃ? ……そうそう、出来たんよね。うん、だから……やっぱ君しか勝たんわ! 日程? それはこっちが合わせるからなんでも良いよ。……え? いや、判ってるって。君まで僕のこと莫迦にするのかい? 泣くぞ? 成人男性のガチ泣きみたい?」
ため息をついたルイスは電話を切り、そのまま眠りについた。
アリスとガブは、二人とも首を傾けていた。
敦side
全員「職業体験?」
あぁ、と社長は腕を組みながら説明を始めた。
武装探偵社の会議室には、珍しく全社員が集まっている。
福沢「秋から異能特務課で働き始める異能社がいるらしくてな。そこで職業体験という形で異能力、我が社についての知識を深めたいという話だ」
国木田「秋から、というのは少し珍しいですね。何か理由でも?」
福沢「その……私も詳しくは判らない」
そんなこんなで、職場体験当日になった。
???「神宮寺ユイハって云います」
探偵社の事務室。
そこに彼は立っていた。
黒髪に水色の瞳。
身長は僕より少し低いぐらいだ。
そんな彼は何故か、困惑の表情を浮かべている。
ユイハ「その、えっと、よろしくお願いします……?」
国木田「何故に疑問系……?」
ユイハ「いや、あの、今回の職場体験勝手に決められたので」
はぁ、とユイハはため息をついた。
ユイハ「えっと、呼び捨てとタメ口で大丈夫です。改めて、これからよろしくお願いします」
谷崎「よろしくね、ユイハ君」
ナオミ「よろしくお願いします、ですわ!」
国木田「今日から職場体験ということで、小僧」
へ、と僕は間抜けな声を出してしまう。
国木田「貴様がユイハに業務の説明をしてやれ。簡単にいうなら……教育係だな。鏡花と二人で頼んだぞ」
敦「そんな!? 2番目に新人なのに荷が重いですって!?」
国木田「ユイハは18で小僧と同い年だ。同年代の方が話しやすいだろう」
いや、そうかもしれないけど。
そう云いかけ、ユイハさんがいるのでもう諦めることにした。
あまり本人の前で云うのはよくない。
賢治「そういえば国木田さん、太宰さんは相変わらず川を流れているんでしょうか?」
乱歩「さっき下の喫茶店にいたよ」
国木田「賢治、回収してきてくれ」
賢治「はぁーい!」
敦「そういえば鏡花ちゃんは?」
賢治君が部屋を開けると同時に、外から鏡花ちゃんが入ってくる。
ユイハside
ただいま、と少女は何かを引きずっていた。
ユイハ「ヒッ」
思わず俺は小さな悲鳴をあげてしまった。
鏡花「回収してきた」
太宰「酷いよぉ、鏡花ちゃん。外套が少し汚れちゃった」
国木田「貴様がユイハの来る時間に間に合うよう来なかったのが悪い」
敦「ユイハさん、顔色悪いけど大丈夫ですか?」
ユイハ「あ、えっと……大丈夫だ……」
俺の表情は、あまり良いものではないだろう。
それはそう。
何故なら、少女はある長身の男を引きずっていた。
その男は太宰治。
俺にとって彼奴は、脅威だった。
ユイハ(俺、本当になんで探偵社にいるんだろ)
時は、少し遡る。
神宮寺ユイハ改め、俺──ジュール・ガブリエル・ヴェルヌはいつも通り|異能空間《ワンダーランド》にいた。
ルイス「ということで、これ着て」
いきなりルイスが服を押し付けてきた。
ガブ「ナニコレ」
ルイス「あの、MMDとか3Dモデル動かしたりするアレ」
アリス「語彙力ないわね」
疲れてるんだよ、とルイスは俺に機械のついた服を着せた。
ルイス「半強制的に着せて悪いね。ついでにこれもよろ」
ブフォッ、と何かを被せられる。
それは何かの機械のようだった。
正直、めっちゃ重い。
ガブ「……なんだ、これ」
俺は驚いていた。
声がいつもと違う。
目の前にはルイスとアリスがいるのは問題ない。
でも、何故か変な服と機械を着けた自分の姿もあった。
自身の服装を確認してみると、スーツだ。
ガブ「ホントニナニコレ」
ルイス「それが君が外で行動できる姿」
ルイスが指を鳴らすと、目の前に鏡が現れた。
黒い髪に、水色の瞳。
元の自身とは違う、日本人の顔立ち。
ルイス「仕組みは先程も言った通り流行りの2.5とかと変わらないよ。君に着せた服で人形と同じ行動が可能。視界はアリスの異能を使ったVRのような感じだね。声は変声期を通じて形から発されるように調整した。残念だけど食事は無理だった、すまん」
ガブ「……そういえば、外で行動できる姿って」
ルイス「|異能空間《ワンダーランド》を出れば、君は消滅してしまう。その人形を通じて、外を見ろ」
あぁ、とルイスが微笑む。
ルイス「人形の名前は神宮寺ユイハだ。秋から特務課で働き始める18歳、って設定だね」
アリス「あら、ルイスにしては良いネーミングじゃない」
ルイス「へへっ、読者の人に募集したからね」
アリス「メタいわよ」
ガブ「神宮寺ユイハ、か……」
そう俺は呟く。
ガブ「ありがとな、ルイス」
ルイス「……ははっ、どういたしまして」
時は戻り、探偵社にて。
ユイハ(──って、ことがあったけど)
何故に探偵社、と俺は心の中でツッコミを入れていた。
外を見ろ、なんてルイスは云ったがいきなりハードルが高すぎる。
何処でヘマするか判ったものじゃない。
福沢「今日は初日で顔合わせだけだ。業務に入る前に最終確認をする。ユイハ、ついてこい」
ユイハ「は、はい!」
俺は探偵社社長に連れられ、社長室へとやって来る。
扉を開くと、そこにはルイスがお茶を飲んでいた。
ユイハ「何してるんだよ!?」
ルイス「やぁ、無事挨拶は済んだようだね」
ユイハ「済んだけども!」
福沢「あまり大声で騒ぐと事務室まで聞こえるぞ」
福沢の言葉に、俺は黙り込む。
こんなところでガブだと気が付かれたら、色々と面倒くさい。
特に、あの事件に関わってるメンバーには気づかれたくなかった。
福沢「期間は本日より一週間。設定は判っているな?」
ユイハ「あぁ」
ルイス「ま、頑張りなよ。敦君や他の社員と仲良くなれると良いね」
ジュール・ガブリエル・ヴェルヌ改め、神宮寺ユイハによる武装探偵社での職場体験が幕を開ける──!
