孤独な私と臆病鬼は、今日も光を探してる。 〜第二章〜
編集者:読書が好き🍵
妖怪の住む山に迷い込み、仲良く暮らしていた沙雪一同。
しかしある日、酒呑童子である灯和が「胸騒ぎがする」と不安気につぶやいた。
その瞬間、轟音と共に地面が割れ、邪悪な笑い声が山を包み込む!!
あまりに突然の出来事に彼らは混乱に陥って…!?
平和だったいつもの日々は、突如中断されてしまった!!!
個性豊かな6人による、大切なものを賭けた闘いが、今、始まる。
◇◆---------◇◆---------◇◆----------◇◆-----ー---◆◇
先にこちらを読んだ方がわかりやすいと思います!
第一章:https://tanpen.net/novel/series/5a0277b8-e7d2-4ff9-915a-7e417b9250c4/
日常編:https://tanpen.net/novel/series/42ef90f3-23be-499a-8100-77719e397104/
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目次
【第壱話】平穏に忍び寄る晦冥
〜沙雪 side〜
こんにちは。私は神月沙雪です。
私は事情があって村から追放され、とある人たちに助けられました。
そして今は、この山奥の屋敷に住んでいます。
この山は自然が豊かで、動物たちものびのびと暮らしています。
…ただ、一つだけ『普通』とは呼べないことがあり、それが…
__ダダダダダダ……__
|沙雪《さゆき》「………!?」
??「__………んにゃあ__あああ**ああ!!!!**」
**ズザーー!!!**
沙雪「わあぁ!?ど、どうしたの猫葉ちゃん!?」
|猫葉《ねこは》「んにゃ!?なんじゃ沙雪か!ワシはただ走っておっただけじゃ!!」
__たったったっ……__
|灯和《ひなぎ》「待ってよ猫葉ー!って沙雪ちゃん!こんなところにいたんだ!」
猫葉「む!お主が遅いのがいけないんじゃっ!!」
沙雪「まぁまぁ猫葉ちゃん…」
__*バサッバサッ……*__
|天舞《てんま》「…ったく、お前走んの速すぎんだよ!」
猫葉「ワシが一番じゃあ〜♪」
__てくてくてく……__
|竜翔《りゅうと》「おーい!今日はたくさん山菜取れたよー!」
沙雪「……あ!竜翔くん!火影さん!」
|火影《ほかげ》「これだけあれば、炊き込みご飯と天ぷらくらいはできるだろうな。」
**猫葉「天ぷらっ!!?」**
**天舞「天ぷらっ!!?」**
火影「声がでかい。」
竜翔「今から用意するから待っててね〜!」
沙雪「あ、私も手伝う!」
灯和「じゃあ僕は薪でも取ってこようかな〜。」
天舞「お、なら俺も行くわ。猫葉もくるか?」
猫葉「ふふん、手伝ってやらんこともないぞっ!」
私は屋敷の家族たちと、いつもこうして仲良く暮らしています。
ここまでの会話なら、ただの家族の会話に見えるでしょう。
………しかし、私以外の彼らは人間ではないのです。
え?どういうことかって?
実は彼らは、日本では有名な**妖怪**なのです。
怖がりで人見知りだけどとても優しい『`酒呑童子`』の灯和。
天真爛漫なムードメーカーの『`大天狗`』の天舞。
世話焼きでちょっと苦労人な『`緑龍`』の竜翔。
冷静沈黙で少し毒舌だけど家族想いな『`天狐`』の火影さん。
元気溌剌で超ポジティブな『`猫又`』の猫葉。
私はこの5人と一緒に暮らしています。
確かに周りから見れば『普通』ではないかもしれません。
でも私にとっては、唯一無二の家族なのです。
私はこの屋敷で、平和で幸せな毎日を過ごしています。
*__ゴロゴロ……__*
灯和「………?」
天舞「ん?どうかしたか」
灯和「あっ、ううん!なんでもないよ!早く行こう!」
(……………なんだろう………)
---
〜?? side〜
*ゴロゴロ…*
*ザーーー……*
雨が止むことなく降り続けている。
無機質な廊下に私の足音が冷たく響く。
__コツ…コツ…コツ……__
やがて、目的の場に着く。
目の前には、水面のように揺らぐ鏡があった。
??「………『|樹霊山《こたまさん》』を映し出せ。」
その瞬間、鏡面が激しく歪む。
その様子はまるで、すべての生き物を飲み込んでいるかのようだった。
暫くすると、鏡には青々とした山が映し出される。
木々が育ち、動物がくつろいでいる。
??「…………こんなところにいたのか。」
そして、私が探していた人物がそこには映し出されていた。
白髪、瑠璃色の着物、黒い羽織、鈍く光る2本のツノ。
そして、耳に光る金のタッセルイヤリング。
??「お前は何百年も私から逃げていたが、遂にそれも終わりのようだぞ?」
その周りには、他の妖怪が数人うろうろしている。
あいつは同類を集めて何がしたいのだろうか。
私にはあいつらの行動の意味がさっぱりわからない。
わからなくていい。どうせつまらぬ理由だ。人間とはそういう生き物だ。
私は私のするべきことを執行するのみ。
??「……人間界に堕ちた、醜く哀れな妖怪たちよ…」
「…今宵、お前たちを地獄に叩き落としてやる。」
*ゴロゴロゴロッ…*
***ピシャーーン!!!***
??「………そこでずっと怯えていろ。灯和。」
---
第壱話 〜完〜
【第弍話】襲撃
【前回のあらすじ】
いつも通り、灯和たちと幸せな日々を送る沙雪。
その日も、なんの変哲もない一日を送っていた。
その一方、影では謎の人物が灯和たちの命を狙っているようで…!?
