逆ハーレムです!主人公の子は恋愛をしたことがなくて、とても恋愛音痴です。男の子はすとぷりの6人ですです。その6人が主人公を恋に落とそうとする物語です!主人公の子は、もともと心臓が弱いです。途中で倒れてしまいます…話しと話の間で何が起こっているかを想像しながら見てみてください!
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目次
箱入り姫と6人の騎士(ナイト)〜恋を知らない国宝級美女〜 ①
第1話:運命のシェアハウス
「ちぐ、無理しちゃダメだよ? 具合が悪くなったらすぐ言うこと」
玄関先で、すとぷりのリーダー・ななもり。が心配そうに私を覗き込む。
私の名前は「ちぐ」。生まれつき少し心臓が弱くて、ずっと大切に育てられてきた。
鏡を見るたびに周りが「国宝級の美少女」なんて騒ぐけれど、私にはその意味がよくわからない。ましてや「恋愛」なんて、本の中だけのファンタジーだと思っていた。
今日から私は、縁あってすとぷりのメンバーが暮らすシェアハウスで、彼らの活動をサポートしながら一緒に暮らすことになった。
「大丈夫だよ、なーくん。…それにしても、ここ、すごく賑やかだね」
リビングに入ると、鮮やかな赤色の髪をした莉犬が真っ先に駆け寄ってきた。
「わあ、君がちぐちゃん!? 噂には聞いてたけど、マジで可愛い…! 守ってあげたくなっちゃうな」
「莉犬、距離近いって。ちぐがびっくりしてるだろ」
クールにたしなめるのは、青色担当のころん。でも、その耳が少し赤くなっているのを私は見逃さなかった。
「…ちぐ。あんまり無理すんなよ。お前のこと、俺らが全力で甘やかしてやるから」
オレンジ色の髪を揺らして、ジェルが優しく微笑む。
黄色担当のるぅとは、私の顔をじっと見つめて不思議そうに呟いた。
「ちぐちゃんって、本当に恋とか興味ないんですか? こんなに綺麗なのに…なんだか、僕が教えたくなっちゃいますね」
「おいおい、抜け駆け禁止だぞ」
桃色の髪のさとみが、私の頭をポンポンと撫でる。その大きな手のひらの温かさに、胸の奥が少しだけ、トクンと跳ねた。
「あの…心臓、大丈夫?」
みんなが口々に心配してくれる。
でも、この胸の鼓動は病気のせいじゃない気がする。
恋愛音痴な私と、個性的すぎる6人の王子様たち。
私の平穏だった日常が、ゆっくりと、でも確実に色づき始めた。
箱入り姫と6人の騎士 ②
第2話:沈黙の聖夜(イブ)〜
12月の冷たい風が、病室の窓をガタガタと震わせていた。
かつて「国宝級」とまで称えられたちぐの美貌は、今や透き通るような白磁の肌に、浮き出た青い血管が痛々しい。
「……はぁ、……っ、……な、くん……」
酸素マスク越しに、ちぐが弱々しく助けを求める。
「ここにいるよ、ちぐ。大丈夫、怖くないからね」
ななもり。は彼女の冷え切った指先を、自分の両手で包み込むように温めた。その隣で、莉犬はこらえきれず、ちぐの布団に顔を伏せて肩を震わせている。
「……ねえ、なーくん。僕、決めたよ」
病室の隅で、ずっと影のように立っていたるぅとが、静かに口を開いた。その瞳には、絶望ではなく、どこか狂気すら孕んだ「光」が宿っている。
「るぅと……? 何を決めたって……」
ななもり。が振り返る。るぅとは、ポケットから一枚の書類を取り出した。そこには『ドナー同意書』の文字が並んでいる。
「僕の心臓、ちぐちゃんにあげます。検査の結果、僕の心臓は彼女に完璧に適合する。僕なら、彼女を救えるんです」
「……っ、ふざけんなよ!!」
リビングから様子を見に来ていたころんが、るぅとの胸ぐらを掴み上げた。「お前が死んでどうすんだよ! 6人で、ちぐを守るって約束しただろ!?」
「守る方法が変わるだけですよ」
るぅとは、ころんの手を冷ややかに振り払った。その表情は、聖者のようでもあり、悪魔のようでもあった。
「僕が彼女の中で生き続ける。彼女が恋を知り、誰かを愛し、一生を終えるその瞬間まで、僕の鼓動(リズム)が彼女を支える……。これ以上の『独占』、他にありますか?」
その言葉に、全員が息を呑んだ。それは自己犠牲という名の、あまりにも重すぎる執着(しゅうちゃく)。
「るぅと……お前、本気か?」