ユイハ「俺の心の声を捏造するなぁ!」
えっと、神宮寺ユイハです。
次回も見てくれたら嬉しい…です。
よろしくお願いします…?
何でそんなぐだぐだなの?
いや、次回予告とか判らねぇし。
ちゃんと読者の人に次回も読んでもらえるようなのにしないと!
…はぁ
ため息つかない!
次回は探偵社が自己紹介をするらしい。
いや、初日に終わらせておけよ。
本当にね。
いや、何でもねぇよ
特務課新人の職場体験、第三話
ユイハside
職場体験二日目。
俺は昨日と同じように出社していた。
ユイハ「おはようございま━━」
そこで、思わず足を止めた。
机に乗る太宰治は、又三郎の首を絞めている。
あの、と俺は近くで作業準備を進める国木田に話しかけた。
国木田「彼奴のことなら放置でいいぞ。年に二回ほどは其処にあるキノコを食べ、あんな状態だからな」
ユイハ「……これ、毒キノコだな。死ぬんじゃなくて、頭がおかしくなる方の」
国木田「博識だな」
ユイハ「まぁ……」
島で繰り返してる中で得た知識は多い。
図書館にあった図鑑で、このキノコのことは数回見たことがある。
ユイハ「……大丈夫か、敦」
敦「ダイジョウブジャナイ」
鏡花「敦を離して」
ドスッ、と鈍い音が響き渡る。
太宰治が床に倒れ込んだ。
いや、鏡花強すぎだろ。
十四歳だよな、確か。
挨拶の日に太宰治を引き摺ってたし、最近の日本人はこうなのか?
敦「ユイハ君……おはよう……」
ユイハ「……朝から大変そうだな、敦」
あはは、と敦は笑う。
これが年に二回ほどあるとか、どうなってるんだよ。
本当に大丈夫か、探偵社。
ユイハ「昨日の続きなら一人でも出来そうだし、少し休んだ方がいいんじゃないか?」
敦「大丈夫だよ。いつもみたいに入水してる太宰さんを回収しに行くのと比べたら元気だから」
入水してる太宰治の回収ってなんだよ。
もう何度目か分からないツッコミを必死に押さえ込んで、俺は席へと座るのだった。
敦「そういえばユイハ君は事務作業だけなんですか?」
国木田「いや、簡単な依頼なら現場に向かってもらう予定だ。それこそ、密輸業者の情報集めとかな」
敦「あー……」
ユイハ「どうかしたのか?」
敦「僕が探偵社に入って最初の依頼が密輸業者関連だったんだけど、色々あってマフィアとの戦闘だったんだよね」
ユイハ「どういうこと???」
なんだかんだ、又三郎も苦労してるんだな。
その時も芥川だったらしいし、そういう運命だったりするのか?
谷崎「でも、最近平和ですよね。スタンダード島以降、大きな事件も起きませんし」
賢治「暫く海に行きたくなりませんでしたよね。今も別にいいですけど」
乱歩「ホント、太宰が僕に今回の事件の全容を送ってくれなかったら、今頃みんな海の藻屑だったよ!」
与謝野「ありがとねぇ、乱歩さん」
敦「あの時は本当に大変でしたよね」
ユイハ「……悪かったな」
鏡花「何か云った?」
ユイハ「いや、何でもねぇよ」
謝りたい。
そう思ったけど、この思いは伝えられない。
俺はガブじゃなくてユイハだ。
ガブと明かしたとして、又三郎達が許してくれるわけがない。
太宰「国木田くーん! 大変だー! 虹色のゾウリムシがー!」
国木田「貴様は少し黙れ!」
初日から思っていたけど、この会社ヤバくないか?
敦「ごめん、ユイハ君。話してたらもう始業時間だね」
ユイハ「あ、いや、大丈夫だ」
ルイスには外を見ろと云われた。
島では経験できなかった沢山のことをしている。
得ることの出来なかった本当の仲間が少し分かった気がする。
ユイハ「探偵社は見ていて面白い」
敦「自由な人が多くて大変だけどね…」
鏡花「特に国木田さん」
あー、と納得する。
初日の挨拶を入れて今日で三日目。
でも探偵社員のことは判ってきたような気がする。
一番頭おかしいのが太宰治で、その保護者が眼鏡。
又三郎とシスコンが東西のヘタレで、農民は空腹か寝てる。
女医はすぐに解体してこようとするし、和服はいつも気を張っている。
だけど、一番油断できないのは━━。
乱歩「国木田ぁ、お菓子無くなったぁ」
━━コイツ。
又三郎から色々話を聞いた感じ、此奴は異能者じゃないらしい。
しかも少ない情報で犯人を言い当てる名探偵。
俺の正体に真っ先に気づきそうなのは此奴だと思っている。
でも、何も云ってこない。
社長に聞いても、何も俺のことについては何も話していないと云う。
何考えているのか判らなくて、怖い。
ただその一言しか出てこない。
国木田「む…駄菓子の在庫がない…」
乱歩「はぁ!?」
国木田「今すぐ買ってきます━━って、俺はこれから政府関係者との会議が入っているんだった……」
乱歩「今すぐ買ってきたよ!」
国木田「しかし乱歩さん……」
怖い、とか云ってた莫迦みたいだな。
26歳児だろ、此奴。
国木田「済まない、敦。乱歩さんの駄菓子の買い出しを頼んでもいいか」
敦「判りました。あ、良かったらユイハ君も一緒にどう?」
ユイハ「……俺?」
敦「ずっと事務作業も大変でしょ。腰痛くなっちゃうよ」
ね、と又三郎は笑った。
ユイハ「……判った。俺も行く」
敦「それじゃあ行ってきます!」
その後、俺と敦はお菓子を無事に買えましたとさ。
え、そのシーンは?
