魔王に囚われた姫を助けるために、とある勇者が軍を連れて立ち上がった。
しかし、彼は魔物に襲われ魔王城の中で力尽きてしまう。
それとほぼ同時に、小さな国で、望まれない命が生まれた。
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目次
Prologue……
姫……。
俺は、もう駄目みたいです。止血もできないほど大きくて深い傷を、腹に負ってしまった。
もう手にも足にも力が入りません。頭もまともに働かなくなってきました。痛みも麻痺してきています。
姫。あなたを助けたかった。
申し訳ありません。もう歩けません。立てません。|呼吸《いき》もうまくできないのです。
……あぁ。俺は。
志半ばで死んでしまうのか。
けれど、抗う術を、俺はまだ知らない……。
今朝思いついて爆速で完結までだいたいのプロットを作ってしまったんですが、完結するにはアイデア不足ではなく飽きないことが大切ですね。飽き性にはキツイ仕事。
夢を見る子供
「コラ、このコソ泥!野菜を返せー!」
わたしは、逃げ足だけは速い。
とれたての野菜を手にいっぱい抱えて、わたしは走った。
撒けたかな。
そして、人目のないところで野菜を食べた。
みずみずしい……。
昨日からなにも食べてなかったから、その分身体中に染み渡る。
わたしの家は貧しい。お父さんはお金をかせぎに街に行って、帰ってこない。それでも、家に送られてくるのは、あまり多くない。全部お母さんのごはんになる。わたしの分は残らない。
お母さんはわたしのことが嫌いみたい、だって毎日痛いことされる。だから、家には帰れない。服も数年前から同じようなつぎはぎの服を着ている。
わたしは、やせてて、ボロボロの服を着ている。遊ぶ元気もない。
ふくよかで、新しくて真っ白な服を着てて、元気いっぱい遊び回れる村の友達が羨ましかった。
夜も、外で寝るのが日常。ふかふかのベッドで寝るのが夢。
そんなわたしは、ある星の綺麗な夜に、夢をみた。
勇者シャドー=エメラルドが魔王城の中で命を落とす、その瞬間の夢を。
目を覚ました時には、全ての記憶が戻っていた。
“俺”は、生まれ変わったらしい。
まだ8つの貧しい少女、ヘレン・レザリカに。
変な終わり方だなぁ。
立ち向かう勇気
立ち上がると、村の子供たちが俺……いや、ヘレンに話しかけてきた。
「ヘレンちゃ~ん!おはよ~!」
「今日は遊べる?」
一瞬返答に迷ったが、一応ヘレン“のふり”をしておくことにした。
「ごめん、今日は行かないといけないの」
「え……いいの?」
その言葉がどのような意味なのか俺には分かりかねた。きっとヘレンだったら理解できたんだろうが、今の俺には関係などなかった。
俺はこくりと頷き、村を出ようとした。
そしたら、思いもよらぬことが起こってしまったのだ。
「何をしている?」
男に鉢合わせた。高そうな服を着た大柄な男で、腕っぷしだけならば前世の俺でも負けるのではないかと思った。
ヘレンの記憶を探った。
……こいつ、父親だ。確か……ヘレンを村どころか、家からも出ないように閉じ込めていた野郎だ。
ヘレンは、逃げ足が速かった。でも、さすがに子供対大人では負けてしまう。逃げたが、無理くり二の腕が折れるような力で引っ張られた。
「やめろ‼離せっ‼」
俺は、今、野望とも言っていいような願いを持っている。それを叶えるには、村を出ることが最低限の目標なのだ。
目の隅に、俺を見つめる子供たちが映った。
「なぜ家を出た」
父親は問い詰めた。
俺は答えなかった。
今思えば、こいつ、高そうな革の服やら宝石やら身に着けてやがる。そこそこの儲けなはずだ。でも1人分の生活費とほんの少ししか渡してこないなら、経済的に母娘を虐待してるってことになるだろう。その金を独り占めする母親も母親だ。記憶にある母親の暴力は、殺意が垣間見えていた。結局、すべての負担をまだ幼い娘に負わせてる。こいつら、極限まで屑だ。
「答えろ!ヘレン‼」
鬼のような形相で俺に怒鳴った。
こうなったら、もう――強行突破だ。
素早く立ち上がり、家を走って飛び出した。
