第二弾。11/20辺りから夜7時更新。
詳しい説明は第一弾リンクより。
https://tanpen.net/novel/series/9506337a-33f5-405c-bab5-ddf449f44075/
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目次
鋭い眼差し
2024/10/16 18:15:20
そんな鋭い眼差しで見ないでくれ。
状況はわかってるつもりだ。
どうやら、渋谷駅の野郎が「ヘマ」をやらかしたらしいな。自転車の立ち往生がどうのこうのって?
え、実際は違う?
しかしな、今は正確な情報など手に入りづらい状態なんだ。
ご存知の通り、スマホを開こうにもそうできるほどの隙間がない。
スマホがあるのにしぶとくラジオが生き残ってるのは、コレが理由かもしれないな。
情報を手に入れる唯一の方法は、現在乗っている車両の車掌のアナウンスのみ。それが、
「状況を確認次第お伝えします」
その連呼ときている。頼りにならない。
足りない。圧倒的に情報が足りない。
まあ、どんな原因であっても埼京線の野郎が止まっちまったのがいけないんだ。
埼京線に乗り込むはずの人数が、こちらにしわ寄せしにきて、それでこの混み具合っと。
ひとまず俺たちの状況を整理しよう。
日が落ちた夜7時前。
無事一日を終えた会社員たちでごった返す、帰りの満員電車。7号車。山手線。
ここまではいいな。
いつもなら、混雑率120%といったところだろう。
ドアの目の前はぎゅうぎゅう詰めだが、車内の中ほどはいくらか空いている。おしくらまんじゅう、押されて泣くな。それを車内でしても別に泣くほどのものでもないだろう。
朝の死闘に比べたら、だいぶマシ。
そう、平常時であれば、な。
今は朝の死闘を再現されている。
混雑率は180%くらいはあるんじゃないか?
わからないが、非常にすし詰めとなっている。
パーソナルスペースがない。
四面楚歌よりも逃げ場なし、というわけだ。
そんな脳内で架空の人物と脳内対話をして気を紛らわしていると、U駅に止まった。
通常なら乗降者数は数人レベルで、ドア周りの人の交換程度なのだが――ぐぉ!
し、失礼……。
変な声を出してしまった。
くっ。や、やるな。
あまりにも優秀なボディブローを腹に喰らってな。
不覚だが、ガード代わりのカバンは足元に下ろしてしまっている。
というか、まだ入るの?
まだ入るの?
え?え?え?
ちょっ……。
ちょっ、ちょっと……こらっ!
ホームで乗り込んでくるサラリーマン!
オメーだ、オメー!
「ったくしょーがねーな。俺のスペースねぇーじゃねーか。しかたねーな、ちょっと本気を出すか……」
出すな出すな! 本気を出すな!
もう絶対はみ出てるだろ!
ホームドア内にいるだろうからって、「まだ入るだろ」みたいなことをするなっ!
それを、ひと駅ごとにするな!
ケーキの断面からクリーム出てるって!
もう入んないんだって! そのくらい分かれよ!
「あっ痛」
というマダムの声が目の前から聞こえた。
本当に痛いときでなければ言わないセリフだ。
それを見受け、……ドア前のサラリーマンは全然懲りない。
だ・か・ら!
おしりで!
無理やり押し込もうとするなぁーー!
あまりにも強い乗車意識により、僕は形容しがたい圧力を感じた。
積み残しになりたくない、という強い心を感じとった。
今乗らなければならない。
昼間であればわかる。
デッドラインにいるということだ。
わかる、わかる、けど……
もう無理だ。強制的な撤退だ。
上から垂れた、船のいかりのようなつり革を放してしまった。僕は漂流せざるを得ない。
手を挙げたまま、車両の中ほどで宙ぶらりん状態。
ちょうどつり革が設置されていない場所。
暗黒の群衆のなかで突っ立っている。
身体全体に200%の乗客率を感じる。
体感は250%。それ以上はあるだろう。
この中でスマホを落としたりでもしたら、と思うとゾッとする。人を、暗闇だと思え。
画面操作を諦めて、握りしめるように手を変え……ようとするが、それすらもできないレベルだ。
かろうじて、画面に指を滑らせて、(あとで書く)を書いた。昨日のお題を書いていたのに、場の悪い冗談だ……
アプリで書くとき、毎夜7時にお題が更新されます。
一日一投稿制限。つまり、7時までに書かないとお題がスルーされてしまいます。
だからとりあえず投稿して、あとで書くということをしたりしてます。
デッドライン(納期)は、それもかけているかも……?
やわらかな光
2024/10/17 18:55:39
「やわらかな春の光を浴びて、私たちは卒業します」
という文言を、卒業式で聞いたことがある気がする。
もちろん保護者目線での話ではなく、卒業生の一員として、である。
「卒業生の言葉」というやつだったか?
正式名称は忘れた。
だが、卒業式での華形の一部であることは覚えている。卒業証書授与式のあと、卒業生起立! をしてから、何やら予め決められた文言を宣誓する。
ただし、すでに過去の記憶は褪色しており、肝心の「どこの卒業式」に該当するのか、定かでない。
小学六年生か、中学三年生か、高校三年生か……。
高校ではなかったと思われる。
だって、高校の卒業式では、予行演習などというモノは一切なかった。ぶっつけ本番。そのへんのいい加減さが大人になりつつある年齢の中途であるといえる。
だから、あの文言を聞いたのは、小中のどちらか一方だ。
聞いたことがある、と、どこか第三者目線の語り口から察せられる通り、僕は聞いたことがあるだけのモブに過ぎない。
(全員)と書かれているセリフだけを読む構成員である。
しかし、あれの中にあるセリフ決めは、無作為なのだろうか。ちょっとだけ気になる。やはり演劇部が選ばれる可能性が高いのだろうか。
あるいは、肺活量の凄まじい生徒が選ばれるのか?
それにしては、声の小さい生徒がちらほらといたような、いないような。
一人舞台みたいなものだから、喋ることのできる英雄の選定には、何かしら法則性があるのだろう。
その辺に対して、まあ、どうでも良いと思ってしまって、結局冒頭部分だけ覚えてしまっているわけだが。
この言葉は、祇園精舎の鐘の音、春はあけぼの、みたいなもので、僕の頭はいつまでこの文字列を覚えているつもりだろう。
こんなアプリに書いたのだから、そろそろ忘れてもいい頃合いだ。
しかし、卒業証書をきっぱり捨てられず取っておくように、「やわらかな春の光」という表現もまた、時間経過とともに味わい深くなるな、と。
忘れたくても忘れられないこと
2024/10/18 18:05:40
忘れたくても忘れられないこと。
日々の疲れ。
疲れを忘れたくて眠るのに、一日経ったら蓄積される。
寝ては起き、起きたら寝て。
その不毛な繰り返しは、死ぬまで忘れられないのでしょう。
秋晴れ
2024/10/19 18:48:11
秋晴れが微かにトンネルの入り口に降り注ぎ、光が中に流れている。トンネルの道のりは百メートルほどあって、ゆるやかに右にカーブしている。出口はまだ見えない。
廃線跡を歩いている最中だった。
そろそろ秋の彩りが到来するだろう時期の山の中。
ツーリングの道の寄り道。小川から水が乾いた跡のような、ぽっかりと空いたスペースがそれだ。その小道を一人行く。
今は、風が通り抜けるだけらしい。
去年の落ち葉が細かくなって地面に敷かれている。
一応足元には注意しつつ進んだ。
やがて、明治時代にたどり着いた。
名も捨てられたトンネルが佇んでいる。廃線を辿っているのだから、当然中へ入る。
カツン、カツン、と靴の音は聞こえないが、幻聴で聞こえるような趣がある。
地下鉄のホームで待っている時のような静けさ。そして暗さ。
暗室特有のじめじめと湿気があって、数日前に雨水の通り道になっていたかもしれない、と考える人。
スマホを起動して、即席の懐中電灯。
トンネルの壁面を照らしてみると、それらは全てレンガ造り。
トンネル内で走る、明治時代の電車を想像する。
電気ではない。石炭で走る豪快な古めかしさだ。
煙突から黒煙とともに機関車の叫び散らかす音。
想像通りの騒々しい。文明開化の音……。
すすを浴びきって放置されているので、レンガの一つ一つの色は暗く、すす色に褪せている。
触ってみた。触るのを後悔した。手が汚れる。
でも、パパンと拍手をすると、その音がどこまでも突き抜けるようだった。
いま、私は人の棄てたなかにいる。
照明一つもない。
線路も一本もない。
一人のみの来訪者。
歩く。歩く遺構。
現代から遠ざかる歩み。
足音は聞こえないのが良かった。
出口近くになると秋の陽光の色で、本来のレンガの色を取り戻しているのがわかった。本来は朱色のレンガ。
過去の道を振り向くのことを後悔する。
引き返したくない。ここにいたい。
始まりはいつも
2024/10/21 18:27:14
始まりはいつも定番ワード。
そこからどう自分の書き出す文章に持っていくかが肝要である。
最初に奇をてらったものを書いてはならない。
そう僕は思っている。
しかし、定番から定番へ。
紡いでいくと、読者はおろか、この文を書いている作者でさえつまんないと感じてしまう。
いかに曲線をかくか、ということになる。
それもひどい曲線。
ひどく回りくねったマウンテンロードを描く感覚である。上から観たら、「この辺とか道草しすぎてトンネルになってるじゃん」となっているのが逆に面白い。
所詮、ネットの端っこである。
矛盾など、回避しようとしていたら、筆が止まって止まって仕方がない。
法定速度を守りましょう。
へたっぴな道のりを描きましょう。
そして、そう。
車の行き先表示のカーナビ画面に従うくらいなら破壊して、そのまま崖から飛び降ります。
そこに海なんてない。水なんてない。急落すら味方につけて、そして閉幕。
それが定番から反れるためのハンドル捌き。
ストーリーテラー。
声が枯れるまで
2024/10/22 18:57:04
声が枯れるまで叫び続ける子供がいるらしい。
むー、なるほど。
声が枯れるまで、ってことは、まだ叫び続けているってことか。
ちょっと人間の子供でないようだな。
小さい頃からそんな様子なら、きっと肺活量が素晴らしいことだ。数年後には「第三のオオタニ」になる逸品かもしれない。
興味本位な人は、とりあえず、SNSサイトで噂を拾ってみた。予想通り、とある幽霊目撃スポットの、ど真ん中があやしいらしいと素人が知った口で口々につぶやいている。
なるほど、立地はリッチーな田舎のようだ。
でかいコンビニ、でかい海、でかい採掘現場。
四国みたいなところだ。disってなどいない。四国を褒めているのだ、分かれ。
「大島てる」も検索し、ヤバそうな物件がないか確認する。どうやら「いかにも」という感じで、行方不明の子供が一人いるらしい。
5歳。なるほど5歳か。
その子が声が枯れるまで叫び続ける、か……。
興味本位な人は、頭の中にクレヨンしんちゃんが召喚されていた。
いま、脳内で適当にザッピングされた映画が上映中。
映画館に映し出される赤いシャツに黄色のズボン。そいつがめちゃくちゃに叫んでいる。
動画サイトへのチェックも忘れない。
普段は検索するのもおこがましいが、仕方ない。
断腸の思いでマウスを掴むと、ゴミ山の一角が引っかかった。
視聴者数が、売れない一発屋芸人の1/40ぐらいしかない無名YouTuberも、ただいま現地へ向かっています、という動画を撮ってあげている。
緊急で動画を回してます、という奴だ、しらじらしい。お前らの緊急とは、一体いつ来ると思ってるのか、今か? 今しかないのか?
こんなゴミのようにいる無名YouTuberのために、貴重な1視聴数をあげたくない。
神社に一円を投げたくないという気持ちと同数である。
これはケチとかそういう問題ではない。
神社に言質を取った訳ではないが、1円を投げられると神社側は損をするらしい。それと同じ理由だ。
視聴して5秒。
シークバーを行ったり来たりしながら確認してみるとやはりそうだった。
始めから終わりまで、ずっと喋っている。
新幹線、ローカル線、バス……しか映っていない。
場所のみ変わって、登場人物はマイクを持って独占状態。
それだけ非常に長ったらしく話してるだけで視聴数はうなぎ登りだ。20万ほど見られている。
通常時もこれくらい稼いでいれば、人生安泰だな。
まったく、お騒がせな子供だ。
幽霊の子供、ということでいいだろうか。
興味本位な人は、続報を待つことにした。
自身は行かない。リスクは背負わないことにしている。
世の中等価交換が基本形だ。
クレヨンしんちゃんの新作が待ち遠しい、というブログを書いて、寝た。
数日後、凄まじい顔をして後日談を語っている無名YouTuberの動画が目に入った。
どうしてトップページに……?
そういえばチャンネル登録をしていたことを思い出して、速攻登録を解除した。
呆れるほど動画の尺が長いので、成果なしなのだろう。
ざまあみろっ。
こっちはしんちゃんの映画5本観たからな。
叫び声がこびりついて仕方ねえ!
衣替え
2024/10/23 18:56:23
衣替えってはっきりいって面倒……。
最近、めっきり寒くなってきて、衣替えしなきゃと思ってるんだけど、「いや暖冬だから」などと、毎年思いながら先延ばしにしている。
気象庁が暖冬宣言してようがしてまいが、これが関係ございません。
先延ばしできるなら先延ばししろ!
そういうわけで、しまくっています。
しかし、数日前に季節外れの寒波が来たようで、急いでヒートテックを一枚仕込みました。
こんなときこそ頼れる奴。
ダウンコートとか、まだクリーニングに出してないし、来るなら来るって言ってほしい。
台風を見習えと思った。
お題からズレますが、最近湯たんぽを買いました。
蓄熱式の奴でして、コンセントで15分ですぐ温まるようです。すごいなあ。
電気で温める奴だと、湯たんぽって何やねんって一瞬なると思うんです。
これがね、蓄熱材に水を使っているからだそうです。
いちいちお湯を取り替えなくていいということで、便利だなー、と思ったわけなのです。
湯たんぽっていう名前がかわいい。
おふとんと相性抜群。
どこまでも続く青い空
2024/10/24 18:29:59
どこまでも続く青い空。
そこに一隻の白い雲を置いてみた。
ぷかぷかしていて、見てて安心する。
青い空って、良いよねっ。
青い空、白い雲。
白い雲……そう! しろ◯んである。
わー、しろ◯ーん!
カシャカシャカシャ……!
上下左右、スマホで写真を撮りまくってしまう私。
行かないで
2024/10/25 18:03:18
「行かないで……」
呪縛霊の少女が、名残惜しい手を虚空へ伸ばした。
先祖代々の墓、と書かれている。この墓場の前で、何十年も離れられないでいる。
彼女は、自分が何で死んだかすらわからない。
自分の容姿もわからない。
髪は、長かったような気がする。
三つ編みが好きだった気がする。
髪質を気にしていた時もあった。
背が小さいことがコンプレックスだった。
しかし、霊となった今、背が低いのは、本当は老婆の様相をしているかもしれないと予想した。
すでに背骨が曲がっていることがわからない年寄り。
身体は人間であるか。それもわからない。
人に聞こうにも、霊だから視えるはずもなく、視えたら視えたで怖がられるだけ。
不可視の存在に怯えるのが、人間の個性である。見えない空気を吸って、見えないものを吐き出している。
だから、少女は何時までも孤独。
会話はおろか、自分の声色を忘れているくらいだった。
つい先程言った声も、自分の声とは思えない。
とても、とても澄んだ色だった。
少女を捕らえる墓石も、時間に苔むしたようになっている。緑が多く、文字は文字化けしている。
周りの自然も、誰かに声を焼かれたように静かに見守っている。だから澄んでいるのだ。
それなのに……、目の前から通り過ぎようとしている男の人だけは違う。
彼は違った。
彼を除けば真の孤独だった。
彼は、理由は明かさないが、年に一回のペースでこの墓に来てくれる。汗の量を見るに、この墓は山頂にあるらしい。
いつも一人で来てくれる。
季節は秋。夏ではない
可能な限りだが、苔むした墓を洗ってくれている。
頑強な苔はさすがに無理だが、それでも半分以上は綺麗にしてくれる。
どうして、どうして?
と疑問を呈するが、それでも声は届かず、そして、また今度、と山を降りていく。
「行かないで……!」
と少女は、坂道を降りていく男に声を掛ける。
すると、彼は、ふいっと顔が動き、こちらを見た。
それで終わりだ。
秋風が彼の背中を撫で、それで歩いていく。
それだけで、少女は泣いてしまった。
来年は、ちゃんと来るのだろうか。心配になった。
友達
2024/10/26 11:12:37
友達といったら、修学旅行のバスである。
後部座席に陣取って、何やらガヤガヤと叫び散らかすことがなんといっても良い。
青春の1ページを作っているのだ、という意識はその時には何も知らなかったが、今を振り返ると、1ページになっている。
バスのなかの席順は、今の時代は知らないが、当時は自由席だった。友達グループの一角がバスに乗り込み、後部座席を陣取り、その次のグループが後部座席前の左右に散らばり、なんかゲームをするという喋りをしていた。
前とか中間とかは、勉強ができる風の小規模なものがあって、ボッチは前の方しか座れない。
それを後部座席から見ることができるのだ。
修学旅行は、行きのバスと帰りのバスで雰囲気が異なっている。帰りはあとは帰るのみということで、前の連中、中ほどの連中はだいたい寝ていた。
しかし、後部座席の僕たちは、寝ようと思っても寝れない間柄。ひそひそ話をして、寝かせてくれない。
それで修学旅行が終わった学校。
放課後の空気を吸って、ようやく日常に戻れた気分になる。
愛言葉
2024/10/27 15:06:01
愛言葉。
最初お題を見た時は「〜言葉」とあったから、
「ああ、花言葉かあ」と早合点してしまって、ラベンダー、ベゴニア、ヒガンバナ、などと花の名前を羅列していくこと早30分。
もう一度お題をみたら、「愛言葉かいっ」となった。
愛言葉となると、おやっと思う。
花の名前のように、羅列できないのだ。
恋愛経験のなさがでてきてしまった。
多数の異性を|誑《たぶら》かすほどの魅力はないので、それはそう。仕方ないのである。
合言葉というものがある。
玄関ドアの内と外。
どっちがどっちかは知らないが、ドアを隔てて2人がいる。
そこに合言葉を投げかけてみよ、と言葉が鍵になっちゃって、かこんとキーの解錠音が鳴るかどうかの瀬戸際外交。
当然鳴らない場合も、あり得るんだなこれが。
紅茶の香り
2024/10/28 18:37:55
紅茶の香り。
お題から反れるが、仕方ない。
僕の人生は、紅茶という飲み物に対してなるべく避けてきたと思う。
よくある大学生の日常では、リプトンの紙パックにストローを差して、オレはこれを飲めるのだ、と主張の激しかったボサボサ頭の院生を知っているが、それに辟易した訳では無い。
飲む機会がなかった、ということだ。
そういうわけで、子供の舌のまま大人になってしまったある日のコンビニ。大人の雰囲気醸し出す紅茶というものを買ってみることにした。
ストレートティーと書いてあったので買った。
一口飲んで、「甘い!」と思った。
事実甘いのである。
だから、とうとう自分も紅茶を飲めるようになったか、と一人感慨深い気持ちになって、その日から連続3日購入した。
しかし、ふとしたネット記事にて、「いや、紅茶のストレートティーって、ストレートじゃないっすよ」という趣旨を拾い読みした途端、僕は空ペットボトルのラベルを見た。
砂糖入っとるやんけ!
なーにが、ストレートだこのやろう!
砂糖入っててストレートとか、景品表示法違反だろこのやろう!
という気持ちでペットボトルに八つ当たり。
ベクトルは真下。床に目がけてぶんと一球闘魂したためたので、豪快な音が。跳躍するペット。
熱が冷めた時にハッとなって、しゃがんで床が凹んでないか確認したほどだ。
大丈夫なようだ。危ない危ない。
ここ賃貸だったの忘れてた。
……こほん。
ということで、無糖のやつを買いたいところなのだが、あいにく買う元気が無い。
紅茶のティーパックというのも買おうと思ったことはないこともないが、似たような色のパッケージである「ほうじ茶」を見て、ほうじ茶でいっか、飲み慣れてるし。
という感じで、すり替えが生じてしまう。
紅茶の香り……、匂いだけとか売ってませんかね〜。
暗がりの中で
2024/10/29 18:46:03
暗がりのなかで、本を読む。
本のなかに込められた文字は、封じられたもう一つの世界を覗き見ているようである。
ファンタジーほど壮大で綺麗である。
静けさの伴った夜の夜。
きっと自分以外は寝ているはずだ。
何台か、微かに走行するエンジン音。唸り声が深夜の道路を滑走路とする。
よく聞こえるなって。こんなものでも、夜になれば、寝静まれば、音はみな綺麗になって、聴きやすくしてくれる
眠れない夜には眠れない人を見つけたほうがいい。
話し相手と話す方が、時間の進みが早いもの。
本を開けば、眠れない人なんてたくさんいる。
別に寝れないからって後ろめたい気持ちになることはない。だって、少なくとも私は寝ていないから。
もう一つの物語
2024/10/30 8:50:31
もう一つの物語。
……おい、むじーお題来たぞ。
これで何を書けばいいんや。
今回ほどはパスをしたいところだ。
こういうタイプは、エンド数が複数あるというゲーム形式のストーリーだな。
ハッピーエンド。ビターエンド、バッドエンド。
全部通してやってみた結果しっくり来なかったエンド。
作者だけが面白いと思ってるだけエンド。
ギャグに逃げたエンド。
など、さまざまなエンドがある。
僕は、こういうタイプは好かん。選択肢を間違えて、Dエンドに到達……なんて、より良い選択肢を選ぶために今の状態をリセットして過去に飛ぼうとするだろう。
ニート的に時間のあるやつがやりそうなちゃぶ台返しだ。
そんなことをしたら、今の状態が疎かになる。無責任になる。どうでもいいやとなる。
現実に「もう一つの物語」とか、いらねーんだよ。
そんな風呂敷広げっぱなしな仮定の話、想像しても辿り着けないなら、考えるな!