〜沙雪 side〜
今日の天気はどこか変に思えた。
昼過ぎまでは晴天だったのに、夜になった途端急に雲が出てきた。
雨が降り出しそうなほどの厚くて黒い雲が空を覆っている。
あんなにゆったりしていた動物たちも、どこかへ隠れてしまっている。
……そして、その現象は動物たちにだけ起こっているわけではなかった。
灯和「……………(ソワソワ)」
沙雪「……?」
先ほどから、灯和の様子がずっとおかしい。
ボーッとしてたり落ち着きがなかったり……
何かを隠してるのは一目瞭然だった。
沙雪「…灯和、どうかした?」
灯和「あっえっ、いっいや?なななんでもないよ!?」
沙雪「……動揺しすぎでしょ…本当に?」
灯和「う、うんっ!!(汗)」
そんなわかりやすい嘘に、私は顔をしかめる。
どうやら私以外も、それに気づいているようだった。
天舞「なーお前さっきからなんか変だぞ?」
猫葉「そーじゃそーじゃ!」
竜翔「灯和って隠し事するの下手だよねー…どうしたの?」
火影「何かあったのなら言ってみろ。」
灯和「えぇ…!?なんでそんなに気になるのさ……?」
火影「灯和があれだけ動揺すれば気にもなるだろ。」
天舞「そうだぞー。大人しく言えよ。」
みんなに詰められて、灯和は体を縮める。
暫くの沈黙の後、灯和は小さなため息をついた。
__灯和「………わかったよ……」__
竜翔「で、何のせいでそんなに落ち着かなかったの?」
灯和「…………ずっと…胸騒ぎがするんだ……」
沙雪「?胸騒ぎ…?」
みんなが首を傾げる中、灯和が怯えたように俯く。
火影「理由はわかるのか?」
灯和「ううん、それがわからないんだ……でもずっと悪寒がするんだ……」
天舞「どんな感じなんだー?」
灯和「こう…後ろから睨まれてるような……狙われてるような感じがして………」
__「………すごく…怖い……」__
そう小さくいうと、灯和は自分の肩をさすった。
よく見ると、少し涙目になっている。
……よほど長い時間、一人で怯えていたのだろう。
それに気づいたのか、火影さんと竜翔が軽く灯和に寄る。
竜翔「………うーん……なんでだろう…」
猫葉「…変じゃのぉ〜。それだとまるで
***ゾワッ***
**猫葉「!!ジャーーー!!!!」**
**火影「っっっ!!!!」**
灯和「ひっ!?」
竜翔「うわぁ!?何何!!?」
突然の大声に私たちは飛び上がった。
横では、火影さんと猫葉が同じ方向を見つめている。
*猫葉「ヴーーーー………」*
沙雪「え!?どっ、どうしたの!!?」
__火影「………殺気だ……」__
火影さんがポツリと呟いた言葉に、みんなが凍りつく。
猫葉は毛を逆立てて、どこかに向かって唸り続けている。
竜翔「え……?さ、殺気って…?」
火影「……これは恐らく動物の本能的な勘だが…強い恨みと殺意を感じた…」
「………灯和と猫葉が感じたのも…私と同じものだろう……」
天舞「はぁ!?じゃあそれは誰が向けてきてんだよ!!?」
火影「……わからん。ただ…とんでもなく強い殺気だ。」
猫葉「………!おい、どうしたんじゃ灯和?」
その言葉に、私はハッと灯和の方に向き直す。
灯和は、外を見つめた状態で固まっていた。
天舞「どうしたんだ?」
灯和「………ねぇ、今揺れなかった…?」
竜翔「……揺れたね。小さいけど地響きしてた。」
沙雪「う、うそ…全然わから
__ズウゥゥゥゥン………__
沙雪「………っ!!」
天舞「……確かに揺れたな。」
火影「ああ。」
竜翔「…なんなの……!?」
猫葉「…………」
灯和「……………」
息が詰まるような沈黙が私たちを包み込んだ。
そこには、ただ風が吹く音が響いていた。
__ヒューー……__
__ヒューーーー…………__
バキッッ
***ドゴオォォォォォン!!!!!***
沙雪「っっ!!!??」
爆音と共に足場がなくなる。
下を見ると、地面が大きく割れていた。
そしてその隙間から、黒い触手のようなものが無数に伸びてくる。
*シュルルルルッッ!!!*
その触手は私たちに向かって素早く伸びてきた。
沙雪「……っ!!?」
**灯和「!!沙雪ちゃん、竜翔、掴んでっ!!!」**
沙雪「!?はっはいっ!!」
私は咄嗟に灯和の手を掴む。
その瞬間、私と灯和と竜翔が触手に掴まれる。
***ギュウウウ!!!***
灯和「っ!!」
沙雪「ひっ…!!」
竜翔「!!火影!天舞!猫葉!!」
竜翔の声に私は後ろを振り向く。
それとほぼ同時に、私の横から触手が素早く伸びる。
そしてそれぞれが触手に掴まれていた。
天舞「あぁ!?なんじゃこりゃ!!?」
猫葉「ニャー!!?なんなんじゃあ!!?」
火影「………っ!!」
沙雪(何が起こってるの…!!?)
***ズズズズ……***
触手は少しずつ地面の割れ目へ吸い込まれていく。
自分たちの周りがだんだんと闇で覆われていく。
私はパニックで話すことすら忘れる。
灯和「………沙雪ちゃん……」
沙雪「!」
その優しい声で私たちは横を向く。
そこでは、灯和がこちらを横目で見ていた。
灯和「……絶対に離れないでね……何があっても僕が守るから。」
その声は、恐怖からか震えていた。
しかし、目には覚悟が強く浮き出ていた。
私はその目を見て、どこか安心する。
沙雪「……わかった…!」
私たちは顔を見合わせ、頷く。
そして、そのまま闇の中へと引き摺り込まれていった。
---
第弍話 〜完〜
【第参話】ようこそ妖冥界へ。
【前回のあらすじ】
面倒くなっちゃった☆(は?)
いやね?本編書く前に気力がここで削がれるもんで……
ということでこれからは前回を閲覧ください。
〜沙雪 side〜
*ビュウゥゥゥ…!!*
**沙雪「きゃああぁぁぁ!!?」**
**竜翔「わあぁぁぁ!!!」**
触手は空中に私たちを投げ出して、そのまま地面へ消えていった。
私は空気圧で動けず、灯和に抱かれたまま落ちてゆく。
目線を動かすと、鬱蒼とした森が目の前まで迫っていた。
灯和「…っっ!!!」
ガシッ!
***ぐるんっ!***
竜翔「わぁ!?」
沙雪「きゃっ!」
突然体が一回転し、私と竜翔は小さく悲鳴を上げる。
それから間も無く、体に大きな衝撃が伝わる。
**どすんっ!**
その瞬間、顔にうけていた風が突然に止む。
私は警戒しつつもゆっくりと体を持ち上げる。
竜翔「いてて……あ!沙雪ちゃん!大丈夫!?」
沙雪「あ、うん!竜翔くんは?」
竜翔「ボクも平気!」
__灯和「…………………重い…………」__
沙雪「え!!?」
咄嗟に下を見ると、私たちの下敷きになった灯和の姿があった。
多分、枝を掴むなりして私たちが上になるようにしてくれたのだろう。
沙雪「ごっ、ごめんねっ!!!」
竜翔「うわぁ!?だ、大丈夫灯和!!?」
灯和「……うん…僕は平気だよ………それよりも…」
そう言いながら、灯和は体を持ち上げる。
灯和は着物の土を払いながら空を見上げる。
私たちもそれにつられて見上げる。
灯和「………ここどこだろう……」
沙雪「……変な感じ…」
周りには空が見えないほどの木々が茂っていた。
しかし私たちの山と違い、どこか薄気味悪く、威圧感があった。
空には、全てを飲み込むような黒い雲が浮かんでいた。
そして、その雲からは、耐えることなく雨が降り続けていた。
---
〜天舞 side〜
**天舞「ふんぬぅああぁ!!!」**
**猫葉「んにゃああぁ!!!」**
**すぽーんっ!!**
天舞「……っはあーー!!!つ゛か゛れ゛た゛〜……」
猫葉「ふぅ〜…地面に突き刺さるお主、かなり滑稽じゃったぞ……」
天舞「うるせー…お前だって猫のくせに背中から落ちてただろうが…」
**猫葉「急に木の上に放り出されたらバランスも取れぬわっ!!」**
天舞「………で、ここどこだよ?こんな草原来たことないぞ?」
猫葉「妙な気配がするのぉ…」
天舞「ん〜、ちょっと待っててくれ。よっ!!」
***バサッバサッ!!***
猫葉「おーい天舞ー、何か見えたかー?」
天舞「えーと…お!あっちに森があるぞ。」
*バサッ…*
天舞「…っと!じゃあ取り敢えずいってみるか?誰かと遭遇できるかもだし。」
猫葉「それもそうじゃな〜。よし、行くとするかの。」
__てちてちてち……__
---
〜火影 side〜
火影「…………っ…」
突然触手に掴まれたかと思えば、急傾斜の岩山に投げ出された。
そのせいでで尖った岩山を転げてしまい、体を何度も強く打ってしまった。
幸い、尻尾のおかげで大きな怪我はなかった。
火影「……他の奴らは…」
私は全神経を耳に集中させる。
しかし、耳には風の音が聞こえるだけだった。
__*ズキッ……*__
足の痛みで集中も長く続かず、私はかすかに顔を歪める。
恐らく衝撃で足を挫いたのだろう。
火影「………とにかく、探してみるしかないか。」
私は近くに落ちていた枝で足首を固定して立ち上がる。
そして足を引き摺りながら、遠くに見える森に向かって歩き出した。
---
--- *おいで。おいで。* ---
--- *ようこそここは『妖冥界』。* ---
--- *妖怪たちが集う場所。* ---
--- *この世の秩序を護る場所。* ---
--- *ヒトに堕ちた妖怪は、* ---
--- *この世の秩序を壊すから。* ---
--- *みんな君を待ってるよ。* ---
--- *ずっとずっと待ってたよ。* ---
--- *「早く食いたい」「早く殺りたい」* ---
--- *みんなみんな狙っているよ。* ---
--- *おいで。おいで。* ---
--- *さあ、おいで?* ---
---
第参話 〜完〜
【第肆話】刺客
〜?? side〜
??「………来たな、灯和。」
手鏡に映る灯和の姿を見て、私は小さく息を吐く。
その息が辺りの空気を揺らがせ、雲が動く。
??「………さて、警戒すべきは…」
私の目には、一人の青年が映っていた。
足を引き摺りながら岩山を一人で下っている。
狐耳と九つの尾が岩の灰色に目立っていた。
彼は恐らく強い神通力を扱える。《《私の張っている結界》》とは相性が悪い。
??「………早く排除しなければ…」
私は椅子から立ち上がり、背後で待機していた家令に指示を出す。
そして私自身も激戦にそなえ、灯和の元へと向かう。
??「……………灯和………」
---
〜火影 side〜
__ズル…ズル……__
しばらく歩き、私は森のすぐ近くまで来ていた。
近くの草は湿っぽく、どこか居心地が悪い。
不気味に揺れる木々がわずかな風に揺らいで音を立てる。
しかし、周りは霧でほとんど見えなかった。
火影「…………」
足を痛めているせいで、歩くスピードがとても遅い。
焦れば焦るほど痛みが大きくなる。
*ズキッ*
火影「…っ………」
無理に動かしたせいか、痛みが桁違いに強くなっていた。
私はあまりの激痛に、地面にうずくまる。
火影(………これ…本当に捻挫してるだけか…?)
