ここは素晴らしい不動産会社――の皮を被った、殺しの会社「メルヘン不動産」。
殺し屋としてのみ働く4人、不動産会社としても働く4人の計8人で会社は構成される。
これは、メルヘン童話のヒロインの名を掲げ、秘密裏に任務を遂行する少女、または女性たちの物語。
……といっても、そんなにおぞましい雰囲気ではないようで。
「出勤ですよ~、起きてくださーい」
IQ300の社長「シンデレラ」。
「○○くん、夢の中で最高の彼氏になってくれたの♡」
ヤンデレLv.MAXの「赤ずきん」。
「あのさ、人体実験用の依頼まだ?」
とにかく実験狂な「白雪姫」。
「ここ百会っていうツボなんだけど~」
鍼灸のプロなママ枠「眠り姫」。
「あ、あの、あべ、あばばっ」
限界社不&コミュ障「人魚姫」。
「スーパーファイアーストォォォムッ‼」
馬鹿兼ある種の変態「マッチ売り」。
「あのさ、みんなで馬鹿馬鹿しくやってるところ割って言うけど」
『……これ、まだシリーズ説明なんすよね……』
ツッコんでくれたのは、毒舌辛辣ガール「グレーテル」と、リモートワーク中の引きこもり「親指姫」。
こんな個性豊かな8人組の日常、仕事風景、友情、たま~に恋愛、面白くないはずがない。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
1 月夜 セーラ
私は|月夜《つきよ》 セーラ。とある会社で社長を務めている。
表では不動産会社というように動いているし、その道で稼げている。しかし、私たちの“本当の仕事”は需要があるから、ストップさせるわけにはいかない。
月夜「皆さん、“お待ちかねの仕事”ですよ!」
|赤衣《あかぎぬ》 |花《はな》「やったぁ♡おべんきょーの時間♡」
|白鳥《しらとり》 |雪乃《ゆきの》「そいつ実験に使ってもいい?」
|百年《ももとし》 |光架《みつか》「今度のターゲット誰?男?」
|天海《あまみ》 |空瑚《うろこ》「あ、あまっ、天海は遠慮しますなのですぅ……っ」
|冬月《ふゆづき》 |暖《のん》「こいつ結構太ってるし簡単に燃えそう‼」
|飴宮《あめみや》 |苺《いちご》「暖、サラッとサイコ発言しない」
|小毬《こまり》 |姫々《きき》『……資料集め、何やればいいっすか』
この子たちが社員。半数が裏の仕事だけやってて、不動産と兼業してるのが私含め4人。
……薄々気づいてると思うけど、私たちの本当の仕事は、“殺し屋”。
依頼があった人を何の証拠もなく消す、政府非公認の組織。
計画担当は私で、情報収集担当が小毬さん、計画遂行担当が赤衣さん、白鳥さん、百年さん、天海さんの4人、証拠隠滅担当は冬月さんと飴宮さんの2人。冬月さんは死体処理も兼任している。
私のコードネームは「シンデレラ」。昔、この世界に入った時、私を見つけてくれた方につけてもらった。おそらく、母親譲りの金髪碧眼のためだろう。
だから私は、自分と同じく、メルヘンとして語り継がれてきた童話のヒロインの名前を皆にあげた。
赤衣さんは「赤ずきん」。
白鳥さんは「白雪姫」。
百年さんは「眠り姫」。
天海さんは「人魚姫」。
冬月さんは「マッチ売り」。
飴宮さんは「グレーテル」。
そして、小毬さんには「親指姫」。
私がこの世界に入ったのは、中学生くらいだったはずだけれど、それ以前のことは思い出したくない。いつか、気が向いたときにでも話しますね。
2 赤衣 花
あたしは|赤衣《あかぎぬ》 |花《はな》、かわいいかわいい女の子!年齢は内緒っ♡
今日はあたし「赤ずきん」に、おシゴトの依頼が来ました~っ♪
あたしはこのプリティーデコピストルちゃんで、今回のターゲットを1人殺ることになってま~す♡
今日はお友達の「眠り姫」ちゃんと一緒に行動っ♪
百年「今回のターゲット夫妻……なかなか厄介だね、赤ずきんちゃん」
赤衣「うんっ♪ホント揃いも揃って身体中屑だから、うちの|プリピスちゃん《(プリティーデコピストル)》で殺るの躊躇っちゃうな~♡」
今回はとあるロックバンドのボーカルくんとその妻ちゃんの任務に向かってま~す!