作者が力尽きて書けなかった。
よし、海嘯絞めてくるわ。
キャラ崩壊してるぞ、ルイス。
あ、次回第四話はうずまきで雑談するぞ。
僕も登場するから見てね。
じゃあ、お言葉に甘えて……
特務課新人の職業体験、第二話。
ユイハside
敦「あ、おはようございます!」
ユイハ「……おはようございます」
鏡花「緊張してる?」
少し、と俺は肩をすくめた。
次の日になり、いよいよ職場体験が始まる。
俺の正体がバレたら、面倒くさい。
気づかれることはないだろうけど、警戒しておかないと。
敦「そういえばちゃんとした自己紹介はまだでしたね。僕は中島敦」
鏡花「泉鏡花」
ユイハ「敦さんに、鏡花さん」
鏡花「敬語じゃなくて大丈夫。私達もそうするし」
ユイハ「じゃあ、お言葉に甘えて……」
それから俺は一通りの仕事の説明を受けた。
一応特務課の職員って設定だし、任務に駆り出されたりはしないだろ。
異能なしの戦闘とか、すぐ死ぬ気がする。
ユイハ「そういえば敦って|組合《ギルド》の長を倒したんだよな?」
敦「芥川と協力してね」
ユイハ「芥川?」
二人に教えてもらって判った。
あの黒衣の兄ちゃんか。
まぁ、俺も協力した二人にやられたんだよな。
あんなに仲が悪いのに、すげぇよ。
鏡花「ユイハ?」
ユイハ「……悪い、考え事してた」
敦「特務課の仕事が始まったら何度も見ることになると思うよ。彼奴、指名手配されるぐらい有名だし」
ユイハ「そんな奴と協力できるとか凄いんだな」
又三郎、と言いかける。
こいつの名前は、敦。
ボスとビルコと一緒に盗賊した又三郎じゃない。
武装探偵社の中島敦なんだ。
かという俺もユイハじゃない。
知っている筈なのに、遠く感じた。
太宰「おはよー!」
敦「あ、おはようございます。太宰さん、今日も入水してきたんですか?」
太宰「もちろんだよ。川で寝癖を直しているのさ☆」
寝癖を直してもぼさぼさの蓬髪なのかよ。
敦「そうだ、太宰さんのことだから昨日の話はちゃんと聞いてませんでしたよね?」
太宰「否定できないけど、なんか冷たくない?」
鏡花「気のせい」
太宰「そっか、気のせいならいいんだけど」
さて、と。
そう云った太宰治は僕の方を向く。
太宰「私の名は太宰。太宰治だ。社の信頼と民草の崇敬を一身に浴す男」
国木田「誰が貴様などに崇敬するものか、この包帯無駄遣い装置」
太宰「あ、国木田君じゃーん」
国木田「貴様、そんなキャラではないだろう」
太宰「あれ、そうだっけ」
信頼のところ否定しないんだな。
太宰「そうだ、君もちゃんと自己紹介をしたらどうだい?」
国木田「……簡単なものは昨日した。名前と年齢以外に何か必要か?」
太宰「異能力とか」
はぁ、と国木田さんはため息をついた。
国木田「見せた方が早いな」
そう云ったかと思えば、あの理想手帳を取り出した。
見えるように万年筆、と書いたかと思えば頁を切り取る。
国木田「『独歩吟客』」
ユイハ「頁が万年筆に!?」
太宰「これが国木田君の異能力。頁に書いた言葉のものを具現化することが出来るよ」
国木田「手帳より大きなサイズのものは無理だがな」
ユイハ「……すげぇ」
太宰「因みに私の異能力は『人間失格』」
太宰が触れた瞬間、万年筆は元のページへと戻った。
俺を消滅させる、異能無効化。
太宰「あまり驚いていないみたいだね」
ユイハ「あ、いや、驚きすぎて言葉にならなくて……」
鏡花「異能ではこの人を殺せない。でも、副次的に発生したものとかは聞く」
太宰「鏡花ちゃん? もしかして私のことを殺そうとしてる?」
鏡花「してない」
太宰「そうだよね。してるって云われたらどうして良いか判らなかったよ」
そんなことを話していると、国木田さんが仕事を再開しながら話しかけてきた。
国木田「特務課の資料で確認できるだろうが、一応社員の異能を知っておいた方がいいだろう。敦、事務作業と並行で付き合ってやれ」
敦「はい」
ユイハ「……ひとまず事務作業がいいか? 雑談しすぎたし」
敦「そうだね。そうしようか」
それから俺は、私にパソコンの使い方をはじめとした色々なことを教えてもらった。
探偵社の仕事は、中々大変だ。
普通の依頼もあるけど、灰色なものも多い。
スタンダード島事件も大変だっただろう。
敦によれば一度やり直してるらしいし。
賢治「お腹すいた……」
国木田「すまん、賢治。もう少し我慢してくれ」
正午になり、お昼休憩になった。
敦「賢治君は怪力の異能者だよ」
賢治「あ、ユイハさんでしたっけ。宮沢賢治です。よろしくお願いしますね」
ユイハ「よろしく」
ナオミ「ユイハさん、良かったら一緒にお昼どうですか?」
ユイハ「えっと……」
ナオミ「谷崎ナオミです。そして此方が……」
谷崎「谷崎潤一郎です。異能力は『細雪』で、簡単に云うなら幻影ですかね」
妹の方は異能なしか。
にしても、距離が近すぎないか?
