壊れた世界の救い方<第一章>
編集者:beri
物語はすでに始まっていた
たくさんの仲間たちから繰り広げられる笑いあり涙ありのバトル異能力系
戦闘シーン
景色描写
食事描写
全てにこだわりを持って製作しております
伏線や込んだ設定
考察等お好きな方は是非読んでみてください
基本健全ですが一部の番外編はR18です
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目次
壊れた世界の救い方 第一話「はじまり?」
beri視点
いつからこうなってしまったのだろう
もうそれすらも覚えていない
どれくらい前だったんだろう?
私は何をしでかしたんだろう?
なぜ私は何かをしでかしたことだけを覚えているのだろう?
無意味な自問自答を繰り返す
無意味な時間がただ過ぎていく
有意義な時間はこちらを横目に通り過ぎていくばかりだ
「ね、わんこ」
「…ふわー」
わんこは大きなあくびをした
なぜわんこという名前なのかすら覚えていないが
とても大切な人だった気がする
そもそも人と呼んでいいのか分からないが
少なくともこの犬は喋るのだ
だから、勝手に犬ではなく人と認識しているのかもしれない
「お腹空いたね」
「わんこはお腹空いた?」
「空いた!」
「今日はお肉食べたぁい!」
何度繰り返したんだろうか
食べて寝てというばかりではないが
少なからずこれは必ず繰り返していただろう
「じゃあ、行こっか」
小さな洞窟の入り口に垂れ下がった|蔦《ツタ》を手の甲でめくる
登り切った太陽がこちらを明るく照らしている…
これが理想だ
もう、しばらくは太陽の顔なんて見ていない
代わりと言ってはなんだが訳の分からない紫色に光る星が浮かんでいる
最初はこれも違和感があったが
だんだん慣れてきてしまって今では何も思わなくなっていた
「どうしたの?」
わんこがこちらを見上げながらそう言った
「いや、なんでもない」
些細なことに気を配るのは良いことだと
私はそう思っている
暗い洞窟に慣れた目のまま外に出る
太陽は無くとも明るい外の眩しさに目を細めながら
私はいつもの道を歩いていた
最初はこの道も無かった
けれど、私とわんこで何度も行き来したからか
植物の生える力よりも
私とわんこがその植物を踏みつける力が大きくなったんだろう
いつのまにか道のようになってしまったというわけだ
見慣れた地形を歩いていたが
今日はいつもと違った
「あれ…?」
わんこと私は同時に気付いたらしい
二人で顔を見合わせる
「なんだろうあれ…」
私は少し興奮していた
変わらない毎日に少しでも変化があっただけで
普通はこうはならないだろう
でも、私たちはそれほどまでにいつもの日々に飽きを感じていた
私とわんこは走ってそれを確認しに行った
慣れた道をひょいひょいと駆けていく
少し前に私とわんこで作った土の階段を下ったその先に
それはあった
平均してこれくらいの文字数でやっていこうかと思っています
そしてR18の話なんですが
R18GなのかR18なのかどっちですかということでしたのでお答えします
R18Gはどこからそのレベルなのか、文字だけでそのレベルになるのかよく分かりませんが
そのつもりではなかったです()
なのでそっちじゃないR18ですね
考えた結果、書くならほぼ番外編という形で
一般公開はせずに書くかもしれない、ということにしておきます
メインになることは100%ないです安心してください
絶対に自分は嫌ですという方はご報告ください
その方では書かないようにします()
ファンレター、応援コメント、いつでも待ってます!
では最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第二話「変化」
微グロ注意
それは人だった
木と木の間に力尽きるようにしてそれは倒れていた
服は泥まみれになっており、体もあちこちに傷がある
急いで近寄ってみると腕には矢が刺さっていた
「大丈夫かこれ…?」
地面を見れば結構な量の血液が飛び散っていることが分かる
どれくらいの量で失血死するのかは分からないが
かなり危険な量であることは一瞬で見て取れた
「ゔっ…げほっ…げほっ…」
起き上がらせようとして手を差し伸べた時だった
それはうっすらと瞼を開いた
口からは咳と同時に血が溢れている
「わんこ!救急セット持ってきて!」
「う、うん!!」
いつかのあの日
わんことここ周辺で探索をしていたときにたまたま見つけたものだった
こんなところで使うことになるとはと思ったが
逆に今使わないでどこで使うんだよという気持ちが優先された
「だ、大丈夫です…」
「俺のことなら自分でなんとか…」
上半身を起こしてそう言ったは良いものの
直後にまた咳き込んで倒れ込んでしまった
「なんとか何?」
「できる状況には見えないんだけど?」
自分自身にも少し焦りが出ていた
こんなひどい怪我をした人を前にするのは初めてではない気がするが
どう対応すれば良いのか正直よく分からなかった
「べりさん!持ってきた!」
わんこが背中に救急セットの箱を乗せて走ってきた
流石わんこだ
私が取りに行くのより3倍は早いだろう
「手当するから…ちょっと動かすよ?」
私は腕に刺さった矢をまず最初に抜くことにした
このままだと手当の仕様がないからだ
「ごめんね痛いかも」
左手で体を押さえて右手で矢に触れる
その瞬間よほど痛かったのか体がビクンと跳ねた
「ごめんね…ごめんね…」
助けてあげているのに何に謝っているのか
自分でもよく分からなかったが私はずっとそう言いながら手当てを続けた
矢を抜いた場所を消毒し、薬草と一緒に包帯を巻いた
小さな傷は消毒液をつけたガーゼを当てて絆創膏を貼っておく
こちらが何かするたびに痛そうな仕草をしてくるおかげでなにかとやりにくかった
とりあえずこんな場所に放置しておくわけにもいかない
ということでわんこの背中を借りて家という名の洞窟に戻ることにした
「助けてくれてありがとうございます…」
「なんてお礼をすればいいのやら…」
移動中ですらそうやって喋ろうとする
あんな怪我をしてたのに無理は良くないとは思うが無視するのも気が痛かった
「君の名前は?」
「マンドラゴラって言います」
マンドラゴラと名乗る少年をベッドに寝かせ、私は様子を見ることとなった
食料調達を全てわんこに任せてしまうのも申し訳ないが
この人には聞きたいことが山ほどあった
アドバイス等もお待ちしております!
