書いた短編を載せていきます。
一週間に最低一話更新予定。
(曲パロ、自己解釈が多めです。)
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目次
天使だった。
朝、目が覚めてカーテンを開ける。
窓から差し込む光に照らされながら、
目を擦る。
時計の針は6:30を指していた。
少し寝坊してしまった。
日課である夜の散歩が長引いたせいだろうか。
そんなことを考えながら、
着ていた寝巻きを脱いで制服へと着替える。
この制服に腕を通すのは何度目だろうか。
毎朝同じような事を考え、
同じような行動を起こす。
キッチンへ行くと昨日買っておいた菓子パンが目に入る。
それを手に取って口の中に入れる。
このパンだっていつもと同じ味。
パンを食べて支度をしたら8時まであと1時間。
リュックを背負って靴を履いて家を出た。
向かうのは学校。
この時間だと人はいない。
そして、私の通う学校は屋上が開放されている。
そこで授業時間まで時間を潰している。
家から数分、割と近所にあるその高校には
予想通りまだ誰もいなかった。
屋上へと繋がる階段を登る。
ドアを開ける。
そこには、1人、
ただ1人柵に寄りかかっている女子生徒がいた。
どうやら歌を歌っているみたいだった。
私には気づいていないみたいで、歌を歌うのを続ける。
とても、とても綺麗な歌声だった。
こんな、アニメみたいな現象が起こること自体
おかしいけれど。
そんなことは全て無視をして目の前にいる子の歌に集中する。
歌い終わってその子は坂を飛び越えた。
飛び越えた。
ふわっと、小さくジャンプして飛び越えた。
途端に周りの空気が凍てついてその子の周りを氷がふわふわ漂う。
さっきまで来ていた制服も、高校生くらいの容姿も、全て変わっていた。
目の前にいるのは天使だった。
純白の綺麗な羽に、白い服。
とても、とても美しかった。
それと同時に、どこか哀らしいような
マイナスな雰囲気も醸し出している。
「連れてって」
自然と口から漏れたそんな言葉。
その天使はようやく私に気付いたようで、
目を見開く。
どうやら見えていることを不思議に思ったようだ。
「それで後悔しない?」
その子はふわふわ浮いたままそう言った。
なんの変哲もないこの世界にいるなら、
綺麗な世界だけれど、憎くて、悲しくて、
どこか汚れているこの世界にいるよりは。
「それでもいいよ。君といたい。」
その子はふわっと飛んでこちらに来た。
と、次の瞬間私の手を引いた。
曇った空から光が差して、天使の梯子ができた。
そこに登っていく。
私は天使に身を任せて空へと登っていった。
IMAWANOKIWA/いよわ様
日当たりの良すぎる部屋で
そんなに、大した事ではなかった筈なのに。
七時、アラームの音で目覚めた。
ベッドから起き上がってカーテンを開けて軽く窓も開ける。
外には幼稚園くらいの子が走って歩いている。
朝早いのにすごいな…。
私だったら絶対に起き得られない。
その子がこちらに気づいたのか、手を振ってくれた。
私も軽く振り返して窓を閉めた。
窓を閉めた途端、外の世界から一気に遮断されたような気がする。
私も学校の準備をしよう。
やる気が全く出ないけれど。
---
朝ごはんを食べに下に降りる。
そこで流れていたテレビになにかのアニメキャラが映る。
どうやら昔放送していたアニメのキャラクターらしい。
そんなのいたっけな。
いいな、こんなふうに私も可愛ければきっと嫌なことはなかっただろうに。
「遥、早く支度しなさい」
「はーい…」
行きたくないなぁ…。
そんなことを思ってしまうと涙が出てきてしまうから、必死で堪える。
顔を洗いに行こう、そうしたらきっと涙も引っ込む。
---
顔を洗っていると、パジャマの裾に水がかかってしまった。
すぐ乾くだろうし…
「まぁいっか。」
…ここ最近まぁいいかとどれだけ言っただろう。
適当になってしまったな、私も。
『もう大倉さんには期待をしてないから。』
この間担任から言われた言葉が頭を過ぎる。
私だって、最初から自分に期待してないし、
期待して欲しいだなんて思ってもいない。
でも、わざわざ言わなくたっていいじゃん、と思ってしまった。
確か、その時私は咄嗟にふざけるな!と言いそうになったんだっけな。
でも必死に飲み込んで、
『はは…すみません…』
みたいな愛想笑いが出たんだっけ。
これもまたわかりやすい嘘。
自分の中の人生の幸福度が次第に下がっていっているような気がして、
なんかやるせ無い気持ちになる。
その後友達…クラスメイトに呼び出されたのはなぜだったかを聞かれたけど、
テストが意外とよかったんだよねと、正反対の嘘を述べてその場を逃げたんだっけな。
なんで、こうも本心を隠してしまうのだろう。
笑われたくないのか?
