大きな龍と小さな統一者に出てくるOCたちの過去編です。
ぼちぼち書いていきます、ほんとにぼちぼち。
続きを読む
閲覧設定
名前変換設定
この小説には名前変換が設定されています。以下の単語を変換することができます。空白の場合は変換されません。入力した単語はブラウザに保存され次回から選択できるようになります
1 /
目次
無垢なるきみに
はろーまいねーむいず、ぎょっせんぬ、MUKUNARUKIMINI、どうぞ☆
※この作品には”殺人”の要素が含まれます※
登場人物
マーリー・ドット:23歳。音楽といちごジャムが大好き。意外とロマンチスト。
メアリー・ドット:24歳。マーリーの妻。ジャムとレモンティーを作るのが得意。
ブラウン・ウィリアムズ:17歳。同性愛者。自殺志願者で、レモンティーが好き。
水瀬 白音:26歳。アザラシと人間のハーフ。泳ぎが得意で、作るミートパスタは絶品。
ドミル・ダ・ルーカス:年齢不詳。水死体もどき。死んでも生きてもいない。ペスカトーレが好物。
ユル:6歳。作用もあまりわからぬ薬を作っては大騒ぎを起こす。バカにされると口達者になる。
キュアム:7歳。ユルの右腕(?)肝が座っていて、頭が良い。植物が大好き。
アルト:4歳。体は4歳で止まっている。歌が大の得意。背中には三本の触手があり、自由自在。
バルト:年齢不詳の森の守り神。喋るのが苦手。シュークリームに目がない。
妻を殺した。
深い森の奥。頭がぱっくりと割れてしまった妻の死体を見下ろしながら、この死体をどうすればいいのかと、考えあぐねていた。
だが人を殺したあとというのに、私の心は穏やかで、朧気に寝入る時の鼓動と全く同じであったのである。
---
私はつい最近まである研究機関に拉致されていたらしい、どうにもその頃の記憶がなく、後に私の体に残ったのはまるで熊のような耳と尻尾、人ではない力の強さ、足の速さ。そうなりながらも第一は妻のことを考えた。だが今は何年何月何日なのかわからない
歩いたのだ。深い森の中を。夢遊病者のように。寒さに震えた体では何も出来ないと思い、もはや何者でもない何かから剥ぎ取ったコートを着込んで、そっと街へ繰り出した。なぜ街がわかったのか、ひどく遠くにそびえ立つ城が見えたからである。
手持ち無沙汰に地面に覚えていることを書き連ねてみても、数えるほどしかない。覚えているのは私には妻が居ること、名前はマーリーであること、もう一つ、妻の淹れるレモンティーと、作ったいちごジャムが大好きだということ。それに、家の住所。忌々しい研究所から出た後。とっぷり日の暮れた道を歩き、崩れたパズルを治すように、あるきながら考えていた。
たしかあの城の名前はなんと言ったか…クレーヌ城だろうか、別名デメルング城とも言うらしい。
なぜ別名があるのか、私はそこまで思い出せなかった。代わりに思い出したのは、この国は小さな少女が治めているだとか。名前はなんと言ったか、”11歳”ほどだった気がする。
きらめく街頭が見え、すっかり変わってしまった町並みに目を剥いた…まるで、タイムリープをしてしまったように感じる。
通りすがりの者に耳と尻尾を隠しながら、家の住所で場所を尋ねると、別の方向を指さした。
「あっちだよ、あのパン屋の角を曲がって、先にお城が見えるからね、お城が見えたら、その左手に細い通りがある、その行き当たりだろう。」
よかった、覚えられそうだ。
そっと礼を言い、妻の待つ家へと駆けた。
鼓動が跳ねている。
---
帰る早々、妻は私をはねつけた。どうやら本当に私かとわからなかったらしい。何分も説得して、妻はまだ信じがたいような顔をしたが、家に入ってとそっと迎え入れられた。それから何時間も語った。妻との思い出を、この思い出の家だからこそ、湧き上がってくるのだ、忘れていた記憶が。
妻との結婚を良くしない両親に歯向かい大喧嘩を起こしたこと、妻とこの国へともに駆け落ちしたこと。細部にわたる思い出の記憶が、易易と思い出せる。そう、鮮明に。
次第に妻は涙ぐんでいき、高い声で名前を呼ばれると、胸が跳ね上がった。ひどく嬉しかった。
どうやら私は3年間もあの研究機関に居たらしい。その3年、とてつもない時間を待っていてくれた妻の一途さ、健気さに感謝し、夫さえもとらず、私を信じて待っていてくれたのだ
待っていてと言われて、家を見回していると、コトッとマグカップが置かれ、レモンのほのかな良い香りがした。
そっと湯気のたつそれを飲むと、柔らかな甘味の中に、ほのかな苦味があふれる。
にっこりと笑ってくれた妻に笑い返すと、ふわりと温かな空気が家に溢れ、人間で言う心という場所が、暖かくなっていった。
---
これほどまでに私のような円満な家庭はあるまい。これほどまでに、素晴らしい愛はあるまいと。
ベットに入った私はそう思っていただろう。
そんな私を叩き起こし、妻は私に声を張り上げたのだ!!””出ていけ、この化け物め””と。
驚く暇もないまま、妻は私へナイフを向けた。
耳と尻尾があるだけで、少し力が強いだけで。なぜ人はこうも変わってしまうのだろう。迷信深い妻のことだが許せなかった。生涯をともにしようと誓った妻にそういう言われることに、私は良しとしなかったみたいでなぁ。
次の瞬間には暴れる妻を引きずって、長年乗っていない車に連れ込み、深い森の中で引きずり下ろし、斧を頭に打ち付けてしまったのだ。何度も何度も、恨みをぶつけるように。後悔などない、これでいいと言い聞かせたのだから……きっと。
小さな滝のように溢れた血液はやがて穏やかになり、豊かな森の一つの地面を汚した。いいや、飾ったと言ってもいい、その時の妻の血は、夜空にきらめき、美しいようにさえ見えてしまったのだ。夕焼けが湖面を彩るように。
しばらく見とれ、そっとその場を後にした。斧は持ち手をきちんと拭き、車へ乗り込み、何食わぬ顔で私は我が家へと帰った。
ここには居られないと足早に荷物をまとめ、そっと妻と同じ場所へ行こうとまた森へ出向いたが、目印などをつけなかったせいか、愛しの妻を見失ってしまったのである。森をさまよう内に、ひどい寒さに襲われた。あぁ、私もここで……そう思ったのも束の間、神が手を差し伸べてくれたのだろう。
大きな屋敷を見つけたのだ。
---
トントンと戸を叩くと、小さな少年が顔を出す。少年も私と同じであることが伺え、安堵した。人ではないのだ、この少年も。
「ようこそ」
「少し…邪魔してもいいかな」
「大歓迎だよ、白音、お客様だ!」
電気がフラッシュのように一瞬瞬き、美しくきらびやかな内装を浮かび上がらせた。
「随分大きいお客様だなあ。いらっしゃい、白音って呼んで、あれはドミル」
にこりと微笑む青年は白音といい、魚のような尾やヒレが見えた。奥の椅子に座る無愛想な若者はドミルといい、見たところ人間と変わらなかった。
「ぼくはアルトね!!こっちはバルト」
幼いアルトという少年はタコのような腕のようなものが背中に3本あり、その後ろに佇むのはバルトというのだろう。無感情の冷ややかな光をたたえ、すこし身震いしてしまった。それから付け加えるようにアルトが言った。
「あと二人いるんだけど…もう寝ちゃったんだよね、明日紹介する」
どれも私と同じ人ではないもの。安心して、そっと力が抜け、トランクが落ちた。
「きみのお部屋に案内してあげるっ」
小さな少年に手を引かれるまま、人を殺めたあとだと言うのに、私の顔は穏やかな笑顔だった。
---
この屋敷に住んでから数ヶ月。ある人の子が屋敷を訪ねてきた。
妻のような可愛らしく美しい顔つきに、ふわりとした黒髪。黄緑の不思議な目を持った青年であった。
好物は私と同じレモンティー。私を見て化け物と言わないところが、何より嬉しかった。
名はウィルと言った。そして私はこの青年に深い親近感と同時に好意を抱いたのは言うまでもない。妻と同じ、一目惚れであったからだ。
『妻に似ている』というだけではない。それ以上にも、妻には見えなかった細かな気遣いと優しさ。高いぶっきらぼうな口調であっても、相手を思っているのが感じ取れる。
ウィルがやってきた翌日の晩。部屋に招いて、レモンティーをごちそうしてやると、うれしそうに顔をほころばせた。
