その名の通り、「人間不信のお嬢様が冷血な彼と恋をしてみた話」です…が、なかなか恋をしないのでだらだらしているのが苦手な方は気をつけてください。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
Episode1.人間不信のお嬢様の話。
お嬢様…海音寺 華夜乃
彼…京極 伊織
親友…宝生 遥花
ライバル(?)…藤原 文
よくいるヒロインや主人公って、健気な人や、悪役に転生した人とか、そんな人ばかりなのだと思う。そんな中私は、物語を盛り上げるサブキャラに徹したいと思っている。今読み終わった小説をおいて私―海音寺 華夜乃|《かいおんじかやの》は立ち上がる。日本一の財閥である海音寺グループの会長令嬢。誰もが振り返る美貌。美しいスタイル。全国模試一位の頭脳。多種多様の才能。特にお茶と剣道は素晴らしい。ここまで主人公要素が揃っていても彼女は自分を嫌っている。むしろ境遇を恨んでいる。才能しか見ていない両親と使用人たち。そしてそんな私を恨む周囲の人達。そんな中ひねくれた性格になるのもしょうがないと思う。簡単に言うと、彼女の性格は極度の人間不信で人が嫌いという言葉ですべて語れる。愛想、というものはあいにく一ミリも持ち合わせていない。ちなみに彼女は家ではいい子、学校などでは天才問題児、というのを『演じている』。演じていれば人は私をそういう人と思ってくれる。良くしてくれる。気にしないでくれる。そんなことを思いながら夕食の席に向かう。人はだれにでも裏がある。それを見破るのが得意だった。だから常に人を疑った。
「今日はお母様とお父様は?」
「申し訳ございません、お嬢様。本日も御当主様と奥様はお仕事でございます。」
聞き飽きた。いつもだ。たまに一緒に夕食を取っては私の成績を聞いて満足する。
「そう。じゃあこれは貴女達にあげるわ。」
「ありがとうございます。」
最初はいらないと言っていたが私がずっとあげると言っていたら受け取ってくれるようになった。少食なのでそんなに食べられないことをわかってほしい。そう思いつつ味を感じられないシチューを食べた。別に料理人の腕が悪いわけではない。むしろ最高級だ。無駄に広い部屋がそうさせるだけ。用意してくれたお風呂に入り、寝る。明日も学校に行かなきゃいけない。授業はサボりがちだが、人に会うこと自体が嫌いだ。憂鬱すぎる。
面白いな、と思っていただけたら嬉しいです。
Episode2.人間不信のお嬢様が学校に行く話。
「おはようございます。ご機嫌いかがですか?」
専属メイドがベッドのカーテンを開ける。
「おはよう。ええ、大丈夫よ。」
きれいな定型文を返す。彼女はこの屋敷で一番仕事ができる子だ。あれよあれよという間に準備が終わり、車に乗せられた。
「行ってらっしゃいませ。」
「ありがとう。行ってきます。」
学校に着くと、唯一の親友、遥花―宝生 遥花(ほうしょう はるか)が早速話しかけてきた。
「あ、かやちゃん!おはよ〜!!」
「おはよう遥花」
「今日なんか転校生がくるらしいよ〜」
「へぇ」
「あはは、興味なさそう。だからHRは出てねって意味だよぉ」
「ん〜わかった…」
彼女は幼馴染でこんな性格になった理由を知る人なので唯一心をひらいている。しかも、彼女には裏がない。親友に免じてHRは出ることにした。転校生にはまるで興味がない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「起立。礼。」
そんな中私はぼんやりと本を読んでいる。前の席の遥花に言われて渋々立つ。
「着席。」
そしてしばらく本を読んでいると転校生たち3人が入ってきた。多くないかと思いながら本を閉じる。
「えーと、影山高校から来ました、大園 彼方です。これからよろしくおねがいします!」
「…京極 伊織だ。」
「同じく影山高校からきましたぁ〜。藤原 文でぇすっ‼」
左からおおぞの かなた、きょうごく いおり、ふじわら あやというらしい。早速私は興味を失い、本を開く。
「んーじゃあ海音寺の隣の3席開いてるからそこ座って。」
思わずはぁ?と言いたくなったが海音寺家の教育でなんとかとどめた。快活そうな彼方が隣に座る。そのとなりが文、更に隣が伊織のようだ。
「えーっと海音寺さんだよね、よろしく。下の名前はなんていうの?」