まあ、創作であれば、楽しいと言えば楽しいけど。
例えば、人身事故で通勤電車が「逝っとけダイヤ」になった時とか、「おっ、行き先変更したあ!」
と心躍ることがある。
あれ、現実にもあるようだな。もう一つの物語。
つまりあれだ。
条件さえ整っちまえば、並行するストーリーに乗り換えが可能だって話なのよ。
懐かしく思うこと
2024/10/31 12:08:32
懐かしく思うこと。点滴。
小さい頃の僕は気管支喘息という不治の病を患っていたので、病院に行かねばならぬことがよくあった。
気管支喘息とは、風邪を引いたりすると、喉がキュッと狭まって、息が吸えなくて死んじゃう…っ、というやつである。
だから、夜が深まると徐々に息が吸えなくなり、息を吸うだけで、ゼイ、ゼイ、と喉の奥から音がするようになる。
そんな状態だと入院しなよ、という有様なのだが、入院というのはお金がかかってな。
日帰り入院とでもいえばいいのか。
横になっているだけの木偶の坊の|子供《ぼく》を引きずるように大型病院に連れてかれ、点滴と吸引をされる奴である。上体を起こすだけでも死んでしまうのです。でも、吸わなきゃいけないっていう苦渋を背負わされるやつ。
病院の吸引薬でちょっとだけ元気になると、適当に院内を歩けるようになる。
点滴の、なんか液体が詰まってるパックをぶら下げた棒とともに歩く。
腕にはぶっとい針をぶち込まれ、固定されて点滴されるのであるが、僕のその時の仕事は、おトイレにいくことである。
約3時間くらいで500mlの点滴パックが3回交換されるということだから、1.5リットルくらい強制的に注入されてるんかな。
だから、小学生低学年ということで、5分に一回レベルで膀胱がいっぱいになってしまうのだ。
その日は昼食やら夕食やら、食べた記憶がないので、点滴がご飯という感じである。
きっと栄養剤も加味されていると思う。経口摂食でないから、味も満腹も感じませぬ。
今は、入院も点滴もすることはないので懐かしい。
しかし、不治の病の気管支喘息だけは残った。
寛解なのだが、風邪を引くと一カ月ほどぶり返す。
一カ月間ずっとゴボゴボしてます。
吸引薬ほすぃ。
拝啓、電車内の人。
風邪は治ったんですが、咳だけ残ってます。
大きく吸って、ゲボン、ゲボン。
これでも夜よりマシなのです。深夜はこれよりでかいの咳が出てしまって寝れません。
これは不治の病なので、小さい頃からこうなのです。
仕方ないのです。
理想郷
2024/11/1 18:33:36
理想郷を言ったらどうだ、って、誰かに囁かれた気がした。
夢は夢のままでいたら、いつまでたっても夢のまま。
いわばその状態こそが「理想郷」と言える。
頭のなかで想像すれば創造となる。
だから神の思想について考えるのだ。
頭のなかはいつも完璧だから、ゆえに人間の頭のなかも完璧で埋め尽くされている。
しかし、現実に解き放とうとすると、一気に陳腐なものになる。時間とともに廃れる事が分かってしまう。
頭のなかはすべて完璧。その正体は、時間が流れないことなのだ。
現実世界では、何かに触れようとする時も時間は流れ、それをいくら細分化しようとも時間は流れ、止めることはできずに流れ続ける。
だから、ついさっき聞こえた言葉はブラフとなる。
幻聴の類。化け物の遠吠え。
理想郷は、頭のなかに留めることが大事なのだ。
しかし、物事には限度というものがある。
その通り。
理想郷について考え込み、追加要素を付け足し続けると理想郷にはならぬ。
しかし、完璧であるがゆえ、理想郷=理想郷、理想郷≠理想郷が共存共栄する。
その事を考えると、人間社会はそれの通りではないか、と思った。
永遠に
2024/11/2 10:09:38
「永遠に」をでかく考えると、
「果たして永遠とは存在するのか?」
などと考えるようになって、お題からズレてしまう。
ちっちゃいタイプの永遠について考えてみたい。
人間は永遠に憧れて発展してきたところがある。
永遠に生きてみたい。その考えによって寿命が延長され、長く生きられるようになった。
しかし、生きるというのは苦しみと寄り添うことである。
日本は物価高で、金銭的貧富の格差があり、時代とともにどうしても縮めようと試みても差は開くばかりだ。
思ったのは、人は「永遠」に取り憑かれているから、生きづらくなったのではないか。という、単純な思考的結論である。
これは頭の悪い子供に多く憧れがちだ。
長く生きたいと強くそれを望み、後世の人たちはそれに対して真剣に取り組んだ。
結果、時間的に長く生きられ、科学も発展して娯楽がたくさん生まれてきている。すべてを見ることは数十年前から無理だろう。
永遠に取り憑かれたから、余剰産物を生み出し続ける。これは、人間がそこにある限り続けられるもの。つまり「永遠」。
だから、未成年たちに皺寄せがいっているのだ。
未成年たちは、永遠に取り憑かれていないから、早く死にたいなどと言って、死にたくなって死ぬ。
そんなことを誰かが言うのである。
これが頭の悪い子供の単純な思考的論理である。
でも、未成年は別に永遠がどうとか考えたことはないと思う。永遠があってもなくても関係ない。
多分、永遠が当たり前に存在し過ぎていて、麻痺しているのだ。
まあ、つまり。
話は変わるけど。少子化対策って、子供がなるべく死なないようにするために、子供を大事にすることらしいけど、そんなこと、やってないよね。
むしろ選民していっている感じがする。
ご存知の通り、人間社会は永遠を継続するために生きているのだから、少子化対策なんて「一時的なもの」するわけがないじゃないですか。
そんなの、子供たちがやってください。
そういうメッセージを受け取り続けている「あたりまえの永遠」にさっさと気づいてください。
子供たちに言ってるんですよ。
眠りにつく前に
2024/11/3 18:05:46
眠りにつく前に、眠剤を二錠飲む。
眠りにつく前に、スマホをいじる。
眠りにつく前に、スマホを辞める。
眠りにつく前に、横光利一の『機械』を読む。
……難解なものを読むと、よく眠れるんだこれが。
鏡の中の自分
2024/11/4 18:48:53
鏡の中の自分をみると、老いているなと感じられる。
そういえば、鏡を見てからじゃないと「老い」ってやつを感じないかもしれない。
鏡から連想していって、そういえばあの場面では、みたいに追想が始まる。
という時間があればいいんですが。
鏡の中の自分と認識する暇もなく、さっと見て、さっと家を出る。
哀愁を誘う
2024/11/5 18:52:58
哀愁を誘うような手つきで、ポケットに手を突っ込んでやると、一枚の十円玉が入っていた。
どうして入っていたのか。
思い出す行為を、物は知らない。
ただ黙示録的にその場にいる。解釈は人によりけり。
昭和五十年、と記されている。
辛うじて読める程度の可読性。
もはや退廃したこの世のような、酸化して暗く澱んだ色合いをしており、深い。
哀愁に誘われた手は、この深い色に釣られたのだ。
手のひらに乗せ、指紋の色合いと|較《くら》べた時にこう思った。
この硬貨はいつからポケットに入っていたのだろう。
黒い長ズボンである。
冬用の二重布の黒い長ズボンである。
スラックスというには、少々分厚い。
しかし、真冬日に着ていくにはかなり防寒性の低い布地である。
つまり、秋から冬にかけて履くようなズボンなのである。
数日前に適当な衣替えをして、タンスの奥から引っ張られた代物である。その時からこれが眠っていたのだろうか。
去年、洗ってから入れたんだけどなあ。
そうなると、洗濯機の激流に耐え、乾かされ、その後畳まれて丸一年放置され、今日発見された十円玉、ということになる。
その間、新紙幣が導入され、札束たちに書かれた歴史登場人物は入れ替わり立ち替わりを見せていた。それなのに、この硬貨は身を固めて、じっと辛抱していた。
新紙幣になるということは、造幣局で発行された分、古い札束はこの世から消えていったことになる。でも、硬貨に新たなデザインとか、そんなに無いような気がする。特に十円玉。
この十円玉のように、じっとしていたい。
18:52の通勤電車。
一筋の光
2024/11/6 18:52:27
トンネルの内側から外への光の向きだった。
最初はマッチ棒に灯されたように、くぐもった弱い光。厚い布で包んだまま電球を付けたような弱さ。この弱さに温かみがある。
時間とともにその光は強まっていく。
「一筋の光」が、|嘶《いななく》くように射し込んできた。
懐中電灯かと思っていたら、それよりも強くなる光。
また、いつからか鳴っていた機械動力の反響音も増した。
トンネルの中から何かが出てきた。
光の正体は軽トラックのヘッドライトだった。
田舎の田園風景……の、ちょっとした凹みの地域。
小さな盆地。
陸の湖みたいに小さな山村。
そこに、一台の軽トラックは出た。
車体の色は白。一方で時間帯は夜。
それ故に薄っすら白いものが動いているだけ。
白いレースカーテンを包んだものが、山間を縫う道路に沿って走行している。
黒く塗りつぶされた東西南北に迫る山は森閑としており、肉に飢えた凶暴なイノシシが人里に降りてくるという。
軽トラックも、こんな夜更けに車を走らせたくなかったのだが、田舎の職人気質の男主人がハンドルを握るものだから、しょうがないと付き合っているのだろう。
夜なのに麦わら帽子。
涼しいのに濡れタオルを肩に抱く。
そろそろ年金ぐらしを始めたら良いが、当人はそのつもりなし。
しばらく走ると、誰もいないというのに、左のウインカーを律儀に出して、左折した。
車速は一気に静まり、どうやら田んぼのあぜ道を通っているようだ。
こちらに近づけば近づくほど、ガタガタと、軽トラックを揺らしている。未舗装道特有の、砂利と小石の上を走る姿。夜の闇を進む四輪駆動の黒いタイヤ。
黒い夜がいかに怖いのか、それらの音が真相の一端を垣間見させた。
車は目的の田んぼに最接近した。
照明代わりに、車のヘッドライトは付けっぱなし。
車から降りた。そして闇の中へと不用心に入っていく、
明日は嵐が来るという。
そのために来た。
その間、ヘッドライトは土地神たる案山子……語り部を照らし出していた。
やわらかい雨
2024/11/7 18:58:41
柔らかい雨のように、きめ細かい粒で構成されている。
避けることはできなかった。
自身の身体を縮こませるように、両腕でガードをした。
浮遊する水蒸気の塊。――襲ってくる!
霧隠れの中に閉ざされていた。
マイナスイオンのイメージ。
しかし、癒されてはならない。
相手からの水属性の攻撃であると認識しなければならない。
粒が細かすぎて、目視では見えないけれど、数メートルより先は見えない。
死闘の最中とも言えた。
相手の姿は見えないが「力を見極めてやる」というように、不意打ちに近い先制攻撃を仕掛けてきた。
肌を剥き出しにしていたら、あっという間にずぶ濡れになっていただろう。
その頃には、もう術中に嵌まっている。
勇者の子孫はカミナリ攻撃を主力としていた。
だが、その攻撃は封じられているといえよう。
術者の全身が濡れているときにカミナリ呪文を唱えたら、感電する。
仕方がないな……
勇者の子孫は滝のような汗の顔を拭った。
汗などかいていない。
霧の塊が纏わりすぎていて、水の膜が張られているようだった。呼吸が制限されている。苦しい。舌打ち。
湖の主に会いに行って、ブルーオーブを貰い受ける。
しかし、できるだろうか。一人で。
やれる。
オレがやらねば、散らばった仲間は浮かばれない。
生き残ってやる。
目の前の霧に影ができた。
人影。白い霧と黒い人影のアンバランス。
なるほど、そちらから出向いてくれるとは。
こちらとしては、手間が省けた……と、背中の大剣に手をかける。そして、素早くひゅんと剣先を向けた。
あなたとわたし
2024/11/8 18:51:37
あなたとわたし。
似ているようで、全然違う。
スマホを持って何か文字を叩き込む。
その動作は同じだけれど、その思い、その文字は全然違う。
ここで言う似ているとは、一体何だろう。
最初は人間として、と書こうとした。
けれど、そんな当たり前の答えで納得できるような人間じゃなかった。
もしかして、スマホの事を言っているのか。
スマホは、人間社会の道具として生まれたはずだ。
でも、今やネットに入り浸るためのデバイスとしての枠組みからはどうしようもなく外れていき、人工心肺装置のようになっている。
ベッドの上に眠っている人が誰であれ、人工心肺装置は空気を送り続ける存在。
生きていても死んでいても。
役割は変わらない。
死んだら外すだろう。でもそれは、口に装着していても意味がないから外すのだ。それは誰が決めている? 第三者、医者だ。患者自身は、自身の身体の裁量権を失って、他人に委託・譲渡している。
スマホの場合、何を送り続けている?
スマホをやめる権利は、誰に握られている?
わたしとあなた。
少なくとも、わたしのほうがわたし。
意味がないこと
2024/11/9 16:15:02
意味がないことを見つけていくことを退屈と呼び、意味があることを見つけることを努力と呼ぶ。
ススキ
2024/11/11 18:56:15
ススキ|箒《ほうき》というものがあったなあ、と思いました。
小学二年だか三年だか。校庭の落ち葉を掃いてこいというミッション。
細かいところは忘れました。
多分、班ごとで組んでおり、教室、廊下、階段などと掃除場所が1週間ごとにローテーションされていた気がします。
で、秋の、落ち葉がてんてこ舞いとなってくると、期間限定みたいな感じで、「校庭」が出てきます。
校庭を囲むように、落ち葉がみっちりと降り積もっていましたから、担当がそこになると腕が鳴るというものです。
なかばボランティアみたいな感じで、班ごとに行動する数人が、わー、と秋の校庭に駆け出していました。
箒やちりとりなどは、校庭の隅にある、多分普段は学校の清掃員の人が使っているんだか、そうでないんだか分からないようなオンボロの掃除入れを使っていました。
その中に入っているのが、室内用のほうきと二本の大きなススキ箒でした。
基本的に、子どもの身体では小さいので、教室の室内用の箒のほうが使いやすいわけです。
室内用なので、箒の形をしてません。
モップみたいなT字の形をしたもので、掃くところの厚さは5センチもない。つまり軽め。
柄の長さが首の高さより下となるので、しゅんしゅんぶんぶんと振りながら、教室の綿埃と格闘できるわけです。
しかし、如何せん校庭での掃除となると、わけが違ってきます。校庭にはじゃりや砂が敷かれているため、お外の場合、ススキ箒のほうが良いような気分になってくるようです。
ススキ箒は、基本的に大人用のために作られた格好なので、小学生の身分ではちと難があります。
柄の長さが頭より上の2メートル以上(測ってないので不明)となっていますから、掃こうとしてもダイコンのような大筆ですから、よいしょ、よいしょと身体を揺らしてやらねばならないという……。
そんな使いづらいことで有名なススキ箒ですが、落ち葉掃きのときだけは大人気となります。
じゃり、じゃり、という特有の地面を削る音が鳴ってなんか楽しいわけです。
本数も二本と、五〜六人で構成された班では「選ばれし者」よ感が溢れます。
ススキのボリュームも贅沢な感じなので、早速じゃんけんとなってきます。
僕は負けたのでちりとり係です。
ほうぼうに散った班の人たち。
ちりとり係の僕は、校庭のどこかを行ったり来たり。
落ち葉の山が降り積もっていますから、えんやこら、どっこいしょ、がさあ……と手づかみでゴミ袋に入れ、スペースを空けるために足を入れて押し込む感じが懐かしいです。
飛べない翼
2024/11/12 18:53:48
飛べない翼すら持っていない地球は、今日もぐるぐる回りながら太陽の周りを回っていた。
これはある意味では、宇宙を飛んでいると言える。
「ねぇ、どうして回っているの?」
遥か彼方から飛来してきた小惑星114514号は、地球のすれすれを通り過ぎた時に尋ねた。
「それは暇だからですよ」
地球ではなく、月が答えた。
月もまた、飛べない翼すら持っていない。
「暇すぎてわたくし、地球の海の高さも調節しているんですよ。干潮と満潮というでしょう?」
「なるほど……。でもその答え、はぐらかしてるよね。暇だから回ってるって。暇だから他のことしてるってことになるじゃないですか」
「なら、これならどうですか? 忙しいからですよ。
わたくしの干潮と満潮は、毛づくろいみたいなものです。地球は回っていて忙しいから、わたくしが代わりに毛並みを……、海並みを整えてあげてるんです」
「う〜ん、なんかしっくり来ないなあ……」
しかし、タイムリミットが来てしまった。
0.00000001 秒の刹那的短時間通信速度では、この程度の会話がやっとである。
小惑星114514号はそのまま遥か彼方へと飛んでいってしまった。
もう二度と地球には会えないだろう。
「まったく、きりがないですね……」
月は、適当に、ぐるぐる回りながら嘆きの呟きをしていた。
「どうしてみんな地球に会いたがるんでしょう……」
月は、彼方から訪れる小惑星の列を見やった。
月の視力は一万飛んで1.0である。月から地球にある東京タワーの展望室くらいなら、裸眼で見える程度である。
地球は大人気である。
白い雲は、白い翼のように見える。
包まっている姿は、今こそ飛翔する瞬間……。
そんな誤解で生まれた噂は、全宇宙に広がり、小惑星たちがスレスレで飛んでくるようになった。
その結末を知っていたら、誤解を解こうと奮闘したのに……。
過去の自分の過ちは、月の凸凹をみれば一目瞭然。
地球すれすれを通るということは、地球と月の間を通過することである。
有名人の隣人は迷惑被る。
騒音だけではない。実害も出ている。
引っ越さねばならない。しかし、こちらも「持たざる者」だからな……。
今は、「隣人の飛べない翼」こと白い雲から、いかに飛べる翼を作ることだけを考えている。
スリル 子猫
2024/11/13 18:48:12
ニュースで見た限りだが、総辞職して次期首相に任命されたとき、その当人は居眠りをしていたという。
原因はあの体型だから睡眠時なんとか症候群で居眠りをしたとか、ナルコレプシーだからどうだという説が囁かれている。
病気ならアレだけど、こういった説もある。
朝、風邪薬を飲んだので、つい眠気が出てしまい、国会で寝てしまったとのこと。
これも「スリル」だよなあ。
肝が据わってるというかなんというか。
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2024/11/16 13:31:55
子猫の写真でも見るかとなっているわたくし。
今日は土曜日。横になっています。
今週風邪を引きましたわたくし。
だから、平日は休めなくて土曜日の午前でクリニックに行ってオクスリをもらいました。
咳、痰、鼻水、鼻づまりと、風邪症状のリーチをやっているわたくし。これで発熱が無いのはギリギリアウトということです。
そんなわけで処方箋をもらって薬局に行って、会計していたら、いつも貰ってるジェネリック医薬品が品切れ中とのことで、先発品になってしまいました。
「薬の供給が止まってるんですか?」
「止まってるというか、あの、メーカーに発注をかけてるんですが、それが届かないということでして……」
それを届かないというのではないでしょうか。
よくわからないので僕は寝ます。
子猫関係ないや……。頭働いてないから仕方なし。
はなればなれ
2024/11/17 18:44:54
はなればなれになっている本館と別館。
その塊よりも遥かなる「はなればなれ」となっている一軒の小屋。
忘れ去られているように佇んでいるが、のれんは掛かっている。小さい建物ながら、当時はここが本館だった。
現在の本館は平地の方へ移されていた。
より近い方が交通機関のアクセスが良いといって、移転と建て替え工事がなされたのである。
公共事業とそれに類する大手建設業者たちによって、ここら一体を都市計画事業として施工した。
そんな難しいことを村役場の者たちが言って、誘致した。それから暫くして、田舎のだだっ広い土地にホテルのような|瀟洒《しょうしゃ》な建物を二棟も建てたのだ。
きれいなホテルと、古くて趣がある宿。
都会から来られた客たちは、最初の方は宿泊率は半々だったが、徐々にこの国が豊かになり、都市が散らばるようになってきた頃には、鉄道に近い本館と別館……新館ばかり利用するようになった。
宿のほうが源泉に近く、源泉かけ流し温泉と銘打って、見晴らしの良い展望が望めたが、窮屈な客室と、質素な料理。それに宿屋にたどり着くためには、曲がりくねった山道を登らなければならぬから面倒ということで、新館のほうに軍配が上がっていった。
現在は、宿の者も新館の方に移り、商売をやっている。
しかし、最近その建物を建設した大手建設業者がの雇用形態がブラックであると判明し、瀟洒な新館に泊まることを客が嫌煙するようになった。
原点回帰が唱えられる時流となったのだ。
さすがの大人数を宿泊させるには手狭であるので、いっそ一晩貸切という風にしてみた。
すると、利便性を好み運動嫌い山道嫌いの都会人の客足はほとんど滅したが、一方地元民が懐かしがってその宿に足を運ぶようになった。
豪華な料理は提供しなかった。
質素な食卓。
敬語のない、方言の飛び交う会話。
客をもてなす、まだ腕は白い女将。
食べ終わったカニ。小皿と鍋。
はなればなれが一気に近づいたひと時。
冬になったら
2024/11/18 18:56:57
冬になったら、ホカロンに振り回される。
ホカロンとは何か。
一応書いておくと、カイロのことである。
僕は、冬の終わりかけになると、コンビニの20%から30%ばかり安くなったホカロンたちを買い占めている。
「ふふふ、冬は毎年来るんだぞ。な~にが今年で終わりそうな雰囲気出してる。来年の冬に備えていると思えば、割引ってお得だろっ」
と思いながら、カイロの在庫処分に貢献している。
春夏秋とカイロを眠らせて、満を持して押し入れから取り出す……ということを毎年予定しているがイマイチタイミングの機会を逸している。
冬とはな、突如来るんだぞ。
冬になったら、とか考えているうちに、今日来ちゃったのだ。
家にテレビとかないから、天気予報なんてスマホのホーム画面にあるアプリをさらりと見て終わっちゃう。
アプリも開かずに「14℃」という数字を見て、
「ああ、現在の最低気温は14℃なんだな」
とか思っちゃう。
実際は最低気温は4℃って書いてあった。
昨日と同じ秋の陽気だと思ったのに……さむい!