__ザッ…__
*??「よう兄ちゃん、あんたが今夜のわいの遊び相手か?」*
火影「!!」
**バッッ!!**
突然の声に私は後ろに下がり前を向く。
そこには、私と同じほどの背丈の男が立っていた。
しかし、とても人間とは思えなかった。
手足からは虎のように鋭い爪が生え、背中からは蛇が覗いていたのだから。
背後の大きな黒い羽がゆらゆらと揺れる。
目の前の男…恐らくは`鵺`が私に語りかけてくる。
??「ん?どないしたんや?挨拶しただけやんか。」
火影「お前は誰だ。名乗れ。」
??「おうおう、そう怖い顔せんといてくれや!」
そういうとその男はケラケラと笑う。
しかし、こちらを覗く黄金色の目からは、ギラギラと鋭い殺意を感じた。
火影「…名乗れと言っているんだ。」
??「わいの名前は**|焔颶《えんぐ》**や。ま、覚えんでもええで!」
**「どうせあんたの命は今夜限りやねんからな!」**
火影「私は火影だ。」
焔颶「…ん?なんや兄ちゃん、えらいすました顔するやんか…」
***「……あんたのその顔、めっちゃ歪ませ甲斐あるわぁ…!!」***
---
〜沙雪 side〜
沙雪「…いないね…皆……」
灯和「うん…心配だなぁ……」
竜翔「………ずっと生き物の気配は感じるんだけどな…」
三人で歩き始めて、もう何時間になるだろうか。
人間である私でさえも感じるほどの強い妖気だ。
逸れた三人に何も起こっていないことを祈りながら足を進めていた。
と、その時、灯和が私の方を振り返る。
灯和「………ねぇ沙雪ちゃん。」
沙雪「?どうしたの…?」
灯和「これ…使わないのが一番だけど、念のために持っておいて。」
そう言って灯和は私の手と自分の手を重ねると、力を込める。
***ポワッ!!***
するとその瞬間、青い炎が巻き上がり、私は思わず少し後ずさる。
しかし、不思議と熱さは感じなかった。
しばらくすると、手の上に白い刀が置かれていた。
沙雪「…!?これは…?」
灯和「う〜ん…まあ、お守りみたいなものだと思ってて!」
「…僕は扱えなかったんだけど、多分沙雪ちゃんなら大丈夫だよ。」
沙雪「う、うん…!」
私がそう言うと、灯和は嬉しそうに微笑んだ。
しかし、前を向くとすぐに緊張が走った表情に戻る。
__竜翔「…………灯和……大丈夫かな…?」__
__沙雪「………ここに来てからずっと様子変だよね………?」__
__竜翔「……もしかして…昔ここでなにかあったとか__
--- ***とまれ。愚かな妖怪と少女よ。*** ---
沙雪「!?」
竜翔「うわっ…!!?」
灯和「…っ!!?」
**バッ!**
突然の低く響くような声に、私たちは固まる。
たった一言で、私の腕はすでに震えていた。
私は気づけば目の前に差し出されていた灯和の腕を握っていた。
灯和「………誰…?」
--- ***お前が一番よく知っているだろう?*** ---
灯和「……?」
__*ザッ…ザッ…ザッ……*__
足音が少しずつ近づいてくるのがわかった。
私と竜翔は灯和の後ろにまわる。
灯和は足音がする方向をずっと見つめていた。
__灯和「………燈羅刹。」__
そう呟いた瞬間、灯和の手の中に巨大な金棒が現れる。
足音はすぐ近くまで来ていた。
やがて、霧の中から人影が出てくる。
*??「…忘れたとは言うまい。この何百年、ずっと逃げ回っていたのだからな。」*
**灯和「!?」**
沙雪「……!?」
竜翔「え…?」
灯和の手に一気に力がこもったのが見てとれた。
顔を見ると、冷や汗が頬を伝っていた。
*??「………おっと、竜の少年たちへの自己紹介が遅れたな。失礼した。」*
竜翔「!なんで知ってるの…!?」
人影がはっきりとしていく。
高い背丈、黒い癖のある髪、鋭く光る赤い目、少し尖った耳、赤い着物。
そして、黄金のタッセルイヤリングと、赤く染まった2本のツノ。
……見覚えがあった。いや、いつも見ている気がした。
??「私は`大嶽丸`の**|冥嶽《めいがく》**。この『妖冥界』の国王であり、守護者である。」
「…そして、お前たちの目の前にいる酒呑童子、灯和の兄だ。」
---
第肆話 〜完〜
焔颶
https://picrew.me/ja/image_maker/625876/complete?cd=VmuaII9YKD
冥嶽
https://picrew.me/ja/image_maker/695783/complete?cd=uBbAbvwntz
【第伍話】望まれない存在
〜沙雪 side〜
冥嶽「お前たちの目の前にいる酒呑童子、灯和の兄だ。」
沙雪「…!!?」
脳の理解が追いつかなかった。
しかし、確かに見た目も背丈も似通っている。
その時、ずっと固まっていた灯和が口を開いた。
灯和「………今更僕に何の用だよ、兄さん……」
その声は低く、今まで聞いたことがないほどの緊張と警戒が混ざっていた。
しかし冥嶽さんはそれに動じることなく続ける。
冥嶽「何を言っているんだ。そんなことわかりきっているだろう?」
灯和「………………」
冥嶽「お前たちの存在は妖冥界を脅かすからな。消しに来た。」
『消しに来た』その言葉は、一瞬異国語のようにも聞こえた。
意味をようやく理解した時、私の体は知らない間に小さく震えていた。
私のそんな様子を見た冥嶽さんは、私の目を見て尋ねてきた。
冥嶽「……そうか。お前たちは何も知らないのだな。」
沙雪「な、何をですか…?」
冥嶽「灯和は、《《元々この国を私と統治させるはずだった、元皇子》》だ。」
竜翔「!?」
沙雪「え…!?」
(灯和が…この国の元皇子…!?)