ゆっくりですが次もお待ちください!
読んでくれてありがとうございました〜!
壊れた世界の救い方 第三話「能力?」
beri視点
ベッドで横たわるマンドラゴラの隣で様子を見ている
「寝てて良いんだよ?」
「大丈夫?」
「ちょっと落ち着かなくて」
私が隣にいるせいかと思ったが
別の部屋へ行こうとするとマンドラゴラは引き留めた
まあ見知らぬ人に連れられた場所が落ち着かないというのは当たり前だろう
「わんこが帰ってきたらご飯にするけど」
「食欲ある?食べれそう?」
「お腹は空きました」
「こんなに親切にしてくれてありがとうございます…」
人に親切にするのは気分がいいものである
他にやることがないからとか
暇だったからとかいうのもあるかもしれないが
「そういえばさ…君どこから来たの?」
しばらくの沈黙を置いてそう質問する
「俺ですか?」
「…分からないんです」
まるで私と同じ状況に置かれた人物が1人増えたようである
「そっか…」
来た場所を聞いて
あわよくばそこから帰れるかもしれないと私は考えていた
帰った先がどこなのか
帰る場所があるのかどうかも分からないが
私は元からここにいた気がしないのである
「気付いたらあそこにいました」
「矢に打たれた記憶まではあるんですが…」
「矢に打たれた?」
確かに初めて見た時
腕に矢が刺さっていたのを思い出した
ということはつまり矢を打った人物がいるのだろう
私とわんこ、この少年マンドラゴラ以外の誰かが打ったとしか考えられない
「打ったやつの顔は覚えてる?」
「べりさんみたいなふわふわの耳が生えていた気がします」
「水色の髪色だった気がするんですが」
「フードをかぶっていたので確信はありません…」
ここに鏡なんてないから
あまり気にしたことはなかったが確かに私には獣耳が生えていた
今まで気付かなかったわけではないが
改めてそう言われると少し違和感があった
私は自分の耳をふさふさと撫でてみる
撫でられた感覚がほんのりと耳に残る
「そんな人見たことないけどなぁ」
「わんこさんとべりさん以外の人は誰がいるんです?」
「分からないんだよね」
「外歩くの怖くって」
「必要最低限の場所にしか行ってないの」
多分わんこと私がずっと暇であったり退屈であったりする理由の一つがこれだ
一度酷い目にあってからはあまり遠くに行かないようにしている
マンドラゴラを見つけることができたのも
いつも出歩いている範囲内にいてくれたおかげだからだろう
もし少しでも離れていたらどうなっていたか分からない
「全然会わないってことは向こうもそうなのかもしれないですね」
「もしくは透明人間だったりして」
「透明人間…かぁ」
私は自分の手のひらを見つめる
人差し指を空中でぐるぐると回してみせる
だんだんとその指の周りには氷の結晶が浮かんでくる
「私の能力しょぼいからなぁ」
「わんこがいないと何もできないや」
「そうなんですか?」
「わんこさんの能力は強いんですね」
わんこの能力は能力と言えるか微妙なところである
以前は何か使えていた気がするが
もう覚えていない
今のわんこの能力は能力増強といったところである
他人の能力を強くすることができるのだ
マンドラゴラにそのことを話す
「そうなんですね」
暇つぶし程度に話していたが
意外と時間は過ぎていくものだった
壊れた世界の救い方 第四話「新しい仲間?」
わんこ視点
「べりさんただいまー!!!」
べりさんにはマンドラゴラのことを全部任せてしまったから
今日は特別にいつもより多めにお肉を取ってきた
3人分ということもありいつもより重たいカバンを床に下ろす
「めっちゃいっぱいあるじゃん!」
「わんこありがとー!」
寝室からべりさんがすっ飛んできて
頭をわしゃわしゃと撫でられる
「早速料理するね〜」
「うん!」
湧き水で足を洗いイノシシの毛皮で水気を拭き取る
そのまま寝室へマンドラゴラの様子を見にいくことにした
「入るよー…」
「あ、わんこさん」
「お、元気そうだね?」
「べりさんがご飯作り終わったら一緒に食べようね」
「ありがとうございます…」
「そしたら君を射ったやつ探さないとね…」
「私たちのところまで来られたらもうどうすればいいか」
「ですよね、動けそうだったら俺も手伝います」
「ここまでよくしてもらったし…」
マンドラゴラはとてもいい子そうだった
べりさんが寝室まで呼びにくるまで、しばらく雑談をしていた
好きな食べ物の話とか
自分のことについてだとか
「いっただきまーーす!!!」
「いただきまーす」
「いただきます」
べりさんの大きな声に続く
しっかり煮込まれたスープの中の肉はとても柔らかく、口の中でとろけるようだった
中心部まで暖かい濃厚なスープの旨みが染み込んでおり
最初の頃と比べるとべりさんの料理の上達具合に改めて感動する
「最初の頃全然上手くできなかったのにね〜」
「うるさぁい!」
「とても美味しいですよ」
「でしょー?ありがとう〜♡」
テーブルで食べているマンドラゴラとべりさんを下から見つめる
べりさんはもうすっかり慣れたのか
マンドラゴラが大丈夫大丈夫と言っているのにも関わらずスープをおかわりさせたり
口の中が燃えるように辛い香辛料をスプーンに付けて
すっごい美味しいんだよと言いながら味見させていたりする
「かっらいですよこれー!!!!!」
「そうかなぁー?」
べりさんはとてもニコニコしながらそう言った
「わんこもいる?」
同じ表情のまま香辛料の乗ったスプーンをこちらに向けてくる
「こんなに辛がってる人が目の前にいんのに食えるわけないだろ!」
「ばれちったかぁー」
べりさんがいつもより一層楽しそうに見えたのは事実だ
私も楽しかったし、良かったと思っている
「じゃあお風呂入れてくるからわんことマンドラゴラ洗い物よろ〜!」
「えー!?」
「良いですよ一緒にやりましょう?」
「う、うん!w」
こんな感じで1日が終わった
ファンレター、応援コメント、いつでもお待ちしております!