さとみが低い声で問う。るぅとは、ただ優しく、眠るちぐを見つめて微笑んだ。
「当たり前じゃないですか。僕は、彼女のためなら何だって捨てられる。……僕の心臓(いのち)を、彼女に捧げさせてください」
恋愛音痴なちぐは、まだ知らない。
自分の命を守るために、一人の騎士がその命を賭した「究極の愛」を選んだことを。
箱入り姫と6人の騎士 ③
〜第3話:崩壊する絆〜
「……っ、ふざけんなよ!!」
静まり返った病室に、ころんの怒号が響いた。ころんはるぅとの胸ぐらを掴み、そのまま壁に激しく叩きつける。
「お前一人がヒーローにでもなるつもりかよ!? ちぐを救って、自分だけあいつの体の一部になって……残される俺たちの気持ち、考えたことあんのかよ!」
「……離してください」
るぅとは抵抗もせず、冷めた瞳でころんを見つめ返した。その冷静さが、余計に周囲の感情を逆なでする。
「離さない! お前が死んだら、ちぐは一生自分を責めるんだぞ! そんなの『救い』でもなんでもねぇだろ!」
「じゃあ、このまま彼女が死ぬのを黙って見てろって言うんですか!?」
るぅとが初めて声を荒らげた。その瞳には、狂おしいほどの悲しみと決意が混ざり合っている。
「適合するのは僕だけなんだ! 僕が死ねば、ちぐちゃんは生きられる! だったら、答えは一つしかないじゃないですか!」
「いい加減にしろ!」
二人を引き剥がしたのは、さとみだった。だが、そのさとみの拳も震えている。
「……るぅと、お前の言い草はただの自己満足だ。ちぐの体に自分を刻み込んで、永遠に縛り付けたいだけだろ。それは愛じゃなくて、呪いだ」
「呪いでもいい……!」
るぅとは床に膝をつき、顔を覆った。
「彼女が生きていてくれるなら、僕を恨んでも、呪ってもいい。……ただ、あの笑顔を消したくないんだ……っ」
「……みんな、やめてよ」
莉犬が、ちぐのベッドの横で声を殺して泣いていた。
「ちぐちゃんがこんなの聞いたら、悲しむよ……。でも、俺……るぅとくんがいなくなるのも、ちぐちゃんがいなくなるのも、どっちも嫌だよぉ……」
最年長のななもり。は、怒鳴り合うメンバーにも、泣きじゃくる莉犬にも声をかけられず、ただ真っ白な顔で立ち尽くしていた。
「……俺たちは、ちぐを守るために集まったはずなのに。……なんで、バラバラになっちゃうんだよ」
ジェルは窓の外を見つめたまま、低く呟く。
「……結局、俺たちは誰も、ちぐを幸せにできないのかもな」
かつて最強の絆で結ばれていた6人の騎士。
だが、一人の少女の命という重すぎる天秤を前に、彼らの絆は音を立てて崩れ始めていた。
病室のベッドで、ちぐだけが何も知らず、浅い呼吸を繰り返している。
彼女の命を繋ぐための「最悪で最高の選択」が、彼らを修復不能なまでに引き裂こうとしていた。
箱入り姫と6人の騎士 ④
昼間の激しい怒号が嘘のように、深夜の病室は静まり返っていた。
仲間割れし、互いに顔を合わせることすら拒むようになった5人は、それぞれの部屋や廊下の隅で、癒えない傷を抱えて蹲っている。
そんな中、るぅとだけが、音もなくちぐの枕元に立っていた。
「……みんな、酷いですよね。僕がこんなに君を想っているのに」
るぅとは、サイドテーブルに置かれた『最終承諾書』に、迷いのない手つきでペンを走らせた。これで、明日の朝には手術が始まる。彼の命と引き換えに、ちぐの心臓が再び力強く脈打つことが確定した。
「ちぐちゃん。起きて……なんて言いません。君が目覚める時、僕はもう言葉を届けることはできないから」
るぅとは、ちぐの細い手首をとり、自分の胸に押し当てた。
トクン、トクン……。
まだここにある、彼の最期の鼓動。
「ねえ、聞こえますか? これが明日から、君のものになる音ですよ。君が悲しい時は僕が代わりに泣いて、君が嬉しい時は僕が一緒に弾むんです」
るぅとの瞳から、一筋の涙がちぐの手にこぼれ落ちた。
それは自己犠牲への恐怖ではなく、彼女が「自分以外の誰か」と恋に落ちる未来への、狂おしいほどの嫉妬だった。
「……ずるいかな。でも、これで君は一生、僕から逃げられない。僕を愛さなくてもいい。ただ、僕を忘れることだけは許さない」
るぅとは、ちぐの耳元に唇を寄せ、呪文のように、あるいは祈りのように囁いた。