チャラさで人の心を掌握するタイプだ。苦手な方。
「華夜乃」
「へえ。華夜乃ちゃんって言うんだ。下の名前で呼んでもいい?」
「は?」
睨んでおいた。名前で呼ばれるのは嫌いだ。遥花でも「かやちゃん」と呼ぶ。
「だめだよぅ彼方くん。初めてあった人にいきなり下の名前で読んだら引かれちゃうよ」
「そっかあはは、ごめんね、悪意はないから」
片目をつぶって謝る。ウザい。
「海音寺さん、あたし文っていうんだ。気軽に文って呼んで。よろしくねぇ」
脳内お花畑。気づかずに男に媚びて敵ばっかり作るタイプ。嫌いだ。ほんとに。チャイムが鳴って、私は本を持って教室を出る。こういうときは屋上に行くのがベタだと思うが、うちの学校は屋上が開放されているので昼には人がたくさん来てしまう。非常階段も開放はされているが誰も来ないので好んでいく。実際華夜乃には親衛隊という組織が学園内にあるのでその親衛隊が定めた掟を学園全員に守らせているに過ぎないのだが。掟には非常階段には非常時以外立ち入らないことなどが定められている。なんか先生が校内を案内しろとか行っていた気がする。スマホを出し、遥花に頼む。いや遥花に頼んだわけではない。遥花を通じて遥花の取り巻きに頼んだ。ここで私は午前中は本を読み、お昼ごはんを食べて、午後は寝ている。今日もそんな学校生活を終わらせ、帰って家庭教師達の授業を受け、本を読み、味のしないパスタを食べて、風呂に入って寝た。いつもどおり、過ごしていた。
―ちなみに家庭教師は茶道、剣道、華道、弓道、学習、礼儀作法、ダンス、スケート、バレエ、体操、新体操、水泳、ピアノ、外国語、ヴァイオリン、習字、空手、料理、経営、陸上、球技、アーチェリーなど30人近くいるらしい―
Episode3.人間不信のお嬢様がクラスのいじめに巻き込まれない話。
実は、転校生の二人は結構なイケメンだった。早速彼方は日向の王子様、伊織は氷の騎士様と呼ばれるようになった。怖いことに早速彼らに憧れた男子たちがアレクサンドリットというグループを作ったらしい。そして文は伊織が好きなようでずっとベタベタしている(ずっと無視されている)。伊織たちは何故かとっつきにくい雰囲気を発しているらしく、クラスメイトでは狙っている人は多くても近寄る人はいない。のにも関わらずベタベタしていたらそれは不興を買う。仕方がない。馬鹿だともいえる。このクラスには鬼山さん率いる派手なグループがあり、可愛そうなことに自分たちは一軍だと思っている。最近そのグループからものすごく嫌われている。ちなみにそのグループから最近追い出された加藤さんという気の弱いおとなしいタイプの人がいて、女友達のいない文に目をつけられ声をかけられているらしい。その誘いに乗ると絶対に鬼山さんにいじめられると思うが果たして加藤さんはそれに気づいているのか、と考え、面白くもないのにくすりと笑う。もうすぐテストだから、教本を開いて暗記する。だいたいこんなもの一度見れば覚えられる。だから数十冊持ってきた。昼になってお昼ごはんを開け、食べるが、殆ど食べられずに残すことになる。お弁当は味がする。
(美味しい。)
少しほほえみながらご飯を小さすぎるひとくちで口に運んでいたら、突然階段のドアがガチャリと開いた。
(誰も来ないはずなのに…1年生かな)
来たのは何故か伊織だった。彼は私の前を通り、階段の上の屋上に一番近いところに座った。そして特にお弁当を食べることもなくスマホをいじり始めた。特に邪魔なわけでもないのでお弁当を片付け、寝ることにした。その前にスマホを開き、遥花にLI○E通話をかける。日課のようなもので、今日の授業なんかについて聞いたり、提出物の期限を聞いたりしている。
「もしもし…」
「あ、もしもーし。今日ねえゆうちゃん先生と竹内が宿題あるって。」
「えー」
「んで、ゆうちゃん先生はこないだ言ってたレポートだからいいとしてさ、竹内がさ、テスト範囲のワーク10回分やってこいってゆうんだよぉ」
「あー頑張れ」
「他人事みたいに言わないでよぅ」
「だって他人事じゃん?私終わってるもん」
「うう…。正しいから何も言えない…」
「ま、頑張れ」
「うん。じゃあまた〜」
「ばいばい」