最後まで読んでくれてありがとうございましたー!
壊れた世界の救い方 第五話「僕」
ここからは私が前に書いていた小説、ジニアを読んでいると理解が深まるかもしれません
(これから先も関係してくるため推奨します)
(もうすでに読んでくれていた方は続きへどうぞ)
beri視点
窓から差し込む光で目が覚めた
わんこはまだ寝ているようだったがマンドラゴラは体を起こしていた
「マンドラゴラはやいねーおはよー」
「べりさんおはようございます」
まだ重い瞼を擦りながらベッドから起き上がる
足を床に置いたと思った瞬間
足にふさふさとした感覚を覚える
「いでぇっ?!」
「!?」
わんこの叫び声が聞こえた
「ご、ごめえん!」
床を見ると思いっきりわんこの尻尾を踏んでいた
それにしてもやっぱりふさふさだ
思わず抱きつきたくなってしまう
「ぎゅー!」
「わぁあ…」
マンドラゴラの視線を感じた瞬間私は立ち上がる
その後もしばらくマンドラゴラの冷たい視線は続いた
「じゃ、じゃあ準備して行こっか?」
ちょっと無理矢理感はあったがなんとか話題をすり替える
もふもふを抱いてなにがわるいんだい…
昨日の余りをアレンジして朝ごはんを食べる
この洞窟の裏の畑から採れたての野菜たちを採ってきてサラダも付けた
肉汁ドレッシングで食べる採れたて野菜サラダは絶品で
肉汁のほどよい脂っ気が野菜たちを優しく包み込む
それに塩胡椒をかけたらもうそれは高級レストランの比ではないだろう
食べ終わった後はそれなりの荷物をまとめて外に出る準備をする
矢を射ってくるような相手だったら多少は警戒しておかなければならない
全員の支度が終わったところで
少し多めのお弁当も持って家を出た
家という名の洞窟のすぐ前には背の高い草が伸びた平原が広がっている
そこに行かず右方向に曲がるのがいつものルートだ
「わんこどうする?どっち行こうか」
「あ…なんかあそこにいません?」
マンドラゴラは平原の方を指差した
わんこがじーっと目を凝らす
次の瞬間
「危ない!!!」
わんこがマンドラゴラと私に飛び掛かり
私はマンドラゴラと同時に地面に叩きつけられる
そしてそのすぐ上を何か鋭いものが通り過ぎ去っていった
少し時間が経ってから、それが矢だったことを認識する
「え?どこから?」
「平原の奥の方だと思う」
「草が邪魔でよく見えない…」
矢が飛んできたということはマンドラゴラの時と同じ人かもしれない
せめて容姿だけでも確認したいところだ
「わんこ手伝って」
「はぁい!」
わんこの右前足を左手で握りしめて
右手は空に向けて大きく掲げる
高密度な氷の塊を生成するとそれを薄く伸ばし盾の形へと変形させる
「わぁ…」
見ているマンドラゴラは驚いているようだった
まあ半分はわんこのおかげである
「じゃあこのまま突き進むよ?」
「準備おっけー!」
「いつでも行けます!」
わんこの足を離し両手で盾を持ち帰る
真正面に持ってきた透明な氷の盾は草たちを薙ぎ払い標的の姿を映す
確かにフードを被った少年はいるが
弓を持っているのは違う人物のようだ
少年ではなく、少女だった
少女はこちらを見て驚いた表情を見せる
急いで矢を引き絞りこちらに向かって射った
ひゅっという音の直後には氷の盾の真ん中に矢が突き刺さっていた
私たちはそのまま少女と少年の元へと飛び込んだ
少年は盾の下敷きとなっており、少女はいつの間にかいなくなっていた
「べりさん!後ろにいます!」
後ろを振り返ったマンドラゴラがそう言う
「ベリさんはそっち頼む!」
わんことマンドラゴラに少女は任せることとして
私はゆっくりと盾をどかして少年の相手をすることになった
重たい盾を少しずつ引っ張りずらしていく
「うー…いったぁあい」
「…ってあれ?」
「べりじゃん…???」
少年はこちらを見るなり震えそうな声でそう言った
だが少年はなぜ私の名前を知っているんだろう
少年は何かに気がついたような動作をすると、被っていたフードを脱ぐ
ぴょこんと立った狼の耳
水色の髪色
これはマンドラゴラが言っていた人物だろうか
そして私もどこかで見覚えがある気がするが
今はまだ、思い出せないようだった
「べり?」
「僕だよ…?フェンリルだよ…?」
私の中の何かが頭を叩いている
あの人だよ
あの人だよ
大切な人
大切な人だよって
でも私には届かなかった
「…?」
「どなたですか…」
そう言った途端、少年の目が潤いを持った
雲の隙間から差す光に反射してキラキラと光っている
やがてその潤いは限界を迎え
ダムが決壊したように溢れ出す
「ねぇ…べり…」
「べりってば…」
「…」
涙は頬を伝って地面へとポタポタ落ちる
フェンリルと名乗る少年は、裾でその涙を拭うと背中にかけていたポシェットから何かを取り出す
絹のハンカチの光沢に包まれたそれは
純白のハンカチにはとても似合わなかった
そこには枯れた花びらが包まれていた
フェンリルは涙を流しながらこちらに微笑みかけてくる
「忘れたなんて…言わないで…?」
---
お疲れ様でしたー!