ボーカルくんは実はわる~いおクスリ使ってて、妻ちゃんと娘ちゃんを捨てたんだって~!しかも妻ちゃんは娘ちゃんを虐待してるらしいのっ!要するに社会のゴミ夫婦なわけっ♡♡
あたしの担当はその屑ボーカルくん!先にそいつが闇取引に使う倉庫に寄ってから妻ちゃん&娘ちゃんのおうちに行って、「眠り姫」ちゃんが妻ちゃんを始末しながらあたしが娘ちゃんを保護!「シンデレラ」ちゃんの作戦は完璧すぎてカッコいいの♡♡
あたしはこの会社で2年くらい働いてるけど、やっぱり他の子たちの殺り方は参考になるな~♪
お仕事も大切だけど、今度の彼氏の“愛し方”も模索しなきゃねっ♡
わぁ短いのに字面うっせぇ♡
3 白鳥 雪乃
今回の任務……子供がターゲットなの?
私・|白鳥《しらとり》 |雪乃《ゆきの》は、動揺を隠せなかった。
依頼主は10歳の男の子。いじめられている兄を助けるために、いじめっ子を消したいのだそうだ。
月夜社長も、「こんなに幼い子がうちを見つけるのも、ターゲットが中学生なのも初めて」と言っていた。
私が思っていたのは、どうやって依頼金を稼いだの?とか、兄のために頑張って偉い、とかではなかった。
念願の、《《子供での》》人体実験ができる……!
---
私は薬学の大学を早めに卒業した。もう、名誉教授以上の知識を持ってしまったからだ。
世界中のいろいろな薬の情報や、調剤のしかたまでマスターした私は、次第にラットでは物足りなくなっていた。
人間での実験をしてみたい!
はじめは自分の身体で実験をしていたけれど、実験者である私が薬でダウンしていては実験が進まない。
そこで、私は殺し屋として、依頼を受けた死ぬ運命のターゲットを実験台にすることにしたのだ。
---
ターゲットは中学3年、15歳の男子生徒。身長167cm、体重60kg。サッカー部で、好物は母親の作った唐揚げ。アレルギーは、蕎麦と林檎。どちらも比較的軽度で、運動で重症化する。
部活のある日の弁当に蕎麦粉、アレルゲンを活性化させる薬、エピペンの解毒剤を混入させる作戦で行こう。
まだこの薬が蕎麦に対応しているのか調べられていなかったので、彼のアレルゲンは好都合だった。
私は受話器を取り、依頼主の少年に電話をかけた。
「来週の火曜日、決行致します」
さて……火曜日が楽しみだ!
アレルゲンを活性化させる薬?エピペンの解毒剤?そんなもん実在すんの?
4 百年 光架
|百年《ももとし》 |光架《みつか》。大好きなパパが付けてくれた名前。
パパは鍼灸のお店をやってた。パパはたくさんの人を笑顔にしてた。私もそう。
当然のように、私がパパのお店を継ぐんだと、そして、パパとずっと一緒にいれるんだと思ってた。
---
倉庫から銃声が聞こえてきた。
あ、花ちゃん、ちゃんとできたのかな。
苺ちゃんたちに連絡するのは、花ちゃんが出てきてからにしよう。
赤衣「眠り姫ちゃ~んっ♡」
百年「あ、赤ずきんちゃん。出てくる前に、ちゃんと返り血拭いてこないと」
赤衣「だってぇ~っ、早く眠り姫ちゃんのお仕事見たいんだもんっ!」
百年「大丈夫、ターゲットは逃げないから。あなたはちゃんと|奈々《なな》ちゃんを怖がらせないようにしなきゃでしょ?」
持ってきていたタオルで、花ちゃんのそこかしこについた血を拭き取る。
夜9時。奈々ちゃんくらいの年齢の子は、もうそろそろ寝る時間。
今から私が殺しに行くのは、娘を虐待している女。なかなか酷いことをしているのは、保護対象として依頼主から届いた奈々ちゃんの写真で分かった。
私は今から、あいつと同じことをする。私の人生を変えた、あいつと。
---
鍵をいじって解錠している間も、夜の10時だというのに、女の怒鳴り声と奈々ちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。なぜ近所の人は警察に通報しないのだろうか。
音もなく鍵を開け、静かに中へと侵入する。
声の方向を頼りに進むと、1つの部屋から光が漏れていた。