灯和「……っ」
冥嶽「しかし灯和はこの国の鉄則を破り、人間界へと逃げたのだ。」
***「…そんな罪深き罪人を、生かしておける訳ないだろう…?」***
沙雪「!!」
竜翔「……!!?」
その地を揺らすような重圧感がある声に、私と竜翔は思わず後ずさる。
木々が大きく揺れる。まるで目の前の存在に恐れをなして震えあがるように。
灯和は金棒を片手に冥嶽さんを睨んでいる。
冥嶽「もちろん、その仲間であるお前たちも、見逃す訳にはいかない。」
そういうと冥嶽さんは、左手を体の斜め後ろへと下げる。
***ボワッッ!!!***
沙雪「!!」
竜翔「うわっ!?」
突然左手に紫の炎が巻き上がる。
炎が瞬間的に大きくなり、私たちへ火の粉が飛んでくる。
灯和「!!!」
**バッ!!**
その瞬間、灯和が私たちを抱えて大きく後ろへ飛び退いた。
沙雪「わっ!?」
竜翔「……!?」
体が大きく傾いた私と竜翔は、慌てて冥嶽さんの手元を見る。
その手には何か光るものが握られていた。
……それは、鈍く光る濃紺の刀だった。
異様な色の炎を纏い、空気をも歪ませられるような雰囲気だった。
冥嶽さんはそれを横に構えて、灯和に言い放った。
**冥嶽「………国のために、死んでくれ。灯和。」**
灯和の顔が僅かに歪む。
今まで見たことがない、苦悩に苛まれた表情だった。
口元に力がこもる。額に冷たい汗が流れる。
その時、灯和が私たちを手から降ろし、前を向いたまま静かに囁いた。
灯和「………竜翔、沙雪ちゃん、ごめん。巻き込んだ。」
竜翔「…気にしてないよ。」
沙雪「私たちはどうしたらいいの…?」
灯和「……っ…竜翔、今すぐに《《沙雪ちゃんを連れてここから逃げて》》。」
竜翔「!!」
沙雪「…!?な、なんで…!?それじゃあ灯和が
灯和「ごめん。今回だけは絶対に譲れない。《《沙雪ちゃんの命に関わる》》。」
沙雪「!!?」
灯和「兄さんは大嶽丸…別名『鬼神』。天候や神通力を操る、神に近い存在だ。」
「……沙雪ちゃんたちを、僕の勝手な事情で傷つけるわけにはいかない。」
沙雪「……っ!」
灯和「…何かあったら`|翠鈴《すいりん》`に強く願って。きっと助けてくれる。」
私は腰に目をやる。
そこでは、灯和にもらった刀が露草色に淡く輝いていた。
*ゴロゴロゴロッ……*
気づけば空は先ほどよりも厚い黒い雲で覆われていた。
私たちを中心に渦をつくり、時々重い雷鳴が響いてくる。
それを見た灯和は竜翔へ叫んだ。
***灯和「!竜翔お願いっ!!!」***
竜翔「…!うんっ!!」
__*ぐいっ!*__
その瞬間、竜翔は私の腕を引っ張って走り出した。
私は戸惑いつつも転ばないように走り続ける。
………その瞬間だった。
***ドカアァァァン!!!***
竜翔「わっ!!?」
沙雪「きゃあっ!!」
後ろから、耳を裂くような雷鳴が聞こえた。
突然の轟音に、私たちは二人揃って地面に倒れ込む。
しかし竜翔は素早く立ち上がって、私を抱えて走り出す。
沙雪「っ!灯和…!!!」
**竜翔「灯和ならきっと大丈夫!!きっと…っ!!!!」**
竜翔の剣幕に、私は何も言えなくなる。
私はその言葉を信じて、竜翔と共に森の外へと走った。
空に広がる雲は、ただ黒く染まっていった。
---
〜灯和 side〜
灯和「っっ!!ゲホッ……!?」
__*ビチャビチャビチャッ……*__
口から吐き出した血が足元へ零れ落ちていく。
殆ど息ができず、必死に空気を吸う。
冥嶽「…ほう?彼らが受けるはずだった雷をお前が受けたのか?」
__灯和「…………はぁ…はぁ…はぁ…」__
冥嶽「どうせ彼らの命は長くないというのに…お前は変わっていないな。」
__灯和「…………それは…こっちの…セリフだよ………兄さんは…相変わらず…冷たいね…………」__
冥嶽「……その強がりが、彼らが逃げ切るまで持てばいいな。」
そう言うと兄は妖刀…`|宵闇《よいやみ》`を僕に向ける。
僕は崩れ落ちそうになる体に必死に鞭を打って、燈羅刹を構える。
冷たい風が間を通り抜けていく。黒雲の狭間が僅かに光る。
冥嶽「お前たちは望まれていない存在だ。だからこそ私がここで消さねばならん。」
灯和「………そんなこと…絶対にさせない…っ!!」
霧に覆われた森が、禍々しい紫の光で満たされていく。
そこにはただ、低く唸る雷鳴だけが響いていた。
---
第伍話 〜完〜
宵闇
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翠鈴
https://cdn.picrew.me/shareImg/org/202511/1063763_qxDyQ3SJ.png
【第陸話】一方その頃問題児達は
〜猫葉 side〜
__てちてちてち……__
猫葉「……メゴチ。」
天舞「チゴハヤブサ。」
猫葉「サケ。」
天舞「け…け……ケリ!」
猫葉「んにゃ…!?………リュウキュウアユ!」
天舞「ユリカモメ!!」
猫葉「メダイ!!」
**天舞「イッコウチョウ!!!」**
**猫葉「ウキゴリ!!!」**
**天舞「リュウキュウアカショウビン!!!」**
猫葉「……ん?」
天舞「………あ。」
猫葉「わしの勝ちじゃな〜♪」
天舞「あ゛ー!!お前魚の名前ばっか出すなよ!!」
猫葉「む!おぬしだって鳥の名前ばかりじゃったじゃろう!!」
天舞「……ていうか、いくら暇だからって、流石にしりとりは飽きたな。」
猫葉「…それには同感じゃ。」
天舞はいつもの能天気な顔に見えるが、意外と周りを見ているらしい。
先ほどからずっと妖気を避けながら森へと向かっている。
__てちてち……__
天舞「……はぁ…」
猫葉「…もしやおぬしも感じておるのか?この嫌な気配。」
天舞「ん?お前もか。こう、ザワザワする感じだろ?」
猫葉「うむ。そうじゃな……」
__もくもく…__
天舞「……なぁ猫葉。」
猫葉「にゃあ?」
天舞「…なんか急に霧が濃くなってないか…?」
猫葉「……そうじゃな。少し立ち止まるか。」
__もくもくもく……__
天舞「…………?」
猫葉「………」
**ぼわわわんっ!!!**
天舞「うおっ!!?何だこの煙!?」
猫葉「んにゃっ!?天舞どこじゃあ!!?」
**天舞「……ってうわっ!?何だお前足掴むな!!」**
猫葉「どうしたんじゃ!!?」
ドスッ!
**天舞「やめろって引きずんな!!うわあぁぁぁぁ!!!」**
猫葉「!!?」
__もくもく…__
猫葉「……けほっ…天舞…?おらんのか…?」
__*シーン……*__
猫葉「…………逸れてしもうたなぁ……さてどうするか……」
前方を軽く見渡しても、そこには草原が映るだけ。
その時、背後から何かが這いずる音が聞こえた。
__*ズルッ…*__
猫葉「んにゃあ〜?」
*ズルッズルッズルッ……*
**`??「シュウウウゥゥゥゥ………」`**
猫葉「……|本気《マジ》でいうておるのかぁ…?」
見上げる程の巨大、血で赤黒く染まった腹、紅い目、八つの蛇の頭……
妖怪の種族に少し疎い自分でもわかった。
猫葉「………八岐大蛇……猫の天敵が蛇じゃとわかっての刺客じゃな…」
`***八岐大蛇「ジャアアアアァァァッッッ!!!!」***`
猫葉「……まあ良いじゃろう。わしをナメたことを後悔させてやるわ。」
八岐大蛇は一直線にこちらへ迫ってくる。
…目の前の敵が腰に刺さったダガーナイフに手を置いたのにも気付かずに。
猫葉「………にゃはっ♪」
__*ヒュッ…*__
八岐大蛇が八つの頭をフル稼働させて消えた獲物を探している。
しかし、灯台下暗しだ。
猫葉「背中じゃ。」
`**八岐大蛇「!!?!?」**`
***ズシュッ!!***
`***八岐大蛇「ジャアアアァァァ……!!?」***`
猫葉「にゃははははっ!!」
*__シュタッ!__*
地面に華麗に着地するわしを、八岐大蛇はギロリと睨む。
猫葉「……まぁ、この程度で倒れるほど甘くはないか……」
`***八岐大蛇「ジャアアァァァァアア!!!!!」***`
猫葉「…そう来なくてはな!にゃははっ!」
---
第陸話 〜完〜
なんか続け方わからんくて適当になった……
【第漆話】燃ゆる女とドン引く男
〜天舞 side〜
__ズル…ズル……__
どすんっ!
