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目次
濡れたスニーカー
帰る頃にはとっくにあたりは暗くなっていた。雨の音がやけに煩い。ざーざー。遠くの町の雨の音まで聞こえている気がする。雨と夜のせいで視界が悪かった。じめじめと髪が頬に張り付く。私はそれを払って歩く足を速めた。蒸し暑さと雨で顔はベタベタだった。ぐしょり、と靴から音が鳴る。靴下まで濡れてるだろうな。歩くたびにぐしょ、ぐしょ、と気分の悪い音が聞こえる。でもそんな音もこの大雨に消えていった。薄汚れたスニーカー。これが、雨のせいならいいのに。傘の持ち手を撫でる。学校から帰ろうと靴箱から出した頃から濡れていた。水を吸ったスニーカーはいつもの倍以上重かった。後ろから嘲笑うような声が聞こえた。ビニール傘は所々穴が空いていた。穴どころでは無い。カッターで切り裂かれたような跡。
水溜りに映る私はすごく醜い姿をしていた。
ぐしょり、ぐしょり。これが、雨のせいならいいのに。
アタリ棒
「ちっ、またハズレかよ」
そう言って兄ちゃんはハズレ棒を道端に投げ捨てた。僕はその軌道をゆっくり追いかけた。蟻が兄ちゃんのハズレ棒に向かって近づいていった。きっと少し残ったソーダ味のアイスが食べたいんだろう。僕も最後まで食べればいいのにと思う。
「兄ちゃんはやく公園行こうよ」
新しく手に入れた虫籠がカシャリと鳴る。みーーんみんみんみん。近くに蝉がいるみたいだ。
「わーかってるって!」
兄ちゃんは僕の手を引いて森へ入った。ここに来るのは初めてだ。薄暗くてなんだか怖い。でも兄ちゃんが手を繋いでいるから何があっても大丈夫な気がした。みーーーーんみんみんみん。
「蝉近いね、兄ちゃん。」
「あ!!いた」
兄ちゃんは大きな木の幹を指さした。木の色と似てたから気づかなかった。兄ちゃんはすごい。兄ちゃんは手で煩く鳴く蝉を掴んだ。捕まえた!!と思ったが、蝉は手の間をするりと抜けて森へ消えていった。兄ちゃんは片手を怪我してるから仕方ない。もう片方も青くなってるとこがあった。
僕はもう夜が近いことに気がついた。お日様が消えかけている。
「兄ちゃん、家行かなきゃ。」
兄ちゃんはそうだなと答えて来た道を真っ直ぐ帰った。ちょっとだけ悲しそうな顔をしていた。僕も怖かった。
「もっかいアイス食おうぜ」
そう言いながら兄ちゃんは並んでいるソーダ味のアイスを取った。走って駄菓子屋を出る。後ろの方で駄菓子屋のおじさんが怒っている声がする。でも兄ちゃんは気にしなかった。べーと舌を出してみせた。僕も真似して舌を出した。
兄ちゃんは大きく口を空けてアイスにかじりついた。
「あ!!アタリ!!ラッキー」
そう言いながらアイスを道端に投げ捨てた。まだアイスが残っているのは蟻さんにあげるためかな。兄ちゃんはご機嫌だった。でも家を見て目を開いた。僕も家を見た。警察官が沢山家に入っていった。
「なんでかなあ」
僕は言った。赤色の明かりがくるくる回っていた。兄ちゃんは嬉しそうな顔をしていた。