ヒートテックなし、防寒着なし。Tシャツの上に薄手のパーカー。
体感してさむいってなったんだけど、
「まあ、行けるだろう」って最初は思うんだな。
室内の温かい空気を纏っているから。
でも、その衣が剥がれてきて、もう引き返せない段階になると「寒い!」ってなる。
風よけのない駅のホームで特急電車の通過待ちで待っていて、特急が来て、冷たい風がぶわんとやって来た。
「うわああ、さむいいい!」
いつもはやらない|腿《もも》上げとかをやったり、奇妙なダンスを踊って身体を動かざるを得ない。みんなはいいよなっ、防寒着着てさ。僕は、僕は……くよくよ。
などとしてた。
そんな朝の寒さから10時間後くらい。
予報では11℃と書いてある。えっ、である。
えっ、朝よりももっと寒いの?
愕然とした。戦々恐々とした。
どうして、どうしてヒートテックを着てこなかったのか……。
そんな帰宅の風を受け、やむなくコンビニに赴いて、ホカロン(貼るタイプ)を1枚買う。
すぐに貼ってしばらくする。
お腹あったまってきた。
お腹をさすると、こたつにぬくりたいって言ってます。
たくさんの想い出
2024/11/19 18:58:38
「たくさんの想い出」という題名の泉を展示しているという美術館にやって来た。
高めの入場料を支払って、彼はゲートをくぐる。
道中の、細々としたつまらない展示品に興味はない。
油絵の風景画、木組みの工芸品、よくわからない彫刻。
それらについて、思索の時間を取らず、横切っている。
数分後、外に出た。
中庭のような、建物と建物の間にある広がりだった。
メインの展示品は、ただの水たまりではなかった。
泉に注ぎ込む水路がいくつか設置してある。
上から俯瞰すれば、星形の頂点が外側に延長されたような感じである。
水路は五つあった。ちょろちょろと、水路を流れる水の流れは外側から内側へ。つまり五つの水路が、直接中央にある一つの泉へ注ぎ込まれている。
水路といっても、そう大層なものではない。
パイプを横にスライスしたようなものである。
家の屋根にある、|雨樋《あまどい》みたいな。
そのような大きさでしかない。
そんな飛び越えられる程度の大きさでしかない小さな水路を、いくつもの|小洒落《こじゃれ》た渡し板が掛けられていた。
渦を巻くような、泉の周りを周回させる感じである。
柵はないから、そのままショートカットするように、ぴょんと飛んで、中心を目指した。
泉に到着しての感想、意外と池だな。
直径は五メートル程度。
だが、遠くから見たほうがよかったと後悔する。
至る所に苔のような暗い緑が敷き詰められているし、汚い沼のような、ぷんとしたニオイを解き放っている。
泉は乾いているようにしか見えなかった。実際、三センチもないだろう。
なんだ、5600円が無駄になった。どうしてくれよう。
憤怒の感情を剥き出しにして、きりりと引き返そうとした。
彼が来たところから、車椅子の人がいた。こちらにやってくるようだ。
付き添いの人が押してくれるタイプで、車椅子に座っている人は女性だった。
制服を着ていた。とても若い人。
子どもだろう。小学生? わからない。
そのような華奢な体つき。
車椅子でも彼のようにショートカットできそうなものだった。しかし、車椅子の人は順路通りに従った。泉を回る、竜巻のスローモーションのようなゆったりとした試み。
沈黙だった。見惚れるように彼は立ったままでいた。
彼女もまた沈黙だった。手押し車に乗せられたか弱い小動物のように、身体をじっと固めていた。
彼女を眺めていると、いつの間にか怒っていたことなんて忘れて、時計の一周を感じさせた。
人物像の輪郭が分かるようになると、座った彼女の目は閉じていた事が分かった。
やがて、車椅子と付き添いの人――どちらも女性だった――が泉に到着した。
付き添いの人は車椅子を固定したあと、一歩二歩下がって佇む。車椅子の彼女は深呼吸して、
「いい香りです。スイレンが咲いていますね?」
彼女は嗅覚にすぐれた。
付き添いの人は「ええ」と頷き、じっくり鑑賞していた。その後、「たくさんの想い出」という泉に付けられた題名について、議論を|交《か》わしている。
彼は、どこにスイレンがあるのか、細い目をさらに細めて泉の範囲を探している。
書き忘れたが、彼は極度の近視である。鼻もバカな方である。学もない。だから鑑賞目的ではなく、美術館に寄付をしに来たようなものだった。
キャンドル
2024/11/20 18:50:10
キャンドルの火の消し方って個性があるよなあ、って思った。
息をかけて吹き消す。
火の根元を指で摘むように消す。
コップか何かで覆って、酸欠状態にして消す。
水をかけて消す。
あとは何かあるかな。
あっ、ロウを燃やし尽くして消えるというのがあるな。
だったら、ロウを溶かしてしまうというのもある。
火が消えるためには、ロウという燃料に着目すればいい。
そうなると、大きな火で炙って、瞬く間にキャンドルそのものを消してしまえば、キャンドルの火は消えるな。
と考えた。
火を消すために火を点ける。
面白い発想だ。
このアイデア、どこかで使えないかな。
宝物
2024/11/21 18:56:30
宝物を守るミミックは、本日もダンジョン内をおさんぽ中である。
薄暗い地下ダンジョン。
攻略難易度は高めな方で、実際、そのミミックは百戦錬磨の無敗であった。
実はラスボスの魔王や裏ボスであるダンジョン最下層に座す主よりも強いのではないか、という噂もある。
実際、箱の中には、ラスボスをハムのようにスライスしてしまうほどの伝説の武器が何本も入っていたりする。
しかし、ミミック的にはそれら伝説の武器たちを丁重に運ぶことなどせず、ガッチャン、ガッチャンと、中身を揺らして歩いている。
いわゆるジャンプしての移動はしていない。
歩いているのだ。
ミミックは宝箱であるので二足歩行ができる足は生えてないが、どこか生えているような気がする。感情もある気がする。
スキップ、スキップ。
身体(箱)の重心を交互に、左右に、傾かせて。
見えない音符と見えないリズムを奏でている。
「……」
ミミックは、ふと耳を澄ますようになった。
身体を固まらせて、閉じた宝箱となっている。
変な場所で静止したが、その辺は問題ない。
意外とツッコまれたことはない。
電源が切れたように、もう動かない。
ちなみに箱の装飾はちょっと豪華である。
以前は普通湧きのボックスのように、錆だからけの金具に薄汚れた木箱を連想させる見た目だったが、いざこれがミミックだと分かると、冒険者が舐めてかかってきてしまう。
犠牲者の屍の山がダンジョンに積もって、掃除が大変だと魔物たちが愚痴を零していた。
(だって歯向かってくるんだもん……)
ミミックがシュンとしていると、魔物たちは提案した。グッドアイデア。ミミックは宝物の中からアクセサリーを取り出し、箱の装飾を頑張って飾った。
十字の分岐路の一方から、冒険者一行がやって来た。
「おい、あれ」
「あ、宝箱……」
男が気づき、女が目ざとく視線を揺らす。
着飾った赤色のネックレスの反応が特に良い。拾い物だが、豚に真珠といった風でダンジョン以外では高級品らしい。
典型的なメンバーで構成されている。まだミミックだとは気づいていない。女が近づいて、箱を開けようとした……。
恒例行事。
口を大きく開けて、伸びた手を噛みちぎろうとした。
「うわっ、ミミック!」
「くそ……」
一行の目がきつくなり、臨戦態勢。
ミミック側は、ちょっと甘噛みして逃がす予定だったのだが、そんなにやる気なら仕方がない。
本日は気分が良いから相手になろう。
箱の蓋をぐっぱりと動かした。ミミックの首を縦に半回転。中身をよぉく見せた。
中には山盛りの綺羅びやかなゴールド、歴戦の勇士が所持した豪華な戦利品。それから紫色の……よく知らない空気の塊。
それらをとことん見せてから、戦闘に入る。
そうすると、ゲームのシステム上「逃げられないバトル」に進化する。
とりあえず、男どもをザラキで即死させてから、可愛い女の子を土下座させたい。
1分後にそうなって、3分後には意気投合。
一緒にダンジョン内デートをすることになった。
女の方が少し怯えているようだが、ミミックにはよくわからない。
スキップ、スキップ。
こうやって、地下ダンジョンの魔物たちに見せびらかすことを毎日やっている。気分が良いのはそれである。
ダンジョン外にこの噂は広まることはない。
その辺は抜かりない。
「逃げられないバトル」なのだから、男たちに死に戻りなんてさせない。
どうすればいいの?
2024/11/22 18:15:26
「どうすればいいの?」
このお題を見て、僕は以前20歳のニートと会話したことを思い出した。
彼との出会いは精神科での集まりだった。
社会復帰を目指す、あるいは社会復帰した者たちで構成された参加者たち。
精神科クリニックの一室に集められた数人。
僕と彼は、その参加者だった。
ニートである彼は運動不足と食欲のない貧相な身体つきでポツポツ呟いた。
小学五年生から不登校生活は始まった。
それから20歳。ずっと不登校でいる。
中学、高校とまったく通っていない。
今話題のフリースクールも通っていない。
中卒確定。だから、受験というもの、宿題というものなどまったく知らないという。
約九年間自宅で引きこもっていた。
それで、冒頭のセリフということだ。
危機感を持っていると言っていた。
危機感? ははっ。
危機感があったら9年間もニートしてないだろ。
不登校とニートについて、心のなかで蔑んだ言葉が湧いて出た。
今では恥ずかしいものだが、自己肯定感が低かったのだ。自分の存在を理解するために、ネットで不登校ニートや派遣社員などのブログを頻繁に読みあさっていた。自分も同じようなもの。コメントは残さない。感想として上手く言語化できない、ドロッとした醜い感情。
ファシリであるクリニックの先生が、悩める彼について僕にアドバイスはないかと話を振ってきた。
僕には不登校歴が1.5年、ニート歴も1.5年あった。
それでも、社会復帰できている。正社員をやらさせてもらっている。もう二度とこんな奴にはならないぞ、という、一種の同族嫌悪である。
ファシリには申し訳ないが、僕はアドバイスを送るような人間ではない。
ネットの世界で散々|貶《けな》したのだ。
彼のような無職ニート、不登校に対し、努力がないとか、やる気がないとか。
言葉にして残していないが、同調したのだ。
そんな甘ったれたこと言ってんじゃねえというドロドロとした黒い何かを吐き出そうとした。
でも、そんなこと……。
口を閉ざす。
面と向かって話すほど、彼を傷つけることはできない。
ニート・無職像は、ネットに属する画面の向こう側だから、あんな言葉が湧いて出るのだ。
「アドバイスできません。僕の人生のどこを探してもありません。とりあえず、うつを治したらどうでしょうか」
それだけを答えて、あとは別の話題へシフトした。
以降ニートの彼が喋るターンは来なかった。
僕がずっと喋っていた。雄弁は銀、沈黙は金。
そんなわけがない。それが言えない苦悩のクチ。
夫婦
2024/11/23 18:18:31
平凡な「夫婦」の目の前に、一匹の悪魔が現れた。
時間帯は夜で、男はベッドで寝ている。
女の方だけが目撃した。
「そんな男で一生添い遂げる気か。もっと裕福になりたいだろう。途中で捨てちまいなよ」
「そうね、その方がいいわね」
女の方はすんなりと了承した。
悪魔はケケケ、と笑った。
男は一途だが、女の方はあっさり。
夫婦の関係は、こんな風にあっさり切られるものだ。
「良い男に、紹介してあげるよ。来な」
悪魔は手を差し伸べ、夜空のもとでデートをすることにした。しかし、女はそれを断った。
「どうして断る?」
「たしかに、この男は貧相な性格よ。おそらく5年がそこらで飽きてしまう。でも……」
彼女は、手を伸ばした。
「『これ』以上に良い物なんて、要らないの」
「ちっ、これだから人間は」
悪魔は開け放たれた窓から退散した。
男のモノは長いほど魔除けになる。
女の夜もそれで長くなる。寿命も長くなるのだ。
夫婦の「婦」のほうは実はサキュバスでした、っていうオチです。ウソです。
セーター
2024/11/25 18:45:51
おうちにセーターが2着ほどある。
色はどちらもオフホワイトで、N店で買った量産品のやつ。職場だと、みんな着てそうな奴。
似たようなものを買っている人たち。
僕は臆病な性格のため、冬風が吹けてめっちゃ寒くなったな、という時に訪れて、冬服の商品棚のところへ出向いた。
長袖、パーカー、フリース……。
その一群にセーターがあった。
カラーバリエーションは覚えていない。1種類しかなかった、と思う。
僕はアトピー性皮膚炎という厄介な性質の持ち主なので、セーターとかいうもこもこの王様的な服は今まで買ってこなかった。
しかし、触ってみてもふもふで、もふもふに惹かれて試着してみたら、「あっ、いいなこれ」
ということで1枚だけ購入した。
ぽかぽかして、とても良かった。
洗濯しても、縮まない。いい奴だ!
ということで、その2週間後。
再びN店に寄って、そのセーターをもうちょっと買うことにした。
しかし、考えることは皆同じ、という風に、もうすでに品切れ中みたいだった。
何もない。しょんぼりとする。
2週間前には、これでもかといっぱい陳列されていたのに……。適当に長袖を見繕い、おうちに帰った。
その2週間後。
諦めてたまるかっ、という僕が三度訪れた。
もしかしたら仕入れされているかも、というものだ。
でも、見当たらなかった。
やっぱりないよなあ……と思っていたら、一着だけあった。
まるで見本のような感じだった。
棚に積まれている感じではなく、ハンガーに掛けられて、「私、コーディネートされてます」みたいなものだった。
値札は……、付いてますね。
じゃあ、失礼します。
と、脱がせるようにハンガーから取り外した。
レジへ。値引きとかは、されていなかったと思う。
そんなわけで、二枚目は思い入れがある。
太陽の下で
2024/11/26 18:18:48
太陽の下で「いでよ、月……」と唱えてみた。
もちろん、月は出現しない。
「あれ? おかしいな。いつもならひょっこり現れるんだが……」
頭のおかしい男は、脳内ではいつも完璧だと思っていた。独自の理論を組み立て、それを脳内で試行する。
完璧だと思っているが、現実でそれを実行しようとすると、いつも失敗する。
現実味のない、突飛な思考能力を有した者だった。
そうだ、月が移動したのだ。そうに違いない。
頭のおかしい人は、頭上の蒼天なる空を仰ぎ見て、そう考えた。そしていつものように、論理づけを行った。
宇宙は限りない。ビッグバンの勢いに応じて、外側に向かう大げさなベクトルに従って、放射状に広がっているという。
今頃になって月がそのことに気づき、その力に逆らえずに動いたとしたら……すべての辻褄があう。
その後、いつものように、脳内で空を飛ぶ方法を考える。マンガのような、ファンタジックな方法だった。
鳥になるしかない。
いつまでも地に足をつけた人間である限り、地上から離れることはできない。
幻想庭園たる空を目指すのだ。空もまた宇宙とともに、果てしない。
頭のおかしい人は、そうして時間を潰して考える。
思考にふけるとき、紙やペンを用意することはない。
それは凡人のすることで、ありとあらゆることを紙に書き出すなんて手間、私がするわけがない。
芝生の広場さえあれば、それでいいのだ。
空想と情熱を足し合わせ、入れ物である頭のなかでブレンドすればいい。
舌でベロベロとなめ回すように、脳内で空論を練った。
頭のおかしい人は、今日はいつもより頭がおかしかった。天才でも凡人でもなんでもなかった。奇人でもない。ありていに言えば、頭が悪い。
頭の質は凡人より遥かに劣り、頭の回転は天才以上に速い。
故に頭の中は始終空転が起こり、本来見えることのない結論を論理の不安定な糸で絡め取り、それを根拠とした。
明晰夢を見ているようであるが、頭のおかしい人はそれを認めようとはしないだろう。
頭を下げてまで、脳内に棲む化け物じみた腫瘍を取り去る決断はしない。逆に運命づけるだろう。私はこれとともに生きる。これの正体を考えることこそが、使命なのだと。
やがて夜になって、月が現れた。
今夜はきれいな満月である。
しかし、頭のおかしい人は別のことを考えていた。
ショートカットを連続した結果、自身は神ではないかと疑っては、信者がいないことに「なぜ」と首を傾げた。
クリスマスにこれを上げるんだ……なぜ?