通話を切って、ぼんやりと外を見る。流石に人がいるのに寝るのは不用心か、と思ったので本を読み始めた。しばらくして予鈴がなり伊織が戻っていく。何をしに来たんだろうか。今日はこのまま本を読むことにした。
そしてそんなことが続いて一週間。遥花から一緒に御飯を食べないか、と誘われた。
(誰も来ないといいんだけど)
遥花の所属している生徒会広報部の部室に行くと、そこには案の定広報部のメンバー5人が待っていた。ちなみに、メンバーは遥花、七海 柊(ななみしゅう)、綾瀬 翔(あやせかける)、神楽 葵(かぐらあおい)、如月 雫(きさらぎしずく)の五人である。
(あーやっぱり)
部室の端に座る。遥花の話を聞く。
「でさ、最近やっぱり加藤さんがさ、嫌がらせされてんだよね。」
「あーやっぱり?」
(あーあ、よく考えて動かなきゃ)
こうなることはわかっていた。ただ、進言してあげるだけの優しさはなく、人と接することへの怖さが私が動くことを拒否した。[そういうこと]の恐ろしさは一番良く知っている。今の私は強い。だからいじめられることはない。ただ、止めることはできない。怖いから。両親ですら、本当の家族とは言いづらいほど分厚い壁がある。遥花ですら一線を引いて接している。
「まーひどくならなきゃいいけど」
なるだろう。だって加藤さんは友達がいない。だから文にしがみつき続ける。一緒にいる限りどんどんひどくなるだろう。
「まーねー。総務部に上げるほどではなさそうだし。今の所は。」
「うん。まあひどくなったり続くようなら総務部に上げるか。」
このあと遥花は注意するだろう。でもそうしても見えないところでひどくなるだけだ。逆効果だ。人のことには干渉しない主義なので何も言わないが。
そしてその後たまたま教室にいた華夜乃がブチギレてことはすべて収束した。―しばらく華夜乃は鬼山さんたちに恐れられることとなるが、それはまた別のお話。
Episode4.人間不信のお嬢様が昔のことについて語る話。
思わずいじめを止めた日の夜、華夜乃はベッドに座って昔のことを思い出していた。頭が痛くなってバルコニーに出て月を眺める。今の私の強い部分はあの日々が作ったもの。しかし、同時にどうしようもない弱さも作った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
私が生まれたときは、まだ兄が家にいて、両親は兄の教育などでとても忙しかった。だから私にかまうことができず、分家に養子として送り、育ててもらうことにした。その際、分家の見極めを兼ねたため、上から瑠璃、桜、翡翠、茜、墨と分けられた分家のレベルで、一番下の墨の家に身分を隠して送られた。私は物心ついたときぐらいから義家族に暴力を振るわれるようになった。痛くてもそれが当たり前だと思った。彼らは、外から見える顔や手、足にはキズをつけなかった。背中や太もも、腕や頭を殴る、蹴るは当たり前、ときには鞭で殴ったりご飯を与えなかったりした。それが少食の原因かもしれない。そんな日々が続き、小学校に入学する。4年生までは幼馴染の遥花と仲良くしていた。5年になって遥花がモデルを始めた。もともと彼女の家はアパレル企業だった。しかも母親は海外のモデルだった。その容姿を使い、すぐに有名になった。ただ、どこにでも馬鹿はいるもので、妬んだクラスメイトが嫌がらせを始めた。その人達は、桜の家だった。その時の私は自分の立場がわかっていなかった。遥花をかばった。その時彼女たちは、こう言った。
「はあ?あんたみたいな最下層に言われたくないんだけど〜。ちょっと見た目がいいからって何にもできない海音寺グループのお荷物は黙ってろってねぇ。」
それから私は嫌がらせなんてもんじゃない、壮絶ないじめを受けた。細かい描写は避けておく。耐えて、耐えて私は中学生になった。勉強して、中学では誰も知らないランクに行った。家族は、褒めてくれなかった。だけど、そこでも結局何も変わらなかった。「最下層のお荷物」はどこでも結局いじめられた。遥花は助けようとしてくれた。全部断った。遥花が助けてくれたら、遥花はいじめられる。環境を恨んだ。生まれを恨んだ。家族を恨んだ。その時の私は、何も知らなかったから。性格がひねくれたのも、その時だったのかもしれない。でもそれが変わったのは、中2になったときだった。遥花が、こう言った。
「諦めるなら、最大限の努力をしてからだよ。」