兄弟なんていないから判らないけど、絶対あの距離はおかしい。
敦「ユイハくん、深く追求しちゃダメだよ」
ユイハ「あぁ、判った」
ま、そんなに興味はないし。
与謝野「おや? 自己紹介でもしてるのかい?」
敦「与謝野女医!」
与謝野「ユイハ、怪我してないか?」
ユイハ「してませんけど……」
与謝野「ちぇ」
ちぇ……?
与謝野「妾は与謝野晶子。異能は治癒だよ」
ユイハ「治癒……!?」
無効化の次に希少な異能じゃん。
流石の俺でも持ったないぞ、治癒は。
毒とか薬を使ったり、一度死なせることはできるけど。
敦「いらっしゃらないから簡単に説明しちゃうね。社長の『人上人不造』は異能制御で、乱歩さんの『超推理』は見ただけで犯人とかが分かるんだ」
ユイハ「ほわぁ……」
なんか、うん、探偵社ヤバすぎだろ。
七人の裏切り者ぐらい、異能も個性も豊かだな。
ということで後書きだね、ユイハくん。
そうだな、ルイス。
今頃だけど後書きは俺たちが話してるだけだ。
多分、最後までこう……なのか?
一応『英国出身の迷ヰ犬』の番外編のはずなのに、僕が出てこないと云うね。
出番欲しいなぁ。
まぁ、次回はあるんじゃないか?
そうだといいけど。
明日は彼奴がヤバい。
彼奴って?
俺が嫌いなやつ。
なんか、ヤバイ方にイっちゃってる。
あー、頭がおかしいってことね。
次回もお楽しみに。
つまらなくはないだろ
特務課新人の職業体験、第四話。
ルイスside
お邪魔しまーす、と僕は探偵社の扉を開いた。
二日の休暇をもらって帰国してきたけど、隊長も先輩も元気そうだったな。
墓参りも、行けた。
敦「お疲れ様です、ルイスさん。休暇は如何でしたか?」
ルイス「久しぶりに師匠と話せたよ。あ、これお土産ね」
敦「ありがとうございます」
口に合うか判らないけど、英国のチョコレートを買ってきた。
#アリス#が選んだし、美味しくなくても知らない。
#アリス#『ルイス?』
ルイス「何でもないでーす」
敦「そういえば、ルイスさんは初対面ですかね」
ユイハ「……神宮寺ユイハだ」
ルイス「福沢さんから話は聞いてるよ。よろしくね」
なんか、握手が強い気がする。
僕が休暇を貰ってガブのこと放置してたから怒ってるのかな。
怒るなら作者にしてくれ、全く。
ルイス「仕事にキリがついたら休憩にしよう。美味しい紅茶も買ってきてるんだ」
ユイハ「紅茶──!」
鏡花「……好きなの?」
ユイハ「あ、いや、その……」
珍しく、ガブのテンションが上がっている。
一ヶ月ぐらい一緒に生活してた筈だけど、紅茶が好きなのは知らなかったな。
ずっと煎餅とか日本の物を食べてたし。
敦「そういえば、休暇は英国で過ごされたんですね」
ルイス「うん」
鏡花「師匠ってどんな人?」
ルイス「……気になる?」
ユイハ「気になるな。アンタや戦場の舞姫は有名だが、他の異能者のことはあまり情報がない」
確かに、と僕は考え込む。
ルイス「まぁ、簡単に説明するなら剣の腕はからっきしだね。多分、鏡花ちゃんなら圧勝」
鏡花「……異能が強いの?」
そうだね。
僕は笑いながら紅茶を一口飲む。
ルイス「芥川君と同じだから」
三人は目を見開く。
芥川君とほぼ同じだから、隊長から色々と教えてもらった。
中距離系の攻撃異能の対処法はもちろん、基礎から応用まで。
僕があの数日で教えられたことは少ないだろう。
でも、禍狗と呼ばれるまで裏社会で有名になったのは凄いと思う。
個人的には、探偵社に入ってほしかったけど。
ルイス「師匠以外にも色んな人に合ってきたよ。同じ班だった先輩とか」
敦「軍にはどんな異能者が居たんですか?」
ルイス「そうだね……物の大きさを変える異能者とか、治癒異能も居たね」
鏡花「与謝野さんと同じ?」
ルイス「重傷を完治することは出来ないよ。でも、戦場では多くの命を救ったね」
──って、僕の話ばかりするのは良くない。
ルイス「せっかくの休憩を、つまらない僕の話で終わらせたらもったいないよ」
ユイハ「つまらなくはないだろ」
敦「そうですよ!」
ルイス「ほら、チョコレートでも食べよ」
このまま話していたら、余計なことまで話しそうだ。
今、この三人に戦争のことを話す意味はない。
敦「ユイハ君、仕事はどう? 難しい?」
ユイハ「……いや、そうでもない。最近は学校でパソコンをやったりするからな」
敦「そうなの!?」
敦君は学校とか行ってないよな。
鏡花ちゃんも、ご両親が生きていた頃は行ってたのかな。
いや、行ってなさそうだな。
ユイハはもちろん行っていない。
僕も行ってないし、ここに居る四人って学歴──。
敦「そういえば、ユイハ君は特務課なんだよね?」
ユイハ「あぁ」
敦「じゃあ異能力持ってるの?」
ブフォッとユイハはお茶を吹き出す。
めっちゃ面白いな。
ユイハ「いや、あるはあるんだが、その、えっと」
ルイス「君達みたいにパッと見せられるものじゃない?」
ユイハ「そう!」
鏡花「条件が厳しい?」
そうそう、とユイハは大きく首を振る。
誤魔化しが凄いな。
見ている分には面白いけど。
ユイハ「……イライラ」
あ、やべ。
ルイス「そういえば依頼とかはないの?」
敦「元々ユイハ君は事務作業だけの予定なので、他の方々が行ってくれてます。簡単な任務ならやってもらおう、って国木田さんが」