百年「赤ずきんちゃん、……ゴー」
私は思い切り部屋の扉を開けた。
その一瞬、一般人である彼女らに見えたのかは知らないが、花ちゃんが部屋に素早く侵入し、奈々ちゃんを部屋の隅に攫った。
それに続いて、私の番。部屋の入口から、一直線に女の“そこ”を狙った。
パパがいつも言ってくれていたことがある。
店を継ぎたいと言い張る私に、パパは「人が死んでしまうツボ」があるんだと話してくれた。
「このツボは、誰かを助けるためだけにしか使ってはいけないんだ。それ以外のことに使うと、悪い悪魔に連れてかれるよ」
私は、人を殺すときは必ず、このツボを針で刺す。
人を助けるために使っているのだから大丈夫、――それに、もし私用で使うときに来るはずの「悪い悪魔」なんてのは、あいつしかいないから。
1mmの狂いもなく、私の手に握られた針は、そのツボを貫いていた。
女は目を見開いたまま力なく膝から崩れ落ちた。いつも通り出血はほとんどなく、もう息は絶えていた。
百年「……ふぅ」
奈々「……あの、おねーさん」
百年「ん?どうしたの?」
奈々「たすけてくれて、ありがとうございます……っ!わたしも、おねーさんみたいなカッコいいヒーローになりたいです……‼」
少女の純粋な目。
けれど、
百年「――お姉ちゃん、ヒーローになりたいんじゃないの。大好きな私のパパを殺した奴に、復讐したいだけ」
13年前の夏の夜、私のパパは殺し屋の男に殺された。
私はあいつに復讐するために同じ業界に入り、必死にあいつの居場所を探している。
私はヒーローなんかじゃない。
書きすぎた
人が死んでしまうツボ?そんな(以下略)
5 天海 空瑚
|天海《あまみ》 |空瑚《うろこ》は、朝に弱いなのです。
夜は元気でいられるので、月夜さんは天海のことを考えて、依頼を夜用に考えてくれるなのです。
天海「天海、みんなにメーワクかけてるなのです……」
人とお話するのも苦手で、朝も苦手で、高校のころは定時制の高校に通っていたなのです。誰とも話せなくて、たぶん高校時代に話した言葉は1000文字もないなのです。
今日は配達で依頼が来ているなのです。
ターゲットさんは、警察をお金で黙らせて悪いことをしてる悪い人らしいなのです。
警察は天海たちを守ってくれるなのです。だから、警察を操るなんて駄目なのです!
天海「……天海、改め『人魚姫』、がんばるなのです‼」
---
最近はあんまり運動してなくて、徒歩移動で足が痛くなってるなのです。
ターゲットさんのお家に着いたなのです。意外と近くなのです。
悪い人が近くに住んでるなんて、ちょっと怖いなのです。
けど、天海がその悪い人をやっつけるなのです!怖気づいたら駄目なのです!
そ~っとお庭に入って、おとなしい野良犬さんを放してあげるなのです。天海はそれを確認して外壁沿いに裏口に回るなのです。
「庭から音がしたぞ!」「侵入者か⁉」
裏口の警備はこれで外れるなのです。
ついでに小毬さんの情報では、裏口の警備員さんは大の犬好きらしいので、野良犬さんをしばらく愛でていてくれるなのです。
裏口から入れと指示があったのは、鍵をかけない不用心な警備員さんだからもあるなのです。
そ~っと家に入って、すごく広いことにびっくりしたけど、地図を見ながらターゲットさんのお部屋に近づくなのです。
お部屋でターゲットさんはテレビを見ながらワインを飲んでいたなのです。
天海は影が薄いなのです。動かなければ見ていても気づかれず、動いても見ていなければ気づかれないってレベルなのです。
後ろから近づいて、持ってきたナイフで首のうしろあたりを引っ搔いたなのです。
ターゲットさんはあっけなく死んじゃったなのです。
天海は窓から裏口を見たなのです。
天海「まだ警備員さん戻ってないなのです……不用心にも程があるなのです!」
けれど、この仕事をやってる天海たちにとって「不用心」ほど好都合なものはないなのです。
いつ戻ってくるかわからないので、頑張って証拠隠滅のおふたりに電話しなきゃなのです……!