安心してくれたのか様々なことを口走った。
死にたくなった末、この森でユルに出会ったこと、親からの虐待を受けていたこと、音楽や文学が好きなところは私と気が合い、楽器の話になり、私がヴィオラが弾けるといえば、彼はヴァイオリンが弾けるといい、ヴァイオリンを持ってきて、一曲披露してくれた。華やかで美しい、歪みのない綺麗な音。随分の手練なのが伺えた。
「なにか弾いてくれ」と部屋の隅に鎮座するヴィオラを指差し笑顔で言われ、久しぶりに持ってきたヴィオラで弾いていると、ウィルは真剣な顔つきで聞き入っていた。それから立ち上がったと思えば、にこやかに笑いながらそっと弾き始め、一人では出せない深みが生まれたのである、これは俗に言うアンサンブルというやつであろう、どうにも妻は楽器が弾けなかったもので、これはまた一人では味わえぬ楽しさを与えてくれた。
引き終わってから、気が抜けたのかころりとベットに寝転がったウィルを見ていると、まるで無垢な子犬とじゃれているような気もするが、私が彼に向けている愛情はペットや子どものそれではないだろう。
目線に気づいたのか嘲笑うようにウィルがにやけると、ひどく言われもない憔悴感に包まれてしまった。いや、理由がないわけではない。このウィルと言う青年の無垢さと向き合っていると、こんな私がいていいのだろうかと、何度も考えてしまう。
私が人殺しだと知ったら彼は態度を変えるだろうか。
もし変えなかったら__。
私が愛しの妻を殺してしまった顛末を、事細かく彼に口走りたくなる衝動を。猫が獲物を見せるようなものではない、私は彼を試したいのだ。ある王が騎士を試したように。
「きみは…人を殺したことがあるか?」
言ってしまった。その途端にウィルの表情が曇り、そっとベットから身を起こして、私の目を覗き込んでくる。
「あるわけないだろ」
私の深い問いをさらりと流し、にっこりと白い八重歯をみせて笑う姿が綺麗で、そっと頬に手を添えると、頬ずりとやらをしてくる。
私は人間ではない。醜い陰獣だ。
それを理解した上でこの青年は私のそばにいるのか。
この無垢なる青年は、私の醜い本心を見透かすように、身を寄せ、そっと囁いてきた。
「あんたは、あるんだろ」
どくりと心臓が脈打って、戸惑いを隠そうと表情を取り繕うとしても頬が動かない。
「図星かぁ」
「違う、私は人殺しではない」
「そんな顔で言われてもなあ」
愛おしそうな眼差しで、まるで母のような眼差しで、そっと髪を撫でられる。それからそっと頬にキスをされたかと思うと、ヴァイオリンを片手にふらりと部屋を出ていってしまった。
通報されてしまうだろうか。彼は私をどう見るのだろう。一つの秘密が暴かれても尚、私は椅子に腰掛けたまま、しばし考え込んでいた。
---
翌朝、警察が屋敷に来ることも、ウィルという青年がいなくなることもなかった。
朝に顔を合わせると、まるで秘密を知った無邪気な子どものようにいたずらな笑みを浮かべ、冗談なのかふわりと抱きついてくる。
答えるように背中に手を回すと妻とは違う硬い感触で、彼からは妻と同じみかんのような匂いがした。そっとてを離すと、ウィルが話しかけてくる。
「あんたさぁ、俺のこと……」
そう言いかけて、かなり大きな声でドミルが叫んだ。「朝っぱらからハグしあいっこは無し、部屋でやってよ」
それから白音がやってきて、ウィルに声をかけてから、私を見てにやけ、それをみてウィルがつまらなそうに出した吐息でさえも過剰に反応し、私の動揺を面白がって鼻で笑い、そっとメモを渡してきた。部屋を伺ってもいいか、そんな内容である。
そっと玄関をくぐって外にでかけたウィルの背中を見て、恥ずかしいような、若気の頃とは違う、昨日と同じ深い憔悴感に、まだ柑橘系の残り香が鼻をくすぐって、いたたまれなくなってくる。思わずしゃがみ込んでいると、白音に声をかけられる。
「昨日さぁ、僕のところに来たんだよね、ウィルくん」
それからバシッと背中を叩かれ、その言葉が言外に含む意味を汲み取ってしまった。
「しっかりやんなよ、応援してるから、w」
--- どうやら私はあの青年に、どうしようもないほど、恋をしてしまっているらしい。 ---
まるで駆け抜けるような淡い恋慕につつまれて、和やかな昼の静かなる屋敷に、朝を告げるやわらかn な光があふれた。
ほぼ書き殴り、マーリーのちょっとした過去からウィルとの出会いまで、いかがでしたか
変換ミスとかあったら教えてなあ
みずいろマフラー
ラピくんの過去編です、
文字多すぎてセリフ見にくいっすね、ごめんなさい(※誤字脱字あるかも※)
登場人物
ラピ:捨てられた龍の子。死にかけのところをクロアに拾ってもらった。気弱だが芯の強い性格。
クロア:王女。思い詰めた挙げ句身投げの際にラピに出会った。頑固でずる賢いポーカーフェイス。
ほぼ書き殴りだから下手かも
---
---
寒い寒い、骨も凍えるふゆの夜。ぼくは橋の下で、ぶるぶる震えながら丸まってた。
明かりのついた暖かそうな家々を見ながら、ぼくはどうしてああなれなかったんだろう。と逆恨みだってした。家々に住む誰かの幸福は、ぼくにとってお前は不幸だと誇示しているような。そんな心地だった。
--- だってぼくじゃぁ、普通のようには生きられないだろう。 ---
--- 妙な黒いつのがあるから、無理なんだろう。 ---
--- 真っ青な、妙な目だから、無理なんだろう。 ---
--- 白い髪だから、尻尾があるから。 ---
もちろん手を差し伸べてくれる人もいた。その人はぼくの角を見て、しっぽ、目、髪。吟味するように見つめられて、そっと手を伸ばされた。必死に逃げたよ。その人の目はギラギラと輝いているようで、人が見せる、欲というなの光だよね。
この世に神様なんていないね、酷いものだよ
あの日もぼくは橋の下で、丸まって、必死にまぶたを閉じた。頬にうっすらなにか乗って溶けていくのは、きっと雪かなぁ。
必死にいやなことが浮かぶ思想を振り払って、意識が薄っすらと溶けようとしたとき、不思議な音が聞こえた。
ぴちゃん、ぴちゃ、コツ、コツ。
ぴちゃん、ぴちゃ、コツ、コツ。
滴る水と、靴音。
どうやら靴音はこちらに迫ってきているようで、急に恐ろしくなって、必死に逃げたい気持ちを抑えた。相手は何をしてくるかわからない。
銃だって持ってるかもしれないとか考えちゃったから。
しばらく狸寝入りをしていると、お腹のあたりがなぜだかあったかい。誰かそばに寄り添っているか、犬猫か。ここまで一鳴きもしない猫はいないから、きっと前者だ。
ぐす、ぐす、と鳴き声が聞こえた。可哀想に思えて、そっと起き上がって、じっと温かいなにかの正体を見た。
目を見張るほどきれいな子で、くるくるの黒髪に、きれいな空色の目。この国ではなかなか珍しい真っ白な肌だった。人形のようにきれいだった。上等なケープを着て、もこもこの猫のように、暖かそうに着込んでいる。
「よかった…ッよかった……」
その子はそんなことを言いながら、ぎゅっと抱きしめられた。
摩訶不思議な行動に首を傾げていると、その子は首を傾げたこっちを見て苦笑しながら、そっと話してくれた。
家から抜け出して外を散歩していたとき、偶然ぼくを見つけたらしい。ゴミ捨て場でうずくまっているのを見て、近づいて行こうとしたら執事さんに捕まって連れ戻された挙げ句、外に出してもらえなくなり。
ゴミ捨て場にいたのは数ヶ月前だから、随分探されていたみたいだ。今はとにかく誰かに必要とされたのがひどく嬉しくて、初めてあったかい気持ちになったよ。
数カ月いろんな人が寄らないところを探して、諦めようかとした頃、偶然見つけたらしい。その日。ぼくはちいさな神様に出会えたのだ。生まれて初めてのこれ以上にない幸福が訪れて、思わず嬉しさで泣きそうになったのは言うまでもない。
だが空気を読まない腹の虫は泣き止まない。
ぐうぐう腹を鳴らすぼくを見て、その子はそっと香ばしい何かを差し出してきた。『クッキー』というらしい。
あっという間にぺろりと平らげると、その子はふと妙な笑顔で、かつ泣き笑いしそうな、柔らかい、きれいな笑顔で。
「うちにくる?」
人の言葉は苦手だ。でもなんとなく意味を汲み取ったぼくは、じっと空色の目を見つめて、深く頷くと、その子は満足そうに笑った。