「愛してるよ、ちぐ。……僕の命(すべて)、君にあげる」
その時、閉ざされていたちぐの瞳が、微かに、本当に微かに震えた。
だが、その視線が合うことはない。
るぅとは最後に一度だけ、彼女の額に深い、深い口づけを落とし、振り返ることなく部屋を後にした。
翌朝、ナースステーションに届けられた承諾書を見て、ななもり。たちは愕然とする。
「るぅとのやつ……勝手に……!!」
止める間もなく、ちぐとるぅとを乗せた二つのストレッチャーが、運命の重い扉へと吸い込まれていった。
箱入り姫と6人の騎士 ⑤
朱(あか)に染まる朝〜
手術室の上の「手術中」という赤いランプが、冷たく、そして残酷に廊下を照らしている。
その赤は、まるでるぅとが流そうとしている血の色のようで、ななもり。は正視できずに顔を伏せた。
「……あいつ、最後まで自分勝手なんだよ」
ころんが、震える声で壁を蹴った。
「仲間割れしたまま……言い返させてもくれないで、一人で勝手にヒーローになってさ。残された俺たちが、どんな顔してちぐの隣にいればいいんだよ……!」
「……これ、見て」
莉犬が、るぅとの控室に残されていた一通の手紙を見つけ、震える指で差し出した。そこには、5人それぞれの名前と、最後に『ちぐちゃんへ』と書かれた封筒が添えられている。
ななもり。が代表して、震える手で中身を開いた。
『みんなへ。
喧嘩したまま行くのは、僕らしいかもしれませんね。
でも、これが僕の精一杯の「わがまま」なんです。
ちぐちゃんの心臓が止まるのを待つなんて、僕にはできなかった。
僕の心臓が彼女の中で動く限り、君たちが彼女を抱きしめる時、僕も一緒に彼女を感じられる。
……ずるいって怒ってください。でも、ちぐちゃんを、僕の分まで狂うほど愛してあげてください。
彼女を泣かせたら、僕が内側から暴れますからね。』
「……バカ野郎」
さとみが、手紙を奪い取るようにして読み、声を殺して泣いた。
「呪いだって言っただろうが……。こんなもん、一生忘れられるわけねーだろ……っ」
ジェルは、ちぐが入っている手術室の扉にそっと手を触れた。
「ちぐ。……お前、起きたらびっくりするだろうな。自分の胸の中で、あいつが全力で生きてるんだから」
数時間が経過し、冬の鋭い朝日が廊下の端から差し込んできた頃。
手術室のランプが、静かに消えた。
重い扉が開くと、疲れ切った表情の医師が出てくる。
「……移植は、無事に終わりました。ちぐさんの心臓は、新しい主(あるじ)を受け入れ、力強く動き始めています」
安堵の溜息とともに、5人は崩れ落ちるように座り込んだ。
ちぐの命は繋がった。
「国宝級」と謳われた彼女の美しさは、これからは「一人の少年の命」という代償を背負って輝き続ける。
「……行こう。ちぐが目を覚ます時、誰もいないのは可哀想だろ」
ななもり。の言葉に、5人は涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。
彼らの絆は、一度は壊れた。けれど、るぅとの「鼓動」を共有することで、より深く、より歪で、逃れられない愛へと形を変えていく。
箱入り姫と6人の騎士 ⑥
疼(うず)く鼓動〜
「……ん、……っ」
白い天井。鼻をつく消毒液の匂い。
数週間の長い眠りから、ちぐはようやく瞳を開けた。
「ちぐ! 気がついたのか!?」
真っ先に駆け寄ったのは、目の下に隈を作ったななもり。だった。続いて莉犬、ころん、さとみ、ジェルが、壊れ物を扱うような手つきで私の周りを囲む。
「よかった……本当に、よかった……」
莉犬が私の手を握りしめ、ボロボロと涙をこぼす。
でも、私は不思議だった。
あんなに苦しかった胸の痛みが、嘘のように消えている。それどころか、今まで感じたことのないほど、力強く、激しい鼓動が胸の奥で刻まれているのだ。
「……あの、るぅとくんは……?」
私が弱々しく尋ねた瞬間、5人の動きがピタリと止まった。
一瞬の沈黙。彼らは互いに顔を見合わせ、何かを隠すように視線を逸らす。
「るぅとは……今、ちょっと遠くに行ってるんだ。ちぐを助けるために、頑張ってくれたから」
ジェルが無理に作った笑顔で、私の頭を撫でた。
その時だった。
(トクンッ!!)