天舞「んぁっ!?……ん?俺寝てた…?」
??「あら、起きちゃった?」
天舞「あ?誰だあんた?」
目を覚ますと、知らない女妖怪が俺の上に跨っていた。
雰囲気がかなり妖艶で、普通の男性ならイチコロなのだろう。
しかし、女に乗られて体が仰向けなせいでそれくらいしかわからない。
……それよりも気になることがあった。
天舞「……なんかここ…暑くね…?」
??「ボク、アタシの足をご覧なさいな。」
天舞「ん〜?……ってうわっ!?」
*バッ!!*
そこには、轟々と燃え盛る炎に包まれた車輪があった。
俺は思わず後ろに飛び退いて服についている火を消した。
それをみた女妖怪…`火車`が楽しそうに手を叩いて笑う。
**天舞「アッツ!?おめぇ頭イカれてんのか!!?」**
??「あははは!面白い反応ありがとうねぇ、ボク♡」
**天舞「何笑ってんだよこのアタオカ女!!」**
??「やぁねぇ、レディにそんな口聞くもんじゃないのよ?」
天舞「は、はぁ…?お前さっきから何言ってんだ?気持ち悪……」
??「アタシの名前は**|煉華《れんか》**。よろしくね♡」
天舞「聞いてねぇよ……」
煉華「ほら、レディが名乗ったのよ?あなたも名乗りなさいな。」
天舞「………天舞…」
煉華「あら!いい名前じゃないの〜♡」
俺がドン引きしている間も、煉華は笑っていた。
笑えば笑うほど車輪の炎が勢いを増す。
暫くその謎の時間が過ぎた後、煉華は不思議そうにこちらを見る。
煉華「……あら?変ねぇ…そんなにアタシを見てオカしくならないなんて……」
天舞「はぁ?なんでお前見ておかしくならなきゃいけないんだよ?」
煉華「ほら、アタシって見ての通り妖艶で美しいじゃない?」
天舞(自分で言うなよ…)
煉華「だからアタシを見た男の人は、み〜んな興奮しちゃうのよ?」
「……でも天舞くんはそうならない…なんでなの?」
天舞「いや俺普通に清楚派だし…あんたはタイプじゃない。むしろ苦手。」
煉華「アタシがタイプじゃないの?センスないわね〜。」
**天舞「お前がおかしいだけだろ!」**
煉華「『お前』だなんて口が悪いわね〜。やっぱりナンセンスね♡」
**天舞「はぁ!!?」**
煉華「……あ!ナンセンスといえば、あなたのお仲間さんもカッコ悪いわよね〜♡」
突然のその発言に、俺は口を閉じる。
天舞「…………あ?」
煉華「だって本当のことでしょ?みんなビクビクしちゃって馬鹿みたいなのよ!」
「竜の子なんて元々小さい体をもっと縮めちゃって!もう可笑しくって!」
天舞「………………」
煉華「酒呑童子だっけ?あの子も冥嶽さんに逆らってボロボロにされちゃって!」
「そうそう!あの九尾くんもダサいわよね!落ちた勢いで捻挫してるのよ〜?」
**「ほんと、みんな揃いも揃ってダサいわよね〜♡」**
天舞「………………………」
煉華「天舞くんもあの九尾くんのこと嫌いなんでしょ?気が合うじゃな〜い!」
「冥嶽さんにあなたを殺せって言われてるけど…__特別に逃がしてあげよっか?__」
__天舞「………っせぇな……」__
煉華「え?今なにか言った
***ドゴッ!!***
**煉華「ぎゃっ!!?」**
天舞「…ゴチャゴチャうるせぇって言ってんだよ。」
煉華「………は?」
天舞「確かに俺はいつもあのクソ狐に喧嘩ふっかけてるよ。でもな……」
「あいつを悪く言っていいのは俺だけなんだよ。」
「何も知らねぇような馬の骨にあいつらを悪く言う権利はない。」
***「…………とっとと失せろやアバズレ女。」***
煉華「……あんた、アタシの顔を殴った覚悟はできてるわけ?」
***「………ぶっ殺してやるわクソガキが。」***
***ボワッッ!!!***
足元の草原が一気に燃え上がる。
煉華の髪が逆立ち、異様な空気を纏っている。
天舞「やってみろよ。悪いけど、俺は絶対に負けねぇ。大天狗様ナメんなよ?」
---
第漆話 〜完〜
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【第捌話】紅蓮ノ炎・颶風域
〜天舞 side〜
__***メラメラメラ……***__
煉華「……………」
天舞「……………」
紅い炎が地面を覆い尽くしていく。
長い睨み合いの後、煉華が背中から長槍を取り出した。
全体は黒く、刃先は炎で包まれていた。
***煉華「…………死になさいっ!!」***
天舞「!!」
***ゴロコロゴロッッ!!!***
槍を構えて突進してきた煉華を俺は咄嗟に飛んで交わす。
*バサッ!!*
煉華が走った場所には炎が巻き上がっていた。
天舞「…っぶねーなっ!何しやがんだ!!」
煉華「ふふ、次はないわよ?」
天舞「へっ!お前その車輪でどうやって空を飛ぶつもりなんだよ雑魚が!!」
煉華「…あら?天舞くんもしかして知らないの?」
そういうと煉華はまたもやこちらに槍を構えて車輪を回す。
**ぼわんっ!**
するとその瞬間、煉華の足元に雲が現れその雲を渡って空を飛んだ。
そしてそのまま俺の方に走ってくる。
***ゴロゴロッッ!!***
**天舞「うおぉぉ!!?」**
*バサッ!!*
煉華「火車は罪人を地獄へと招く死神。もちろん空くらい簡単に飛べるわよ?」
**天舞「先に言えやっ!!!」**
俺がそう叫ぶ間にも、煉華はこちらに突進する準備をする。
このままここで手間取っていたら竜翔たちの方へ向かえない。
天舞(………仕方ねぇなぁ……)
俺は背中の羽団扇に手を置く。
そして羽団扇を後ろに下げ、大きく振りかぶった。
天舞「…ほらよっと!!」
***ビュオオォォオォォ!!!***
煉華「きゃっ!?」
俺の周りに突風が吹き荒れ、火が一斉に消える。
煉華の車輪の炎も大きく揺れ、大きく下がる。
しかし恐らくギリギリで避けたのか、煉華の車輪の炎は消えていなかった。
煉華は汗を少し拭うと、こちらを見上げる。
煉華「……確かに強いけど、火はどんどん増やせるのよ?大丈夫?」
驚くほどの強気に、俺は思わず手を止める。
煉華はニヤリと笑い、楽しそうに槍をクルクルと回す。
***ボワッッ!!!***
その瞬間、火が消えたはずの場所からまた炎が吹き上がる。
俺は迫ってくる火柱を咄嗟に避け、煉華を睨む。
天舞「……ちっ、面倒くせぇな…」
煉華「あらあらぁ、こんな調子じゃ、あなたのお仲間さんはやられちゃうわね?」
「あの九尾くんなんて《《細くて弱そう》》だったからすぐ死んじゃうかもね?」
天舞「…は?」
煉華「もう、そんなに怒らないでよ!ほんの冗談じゃない♡」
「……まぁ、早く助けに行きたいなら、早くアタシを殺すことね♡」
そう言って笑う煉華を見て、俺も覚悟を決める。
天舞「…しゃーねーな。それがお望みなら、こっちも《《手加減なしで》》いってやるよ。」
煉華「……?今までは違ったの?」
天舞「誰がキモいババア相手に本気出すんだよ。」
煉華「は?キモいババア?(カチンッ)」
天舞「あれぇ?もしかして怒ってるんですかぁ?シワが増えますよオバさまw」
**煉華「あ゛ぁ?誰がオバさまだこのガキっっ!!!」**
炎が一気に勢いを増して、辺りが真っ赤に染まる。
しかし、俺は全く動じない。《《これが狙いだったのだから》》。