「わたしねぇ、クロア、クロア、ミード……覚えてないや…むずかしいんだよね、名前。そういえば君の名前は?」
年に似つかぬ口達者で、難しい言葉をスラスラと話した。
「……」
ふと自分の名前を考えたけど、一つも浮かばない。ふるふると首を横に振ると、吃驚したようで、軽く目を見開く。
「あなた……目がきれいよね、その、宝石みたいな」
フクロウみたいに頭をひねりながら、唸っている。きっと考えてくれてるのかな。
「あっ、あの、青いやつ、えっと……」
「ラピってのはどう?かわいいでしょ」
妙に馴染むその名を反芻して、こくっと頷くと、嬉しそうに笑った。それからその子は首に巻いてた水色のマフラーと、着込んでいたきれいなケープをくれた。きっと寒いと思って断ろうとしたけど、拙い手つきで首に巻かれたよ。
薄汚いぼくにも臆さず近づいてくるし、案外キモが座ってるのかもしれない。
「…うちのこになろ、一緒に暮らそ」
きゅっとひしと抱きしめられて、ぱたぱたしっぽを揺らしてたら、面白げに笑われた。
そういえば、この子はなんでクッキーを一個を持って外に出たのだろう?外出を禁止されているはずなのに、誰も入れないはずの橋の下なのに、なんで来たんだろうって思ったけど、その子の笑顔を見てると、浮かんだ疑問は底に沈んでいった。
---
それからぼくはまだ見ぬお家にすこしワクワクしながら、クロアの話をずっと聞いた。お父さんやお母さんが死んで寂しかったこと、勉強が辛かったこと、外に出れないのがつまらなかったこと。
幼い子どもってもっと遊んでいると思った。
でもクロアはぼくと同じくらい、ぼく以上に必死に生きているらしい。年離れした豊富な知識や、どこか知的な印象も納得だ。
しばらく歩くと、クロアがあるところの前で止まる。一瞬思考がフリーズして、ここってお城じゃない?って思うまで何秒かかかった。
「うらぐちがあるの、ついてきて」
クロア?クロア??ここお城だよ???って言いたくなったけど。あいにくぼくの口と頭は言葉を知らない。
代わりに信じられないというような顔で、しきりに首を傾げたりびっくりした顔をしていると、あははと乾いた笑いを返された。
「王女…ってやつ、?かなぁ、お城がお家」
笑いながらぴしっと立つクロアを目をひんむいて見つめた。魂消たよ。
それから裏口から入ると、目の前に少し白い毛を生やして、スーツをびしっと決めたおじいさんが見つめてきた。どうやら例の執事さんらしい。
「クロア様!!!あれほど外には出ないよう言いましたよね!!そしてなんですかその薄汚い生き物は!」
「もう、オリヴァーさんったら、わたし、死にに行ったのよ」
開口一番とんでもない地雷をぶっとばすクロアにあたふたしていると、クロアが大丈夫と言わんばかりに笑みを浮かべてきた。死にかけの君に拾われただなんてぼく知らないよ。
どうやらおじいさんもびっくりしたようにくちをつむんでしまった。
「もう嫌なのよ、辛いんだよ、だから死にに行ったのよ」
「クロア様……」
呆気にとられたおじいさんは調子を取り戻すように、一度おほんと咳払いをした。「それでも外出はいけません、いつも妙なものを持ち帰ってくるでしょう、可哀想ですがその子も城には置いておけません」
気にもとめぬように、クロアは続ける。その顔を覗くと、まるで無感情をたたえたような、怖い目をしていた。「あなたは知ってる?お母様とお父様が死んで、私がなんて言われたか知ってる?」
「……」
「知らないでしょう、”悪魔の子”だよ、悪魔として後ろ指を刺されたんだよ、私は」
さっきとはちがう人懐こい声が、泣きそうだけれど、誰かを憎む為みたいな、酷い声音をしている。
「ごめんなさいねオリヴァーさん、こんな事知ったこっちゃないわよね」
「いえ……」
人が変わったように喋るクロアを見て、悲しそうな光を宿しているおじいさんは、ふっとため息をついた。それに追い打ちをかけるようにクロアがぐすっと泣き始める。ここでぼくがわかったのは、嘘泣きだということ。どうにもクロアは、この歳で人を操る狡猾な術を得ているらしい。
ぐすぐす泣くクロアを見て、おじいさんは何事かを耳打ちすると、僕をみてその人は言った。
「ようこそ、ラピ様」
---
見事おじいさんを抜けて、クロアは満足そうに笑みを浮かべた。すこし恐ろしくなりながらクロアを見つめ、廊下を歩いていると急に右に曲がり、すごい広いお風呂につれてかれた。お湯がむちゃくちゃ傷に染みて、しきりに泣きそうになってしまう。
お湯なのか涙なのかわかんない。透明なお湯はどんどん黒ずんでいって、クロアに笑われながらわしゃわしゃと頭を洗われた。
無事お風呂を終えてフラフラになりながらついていくと、少しでかすぎるベットに座らせられた。
くらくらする。さっきまで橋の下にいたのに今はお城だなんて。
それからおもむろに救急箱をダシてぺたぺたと絆創膏やら包帯を巻かれたり、消毒をされたり(これは傷にしみた。痛かった。)
かなり慣れていた手つきだったから思わずクロアを見ていると、チラチラと傷が見えた。親指の付け根あたりに引っかき傷に、寝間着に着替えて見えた膝にはかすり傷で、足の甲にびゃっと斜めに傷が走っている。どっちもぼろぼろじゃないか。
あったかい服を着させられ(パーカーって言うらしい。)ホットマシュマロココアとありったけのクッキーを食べさせてもらった。
ふうふうとマグカップの中のココアを冷ましていると、同じものを手にしたクロアが、ぽつりぽつりと話し始める。
「さっきの話、聞いていたでしょう、お父様とお母様の話。」
頷くと、どこか切ない微笑みを浮かべた。
「私ねぇ、つい先月にお母様が死んじゃったの、その3ヶ月前にはお父様が死んじゃって、あっというまに一人になって」
「寂しかったの、だからあなたがいてくれてよかった」
びっくりして思わず見つめると、じっとクロアも見つめてくる。
「川に飛び込んじゃおうって思って橋の下に行ったの、そこであなたを見つけたから、あなたは私の命の恩人」
君だってそうだと言ってあげたくて、自分の胸を指さしてから、クロアを指差すと、どうやら意味を汲み取ってくれたらしく、ありがとうと小さく笑ってくれた。やっぱり笑顔が似合う子だ。
「……ココア飲んじゃったら寝ちゃお、助けてくれてありがとうね、ラピ」
そんなことを聞いて一緒に寝るのかとなにか心を決めたような顔をしていると、「なあに、そのかお、w」と笑われた。これは僕が心を決めた顔です。伝われ、クロアよ。
そんな流れがあってから、クロアが先にココアを飲み終わって、ぱたぱたとトレーに乗せて持っていく間。
なんとなく落ちてるクッションやうまくかかってない服をかけ直したり、崩れた本をきれいに戻したり、ペンをペン立てに戻したり。
できることをして待っていると、クロアが分厚い赤い本をもって戻ってきた。
「お父様とお母様を見せてあげるっ」
僕が座ってるベットの乗っかってきて、ぱたっとアルバムが開くと、クロアによく似た顔の女性と、くるくる髪のハツラツとした男性が写っていた。
真ん中には髪の短いぱやぱやとした、小さな子。きっとこのこがクロアだ。
「これがお母様で、タルトが大好きで、お父様は馬に乗るのが上手」
それからずっとクロアの写真ばっかで、あまりにも僕が熱心に見つめるせいか、「ここに本物がいるでしょっ」と笑われる。
どうやらこのご両親にとんでもないほどクロアは愛されてるみたいだった。写真の中のクロアは全部笑顔で、たま〜に可愛らしい寝顔や、犬に怯えてお父さんの足にしがみついていたり、普通の子どもらしい。
どうにもその笑顔が失われていた期間を考えると胸が苦しくなった。
「お母様はねぇ、よくお菓子作ってくれた、でもすっごい怖いんだよ、わたしにいっつも怒鳴るの。」
「でもお父様は『お母さんは少し不器用なだけで、クロアが大好きなんだよ』って言ってねぇ、それで嬉しくってお花をあげたら、初めて笑ってくれたの」
クロアは一つ一つの写真を説明してくれて、まるで時間を巻き戻すように、丁寧にページをめくっていた。
クロアの家族自慢が終わると、アルバムを机に代わりにおいてあげて、そっとベットへ戻ると、櫛を手にしたクロア。寝ないのか?