もしかしたらこれを読む前にジニア読んできてくれた人がいるかもしれないので少し解説?します
ジニアは私が書くのを途中で辞めてしまったお話となります
壊れた世界の救い方を書くにあたって繋がっている部分を作りたいと思い、こんなことにしました
話数は30ちょいでとんでもなく長いわけではないのでこれからも読んでくださる方は是非ジニア、途中までで申し訳ないですが読んでみてください
そしてキャラクターデザインの方なんですけど…
出来る限り描いていけたらいいなとは思います
でもそっちより小説のほうを優先するので全員絶対描きますとは言えないですすみません()
ちょっと今回は長かったですね
最後まで読んでくれてありがとうございましたー!
壊れた世界の救い方 第六話「マンドレイクの偽の花」
マンドラゴラ視点
フードの少年の方はべりさんに任せて
俺とわんこさんで弓の少女の相手をする
少女は黄色の髪に青メッシュのショートで
髪と同じ黄色の瞳を光らせている
弓を引いたまま右へ左へと移動を繰り返しこちらを錯乱させる
「マンドラゴラ、ここは一緒に協力しなきゃだよ」
「はい…」
俺の能力はとても協力とはかけ離れたものだが
わんこさんの能力増強次第では案外うまくいくかもしれない
「わんこさん能力手伝ってください!」
「私の手を握って!」
手と言われ差し出されたのは前足だが
お手のようにしてその手を握ると全身に力がみなぎった
弓を引いた手が矢から離れる瞬間
俺はわんこさんと一緒に右に転がって身を|躱す《かわす》
相手の体勢が崩れた時
俺は能力を発動する
能力を発動したらすぐにわんこさんの手を離す
「離れててください!」
「う、うん!?」
俺の周りからもくもくと紫色の煙が立ち上る
それは少女の周りへと集まって少女の体を|蝕む《むしばむ》
やがて少女は地面に手をついた
「はぁっはぁっ」
だんだんと呼吸が乱れていく少女もしばらくすれば
体と同じように精神まで毒に侵されるようになるだろう
心と体は繋がっている
それを醜いほど再現したのが俺の能力だ
「???」
「はぁっ…はぁっ…」
何が起きているか理解できていないのか
少女は曇った瞳をこちらに向ける
そして少女は地面を這う形になる
ここまで進行が早いのはわんこさんのおかげだろうか
「うっ…」
「やだぁっ…やめて…」
錯乱の影響かまたは幻覚症状の現れか
少女の反応は明らかにおかしなものへと変わっていく
不幸中の幸いと言ったところか
この程度で死ぬことはない
これが治ったら事情聴取といったところだろう
「マンドラゴラやべぇやん…」
遠くで見守るわんこさんが怯えたような声でそう言った
「本当はここまでじゃないんですけどね」
「多分半分はわんこさんのおかげですよ!」
「本当?ありがとう…?」
こちらが落ち着いた頃
後ろからは泣き声が聞こえるようになった
振り返ってみれば少年の方が泣いている
俺には状況がわからなかったが
少年はべりさんに寄り添うようにしている
親しい人だったのだろうか
少なくともべりさん本人はそう思ってなさそうだった
「忘れたなんて…言わないで…?」
大粒の涙がぼろぼろと地面に落ちている
だんだんと色を変える地面をぼうっとべりさんは見つめているだけだった
何かを思い出そうとしているのか
そんなように見れとれた
最後まで読んでくれてありがとうございましたー!
壊れた世界の救い方 第七話「目的」
わんこ視点
その後弓の少女とフードの少年を洞窟の家まで連れていくことになった
少年は短い道中だったが絶えず泣いていた
すっかり力が抜けて動かなくなった少女は私の背中に乗せて移動する
「マンドラゴラやりすぎだってぇ…」
「ごめんて…でもわんこさんの能力と一緒にやるの初めてだったし…」
はじめに氷の盾で突っ切ってできた道を歩く
高く登った太陽もどきがこちらを見下ろしている
洞窟に入ってすぐに部屋に少年と少女をとりあえず運ぶ
「マンドラゴラ敷布団敷くの手伝って」
マンドラゴラと一緒に少し埃をかぶった敷布団を二つ用意する
丁寧にカバーをかけて、しっかりシワを伸ばす
布団を敷き終わり2人を呼びにいくとべりさんがやっとのことで少年を泣き止ませていた
少女のほうはべりさんの膝枕で眠っている
ちょっと嬉しそうに
そして楽しそうな笑みを浮かべたべりさんが
動けないんです助けてくださいと言わんばかりにこちらを見つめている
少女は起こさないようにゆっくりとべりさんがお姫様抱っこし
少年はマンドラゴラに手を引っ張られながら寝室へ向かった
「マンドラゴラは?」
「一緒に寝ちゃったみたい」
「あの3人のこともだけど…これからどうしよう」
相談をするようにべりさんに問いかける
「この人たち、どうも私たちと無関係じゃない気がするんだ」
少し間をおいてべりさんは言った
「私、全ての記憶を取り戻したい」
「いや、取り戻すんだ」
「フェンリルが教えてくれたの」
「私が知らない私がいるってことを」
べりさんが急にポエマーになったかと思ってしまった
でも表情を見るにべりさんは真剣だ
「私の知らない私…?」
「とにかく、すごくたくさんのことを忘れてしまっているらしい」
「フェンリルですらそうなんだって言ってた」
「ほう…」
そもそもフェンリルは私の記憶にないが
べりさんはフェンリルが分かるのだろうか?
