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目次
エンドロールのない書物1/3
バーサーカーは目が醒めると、生首になっていることに気がついた。
『………』
思考を止めること、進めることを繰り返し、
繰り返し行う。
不意に、背後から持ち上げられて優しく、ふわりと抱えられた。
においをかぐ。
予想通りの正体に、不意をつかれつつも、遅れ馴染んで安堵が広がった。
『………』
「………」
『………、わたし、しぬの、?』
真っ直ぐに前を見たまま、言葉を発する。
頭の後ろの心音の熱を聴く。
自分を抱えて歩く、他人に近い、別別になったいつかの自分は、一瞬呼吸を留めてから、ふはっ、と笑って、身体を細かく震わせた。
愉快だと笑う声が、降る。
ふっ、ふふっ…、と
零れる笑いを噛み殺しながら、小さく前のめりに頭を抱き抱えなおした。
「……ふっ、…ふふ、……
………っ、はーーーーーーーーー」
悲しい匂いがまじる。
さびしい心音がまじる。
「………しなないよ。
しねないよ。
わたしたちはそういう生き物じゃないか」
『………それも、そっか。』
『じゃあ何処へ?』
ふふん、と鼻を鳴らす音がする。
おもしろい、と思っている匂いがする。
大言壮語で語り出す。
「王水の溜まる海、火を噴く水面、空を写す鉱物水の大海。
煙立ち、花が浮かび、足を入れたら直ぐにしぬような強薬の水海。
………綺麗なまんまのウユニ塩湖みたいなとこらしいよ。
綺麗なものを、みたいと思ってさ。
あのときみたいに。」
『わたし、睡ったはずだったのに。』
どうして起こしたのか分からない。
「あのときは、やるべきことが残っていたから。それに、君のこと、オリジナルかと思って怖かった」
『…………チッ』
舌を打つ。
バーサーカーの演技は拙かったらしい。
「あーーー、ん、どっから話すかなーー」
歩く。
歩く。
歩く。
「わたしたちについて、話そう」
步を進めるたびに、視界は揺れる。
酔いそうな気持ち悪さと、天気のいい日に陽に当たりながら電車の窓から眺める様な心地良さで、頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。
黒くなったキャスターが、言葉を使うための息を吸った。
「ここどこだ。」
ここ数日体調を崩して
眠る事が多くなっていた。
ここ最近、眠る事が多くなっていた。
安心して、眠る事が多くなっていた。
しぬかもしれない。
そうやってずっと過ごしてきた昔話の頃と比べると、不思議な世の中になった。
昔いた場所は、人権がなかった。
いつしぬか分からないという恐怖で
意識を失う以外は占められていた。
しなないようにすると考え続けるのは
酷いストレスがかかった。
今は、温かい布団、温かい食事、温かい衣服、
、、、温かい。
すべてが温かくて、柔らかい。
人を殺すと罰せられる世界にやってきた。
きっと、殺人を罪だとして禁じた人は
意外と優しい人かもしれないなと。
変な妄想をする暇さえ与えられていた。
ひさびさに迷子になった。
わたしをここに招待した人がいるらしい。
どうやらそれは、大事な恩人ではないらしい。
においをかぐ。考える。
観測者の偶然、だろうと決めつけた。
迷子、といっても街の中やショッピングモール、遊園地などで誰かと逸れたわけではない。
何処かは分からないけれど、ひとりでに
迷子だというのは分かる。
こういうときの対処法も
なんとなく理解している。
ただ、ひたすら歩くこと。
出口はない。
少なくとも、見る事、見つけられるような、私達が考えるような出口はない。
あったとしても、出たら全く知らない違う場所に行くこともある。
7年ほど閉じ込められることもある。
去年の春、それで魔女はいつの間にか
大分か何処かの地獄谷についてしまって
海路で戻るのが大変だったと愚痴っていた。
今から船でしか日本に帰れないところに行ってしまったら。
困る。困りすぎる。まじでやめてほしい。
ここがなにかは分からないけれど、どうしたらいいかは慣れてきた。
去年まであったぼろぼろの塔は壊れて瓦礫になってしまった。
わたしの脳みそが生き残るためだ。わたしが
生き残れるためなら、知らない人がしんでも
わたしは知らないふりをして生きていけるだろう。
隣の家の中で人殺しが起きても
明日日常が吹き飛んでも
ひとびとは分からない。
日常はこのままだと思っている人が多いかもしれない。
なくなった人や日常が、家が、ものが、
当たり前が
目を瞑って開けたら元に戻ってるかも。
ころすこと、こわすこと、
建てた城が崩れるのはあっという間で
赤ん坊でも積み木でできる。
なおすこと、うみだすこと、とりもどすことは
あまりに難しくて、途方も無くて、
ながく、時間のかかる事だった。
あるく。あるく。あるく。
歩いていたらヤバいものと昨夜遭遇した。
一年半前に魔物との戦闘で死んだ
白色かみのランサーと、目があった。
もともとは同じオリジナルからつくられた者同士だ。
なのに向こうのほうが背が高い気がして
羨ましく、妬ましい。
私は驚いた顔をした。
向こうも、あ、という顔をした。
なんでいるの?というか、お前死んだよな?