「ちょっと……ラピがいいならでいいんだけど…しっぽ…触りたくて」
どうぞどうぞと尻尾を向けて座ると、櫛がくすぐったくて思わず身動ぎした。「なんかパサッとしてるねぇ、猫の尻尾みたい」
体のあちこちを触られていると、ぴたっと手が止まって、何事かと後ろを向くと、うつらうつらしているクロア。
電気を消してあげようとスイッチを探して立つと、ぎゅっと袖を握られる。
「いかないで」
代わりと言っても難だけれど、手の甲にそっと口付けると、びっくりしたように、耳まで真っ赤にしてクロアががばっと起き上がる。
じっとキスをした手の甲を見ていて、それから僕を見て、手の甲、僕、手の甲、僕……大丈夫かな、僕打首にならない?
そしたら急に布団に丸まってしまった。でも同時に勝ち誇ったような気持ちになった。
パチっと電気を暗いものにして、ベットの縁に腰掛けると、布団からひょこっと手が出てきて、暗闇の中、うっすらとクロアが見えた。
こういうときどう言えばいいのかわかんないや。
彼女の白い肌は暗闇の中ではより一層白く見えた。空色の目も、夜空を吸い込んだみたいに、きらきら光っている。
そっと隣に寝転ぶと、ぎゅっと抱きしめられる。抱きしめ返すと、見た目よりもずっと小さくて、服で大きく見えていたこともわかった。
なんだか痩せているのが苦悩自体を表しているようで気の毒で、せめてもと言わんばかりにそっと頭を撫でると、うふふと可愛らしい、小さな声が聞こえたのは言うまでもない。
---
翌日、まどろむ暇もなく、叩き起こされた挙げ句に数十分も髪をいじられた。きまぐれだなぁ。
器用に三つ編みを結ばれながら、寝癖がすごいクロアを鏡越しに見やる。子猫みたいに、ぱやぱやとした髪。
やっと終わったらしくて鏡で見せられると、なんだかものすごかった。なんだろう。難解なパズルみたい。
髪が終われば角、角が終われば尻尾。磨かれたり梳かれたり、自分でやろうとすると手を叩かれる。だめなのか。
「みてみて、お揃い」
赤いリボンで一箇所髪をまとめたクロアが、同じリボンがついた僕の髪を見せつけてきた。きれいだなぁ。髪もクロアも。
セットが終わって疲れてフラフラしながら立ち上がると、ぎゅっと抱きついてきた。ハグが好きなのかな。
急に顔を見つめてきたかと思うと、おもむろにキスをされた。もちろん紛れもない唇に、である。
ぶわっと頬が熱くなって、ぐつぐつ頭が煮えた。
なんとなく昨日のクロアの気持ちがわかる。僕はとんでもないことをしてたのかもしれない。
「改めて、よろしくね、ラピ」
僕はこの、気まぐれな小さな神様に、一生ついていく。そのつもりだ。
---
---
どうでしたか、過去編
なんと文字数驚きの6110文字!!((
ここでちょっとこばなし。
クロアのお母さんは合理的、お父さんは人情深い性格をしています。
クロアはどちらも受け継いで、合理的だが人情深い性格、お母さんは人を操ってのしあがってきたので、そこの狡猾な面も捉えています。(お父さんは努力家)
両方のいいところばかり受け継いだ結果、フィジカルつよつよスパダリ王女様が生まれたわけです。
今後ともうちのこをよろしくです。(^ν^)
黒猫と町並み。
クロアの過去編です、死ネタ、クロアが可哀想かも
登場人物ぅ(紹介というより一言)
クロア:無邪気な8歳。好物はチョコクッキー。得意なことは歌と粘土、お母さんよりお父さんが好き。最近覚えた言葉は「げせぬ」
ヘレナ:クロアのお母さん。クロアには厳しくしたいけどにこにこクロアを見る度悶々としている。そういうところだぞ。
ダニエル:クロアのお父さん。クロアを溺愛中。でろでろに甘やかすのがすき。おかげで骨抜き娘が出来上がります。
かきなぐり、長いよ、あとがきもたっぷり、急展開だったりしまくるごめん
クロアは両利きやで
あのさ、馬鹿ながい、過去最高、ながいしくぎりへんかもだけどなんとなく脳内変換して読んでもろ手
なにやらわめきながら雪に埋もれるわが子を見て、ダニエルは慌てて言った。
「クロア、風邪ひくぞ」
「いいもん」
「早くお城に入ろう…そうだ、クッキーあるぞ!」
「やだ」
「本を好きなだけ読んであげよう」
「べつにいい」
「お母さん呼んじゃうぞ?怖〜いぞ?」
「やっ、帰る!!かえるかえるかえる!!」
母親を怖がる子供もいるが、逆にそれが役立つこともあるんだな__。
しみじみとかみしめながら、小さいうででめいっぱいに抱きついてくるクロアの小さい体をそっと抱き上げた。
そこでやっと気づいたのだ。自分たち以外の存在に。
言うまでもなく、ヘレナである。吹き流した白髪も相まって、立ち塞がる姿はまるで大きな龍のよう。そこでキッと目線を夫に向け、唸るように聞いた。
「私がなんですって?」
「キミハトッテモステキナヒトダナァッテ…」
「嘘はよしなさい、クロア?あなたも聞いてたでしょう」
ぎくり____。母から向けられる厳しい目線におもわず首をすくめ、クロアはよれた水色のマフラーに頬を埋める。
「クロア、正直に言いなさい、お父様はなんて言ってた?」
「お母様はいいひとだって…」
「クロア」
「えっと…えっとね、ほんとは、少しだけこわいひとって言ってたの。ほんのすこしだけ」
「…ダニー、あとで書斎に来なさい」
「はい...」
ため息をついて悲しそうに眉を寄せながら、ダニエルはヘレナの後ろをとぼとぼとついていくのであった。
---
外から帰り、ヘレナの部屋の中で、二人は向き合った。
「お外いっちゃだめなの?」
ピンと背筋を伸ばしてヘレナは深くうなずく。真剣そのものだが、いまだに落ち着きのないクロアは元気が有り余っているのか、ヘレナの周りをぴょんぴょこうさぎのように跳ねながら、しきりにそう繰り返していた。
「なんでー?」
「近頃雪が吹雪くでしょう、それで命を落とす者が絶えないのです」
「雪たのしいのに?」
「貴方は将来この国を統治するのです、遊んでばかりではいけません」
「とうちってなに?」
「国を治め、民を導くのです」
「おさめるってなに~?」
始まった。ヘレナはうんざりしながら、娘からの絶えない問いにゆっくり答えていった。
「おさめるとは、秩序を保つこと、この国を正しくおさめなさい、それが貴方の役目」
「げせぬっ」
「そんな言葉使いをしてはなりません、あなたは王女なんですよ」
おほんと咳ばらいをし、凛とした佇まいで、ヘレナは説く。だがクロアにはよくわからないようで、しきりに首をかしげては、悩ましげな声を漏らしていた。
「な~ん~で~?」
「言葉は性格や知性、運命を示すもの、貴方が汚い言葉を吐けば、それは本当になってしまうのです」
「しけいって言ったらし~ぬ~?」
「…どこでそんな言葉を…まあ…その者が大罪を犯したのならば」
「たいざい?」
「正義に背いたものが行き着く罰です」
「へぇ、ねぇお母さま」
「?」
きらきらと瞳を輝かせ、興味津々といったように、クロアはヘレナの膝に手を置き、身を乗り出していった。
「お母さまはなんでそんなに知ってるの!?」
「さぁ、なんででしょうね」
「ものしり~?」
「母様は何でも知っているのですよ、貴方が先ほど盗み食いしたタルトの事だって__。」