***ゴロゴロッッッ!!!!***
先ほどとは比べ物にならない勢いで煉華が突進してくる。
俺は羽団扇を一度しまい、かわりに手に力を込める。
そして、小声でつぶやいた。
天舞「………来い、`|天裂丸《てんれつまる》`。」
**煉華「死ねっ!!」**
***ガキンッ!!***
鉄と鉄がぶつかり合う音が草原を揺るがす。
俺の手には、風を纏う剣が握られていた。
__*ギリギリ……*__
天舞「…なぁ知ってるか?」
煉華「!?」
天舞「大天狗は、かの有名な源頼義に剣術を教えたと言われる程の剣豪なんだぜ?」
煉華「……っ!!このっ!!」
*ブンッ!!*
煉華は大きく槍を振って天裂丸を弾く。
そして刀を弾かれて無防備な俺に槍を向ける。
**煉華「何が剣豪よ!!このまま刺されて死になさいっ!!」**
天舞「…………」
***グサッ!!***
俺の胸元に深く槍が突き刺さる。
煉華は槍を振り切り、俺の体を二つに裂いた。
煉華「………は?」
………しかし、その体からは血は流れない。
それどころか俺の体は煙のようにぼやけ、炎の中へと消えていった。
煉華「…な、なに!?何なの!!?」
天舞「………それは俺の幻影だよ、バーカ。」
煉華「!!?」
煉華は咄嗟に後ろを振り向き、目を見開いた。
そこで、たった今殺したはずの敵が羽団扇を構えていたのだから。
天舞「…ブチ切れて敵を見間違えるなんてダッセーな!?」
煉華「………っ!!」
天舞「ははっ!だから言ったろ?俺は絶対に負けないってよ!!」
***ビュオオォォォオオ!!!!***
煉華「きゃああぁぁ……!!?」
風で車輪の炎を消された煉華はそのまま地面へ落ちていく。
しかし、俺はそれを受け止め、地面へと降ろす。
*バサッ……*
そして放心状態の煉華に、俺は天裂丸を向ける。
天舞「………あいつらの場所を教えろ。そうすれば命は助けてやる。」
煉華「………………ふふっ……」
天舞「?お前なんで急に笑ってんだ?」
煉華「……どうせアタシのことを殺すつもりなんてないでしょ?」
天舞「は?」
突然の意味不明な笑いと発言に俺は首を傾げる。
煉華「さっき後ろにいた時、声なんてかけなくても刀で首を落とせばよかった。」
「……それでも天舞くんは羽団扇でアタシを弱らせることを選んだ。」
天舞「……………………」
煉華「天舞くん、あなた乱暴に見えるけど、実は結構優しいのね?」
天舞「だからさっきから何言ってんだよ怖ぇな……」
煉華「ふふっ、うん、気に入った。やっぱりアタシが見込んだだけあるわ♡」
煉華は俺の刀を退け、俺の顔に触れる。
煉華「…………ねぇ、アタシの男にならない…?」
**天舞「だからお前はタイプじゃねぇってば!」**
煉華「……はぁ、やっぱり色仕掛けは効かないのねぇ…」
天舞「いいから早く居場所教えろ。」
煉華「……………わかったわよ。」
そういうと煉華は霧がかった森の方を指差す。
煉華「九尾くんはあの森で焔颶と戦ってる。でもピンチだから早く行きなさいな。」
天舞「そうか。ありがとう。じゃあな。」
*バサッ…*
**煉華「あ、待って!」**
天舞「……っとと!何だよ!?」
突然の大声に俺はつまづきそうになりながら振り返る。
煉華「…………あなた、九尾くんのこと気に食わないって言ってたわよね?」
天舞「あ?言ったけど…それが何だよ?」
煉華「なら、何で助けに行くの?本当に嫌いなら、助けには行かないはずよ?」
「戦いの途中でも、あなたは九尾くんの悪口に過剰に反応してた。」
天舞「………何が言いたいんだよ。」
煉華「本当は好きなんじゃないの?あなた、九尾くんのこと。」
天舞「…………………」
突然の呼びかけに、俺はしばらく答えることができなかった。
しばらくの沈黙ののち、答えを決めた俺は口を開いた。
天舞「俺は確かに、あいつ…火影とはよく喧嘩するし、仲も悪い……でも…」
「…素直には言えないけど、俺はあいつを慕ってるし、心から尊敬してる。」
「……だから…」
煉華「だから?」
天舞「………嫌い……__ではない……__」
煉華「…ふ〜ん、要するにあなたは『ツンデレ』ってわけね?」
__天舞「………/////」__
煉華「なによ〜!可愛いとこあるじゃな〜い♡(ニヤニヤ)」
**天舞「……っ!うるせーよ!!もう一回ぶん殴るぞっ!!/////」**
煉華「……まあ、本人には言わないでおいてあげるわ♡ほら、早く行きなさい。」
天舞「…ふんっ!じゃあなっ!!」
***バサッバサッ!!***
煉華「………ふふっ、次に会えたら、もっと面白い話聞かせてね、天舞くん…♪」
---
第捌話 〜完〜
天裂丸
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【第玖話】犬と猿の刃傷沙汰
〜火影 side〜
火影「…………」
さっきまで目の前にいた敵は、霧に紛れて姿を消した。
あたりを見渡せど、見えるのは木々の薄い影だけ。
私は手に握られた儀式刀の白焔と、神楽鈴の幽月魄を握る。
そしてゆっくりと目を閉じ、聞こえる音全てに意識を集中させる。
__ザワザワ……__
__サァァ……__
聞こえるのは木の擦れる音、植物がなびく音、そして……
*__ガサッ__*
草の上を歩く音。
**焔颶「おらよっ!!」**
火影「!!」
***ガキィン!!***
咄嗟に白焔を振ると、そこには巨大な虎の爪が姿を見せていた。
完全には受けきれなかったのか、私の頬が切れる音がした。
*ドサッ!*
あまりの力の強さにバランスを崩し、私は地面に倒れる。
私の上に仰向けにのし掛かった人物…焔颶は、私の顔を見てニヤリと笑う。
焔颶「おうおう、さっきまでの威勢はどこ行ってもうたんや!?」
火影「…っ!!」
**ドカッ!!**
私は右足で焔颶を空中へ蹴り飛ばす。
焔颶は体を捻り地面へと着地する。
しかし、焔颶が目を向けた先に、私はもういなかった。
焔颶「あ?消えた…?どこ行っ
__シャン!__
*火影「`陰陽神刀舞`。」*
焔颶「!!」
こちらを振り返る焔颶に、影のような黒狐が突進する。
*** ズバッ!!***
黒狐の一匹が焔颶の腕に掠り、焔颶の手から血が噴き出る。
そして他の黒狐も後に続いて飛び掛かる。
……しかし焔颶は全く焦る様子を見せない。
焔颶「へぇ、相手の体力と魔力を奪い取る黒狐…おもろい技やんか。」
「………でも、わいにはこんな小細工効かんで?」
焔颶は腕を大きく下げると、思い切り黒狐に振りかぶった。
***ザシュッッ!!!***
その瞬間、地面が巨大な爪に引っ掻かれたように抉れ、黒狐たちは消え去る。
焔颶「……いったぁー…」
__ブンブンッ__
焔颶は手についた切り傷を一瞥し、痛みを振り払うように手を振る。
私も頬から流れ落ちる血を手で拭う。
焔颶「今の技は結構おもろかったで!もっと他の技ないん?」
火影「……………」
焔颶「…あんたほんまに喋らんなぁ。表情も変わらんし、おもんないわー。」
火影「戦いに面白みや快楽を求める意味がわからないからな。」
焔颶「はぁ!?あんたわかってないわー!!」
焔颶は『あちゃー』とでも言いたげに自らの頭を軽く叩く。
そして、その黄金色の毛で覆われた手の隙間からこちらを睨みつける。