そして、その言葉通り、すべてのことを死にそうになるまで頑張った。才能があった。なんでもどんどん上手くなった。家族は、さらに私への待遇をひどくした。そんなとき私は、全てを知らされた。
「御当主様がいらっしゃるぞ」
そう、父が言った。
「一家全員でろと言われたからにはあんたにも出てもらわなきゃいけないのよ。恥さらしだわ、せいぜいマシになるようにしなさい。」
母はそう言った。
「…はい」
そうして迎えたその日、種明かしがされた。
「今日ここに来たのは、華夜乃を返してもらうためだ。華夜乃は、我々の娘だ。」
一瞬、ざわめいた。私は、ただ聞いていただけだった。
(そうなのか)
それぐらいの気持ちだった。家が変わって、何が変わるのかなんて、わからなかった。世間の常識なんて知らなかったから。どうせ、私の成績がほしいだけだろう、そう思った。その後、本家に向かう車の途中で、すべてを明かされた。少し、優しさもあったことがわかった。虐待や、いじめについては知らないようだった。
(言わないほうがいい)
悟った。優しさがあるなら、悲しむだろうから。別に、誰がどう思おうと、気にしなかった。ただ、自分が直接的に関わって誰かが悲しむと、居心地が悪いだけ。それだけの理由。その日の風呂で直ぐにバレたけれど。そのまま卒業して、高校に入った。行かなかった。行きたくない。両親は大量の家庭教師をつけて仕事に出た。それから一年、才能は完全に開花した。ちなみに、学校は留年しそうになっていくことにした。人を信じるのはバカのすることだと思う。人に触れることはできない。まあ、そんな私のことも考慮して、(半分は権力で)先生方は今の形を許可してくれた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
明後日は、次期当主となる兄に会う日だ。少し春の寒さを感じて部屋に戻り、ベッドに入る。今日は、夢見が悪そうだ。
*・*・*
「俺の親ってさ、俺のこと大事すぎて俺の妹を分家の試金石に使ったんだぜ。あの超かわいい華夜乃をだよ?ひどくない?まじでやっと久しぶりに会える〜!嬉しすぎるだろ」
…兄、澪夜はどうやらシスコンらしい。
Episode5.人間不信のお嬢様が恋をしない話。
「ふあぁ…」
私、華夜乃はあくびをしていた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「うん、ちょっとなかなか眠れなくてね。」
思い出したことのせいで、ベッドに入ってから三時間ぐらい寝られず、六時間の睡眠時間が三時間になってしまった。最悪な気分だ。いつものように学校に行き、非常階段に行く。今日も本を読もうと思ったのだが、眠すぎる。もうそのまま寝ることにした。
夢を見た。昔の家族やクラスメイトたちがいた。彼らは口々に言う。
『なんでお前なんかが幸せになってるんだ』
『お前なんか死んでしまえばいいのに』
彼らは私のことを傷つけようとしてくる。
「ご…ごめんなさいっ…もうしないからぁ…助けてっ」
もう何も考えられなくて、ただただ逃げる。建物の脇をすり抜け走る。ガードレールを飛び越える。三時間ぐらい走って角を曲がると、そこには昔私が友達だと思っていた『茜』の家の子がいた。私を裏切った人だ。彼女は言った。
「あんたが…あんたが逃げたせいで私はまたいじめられてるのっ。もういい加減死んでよ…この苦しみを味あわせてあげるから。」
包丁を持っていた。振り下ろされる。逃げることができなかった。怖くて動けなかった。
(あーあ)
悟った。結局幸せになんてなれないんだな、と。目を閉じて、覚悟を決める。
衝撃がこなかった。
(なんで…)
恐る恐る目を開けると、そこにあったのは、さっきまでの薄暗い街じゃなく、いつもの非常階段だった。
「海音寺?」
ついでになぜか伊織がいた。私は恐怖で激しい動悸を鎮められず、再び意識を失いそうになる。そんな私を伊織が支えようと手を触れる。
「きゃあっ」
思わず強く振り払ってしまい、ついでに大きくのけぞってしまった。
「あ…ごめん…」
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