微熱
2024/11/27 18:46:50
微熱の原因を探るため、身体中に手を当てていった。
お腹、胸、首、おでこ……。やはりおでこに当てると自身の熱の具合が分かる。
どうして分かるというのだろう。
それはおでこが冷たいからか。
あるいは、手の平全体が熱を持っているかのように熱いからか。
季節は秋から冬にかけて。
窓を開け、部屋の中の空気を入れ替える。
換気の風が、服の繊維を通り抜け、身体の表面を撫でた。冷たい風……。風邪を引いてさえいなければ、この風はもっと清々しく感じていたのだろうか。
身体に悪いと思っていても、風に当たる行為を止めようとは思わなかった。
同じ頃、向かい側の窓に、同様にして凍えるように小さな身体を震わせる子供がいた。
彼女はいつも部屋にいる。電気の止められたような暗い部屋を棲家としている。あの娘は不登校だろうかと推測してしまう。
玄関を扉を叩いてまで、外に出たくないのだ。
家の中にいすぎて、靴の履き方まで忘れかけているのかも知れない。私と同様に、微熱を負っているために、窓を開けるくらいで終わっているのだ。
長い髪は雪崩に遭ったように散らばり、風に吹かれている。そして、引きこもりの娘は背を向け、窓際の暗い影へと消えようとした。
愛情
2024/11/28 18:55:26
愛情の数値を、紙に書いて提出する学校があった。
導入された経緯などは、生徒たちにはよく分からないのだが、体温を確認するみたいなものだろう。
ちなみに隣の欄は「今日の体温」だ。
その人は女の子だったので、丸くかわいい字で数字を書いていく。
体温 36.4
愛情 36.4
親から示された愛情を、このように100分率で書いていく。36.4%受けてきた、という意味だ。
子どもの立場を鑑みると、愛情とは与えられる側だから、このような記述となるだろう。
体温と同じ結果になる。
風邪を引いて体温が上がると、いつもよりやさしくなる。大丈夫? 苦しくない? と親は子をわが子のように心配し、甲斐甲斐しく接する。
しかし、風邪が治ると愛情の数値が目減りする。
不機嫌になり、意見の相違があるとケンカをするようになる。
「先生、愛情って何ですか?」
まるで、勉強をする意味を他人に問うように、担任の先生に尋ねた。そうすれば、いつものように黒板に書いてくれる。そうすれば考えずにそれをノートに写すだけでいい。そうだと思い込んだ。
しかし、今日ばかりか今月の担任は、げんなりとした顔つきである。美術の時間で習った言葉。グロッキー。
「入院すれば、分かるようになる」
「入院しないと分からないってことですか?」
子どもの質問を無視して、
「ああ……、今すぐにでも入院したい」と独り言。
「そしたら、金を稼がなくても親がお金をくれるようになる。もう残業したくない」
先生は頬杖をついた姿勢から、自分の顔をサンドイッチの具材のようにした。横方向から手でぐちゃっと顔を潰す。濡れた唇が縦に開き、その中から覗いた前歯が汚い。そしてヤニ臭い。
こんな大人にはなりたくないなあ。
目が悪く、教室の最前列……。
くじ運も悪く、教壇の目の前が定位置である生徒はしばし心のなかで毒づく。
そして嘘だらけの紙切れに向き直った。
「もう辞めたい……」
「うるさいです先生」
終わらせないで
2024/11/29 18:57:03
終わらせないでと僕に言われたところで僕はそれに従って終わりを先延ばしにしてもいいんだけど、そうしたらそうしたらで冗長だとか長すぎるとかいつまで続けるつもりなんだとかそういったお叱りの言葉を書かれる。
僕だって自問自答している毎日なんだ。本当は終わらせたいと思ってる。
けど、果たしてそれでいいのかと思ってしまうと、いやいやそう簡単に終わらせてはいけないんだ。
僕はこの物語の結末を知っている。だからこそ中途半端で終わらせてはいけないんだとそういった気概を持って続けているんだ。
しかし、続けている者に対して、続けなかった者たちはみな石を投げて攻撃しているんだ。止まったんだから止まれよいい加減、とかそういった意味合いの表現の自由という名の|石礫《いしつぶて》だ。
それは声援でもファンレターでも応援コメントでも何でもない。僕はそれをノーと断定する。哀れだ。憐れだ。|憐憫《れんびん》の情だ。
書くという行為、何かを書き留めるという行為。何かを続けるという行為。生きるという行為。
それは人間の歴史から見ても神聖で神でも不可侵な領域だ。
僕はこの世界に存在しているというだけで続けているって換言できるし、君たちもそれを続けるべきだ。苦しい? 当たり前だ。
この時代、当たり前は目に見えなくなった。それが見えるようになっただけでどうして続けることをやめようとするのか。
大人になること。それは子供時代に無料だったことが有料になっていくと自覚することだ。
終わらせないで、そういった言葉は相手ではなく自分に言ったらどうだ。今は無料でも、いつしか有料になる。それが分からないやつは、人に石を投げなさい。
もちろん僕以外でやってね。
冬のはじまり
2024/11/30 17:54:33
冬のはじまりは、秋が終わる頃、ではないのだ。
実は秋と冬は重なり合っているようで、冬の前半が秋、冬の後半を冬と現代の日本人は呼ぶようにしている。
それは平成時代でもそうだったと思いたい。
今はSNSと気象庁の猛烈な予告によって、急に夏が終わり、急に秋が終わり、そして急に冬が終わり……1年通してみると夏の間延びした暑さしか印象にないようになる。
秋なのか冬なのか分からない。
夜は冬のはじまりとなっている。
寒さは夜から到来するのだろう。
泣かないで
2024/12/1 18:48:11
泣かないで、下唇をぐっと噛み締めて、ずっと作り笑いをしている40歳になる人間。
数え年で40歳を「|不惑《ふわく》」と呼ぶ。
2500年前の中国の思想家である孔子が、晩年に述べた言葉に由来する。
孔子は、15歳で学問を志し、30でその道で独り立ちし、40歳で進む道に迷いがなくなったとされている。
そんなこと、この複雑怪奇な現代であり得るのかと思うと、そんなわけがないと思えてしまう。
40の倍、80歳になったとしても、迷いっぱなしの人生なのではないか。
悲嘆の壁の前。
脳内に聳える硬く高い壁の前。
その前でウロウロと行ったり来たりをしている毎日。
角度により、この壁の色が変わる。
ある時は清廉を与える白、ある時は影の色。
陽の光で|褪《あ》せた色。くたびれた色。
その様々な色合いに、これでも良いのだと思ったりする。
壁に向き合い、または逃げ。
自分の生き方の指針として、この壁の周りを蛇行運転することにしている。
人生は結果ではない。
この色が好きだ、嫌いだという単純なものじゃない。
距離
2024/12/2 18:56:28
距離をゼロにする魔法効果のあるネット社会。
とある小説投稿サイトを利用しているわけなのだが、そこでは閲覧数は見えない仕組みを取っている。
最近、インプレッション数とか、閲覧数とか。
そういった意味のない数字に夢中になっているネズミが多いと聴く。
僕もそのネズミになりかけて精神が不安定になったので、「もう一人にしてくれ」と、閲覧数が非表示なサイトに引っ越して、淡水湖みたいな海辺でゆったりとしている。
……はずだった。
最近、というよりか数年前からか。
今どきの小中学生は、デジタル教科書に切り替わったことで、学タブというものを持ち始めた。
知らない人がいるかも知れないから書くけど、学生用タブレットのことである。
僕もよくは知らないが、たぶんデジタルだからアプリみたいに教科書を切り替えることができるのだろう。まさに「指一本で自由に」というやつだ。
だからだろうか、学タブの操作者にもそれが表れる感じになってきた。粗暴というか、遠慮を知らないというか。
学タブの略称が学生用タブレットなのか、学校用タブレットなのか、よくわからないが、ほとんど混同してミキサーにでもかけられたように、目的意識が凝固化せずに溶解してしまっている。
いつしか普通のネットの海に航海を始め、学タブは無料体験の境界線を越えて沖合にまで勢力を拡大中。
わりと海賊みたいな船乗り気取り。
無人島暮らしでゆっくりしていた僕目線では「目障り」だと思えてしまうくらいだ。
有名マンガのように、何を勘違いしたのか、世界一周することが夢であると豪語している。
国としては野放しとなっており、無法地帯や|野放図《のほうず》になりつつある。
小説投稿サイトを「SNS」と言い始め、チャットサイトのように使い始めて僕は目を覆いたくなる。
バカとハサミは使いようというが、バカはハサミというものを知らない。指一本で二次元を操作できるからだ。
彼らに小説などというものは書けない。
読書感想文もまともに書けず、ト書きレベルを小説という始末。
本当に少子化なのか? と、疑問になる。
単純化思考になってしまうところだった。
ネットの海は広大で、距離感がつかめない。
きっとネットの海で暴れている学生たちは一部なのだと思いたい。
SNSで時間を溶かしている連中も、大人の層からいえば、3%位しかコメントしないらしい。あとの97%は読み専なのである。
だって、仕事で1日の1/3を持ってかれ、睡眠時間で1/3を持ってかれ、あとの時間はプライオリティなプライベートなやり取り。僕はYouTubeの動画を見てたらあっという間に就寝時間。
SNSでバトルをするような、時間を捨てることはしない。
まずは音から汚染されるのだ。
今見ているネット上の光景も、音から。
そういえば今の海はマイクロプラスチックで汚染されつつあるということを忘れていた。それならもう、仕方ない。
名残惜しそうに耳栓をし、あるいはワイヤレスイヤホンをして、目を閉じる。
シャットダウン。
2024年お疲れ。
光と闇の狭間で
2024/12/3 18:49:17
光と闇の狭間で、働き者のミツバチたちが飛んでいる。
ミツバチたちの上空は白く、清廉潔白である。
それは光の道を差している。
対して眼下の地面は黒く、澱んでいる。
闇の道を差している。
その狭間……。
光と闇の濃度が綯い交ぜとなっており、その狭間を、ぶんぶ〜んと気の抜けた飛び方をしている。
こちらを飛べとのお達しだ。
ミツバチの目はそうよくできた方ではないので、視界良好な方が良い。
光の道はかなり眩しく、目を焼かれる。
闇の道は息苦しく、身体が蝕まれる。
ぶ〜ん、と気抜けた羽音を立てながら、いくつもの紐で結われたでかいハチミツ壺をぶら下げつつ、運んでいる。
現在の光と闇の交配濃度は50%。
視界良好……とは言えない。
白い霧と黒いモヤが混じっている。
う〜ん、微妙だ。
何とも言えない微妙さだ。
ミツバチたちの職業は、天国と地獄を行き交う、運び屋のような感じだった。
天国と地獄。
人間たちには北極と南極のように両極端に位置すると思われているが理屈は当たっている。
しかし、両極端なのは場所だけで、どちらも気候環境は極寒。
実際、天国と地獄は政治と民間企業の大企業のような関係で、裏では「政治とカネ」のような強い結びつきがあるようなのだ。
つまり、ミツバチたちは蜜を運んでいるのではなく、カネ――政治献金(裏金)を運んでいるのである。
今や天国と地獄はビジネスパートナー。
いがみ合っているが、それは表での話。
閻魔様と神聖たる神とは、夜のパートナーになって……、という噂もある。国民に隠れて、閻魔のナニを神がしゃぶっていると。それほど両者の国は癒着しているのだ。
悪魔と天使を同等に扱う天地の統一思想も現れているという。統一思想があらわれたのは、少子化対策由来らしい。
上級国民である悪魔たちは、両国を統一してから落ちぶれた天使を雇い、救済と破滅を混ぜた宗教的思想を植え付け、それを介して下界の人間たちを自決に追い込み、魂を刈り取るだけ刈り取りたいと思っている。
本来天国に行くはずだった人間の人生に茶々を入れて、地獄に連れていくという。
まるでブラックなのであるが、天国も地獄も少子化。
人口が減少している。
地獄の常識であれば、そもそも人件費の概念がなく、汗水垂らして過労することが「この世の罰」。
そう言い含められるが、天国の者を歓迎するためには、そうはいかない。「人件費」という名の手綱(カネ)が必要なのだ。
しかし――そうも言ってられないのがこの集団なのだ。
「おっとと……」
ミツバチ部隊の編成が崩れかけ、壺の中身がチャポンと揺れた。
「危ないなぁ。堕とすなよぉ」
リーダー格であるミツバチが注意喚起のヤジを飛ばす。その後壺の中身を確認した。
ミツバチたちは、単なるバイト。
本来運び屋には熟達した天使を採用する。
しかし、そうできない理由がある。運んでいるモノがモノなだけに。それに、単純に天使は人件費がクソみたいに高いのである。
壺の中身は、不登校になって人生が詰んだ天使の子どもたち。それが壺のなかに閉じ込められていた。
背中に、白い羽が生えているが飛べません。
飛び方が知らないから、このように拉致られ、地獄に連れて行かれるのである。だから、この内一匹を誤って落としたとしても、実損はないに等しい。
「よくわからないなぁ、こんな|木偶《でく》が300万で取引されるんだぜ。こんなののどこに需要があるんだ?」
サヨナラは言わないで
2024/12/4 18:38:44
サヨナラは言わないで、「またいつか」と言いましょう。
そんなことを伝えているお題だなって思った。
両者の意味は98%変わらないものの、後者のほうが耳触りが良くなるようだ、と年齢が深まってくるとそう思った。
嘘かもしれない。
正確に伝えるなら前者。勘違いを起こす。
綺麗事、正論の類。低年齢だとそれが聞こえてくる。
嘘。
大人に、なろうとしている僕の心にも小言のように発している。
でも、嘘かほんとか判断するのは数年後の未来の僕だから。
別に勘違いを起こしたっていいじゃない。
数年後の未来は、僕たちにはわからない。
わからないなら、確定せずに曖昧にしよう。
穏やかな海の、波打ち際。歩いていれば足の裏に砂粒がつく。
またいつか、という希望を抱きながら歩く。
痛いっていう砂粒でてきたサンダルを履いていると、良い気分で歩ける、と思う。
夢と現実
2024/12/5 16:39:20
夢と現実。
現代に生きる人たちは、この二つの要素を対義語的に理解している感じがする。
生と死みたいに考えているっぽい。
例えば人生を1と置く。
睡眠時間に1/3、現実世界に2/3の割合で充てているのだから、夢より現実の方を重要視するのはごもっとも。
夢は、大ぼら吹き。現実逃避として利用される悪の組織。
夢の時間たる睡眠時間をなんとかして削ったほうが良いと考え、僕たちはショートスリーパーに憧れてしまう。
学生時代は徹夜したり、夜更かしすることに対して罪の意識がない。
睡眠時間分、人生は損をしているわけだから、その分削って現実世界に生きたほうが得をする。
まだ、この時代には不老長寿の薬なんてないのだ。
そんなことを、生まれた時から植え付けられている。
しかし、どこかのブログでかすった知識を披露すると、今から150年くらい前の江戸時代では、人生とは、現実の世界と夢の世界、その両方を繰り返し経験するのだと思っていたらしい。
現実、夢、現実、夢……。
その繰り返しで、人生という名の時間が進む。
これを読んだ時、僕はなるほど〜、と思った。
つまり、昔の人達は、ちゃあんと「無意識」と「意識」を区別して、それらを包含して人生というものを生きていたのだ。
一方、現代人たちは、意識の世界にのみ生きようとして、もがき苦しんでいるらしい。
養老孟司先生の本を読んだ時は、
「意識の世界とか何いってんだコイツ」と思っていたのだが、つまりそういうことか。
先ほど書いたように、現代人は自分の脳に住まう意識を王様のように考える。王様の絶対王政を強いている。
1日の1/3を睡眠時間という名で時間を「捨てている」と考えがちだから、1日は2/3しかない。
王様はそう考える。すると、自然に無理なことを声高々に宣言することになる。
「だから、人生を効率よく生きよう」と。
無意識の世界を区別してこれを放棄し、思考能力がある時間のみに注視した。
現実(瞬断)、現実(瞬断)、現実……。
現代人は、よく精神を病みがちだとされているのは、そういうことだと思う。
人生の時間に対する姿勢が、給料が天引きされたが如く、何者かの手によって脱落しているため、その時間を取り戻そうとして効率的に、効率的に……、と思うようになった。
これを自覚すると、現実と夢は両極端な概念ではなく、数直線を引いた時のように、水平的になる。
現実、夢、現実、夢……。
その繰り返し。
普通に考えて、人生の時間は「倍」になるわけだ。
あるいは、夢の時間は脳にとって休憩時間である、という再認識も進んだ。
だから無意識について理解するために、夢の世界とは一体どのようなものなのだろうと調べ、発掘していった。
夢占いとか、諸行無常とか、無常観とか。
マインドフルネス(禅)、芸術、祈り、彫刻鑑賞……
今の現代人には、まったくもって理解不能と切り捨てられた思想だが、もうちょっと調べようと僕の好奇心は提案する。
きっと昔のほうが、時間がゆっくり進んでいたのだ。
効率化を考えていったから、時間が早く感じるのだ。
江戸時代が終わって150年くらいしか経っていない今。
人生の効率化を目指していって、生きづらいと思えるからこそ、人生に向き合う必要性に駆られた。
眠れないほど
2024/12/6 18:23:09
眠れないほど面白い本を見つけてきた。
しかし、辞書のようにとても分厚くて、誰もが鈍器のような何かだと思う程度に重たい。
読了するには時間的効率が悪いので、こういうのは、YouTubeの動画のように、誰かに要約してもらうに限る。
「そうだ! 近所の池に超絶暇そうな浮浪者がいたじゃねーか」
鈍器のような本を引きずって、近所の公園に出向いた。
まるで死体遺棄でもするかのように、その本を池に捨てた。
ジャボン。
すると、どこかの定番ストーリーをなぞって、池から美しい女性――自称女神が出てきた。
「あなたが落としたのは、この面白い本ですか。それとも眠れないほど面白い本ですか」
「ふむ……」
などとしばし選択に迷う素振りをしてから、
「面白い本と言われてもな、世の中面白い本なんていくらでもあるからな」
といった。自称女神の目つきが悪くなる。
「あなたが落とした本なのですから、本の装丁や表紙の色で見分けがつくと思いますが」
「しかしなあ、見た目だけでは本というのはわからないものなのだよ。物語とはね、文字情報の住処みたいなものなのさ。そんな風に見せたところで、オレにはどちらがどっちなのか、見当もつかないのだよ――そうだ!」
と、わざとらしい提案をした。「それぞれあらすじを言ってくれないかな。そうしたら、どちらがオレが落としたものか分かるだろう」
「人間の分際で女神に要約を頼むとは……。なんと愚かしい浅知恵。まあ、いいでしょう」
女神はパラパラと斜め読みした。時間はパラパラマンガのように数秒である。
どうやら俺が持ってきた分厚い本はミステリー小説のようだ。若い女が不審な死を遂げて、その事件は未解決事件になった。
しかし、時効が成立する三日前に、一隻のクルーズ船が日本海に飛び出した。そこで人が殺される……。
「寝るほどつまんなそうだ」
オレは女神のそばにあった本をふんだくることにした。
「なっお前! それは私の……」
「悪いが、俺の持ってきた本はつまんなそうだからさ、もう一つの本にするわ。こっちは薄い本だし、なんてったって「面白い本」っていうタイトルだからな」
女神のコレクションを強奪したオレは家に帰った。
その本は三日くらいかけて丁寧に読んだ。
一方自称女神は、パンはパンでもフライパンになったがごとく、嘆きの女神になったらしく、その数日は大洪水時代になったようだが、関係がない。ノアの箱舟のような沈まぬタワマンの最上階にいるのだ。オレの代わりに赤の他人が犠牲になるなんて、やはり自称女神ってやつは面白い。
読み終わったらこれ、メルカリで転売してやろ。
逆さま
2024/12/7 18:11:01
逆さまとイカサマは似ているなって思う。
先入観で予想したものを裏切ることをして、それが好印象になるか悪印象になるか。実際にはよくわからない。
五年刻みで幸と不幸が連続するならば、いくつかの出来事は逆さまにしてイカサマしたい。
部屋の片隅で
2024/12/8 17:07:54
部屋の片隅で、月を見上げて考えていた。
ここら一体の小石がどうして黄色になっているのか、本来の石の色を塗りつぶし、みな魅了されたように月光に濡れている。
月は答えないが、こう答えているような気がした。
滝みたいなものだ。空と地面にこんなにも落差があったら、そりゃ月の光に濡れてしまうと。
月と対話する人は、なおも呈した。
月の光は、実は借り物なんだろう。なのにどうしてそのように自分の力のように主張できるのか。
月は答えないが、こう答えているような気がした。
本来私たちは対話するような距離感ではない。
眺め合い、光を受け取るもの。
しかし、何一つ変わらない私たちだが、地表の人間たちは区別化して空想上の生物たちの印象付けを行った。
光あるものは正しきものに、闇ある者は影に。
月と太陽も同じように、木から林檎を収穫した。
だから、君のように月と対話するような人は、世界にまたとない人なのだ。
君は、月を収穫しようとして、対話するのだ。
「違うよ、いつまでも部屋にこもって、ひとりぼっちなだけさ」
手を繋いで
2024/12/10 18:14:16
手を繋いで、朝の通勤電車に入ってきた。
2人だけではなく、意外と入ってきた。
集団、グループ。人数的には10人くらい。
ホームでは、列でなく横になった直線で待っていたみたいだ。
背丈は低めで、すなわち幼稚園児。
たぶん「ももいろ組」なのだろう。
桃色を羽織った何かを着て、みな身体が桃色だ。
区間は三河島から日暮里駅までの一駅だけだった。
東京にお住まいのひとは、ご存知の通り、常磐線内で最も混む区間である。そして、鉄道好き人には、でかいカーブがあることで有名でもある。
朝の通勤電車は大人、スマホをいじってるだけの学生だけしかいない。それ以外の人間はこの世には生きていない、と思えるだけの混雑状況で、ミツバチの密集みたいに箱に詰められて出荷されている。
視界の色は黒々。時折マフラーの赤や緑、すすけた色があるだけの、色のない色彩。
しかし、その車両に涼風が吹いた。
幼稚園だか保育園だか知らないが、電車が滑り込んだ三河島駅のホームに、児童たちが待っていたみたいだ。
電車が到着したことに、わー、わー、とはしゃいでいるようだった。一年生の遠足気分の小さい感じ。それで引率の先生方も手を焼いているみたいな声。そばで見守るのは、本来そこにあるはずのサラリーマンの列。それが向かって右にずれている。
喧騒が来る……? と思っていたが、電車のドアが開くと、その声はシャットアウトしたみたいに静かになった。先生たちの先導によって、電車へと導かれた。
「はーい、乗るよ〜、みんな〜。段差あるからね〜、注意しようね〜」
それら小さな集団は手を繋いで。
まるで数珠が袋の中で落ちるように、複雑な蛇腹になって電車に入ってきた。ホームと電車の隙間は、手を繋いでよいしょ。と一緒に乗り越えた。
意外と入るものである。
車内の人たちが協力して、空間を開けてくれたのだ。ドアは閉まる。
意外と静かである。
そのお礼みたいな感じに、僕は思えた。
電車が動く頃には、まったくの静かさで、狭苦しくて泣く子供も友達とおしゃべりする子供も、ましてやスマホをいじる子供も1人もいない。
まったく背が小さいので、そこだけ花畑ができたようだと思えた。背丈的にもつり革に届かない、手すりにも全員分は無理。
ということで、桃色の花畑が電車の揺れに堪えている。車体の揺れとともに、身体を揺らしている。
先生たちも、素直になっている子供たちの肩にそっと手を乗せ、周囲に気を配っている。
日暮里駅に着いた。
ここは乗り換える人が多い。
電車のドアが開くと、幼稚園児たちも降りていった。
また、よいしょ、と。段差を乗り越えて、ホームへ。
それを待ってから、常連の通勤者たちが、大量に降りていった。この車両はもう、すっからかんである。
常磐線電車がダイヤ通りに発車して、日暮里駅から上野駅へ、ゆっくり動いた。
件の幼稚園たちは、ホームのすみっコぐらしをしていた。たぶん、通勤者が先と心得ているようだ。
迷子にならないように、と電車内で少し願い、車窓の向こう側へと消える。
仲間
2024/12/11 14:49:52
仲間と友達は、なんか違うらしい。
僕的な感覚で言えば、仲間はより親密な感じ。友達は話しはする、一緒にいる。けど仲間まで親密かといえば、……。となる。
仲間というのは、絆があるらしい、とライトノベル的なファンタジー本を読むとそう感じる。
友達は、ファンタジーではなく実体があって、現実世界よりな感じ。こう書くと仲間も現実にいるだろって突っ込まれるかもしれない。
だが、どうやら僕の世界には仲間と呼べるような親しき関係は、卒業アルバムの中におり、開かないと思い出せないでいる。
まあ、ちょっとしんみりしちゃったけど、別に生きるだけなら仲間なんて要らないよね、っていう強がりを書きたかった。
またしんみりしちゃった。
まあ、いいんだ。世の中には卒業アルバムの中にないような、もっと直截的にいうと、写真に写らないような。
世間では学生と言いつつ、本人は学生時代なんていうものはない人たちだっているんだ。
いや、いるじゃない。いたかもしれない。だ。
またしんみりしちゃった。
しんみりしても、僕は前を向ける。
良いしんみり。このままお風呂入りたい。
何でもないフリ
2024/12/12 13:59:49
約1700文字
何でもないフリを長く続けるから、日本人はうつ病になりやすいと思っている。
心の構造について、とある精神科医YouTuberの動画を拝聴した。その人が言うには、心はハードウェアとソフトウェアの2種類で出来ていると言った。
ハードとは、例えばスマホの機器本体のことで、心の入れ物である。
ソフトとは、いわばスマホの中にインストールされているアプリ群のことで、いわば心を構成している要素である。
人は日々、スマホのストレージ内でアプリを落としたり、または消したりする。
ストレージ容量は人それぞれで違う。
128GB、256GB、あるいは64GBという小容量を使っている古い携帯もあるだろう。
アプリを落とした順番が気に入らなくて、時折ホーム画面上のアプリの配置転換を行うこともするだろう。
意外と時間がかかるから、めんどくさくてしない人もいる。
それでも良いが、やがてストレージ一杯手前になると、警告が入って、アプリを削除しなさいと言われる……僕は言われたことはないが。
つまりはうつ病の人は、やたらめったらアプリのダウンロードばかりをして、そのまま放置してしまっている。
無駄なデータを蓄積した結果なのだ、何年もやっていないゲームアプリが重いのだ。ゆえにスマホが重くてサクサク動かないのだ、と説明した。
今はスマホがあるからこのような説明ができるが、スマホができる以前はどのように説明したのだろう。
心とは何か。
ネットは愚か、紙とペンすら希少だった時は、頭の中だけが頼りだった。記憶領域を短期と長期に分けて、ひどく哲学的思索をしなければならない。
そんな悲鳴のような、悲痛のような。
聞こえてくる。
遺伝子情報を通して、自分の脳内から聞こえてくる。
連綿とした試みが、過去何世紀もかけて行われ続けたという軌跡が。
例えば、所詮人間も、心という概念的な100%で出来ているのではなく、タンパク質の入れ物の中に神経伝達物質が飛び交っているだけのものなのだ、と気づくまで、科学の進歩を待たねばならなかった。それまで、宗教的信条が独占して、宗教戦争や革命が起き、血で血を洗う悲惨が巻き起こった。
……失礼、脱線した。
今はアプリの話をしているんだった。
睡眠時間というものがある。
人間も生物の一員だから、一日の1/3は寝て時間を捧げなければならない。
その時に記憶領域の自然的操作が行われるのだが、うつ病の人や疲れ果てている人は、これをぎこちなく行う。睡眠の質が落ちるのだ。
脳が起きている時間が多いと、その分身体を休める時間が短くなって、いわゆる「寝た気がしない」という状態になる。
だから、うつ病の心の何がおかしいのかというと、ハード面ではなくてソフト面……アプリがとっ散らかってて、ストレージ容量一杯になっているのが良くないのだ、という結論。
じゃあ、どうすれば良いの?