「ヘレン‼待て‼」
案の定、父親が追いかけて来る。
俺は家の路地裏や、畑の込み合った地帯を狙って走った。大柄な大人だったら、通るのに時間がかかる。しかし俺は今や8歳の少女だ。そういうところもすいすい通り抜けることができる。
大分撒けた。あとは村のゲートから出るだけ……。
予想を裏切られた。父親は、俺を追うのをあきらめて、待ち伏せしていたのだ。
「もう逃げられないぞ。さあ戻るんだ」
1歩、また1歩近づいてくる。
もう駄目だ――。
「こども兵士隊、いけー‼」
少年の声がした。と、村中の子供たちが現れ、木の枝やら石やらで父親を攻撃しだした。
「わぁぁぁぁっ‼」
「おりゃっ!」
「や……やめろ!離せ‼」
1人では敵わなかった大柄な男に、1人1人はひ弱だが数の暴力で立ち向かう子供たち。14、5歳の女もいれば、まだ3歳の暴れん坊もいて、それでもなんとか互角といったところだ。
「ヘレン!早く行け!俺たちの勇気を無駄にするんじゃねぇよ!」
リーダーらしき少年が叫んだ。
それに応答するように、父親に今更家を出た理由を言うように、俺は叫んだ。
**「ありがとう!俺は、絶対に姫を助けて、生きて帰る‼」**
そして、無我夢中で走った。
終わり方が分からない女。本当はもっと後で区切りたかった、でもそしたら書きすぎるんですよ。
懐かしい仲間
俺は今、この身以外に持っているものと言えば、薄いぼろきれの服ぐらいだ。地図や食事など持ち合わせていない。
そして、その身体でさえまだ8歳だ。鍛えられてもいない、肉もない、持久力なんてもっての外。
それでも死ぬ気で夜まで足を止めなかった。
もう体力も残っていない。
まるで、あの時――城の中で倒れる寸前のように、脚も動かず、眩暈がした。
……もう空腹も感じない。
俺はなんて無鉄砲で、単純なんだ。
また、倒れこんでしまった。
顔に土がついたのも、もうどうでもいい。
あぁ、意識が遠く……。
「大丈夫か⁉」
突然、聞き覚えのある声がした。
揺り起こされた。
その顔には見覚えがあった。
「……ライアン?」
確かにその顔は、前世の1番弟子だったライアンだった。あの父親にも勝る体格の持ち主で、やはり腕っぷしでは敵わない奴だ。
「なぜ私の名を……」
そう言いかけたらしいが、衰弱していく少女の弱った顔を見て、
「今、何か食わせてやるからな。耐えてくれ……」
大分軽いであろう俺の身体を抱き上げた。
彼の山小屋は質素だが温かく、出てきたキノコのシチューはとても美味しかった。疲労困憊した身体中に染み渡った。
「……すまない」
あちらからしたら初対面の娘だ。無理に女らしくする必要はない。俺らしくしておけばいいのだ。
「なんでこんな山奥に?」
「あぁ、それなんだが……」
言った方がいい。
「ライアン。俺はお前の師、シャドー=エメラルドの生まれ変わりだ」
「……へ」
「信じられないよな。実は俺もだ。記憶が戻ったのがつい今朝なわけでな、それで今朝家を飛び出してきたんだ」
冗談めかしく笑ってみせた。
さて、俺の話を、ライアンは信じるだろうか。拾った小娘が突然、師の生まれ変わりを名乗ったら。俺もライアンも、世界に名の知れた勇者の一員だ。そこらで仕入れた情報をもとに吹いたホラと読むか、これまた師が師ならば弟子も弟子か。
「……やはり、貴方は昔から無鉄砲だ」
ライアンは笑った。
8年前と変わらない。
あの時も、俺はその笑顔に託して、魔獣にただ1人立ち向かったのだ。
「こんな大きな魔獣……見たことも……」
「無理です!逃げましょう‼」
その時俺に提案したのもライアンだった。俺は強く言い返した。
「……俺は逃げない。絶対勝って、すぐお前らに追いついてやるから。先に行け」
「で……ですが」
「いいから行け‼」
「はっ……はい‼」
「……ライアン。奴らを頼んだ」
「……はい!」
10人ほどの兵をライアンに託して、俺は1人、その大きな魔獣を前にして、自分を鼓舞した。
大丈夫だ。お前はできるだろう、シャドー。お前の目標に比べたら、どれだけちっぽけな敵だ。こんなの、簡単に倒して、姫を助けるんだ。そうだろ?