私の胸の奥で、心臓が跳ねるように大きく脈打った。
それは、るぅとくんの名前を出した瞬間に反応したかのような、奇妙な熱を帯びていた。
(……なに、これ……?)
それから数日。退院に向けてリハビリが始まったけれど、私の体には「私じゃない何か」が混ざっている感覚が消えない。
例えば、黄色い花を見た時。
私の意志とは無関係に、胸が締め付けられるほど苦しくなる。
例えば、夜、一人で眠ろうとする時。
耳の奥で、聞き覚えのある優しい声が「ちぐちゃん」と囁く気がして、飛び起きる。
「……るぅとくん……なの?」
自分の左胸にそっと手を当てる。
そこにある鼓動は、私の知っている「弱い私の心臓」のリズムじゃない。
もっと独占欲が強くて、私を縛り付けるような、激しく甘いリズム。
「ちぐ、どうしたの? また胸が痛む?」
さとみが背後から抱き寄せ、私の胸元に耳を当てる。
「……落ち着けよ。あいつは、ちゃんとここで生きてるから」
さとみの言葉に、私はゾクりと背筋が凍った。
恋愛音痴な私でも、流石に気づき始めていた。
私の命を繋いでいるのは、単なる「臓器」じゃない。
私を愛し、私を永遠に手放さないと決めた、るぅとくんの執念そのものなのだと。
「……逃げられない、んだ」
私がそう呟いた瞬間、胸の鼓動は満足げに、トクン、と一度高く跳ねた。
箱入り姫と6人の騎士 ⑦
嫌!……るぅとくんの心臓なんでしょ……? ねえ! 戻してあげて……っ!」
退院したばかりのシェアハウス。自分の胸に手を当て、狂ったように叫ぶちぐの声がリビングに響き渡った。
「私はどうなってもいい……っ、私、こんなの望んでない! るぅとくんを返してよ!!」
あまりの衝撃に、ちぐの足の力が抜け、床に崩れ落ちる。その華奢な肩を、ななもり。が痛いほどの力で抱きしめた。
「落ち着いて、ちぐ……! 無茶言わないで。もう、戻せないんだ……」
「離して! 嫌だ、嫌だ!!」
ちぐは泣き叫び、自分の胸をかきむしろうとする。その手を、さとみところんが左右から強引に押さえつけた。
「やめろ! せっかくあいつが命がけで守った体に、傷つけるんじゃねぇ!!」
さとみの怒鳴り声は、泣いているようにも聞こえた。
「ちぐ……聞いて」
莉犬が、ちぐの目の前に膝をつき、その濡れた頬を両手で包み込む。
「るぅとくんはね、死んだんじゃないんだよ。君の中で、今も生きてるの。君が泣けばるぅとくんも悲しむし、君が笑えば、あいつの心臓は喜んで動くんだ……」
「……違う。そんなの、るぅとくんじゃない……っ」
ちぐが首を横に振るたび、ドクン、ドクンと、胸の奥で鼓動が激しく跳ねる。まるで、彼女の絶望に呼応するように。
「ちぐ。お前はもう、俺たちの『共有物』なんだよ」
ジェルが、冷え切ったちぐの背中を、這わせるように撫で上げた。
「るぅとの命を宿した、俺たちのたった一人の宝物。……お前が死ぬことは、俺たちが許さない。るぅとの心臓が、それを許さないんだ」
「……う、あぁ……っ」
ちぐは絶望に瞳を濁らせ、自分の胸の音を聞いた。
恋愛音痴だった彼女が、初めて「愛」という言葉の重みを知った瞬間。それは、一人の少年の命を食らって生き続けるという、あまりにも残酷で甘美な「呪い」の始まりだった。