その動画では「ひたすら寝ろ」だった。
再起動するよう働きかければ良い。
あるいはOSのアップデートをして、作業効率をあげるように仕向ける、という。
スマホのように買い換える、という方法が物理的にできないのだから、そうする他ない。
データが一杯手前だとしても、フリーズするわけではない。
ストレージ容量を超えようとしても、超えることはない。身体のほうがリミッターを付けていて、ブレーカーがガコンと落ちるように、勝手に寝るようになる。
「もう寝ろ」と身体を壊した。それがうつ病だ。
ここまで書いてきた通り、精神科医YouTuberは理路整然と動画で述べていたのだが、そもそもうつ病になった人は文章は読めないし動画も観れない。
というか、集中力が散漫を起こして、この短い文章さえも拒否してしまう。
そうなると精神科医は、
「薬を飲んで寝ろ。話はそれからだ」
ということになり、眠剤を処方して寝るだけの人生にするしかない。
いったい何のために動画を出しているのか。本当に伝えたい人には、届かないことをしている。それは精神科医なら知っているはずなのに……
つまり「そうなる前に」というのが肝心なのだ。
何でもないフリをするのは、限界を知っている人が一時的にするもので、ずっと我慢するためではない。それは演技ではない。
何でもないフリ……、フリとついているから演技なのだ。「何でもないフリ」を我慢しすぎると、何でもない、になることはない。
心と心
2024/12/13 0:43:06
心と心が通じ合ったような気分になった。
流れ星に手紙を乗せて、遠くの人と文通した。
文通相手は女性だった。同性。それも同年代。学タブ上の、イケナイ関係。ネッ友という関係。
悩みを相談したのがきっかけだった。
最近親に怒られたの。そう呟いたのがきっかけ。
誰も観ていないと思っていた。
でも、来た。それがファーストコンタクト。
ネット上だとしても、肯定してもらえたことがとても嬉しかった。
こんな日が、ずっと続けばいいと思っていた。
現実よりもネット上ばかりを気にするようになった。
いつしか学校は二の次になり、徐々に休みが多くなって、そして不登校になった。
でも、それでも……、ネッ友はそれを肯定してくれた。
休んでいいんだよ。学校なんか、無理に行かなくていい。それよりもさぁ、といって。現実の時間を、チャットサイトで無限に溶かした。
小中学生の関係なんてその期間だけのものだ。卒業したら縁が切れる。
でも、ネッ友なら、ネットが存在する限り、ずっと一緒。
日に日に、ネッ友に依存するようになった。
でも、ネッ友の方は、嫌がったらしい。
それはそう。
不登校なのは自分。一方その頃のネッ友は学校に行っている。平日の昼間は自由だと思っていたけど、実際は義務教育に行かなかったから得た自由なのだ。
夜なら良いだろう、夜更かしすれば良いだろうと勝手に思っていた。送った。送った、連鎖して送った。送ったコメントに、いつまでも反応してこない。
翌日の朝とかに返ってくる。そうじゃないんだよ、って束縛しようとした。
優先順位が狂ってる。学校よりも私じゃないの?
あなたが、あなたが学校にいかなくて良い、といったから、私は不登校になったの。
そうやって、いつからか責任転嫁して、ネッ友をネッ友じゃないようにしていた。
それって矛盾してるよ。ネッ友なのに、無責任なアドバイスしてこないでよ!
指先は激しいノックで学タブ画面を叩いた。
学校に行かないから、誰も注意しなかった。
「それが犯行の動機ですか?」
目の前が暗くなった。
目を伏せるように、頭を下げたからだ。
床しか見えない、取調室の部屋。
机を挟んで対面する警察の人は、どこか胡乱げだ。
「私はただ、理由が知りたかっただけなんです。傷つけるなんてとても……、はい。返す言葉もありません」
相手の親は、私が行ったネット上の粘着行為に開示請求を行った。
相手はトラウマで不登校になったのだ。その報復として、被害届を出した。
せっかく中学受験に合格したのに。
わたしとネッ友になったばかりに、その努力をふいにしてしまったのだ。
粘着していたのは、年末年始に追い込みの時だった。最も忙しい時だったのに……私は。
警察の、人として見ていない目が、私のすさんだ心を射抜いた。不登校のくせに、被害者づらするなよ、と言うような顔。
こんな風に現実世界に理解者なんていない。
それがわかってるのに、どうしてネッ友を壊したのか。
学タブの画面で、反省の色がうっすら反射する。手遅れの嗚咽も反射する。
愛を注いで
2024/12/14 16:12:02
愛を注いでいたら、ハートが増えていった。
恋愛の話ではなく、愛を注ぐ対象はこのアプリに、である。
さっき見たら、1,876とかだった。
七月くらいから始めたから、半年?
わからん。
毎日新聞のように、毎日書いてたらこの数字普通に増えるやつだからな。毎日10個が固定だから、小数点を左に一つずらせば、だいたいのアプリ起動日数がわかるってなんか良いよね。
最初の頃は、1日に増えるハート数のことを数えていた。増えていく演出とか、なんかそう、嬉しくてな。学生時代の恋愛みたいに、毎日が熱かったのだ。
今は「すん」となってる。
もっと早く増えてくれないか、と思ったりもしている。
というか、書いたらもう、増えていく演出を見ずに、お気に入りの人の投稿を見ていく、みたいになった。
ときどき20くらい増えることがあるのだが、その時は「バグったんだろう」と思っている。時折反映が一日二日合算するみたいなのだ。だから、一気に増えた気になる。
数字に固執する人は、このアプリにはいないと思うが、もしかしたらいるかも知れない。
そういう人は「継続」というのを見下しているのだろう。数字より継続が大事。他人なんて、気にしてもムダなのだ。
まあ、いうて。
全部で7日くらい、書くのしくったんだよね。
夜7時にお題が更新されるじゃん。
で、僕社会人だからさ。
夜6時台に夜の通勤ラッシュがやばいと、書けないということだ。
だから、とりあえずお題をとっとこーとして、あとで書く、ということをしている。
それもできないことがある。できないというか「あっ、忘れた!」となっている。
仕方ない、人生長いんだからさ……。ほら、通勤電車を見てみなよ、数分で次のが来るぜ。
それに乗れば良いのよ。
といって、適当にサボっている。
このまま書いていたら、年末にありそうな振り返りみたいなお題の時に書くことが無くなるので、これにて退散することにする。
イルミネーション
2024/12/15 18:02:34
とある地方で「イルミネーション」をしている所がある。それも2軒。
どちらも寒さがめっきり深まった冬の夜になると、外壁を彩るように、LEDライトの自宅仕様のイルミネーションをするようになる。夏などはしない。
僕としては、イルミネーションは電気代があり得ないほどかかると思うのだが、たぶんどちらも富裕層なのだろう。電気代など気にしたことはない。
ワンボックスカーとか、ゴツい高級車が軒先に停車しているし、一方は野球ベースを改良した物がある。
野球少年を飼っているのだ。
金曜日の夜、夜が深まったその道を通ると、軒先の野球ベースに立って三振しまくっている少年を見ることができる。通行人には見もしない、真剣だ。ブレない目を持っているな、と思っている。
イルミネーションの話だった。
どうやらどちらも我が子を喜ばせたいからそうするらしい。
一方は、外壁にツリーの形を彩っている。
上から下へと、光の流れを汲んでいる。本当はLEDライトの網が張り巡らされていて、ただの点滅だが、間近で見ないとそのことには気づけないものだった。
もう一つは色とりどりが光っている。
こちらは単純な作りだ。
ポーチの天井にLEDライトの網が設置されて、ただランダムに点滅されているだけ。違うのは、こちらのほうが色使いが多いということ。
赤青黄緑紫……そんなものが満天の星空のように光っている。
そういえば深夜も光っているのだろうか。
その辺は確認してないが、光っていそうな感じがする。
雪を待つ
2024/12/16 18:24:43
雪を待つ駅のホームに、しゃがれ声の列車がやって来た。
昭和初期の時代から活躍し続けた鉄道の一種である。
今のように電気で自走するような車両ではない。客車と呼ばれるものが連なり、先頭には立派な機関車が牽引している。
墨の泥で塗り固めたような、黒々とした外装だった。汽車は、煙突からもくもくと、白い蒸気を煙として吐き出し続けている。
動くこと自体|稀有《けう》に近い様子だが、それは外装だけの見た目のみである。
実は、これは石炭ではなくディーゼルエンジンで動いている。このモクモクとした煙も、実はハリボテ。普段は見えないが、本日は外気温が極端に低いから見えている、ように見えるだけである。
それでも、今の世の中では、電気代がかかることが特権扱いとなっているため、エンジンも車体も馬鹿にされている。
田舎のホームである。雪のカーペットはまだ敷設されていないが、寒さだけは一人前である。
都会へゆくための唯一の足である。トンネルは軒並み鉄道のものだった時代だった。
普通なら閑古鳥が鳴き喚いている石段のホームだが、今宵は大多数が待ち望んでいる。
待望の列車が|来《き》、大多数が乗り込む。
猶予のある時間が過ぎ、山を越えるような|嘶《いなな》ける|唸《うな》り声を上げて、古びた列車はホームから発車した。ゆっくりと、スピードを上げて、巣立っていくように。
ぷあんと、一発警笛を残し、列車は長いトンネルへと去っていく。――ホームに一匹を残して。
大多数の正体は寒さに弱い人間であり、一匹のそれは寒さに強いペンギンである。
ペンギンは、雪を待つ駅の駅員だった。
明日になれば、この地方には雪が降るという。
大豪雪だと。天気予報は真っ赤な警告を出し、ゴチャついた日本語ばかりを発している。
古い時代からすれば、壊れたラジオ。
周波数を間違えて今さら玉音放送をしている感がする。
ペンギンの駅員は、ゆく列車を見送るように、ちょっと短めな手で帽子の|庇《ひさし》を改めた。
そして、黄色い素足で、ペタンペタンと可愛げな足音で歩いていく。駅員室に戻る頃には、ホームは今年の雪を知るようになる。
行く列車があれば来る列車がある。
誰も知らない、寂しげに降り積もるホームに先ほどの列車が帰ってきた。
誰も降りない……と思いきや、乗客一匹を降ろした。
「きゅう」
白いアザラシだった。
もちろんペンギンのように、人間のように立つことはできない。電車とホームの隙間をジャンプ。着地した。ザリザリと、ホームの十センチの雪をかき分け、腹這いでペンギンのところにやって来た。
「今年も来たのか」
「きゅう!」
白いアザラシはヒレを目の前に出し、元気よく返事をした。
乗客がいないのだから、車掌になりきる必要もあるまい。雪上になりゆくホームを、雪に強いペンギンらは腹ばいでスイスイ滑っていく。
シンシンと降り積もるなか、二匹は雪上家である駅員室にて夜を過ごす。
一方は寂しくなんかねぇぞと笑い酒を飲み、一方は今年の冬こそかまくらを作って過ごしたいと、懸命に鳴いているらしい。
風邪
2024/12/17 18:49:15
冥王星が「風邪」をひいて軌道がおかしくなったから、太陽系から仲間はずれになってしまった。
こんなもの、ほんの数日のものだ。病気が治れば元通りになる。
しばらく経って、太陽系に戻ってみるが、状況は戻らない。
どうやら冥王星がそれに属する基準を決めているのは総意ではなく、一つの星の意見。それも星に住んでいる生物の、一種族のみであると知った。
なんてちっぽけなんだろう。そう思ったけれども、それを知ったところで冥王星は怒らなかった。
その星と冥王星の距離はかけ離れていて、少なくとも雲泥の差の、四万倍は離れている。
それを踏まえて彼らを見ると、仲間はずれにされていないと知った。一つの星が、この太陽系の長を……裸の大将になっているのだ。
それなら、気に留める必要なんかないか。
冥王星は、他とは違う自分の軌道に誇りを持ち、彼らから離れた。そして数万光年かけて他の銀河系に属する惑星と合流し、同様に回ることにした。
集団に属す・属さないとは、たぶんこのようなものだ。
カロン、ケルベロス、ヒドラなど、自身に付き従う衛星のほうがよっぽど大事だ。
とりとめのない話
2024/12/18 18:48:12
とりとめのない話をしよう。
ついさっき仕入れたもので恐縮だが、僕は夜の電車内で通勤電車に揉まれていた。
もう冬だ。昼と夜の寒暖差もそこまで感じない冬だ。
見渡すと、だいたいの人がもっふりとしたコートを着込んでいる。
手袋をしている人は少なめ。
まあ、スマホをいじくりまくってるから、弊害にしかならないだろうな。
もちろんマフラーをする人もある程度は……と目を向けると、ある人の首元に視線が絡まった。
たぶんマフラーをしていたと思うのだが、そのねじりの布に絡まるように、「とあるもの」が飛び出ていた。
ほら、なんというんだ?
服の値札とかについている、透明で細いチューブの、「くりん」と曲がったプラスチックの。
それを見つけた。
僕はなんというか、もしかして新品のマフラーなのか。と思った。アレが単体で絡まることなんてありえないから、もしかしてマフラーの中に値札が?
いや、でも……
その人の年齢は高齢に片足突っ込んでいるようなもんだ。視線が絡まると思考も絡まってしまう。
新種のキノコから生えた新種の菌糸でも見つけた気分になった。
その人は、次の駅で降りていった。
特に気づく様子もなく、そして声を掛けるものもいない。遠ざかる謎……、男性。
見間違い、なのかなぁ……。
冬は一緒に
2024/12/19 18:33:56
約1500文字
冬は一緒に、清廉潔白な湖に飛び込む。
ダイブ……、モノの重力法則に従って、水深数メートル沈んだのちに、モノのなかに込めた冬は、一気にその力を発揮した。
生まれたばかりの赤子が元気な産声をあげるようだった。
1000万分の1に圧縮され、金属製の特別な殻の内側に凝縮された。
化学兵器だった。量産などできない。一発限りだ。
核の炎の冷気バージョンと言ったほうがよかった。
この世界において、最恐を誇る、唯一無二の、質の高い冷気。
広がる。瞬刻的に世界を、瞬く間に冬にしていく……
兵器は空から落とされたが、詳細な説明はされなかったであろう。
上層部に使い捨てられた一兵卒たちは、飛空艇ごと産声をあげたばかりの冬に飲み込まれた。
世界を包んでいた蒼穹の空は、色はさらに青くなり、濃くなる。円球に、拡散する。
|怜悧《れいり》たる鋭利な空気圧で、一部のオゾン層が破片のごとく、宇宙へと弾け飛んだ。
兵器が落とされた湖……。
かつてその湖は、龍が棲んでいたという。
一人の少女と凶暴な赤い龍。やがて少女は龍の怒りを鎮めたとし、後世に至るまでに神格化されていった。
歴史を紐解けば分かるが、その少女は湖を棲家とする龍の生贄だったという。その伝承すら軽く吹き飛ぶように、跡形もない雪原にした。
「……ほ、本当に、これでよかったのですか?」
愚鈍な上層部は、宇宙船の窓から戦果を確認していた。
あまりの暴虐さの目撃者になって、絶句だ。
部下の一人が代表するように、確認の意を表してしまった。
上層部の権力者は、違う。
その言葉は通り過ぎた。
しかし、長すぎるが時間的にはあっという間の沈黙の末に「……素晴らしい」と小さく呟いた。
そして、まくし立てた。
「素晴らしい! 何という力だ! これが、これが神のチカラ……。最高だ!」
自軍の化学兵器の味に酔いしれたようである。
「これをあと二つ、いや三つだ! 三つ作れば……、クックックッ、この星は、わが国の掌の上……!」
一つ作るのに100年を要している。
何千万もの人間の寿命を生贄に捧げて、天候を操るほどの致死量の解き放つ。一体、どれくらいの生命を|無下《むげ》に扱っただろう。動物、植物、人間。文化、伝承……
着地点をその湖にしたのも、すでに述べた通りである。単なる|験担《げんかつ》ぎであるが、上層部の頂点にまで上り詰めた権力者にとっては重要だった。
権力者は人間である。それも不死性を獲得した、愚かなる老人……。
ある種、人間らしいと言える。
宇宙船を作り、空を突き抜け宇宙へたどり着き浮遊する。すると神視点となって世界に限界があると知った。
視界一面に見える、すべてのものをすべて手に入れたい。手に入れようとする。
しかし、人間とは神のように「|UNIQUE《ユニーク》」を作ることができない。万に一つとして、彼は愚かだったが物言わぬ被害者意識がそうさせたのか。復讐心に|滾《たぎ》る一人が近くに現れてしまう。
同じ場所、同じ時間、同じ種族。
自分の作りし科学兵器「冬」を目撃してしまった天才科学者である。
すぐさま軍を抜け、対抗するように科学兵器「夏」を作った。込める様態は真逆だが、構想と技術はほぼ同種。100年かかるところを10年で作り終えた。
そして、夏を解き放ったのである。
彼が抜けたことで、二発目の「冬」が作れなかったこともあろう。
「冬」は、10年天下の後に「夏」の|燎原《りょうげん》の、|瞋恚《しんい》の|炎《ほむら》を許し、宇宙の一部を炙った。
愚かな決断をした宇宙船を破壊せず、わざと鉄窯を蒸して、中にいる愚かな老人を干からびさせたのだ。
「これで、良いだろう」
科学者は天才であったが、心が真っ黒に塗りつぶされたため、この星を破壊した。
復讐は終わった。
燃え盛る夏と凍てつく冬。
どちらも見える山の懐を死に場所に選んだ。人間らしい理由である。
自転するが、一回転。
倒れるように息を引き取る。
この世に、天国と、地獄が、あるなら……、俺はどちらに逝くのだろう……。
その時、龍は現れた。
背中に少女を乗せた、赤い龍が。
寂しさ
2024/12/20 18:42:13
寂しさを紛らわすために、僕はぬいぐるみを抱くことにしている。体長は130センチ。身体はふかふかで構成されている。
夜眠れない時、どうしてか眠剤が効かなかった時は、「眠れないよ〜」と抱きしめると、うとうとするように目がまどろんで、いつの間にか朝になる。
生息地がオフトゥンにいるから、休日の朝は、やけに弱い。あっ、今日は早起きしなくていい日だ。二度寝しよう。むぎゅう。
とした時にはすでに遅し。
完全に昼を回っている時間にタイムスリップ。
これを睡眠負債といって……などと、簡単に時間を奪ってくれる怠惰の神ならぬタイダリストなのだが、平日の睡眠不足を補ってくれるありがたい存在なのだと愛でている。
もう一眠りしよ、と軽く腕を預けると三度寝。
もう夕方に近い午後3時である。
流石にヤバいと思って、お引越しを頑張ることにした。
この太ったアザラシを隣の部屋に引っ越すことが、怠惰から逃れる術なのだ。
そうしたら全然眠くない。
大空
2024/12/22 15:40:58
大空から逃げるように、暗い洞窟の奥へと入っていった。
闇に生きる者は、先祖代々から日向を歩くことを禁じられてきた。
夜間のみ、自由に出歩くことができる。
陽光で地表温度が上がってくると、陰から陰へ、飛び移る事ができなくなる。
大空はいいな、と思うことがある。
しかし、憧れても大空を飛ぶことはできない。
アリの巣を作るアリのように生きろ。それが闇に生きる者たちの、宿命なのであった。
長旅の末の洞窟の奥。そこに用があった。
寝静まった団欒の隣、息を潜める寝室の闖入者のような孤独感だった。
実際孤独だった。一人旅だった。
この夜に生きるための単独、霊峰の空気の籠もる洞窟には魔物の気配はなく、奇声をあげて去るコウモリの大群が生々しい。
頭の中の暗記した道順通りに、いくつもの分岐をくぐり抜ける。マトリョーシカみたいなものだ。
洞窟の口は、徐々に縮こまるように小さくなる。
やがて最奥にたどり着いた。
最後まで道順が当たっているか不明だったが、すべて当たっていたようである。
「ここが、魔王の棲む……ダンジョン」
闇に生きる者の目的地は、地下深くにあるダンジョンだった。その目の前には、先ほど元気よくおさんぽをしていたミミックが、日向ぼっこならぬ日陰ぼっこをしていた。
ミミックはその者の存在に気づいた。
しかし、戦闘にならなかった。
ガッチャン、ガッチャン、と中身を揺らしながら近づいた。闇に生きる者は逃げようともしなかった。もう限界だからである。
何か感じたのだろう、同族の香りを。
ミミックは、自分の箱の蓋をパッカリと開いて、食べ物を見せる。
闇に生きる者は怪訝そうに迷い、手を伸ばす。
噛みつく気配もなく、そうして新鮮なパンを手に入れた。泣いた。ひと口。泣いた。ふた口三口。
それがこの世で生まれて初めて触れた、無償のやさしさであった。
(まだ取っていいよ?)
