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目次
夜の“窮”校舎
ヨル−ノ−キュウ−コウシャ
「__知ってるか? この旧校舎の噂……」
学校探検を発案したエイタが、おどろおどろしい声を出す。
「え〜、こわ〜い」「ひぇえ……」
それに対して、アズサ、カノンが声を出した。
彼女らはエイタに誘われて、夜の旧校舎に来ている。
もちろん僕もだ。
本来なら断るところだったのだけれど……。
エイタにはよくしてもらっているので、そういうわけにもいかなかった。
僕は内心で呆れ返る。
(どうせ誰かの見間違いだろ、幽霊なんて……。馬鹿げている)
「この旧校舎では七不思議ならぬ“四ツ不思議”なんていうのがあるらしくてな……」
「それで、新校舎は“三ツ不思議”があるのね!」
意外と怖がっていないアズサ。むしろ目を輝かせている。
カノンはさっきからずっと震えている。余程怖いんだろう。そりゃそうだ。
「多分そういうこと。じゃあまず、1つ目の『トイレの花子さん』を見に行くぞ!」
「お〜!」
仕方ないので、僕も「おー」と合わせて言った。
---
「4階の手前から4番目の女子トイレ。そこを4回ノックすると、花子さんが出るらしい。それじゃあ……頼んだぞ!」
「え!? いやいや、あんたも来るでしょ……?」
「行けないだろ、女子トイレなんだから」
「えっ。じゃ、じゃああんたは……」
「僕も無理。流石に女子トイレには入らない」
「そんなぁ〜!!」
涙目のアズサを送り出し、ふと気づく。
(カノンは行かないのか……まぁ大分怖がってるっぽいし、2人も気を遣ったのかな)
「ひぎゃあ〜!!!」
そんなことを考えた刹那、アズサの悲鳴が轟いた。
本当に出たのかと思ったが、
「ごっごっ、ごき……出たあ!!!」
どうやらGさんがいただけらしかった。
「なんだ、虫かよ。びっくりした……」
カノンはというと、さっきからずっと青い顔をしている。
「おい……大丈夫か?」
「大丈夫なわけないでしょ、死ぬかと思ったわよ!!」
「え? いや、お前じゃなくて__」
「まぁ無事で良かったじゃねぇか! ほら、次行くぞ〜!」
---
「はぁ、はぁ……次で、最後よね?」
「何、アズサ。怖かったの?」
ちょっとだけ煽ってみる。
「ばっかじゃないの! こ、この程度、余裕よ……」
思ったよりダメージを受けているらしかった。
「最後は、屋上だな! 虐められっ子の霊が、訪れた者を突き落とすらしいぞ」
「何それヤバくない? 帰ろうよエイタ……」
「ここまで来たらやり切ろうぜ!」
「マジで? あんたも何か言ってやってよ!」
「僕は行くけど?」
平然と返すと、アズサはガックリ肩を落とした。
カノンが笑みを浮かべていることには、気が付かなかった。
---
階段を登り、屋上に着いた。
僕らの間をヒュウ、と風が通り抜ける。
「ほら、何もいない……早く帰ろう!」
「だな……」
アズサは安堵の表情で叫ぶように言う。
エイタは少し拍子抜けしたみたいで、声のトーンが落ちていた。
「……あれ、カノンは? さっきまでいたはずなんだけど……」
周りを見渡してみても、彼女の姿が見当たらない。
はぐれてしまったかもと2人に声を掛けるが、怪訝そうにされた。
「カノン? ……誰のことだ?」
「えっ?」
「今日のあんた、なんかおかしいわよ……ずっと変な方向見てるし。取り憑かれたんじゃないの?」
冗談交じりにそう言われ、ハッとする。
カノン? 僕の知り合いにカノンなんて子はいない。
まさか、取り憑かれ__。
__『ふふ。やっト、気づいてくれタ』
満月の言い伝え
__夜、満月に願いを告げると、その願いが叶う。
「__だってさ〜! 今日は満月だよ、満月! みんなで一緒にやろうよ!」
友達の莉奈に身を乗り出され、わたし__|満月《みつき》は少し狼狽える。
「やる、って……何を?」
「決まってるじゃん、言い伝えを検証するんだよ!」
「ウチは賛成〜! ねね、ミツキっちもやろーよー」
同じく友達の柚音に、肩を揺さぶられる。
「え、えぇ〜でも……門限あるしなぁ……」
「そっかあ……じゃ、ウチと莉奈で行く?」
「そだね!」
「でも、それに危なくない? 女の子が夜に出歩くなんて」
「大丈夫、大丈夫。この村ってすっごく平和だし」
確かに、こっちに引っ越してから物騒なニュースって聞かないな……。
柚音の言った通りなのかも。
「そーそ。心配無用だよ〜」
莉奈もそう笑うので、「じゃあいい報告を待ってるね」とわたしは言った。
そこでタイミング良く、チャイムが放課の終わりを知らせた。
---
夜になり、わたしは自室の窓に目をやった。
二人の願いは、月に届いたかな……。
村には空がよく見える丘がある。行くならきっとあそこなんだろうな。
そんなことをぼんやり考えていると、リビングから声をかけられた。
「ごめん満月! 牛乳切らしてたの忘れてて、ちょっと買ってきてくれない?」
「はーい」
お母さんはちょっと忘れっぽく、しょっちゅうわたしにおつかいを頼む。
私は上着を羽織り、リビングへ向かった。
---
「うぅっ……風、強っ! さっさと帰ろ……」
秋風がビュウっとわたしに容赦なく吹きつける。
「__やぁ」
……今、わたし、声をかけられた?
「やぁ」
でも気のせいだったら恥ずかしいな。無視しよう……。
「おい」
「え?」
「やぁって言ってんだろ。君だよ、キ・ミ!」
「…………わたっ、わたし?!」
「遅いんだよ、気づくのが」
「ご、ごめんなさい。でも、えっ、ど、どちら様……?」
突如声をかけてきたこの人は、中性的な見た目をしていた。
というか、後光が差しているような……?
「あぁ、ボクは、えっと……盈月。盈月だよ」
「えいげつ、さん?」
「うん。ま、ただの仮名だけれどね」
その盈月さん名乗った人は、滔々と語った。
曰く、この人はみんなの満月へのイメージは具現化した存在。
人々の願いを聞いては、気まぐれで叶えているんだそう。
「たまに世界征服とか言う馬鹿がいるけど、流石にそれは叶えないさ。叶えられないしね。ボクが叶えるのは、テストでいい点を取りたいとか、徒競走で1位になりたい転けたくないとか、そういうのだけ」
だそうだ。
「……で、そんな凄い方が、なぜわたしの元へ来たんですか?」
「だって暇なんだもん」
あっさり。
威厳とかないのか。仮にも月の化身でしょう。
なんとか言葉を飲み込み、わたしは更に問うた。
「いやでも、子供達の願いを叶えてあげてくださいよ。暇なら」
「ぐっ……意外と厳しいんだね、君。別に仕事じゃないし、いいでしょ」
それにね、と、盈月さんは言った。
「君、ボクに叶えてほしい願いとか、ないんでしょ? 分かるよ。そういう人って滅多にいないからさあ」
盈月さんは、人差し指をピンと立て、くるくる回すようにしている。
「ボクは、君みたいな人と話したいんだ」
そして、これからよろしくね、と囁かれた。
立てた人差し指を、私の方に向けながら。
指の先を半ば放心状態で見つめる。
なんだか面倒なことになりそうだと感じながら、わたしはふと、おつかいを頼まれていたことを思い出した。