呼吸を整え、ルビーの装飾の付いた両手剣をまっすぐ構えた。
……攻撃をかわすのはたやすかった。だが。
「あと1発……とどめだ……!」
大きく振りかぶった。
今思えば、その態勢は大きな隙だった。
魔獣の鋭い爪が、俺の腹を裂いた。奴は、隙を狙うのが得意な、そこそこ賢い魔獣だったのだ。
相討ちだった。
魔獣は倒せた。
出血が酷い。一生懸命、剣を引きずってでも歩き続けた。
目標は、敢え無く、そこで途絶えた。
俺の最期は、まず、頭が働かなくなってから、腕に力が入らなくなって剣を落として、座り込んで、意識が飛んで、それでおしまい。呆気なかった。
俺は、……生まれ変わってでもそれを叶えることを望んだ。
きっと。
この転生にも、何か意味があるのかもしれないな。
なぜか分かりませんが小説で飢えてる子に食わせる物は基本シチューとかグラタン(これはなかなか融通がきかない)になります。今日の給食も飢えた私にシチュー。
俺となるための
……まぁ、ライアンの、この何とも言えない微妙な顔は当然っちゃ当然だな。師が幼女に転生してきたんだから。
こいつ、意外にも温かい奴なんだよな。とにかく優しい。それに、この小屋も、まるで焚火のすぐそばのように暖かく感じる。
「ど、どうしましたか?」
「あ……あぁ、すまない。ちょっと考え事をしていてな」
「……あの、その子って」
こいつが言ってるのは、恐らくヘレンのことだ。
「そこそこ過酷な状況で育ってきたらしい。ここ数日は、服も替えてなさそうだ」
「……さすがに子供服なんて持ってませんよ」
「大丈夫だ。俺が洗っておく。それと……」
俺はぼさぼさの金髪を横目に言った。
「……女の髪は、勝手に切ってもよいものなのだろうか」
ライアンは、少しばかり考えて、
「彼女を呼び起こしてみたらどうでしょう?もし彼女が来たら、そのことについてお尋ねください。もし来なかったなら、それは既に貴方の身体ということになるでしょう」
「……そうか」
彼に、なんだか不思議なものを感じた。
神経を集中させて、ヘレンを呼び出した。
しばらくは無音だったが、微かに、少女の声がした。
「……わたしは、いいよ」
「いいのか……?」
「だってわたしも、短い髪、やってみたかったし。それに……」
「それに?」
「はじめての反抗、とでもいえばいいのかな?」
そう言って、ヘレンは微笑んだ。
我に返ると、ライアンは言った。
「明日、床屋に行きましょうか。行きつけの店があるんです」
翌日は、綺麗な晴れだった。
ある程度、髪の汚れも落として、綺麗に洗った服(それでも、ぼろきれであることに変わりはない)を着て、ライアンと隣町の床屋に向かった。
俺は紐で髪を括っていた。結び方などわからないが、前世の母や姉がやっていたのを思い出して真似した。
洗うと、その金の髪は、切るのが勿体ないほどに美しくなった。けれど、戦いの時には動きが制限されるし、まぁ、全部刈り上げるわけでもない。
町は立派だった。質素を愛するライアンにしては変だな、と思いつつも、活気のあるその町に足を進めた。
「さぁ、着きましたよ。ここです」
カランカラン、と、ドアを開けると、中はそれこそライアンの好きそうな落ち着いた床屋だった。
「あぁ、ライアンさん。お久しぶりですね。あれ、その子……」
「親戚の子で。身寄りがなくなって、私がこの間引き取ったんです」
そう言うライアンのそばで立つ俺を見て、
「こんにちは」
と、微笑みかける。
「……こんにちは」
「今日はこの子の髪を切って頂きたいです」
「わかりました。じゃあ、お名前、聞いてもいいかな?」
ここは恥を捨て、ヘレンの力も借りながら演技に全振りしよう。
「ヘレンです!」
「可愛いお名前だね、ヘレンちゃん。今日はどのくらい切る?」
「んと、えーっと、短く切りたいの!男の子みたいに!」
「いいの?勿体なくない?こんなに伸ばしたのに」
「いいよ!かっこよく、バッサリ切って‼」
「わかった、すごくかっこよく仕上げてあげるから、待っててね」
耳のすぐそばで、しゃく、しゃく、と、髪が切られる音がする。