冬月「はーい!メルヘン証拠隠滅担当でーす‼」
よりにもよって波長の合わない|太陽《冬月さん》が出てしまったなのです……‼
天海「あ、あだ、あの、あの、えーっと、あ、あまっ、あま天海なのですぅぅっ‼」
冬月「やっぱあまみーか!どしたの?仕事終わったー?」
天海「え、あ、え、はいなのですっ!しょ、しょーこいんめつをお願いしますなのです!」
冬月「りょーかいでーす!あまみーは先戻っててねー!じゃねっ‼」
電話が一方的に切られ、安堵の息が漏れたなのです。
やっぱり、人とお話するのって苦手なのです……。
#なのです構文
#天海構文
↑なにこれ
6 冬月 暖
えー……、ここまでの流れで行くと|冬月《ふゆづき》 |暖《のん》本人が語りになるはずだけど、あいつは馬鹿でうるさくてとてもじゃないが語りに不向きなので、あたし・|飴宮《あめみや》 |苺《いちご》が代わりに話すことになりました。
飴宮「……暖」
冬月「なーにー?」
こいつが、あたしが見た中で1番馬鹿でうるさい奴・冬月 暖だ。うちの弟(11)の方がよっぽど静かだと思う。
飴宮「このおっさんの死体運んで」
冬月「オッケー‼」
こんだけうるさいならこそこそ証拠隠滅する仕事なんて向いてない。将来は拡声器になったほうがいいと思う。
まったく、セーラ様はなんでこんな女に「マッチ売り」なんて可憐な少女の名前を与えたのか……。あたしにはそのセンスが心底理解できない。
今、空瑚さんが始末したターゲットの部屋を片付けている。この家、無駄に豪邸で、警備員なんてウジャウジャいるのに、暖は声が無駄にデカい。
こんなところで叫ぶな‼と、思いっきりブーメランなことを叫びたい……。
けれど、いつもどんなところで叫んでも、警備員とかに気づかれないのが謎すぎる。
荒れた部屋を片付けて、死体を持ち出す。人の身体ってめちゃくちゃ重いから、声量の次にもはや尊敬を感じる力量で暖に持ってってもらう。あくまでこいつは、“死体処理”をメインとして働いているんだし。
---
あー……出やがった。こいつがこの仕事に就いた理由。
この、暖が死体燃やしてる時の顔。
これが小説で助かった。映像化したらかなり酷いからな、これ。
どうやらこの死体が燃える匂いが好きらしい。
飴宮「このド変態がっ‼」
冬月「え?どこが?」
あたしはこいつに3つ称号を与えられる。メルヘンで1番「馬鹿」「うるさい」「変態」の3つを。ついでに言うなら「女子力が乏しい」も。
……まぁ、本人が楽しんでるならいいけれど。
飴宮「……暖」
冬月「なに?」
飴宮「もし、仮にだよ?仮に映像化したらさ、絶っっ対にその顔カメラ写さないでね?」
冬月「え、ボクってそんなに顔面偏差値終わってる?」
飴宮「違うわ馬鹿‼」
この馬鹿……救いようがない。
最初の文で装飾含みで104文字食ってんのやば
7 飴宮 苺
さて、|馬鹿《暖》もなんとかしたし、仕事終わったから帰るか。
ちなみに語りは引き続き|飴宮《あめみや》 |苺《いちご》がお送りします。
あたしは訳あって弟と2人で暮らしてて、その生活費を稼ぐためにここで働き始めた。
親?はうちが11歳の時に「会えなくなった」らしい。
毎月、口座にまとまったお金が入っているけれど、だんだんあたしらが大きくなってきて足りなくなったから、思い切って、高校には行かないで働くことを決心した。
けど……やっぱ中卒を雇ってくれるとこは少なくて。
やっとの思いで見つけた唯一の希望が、殺しの証拠隠滅――。
……なんて、あたしの純粋で怖がりな可愛い弟に言えるわけなかった。
飴宮「ただいま~」
|碧斗《あおと》「あ!姉ちゃんおかえり!」
飴宮「碧斗、いい子にしてた?」
碧斗「うん!姉ちゃん褒めて!」
飴宮「わかったわかった。よしよ~し」
この子が弟・飴宮 碧斗。
親と別で暮らすなんて壮絶な幼少期を過ごしているにしては純粋すぎてもはや怖い。
11なのにまだ子供がコウノトリに運ばれてくるって信じてるレベルの純粋さ。さすがに「ママのお腹から出てくる」くらいは知っててほしい。理科とか保健体育の授業でそれを知る時の顔が見たいとすら思う。
ちなみにサンタさんのことは存在自体あまり覚えてないらしい。
あたしは、中卒で職を探すっていうあまり経験しないことを経験した。どれだけそれが厳しい道かってことも。
でもあたしがその道を自分で選んだのは、碧斗をちゃんと学校に通わせるため。碧斗に子供のうちから職探しをさせないため。
さすがに今のレベルだと逆に危険だけど、まだこの子には純粋でいてほしい。
あたしが、この子を、碧斗を、守らなきゃいけない。
書いてるとキャラが変わることってありますよね。
この子とか、最初の設定でこんなに弟想いなお姉ちゃんじゃなかったはず……?
