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目次
どこここ?
ということで、投票が分散してしまったのも理由に___
候補に挙げてた奴を地道に全部書いていこうと思います。
投稿頻度超遅くなると思うけど許して下さい。
眩しい。
「もう朝、?ふぁ、…っ」
むにゃむにゃしていたら、いきなり声が聞こえて来た。
物凄く、切羽詰まった声が。
中也「オイ桜月!?何呑気に寝てんだよ!!」
「だって今日は久々の休暇じゃん…」
中也「いいから外見てみろ!!」
言われるまま、半ば強引に外を見た。
「どこ此処」
外の景色には全く見覚えがなかった。
「…うそ」
驚きのあまり逆に脳味噌が落ち着いて、取り敢えず着替えて髪を整えた。
中也「ッどうなってんだよ…」
紅葉「桜月、無事かえ⁉」
「紅葉姉さんっ!......探偵社、!?」
ひょこ、とドアから顔をのぞかせた紅葉姉さん。
そしてその後ろにぞろぞろと居るのは…まさしく武装探偵社の社員たちだった。
「…あ、あの、これどうなってるんですか!!?」
乱歩「僕の超推理によると、他の世界と繋がってどうたらこうたらって」
「そのどうたらこうたらが知りたいんですよ!!」
首領「あ、そう桜月ちゃん、早速だけど、この世界のとある大きな組織と会合があるのだよねぇ」
「うわ、、」
首領「桜月ちゃん、君に任務だよ!」
「最悪…」
如何やらこの街は”東都”と云うらしい。
横浜と同等な位に発展している。
私達の世界で云う”東京”の立ち位置なのだろう。
水族館にテーマパークから、ホテル、超有名人の現住居まで。
しかし、『魔都』と呼ばれるこの街。
殺人事件も二日に一回はざらにある。
ひったくりなどの事件は毎日のように何百件も起こる。
この魔都、東都だけで。
「恐ろしい場所…」
この世界の一般人からの私達の認識としては、
「あぁ、そういえば少し前から高いビル、町のど真ん中に立てる工事してたねぇ」
「なんでも、マフィアの奴らのビルらしい」
「マフィア!?この街はただでさえおっかないのになんでマフィアが…」
みたいなものだった。
そして今私は薄桃がかった白いワンピースドレスを着て、髪をハーフアップに。
何時もとはまた違う、洗練された雰囲気の私になってた。
軽く変装もしておいた。
何が起こるか分からないから。
これから会う組織とは、私達は初対面だそう。
それともう一つ。
「能力が、使えない…!?」
この世界に来て最も困った事だった。
---
黒い車から降りて、案内されるままに歩いた。
手を揃えて気配もなく歩く。
相手方も幹部レベルの人間を寄越す、らしい。
一応、彼方此方に武器は隠し持っている。
太ももにはクナイ。
ふんわりとした袖の中には、お姉ちゃんと同じ小刀。
髪をまとめるバレッタも、いざとなったら戦闘に使えるもの。
用意周到ってこの事だろうなぁ←
「此方にお掛けになってお待ちください」
「判りました、ありがとうございます!」
ふんわりと笑ってお礼を伝えると、案内係の人が顔を真っ赤にしてぺこりと頭を下げ、部屋から出て行った。
逆に申し訳ない事しちゃったなぁ、、
取り敢えず指示された一人用のサイズのソファに座った。
流石はかなりの大きさの組織だけあって、ものすごくいい素材が使われている。
???「…お前が取引相手か?」
「、!」
気が付くと、向かいの二人掛けソファに人がいた。
一人は黒ずくめの服装で、長い銀髪。
鋭い眼光が特徴の、低音の声。
もう一人は金髪に肌が少し黒い。
目は綺麗な青だった。
整った顔立ちをしてる。
青い目仲間。
「…えぇ、私がポートマフィアの代表、泉桜月です」
??「…幹部クラスの人間と聞いていましたが…貴女の様な幼い少女が本当に?」
「ふふ、よく言われます。でも、双子の姉はこの幼い容姿で油断させる、名の通った暗殺者ですよ」
金髪のお兄さんにそう言われ、薄く微笑んでからそう云った。
??「そうか。で、まず聞かせてもらおうか。俺達の縄張りに入って来たワケをな…」
「…ふふ、訳、ですか?」
??「…何がおかしい」
「一つ。貴方方では私達を潰すことは出来ません。二つ。自分の仕える相手すら知らない方に、なぜ素性を話さねばならないのですか?」
微笑みを浮かべたまま、聞いた。
??「調子に乗るなよ、小娘...お前如き、この場で殺すのも容易な事だ……」
「あら、そうですか?私にはそうは思いませんが…」
??「…で、貴方は何が言いたいんですか?」
「漸くちゃんと本題に入れますね…」
??「…僕達も暇ではないので。手短に願います」
??「オイ、バーボン...」
バーボン「…えぇ。分かっています。」
「バーボン、?」
??「コイツがバーボン。俺はジンだ」
銀髪ロングの目つき悪い方がジン。
金髪腹黒イケメン((がバーボン。
「…私は泉。ポートマフィア五大幹部が一角、泉桜月です。」
バーボン「貴女の様な幼い者が幹部とは…そちらのマフィアは衰退しているのですか?」
うわめっちゃ口悪いし煽ってます?
そっちがその気なら私一人で組織潰してやるからなコラ((
「…なら一度、やってみますか?」
バーボン「…望む所です」
にや、と黒笑を浮かべるバーボン。
ジン「…ったく、手間は掛けさせるなよ」
と云いつつも、ジンも私の実力が知りたいらしい。
「では、お手合わせ願います」
ニコリと笑顔を浮かべて、立ち上がった。
それに合わせて、バーボンも。
如何やら先に相対するのは、バーボンらしい。
なんでぇぇええっっっ!!??
「武器、如何します?」
バーボン「そうですね…貴女は持っていないのでは?」
「ご安心を。そこ迄私も莫迦では無いので!」
にこ、と笑ってそう返す。
相手も嘘の笑顔を張り付けるのが手に取るように分かった。
...バーボンも私の嘘の笑顔に気付いているだろうけれど。
「では、初めはなしにしましょうか。途中で、互いに好きなタイミングで」
バーボン「成程、どちらが先に音を上げるか、と言ったところですね」
「じゃ、ジンさん、スタートの合図はお願いしますね」
...さん付けの方がいいよね??
「では」
バーボン「えぇ」
ジン「…正気か?」
バーボン「少女一人です。幾ら強くとも、体格差、腕力、その他色々、負ける気は無いので。」
ジン「…そうか」
ジンさんが、目を閉じ、息を吐いた。
そして開いて、口を開いた。
この声が、スタートの合図だ__
常に先手が勝つ___
首領に普段から教えられていることを、行動に移す。
「先に行かせて頂きます」
地面を蹴ってバーボンの立つ場所に一直線に跳んだ。
そのまま腕を振る。
しかし、そこ迄単純な動きは簡単に読まれる。
案の定、前にはガードが固まっていいる。
「だからっ!」
前に振ろうとしていた腕は横に回り、そのまま流して横腹に蹴りを入れる。
バーボン「、く、っ…只者の蹴りじゃない…流石はマフィア幹部ですね、!……でも」
--- 「|防御《ガード》、出来てませんよ?」 ---
蹴りを食らわせた所でバランスを崩したその時、素早いパンチが飛んできた。
咄嗟に腕を構えて、後ろに跳んだ。
「げほ、っ」
しかし、それだけで流せるような力ではない。
真面に背面からぶつかり、咳き込んだ。
そしてそこに追撃するバーボン。
今度はしっかり防いだ。
そしてそのまま背後に回って腕を引き、相手が勝手に倒れる勢いで投げ飛ばした。
勿論そんなもので倒れる彼じゃない。
...から、
倒した瞬間に、首元に小刀を突き付けた。
と思ったのに、
更に素早く後ろへ廻って、私の腕を後ろ手に拘束したバーボン。
「此処でチェックメイトですよ、桜月さん」
「…負けました」
バーボン「…予想以上に面白い相手な様で」
「本気出されてたら死んでましたよ」
バーボン「おや、気付いていたんですね」
「其れ位気付きますよ。これでもマフィアと…色々な組織掛け持ってるので」
困った様に偽の笑みを浮かべたバーボン。
その後、ジンさんと交代した。
「…あはは、流石に連戦はきついですよ」
ジン「…あれ程大口を叩いて負けた奴が何言って」
「じゃあ本気出していいですかっ」
バーボンは口の端に、ほんの少しだけ、本物の笑みを浮かべた。
キラキラとした瞳で身を乗り出してそう云う私は、ジンの目にどう映っているのだろう。
ジン「さっきのは本気じゃなかったのか?」
「当り前じゃないですか!あれで本気とか言われたら憤慨しますよ」
ジン「…あぁ」
少し驚いて、でも口を歪めて笑った。
ジン「本気で掛かって来い」
「そうこなくっちゃっ!」
今度はジンさんが先手に出た。
この人は多分銃撃戦とか武器を扱う方が得意。
...なら、早い段階で、尚且つ解り易く、嫌な場面で武器を使う。
予想通り、目の前に迫ってきた瞬間、発砲音がした。
ジンはやってしまった、という顔を浮かべる。
まぁ目の前で発砲したら死なせたと思うよね。
仮戦闘とはいえ、取引相手だし殺したらマフィアが黙ってない。
__でも。
バーボン「な、!」
ジン「は、?」
私は上に跳んで、銃弾を避け乍らジンの頭上を飛び越えた。
そしてそのまま、ジンがまた振り向いて発砲した銃弾を小刀で弾き落とした。
地面に落ちた弾は綺麗に真っ二つになっている。
そして、構えた小刀を前へ上げる。
其処には呆然と立つジンがいる。
「…私の勝ちという事で?」
「チェックメイトですよ、ジンさんっ♪」
バーボン「…くくっ、貴女は面白いですね。」
ジン「…全くだ」
「では、マフィアの要求としてはまず、互いに手を出し合わない、無協力無攻撃です。」
「そして次に、不合理な戦闘も行わず、まぁ要するに先程と同じものですね。」
「最後、...ある程度の情報の共有を条件として、此方の要求とさせていただきます」
ジン「…いきなり来て、随分と大層な物をご所望か?」
バーボン「…情報共有によって、僕達にもたらされる利益は?」
「私達の持つ情報は、少なくとも損する様な物では無い筈ですから」
バーボン「成程、互いに提供し合い、それ以上でもそれ以下でもない関係、という事ですか」
「次です__お二人方の組織の要求は?」
うわぁ、コイツやだ(
「…あの、」
バーボン「はい、なんでしょうか?」
「その方がいいと思いますよ!」
バーボン「…え、っと、?」
「あ、っその、敬語で腹黒でみたいな感じより、今のバーボンさんの方が、なんか、楽しそう、ですよ、!」
出過ぎたことを云っているかもしれないけれど、この界隈には噓が溢れている。
噓と演技と仮面の混沌の中で、どれだけ綺麗な仮面を付けられるか。
仮面が外されてしまったり、ボロボロになってしまったり。
__要するに、この界隈に疲れ果てたり、。
そうなったら、堕ちていくことしか、出来なくなってしまうから。
この人には、そうなってほしくない、と思ったから。
「素の自分でいられる相手は必要、ですよっ!」
少しの間、沈黙が続いた。
そして、喉をクックッと鳴らして笑うのが聞こえた。
バーボン「貴女は不思議な人ですね。僕が嫌いではありませんか?あのような第一印象なのに」
「なんとなく、悪い人ではない気がして、!…この界隈に、悪い人も善い人もないんですけどね、」
苦笑交じりに笑った。
少し息を吞むような音がして、また声を出して笑うのが聞こえた。
バーボン「…ははっ、…なら、貴女の前では、素を出しても大丈夫そうですね」
「、え、?」
バーボン「すみません。勝手ながら、部下に貴女の事を調べさせていたんですよ」
「…部下、というと組織で__」
バーボン「すみません、電話越しだといつ誰に聞かれるか分からないので。明日、喫茶ポアロという店でお会いしましょう」
そのままぷつりと連絡が途絶えた。
…こっちの予定も聞かずに、勝手な人だ。
「…ちょうど行くつもりだったからいいけど。」
そのまま、開いていたパソコンを閉じて、書類の山を整理して、斃れるように眠りについた。
---
未だ町が活気づく前。
私は歩いていた。
東都水族館に、トロピカルランド。
東都タワー、etc,etc...
歩いているうちに、たくさんの場所を見つけた。
…ポアロに行こうと思ったら迷っちゃってあっという間に8時。
凄く楽しそうな街なんだけど…
やっぱり巻き込まれちゃうか、事件。
『妙な動きをしたら撃つぞ!!』
ふら、と立ち寄った銀行。
いや、お金預けてたと思って。
マフィアの金庫の方が安全だし下ろそうと思った。
「きゃぁぁああああ!!」
「撃たないでくれ―――っっ!!!」
いや、そんなことしてたら犯人怒るって。
『これ以上大声上げたら躊躇なく撃つぞ!!…お前!そこのチビ!こっちにこい!!』
その指がさす方向は紛れもなく…
「…ぇ、私ですか?」
『そうだ!!早くしろ!!』
犯人はどうしてもか弱そうな幼い少女を手元に人質としておきたいらしい。
…キモ((
そのままガッチリ首に腕を回された。
こめかみに冷たい感触__銃。
…いや、使い慣れてない人の銃弾なんて当たらないですけど。
余裕で抜け出せ__…此奴……力強すぎる。
流石に此処で撃たれたら避けようがないんですけど。
一人で悶々と考えてる間にも犯人はテキパキと指示をしてお金の詰まった鞄を抱えた。
気が付くと外には警察のサイレンが鳴っている。
こんなところで捕まったら厄介だし…倒していいよねっ!(
首に腕を回されて、腕は後ろ手に。
なら、自由な足を___後ろに立つ男の足と足の間に、綺麗に蹴りを放つ。
『うぐぁ、っ!?』
突然の攻撃に手が緩むのも当たり前。
その間に右手を払って銃を遠くへ振り落とす。
その瞬間、首に回されている手を掴んで、自分の体重も上乗せして転がる。
勿論回った瞬間の重心は男の人にあるから、物理的に私が上に来る。
私は男の人の上に乗って、手を押さえる。
常備している紐で両手を縛った瞬間、警察が突入してきた。
え、取引中にナンパですか???
ジン「まず其方と同じ。手は組まない。が、手を出すこともしない」
バーボン「正気ですか?向こうの提案は図々し過ぎる…此処で大人しく引いたら、」
ジン「俺には分かる。此奴らと争うのは得策じゃない」
バーボン「でも先程は貴方も大層な物をご所望だと…!」
ジン「バーボン、少しは考えてみろ。確かにいきなりのそんな願いを聞くのも俺達の柄じゃねぇな。…だが、ここで断るリスクが高すぎる」
…目の前で仲間割れみたいなことしないでもらって?
っていうか私完全強い奴認定されてるんですけど???
中也とか紅葉姉さんとか私より強い人幾らでもいるのに…
一人で脳内会議している間に、相手方の意向は決まったらしい。
ジン「次に、俺たちの狩場を荒らす事は」
「許さない、…ですよね?」
ジン「…そうだ。」
バーボン「それと、僕から個人的なお願いをしても?」
ジンさんはどういうつもりだ、とでも云うようにバーボンを睨んでる。
ひぇ、おっかない目…
「…内容によります!」
バーボン「…桜月さんの連絡先を教えて下さい」
「……ん、ぇ?」
ジン「…こんなヤツがタイプなのか?」
凄く怪訝な顔をしてる。
よっぽど珍しい事なんだろーなぁ、。
バーボン「いえ、流石に未成年は…」
「…流石に、ってバーボンさん、何歳なんですか?」
バーボン「…連絡先を教えて頂ければ答えます」
「何それ……では、取引は異議なしと云う事で宜しいでしょうか?」
二人とも頷いたから、手元にある資料を少しずらして重ね、判を押した。
そして、片方を手渡す。
偽造ではないことを改めて確認して、手を握り合い、取引は成立。
何とか終わってよかった…
バーボン「というわけで、連絡先を」
…この人、忘れてなかった。
「如何して其処までして私の連絡先を?」
バーボン「…単純に、興味が湧いたので。」
よく分からない返事に、はぁ、と気の抜けた返事をして、携帯を差し出した。
確認して、彼がにっこりと笑顔を浮かべたのを見て、携帯をまた元の場所へ仕舞う。
「…それで、ご年齢は?」
バーボン「…忘れてなかったんですね」
「同じこと考えるじゃないですか」
バーボン「…29ですよ」
「へー、そうなんですね!、__…29さいぃっ!!?」
私が驚愕して声を上げる頃には、バーボンもジンも退室して、窓の外で黒い車に乗っていた。
「…はー、変な人」
まぁなんにせよ、無事終えられたから良しとしましょう!!(?)
---
「って感じで、二人とも面白い人だったよ!」
中也「いやいや初対面の相手とやりあったのかよ!?」
紅葉「しかも取引相手じゃと!?」
芥川「おまけに連絡先を交換した!?」
「29歳だってその人。全く見えなかった…童顔ってやつなのかなぁ、」
首領「そんなのんびりしたこと言ってる場合じゃあないのだけれど…」
「あ、それと帰り道に美味しそうな喫茶を見つけたのっ!」
中也「へぇ、何て処だ?」
「えっとね、確か…ポアロってところ!明日行ってみようと思うの…!」
その時、にゅっと後ろから影がのぞいた。
太宰「私も行っていいかい?」
「うずまきと同じ扱いをしないでください!慥かに上の階は探偵事務所らしかったけど…」
中也「いやそこまで行ったら運命だろ」
鏡花「…行ってみたい」
敦「じゃあ僕も…!」
「一番最初に聞くべきだったんですけど、何で探偵社が此処に???」
乱歩「僕の天才的な推理で、|こう《マフィアビルが何処かに飛んで見ず知らずの土地に行くことに》なると判った途端、全員が桜月ちゃんの安否を心配になって凸った瞬間」
中也「飛んだってわけか」
太宰「おや、桜月ちゃん?顔が真っ赤だよ??」
「ぅ、五月蠅いです!!」
この日はとりあえず、いくらでも空いている空き部屋を探偵社員一人一人に割り振って、就寝に就いた。
皆、「こんなにある部屋全部これほど豪華なのか」と目を丸くしていたけど。
そして、私は残業。
現在時刻、3:30。
皆1,2時間前にそれぞれの部屋に戻った。
「…其れで何でこのタイミングで電話かけて来るんですか……??」
手の中で震えながら音楽を流す携帯を数秒見つめた後、溜息を吐いて応答釦を押した。
「…もしもし」
バーボン「こんばんは。出て頂けないかと思って焦りましたよ」
「あらそうすれば良かったですね」
バーボン「冗談ですよ!?」
慌てたように云って、それから明るく笑った。
…なんだか彼の様子が初めのイメージと違う気がしてきた。
名探偵が2人?
沈黙。
その後少ししてから、銀行内の人々は歓声を上げた。
『うわぁぁぁあああ!!!』
『命の恩人よ!!!』
『こんな幼い少女が強盗犯を倒したぞ!!?』
『しかも細いし可愛いし』
『いやお前危機感無さすぎだろ!?』
この状況には警察も流石にあっけらかんとしている。
...あれ、私見つかったらヤバイかも、
そう思った時、一人の男性が此方へ駆けてくるのが見えた。
そのまま、勢いよく私の肩を掴んで揺さぶった。
???「お怪我はございませんか?」
「えっ、っは、はい、!」
???「よかった…にしても凄かったですね、先ほどのあれは......何か格闘技でも?」
先程のあれ、とは大方犯人を倒した時の事だろうなぁ、、
怪しまれないよう、無難な嘘を吐くのが幸い、かな。
「あ、えと、祖父が少し...ゎ、私も嗜んでいた程度ですがっ!」
???「そうなんですね…お嬢さんにお怪我がなくて本当によかった。」
眼鏡をかけた糸目の男の人は、胸に手を当ててホッとしている様だった。
すると、彼の後ろから一人、少年が顔をのぞかせた。
??「おねーさんすごかったね!犯人の男の人一瞬で倒しちゃったよ!」
「えへへ、ありがとうっ!」
??「…僕は江戸川コナン!おねーさんのお名前を教えてよ!」
「あ、えっと...」
さらっとマフィアが個人情報を教えていい物か、とも一瞬思ったけれど、結局偽名はやめておくことにした。
「私は泉桜月!えと、14歳だよ…!」
多分、と声に出さずに胸の内で付け足した。
「あ、お兄さんは...?」
そう云えば思い出した、糸目の眼鏡さんの事を。
完全に空気にしてしまってたことを申し訳なく思いながら、尋ねた。
???「あぁ、僕は沖矢昴。大学院生です」
「コナンくんに沖矢さんですね!...コナンくんって、が、外国人だったり...?」
コナン「うぅん!日本人だよ?」
「そうなんだっ!凄い推理小説好きそうな名前だなぁって思って、、」
…
...
...
...
...
「乱歩さぁぁぁんっっ!!??」
突然大声を出した私に、びくりとする二人。
「ぁ、ご、ごめんなさい!知り合いがいて…おーいっ!乱歩さーん!」
乱歩「あれ、桜月ちゃん?如何して此処に?」
「私は面倒ごとに巻き込まれて、その後雑談してて...乱歩さんは?」
乱歩「いやー!やっぱり名探偵って云うのは世界を超えても警察に頼られちゃうんだよねぇー!」
「ぁ、そっか!乱歩さんは異能力じゃないから...」
語尾に向かって声が小さくなっていった。
二人がポカンとしてこっちを見ていたから。
「ご、ごめんなさいっこちらは乱歩さんです!ら、乱歩さんこちらのお二人は沖矢さんにコナンくんです!」
沖矢「あ、慌てずとも大丈夫ですよ…?」
コナン「乱歩、さん...って、苗字はなぁに?」
乱歩「ふふんっ!僕の名前は…その名も江戸川乱歩!」
二人はまたもや硬直してしまい、今度は元に戻るのに数分かかった。
「だ、大丈夫ですか?」
沖矢「は、はい…でも驚きましたよ、まさか彼の有名なミステリー作家と同姓同名とは…」
沖矢さんはその糸目を薄く開いて、此方を見ていた。
「…虫さん?ポオさん?」
ミステリー作家と云われたらこの二人しか知らない(
乱歩「僕は名探偵だよ!作家なんかじゃない!」
ぷんすこ怒る乱歩さんに、何歳かと聞きた気なお二人さん。
「…26ですよ」
また硬直した。
ダメだダメだ、
暫く話していて思い出したけど、私警察の事情聴取受けちゃ駄目なんだ、
「私、用事があるのでお先に失礼します…!」
コナン「どこに行くのーっ?おねーさんここに来たばかりみたいだし、僕達が案内するよ!」
ねっ、と云って昴さんを振り返ったコナンくん。
まさかの頷く昴さん。
乱歩「どうしてこの街に来たばかりだと?」
コナン「だって、話してる時に言ってたもん!迷子になって、偶然銀行を見つけたから立ち寄っていくことにしたって!」
さっきの話の内容...?
あれ、そんな事言ったっけ...?
「よく気が付くねぇ」
にしても小学一年生でこの洞察力は恐ろしい。
昴さんも何か...探ってそうな気配がする。
「でも大丈夫ですよ!これ以上迷惑かけなくないし、乱歩さんがいるし…」
乱歩「え?僕道知らないよ」
云わないでください…
思っても云わないで……
「…おねがいします、...」
昴「どちらまで行かれるんですか?」
「えっと、...」
--- 「喫茶ポアロ、って云う所を探してて…」 ---
三角関係どころか五角関係((探偵何人いるんだよ
「朝ごはんついでに呼び出し食らっちゃって…」
コナン「ポアロなら僕のお家の下だよ!」
「…えっ?」
沖矢「彼は諸事情があって…今知人宅に住んでいるんです」
「そうなんですね…」
乱歩「その|喫茶《カフェ》って甘い物はある?」
「パンケーキとかならあるみたいです!」
乱歩「はぁ…此処には駄菓子屋が全然無いじゃないか!」
コナン「と、とりあえず桜月お姉ちゃんは誰かと待ち合わせしてるみたいだし、行こっ?」
...(安室さんからの)呼び出しが待ち合わせになってる、、
そして、てこてこと手を引っ張られながらも歩いていった。
……警察の事情聴取は逃れられたからセーフ!
暫く歩いていくと、この街には色々あることが分かった。
ヨコハマ程ではない(?)けど、発展してる都市...なのかな?
そして、見えてきた看板とポアロの文字。
「…毛利探偵事務所、?」
沖矢「…着きました、ポアロです」
其処は2,3階建てのビルで、一階にはポアロ、そして二階にはどうやら探偵事務所が入っているらしい__あれ?
「つ、つっ、つまり、コナンくんは探偵事務所に居候してるって事!?」
コナン「う、うん」
...職業柄、動揺を隠せない私と、その後ろでわなわなと震えている乱歩さん。
乱歩「名探偵は僕一人で十分だ!僕がいれば警察も必要ない!」
わーぎゃーと駄々を捏ねる乱歩さんを一通り宥めて、ポアロの店内に入った。
カランカラン、と耳障りのいい音と、ほろ苦い珈琲の香りが鼻をついた。
--- 「いらっしゃいませー!」 ---
綺麗な女性店員さんがカウンターに立っていて、声を掛けてくれた。
最初にテーブル席から声を上げたのはスーツを着た男の人だった。
...状況から見て__毛利探偵、ってこの人かな。
そして隣にいるのは娘さんらしき綺麗な女の人。
???「あっ、ボウズ!どこに行ってたんだ!?」
??「もぅお父さん!コナンくん、昴さんと一緒に散歩してくるって言ってたじゃない!」
???「そ、そうだったっけか?」
二人を見てコナンくんも其方に駆け寄った。
何やら話している。
「カウンター席で大丈夫ですか?」
「は、はいっ!」
乱歩さんと沖矢さんに挟まれる形で横に並んで、カウンター席に着いた。
その女性店員さんと暫く話していると、彼女は榎本梓さんと云うらしく、梓さんと呼ばせてもらう事になった。
乱歩さんと沖矢さんは先程のテーブル席の方に喋りに行ったから、梓さんと雑談しまくる事にした!
梓「桜月ちゃん、ウチ来るの初めてよね?」
「はいっ!梓さんと話すのも初めてです!」
梓さんはふふ、と笑うと人差し指を立ててウインクした。
...綺麗な人って何しても綺麗……
梓「今は丁度買い出しに行ってるんだけどね、安室透っていう人がいるの!」
「お店の店員さんですか?」
梓「そうなの!そろそろ帰ってくるはずなんだけど…」
噂をすれば、と云う物なのか、扉を開く、カランコロンと云う音と共に、その人は入って来た。
「…バーボン?」
誰にも聞かれない程、小さな声で呟いた。
安室透、と呼ばれた人は、慥かに昨夜電話した、バーボンその人だった。
安室「おや、新しいお客様ですね?」
「っは、はい!」
...声も同じだし、やっぱりバーボンだよね、?
梓「噂をすればっ!安室さん、この子桜月ちゃんって言うんですけど」
安室「はい、知ってます」
梓「ですよね!めっちゃ可愛...___え、知ってます…?」
え、会話全く噛みあってないの面白い(
って云うかバーボンは何がしたい???
非合法組織での関係を公にしていい感じなんですか??
恐らく安室っていうのも偽名だろうし…
安室「そうそう桜月さん、電話番号しか交換していなかったので…メールアドレスもお願いできませんか?」
数名いる、女子高生らしき人から悲鳴が上がった。
...え、バー、、安室さんってそんな人気なの、、?
アイドル扱いされてるじゃん...
「っていやいや!で、電話番号はあの時状況が止むを得なかっただけで...」
助けを求める目で梓さんを見ると、凄くキラキラした目でこっちを見ていた。
梓「お二人の関係は!?」
何時の間にか、私達が店内中の視線を全部集めていた。
Chaos is this.カオスとはこの場所の事です。(
---
コナン(新一)side
ポアロに到着した。
引っ張ってきた彼女__泉桜月の手を放して、店内に入る。
そこにはちょうど蘭とおっちゃんの姿もあり、そちらに駆け寄った。
毛利「あっ、ボウズ!どこ行ってたんだ!?」
蘭「もぅ、お父さん!コナンくん、昴さんと一緒に散歩してくるって言ってたじゃない!」
毛利「そ、そうだったっけか?」
おいおい、しっかりしてくれよ、とも思いながら、謝った。(なんとなく)
「ごめんなさぁい」
蘭「大丈夫、コナンくんは悪くないから、ね?」
毛利「で、あの二人は?」
乱歩さんに、桜月さんのことか。
「途中で知り合って、道案内してたんだ!ちょうどポアロに行くところだったんだってさ!」
蘭「お名前は?」
「えーっと、乱歩さんに桜月おねーさん!おねーさんが銀行強盗に人質にされてて...」
蘭「えっ!?大丈夫だったの?」
「うん!一人で倒してたよ!すっごかったんだ!」
これには二人とも絶句だった。
無理もない。
14歳の少女がまさかの一人で銃を持った男相手にたちむかって、倒したんだから。
「桜月おねーさん、14歳なんだって!」
でれー、と鼻の下を伸ばしてた(可愛い人や綺麗な人を見たらすぐこうなる)おっちゃんも、流石に未成年に手を出すほどヤバくはないらしい。
すぐに元の表情に戻った。
...彼女には、何かある。
不自然な点は幾つもあるし、何より__
買い出しから戻ってきた安室さんを見て、一言。
オレ以外に聞こえた人はいないであろう程の声量で、呟いた。
バーボン、と。
たしかに組織に関係している人物なら、体術に秀でていてもおかしくはない。
でも組織はまさか、14歳のこんな華奢な少女に、コードネームを知らせるほどの立ち位置に着かせるのか。
考えれば考えるほどわからない。
おまけに安室さんが電話番号を持っているとのことだった。
「安室さんが」交換するよう頼んだ、というニュアンスで。
あの少女には、絶対に何かある。
...今のオレの姿じゃ、あの人の事を「少女」とは呼べねーけどな。
小学生だし。
乱歩「ねーぇ、上の探偵事務所の毛利って、」
「乱歩さん!?」
沖矢「えぇ。彼のことです」
いつの間にか二人も混ざりながら、わいわい話していた。
...安室さんがメールアドレスを交換してほしいと頼んだ時は、店内中がしんとして沈黙に包まれたけれど。
...
梓「お二人の関係は!?」
店内中の女子高生、どころか全員が、梓さんと桜月という少女、そして安室さんのやり取りに耳を澄ませていた。
---
桜月side
わ、ゃ、やばいってねぇ!!
組織の事バレるよ⁉
あ、あむろさんっ!?
何時の間にか、あわあわとする私の背後に立っている安室さん。
反応する間も無く、後ろから覆い被さるように抱き着いてきた。
安室「彼女と僕は恋人同士です」
「はいぃいっ!?」
私の叫びは店内中の女性の絶叫にかき消された。
「違います違います私彼氏います違いますよ断じて違います!!!」
後ろから頬に掛ってくる金髪を如何にか振り払って手を振りながら否定した。
梓「桜月ちゃん!!そうならそうと早く言ってくれればよかったのに~!!」
「違いますよ本当にっっ!?」
蘭「桜月ちゃん!!そうなの!?安室さんの彼女なの!?」
「厭だから違っ...え、あの、毛利さん、って初対面ですよね!?」
--- 「なーにやってんだよ手前は」 ---
慌てている所に、聞きなれた声が響いた。
もう一度、店内が静まり返る。
バックハグ中の安室さんから奪い返すようにして、今度はいつの間にか中也の腕の中だった。
「ち、中也っ!」
もはや蘭さんや梓さん(+見知らぬ女子高生)の悲鳴しかない。
...事件だと思って通報されないかな???
中也「…此奴は俺のモンだ。文句ある奴は居るか?」
静かに、けれどはっきり、そう云った。
安室さんは眉尻を下げながら笑って云う。
安室「すみません、彼女のことをみるとからかいたくなってしまって...」
梓「でも安室さんからそういう事思うのって珍しいですよね!?」
蘭「そうですよ!!やっぱり特別な感情があるんじゃ...」
この世界で初めてのカフェでは、女子高生を数名気絶させ、通行人が事件と勘違いして警察を呼びそうになるという事態を起こしてしまった。
...今頃気付いた。今日日曜日だからJKも学校ないんだ。
自分も斃れたい位疲れたせいで、中也の腕の中がすごく心地よかった。
犬猿の仲
時系列とか口調とかめちゃくちゃかもだけど本当に許して下さい!
コナンあんまり知らないんですよ!!
昔にわかファンだったのがまたちょっと燃えてきたところ最中なので!!!