もう、今この状態で学校に行ってしまったらぶちまけてしまいそうで怖い。
誰にも会いたくない。
『誰にも会いたくない』?本心なのかな、これが。
何もかも曖昧なまま朝の時間を消費していく。
お母さんも、私の様子に気づいているなら声をかけてくれてもいいのに。「大丈夫」って。
こんなにも、私は苦しいのに。
学校まで、後30分しかない。
---
さっきのぐちゃぐちゃな思考の所為で支度をする手が進まない。
「もういっそ何か理由をつけて休んでもいいかな」
ぼそっと呟いてみた。辛いのをわかって欲しくて。
「休むの?」
お母さんの無言の圧力が、私の思考を断ち切ってしまった。
わかってるよ、行かないといけないのは。
わかってるから、そんなに怒らないでよ…。
こっちまで辛くなっちゃう。
何かの本で見た、「幸せでもそうではなくても、朝が来るのに違いはない。それでも前に進むのが人間だ。」この言葉。
学校に行くのも家にいるのもずっと気を張っていないといけない私に、どうしろって言うんだろう。
最初から気にしなければよかったのかな。
本当は進んで、褒められて、やりたいことをやって生きていきたいのかな。
そんな事すらできないなんて、いつからこうなったんだろう。
もし、生きている分給料がでるなら、それはいつまでなんだろう。
誰が払ってくれるんだろう。
でも、そうだったら私もずっと頑張れるのに。
出発まで、後10分。
---
玄関に立って靴を履く。
お母さんがリビングから出てきて、声をかけてくれる。
「遥、顔色悪いよ?」
「うん…大丈夫だよ」
嘘をつく。どうせ休めないし。
「昨日の事、悩んでるの?」
なぜわかるんだろう。
「ううん、悩んで無いよ」
「勉強しなかったの、私だしね。」
「遥、もっと相談していいのよ。」
お母さんは詰め寄るように言う。
「誰も笑ったりしないから、隠さないで話してみなさい。ね?」
話していいのだろうか。
でも、言わないと伝わらない。
この苦しさからは一生逃れなくなる。
それは嫌だ。
ここまでしてくれたのだから、一度話してみよう。
最初から、こうしてればよかったのか。
『お母さん、ありがとう。』
話終わったらそう言おう。
きっと泣いてしまうけど、子供みたいに大泣きしてしまうけど。
感謝だけは忘れてはいけない。
私は決心してお母さんに本当のことを話した。
元気ですか?私は元気です。
お母さんに話を聞いてもらって、とても気持ちがスッキリしました。
あれだけ嫌いだった朝も、学校も、ちゃんといけました。
また違う形で学校に通ってます。
あの時、話してよかった。
---
ハロ/ハワユ ナノウ様
飛行機雲
これはきっと、四季の魔法。
1月6日
今日は私の誕生日。
ここまでずっと一緒だった幼馴染から告白をされた。
びっくりしたけれど、嬉しかったのでイエスと答えた。
今思うと、ここからすでに電車は線路から外れていたのかもしれない。
---
4月19日
会社から家に帰る途中に通る踏み切りで人身事故があったらしい。
帰りに通ろうと思ったら当たりは血まみれで怖かったから通るのをやめて
その日は遠回りをして帰った。
なんか、不吉なことが続きそうな予感がして怖い。
---
4月30日
今日、藍人から久しぶりに会わないかと誘われた。
そろそろお姉さんの命日だから、と、言葉を添えられて。
そうだったな、鈴奈さんの命日がもうそろそろ来る。
毎年、お墓参りには行っているけど
鈴奈さんはきっと私を許していない。
あの日のことは、私も忘れてはいけない。
---
5月11日
藍人と2人で鈴奈さんのお墓参りに行った。
16年間続けてきた謝罪の言葉もしっかり心を込めて伝えられたはず。
毎年同じことを言っているから、私ももう言葉を覚えてしまった。
本当にごめんなさい、鈴奈さん。
---
5月27日
仕事が忙しくなってしまって、あれから藍人とは会っていない。
それに、これから私も忙しくなるし
多分、遠出することが多くなると思う。
私の仕事は出版社で主に作家さんとの話を練ったりする仕事だ。
この時期は夏に関するテーマの本が多く出版される。
だから私の会社も当然忙しくなる。
なるべく電車には乗りたくないな。
---
6月2日
今日、藍人に電話で仕事が忙しいと言うことを伝えると
笑って頑張れと言ってくれた。