次回でキャラ紹介メインゾーンは終了します。焼肉でも行かせようかな。
8 小毬 姫々
家に引きこもって10年のうちが、明日、家を出てみる。
その動機は。
小毬「みんなと焼肉、行ってみたい……!」
---
うちは中学校で嫌がらせをされてた。背が低いから。
中学校卒業時点で……確か、134cm。女性平均の23cmも下。
これでも、学力とか運動神経とかユーモアとかカリスマ性とか、そういうものがあればよかったかもしれない。けどうちは頭も悪くて、どんくさくって、面白味がなくて、その他人を引き付けられるものを何ひとつ持ってなかった。
何でもいいから、前世から1つくらいそういうものを持ってきたい。
そんな時にうちの心の支えになってくれたのが、ペットだった。
うちが引きこもり始めて心配した母が、猫を1匹迎えた。名前は「始皇帝」。歴史好きな母のネーミングセンスによる命名だ。
うちの当時の友達は始皇帝だけだった。
飼い始めて4年くらいの時に、始皇帝が赤ちゃんを4匹産んで、そのうち3匹を猫好きな親戚に譲った。残った子の名前は無事「卑弥呼」になってしまった。
次第に、鳩の「縄文土器」、インコの「埴輪」も仲間入りした。縄文土器はさすがに酷いだろと、お迎えして1か月くらいで「どきぴー」に改名した。
いつのまにか、うちは“意思疎通”どころじゃなく、動物の言葉が分かるようになっていた。
しかも、うちの子たちだけじゃない。ちょっとした窓の隙間から聞こえる鳥のさえずりとか、野良犬や野良猫の喧嘩とか。
一昨年、始皇帝が、具合が悪いんだって言った。母に動物病院に連れていってもらったら、病気になっていた。
闘病の末死んだのは、去年のことだった。9歳だった。
すごく泣いて、しばらく部屋からも出られなかった。
そろそろ自立したくて、高校に行ってなくてもできるリモートワークを探したらここを見つけた。
みんな優しくて、うちはここにいるべきだったんだな、って思える場所だった。
うちに残った友達のひみこ、どきぴー、はにわも一緒に情報収集してくれた。
1人じゃなかった。本当はうちが外の世界を見てなかっただけだ。
---
そう、分かったからこそ、焼肉に行きたい。
去年あったんだ。みんながうちのことを気遣って、秘密で焼肉行ったことが(情報:どきぴー)。
その焼肉が、明日またあるらしい(情報:ひみこ)。
けど1人は怖い‼
小毬「途中までだったら、ひみことどきぴーは来れるよね……?はにわは鞄に忍ばせればワンチャン……」
ペットたちが|飼い主《うち》を冷ややかな目で見てる気がする。
小毬「……みんなで行こう……?」
9 小毬は焼肉に行きたい
小毬『……うちも、焼肉、行きたいっす』
月夜「大丈夫なんですか?10年のブランクって凄いんですよ?」
小毬『ペット同伴で行ってもいいっすか』
月夜「どうでしょう……今から1人枠を増やしてもらえるかも怪しいですし……。でも、聞いてみるだけ聞いてみますね」
どうやら、月夜が小毬と電話をしているようだ。
月夜は電話を切ると、焼肉店に電話をかけた。
月夜「もしもしー、明日予約していた月夜ですが……。はい。今から1人増やすことって可能でしょうか?……はい、お願いします。あと、そちらのお店はペット同伴は可能ですか?……インコと猫と、鳩?だそうです。……はい、分かりました。……ありがとうございます」
---
月夜「……と、いうわけで」
小毬「あの、ペットは無理だったからって自宅までお迎えは……、あ、迷惑とかじゃなくて」
月夜「大丈夫です、電話で間に合いませんでしたが、予約している焼肉店の近所に私の知り合いがいまして。そこに預けるというのはどうでしょう?」
小毬(……やっぱり、電話でよかったんじゃないんだろうか……。この人、IQは高いのにこういうとこ抜けてるよな……)
小毬は、猫のひみこ、インコのはにわ、鳩のどきぴー、と、一応月夜も連れ、10年ぶりに靴を履いた。
小毬「まじか……10年前の靴が入ってしまった」
あれから全然成長してないんだな、と落胆しながらも、立ち上がる。
月夜は勝手に玄関からメジャーを拝借し、一瞬で目盛りを読み、「……うん、135cmですね」と言う。
小毬「現実見せないでくださいよ……」
娘が10年ぶりに外に出るのを邪魔してはいけないだろうと、後ろで涙をこらえながら見守る(?)母親が1名。
小毬は立ち上がると、その母親に言った。
小毬「……じゃあ、行って、きます」
小毬は引きこもり卒業、そして、焼肉デビューを果たす。
……これからも外に出るのかどうかは、また別の話のようだが。
そういや今日って焼肉の日なんだっけか?