でも確かにべりさんの言葉には説得力があった
記憶の中の謎の空白
もしかしたらこれをぴったり埋めることができるかもしれない
そう思った
「でもなんか難しいよね」
「時間はあるしさ」
「今日こそは2人でゆっくり狩りに行こう?」
「うん!」
そう言って私とべりさんはフェンリル…と、少女を置いて洞窟を出た
---
光視点
「ふわぁ…」
どれだけの時間が経ったのだろうか
紫色の煙を吸い込んでしまってからの記憶が曖昧だ
まだ少し頭がふわふわする
だとしても見知らぬ場所に長くはいたくない
無理矢理体を起こすと猛烈な吐き気に襲われる
「うっ…」
急いで口を手で押さえる
なんとか落ち着いたがこのまま立ち上がって外に出ることは難しいだろう
そして何より隣で寝ているフェンリルを見て少し安心してしまった
まだもう少しここで休もう
最後まで読んでくれてありがとうございます!
今までは1日に何話も出てましたがそろそろ難しくなってきたかもしれません(テスト週間ぴね)
キービジュアルはテスト明けになるかな…
今のところ登場してる人たちの見た目のイメージです(服装は説明しにくいのでキービジュお待ちください)
変更したい人は早めに教えてください(ファンレターでいいんだy((((ファンレター欲しいだけやろ)
ファンアートもお待ちしております^^
beri
青の瞳
銀髪(腰あたりまでのロング)
狼耳&尻尾
わんこ
茶色のガチ犬
大型犬サイズ
マンドラゴラ
翠眼
黒髪に紫メッシュ(フレイカールマッシュ風)
深緑のネイル
フェンリル
薄藍の瞳
水色の髪(ショートカット)
狼耳&尻尾
光
黄色寄りヘーゼルアイ
金髪に青メッシュ(ボブカット)
おまけ話ですが番外編一応書いたんです
どうしましょう()
内容が内容で()
ストーリー登録せずにこっそり出しておこうかな…
セルフレーティングはちゃんとしますのでご安心を(?)
壊れた世界の救い方 超番外編「お風呂」
全くストーリーには関係がございません
今回はばっちり許可を取っている人のみのそういう出演です(?)
(番外編に出ている人全員そういう許可取ってるってことではないです)
(そういうシーンだけです)
beri視点
「わんこ出るー?」
「まだ!もうちょい待ってて!」
ここはちょっと贅沢だが
洞窟の少し奥には温泉が湧き出ている
ちょうどそこだけ地面がくぼんでいたりして
その穴の空いた部分から外の景色まで見ることができる素晴らしい温泉だ
一応わんこと私しかいなかったから
温泉の入り口に垂れていた植物が目隠しなのだが
人数が増えてきたこともあり
プライバシー的にそろそろドアをつけた方が良さそうではある
「でったよぉん」
わんこはそう言って風呂から出てくるなりなんなり全身を震わせて水を弾き飛ばす
「めっちゃ濡れたんですけどー!」
「次入るんでしょ?なら問題ないね!」
「もーう(笑)」
「じゃあ着替えるから先上行ってみんなの様子見てきてね」
「了解ですー」
そう言ってわんこはさっさと戻って行った
犬だから、ずっと全裸なのは当たり前なのだが
風呂から出てそのまま外を出歩いていると考えると少し面白い
私は適当に脱いだ服を端に寄せておきバスタオルを体に巻いて風呂に入る
誰かが見にきたら困るからね!(((
「あったけぇえええ」
やっぱり1日を終えた後の風呂は良いものだ
熱いくらいのお湯が疲れた体に染み渡る
しばらく使っていると、何かがカサカサと揺れる音がした
それは入り口の植物の音だったようだ
見てみると素っ裸になったフェンリルがこちらを見て立ち尽くしていた
「あ、、、、」
「ごめんなざああああい!!!」
フェンリルは大きな声でそう言って引き返そうとした
「え?別に良いよバスタオルくんがいるし!」
「寝るの遅くなっちゃうし一緒に入ろ?」
半分無理矢理フェンリルを温泉に入れる
チャンスだ
「…!?」
フェンリルは驚いた
だんだんと赤く染まっていく温泉のお湯にだろうか
あるいは自分の体への痛みだろうか
「逃さないよ…♡」
私は何かに操られたのようにして何度も何度もフェンリルに刃物を突き立てた
「いたいいっっっっっっっ!!!!べり!?!?」
「やめて!?!?!?」
それでも私はフェンリルに微笑みかけながら刃物を突き刺さす
「あ"あ"ッッ!?」
「フェンリルこれ何かわかる〜?」
「後でしっかり乾かして枕にしようかな!」
フェンリルは痛みで失禁してしまったようだ
何をしても返事がない
私はそのあともフェンリルの体を解剖して遊んだ
内臓を引き摺り出して並べたり
脳みそをお湯に溶かしてみたりした
意外に楽しかった
次に入ってきた人でも遊ぼう
---
え?なに?
求めていたR18はこれじゃないって?
確かにR18だけどR18Gじゃない方だって?
ここからは覚悟があるやつだけ見な…
そして月下で何も言うなよ()
ここだけの秘密だ()
そしてなんとも都合の良いご本人様には関係❌宣言をここでしておきますね
何度も言うが覚悟のあるやつだけだぞ…
---
(私はフェンリルを引き止めて無理矢理温泉に入れた)
フェンリルは顔を真っ赤にしている
お湯が熱すぎるのかな?