「……いい子だ。もう、どこにも行かせないからね」
ななもり。が、ちぐの耳元で優しく、逃げ場を塞ぐように囁いた。
箱入り姫と6人の騎士 ⑧
拒絶の檻〜
「触らないで……っ!」
リビングに、ちぐの悲痛な叫びが響く。
良かれと思って、栄養満点のスープをスプーンですくって口元へ運ぼうとしたるぅとの親友・ころんの手を、ちぐは激しく振り払った。
ガシャリ、と音を立てて床に散らばる陶器の破片。
「ちぐ……。一口でもいいから食べて。身体に障るよ」
ななもり。が宥めるように一歩近づくが、ちぐは狂ったように首を振って、部屋の隅へと後ずさる。
「嫌……! みんな、るぅとくんを殺してまで私を生かしたかったの!? 酷いよ……そんなの、愛じゃない!!」
ちぐは自分の左胸を、服の上から強く握りしめた。
ドクン、ドクン……。
怒りに任せて叫ぶたび、自分のものではないような力強い鼓動が、内側から彼女を突き動かす。それが何よりも、彼女を追い詰めていた。
「……殺したなんて、人聞きの悪いこと言わないでよ」
さとみが、低く冷めた声で言った。その瞳には、かつての優しさはなく、昏い執着の色が混じっている。
「あいつが勝手に決めたんだ。俺たちだって、あいつを失いたくなかった。……でも、あいつの心臓がお前を選んだんだよ。お前はもう、あいつの『所有物』なんだ」
「違う!! 私は私よ!!」
「いいや、違うね」
ジェルが背後から音もなく近づき、ちぐの細い腰を強引に抱き寄せた。
「その心臓が動いている限り、お前はるぅとの一部だ。そして、るぅとがいない今、お前を愛して守るのは……俺たちの義務なんだよ」
「……はなして、……っ、苦しい……」
ちぐの顔が苦痛に歪む。
心臓が、彼女の拒絶に反応するように、ギリギリと締め付けるような痛みを発した。まるで、内側にいるるぅとが「僕を拒まないで」と泣いているかのように。
「ほら、無理するから。……おいで、ちぐちゃん」
莉犬が、感情の消えた笑顔で両手を広げる。
「俺たちが、全部やってあげるから。歩くのも、食べるのも、寝るのも……。君はただ、俺たちの真ん中で呼吸してればいいんだよ」
逃げ場のない、豪華で残酷なシェアハウス。
恋愛音痴だった少女は、愛されることの恐怖に震えていた。
5人の騎士たちは、彼女を愛しているのではない。彼女の中に残る「仲間」の影を、狂ったように追い求めているだけなのかもしれない。
「……お願い、一人にして……」
ちぐの絞り出すような願いは、5人の分厚い執愛(しゅうあい)の壁に跳ね返され、誰にも届くことはなかった。
箱入り姫と6人の騎士 ⑨
終わらない逃走〜
嵐の夜だった。
5人がリビングで、これからの「ちぐの管理計画」について話し合っている隙を突き、彼女は裸足のまま裏口から飛び出した。
「はぁ、はぁ……っ! 嫌……もう、あそこには戻りたくない……!」
冷たい雨が、国宝級と謳われる美しい顔を叩く。濡れたパジャマが肌に張り付き、体温を奪っていく。
でも、今の彼女にとって、凍えるような雨風よりも、5人の執拗なまでの「愛」という名の監視の方が、よほど恐ろしかった。
(ドクンッ……! ドクンッ……!!)