一瞬きょとんとした顔で、それから顔が青ざめ、ぴゃっと声を上げて逃げだそうとしたクロアを抱きかかえ、ヘレナはいたずらな笑みを浮かべながら、脇腹で指を躍らせた。
「クロア、黄色いメモの意味は何かわかる?」
「やめてっ、くすぐっ、たいってば!!」
「答えなさい、教えたでしょう」
「わっかんないっ!」
「嘘言いなさい!」
「しらないの!!クロアわかんないのっ!!」
わあわあわめくクロアの目をのぞき込み、そっと床へ下す。耳を真っ赤にして脱力しきった娘を立ち上がらせると、一つ聞いた。
「青いメモの意味は?」
「クロアのおやつ…」
「緑色のメモは?」
「クロア…じゃなくておかあさまのおやつ」
「黄色のメモは?」
「食べちゃダメなおやつ」
おほんとわざとらしくヘレナがせきこんでみると、クロアはまたしてもはっとしたような顔で、もじもじと身をよじり始めた。
「嘘は?」
「いけません…」
「母様にバレない嘘などありませんからね」
「ゔ…」
ぽんぽんと不貞腐れたクロアの頭をなでながら、ヘレナはうんうんとうなずく。
そんな二人のところへ、ダニエルが飛び込んできた。
「…ヘレナっ、急に出ることになった!クロアをよろしく頼む」
「えぇ!?ちょっと…貴方昨日帰ってきたばっかでしょう…疲れているでしょう…」
「大事な会合の一つだ、私が出ないでどうする」
「でも…クロアも貴方が返ってくるのを楽しみにしてたのに」
「そうだよっ、かくれんぼするって言ったでしょっ!」
「ごめんなぁクロア…お父さんもう行かなきゃいけないんだ。」
「む…いつかえってくるの、お父さんは」
「いつだろうか…明日の夜までには帰ってくるよ、愛してるぞ、二人共」
二人の頬にキスをして、足早にダニエルは部屋から出ていく。
父親が去った廊下を、クロアはしばし唖然と見つめていた。
---
寒々しい部屋の中、温かいベットの中で、クロアは不安げに聞いた。
「お父さんは今日は帰ってこないの?」
「聞いたでしょう、明日の晩までに帰ってくると」
「そっかぁ、ねぇ、お母様、ご本読んでよ」
「早く寝なさい、今日のご本はなし。」
「な~ん~で~?」
不満げに唇をとんがらせ、音の外れた歌を歌うクロアの唇にヘレナはそっと人差し指を当てる。
「むっ」
「静かに、早くお眠りなさい」
「お母さまがお歌を歌ってくれたらねるよ」
「…仕方のない子ね」
上半身を起こし、深呼吸すると、規則正しい音色がクロアの耳を打つ。ぼんやりと母の歌う歌に耳を傾けていると、とろりと意識が溶け、まどろみ、少し経つと、すうすうとか細い寝息が聞こえてくる。
そっとクロアの髪をなで、ヘレナは満足そうに笑った。
---
父親が出てから早二日。
甲高い小鳥の鳴き声が響き、部屋に光がそっと差し込む。そう、朝である。
しかし城の玄関には小さな嗚咽が響き、朝の空気は一人の悲しみを置いてけぼりにしてしまっているようで、爛々と輝く空も、ヘレナにはくすんで見えた。
今も父親の帰りを待ちわびて、部屋ではクロアがきっと絵を描いているだろう。
「ヘレ_さま_ほんと__ざん_んです」
嗚咽にかき消される声の一つ一つ、言外に含まれる思いをヘレナは掬い取り、インクが滲んだにぬのきれに、涙を零し続けていた。
「大丈夫ですか、ヘレナ様」
「だいじょうぶ、だいじょうぶよ、オリヴァー、あたしはだいじょうぶよ」
「…辛いでしょう、私も同じことです、立派でしょう、大変立派です、ダニエル様は」
「そうね、あたしも、わかってる」
ちぎられた布には、走り書きで、めいっぱいに書き込まれていた。残された妻と子供へ向けた愛の言葉だけが。どうにも城に届いたのは、ダニエルの声ではなく、青色の磨かれたブローチと、とどめいろがしみた、ぬのひときれであったのだ。
国王の訃報は、なによりも早く、国民全員に伝えられた。立派な”死”は、皆かなしみ、なげき、いかりくるった。
国王は、途中で盗賊に襲撃され、剣をとって勇敢に戦い、盗賊とともに雪の中に姿を消した。たった1人の家来と、馬たちを守るために。
悲しみに沈む国にはひとり。父親の死をしらない無垢な少女だけが、今は部屋に取り残されていた。
---
ヘレナは部屋の前で深呼吸をし、そっとドアノブを回した。
「お母さま、お父さんはまだなの~?」
「…もうすぐ、きっともうすぐ帰ってくるわ」
「ほんとっ?!クロアねぇ、絵描いたんだよ、みて」
三人が並んだつたない絵をみながら、ヘレナは笑った。
「クロアは、絵がじょうずねぇ」
ないちゃだめ__。ヘレナは強く手を握った。それでも、とめどなく涙があふれてくる。
「…なんでないてるの?」
「あんまり上手だから、かあさま、ないちゃった」
「…なかないで、わたしがいるから」
「ちがうのよ、あんまり上手だから」
「お母様はうそが下手だね、いつもお母様、わたしの絵を見るとわらうじゃない」
小さな手でぎゅっと抱きしめられ、ヘレナはきつく、ぎゅうっと抱きしめ返すと、クロアは「ゔっ」と声を上げた。
「お母さま、なかないで、一人じゃないよ」
「そうね、そうね、あなたがいるわ、クロア」
「お父さんもいっしょ!まだ帰ってこないけどね」
「いっしょね、いっしょ、ずぅっと一緒だわ」
「んふふ、でしょ?寂しくないでしょ?」
「ええ…」
『こんな小さい子に慰められて、情けない。』そう思いながらも、ヘレナはじっと、クロアの小さい体をかき抱いたまま、なき夫に思いをはせた。
---
---
---
あれから数か月。冬は過ぎ去り、春の息吹が感じられるころ。少女クロアは、呪文のような数字や記号が書かれた紙を前にして、首をひねっていた。
最後の問題、それがとけない。
「ねぇ~えぇ~オリヴァーっ、こたえ教えて?」
きゅるりと目を輝かせて、かわいらしい猫なで声で聞くと、「ダメです」と案の定な答えが返ってくる。昔はこれで効いたのにな…と唇をとんがらせ、ちぇっと舌を鳴らした。
「クロア、そろそろお茶に…って、まだわからないのですか」
「だって…これもう…クロアの年齢の問題じゃないぃ…」
「解きなさい、それが当たり前です」
「だってぇええええ、みんなこれまだやんないでしょっ、まだやんないって!!はやーい!!」
”あれ”から数か月。やはり子供にとって数か月という歳月はずいぶん長いもので、今ではすっかり口達者になったものだ。机に突っ伏してうめくクロアに冷たくオリヴァーは言い放つ
「…クロア様、もうしばし考えて、お答えできなければ仕方なく答えをお教えします、だけれど明日は一時間、たっぷりお教えしますから」
「…はぁ~い」
「それもそうだけど…オリヴァー、もう少し考えさせたほうがいいんじゃない?クロア、貴方ならわかるでしょう、こんな問題__。」
クロアに教え始めたヘレナを見やりながら、オリヴァーは気づいた。クロアの口に浮かぶうっすらとした笑みに。その笑みにピンときたのか、オリヴァーはヘレナに耳打ちをした。
「ヘレナ様、クロア様はこの後のマナーレッスンをないがしろにするつもりです、わたくしは分かっております」
「なんですってぇ?!」
机をばんっと叩き、ヘレナは声を張り上げた。とんでもない気迫に驚いたのか、早口でクロアが言い放つ。