私は毎日これに浸かっていたのでもう慣れてしまったのかもしれない
フェンリルにお湯の温度加減を聞こうと私はフェンリルの方を振り返る
「…ふぇ…ふぇる…?///」
私は見てはいけないものを見てしまったのかもしれない
まあ生理現象だし無理矢理入れた私が悪いのかもしれないが…
それに少し興奮を覚える自分がいた
「ごめんやっぱり僕出る…、、、…?」
「だぁーめ♡」
---
神視点(お互いの気持ちが全てわかる神視点である)
べりはそう言って僕にそっと口付けをした
そのせいで喋ろうにも喋ることができない
流石にこれ以上はと思い振り払おうとすると
べりは僕の何倍もの力で押さえつけてくる
「ちゅっ♡ちゅっ♡」
「フェンリルかわいーね♡」
身をよじらせてなんとか抵抗しようとするフェンリルを押さえつける
もう止めることはできなかった
一線を越えてやろうじゃないか
フェンリルの口を大きく開けさせる
一度はやってみたかった
舌をフェンリルの口の中へ入れてぐちゃぐちゃとかき回す
じゅるじゅるとすすってもすすりきれない量の涎が
温泉のお湯の中へぽちゃりぽちゃりと溢れる
「っはぁ…はぁ…」
「はぁ//はぁ///」
「べり何する気…?」
「ダメだよ…本当に…」
「でもフェンリルは狙ってたんでしょ?」
「だって私脱いだ服外に置いておいたし〜♡」
「///」
「このへんたいめ♡」
「逃さないから♡」
次の日フェンリルは全身筋肉痛になったそうです
おしまい
なんだろうすごい謎の罪悪感を感じるのは私だけですか?
この先までちゃんと書けやなんて言わないでくださいね
私が罪悪感で死んでしまいます()
壊れた世界の救い方 第八話「ヘラヘラヌーク」
beri視点
「レベル上げもしないとだよね〜」
わんこと一緒に洞窟を出る
いつもの平原の前に来た時わんこはそう言った
「あの定期的に来るボスモンスターさ」
「そろそろ来そうな予感しない?」
「ほら、野生の勘というか」
わんこの言うボスモンスターとは前にも数回来たことがあるものだった
来るたびに畑を荒らされたり全治数ヶ月レベルの大怪我をしたり
一度本当に死にそうになったことすらあった
レベルの存在はは初めてボスモンスターに出会った時に思い知らされた
自分の腕を軽く叩いてやると何故か空中にステータスのようなものが映し出されるのだ
そこにレベルの欄がある
レベルは相手との差が重要になってくる
レベルが相手より高いとダメージを喰らいにくく
低ければその逆で喰らいやすくなる
もちろん与えにくくもなる
レベル差が15もあればほぼ効かないくらいだろう
「そうだよね…」
「しばらく来てないし怪しいよね」
前にボスモンスターが来たのは2ヶ月ほど前
それまでは週1来てるんじゃないかというトンデモ頻度で来ていた
ちなみに討伐できたことは一度も☆ない☆
私のレベルが今6なのに対して
前に来たボスモンスターなんて13レベルくらいあったのだ
「今日は豪華にいきましょうかー?」
「森の方、行ってみない?」
「そうしよう!」
平原と反対方向にある森では平原より強い敵が多い
食材を落とすモンスターや動物ならレベルが高い方が美味しい傾向にある
もちろんその分強くもなるが、討伐時の経験値も美味しい
少し歩いて森に入るとだんだんあたりが涼しくなってくる
どこも自然が豊かだがやはり木が生い茂っていると涼しい
木漏れ日がとても幻想的にゆらめいている
そこで今日初の獲物を発見した
私は目であっちにいるぞ、とサインする
頷いたわんこは身を|屈めて《かがめて》ゆっくりと近づく
茶色の毛並みに白い斑点
鹿によく似ているがそれに比べ物にならないほど大きな角を持っている
わんこと最初の頃は知らない動物やモンスターに名前をつけて遊んでいたものである
その頃につけた名前はヘラジカと
こじんまりした場所が好きだからと言う意味でヌークをかけて
ヘラヌークと呼んでいる
今思えばヘラヘラしたヌークみたいで少し面白い
わんこはこちらを向いて3回瞬きをする
これはわんこ語で反対に回れと言っているのだ
できるだけ音を立てぬようにと移動する
パキィッ
乾いた音がした
足元を見れば真っ二つに折れた枝が転がっている
その音に気付いたのかヘラヌークはやたらと辺りをキョロキョロしている
わんこは少し呆れたような顔でこちらを見た
次は2回、そして1回瞬きをする
追いかけろということだ
次の瞬間わんこは大きく飛びヘラヌークの足に噛み付く
驚いたヘラヌークは暴れ回り走り出す
「無理だって!!!」
私はそう言いながらもヘラヌークの後を追いかけた
しかし追いつける気配を感じない
小型のナイフを氷で作り一度立ち止まる
ヘラヌークが隣を通り過ぎたところをナイフで刺してしがみつこうと言う作戦だ
しかしこれではまるで闘牛である
な…なぜなんだ
なぜあの番外編が人気なんだ…()
意外と好評で絶賛困惑中です()
まあ読んでもらえるなら続けていこうとは思いますが…
絶対にそういうのは無理だよ〜という方は再確認です
ご報告ください
直接言ってくれてもファンレターを押し付けてもらっても結構です
そして皆さんファンレターありがとうございます( ; ; )
学校から帰ってくるたびにファンレターが届いていて。゚(゚´Д`゚)゚。
1日の疲れ全部吹っ飛んじゃいますねえうっひょおおー!
というわけで!