空気が気まずい。
「あはは…」
とりあえずカウンター席に中也を座らせて、梓さんの方へと体を方向転換した。
梓「桜月ちゃん...やるね」
「何がですかっ⁉」
梓「だって安室さん、JKにモテモテなのよ!?それなのに桜月ちゃんだけちょっと対応の仕方が違うというか何というか…それに彼氏さんもいるんでしょ?」
乱歩「オマケに太宰からも...変人に好かれる体質でもあるんじゃない?」
蘭「だ、太宰って人は分からない、けど…でも桜月ちゃん可愛いから納得かも…」
「蘭さんの方が可愛いですよっ!!」
左隣から蘭さん。
蘭「そんな、蘭さんだなんて…敬称外して大丈夫だよ?」
「うーん、、蘭、ちゃん...?」
蘭「そ、れも可愛い、けど、」
「ら、蘭、ねぇ?」
蘭「それよ!年が離れ過ぎない妹みたいで可愛い...」
そしてギュっと私に抱き着く蘭さん。
羨ましそうな梓さん。
ムス、と安室さんを睨んでいる中也。
ポーカースマイルを崩さずに笑っていない目で中也を見ている安室さん。
沖矢さんは乱歩さんに探りをかけているみたいだし。
コナンくんも私のこと探ってるみたいだった。
最近の小学生って怖いんだなぁ、って思いました。
そして、他のお客さんが一通り退散した後。
毛利親子とコナンくん、沖矢さん、安室さん、梓さん、そして中也と私の、何ともちぐはぐなメンバーでテーブル席で団らんしていた。
蘭「そう云えば、桜月ちゃんは14歳...中学生、だよね?」
「ぁ、えっと、そう、ですね」
口籠った私を見て、安室さんは不思議そうに云った。
安室「もしかして、何か事情でも?」
中也「…此奴は幼い頃に親を亡くしてんだ。」
そう云って、中也は周りに「何も聞くな」とでも云う様に、じっと見渡し、睨んだ。
蘭「っご、ごめんね…」
流石に皆も驚いたようで、申し訳なさそうに私を見ていた。
...なんか逆に申し訳ない、、
「だ、大丈夫ですよっ、お姉ちゃんもいましたし…慥かに色々あったけれど、...」
--- —「…今は、楽しい、ですから___...」— ---
---
???side
--- —「…今は、楽しい、ですから___…」— ---
そう言った彼女の瞳は、青く、悲しそうに揺れていた。
悲しみの色と、悔しさと、どうしようもないやるせなさ。
その感情は、自分に似ている。
僕も...俺も、その感情を知っている。
大切な人をことごとく失くして、ずっと、まっすぐ走り続けてきた、僕に似ている。
...だから、
だから彼女は、
素でいられる人は必要だと、そう言うことができたのだろうか。
僕の事を、見抜いているのだろうか。
...考えれば考えるほど、分からなくなる。
周りで話が盛り上がっている中、悶々と考え続けていると、携帯が震えた。
コナン君に教えられて気づく。
誰かと思ったら風見だった。
一言断って、一度店の奥に行き、通話ボタンを押した。
風見「…突然すみません、……お出かけ中でしたか?」
「いいや、大丈夫だ。何かあったか?」
風見「この間の銀行強盗を制圧した少女について、昨晩より詳しいことが分かったので、ご報告を...」
「それで...内容は?」
風見「______。」
「…は、?」
今の言葉にあまりにも驚きすぎて、数秒間思考が停止した。
風見「…ふ、《《降谷さん》》ッ?」
「…あぁ、いや、何でもない。それより、その情報は確かなのか?」
風見「はッ、はい!しかし、これ以上は何も出て来ず…」
「そうか、...また何かわかったら連絡してくれ」
そのまま、通話を断つ。
背後から気配がして振り向くと、そこにある姿は予想通り。
コナン「桜月さんについて調べてるんだよね?」
「あぁ、彼女は警察__政府系列の、かなりお偉い方の位置にあるかもしれない、との情報だった」
この情報には目を見開いた。
「…マフィア__組織との取引に、幹部として現れていたのに」
コナン「…乱歩さん、って人なんだけど、武装探偵社っていうところの社員なんだって!」
「探偵社、か…考えれば考えるほど分からないな」
--- 「そりゃそうだよ...私たちにも分からないもの」 ---
店の更に奥から聞こえて来たのは、今まさに話していた話題の中心。
澄んだ可愛らしい声が、どこか悲しげな、憂いを含んだ声だった。
桜月「貴方達は一体何者ですか?」
瞬くと、パチパチと音がしそうな睫を持つ、その綺麗な瞳は細められている。
「桜月さんこそ、いつの間にそちらにいらっしゃったのですか?...まさか、盗み聞きをしようと?」
桜月「私も電話です。...抜けたのに気付かれない程、考え事をして居らっしゃったんですね」
僕と彼女の間に、目に見えない緊張が走る。
...やっぱり、ただものじゃない。
コナン「桜月おねーさん、蘭姉ちゃんが遅いなーって心配してたよ!行こっ?」
桜月「あ、っう、うん…!」
緊張を破ったコナン君に連れられ、元の席へと戻っていった桜月さん。
僕の方を振り返り振り返り、気にしながら__歩いていった。
僕の事を今日話すつもりだったけれど、もう少し先にした方がよさそうだ、と思った。
マフィアの少女は軍警?
会話中、電話がかかってきた。
見ると、首領からだったから、断って店の奥で電話に出させてもらった。
「…はい、」
首領「突然すまないね」
「どうかされましたか?」
首領「…テニエル君の能力は、消失を確認されなかったよ」
「…え、っ?」
首領「それから、私達の能力も徐々に戻りつつある。其方は如何かな?」
「…異能力、四季__『桜』」
そう唱えると、確かに数も少ないし、何処か儚いけど___
「戻ってる…!」
首領「この影響は一時的なものだったようだね、」
「…ありがとうございます。あ、それと多分正午ごろには戻ります!」
首領「判った。何か情報が入ったら頼むよ」
「了解です」
そして、戻ろうと振り返った時。
安室さん__バーボンが、電話しているのが見え、聞こえた。
__マフィア幹部の電話の内容。
---
戻ると、そろそろお開きにしようかという所らしかった。
「あ、ハムサンド食べ損ねた…」
ポアロのハムサンド美味しいって聞いてたから楽しみにしてたのに…
安室「あ、それならお持ち帰りしますか?現物はできてるので」
電話していた時とは打って変わって、人当たりのよさそうな笑顔をまた浮かべる安室さん。
「んん~…お願いしますっ!!」
少し悩んで、頼む。すると彼は、嬉しそうに頷いた。
中也「じゃ、ここの会計は俺がするので先に外に出ててください」
蘭「えっ、申し訳ないですよ!大丈夫です!」
「あ、お金なら心配には及びません!お近づきになれたお礼ですからっ!」
毛利「中学生から出た言葉とは思えない…」
沖矢「と、取り敢えず彼にお会計は任せて、外に出ましょうか」
乱歩「あ、仕事があるから先帰るねぇ」
「判りました!頑張ってくださいね、名探偵のお仕事!」
毛利「…と、とりあえず外にい、行くか」
コナン「はぁーい!」
安室「ありがとうございましたー!それと、お持ち帰りのハムサンドです!」
「ありがとうございますっ!」
梓「桜月ちゃん、また(恋バナしに)来てね!!」
「は、はいっ!」
と、なんとも不思議な一行が出来上がったのだった。
そして、中也が支払いを済ませ、店外に出た後。
「では私は仕事があるのでそろそろ失礼しますっ!」
なぜか大きなタッパーに大量に詰められているハムサンド。
何とか両手で抱えながらぺこりとお辞儀をした。
中也「じゃ、俺もこれで」
沖矢「ちょっと待ってください、桜月さん、仕事をされて…?」
「あっ、えと、その…一応、これでも中也たちの所に居させてもらっている身なので、手伝い程度に…」
とでも云わなければ怪しまれるんだろーな…
コナン「あれ、桜月おねーさん、スカートにゴミが付いてるよ!取ってあげる!」
コナン君が手を伸ばすと、中也がさっと私のスカートを掃った。
中也「…取れてるか?」
コナン「あ、うん、!」
「子供に嫉妬とは、醜いねぇ中也!」
蘭「ぇ、!」
「あ、太宰さん!?」
中也「糞太宰!?」
太宰「姐さんたちが朝から心配してたよ、それとボス?テニエルも」
「あ、ごめんなさい…」
中也「…首領は?」
太宰「桜月ちゃんが何となく行ってそうなところを考えてたから大丈夫じゃない?」
「…二人共、皆さんのこと忘れてる…」
「「あ」」
ぽかんとしている蘭ねぇに毛利さん。
やっぱり探るような様子のコナン君に沖矢さん。
「…すみません、この二人が本気で喧嘩したら地球滅ぶので、一旦帰ります」
中也「はァ!?流石に俺は荒覇吐をこんな街中で使ったりは…」
太宰「私は何時でも女性に優しい紳士な…って其処の貴女!!」
蘭「え、私、ですか…?」
太宰「美しい!名前の通り、蘭の花如く華やかで雅!!如何か私と心中を…」
「ふざけないでください!!!」
跪いて手を差し出す太宰さんに、思い切り横蹴りを喰らわせた。
太宰「ぐはぁ」
「”ぐはぁ”なんて演技の声しないでください!!それに蘭ねぇきっとこんなに綺麗なんだから彼氏いますよ!!?」
蘭「え、っいやいや!!桜月ちゃんの方が可愛いから!!」
「ほらっ!!絶対彼氏さんいますよ!?」
中也「桜月、落ち着け?」
太宰「なら桜月ちゃん、君が一緒に心中…」
中也「ぶっ殺すぞ手前」
コナン「物騒…」
蘭「迫力…」
毛利「冗談には…」
沖矢「聞こえませんね」
「…取り敢えずこれで失礼します…地球滅ぶ前に保護者連れてきます」
紅葉姉さん、首領、社長、与謝野先生にお姉ちゃん…
おずおずと頷いた四人を見て、もう一度ぺこりと頭を下げ、路地裏に走った。
「何やってるんですか!?危うく民間人を巻き込んで異能を使う事になりかねませんでしたよ!?」
中也「あぁ…悪ィ」
太宰「…そうだね、視線を感じた__彼らは何者だい?」
「恐らく昨日か一昨日取引した…通称、黒の組織と呼ばれる人たちかと」
中也「和平協定は結んだんじゃねぇのか?」
「…多分彼らは暫くしたら破る。」
太宰「成程、インフラクト、だね?」
「はい。そんな中、監視されていることに気付いて居ながら…何故街中で、おまけにあの四人の前で、喧嘩を始めかねない事態にしたんですかっ!?」
中也「あぁ…あの二人は怪しかったな」
太宰「糸目の眼鏡の人と、あの少年だね?」
「…取り敢えず、戻りますよ」
そのまま、私は二人が火花を散らさないように睨みながら、人目に付かぬように朱雀に飛び乗った。
直接触れないように何度も釘を刺してから、太宰さんをペガサスに乗せた。
中也は異能で大丈夫だから、と自分で飛んだ。
…この世界は、訳が分からないなぁ……
如何したら、いいんだろうね。
I'm …tired(?)
「っていう感じだったのでこの大人二人にすっごい腹が立ってます」
首領「桜月ちゃん、笑顔で小刀構えるのやめて?」
紅葉「それと先程から奇獣たちが威嚇しておるのじゃが…」
「あ、大丈夫ですこれ中也と太宰さんに向けてなので」
敦「(大丈夫じゃない…)」
国木田「にしても珍しいな、桜月が其処まで他世界の一般市民を気にするとは」
「いや、これでも元探偵社員ですし…それに、好きで人を殺したりとか、してるわけじゃないので…」
周りの空気が一気に下がった。
いつの間にか私の背後には黒妖犬。
谷崎「さ、桜月ちゃん…後ろに居るの、は…?」
「…あぁ、黒妖犬…グリムとも呼ばれる犬です。」
またの名をブラックドッグ。
狼のように大きな体つきに、真夜中の夜の色の黒。
きっと、闇に溶け込めば見えないと思う。
何より、
爛々と光る、燃えるような赤い瞳。
「…死神犬、と外国では呼ばれることもありますけど。」
更に気温が冷えた様子の空気に、何故かいきなり泣きたくなった。
「グリム、戻って。急にごめんね」
すると私の頬に優しく擦り寄った後、空中に駆け上がって消えた。
気温が、段々と戻っていった。
「…先日、新しい奇獣を少し降ろしたんです」
谷崎「そ、そうだったンだ…」
「グリム、それから、三頭犬__詰り、ケルベロスも。」
グリムは墓場の守り人。
ケルベロスは冥界の番人。
「あと、兎。」
太宰「…兎」
中也「…いや、其処まで禍々しい雰囲気の奴が来て次が兎かよ!?」
「…悪かったね可愛い兎でっ!!」
与謝野「まぁまぁ、今は取り敢えずこれからの事を考えるんじゃないのかい?」
樋口「は、い…先輩!」
芥川「…元の世界に戻る事、それから例の組織の事、探偵社とマフィアの協定状況に関して…ですね?」
首領「そうだよ、まずこの状況だから、、探偵社との協定状況を優先しようか」
社長「…で、如何云う意向をお持ちか、森|医師《せんせい》」
首領「私は別に…協力関係でも異言はありませんが?」
社長「…信じられる根拠は?」
首領「桜月ちゃんですよ」
「はい?」
社長「…何?」
正気か、とでも言いそうな顔の社長。
なんか私の知らないところで勝手に私を取引されてるんだけど…
首領「もしも此方が協定を破るような事があれば、桜月ちゃんは探偵社に」
社長「だがこの世界には特務課もない、この取引を後に裏付けるものもないが?」
「…、もしかして、咲夜、ですか?」
首領「よく判ったね」
そう云ってにっこり笑う首領。
首領「咲夜君という存在は、どちらにも着かない。…つまり、完全なる中立、もしくは桜月ちゃんの味方です」
社長「…彼女に証人となってもらう、と?」
国木田「…しかし、危険です、社長__」
首領「それでも不安となれば、そうだねぇ…太宰君のことはさっぱり諦めることにするよ!」
太宰「嘘森さん未だ私のこと諦めてなかったの?」
首領「当然だよ。君は優秀な幹部だったからね」
「取り敢えず咲夜呼びますね??」
太宰「厭だ絶対戻らない」
首領「どうにかして連れ戻すよ」
「…咲夜呼びますよ。これ以上何処かで火花散ったら…分かってますね?」
敦「(怖い!桜月ちゃんが怖いよ!!)」
谷崎「(昔チラッと流れで桜月ちゃんの事ディスったみたいになってるの未だ怒ってたらどうしよう…←共食い見破ってた桜月ちゃんに、こんなに頭良かったっけ発言してます)」
国木田「(…子供な大人が多い…予定が大幅に遅れてしまっている!!桜月!!もっと脅せ!!!((()」
鏡花「(桜月…さっき兎を出したとき手に乗せて顔を綻ばせてたの可愛い)」
与謝野「(…取り敢えず|妾《アタシ》は桜月が来てくれることを願っておこうかねェ)」
賢治「(桜月さんは可愛いのにこうやって怖くもなれる…都会って凄いです!!✨)」
ナオミ「…心の中が皆さん荒れていますわ」
「あっ…ごめんなさい…」
敦「(めっちゃシュンってしちゃったよ…!?)」
「さ、咲夜…一寸来て…」
すると、お姉ちゃんの夜叉の様に、私の背後にするりと現れた咲夜。
咲夜「…この空気を如何にかしろって云うのなら無理よ??」
「うぅん、、しばらく証人になってほしいだけ…」
「取り敢えず、首領、社長、結論は?」
社長「…相異ない。我々探偵社とマフィアは、元の世界に戻るまで協力関係に置く」
首領「マフィアがそれに反するなら、謝意により泉桜月の受け渡し、太宰治に対する返還希望を全て消す、二つの条件を」
社長「ただし、探偵社が反した場合は、元の世界に戻ったその時からマフィアの傘下として働くことを示す」
「他の皆さんも、他意ありませんか?」
見たところ大丈夫そうだったから、頷いて咲夜を見た。
咲夜「…判った。何が起こっているかは知っているわ。だから、全てが終わるまで、私は証人として立つ」
「なら、書類はなしにしろ、これで協定は成立ですね。もし咲夜の身に何かあった場合、第二次証人は__ボス、ジョン・テニエルにお願いします。」
ボス「…は、俺?」
「この面子の中で咲夜の次に中立できるのはボスでしょ」
ボス「いや、確かにそうだけど…いいのか?」
「うん。ボスの性格諸々考えて云ってる。」
ボス「…はぁ、判った。」
ひとまず安心。
一寸したいざこざはまぁ含まなくていいかという首領の一言の所為で、すでに中也と太宰さん、そして敦くんと芥川がにらみ合っている。
あぁもう…
また深く溜息を吐いたとき、携帯が震えた。
送り人は___
「蘭ねぇっ!!」
正しい選択
蘭ねぇから来たメールの内容。
はぁい!
さっきぶりね!
いきなりだけど、今度コナン君と仲良しの子供たちが東都水族館に行くの!
私は行けないんだけどね💦
そこで、よ!
もしよかったらついて行ってきてほしいの!
一応子供たちを見てくれる人はいるから、一緒に楽しんでほしくて…
ほら、この街に来たばっかりみたいだし!
OKだったらまた教えてね!
…えっ、
「…え、?」
「何それ、めっちゃ楽しそうなんだけどっ…!」
そして早速、OKとの返事を返した。
日程と時間も。
メール越しに楽しく雑談していると、また別の人から連絡が来た。
知らない連絡先。
なぜか嫌な予感がして、すぐさま開いて見た。
「__は、?」
バーボン。
安室透としてではなく、バーボンとしての連絡。
「…中也。緊急案件。」
まだ会議の名残で集まっていた皆の視線が、私に向けられた。
携帯を上に掲げて、見えるようにしてはっきりと云った。
「例の組織が、他の主要人物を紹介したいとの事です」
目を見開くマフィア。
探偵社の、事情を知る人は目を見開くし、知らない人はどうしたのかと首を傾げる。
「…首領、行ってきます」
首領「判った。武器は隠し持って、一応相応のドレスを__すぐに動きやすく、脱ぎ捨てられるようにしておくといいよ」
頷いて、身を翻した。
中也「…近くまで行く。何かあったときは直ぐに云えよ」
「判った!」
そして、手近なところに居た黒服さんに運転を頼む。
首領の助言通り、ちゃんと場相応ではある黒のドレス。
首周りはレースが透けていて、綺麗な刺繍が施されていた。
ちょうどよくふわりとした、いつもより落ち着いた雰囲気のドレス。
に見える。
けれど、腰の切り替え部分でロングスカートをさっと脱ぐ事が出来て、下には動きやすいショートパンツ。
ズボンを履くことはあまりないから慣れないけれど、確かに動きやすい。
黒色のさらりとした生地だから、ドレスの上半身部分との相性も悪くないからおかしくないし。
中也「来たな」
「ごめん、服がややこしくて」
中也「大方姐さんか樋口だろ?」
「うぅん、大元は首領」
中也「あぁ…ま、こんな時ぐらいあの人なりに色々考えてるんだろ?」
「そそっ!この下短いズボンだから!スカートはさっと脱げるし」
中也「んじゃ行くか、待ち合わせ場所は?」
「前と同じ__。」
差し出された手を取り、車に乗り込んだ。
「…あれ、運転者さんは?」
中也「いい。俺が運転する」
「えぇ、こんな所で労力使ってる場合じゃないと思って頼んだのに」
中也「他の男の運転に手前の命預けられるかよ!?」
「普通に任務で頼んでるしっ!」
中也「うるせぇ!!」
「あ、いっそのこと近くまでボスに送ってもらって、其処から徒歩っていうのは?」
中也「…それだな」
そして結局、ボスに頼んで送ってもらった。
「あ、バーボンっ」
ジン「…いつの間に仲良くなった?」
バーボン「少し…私情で」
口の端だけを釣り上げて笑ったバーボン。
そしていつもと変わらず不機嫌そうなジン。
「…それで、突然な呼び出しですね」
ジン「それに関しては俺に言うな」
バーボン「僕たちもいきなり言われたことで困惑している所です」
「成程…?__で、本題に入って下さい。私も…暇ではないので」
???「あら、随分と可愛らしい子がいるじゃない__この子がバーボンのエンジェル?」
「え、っエンジェル!?」
バーボン「はぁ…貴女は本当に…」
???「随分と初心なのね…顔が真っ赤よ?」
「っえ、ぁ、」
暗がりから出てきたのは、とてもスタイルのいい女の人だった。
綺麗なブロンドの長髪。
高い鼻に、緑がかった色素の薄い青い目。
とても…綺麗。
ベルモット「私はベルモットよ…宜しくね、小さなprincess」
「よ、よろしくお願いしま…っプリンセス、!?」
ベルモット「ふふっ、本当に可愛らしい子じゃない…貴女、マフィアの幹部なんでしょう?」
「は、はいっ!」
ベルモット「残念ね…私達側に入って欲しかったわ」
「え、ぇと、っあ、あの…ベルモットさん、!」
ベルモット「そんな恭しくしなくてもいいわよ、本当、妹みたいね」
「い、妹!?妹さんがいらっしゃるんですかっ!?」
ベルモット「いぃえ、貴女の反応が、よ」
「わ、私の反応…?」
ベルモット「そうねぇ…バーボン、良い呼び方を考えて頂戴?」
バーボン「…ベルねぇ、とでも」
ベルモット「あら、貴方にしてはいいセンスじゃない…」
「べ、っベルねぇ…」
なんかこの世界来てからお姉ちゃんがめっちゃ増えてる…
「っじゃなくて、ベルねぇ、一回何処かで会いませんでしたかっ?」
私の脳裏に浮かぶのは、何故かベルねぇとは程遠い、年老いたおばあさん。
彼女が困っていた時、咄嗟に助けたのは、また別の話。
ベルモット「…貴女の事、気に入ったわ」
「えぇ、!?」
一応カクテルの名前由来はあるけど、一寸色々捻ってます!
名前だけじゃなくて、意味とかも…
You're sister?
なんかめっちゃごまかされてる…
バーボン「…とにかく、彼女がベルモット__そして、ジンの背後にいるのがウォッカです」
ウォッカ「え、えぇと…よろしくお願いしますぜ、お嬢」
「か、片言…?ってお嬢、っ!?」
ジン「コイツは緊張してるだけだ。気にするな…お前のことを話したら、会うのが楽しみだとか何とかほざき始めた…」
ウォッカ「あ、兄貴…」
「えと、よ、よろしくお願いしますっ、ウォッカさん!」
ウォッカ「っ、」
サングラスを付けた少々厳つい体を、これでもかと云うほど強張らせて、ぎこちなく頷いた。
な、なんかごめんなさい…?
バーボン「それから、そこの女性がキャンティ。そしてその横が相棒のコルンです。」
キャンティ「アタイがキャンティさ!アンタが泉桜月だね?ジンに勝ったって聞いて、一度戦ってみたいと思ってたよ!」
「ぁ、え、えと、」
コルン「…質問攻め、困ってる...」
キャンティ「とか言って、アンタも気になるんだろ?そんな歳でジンに勝つ人間なんざ、いやしないと思ってたからねぇ」
コルン「考えた事も…なかった…」
「ぁ、ありがとうございます…」
バーボン「それと、そちらの女性がキール」
キール「…貴女のことは聞いてるわ。よろしくね、桜月…ちゃん、?」
「ぁ、えっと呼び捨てで大丈夫です、!よろしくお願いします…!」
黒髪の綺麗な女性。
この人めっちゃ常識人…
ヤバい人しかいないと思ってた…
バーボン「勿論他にもいますが、今回はこの場にいる人だけで」
「あの、一個聞いてもいいですか、?」
ジン「…なんだ」
「皆さんのコードネーム、?ってどういう由来なんですか?」
バーボン「全てお酒です。あぁそう、それから」
ベルモット「私達のボスから伝言よ…貴女のことを異常に気に入っているの」
「え、っ?何でですか!?」
ベルモット「知らないわ。まぁ…気持ちは物凄く分かるけれど__貴女のことをこう呼ぶ、と」
ベルモット「選択肢は3つ。」
--- ニコ、シンデレラ、ベリー ---
「…私は組織の人間ではありませんよ…?」
ベルモット「あら、それだけ貴女の事を気に入っているってことよ」
「…ニコ、シンデレラ、ベリー、、」
「ニコ、がいいです、!」
どれも可愛い名前だけど、一番響きが好き。
笑顔、みたいで。
ベルモット「分かった。伝えておくわ」
「ありがとうございます、ベルねぇ、っ!それと、この名前を考えてくださった方も!」
バーボン「…貴女、本当にこちら側の裏社会の人間ですか??」
「えっ?私幼少期からこちら側なのでご心配なく!」
キャンティ「アンタ、裏社会側には眩しすぎるよ」
コルン「真っすぐ」
キール「あら、妹みたいでいいんじゃない?」
「また云われた…」
ベルモット「さっきも私が言ったのよ、妹みたいね、って」
キール「私達には居ないものね、桜月…ニコみたいな、可愛らしい子」
「か、かわっ…」
ベルモット「ほら、反応が可愛らしいじゃない」
バーボン「はぁ…とりあえずここにいるメンバーの紹介は終わりました。あとはお好きなように」
そして残ったのはやっぱりベルモットとキール。
キール「…ねぇ、バーボンとの関係は何なの?」
落ち着いた女性のイメージがあった彼女だったけれど、今は凄く目がキラキラしている。
ベルモット「まさか、ただの取引相手とは言わないで頂戴?バーボンの表情が明らか貴女にだけは優しいもの」
「えっ、そうなんですか!?」
キール「気付いてなかったの?」
「え、と、…はい、……」
すると二人は驚いた表情を隠さなかった。
その後、何とか二人の勢いを静めて、…なぜか連絡先も交換した後、無事に帰れることになった。
__良かった…戦わなくて済んで。
「ただいま、中也!!」
中也「手前今までどこで何してた!?」
「えっ、?」
中也「出発したのは14時、帰ってきたのは22時半だと!?どれだけ心配かけたと思ってんだよ!?」
「…ウソ、そんなに時間たってたの!?ベルねぇとキールと話してたらあっという間に時間がたっちゃって…」
中也「はぁ…取り敢えずボス__テニエルに連絡したから、暫くしたら戻される筈だ」
「わ、ありがとっ!」
ビルに戻るや否や、皆に心配だったと詰め寄られたけれど、凄く疲れていたからすぐに部屋に戻って寝てしまった。
She is a skill'd assasin.
そしてこの世界にも慣れてきた頃。
漸くマフィアとしての仕事が入った。
内容は暗殺。
猟犬が無くて助かる。
いや、なんか私、一応政府側『でも』あるみたいだけど。
絶対マフィア。
マフィアしか勝たん。
「いや任務終わりに考える事じゃない!」
中也「のわっ叫ぶなよいきなり!?」
「わ、っ中也一寸安全運転で!!」
ぐんと横に揺れてまた元に戻った。
此処は車の中。
外を見ると、真っ暗の高速道路。
そろそろ橋を渡るころかな。
そう考えていると、後ろから何やら騒がしい音が聞こえて来た。
車のぶつかり合う音__だろうか。
振り返ると、逃げる黒い車、それにぶつかりながら追う白い車、そして赤い車がその後を追っていた。
白い車に乗っているのはまさしく___
「中也、バーボン!!」
中也「はぁ!?」
「っていうかスーツ着てる!雰囲気違う!」
橋に突入すると、ぶつかり合いは余計に激しくなっていく。
中也も後ろでがしゃがしゃされるのに耐えきれなくなったのか、その3つの車の間に割り入っていった。
バーボン?「下がれ赤井!奴は公安のものだ!ってニ、っニコ!?」
バーボンらしき人がそう叫ぶ。
その瞬間、交錯する高速道路の上下から車が落下してきた。
間一髪で避ける車。
「…っ中也、此のまま運転続けて」
中也「てめ、っ何しようとして__!」
「御願い」
真剣な目で見ると、溜息を吐きながらも頷いた中也。
中也「怪我すんなよ」
「頑張る」
そのまま、走る車のドアを開けて車の上へと飛び出した。
少し後ろを走る白い車のバーボンらしき人と、赤い車の見知らぬ人と目が合った。
...一気に目が合うなんて、あの二人は気が合うのかな。
目を見開くバーボン。
やっぱり、|私《ニコ》のこと知ってるし__バーボンだ。
スカートが風にはためく。
髪が思いきり暴れる。
私の手にはしっかりといつも使う小刀。
車の上からは遠くがよく見える。
「あ、中也!この先渋滞してる!!」
中也「はァ!?此奴ら如何する心算だよ...ッ」
いちいち会話するにも、車外と車内の差がある所為で、大声を出さないと声が届かない。
後ろでは大きなタンク車が落ちかけている。
「もう…何この状況っ!?」
渋滞の所為で止まった黒い車。
黒い車から覗く女性の顔。
口の動きからして...shit__って云ったのかな、?
言葉が分からない__外国人だ。
後ろでは赤い車から降りてきた男性が銃を構えている。
止まっていた黒い車は向きを変えてこちら側へと突っ込んで来ている。
中也「おい!如何する心算だ!」
「中也は車と狙撃を避けて!こっちは狙われてないから、狙撃範囲を避けたら追われることはない!!」
中也「桜月は!?」
「車に飛び乗って暴走を止める!!」
何か止める声が聞こえたけれど、聞かずに私は擦れ違う瞬間の__
黒い車に飛び乗った。
すごいスピード...っ振り落とされそう、!
なんとかサイドミラーを掴んで持ちこたえると、フロントガラスからボンネットに飛び乗った。
そのまま、小刀を突き立てる。
中にいた女の人は勿論、銃を向ける人も驚いた顔をしている。
けれど銃声は響いた。
その弾は男の狙い通り、車のタイヤ部分を貫通した。
そうなったこの車はもう操縦が効かない。
落ちかけのタンク車と衝突した瞬間、私は道路に飛び降りた。
そして、タンク車諸共車は落下して行った_。
橋の上での交戦だったから、下は海...
とんでもない轟音とともに、爆炎と風が届く。
中に乗っていた女性は、誰だったのだろうか。
何故追われていたのだろうか。
体に着いた煤を払い、立ち上がった。
パチパチと火花が散る。
「__い、ッ」
腕を見ると、派手に擦り剝いていた。
やってしまったなぁ、と思いながら、顔を上げた。
バーボンと、赤い車に乗っていた男性__黒髪に、緑色の目の吊り目の男性が、睨み合っている。
さっき二人は気が合うなんて思った自分を恨みたい。
絶対めっちゃ仲悪いじゃん。
安室「赤井…貴様…」
どうやら、見知らない方の人の名は赤井と云うらしい。
赤井という人は顔を背けて携帯を取り出した。
赤井「取り逃がしました。後始末を頼みます」
後始末。
そして、先ほど聞こえた言葉。
バーボンの口から聞いた言葉。
「…バーボン、貴方公安、だったんですか?」
びくり、と肩を震わせて、此方を見た安室さん。
「先ほどの女性は何者だったんですか?何故追われていたんですか?貴方は何故組織に居ながら警察という立場に?私と同じじゃあるまいし…」
安室「…詳しい事を今この場で話すのは不味い。また、追って連絡する」
そのまま、正体不詳の安室透という男は去っていった。
そして、赤井という男性も。
中也「桜月ーーーっっ!!!」
---
先程の騒動が起こった橋の向こう側。
東都水族館では、眩しい程の綺麗な花火が上がっていた。
互いの無事を安堵し、橋のてっぺんから並んで花火を見下ろす二人のマフィア。
その一方で、暗がりに倒れこむ女性の影があった。
先程、安室と赤井に追われていた者。
纏められていた長い銀髪は散乱し、びしょびしょに濡れて怪我をしていた。
左右で色の違う瞳を上げると、そこには水族館の眩しい花火。
爆発音とともに、夜空が閃光で染まる。
声にならない叫びをあげながら、その女性は頭を抱えて蹲った。
Events she did not see.
何かの情報網伝達機だろうか。
暗闇の中、それらを探る一つの女性の影。
スタウト。
リースリング。
ライ。
キール。
バーボン。
次々に様々な人の情報が表示されては消えていく。
その女性は覗いていた機械から立ち上がり、カラーフィルムのような物を5枚、重ねられたものを取り出した。
フィルム越しに、目をカっと見開いた、その時だった。
いきなり電気が付き、明るくなった。
「そこまでだ」
眼鏡をかけた男性が、声を発した。
刑事とみられる男たちが手に拳銃を以て、構えている。
しかし女性はスーツの儘で彼らを物ともせず、拳銃を持った男を次々と倒した。
そして、俊敏に駆けだす。
人間離れしたようなその速さで、建物の中を駆けた。
廊下を曲がるとともに現れたのは、金髪に褐色の肌の男。
素早い動きで女__黒の組織の一人、『キュラソー』に拳を入れた。
はずみで飛んだコンタクトレンズ。
何時の間にか変装の黒髪は解け、長い銀髪が露になっている。
何より特徴的なのは、右は黒めに左は青目という特徴的なオッドアイ。
男__降谷零は、その目を見て何かを思った。
後ろに部下の風見が拳銃を構えて走って来るが、ハッと気が付くとキュラソーは窓ガラスを割って建物を出た所だった。
タイミングよく来た車を奪い、エンジンを鳴らして猛速度で進みだすキュラソー。
それを、赤色に白の二本線が入った車が追う。
そして、降谷も車で追う__。
キュラソーは片手にスマホを持っていた。
表示された文章は、
ノックはスタウト、アクアビット、リースリング。
あなたが気にしていたキールとバーボン
激しくぶつかる車同士。
しかし、メールの送信完了という文字が写った。
またぶつかる車。
火花が散っているのか。
それとも衝突の勢いで部品が飛んだのか。
---
「…っ、ふぁ、、」
目を覚ますと、ポートマフィアの医務室だった。
4時半...