10 焼肉に来た一同
小毬「人が多い……うるさい……」
やっぱりゲームの対戦相手とか掲示板の50人と生身の人間の50人は違うな……と、心の中で呟いた小毬であった。
可愛い|友達《ペット》を月夜の友人のところへ預けて、焼肉屋に向かった。
月夜「ここですよ~!」
小毬「……」
念願の「みんなと焼肉」なのに、いざとなると何も言えなくなる。
「いらっしゃいませ~。2名様ですか?」
月夜「予約していた月夜です!」
「8名でご予約の月夜様ですね!お席へご案内いたします!」
月夜「1番でしたね、私たち!」
小毬(リアルの人間との会話って疲れる……)
月夜・小毬到着:集合15分前。
飴宮「こんにちは~」
白鳥「よろしくで~す」
月夜「あ、早いですね~」
小毬(「早いですね~」と言いつつ自分の方が早く着いていることはツッコまないでおこう……そんな勇気ないし……)
飴宮・白鳥到着:集合12分前。
飴宮「すみませーんプリンくださ~い」
月夜「じゃあお米8人分もお願いしま~す!」
ファーストオーダー:集合10分前。
百年「失礼しまーす!」
月夜「あ、入ってください!どんどん!」
百年到着:集合8分前。
赤衣「やっほ~♡今日はよろしくお願いしま~す♡」
月夜「どうぞ入ってくださ~い!」
「失礼します、こちらプリンとお米で~す」
赤衣・プリン・米到着:集合5分前。
天海「こっここぁっこんにちわぁぁっ……⁉」
月夜「あ、どうぞ入ってください!」
小毬「……あの」
天海「えぁはいっ⁉」
小毬「そのロリィタ服……汚れるんじゃ」
天海「あ、えーと、その……これ着ないと、影薄すぎて気づいてすらもらえなくて……」
天海到着:集合時間ピッタリ(夜は強い)。
……みなさんお忘れではないだろうか、あの人の存在を。
飴宮「……たく、あの馬鹿、忘れてんじゃないでしょうね……」
百年「いやー、それはないと思うよ?めっちゃ楽しみにしてたから――」
冬月「遅れてすんませぇぇぇんっっ‼」(With満面の笑み)
飴宮「その顔ですまないって思ってるなんて言わせないからね⁉」
冬月到着:集合時間10分遅れ。
冬月「いやーゴミの分別してたら意外と面白くなっちゃったんだよねー!」
飴宮「なんでよ」
天海「……あの……これ代わりに頼んでもらえませんか……?」
白鳥「わかった。すみません、ブルークリームソーダください」
ということで、明日、やっと肉を焼きます。
ほぼ焼肉店に入店しただけの回に新学期が当たった人はいないでしょう、だって今日土曜日だもん
土曜日から学校あったらマジでキツイよ。
11 焼くぞ
百年「じゃあ焼くよ~」
月夜「は~い!どうぞっ!」
百年が手にトングを持ち、肉を焼いていく。
もうちょっと詳しく描写したかったのだが、名前の分からない道具が多すぎて断念した。あの肉焼くザルとか。もうジューって音とかいい匂いとかしか書けない。
冬月「おいしそ~‼」
白鳥「そんなやる気満々で箸構えても、まだ生焼けでしょ」
両面焼けるのが待てなさそうな冬月を制止する白鳥。要するに日本は平和である。殺し屋がいたとしても、だ。
赤衣「……で、そこのお2人さんはぁ……」
彼女の言う「お2人さん」とは、すでに物を飲食している2人のことなのだが……。
赤衣「プリンとソーダしか食べてないよね、お肉食べれるのぉ……?」
飴宮はさっきからプリンを2皿しか食べていない。天海はコミュ障すぎて誰とも話したくないため常に口をブルークリームソーダで埋めている。ちなみに現在13杯目。
飴宮「あたしもうお腹いっぱいかも」
小毬(早すぎはしないだろうか……)
天海(誰にも話題振られませんようになのです……!)