今回も最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第九話「平和はいつまでも」
beri視点
「今だ!」
私の真横をものすごいスピードで通り過ぎるヘラヌークに氷の刃を立てる
しかし高レベルヘラヌークの分厚い皮膚には敵わず
氷の刃はボロボロに砕けてしまった
それに怒ったヘラヌークはこちらに向かってツノを振り回す
こんなのに殴られたら|脳震盪《のうしんとう》で一発KOだろう
私はスライディングでヘラヌークの足元をくぐり抜ける
ヘラヌークの真後ろに立った私は自分の足に手を伸ばす
いざという時のために太ももに巻いたベルトにナイフを装着しておいたのだ
刃が折り畳めるナイフなので一見足を見られてもナイフには見えないようになっている
金属製のしっかりしたナイフなら
ヘラヌークの分厚い皮膚でも大丈夫だろう
「べりさんはやくしてぇええええ」
ヘラヌークの足に噛みついて動きを制限していたわんこも限界が近そうだ
ツノをぶんぶん振り回すヘラヌークの頭によじ登ってナイフを突き刺す
ヘラヌークはとたんに動かなくなりその場に倒れた
「…やったぁああああ!!!」
「こんな高レベルのヘラヌーク倒したの初めてだよ!!!」
倒したモンスターや動物はレベルが表示される
今のヘラヌークのレベルは8だった
私の2つ上である
「レベル9に上がったラッキー!」
「え?はや…」
私は今のでやっと7に上がったというのにわんこはさっきまで8だったのか
だからヘラヌークにちゃんと攻撃が通っていたのだろう
「さあ素材いただきいただき〜」
討伐した対象のドロップアイテムはなぜかご丁寧に袋に入れられている
死体は触ってもすり抜けるようになりやがて消滅するのだ
「なに入ってる?」
「わぁ!!!赤身が美味しそうなお肉だなぁ」
わんこは袋の中を覗き込んでそう言った
「このツノでっか!何か武器に使えそうだね」
「わんこそんなこともできたの?」
「できないよ(笑)」
「でもあの人たちの中にできる人いるかもしれないじゃん?」
「てことではやくかえろーう!」
「はーい!」
---
フェンリル視点
「ぐぅ…ぐぅ…」
それは突然だった
「ぐぅ…ぐぅ…」
誰もが恐怖を感じ、飛び起きた
「ぐぅ…」
急にやってきたのは身が焼けこげるほどの熱気
そして何かが割れる音と2つの笑い声
「!?」
「ここ良いと思ったんだけどなぁ」
「誰かいるんじゃ退いてもらわないとなぁ」
巨大な斧を床に突き刺し布団の上で怯える3人を見下す男
後ろの方では怪しい液体の入ったビンをくるくる回している男も見える
凄まじい逆光でシルエット上でしか見えないが
何かとてつもない力と威圧感を感じた
ビンを回している男の後ろにも誰かいるように見える
だがそれを確認する前に
3人とも気を失ってしまった
番外編がどれかわからない方へ
番外編は検索欄に載せてなかったりシリーズ登録してなかったりします
なので私のマイページから探すか
お気に入り登録してある方はそちらからお願いします()
(もしくはR18表示をオンにしてください)
では最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第十話「刺客」
光視点
急な熱気で目を覚ます
隣で寝ていたフェンリルともう1人の誰かも同時に飛び起きた
「ここ良いと思ったんだけどなぁ」
「誰かいるんじゃ退いてもらわないとなぁ」
斧を持った男は床から斧を持ち上げると肩に担いでこう言った
「死にたくなければそこ退けよ」
「しばくぞ」
不気味な笑みを浮かべながら肩で斧をトントンと叩いている
「ひぃ…」
フェンリルがそう言うとビンを持った男の後ろからもう1人誰か出てくる
猫耳をちょこんと生やした少年はこう言った
「やっぱやめよ…?前の家もまだ直せば使えるよ…」
「お前は引っ込んでろ何もできないくせに」
「…」
猫耳の少年はこちら側へ移動してくる
まるでこちらの味方に付くように
「昔からお前のそういうところが嫌だったんだ…!」
「すぐ誰かから奪うことばかり考えて…!」
「生きるためにやってんだよしょうがねぇだろ!!!」
「俺が拾ってやらなかったらお前なんて今頃死んでるんだからな!!!」
「この世界じゃ生きるか死ぬかなんだよ!!!」
「お前が1番よくわかってることじゃないのか?あぁ??」
初めて見る人なのに、異様に説得力が感じられた
少年はぐぅの音も出なくなったのかその場で立ち尽くしている
「なんとか言ったらどうなんだよ!!!」
男は斧を少年の元へと下ろし勢いよく振り上げる
少年はその衝撃で私の元へ飛んできた
腹部からは血が溢れ出ている
「おいそこまでにしとけよやりすぎだって」
「わざわざ拾って助けたのに自分で殺すことないだろ」
ビンを持った男はその少年の元へ駆け寄り何かのビンの蓋を開ける
「お前なんかに助けられた…覚えはない…!」
「そうか、こっちじゃなくてこっちのビンが良かったようだな」
今開けたビンの蓋を閉めて別のビンを取り出す
紫色のドロドロした液体でボコボコと泡が出ている
「やだぁっ…やめてください…」
「もうお前に注ぐ愛情なんて無くなったわ」
「これでさようならだよ」
「ねぇ何事〜!?」
「べりぃ!!!!」
フェンリルはそう叫んだ
誰か来たのかと男たちは体勢を立て直し部屋の入り口の方を向いた
私はチャンスだと思い隣置いてあった弓を手に取る
よく引き絞って狙いを定める
手を離した次の瞬間に矢が刺さっていたのはビンを持った男の手だ
「いったぁあああ!!!」
「能力発動」
そう唱えると矢が当たった部分が眩しく光る
「うわっ何も見えねえどうなってやがる!!!」
「は!?どうなってんの???」
やがて閃光が落ち着いてからべりさんが言った
「何この人たち!?変態!?!?」
「マンドラゴラたち大丈夫!?!?」
そんなべりさんの足元からは失礼しますと言わんばかりにわんこが歩いてきた
圧倒的な番外編好評