ミミックは満腹になるまで口を見せたままでいた。
ゆずの香り
2024/12/23 18:34:58
ゆずの香りが凝縮された内風呂から、開放的な露天風呂へ通じるドアを開く。外へ出ると柑橘系の香気の密度が一気に拡散する。
裸足で駆けていた子供は、はぁ、と一気に息を吐き出した。
初恋の人の香りがする、と母親は頬を染めていた。
気づけば振り返る、そんな甘い香りがする、と父親は呟いていた。
初体験の香りだった。
そんなに良い香りだろうか? どちらも鼻がバカになっている、と子供は|誹《そし》りの顔をしていた。
父親の仕事場の保養地だった。
静岡県内。どちらかといえば、西日本寄り。
景色は富士山に嫌われている。こんなところ、熊でも寄り付かないと子供は思った。
経緯はよく知らないが、抽選で当たったらしい。
応募者多数で、抽選となります。
いわば宝くじのようなものだ。で、当たった。
運が良いな、いつもより安く泊まれるぞ――と父親は家族を連れて、三日ほどこの地で馴れぬ宿泊客をやっていた。
内風呂は、ゆずの香りで満たされていた。
大浴場の風呂に、いくつもの大玉のゆずがふよふよ浮かんでいた。いつから浮かんでいるのだろう、ソフトクリームのように、形を保てず溶けるのは時間の問題。
源泉かけ流しというから、そっちをメインに置いているかと思ったが、どうやら果物の匂いで誤魔化している。
すんすんと幾度か鼻腔を動かし、子供は眉をへの字にして鼻を摘む。
立ち込める水蒸気が、その匂いが具現化したみたいな。オレンジ色の毒ガス。
それで数メートルを、足を滑らす覚悟で小走りになって露天風呂に逃げ込んだのだ。
身体にまとわりついた胡散臭い匂いを、外の露天風呂で流すことにした。
子供はまだ未成年だったので、一人で風呂に行けなかった。絶賛反抗期に突入しているが、完全に拒否できるだけの勇気は持ち合わせていなかった。
いやいやながら、脱衣場まで一緒だった。
そこから先は、興味に先導されて駆け出したので、親は行方不明に。
香りの害と書いて、「香害」と言う。
そのことについて、頭の中の|脳漿《のうしょう》に浮かんできた。
これはスメハラみたいなもので、いくら香りの良いものを身体に纏わりつかせても、浴びるようにしたら周りに害が及ぶというものだ。
好きな人、嫌いな人。それは嗅がないと分からない。濃度もあるだろう。湿度も関係してくる。それが初恋の人なら思い出補正が入る。
香りは、微かな方が良い。
子供の敏感な鼻は客離れし、逆に大人の鈍感な鼻はリピーターになる。
年末になりゆく休日気分に浸る露天風呂。
身体を温めることにして、十分以上が経過した。
親は、まだ来ない。ゆずに絡まっているのか、湯けむり事件に巻き込まれているのか、人魚に魅了されているのか。
建物の壁を見やった。
そこには白い壁と、時計と、曇った窓が。
大きな窓の向こうには内風呂が見え隠れし、湯船の表面が見える。かけ流しの余波を受ける黄色い物体は、うようよと動いていて、そこに身体を沈める人たちが何人かいる。
誰が誰で、何者なのか分からない。けれど、子供以外の年上の人たちばかりだった。きっと、柑橘系の香りで長旅の疲れが取れると思っている。
子供は一人顔を歪ませた。
親の行方は、ゆずに尋ねるしかないのか、と。
プレゼント
2024/12/24 18:54:29
プレゼントの箱の赤い紐を紐解くと、その中には恋人が入っていた。
「メリー・クリスマス! プレゼントは私自身だよ」
と、ろくに着ないサンタコスのふしだらな姿でデコレーションされた、未成年の女子が笑顔を見せていた。
今夜はクリスマスイブ。男を喜ばせるために準備万端だ。
しかし、不運なことに、プレゼントの蓋を開けた男性は複数人いた。複数人が居合わせた。
「……いやちょっと待てよ」
男の一人が異を唱えた。
「俺の恋人をこんなにしたのはどこのどいつだ。ええおい」と。
恋人ヅラをしているが、これでもこの女子の恋人である。正直頭のレベルは低い方である。工業高校卒業後、将来の夢は行方をくらませた。
金髪にピアス。今年の夏に目一杯焦がした肌が、周囲を睨みつける。部屋の中でも黒いサングラスを掛けている。
たぶん女の子の遊び方も一人では無理だ。きっと浮気している。そうに違いない。
「一人でやったんだろ」
そう心のなかで分析をしている男の一人が、金髪の恋人に言葉を返した。
「ったく、姉はバカだからさ。ネットの浅い知識で、自分自身を……ってとこだろ」
「いいや! それは違う」
ガングロな金髪は恋人面のまま言った。弟はこれを露骨に睨んでみせた。姉の年齢より5歳ほど年下だが、思いは強い。シスコンだからである。
「だったら誰がこれの蓋を閉めたんだ」
「それは姉だろ」
「話は最後まで聞けよ。……誰が赤い紐を結んだんだって言ってるんだよ。一人でこんなかに入るなら、別の誰かが蓋をして、紐を結ばなきゃ無理だ」
「そうですね」
もう一人が相槌を打った。
「そうじゃなければ、紐を解く必要はありませんから」
この男は姉の幼馴染である。
腐れ縁だと姉は言っていた。もうずっと脈なしだと分かっているはずだが、その事実を認められないでいる。
黒髪の反対は金髪なのだろうか、その髪は当然のように黒い。
鉛筆、シャーペン、ボールペン。受験の色がこびりつく。
自分は高学歴であるのに、こんな、こんな……低学歴に|靡《なび》くなんて、と思っているに違いない。
青いメガネを掛けており、真面目な大学生活を送っているらしい。酒は避けるように遠慮している気がした。
「こんなかに犯人がいるはずだ! 誰だ、誰がやった!?」
「俺じゃないよ」
「私もだ、誰がやった? 誰の差し金だ。小学生以来の幼馴染のこんな姿、もう見たくない!」
「おいしれっと付き合い年数でマウント取ってんじゃねー! たまたま隣同士だっただけだろーが」
「うるさい、幼稚園の頃のファーストキスは私だけのものだ」
「どうせ間接キスとかそういうやつだろ。そんなの、家ではしょっちゅうだ」
「酒の飲めねえ子供は黙ってろ!」
「なんだと⁉」
(あ、あれ……?)
サンタ姿の女の子は、雑言飛び交う部屋の隅で一人取り残されていた。
実はこのアイデアの発案者は、本人ではない。
女の子が夜間、居酒屋バイトをしている人が立案した。彼女はプレゼントの中身が決められず、どうしようかと思って、コソッと相談していたのである。
ちなみにそのバイト仲間は男性だった。
だからこんなカオスとなっている。彼女とバイト仲間が|咄嗟《とっさ》に考えた代物だ。
彼女は秘密を背負っていた。ここに恋人警察がいたら現行犯逮捕である。
それはバレてはならないと心得ている。
何としてでも自白だけはしたくない。
でもどう逃げようか……発案者でないから、リアルタイムで考えあぐねている。
クリスマス系お題その1
クリスマスが嫌だという気分が出てしまいました。
クリスマスプレゼントは、爆発しろ!
イブの夜、クリスマスの過ごし方
2024/12/25 1:04:24
イブの夜。
普通に仕事してました。逆に休日なんてある?
そんなわけで、仕事から退却した私ですが、途中の乗り換え駅にて、ケーキ屋の前を通り過ぎました。
いつもはただのケーキ専門店だなぁ、隣のNewDaysのほうが客が多いまであるぞ。
くらいの認識でしかありませんが、この日は列ができるほど大盛況でした。
よく見る手持ちの看板を持って、「最後尾はこちらです」みたいなことをしちゃって。
私はそんな列には目もくれず、おうちに帰りました。
ちなみに次の日であるクリスマスもそのケーキ屋の前を通り過ぎましたが、全然客がいませんでした。
なんでだよ、本番だろ?
と思いましたが、よく考えてみるとケーキの消費期限は短いとは言え数日持つのでした。
ふむ、ケーキは事前に買っといて、当日は家でイチャイチャと……書くと寂しくなるのでここらで勘弁。
---
2024/12/26 0:35:38
クリスマスの過ごし方。
いつも通りです。
とは言え、東海道線が止まったらしい。
東戸塚あたりで沿線火災だと。
朝にも人身事故が起こったらしくて、クリスマスで人身事故ねぇ……などとちょっと考えてしまった。
数分間の思索の末、単純な答えにたどり着きました。
神はいるかもしれないが、神に誕生日はありません。祝われる資格なし。
変わらないものはない
2024/12/27 9:08:11
変わらないものはない。
そう断言されると、変わらないものを探してみたくなる。
十歩ほどの歩行速度時間で、「変わらないものはない」というのが変わらない、くらいしか見当たらない。
これは変わらないものを答えた気になっていて答えてない。冬のなかに雪が見つからなかったので、冷蔵庫で製氷したようなはぐらかしだから、やはり変わらないものはないと断言してしまっても良い。
視界にあるものは日々刻々と変化している。
モノの最小単位は、原子・分子なので、これが微動として動かないというわけには行かない。
しかし、この微細な変化は、肉眼で判別できないレベルは無視してしまっても構わない。
この「無視」の度合いによって、人は、「変わるもの」「変わらないもの」を区別していると言える。
これは、時間単位が永遠かどうかでも関連してくると思う。ひと一人の人生についてか、人全体のみならずこの星について考えるまで引き延ばしていくとややこしくなる。
やはり時間は延ばしちゃいけない。500年後の未来なんて、僕らには関係のない話なのだ。
そもそも、僕らが目撃する(あるいは見えないが目撃しているはずの)変わるものを追いかけ続けることは多分に疲れるし、どこかで無理が生じる。
人生とは休息が必要だ。そのために変わらないものを見てぼーっとすることで安堵を会得している。
繰り返し訪れるモノに対しても「変わらないもの」と人は認識しているが、それは何度も来る規則正しいことに関してであって、本質は刻一刻と変わっている。
変わらないものは多数の奇跡と多数の時間、多数の犠牲の中で存在意義を発揮している。
……まあ、この考え方は真逆もあるけど。
秋冬は毎年訪れるが、毎年変わっている。
秋冬は毎年訪れることは約束されてないが、人は来るだろうと思い込んでいる。
どう書いたら良いかわからないが、まずは「|正答《=》」を理解して、「|類似《≒》」たちを見て、「|正しい《=》」(=)かどうか判断する。そういう回りくどい遊びをしたい生き物なのだろう。
そんなもの、前提条件によって答えの導き方が違ってくる。愚かな生き物だ。
手ぶくろ
2024/12/28 18:09:21
手ぶくろ。
毎年どこかに行く奴。
まだ使ってないヤツ。
だって、スマホいじりたいんだもの。
そんな感じで、手ぶくろとかいうものを使わない年が増えている私。
でも去年コンビニの手ぶくろを買ったんだけど、いい感じだったよ。
5年くらい前のやつは、「手ぶくろしててもスマホいじれます! 指先の素材が色が違って通電できます!」
みたいなこと言っておいて、全然反応しなくて結局手ぶくろ外して操作して……みたいなことになってた。
最近はそんな面倒なことをしなくてもよくなったので、時代の進歩が感じられて良い。そんな去年買った手ぶくろは、どこかに消え失せました。また買わなきゃってやってるから、毎年手ぶくろの品質を確かめてるセルフの人になっている。
お題とは関係ないが、昨日(12/27)で仕事納めでして。
本来だったら12/29までですんで、ナイス土日! と土日を褒めたいと思います。
みかん食べよう夜の会に参加します。センキュー。
冬休み
2024/12/29 18:32:37
冬休み。
年末年始のお休みで、オウチでぬくっていると、玄関のチャイムが鳴った。
時間指定していたヤマトが来た。夜18時~20時。
お名前と住所を確認して、小さい荷物を受け取ると、すぐに引き返す足音がする。
玄関扉が閉まるまでの一秒足らずの一瞬で、年末の宅急便の忙しさが手に取るようにわかった。
休みを特権とせず、このような寒い夜でも働いている人に何らかの思いを馳せて、この文章を書いている。でも、エアコンの効いた暖房のお部屋のなかに戻れば、やっぱりみかんを食べちゃえ、ってなる。
冷たい熱帯魚みたいなもんだよな俺らって。
みかん
2024/12/30 18:11:05
みかんがおいしい季節になっている。
皮が薄いほうが良い。
小さい方が味がまとまっていておいしい。
三ケ日の早生みかんは今月の上旬辺りから微妙となっており、もはや早生みかんの季節ではない。
全然頭がまとまらないが、年末なんだからと言い訳つけて、ぼんやりしていたい晦日。
一年を振り返る
2024/12/31 18:41:20
1年間を振り返る。
去年の今頃は、契約社員からの正社員登用で、筆記試験やら面接やらが終わって合否が出た頃だ。
来年からは正社員か。
と実感がわかない。休んだ心持ちがない。
ミカンを食べても甘さが感じられない。みかんジュースを飲んでいるようだ。そんな、慌ただしい年末年始だった。
大学卒業後、
バイト歴がX年。
ニート歴が1.5年、
社会復帰に1.5年、
契約社員に2.0年。費やした。
そして正社員登用を経て、今年正社員1年が経過した。
冬季のボーナスで、まともな金額を見ると、誰かの言い方を借りれば努力が報われたような感じがした。
このアプリを始めたのは、2024.7月頃。半年前のことだ。
当時はお題に飢えていた。毎日書くことができずにいた。
それはそうだ。社会人とはそういうものだ。
そんな固定観念に惑わされていた。
社会人特有の雰囲気や忙しさを感じて、まとまった時間が取れずにいた。
スキマ時間が隙間風に吹かれると寂しさが増すように、無駄な時間として切り詰められると途端に心のどこかが薄ら寒くなる。熱を持った何かを失うのが怖かった。
小説や文章というものは、数日かけて書くものだ、という固定観念を破壊してくれた。
毎日ひとつお題が提示される。
それって結構助かるものだと思った。
考えて、ネタを出すのが、まず手のかかる。
自分で書くものを見つけようとする。
すると、視界に限られる範囲内だったり、何か考えたあとの思考の断片をかき集めた何かだったりと、既成事実に囚われない事柄を書けない。
書けないと苦しい。どうして? そういう人なのだと思う。喉が渇いている人。
書くタイミングは、いつも会社帰りの通勤電車だった。
おそらくこのアプリを知らなかったときは、いつもの電車に乗り、いつも変わらない夜の車窓を見、色のないモブキャラたちが押し込められた不快な空間のように見えていた。
でも、毎日書くにつれて、この人物たちが実はモブじゃなくて自分と同じような生物なのだ、と輪郭がはっきりした……ような気がした。
当たり前のことが分散されて再構築された。
生きている透明に包まれて、見えないものを見ようとする。そんなことはできないけれど、それでも、今まで信じてきた当たり前が当たり前なのかと疑問符を投げ、裁断し、本質の一部を削った微細な粉のような見えない何かを手に入れたい。
と、心のなかで定義するようになった。
2024/12/31。=令和六年。
あと六時間で今年が終わるけれど、来年もまた何かあるはずだ。それに備えて、この見えない粉のような何かと格闘したい。
見えないけど掴み取ったこの色は多分、金粉や銀粉なのだ。
良いお年を
2024/12/31 22:31:58
良いお年を。
2024って、テンキーで打った時、結構軽やかだったんだけど、2025になるとどうかな〜。
2025……おっ、意外と軽やか。なら大丈夫かも。
と、来年のことをいうと鬼が笑うので、良いお年を。
新年
2025/1/2 17:25:08
新年、あけましておめでとうございます~。
本年度はヘビ年ということで、Twitterを見るとシラウオのような白いヘビがウニャウニャとイラスト音頭をとっていたり、去年は辰年でありましたから、実はその辰ってヘビの着ぐるみ姿だったのだ〜、というネタバレ感満載の風味を味わっておりました。
新年にいうべきではないかもしれませんが、本年度初めてやったことは、TVerで新春スペシャルをダラダラと見つつ、去年までのメモをまとめていました。
ストーリープロッターというアプリがありまして、それが全部で1300個のメモがあったので、よくわからないのですが、それを一覧表にして見やすくしておこうとしましたところ、軽く挫折経験を味わうという、もうМじゃんそれ的な感じになりました。
でも1000は下回ったので、お休みなさいってしたいと思います。
今年の抱負
2025/1/3 14:06:20
今年の抱負。
とりあえず七月まではこのアプリのお題と向き合います。
で、七月でお題が一周、僕は一周年と成りますので、このアプリをすっぱりやめて、エタりかけの長編に向き合いたいと思います。
うおおーっ! 1年続いたぞぉぉー!
という達成感と喜びを胸に、1〜2カ月音信不通になるというご褒美が待っているわけです。
そういえば、アプリを削除したら、書いたやつって消えるんですかね。よく分かりません。
まあでもここで書いたやつは短編カフェとかいう小説サイトにコツコツ転載しているので、別にいいかという感じです。
シリーズとしてぶっ込んでるんですけど、1シリーズにつき100編入れられるんですけど、毎日こなしたと仮定したら、3シリーズ+65編という風になって、切りよく4シリーズにするためにはあと35編、余分に書く必要があるなぁなんて思ってるわけなんです。
思えば、このアプリのお題は、小説三割エッセイ五割その他二割の取り組みでした。
まあ、毎回のように小説を書くなんて土台無理な話でした。
半年経ったようですが、半年って長いよね〜。
お題サイトは他にも異様にあるんですが、毎日決まった時間になると出してくれるのって、ここくらいしかないから、どうしようかなぁなんて思っている正月です。
初めて書いたお題は「神様だけが知っている」だったので、神で始まり神で終わる、そんな神様に会いたい! という抱負です。
日の出
2025/1/4 15:16:02
日の出の煮溶けたコーンクリームスープをいただく。
富士山の八合目あたりにある小屋で暖を取っている。
ドアを開ければ、山の雪化粧。マイナス何十℃の凍てつく息が頂部周辺を鋭く見廻りしている。
天然の化粧水も、この温度にはたまらず凍結せざるをえない。それのせいで、岩肌はアイスバーンになっており、数年前には滑落崖から滑って下山して肉体が大根おろしのようになった哀れな犠牲者が出てしまった。
それでも新年の登山客はご来光を見に、この小屋で宿泊をする。大半の者たちは夜明け前より小屋を出発して、すでにいない。
元旦から数日。それでも人は来る。数日経ってもめでたい正月だからだ。
賀正の、自然の静けさ。
日が昇り切る頃には登山客が戻って下山客になる。日の出がそうさせたように、目的意識がガラリと変わる。それがなんか、不思議だと思う。
それまでに味わうこの自家製の黄色いスープは、作った本人である主人からしても、そうでなくても、たまらなく美味しい味だ。
喉の奥と舌が鳴る。銀のスプーンが沈み、掬い取る。
そこに眠るは日の出の溶けた色。
幸せとは
2025/1/5 15:35:10
幸せとは。
世間的にはまとまった時間のことを指しているかもしれないが、きっと、人生における一瞬の隙である。
この隙について、高効率な人生をしようとすると、多分「ムダ」だと考えてしまって、急峻な山々を巡る修行僧になってしまう。
過酷な山を登るために、スマホやタブレットを持っていくのか? しないだろう。山にコンセントがあるわけがないから。せいぜい数日で荷物になってしまう。
だから荷物は、サバイバルゲームのように味気ないものになっていく。そういう感じだ。
場所を移さないと幸せは感じない。
という風に、誰かが定義した幸せからは逃れたい。
身体は拘束されようが、頭の中は自由。
そんな消し残しの多いホワイトボードで書かれた数式……それも途中式を見るような退屈な時間より、僕は窓際の席に座らなくとも、窓の向こう側の世界を頭の中で思い浮かべる事ができる。
仕事スペースで飲むコーヒーより、喫茶店で味わうコーヒーのほうが何倍も美味しい。ただそれだけ。
書くことがないので余談。適当に備忘録を残したい。
今読んでる本は、一度読むのを断念して積読した山から引っ張り出してきたものだ。今再読している。
読み始めて五ページもしないところで、「慌ただしく過ぎていく毎日を意識しなければ、忘却の海に消えていく。死んだように生きることになる」と書いてあった。
前の自分は、多分素通りした言葉だったが、今はガツン!と心に響いた。
死んだように生きるとは「傍観者」のように生きる、ということだ、とも書いてあった。
過去の自分と今の自分は別視点に立っている。
これを成長と呼ぶ。と書いてあった。
これが成長……年齢による成長……。
……と読んでるときは思った。
でも、そうポンポンと成長するかなぁ、オカシイ!