「なわけないよお母さまだってクロアこんな問題すぐ解けるよほら!!!!」
びっしょり冷や汗をかきながら急いで答えを書き記すと、それでもヘレナの厳しい目線がおくられる。
「なにが”わからない”ですって?」
「嘘つきましたごめんなさい!!」
「無理ね、今回は許せないわ、オリヴァー、レッスンの方をいくらか長くしておきなさい」
「承知いたしました」
「ゔぇぇぇ…」
腕を組んでふんっと鼻を鳴らす母親と、腰に手を当ててこちらを見やる執事を交互にみやり、クロアは頭を抱えた。
---
さらに月日が流れ、季節は夏。クロアは乗馬場にいた。馬術を叩き込まれているのである。
蒸し暑い夏。だらだらと汗がこぼれ、水を飲んでも飲んでものどが渇く。少し前に誕生日を迎え今や9歳。あまりにもやりすぎではないか?それを一番肌で感じているのは、やはりクロアである。
手綱の重要性や、馬との絆の深め方。よくわからないことを熱弁する講師をうんざりした目でみつめた。
「今日はここまでです、お疲れさまでした、クロア様__」
クロアは講師が言い終わる前に突風のごとく小屋に駆け込んだ。日陰にあるおかげでいくらか涼しく、ふうと息をつく。汗をびしょびしょにかいたグラスを傾け、さわやかな酸味がすうっと喉を通っていく。
またレモネードかぁ、クロアはむっと顔をしかめた。
クロアはぽかっとどこか、体に穴が開いたような気がして、机に突っ伏した。誰かに見られている気がして、不安でしょうがなかったのである。
---
無情にも過ぎ去る季節にうんざりしながら、迎えた秋。
初めての長い休みに、クロアは小躍りする気持ちで、母親からフレンチトーストの焼き方を教わっていた。ふわふわとやわらかい分厚く甘いフレンチトーストは、大好物の一つである。
しかしまだ火を扱うには危なっかしいので、書き込まれたレシピを読みながら、焼いている姿を動画にとったり、写真に撮ったりしているだけである。カメラは誕生日のプレゼントで、いろんな場所に出かけるようになった。
ヘレナも外出を拒まなくなり、自由奔放にのびのびと、クロアは休みを満喫している。
「もうすぐできる?」
「もうちょっと、お皿、取ってくれる?」
「ん!」
甘い匂いに自然と顔がほころび、おもわず笑みをこぼしながら母親の元へ皿を持っていくと、ふわりとフレンチトーストが乗せられる。
「ホイップクリ~ム」
「かけすぎちゃだめよ」
「げせぬ~」
たっぷりクリームをかけて、甘いフレンチトーストを口にほおりこんでいると、ヘレナが顔を覗き込んでくる。
「あなたはほんとにお父さん似ね」
「ほぉ?」
「そっくりよ、目も、髪色も。でも肌と鼻は私そっくり」
「たひかに」
「飴玉みたいで綺麗な目ねぇ…」
「はずかしいってば…」
ごめんなさいね、そう笑いながら、今度は髪を指でいじくられた。
「この巻き毛なんかも__。」
「んもう、お母様ったらどうしちゃったの、クロアはお父さんじゃないって…」
「そうね、ごめんなさい」
この秋にうちあけられたのは、ずいぶん前に死んだ父親の死の事。ヘレナが申し訳なさそうに、涙ぐみながら言っても、クロアはそれが当然というような顔で、顔色一つ変えなかった。心のどこかで分かっていたのだ。
こうして父親は、クロアの心の中で、ゆるやかに死んでいった。
---
月日は経ち、冬。クロアは窓の外のふわりとつもった雪を見つめた。部屋の明かりできらきらと輝いて見えるようすに見入っていると、ヘレナが口を開く。
「きれいね、クロア、似合ってるわ」
よれた胸のクラヴァットを直してやりながら、仕上げに青いブローチを首元に飾り、袖を整え、折れたスカートを直す。
「ねぇ、どこいくの?」
「少しお散歩」
「ゆきふってるよ?」
「そうね、もう少し暖かくしていきましょうか、マフラーはどこかしら」
「お母さま、体悪いんでしょ、お城でゆっくりしよう」
「今日はきっと星がきれいよ」
「そうだけど…」
「お星さま、見に行かない?クロアは嫌?」
「ううん、わたしも行く」
どこか不安げな娘の手を引き、城を出る。外は案の定の寒さで、息があっというまに白くなる。しばらく歩いていると、待っていたかのように、雲が引き、空が見えた。
「ほら、星がきれいでしょ」
「きれい…」
瞬く星々を見上げながら、クロアはさくさくと雪を踏み鳴らした。やはり雪というものは、子供の心をひいて仕方がない。
「ねぇお母さま、ちょっと遊んでもいい?」
「いいわよ、母様はここにいるから、遊んできなさい」
「やった!!」
一面の銀世界に飛び出していくクロアの背中を見つめながら、ヘレナは子犬のように走り回るわが子を見つめ、緩やかに笑う。雪に埋もれて笑うクロアの姿に夫の姿を重ね、弱弱しい母の背中は、森に飲まれ、消えていく。
クロアはしばらくして、雪から顔を上げ、あたりを見渡した。母親の姿が見つからず、慌てて立ち上がった。雪に足を取られながら、必死に名前を呼ぶ。返事はなく、虚しい声が木霊している。
周りに家一つ見つからない銀世界。遠くに家々の光が見えても、クロアはぎゅっと雪の中でうずくまった。
小さな体では寒さにかなわず、すぐに寒さで体が震え、ゆったりと眠気が襲う。
小さな声はやがてかすれ、声にもならない吐息が、ふっとあふれた。
---
女王と王女の失踪は国王の訃報とおなじく、何よりも早く、国中に伝わった。女王の名前と、その娘の名前が国中に響いた。吹雪く雪の中、国一団となって捜索隊が組まれ、あちこちを探し回った。足跡は雪でかき消され、誰も行方を知らない。
しかし失踪から数時間、雪の中で埋もれる王女が見つかった。かろうじて息をしていることから、急いで治療が施され、数時間後にははっきりと息を吹き返したという。
王女のバックには、女王の筆跡と思われる手紙が入っていたらしい。
それから数日、国王と同じく、葬式が挙げられた。遺体のない葬式が。
人々は思っている。こんな吹雪の中、人が何日も生きていられるわけがない。そう、ブーゲンハープの冬は、凍てつく寒さ。
ベットで目を覚ましたクロアは、ぼんやりと考えた、なぜ自分だけ助かるのだ、と。
すっかりおいてかれてしまった少女は、一人病室で、ぼんやりと物思いにふけっていた。
---
母親の失踪から7日目、クロアは部屋のベットに身を投げた。あの冬の寒さ、案の定凍傷を引き起こしていたので、右手がうまく動かないのが不満だった。
頭の隅であの夜に消えた母親も、盗賊に襲われた父親だって、まだ生きているかもしれない。だけれど国は死んでいるとみなした。
憎らしくなり、城に帰った初日、思い詰めて窓から飛び降りようとしたせいで、今や監視つきで部屋にいる。監視といっても、数時間に一度、見に来るだけであるが。
窓から見える景色はやはりくすんでいて、気分もいいわけではない。
「クロア様、失礼いたします。」
「どうぞ、はいって」
できるだけ愛らしく、にこっと笑うと、見知らぬ顔の召使は、安堵したように微笑を返してきた。
「お食事のご用意ができたのですが…お持ちになられますか」
「いや、大丈夫、わたしがそっちにいくから」
「承知いたしました、お待ちしております」
召使が出ていき、重い腰を上げた。できるだけ左手で身なりを整え、そっと廊下へ出る。