伊織によると、どうやらもう昼で、来てみたらうなされていたので起こした、ということらしい。あんまり近くにいられるとちょっとぞわっとするのでスーッと離れる。伊織が不思議がっていたので過去については詳しく触れずに簡単に話すことにした。
「私、人間不信なんだよね。昔さ、いじめとか虐待とかにあってさ、信じてた人にも裏切られたんだよ。もう怖いし、信じられないし、そんな自分ももう嫌いだし。」
私は自嘲的に笑う。
「だからこうして誰もいないところに来てる。」
「ふーん。じゃあ俺は迷惑ってこと」
すごく答えづらい。代わりに嫌そうな顔をしておく。
「…」
「で、だから触られるのは嫌なわけ。」
「まあ、そうね」
見えない壁を作っている、ともいう。そして、そんなことより伊織がこんなにも喋ることのほうが驚きだ。表情筋は相変わらず真顔を作っている。こいつが動くことはあるのか少しだけ気になる。
「クラスの女子達とも話してあげればいいのに」
「やだよ。あいつらが話しかけてくんのなんか告白ぐらいだろ。よく知りもしないのに話しかけられてむしろどう返せってんだよ」
「それ言ったらおしまいだと思うけど?だって私は貴方のことよく知らないし。」
ちょっといたずらっぽい笑みを浮かべてみる。
「それよりお昼ごはん食べたいからどいてくれる?」
「俺にも」
(何を言っているのか)
言葉をギリギリで飲み込み、問いかける。
「なんで」
「いつも残してるから」
(いつも食べてないくせに)
妙に威圧感のある目で見てくるのでしょうがなくあげることにした。なんでこう見事に自分で作ったときに言うのか。「うまい」
「あっそ。全部食べていいよもう」
思考を放棄した。
閑話1.××が親友とただ喋る話。
「おー××!で、で、《夜姫様》とは話せた?もう一ヶ月ぐらい経つけど」
「まあ」
「良かったじゃん、一歩進んだね」
「…」
「あ~××くん!何してたの〜」
「今日も相変わらずだねえ《お花畑ちゃん》は」
「もういい加減にしてくれ…」
「ねえねえ、〜〜〜〜〜〜〜〜」
「そろそろ予鈴がなるから戻ろっか、ね。《お花畑ちゃん》」
「えぇ〜。でもぉ《王子様》の言うことだから聞くことにする♡」
「えらいねえ」
「サンキュ、《王子様》」
「いえいえこれくらい?親友の恋バナが聞けるなら大歓迎だよ」
「恋バナってレベルのもんでもないと思うけどな」
Episode6.人間不信のお嬢様が修学旅行の準備をする話。
「えーと、じゃあまず実行委員を決めまーす」
えーただいま修学旅行の準備中です。
「帰りたい…」
「頑張ってね」
「遥花ぁ…」
遥花に頼み込まれてきています。正直つらい。
「はいはいはいっあたしはぁ宝生さんがいいと思いますぅ!」
「うわあ来たね」
「ごめんなさい、広報部が忙しくて…だから私は海音寺さんを推薦します」
うああああああああこのためだったのね、遥花ひどい…
「あ、う、」
みんなの視線が怖い。みんなヒソヒソと言っている。
「海音寺さんだー」
「やってくれないかなー」
こういうプレッシャーは嫌いだ。だからいつもこんな時は権力と気迫でやり過ごしてきた。遥花に言われてもそれはできない。
「やらn…」
「えーじゃあさじゃあさ、男子は伊織でどお?伊織もいいっしょ?」
「まあ。」
人の発言をぶった切るなんて神経がどうかしてるんじゃなかろうか。
「えーと、では男子は京極さん、女子は海音寺さんでいいですか?」
「〜〜〜〜っ!!!!!!!」
勝ち誇った笑みを浮かべる遥花と彼方が視界に映る。
(こいつら絶対共犯だ)
と、まあこうして私は実行委員になってしまった。よしサボろ…
「サボろうとか思わないでね。せめてこれだけでもやって」
「遥花、絶交しよう」
「や・だ☆」
「…」
うん、遥花と絶交してもこっちが損するだけだ。諦めよう。
「ではこのあとは実行委員に引き継ぎます。」
「…まず前提として、この学校ではクラスごとに好きな場所にいけます。どこに行きたいですか。ちなみに国内限定です。」
伊織が話すだけで女子の黄色い歓声が上がる。たしかにきれいな声だけど、そんなにいいだろうか。
「確かに声は好みな方だけどさ…」
「ん?なんか言った?」
「あ…いや何も」
「あ、そう」
「行きたい所ある人。」
私が話しただけで男女ともに黄色い声が上がる。今度こそ訳がわからない。
「はいはいはいっ京都がいいでぇす!」
さっきからこいつはうるさい。文のことである。