腕に負った掠り傷は、不死鳥のお陰で全快。
...で、どうしよう。
バーボン、NOC、って事だよね。
「あーもう分かんないっ」
わーわー一人で考えていると、とある一つの事実に気が付いた。
「今日、子供たちと水族館に行く日じゃん」
時間はまだまだあるとはいえ、急いで準備を始めた。
「えっ、えっと、初対面の子達だから何かあげる...?あ、それから一日お世話になる人にも渡さなきゃっ、えーと、それからそれからっ…」
黒いミニスカに白いニット...
ふわ袖好き。
丈短めのを選んだけど…いいよね。
それに黒のカジュリュック。
リュックには色々入ってる__未だ内緒っ!
中也「ふぁあ...桜月、何処か行くのか?」
「うんっ!この前のコナン君と、お友達と!」
中也「一応怪我人なんだからはしゃぎすぎるなよ...」
「はぁい」
時計を見ると、色々準備していた所為か既に7時。
簡単に朝ごはんを作って食べた後、マフィアビルを出た。
向かうは先日蘭ねぇに言われた通りの場所。
何とか辿り着くと、変わった形の家の前で、子供たちが手を振っていた。
私も走って駆け寄ると、恰幅の良いおじいさんがにこにこしていた。
「阿笠博士ですねっ!お話には聞いております、!今日一日、お世話になります…!」
すると阿笠博士は笑って、そんなに硬くなるなと...笑ってた。
明るい人だなぁ…
???「お姉さんがコナンくんの言ってた人ー?」
???「きっとそうですよ!綺麗な青い目で可愛い人だって!特徴もぴったり当てはまります!」
???「なーなー!声掛けようぜ!」
???「いや、私に言わないで...」
コナン「桜月おねーさん!」
「コナンくん!久しぶりっ」
そしてぱち、とハイタッチ。
そのまましゃがんで子供たちに目線を合わせて、自己紹介をすることにした。
「えっと、、泉桜月です!好きな物は...兎と甘い物と可愛いもの!苦手なのは怖い物とかです!よろしくね…!」
すると子供たちは可愛らしく拍手をしてくれた。
可愛い…
歩美「えっとね、吉田歩美!少年探偵団の一人なの!」
「少年探偵団、?」
元太「俺たち、いっぱい事件解決してるんだぜ!」
「そうなんだ...!凄いねっ!」
光彦「ぼ、僕は円谷光彦です!お姉さんの目、綺麗ですね!」
「ぁ、そ、そうかな…?」
元太「その青色の目、見た事ねーし…空みたいだな!」
歩美「えー、海みたいじゃない?ね、哀ちゃんはどう思う?」
哀「わ、私?」
「哀ちゃん、って云うんだ、!よろしくねっ」
哀「え、えぇ……海とも空とも違うけれど、たしかに綺麗な移色ね」
「えへへ、ありがとうっ!」
コナン「ところで、そのリュックの中には何が入ってるの?」
「あっ、忘れてた!コナンくんありがとうっ…この中にはね、皆と仲良くなれたらいいなって思って、プレゼントを用意したの!」
歩美「えっ、ホント!?」
元太「マジかよ!!」
光彦「すごい…!」
哀「…博士とは大違いね」
阿笠「えっ?」
コナン「…あはは…」
ワイワイしているときりがなさそうなので、車の中でプレゼントを渡す事になりました。
この話のタイトルは、今回の冒頭部分の話を表す言葉。
『彼女は見ていない出来事』
My presents.
「えーっとね、まず歩美ちゃんには、このヘアピンと髪ゴム!」
歩美「わぁあっ!!」
目がキラキラしてる...!
ピンには可愛らしい動物の模様があって、ヘアゴムには可愛らしいリボンがついてるものを選んだ。
動物が好きだって聞いてたから、、
「どうかな、...?」
歩美「可愛い…!ありがとう桜月おねーさんっ!あゆみ、動物大好きなの!」
「よかったぁ...」
「光彦くんがこの手帳、なんだけど…」
国木田さんに、手帳職人さんに頼んで貰っておいたものが丁度この世界に来る前に届いたところだったから、ぴったりだと思った。
「実はね、これ、すっごい手帳職人さんが作った物なんだ…!だから、使いやすかったり役に立つことがあるかもしれないなぁって思って...」
光彦「めっちゃ嬉しいです!!ありがとうございます!!」
反応が無いと思ったら目がうるうる...
吃驚したけどかわいい…
「元太くんは食べるのが好きって聞いてたから...」
リュックの4分の一位を占める袋を取り出して手渡した。
「お菓子の詰め合わせにしたの!」
ばさ、がさ、と袋の中を見ると、目をきらきらさせていた。
もう可愛い…
元太「ありがとなっ!!」
コナン「いやもう食べるのかよ!?」
「あははっ」
「哀ちゃんのはね、大人っぽくて落ち着いてる子だって聞いたから、ポーチとちょっと苦めのチョコのセット、それからゆたんぽにしたの...」
哀「…どうして、ゆたんぽ?」
コナン「いやおい灰原プレゼントにどうしてってっ!?」
「疲れた時とか、ぎゅーってしたら心が和むよっ」
羊の形の湯たんぽをぴょこぴょこさせてそう云うと、何が面白かったのか、少し笑ってくれた。
よかった…
哀「ありがとう、大切に使うわ」
「うん、喜んでもらえたなら良かった、!」
「コナンくんは一寸分からな過ぎたんだよね…だから蘭ねぇに訊いたの、そしたらね!」
--- 『難しいと思うかも知れないけど、普通に大人用の推理小説あげたら喜ぶよ!』 ---
「って云ってたの!だから、短編集みたいな感じでちょこちょこ読める推理小説にしたんだーっ」
コナン「あ、っありがとう!」
うん、シンプルな反応。
それも可愛いんだけどね。
「あ、それから博士にはプティ・フール・サレのクッキーを!」
光彦「え、それ高級洋菓子店じゃないですか!?」
歩美「えぇっ、おねえさんすごい!」
元太「博士―、一枚くれよ!」
コナン「オイオイ...」
哀「ま、そうなるわよね」
「ふふっ、こうなることも予想して、車用のお菓子も用意してます!」
博士「わしよりずっと用意周到...」
元太「どこのクッキーだ?」
哀「クッキーなのは確定なのね…」
歩美「元太くんの食べ物の勘は絶対当たるもんね!」
光彦「すごいですよね…」
「凄い...クッキーだよ!元太くん、正解っ!!」
わーっ、と盛り上がる車内。
モンブランっていうお店の、ティーコンフェクトっていうクッキーなんですよ!!
めっちゃおいしいから一回食べてほしかった。
そんなこんなしているうちに、到着した。
車から降りると、大きな観覧車が目に入った。
「すっごい…!」
他の場所と空気感がまるで違う。
はしゃぐ子供たちに引っ張られるようにして、どんどんパークへと進んでいった。
途中でコナンくんが足を止めたため、つられるようにして止まった。
その目線の先には、ベンチで座っている女性。
「え、ッ!!?」
其処に居るのは、間違いなく昨日追われていた人。
バーボンからも、赤井さんからも。
__つまり、何らかの危険がある人。
コナン「ねーねー大丈夫?お姉さん」
???「え?」
コナン「顔汚れてるよ?わあ!お姉さんの目、左右が違うんだね」
ゆっくりと、驚かせないように近づいていくと、慥かに整った顔立ちだった。
「こんなところで...どうかされましたか、?怪我してる……」
コナン「スマホも壊れてるみたいだし…これちょっと見せて」
???「ええ」
画面が割れているスマホの周りには、幾つものガラスの破片がある。
哀「お姉さんはいつからここにいるの?」
???「えーと…」
哀「じゃあ、どこからきたの?」
???「わからない…」
「わ、っ…!?」
少し混乱してしまったため、一旦中也を呼ぶ事にした。(何故)
スマホを取り出して、パッと連絡。
東都水族館で昨日追われてた女性発見。
記憶喪失かも。
来て欲しいです。
GPSオンにしておくね!
来た時に何処に居るかすぐわかるように。
コナン「お姉さん、名前は?」
???「名前?ごめんなさい…わからない…」
コナン「たぶん車に乗ってて事故にあい、頭をケガした」
哀「何でわかるの?」
ホントに其れです。
何故解ったんですか???
コナン「このスマートフォンが完全に壊れる程の衝撃を受けてるし」
散らばるガラスを手に取って云った。
コナン「見ろよ、車のフロントガラスの破片だ。その車、割と古い車種だろうな…最近の車はガラスが飛び散らねぇようにフィルムが挟んであっからな」
もう怖い…
これだけ推理力あったらそりゃ推理小説好きだわ…
っていうか私のことも推理されてるんじゃない???
What secret do you have?
コナン「お姉さん、他に何か持ってない?」
コナンくんがそう云うと、立ち上がった女性。
黒いタイトスカートのポケットを漁ると、何かカードの様な物を取り出した。
?「これは?」
コナン「お姉さん見せて」
「私も見ていい、ですか?」
?「えぇ、いいけど、」
しゃがんでコナンくんが持つそのフィルムカードを覗き込んだ。
緑、黄、白、青、赤、の5色が重なるそのセロファンの様に半透明のカード。
単語を暗記するのに使うカード、みたいな形...
何かこの色の組み合わせ、見たことある気がする。
...気の所為かなぁ、...
光彦「誰ですか?その女の人!」
歩美「うわぁ、お姉さんの目、右と左で色が違う!きれー!」
駆け寄ってきた子供たちの言う通り、昨夜の女性と同じようにオッドアイ。
右が黒に左が青...
光彦「お姉さんはオッドアイだと思いますよ」
元太「オットセイ?」
光彦「オッドアイ!左右で目の色が違う事です!」
「よく知ってるねぇ、光彦くん凄い...!」
えへへ、と照れたように笑う光彦くんに、褒めてもらってずりー、と口を尖らせた元太くん。
哀「このお姉さん事故にあってどうやら記憶喪失になってしまったみたいなの」
博士「ホントか!?しん…あ、いやいや…コナン君」
コナン「ああ、もしかしたら昨夜の事故に関係が…」
「しん……?」
博士「あ、いや、知り合いにいる新から始まる名前の子とコナン君がよく似ててのう!」
「そ、そうなんですね!?」
慌てたように私に弁解する博士。
...何かある。
博士「と、とにかくすぐに警察に...」
?「やめて!」
瞳孔を見開いて怯えたように否定した女性。
...昨日の記憶は朧気に残っているのかな、。
「無理やり連れて行かなくても、取り敢えず私達と一緒に行動すれば大丈夫じゃないですか?」
私が提案すると、あからさまに緊張を緩めた女性。
と思ったら、コナン君がいつの間にか向けていた携帯で、カシャ、と写真を撮った。
ハッとそちらを見て、顔を覆う様にして動いた。
博士「これこれ!いきなり写真を撮るなんて」
「大丈夫ですか、?」
背中に手を当てて、問うと小さく頷いた。
コナン「待ってお姉さん!警察には通報しないよ!お姉さんの知り合いを探す為に写真が必要だったんだ」
?「私の…知り合い?」
コナン「うん!僕達に記憶を取り戻す手伝いをさせてよ!」
歩美「私達がお姉さんの友達探して、それで記憶を取り戻してあげる!」
「無理しないでくださいね、何かあったらすぐ言って下さいっ!」
笑顔を浮かべながらそう云うと、彼女は未だ硬い顔を少し和らげて、ありがとうと云った。
---
毛利探偵事務所にて__
蘭「お父さん!!」
ソファでぐっすり鼻提燈を掻いて眠る父、毛利小五郎。
そして、腰に手を当てて怒りながらその父を起こす毛利蘭。
耳元で叫んだのが効いたのか、跳ね起きて転がり落ちた。
蘭「これコナン君から。記憶喪失の人を保護したから警察に届けてくれって。とりあえず高木刑事には言っといたけど、お父さんも協力してあげて」
蘭はそう云い乍ら携帯の画面を見せた。
其処に写るのは、先ほどコナンがいきなり撮った写真。
早速頬を染めながら美しいと叫ぶ小五郎。
毛利「ほう!その依頼!この名探偵が引き受けた!」
机に飛び乗って決めポーズを決めた毛利に、蘭の言葉は届かなかった。
何故なら__
蘭「依頼じゃなくて……もう!」
既に、探偵事務所を飛び出していたからだった。
---
東都水族館傍の喫茶店__
テーブル席に一人で座り、パソコンと小型カメラを並べる金髪の女性。
右手には双眼鏡。
パソコンには組織の一員__そして、たった今コナン達と遊園地にいる女、キュラソーの情報が映っている。
ベルモット「見つけたわ、ジン」
ジン「どこだ」
ベルモット「東都水族館よ。安心して。すぐに連れて帰るわ」
そう云って、に、と口の端を上げた。
---
--- High Scores!! ---
カランカラン、と鐘の音。
元太「すげー!」
「お姉さん凄い…!!」
お姉さんの前にはダーツ。
なんと、三つすべてが中央に刺さっていた。
「それじゃ景品のキーホルダーを三つ選んでね」
とスタッフさん。
光彦「三つもいいんですか!?」
歩美「あれ?お姉さんの分は?」
?「私は大丈夫よ。気にしないで」
元太「でもよ…桜月姉ちゃんのも……」
光彦「何よりお姉さんが取ってくれたものですし…」
「あっ、じゃあ私一回やってみてもいい?取れたらお姉さんにあげますからっ!」
?「わ、私は大丈夫だから…」
「折角だし、思い出に!」
そう説得して、子供たちも良いよと言ってくれて、私はチャレンジした。
結果は___
歩美「桜月おねーさんもすごい!」
元太「そうだよ、落ち込むなって!」
光彦「まさか真ん中に穴を開けちゃうなんて…」
「だって...穴開けちゃったから景品は大丈夫ですって云っちゃった…」
そう、結果は二つを的の中央に、最後の一つはなんと貫いてしまった。
「で、でも二つ貰えたので一つどうぞっ!!」
?「で、でも...」
博士「おーい!ここじゃここ!」
驚いて上を見ると、博士が観覧車の土台__丘の上の様になっている所__から手を振っていた。
博士「観覧車が空いてきたぞ!乗るなら今がチャンスじゃ!」
元太「マジかよ!」
歩美「じゃ観覧車に乗ってから始めようか」
光彦「景色を見たら何か思い出すかもしれませんし!」
手を引かれたその時、ポケットの携帯が震えた。
謝って先に行っておいてと伝えると、手を振って駆けていった。
she is hero?
今では慣れた操作で、釦を一つ押した。
「はい、泉です」
安室「すまない。今いいか?」
「あ、今東都水族館です!」
安室「と、ッ...なら後でいい…折り返し頼む」
切羽詰まった様にいきなり切れた。
...口調が違う。
以前私が(恥ずかしい事に)熱弁してしまった、「素」というものなのだろうか。
ま、いっか。
帰ったら折り返し掛けたらいいんだよね。
そう思い、先ほどのダーツの所まで戻った。
哀「すみません。さっきダーツをしていた銀髪の女性に見覚えはありませんか?」
「うーん…見覚えはないかな…」
「あれ程の腕前のお客さんは忘れるハズがないからね」
全部ダブルブルに…
...その横の的は穴が開いてスタッフさんが困ってたけど。
…
「…ごめんなさい…」
「だ、大丈夫だよ!仕方がないよ、加減を間違えちゃっただけだからね」
なんか余計に申し訳なくなった。
「あ、そうだ!これをさっきのお友達に渡して貰えるかな?」
そう云ってスタッフさんがコナンくんに渡したのは、真っ白のイルカのキーホルダー。
「色を塗る前の試作品が余ったんだ。あのお姉さんの分が足りなかったから、これでよかったらと思って…着色がまだだから、好きな色を塗って楽しんでねって」
なんていい人なんだ…
この人が報われる社会でありますように...(?)
「それと...はい、君も。さっき2つしか渡せなかったからね…白色でよければ!」
「っえ、い、いいんですか、?ダーツに穴開けちゃったのに…」
俯く私に、苦笑いのコナン君と哀ちゃん。
「もちろんだよ、楽しんでね!」
白いイルカを手渡して手を振ってくれたスタッフのお兄さん。
「ぁ、ありがとうございますっ!」
この人報われてください。
本当に。
---
その頃、観覧車に乗ろうと並ぶ博士たち。
一緒にいるあの人も、笑顔が戻りつつあった。
その人と擦れ違い様に、何か云った金髪の女性__ベルモット。
ベルモット「こんな所で何を?帰りましょう」
突然声を掛けられて戸惑った様子の、記憶喪失のキュラソ-。
元太「姉ちゃん!」
キュラソー「、!...ごめんなさい。誰かに声をかけられたような気がして…私の勘違いだったみたい」
そのまま観覧車へと昇っていくキュラソーを、ベルモットは驚いたように見ていた。
ベルモット「計画変更よ。何かトラブルがあったみたい」
ジン「急げ。野放しにはしておけねぇからな」
---
観覧車へ歩いていこうかという時、観覧車へ上る途中__かなりの高さがある所から元太くんが身を乗り出して手を振っていた。
元太「おーい!」
コナン君が危ないと叫んだのもむなしく、元太くんは逆さになって、柵の縁を掴んで宙吊りになっていた。
「元太くんっ!!」
直ぐに隣にいたあの人が柵を乗り越えた、けれど、ただでさえ狭い策の外側で、人を引っ張るなんてできない。
__しかたない。
止むを得ない__
--- __異能力を、使う。 ---
「異能力『四季、桜』!!」
空中で固定した桜を階段の様に駆け上る。
できるだけ元太くんと同じ高さに。
早く、
早くっ
速くっ!!
でも、元太くんの腕の限界の方が早かった。
--- 「うわぁぁああああああ!!!」 ---
「異能力『奇獣、朱雀、青龍』!!」
そのまま、途切れた桜の階段から飛び降りた。
「元太くん―――――――ッッ!!!」
何とか空中で元太くんを抱えて、朱雀の脚を掴んだ。
周りの悲鳴。
恐怖や驚きに染まる表情。
全部が、スローモーションに見えた。
__その時だった。
何時の間にか観覧車の丸い部分を滑り降りたお姉さんが、私達を優しく包んだのは。
そのまま一緒に3人で滑り落ちた。
地面に着いた瞬間、お姉さんは元太くんを揺さぶって名前を呼んでいた。
?「元太君!大丈夫?しっかりして!」
「っ…異能力『奇獣、不死鳥』」
暫くすると、パチリと目を開いた元太くん。
安心して、気が抜けて、しゃがんだまま壁に倒れこんだ。
まだ、人前で能力を使ってしまった事は考えたくなかった。
医師「これで大丈夫ですよ」
博士「ありがとうございます」
園内の医務室にて、治療を受けるお姉さん___ではなく、博士。
光彦「何で博士が一番痛がってんですか」
じと、と博士を睨む子供たちに、苦笑いするしかない。
博士「君らも年を取るとわかるわい」
そういう博士に、全く似て居ない筈だけど__エリスちゃんに中年と云われる首領が重なった。
元太「じゃ行こうぜ!」
?「でも…やっぱり迷惑じゃないかしら」
元太「姉ちゃんも、桜月姉ちゃんも俺の命の恩人だろ!?」
「えっ、否、それはお姉さんが助けてくれただけだよ...!!」
そのままがやがやと話しながら、すっかり元気になった様子で歩いていく子供たち。
そんな中、哀ちゃんがコナンくんを呼び止めた。
哀「待って!江戸川君!ちょっと話が……桜月お姉さん、...は後で、」
「わ、分かった...?」
呼び出された訳はよく分からずに、取り敢えず頷いた。
応援コメありがとうございます…
それと暫く予約投稿になります…
すみません…。
Black organization?
「彼女が黒の組織、?」
哀「確証はない…けど、聞いたことがある……」
...云いたい。
合ってるよって。
恐らく彼女は組織の一員__
この間会うことができなかった人の一人なのだろう。
コナン「…それと...桜月おねーさん、」
--- 「元太を助けた時...何をしたの?」 ---
哀「異能力...って、何、?」
「っあ、えっとね、...」
どうしよう。
正直、この二人の前で誤魔化せる自信はない。
きっと……凄く、鋭いから。二人共...
でも、だからって正直に言ったら…もしかしたら、「本」の通り、
最悪この世界が消滅してしまうかも知れない。
「…私が所属する仕事場でね、特別な道具を渡されるの。それは人によって一人一人違うんだけど…それが、私のさっき使った異能力なんだ、」
哀「…そうなの」
コナン「それって、、、この前ポアロで言ってた、手伝い程度の...中也おにーさんのところ?」
「う、ん…中也も、異能力を持ってて…乱歩さんはないんだけど、超人レベルの頭脳を持ってるの」
哀「…乱歩さん、の苗字は、?」
コナン「…江戸川」
哀「その中也さん、の苗字は?」
コナン「…中原」
二人は意味深に顔を合わせた後、ふーっと息を吐いた。
コナン「ごめんね、桜月おねーさんありがとう!」
哀「あの子達の事、見ていてくれる?」
「わ、分かった!何か力になれたなら…良かったけど、」
コナン「もちろんだよ!」
哀「貴女のお陰で少し知りたいことが分かったわ、...ありがと」
少し頬を染めて、ふいっとそっぽを向きながらお礼を云う哀ちゃん。
...かわいい…
という事で、私は子供たちの所に戻された。
大方、あのお姉さんのことを話し合うんだろうなぁ、
光彦「あ、桜月お姉さん!」
歩美「戻ってきた!」
元太「ほら、早くいこーぜ!」
「っえ、ま、まっ」
隣のお姉さんを見ると、此方も困惑した表情で私を見ていた。
「あはは、元気ですね、、」
?「そうね、、」
そのまま手を引かれて一直線に走って行ったのは___
観覧車だった。
「わ、、凄い高い、、」
光彦「げっ!コナン君です」
元太「そんなん出ない方がいいぞ」
歩美「どうせ怒られるだけだよ!」
窓に張り付いて外を見ていると、子供たちの会話が耳に飛び込んできた。
どうやらコナン君から電話が来たみたいで…。
「まぁまぁ、、にしてもお姉さん、さっきは凄かったです!!」
?「そ…そう、かしら?」
光彦「お姉さんは何かスポーツをやってたかもしれませんね。じゃなかったら、あんな風に元太君を助けられませんよ」
歩美「そうかも!だってお姉さんスタイルいいもん」
「スタイル?そうかしら」
光彦「ええ!スーパーモデルみたいですよ」
歩美「桜月お姉さんも!すっごい可愛いし…テレビに出てるとか?」
「っえ、いや、私は背低いし可愛いなんてそんな…」
元太「小っせーからいいんじゃねぇか?」
?「…ふふっ、自信もって、」
「っお、お姉さんまで…!」
光彦「うわあ!皆さん下を見てください!虹が出てますよ!」
「え、ホントホント!?」
皆で外を覗き込んだ時、ふらりと椅子に座り込んだお姉さん。
頭を押さえてる…
「大丈夫ですか、?」
歩美「お姉さん大丈夫?」
?「大丈夫よ。少し眩暈が…」
光彦「きっと高い所が苦手なんですねぇ」
元太「もうすぐ一番上に着くぞ!」
その時、ちょうど緑、黄、白、青、ピンクの光が重なり合おうとしている所だった。
--- 「っうう、うあぁっ!!!」 ---
突然お姉さんが呻き声を上げ始めた。
元太「大丈夫か姉ちゃん!しっかりしろよ!」
光彦「すぐ助けを」
「お姉さん、しっかりしてくださいっ」
直ぐに脈をとったけれど、其処には異状なし、瞳孔に多少の痙攣があった。
__何か、記憶を取り戻しかけたのだろうか、
元太「歩美!光彦!なんか姉さんが変な事言ってんぞ」
?「―――」
「____っえ、…」
--- 「ノック」 ---
確かにそう言ったお姉さん。
NonOfficialCover.
それはつまり__
あの組織の工作員、諜報員のこと。
__お母さんやお父さんが政府の諜報員であったように。
光彦「何か思い出したのかも!歩美ちゃん、これでコナン君に電話してください」
何とか頭を回していると、光彦君が電話を歩美ちゃんに渡してこちらに来た。
光彦「元太君、お姉さんは何て?」
元太「何かドア叩けって」
?「キール…バーボン…スタウト…アクアビット…リースリング…」
歩美『コナン君助けて!観覧車に乗ってたらお姉さんの具合が悪くなっちゃって…』
歩美「頭を押さえて苦しんでるよ。何か言ってるんだけど…意味がわからなくて」
光彦「メモはしてます!」
歩美「光彦君がメモしてくれてる」
…バーボン、そしてキール。
頭の中を、真っ黒い絶望感が満たしていった。
「っ歩美ちゃん、電話変わってっ!」
歩美「えっ、う、うん!」
咄嗟に叫んだ私に驚いた様子の歩美ちゃん。
けれど、私の表情から何かを感じたのか、電話を手渡してくれた。
『コナンくんっ!貴方、お姉さんの存在__あの組織のこと、知ってるのっ!!?』
コナン「さ、桜月お姉さんっ!?__お姉さんこそ、どうして知ってるの」
『後で説明する__NOC、バーボン、キール_組織、昨日起こった橋での大事故、』
--- 『ここまで言ったらもう確信できるよねっ⁉』 ---
言葉を失った様子のコナンくん。
そのまま、私は話す気力を失って、通話を切った。
奇獣は、呼ぶにも呼べなかった。
観覧車を降りると其処には、すでに救急車が到着し、すぐにお姉さんを乗せて病院へと連れていった。
__コナンくんと哀ちゃんからの鋭い視線を、無かったことにしたいと始終思っていた。
She is...?and I am...?
刑事「コナン君!例の女性は?」
コナン「今医務室から運ばれるところ」
「…刑事さんと知り合いなの?」
コナン「うん!高木刑事と、あっちが佐藤刑事だよ!」
「そ、うなんだ…」
高木「えっと...?」
「あっ、自己紹介が遅れました、泉桜月と申します…以後お見知りおきを」
高木「た、高木渉です!...中学生、かな??」
「あっ、えと、色々事情があって社会人__年齢は14です!」
高木「年齢は14で社会人です!?」
この人、テンション高いな。
高木「そっ、そうなんだね!?」
「な、なんかごめんなさいっ!?」
佐藤「高木君、どうかした?」
高木「さ、佐藤さん!」
佐藤「、この子は?」
「泉桜月です!」
佐藤「へぇ、桜月ちゃんかぁ…よろしくね!」
そう云ってにっこり微笑む佐藤刑事は、とてもかっこよかった。
---
医師「これから彼女が搬送される警察病院の方に伝えて頂きたい事がありまして…記憶を失っているのは、頭部への強い衝撃が原因とみてまず間違いないんですが」
そう云って棒で指し示したボードには、脳のレントゲン、?
医師「それよりも、脳弓の部分に大変珍しい損傷が見つかりまして」
佐藤「昨夜の事故の怪我ではなく?」
医師「ええ、これはおそらく生まれつきのものだと…」
医師「検査の時わかったんですが、彼女の右目にこれが…」
お菓子を作る時に使うバットのような板。
その上には、一枚の黒いコンタクトレンズが乗っていた。
__扉の隙間から、ベル姉が覗いてる。
やっぱりお姉さんは、黒の組織の一人だ。
医師「黒い瞳に見せる為のカラーコンタクトレンズですね」
救急隊員「失礼します。搬送の準備が整いました」
佐藤「では我々もこれで」
私も立ち上がっていこうとした時、背後から声が聞こえた。
医師「ボクは一緒に行かなくていいのかい?」
コナン「うん。先生にもう一つ聞きたい事があって」
「コナンくんっ…す、すみません、お忙しいのに!」
医師「いいや、大丈夫だよ。で、どうしたんだい?」
コナン「さっきのカラーコンタクトの事なんだけど、片方だけ黒くみせてたって事はお姉さんの両目は元々青だったの?」
医師「それが右目だけ透明だったんだよ。いや、透明に見えると言った方が正しいかな。非常に珍しい事なんだけど、虹彩が強膜とほぼ同じ色をしている事によって透明の様に見える人だと思うよ」
「オッドアイのカモフラージュもオッドアイ...?」
疑問を浮かべた表情をコナンくんも浮かべている中、医務室に飛び込んできた人が一人。
毛利「ここか!?俺の依頼人がいるのは!!!」
後ろには水族館のスタッフさんが居て、必死に毛利さんを押さえている…
コナン「何やってんの」
「コナンくん、本音漏れてる」
コナン「…あはは、、」
毛利「小僧!ちょうどよかった!俺の美しい依頼人はどこだ!...って桜月ちゃん!あの依頼人がどこか知ってるか!?」
「えっわ、私!?」
コナン「もういないよ。さっき警察病院に搬送されてったから。それにお姉さんは依頼人じゃないよ」
コナンくんの一言は、毛利さんを意気消沈とさせるには十分だった。
...魂が抜けてるみたい。
---
ベルモット「様子がおかしいと思ったら、どうやら記憶喪失のようね」
ジン「それで?今どこに?」
ベルモット「警察病院に運ばれたわ」
ジン「警察も動き出したというわけか」
ベルモット「ええ、それと気になった事が…どうやら観覧車に乗っている時に彼女、発作を起こしたようなの」
ジン「わかった。お前は引き続き監視を続けろ」
ベルモット「了解...それともう一つ。今日の彼女の行動の傍には…ニコがいたわ」
ジン「…桜月が?何故だ」
ベルモット「さぁ…個人的な関わりじゃないかしら」
ジンは興味が無さそうに一度頷いて、電話を切った。
ジン「観覧車で発作…まかさな……にしてもニコ、か…」
何かを思案する様子のジンだった。
---
「じゃあ、今日一日ありがとうございました!」
歩美「えー、もう帰っちゃうの?」
光彦「折角ですし、もうちょっと遊びましょうよー…」
元太「なー、いいだろ?」
博士「すまんのう、子供たちが…ほら、仕事もあると言っておったじゃろ?」
歩美「でもお休みも必要だよー?」
「ん-、、そう、だね…じゃあ一寸だけ確認してみるね、」
そう話すのはポアロの前。
コナンくんは毛利さんと共にタクシーへ。
『...あ、もしもし、中也?』
『なんッなんだよ手前今何処だ!?』
『え、ポアロ前』
『遊園地に来いっつったのは何処のどいつだよ!?どれだけ心配したか__』
『っわ、分かったから...ちょっとポアロでお茶したら帰るよ、』
『はぁ…早く帰って来いよ』
『はーい、ばいばい』
「一寸だけなら…いいって!」
歩美「やったぁ!!」
光彦「やりましたね!!」
元太「早く行こーぜ!俺腹減った!」
店内で話して居る__けれど、安室さんの姿が見当たらない。
最悪の想像をしてしまったけれど、すぐに頭から消し去った。
__本当、あの人は何者?
コナン『博士まだ子供達と一緒か?』
博士『ああ、今ポアロでお茶をしとったところじゃ』
コナン『彼女が持ってたスマホの内部データの修復をしてほしいんだけど…』
博士『それは構わんが、完全に修復できるとは限らんぞ?』
コナン『ああ、それと観覧車で彼女が発作を起こした時、何か言ってたみたいなんだけど、その内容を知りたいんだ』
「えっ、それ、私云ったよ?」
コナン「なんかいきなり雑音が増えて…全然聞こえなかったんだ」
戸惑う間もなく、光彦くんが、書かれた文字を読み上げて行った。
光彦『えーと…スタウト、アクアビット、リースリングって言ってました』
「キールとバーボンも」
お酒の名前にピンと来たのか、コナンくんの声が張り詰めて来た。
コナン『博士!ポアロにいるんだったな?安室さんに代わってくれ!』
博士「安室さんか?そういえば今日見とらんのう」
梓「安室さんなら今日休みですよ。今朝突然休ませて欲しいって電話がかかってきて...桜月ちゃんとはさっき話したんですけどね」
茶目っ気たっぷりの顔でウインクした梓さんに私もウインクを返した。
博士『だそうじゃ…何もなければよいが…』
そんな言葉には不安が募るばかりで、心が休まる訳もなかった。
go home and Leaving the home
「ただいま!」
皆の溜り場と化した会議室に入ると、どやどやとかけてくる足音が次々と聞こえた。
そして、バンと勢いよく開かれる扉。
太宰「桜月ちゃん!一日お出かけなんていいなぁ…私とも一緒に出掛けてくれたま」
「なんでマフィアビルの中でマフィアよりも先に太宰さんが到着するんですか私の所に!!!」
中也「此奴が元マフィアだからだろ」
「そうだけどっ!!___っあ、そうだ、私暫く追われそう」
紅葉「何にじゃ⁉?」
「調査!」
鏡花「どうして?」
「大事な事…友達を助ける為!命に係わってくるから」
乱歩「ならこの天才的な名探偵である僕が君にアドバイスだよ!__」
--- 「__明日は早くここを出て、警察病院に行った方がいい…武器は幾つか隠し持っておいてね!」 ---
「乱歩さん、、っ!ありがとうございます…!!」
何が何だか分からない様子の皆に一度頭を下げて、私は部屋に戻った。
__組織の事。ノックのこと。
私はこの世界で”猟犬”の代わりにどういう立ち位置なのかも調べる為に。
---
朝、7:00。
ロンドン。
二階建てバスの二階部分に、一人の男が座っていた。
その男はスタウト。黒の組織の諜報員として動く人々の一人だった。
その背後からは、コルンが銃を構えている。
--- __スタウト…俺信じてた…残念 ---
普段はあまり話さないその口から呟くようにそう漏らすと、躊躇うことなく銃を撃った。
その弾はスタウトを見事貫通した。
驚く間もなく、スタウトの息の根は止まった。
コルン「スタウト死んだ」
ベルモット「OK」
---
同時刻、トロント。
高いタワーの縁を歩く人影。
数人の観光客と、案内人だ。
命綱を繋ぎ、身を乗り出して下を覗き込むことも可能であるその場所は、街一帯を見渡せる高さがあった。
しかし、その案内人を狙った発砲音が空に響いた。
前方のヘリコプターには__組織の一員である、キャンティがニヤリと笑みを浮かべて銃を構えたまま座っていた。
キャンティ「アクアビット始末したよ」
ベルモット「さすがね。すぐに戻って」
キャンティ「チッ!アンタに言われなくてもそうするさ」
---
同時刻、ベルリン。
川沿いを、ショートの金髪の女性が駆けていた。
その後を追う、黒ずくめの服装の男が二人。
ウォッカ「おいおいどこまで行くつもりだ?猶予は一分と伝えといたハズだぜ」
リースリング「言ったハズよ!私はNOCではないと!」
無情にも銃を構えたウォッカに、桜月に見せた様な緊張の、それでいて優しい笑みは、何処にも無い。
ジン「ならば白黒つけようじゃないか…なァ…リースリング
___お前の他に紛れ込んでいるネズミの名前を吐け」
ク、と悔しそうに唇を噛んで顔を顰めたリースリング。
ウォッカ「さっさと吐いちまえよ。苦しみたくねぇだろ?」
リースリング「何度も言わせないで!私はNOCじゃない!脅しても無駄よジン!」
ジン「脅し?俺がそんな可愛い事すると思うか?」
--- ―5― ---
--- —4— ---
--- ―3― ---
--- ―2― ---
--- ―1― ---
最後の最後でリースリングが動いた。
咄嗟に素早く走った先は__川。
--- ―0― ---
川に飛び込もうと宙に浮いた体を、銃弾が突き抜けた。
そのまま、血を流しながら落下した。
__すぐ傍を通った船。
きっと彼女の体がある事には気づかなかったのだろう。
波を立てて川を船が通った後には、何もなかった。
ジン「行くぞ、急げ」
ウォッカ「どちらへ?」
--- 「日本だ。残るは二人」 ---
---
FBIの車。
そこには三人の捜査官と、コナンの姿。
ジェイムズ「イギリスのMI6、カナダのCSIS、ドイツのBND…各国の諜報部員が次々暗殺された」
ジェイムズ「彼らの共通点は、例の組織に潜入していた事」
コナン「それじゃ黒ずくめの奴らに」
キャメル「組織の工作員は、警察庁からデータを盗んだ疑いがあると、赤井さんから報告を受けていたんですが」
コナン「僕を呼び出したのは、その工作員と思われる人物と接触したからなんだよね」
ジョディ「ええ」
コナン「でも彼女は記憶喪失で記憶媒体になりそうなスマホも壊れてたよ」
キャメル「それならFBI本部に送って解析した方が…」
コナン「博士はもうすぐ復元できると言ってたから、このまま進めて貰った方が早いよ」
ジェイムズ「では解析出来次第教えて欲しい。どこまでの情報が漏洩したのか一刻も早く把握しなければ、世界中がパニックに陥る」
コナン「どんなデータが盗まれたの?」
ジョディ「Non Official Cover…ノックリストよ」
キャメル「警察庁が掴んでいる世界中のスパイのリストだ」
コナン「ってことは組織に侵入しているスパイが全員消される?」
ジェイムズ「それだけではない。ノックリストが公開されたら、世界中の諜報機関が崩壊するかもしれん」
--- 詰り、キュラソーはそれだけ重要なことをしでかしてしまったということ__ ---
you'r my Irreplaceables?