月夜「みなさん、焼けましたよ~!今から分けますね!」
飴宮「あたしいらないで~す」
百年「なんのための焼肉なんだろう、もう……?」
ここで天海、ソーダはあと半分残っているが、何かをメモに書き始めた。飲みながら。本当はお行儀が悪いのでよいこのみんなはやめましょう。……このお姉ちゃんはいいんです。もうよいこって年じゃないし、もともと仕事がよいこじゃないし。
(飲食シーンも非常に苦手なり)
おぉっと天海選手、ここで白鳥選手に書いたメモを渡したぁっ。
それを確認した白鳥選手、店員に声をかけた。
白鳥「すみません、ブルークリームソーダ3つお願いします」
赤衣「本当に……なにこれぇ?」
冬月「焼肉おいしいよ?なんでみんな食べないの?」
その人たちはね、焼肉食べないんだよ。偏食とコミュ障なんだよ。
そんなこんなで焼肉終了 ~雑すぎだろ~
次回・9月スタート編
明日から全国2学期スタートですよ‼目を覚ましましょう‼(おい)
次回から9月スタート記念?でメルキラのみんなの生活ルーティーンをお送り致します!
12 月夜さんの1日
今回から作者のモチベとネタのためにメルキラのみなさんのルーティーンを晒していきます。
---
今回は月夜の回なのですが……。
月夜「んー……」
起床・7時半。
今のところ健康的で健全な暮らし。
そこから朝ごはんを作るのですが、ここで問題発生。
月夜「……3分ですね」
シゴデキなはずの月夜さん、朝ごはんはカップラーメンで済ませる模様。
実は彼女、壊滅的に料理ができません。
こんなキャラどっかのあおこわにもいる気がするんですよね~……。
月夜「他の設定もありますので、ね?決してキャラ被りではありませんよ?」
そう言いつつも貴方もどっかのあおこわの子も未公開の何かがあるのは事実じゃないですか。
月夜「……それは、まだ言わない約束だったじゃないですか」
---
朝ごはん(朝麺?)を食べた後、8時半から10時までパソコンに向かって何か作業を始める月夜さん。やっとシゴデキ感が出てきた。
今は何をしてらっしゃるのですか~?
月夜「……情報収集ですね。小毬さんが調べられないあたりは、私が調べています」
---
10時半、出勤。
開錠作業などもあるので、会社が始まる少し前にやってくる。
そして、デスクにつくと、また何やら作業を始めた。
11時半あたりから、会社でご飯を食べる白鳥がやって来ます。月夜は焼きそばパン(コンビニ)です。
月夜「白鳥さん、おはようございま~す!」
白鳥「おはようございます」
白鳥は手作り弁当。きれい。
月夜(おいしそうだな、手作り……)
月夜「すこし食べてみてもいいですか?手作りって憧れで……」
白鳥「あ、駄目です。普通の人が食べたら死にます。毒耐性がある程度ないと」
そうでした。この人実験狂でした。
白鳥「自分で人体実験するために身体のキャパを引き延ばしてるんです」
月夜「あぁ、そう……身体壊さない程度に頑張ってね」
そして、不動産屋が12時半に始まる。
---
時は経ち(唐突に)21時。
店舗に施錠をし、月夜は家に静かに向かっていた。
その途中で立ち止まった。
視線の先には、1軒の民家があった。
月夜「いつか、絶対に――」
風の音に紛れて、そんな声が聞こえた……ような気がする。
日付に追いつかれてしまう。
施錠 これずっと「しじょう」だと思ってた。