すれ違う料理人や、若い執事などから、軽蔑の目を浴びせられ、いい気持ちはしない。けれど今は怒こる気力もない。ふらりと夢遊病者のように歩きながら、クロアは食堂のドアを押した。顔なじみのオリヴァーと、母親によく似た、一人の女性がいた。
「出来損ないのお出ましかね」
クロアを見るなり毒つき、ふんっと鼻を鳴らした。水色の目できっとにらむと、案外ひるんで、「ひっ」と声を上げる。
「すいませんクロア様…あちらヘレナ様のお母様になります…本当にすいません…あなたに会わせろと」
「きにしないで」
「悪魔よ!!!悪魔の子!!あたしの娘を殺しておいて、なぜのうのうと生きているの!!」
醜い体を揺らし、わめきつづける。食事どころではなく、うんざりしてオリヴァーに聞いた。
「食事はへやにはこんでほしいんだけど…」
「ええ、、勿論、あちらのお母さまには私から言っておきます…申し訳ありません…」
悪魔!!悪魔!!甲高い声でそう叫んでいた。その言葉は食堂を立ち去ってもなお、クロアの心に深く沁みついてしまった。
---
食事をとってから、オリヴァーが部屋へ数学を教えに来て、クロアは思わず後ずさった。王女に休みというものはもはやないらしい。
唸りながら紙に鉛筆を走らせるクロアを横目に、オリヴァーは小さな声で、気まずそうに聞いた。
「あと大変いいにくいのですが…許嫁の…」
クロアはそっと布団をかぶった。私まだ9さいよ、そんな言葉がのどでつっかえている。
「おことわりって言って」
「そうにもいかないのですよ…」
「むり」
これから始まるうんざりするほど嫌な日常を頭で思い浮かべながら、あの時死んでいればよかった、そんな思いがよぎる。
「ねぇ」
「なんでしょう?」
「外に出かけてもいい?」
「今夜は吹雪いています、御遠慮ください」
別にいいでしょ、と心の中で悪態をつきながら、クロアはぐいっとオリヴァーに顔を近づけて言う。
「庭だけでもいいから」
「…庭、ですか」
両親が死んでから、とたんに静かになったクロア、自分の望みを訴えることもめっきり減り、周りの召使いは助かる、楽になった、そう言う者ばかりであったが、オリヴァーはやはり気の毒で、願いを無下にすることは出来なかったのだろう。
しばし考え込み、クロアを軽くおしのけながら、こくりと頷いた。
「暖かくして行きましょう、あなたが凍えてしまうのは、もう懲り懲りなのです」
「やった」
「それ以上お身体を壊されても困りますし…」
「私は大丈夫だってば」
「あなたが生まれた時からお傍にいたのです、嘘などお見通しですよ」
「お母さまみたいだね」
「そうですか…」
ワイン色のケープを羽織りながら、クロアは懐かし気に遠くを見てから、にこりと笑う。まだ幼さが残る笑顔に、オリヴァーは首をすくめた。
「なんです?そのバックは」
「何でもない、お菓子でも食べようかなって」
特別何かを疑うわけでもなく、オリヴァーは部屋のドアを開いてやりながら、クロアの手をじっとみつめる。
「手袋を忘れていますよ」
「途中でつけるって、行こうよもう」
「行きましょうか…」
---
「今日は冷え込んでいますね…」
「お母さまも寒い寒いって死んだのかなぁ」
自虐的な物言いにオリヴァーが苦笑いすると、クロアは雪をすくっていった。
「みて、ふわふわ、死にかけのわたしみたい」
「……」
屈託のない笑顔に思わずつられそうになりながら、オリヴァーはまたもや頬をひきつらせた。構わずクロアは続ける。
「みてこれ、虫が死んでる、オリヴァーさん虫食べてみる?」
「あの……」
「多分お父さまもこんな感じ、雪に埋もれて死んでると思う」
「あのぉ……その虫…生きておられるかと…」
「虫?あぁ、お父様?お父様は死んでるよ?」
「いや…その虫が…」
「あ、ほんとだ、生きてる、オリヴァーさん、キャッチ」
クロアが満面の笑みで投げた虫をひょいとよけながら、何事かを言おうと前を向くと、雪の塊が飛んでくる。
「っ…クロア様!!」
「似合ってるよ」
まさかとんでもないストレスで性格がひねくれてしまったのではないか、オリヴァーが天を仰いでいると、右足に衝撃が走り、視線がぐらついた。
あしもとの階段が凍っていたらしく、つるりと滑り、どすっと派手に尻もちをつく。またクロア様の仕業に違いないと周りを見渡すと、今にも塀を乗り越えそうなクロアが一人。
「クロア様!!」
急いで駆け寄るも、塀の上から嬉しそうにクロアは手を振る。
「じゃあね!!お先にいくから!!」
「お先!?お先とは何ですか!?お出かけは庭のみのはずでは?!」
叫ぶオリヴァーの声を聞きながら、クロアは軽快なステップで走り出した。
---
寒い寒い、骨も凍えるふゆの夜。
海を目指して、クロアは走った。いい加減うんざりするほどの生き方に幕を閉じるために。うんととおくのしらないところへ。
川の上にかかる橋を通るころ、ちらりと目の端に何かが移る。
そろりと橋の下をのぞく。鉄格子や金網でよく見えないが、何かの息遣いを感じた。不規則な、今にも消えてしまいそうな、か細い呼吸。
梯子を伝って降りて、橋の下まで行けそうな場所を探していると、少しばかり金網に穴が開いているのが見えた。身をかがめて、するりと通り抜ける。
なにか見えない力に誘われるように、クロアは薄暗い奥をめざした。
奥のほうでうずくまっていたのは、小さな妙なイキモノ。
白くて、黒いしっぽがあって__。
ぱちっと花火がはじけるように、クロアは思い出した。昼下がりの散歩のとき、みかけたちいさいイキモノ。
駆け寄りたい気持ちを抑えて、そうっと近づいた。ピクリとも動かず、心なしか息をしていないような、刺激しないように、近寄って、かがんで、そばに座り込んだ。イキモノの顔をなでると、すこしばかり温かい。けれど動かない。
急に悲しさがこみあげてきて、涙がぼろぼろとこぼれだす。お母様もこんな気持ちだったのかな、とクロアは小さく嗚咽を漏らした。
背後で衣擦れの音がする。ゆっくりとイキモノが上半身をあげた。
青い目を伏し目がちに、じとりと見つめてくる。生きていたんだ、とぎゅっと抱き着くと首をかしげたのを見て、クロアは笑いながら話した。
「あのね、あなたをごみ捨て場にいるのを見かけてね、それで行こうとしたのよ、でも、オリヴァーさんに止められちゃって…オリヴァーさんってのは執事さんでね、それでお外に出れなくなっちゃって…」
イキモノは悩まし気に首をかしげて、ゆっくりとうなずく。けれどぐうっと腹の虫が鳴いたのを聞いて、クロアはバックからクッキーを取り出して、包み紙をやぶって、手渡す。
さくさくとよい音を鳴らして平らげ、イキモノは黒い尻尾をゆらりと揺らした。なんだか心が温かくなり、クロアは優しく笑って、聞いてみる。
「うちにくる?」
イキモノはクロアの顔を覗き込むように見ると、深くうなずいた。それを見て、クロアもおだやかに笑う。
「わたしねぇ、クロア、クロア、ミード……覚えてないや…むずかしいんだよね、名前。そういえば君の名前は?」
イキモノはそれを聞くなりみょうなうなり声を出し、首を少しかしげ、ふるりと横に首を振る。
クロアはびっくりしながらも、身を乗り出して言った。