目を覚ますと、ふらふらと浮遊感を覚えた。
ちゃんと体は布団の中に包まれている。
...昨日、夜遅くまで機械を触りすぎたからかな、と思ったり。
寝たのは4時。
「…今は、5時半」
昨日調べた事は大きく分けて3つ。
自分の事。
安室さんの事。
その途中、見つけたとある事。
目覚めて早々、スマホを開いて睨み合いしていた。
自然と額にしわが寄って行った時、いきなり手の中が震えた。
驚いて携帯を放り投げそうになるも、キャッチして画面を見た。
「あ、安室さん」
折り返し入れるの忘れてた...
あまりにも疲れて仕事に追われてたから…
「もしもし」
安室「朝早くからすまない。今大丈夫か?」
「今は大丈夫です!」
安室「いきなりだけど、単刀直入に言うよ。僕は公安警察だ____その中でも通称、ゼロ、と呼ばれる組織に所属している」
「…つまり、組織を掛け持ちしてるんですか、⁉」
だとしたら、私と仲間だ、
という奇跡も偶然も起こる筈は無くて。
安室「いや、あの組織には潜入捜査をしているだけだよ…ところで、聞きたいことがあるんだが__いいな?」
有無を言わさぬその言い方に、思わずはいと返事をした。
...潜入捜査、か。
安室「桜月、」
名前の呼び方が、変わってる。
声も。
話し方も。
これが、この人の演技力。
安室「なぜ君は裏社会にいる?警察という立場もありながら、、なぜマフィアに所属し、犯罪を犯す?」
「…それ、は」
その事は、すごく悩んだ。
この世界でも、私は無理矢理政府側の組織の、警察の、犬として使われているから。
それを何と説明すればいいのか。
安室「調べてみると、見慣れない単語を見つけたんだ__『軍警』という」
「…私の昔話をしましょう」
唐突に切り出した私に、通話口で驚いた様子の安室さん。
けれど、分かったと一声。
---
とあるところに、幸せな家族が居ました。
優しい、聡明な母。
穏やかで、静かな強さを持った父。
そして、一人の娘。
そこに、拾われた子である女の子が来ました。
優しい父と母は、道端で泣いている女の子を放って置けなかったのです。
その子は娘と仲良くなり、更に、娘とそっくりな容姿を持っていました。
大層可愛らしい、何かの運命で繋がった娘達。
それからは双子として育てられる事になりました___
__幸せが壊れるまでは。
事の発端は娘の片方がとある力の才能を示し始めた事でした。
必死に力を隠そうとするも、警察にはすぐに伝わってしまった。
結果、娘たちの安全を保障するという事で、年齢が来次第桜月を軍警にいれさせることになってしまいました。
...その後、元諜報員であった父と母は暗殺され、双子は孤児となって、その後、二人が逸れた後、其々の道を歩いた__
妹は、その道がマフィアでした。
とはいいつつも、何度も記憶を改変されて最近になるまで知らなかったけれど。
妹は良くも悪くも、真っ直ぐ、純粋で、子供らしい可愛らしさを持っていました。
故に。
マフィアの人からは可愛がられ、
故に。
マフィアに居るべきではないと判断され、姉とまた再会したのでした。
その後、姉はマフィアに。
妹は一人で生き延びた後に探偵社と出会う事となります。
探偵社__次にポートマフィア__そして、古い約束から軍警に。
---
「…っあ、すみません、、長くなっちゃいました、」
安室「いいや、構わない」
「…ところで、安室さんの本名は?」
安室「…降谷、零、だ」
「フルヤ、レイ...降谷さん、ですね」
降谷「公の場では安室で頼むよ」
苦笑交じりにそう云った降谷さんに、私も小さく笑って返した。
「私、本業はマフィアです。必要とあれば...人を殺します。でも、私、社会的に見て悪い人しか殺して無いんですよね。」
降谷「まぁ裏社会で良い人なんて聞いた事もないけどな」
「私が殺すのはマフィアに裏切り行為を働いた尚且つその人が罪なき人に害を加えた場合だけです!」
降谷「それは...良い事なのか?」
「良い事って事にしておいてください。これでも元探偵社員ですから…」
降谷「そうか、」
「…あの、ノック、って事なんですよね、組織の」
降谷「まぁそうだが…組織に言うつもりはないよな?」
「勿論ですよ、私は降谷さんの味方ですからっ!...だから、気を付けてください、ね……降谷さんの事、大切に思ってる人は絶対に多いんですから」
私の忠告に一度返事をした後、ぷつりと通話は途切れた。
It's a rainy.
通話の切れた携帯を数秒、じっと見つめた。
...降谷、零。
安室、透。
何もない、始まりの、零。
何もなく、透き通った、透。
れい、、ゼロ、かぁ…
少し頭の中で感傷に浸っていたけれど、すぐに頬を両手で叩き、支度を始めた。
勿論、
警察病院に行く準備を。
---
...眩しい、。
何時もの様に袖に忍ばせる小刀が、今日はずしりと重く感じる。
如何して、だろうか。
目の前にそびえる、警察病院の建物が私を見下ろしていた。
...空は真っ青で、柔らかそうな雲が幾つか浮いている。
まるで小雨の降り始めた私の心の中と、正反対だった。
---
光彦「本当に来ちゃいましたね。とりあえず行ってみましょう!会えるかどうかわかりませんけど」
歩美、光彦、元太の三人は、水族館で出会った白髪のお姉さんに会うべく、警察病院へと来ていた。
歩美「お姉さん、会えたらいいね!」
元太「イルカのキーホルダー二つも渡さなきゃダメだしな!」
じゃん、と手に何かを持って突き出した元太。
歩美「イルカさんのキーホルダー、二つもあるの!?」
光彦「えぇー!?」
元太「へへっ、実はこの白い方はもらったやつだけど、こっちのやつは桜月ねーちゃんが渡してほしいって」
元太「そういえばお姉さんも3つもらってましたね!」
歩美「白いのと、オレンジと、濃い青のだったよね!」
元太「その濃い青のやつを俺に頼まれたんだぜ!」
歩美「ずるーい!歩美もお姉さんにお願いされたかったー!」
賑やかに、病院の中へと入っていった子供たちだった。
---
安室side
安室「ああ…東都警察病院だ」
白いRX-7に乗ったまま、風見に電話をかけた。
安室「もしもの時は構わん。頼んだぞ風見」
今は何が起こるか分からない。
最悪、ノックだとバレて処刑だ。
...今朝、彼女に言われたばかりだというのに。
なぜ人の為にあれ程本気になれるのだろうか___いや、それに関しては僕も、なんだろうな。
通話の終わった携帯をしまって、車から降りた。
--- 「バーボン、なぜあなたがここに?」 ---
いきなり耳に届いた声に驚くも、ポーカーフェイスを保ちながら答えた。
安室「勿論、あの人を連れ戻す為です」
そう、目の前にいる女...ベルモットに返した。
サングラスを付けているため、目元の真意が見えづらい。
すると、ふ、と笑ったベルモット。
ベルモット「…てっきり記憶が戻る前にあの人の口を塞ぎに来たのかと…」
安室「なぜ僕がそんな事を?言っている意味がよくわかりませんね」
ベルモット「じゃどうやって接触するつもり?あの人は厳重な警備の元、面会謝絶よ?それともあなたなら、あの人に簡単に会えるのかしら…例えば警察に特別なコネクションでも…」
内心ひやりとしながらも、表情は崩さない。
安室「さっきから何の話をしているのですか?」
ベルモット「…まぁいいわ」
そう言って、右手に持つ包みの中身を少しだけ覗かせた。
__銃口が、ちらりと見えた。
ベルモット「立ち話もなんだし、場所を変えましょう」
安室「それが組織の命令だというのなら、仕方ありませんね」
まずい、と思ったものの、断ると状況が悪化するのは目に見えている。
笑顔を消して、前を見据えた。__その時だった。
--- 「…奇遇ですね、ベルねぇ...それにバーボンも」 ---
コツ、コツ、と靴を鳴らして歩いて来たのは、スーツ姿の...桜月だった。
ベルモット「あら、ニコ...奇遇ね」
桜月「奇遇です、けど…何故バーボンに銃を向けているんですか?」
ベルモット「私達の事情というものよ、あまり踏み入るのはオススメしないわ…」
桜月「それが...話の内容もがっつり聞いちゃいましたし、何ならあのお姉さん...」
--- 「キュラソーの事、調べ尽くしましたから」 ---
安室「は、?」
ベルモット「…あら、そう、、貴女にこんな事をするのは嫌だけれど...少し着いて来てくれるかしら?」
少し警戒してるよ、ベルねぇ。
「…いいですよ!あまり遅くなったら…心配されるので、中也に出掛けてくるとだけ連絡していいですか?」
ベルモット「…えぇ、いいわよ」
なんて嘘。
コナンくんにさっとメールを送った。
...少し、勝負に出た所はあるけれど。
ノックが消されてる。
次は日本でキールとバーボン。
現場に似合わせて私も連れていかれるから、位置情報追って二人を助けてあげてね
とだけの短めの内容。
だけど、コナンくんなら___きっと、動いてくれる、否、動ける。
それを信じて、送信釦を押した。
Who is NonOfficialCover?
わいわいと高木刑事に詰め寄っている子供たち。
それに反して、冷や汗を浮かべながら、静かに、となんとか子供たちをなだめる高木刑事。
元太「姉ちゃんは?」
光彦「会えそうですか?」
高木「しーっ!静かに!君達は内緒で入って来てるんだから」
目暮「誰に内緒だって?」
高木「ああすいません!!ついいつもの流れで…」
あはは、と頭を搔く高木刑事と、そんな彼をジト目で睨む目暮警部。
その隣には佐藤刑事。
そして、その後ろには昨日の女性__キュラソー。
歩美「お姉さん!」
光彦「よかった!元気そうで」
元太「もう頭は痛くねぇのか?」
キュラソー「ええ、もう大丈夫よ。ありがとう」
目暮「本来ならば会わせるわけにはいかんのだが、彼女も君達には心を許しているようだから、記憶回復の手助けになるかもしれんしな」
光彦「ありがとうございます!」
ばんざいをして喜ぶ子供たちに、頬が緩むキュラソーだった。
その後、オセロをして遊んでいた時、元太が何かを思い出したようにポケットに手を入れた。
元太「あ、そうだ」
元太「これ姉ちゃんにやるよ」
キュラソー「これって…」
その手には二つのイルカ。
白いイルカと、濃い青のイルカ。
歩美「ダーツのとこの人が後でくれたんだよ!好きな色塗って下さいって!」
光彦「紺色の方は桜月お姉さんが!」
キュラソー「いいの?本当に貰っちゃって」
元太「おう!だって姉ちゃんは命の恩人だからな!...あ、でもそれだと桜月姉ちゃんもだな」
光彦「でも桜月お姉さん、受け取ってくれたらいいなぁって言ってましたし!」
歩美「これでみんなとお揃いだね」
光彦「ですね!」
四人の間に広がる笑顔の輪。
しかし、その後ろには黒い影。
風見「公安の風見です。そちらにいる女性を速やかに引き渡して貰いたい」
目暮「なぜだね。我々にも捜査の権利はあるハズだが?」
風見「その女性は警察庁に侵入した被疑者だ。その目的をすぐに聴取しなければならないんですよ」
少し躊躇った後、頷いた目暮警部。
目暮「…わかった」
悲しげな顔の子供たちとキュラソー。
立ち上がった彼女を囲むようにして、子供たちは駆け寄った。
キュラソー「、ありがとう、みんな。これ大切にするから…またいつかみんなで観覧車に乗ろうね…桜月ちゃんも」
歩美「うん…!」
光彦「絶対ですよ!」
元太「乗ろうな!」
高木「…桜月ちゃんには、僕が伝えておきます」
泣き出しそうな子供たちの顔を、見るに堪えなくなったのか。
高木刑事がそう云うと、キュラソーは少し悲しそうに微笑んで、それから、踵を返して歩き出した。
---
阿笠邸にて。
阿笠「おお新一!解析が終わったぞ」
コナン「それでなんて!?」
スマホの解析が終わった博士と、鋭い目で聞きかえしたコナン。
画面に映る文章。
スマホが壊れる直前に送られたメールの内容は__
NOCはスタウト、アクアビット、リースリング
あなたが気にしていたバーボンとキール
コナンはその文面に目を見開いた。
コナン「くそっやっぱり!博士大至急そのメールの送信先の解析を頼む!!」
阿笠「あ、あぁ」
コナン「わかったらすぐに連絡してくれ!」
そして部屋を飛び出した瞬間、震えた携帯。
タイミングの悪さに悪態をつきそうになるも、差出人と内容に一瞬時が止まった様だった。
ノックが消されてる。
次は日本でキールとバーボン。
現場に似合わせて私も連れていかれるから、位置情報追って二人を助けてあげてね
__桜月
どうやらシステムの不具合か何かで、メールが届くのが遅れたようだった。
...なら今頃桜月と安室さんは__
余計に焦る気持ちを必死で抑えながら、スケートボードを抱えて走りだした。
I want to protect what I value
「…私、立場としては客人じゃない?」
ジン「…危険分子をもてなす馬鹿がいるか」
「何それめっちゃ失礼!ただ一寸調べただけなんだけど!?」
ジン「…いつの間に溜口を使うようになった?」
ベルモット「まぁジン、落ち着いて。今はこっちの二人の事よ」
そう。
今私は柱に後ろ手で縛り付けられています。
...バーボンとキールと一緒に。
いや、ノックを疑うのは勝手にしてもらっていいんだけど、
私は何で???
ジン「…キュラソーが伝えてきたノックリストにお前達の名前があったそうだ」
バーボン「キュラソー?ラムの腹心か」
キール「ええ、情報収集のスペシャリスト」
「…そして私と子供たちが昨日一緒に遊んだ、記憶喪失のお姉さん」
ベルモット「知っている様ね……え、一緒に遊んだ??」
バーボン「外見の特徴は左右で目の色が違うオッドアイ」
キール「組織じゃ有名な話よ」
私の言葉に戸惑うベルねぇ。
そしてバーボンとキールは鋭い目でウォッカさんやベルねぇ、ジンを睨んでいた。
ウォッカ「昔のよしみだ。素直に吐けば、苦しまずにいかせてやるよ」
すると、ふっと笑ったバーボン。
バーボン「…僕達を暗殺せず拉致したのは、そのキュラソーとやらの情報が完璧ではなかったから。...違いますか?」
その言葉にまた、ふと笑うジン。
ジン「…さすがだなバーボン」
倉庫内の暗い空間に、ジンの煙草の煙がもくもくと上がっている。
「…私を如何する心算ですか?」
...まぁ桜使えばこんなロープ一発で切れるけど。
ジン「とりあえず事が終わるまで、この中にいてもらう...流石に殺しは」
ベルモット「しない、じゃなくて、できない、よね?」
ジン「…フン……」
「私のことを殺せない、?」
ベルモット「あら、簡単な協定を結んだ組織の幹部を拉致して監禁中なだけでも随分と不味い状況なのに、殺すだなんて以ての外じゃない」
「…たしかに、マフィアの報復は恐ろしいけど…それより、キュラソーの話の続きが聞きたい。如何して不確かな情報なの?」
...事故に遭ったから、だろうか。
ベルモット「…ノックリストを盗んだまではよかったけど、警察に見つかり逃げる途中で事故を起こした」
ウォッカ「挙げ句記憶喪失ときたもんだ」
立つ三人の方を向いていると、後ろからカチャ、と金属が擦れる音がした。
...バーボンかキールが手錠を解除しようとしてる、。
すると不意に、ジンが此方に銃口を向けた。
ジン「疑わしきは罰する。それが俺のやり方だ」
---
コナン「アドレスが判明したら、さっき俺が言った通りに!」
スケートボードに乗りながら電話をしているコナン。
阿笠「わかった!こちらの壊れたスマホから送られたように偽装すればいいんじゃな?」
コナン「ああ!急いでくれ!」
すると道路沿いに止めてある白い車から声が掛かった。
ジョディ「こっちよクールキッド!」
FBI捜査官のジョディ。
コナン「とにかくこれを読んで!」
急いで携帯の画面を開いて、隣に座る男__ジェイムズに見せた。
ジェイムズ「こ…これは!」
それは、キュラソーがラムに送ったメールの文面だった。
ただ、傷付いて欲しくなかっただけ。
発砲音が倉庫に響いた。
銃口はキールを向いている。
__正確には、キールが居た場所、を。
ジン「…何、だと、?」
「腕、掠っただけだから気にしないで!」
キール「桜月ちゃん、!...ごめんなさい、私が、、」
「大丈夫です、私が…しくじっただけですから」
本来ならこの闇の中、桜を使って銃弾を切る心算、だった。
なのに、タイミングが遅れて切った銃弾の片方が腕をかすめた。
咄嗟にキールを突き飛ばして正解だった。
「ごめんなさい、いきなり突き飛ばしたりして」
キール「…いいえ、謝るのは私の方よ...」
ジン「キール...お前のせいでニコは怪我を負った...自分の手錠を外したいが為に、なァ...?」
バーボン「まだ容疑者の段階で仲間を撃とうと...!」
「バーボン、私は擦り傷だしキールには怪我がないから…」
ジン「仲間かどうかを断ずるのはお前らではない。最後に一分だけ猶予をやる」
っコナンくん、、!!
お願い...メールを見て…っ!!
ジン「さあネズミはどっちだ…バーボンか、キールか」
お願いだから、、二人を助けて……!!
ジン「まずは貴様だ」
「バーボン」
不意に、天井裏で気配がした。
ハッと顔を上げると同時に、暗闇を唯一照らしていた電球が落下した。
「っえ、!?」
ジン「何だ?どうした?」
ベルねぇのスマホの光に照らされて、周囲を見渡した__
「バーボンっ!?」
ベルモット「バーボンがいない!逃げたわ!」
見ると、扉が開かれている。
夕暮れ時を表すように、赤い光が差し込んでいる。
ジン「追え!」
それと同時にウォッカさんが飛び出していった。
「…ありがとう、、」
小さな呟き声で、そう口にした。
コナンくんがやってくれた。
きっと、仕組んでくれたんだ。
本当に、ありがとう。
__でも、まだ終わってない。
キールを助けなきゃ。
隣を見ると、ジンがキールに銃を向けている。
ジン「悪いなキール。ネズミの死骸を見せられなくて。直にバーボンもお前の元へ送ってやる」
--- 「あばよ」 ---
止めようと口を開いた、けれど、ジンを止めたのは私ではなかった。
ベルモット「ジン待って!撃ってはダメ!ラムからの命令よ!」
ベルモット「キュラソーからメールが届いたそうよ。“二人は関係なかった”と…」
メールが届いた...?
ジン「記憶が戻ったのか?」
「何にせよ…この状況はつまり、少し疑いのある仲間を手錠で繋いでる、って事だけど…?」
キール「疑いは晴れたみたいね。さっさとこの手錠を外してもらおうかしら」
キールは終始かっこよかった。
弱気になった事もない。
強い。
ベルモット「ダメよ。ラムの命令には続きが…“届いたメールが本当にキュラソーが送ったものか確かめる必要がある”とも…警察病院からの奪還となるとかなり厄介になりそうだけど」
ジン「案ずる事はねぇ。俺の読みが正しければそろそろ動きがあるはずだ」
そう云うと、ジンはスマホを取り出して耳に当てた。
---
キャンティ「ナイスタイミングだよジン」
彼女とコルンが居るのは警察病院前。
車に乗って、公安警察の会話を盗聴していた。
キャンティ「公安のノロマ共がやっと動き始めたところさ…」
ジン「やはりな」
キャンティ「盗聴されてるとも知らずにマヌケだねぇ」
ジン「それで目的地は?」
キャンティ「あんたが予想していた通りの場所さ」
外を見ると、キュラソーが車に連れられて乗っているところだった。
キャンティ「今ちょうど車に突っ込まれてるところだけど」
ジン「例の機体を用意しろ」
キャンティ「…まさか!」
二人の顔には驚きの表情が浮かんでいる。
ジン「アレの性能を試すのにいいチャンスだ。ラムからの命令だ。確実に任務を遂行しねぇとな」
キャンティ「了解!」
---
ウォッカ「アニキ!ダメです!逃げられました」
ジン「構わん。バーボンとキールは後回しだ。まずはキュラソーを奪還する」
ジン「行き先は…東都水族館」
ベルモット「ジン…まさかこうなる事を読んであの仕掛けを!?」
ジン「ふん…ウォッカ行くぞ!車を回せ!」
ウォッカ「はい!」
そのまま歩きだしそうな勢いだったから、私は尋ねた。
「…私とキールさんの手錠を外して下さい」
ベルモット「あら、あなたなら簡単に出来るでしょう?」
「つまり自分でしろと⁉」
ジン「行くぞ、ベルモット、ウォッカ」
無視された!と心の中で憤慨しながらも、私は桜で手錠を切った。
3人が出て行って直ぐに立ち上がると、キールは驚いたように私を見ている。
「すぐ解除します、待って下さいね」
そのままキールの背後に回って、手錠をいじるふりをしながら桜で切った。
「できました!腕、大丈夫ですか?」
長時間後ろ手にされた状態だったことが心配で、そう聞いた。
キール「えぇ、大丈夫。...本当に色々とありがとう」
「いえ!私はただ...」
そこで言葉に詰まった。
ただ、何だろう。
助けたかった。
守りたかった。
其れだけじゃ、ない気がする。
「…ただ、傷付いて欲しくなかったので、!」
そう云うと、キールは少し驚いた顔をして、それから微笑んだ。
キール「…そうね、その通りだわ」
ぺこりと一度頭を下げて、私はその場所を後にした。
そのまま急いで向かうはマフィアビル。
そして、
__東都水族館へ。
Color of five.
ジェイムズ「あぁわかった。君はすぐにそっちに向かってくれ。救出は我々が行う」
???「了解」
ジェイムズ「二人は窮地を脱したそうだ。もちろん、情報提供をしてくれたその子も...一体何者なんだ、その子は?」
コナン「…僕も今調べてる所なんだ、でも、謎が多すぎて…」
ジョディ「にしてもすごいわねボウヤの作戦!」
コナン「あのメールの文章が途中で止まってたから、その続きで“二人は関係なかった。安心して”って書き足して送っただけだから」
ジェイムズ「敵は工作員の奪還を優先し東都水族館に向かったそうだ」
ジョディ「では我々も」
ジェイムズ「そちらはすでに”赤井君”が向かっている。我々は倉庫街に残された諜報員の救出とノックリストの捜索にあたる」
その時、車を降りたコナン。
ジェイムズ「決着がついたら連絡する」
コナン「あ、そういえば、赤井さんってあの工作員の事どこまで知ってたの?」
ジェイムズ「詳しい事は知らんらしい。唯一わかっている事は、ラムの腹心で、コードネームは“キュラソー”というそうだ」
コナン「ありがとう!気をつけて!」
走りだした車を見送って、コナンは脳裏に映像を思い浮かべた。
キュラソー…キュラソーとは、オレンジの皮を使った酒。
主な種類はホワイトキャラソー、オレンジキュラソー、ブルーキュラソー、グリーンキュラソー、そしてレッドキュラソー。
その色に何か覚えたのか、ハッと顔を上げてズボンのポケットを探った。
...その手には、キュラソーと初めて出会った時に彼女が持っていた、数少ない持ち物の一つ__
カラーフィルムが重なったような物、だった。
その色はやっぱり五色。この配色どこかで…
どこだ…思い出せ......
---
風見「はい。指示通り確保しました。え?観覧車に乗れというんですか?」
安室「ああ、定かではないが、今はこの方法にかけるしかない。やってくれるな?」
そう云うと公衆電話の受話器を置いた。
顔を上げると、目に東都水族館の観覧車が映った。
明るい、大きな観覧車が。
---
半ば朱雀から飛び降りるようにして、ボスの部屋に飛び込んだ。
「一寸ボス!!何処!!?」
ボス「いきなり何なんだお前朝から姿がないって大騒ぎで」
「御願いだから今直ぐ東都水族館に送って!!」
必要な物は取った。
後は一刻も早くそこに向かうだけ。
私の滅多に無い気迫に驚いた様子のボスだけど、何かあると分かったのか、すぐに頷いて異能を発動させた。
「…ありがと、ボス」
ボス「…あぁ」
---
東都水族館、観覧車前にて。
元太「園子姉ちゃんいねぇなぁ…」
園子のお陰で観覧車片側を貸し切りにしてもらった子供達。
蘭と共に園子の姿を捜しているところだった。
風見「観覧車に乗せて貰いたい」
スタッフ「申し訳ございませんが、本日のチケット販売は修了しておりまして」
風見「では、ここの責任者に伝えて欲しい。公安の者が協力を要請していると…」
歩美「やっと来た!」
園子「お待たせ!手続きに時間かかっちゃって」
光彦「さすが園子お姉さん!」
園子「あんた達、感謝しなさいよー!」
「はーい!」
揃って元気に返事をする姿を見て、蘭も自然と笑顔になっていく。
園子「じゃこの子達よろしくね」
スタッフ「はい!...それじゃ観覧車に案内するからみんなついて来てね」
「はーい!」
女性スタッフが先導するのに子供たちが着いて行っているのを見て、蘭と園子も歩き出した。
園内にはコナン、そして哀の姿も。
更には組織の影もあった。
You don't know for me.
ベルモット「電源供給は一か所ではない様ね…」
ベルモット「昔からあった施設は別ラインか…」
ベルモット「仕方ない」
そう言って何か操作すると立ち上がった。
ベルモット「終わったわ。これであなた達が現れてもすぐに見つかる事はない」
ジン「ご苦労」
通信機を介して話すベルモットとジン。
ベルモット「…もう一度確認するけれど、ニコが来ても危害は加えないように__」
ジン「あぁ、分かってる...ボスの命令、だろ?」
キャンティ「とことんお気に入りみたいだね、桜月のこと」
ベルモット「気持ちはよく分かるわ…私もね。」
ジン「急げ!15分後に行動を開始する!」
キャンティ「あいよ!飛ばすよ!」
---
「鈴木様のお連れの方です」
「え!?じゃこの子達の為に片側を貸切に!?」
「どうやらそのようね」
スタッフが驚きで話している。
足元にはニコニコの子供達。
そしてその数分後、風見とキュラソー、そして数人の公安の刑事が来た。
「公安の方達をお連れしました」
「え?もしかして貸切りは…」
風見「ええ、我々の要請です」
「申し訳ございません!勘違いをして10分程前、ゲストの子供達を乗せてしまいました!」
刑事「どうします?戻って来るまで待ちますか?」
風見「いや、子供なら構うまい」
そのまま、ゴンドラに乗り込んだ。
コナン「待って!乗っちゃダメだ!」
「おっと!こっちは立ち入り禁止だよ」
彼らが乗り込んだ瞬間にコナンが割り入ろうとするも、声は届かなかった。
一足遅かったか、と悔しそうに顔を歪めたコナン。
次に走って向かう先は__
奴らが仕掛けてくるとすれば、人目につかず、警戒が手薄になるこの観覧車内部に違いねぇ__!
--- 観覧車、内部。 ---
スタッフオンリー、と書かれたドアに、清掃員のふりをして入った安室。
観覧車内部では、コナンが眼鏡のスイッチを入れて何かを捜していた。
コナン「…あれは赤井さん?」
その時、気付いた。
無数のコードが、張り巡らされていることに。
---
ベルモット「いた。予定通りね」
少し離れたレストランで、前の様に観覧車を見るベルモット。
目標は、公安とキュラソーの乗るゴンドラ。
ベルモット「キュラソーをゴンドラに確認。同乗者は公安が一名。頂上に達するのは約10分ってところかしら」
ジン「10分か…どうだウォッカ?」
ウォッカ「いつでも行けますぜ」
ジン「ではお前の合図で決行する」
ベルモット「了解」
そのベルモットは、不敵な笑みを浮かべて目の前のパソコンを見下ろした。
---
風見「貴様、本当に俺の事を覚えてないのか?」
ゴンドラの手すりに手錠を繋がれているキュラソー。
風見は拳銃を向けたままそう尋ねた。
キュラソー「ええ」
風見「フン…まあいいさ」
---
A bomb in there.
観覧車の上。
外側。
高い場所特有の風が、安室の髪を強めに弄った。
安室「これで先回りできたハズだが…」
その言葉と共に、カンカンと足音が聞こえてくる。
安室「来たか!」
清掃員の帽子と上着を脱ぎ棄て、其の足音の主と向き合った。
???「どうやら上手く逃げ切ったようだな」
黒いニット帽に黒い服。
その帽子からは、少しだけ癖のある前髪が覗いている。
特徴的な目の下のクマに緑色の吊り目。
赤井秀一。
安室「やはりあれは…」
彼が此処に来ることも見透かしていたように、安室が云う。
安室「照明を撃ち落とし、奴らの視界を奪ったあなたは、僕がまだ倉庫内で身動きとれずにいる事に気づき」
安室「外に逃げたかの様に偽装する為、ドアを勢いよく開け奴らを欺いた。お陰で僕は物陰に隠れる事ができ、その後の奴らの動きを知る事ができた」
安室「あれがあなたの仕業なら、どうせここに来ると踏んでましたけど、聞かせてくれませんか?僕達を助けた了見を!」
赤井なら、あんな危険を冒さずとも奴らの動向を探ることぐらいできる筈。
赤井「君はもっと周りに目を向けるべきだ」
「...いきなり何の話ですか?」
赤井「君のことを心配してる人間もいるということだ」
突然の言葉に数秒、停止した脳。
心配している人間?