そう思って見つめていたら
なんでいるの?というか、お前寝てたよな?
というふうに見つめられた。
こまった。
これが昨夜のことで、わたしはまだ
こっちで少しまだ迷子を続けていて、
あるくしかなくて、
白色かみのランサーがあとを黙ってついてきている。
困った。あれはしんだはずなんだ。
こっちに持ち帰った方がいいのかどうか。
魔女に見せてみたい気もするし、
見せたらYOMEはきっと泣くだろうし、
大事な恩人は困惑するだろう。
お前らまだ増えるのかと。
困った。ついてくるなよ、、、!とは思うけど
そりゃここは何もないし
展開、を望むなら私を追うのは当然だし
私の方が現実との繋がりが強い分帰る確率が高いし、
撒いてしまいたいが身を隠せるほどのものはない。
ぐちゃぐちゃになった瓦礫と鉄屑ばっかの広くて黒い空間だ。少し、黒曜石とか、
黒色のガラスや水槽に似ている空間だ。
静かな場所だ。
たまに遠くで爆発音や、何かが崩れる音はあるけど。
話をしようかと思った。けど、ほんものかわからない。得体のしれないものに話しかけるのはまだ怖い。もう少し様子を見たい。
あるく。あるく。あるく。
あるくしか今はできないし、したくない。
でも、ひとりじゃなくて、少し安心した。
なんとなく帰る方法が思い当たってきた。
だけどまだ、あるいていたい。
わたしは日常も非日常もすきだけど、なかなかずっとあるいていられるなんてことはどちらにもない。たまにはいいだろう。
わたしはしなない。まだしなない。
しにかけたとしても、しんでたまるかと思う。
まだ恩人と一緒にたくさん遊びたい。
魔女と手作りクッキーもつくりたいし
YOMEの総合ステータス値も追い抜きたいし
わたしの現実世界の辻褄合わせも
非現実な場所で請け負ったとあるしごとも
やりたいことがたくさんある。
恩人と魔女にはわるいけれど、もう少し
寝たり、あるいたり、散歩したり、
いろんなものを見て考えたい。
恩人は、わたしがまたどこかへ行ったかと焦ったり寂しくなったり呆れたりするだろうか。
自意識過剰だよな。たぶん大丈夫だ。
、、、たぶん。
もう何回もやってきたし、なんとなく察してくれるかもしれないし。なんとか、なる、はず。
はず。
出る方法がわかった。なんとなくだけど。
問題は、後ろの彼女を連れて行くかどうか。
つれて匿えるのは基本3人まで。
今で、私と、魔女と、YOME。
ここに1人加えるのはリスクがある。
場合によっては、1人減ってしまう。
見る事ができるのは、目が2つで、人2人。
これ以上は目をかけられない。
置いていく、のは癪だ。
じゃあプラットホームをつくるか。
管理問題があるけれど、そこに紐付けられればリスクは減る。
後ろの彼女の意思は、どうだろう。
なにをのぞんでいるんだろう。
もう少しあるいて考えることにした。