「あなた……目がきれいよね、その、宝石みたいな」
クロアはうなりながら考えを絞り出そうとする、あとちょっとのところで浮かばないのがもどかしい。
「あっ、あの、青いやつ、えっと……」
頭にビックリマークが浮かんできそうな勢いで、ぱっと、目を見開いた。
「ラピってのはどう?かわいいでしょ」
イキモノは目を細め、さもうれしそうにこくりと頷く。クロアはラピの服装を見て、凍えてしまったら危ないと、ケープを着せ、マフラーを巻いてやる。どこかはかなげに笑うような顔つきが、よく母親に似ている。
「…うちのこになろ、一緒に暮らそ」
涙がまたこみあげてきて、ぎゅっと、ラピをクロアは抱きしめた。ゆらゆら、ぱたぱたとゆれるラピのしっぽを見て、面白げに笑った。当のラピは、恥ずかしそうにうつむいていた。
---
昼下がり、城の中、物置にて、クロアとラピはあるものを探していた。赤いカバーの、いわゆるアルバムである。
箱をいくつも開け、探し回る。やっと見つけた赤いカバーのパンパンに膨れ上がったアルバムを見て、ラピはクロアに声をかけた。
「これさぁ、見つけたんだけど…分けたほうがいいんじゃない?明らかにキャパオーバーしてるでしょ…」
ずっしりと分厚く重たいアルバムを手にすると、はらりと一枚の写真が落ちる。古びた写真を手にして、ラピは思わず笑みがこぼれた。
「あ、ちょクロア見てこれむっちゃ懐かしいやつ…!」
思わずクロアにかけより、拾った写真を見せる。写真の内容は、昔に取った二人の姿。どっちも幼げな顔つきで、クロアに至ってはまだまだ子供である。
「ラピちっさ…棒じゃん、ガリガリ」
「今はこんなに大きくなりました…って見るのそこ?」
「じゃあラピはどこみるの…」
「このクロアとか、クロアとか、クロアとか」
「ここに本物がいるでしょっ」
「いひゃっ」
頬をつねると、ひーひーラピが抗議の声を上げた。眉間にしわを寄せながら、クロアは写真のラピと、いまのラピを比べる。
「雑草みたいに伸びちゃって…伸びすぎよ」
「ほっへ、いひゃって、はなひえ」
「見えない、屈めよ」
「ひゃーい…乱暴だなぁ…」
それから二人は物置を後にし、部屋の中、ベットの上で、アルバムを開いてみた。
クロアや父親や母親の写っているものは、ある日を境にラピやクロアを映したものになる。ベットで同じポーズで寝ている姿は、おそらくオリヴァーに撮られたのだろう。
月ごとのフレンチトーストの写真は、日にちがたつにつれて、上手く、おいしそうになっていっていたり、ラピの手形や、ましてやしっぽの毛までもが張り付けられている。
クロアのつたない絵も、日を追うごとにつれて、見事な似顔絵へとなって行った。
「こう見ると歴史を感じるな…」
「そう?あっという間すぎてあくびが出るんだけど」
「これからもっと長いからなぁ…」
しみじみつぶやくラピを差し置いて、クロアはピッと指をさす。指の下にあるのは、窓に頬をくっつけて寝たラピの姿。どうやらクロアが外から撮ったらしい。
「見てこのラピ、アホ面」
「むっちゃクールだろ、この顔、クロアにはわかんないか…」
「いやどう見てもアホ面でしょ」
「こっちのクロアのほうがバカっぽく見える」
雪に突っ込んで上下がひっくり返っているクロアの写真を指差すと、唸りながらクロアは頬杖をついた。
「今すぐあの世送りにしてもいいけど」
「やっぱ僕のほうがバカっぽいかも」
つたない字で『あたらしいかぞく』と書いてるところの下には、くてっとだらけきったラピの姿。おそらくあの冬の日の後日の写真のようで、窓から光が差し込んでいる。
「君に拾われたときは神様かと思ったね…あのままだったら僕凍え死んでたよ」
「…っふ」
「なにがおもしろいのさぁあぁ~」
間延びした声で、ラピはベットに転がった。
「あのときのクロア、すごかったなぁ、オリヴァーさんと話してる時の」
「ああ言う人間は情に訴えるといいの」
アルバムから目は話さずに、少し上ずった声でクロアが答える。
「怖いなぁ、もしかして僕にもどうすればいいかわかってる?」
「手を絡めて上目使い」
「…あれわかってやってたの?」
「…前はね」
「前…っまえってなに前って今はどうなの」
「教えてあげない」
がばっと起き上がって詰め寄ってくる体を押しのけながら、クロアは無言でアルバムのページをめくる。
「教えてくんないのぉ…神様はきまぐれってやつ…??それとも悪魔…?」
「さぁね、私はそろそろ二度寝するけど」
「ゔぁぁああ…前ってぇ、まえってぇ…」
先ほどの答えを諦めきれない、そんなラピには見向きもせず、クロアはぱたりとアルバムを閉じ、するりと表紙を撫で、ぼそりとつぶやいた。
「…貴方のためになら、神様にだって、悪魔にだって、何にだってなってあげる」
小さなつぶやきは、ラピには聞こえていないようだった。どこか懐かしい心地になって、窓の外を見やると、ラピを見つけたあの日と同じ、わたのような、白雪が降っていた。
ラピってだれ?そんな君は「みずいろマフラー」を読みなさい
ダニエルってなんか違和感はんぱねぇ、なんでかな、
パッパの登場少なくてごめん、パッパとマッマの出会い編で腐るほど書くから許して
クロアパッパはマッマから「ダニー」って呼ばれてます
クロアなんで悪魔って言われたん?を少しだけ解説…クロア住む国は北の方にあるので、言わばグロージャーの法則(北に行くほど色素が薄くなるみたいな法則)
なのでクロアの髪色は珍しいし、黒は悪魔の色だと忌み嫌われてます。だからブーゲンハープの葬式とかではおもに浄化とかの意味で水色の何かしらを身につけて死者を弔うんやけど
やはり葬式に使われるとなれば「死」とかいう不吉なイメージがつくよね、クロアのおめめは水色、不吉な容姿&父母死亡のダブルコンボでおめぇ正真正銘の悪魔やんか!といわれてしまうわけです、クロアは悪くない
他にもパイを食べる日や、日本でいう灯篭流しのようなイベントもあるよ。
王族というか国王だとかを弔う花火大会みたいなもんもあるし、代々成果を上げてきた(クロアのパッパとか)国王とかは記念日とかも設けられる感じ
そんぐらいブーゲンハープでは王政リスペクト、でもやはり15歳の小娘に何ができるか!!って感じで治めている今でもクロアはちょっと不評、やっぱり子供ってところが不安なんだろうね
クロアのおかあさんが歌ってたお歌の歌詞かもしれないものを、、
よいこよ おねむりなさい めをおとじ きこえてくるのは ゆめのこえ
おねむり おねむりなさいな よいこよ ねむってしまえば みつからない
くろねこ おばけ ふえふき おそろしまじょに からすがないている
よいこよ おねむりなさい めをおとじ うたえうたえよ ゆめのうた
おはやく おねむりなさいな よいこよ ねむってしまえば きこえやしない
ヘレナが詩にリズムをつけて歌ってるとおもう
リズムできてもすぐ忘れちゃうんだよな、、
いつかパッパとマッマの話も描きたいけど容姿も出したい
あとそこのお前も夜になったら寝ろ、寝ないと彼女(彼氏)できないぞ
自分は天涯孤独の身!!とか言ってないでねろ、きっとさみしくなるぞ
さみしいぞ!!!!