他の社員の姿が見えないのは休みか、依頼中だから。
今週に限って面倒な依頼が多いなんてね。
もしも政府からの依頼が来た場合、次に切り出させるのは──。
福沢「済まない、政府からの依頼が来たのだが」
ルイス「僕行ってくるよ。内容は?」
福沢「良いのか?」
もちろん、と僕は資料を受けとる。
まさかこんな週になるとは思ってなかったけど、ガブは楽しそうだし良かったな。
三徹した甲斐があった。
ルイス「それじゃ、行ってきまーす」
鏡花「いってらっしゃい」
僕は福沢さん、敦君、鏡花ちゃん。
そしてユイハに見送られて探偵社を出た。
──次に彼等と会えるのが二日後になるなんて、この時の僕はまだ知らなかった。
…なんだ、この終わり方。
僕の方こそ聞きたいね。
出番がやっと来たと思ったら退場宣言を出されたんだから。
それにしても、俺sideじゃないんだな。
折り返しだし僕の出番が少なくなるからね。
そんな理由なのかよ。
嘘だよ。
…(もう此奴は信じないという瞳)
次回は色々と大変そうだね。
頑張ってね、ユイハ。
あぁ。
最後まで手伝わせてくれ
特務課新人の職場体験、第五話。
ユイハside
その日、俺達はヨコハマを走り回っていた。
理由はルイス・キャロルが行方不明になったから。
探偵社の業務はひとつを除いて凍結し、全員で彼奴を探している。
もう、日は沈もうとしていた。
因みに凍結していない依頼というのは、ルイスが担当した政府からの案件。
社長や太宰治がポートマフィアに捜索を頼んだり、花袋と云う人がハッキングをしまくっていたり。
どれだけ手を尽くしてもルイスの痕跡ひとつ見当たらない。
あんな馬鹿でも、元英国軍で戦神と呼ばれる程の実力者だ。
本気で逃げようと思えば、逃げれる。
でも|異能空間《ワンダーランド》にはおらず、アリスも居場所を掴めていない。
鏡がない場所にいるのは、間違いないだろう。
敦『ユイハ君、此方は駄目だったんだけど……』
ユイハ「俺の方も駄目だ。やっぱり擂鉢街とか、裏組織に総当たりした方がいいか?」
ねぇ、と又三郎の空気が変わる。
敦『ユイハ君は、もう帰っても大丈夫だよ。これは探偵社の問題って、さっき太宰さん達と話し合ったんだ』
確かに、俺は探偵社員じゃない。
特務課でもない。
嘘ばっかだし、本物の仲間じゃない。
でも俺は──。
ユイハ「最後まで手伝わせてくれ」
敦『え……?』
ユイハ「職場体験で仮入社だとしても、俺は探偵社員だ。早く見つけるぞ」
???「君なら、そう云うと思っていたよ」
手からスマホが抜ける。
否、誰かに取られた。
犯人は声で判っていた。
太宰「ということで、ユイハ君は私達と共に行動するから心配いらないよ。君は鏡花ちゃんと引き続きお願いね」
敦『はい!』
電話が切られ、僕にスマホが返ってきた。
太宰「さて、これで君は一人で行動しなくて済むわけだけど──」
ニコニコと太宰治は黒い笑みを浮かべていた。
その後ろには帽子の男がいる。
思わず俺は後退り、少しでも距離を取ろうとした。
太宰「一人の方が色々と都合が良かったかな、ジュール・ガブリエル・ヴェルヌ君?」
ユイハ「──ッ」
太宰「島も崩壊したし、君は消滅していたと思っていた。情報を色々と弄ってまで探偵社に来た理由は何かな?」
疑われている。
俺にとって太宰治はもちろん、ルイスも邪魔だった。
行方不明なのは俺のせいだと思われても仕方がない。
太宰「──!」
ユイハ「力を貸してくれ。俺一人じゃ、ルイスを助けられないんだ」
頼む。
そう俺は頭を下げていた。
太宰がどう思ってるかなんか知らねぇ。
ただ今は、俺に手を差し出してくれた彼奴を救いたい。
帽子「おい、どうするんだ?」
太宰「ユイハ君。私が此処に来た理由は判るかい?」
ユイハ「……判らない」
太宰「君が拐かしたか確かめるのと同時に、君の知識を借りたいからだ」
え、と俺は顔を上げる。
太宰「結果的に、スタンダード島事件では探偵社の勝ちと云えるだろう。しかし私は一度死んだようなものだ」
帽子「手前が一度死んだぁ!?」
太宰「あぁ、うるさい」
そう呟きながら、太宰治は資料を渡してきた。
何度も見た、政府からの依頼の資料。
そして見慣れない封筒。
中には、ある異能組織についての情報が入っていた。
と云っても、拠点ぐらいしか書いていないが。
ユイハ「これは……」
太宰「マフィアが探し当てた。此処にあの人はいる」
又三郎達に教えていないのは確証がない、からじゃないな。
相手の目的が判らない以上、下手に動けないのか。
敵が何処にいるか判ったものじゃない。
太宰「この組織は謎しかない。存在自体、都市伝説のようなものだ」
ユイハ「“七人の裏切り者”とか、戦争で有名な異能者を神とか云って崇める異常者の集まりだろ」
帽子「手前、知ってるのか?」
そりゃ、もちろん知っている。
ユイハ「ジュール・ガブリエル・ヴェルヌ。七人の裏切り者の最後の一人。俺は、彼奴らに崇められる存在だ」
帽子「……つまり?」
太宰「君、そんなに頭悪かったっけ」
帽子「蹴り殺すぞ、手前」
太宰「出来るならやれば? ルイスさんが助けられなくなるだけだよ」
帽子「……チッ」
仲悪すぎだろ。
てか、そんなふざけてる時間ないんじゃねぇか?