周囲の人間の事か?
少し混乱する安室に、赤井は思考の一時停止を告げる言葉を発した。
赤井「そんなことより君は、わざわざこんなところまでおしゃべりに来たのかな?」
嫌味な言い方に明らか眉をひそめた安室。
腕を組みながら云い返した。
安室「ええ、FBIに手を引けと言いに来たんですよ。キュラソーは我々公安が貰い受けるとね」
赤井「嫌だ…と言ったら?」
安室「力ずくで奪うまで」
緊張が二人の間に走った。
先に動いたのは、何方だっただろうか。
二人の火ぶたが切られた瞬間、花火が花開いた。
そして、
---
「うわぁぁぁあああああっっっ!!!!」
空中で朱雀の手を放し、観覧車に何とか着地した。
花火が咲いている。
轟音が劈いている中、戦って居る二人の間に足をついた。
安室「…桜月?」
赤井「…君は…」
「…お二人共、今の状況解ってますか?今、何をすべきなのか分かってますか⁉」
そのつもりはなくても、だんだんと声が大きくなってしまった。
安室「…僕はこの人に手を引けというために此処に来ました。今は_」
赤井「手を引くわけにはいかないのも君は分かっているはずだが?」
そう云うと二人はまた睨み合っている。
...全く、本当にこの人たちは……
私は大人を怒るという仕事でもあるのだろうか。
「今戦うべきは組織ですよね!?こんな所で戦って居るべきじゃないのはお二人も判っている筈ですよね!?」
赤井「その通りだ。こんな事をしてる間にキュラソーの記憶が戻り、奴らが仕掛けて来たらどうする?」
安室「はっきり言ったらどうなんだ?情報を盗まれた日本の警察なんて信用できないと!」
---
その頃コナンは、観覧車内部の消火器の箱から無数のコードが伸びているのを見つけていた。
小さな隙間から、その中身を覗く。
何とか見えたのは__
起爆装置だった。
コードの先を目で追うと___爆弾が、目視できる。
It is special ability
---
赤井「言ったはずだぞ安室君、狩るべき相手を見誤るな」
安室「あぁ!奴らを狩り尽くしてやるさ!貴様を制圧した後でな!」
私が間にいるお陰で殴り合いは何とか免れているものの、一刻の猶予を争う事態なのを、どうしてこの人たちは分からないのだろうか。
いや、分かっていても尚戦う理由が、二人にはあるのだろうか。
...もう、こうなったら強行突破だ。
「異能力、『奇獣...ペガサス!青龍!』安室さんと赤井さんを乗せて着いて来てっっ!!」
赤井さんはまず私が名前を知っていることに驚いたようだった。
けれど。
いきなり二人はどこからか出て来た青龍とペガサスに乗せられて、運ばれてきた。
驚くも、二頭から落ちる事も下りることもできずに乗っている。
観覧車の内部に続く階段へ飛び降りると、二頭と二人も着いてくる。
そしてどう動くか、考えている時だった。
コナン「赤井さん!そこに居るんでしょ?大変なんだ!力を貸して!奴らキュラソーの奪還に失敗したら爆弾でこの観覧車ごと全て吹き飛ばすつもりだよ!お願い!そこにいるなら手を貸して!爆弾を解除しとかないと!」
「コナンくん!?」
コナン「桜月さん!?」
「…青龍、ペガサス、戻って善いよ」
そう云うと、二頭は二人を降ろして消えていった。
二人は驚いてはいるものの、戸惑ってはいない。
コナンくん、ありがとう本当に。
安室「本当かコナン君!」
コナン「安室さんまで!どうやってここに!?」
安室「その説明は後だ!」
安室「FBIと桜月も連れてすぐに行く」
「何で私は連れられてるんですか、私が此処に連れて来たんですけど」
少々文句を言いながらも、先ほどコナンくんが見つけたという爆弾の元へやって来た。
コナン「赤井さん、爆薬は?」
赤井「やはりC-4だ。非常にうまく配置されている。全て同時に爆発したら車軸が荷重に耐え切れず連鎖崩壊するだろう…」
安室「なるほど…悩んでるヒマはなさそうですね」
消火栓を開くと、中には起爆装置。
コナン「どう?解除できそう?」
安室「問題ない。よくあるタイプだ。解除方法はわかるよ」
最悪ボスに頼んで海に落とす...ことも可能、かな、なんて思ったり。
コナン「へぇ、爆弾に詳しいんだね安室さん」
安室「警察学校時代の友人に色々教えられたんだよ。のちに爆発物処理班のエースとなった男に」
安室「まぁ結局そいつは、観覧車に仕掛けられた爆弾の解体中に爆死したんだけどね…」
そういう安室さんの顔は、とても切なそうだった。
コナン「観覧車の爆弾解体で!?」
正にこの状況だ、と言いたげなコナンくん。
この状況で失敗した人だから、大丈夫なのか、という事だろう。
安室「心配ないよ。アイツの技術は完璧だった。それを僕が証明してみせる」
するとゴトン、と重い音を立てて何か鞄を落とした。
赤井「これを使え。そこに工具が入ってる。解体は任せたぞ」
コナン「赤井さんは?」
赤井「爆弾があったという事は、奴らは必ずこの観覧車で仕掛けてくる」
赤井「そしてここにある爆弾の被害に遭わず、キュラソーの奪還を実行できる唯一のルートは…」
コナン「空から!?」
赤井「そうだ。オレは元の場所に戻り、時間を稼ぐ。何としても爆弾を解除してくれ」
安室「フン…簡単に言ってくれる」
コナン「安室さんこれを…」
安室「うん、ありがとう」
「…赤井さん」
そう呼び掛ければ、何だ、と言いたげに振り返った。
「私、手伝いましょうか」
コナン「…手伝う!?」
赤井「…だが君は銃を持っていな」
い、と赤井さんが云う前に、私は四季を、桜を発動させた。
背後にいきなり現れた花びらに、2人は驚きを隠そうとしなかった。
安室「何だそれは!?」
赤井「…何かのマジックか?」
コナン「…それって、元太の時の...」
「そっか、コナンくんはもう見てたね」
赤井「…どういう事だ?」
「一緒に遊んだとき、元太くんっていう子が高い所から落ちそうになって。その時、私は桜を使って助けに行ったんです!」
安室「桜、ですか?」
「この力は桜だけではなく、雪や氷、花火や風もあります。それから、さっきお二人を運んだ動物もその一つです」
少しまだ混乱は残っているけれど、赤井さんは冷静に尋ねた。
赤井「それで、その力、?でどうやって加勢するつもりだ?」
「花火ならその場を照らすこともできる。桜はダイヤモンドでも切り裂くことができます。...つまり、」
赤井「桜が銃弾代わりに、花火がスコープ代わり、という事か」
「其の通りです!」
そう云うと、赤井さんは二つ頷いて一言、
着いて来い、
とだけ。
安室さんとコナンくんに一度お辞儀をしてから走って赤井さんの事を追いかけた。
Past and future
コナンside
二人が観覧車の上に向かっている時、一つの考えが浮かんだ。
いや待てよ...?
奴らが仕掛けてくるのは…
気が付いた瞬間、オレは走り出した。
安室「どうしたコナン君?」
コナン「ノックリストを守らないと!」
背後で安室さんが何か言って溜息をついた気がしたけれど、足は止めなかった。
観覧車の隙間。
丁度、内部の真ん中のあたり。
そこから外を覗くと、ライトアップショーで光が動いていた。
見覚えのある、5色の光。
これだ!
このスポットライトはキュラソーの持っていた五色のカラーフィルムと同じ色数!
それに昼間と違って透明度までほぼ一緒だ...!
俺の推理が正しければ、この配色と濃度をキュラソーが見た時、ノックリストを思い出す。
すなわち、彼女の脳こそが記憶媒体。
そしてその記憶の扉が開かれるポイントは、ゴンドラが頂点に達した時だ!
この完璧な配色と濃度を見たら、今度こそ記憶が完全に回復する...!
---
安室「焦りこそ最大のトラップだったな、松田」
その脳裏には、サングラスをつけた同期の顔が浮かぶ。
くるくると天然パーマのかかった髪。
いつも強気で、解体する事が大好きだったヤツ。
無心に解体を進めようと、コードを切っていった。
---
ゴンドラが頂点に達した。
丁度五色の光は重なっている___重なった光の色は、白。
キュラソー「うぅ…う、っ…ああぁぁぁぁああああ!!!」
頭を押さえて絶叫し、のた打ち回るキュラソー。
---
ベルモットside
...どういう事?
記憶は戻っていたんじゃないの?
まさかラムに届いたメールというのは…
ベルモット〈ふふ…あなたがいけないのよキュラソー〉
ベルモット〈その特殊な脳で組織にとって都合の悪い事実を記憶してしまった〉
今よりも若いベルモットが、手足を固定されたキュラソーに銃を向ける。
そのキュラソーも、髪は短く、幼い。
ベルモット〈あなたの能力は確かに素晴らしいわ。でも使い方を間違えると大きな脅威となってしまう〉
ベルモット〈だからわかるわよね?結局これがあなたの運命だったのよ〉
今より少しばかり幼いキュラソーの瞳に、ジワリと涙がにじむ。
ベルモット〈さようならキュラソー〉
--- 〈待て。下がりなさいベルモット〉 ---
ノイズのかかった声が突如響いた。
何もない、ぼんやりと白い空間が、黒く染まっていった。
この声は、ラムの物だ。
ラム〈キュラソー、君には色がない。あるのはただの純黒の闇〉
ラム〈その闇が君を苦しめているのなら、他の色に染まればいい。君の特殊能力を私の為だけに使え〉
RUM、というコードネームと、No.002という数字が表示された。
ラム〈インプットもアウトプットも…そして私の右腕になりなさい、キュラソー〉
---
風見「おい大丈夫か!?しっかりしろ!...すぐに救急車を呼んでやる」
キュラソー「…その必要はない」
拳銃を降して近付いてきた風見。
それを一瞬にして気絶させた。
持っていた拳銃が空中を舞った。
ベルモット「やはり戻っていたのね」
ベルモット「キュラソーが収容可能エリアに入ったわ。頂点到達まで後2分」
ジン「ウォッカ、アームを出せ」
その時、ベルモットの持つ携帯が震えた。
ベルモット「誰?」
キュラソー「久しぶりねベルモット」
ベルモット「やはり記憶は戻っているようね」
キュラソー「ええ、それより迎えはいつ来るのかしら。外は公安が山のようにいるようだけど」
ベルモット「問題ないわ。じきにジンが迎えに行くから。ところでいつ記憶が戻ったの?ラムにあなたのスマホから連絡があったと聞いたけど」
ベルモット「もしもそれがあなたの送ったメールじゃないとしたら…」
キュラソーの頭に、一人の少年が浮かんだ。
その眼鏡をかけた少年は、キュラソーの携帯を真剣な表情で操作していた。
キュラソー「あのメール?もちろん送り主は私。何か問題でも?」
ベルモット「そう…」
だとしたらキールとバーボンは白…理不尽に殺されたくないから逃げたって事かしら…?
ベルモット「そろそろ時間よシンデレラ。その場でカボチャの馬車を待ってなさい」
キュラソー「OK」
---
「ローター音が...もう近くに来ている筈なんですけど…」
赤井「だな…。奴ら、何を始めるつもりだ…!」
---
ベルモット「…3…2…1…」
--- 「ゼロ」 ---
バチ、と音を立て__ベルモットの操作した機械は、水族館の停電を引き起こした。
---
安室「何!?」
暗闇に包まれた観覧車内部、爆弾の目の前で安室は途方に暮れていた。
停電の中じゃあ、どれだけ腕利きの解体者でも解体は出来ない。
---
ウォッカ「ベルモットからの合図を確認!地上は闇に包まれやしたぜ」
ジン「OK!直ちに降下を開始!キュラソーをかっさらえ!」
キャンティ「あいよ!」
Curacao.
キュラソー「このまま座っていれば組織に戻れる…か…」
外は宝石のような街の光。
キュラソーは、手の中にある二つのイルカを見つめていた。
何かを心に決めたように、キュラソーは顔を上げた。
---
何かが飛び出した気がして、犯人追跡メガネをつけるも、何かの影しか見えなかった。
とりあえず目的の場所__キュラソーと風見の乗っているゴンドラに入った。
コナン「公安の捜査官!てことはやっぱりさっき飛び出したのはキュラソー!」
コナン「おじさん起きて!」
キュラソーによって気絶させられた風見に、起きる気配はない。
風見を起こそうとするコナン。
しかし、いきなり揺れ動いたゴンドラに、同じく地面に倒れたのだった。
---
赤井「フン…このライフルでは歯が立ちそうにないが…」
撃ったようだけど、全然反応がない。
モーターに阻害されてる…?
「異能力、『四季、桜、つむじ風』」
花弁の速度を上げるため、つむじ風との併用を試してみる。
しかし、距離がある為かあまり大きな傷がつかない。
そもそも何で軍用ヘリ持ってるんですか⁉
---
コルン「8時の方向、観覧車の上、何か動いた」
ジン「ゴンドラを熱で探れ」
ウォッカ「了解!」
アームでつかんでいるゴンドラ。
中にはコナンと風見。
キュラソーの姿は__ない。
ウォッカ「このフォルムは男!それにガキが一人乗ってやがる!」
ウォッカ「兄貴!キュラソーが乗ってませんぜ!」
ジン「何!?キュラソー...…ゴンドラを捨てろ」
ウォッカ「了解!」
ベルモット「ジン!どういう事?」
停電したレストランの中から問いかけたベルモット。
ジン「キュラソーが消えた。作戦変更だ。キュラソーを始末する」
ベルモット「まだ彼女が裏切ったとは…」
ジン「ゴンドラから離れたワケ、逃げた以外に考えられるか」
ジン「キャンティ、観覧車から距離をとれ」
キャンティ「あいよ」
ジン「コルン、IDWSを用意しろ」
コルン「わかった」
---
身軽な動きで次々と跳ねて動いていくキュラソー。
その前を、小さな影が横切った。
手摺を超えて落ちかけたその手を掴んだ。
__その陰の正体は、灰原哀。
哀「何!私を彼らの元へ連れ戻すつもり!?」
キュラソー「彼らって?組織の事?もしかしてあなた…組織を裏切ったシェリー」
ハッと気づいた様子のキュラソー。
しかし、連れて行こうという素振りは全くない。
むしろ__
キュラソー「さぁ逃げるわよ。ここにいては危ない」
哀「逃げるってどういうつもり!?」
キュラソー「ジンが来ている。あなたならこの意味がわかるよね」
哀「…でもどうして私を?」
キュラソー「わからない。なぜ助けたなんてわからない」
キュラソー「でも私はどんな色にでもなれるキュラソー。前の自分より、今の自分の方が気分がいい」
「ただそれだけよ」
--- 「さあ行くよ、シェリーちゃん」 ---
そう言って、灰原を抱え上げた。
哀「待って!まだ子供達がゴンドラに残ってるの!早く助け出さないと!」
---
コナン「おじさん!しっかりして!」
風見の体を揺さぶるも、未だ起きる様子はない。
途方に暮れるコナン。
---
ウォッカ「観覧車内部を動く影…」
ウォッカ「ガキが二人と大人が!こいつはヤベェ!兄貴!起爆装置の近くに誰かいやすぜ!」
ジン「何!?」
ウォッカ「確かこの消火栓に設置してあったハズ!」
ジン「チッ…公安に気づかれていたのか!」
すぐさま爆弾のスイッチを入れたジン。
__しかし、爆弾は一向に爆発しない。
---
安室「やった!ギリギリだったな」
安室は眉を下げて笑いながら、解除された爆弾の前に座っていた。
---
ジン「フン…浴びせてやれコルン…弾丸の雨を!」
キャンティ「きゃはは!こうでなくっちゃね!やっちまいな!コルン!」
コルン「わかった」
ベルモット「ちょっと待って」
ジン「…なんだ」
ベルモット「観覧車の上に、ニコがいるわ…一人で何か動物と戯れてる」
キャンティ「オーケーオーケー、当たらなきゃいいんだね?」
ベルモット「そう...くれぐれも傷つけちゃ駄目よ」
コルン「了解」
そのままヘリコプターは、銃を連続で乱射し始めた。
勿論標的は、観覧車。
両断するように銃弾を撃ち込んでいく。
観覧車から見ると、雨が降り注いでいるかの如く。
銃弾の雨が降っていた。
キュラソー「奴らの狙いは私。あの子達を頼んだわよ」
灰原にそう云うと、キュラソーは駆けだした。
ウォッカ「ハッ!この動き!このフォルム!間違いねぇ!キュラソーだ!」
キャンティ「死になキュラソー!」
くっ、とキュラソーの目が閉じられた。
頬に鮮血が飛び散った。
ウォッカ「キュラソーの反応が消えやした!任務完了ですぜ!」
ジン「いやまだだ。ネズミ共の始末が残ってる。車軸の爆弾を狙え」
I'll do anything you wish.
---
光彦「灰原さん!」
哀「みんなケガはない?」
元太「あ…あぁ」
---
赤井「ケガはないかボウヤ」
コナン「うん!」
「コナンくん!無事で良かった…」
赤井「隠れるんだ。まだローター音が聞こえる」
コナン「安室さんは?」
赤井「わからん。だが直接的な攻撃を仕掛けてきたという事は、爆弾の解除に成功したって事だろ」
「それもよかった…けど…私のこと、撃ってこない…」
赤井「何らかの理由で対象から故意に外されているんだろう、つまり君は安全だ」
「凄く複雑...だけど…」
コナン「あとは奴らをどうやって…」
安室「そのライフルは飾りですか!」
コナン「安室さん!」
安室「反撃の方法はないのか!FBI!」
赤井「あるにはあるが…暗視スコープがお釈迦になってしまって、使えるのは予備で持っていた通常のこのスコープのみ」
「済みません私の花火使ったら多分ヘリごと爆発させちゃう!」
赤井「もうそれでよくないか?」
コナン「よくないよ!?」
安室「何なんですか⁉」
「何が!?」
コナン「でもとにかく、姿が見えれば落とせる?」
赤井「ああ」
コナン「でもどうやって…」
赤井「ローターの結合部を狙えばおそらく…」
安室「大体の形がわかればいいんだったよな!?見逃すなよ!」
助走をつけて走って来たかと思えば、何かを上に放り投げた。
「…爆弾!!」
ヘリコプターの真横で爆発したそれは、はっきりと機体を捉えた。
コナン「見えた!」
コナンくんはカチリと靴の調節部分を回して、何処からか出てきたボールを構えた。
...ベルトがボール射出部分になってる…!
コナン「行っけぇぇぇえええええっっ!!!」
蹴りだされたボールはヘリの機体の真横で弾けた。
夜空に開く大輪の花。
赤井『落ちろ』
そう云って一発、正確に連結パーツを銃弾が射抜いた。
安室「やったか!」
その時、とある事実に気が付いた。
ヘリが落ちる寸前、彼らはなにをするだろうか?
答えは…簡単。
「…っ一寸私、行かなくちゃ駄目な所があるので!行って来ますっ!」
そう云うや否や、すぐさま走りだした。
赤井「あ、おい...」
コナン「無駄だよ、きっと彼女は...自分の大切な物を本気で守ろうとするから」
半ば呆れているように笑ってそう云ったコナンくん。
赤井「…そうだな、オレも彼女はそんな人のように思う」
安室「勝手に彼女の事を知った様に云わないでください」
なぜかムス、としてそう云い返した安室さん。
---
キャンティ「やばいよやばいよ!このままだと墜落しちまうよ!」
ジン「コルンどけ」
ヘリコプターが落下を始めた。
ふらふらと飛びながら、観覧車の地面との支えとなっている柱を撃ちぬいた。
綺麗に観覧車が地面から外れ、回転し始めた。
---
「何をしようとしているんですか」
--- 「お姉さん」 ---
クレーン車に乗り込もうとしている、一つの人影。
それは、キュラソーのものだった。
腹部に鉄パイプが刺さっている。
出血は只じゃ置かない量の筈...
キュラソー「あなたは...イルカ、ありがとう。でも此処に居たら危ない」
「キュラソー、お願い、っ私の話を聞いて。貴女が死んだら子供たちが悲しむの、」
キュラソー、と呼ばれたことに少し驚いた様子のお姉さん。
しかし、すぐに元の表情に戻って口を開いた。
キュラソー「でもその子達を助けないと」
「だからってキュラソーが犠牲になる必要はない!」
キュラソー「あなたは死んじゃ駄目....帰りを待っている人がいるでしょう?」
「だから私は、全員が助かる作戦を持ってきた。」
キュラソー「…本当に?」
「私を信じて」
キュラソー「…わかった。何をすればいいかしら?」
「取り敢えず、お腹に刺さってるパイプとかを治す...から、来て」
その状況でよく喋れたなぁ、なんて思ったり。
不死鳥で無事治癒完了。
「じゃあ、このパーカーを貸してあげるから、顔を隠しながら人混みに紛れていてね!」
私はその儘キュラソーの返事を待たずに彼女を呼んだ___
--- 「咲夜!!」 ---
咲夜「全く、私は都合の良い異能とは違うのだけれど?」
「クレーン車に乗って、観覧車を止めてほしいの。それで、クレーン車が爆破する直前に戻って。それなら咲夜も助かるから。お願い。力を貸して。」
咲夜「…断る訳ないでしょう。私は貴女の為にいるのだから。貴女の願いなら何でも聞くわよ」
ふっと優しく笑ってクレーン車に乗り込んだ咲夜。
「っありがとう、...!!」
泣きそうになりながら、クレーン車に乗った咲夜を見送る。
There's a lot I want to protect.
安室「コナン君!止められるのか?」
ベルトを結び付けているコナンに訊く。
コナン「わからない!でもやらないと!」
こうしている間にも観覧車は回っている。
回って人々を押しつぶさんとして回って、
いつか回り続けたら、ゴンドラに乗った子供たちも一緒に潰される。
コナン「安室さん!」
安室「大丈夫だ!集中しろ!」
コナン「ああ!」
観覧車の、向側のはしごに乗り移ろうと跳んだ。
コナン「赤井さん!」
赤井「何か策があるんだろ?」
大きく。
もっと大きく。
ベルトから射出されたボールが、ひたすら大きくなることを祈るばかり。
しかし。
コナン「止まらない…!」
そんな絶望的な状況で。
一台のクレーン車が動いた。
「咲夜ぁぁああああっっ!!」
喉が潰れるんじゃないかって思うくらい叫んた。
観覧車の間にクレーン車が入って、止めようと押している。
でも。
これ以上居たら駄目。
「戻ってぇぇええええええっっっ!!!」
お願い。
戻っていて。
そう祈った瞬間、クレーン車は爆発した。
観覧車は___止まった。
「…さく、や...?」
少し震える声で呼んでも、返事がない。
「さくや、っねぇ咲夜!返事してよっ!!」
咲夜「うるさい…少しくらい休ませてくれたっていいじゃない…!」
「っ咲夜、!いる、ちゃんといる、⁉」
咲夜「…いる。から心配しなさんな、私はちゃんといるわ」
目の前の、白い髪の、母にそっくりのその人は、微笑んで私の頭を撫でた。
咲夜「大丈夫よ、桜月。みんな無事。」
「っう、うぅッ、」
ぐすぐすと泣いていると、後ろからいきなり誰かに抱き着かれた。
「ッえ、っ!?」
キュラソー「本当に止めたの、皆無事なの、?」
「っうん、みんな、ッ大丈夫だよ...!」
安室「何て子だ…本当にこの巨大な観覧車を止めるとは…」
コナン「あのクレーン車…一体誰が…」
赤井「よくやったな、ボウヤ」
「安室さん!赤井さん!コナンくんっ!」
三人共固まって居たから、思わず三人同時に抱き着いた。
安室「っうわ!?」
コナン「っ桜月お姉さん!?」
赤井「っは、?」
こうして同じ事をしても三者三様で本当に面白い。
「みんな無事で良かった、です…ッ」
赤井「…泣いているのか?」
安室「…よく頑張ったな、さっき...クレーン車を操縦してた人見なかったか?」
「っあ、それ私の...」
異能、と云う訳にも行かずに悩んだ末に出した答えは。
「…さっきの桜と同じような物です!」
無事に子供達とも、蘭ねぇと園子さんとも会って。
そしてキュラソー。
「ね、よかったら、組織の人達の、キュラソーの記憶を消さない、?」
キュラソー「記憶を…消す_?」
「そしたらもう追われる事もないし…安心して暮らせると思うの、...そんなに大変じゃないから!」
キュラソー「本当に…?」
「うんっ!」
キュラソー「…なら、お願いしていいかしら」
「勿論!」
そう云って、にっこりと笑った。
...雫がまさか、マフィアビルにいたとは思わなかった。
けれど、今実際そのおかげでキュラソーに関する組織の人達の記憶を消すことができる。
...良かった、と云えたらいいな、、。
終わった。
漸く、長かった黒い黒い、
純黒の|悪夢《ナイトメア》が。
---
「た、だいま…」
帰った瞬間、安心と疲れのせいか、玄関で倒れるように眠りについてしまった。
そのおかげで皆大騒ぎだったけれど。
「でも、良かった。守りたい物が守れて。」
中也「手前がそう云うならそうなんじゃねェのか?」
太宰「にしても桜月ちゃんが無事で本当によかったよ...」
鏡花「玄関で見つけたとき心臓が止まるかと思った」
敦「本当に怖かったんだからね!?数日間桜月ちゃん、何処かに行って働きづめだったし!」
芥川「おかげで貴様の仕事が僕に回って来た」
「それはごめんね」
首領「でもまぁ、結果オーライ、なるものだねぇ」
紅葉「黒の組織、…信用ならんのう」
「あ、でもベルねぇとかキールとかバーボンはいい人だと思いますよ!多分!」
中也「多分って無責任だな」
ボス「ま、元々だろ」
「酷い!」
でも。
本当に。
この笑顔を、皆の幸せを、
私は守りたいだけだから。
またポアロに行こう。
沖矢さんにも会いに行こう。
子供達や蘭さんと話しに行こう。
そして、キュラソーが普通に暮らせるように。
出来る事を沢山探して、やりたい。
守りたい物は沢山ある。
だから__
蘭「水族館で会った記憶喪失の?」
歩美「うん!病院でゲームして」
元太「人形あげたんだぜ!すげー喜んでたぞ!なあ?」
光彦「ええ!みんなお揃いの人形なんですよね」
「ね!」
私のは白色。
オレンジのを中也に。
紺色のをお姉さんに。
歩美「でも…いなくなっちゃったんだ…」
光彦「記憶が戻って元いた場所に帰ったんですかね…」
元太「せっかく友達になれそうだったのにさぁ…」
蘭「でもさ、それってもう友達なんじゃない?こんなにみんなに思われてるんだから」
歩美「そっか!」
光彦「ですよね!」
元太「おう!」
「ね、皆。。。一寸来て!コナンくんと哀ちゃんも!」
皆を集めて、後ろの扉をジャーンと手で指した。
キュラソー「…久しぶり、皆」
お姉さんはもみくちゃになる位皆にぎゅうってされてる。
泣きながら喜んでる歩美ちゃん。
珍しく哀ちゃんが屈託のない笑顔。
元太くんはイルカを並べてる。
光彦くんは沢山話してる。
コナンくんは...私を見ていた。
「どうしたの?」
コナン「…キュラソーは組織の人だけど、大丈夫なの?」
子供たちに聞こえない位の声の大きさ。
「うん、私達の方で消したから」
コナン「何を?」
「組織の人達の、キュラソーに関する記憶と、キュラソーの犯罪記録」
驚きを隠せないコナンくん。
コナン「やっぱりお姉さん、何者?」
「ふふっ、そうだね…」
--- 「私は、泉桜月...元探偵社員で、善人のマフィアで、現軍警トップの14歳です!」 ---
この世界では、猟犬でない代わりに《《軍警トップ》》という称号を持っていた。
--- A pure black nightmare~fin~ ---
--- Next is The Zero Executioner ---
The Zero Executioner.First story~
黒の組織による事件は無事収束した。
能力者である猟犬がいないと、軍警もただの武装集団だなぁ、なんて思っていたり。
これ言い始めたらもうポートマフィアはこの世界で最強だけど。
...それはそれで面白い。
「で、太宰さんはごろごろしないでください」
太宰「えぇー、だってこのニュースを見給えよぉ」
指差す先には大きなテレビに映るニュース。
__東京サミットについて。
『サミットはこちら!東京湾の埋立地にある統合型リゾート“エッジ・オブ・オーシャン”の国際会議場で来週行われます』
「あぁ、そう言えば私軍警側から応援要請来てたっけ」
太宰「えっ初耳だよ?」
「云ってないですもん」
太宰「…何だか嫌な予感がするんだ、一応気を付けて…乱歩さんも同意見らしいからね」
「わ、分かりました!...って電話、?」
ポケットが震えているのに気が付き、開いた。
誰だろう、と思ったら、マフィアの取引相手だった。
マフィアの取引相手...とは言ってもこの人は弱小企業なので、其処まで、って感じ。
話しながらテレビに視線を向けると、サミットの会場__『エッジ・オブ・オーシャン』の説明をしているところだった。
『貝殻をモチーフに作られたカジノタワーは、海の安全を守る灯台の役割も果たしており、エッジ・オブ・オーシャンを一望する事ができます』
カジノ、という言葉に思わず反応してしまったけれど、流石に関係ないだろうと思い、何とか取引に耳を引き戻した。
「はい、…はい、___判りました、では...」
電話を切った瞬間、突然の轟音が耳に届いた。
「っわ、ぁ!?」
それと共に、アラームの警告音___どうやらそれは、通信を消し忘れていた軍警用の携帯から鳴っている様だった。
太宰さんが咄嗟に手に取ると、直ぐに無線の通話が流れ込んでくる。
『こちらサミット警戒班__!!突然の爆発により会場が炎上、死傷者人数不明、公安との合同警備中に__で___を』
『こちら本部!直ぐに応援を送る!』
はきはきと行動する人たちに反し、私は太宰さんに差し出された携帯を、震える手で受け取る事しか出来なかった。
「…公安、の、今日の警備担当人員表をこの間見た……|あの人《降谷》がいた筈、、!!」
太宰「…何だって?」
私の一言で太宰さんの声にもピンと緊張が張り詰めた時。
突然、部屋のドアが勢いよく開いた。
中也「オイ!来週のサミット会場が爆破だって…ウチの取引相手も来週来る人の中にいる筈だぞ!不味い__」
「…ッ中也、私公安部...いや、警視庁に行ってくる」
中也「はァ⁉でも手前がその立場ってのは殆どの警察が知らねェんじゃ...ってか、マフィアがそう易々と行くところじゃねェだろ!?」
「…いい。これを機に公表してやるでも良い。兎に角現在状況を」
中也「あぁ判った判った、手前はそう云う奴だって、俺らは知ってるからな」
「っじゃあ、!行って良いの、?」
中也「勿論だ、早く行け」
「ありがとっ中也...!」
感謝の目で見つめてから、一度思いきり抱き着いて、そのまま部屋を飛び出し、マフィアビルを後にした。
ボスのお陰で其処は警察本部。...警視庁。
手早く着替えを済ませた私は青みがかったダークグレーのスーツに着替えていた...タイトスカートのような感覚が慣れなくて歩きにくい。
あ、緊急会議。大会議室かな。
...行こうとしたら止められる奴だ。
「…通らせてください」
警備員「君、ここから先は普通の人は立ち入り禁止なんだ。入れないよ」
私の事、何歳だと思ったんだろう...
仕方ない、刑事手帳...ではないけど、軍警版の刑事手帳...的な物を。
「此れで如何ですか」
警備員「…写真と顔が一致している、けど...君みたいな未成年者が警察にいる訳が...第一未成年労働基準は」
「泉桜月。軍警最上位命令者の位置にあります。未成年ですが、幼い頃に軍警の方が交わした約束によってこの歳でこの位に就く事となりました。他に何か質問はございますか?」
警備員「し、っしかし...」
「疑う事は良い事です。けれど、理解が追い付かなくとも状況を処理する能力は大事ですよ!」
にこにこと快活にそう云うと、警備員さんの顔色は悪くなる一方だった。
...私が一寸…というより大分無理言ってるのは自分でも分かってるけど、事実だし……
困っていると丁度小走りで顔見知りの軍警の女性が来たため、平謝りされながら通された。
彼女が丁度警備に当たる直前の、交代前に爆発が起こったらしい。
「にしても助かりました!ほんっとうにありがとうございます!」
何度も何度もぺこりとしてお礼を云った。
本当に感謝しかない...