「俺は沖縄に行きたいな」
「俺北海道!」
「他、ありますか?」
あくまで淡々と、仕事を進める。公務だと思えばいい。
「ないでーす」
「では、この3つのどれがいいか、投票します。挙手してください。」
伊織も淡々と進めていく。
「京都に行きたい人。」
5人。
「沖縄に行きたい人。」
20人。
「北海道に行きたい人。」
10人。
「じゃあ沖縄でいいですか?」
「はい」
「次、行動班を決めます。」
「はいはい行動班ってなんですか?」
「行動班は文字通り班行動を一緒にする班です。えー決め方は、自由です!ただ、男女均等な5~6人にしてください」
自由に動いて好きな人と組むことができる。他人が苦手な私にはうってつけのシステムである。
「もちろん私と組んでくれるよね?」
遥花に近寄る。
「もちろん」
やった。もうこれで平和は保たれる。
「じゃああとは誰にしようか。」
「ねえねえ、人いないなら俺たちと組まない?」
げ、文もいるのか…
「いいよ〜」
「海音寺さんは?」
「別に」
イヤだけどね、他の人と組むよりゃマシってもんだよねってこと。
「じゃあ明日からは細かい行き先とか決めてもらうぞ〜」
「はーい」
チャイムが鳴る。
「10分後HRやるぞ〜」
私は席を立って非常階段へと歩く。3人が転校してきてから、授業に出る回数が増えている気がする。減らしたい。
Episode7.人間不信のお嬢様がお兄様と会う話。
チャイムが鳴り、私は立ち上がる。今日は帰っても何もしなくていい。お兄様に会うからだ。ドレスは着なくてはならないが。特に理由はないが今日は少し気分が悪い。
「お待たせいたしました。」
黒塗りの巨大な車に乗り込む。ここでもう着替えてしまう。
「どんなドレスがいいですか?」
「着物じゃだめかしら…」
「だめですよお嬢様。今日は次期当主様にお会いする日ですから」
「はあ…」
「じゃあお兄様を引き立ててこの青いドレスにするわ」
「さすがお嬢様、お目が高いっ」
(どーでもいいわ。)
風呂に入り、着替える。このドレスなら着物の形を崩したみたいな作りだから着心地がいい。
「もう少しで着きますので、ごゆっくりなさってくださいませ」
(ドレスでごゆっくりってバカか)
家につき、一度部屋に入り、化粧をする。何故兄に会うだけでこんなにおしゃれしなくてはならないのか。社交じゃあるまいし。財閥の家は面倒な決まり事が多い。
「おお〜!!!華夜乃!」
「お兄様…うるさいです」
「今日もいつもどおりかわいいな」
(そりゃあ?貴方様のために疲れるドレスとお化粧できているのだから。)
そうしてお茶を飲みながら小一時間ほど会話する。
「クラスには馴染めているか?」
「まあ、遥花もいますし…」
「そっか、あんな家で育って突然ん引き取られたから不安なこともまだあるだろうからなんかあったら俺に相談しろよ」
「はい…」
「そうか、今度宝生の令嬢にはお礼をしないとな。何がいいと思う?」
「…今度うちに呼べば喜ぶのではないでしょうか」
「そうかそうか、じゃあ令嬢の好きそうなお菓子でも用意しておくように行っておくから今度来るように言っておいてくれ」
「わかりました」
「では、そろそろ時間なので失礼いたします。」
「えーまあ仕事だし…。ああ、またな」
「ごきげんよう、澪夜様」
「あ、いま澪夜って…」
にっこりと笑って立ち去る。疲れた。兄は名前を呼ぶと喜ぶ。
「お着替えいたしますか?次期当主様から新しい着物が届いております」
「ありがとう、そうするわと言いたいところなのだけれど、これから剣道の稽古をしに行くのよ。お兄様からの贈り物はいつもどおりしまっておいてちょうだい」
「わかりました。行ってらっしゃいませ」
兄からの荷物…贈り物は私の好きなものや実用性が高いものが多いためいつも助かっている。新しい着物は特に嬉しい。別に洋服も着るけれど、昔から着物ばかり着ていたから、どうしてもそのほうが落ち着く。袴姿で準備運動を兼ねたランニングで練習場までいく。
「お待ちしておりました。お嬢様」
この人は私の剣道の師匠で世界2位の実力を誇っている。
「待たせたわね。ごめんなさい。」
「いえいえお嬢様。それより早く練習しましょう」
「そうね」
このあと彼女らはひたすら練習に打ち込み、3時間後にピアノの教師が呼びに来るまでやり続けたとか。