太宰「残念ながら普通に潜入することは難しそうでね。中也と私ではどうしようもなかった」
ユイハ「……理由は」
太宰「対異能金属で作られた扉。そして合言葉が必要」
なるほど。
太宰「君ならどうにか出来るかと思ったんだけど、どうかな?」
無理、だとは云わせない雰囲気を太宰治は出していた。
ま、案がないわけではない。
でも、もしも政府に気づかれたら中々に面倒くさいことになるだろう。
太宰「作戦が思い付いたようだね」
ユイハ「あぁ。作戦自体にはそこまで大変なことはないが、証拠隠滅をしてもらいたい」
太宰「任せたまえ。私はこれでも社の信頼と社の信頼と民草の崇敬を一身に浴す男」
帽子「誰が手前を崇拝するか」
太宰「この帽子置き場は無視するとして、具体的な作戦を聞いても良いかい?」
帽子「無視するな!」
それから俺は二人に作戦を話した。
少し驚いていたものの、証拠隠滅は簡単にできるらしい。
ユイハ「そういえばアンタは?」
帽子「あ、自己紹介がまだだったか」
太宰「ちびっこマフィアの中也だよ」
中也「何で手前が俺の紹介してるんだ 」
あ、また喧嘩が始まった。
それにしても中也か。
確か“荒覇吐”の器の名前が中原中也だったな。
てことだが、後書きは一人でやることになるのか?
いいや、僕も居るよ。
…良いのか?
今、アンタ捕まってるだろ。
まぁ、ここはメタい場所だから。
そっか。
まさか中也君が出てくるとはね。
スタンダード島事件には居なかったから、初対面なんだね。
あんなにチビなんだな、中原中也。
子供の姿の君の方がチビだけどね。
そうだな。
あ、次回はルイスを救出するぞ。
残り二話。
最後までユイハに付き合ってあげてね。
そう心配しなくても、大した傷じゃない
特務課新人の職場体験、第六話。
ガブside
日は沈み、また昇り。
俺は|異能空間《ワンダーランド》で準備をしていた。
銃とかナイフとか色々と仕組めるし、ウォークインクローゼットからルイスの外套パクって良かったな。
#アリス#「……ガブ」
ガブ「心配しなくても、ルイスは俺が鏡のあるところまで連れてくる。だから待ってろ」
今回の作戦で重要なのは俺だ。
正直なところ、証拠隠滅が不可能なら助けることは難しかっただろう。
ガブ「行ってくる」
一言だけ告げて、俺は鏡を抜けた。
太宰「げ」
ガブ「……なんだその反応」
太宰「いや別に。君に殺されたこと思い出しただけ」
集合場所に、俺はユイハとしてではなくガブとしていた。
今まで吸収した異能に、分身がある。
どちらも本物の俺で、片方が|異能空間《ワンダーランド》にいれば消滅することはない。
ガブ「俺の姿は?」
谷崎「僕の異能で、とりあえずユイハ君以外は見えないようにしています」
国木田「花袋が防犯カメラをハッキングした。ユイハの姿は残らない」
太宰「ほらね、凄いでしょ?」
ガブ「何でアンタがドヤ顔なんだよ」
はぁ、とため息をつく。
なんかもう、太宰治はいいや。
太宰「敦君や芥川君は別行動にしてもらったよ。その方が良いだろう?」
ガブ「……始めるよ」
もう、話す理由はない。
???「あの!」
声が聞こえた。
振り返るとそこには、一人の女が。
中也「……この女」
太宰「例の組織の長だね」
早速釣れた、と太宰治の声が聞こえた。
女「ガブリエル様ですよね! 私“七人の裏切り者”の皆さんが大好きで……スタンダード島事件で亡くなったとばかり……」
ガブ「落ち着いてくれ。確かに俺はジュール・ガブリエル・ヴェルヌだが、君に好かれるような人物じゃ──」
女「お会いできる日を、ずっと待ち望んでおりました……!」
此奴、話を全く聞かねぇ。
でも接触できれば、此方のもんだ。
ガブ「えーっと、とりあえず離してもらえるか? 俺、ルイスと約束があるんだ」
女「ルイス様と?」
ガブ「早くしないと約束に遅れる。悪いな」
女「待ってください! 実は先程ルイスさんを見かけたんです」
どうやらルイスは事件に巻き込まれて重傷らしい。
それをこの女が面倒見ていると。
よくこんなすぐに嘘が出るな、此奴。
そんなこんなで、俺は例の組織の潜伏場所へとやって来た。
暗証番号が入れられ、対異能金属の扉が開く。
この先に彼奴がいるはず。
ガブ「──!」
異能金属の扉がしまった。
太宰達が入れているから捜索は任せよう。
ガブ「ルイスはどこに?」
女「案内します」
次の瞬間、後頭部に走る痛み。
ガブ「……どういうつもりだ」
女「確かに当たりましたよね? はぁ……ルイス様のようには行きませんか、流石に」
ガブ「やっぱりアンタか。ルイスに毒でも盛ったか?」
女「えぇ」
視界が揺れる。
対異能金属の扉のせいで、ぶち破って逃げるのは無理。
もう奥に行ったから、俺を助けるやつはいない。
女「それでは、また後程お話ししましょうね」
ガブ「く、そが……!」
俺が目を閉じると同時に、銃声が響き渡った。
???「大変そうだな、ガブ」
女「……アンタ、誰?」
???「俺を知らないのか!? 俺は偉大なる大怪盗ルパンを超える男!」