その目は金にギラギラと光り、どこか威圧感があった。
*焔颶「あんたみたいな澄まし顔してる奴の歪んだ面…それが一番唆られるんやで?」*
火影「………お前とは到底、分かり合えそうにないな。」
焔颶「それは同感や。わいもあんたと分かり合える気ぃせぇへん。」
そういって嘲笑する焔颶を見て、私はわずかに眉をひそめる。
*ズキッ*
火影「…っっ!?」
焔颶「ああ、あんたさっきから動き回ってたからな。そら足も悪化するわ。」
「そんな状態でほんまにわいに勝てるんか?えぇ?」
__火影「………ちっ…」__
戦闘前から痛めていた捻挫が余計に悪化していることには気づいていた。
しかし、そんなことは気にしていられなかったのだ。
火影「お前に構うほどの暇はない。退け。」
焔颶「その強気な姿勢は認めたるわ。ただ、それもいつまで持つんやろうな?」
火影「……?」
焔颶「あんたさっき、わいの蛇に噛まれたやろ?ほれ、毒で腕が痙攣起こしとる。」
火影「!!?」
悪寒が背筋を走り、私は素早く左腕を見る。
そこには、小さい二つの傷口があり、血が滴っていた。
傷口の周りは紫色に腫れ、左腕全体が小さく痙攣を起こしていた。
火影(………さっきからの眩暈や気怠さはこいつのせいか……)
その時、焔颶が不思議そうにこちらを見る。
焔颶「ん?気づいてなかったん?こいつの牙結構鋭いんやけどな……」
__火影「…………っ……」__
私は左腕を隠すように体を横にずらす。
その様子を見た焔颶は、数秒真顔になった後、不敵な笑みを浮かべた。
***焔颶「あんたまさか左腕の感覚ないんか!?そら気づかんわ!!」***
焔颶は森中に響き渡るほどの大声で笑い始めた。
元々の耳の良さと毒のせいで、ひどい耳鳴りが頭に響く。
__ピクッ__
火影(……………声……)
焔颶の笑い声の奥に、別の声が聞こえた。
私は焔颶にバレないよう、目線だけを声の方に向ける。
火影「!」
………高くそびえる木の上に、見慣れた影があった。
その影は私に向かってニヤリと笑いかける。
私はその意図と作戦を瞬時に読み取り、目配せで返事をする。
それを見た影は木の上へと飛んでいった。
__火影「………はぁ…」__
焔颶「ふぅ〜…疲れた〜……」
その時、ようやく落ち着いた焔颶が私に話しかけてきた。
焔颶「……あ?黙り込んでどうしたん?悔しいん?それとも毒回って喋れやんか?」
火影「…………毒が回って話しづらいのは確かだが、悔しくはないぞ?」
「最後にここに立っているのは、絶対に私だからな。」
焔颶「……へぇ〜、まだそんな余裕あるんか。意外やな。」
***「…わいがその余裕ぶち壊してその面に絶望植えつけたるわ。」***
*ビリビリッ……*
空気が一気に歪み、足がわずかにすくむ。
頭痛と眩暈で視界が揺れ、足の痛みはますます強まる。
しかし、私は既に勝利を確信していた。
焔颶「最期までわいを楽しませてや、野狐さん?」
火影「それはこっちの台詞だ、狸。」
---
第玖話 〜完〜
【第拾話】信じてるから。
〜火影 side〜
火影「……………ふー……」
焔颶「お?さっきまでの勢い無くなったな?やっぱ毒回ってくるとキツいやろ?」
「あんたの体格やと…あと2分くらいで内臓から溶けてお陀仏や。」
火影「……………」
焔颶「…ま、別に黙っててもええわ。最期の断末魔さえ聞ければ十分やからな。」
そういうと焔颶は、手に光る爪を長い舌で舐める。
私はふらつく身体に鞭を入れ、白焔と幽月魄を構えた。
--- **`毒が回り切るまで`** ---
--- **`01:45`** ---
***焔颶「……じゃあな!!」***
***ドンッ!!***
焔颶が床を蹴って突然目の前に現れた。
私は迷わず後ろに下がり、白焔を振り切る。
__シャラッ!__
*火影「`|瘴焔刃環《しょうえんじんかん》・|睡《すい》ノ|舞《まい》`!!」*
*ザシュッッ!*
***ボワッ!!***
刃が焔颶の手を切りつけた瞬間、その部分が突如紫の炎に包まれる。
焔颶はそれを一瞥したのち、思い切り腕を振って炎を消した。
**焔颶「こんな小細工聞くと思ったんかぁ!!?」**
火影「……いや。」
**焔颶「ほぉ!?ずいぶん余裕かましてくれるやんか!!!」**
*ダッ!!*
焔颶は地面を割るほどの脚力でこちらに迫ってきた。
そして握りしめられた拳を私の顔に向ける。
*火影「!!`|天裂九重焔《あまさきここのえほむら》 `!!!」*
__シャランッ…__
そう叫んだ瞬間、周りの空間が裂け、そこから無数の蒼炎が現れる。
その蒼炎は狐に姿を変え、焔颶に飛びかかった。
***ボワッ!!!***
焔颶の身体に火がつき、一気に蒼い火柱があがる。
しかし、中の焔颶の顔には、炎には似合わない笑みが貼り付けられていた。
焔颶「………ははっ!!」
***バッ!!***
焔颶は腕を大きく振るい、炎を裂くようにして消す。
そして振り解いた勢いのまま、こちらに狙いを定める。
**焔颶「お前の力はこの程度なんかぁ!!?」**
火影「……!」
私は素早く攻撃体制に入った。
……しかし。
*ズキッッ……*
火影「いっ…!?」
足が突然猛烈に痛み、私はバランスを崩す。
その隙を見逃さず、焔颶は私の腹を目掛けて拳を突き上げた。
***焔颶「おらよっとぉ!!!!」***
火影「!!」
***ドスッッッ…!!***
火影「…っ!?」
*ドシャッッ……*
私は数メートル上空に吹き飛び、受け身も取れずに地面に落ちる。
そのまま地面を跳ね、勢いよく木に激突した。
火影「……グフッ…ゲホッ…!!?」
__*ビチャビチャ……*__
口に溢れた血を地面に吐き出す。
足元にはすでに大きな血溜まりができていた。
--- **`01:09`** ---
__ザッ…ザッ……__
焔颶「………おぅおぅ、こんなにすぐ弱られたら困るで?なぁ…?」
__火影「…………カヒュッ……ふー…ふー………」__
焔颶「毒の巡りも相まってもう立つ体力も気力もないやろ?」
***ドカッ!ドカッ!!***
*火影「……っ!!ゲホッゲホッ…!!?」*
そう話す間にも焔颶は私の顔や腹を蹴る。
そして相変わらず、見下すような不敵な笑みを浮かべて私を睨んだ。
***ガシッ!!***
突然、焔颶は私の前髪を思い切り掴み、自らの顔に引き寄せた。
しかし私にはもう、それに対抗する気力はなかった。
***焔颶「舐めてた奴にボッコボコにされた気分はどうや!!?」***
焔颶はそう言って、癪に障る顔をこちらに向けながら私の頭を揺さぶった。
__火影「……………ゲホッ……」__
焔颶「……あーあ、遂に毒でほとんど話せんくなったか…まぁええわ。」
そういうと焔颶は私の首を横へ向ける。
焔颶「まだ目は見えてるよな?今あんたは崖の前におるんや。」
「もちろん今のあんたが落ちたら即死。粉々になって跡形も残らん。」
__火影「……………」__
焔颶「ま、それは可哀想やから、わいが崖に落とした後ですぐ切り刻んだるわ。」
「なんせわいにはこの翼があるからな。空やって飛べる。」
--- **`00:42`** ---
焔颶は私を崖のすぐ目の前まで引きずっていった。
私はわずかに動いた目で、崖の下を覗く。