走り始めて数分。胸の奥で、心臓が警鐘を鳴らすように激しくのたうち回った。
「……っ、るぅとくん……ダメだよ、邪魔しないで……!」
心臓が痛い。まるで内側から「行かないで」「僕を一人にしないで」と、るぅとの声が直接脳内に響いてくるようだ。
恋愛音痴だった彼女が、初めて自分の意志で選んだのは、誰かを愛することではなく、「彼らから消えること」だった。
「……ちぐ! どこだ、ちぐ!!」
遠くから、ななもり。の焦燥に満ちた叫び声が聞こえる。
ライトの光が、暗い森を切り裂く。さとみやころんたちの足音が、刻一刻と近づいてくる。
「見つけた……!」
背後から伸びてきた力強い腕が、ちぐの細い腰を強引に引き寄せた。ジェルだ。
「離して! お願い、放っておいてよ!!」
「ダメだ。お前が死んだら、あいつの心臓も止まるんだぞ。そんなこと、俺たちがさせるわけないだろ!」
ジェルに組み伏せられ、泥まみれになりながらも抵抗するちぐ。そこへ、他のメンバーも次々と到着した。
「……ちぐ、ひどいよ。俺たち、こんなに君を想ってるのに」
莉犬が、雨に濡れて透き通るような冷たい瞳で、ちぐを見下ろす。
「もう二度と、外には出さない。……分かった?」
ななもり。の声は、優しさを完全に失い、絶対的な支配者の響きを帯びていた。
その瞬間、ちぐの胸の鼓動が、ピタリと穏やかになった。
まるで、連れ戻されることが決まったことに、るぅとの心臓が「安心」したかのように。
「……あ、……ぁ……」
絶望のあまり、ちぐの意識が遠のいていく。
気を失うちぐを抱き上げた5人は、二度と彼女が逃げられないよう、シェアハウスの最上階にある「窓のない部屋」へと彼女を運んでいった。
箱入り姫と6人の騎士 ⑩
命の返還計画〜
窓のない、美しい監獄。
ちぐは、ベッドの横で自分の手を握りながら眠る莉犬の寝顔を、感情の消えた瞳で見つめていた。
(……この心臓(るぅとくん)がある限り、私は彼らの『所有物』でしかない)
胸の奥で、トクン、と力強く跳ねる鼓動。
それは、るぅとの執念であり、5人を狂わせている元凶。
恋愛音痴だったちぐが、初めて導き出した「愛への答え」は、あまりにも極端なものだった。
(……だったら、私がドナーになればいいんだ)
「みんなには秘密だよ、るぅとくん」
ちぐは、自分の左胸にそっと指先を立て、なぞるように呟いた。
彼女の計画はこうだ。
自分がこの命を絶てば、この「健康で、適合性の高いるぅとの心臓」は再び取り出される。それを、病気で苦しむ誰か――あるいは、るぅとの意志を継ぐにふさわしい誰かに繋ぐ。
そうすれば、自分は自由になれる。そして、るぅとの心臓も、5人の「執着」という呪いから解放されるはずだと。
「ちぐ? 起きてたの?」
目を覚ましたななもり。が、優しく、けれど逃がさないようにちぐの肩を抱き寄せた。
「お腹空いてない? 今日はころんが、ちぐの好きなオムライスを作ってるよ。……あー、して食べさせてあげるからね」
「……うん。楽しみにしてるね」
ちぐは、初めて逆らわずに微笑んだ。
その「国宝級」の笑顔に、ななもり。は一瞬見惚れる。
だが、その微笑みの裏にある決意には気づかない。
(私が死ねば、この心臓はまた、誰かのものになる……。それでいい。それで、全部終わるんだ)
ちぐは、5人が用意した豪華な食事を、毒を喰らうような気持ちで口に運ぶ。
体力をつけ、検査の結果を「最高」の状態に保つために。
彼らが自分を「最高の宝物」として磨き上げれば上げるほど、皮肉にもドナーとしての価値も上がっていく。
「ちぐ、最近すごく聞き分けがいいね。やっと、俺たちの愛が伝わったかな?」
さとみが、ちぐの首筋に顔を埋め、独占欲を確かめるように深く吸い込む。
「……そうかもね」
ちぐは、さとみの背中に手を回しながら、心の中でカウントダウンを始めた。