その言葉だけでも頑張れる。
そういえば、最近同じ電車のホームで藍人らしい人を見つける。
藍人もどこかへ行っているのだろうか。
まあ、人混みでそれどころではないけどね。
---
私の部屋に置きっぱなしだった日記を読み終える。
こんなに危機感がなかったのか私は。
あの日、気色の悪い音を立てて潰れた私の一部。
私の真横にあるその一部。
潰れているのは一部だけだが、全体的に変色もしていて
さらに気味の悪さが増している。
触ると崩れそうでとても醜い見た目だ。
近くにいたくないので会社に向かう。
あの日のあの瞬間はとても静かだった。
絶対に静かになるはずのない場所なのに、
とても、とても静かだった。
誰がこんなことを望んだのか、何のために仕組んだことなのか、
私はすでに見当はついている。
多分、その鬱憤を晴らすために最後まで消化しきれなかったんだろう。
まぁ、仕組んだ相手が道徳とはかけ離れたところにいるから
さらに消化ができなかったんだろう。
きっと、あの時私にくれた言葉だって
浅い浅い言葉だったんだろう。
それにきっと裏では他のことを考えていたんだろうし。
あの場所を不穏な色に染めておきながら、
私にかけた言葉さえ嘘だったなんて。
もうきっと死神も天使も神様でさえ涙を流すだろう。
その時、なにかレースでも始まったかのように踏み切りが無機質な音を立て始めた。
久しぶりの音だな、と流れそうな涙を堪えるために空を見上げると、
そこにはどこか整わない形の飛行機雲が浮かんでいた。
飛行機が咳き込みそうなほどにぐちゃぐちゃしている。
『馬鹿』
気づいたら小声でそう言っていた。
あの日からもう何度呟いただろう。
閉じ切った部屋の中で、何回もこの言葉とあの時の言葉を反芻していたのだろうか。
数え始めたらキリがない。
ようやく踏み切りのバーが上がって渡れるようになる。
今のうちに、この景色を目に焼き付けておこう。
いつか忘れてしまうから。
---
今日は昔藍人と鈴奈さんと遊びに行っていた公園に来てみた。
あの時遊んでいた遊具ももう草臥れていて、随分とボロボロになっていた。
その前の道路には花束が添えられていた。
見ているのが辛くて目を背けてしまう。
あんなに綺麗でも、多分すぐに枯れてしまう。
少しベンチでゆったりしたら、少し急ぎめに家に戻った。
---
私の体は侵食されているのだろうか、思い出たちに。
場所を巡る度に数々の思い出がフラッシュバックしてくる。
形のないものなのに。
その日見た夢は予知夢のように火葬されている夢だった。
冬の日の真っ白な場所の中、真っ赤な炎に燃やされる夢。
それを見ている藍人はなんとも言えない表情をして白い息を吐いていた。
その息はすぐに雪に覆われてしまい消えていたけれど。
---
明希と姉ちゃん行った場所は楽しかった。
どこにでもある公園ですら楽しく思えていた。
今では公園なんて嫌いだ。
心を抉られたような感覚が全身を襲って気持ち悪くなる。
あの時の姉ちゃんと明希はこれまでにないくらいに気持ち悪くて綺麗事の集大成のような言葉を交わし合っていたようにしか聞こえない。
俺は、絶対にあの2人のような人間になんてならない。
---
あの日から1年。
きっとあの人は今日ここにくる。
私は許さないから、今日ここで全てを終わらせるから。
レースの終焉を告げる様に踏み切りが鳴り、駅のホームにだんだん電車が近づいてくる。
空には、あの日と違って綺麗に溶けていく飛行機雲が浮かんでいた。
私は、タイミングを見計らって透明な手を前に押し出した。
---
ここは現世の境界。
あなたはやっぱり泣いていた。
愚かだなぁ。
最初からあなたがこんなこと図らなければ平和に解決したのに。
「明希がやったのか?」
ぐちゃぐちゃな顔であなたは言う。
「そうだよ、私がやった。」
「こんなことして、悲しさや寂しさは残らないのか?」
「残らないよ、鈴奈さんの件は本当に申し訳ないと思ってる。」
そう、16年前の5月。
あの公園で道路に飛び出してしまった私を当時中学生だった鈴奈さんが救ってくれた。
おかげで私は生き延びれた。
鈴奈さんは、私のせいで死んでしまった。
そして6月6日。
鈴奈さんを火葬した16年後の日、
私のことを駅のホームから突き落としたのは藍人だ。