声の主は仁王立ちで格好つけていた。
デデン、と効果音が付きそう。
ネモ「その名もネモ!」
ガブ「……な、んで」
ネモ「何で自身を一度殺した相手を助けるか、という質問で良いか?」
女「邪魔をするな!」
ビルゴ「か、確保!」
ネモ「流石はビルゴだ!」
ビルゴが女を抑え、ボスが即座に縄で縛る。
そういえばボスもビルゴも盗賊を続けていたんだっけ。
ビルゴ「大丈夫ですか、ガブ」
ネモ「この程度で人は死なない。ルイスのために敵地へ足を踏み入れるとは、成長したじゃないか」
二人が温かく声をかけてくれたかと思えば、地面が揺れた。
奥から眼鏡とシスコンが走ってくる。
今のは中原中也が異能を使ったからか。
国木田「今すぐ逃げるぞ、ユイハ。思ったより仲間が多く、俺達だけでは手に負えない」
谷崎「ルイスさんは預かってた鏡で異能空間に送れたよ。太宰さん達が足止めしてくれてるけど、急いで逃げないと」
国木田「……む、其奴らは」
また太宰が何かしたな、と眼鏡はため息をついた�。
ボスは元から俺が苦戦すると知っているような口ぶりだった。
太宰治が何らかの方法で連絡を取り、協力させた。
それも、俺がやられそうな直前に現れるようにして。
ネモ「とりあえず敵が来るからここを出る、ということだな!」
ビルゴ「眼鏡の方、先程の会話から推測するにまだお仲間がいますね?」
国木田「あぁ。合流次第、ネモの異能を使い脱出したい」
ネモ「この大怪盗ネモに任せろ。ガブの仲間なら助けない選択肢はない」
だが、とネモは俺を抱き上げる。
ネモ「貴様らはガブと先に脱出しろ。出血が多いから、早く医者に見せた方がいい」
国木田「……怪我したのか」
ガブ「そう心配しなくても、大した傷じゃない」
谷崎「でも血が……」
大丈夫。
そう云おうとしたが、俺の意識は遠退いていった。
何でボスとビルゴが出てくるんだよ。
僕に関しては出番ゼロだね。
太宰治と中原中也に助けてもらえたからいいだろ。
結局女の目的は何だったんだ?
それ、ここで話す内容じゃないって。
良いだろ、一応あとがきなんだから。
いよいよ最終回だね、次回。
どうなるかは、明日の海嘯にしか判らない。
ま、どうせ探偵社の医務室で目覚めるんだろうけど。
いや、莫迦じゃねぇの!?
特務課新人の職場体験、最終話。
ガブside
目が覚めると、そこは見慣れない天井が広がっていた。
起き上がって辺りを見渡すと、隣の寝台にルイスが寝ている
ガブ「……医務室か」
はぁ、とため息をついてまた横になる。
アジトに入るなり鉄パイプか何かで殴られて、ボスとビルゴが助けに来た。
眼鏡曰く、太宰治が仕組んだと云う。
怪我は多分女医が治した。
ガブ「別に分身だから放置で良かったんだが」
#アリス#『そんなこと云わないの』
ガブ「……#アリス#」
目の前に鏡が浮いている。
ガブ「俺が気絶してからどうなった」
#アリス#『貴方はネモの異能で外に出て、探偵社にて治療。双黒は花袋君のハッキングによって無事に逃げれたわ』
太宰「残念ながら、別の出入り口があったらしくて狂信者達には逃げられてしまったけどね」
ガブ「……まぁ、ルイスを助けられたから十分だろ」
太宰「それもそうだね」
太宰治は近くの椅子に腰掛け、林檎を剥き始めた。
何か鶴にしてるし……暇人かよ……。
太宰「良い知らせと悪い知らせ。どっちから聞きたい?」
ガブ「……良い知らせ……」
太宰「あの女性は捕まえたから君も、ルイスも追われる必要はない。作戦通り君の姿は何処にも残っていないよ」
確かに、良い知らせだろう。
作戦通りコトが進むよう手を回していたし。
でも、問題は──。
ガブ「悪い知らせは、何だ」
太宰「……ジュール・ガブリエル・ヴェルヌの存在を探偵社、そしてマフィアが知った」
そして、と太宰は林檎も刃も置いた。
太宰「ルイスさんが起きない」
ガブ「……女が毒を盛ったと云っていた。医者には診せたのか?」
太宰「診せた。でも治せないそうだ」
まだ完全に終わったとは云えない、と。
ゆっくりするにはまだ早いか。
ガブ「一つ目はどうしようもない。でも、二つ目は対応可能だ」
太宰「……本当かい?」
ガブ「こんなとこで嘘をつく理由がないだろ」
太宰「それはそうだね。で、どうする?」
ガブ「ルイスには悪いが、少し血を貰いたい」
与謝野さーん、と太宰治は色々と手を回してくれた。
女医が血を取るところまでやってくれたし。
後することは簡単だ。
太宰「え?」
与謝野「何してるんだい!?」
カラン、と注射器が床に転がる。
俺はルイスから取った血液を、自分の腕に入れていた。
説明しようにも、視界が歪み始めた。
おぇ、と口元を抑えたら吐血していた。
与謝野「莫迦! 太宰じゃないんだから毒を取り込むんじゃないよ!」
太宰「あれ、地味に貶されてるというか……」
#アリス#『ガブ、必要なものは?』
ガブ「自分でやる。思ったより強くて、分身が持たない」
次の瞬間、視界が暗転した。
目を開くと|異能空間《ワンダーランド》にいる。
本体に戻ったか。