5人の騎士たちが、自分たちの「お姫様」が「自分たちを捨てるための準備」をしているとは夢にも思わずに、狂おしいほどの寵愛を注ぎ続けている。
箱入り姫と6人の騎士 11
禁忌の再会(リバース)〜
「……始めてください。私の命を、彼に」
真っ白な手術室。ちぐは意識が遠のく中で、隣の台に横たわるるぅとをじっと見つめていた。
特殊な保存処置によって、「眠り姫」のように時を止めていたるぅと。その冷たい胸の中に、再び自分の鼓動を還す。
「ちぐ、やめろ! こんなの、るぅとだって望んでない!!」
手術室の外、強化ガラスを叩きながら叫ぶのはななもり。だ。さとみも、ころんも、莉犬も、ジェルも、血の気の引いた顔でその光景を凝視している。
彼らが愛した「国宝級美女」の胸が、今まさに切り開かれようとしていた。
「……いいえ。るぅとくんは、私の心臓になってから、ずっと泣いていたわ」
ちぐは、麻酔が効き始める寸前、ガラス越しの5人に最期の微笑みを向けた。
「みんな。……るぅとくんを、もう一度、すとぷりにしてあげて」
執刀医の手が動き、ちぐの胸から、かつてるぅとのものだった「あの心臓」が取り出される。
一瞬、ちぐの心電図がフラットになった。
ピーーー……という乾いた音が、5人の耳を突き刺す。
「ちぐ……!!」
莉犬が床に崩れ落ち、嗚咽を漏らす。
しかし、奇跡はその瞬間に起きた。
取り出された心臓が、るぅとの胸へと移植された直後。
(ドクン……)
微かだが、確かな脈動。
死に体に近かったるぅとの体が、ちぐの温かい血と鼓動を受け入れ、赤みを帯びていく。
それと同時に、心臓を失ったはずのちぐの胸にも、人工心肺が繋がれ、首の皮一枚で命が繋ぎ止められた。
「……う、……ん……」
数時間後。
先に目を覚ましたのは、黄色の王子・るぅとだった。
彼はゆっくりと上体を起こし、隣で深く眠り続けるちぐの手を握りしめた。
「……ちぐちゃん。……バカですね、本当に」
るぅとの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
自分の命を救うために、命を捨てようとした少女。
恋愛音痴だったはずの彼女が、誰よりも深く、歪で、美しい愛を証明してしまったのだ。
「……るぅと……?」
ころんたちが、信じられないものを見る目で手術室になだれ込む。
「ただいま、みんな。……そして、ごめんなさい」
るぅとは、ちぐの寝顔を愛おしそうに撫でた。
「この子はもう、僕だけのものじゃない。……僕たち全員で、一生をかけて贖(あがな)わなきゃいけない、僕たちの命の恩人です」
ちぐの胸には、もうるぅとの心臓はない。
けれど、彼女を助けるために5人が、そして生き返ったるぅとが注ぎ込む「狂おしいほどの愛」が、彼女の新しい鼓動となっていく。
箱入り姫と6人の騎士 12
硝子の鼓動と涙の再会〜
手術から数日後。
ICU(集中治療室)の静寂を破ったのは、規則的な機械音と、微かな衣擦れの音だった。
「……ん、……っ」
ちぐがゆっくりと目を開けると、視界の先に、ありえないはずの「色」が見えた。
柔らかな金色の髪。泣き腫らしたような、でも誰よりも優しい瞳。
「……ちぐちゃん。……おはようございます」
聞き間違えるはずのない、透き通った声。
そこには、自分の命と引き換えに消えたはずの、るぅとが座っていた。
「るぅと……くん……? 私……死んだの……?」
ちぐが震える指先を伸ばすと、るぅとはそれを両手で包み込み、自分の左胸へと導いた。
トクン、トクン……。
そこには、ちぐが数日前まで自分の胸で感じていた、あの力強いるぅとの鼓動が、本来の主(あるじ)の元で脈打っている。
「死なせませんよ。……勝手なことして、本当にバカなんだから」
るぅとの目から、大粒の涙がちぐの手の甲にこぼれ落ちる。
「君がいない世界で、僕だけ生きてるなんて……そんなの地獄です。でも、君が僕を呼び戻したんだから、もう絶対に離しませんよ」
「……よかった……。るぅとくんが、笑ってる……」