私は藍人に復讐するために、幽霊になっていた。
私に好きだと伝えてくれたことも、仕事を応援してくれたことも、所詮は全て綺麗な嘘だったのだから。
それだけは許せなかった。
鈴奈さんの件でいくら憎まれたっていい。
でも嘘だけはついてほしくなかったから。
彼女の正義に溢れた行動に泥を塗って欲しくなかったから。
「ねえ藍人、どうしてあんなことをしたの?」
少し黙り込んで藍人が言う。
「お前らみたいになりたくなかったからだ。」
「綺麗事と正義に溢れたお前らになりたくなかった。」
藍人はもう壊れてしまっている。
何を言っているかわからない。
「鈴奈さんのしたことは素晴らしいこと。私だけがよくないことをしていたのかもしれない。」
「だから、お前らなんて言うな。」
一応強く訂正して、彼に告げる。
「あなたはきっと地獄行き。私は成仏されるかもね。」
「真っ向な嘘をついたこと、まだ許してないよ。」
私の体がだんだんと消えてゆく。
「じゃあね藍人。」
きっと6月は一番美しい月だ。
泥を塗られてもなお美しいんだろう。
あの飛行機雲が全てを物語っていた。
鈴奈さん。美しい彼女が火葬されたのも、
醜い私が殺されたのも、こんなに残酷な彼が死んだのもこの月だったのだから。
私は踵を返して彼に言う。
この音のしない、綺麗な透明の駅のホームで。
『また会いましょう』
私は目の前のホームに飛び込んだ。
2度目の自殺で、今度は完全に意識を失い戻ることはなかった。
間違っていなかった。
1年かけて返したこの借り。
16年間抱えてきた謝罪を四季の魔法が全て打ち解けさせてくれた。
私は冬に遺体が見つかり火葬された。
ほぼ腐っている状態で見つかったが、心優しい近所のおばさんが丁寧に火葬をしてくれた。
とても優しい人だったなぁ。
幽霊で見えた藍人が、なんとも言えない目でこちらを見ていた。
参考/とても素敵な六月でした。
ココロのない君
あなたは誰ですか?/私も貴方を愛しています。
「ねぇ、ニア。」
僕は、とてもきれいな姿勢で座っているニアを見つめる。
「とてもユニークで、誰かを喜ばせたり、笑わせないと気が済まない人間の事、君はどう思う?」
ニアはゆっくりと瞬きをしてから、一泊置いて答える。
「わからない。ですがとても、責任感が強いと思います。」
想定した回答が返ってきた。
「そっか。」
少し間を開けて次の質問を投げかける。
「じゃあさ、ニア。」
「人とのペースの違いを気にして、一気に駆け足になってしまう人の事、どう思う?」
ニアはまた少し間をおいてから答える。
「わからないです。」
「そうか、少し難しかったかもね。」
「…はい。」
「よし、昼ご飯にしよう。」
僕は長時間立っていることが難しいからニアに作ってもらうしかないけれど。
僕の代わりをしてくれて、家事などをやらせてしまっているのがとても悔しいと内心では思っている。
でも、無理なものはしょうがない。
キッチンからはニアが調理している音が聞こえた。
---
昼食を食べて、今は自室でゆっくりしている。
斜め後ろにはニアが座っている。
何かあった時のためにといてくれるのがニアだ。
「ねぇ、ニア。」
振り返らずに本を読みながら言う。
「笑顔でいられるのが当たり前だと思っている人のこと、どう思う?」
ニアは黙って俯いているだろう。
きっと、回答に困っているか必死に頭の中から探しているのだろう。
これを作った時の僕はそういう感性をプログラムしていない。
だからニアは頭で探して、探して見つからないのに探しているのだろう。
「僕はね、」
僕が口を開いた瞬間にニアが思考を一瞬中断した様な気がした。
「僕は傲慢な人間だと思うよ。」
「いつまでも、この生活が続くわけがないから…」
ニアはあまりピンと来ていない様な複雑そうな顔をしている。
「人の気持ちは、いつでも私の計算を狂わせてしまいます。」
「そう言うものなのでしょうか。」
答えが見つからない質問を投げかけたのはこれで3回目だからか、ニアはやっと意見を言ってくれた。
「そういうものだよ、ニア。」
「君はまだわかっていないんだ。」
そう、まだニアは’‘ニア’‘のままだから。
「ニア、僕は君を信じているよ。」
「…はい。」
「君にはできると思う。」
「だって君は、とても優しいから。」