「いえ、私の様な者がそのようなお言葉にあずかれる事ではありません...」
逆に頭を下げられてしまい、何だか申し訳なく感じた。
「素直にお礼を受け取って下さい!その方が嬉しいですからっ」
困った様に笑って、もう一度頭を下げた。
「ありがとうございます!」
すると、素直に(?)お礼を受け取ってもらえた。
それでよし、と(自分で言うのもだけれど)満足げに笑顔を浮かべて、一度小さく礼をして会議室に入った。
一斉に視線が此方を向く。
佐藤「桜月ちゃん⁉」
高木「えっ!?」
高木さんに至っては声が裏返っている。
そんなに驚い__驚くか。
「軍警の出動要請、遅れてしまいすみません__本日は休暇日だったものですから」
目暮警部は無言で驚いている。
その隣にいる黒田さんは私の姿を見てどことなく察した様だった。
黒田「所属と名前を」
「所属...、配属は違いますが、私の出動要請を出されたのは其方ですね?...軍警長官...というより、事実上のトップ、です」
異能特務課の種田さんを思い出して、あの人は|あそこ《特務課》の長官だったっけ、なんて思い出した。
--- 「泉桜月。所属は軍警です」 ---
指揮系統がそもそも違うっていうのに、何で警視庁に呼び出されなきゃダメなんだろ、と頭の中でぼやいてみる。
まったく、猟犬の皆さんも、この世界に来てたなら早く教えて欲しかった!!
Summit's of bomb?
「猟犬の一員です」
その一言で広がっていく波紋。
驚き騒めく人々を黙らせたのは、またもや黒田さん。
黒田「…公開していいのか?」
「はい。折角軍警トップという代わりの称号を与えてもらったのになのですが、やっぱり猟犬の皆さんが居るならと」
目暮「ちょ、ちょっとまってくれ、つまり彼女は軍警トップにして...軍警最強と名高い猟犬の一員だと?」
黒田「いや、前者は彼女が猟犬だという事が露見しないように作った仮名だ。」
「猟犬...一般人とはかけ離れた身体能力を持ち、過激派の中の過激派による暴動などの鎮圧を主とする6人のみで構成された集団」
佐藤「…失礼しました」
「も、元のままにして下さい!私も何だか変な感じがしますからっ!」
佐藤さんは、私がそう云うと、ふっと諦めたように笑った。
佐藤「分かったわ、桜月ちゃん」
「…それで、状況は?」
ピリ、とした空気にがらりと入れ替わる。
佐藤「…鑑識作業の結果、現場から爆発物は見つかりませんでした」
高木「国際会議場の一階には日本料停があり、地下には爆発現場となった厨房が設置されています。そこから大量のガスが検出されました」
「しかし、そのビルは建設したばかりです__ガス漏れとは思えませんが」
すると前の大画面に映った画面が切り替わり、ガス管の設計図の様な物が映った。
高木「このガス管は最新型でネット上からガス栓を開け閉めする事も可能です」
「それはつまり__」
私が言いかけた時、バタンと勢いよく扉が開いた。
そのまま止まらずに歩いてこちらに来る人影。
...なんだか知っている様な気がする。
風見「報告します」
黒田「所属と名前を言え」
風見「警視庁公安部風見裕也です。ガスを爆発させた爆発物の件は?」
黒田「まだだ」
風見さんは彼方此方に掠り傷を追っていて、絆創膏も幾つか貼ってあった。
...まさか、爆破時にサミット会場にいた?
、!思い出した、サミットの警戒班一覧表に乗ってた、風見裕也、公安で、降谷零という人の実情を知る数少ない人の一人だと、。
...今あの人の無事を確かめたいけど、後だ。
とりあえず、私にしないといけない事は3つある。
風見「その爆発物ですが、高圧ケーブルかもしれません」
目暮「まさか工事ミスが見つかったのか!?」
風見「いえ、しかし高圧ケーブルの格納扉に焼き付いた指紋が見つかりました」
黒田「つまり爆破前についた指紋か」
風見「はい。現場に入ったのは工事関係者と今朝警備点検した我々公安だけ...軍警の人員は外部担当でしたので」
「成程ね…ですが軍警はそもそも素手で警戒に就く事はありませんが……その指紋の持ち主は?」
風見「…工事関係者の指紋および警察官の指紋をデータベースで照合した結果、かつて警察庁捜査一課に在籍していた__」
その時、大きな画面に映ったその人の顔に、私は見覚えがあった。
見覚えがあるどころじゃない。
知っている。
そして、その人がこんな事をする人では無いとも。
--- 「毛利小五郎の指紋と一致しました」 ---
その言葉を聞いた瞬間、私はまた走りだした。
「すみません、急用を思い出しましたので失礼します!...そもそも司令部の違う私が此処に居るのはお門違いだという方もいらっしゃいますでしょうし」
人気のない裏路地から奇獣に乗って勢いよく目的地へ向かう。
向かう先は__毛利探偵事務所。
そして、その途中で電話を掛ける。
条野さんに。
「いきなりすみません!泉です!」
条野「本当にいきなりですね…如何されましたか?」
「あの!なんでこの世界に来てるのに何も言ってくれなかったんですか⁉」
条野「いえ、それは…ついこの前来たばかりなんですよ、我々猟犬の方は」
「それが私達と一緒に来たかのように情報が書き換えられていると?」
条野「そういう事です。それが聞きたかったのですか?」
「違いますよ!..._________?」
条野「…!!何処でそれを知ったんです?」
「秘密です…今は。」
条野「…______。」
--- 「では桜月さん、くれぐれもお気をつけて。」 ---
「はい、ありがとうございました!」
電話を切ると丁度探偵事務所に着いたところだった。
He's innocent.
「毛利さんいますかっ!!」
さわがしく階段を駆け上がり、事務所のドアを勢いよく開いた。
すると、コナンくんと蘭ねぇ、そして毛利さんが驚いてこちらを見ていた。
蘭「桜月ちゃん...!びっくりした、何があったの?」
「ダメ、駄目だよ、此処にいちゃ駄目なのっ!!」
コナン「お、落ち着いて、ここにいちゃダメってどういうこと?」
「毛利さんが、っ…」
毛利「お、俺が何かしたのか!?」
「…捕まっちゃう、!!」
---
コナンside
そう言った彼女は手を小さく震わせて、涙目になっていた。
その様子からして、嘘をついているとは思えない。
...でも、どうしてそんな事を知っているんだ?
これも彼女がこの前言っていた「能力」なのか、?
桜月「御願い、逃げて!早く、お願い...っ」
蘭「で、でも桜月ちゃん、」
蘭に泣きながらそう訴える姿はとても弱々しくて、やっぱり嘘をついているようには見えなかった。
「桜月お姉さん、もう少し詳しく教えてくれない?」
毛利「いきなり言われてちょっと驚いてるからな」
蘭「あ、っでも自分のペースでいいからね!」
桜月「っは、はい…」
そう言って彼女が口を開いた頃には、外からはパトカーのサイレンの音が聞こえてくるようになった。
「本当だったのか、っクソ、!」
毛利「っとにかく桜月ちゃんはここにいたのがバレたらマズい、裏口から外に出て、今来た風に装ってきてくれないか?」
---
桜月side
「…わかりました、。」
毛利「埋立地の国際会議場?そんなトコ行った事ねーよ!」
佐藤「でも現場から毛利さんの指紋が出てるんです」
毛利「んなわけねーだろ!」
結局、数人の警察の人が家宅捜索に来た。
何とかさっきまで毛利さんと話していたことはバレていないけれど、逃がすのが間に合わなかった…
でも、指紋があっただけなのは証拠不十分じゃないかな、と思ったのが正直。
それに...焼き付いた指紋っていくらでも偽装できる。
如何にかして、毛利さんの無実を証明しなきゃ。
コナン「あの刑事さん、顔怪我してるけど大丈夫?」
高木「ああ風見さん?爆発があった時、現場にいたみたいなんだ」
そう話す二人の視線の先を目で追うと、慥かに風見さんがいる。
「…あの」
風見「…!はい」
「えっ、敬語……?」
風見「…立場は存じています」
「…あ、ありがとうございます、?」
風見「ところで…ご用件は?」
「…|あの方《安室》は無事ですか」
風見「…はい。」
ずっと周りに聞こえない声で話しているとはいえ、むやみに名前を出すべきじゃない。
其処は幾らでも分かっているから、あえて「あの人」と云った。
...よかった。無事なんだ。
「ありがとうございます」
小さくお礼を云って、また立ち上がった。
警察の捜査は、まだまだ終わらなさそう…。
周りを見渡すと、蘭ねぇはだれかと話しているようだった。
…事件の事を誰かに相談してる、?
首をかしげていると、床に誰かの携帯が落ちて居るのが目についた。
「…これ、誰の落とし物だろ、?」
もう一度首をかしげると、ちょうどコナン君が部屋に入ってきた。
「っえ、!?」
コナン「わ、っ!!」
扉付近に立っていた私。
突然開いたドアに驚いて、何とか後ろに飛んで避けた。
「ご、ごめんなさい!!」
驚いてこっちを見ている数人の警察の人たち。
…あ、そっか。あの会議に出てない人はまだ知らないかなぁ、。
コナン「桜月お姉ちゃん!ごめんなさい、…大丈夫?」
「あっ、うん!私は大丈夫。。。コナンくんは、?」
コナン「僕は大丈夫だよ!…あれ、その携帯…!」
先程拾った携帯。
「…これコナンくんのだったの!?」
コナン「うん!拾っててくれたんだ…!」
「あ、いや、さっきドアの前に落ちてたから…」
コナン「ありがとう、桜月お姉ちゃん!」
手を振って一度私はそこを抜けだした。
向かう先は___ポートマフィアビル、乱歩さんのもとへ。
--- 「…もしもし、ボス、一寸転移してほしいんだけど」 ---
Because,I like you.
「乱歩さんッ!!」
乱歩「桜月ちゃん、来ると思ってたよ」
「助けてください!友達のお父さんが、、冤罪…嵌められてるんです…!!」
乱歩「はぁ…太宰に忠告してもらったと思ったら、結局これか」
「すみません、…」
乱歩「…謝らなくていい。忠告がテロに間に合わなかったのは僕の所為だ。君は悪くない」
「そんな、っ……やっぱり、テロなんですか、?」
乱歩「テロ、ではない。…古い恨みが表に出て来るだけだよ」
「わたしは、…どうしたらいいんですか……?」
乱歩「________。」
「っ、それ、条野さんとも話した事__」
乱歩「それが答えだよ」
「…わかりました。なら、、止めてみせる。何があっても、!」
ありがとうございました、と言ってまた毛利さんの事務所に向かう。
今度はボスが任務でいないから、奇獣と自分の足を使って。
日が傾いてきて、街は橙色に染まっている。
勢いよく事務所に飛び込むと、いまだに捜査は続いていた。
「蘭ねぇ!」
蘭「桜月ちゃん!…ぁ、この子は桜月ちゃん、」
???「へーぇ、この子がガキんちょの言ってた安室さんの彼女!?」
目をキラキラさせて、頬を若干紅潮させながら、そのお姉さんは私に顔を近づけて言った。
「ち、違います、、!!私には彼氏がいますしっ!」
???「えぇー、違うの?」
蘭「そ、園子…そのくらいにしてあげて、桜月ちゃん困ってるでしょ?」
園子「もぅ、分かったわよ!…私は鈴木園子、蘭と同い年!」
「…鈴木、園子?」
園子「その通り!鈴木財閥の」
「…次の取引相手?」
私がぼそりと小さく口から漏らした言葉を、二人は聞き逃さなかった。
蘭「…と、取引?」
園子「ウソ、桜月ちゃん何歳!?」
「っあ、えと、昔からお世話になってる会社があって…私の両親が死んじゃった後、身元を引き受けてくれたところなんですけど…」
園子「どこどこーっ?」
興味津々といった顔で見られても、まさかマフィアとは言えない。
どうしよう。
私今季最大の失敗…!!
「ぇ、っと…」
幸いにも、神様は私を助ける気になったようだった。
蘭「まぁまぁ、園子、今は…」
園子「ぁ、そうね、おじさまのことが優先よ!」
声高らかにそう言ったお姉さん。
危なかったぁ…
「今は如何いうところまで調査が進んでいるんですか?」
風見「泉さん!」
「ぁ、えっと、あの、外では…」
風見「す、すみません…!!」
声がいくら小さくても、多少の不安は残る。
念のため、というやつ。
風見「今押収したパソコンを部下に調べさせている所で__」
??「風見さん!サミットの予定表、爆破された国際会議場の見取り図がパソコンから!」
風見「何⁉」
「っえ、!?」
瞳孔を見開いて蘭ねぇが息を呑んだ。
「そんな訳…ない、!」
ぴしりと空気が重く冷たくなっていく。
毛利さんは混乱した様に何かをしきりに話している。
風見さんはその中で落ち着いたように資料を纏めていた。
…何か、誰かが、何かおかしい、。
Because,I like you. 2
「っそんな無理筋な、ッ!!」
風見「泉さん、ご友人を庇いたいのはご尤もですが…ここは公平な判断を」
「公平と云うならなぜ彼女らの毛利さんは機械音痴だ等との証言を耳に全く入れないんですか⁉何故動機や入手方法、嵌められた可能性についても全く言及しないんですか!?」
園子「さ、桜月ちゃん...け、警察みたいね」
「…私は__っいえ、何でもありません。兎に角正しい判断とは思えないから抗議しているだけです、!」
すると蘭ねぇはいつの間にか誰かに電話をかけていた。
蘭「新一助けて!お父さんが逮捕されちゃう、ッ!」
新一。
その人は先程も電話をかけていた人だろうか。
毛利「だから知らねぇって!」
風見「押収したあなたのパソコンから出てきましたよ、サミットの予定表。それから爆破された国際会議場の見取り図です」
風見「詳しい話は警察で聞きます」
毛利「ふざけんな!公安の任意同行なんか知るか!」
ごたごたと揉めながらだんだんと事務所の外へと進んでいる。
…っなんで、どうして__!!
パッと手を払った毛利さんを見て、風見さんは云った。
風見「では今の公務執行妨害で逮捕します」
毛利「手を払っただけだろうが!」
外に見えた小さな影に、私は思わず半泣きになりながら階段を駆け下りて声を掛けた。
「コナンくんっ…!!」
毛利「おい放せよ!」
其処ではもうパトカーに連れ込まれそうになっている毛利さん。
その毛利さんとパトカーとの間に割って入って、コナンくんは云った。
コナン「待って!小五郎のおじさんが犯人なら、サミット会場を爆破する動機って何!?」
毛利「そうだ!何の為に!」
風見「…それも事情聴取で伺います」
必死な私達の抵抗もむなしく、毛利さんはパトカーに乗せられ、連れていかれてしまった。
「っそんな、…毛利さん……」
コナン「これ公安の刑事さんだよね?」
いきなり聞こえて来たその声に、顔を上げた。
その方向を見ると、風見さんの写真が写るスマホを差し出すコナンくんと___
__差し出されている安室さん。
安室「さぁ…知らないけど?」
コナン「怪我してるね?風見刑事も安室さんも」
ポアロの前を掃除している様子の安室さんの動きが、一瞬ピクリと止まった。
コナン「つまり安室さんもいたんだよね?爆発現場に」
安室「何の話かわからないなぁ」
コナン「サミット会場の下見をしてたんでしょ?きっとその時テロの可能性を察知した。だけど今のままじゃ爆発を事故で処理されてしまう」
--- 「だから、偽の容疑者をでっち上げた、の…?」 ---
思わず声を発した私に、安室さんとコナンくんの顔が向く。
コナン「桜月…っ安室さんや彼みたいな警察なら、パソコンに細工をしたり現場に指紋を残す事だって可能だよね?」
今呼び捨てされたという事は置いておいて、如何してコナンくんがその事を知ってるの、?
安室「…、警察はね、証拠の無い話には付き合わないんだよ」
そのまま店の中に入ろうとする安室さんに追い打ちをかけるように、コナンくんが云った。
コナン「何でこんな事するんだっ!!」
安室「…僕には、命に代えても守らなくてはならない物があるからさ」
その言葉の重さに、少しの間体の動きが止まった。
…安室さんは、っずっと一人で背負い続けていたのだろうか、この責任を。
__日本を守る、責任を。
安室「…桜月さん、少し話したいことがあるので…お時間をいただけますか?」
少し振り向いて、私にそう云った安室さん。
…何か、ある。咄嗟にそう思い、頷いて暗い店内に入った。
外に残された、彼を案じながら。
「…じゃあ、またね、…。コナンくん、」
Because,I like you. 3
安室「…すみません、いきなり。」
「今は誰もいません。普通にしていていいと思いますよ」
安室「…念のためです」
「素で話さないなら信じられないです」
何故か謎の意地を張ってしまい、そう云った。
すると、安室さんは眉尻を下げながら仕方がなさそうに笑った。
降谷「…これでいいか?」
「…はい。でも出来るだけ手短にお願いします…仕事がありますから」
降谷「…それは、マフィアの、か?それとも、」
「猟犬の仕事か、ですよね?」
降谷「あぁ…全く反対の仕事を掛け持ちしているなんて前代未聞だよ…」
額を押さえながら、苦笑しているのか眉と眉の間にしわを寄せているのか、俯いた表情は読めない。
「…降谷、零。公安の中でも、公に知られていない秘密裏の組織、ゼロ。」
そんな場所に属すのが、安室さん、いや、降谷さんの正体。
降谷「…君はどっちの見方なんだ?」
「それは…どことどこの?」
降谷「マフィアか、政府か、黒の組織か、それとも普通の人々か…」
「…私は、」
「ただ、大好きな人はみんな守りたいですから」
降谷「…その一心で毛利小五郎の逮捕を防ごうと?」
「いや、それに関しては明らか冤罪でしたから」
降谷「そうか、…何故そう思った?」
何故、かぁ…。
「いくらでも偽装できるような証拠しかなかったですし、それに__」
「毛利さんがそんなことする、意味がないですから。」
降谷「…何故信じられる?」
--- 「だって、私はあの人たちが大好きですから」 ---
---
中也「…なぁ、桜月」
「ん?どうしたの、中也」
中也「…最近、目の下の隈が酷い…寝てねェだろ」
「え、いや、ちゃんと寝てる…と思うけど」
中也「…腕も前より細くなってる__真面に食ってねェよな、手前」
「…お腹空かないし、、毎日チョコひとかけ食べてるよ、?」
--- 「それ…本当、?」 ---
突然聞こえてきた声に、扉の方を振り向いた。
「お姉ちゃん、。」
その手には、私がどこかの部屋に忘れてきた小型銃。
「あ、っ忘れてたやつ…ありがとう、___お姉ちゃん、?」
立ち上がって自分の部屋の出口…お姉ちゃんが立っている入り口に近付く。
のに、
お姉ちゃんは俯いてプルプルと震えていた。
「…お、お姉ちゃん…?如何したの、?」
鋭い痛みが頬に走って。
乾いた音が部屋に響いて。
何処かがその拍子に切れたのか、
口の中は血の味がしたし、
頬に生温い液体が伝うのに気付いた。
暫く、数秒たってから。
お姉ちゃんに、叩かれたんだって気付いた。
それも、まったくの手加減もなく、本気で。
「おねぇ、ちゃ、ん…?」
私より背の高いお姉ちゃんは、さっきとは違って顔を上げていた。
今まで見たこともないくらい、顔を歪ませて、私を睨んでいた。
鏡花「…莫迦!!」
今まで聞いたことないくらいの大声に、びくりと体が震えた。
鏡花『どうして自分のことをそんなに大切にしないの?』
「た、大切にしてないなんて、っ」
鏡花『周りの為に頑張るのは桜月の善い所。でも、その所為で自分が見えてないなら__私は貴女のしてること、応援できない』
後ろから中也がオドオドとしているのが分かった。
こんな風に、私達が云い合う事なんて、無かったから。
でも。
其れ以上に、私は悲しかった。
自分よりも周りを優先する。
何時だって、ずっと昔から、前から。
そうしてきたのに。
「如何して…分かってくれないの、?」
鏡花『貴女こそ、如何してそんなに自分を追い詰めてまで動くの?』
本当に、
今まで見たことがなかった。
こんな風に、私の事、本気でにらんで、怒ってるお姉ちゃんを。
「…っじゃあいい。私お姉ちゃんに別に応援されなくても生きていける。私__っ助けたいだけだもん、っただ、あの人たちが大好きなだけっ!!」
何故なら私は、|貴方達《コナン君達》のことが大好きだから。
私が毛利さんのために動く理由なんて、それだけ。
そう叫んで、私は部屋から出て行った。
勢い良く、部屋から出る直前に後ろ手で扉を閉めて。
廊下に出たところで、ちょうどひぐっちゃんとであった。
樋口「桜月!…どうして、泣いてる、んですか…?」
「…うぅん、何でもないの!」
本当に、何でもない。
そう云って、ニコッと笑って見せて、また歩き出した。
…もう暫く、仕事は自分の家ですることになりそうだなぁ、。
マフィアビルの部屋じゃなくて、東都に念のため置いておいた自分の家で。
暫くはマフィアビルに戻らないで、東都の中央部で過ごそう。
今まで行ってなかった場所に行ってみるのもいいかな。
一日中籠ってサミットについて調べるのもいいかも。
きっとマフィアの人たち、私が居ない分のサミットの担当、代わりの人を探すのに苦労するんだろうなぁ…
鈴木財閥との取引、延期になりそう…
…表企業を装って取引するからね。
……マフィアとの取引であることは鈴木次郎吉さんしか知らない。
でも、そんなこと知らない。
私は、私のしたいことをする。
っ例え其れが、マフィアの敵に為り得ることでも__。
work,work,work.
蘭「なんでお父さんの弁護してくれないの!?」
妃「弁護士はね、肉親の弁護はしないの。客観性がないと裁判官に判断される可能性が高いからよ」
「蘭ねぇ、…お母さん、弁護士さんだったんだ、、」
園子「…そうよ、__ねぇ、さつきちゃ、」
妃「大丈夫よ、いい弁護士をすぐに見つけるから」
机の上に山積みになっている刑事事件の記録は、おそらく弁護士を調べる為。
大切なんだ、娘の蘭ねぇと、毛利さんの事が。
…それに比べて、私は何なんだろ、。
お母さんとお父さんにはおろか、お姉ちゃんにも、何もできてない…
それどころか、八つ当たりだよ…あんなの、っ……
園子「…桜月ちゃん」
「っは、はい!」
園子「大丈夫?ボーッとしてたけど」
「大丈夫です、!」
園子「その、聞きにくいんだけどさ、…桜月ちゃんって__」
心臓が止まるかと思った。
私達マフィアが、表向きに鈴木財閥と取引する時の会社の名前を口にしたから。
「園子さん、…世の中には、深入りしない方がいいことってあるんです。……」
園子「…ま、いいわ!とにかく桜月ちゃんはそこんとこのご令嬢ってわけね!」
「えっ!?」
先程の名推理と打って変わり、いきなり社長の娘にされました。
…園子さんって推理脳力高いのか低いのか、、、
わからん。いいや。
これ以上変に深入りしちゃったら向こうも私達もよくない。
「そういう事にしときます」
窓の外は、黒く夜の闇が覆っていた。
私も、調べなきゃ。
---
一度東都の家に戻ってスマホとパソコンを開いた。
不在着信も、未読メールも、吃驚する位溜まってた。
でも、今はどうしても返す気になれなくて、通知を消してウェブを開いた。
…そんな事をしてる間にも溜まっていく通知が、どうしようもなく悲しかった。
パソコンを立ち上げながらスマホで防犯カメラや残留証拠のデータを一つ一つ確認し、パソコンに送る。
タブを開きながら、PDFを展開していく。
「…電気圧力鍋...」
その時、私は一つの違和感に気付いた。
ポッドの周囲にある破片に、違うものが混ざっている。
黒い、何か…
破片、のような物が。
…破片、?
夜通し電子機器と向き合っていた所為か、目や肩が痛いし頭が痛い。
でも…
少し、分かったかも知れない。
「ッんーっ!!」
思い切り机を突き放し、コロコロ動く椅子は私を乗せたまま勢いよく後ろに弾かれた。
手を思い切り伸ばし、背もたれに肩を凭れさせながら目を瞑った。
窓からは、朝日が差し込んで夜が終わったことを告げていた。
---
風見は電話をかけていた。
その相手は、安室透。
安室「まさかサミットの前に爆発されるとは…」
風見「国際テロリストを調べていますが、降谷さんの方は?」
安室「現場のガス栓にアクセスした通信を調べている。少し変わったシステムが使われているようだ」
安室「例の件はどうなってる?」
風見「はい。“2291”を投入する手筈になっています」
ハッと顔を上げ、公衆電話のボックスの外を見た安室。
真っすぐ朝日が差し込み、夜が明けた事を知らせていた。
風見「降谷さん?」
安室「…わかった」
---
黒田「それはつまり、毛利小五郎のパソコンから現場のガス栓にアクセスした形跡が出たって事か?」
白鳥「はい」
風見「決まりましたね」
毛利さんのパソコンから…
でも、この状況も想定内。
暫くは、私の突きとめた真相は誰にも云わない。
風見「毛利小五郎はここに忍び込み、この扉を開け高圧ケーブルに細工をしたんです」
目暮「待ってくれ!だったら防犯カメラに毛利君が映っていたハズだ!」
佐藤「いえ、現場にネットが開通したのが昨日からなので…」
黒田「取り調べではなんと言ってる?」
風見「毛利小五郎は否認を続けています。否認のままでも送検できますが」
目暮「動機がわからないのに送検する気か?」
「動機は不明でも、証拠が揃っていたら送検する事は可能__いや、当然です」
この間まで毛利さんを弁護するような姿勢を取っていた私がそう云った事は、佐藤さん達をとても驚かせたようだった。
目暮「待ってくれ!何かひっかかる!何かおかしい!」
風見「何か引っかかる、何かおかしいで、これだけの捜査員が動くと思いますか?」
その後ろには、大勢多数のスーツ姿の捜査員達。
「…私は先に失礼します」
---
「いいって言ったのに」
白鳥「どうせ毛利さんの所に行くだろうと思ったので」
「私一人で行った方が速いです」
白鳥「まぁまぁ、何度も何度も押し掛けられるよりまとまって行った方が良いでしょうし」
「…はぁ……ありがとうございます、車に乗せて頂いて」
先に会議を出たはずが、何故か白鳥さんと同じタイミングになってしまい、|毛利さん《蘭ねぇ》の所に行くなら行き先が同じだから、と私も車に乗せてくれた。
…車って久々に乗った…
白鳥「…着きました」
I don't hear your words.
白鳥「失礼します。ニュースになる前にお伝えすべきかと思いまして…」
白鳥「毛利さんが…送検されます」
妃「送検に足る証拠はあるの?」
白鳥「現場にあった毛利さんの指紋…パソコンにあった現場見取り図やサミットの予定表…そして引火物へのアクセスログ…」
妃「…送検するに十分ね」
「でも…データ改竄は誰にでも可能、指紋も焼き付いたものなら細工なんて幾らでもできます…」
妃「…あくまでそれは可能性、今実際事実としてあることを見て決めたんでしょうね」
「…なんて頭が固い人たちなんだろ……」
…いっそのこと、全員殺す?
…うぅん、それはやりすぎ。
だって、無関係の真っ直ぐな善人だって、その中に入る筈だから。
…忘れ物、しちゃった。
マフィアビルに戻って、また直ぐ帰って調査の続きをしなきゃ。
---
コナン「博士、見つかったって?」
阿笠「ほれ」
大きな画面に映るのは、黒焦げの飛散した破片。
それを組み合わせて、形を成したものだった。
コナン「確かに爆弾に見えるかも」
阿笠「君に頼まれて飛び散った爆弾を撮影したじゃろ?」
阿笠「その画像をパズルみたいに繋ぎ合わせて復元したんじゃ」
哀「あったわよ。合致する物が」
--- 「IOT圧力ポット?」 ---
哀「圧力なべをポットの形にした優れ物。スマホから圧力、温度、時間を設定するだけでスープなどの調理ができる…だって。圧力ポットの他にもフライパンやお鍋や食器も散乱してたから、爆発した場所は施設内にある飲食店の厨房だったようね」
コナン「、何だよッッ!爆弾じゃなかったのかよっ!」
阿笠「コラ!君の頼みで哀君もこうやって頑張ってくれてるんじゃぞ?それをなんじゃ…君らしくない」
コナン「…悪かった」
哀「何かあった?」
コナン「小五郎のおっちゃんが……送検される」
---
橘「ですから私、橘境子に眠りの小五郎を弁護させてください」
橘「私がこれまでに扱った事件です」
妃「公安事件が多いのね」
コナン「それで、お姉さんの裁判の勝敗は?」
橘境子「ボク、難しい言葉知ってるのね?…全部負けてるの……」
コナン「・・・え?」
妃「あ、でも公安事件は難しいのよね」
橘「はい。検察が起訴した事件の勝率はご存知の通り9割以上…」
妃「それが公安事件だともっと上がる」
橘「つまり勝てるわけないんです。でも私はケー弁なので…」
蘭「ケーベン?」
妃「事務所を持たず携帯で仕事を取るフリーの弁護士の事よ」
---
…マフィアビルに来るのはなんだかすごく久しぶりな感じがするけど、実際はそんなには時間がたってないのに吃驚する。
誰にも会わないようにさっと行ってさっと帰ろ、。
そう決めてたのに、
樋口「桜月ぃぃぃいッッ!!!」
紅葉「桜月、私らがどれだけ心配したと…」
銀「…どこに行ってたんですか?」
与謝野「まァまァ、壮大な姉妹喧嘩だねェ」
ナオミ「鏡花さんも落ち込んでいらっしゃいました…」
その本人は居ないんだものね。
探偵社の任務中なんだろうけど。
「…私は忘れ物を取りに帰ってきただけなんです!それでは失礼しますっ」
にこ、と微笑んでからその場から一瞬で姿を消す。
「ありがと、ボス…にしても如何して私が移転して欲しいって分かったの?」
そう、瞬時に何処かの路地裏...今居る場所…に来れたのは、ボスの転移能力のお陰。
ボス「はっ、こうやって声掛けられることも予想して、”私が裏通りに花びらを飛ばしたら適当な路地に転移して”って匿名でメール送ってきたくせに何云ってんだ、泉」
「あれ、バレてた」
でも、その通りに動いてくれたボスは、何だかんだ云って優しいと思う。
…口にして云いはしないけど。絶対。
ボス「...にしても何時の間に遠隔で花びら__お前の異能物質を遠隔で動かせるようになったんだ?」
「あぁ...ちょっと頑張ったの...ボス、ところで中也の姿が見えなかったんだけど」
ボス「…やっぱり戻ってないか」
「やっぱり、…ってどういうこと、?」
ボス「…アイツ、お前が出てったあと帰って来てないんだよ」
「、え…?」
ボス「……それと泉...鏡花の方も、だけどな」
「お姉ちゃんも、⁉」
ボス「まぁ…その...仲直りしてくれとは言わないけど、少しぐらい連絡してやれよ。二人とも多分、お前の事探してるから」
「…うぅん、連絡は多分、他の人がしてくれてるよ」
ボス「...一個聞くけど、中原とは何で連絡しないんだ?」
「…だって...気まずい、もん」
ボス「…じ、事情は知らないが…彼奴等二人共、相当心キテるぞ」
「…お、お姉ちゃんはそれはない、、だって自分でそう云ってたもん、」
ボス「…ぷっ、はははっ!!」
突然笑い出したボスに、私は呆気に取られてボスの顔を見つめていた。
ボス「お前ら、餓鬼だな!!...っふ、はは、っ」
「何それっ!?突然何⁉」
ボス「何時までも互いに意地張ってないで仲直りしろよー」
「はぁっ!?ちょ、ボスっ」
手を伸ばしてボスを掴もうとしたけど、その手がボスに届く前にボスは転移してどこかへ消えていた。
「…はぁ、、、」
...意地なんて、張ってない。
...張ってない、もん。
心の中でそう繰り返しても、消息不明だという二人の事が、やっぱり気がかりだった。
---
ボスside
結局転移してマフィアビルに戻ってきた。
今頃中原と泉鏡花の事を心配しながら悶々としているところだろうな、と心の中で笑う。
我ながら性格が悪いと思う。
ちゃんと中原も泉鏡花もマフィアビルにいる。
さっきは偶然二人とも任務でいなかっただけだ。
彼奴はどんな表情で悩んでいるだろうか、
そう考えながら、廊下を歩きだした。
I can't hear your words.
違う。
私は周りに迷惑を掛けたかったんじゃない。
違うの。
私は、ただ...助けたかっただけなの。
_あら、周りの声に耳を傾けずに来て、その人達の忠告に気付いた頃には遅かった、ってところね?