ちぐが安堵の笑みを浮かべた瞬間、背後の扉が開き、他の5人がなだれ込んできた。
「ちぐ!! 目を覚ましたのか……っ!」
ななもり。が駆け寄り、ちぐの反対側の手を握る。
「よかった……本当によかった……。るぅとも、ちぐも、両方失うかと思ったんだぞ」
「……ちぐ、お前マジで勘弁しろよ」
ころんが鼻をすすりながら、ぶっきらぼうにちぐの頭を撫でる。「もう二度と、あんな真似させないからな。……24時間、俺たちが交代で見張ってやる」
「そうだよ。これからは、俺たち6人の騎士(ナイト)が、君を一歩も外に出さないから」
莉犬が、ちぐのシーツを握りしめ、執着の混じった笑顔を見せる。
さとみとジェルも、ちぐのベッドを囲むように立ち、逃げ場を塞ぐように微笑んだ。
「お前の新しい『機械の心臓』のメンテナンスも、体調管理も、全部俺たちがやる。……いいな?」
ちぐの胸には、もう生身の心臓はない。
最新の補助人工心臓が、微かな機械音を立てて彼女の命を繋いでいる。
それは、自らの意志で「人間」であることを捨ててまで、るぅとを救った証。
「……うん。……私、もうどこにも行かないよ」
恋愛音痴だった少女は、ついに理解した。
6人の騎士たちは、自分を愛しているのではない。自分という「唯一無二の命」を共有し、支配し、慈しむことに悦びを感じているのだと。
生き返ったるぅとを含めた6人の視線が、熱く、重く、ちぐに突き刺さる。
それは救済という名の、永遠の「甘美な監禁生活」の始まりだった。
箱入り姫と6人の騎士 13
灰に舞う愛の証〜
病院の安置室。冷たい静寂の中で、ちぐの亡骸を囲む6人の騎士たちは、もはや涙すら枯れ果てていた。
「……火葬(かそう)にするよ」
ななもり。が、掠れた声で告げた。その言葉に、莉犬ところんが肩を震わせる。
「嫌だ……! 燃やしちゃったら、本当にちぐちゃんがいなくなっちゃう! 骨だけになっちゃうなんて嫌だよ!!」
「……分かってる。でも」
ななもり。は、ちぐの白磁のような頬を、壊れ物を扱うようにそっと撫でた。「ちぐは、自由になりたかったんだ。……俺たちの『執着』という名の檻から。ずっと閉じ込めて、心臓の音まで管理して……。その結果が、あの事故だろ?」
「……俺たちのせいで、死なせた」
さとみが拳を血が滲むまで握りしめる。ジェルも、虚空を見つめたまま動かない。
「……るぅと。お前はどうしたい?」
心臓を返してもらったはずのるぅとは、ちぐの冷たい胸に耳を当てていた。
トクン……とも言わない、静止した世界。
「……ちぐちゃんは、恋愛音痴のまま、僕たちの『重すぎる愛』から逃げたんですよ。……だったら、最期くらい、彼女の望む通りにしてあげたい。……自由な空へ、返してあげましょう」
数日後。火葬場の煙突から、一筋の白い煙が冬の空へ昇っていく。
「……綺麗だな、ちぐ」
ころんが空を見上げて呟く。
骨上げの儀式。かつて「国宝級」と讃えられた美貌も、今は真っ白な灰と骨だけになっていた。
「これ、みんなで分けよう」
ななもり。が取り出したのは、6つの小さなペンダント。
中には、ちぐの遺骨の一部が納められている。
「そばに置くことはもうできない。……でも、これでお前は、俺たちの体の一部として、一生一緒にいるんだ」
「……ちぐちゃん。聞こえますか?」
るぅとは、自分の左胸――ちぐが守ってくれた心臓の上に、そのペンダントを強く押し当てた。
「君は自由になった。……でも、僕たちの心臓が動く限り、君の記憶という名の檻からは、僕たちも一生逃げられません。……大好きですよ、ちぐちゃん」
恋愛音痴だった少女は、空へと消えた。
残された6人の騎士たちは、胸に刻まれた「消えない痛み」を鼓動に変えて、彼女を想い続ける。
それは、所有することさえ許されなかった、あまりにも切なく、残酷な純愛の終着点だった。
【完】
自分で書いて自分で泣いてました(T ^ T)