心のないニアに問いかけた訳にはしっかり理由がある。
初めてニアと話した時、まずはご飯をお願いした。
ニアは返事をしてキッチンに向かって調理をした。
初めて出てきたのは味噌汁に鮭と言う、意外と簡単なものだった。
けれど、その味は確かに暖かかった。
それにニアにはしっかり体温がある。
手を握った時に、僕より暖かかった。
僕が単純に低体温だからかもしれないが。
AIだけれど、内部の構造も気持ちもなるべく人間に寄せる様に頑張った。
ニアには純粋に人生を楽しんでほしいから。
「|永遠《えいと》さんが何を考えているかが理解できる様になるため、私も頑張ります。」
「うん」
僕はその言葉に満面の笑みで返した。
---
次の日、また他の質問をニアにした。
今回は僕のことだ。
「ねぇ、ニア」
「はい、なんでしょう。」
「昔夢に出てきたことが今児現実になっていたらどう思う?」
ニアは一瞬黙り込んだが、すぐに口を開いて答えてくれた
「それは、予知夢や正夢の類でしょうか。」
「だとしたら、とても奇跡的なことだと思います。」
ニアは、あれから僕の質問や問題にきちんと返すようになった。ニア自身も変わろうそしてくれて嬉しい。
「そっか、そうか…。」
この質問をした理由は僕がこの光景を見たことがあるからだ。もちろん、そこにはニアもいた。
多分、夢にでも出てきたと思ったからだ。
そんなことを考えていたら、咳が出てきた。
咳は止まらなくて、とうとう吐血してしまった。
ニアは、ぬるま湯につけたタオルを持って走ってきた。
僕の手を拭いてくれるニアの手は、僕よりも震えていた気がした。
「ニア、僕はもうそんなに長くないんだ。」
「…」
「ニア、僕があの問題を出したのには意味があるんだ。」
「意味、ですか…」
ニアは頭の上に疑問符を浮かべながら答える。
「君はとても優しい。」
「だから感情についても知れると思ったから。」
「君を信じている、君にはこれからも生きていてほしい。」
「だから、君にたくさんの問題を出した。」
「君を愛している、僕はいなくなってしまうけど、君には生きていてほしい。」
鈴れた声で僕はいう。
「僕の机の上に手紙を置いいてある。」
「時間があったら読んでくれ。」
ニアは、涙を流して見送ってくれた。
---
『ニア、君を置いていってごめん。少しでも生きやすくしてあげたくてたくさんの問題を出してしまった。あの問題は全部僕のことなんだ。だから、あんなふうに褒めてくれて嬉しかった。ありがとう。
ニア、君のことを作ってからずっとこう呼んでいた。でも、ちゃんとした名前をつけようか。ニアという名前は、英語で近いを意味するんだよ。僕に一番近かった存在だからニアと呼んでいたんだ。その音は残しておきたいから|丹愛《ニア》という名前はどうだろうか。ありのままの愛という意味があるんだ。気に入ってくれたら嬉しい。これから、君はちゃんと生きていってほしい。ちゃんと寝て、ちゃんと食べて、ちゃんと充電してほしい。充実な生活を君には送ってほしいんだ。
君は、とても優しくて温かい。初めて起動した時に、僕の名前を尋ねてくれたね。その後に握ってくれた手が、僕が低体温だからか、とても暖かかったよ。君は、もっと自分に自信を持っていいから。
ねぇニア。僕のことをずっと覚えていてくれるかい?僕はもう君の元へは帰れない。けれど、君の中では生きているから、忘れないでくれ。ニア、ありがとう。
ココロのない君に、眠らない君に、この1通の手紙を送るよ。』
ニア/夏代孝明
私は私を主張する。
自分の中の「正しさ」
1人の未成年の主張。
小学校高学年の頃。
私は自分の性別に違和感を覚えた。
なんかちがうな、と思って担任に相談した。
着替える場所を変えてほしい。
プールの授業はなるべく休みたい。
列は一番後ろにしてもらいたい。
我儘にも思えるこのお願いは、自分で自分の身を守るためにしていた。
親には、内緒にしてもらいたい。
いくら嫌いでも、いくら関係が薄くても、
迷惑をかけてはいけないと思ったから。
6年生に上がる頃、プールの授業の参加は親が管理することだった。
私は親に頼み込んで休ませてもらった。
不思議そうな顔をしていたけれど、
了承してもらった。
夏休み初日。
私は親にプールを休む理由を問い詰められた。
なんで?どうして参加しないの?