咲夜の声。凄く、久しぶりに感じる。
けれど、何時もとは違って硬く鋭さを帯びた声だった。
__当然でしょう。私はあなたに道を踏み外してほしくないのだから。
でも、私は助けなきゃダメなの。
毛利さんを、蘭ねぇを、コナンくんを、そして、
--- __安室さん、否、降谷さんを。 ---
「…よしっ」
声に出して、無理矢理気持ちを切り替えた。
ボスは前もあんな感じだったんだ、きっと。
だからそんなに気にする必要はないんだ。
一人で頷きながら、またパソコンとスマホを手にとって資料の解析と分析結果を集め始めた。
---
日下部「警察では否認を続けたそうですね」
若干髪が白味がかってきている、少々体格のいいスーツ姿の男性。
今回の事件を担当する検事である、日下部誠。
毛利「当然だろ。オレは何もやっちゃいねぇ」
夕日で薄暗くオレンジに染まる部屋の中。
毛利小五郎の背後には、警察官が二人、監視役をしている。
日下部「しかし、あなたを犯人とする証拠がこんなにありますが?」
毛利「それがわからねぇんだ検事さん!誰かがオレをハメたとしか思えねぇ!」
声を荒げてそういう毛利と、分厚い冊子を手に取って見せた日下部。
薄暗い夕日が少し煌めいた後、一筋の光を残して沈んでいった。
---
白鳥「今回の爆破事件、地検公安部の日下部検事が担当する事になりました」
橘「あら大変!」
妃「公安事件の弁護をする事が少ない私でも名前は知ってる...」
うんざり、というより、どんよりとしてそう云った妃。
事務所の机に今までの事件録を並べて橘と、そしてコナンと蘭も見ていた所だ。
コナン「あ…ボクこの事件知ってるよ。NAZU不正アクセス事件」
蘭「NAZUってアメリカで宇宙開発してる、あの有名な?」
橘「ああ、去年ゲーム会社の社員が遊びでアクセスしたって事件…この時の検事も__
--- 日下部さんだったんです」 ---
---
日下部は悩んでいた。
取り調べをした毛利には、動機が全くない。
統括検事、岩井紗世子に報告に入った時。
日下部「毛利小五郎に爆破テロの動機がまったくないのが気になります」
そう云った。
岩井「動機ね…でも証拠がこれだけあるわけだし、明日にも起訴でいいんじゃない?」
冷たい細い目をさらに細くして、前を見据えた岩井。
日下部「被疑者のパソコンが第三者に中継点にされた可能性も考えられます」
日下部「その上で見取り図や予定表といった証拠をパソコンに残し、罪を被せた可能性も十分に考えられ」
バン、と机を叩いてそう云った日下部に、岩井は冷静に返した。
机の上の書類__焼き付いた指紋の写真を指して。
岩井「日下部主任、それはこの証拠を無視したあなたの勝手な推理よ」
岩井「毛利小五郎は起訴しなさい。これは公安部の判断よ。いいわね?」
日下部「その公安部とは我々検察庁ですか?それとも警察庁ですか?」
岩井「…出ていきなさい」
憤慨した様に岩井を怒りの表情で数秒見つめた後、日下部は部屋を後にした。
---
「何徹目だろぉ…」
いつかの朝と同じように椅子の上で伸びをして、小さな欠伸もした。
自分の突きとめた事実をどこまでコナンくんに話すべきか、迷っているところだ。
...相変わらず連絡は凄い通知量。
溜息をつきながら通知を一つ一つ消して言っていると、消さなくてもいい人からの連絡を見つけた。
___安室さん、。
この人の連絡は、一つ一つが分からないから消しちゃダメ。
絶対だめ。
生き残るためにも。
「警視庁に...来てください、、午前中、ハムサンドを差し入れに行きます、?」
安室、と。
…なんで差し入れとかできないって分かって居ながら差し入れに行くんですか⁉
理解不能。
とか思いながら、この間より少しラフなスーツを着て足が向かうのはやっぱり、警視庁だった。
I will not hear your words.
コナン「言える範囲でいいから教えて!新一兄ちゃんが小五郎のおじさんを助ける為にどんな情報でもいいから欲しいって!」
云われた通り警視庁に行ったら、これ。
__何だろう、コナンくんって本当に怖い。
恐くなってきた。
何者っすか???
っていうかまた新一さん?
推理が凄い上手だったりするのかなぁ…
まぁ乱歩さんには及ばないだろうけどね。
安室「毛利先生がどうしたって?」
目暮「安室君!」
「安室さん!?」
あっ、ヤバい、声出した所為で向こうの人達にも私の存在気付かれた。
こっそり見て終わる心算だったのに…
目暮「泉さ__ウォッホン、桜月君、」
今絶対泉さんって云おうとした!!?
したよね!!?
コナン「2人とも、聞いてたの?」
「私は普通に警察に用事があったから来ただけ...」
安室「何を?僕は毛利先生が心配でポアロから差し入れを持って来ただけだよ」
目暮「あ、毛利君はもうここにはいないよ」
コナン「送検されたら原則、身柄は拘置所へ行く。安室さんが知らないハズないよね?」
安室「へぇ、そうなんだ。君は相変わらず物知りだね」
「…コナンくん、逆に如何してそんな事知ってるの?」
コナン「…あっ、えと、こうだって新一兄ちゃんが言ってたから!」
...また新一兄ちゃん。
新一とは何者なんだろう。
調べたら出てくるだろうか。
考えていたら安室さんはくるりと身を翻した。
目暮「ああそれから、拘置所にそういったものは差し入れできないよ」
すると安室さんは片腕を上げながら分かりました、と言い、振り返らずにどこかに行ってしまった。
「…あっ、じゃあ私も行きます__」
そう最後まで言い終わることなく、私の目はくぎ付けになった。
安室さんと風見さんがさり気無く擦れ違った瞬間、風見さんが呟いた。
2291、投入成功、と。
余計な事を頭にいれたくなくて、取り敢えず左右に頸を振り、歩き出そうとした時、コナンくんが走りだした。
コナン「ねぇ刑事さん!おじいちゃん家から持ってったパソコン返してよ!ボクの好きなゲームも入ってるんだから!」
さっきとは打って変わって、子供らしい声でそう風見さんの腕にかじりついた。
...でも、私は見逃していない。
風見さんの腕の袖の中に、盗聴器を仕掛けたコナンくんの仕草を。
風見「それは出来ない。あれは証拠物件だ!」
目暮「コラ!コナン君やめなさい!」
私が戸惑っているうちに目暮さんがコナンくんを引きはがした。
コナン「はぁい...」
本当、何だっていうんだろう。
この街には、変な事が多い。
此処に来て数か月、ようやく気付いた違和感だった。
---
蘭「あ、コナン君!何度も電話したのよ」
そう云われてズボンのポケットからスマホを取り出した。
コナン「あれ?バッテリーが切れてる」
妃「あれで充電できる?」
コナン「うん!ありがとう」
いつもはもっとバッテリー持つのに、と心の中で首をかしげたコナン。
コナン「え!?って事はおじさん起訴が決まったの?」
妃「検察から間もなく起訴するって連絡があったわ」
ピリリリ、と鳴った誰かの電話。
橘「はい橘です…裁判所?公判前整理手続きですか?」
---
日下部「岩井統括!何故私に黙って起訴するなんて連絡を弁護側にしたんですか!」
いきり立っている日下部に反して、岩井は座って優雅にコーヒーを飲んでいた。
岩井「何度も言わせないで。これは公安警察の判断よ」
日下部「起訴の判断だけでなくタイミングまで公安警察の言いなりですか」
岩井「それで早速明日、検察側、弁護側と公判前整理手続きをしたいと、裁判所から連絡がありました」
日下部「その連絡がなぜ岩井統括に入るんですか!?担当検事は私ですよ!」
完全に日下部の発言を無視する形で、岩井が会話を強制的に終了させた。
岩井「手続きが終わったら連絡よろしく」
---
「どうして」
絞り出すように、声を発した。
大通りの横の、歩道で。
私は立ち尽くしていた。
手に持った鞄の中には、財布__。
大きなスーパーに、食料調達しに行こうとしていた、警視庁帰り。
何もなく、家に帰ってまた調査の続きをするはずだった。
何もなかったら。
何もなかったら、そのまま家にまっすぐ帰って、直ぐに調べられる筈だった。
「…なんで、こんな所にいるの、中也」
私の声はかすれていて、多分ひどい顔をしていると思う。
真っ青で、体温が消えていくようだった。
それは中也も同じだった。
ひどく驚いた顔で、じっと私を見ていた。
I haven't ____
「ねぇ」
「なぁ」
意を決して声を掛けると、それは中也も同じだったようで、驚いて顔を見合わせた___
__次には、涙が出るくらい笑ってた。
「っふ、あははっ、なんでそんな神妙な顔してるのッふふ、」
中也「手前こそ真っ青だし手も震えてたじゃねぇかッ、はは!」
涙が出るくらい、笑った。それは、ある意味正解で、ある意味不正解。
確かに涙が出るくらい笑ったけど、
涙が出てくる訳は、きっと、もっと、他にもある。
中也「俺、仕事帰りだけど...買い物、行くんだろ?着いて云ってもいいか?」
あぁ、こう云う所、ちゃんと聞いてくれるの、いいな。
勝手に来られても、本当に困る。
「もちろん、良いよ...!」
梓「ないね…あの大きなアイスクリーム」
安室「ですね」
梓「私店員さんに聞いてくるから、安室さんは小麦粉と卵お願い」
安室「分かりました。__梓さんはいいお嫁さんになりそうですね」
梓「シッ!軽はずみな言動は避けて!安室さんはウチの常連のJKに大人気で、この前も私が言い寄ってるってネットで大炎上だったんだから!それにただでさえ桜月ちゃんの一件で目を引いてるんですから、そういうのは桜月ちゃんにどうぞ!今の時代、どこで誰が聞き耳を立ててるかわかんないんですからね!」
安室「え?あぁ、あれは_」
「…なーに話してるんですかっ」
偶然買い物している二人に、ジト目で近付いて行った。
「私は彼氏がいるのでお断りしますって云いましたよ!?」
中也「…久しぶりだな、安室透...榎本さんも」
梓「キャーっ!!これこそ三角関係の修羅場じゃない!!桜月ちゃん、モテモテ―!!」
「えっ?あ、いや...って云うかそういう梓さんが一番声大きいですよ!!?」
梓「えー、桜月ちゃん可愛いから大丈夫よ!」
「謎理論発動させないでください!!」
一通りびゃーびゃー騒いで、私達二人は買い物を済ませた。
高い棚を挟んで、風見と降谷は会話をする。
商品を手に取り、怪しまれないようにしながら。
風見「…降谷さん、何故事件にする事に拘るんです?」
安室「事故で処理されれば令状一つ取れなくなる」
風見「公安なら令状なしの違法捜査もできるハズてず」
安室「だからこそ、合法的な手段も残しておかないと__自分の首を絞める事になる」
安室「自ら行った違法な作業は自らカタをつける…それが公安だからだ」
風見「しかし合法的に事件を公表するか違法に隠蔽するかを決めるのも我々公安のハズです」
安室「勿論だよ。ただし、どちらが最も日本を守る事になるかを考えた上で、だ」
---
東京地方裁判所にて__
妃「日下部検事が開示した証拠は?」
橘「先に貰っていた証拠の通りでした」
鞄をゴソゴソと探り、書類の束を取り出して手渡す。
橘「これが一覧です。すみません。ちょっと読んでてください。お手洗い行ってきます」
コナン「境子先生!トイレ反対側!」
何度呼んでも、彼女が振り向いて気付くことはなかった。
その時、ガザガザ、と音がした。
__昨日仕掛けた、盗聴器。
何で風見刑事の盗聴器から境子先生の声が!?たまたま風見刑事の近くにいたのか?
いや音声を聞いた限り、二人はしばらく近い距離にいた筈。
--- 偶然じゃない__ ---
---
「…上がって」
中也「何時の間にこんな所に家買ってたんだ…?」
「なんとなく。それで、どうして東都の中でもマフィアビルから離れたこんな場所にいたの?」
リビングのソファに座ってもらい、向かいの椅子にもたれるように座った。
中也「さっきもいっただろ、任務だ」
「…なんの?」
中也「…何でだよ」
「なんとなく。」
中也「…色々あんだよ」
「…そう」
だって、
気になるものは気になるもの。
どうしてこんなところで偶然会うなんて起こるのか分からない。
この広い東都の中で、幾らなんでもでき過ぎている。
「…乱歩さんの入れ知恵?」
I hope your happiness.
中也「…はぁ……何で解っちまうんだよ」
「だって、普通に考えて」
中也「……その通りだよ、任務も嘘。名探偵にそう云われてきてみたら__本当に居るなんてな」
「そりゃそうじゃん、乱歩さんは推理を外した事なんてないもん」
軽く。
本当に軽く、何時もみたいな小突き合いみたいな、
そんな会話をしていた。
中也「…なぁ」
「ん?どうかしたの、ちゅうや__」
突然に、壁に肩を押し付けられて、体がびくりと震えた。
「、な、に…どうしたの、?ねぇ、ちゅ、や...?」
中也「…何はこっちの台詞だよ、莫迦__手前、何へらへらしてんだ?」
何時もの中也とは別人じゃないかと思うくらい、低い声。
...怖い。
「へらへら、なんて…い、つも通り、」
中也「目の下には隈、今までよりもずっと痩せて、さっきも云ったよな?肌も青白いって」
「だって、っ仕事が」
中也「…もっと自分を大事にしろよ!!其処まで必死に、ッ俺は自分の幸せの中に手前がいなけりゃンなの幸せだなんて思わねぇよッ!!」
突然の大声に、ハッとした。
けれど、言葉にも、ハッとした。
私、駄目だった、?
間違えてたの、?
ごめんなさい、っ
もっとちゃんとする、ちゃんとするから、
だからお願い、
「そんな泣きそうな顔しないで」
中也「…ッ誰が...云ってんだよ、莫迦...」
「…私、もっとちゃんとしなきゃ駄目なんだね」
中也「は、!?」
「ごめんね、!迷惑かけて来たけど、迷惑かけないようにやるね、ごめんっ」
思いっ切り頭を下げようとしたから、丁度目の前にいた中也に頭突きする様な形になった。
中也「っぐぇ」
「ぁ…ご、ごめん、、」
中也「じゃなくて!俺が云いたいのは休めって事!」
「や、すめ、?」
中也「働きすぎだから体調崩すんだよ、少しは休憩しろ、寝ろ、あとご飯も食え」
「だ、だって...お腹空かないし、眠くならないし…」
中也「…はぁ、、」
いきなり溜息をつかれた、と思ったのも束の間、首筋に衝撃が走った。
すぐに視界が暗転して、私は暗い眠りに落ちて行った。
---
風見刑事に仕掛けた盗聴器から、橘先生の着メロ。
それが示すのは、単なる偶然ではなく、数秒間意図的に、近距離に二人がいた事。
偶然ではない。
それを確信しながら、コナンは前を見据えた。
---
風見「爆破現場への不正アクセスに“Nor”が使われていた事がわかりました」
風見「IPアドレスを暗号化し、複数のパソコンを経由する事で辿れなくするブラウザソフトです」
その時、ピリリ、と電話が鳴った。
風見「すみません。召集がかかりました。一時退席します」
黒田「あぁ」
---
「…んぅ、__」
ゆっくりと目を開くと、私は自分の部屋の布団に寝ていた。
「…っ__!!」
寝てしまった。
しないといけない事が沢山あるのに。
慌てて起き上がって、傍にある携帯を手に取ろうとした。
すると、携帯の上に置いてある小さなメモに手が触れた。
「何だろ、、?」
携帯を左手に、メモを右手に持って眺める。
この字、中也の字だ...
「休まなかったらマフィアと探偵社全員で手前の家押し掛けて一週間仕事禁止にしてやるからな、」
「…さっき寝たし、休んだ、、よね。」
とはいえ不安。
気分転換に、自分の脚で散歩して来ようかなぁ…
そう思って外を見ると、雨だった。
...ま、いいや。
行こ...
傘をさして、防水のスニーカーを履いて、扉の外に出た。
...思ってたより降ってる。
帰り道にプリンでも買って帰ろうと思うと、少し心が軽くなった。
暫く歩いていると、小さな公園に出えた。
屋根付きのベンチがあるから、少し休もう。
そう思った。
「何でコナンくん此処に!?」
近づいて驚きを隠さずにそう云うと、見てわかるほど肩を跳ね上げさせて吃驚していた。
「ぁ、ごめんね、そんなに驚くとは思わなかった…」
コナン「…桜月お姉さん、二人で来たの?」
「ふ、二人…?」
まさかおばけ、と思ってコナンくんの目線の先__私の背後を振り返ると、本当に人影が___
「いやぁああああっっお化け―――――ッッッ!!?」
安室「桜月さん、落ち着いてください…僕です、安室です」
「っあ、安室、さ、、」
ビビりすぎて息を切らしながら謝罪した。
前見た時も思ったけど、安室さんって服のセンスいいって云うか、何着ても似合うんだろうなぁ…
すると安室さんは、私に微笑んでからコナンくんを鋭い視線で見た。
安室「捜査会議の盗聴かな?」
コナン「何でここが分かったの?」
いや、私も偶然なんだけど。
でも、その問いには答えずに安室さんは不敵な笑みを浮かべてコナンくんを見下ろしていた。
安室「毛利小五郎の事となると、君は一生懸命だね」
安室「それとも”蘭姉ちゃん”の為かな?」
く、とコナンくんが唇を噛んで言葉に詰まったのが、気配で分かった。
...草陰に、誰かいる…?
「...中也どうしてそんなにいきなり怒ったの???」
「…だって家見たら生活感ないわ仕事道具以外何も出てないわで流石にヤバいって直感がしたから」
「お姉ちゃんと喧嘩した時一切声発しなかったよね!?」
「……あん時はそれほど見てすぐわかるほど可笑しくはなかったからな…そう考えたらよく気付いたな、アイツ」
「……双子の力舐めたら駄目だよ」
「思い知った」
I've been ____
安室「構わない。出てこい」
「っえ、」
そこに姿を顕わしたのは、風見さんだった。
風見「何故私を呼んだんですか?...降谷さん?」
俯いたままで少し動きを止めていた安室さんは、いきなり風見さんの方に歩いて、
そして、風見さんの腕を捻り上げた。
見た事もないくらい、険しい顔で。
コナン「__っ!!」
その安室さんの右手の中には、コナンくんが仕掛けた盗聴器があった。
安室「…これでよく公安が務まるな」
風見「す…すみません」
ぎろ、と擬音が付きそうなくらい恐ろしい顔で風見さんを一睨みし、安室さんは此方に背を向けて歩き出した。
コナン「待って!」
走りだしたコナンくんの後を追うも、少し行った先にある小さな橋で、立ち止まった。
コナンくんも、安室さんを見失ったようだった。
風見「盗聴器は|君《コナン》が仕掛けたのか?」
風見「いや…まさかこんな子供が…」
コナン「安室さんは全国の公安警察を操る警察庁の“ゼロ”。そんな安室さんに接触できるのは、公安警察の中でも限られた刑事だけ。それが風見さんだったね」
「、!コナンくん、それどこで知って__!?」
風見「…君は一体何者だ?」
コナン「江戸川コナン。探偵さ」
...私が握った情報の一部は、既にコナンくんは持っていた。
なら、私も聞いて善いよね。
「去年降谷さんが取り調べした際、自殺したとされている男についての情報を__いただけませんか」
コナン「自殺?」
風見「…去年、安室は拘置所で取り調べ相手を自殺に追い込んだ」
いきなり出てきた話に戸惑う様子のコナンくん。
風見「悪い。子供に言う事じゃなかった……その人物についての情報を纏められ次第...早急に遅らせて頂きます」
「…わかりました、。」
そのまま背を向けて去っていった風見さんを、私もコナンくんも引き留めようとはしなかった。
...手に持って掲げていた筈の傘は、いつの間にか降ろしていた。
折角傘があるのに、びしょ濡れ...
コナン「…ねぇ、桜月お姉さん。」
「なぁに、コナンくん」
コナン「…猟犬部隊の一員であり、裏社会を仕切る組織、ポートマフィアの幹部__それが桜月さんの正体。違う?」
「___如何してそう思うの?」
コナン「…風見さんはさっき、敬語を使ってたから……それと、安室さんの正体を知ってるんでしょ?」
「…そ、れは__」
コナン「…安室さんから聞いたんだ」
初めて会った後、一緒にポアロに行った時。
---
コナン「桜月さんについて調べてるんだよね?」
安室「あぁ、彼女は警察__政府系列の、かなりお偉い方の位置にあるかもしれない、との情報だった…マフィア__組織との取引に、幹部として現れていたのに」
---
「…そう云えば、そうだったね」
コナン「で、どうなの?」
「そうだよ、...って云ったら、私を捕まえる?逮捕する?警察に通報する?」
コナン「え、っ?」
「私はね、矛盾してるの。異能の__特異点みたいな存在。私はたくさん人を殺してる。でも、人を助ける為にしか其れをしてない。犯罪だってしてる。マフィアに入ってる時点でそうだよね。でも、私は大切な人を護る為にそうしたの。なのに、正義であって、マフィアの敵である、政府側の立場でもある...」
コナン「…マフィアに居る人は皆、異能力を持ってるんだね?」
「…その通りだよ。、ぁ、みーんなって訳ではないけど…中也は重力を操るし、太宰さんはその異能力を無効化する力を持ってる、お姉ちゃんは…太宰さんもだけど、探偵社員で、夜叉白雪っていう人型の異能生命体、?を操れるの」
コナン「異能力を持ってるのは、探偵社の人と、それからマフィアの人達だけ?」
「…世間には公表されてないけれど、猟犬の人達も持ってる」
そう云うと、驚いたようにこちらを見たコナンくん。
コナン「それと桜月さんは…組織に気に入られてるんだね」
「…ニコ。これが私のコードネーム...」
コナン「最後にもう一つ...桜月さん達、何処から来たの?」
その言葉一つが、ずっしりと覆い被さってきた。
どこから。
いや、そもそもこれは”来た”と云えるのだろうか。
他の世界から来ただなんて、云える物じゃない。
__でも、彼になら、話せる気がした。
そう思って、私は少し震える声で話し始めた。
--- 「私、達は…この世界の人じゃないの、...他の、異能力者がたくさん存在する世界から、飛ばされて、来た」 ---
You're detective.
…云っちゃった。
あは、と可笑しな調子で…壊れたように笑った。
「…信じなくていいよ、馬鹿馬鹿しいのは私達が一番分かってる__」
コナン「…信じるよ」
少々食い気味にそう言ったその少年を、驚いて見つめた。
…今、なんて、?
コナン「異能だって既に浮世離れしてるんだから、もう何を言われても驚かないよ」
大人びたその少年は、少年とは思えないくらい、落ち着いて、そして、不敵な笑みを浮かべていた。
「信、じるの…?こんな莫迦げた話、?」
コナン「…あ、嫌…だって、「異能」の中には空間を移動するようなものがあっても可笑しくない、って思って」
先程の大人っぽい雰囲気とは打って変わって、元の子供っぽい声色と雰囲気に戻った。
…この子も、何か隠している。
でも、今それは問い詰めるべきじゃない。
携帯が震えた。
通知を見ると、風見さんから書類が数枚。
「…ありがとう。じゃあ、《《また後で》》」
そういうと、ハッとしたようにこちらを見てから、頷いてコナン君は走り去っていった。
__きっと、すぐまた会うから。
---
プルルル、とコールが鳴り続ける携帯に少し苛立つ。
どうしてこんなに出てくれないの。
ぴ、となったから出たのかと思たら、不在の感情のない声。
「あ”-もうっ」
思い切り電源を切った後、風見さんに送ってもらった書類を見た。
スマホに表示されるそれは、昨年取り調べの後に拘置所で自殺した、「羽場二三一」という男についてのもの。
彼は司法修習生を罷免された。
けれど、司法研修所の修了式の時に彼は無理やり押し入り、_不採用についての説明を求める、と___。
その行動は自己満足的な正義感による暴走と見なされ、裁判官はおろか弁護士になる道もなくなり、司法人生を絶たれた。
また、彼は毛利さんを弁護すると申し出た橘境子さんの元事務員だった。
ゲーム会社に侵入し、窃盗事件を起こして逮捕された彼。
そのおかげで橘さんはやむなく元々していた事務所を閉じ、事務所を持たないフリーの弁護士、「ケー弁」になった。
そして羽場二三一は送検された後、拘置所内で自殺している。
それが、5月1日。
__今日の日付も、5月1日…
嫌な偶然に眉を顰めた。
ぺらりと息抜きにネットニュースを浮浪していると、今日NAZUが宇宙探査機「はくちょう」を着水させるミッションに追われていることが分かった。
そんな日とサミットが重なるなんて…警視庁も大変だなぁ、
その時、ふと思い出した。
数度、警視庁に行ったとき、一度だけすれ違った…毛利さんの事件を担当している日下部検事。
その人のスマホのパスワードの音が、オンになっていた。
ぴぴ、ぴぴぴぴ、と。
その独特な音で、パスは見なくても分かった。
--- ―88231― ---
つまり。
|88231《羽場二三一》____。
それとともに、何時か安室さんが云っていたことを思い出した。
公安警察は、数人の協力者を抱えている。
彼らは時には違法な作業でさえも請け負う。
日本の未来のために。
それが日本にとって、国民にとって、いい事であるなら。
なら、日下部検事と羽場二三一の関係は___
_____捜査官と、協力者。
そう云えば云っていた。
乱歩さんが。
--- 「テロ、ではない。…古い恨みが表に出て来るだけだよ」 ---
これは民間人を無差別に狙ったテロじゃない、
大切な協力者で、同じ正義を志していた人を奪った公安に対する、
復讐だ、__!
だから、恨み。
全部が紐解けた気がした。
早く、コナン君や安室さんに伝えなくちゃ…
そう思い、家を飛び出そうとしたその時だった。
バン、と音を立ててスマホが暴発した。
「、っ!!」
IOTテロ…に見せかけようとしているんだ、!!
毛利さんを、無実として不起訴にするために。
刑務所内に居るのに、テロを起こすことは不可能だから。
あくまで日下部検事は、正義を貫きたいだけ。
だからこそ、たくさんの要因が絡んだ、複雑な事件になった。
割れた携帯を見つめて、険しい表情の顔を上げた。
行かなくちゃ。
---
千葉「失礼します!都内で今、大変な事が起きています!」
ブクブクと泡を吐き出し続ける洗濯機。
暴走したケトルからは熱湯が噴出した。
ベランダに或るエアコンの室外機から噴き出す炎。
駅でも火の手が上がっている。
コナン「そうか!このテロの最初がサミット会場の爆破だったんだ!」
雨の降る中、スケボーに乗ってどこかへ走り出したコナン。
その片手には、携帯が握られている。
why?
コナンは電話を掛ける。
目暮警部のもとに。
そして、気付いたことを話した。
コナン「目暮警部!きっとこれは全部IOTテロだよ!」
目暮「IOTテロ?」
コナン「犯人はネットにアクセスできる電化製品を無差別に暴走させてるんだ!だからネット接続を切れば暴走は止められるよ!...桜月お姉さんも気付いていたみたいだったし!」
目暮「そうか…ん?待て、何で其処で彼女の名前が出てきて__」
コナン「犯人はネットでガス栓を操作し、現場をガスで充満させてから、IOT圧力ポットを発火物にしてサミット会場を爆破したんだ」
最後まで話を聞かずに、コナンは口を開いた。
スケートボードを巧みに操作しながら、雨に濡れながら、髪を風に靡かせて進む。
目暮「そ…それじゃ」
コナン「うん!小五郎のおじさんにはできっこないよ」
---
一方、そのやり取りを聞いていた安室。
IOTテロなどと云う手口を思いついたコナンに感心しつつ、右側の前髪をかき上げ、何処かに向かって歩き出した。
安室「まさかIOTテロとはな…」
風見「さすがですね。そんな手口を特定するなんて」
雨の中、顔を合わせずにさりげなく会話する二人。
風見は傘を差しながら、携帯を覗いていた。
一方安室は、雨に打たれつつ、橋桁に身を凭れさせていた。
安室「特定したのは僕じゃないが、お陰で事件化には成功した。よって我々がした違法作業にカタをつけたい。...協力者の解放だ」
風見「その前に現段階で『ゼロ』が掴んでいる情報を教えてください」
安室「…あぁ」
ゼロ。
それは、公安の中でも秘密裏に存在する組織の名。
本来は存在しない組織であってほしいという願いからその名がついたともいわれている。
降谷透はその『ゼロ』の一人。
雨でよく聞き取れない中、携帯を耳に当てながら口を動かす。
そう云えば何時か、誰かが云っていた。
稀に、雨の降った路上を密会の現場に選ぶことがある、と__
微笑を浮かべるその蓬髪の、焦げた茶髪の男性の目元は見えない__。
安室は何処か切なそうな表情で、口を動かし続けた。
風見「NAZU?」
安室「この情報をサイバー犯罪対策課に流し、捜査会議で刑事部に報告させる」
そう云うと少しむっとした顔をする風見。
風見「刑事部に花を持たせるんですか。我々公安部から報告すべきです」
何処か先程の蓬髪の男性と似通ったような雰囲気でふっと微笑を浮かべた安室。
...勿論、その蓬髪はいつもそんな調子であるわけではないけれど。
安室「フッ…ご褒美だよ。爆破テロが事件化できたのは刑事部のお陰だ」
安室「それに、この情報がゼロからだって事は、裏の理事官には伝わっている」
風見「…降谷さんが怖いです」
安室「風見…僕には僕以上に怖い男が二人いるんだ。...いや、最近、一人の少女も増えたか。その内の二人は、まだほんの子供だがな」
風見「今、降谷さんと同じ子供を...少女も...思い浮かべましたよ」
しかし、その言葉に返ってくる文字はない。
風見はハッとして辺りを見回しても、降谷の影は跡形もなく消えていた。
---
事件解決なんて、私の柄じゃない。
これは全部、コナンくん達に任せるべきだ。
そんな事、分かってる。
それでも、私が気付いてしまった事実に、見て見ぬふりをするなんて、___
私には出来ない。
それに...
脳裏に閃いたのは、喧嘩別れした双子の姉の、最後の怒ったような、悲しそうな顔。
それを筆頭に、大切な人達の顔が次々と浮かんでは消える。
もしこれで皆の身に何か有ったら、そう思うと、居ても立っても居られない。
私は私に出来る事を捜す。
まずは__コナンくんと安室さんの合流地点を予想して、そこに向かわなきゃ。
---
警視庁。
捜査会議にて。
白鳥「今回の不正アクセスにも、先の事件と同様の手口...Norが使われていました」
目暮「やはり同一犯か」
白鳥「しかし幸い、そのNorの追跡システムが完成しているようです。サイバー犯罪対策課の報告によるとそのシステムがNAZUにある事がわかりました」
NAZU...超有名宇宙開発会社。
いつか、ゲーム会社の社員がふざけてNAZUのシステムにNorで侵入したことから、対策として作られていた追跡システムだった。
---
栗山「遅くなりました」
そう云い乍ら妃法律相談所に入って来たのは、事務員の栗山緑。
栗山「橘境子弁護士についての調査結果です」
妃「え?」
栗山「あれ?工藤新一君から頼まれたんですが…」
妃「どうして橘先生の調査なんか…」
コナン「新一兄ちゃんの事だからきっと何か訳があるんだよ。とにかく見てみない?」
栗山「去年、橘先生の事務員が事件を起こしているのがわかりました」
妃「え?橘先生はケー弁のハズよ?」
栗山「去年、事務所を閉じたんです」
少し前に桜月が纏め上げた結論の一部。
「羽場二三一」についての出来事だった。
栗山「当時事務員だった羽場二三一という男が、ゲーム会社に侵入し窃盗事件を起こして逮捕されたせいで...しかも羽場は送検された後、拘置所内で自殺しています」
拘置所内で自殺、というワードに、コナンは聞き覚えを感じた。
公園で、桜月が風見に頼んでいた男の書類...。
小さな探偵も、少しずつ事実が繋がり始めている___
既に恐ろしい計画は始まっている事に、誰も気付いていない。
江戸川乱歩の名を持つ、名探偵を覗いては、誰一人として___
Because...