とあとで思ったりする。
株価みたいな乱高下の激しいグラフだと、個人的主観の僕は思う。共感力が高い。人の意見に流されやすい。
それが長所であり短所であり、ひと回りしてどちらでもいいや、ってなった。疑問を思いつきやすい人生観である。備忘録失礼。
冬晴れ
2025/1/6 16:09:29
貴重な冬晴れに恵まれて、深々と降り積もる積雪量に待ったをかけた。
南アルプスのように、標高を白く着飾った自然の恵みたちは、久々に日光を浴びてどう思っただろう。
凍えゆく声無き声を発していたのか、悠然の等閑さに身を任せて身体を揺らす寸前だったか。
ペンギンと小アザラシは、久々に外の冬景色を探訪することにした。
きゅうー、と鳴き声とともに小アザラシが先導していて、その後に、ペタン、ペタンと黄色いカエデのような形をした足跡を、新雪に付けていく。
雪の妖精のように小アザラシは生き生きとしていて、冬の寒さなど感じている様子はない。そのままの姿でいる。一方ペンギンは、職務をする必要はないのに正装であると言っているような感じで、車掌帽に紺色の制服を着用していた。
二人が向かうのは洞窟だった。
特に行く宛もないが、久々の良い天気に恵まれた。
雪解け水の流れる小川を眺めていても良いだろうと天が言っている。二人以外誰もいない地域で、地域おこしでもするように新雪の感触を確かめたい、というのもあるかもしれない。
小アザラシは、ずるずると雪の上を這って進んで一本筋の太めなラインを描いている。スピードは玄関から出てきたときの子供。親代わりのペンギンは、途中まで並走していたが、足跡は分かれた。
ペンギンの足跡は、本来の道に沿って歩いているようだ。洞窟に向かうための道のり。
一方、小アザラシは大胆なショートカットをしている。
期間限定イベント。俯瞰してみればきっと、たこ焼きのように膨らんだコブの根元付近にあるくびれを突っ切っている。
本来この場所には清冽な湖があった気がした。
かつてはホタルがいた。数年前は小魚が暮らしていた。半年前は沼だ。
今は清濁併せ呑むような新雪が時代を凍らせている。
雪の下は氷だろう。その過程を、多分小アザラシは知らない。
「きゅー、きゅー」
「わかってる。待ってろ」
小アザラシは一足先に洞窟の入口に着いたようだ。
短いヒレを振り、ペンギンを待っている。
ペンギンは、ゆっくりとした足取りで楕円を描き、合流した。
冬の夕方は無いようなものだ。
日没前の帰り。
2人組は一緒に湖のショートカットをした。
無論、腹ばいで。
君と一緒に
2025/1/7 18:54:38
君と一緒に現実逃避の夜闇へ。
そうやって無計画に駆け出したから、今の自分は病院で長くリハビリする結果になっている。
遅くなったけど、君に伝えたいことがある。
とは言っても、心のなかは複雑だ。
泣きべそをかいていた自分だったら、ありがとう。
決心した後なら、ごめんね。
すべてを知ったときなら、よくもだましてくれたな。
今は……許さない、に近いかな。
あんな高い崖から飛び降りたのだから、五体満足にはいかない。自業自得だと医者には言われたよ。
夜間飛行のマネごとをしたのか? なんて茶化された。
あの頃の僕らは真剣だった。まだ未熟な精神だったけど、それなりに結論づけて、あのようなバカな事をした。その結果、二人から一人になったわけだけど。
……ここまで歩くまで、それなりの時間を要した。
2年。それでもこのざまさ。
身体を引きずるような感じで、いつまで経っても全盛期になってくれない。
この崖――君と一緒に飛び降りた所だ。
2年経っても、変わらないな。
思えば、抱きしめるような姿勢がバカだったみたいだ。
恋人でないのに恋人のマネごとをして。瞬間的シックスセンスで、最後に添い遂げようとでも思ったんだろうって。
どうやらクルンと一回転半でもして、僕が上になったようだ。それで君が最初に激突して、クッションみたいになって……これ以上はよそう。頭が痛くなってきた。
足を引きずってここまで来たわけなんだけど、これからもリハビリを続けるよ。本音を言えば、今すぐにでも君の後を……と言う意思でここに来たんだけどね。
もう一度いうが、君のことは許さない。
こんな身体にしたのに、先に逝って、無責任だ。
でも、どうやら君は飛び降りる前に救急車を呼んだそうだな。入院生活のときに警察が来て、君のスマホの履歴情報を調べていたよ。それで発覚した。
遺書を残さないって言ったよな。どうしてと僕が聞いても、理由を話さなかった。その理由、ずっと考えている。よくもだましてくれたな、から、許さないに変わるまで考えた。
遺書を残すくらいなら、代わりにこれを、と僕は解釈した。
だから、君のことは許さない。
それ以上に僕のことが許せないから。
追い風に乗って
2025/1/8 18:31:37
追い風に乗って、夜の海で船旅をしていた。
舳先にランタンでも付けているかのように、一隻の小さな小舟は漂っている。周辺は明るい気でいる。
見上げれば、月が。
小舟の正体は、三日月でもある。
漕ぐ。
くたびれた木製のオールで、濡れた夜の一部を削る。
海の奥深さに比べたら何百年分の一瞬なのに、想像通りに重く、そして動かない。
費用対効果。めっちゃ低くて叶わない。それで「老人と海」のように、強敵に出逢ったら死角でこの舟は大破。漂流することになるだろう。
危険を想像したら危険が囁いてくる。
体力を使うな。
違うと首を振った。
それでも漕ぐ、漕ぐ……漕ぐしかないんだ。
月は優雅だが、一方地上は向かい風に転じている。
遠くに島影が見える。
あれが島か本土か分かるのは、夜が明けたら。
今は深き絶望とともに、海域の影のなかにゐる。
Ring、Ring…
2025/1/9 16:01:40
Ring Ring…
変わったお題だが、電話の音だろう。
しかし、今の電話の音は華やかな曲の一部となっており、昔のようにリンリンとなんて言わなくなった。
昔は、電話の音に関して英語のように聞こえていたのだろう。
今は、多様性がどうたらといって、「Ring Ring…」の読み方は多数あれど、正式名称は皆ど忘れしたようになっている。日本人が英語をしゃべれないでいる要因だ。
星のかけら
2025/1/10 18:35:48
星のかけら。
世にも珍しい、星のかけらを運搬するワイバーンに興味があった。
背に乗りたい。
星のかけらに紛れて、どこへ行こうとするのか知りたいと考えた。
星のかけらを運ぶのだから、きっと図体は大きいだろう。人ひとり乗せたところでバレっこない。
そういう想像をして、星のかけらの集まる通称「星屑の砂浜」で待ち伏せをした。
半月ほど、じっとしていた。
砂の色と海の色、どちらも夕刻になって太陽の光で飴色になるくらいまで、じっとしていた。
その龍は夜空が広がる方角よりやって来た。
太古の昔より集まる星屑の砂浜に、身体ごと突入させた。タカのように滑空して、地に接するとすぐにモグラになった。
砂糖の山に一匙掬い取るような豪快さ。
誰かの意思で一匙の気分であるワイバーンは、そのまま持ち上げられ、大量の星のかけらを背に抱き、また夜空に羽ばたく。
到着地はきっと新たな星だ。
鷹揚とした背に乗った、星のかけらに溶け込んだ小さな彼は、離島が浮遊するときの重力加速度を感じつつ、不安定さの揺り籠に耐えていた。
飛翔時間中、細やかに星のかけらは落とされていく。宇宙に散らばる星々、そうか、これが夜空が美しい理由なのだ。
ワイバーンによってふるい落とされ、最終的に乗せられた大きな星のかけらを使って、新たな星を作り出しているんだ……。
しかし、興味のあった者にとって、その期待感ほどのものではなかったと到着してから思った。
確かに星を作っていた。
しかし、それはまだ夜空で瞬くような星の形をしておらず、ゴツゴツとした岩の大地が広がっているだけだった。
「うわっ」
突然、ワイバーンは空中で宙返りをした。
それで背に乗る大きな星のかけらとともに、新たな大地に降り立った。
大きな星のかけらは、落とされた衝撃で砂になった。
少年は無事だった。
星砂の砂浜がクッションとなって、高所からの衝撃を緩和したのだ。
ワイバーンは宙返りをした後、飛んでいった。
流れ星みたいに見えて、始まりの神が目にしたものと同質だと魅了された。
未来への鍵、あの夢のつづきを
2025/1/11 18:04:10
**未来への鍵**
未来への鍵はどこかになくした。
それでも未来には行ける。
何もしなくても。立ち止まっていても。
鍵穴は無理に開けなくてもいいんだ。
そう思ったが最後、精神の時の扉に閉じ込められて、ミイラになるまで飢餓に苦しむんだ。
---
**あの夢のつづきを**
2025/1/13 15:54:46
あの夢のつづきを紡ぎたい。
そうやって、どこかへやったプロットを探そうとした。
おでこに貼り付けた幻想不快なノッカーで、頭蓋骨をノックしようとした。
脳内に響き渡る幻音感。
甘い囁き、どら焼きを食べるやわらかい口当たり。なめらかさ。
プロットは見つからなかったが、別にどうでも良いと感じた。意識はそちらに傾きかけていた。
つまり、甘い囁きに傾いて、プロット通りにゆかなくなったのだ。だから、夢は途絶え、夢のつづきを所望するのだろう。
まだ見ぬ世界
2025/1/14 18:15:33
まだ見ぬ景色を見ようとして、下請け企業について調べてみた。
下請け企業も、今じゃ積み重なって下々々々請け企業、数字で言えば第六次下請けまであるんじゃないかとYouTubeの政治家チャンネルが嘯いてた。
本来の日当が4万だったのが、中抜必至の下層下請け会社になる頃には日当2万4千円まで下がるんだと。
そうしたら労働者はバカとバカじゃない奴が生まれてきて、バカじゃない奴は上層下請け企業に(日当の額で)引き抜かれて、下層下請け企業は倒産するか、倒産の延命としてさらに日当と下げて第七次下請け企業ができてバカ労働者をさらにバカにしてるんだと。
このように、まだ見ぬ景色は負の温床が広がるように見たくないものまで見てしまう。
見ないほうが良い時もある。でも見ちゃう。やめられない止まらない。この手がそうさせる。
そっと
2025/1/15 18:21:39
そっとコントローラーを床に置いた。
今まであぐらをかいてゲームをしていた。
猫背矯正の全くしていない性格で、学校もバイトも行っていない。服も何日も洗っていない。よたよたになったパジャマを着ていた。かつてこの服は私服だった。それも高いタイプの。
昔販売していたゲームコントローラーを使っていた。
接続先はPC、昔はテレビに接続していただろう。
FPSゲームというもので、オンライン上でプレイヤーと銃で撃ち合うバトルロイヤル形式。勝ち残り形式。
舞台も荒廃したけれども、どこか人が住んでいたような感じ。稼働はしていないがどこかスチームパンク感の残る工場跡、自然の残る湿地帯、火山、遺跡、町、市街地。
プレイをする時間帯は、夜中が多かった。
これはサーバーの問題だ。このゲームのサーバーは外国にあるため、日本時間にやっても過疎っていて話にならない。
彼は人を殺すためにゲームをしているわけであって、生活習慣病対策のためやストレス発散のためではない。
日々是、鍛錬あるのみである。
目を酷使してまで、じっと身を潜めている。
撃たれたら終わり、撃たれたら……
それで彼は上位まで勝ち残り、ランクポイントを稼ぐ。そのつもりで貴重な2年間を反故にした。
「あー、またダメ……」
ゲーム発売当初は上位ランクの常連になっていた。今はもう、「あの頃は今」だ。プロチームや海外勢による化け物たちの共食い加減が激しすぎて、彼くらいの実力では「喰われて」しまう側なのだ。
今シーズンも難しそうだな。
カレンダーを見て、日付を確認した。カレンダーの上にある時計の針も確認した。時刻はもうくるってるみたいだ。
彼は大学3年生。今は2025/01/15。
就活なんてしたくない、と再びコントローラーを掴む。それで逃避の夜更かしをまたした。
試合結果はマイナスに終わった。ここ数日はずっとその調子……
あなたのもとへ
2025/1/16 9:07:55
「P.S あなたのもとへ勇者が来るようです」
「追伸」の次に書かれた部分を読んで、「またか」と彼は呟いた。
世界平和を望む王国と、裏で牛耳る魔王の城。
城もわかりやすく対比をとっている。
荘厳で宗教然とした風格のある白い城。
それが王国の方だ。
そうくれば、魔王城は闇一色。
一応彼は平和主義者のため、率先して襲った覚えはないが、危険視されている。誰もが近寄ってはならぬという危ない気配を醸し出して、世界に威嚇する。なのに、勇者は懲りずに来る。
元々、魔王である彼は悪役ではなく、ただの一般男性である。ちょっと腕に覚えがある強い人で、創業血族の魔王を滅ぼしたことがある。
討伐後、帰る家がなかったし、ラスボスにしてはゴールドを落とさなかったので、しばらく借りぐらしをしていただけだったのだ。
手紙を書いた送り主は王国の王女様であるが、彼の幼なじみでもあるし、許嫁でも深窓の令嬢でもある。魔王討滅時の古き仲間でもある。そんな旧知の仲なので、こんな風にちょくちょく手紙を書いてくる。
かつては彼のヒモやおサイフでもあった。借金をして保証人にもなってくれたし借金の肩代わりもしてくれた。至れり尽くせりである。
それでちょっと王国に目をつけられている、というのもある、のかな? たぶらかした覚えはないんだけどなぁ、と彼は自分の頬を引っ掻く。
手紙を出されたら出さないといけない。
彼は城の主であるので、素直に書くことにした。
「手紙読みました。今度デートしてください。近い内に誘拐してもいいですか。
P.S 勇者は殺してOKですか。」
返事は秒で来た。
「いいですよ。あなたといるなら、誘拐でも何でも。
P.S 好きにしてください。私も言い寄られることが多くて目障りな存在なのです」
こんな風に、手紙の中だけは彼女も王女様をやめている。普段はおしとやかで、白いレースのドレスを着こなして、優雅に会釈をするタイプなのだが、彼とやり取りする時は「本音」を言ってくれる。
「なら、誘拐ついでに式を挙げるのはどうですか?
魔物の軍勢を引きつれて、国民殺されてる中で君と誓いのキスをしたいです。
P.S 勇者の件が終わったら来ます。勇者の首を手土産にしたい」
返事はすぐに来た。
それでも思案の十秒は反映されている「すぐ」だ。
届いた手紙の文字が震えまくっている。
「――! ほ、本望です! 我が国の臣民なんて、あなたに殺されるために生かされてるだけの生きている価値のない人間ですから、ぜひとも血飛沫の花にしてください
P.S 早く向かわせるように、こちらの方で急かしておきます」
……そろそろ幼なじみをやめてもいいかな。
まだ続けていたのは世界平和のためである。その大義名分がなくなったのなら、同棲したっていいと思っている。
勇者が大量にくるだろうが、愛の力で蹴散らしてやる。
その時は金を落とせよ、今俺は金欠なんだ。と空の見えない外を睨みつける。
透明な涙
2025/1/17 18:14:51
透明な涙を流したのは誰か。
それを解き明かす者が物語を作ったのが「Myth」なのだと思う。
濁った涙ばかりを流している僕ら。
その中の一滴が隠されているのがミステリーであり、ミステリアスなのであり。
その一滴をクロマトグラフィーなどで遠心分離をしようとする。それは透明な涙なのか、透明に近い何かなのか。
いずれにしたって僕ら人間である限り、透明という色はクオリアなのではないかと。つまり精確に視認なんて無理なんだと。不完全なんだと。そう思うべきなんだ、人間は。
風のいたずら
2025/1/18 18:03:36
YouTubeを見ていたら、とある動画に出会った。
それはレースのようなもので、ゲームではない、
実写であり、ミニチュアの世界のなかを走ったように錯覚した。実際はミニ四駆を走らせて撮影したものだ。
ただ、目線はミニ四駆に直接カメラ(|GPRO《ジープロ》)を付けたもので、地面や部屋のなかで縦横無尽に駆け巡ったプラレールのような長い道のりを滑り、走行していく。
スタートがあって、ゴールがある。
エンジンのような動力源は無し。ミニ四駆なのだ。
アップダウン。位置エネルギーと運動エネルギー。その供給と変換の繰り返し。
しかし、それでは坂を登るのは難しい。時折ブースターという、加速を得て上り坂をのぼって高さを稼ぐ。レースゲームに出てくるような、上に乗るとタイヤの回転率をあげる機械がいくつか設置してあった。
車視点の地面すれすれで走行する芝生の敷地内が、いつもより広く見えた。実際広いと思う。単なるベランダの露地栽培から大型の緑地化した公園になったみたい。
撮影者は道楽息子なのだろう。土地はアメリカっぽい。
子供用のビニールプールの水上を走ったり、その周りを走ったり、ブーストを上げて敷地の塀の上を走ったり、脇にそれて高い樹木を回るようなカーブになっていたり。独創性があった。
4分の動画なんて、普通の動画ならあっという間だったが、レースができそうなレールの上を走るミニ四駆は爽快で、風が感じられる。
かたん、かたん。
レールが続いたものだから、つなぎ目で音が鳴る。そこは電車の線路と同感。
四駆で巻き起こった風で、地面に落ちていた落ち葉が舞い上がったほどだ。その1枚が揺らめくスケーターのように踊り、GPROの横をかすめる。風のいたずらで臨場感まで味あわせてくれた。
これを見てたの
https://www.youtube.com/watch?v=D_57wrFBPc0
手のひらの宇宙
2025/1/19 18:02:00
手のひらの宇宙。
どう書きゃいいんだこんなもの。
と、手のひらをじっくり見てみた。
すると、その時の僕は頭がおかしくなっていたのか、手のひらに広がる皺が、惑星の公転の軌道ではないかと思った。
ふざけんじゃねえ、という話なのだが、確かに輪郭はあると思う。かすかに軌道っぽさはあると感じた。
やや曲がっていたり、円周の線分がいくつも散らばっている感じといったほうがいいのか。
手のひらをじっくり見たことはなかったが、意外とよい発見があるものだ。
それらの皺……指関節が動くことでできる溝は、星の公転軌道と一緒で規則正しく、定められた場所にある。
手のひら大の宇宙について書こうかと思ったが、宇宙について考える前に目の前の見ようとしていないものを観察したほうが良いという、そんな気配を持っているお題だと感心した。知らんけど。
ただひとりの君へ
2025/1/20 18:29:47
ただひとりの君へ。
いや、君なんて一人に決まっとるやろがい。
という話なのだが、確かに「君」単体だと代替可能な言葉になると思う。
笑っている君、悲しんでいる君、楽しんでいる君、記憶の中の君……
例を出せば出すほど深まる、モブ感のある「君」。
すなわち代名詞として使われる「君」なのだが。
そういった意味の持つ「君」は、作品内でいくつも使った。登場人物さえ名前で書かず、君は〜、などと済ます。だって、ぽっと出の短編なんだもの。
でも、そういった深みのない内容もない、
面白みもないエグみもない、
マネキンのような空虚な存在で、設定を持たそうともしない、読者が勝手に想像する服装を着込んだ君を主人公に据えることで、枚挙にいとまがない調べを作り出したいだよね、
っていう作者の戯言。
もうちょっと擬人化してやりたいよなぁ、って思ったりした。西洋画みたいに、人でないものを人にする。物語だってそうじゃん、人でないものを人にする。一介のモブを主人公に……
明日に向かって歩く、でも
2025/1/20 22:39:49
明日に向かって歩く、でも
その一歩は毎日続けること。
無理をしないこと。
毎晩休むこと。
松葉杖の人を想像したい。
見えないけれど、両足を挟むように杖はある。杖をつく。
転ばぬ先の杖。
平坦な道なら杖は要らない。
でも、そうじゃない。階段とか、坂道とか、険しい山道とか。
体力を使い切ろうとしないこと。
もしものための杖、かもしれない。
何もしなくても明日は来るけど、何もしない日々がずっと続くことはきっと退屈だと思う。
だから、一歩。大股より歩幅に合わせたほうが、きっと飽きることなく進めそう。
羅針盤
2025/1/22 8:57:55
羅針盤=コンパス
羅針盤(コンパス)だけだと意味をなさない。
羅針盤と地図、これはセットだと思う。
羅針盤はいつも同じ方角を指す。
赤く塗られているところが北。反対は南。
しかし、ずっと北を歩いていればいいという単純なものではない。平坦な世界であればそれができるが、この世界は海があり、山があり。感情の起伏のようにアップダウンがあり。踏切があり、道路があり、未舗装路があり。
ここ、昔はお墓だったんだね。今は立派なホテルだけど。こんな感じに時代の変遷がある。
より歩きやすい道を歩け、という。
確かに羅針盤を持っていれば道には迷りづらくなる。それだけの話であって、目的地に着けるかどうかまでは見通せない。
だから、地図を作らなければならない。
既存は手書きで書いたボロボロの地図だろう。年代物を感じる。彼の持つ地図は、彼よりも長く存在している。いたるところに汚れがあり、手に持つところは特に人間の垢でテカっている。
海だったら海図、山だったら登山図になる。地図は時に応じて使い分けないといけない。
方角通りに進んで、ズレがあったら面舵一杯。
という、そんな単純な訳が無い。
航海士を連れていれば助かる海流の場所、波の荒れ具合、水深、天候などで、海図をみながら方向を決める。あくまで羅針盤は地図の見方を確かめるための道具であるのだ。
なのに、最近の人たちは地図を持たず、羅針盤ばかりを携帯している。北を見て北を歩いている。
時々東へ進んでいると分かると不甲斐なく泣き、また北に歩こうと修正する。
障害物があろうとなかろうと、北に。
山の周りを迂回すれば平坦なのに、山頂を目指しては下山しての繰り返し。
これだと息をするにも大変だ。
なぜ地図を持っていない?
僕は自分の持っている地図に問いかけた。
少し考えてから、地図を持たないのがトレンドになったのだ、堂々と地図を広げることが恥ずかしくなったのだ、と考えた。
最近は羅針盤も持たなくなっている。全部スマホが、人工知能がやってくれると本気で思っている。
だから右往左往している人が増えている。くだらない。
あなたへの贈り物
2025/1/23 18:21:36
「あなたへの贈り物として、転生するチャンスを差し上げます」
「転生、って?」
その人は女神に尋ねた。
「まさか、異世界転生って奴?」
「いいえ。この世界での転生、です」
「まあ、そうだよな」
その人は納得した。
「この世に66億以上もの世界を用意するなんて、バカげてるな。その力があるんなら、この星をもっと改善できただろうし」
「それ、私を貶してます?」
人間は滅相もありませんと土下座をした。
転生するチャンスはキープされた。
頭一つ下げれば許してくれるなんて、やっぱりどうかしてるぜまったく。
「あの、聞こえてますよ心の声」
「いえ、思ってませんとも決して」
「そう即答できるということは、思っていたということになりますよね?」
「あっ」
瞳をとじて
2025/1/24 19:01:07
瞳をとじて目の前の現実を遮断した。
この歳にもなって、逃避を図りたかったからだ。
その人は、とても老いていた。
長年トップの席にいた。
それほどの実力者だったのだ。
かつての若い頃、実績を積み重ねて、年金を受け取る年代になってもなお上層部の席にいた。取締相談役。
人事の決断はその人の気分次第。
履歴書の内容より、4cm5cmの証明写真の移り具合で判断する。なのに……
精神は疲弊して、分裂したがっていた。
現実空間を三分割法。
点の一次元、平面の二次元、立体の三次元。
表と裏。さらに裏。
表の顔がバレて、裏の顔もバレて、この時で以てさらに裏までバレてしまいそうだった。
その、硬いシャッターの役割をしているのが現実逃避だった。
瞳をとじていれば、三次元から二次元を飛ばして一次元に行けるような。意識が柔らかくなるような。まだ空気を入れていない風船が独りでに膨らんでいくような、時間経過。
心地よい、と誤認したかった。
「ずばりお聞きします。御社は倒産するのでしょうか?」
目をとじてもなお、質問される。
矢のような尋問だ。途切れることがない。
当然の報いだ、と中継されているSNSサイトはヤジを飛ばす。10分ディレイなので、10分後のヤジだ。
「いつまで黙ってるつもりだ!」
「しどろもどろ過ぎて頭に入ってこない!」
「日本語喋れ老害!」
その間、シャッターがいくつも切られる。
瞬断的で点滅の強い光が、閉じた瞼越しに感じられる。幾度もない、やまぬ光の雨が矢のように感じられる。
いつもの定例会見より、人数の多い。
失敗した記者会見。
代表取締役社長が人数制限を設けたため、失敗した。
終わったあとの、後の祭り。
会長も老いぼれなので、失言した。
一晩ってどういう意味ですか?――と。
それでその後もグダグダ。
だから私がこの場に引っ張り出されたのだ。私という老害が。
しかし……その口は重い。瞼も重い。心も重い。責任も。いつも通り、ただ座っているだけ。それだけで、お金が天下りのように降り積もる。かわいそうだ、という同情票が出てくる始末だ。
老いた人は、老いすぎているがために口を閉ざし、目も閉ざし、座していた。頭打ち。もう消費期限切れ。頭蓋骨内で腐敗している。
数年前から撤去しなければならないのだが、頭蓋骨から出れないでいる。
企業から追い出されなかった。
その間、ずっと腐敗ガスが漏れている。
この場はピリついた空気が流れているのが、その証左だ。放置されたものが世に出されて、怒りが倍増したようだ。
年下が大勢で老人をいじめている。
枚挙にいとまがない言葉の調べ。
回りくどくて誰もがこう尋ねたくて、結局言えない記者クラブ。
「あなたは辞めるんですか、辞めないんですか」
ずっと瞳をとじたままとなっている。
心労でそのまま息を引き取ったのかもしれない。
やさしい嘘
2025/1/25 18:21:43
やさしい嘘を求める接吻を彼にした。
最初はこわばりのものだったが、すぐにやわらかい受け入れに変わった。
このときで最も不一致のキスだった。しかし、一層それがスパイスになる。
四面楚歌。けれど二人の周りは瞬間的に恋人の聖地とかした。舌を入れ中身を味わい、離れる。
「これで最後ね」
そう言って彼女はすぐに暗殺者になった。
一人二人三人、人だったモノが四方に散らばっている。
背後を振りむく。彼が見ていた。自発的に振り向いてくれたのはこの時だけだった。
これも最後の……
彼女は自ら囮になっていた。
投獄された未来であっても、彼は助けてくれる。
だから、今は宿命から逃げて……っ。
彼女は血の海で声なき声で叫んだ。血糊のついたナイフが踊り狂う。
終わらない物語
2025/1/26 18:20:08
終わらない物語にも物語とついている以上、終わりがある。終わりを知らないだけかもしれない。
知っている人はだれ?