水着が嫌ならラッシュガード買うよ?
私は泣き出してしまった。
本当は女子でいたくないこと、
男子にもなりたくないこと、
どちらにでもありたいこと、
性別というワードが嫌いなこと。
女子も同じも男子と同じも嫌だ。
中性でいたい。
女なのに男っぽいんだよねー、
男なのに女子力あるからさ、
ギャップでも狙ってるのか、くだらないことで自称〇〇を演じる人が大嫌いだった。
打ち明けてしまったのだ。
納得はしてないようだったけれど、この時はそれで凌げた。
中1の春。
新しい担任に性別のことを毎年のように話す。
プールの授業に参加しないと内申点が取れないことを言われた。
それでもいい。
母にも電話は届いたみたいで、
三回は受けなさい。
そう言われた。
なんとか説得をしても、
みんな我慢してる、1人だけずるいと思われる
体型のことなら気にしなくてもいいよ、普通だから。
きっと、母も私に普通であって欲しかったのだろう。
必死になって早速をしている母には申し訳ないが、私は途中で打ち切りにしてしまった。
私の中の「正しい」は
自分の苦しくない、息のしやすい環境にいること。
私だけではなく、他の人も同じで。
強要するのも、無理するのも、全部間違いだ。
私は私を主張する。
自分の中の正しさで世間の中の正しさに抗いながら。
明日の私を待つ。
私はこの部屋で、明日の、明後日の私を待つ。
くらくらして、ただ頭が痛くて、
吐き気がして、眩暈がして、
歩いたり立つのが苦しかった。
苦しかった?
体が拒んでいたのかもしれないけれど。
体調改善がてら、外に出て私はお花を摘みに行く。
アネモネが近くの丘に生えている。
管理者の人が少しならいいよ、と許可してくれている。
私は毎日アネモネを一本ずつ摘んで、
部屋の窓辺の花瓶にさしている。
ふわふわと風で揺れるアネモネを見ながら、
体を横にしている。
窓はベッドで横になっていても外の景色が見える。
街を行く車を眺めたり、同い年くらいの人が登下校しているのを見て一日を過ごしている。
日に日に悪化する体調に、いつしか私は安静にしていることが多くなった。
部屋にはテレビも棚もあるのに、私は興味がない。
暇じゃないのか、と会いに来る友人に言われる。
私は全く暇ではない。
それに、友人が来てくれた日は学校の話を聞かせてくれるから、尚更。
「ここで1人、家族もいないこの施設で1人でしょ」
「僕がずっと来てあげる。」
その子は隣にあるフリースクールに通っていた。
学校、と同じような場所だから。
行けて羨ましい。
私は、明日も明後日も、その次の未来も
この部屋で1人で待っているのに。
窓辺に置いてある15本のアネモネが風に吹かれて揺れている。
花言葉もぜひ調べてみてくださいね。
私のきれいな食事
※こちらはカニバリズム表現が含まれます。
私のご飯は決まって夜だけお肉が出る。
夜は毎日、どんな日であってもお肉が出る。
お父さんはお肉を仕入れたり食べやすくしたりする仕事をしている。
お母さんも美味しいって食べてる。
「ねぇお父さん、牛さんとか豚さんはなんで食べられちゃうの?」
少し考えたようにお父さんが言う。
「僕たちが生きていくためには、他のものを犠牲にして生きていかないとならないからだよ。」
お父さんは悲しそうな顔をして優しく教えてくれた。
次の日からのお肉はなんか変な味がした。
お母さんは普通に食べていたけど、私はいつもより味が変なような気がする。
「お父さん、今日のお肉なんか変…?」
「あ、あぁ、今日は味付けを間違えてしまって…」
「そっかぁ、」
そう言う時もあるよね!
また次の日、夜中に喉が渇いて起きてしまった。
リビングに飲み物を取りに行こうとしたら、お父さんとお母さんとお客さん?がお話ししていた。
「ーー?」
「ーーー、、!」
なんで話してるかはわからないけど、少ししたらお客さんが倒れていた。
私は急いで部屋に戻った。
音を立てないように、でも見つからないように。
私が食べていたお肉はなんだったの?