そこには、ただどこまでも続く深淵が広がっていた。
焔颶「遺言くらいなら聞いたるでぇ?ほら、言うてみ?」
火影「…………………」
焔颶「………ふん、最期までダンマリか。ほんまにつまらん男やな。」
私は焔颶の後ろ、木の上をもう一度確認する。
そこには何の生き物の影もなかった。
焔颶「最期に教えたる。あんたの毒を消すにはわいの蛇の首を落とせばええんや。」
「……苦しみから解放されるための手段が目の前にあるのに何にもできへん…」
「………それってさぞ悔しいんやろうなぁ…?」
焔颶の後ろから、美しい白蛇が顔を出す。
そして私の目に顔を寄せ、『シャー』と一声鳴いた。
**焔颶「……ほななっ!死ねっ!!!」**
**ブオォン!!**
***ビュオオォォオォォ…!***
私は思い切り崖の外へ放り出された。
抵抗もできず、ただ風を受けながら落ちていく。
--- **`00:27`** ---
***ダッ!!***
私が落ちていくのを見た焔颶が、黒い大きな翼を広げて崖から飛び降りる。
その表情は、今までとは比べ物にならないほど醜く……
……………滑稽だった。
***焔颶「毒に侵されて一人切り刻まれるなんて可哀想やなぁ!?」***
火影「…………ふん、毒に侵されているのはお前もだろう?」
焔颶「!?お前まだ話せたんか…!!?」
火影「お前はこの戦いで三つの失態を犯した。」
焔颶「…はぁ?」
火影「一つ、死にかけの敵に簡単に自らの強さの秘訣を話したこと。」
焔颶「…はっ!!だからなんや!?お前はもう動けん…**って!?**」
火影「二つ、自らの身体が毒で犯されていくことに気づかなかったこと。」
**焔颶「……!?羽が上手く動かせない…っ!!!?」**
火影「っっ!!!」
*ドンッ!*
その隙を見て私は、翼が麻痺して動けない焔颶を全力で蹴飛ばす。
私と焔颶の間に大きな空間が生まれる。
………《《刀を振っても当たらないくらい》》には。
***バッ!!***
その瞬間、仰向けで落ちる私の目に、二つ目の影が映る。
……見覚えのある黒い翼が私たちに急激に迫る。
--- **`00:08`** ---
火影「………三つ。《《私が一人で戦っていると勘違いしたこと》》。」
??「あ〜あ。ずっと見てたけど、ほんっと馬鹿だよなあんた。」
焔颶「!!?」
??「…悪ぃけど、こいつ殺すわけにはいかねぇからよ。」
**「おーらよっとぉ!!」**
***ザシュッッ!!!***
その男は、緑の風を纏う刀で、白蛇の首を切り落とした。
白蛇「ジャアアァ…ッ!!」
焔颶「なっ…!!?」
**??「ほらよっ!!受け取れクソ狐っっ!!!」**
***ドカッ!!***
その声と同時に、男は焔颶をこちらへ蹴り飛ばしてきた。
私はそのまま飛んできた焔颶を足で捉える。
そんな私の体からは、すでに毒気は消えていた。
火影「…舐めていた狐にボコボコにされる気分はどうだ?」
焔颶「……ははっ!前言撤回するわ…あんたやっぱめっちゃおもろいなぁ…!!」
火影「だから言っただろう。最後に立っているのは私だとな。」
私は腕を後ろまで下げ、渾身の力を込める。
__シャリンッ!__
*火影「`幽焔ノ儀・魂喰`…っ!!!」*
***ジャキンッ!!***
焔颶「……っ!!」
火影「…………………」
__*ふらっ……*__
***ガシッ!!***
??「……っとと!!お前ら二人とも死にてぇのかよ全く…!!」
そういうと男は私たち二人を崖の上まで運んでいった。
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***ドサッ…***
??「…ったく、何でお前を俺が助けねぇといけねぇんだよ…!!」
火影「…………ふぅ……遅かったじゃないか、天舞。」
天舞「……ちっ…クソ野郎が…帰ったら天ぷら作れよな?」
火影「わかっている。いちいち煩い。」
***天舞「はぁ!?助けてもらっておいてそれかよこの野良狐が…!」***
そう叫んでその男…天舞は私の胸ぐらを掴んで大きく揺さぶる。
と、その時、もう一人の声が私たちの間を抜けていった。
__焔颶「………ははっ…!」__
天舞「うわっこいつ急に笑い出したよ怖っ…」
焔颶「なぁなぁ、あんたどうやってわいに毒仕込んだん?」
火影「……私の技『瘴焔刃環・睡ノ舞』は、相手を麻痺させることができる。」
「でもお前なら恐らくすぐ気づく。だから一部にだけ毒を送った。」
焔颶「……へぇ〜、なるほどなぁ。こりゃあ一本取られたわ。」
そう言って焔颶はまた笑い出した。
私と天舞は、ただ見ていることしかできなかった。
やがて、焔颶が口を開いた。
焔颶「…なぁ、火影と言っとったなぁ…?最後にもう一つ教えてぇや……」
火影「………なんだ。」
焔颶「……あんたら、随分仲悪いみたいやんか?」
火影「そうだが、それがどうした?」
天舞「本題早く言ってくんね?」
焔颶「………何で成功するかもわからん作戦を、あんな一瞬で実行できたん?」
「いつ裏切られるかわからんリスクあんのに、なんでそんなことできたんや?」
その問いに、私たちは数秒黙り込んだ。
次に口を開いたのは私だった。
火影「……当たり前だ。」
焔颶「……?」
火影「私は天舞のことを、誰よりも嫌っていて、誰よりも信じているからな。」
天舞「俺も同意見だ。こいつのことは世界一嫌いだが、信用はしてる。」
焔颶「……ほぉ…?つまりは友情か…?」
天舞「はははっ!そんなもんじゃあねぇよ。なんせ俺らは、《《家族》》だからな!」
火影「私たちに勝負を挑んだ時点で、お前の負けは決まっていたのだ。」
焔颶「………ははっ!!これまたおもろいこと言うなぁ……!!」
そう言って焔颶はよろよろと立ち上がった。
私も天舞の肩を借りながら立つ。
焔颶「……ふぅ…次は負けへんで…?火影。天舞。」
火影「次も勝つのは私たちだ。」
天舞「100万年後に出直しな。」
焔颶「……ふんっ!じゃあ、またどっかで会おなぁ、火影。」
__ズル…ズル…ズル………__
私が一撃を入れた足を引き摺りながら、焔颶は森の中へと消えていった。
それを見届けた後、私の足からも力が抜ける。
*ドサッ…*
__火影「………っ…」__
**天舞「うわっ!!?急に寄りかかんなよこの野**
__火影「…………ありがとう…天舞…」__
天舞「!!……クソが…手間かけさせやがって……」
*__ヒュウゥゥ……__*
また、いつもと同じような風が、私たちの間を通り抜けた。
冷たく…痛く…強く……それでも、どこか優しい香りを運ぶ風だった。
__火影「…………右足が痛い……」__
天舞「あ?」
__火影「………最初に…落とされた時から……ずっと…………」__
天舞「ちょい診せてみろ……ってお前これ折れてね?なんか腫れ方もおかしいし…」
__火影「…………?」__
天舞「……お前まさか『捻挫だろう』とか思って無理やり動かしてねぇよな…?」
__火影「……………捻挫じゃ……なかっ…た………のか……」__
***天舞「お前マジで馬っ鹿じゃねぇの!!!?」***
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第拾話 〜完〜