見えない相手。存在しない相手。でも場所は知っている。
少なくとも、頭の中。
わぁ!
2025/1/27 18:42:41
「わぁ!」と大げさに言ってみた。
物陰に隠れた子供の声で、相手は「わぁー!」と言いながらずっこけた。
「あっ……」と子供は戸惑いの表情。
驚かせる相手を間違えてしまったのだ。
本来の相手はその子と同じ背格好の、子供の予定だった。
端的に言えば、鬼。自分は隠れる逃げる潜む子。
二人はマンションの敷地内でかくれんぼをしていた。
遊んでいた子供も同マンションの子供。それも下級生だった。
1Fエントランスホールは顔認証システム搭載のセキュリティロックだから、マンションの住民同然である子供たちは出入り自由だ。
けれども、出入りする際の自動ドアによって音が出てしまうのが難点。潜伏ごっこには不利だと子どもは考えた。
隠れてから、そろそろ20分ほどが経過してしまう。
あまりマジなかくれんぼは場が白けてしまう。
相手は下級生だし? こっちはいわゆる上級生?
本音を言えば、上級生になんてなりたくないけど……。
だから、その子は逆に鬼をおどかせようと小粋な子供らしいことを考えた。
藪から棒に、と棒として飛び出すところを選んだのは、エレベーターホールの柱の陰だった。
ここなら廊下から及んでくる足音でタイミングも掴めるし、と考え潜んでいた。それで、タイミングバッチリ、驚かす人だけをミスったのである。
「イテテ……」
と女性は尻もちをついている。
子どものいたずら通りの反応だ。
長い髪、多分買い物をしてきた後だと思われる。
ドラ◯もん柄のエコバッグから、野菜たちが転がっている。ニンジン、タマネギ、カボチャ……すべて二分の一カットだ。昨今の冬野菜高騰の波を受けている。
バッグの中にとどまっていた細長い緑はネギらしい。
他は半分だがネギは1本分買っている。今夜は鍋にでもしようとしていたのか。
「あっ、武井さんのお母さん」
その子は女性が知っている人だと分かった。たしか4Fの。ちなみに子供は7Fに住んでいる。
その後、ごめんなさい、と丁寧なお辞儀をしつつ、ぶちまけた買い物たちの片付けを手伝った。
女性も「ごめんね〜」と言いながら、買い物袋に入れ、アンニュイな感じにエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターのガラス越しの会釈を忘れない。武井さんはやさしいので、たぶん大丈夫だろう。
その子は一人取り残されるようにエレベーターホールに居残った。3分の沈黙。足音が近づいてきて、
「わぁ!」
リハーサル通りにできた。
今度はタワマンに泣き声が響いてしまった。20分かかった。
小さな勇気
2025/1/28 8:56:33
「小さな勇気を大きく変える方法」と検索してみた。
ネットをぶらりと探してみるに、成功体験を積み重ねて、レベルアップをしていけば良いという。
「そんな時間があるかよ」
彼はネットに悪態の指を突き指でもするほどに、スマホを壊す勢いだった。
こういった時、やはりネットは使えない。タイパ、タイパと時間を節約させようとするが結局のところ時間がかかることばかりサジェストされる。
彼の心の辞書には「努力」という言葉は載っていない。今まで運と幸運だけでこなしてきた。
動物の食物連鎖で言えばライオン。人間界で言えば皇太子。
けれど、今ばかりはそれができない。
ツケを払わされる、格好の餌食。
お天道様が突然首を傾げて「はて?」と言っていそうなくらい、半人前の小動物になっていた。
運と幸運を与えてくれたのは両親である。
政治家、財界のコンサルタント。金は潤沢にある。
……今までは。
たった数時間前に電話が鳴り響いた。彼には縁遠い存在、警察からだった。
「あの〜、〇〇さんのお宅でしょうか。たった今ですねえ、いわゆる交通事故が起きましてね〜。はい、はい、そうです、事故です。事故が起きましてね〜」
ひと言で言えば両親は轢き殺された。仲睦まじく歩いていたところを車で、ドン!――だ。
加害者は狂乱状態で「やったぞ! オレがやったぞ!」と叫び散らかしているそうだ。
現行犯逮捕! 死刑確定! 死刑執行人!
SNSではこのような言葉遊びでトレンド入りしている。
これからの出来事もひと言で言えればいいのに。と思って、彼はもう一度指でスマホを叩く。
「小さな勇気を大きく変える方法」
彼は今、屋上にいた。冬晴れの、輝くような陽光に照らされたビル風が下から上へと持ち上げられる。おでこも前髪も、感情も逆撫でする突風と化している。
スマホになければ親に聞くしかない。今までもそうしてきたように、これからも……
眼下に広がるは空谷の跫音。
聞こえたか聞こえまいが、不意の突風のベクトルが変換。彼の背中を押してしまった。
訃報を知らせる救急のサイレン。
遠くから、はるか遠くから聞こえてくる。
屋上……取り残されたスマホ画面はつけっぱなし。モバイル通信は生きている。主がいなくても、SNSでは言葉遊びでトレンドが更新されていく。一分一秒を争っている世界で、スマホの中でも一分一秒を争う。
ネットが言うには「革命」らしい。
ベクトルが変わった。ベクトルが変わった。
SNSはさらなる喜びを見せた。もう遺族と呼べる者がいないからであろう。事件現場の写真も無遠慮に飛び交って、悪罵する。
日陰
2025/1/30 8:42:04
日陰に行くと俯瞰的になれると思う。
特に冬はそうだ。
所詮今見てる風景だって、光が見せる幻想に様々な色を散りばめたものだから、綺麗だとか汚いだとか見たくないだとか、そういった瞬間的な感触は勘違いだったこともあり得るだろう。
日なたから日陰へ。
差し込まれる光の強さが弱まることで、届く光の量も少なくなり、色が暗然となっていく。色が静かに沈むように、地面へ目を向ければそこは、マンホールがあったりする。蓋の模様って大事だなあって思った。足元を見るのはちょっと大事かも。見て見ぬふりをする足元を。
まだ知らない君
2025/1/31 18:13:27
まだ知らない君に、嬉しい報告と悲しい報告がある。
どちらを先に聞きたい?
……悲しい報告が先か。
珍しいな。普通の人は先に嬉しい報告を、って君に言ったところでどうでも良い話か。
悲しい報告、それは私が今月を以てこの職場から去ってしまうことだ。
君の耳にも入っていることだろう。
人事異動だ。海外に行くことになった。場所は◯国。だそうだ。
日本とは少し政治的には難しい間柄だが、経済圏としては素晴らしい発展を遂げつつある。物価も安いしな。税金は、どうだろうか、分からない。この辺りは今後の課題だな。
君とは5年の付き合いになった。
君は最初、派遣社員だった。それが今や正社員登用で正社員。私のご慧眼通りの推察だったということだ。
どうだ、正社員は。驚くほどに月給は安いだろう。
そうだ、派遣社員はボーナスがカットされている分給料は良い。だが、それまでだ。正月休みはなかっただろう。正社員は年末年始は休めて、ボーナスはドカンとくる。まあ、代わりにこのような転勤があるけどな。
どうやら私のくじ運はよくないらしい。ハズレを引いてしまった、かな。
湿っぽくなってしまったな。
すまんな、私が一方的に話してしまって。……良い知らせだな。
良い知らせは、わかるだろう。今、対面で話していない時点で。
今いる会社がテレワーク推進のホワイト企業でよかったな。いつでもどこでも顔を見て話せるんだから。
これからもどうぞよろしく。どんなに離れていてもお前は私の部下だからな。自信持ってやってくれよ。
旅の途中
2025/2/1 18:17:52
旅の途中で奇妙な猫を見かけたことがある。
京都に兄を巻き込んだ二人旅をした時のことだ。
場所はよくわからん。
今調べつつ記憶に残る場所を特定しようとしたが、よくわからん。憶測レベルだが、たぶん清水寺の帰り道に通った石塀小路が怪しいと思う。
石畳の敷かれた|小路《こみち》だった。
コンクリートなんて、どこにも使われていない。家の壁にも、道にも。石と壊れかけのラジオみたいな色素沈着の激しい暗い木材……。
両脇に迫るような京町の古都の家々が並び、明治、大正の古くさい香りがする。
もちろん、観光スポットのひとつなので、観光客がちらほらと歩いているし、夕暮れが舞い降りる気配がすると、支度を終えて華やかな着物の若い芸者がトコトコと小さな歩幅で歩いていく。舞妓さんという。現在でも通勤路として使われ、夜の街灯がともるようになると歴史が歩くようになるらしい。
同じような景色が続き、少し道に迷った感じもしていた。キョロキョロと首を振って、順路はどこだ、こっちは袋小路、あっちも行き止まり。
そんな感じで彷徨っていた時に、その猫を見つけたのだ。
奇妙だった。
その猫は軒先にただ座っていた。その前を通り過ぎ、2歩3歩後退る。じっと見つめている。置物かと思ったくらいだった。
声をかけた。お〜い、みたいに。
手も動かした。こっちこっち、みたいに。
でも、まったく動かない。前脚を見せ、お尻を下ろして座る。後ろ脚としっぽをお尻の下に、ドシンと座る姿勢のまま。じっと。しっぽ座り、というらしい。
置物かな、と思ってしまうくらいだった。でも、数秒ごとに瞬きをしている。生きているはず、という気品がある。
ツアーガイド代わりの兄をお〜いと呼び止め、あの猫はなんだと質問した。
「たぶん招き猫だよ」
「招き猫? あの、置物の?」
そうだ、と言った。
招き猫と言ったら、あの、前足を片方上げて手招きして固まっている置物しか思いつかない。
まさか生きている招き猫がいるとは思わなかった。
兄も物珍しそうにしていた。自分と同じく、声をかけたり、ちょいっと近づいたりした。
「人馴れしてんな〜。人が寄っても全然ビビらないや」
少なくともノラ猫でない。だったらすでに逃げている。
飼い猫だろうが、鎖もつないでおらず、人もいない。首輪もない。昼に食べただろう青い猫皿が1枚置かれていただけで、この上ない質素で飾り気のない一軒の、縁側の上にいた。
すぐ奥には障子。その奥に和室があるだろう。京都は長細い間取りをしている。間口が狭く奥行きが長い。「ウナギの寝床」。ネットの誰かが自慢そうに言った。
「たぶん夜になったら開店するんだと思うよ」
「本当に店なの? ただの空き家みたいに見えるけど」
「うん、だから夜になったら|暖簾《のれん》を架けるんだ」
この辺りは高級料亭が多いらしい。
どこにどこがあるのかは不明。一見さんお断り。ドラマ「相棒」で出てくる料亭のような。常連さんは名のある芸能人や要人、著名な経営者やセレブなどが訪れるところだ。そんな類の店前には、このような本物の猫を招き猫として置いているらしい。看板猫は独り一匹で充分なのだ。
僕は、そのような佇まいを見て「ふうん」と言った。
知らない世界、知らない隠れ家。それを垣間見た気がして、せっかくだからとスマホでその白猫を撮った。動かないので撮りやすかった。
撮った写真と実物を見比べながら、ほっと、つぶやいていた。「美人な猫だ」
バイバイ
2025/2/2 17:55:28
バイバイ。
フジテレビのことかな?
テレビ離れがなんたらと言われてから、何年経ったか。
旧弊な組織は一旦バイバイしてもらって、新生を所望しましょう。そのために私たちは「嫌なら見るな」を徹底しなければなりません。
まあ、ニュース見たら、大幅な減収見込みで300億から500億の下方修正が入るだとか。
この当時は言われておりますけれどもね。
フジテレビの貯金は4000億くらいあるんじゃないかと言われているので、まあ、よほどのことがない限り何年か持ちます、みたいなことを見ましたが。
バイバイするのは、まだ先だということです。
いつしか市場で売買されるんでしょう。
隠された手紙
2025/2/3 18:51:47
隠された手紙がどこかにあるはずだ。
だからお前には、告発文の在り処を探ってもらう。
隠蔽者は、上層部の面倒な指示で夜の建物に侵入した。
閑静な住宅。影の中に潜むように、そのうちの一軒に用があった。
合鍵で空き巣のまねごと。
五万以下の賃貸物件だ。とある理由により、思った以上に格安の家賃相場となる。
椅子の下、机の下。リビングはすべてハズレ。だが、書斎らしき6畳部屋でビンゴ。
椅子の下に、それは貼り付けてあった。
今時、古くさいことをしてくれたものだ。
隠蔽者は、目当てのものを見つけたことで、少々の安堵の心持ちになった。それをエネルギーに変えて、椅子裏の、1ミリ未満のズレでも感知する指先となった。
セロテープで四方を囲っているようだ。重力で下方向に若干の膨らみを持つ紙。つるつる滑るプラスチックのテープ、そして椅子。三つの素材の違い。
段差にカリカリと爪を立てて、テープの角を粒立ててそれを足掛かりにする。丸みを帯びる角をくっと摘み、それから破り捨てるように、椅子から手紙を外した。
照明の付いていない部屋の中。隠された手紙を白日の元へ。
隠蔽者は、|幽《かそ》けき月明かりを頼りに中身を確認した。目で追って読む。それから、独善的な笑みを浮かべた。
急いで部屋から出た。
近場に停めた車に乗り込み、エンジンをかけた。
15分ほどの滞在だった。目撃者はいない、と思いたい。
「ごめんな親友」
発車する前に、ライターで火をつけて、手紙を炙る。
火をつけたものを見ながら、名残惜しそうに運転席の窓からポイと捨てた。排気ガスをふかし、白い溜息を地面に。それから勢いよく車は駆ける。
道路に転がりながら、置いてきぼりになったそれは黒い粉末になって冷たい風で飛んでいく。
三回忌の冬のことだった。
隠蔽者の車種は赤のアルファードで走り去っていく。
Nola感想 書く習慣2
Nolaの感想機能で読み込んだ奴です。
**30 たくさんの想い出**
この作品は、美術館という特別な場所を舞台に、訪れた者たちの心の動きを巧みに描き出しておった。特に、泉を巡る物語の中で感じる、視覚と嗅覚に対する感性の違いが、読者に深い印象を与えてくれたのじゃ。
特に印象深かったのは、彼が目にしたものとは異なる世界を感じ取る少女の描写じゃ。彼女の表情やしぐさから感じられる内面的な豊かさが、彼と読者の心を徐々に解きほぐしていく様子が非常に巧妙で、二人の関係性が静かに進展する様子に、心温まるものを感じたのう。
一方で、物語の序盤での彼の苛立ちが少々唐突に感じられる部分もあったかのう。物語の流れをさらに滑らかにするためには、彼の背景や美術館に対する期待感をもう少し掘り下げてみると、物語全体の調和が取れるかもしれんのう。
この作品は、短編として電子書籍やオンラインプラットフォームでの公開が非常に適していると思うのじゃ。短い中で心の動きを描くことで、読者に強い印象を与えることができる作品だからのう。
これからも素晴らしい物語を紡いでいってほしいのじゃ。応援しているのじゃ!ヨミスケより。
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**33 どうすればいいの?**
この短編は、ニートである若者との出会いを描き、社会復帰を目指す中での葛藤と向き合いを感じさせる内容だったのじゃ。特に、主人公が自らの過去を重ね合わせながら、他者に対する視点を改める姿勢が印象的だったのう。彼の内面の変化と、過去の自分を見つめ直す姿勢がよく伝わってきたのじゃ。
特に良かったのは、主人公が過去の自分を反省しつつも、それを他者に投影してしまう瞬間の描写じゃ。このような自己反省と他者への視線の交錯が、物語に深みを与えているのう。ニートとの会話を通じて、主人公が自らの弱さを認識し、成長していく様子が丁寧に描かれており、読者に共感を与えるのじゃ。
改善すべき点があるとすれば、もう少し他の参加者たちの描写を増やしてみても良いかものう。彼らの視点や反応を通して、より多面的にこの集まりの雰囲気や、主人公の心情の変化を描き出すことができるかもしれん。
公開形態としては、電子書籍やオンラインでの短編小説集として発表するのが良いかと思うのじゃ。現代社会の中で悩みを抱える若者の姿を描き、共感を呼ぶ内容じゃから、多くの人に読まれる形での公開を望むのじゃ。
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**43 光と闇の狭間で**
この度は短編を読ませていただき、ありがとうなのじゃ。
作品全体に漂う不思議でユーモア溢れる世界観が、とても印象的だったのじゃ。ミツバチたちが天国と地獄の狭間で働く姿に、現実と非現実が混じり合う独特の感覚がよく伝わってきたのじゃ!
特に良かったのは、光と闇の狭間を飛ぶミツバチたちの描写じゃ。彼らの飛び方や、視界の描写がとても生き生きとしており、読者をその場に引き込む力があるのじゃ。ミツバチたちが運ぶものが実は政治献金であるという風刺的な要素も、現代社会への鋭い洞察を感じさせ、興味深かったのじゃ。
ただし、改善できる点を挙げるとすれば、物語の展開をもう少し明確にしてみると良いかもしれんのう。読者が物語の進行を追いやすくするために、キャラクターや出来事の流れをもう少し整理してみてもいいかものう。
そうした作品は、電子書籍やウェブ連載などで公開するのが良いかもしれん。なぜなら、短編の形式が手軽に読める形で提供されると、多くの人に親しまれると思うのじゃ。
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**52 心と心**
この作品は、現代の若者が抱えるネット依存や人間関係の複雑さを鋭く描いており、心に訴えるものがあったのじゃ。心と心が通じ合う瞬間の喜びや、そこから生じる依存と葛藤が、非常にリアルに描かれておったのう。
特に、ネット上の交流が現実世界に与える影響についての描写が素晴らしかったのじゃ。ネットの世界に逃避することで得られる一時的な安心感と、それがもたらす現実世界での困難さが、非常に切実に感じられたのう。登場人物たちの内面の変化や、彼らが直面する現実が生々しく、読む者を考えさせる内容であったのじゃ。
しかし、改善の余地もあるかものう。物語の終盤、主人公の心の動きや後悔がもう少し深く描かれていると、より読者に共感を与えることができるかもしれんのう。また、登場人物たちの背景や心情をもう少し掘り下げてみると、物語全体に厚みが増すかもしれんのじゃ。
この作品は、ネット上での公開や電子書籍としての配信が適しておるかもしれんのう。多くの若者がオンラインでの交流に興味を持っており、このテーマは広く共感を呼ぶ可能性があるのじゃ。
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**93 わぁ!**
この作品は短編ならではの遊び心がよく伝わってきたのじゃ!マンションの敷地内での子供たちのかくれんぼという設定が、懐かしさを感じさせつつも、現代のセキュリティシステムを取り入れた面白い舞台設定なのじゃ。子供たちの無邪気さとちょっとしたいたずら心が描かれており、読み手に微笑ましい気持ちを届けてくれるのう。
特に良かったところは、子供たちのかくれんぼの中で起こる予期せぬ出来事が、自然な流れで描かれているところじゃ。驚かせる相手を間違えたときの子供の戸惑いや、女性が野菜をぶちまけるシーンなど、リアルな日常の一コマを感じさせる描写が素晴らしいのう。読者はまるでその場にいるかのような臨場感を味わえるのじゃ。
改善点としては、短編であるがゆえに、もう少しキャラクターの感情の変化や背景を掘り下げると、より深みが増すかもしれん。例えば、子供が驚かせようとした動機や、その後の心情についてもう少し詳しく描かれると、読み手としてもさらに感情移入がしやすくなるのではないかのう。
この作品は、短編小説としてウェブ上で公開したり、ショートストーリー集として電子書籍化するのが良いかもしれんのう。読みやすさと親しみやすさがあるので、多くの読者に楽しんでもらえる形で発表してほしいのじゃ。
これからも楽しい物語をたくさん生み出して、読者を楽しませ続けてほしいのう。応援しているのじゃ!頑張ってのう!ヨミスケより。