ガブ「……今度は俺が助ける番だ」
待ってろ、ルイス。
それから俺は『どんな薬でも失敗せずに調合することが出来る』異能で、解毒剤を作った。
自分に入れたことで『毒を判別する』異能が発動して、作ることができた。
分身を作る余裕はなかったから、#アリス#に届けてもらった。
起きてすぐに異能を使うのは中々ツラい。
少し休憩をした俺は、現実世界へと戻ってきた。
姿は、太宰治に云われて分身にした。
ガブ「……そういうことかよ」
ため息をつくのは、二回目だろうか。
ガブ「どこまで話した?」
太宰「全部☆」
イラッ、としてしまった。
此奴殺して良いかな。
駄目だよな、知ってる。
ガブ「改めて、スタンダード島の守護神。そして“七人の裏切り者”が一人、ジュール・ガブリエル・ヴェルヌだ」
敦「……何で探偵社に? やっぱり僕のことを憎んで?」
乱歩「否、違うね。ルイスの差し金ってところかな」
ガブ「大正解。流石は世界一の名探偵だ」
俺は、スタンダード島事件から今日まで。
約一ヶ月のことを全て話した。
初めは半信半疑だった社員達だったが、話を聞くにつれ信じてくれた。
ま、太宰治が説明してくれていたからな。
ガブ「ここは良いな、又三郎。俺もお前みたいに、仲間との絆を深めたかった」
福沢「ユイハ……いや、ガブと呼んだ方がいいか?」
ガブ「どっちでも良いぜ」
ではユイハ、と社長さんは言葉を続ける。
福沢「職場体験は本日で終わるが、どうする」
ガブ「どうするって?」
福沢「元の予定通り特務課新人として働くのでも良いと私は思う。だが、貴君さえ良いのなら社は歓迎する」
ガブ「いや、莫迦じゃねぇの!?」
本心だった。
俺みたいな奴を探偵社員にしようとか、馬鹿げてる。
ガブ「そもそも、社長さんが良くたって他の奴らが嫌だろ!」
ナオミ「別に構いませんわ」
谷崎「そうだね。ユイハ君は仕事も、頭の回転も早いから」
賢治「はい! 僕も良いと思います!」
国木田「こういうのは本人の意思を尊重するものだ」
乱歩「僕は何でも良いよ」
与謝野「入ってくれたら外傷だけじゃなくて、毒にも対応できるようになるねぇ」
鏡花「私は、後輩が出来たら嬉しい」
判らない。
太宰「敦君はどう思う?」
敦「……僕は」
人間じゃない俺には、此奴らのことが判らない。
敦「一緒に働けたら嬉しい、です」
何で、俺を受け入れられるんだよ。
俺のせいで探偵社は死にかけた。
太宰治を、一度殺したんだぞ。
気付けばポロポロと、涙が溢れていた。
拭っても拭っても止まることはない。
敦「ねぇ、ユイハは──ガブはどうしたい?」
ガブ「……俺は」
???「探偵社員、神宮寺ユイハか……」
太宰「あ、ルイスさん。体調は如何ですか?」
問題ない、とルイスは欠伸をした。
ルイス「良いじゃん、ガブ。神宮寺ユイハという戸籍は特務課に入るときように作ってあるし、僕のコトは気にしなくて良いから」
ガブ「……でも」
ルイス「結局、僕と#アリス#が君にしてあげれることは少ない。そして正体もバレてる」
これも一つの運命だ。
そう笑ったルイスはとても楽しそうだった。
---
--- 数日後 ---
---
探偵社の事務室。
窓から、昼間の温かい日が差し込む。
国木田「……誰か手の空いてる奴はいないか?」
固定電話を片手に、国木田さんはため息をついた。
敦「どうかされたんですか?」
国木田「ネモとビルゴが脱獄した」
鏡花「……また?」
ホント相変わらずだな、ボスとビルゴは。
つまり、依頼は二人の捕縛か。
乱歩「僕は焼きたてのたい焼き食べてるから無理」
賢治「むにゃむにゃ……もう食べれないです……」
ナオミ「お兄様、鯛焼きの餡がついてますよ」
谷崎「ちょっとナオミ!?」
与謝野「うーん……やっぱりこの写真も貼ろうかねぇ……」
敦「……僕達が行くしかないね」
鏡花「うん。ユイハも行く?」
俺は少し考えて、立ち上がる。
ボスとビルゴは何度も見ているし、敦みたいに扱いは心得ている。
まぁ、すぐ戻ってくれるだろ。
太宰「行ってらっしゃい、ユイハ君」
社長「心配不要だとは思うが、気を付けてな」
俺は扉の前で足を止めた。
ユイハ「──行ってきます!」
ガブ改めユイハです。
はい、てことで完結…なのか?
疑問系だねぇ。
あ、ルイスだよ。
だって総集編でオマケあるでしょ?
つまりまだ撮影は残ってるわけだ。
あまり遅くなると良くないからって省いた部分あるからね。
それが総集編になんじゃないかな。
知らんけど。
そういえば、太宰が切ってた林檎ってどうなったんだ?
スタッフが美味しくいただきました。
あ、なるほど。
ほら、一応次回の話をしよう。
次回は総集編。
いつも通りオマケがつくから、最後だけでも是非見てくれよな。
このシリーズは暫く完結しないらしい。
省いた部分を少しずつ書いていく、って海嘯が。
なるほど。
まぁ、気長に待っていてくれ。
どうせ亀更新なんだから。
それじゃ、また会おうな!
以上、ジュール・ガブリエル・ヴェルヌ/神宮寺ユイハと──!
──ルイス・キャロルでした!