日下部「どういう事ですか」
岩井「毛利小五郎のパソコンは何者かに操作されている事がわかったの。よって彼が犯人である可能性は低い。毛利小五郎は不起訴にして」
日下部「不起訴の判断まで公安警察の言いなりですか!」
流石に怒りが強かったのか、一歩詰め寄った、その時だった。
岩井のポケットに入ったスマホが発火した。
岩井「っうわぁああああ!!!」
ばちばち、と髪に燃え移る火花に、日下部は急いでジャケットを脱ぎ、何度もばたばたと打付けて消化を試みる。
その様子を、金魚は何も考えていない様に見ながら、悠々と泳いでいた。
---
夕日の差し込む妃法律相談所。
其処には、妃英理、そして蘭とコナン、白鳥刑事が揃っていた。
白鳥「毛利さんの不起訴が決定しました!」
そう告げる白鳥の顔にも笑顔が広がっている。
蘭「お母さん...!」
思いきり抱き着いて涙を流す蘭に、よかったね、と笑みを零すコナン。
後ろでは栗山がその様子を見守っていた。
---
「…乱歩さん、やっと電話が繋がりましたね」
先にかけた電話は全く繋がらなかった。
乱歩「IOTテロ...もどきのせいで、電子機器類がやられてね__今はテニエル君が直してくれたよ」
...ボス、そんな特技があったんだ……
「…それより、私、謎解きできましたよ」
乱歩「へぇ、よくやったじゃないか」
「…それで、私はこれから起こる事を防ぎたいんです、起こってからじゃ遅い...」
乱歩「…僕から云えることはね、一つだけだよ」
「な、何ですか、?」
--- ー「甘えるな。ここ迄来たのは桜月ちゃん、君の意思だ。なら此処から先は暗闇の中を自分で探り進まなきゃいけない」ー ---
「、ぁ...」
乱歩「自分がしたいなら自分で考えろ。僕に聞くべきじゃない__僕よりも、お人好しな君なら分かるはずだよ」
...甘えるな。
その言葉を、ぐっとかみしめる。
そうだ。
自分がやりたいなら自分で考えなきゃダメだ。
人に聞くべきじゃない。
乱歩「…それと、あまり心配かけないようにね」
「え?」
突然ふにゃっとした何時もの雰囲気に戻った乱歩さん。
乱歩「全く、こんな大きな姉妹喧嘩は初めて見たよ!」
「っあ、え、ぅ...」
返す言葉もなく、すごすごと通話を切って戻った。
...乱歩さんの言葉が正論過ぎて泣ける。
__そう頭の中で考えながら、私は奇獣にお礼を云って、地面に降りた。
通話しながらも空中を移動していた私が着いたのは、大通りの歩道。
予想が合っていたら、もう少しで二人が此処に___
安室さんとコナンくんが、此処に来る筈。
---
橘「これは?なぜ私や私の元事務員の事をお調べになっているんですか?」
妃「ごめんなさい...先生の事よく知っておきたくて、私が栗山さんにお願いしたの」
ぺらり、と自身の調べ上げられた情報の紙を捲り、怒りに釣り上げた瞳で文字を飲み込んでいった。
橘「よく調べてある...。あなたも優秀な事務員のようね」
コナン「あなたも?まるで羽場さんもそうだったって言ってるみたいだけど…その人は窃盗事件を起こして境子先生の事務所を潰した悪い事務員さんだよね?」
鋭い言葉で質問を投げかけると、突然橘の雰囲気が変わった。
橘「っあれは二三一のせいじゃない!!私が...無力だったから…」
目をカっと見開いて、髪が逆立つような、恐ろしく、悔しげで、怒りの籠った表情。
コナン「下の名前で呼ぶんだね?自分の事務所で働いてた事務員さんを…二三一って」
通常、事務員の事は名前では呼ばず、苗字でしか呼ばない。
つまり、それだけ親しい間柄だったという事。
橘「…その自殺は拘置所の中で公安警察に取り調べをされた後、すぐだったんです」
少し落ち着いた様子になり、未だ怒りは少し籠った様に見える瞳で前を見据え、そう云った。
白鳥「そんなの聞いた事ありません...!」
橘「、……二三一の自殺には、そんな奇妙な事が重なっていた」
力なく机に置かれた書類の一番上は、羽場二三一についての情報が書かれた紙。
栗山「あの…羽場二三一さんは司法修習生を罷免されてますよね?」
妃「裁判官を目指してたって事?」
栗山「はい。ですが司法研修所の修了式の時に彼は…」
ーーー
四年前。
司法研修所の修了式を行っている最中に、誰かが割り入ってきた。
___羽場二三一。
羽場「私の不採用について説明を求めます!」
「なっ、何だい君は!?」
突然許可なく侵入した事で、強制的に連れ出されることになった。
何度も何度も説明を求める、と、悲痛なまでの訴えを、叫びを、あげていた__
ーーー
橘「その行動は自己満足的な正義感による暴走と見なされ、裁判官はおろか弁護士になる道もなくなり、司法人生を絶たれた」
少し悔しげな表情にまた変わり、まっすぐ前を見る。
橘「外で娘さんから聞きました。毛利さんが不起訴となったのなら、私はもう用済みですね」
そう云って、くるりと背を向けて事務所の外に歩いていった。
I haven't time.
しばらく沈黙が部屋の中を支配した。
その空気が流石に耐えられなかったのか、最初に口を開いたのは白鳥刑事だった。
白鳥「_じゃ私も捜査が残ってますので…」
コナン「犯人のNorを調べるんだね?」
白鳥「うん。NAZUに捜査協力を依頼してあるんだ」
コナン「アメリカの?」
白鳥「そうだよ。NAZUでは昨年Norを使った不正アクセス事件があってね」
コナン「ああ境子先生が弁護した…」
白鳥「それがきっかけでNorユーザーを追跡するシステムがNAZUで完成してたんだ」
白鳥「早速明日から解析して貰うんだ。NAZUは今日はくちょうを着水させるミッションに追われているからね」
コナン「それ無人探査機の事だよね?」
白鳥「ああ、そんな日とサミットが重なって警視庁も大わらわだよ」
夕日が斜めに差し込む事務所は、橙の一色に染められていた。
___ピン、と何かの糸が張り詰める音。
高木刑事が話していたこと。
はくちょうの着水ミッション。
NAZU不正アクセス事件。
Nor追跡システム。
サミット。
IOTテロ。
風見刑事の近くに、橘が数秒の間居た事。
電化製品。
担当弁護士、橘境子。
担当検事、日下部誠。
拘置所内で自殺した、弁護士の事務員。
無人探査機。
異常に減るのが速いスマホの電池。
現場にあった証拠物。
--- 安室という男は、人殺しだ___ ---
ピースがカチリとはまった音がした。
頭の中で全てのパーツが揃った瞬間、コナンは飛び出した。
スケボーで走りだす。
真っすぐに走っていると、何処からか白い車が着いて来ていた。
フロントガラスに当たる反射光が消えた時、運転席の人物の顔がはっきりと目視できた。
安室「僕が来る事がわかってたようだね」
コナン「初めに違和感に気づいたのは、あの時だよ」
自然と道の端に止まりながら、コナンは安室の進行方向とは逆の、後ろを向いて話しだした。
脳裏に浮かぶのは、毛利探偵事務所に風見らが調べに来ていた時のこと。
コナンはスマホを落として、桜月が拾って置いてくれた時。
コナン「博士に調べて貰ったら、遠隔操作アプリが入ってた。アイコンが残らないタイプのね」
安室「公安が仕込んだ証拠は?」
コナン「なかったよ。さすがだね」
首を竦めてそう云うコナンに、不思議そうに、そして警戒しながら安室が口を開いた。
安室「せっかくわかったのに何故アプリを抜かなかった?」
コナン「今から犯人に会うからさ」
安室「まさか!テロの犯人が!?」
コナン「うん。動機もね」
コナン「動機は…」
--- 「安室さん、貴方達公安警察です」 ---
二人の声とは明らかに違う、透き通った少女の声。
コナン「なっ...!」
安室「どうしてここに...!」
コナン「桜月お姉さん___」
---
二人の驚く顔は滅多に見る事の出来る物じゃないから、少しうれしい。
けれど、コナンくんは少し悔しそう。
楽しい楽しい動機の発表を横取りされたから、かな。
「…勘違いしないでください。私が此処に来たのは仕事じゃない。あくまで個人的な目的の為です」
___皆を守るっていう、大切な目的の為。
「…ごめんね、コナンくん...ここから先は、コナンくんが云って」
そう云うと、小さく頷いて安室さんの方に向き直った。
コナン「事の発端はNAZU不正アクセス事件」
安室「…羽場二三一か!?」
安室さんは流石に気が付いたようで、ハッとしていた。
コナン「そう。羽場さんは、去年拘置所で自殺してるよね?」
安室「ああ…去年の__今日だったな…」
コナン「去年の今日って__!」
「気が付いた、?犯人の復讐は、まだ終わって無い事に」
安室「そうか…なんて事だ!」
コナン「まだ犯人の復讐は終わってない__!」
そう云うや否や、二人ともスケボーと車を急発進させた。
向かうは一か所のみ__。
私も、朱雀を呼び出して飛び乗る。
二人より先に着く事が出来るのだから、できるだけ早く行って犯人を引き留めないと…
その時、下の道路の方でバチバチと音がした。
「火花が散って、っ⁉」
IOTテロ...!こんな時に、、、!!
車もナビゲーションを繋がってしまっている物はインターネットがあるから駄目なのか…
大騒ぎと大混乱の中、微かにコナンくんの安室さん!と叫ぶ声が聞こえた。
戻った方がいいか、と思ったけれど、その後すぐに、硝子の割れる音と安室さんの早く行け、という声が何とか聞き取れたから、早く、早く進まなきゃ、。
上空何メートルくらいか分からないけど、少し高く飛び過ぎた。
酸素が薄い...
あまり低いと普通の人が見て驚いてしまうと思ったから、。
「…っ見えた__!!!”警視庁”っっ!!」
その大きな高い建物の屋上に、私は跳び降りて着地した。
I want to____
「いよいよ火星から地球へと帰って来る無人探査機“はくちょう”」
テレビの画面に映るのは、宇宙から見た地球、そして無人探査機、はくちょうのイメージビデオ。
「皆さんこんばんは。こちらは長野県国立天文台です」
暗い中、アナウンサーの女性がマイクを持って解説しているのが映っている。
阿笠博士の家に、子供たちが集まっていた。
勿論、皆ではくちょうが着水する瞬間を見る為に。
その時突然、阿笠博士に電話がかかって来た。
携帯を開くと、工藤新一__改め、江戸川コナンの着信を知らせる文字。
阿笠「もしもし__ん?はくちょうの大気圏突入までの時間?」
テレビを見て、腕時計を見て。
コナン「あと一時間弱!?」
---
安室「コナン君!やはり犯人は」
キッと鋭い視線で前を見ながら、車を運転する安室と、その隣でスケボーに乗っているコナン。
コナン「ああ!NAZUに不正アクセスして落とすつもりだ!」
しかし...一体どこに?
疑問符を浮かべるコナンと、まさか空からかとは、と上を見上げた安室だった。
---
何とか警視庁に降りて、犯人を捜し回っていたときだった。
突然、警視庁全体の電気がすべて消えた。
「っひ、!?」
周囲からも驚く声が上がる。
非常用電源...
その時丁度目の前で捜査会議室に入った白鳥警部。
会議内も動揺の波紋が広がっている様だった。
白鳥「NAZUから報告です!無人探査機への不正アクセスが確認されました!」
確かに耳にそう届いた。
今。
無人探査機に、、
不正アクセス、?
白鳥「このままではカプセルの切り離しができないようです!」
それは。
それは__不味い。
そんなの…
次は、落下地点を勝手にいじられる。
最悪…数十、いや数百万人が死に至り、怪我するかもしれない___!!
いや違う。
犯人が復讐したいのは公安。
なら…
狙うのは、此処、警視庁だ___!!
お願い、早く二人とも来て。
そう祈る私の目が、日下部誠___今回の事件の犯人の姿を捉えた。
---
風見「はくちょう本体は大気圏で燃え尽きますが…カプセルの落下地点が狂ってる事が判明しNAZUでは騒ぎになっているようです!」
運転し、額に汗を流しながら安室は風見からの連絡を受けていた。
風見「最新の落下予測データを送ります!」
送られてきたものを開く前に、即座に桜月に共有して送る。
そしてすぐに予測データを開いた。
安室「なんて事だ...!コナン君!」
コナン「やはり犯人の狙いは...警視庁、!!」
---
目暮「4メートルを超えるカプセルがここに落下すれば、被害は想像がつかないぞ!」
内閣府の官邸対策室では、各大臣が集まって対策を話し合っていた。
其処には、警視庁で捜査会議にも姿を出していた、黒田の姿もある。
「総理!NAZUからメモリーの修正ができないとの報告が!地上局から探査機へ送る信号は特定のコードで暗号化されているのですが…」
---
風見裕也「そのコードが一致しないとメモリーの書き換えができないそうです!」
コナン「つまりそのコードを犯人が変えたって事?」
安室「ああ!NAZUに不正アクセスして探査機の軌道を変えた時に!」
コナン「変更したコードを聞き出さないと!」
安室「…その為に協力者になって欲しい」
そう口にしながら、右手に小さな白い丸い物体を手に取った。
いつか、コナンが風見に仕掛けた盗聴器を。
安室「こんなスゴイ物を開発する博士に…」
コナン「…何をするの?」
ふっ、と不敵に笑い、安室は云った。
安室「死んだ人間を蘇らせるのさ!」
---
「待って下さい、日下部検事!」
日下部「私は今忙しいんだ!そもそもなぜ君のような子供がこの警視庁のこの場所にいるんだ!?」
「私は軍警の一人ですから出入り可能ですがっ⁉」
憤慨したようにそう云うと、少し気圧された様子だったけれど、すぐに元に戻って速足で歩いてしまう。
其れなのに、片時もスマホから目と手を離さない。
「っ私はあなたに用事があるんです!早急に!」
日下部「個人的な用事よりも仕事として今急いでいるんだ!」
うぅ、、、
如何しよう、止まってくれないと、、、
二人が間に合わない、!!
「っ猟犬6人で用事があります!」
そう云うと半ば強引に手を引いた。
日下部「…猟犬!?」
「云ってないですか⁉私猟犬の一人、泉桜月です!」
めっちゃ素直に着いて来てくれた。
___と思ったら、突然私の腕を突き放して何処かに走って行ってしまった。
「っい、!!」
ぐい、と押されたおかげで私の左手は変についてしまった。
捻挫かな。
...なかなか起きない事だし、珍しそう。
にしても廊下に誰も居ないのは幸と不幸が入り混じってる。。
不幸点は日下部さんを追ってくれる人が居ない事。
ラッキーなのは尻餅をついたところを誰にも見られなかったこと。
「…いったぁ」
頼むから二人とも早く着いて、そう願いながら立ち上がった瞬間、暗いなかでバタバタしているせいでまたコケた。
、、、痛い__!
またの突然な出来事にもう一度尻餅をつくのだった。
I am.
阿笠「さすがじゃのう。こんな作戦を思いつくなんて」
阿笠邸の屋上で、ドローンを操縦する阿笠。
その操縦パネルのタブレットには、阿笠邸を上空から撮影しているLIVE映像が流れていた。
暗い、夜の空を、ドローンが一機舞っていた。
---
警視庁の非常用電源が着いて、辺りが一気に明るくなった。
突然の光に一瞬視界が真っ白になって、また戻った。
日下部検事は__っ
追わなくちゃ。
走って。
停電とはくちょうの落下予測のお陰で人がどんどん避難していく警視庁内を走るのはた易い。
みんな一方通行__出口に向かってるし。
__私が、エントランスで日下部検事の腕を掴むのと、コナンくんが掴むのとは、同時の事だった。
「っ二人とも__!」
カチャリ、と音を立てて日下部検事の手から離れたスマホを安室さんが拾い上げて、此方に向けてかざす。
そこには___
NAZUの地上局で見られるデータが、表示されている。
コナン「それはNAZUの地上局で見られるデータだよね?テロの犯人さん」
安室「まさか日下部検事、あなただったとは」
「…二人とも、っ無事で良かった__いつ彼が犯人だと?」
コナン「ついさっき。桜月お姉さんよりもずっと遅かった…もっと早く気づくべきだったよ。あんたが申請した証拠一覧を見た時にな」
「…そう、その証拠一覧には、沢山の破片の写真もあった。その中にあったガラス片は__」
--- 「犯人しか知り得ない、本当の発火物の一部」 ---
コナン「あんたはそれを証拠申請してしまった。発火物がまだ高圧ケーブルだと思われていた時にね」
目を見開いて汗をかいている日下部検事。
さっきの行動も、だけど…
やっぱりこれは確実に黒だよね。
ぐい、とコナンくんが差し出したスマホの資料を覗き込んだ。
コナン「去年起きたNAZU不正アクセス事件の公判資料だ。あんたが担当した」
安室「そうか…その事件の手口はNorを使った不正アクセス」
「自分が担当した事件の手口を使ってサイバーテロを働いた__。でもそれに誤算が生じた。」
なんて悪質な。
警察にあんな人がいて大丈夫なのだろうか。
「その誤算とは、NAZUでNorを追跡するシステムが完成していたこと。」
コナン「それを知ったあんたはバグを作ったNorでアクセスし、IOTテロに見せかけて上司のスマホを発火させたんだ」
「そのダミーを警察に特定させる為だけにね。だからIOTテロのタイミングが妙だった」
此処まで問い詰めると流石に限界だったのか、さっと背を向けて警視庁の外へと走り出した。
コナン「待て!」
即座に反応して地面を蹴る。
体は反動で前に跳ぶ。
ガッとスーツの裾を掴むも、振り切られてしまった。
_飛び出す直前に日下部さんはスマホを拾っていた。
コナン「あのスマホにNorを使った痕跡があるんだ!」
安室「まったく!」
コナン「逃がすかよ!」
ベコン、と音を立てて、銃弾かという勢いで缶コーヒーの缶を蹴ったコナンくん。
しかしそれも腕で防がれてしまう。
車のボンネットを撥ねての追いかけっこは続く。
植え込みを飛び越えた処の歩道で息を吐きながら走っている日下部さん。
そこに、私は飛び込んで蹴りを入れた。
うまい具合に右二の腕に入った所で、安室さんが後ろから追いついて投げ技を決めた。
ぐ、と安室さんに腕を固定されて、逃げられずぐったりとしている日下部さん。
犯人を確保した___?
安室「…日下部検事、あなたがテロを起こした動機は本当に公安警察なのか?」
日下部「サミット会場が爆破され、アメリカの探査機が東京に落ちれば、公安警察の威信は完全に失墜する!」
安室「何故そこまで公安警察を憎む?」
日下部「お前らの力が強い限り、我々公安検察は正義を全うできない!」
コナン「正義の為なら、人が死」
呆然と、怒りを籠った声で口を動かすコナンくん。
だけど、もう一人、誰かが淡々と尋ねる声が聞こえた。
後から気が付いた。
怒りと呆れで驚く私が、無意識に発していた声だったと。
「…自分が果たしたい正義の為に人を殺すなら、それは何のための正義なの?」
日下部「…み、民間人を殺すつもりはなかった。だから公安警察しかいない時に爆破し、死亡者が出にくいIOTテロを選び、カプセルを落とす地点も|あそこ《警視庁》を選んだ」
コナン「警視庁を停電させたのは、中にいる民間人を避難させる為?」
日下部「ああ…」
少し後ろめたそうな、きまり悪そうな顔をして目をそらしながら、また頷いた日下部さん。
安室「そうか…ここへ来るまでの道でIOTテロを起こしたのも、入って来る人を止める為」
「それでも…誰かが犠牲になる事は十二分に考えられた、のに、それがどうして考慮できないの?」
日下部「正義の為には、多少の犠牲はやむを得ない、ッ!」
コナン「そんなの正義じゃない!!」
無茶苦茶な事を言っている日下部さんを一喝したのは、意外にもこの場で一番幼いコナンくんだった。
__Mafia.but,detective...
コナンくんが一喝した後、日下部さんは地面に手をついて、俯いた。
日下部「私の…、私の協力者だって…犠牲になった…っ」
コナン「羽場さんは…やっぱりあんたの協力者だったんだね」
日下部「何故それを__」
驚いて顔を上げた日下部さんに、私はしゃがんで目線を合わせた。
そして、口パクで口だけを動かす。
--- 『スマホの暗証番号』 ---
コナン「スマホの暗証番号だよ」
パクパクと口を動かす私が目の前にいたせいで、コナンくんの声が私から発した様に見えたみたい。
少し混乱した表情のまま、日下部さんは私の目を見た。
コナン「珍しくて気になったんだけど…入力する音を消してなかったのは忘れない為」
コナン「|羽場二三一《88231》を」
鋭くコナンくんがそう云うと、バッと勢いよく日下部さんは体を起こして安室さんを指差した。
日下部「違う!こいつらへの復讐心を肝に銘じる為だ__!!」
安室「公安警察の協力者は、全てゼロに報告され番号で管理される。だが公安刑事同士は互いの協力者を知らない。ましてや協力者を抱えている公安検事がいたなんて去年まで知らなかったんだ」
日下部「だからあの時、私の協力者を簡単に切り捨てたのか!」
コナン「成程…裏があったんだね。去年羽場さんが起こしたあの窃盗事件には!」
日下部「あれは…!私が羽場に頼んだんだ…」
去年、ゲーム会社に侵入した|男《羽場》が捕まった__立花さんが事務所を閉じるきっかけとなった事件。
日下部「NAZU不正アクセス事件の捜査の為に…そのアクセスデータが被疑者の出入りしていたゲーム会社にあると知った羽場は…」
自らの身を、正義の為に焼き滅ぼし、結果、それが露見して羽場は逮捕された。
正義である日下部さんの、捜査を少しでも助ける為に。
---
日下部「何故私の協力者だと取り調べで言わなかった!」
昨年、取調室で羽場を日下部が聴取していたとき。
羽場「私のミスであなたから公安検事の身分を奪うわけにはいかない」
日下部「私の事より今は自分の事を!」
必死に羽場を説得しようとする日下部に対して、羽場は諦めと、落ち着きの微笑を浮かべていた。
日下部「頼む!自分の人生を考えてくれ!」
羽場「自分の人生より、多くの日本人の人生の方がずっと大切だ。いつも言ってた。あなたのその志は私も同じです」
日下部「私は彼の窃盗事件を担当する検事に全てを話した」
その検事が、岩井さんだった。
今回も統括という立場についていた彼女。
岩井「__それでも彼を起訴します
日下部「...まさかまた公安警察に、!」
岩井「安心して。彼の口からあなたの名が出ないよう裁判はうまくやってみせるわ」
日下部「そんな話をしてるんじゃない!」
しかし、岩井はそのままあしらって何処かに行ってしまった。
日下部「後日、公安警察に直談判しようと警視庁へ向かっていた時…」
警視庁の、目の前の前で、突然電話がかかって来た。
出ると、それは岩井からの電話で__
突然に、告げられた。
岩井「羽場が自殺したわ」
日下部「は?」
岩井「理由はわからないけど、拘置所で公安警察が異例の取り調べをした後すぐにね」
視界がモノクロに染まって、揺れる。
ぐわんぐわんと、揺れて。
キーン、と耳鳴りがした。
蹲って、叫んで、喉が枯れても潰れても叫んで。
警備員が、日下部の尋常じゃない様子に、此方に駆け寄って来るのが見えて。
---
安室「…それで警視庁に探査機を落とす計画を」
日下部「あぁ…はくちょうの帰る日が羽場の命日だと知った時から」
コナン「IOTテロは?」
日下部「計画にはなかったが、検事として無実の人間を起訴させるわけにはいかなかったんだ」
コナン「毛利小五郎が犯人じゃないと証明する為にIOTテロを!?」
日下部「ああ、だが咄嗟の事で被害の規模は予想を超えていた」
おおよその予想は合っていたみたいで安心した。
少し推理、できるようになってるかも…
コナン「もうこれ以上罪を重ねちゃダメだ!不正アクセスして変更したコードを教えて!」
日下部「公安検察は正義を守るプロだ。羽場のような正義が失われちゃいけない!」
「今から此処にはくちょうを落とす事で未来の正義になりうる人が死んでもそんな事言える...⁉」
安室「コードを言うんだ」
日下部「私を逮捕すればいい!取り調べでは一切を黙秘する」
両手を揃えて手錠を掛けられる準備をしている日下部さん。
本当にこの人は…
コナン「日下部検事っ!」
--- 「日下部さん」 ---
コナンくんが横向きにして差し出したスマホには、ヘリポートの映像__警視庁の屋上のヘリポートの映像が、LIVEで映っていた。
そして、日下部さん、と...
そう呼び掛ける、その映像に写っている人は、紛れもない__
日下部「バカな__!」
昨年、取り調べ後に自殺した筈の羽場さんが、少し成長__髪が伸びた姿だった。
日下部「何で羽場が...!?」
He is ____
「…彼は自殺、死んだはず__!誰?誰の異能__コナンくん、何の異能なの其れは__っ!?」
コナン「警視庁ヘリポートのライブ映像だよ」
不敵に笑う彼を見て、少し分かった気がした。
コナン「これは異能なんかじゃない。本物の、羽場二三一だよ」
日下部「どういう事だ!」
今にも掴み掛らんとする日下部さんを、しかと捉えた安室さんの瞳。
安室透「…拘置所で彼を取り調べた公安警察は、彼を自殺した事にしてこれまでの人生を放棄させたんだ」
、あぁ、その公安警察は、安室さん__降谷さんだったんだろうな。
安室「公安検事が協力者を使っていたという事実を隠蔽する為に」
「そのことが日下部さんにも伏せられたのは、二度と公安検事が協力者なんて作らないようにするため__」
安室「…その通りだよ___自らした違法作業は自らカタをつける。あなたにはその力がない。公安警察がそう判断したんだ!」
コナン「羽場さんは自分こそが裁判官になるべきだと思い込む程、強い正義感を持ってたんだよね。だからこそ司法修習生を罷免され、行く当てのない彼を協力者にした」
羽場「そうです。日下部さんが私を人生のどん底から救い上げてくれた。たった二年間の関係でしたが、日下部さんは、“お前のお陰で公安検事として戦える”と言ってくれた」
コナン君の手元の携帯には、今度ははっきりと、羽場さんの顔が写っている。
羽場「だから私は今も、こうして戦えるんです。日下部さん、変更したコードを教えてください」
涙を流しながら頭を抱える日下部さんも、”コード”という単語を聞いて顔を上げた。
しかし、まだ何かに迷っている様子。
こんな迷う暇なんてない__!
私は、気付いた事実に冷静にいられていないのだから。
警視庁にはくちょうが落ちれば、マフィアビルも、其処に居る人たちも、無事じゃすまないことに___
安室「あそこに落ちれば羽場も無傷じゃいられない!」
安室さんもしびれを切らしたように云った。
日下部「ッ汚いぞ!これが公安警察のやり方か!」
風見「降谷さんもう時間が…」
携帯から聞こえる風見さんの声。
焦っているその声色から、どれほど時間が差し迫っているのか分かる。
「貴方は__っ毛利さんにかけられた疑いを晴らすため、それだけにIOTテロを起こした、!その”変なところで出てくる正義感”が、どうしてこの状況で出てこないんですかっ!?一般人にどれだけ被害が出ると___!!」
安室「早くコードを言うんだ__!」
羽場「…日下部さん、私の信じたあなたの正義は、そんな物だったんですか」
その、怒っているようで、悲しんでいるような、その顔。その声。
誰よりも、自分を嫌ってほしくない、そんな存在の羽場に、そんな視線を向けられる。
その日下部さんの気持ちは、___。
日下部「NAZUに不正アクセスして…、変更したコードは…っ」
ようやく重い口を開いたことに、この場に居る誰もの顔が、少しの希望に輝いた。
--- 「____。」 ---
そのコードを携帯の先で伝える声が聞こえる。
遠く離れたアメリカで、NAZUで、コードを入力して、
サクセスする音が__聞こえた気がした。
これで軌道を修正すれば、ここにはくちょうは落ちない__!!
安室「何!?ブラックアウト!?」
落ち着いたと思ったその時、突然叫んだ安室さんの声に、ピンと耳が澄まされた。
風見「はい!大気圏突入直後の5分程短い時間です!」
安室「その間はプラズマが発生する為、通信状態が保てず確実に軌道が修正できてるかどうかわからないそうだ。しかも、パラシュートが開かない可能性があると__」
コナン「そんな!」
「…っさく、や」
駄目だ。
此処で呼んだら、この場に居る人全員に異能がバレちゃ__
、でもさっき云っちゃった、
何の異能で生き返らせたのか、って、
どうしよう、
みんな、
お姉ちゃん、
太宰さん、
中也、__
日下部「羽場を…羽場を早くあそこから避難させてくれ!」
突然ダッと走り出した日下部さん。
向かうのはおそらく屋上__
もう知らない、っ!!
「奇獣!白虎、朱雀、天馬、…此処に居る私以外の三人を警視庁の屋上へ!私は咲夜と行く!」
そう叫んだ瞬間、何もない空間から光とともに奇獣が現れる。
驚く間もなく日下部さんは白虎に咥えられて(力加減は心得ている)、コナン君と安室さんは見た事があるからか、それほど驚かず、乗せられて屋上へと向かっていった。
「…咲夜」
咲夜「仲直りしてから呼んでちょうだい」
「それどころじゃないっ、このままじゃ皆が死んじゃうの__」
咲夜「…なら聞くけど、貴女が助けたい人は?」
「探偵社の皆にマフィアの皆__」
咲夜「その中に喧嘩している最中の姉がいたとしたら?」
「っえ、そんなの関係ないっ、助けないと、もう会えなくなっちゃう_!!」
躊躇いもなくそう言った私を、昨夜は寂しそうな目で見た。
咲夜「…そう、……貴女はやっぱり優しい___昔の私とは大違い」
「、え…?」
咲夜「…何でもないわ、早く行くんじゃないの?」
「ぅ、うん!」
頷いた瞬間、私は屋上のヘリポートに立っていた。
--- 「次お姉ちゃんと会ったときは、その素直な心で会話してね」 ---
咲夜が私の耳の傍でそう呟いて消えるのと、三人と三匹が屋上に現れるのは、ほぼ同時だった。
end___the
周囲を見渡すも、羽場さんの姿は見当たらない。
日下部「羽場はどこだ!、どういうことだ…?」
日下部さんも不思議そうな顔をしている。
安室「彼はここにはいない。あなたが見ていたのは、合成映像だ…ドローンで撮影した映像を使ってあたかも警視庁のヘリポートにいる様に合成したんだ」
安室「彼は今安全な場所にいる」
日下部「そうか…」
すっごく安心した顔をしてる。
本当に大切に思ってるんだ、
コナン「安室さん、軌道修正できてないとしたら、落下位置はやっぱり…」
安室「ああ、4メートルを超えるカプセルが秒速10km以上のスピードでここに落ちてくる」
「…その事なんだけど、私に任せてほしい、の」
驚きの声で一瞬耳が潰れるかと思った。
安室「待て待て待てそれで君に危険が及ぶ可能性があるんじゃないのか!?」
コナン「桜月お姉さんが無事じゃ無かったら蘭ねぇちゃんにも桜月お姉さんのお友達にも大説教だよ!!」
日下部「幾ら何でも無茶苦茶じゃないか?…私の所為で君のような幼い子が死ぬのは嫌だ」
「主犯が何か云ってる…」
もはや呆れも含んでる。
慥かに私が絶対安全とは言えない。
でも、逆に云えば私以外は全員、絶対安全。
???「とか考えてるだろうなって思ってたわ…マジでお前、学習能力ないな!!」
「はいっっ!!?」
突然現れたその声の主に、周りも驚いた様子。
、…無理もない。
だって、『ボスは転移系の異能力者』だから。
「おひさ、ボスっ!」
ボス「おひさ、じゃないだろ!状況はお前の能力から聞いた、マフィアも今大騒ぎだぞ!お前がまさかこれだけの大事件にかかわってたとかもう」
「話してる場合じゃないの!!」
コナン君がまず正気に戻って、ボスが私の仲間で、”異能力”を持っていることを察したようだった。
次に安室さんも。
コナン「…桜月お姉さんに無茶をさせる訳にはいかないよ。安室さんなら今すぐ爆薬を手に入れられる?」
安室「耐熱カプセルを破壊するつもりか?」
コナン「いや、太平洋まで軌道を変えられるだけの爆薬だよ」
…相変わらずえげつないこと考えるなぁ、、
安室さんも何かを察したようで、フッと笑って口元の小さなピンマイクを寄せて、話しかけた。
安室「風見、至急動いてくれ……あぁ、公安お得意の違法作業だ」
公安鑑識が押収した爆発物の中で最も威力の大きい、足のつかない爆弾。
それをドローンに持ってもらい、飛ばしたらしい。
風見さんから連絡が来た。
そして、そのドロ-ンは…少年探偵団、哀ちゃん、歩美ちゃん、光彦くん、元太くんたちが操っている、と。
「…ねえ、ボスは戻って、、皆はどこに居るの?」
ボス「一応…マフィアの防御系の異能者がビル一体のマフィアの区域に異能を発動させ、一般人と同じようにエッジオブオーシャン…サミット会場に避難してる」
--- 「高度3万メートルを通過した」 ---
突然耳に飛び込んできた、黒田さんの声。
あの人の低い声は不思議に人を落ち着かせ、同時に不安にさせる。
不思議だ。
コナン「安室さん、これでタイミングとれる?」
安室「ああ」
片手にコナンの携帯、ドローンの映像を。
片手に自分の携帯で、電話をかける…爆弾を爆発させる用意を。
ぴ、ぴ、と安室さんの指が動く。
ボスでさえが息を飲んで黙る。
最後の数字を押し終わり、ピりりり、と音が鳴った瞬間___
私たちの頭上で、爆弾の破裂する音と、目が眩むほどの光が襲ってきた。
ボス「伏せろ!っ泉!」
頭を庇うしか目のくらみそうな私にできなかった、その時、突然何かがぶつかってきて、そのまま横倒れになった。
「っえ、!?」
吃驚して目を見開いた。もう眼は眩んでいなかった。
「ボス、!?」
上に覆いかぶさるようにして倒れていたボスが、慌てて起き上がった。
同じくして起き上がった私の左手に、何か熱い物が当たる。
ドローンの破片らしき、鋭利な破片が、私の数十㎝横に落下していた。
コナン「桜月お姉さん!…何があったの?」
安室「その破片、!」
ボス「…落ちてきたのが見えたから、咄嗟に…」
ふいっと顔をそむけたボス。
「、助けてくれたの、…!」
ボス「っべ、つに…怪我させたら中原と太宰と尾崎幹部と首領とその他不特定無数…あと泉鏡花がうるさい、と思っただけだからな!」
「、っふふ、…!ありがとう、ボスっ」
えへへ、と微笑みながらお礼を言うと、ボスは少し赤くなってまたそっぽを向いてしまった。
コナンくんも助けてくれてよかったね、とかわいらしく笑っていた。
少しの間話から離脱していた安室さんが戻ってきた。
安室「パラシュートが開いたらしい…成功だよ」