少しだけ、頭が軽くなって、風通しが良くなって少し涼しい。
「はい、どうかな?」
鏡を見ると、栄養失調気味なのもあってまだ成長期の来ていない顔では違和感のない少年の顔になっていた。
「ありがとう、おにーさん!」ニコニコ~
俺は女性に興味がないが、ヘレンは世間一般としてはそこそこ美少女らしい。その顔で満面の笑みアタックをお見舞いしてやった。
「行こ、おじさん!」
お代を出してくれたライアンをサラッと「おじさん」呼ばわりして、店を後にした。
はい書きすぎた☆
髪を切る音、迷った奴集。
◎しゃくしゃく
・しゃきしゃき
・しゃっしゃっ
・ちょきちょき
・ちゃくちゃく
・しゅかしゅか
・しぇりしぇり
大半聞いたことない自作。
私の憧れの宮沢賢治も雪踏む音「キックキック」ですから。
ショートからベリーショートにしただけでも感じる散髪後の涼しさは、ほぼ体験談です。
弱き者は
ミニ設定
この世界の通貨はセルとフェーディ。1セル=100フェーディ。
1セルが約50円、1フェーディが約0.5円です。
10万セルは約500万円です。
だいぶ頭が軽くなった。
「いつか、代は返す」
「いいですよ、私は貴方の夢を叶えるためだったら、いくらでも出します」
「……そんなこと言って、限度ってもんがあるだろ」
「そうですね。10万セルなどと言われたら、さすがに無理です」
笑って、ライアンは言った。
「武器や防具でもそんなに必要ではないだろう?」
「はい、でも貴方の没後に少々物価が上がったのです。あの床屋も、ぎりぎりを攻めた安いところなんです」
「そうか。今、どんなものなんだ」
「林檎が1つ、6セルと少しですかね」
「うわっ。高くなったな」
俺はつい顔をしかめた。
4時をまわっただろうか。ライアンの小屋のある森に差し掛かった。
「……ふぅ」
近くの丸太に座り込んでしまった。
「疲れましたか?」
「あぁ……やはり鍛えていた身体とは違うな」
そう言いながら、己のものとなった細い足を見つめた。
あと少しだろ、だから頑張れ。
少しずつ自分を鼓舞し、立ち上がった。
「もう、よろしいのですか」
「小屋まであと少しだろう?大丈夫だ」
「……無理はしないで下さいね」
「いや……」
言いかけて、やめた。
無理にやっても何にもならない。
それは、俺が1番分かってることなのだから。
「……やはり休憩させてくれ」
そして、丸太に再度座り、――そして、眠ってしまった。
前世の俺の、幼い頃の夢を見た。
幼少期から、前世の俺は剣士だった父に剣術を叩きこまれてきた。
俺と比べれば少々体力のない弟と常に比較され続けてきたのだ。
お前は弟と違って才能があるのだから、練習を怠るな。
常に、そう言われていた。
13になる頃には国で1番の剣士と互角に渡り合えるようになっていた。
対して、当時10歳だった弟は――狂った。
俺の相棒だった剣を、細い腕で岩に叩き続けていた。
そんなことすると刃が駄目になるなんて、剣士の息子が分からないはずがない。
俺は、零れるように弟の名前を口にした。
ライト……止めろ。
弟は、その腕を止め、静かに俺を見た。
「さっき、ルナ姉様の裁縫針も折ってきた」
弟はそう言った。もう目は死んでいた。
「ルナ姉様は針と糸が、シャドー兄様はこの剣がなきゃ、僕と同じ役立たず。でしょ?」
俺は、その言葉に、心臓も魂も掴んで抜き取られたような感覚を覚えた。
「……剣、研ぎなおしてもらうまでは、役立たずでいて。お願い」
そう言って、弟はその場を離れた。
その後、弟は行方知らずになった。
その細い腕で何ができる。
今まで鍛えてもいないのに、魔王を倒すなど馬鹿言うんじゃあない。
父は、弟にそう言って育てた。
その言葉は、今……ヘレン・レザリカの身体を縛っていた。
雨が、地平いちめんを濡らしていた。
目の前に弟がいた。あの人同じ目で、俺を見た。
「兄様も……これでずっと役立たずだね」
弟が笑顔で、濡れて傷だらけの俺に言った。
久しぶりに書いたら思いの外楽しいです。