まあ…気が向いたら出すかもね…
(私的には番外編良かったよ!って言ってくれた人は登場しても良いという認識でございます)
今回も最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第十一話「花弁」
フェンリル視点
わんことべりの頭の上にすっかりはてなマークが浮かんでいる
そんな2人を置いてきぼりにして急にやってきた人たちは話を続けた
「お前なんて殺してやる…!!!」
「今までお前たちが僕にしてきたこと…全部やってやる…!!!」
「そうかお前は恩を仇で返そうって言うのか!」
「だったらお前が今死ねよ!!!」
「死ね!!!」
「フレア…もうこんなやつ置いてこうぜ」
「こいつが1人で生きていけるわけないだろ」
「だったら置いてったら良い、そのうち死ぬだろ」
「…それもそうだな」
猫耳の少年はわっと泣き出した
嫌だ嫌だと小声で呟きながら
そんな少年の肩にそっと手を置く
「大丈夫、大丈夫」
「えっ…?」
「僕たちがついてるからね」
生きることに必死な少年は
僕がそう言うとさらに激しく泣いた
「レイト、もう前の家には戻れないぞ」
「次はどうすんだ、ここも無理そうだし」
「もうちょっとだけ探してみようぜ…」
「もしかしたらまだ生きてる街があるかもしれないだろ」
男たちは何か話しながら去っていった
どうやら向こうも大変な状況にあるらしい
だからそんな周りの状況と切り離された僕たちのところに押し寄せてきたんだろう
「行っちゃった…」
「ど、どうしよう…???」
わんこが慌てふためいている
少年のことにだろうか、あるいはあの人たちの言っていたことにだろうか
べりが泣いている少年の元へと駆け寄る
「大丈夫そこの子…」
「名前なんて言うのかな?」
べりはハンカチで少年の涙を拭いている
「僕…みぃっていいます…」
「こんなかわいい子置いてくなんて…」
「ねぇどうしようか?この子も一緒に洞窟にいて良いかな?」
みんな顔を見合わせた
早退して知らない相手というか
出会って1日だが謎の団結力が感じられた
「俺は良いよ、良いよっていうのも偉そうだけど」
「俺だって助けてもらった身だし」
「私も、ね?フェンリル」
「そうだね、べりとわんこが良ければ」
べりとわんこがお互い向き合って微笑んだ
「良いに決まってんじゃん!」
「ふふふふwwww」
ハモってしまって、それがなんだかおかしくて笑ってしまった
みんなも笑っている
泣いていた少年ですら
少し笑っている気がした
「じゃあわんこ〜あれやっちゃお〜!!」
「ヘラヌーク狩ってきたんだからね!!!みんなで料理するよー!!!」
大きな袋を口で咥えてそれを振りながらわんこはそう言った
今夜は豪華になりそうだ
番外編が見れないという方ですが、多分R18の表示設定のせいかと思われます!
一応登場人物のキービジュアルは進めておりますが30、31とテストがありまして(~_~;)
受験生大ピンチ()
もうしばらくお待ちください()
では最後まで読んでくれてありがとうございました〜!
壊れた世界の救い方 第十二話「幸せの時間」
全力飯テロ注意
マンドラゴラ視点
べりさんとわんこに連れられて全員でキッチンへ向かう
5人と1匹いても若干狭く感じる程度の広いキッチン
暖かみのあるその場所は洞窟の中でもどこか安心感があった
「あ、あとみんな、全然タメ口で話してもらっていいからね」
「あんまりかしこまられちゃうと距離感感じるし」
べりは袋の中の食材をまな板に並べながらそう言った
「みんなでやるからね!全員手伝ってねー!」
わんこはフェンリルに包丁を握らせ光をコンロの前に立たせる
俺はみぃと一緒に流し台の前に立たされた
「これはヘラヌークのお肉でねぇ」
「フェンリル、お肉はこうやって切るんだよ」
「前にもやってたよね…べり…」
「…」
べりがフェンリルに肉の切り方を教えている
それをぼうっと見ているとわんこが歩いてきてこう言った
「今から野菜洗ってもらうよ!」
「よさそうな奴取ってきたからぁ!」
いつの間にと思ったが
そんなの聞く余地もなくどんどんと流し台の上に野菜が放り込まれていく
ナス、スナップエンドウ、キュウリ、ジャガイモ
それに見たこともないような野菜もいくつかある
「え…?これってなに?」
「何か変なもの食べさせる気じゃないよね?」
みぃはわんこに向かってそう言った
「大丈夫だよ!だって私たちも一緒に食べるんだよ?」
「食べて害のあるもの入れるわけないでしょー!おいしーよ!」
みぃはならいいかという顔で野菜を洗い始めた
俺もやらなくちゃと慣れない手つきで野菜を洗う
「そしたら光!フェンリルの切ったもの焼いてくよ〜!」
3cm程の分厚さで手のひら大はある大きさの肉を
べりはフライパンに乗せていく
「油が跳ねるから気をつけてね」
「いい感じになったらひっくり返して、最後にもう一回ひっくり返すよ」
べりが肉をフライパンの上で踊らせるようにしてひっくり返す
「あ、塩胡椒欲しいね!」
「持ってくる!」
周りのことばかりに目が行って自分の仕事が疎かになっていた
止まっていた手を動かそうとするがもうそこに野菜はなかった
全部みぃが洗っていたのだ
そして今みぃは野菜を切っている
「ごめん手伝う」
「いいよ別に」
「わんこ手伝って」
「う、うん」
そっけない態度でそう言われてわんこを探す
わんこは二本の足で立ってたまねぎと鶏肉を炒めていた
「手伝いま…手伝う!」
「ほんと?ありがとう!」
「じゃあケチャップ持ってくるからこれ焦げないようにお願い!」
あまり自信がないがしっかり焦げないように下の方から混ぜる
だんだんと美味しそうな匂いがしてきた
そろそろかなと思ったところでわんこがご飯とケチャップを加える
じゅわぁとご飯が焼ける音がする
「マンドラゴラちゃんと混ぜといてね!」
「じゃあ卵焼こう〜」
その後チキンライスも無事完成
その上にわんこの焼いたふわふわの卵を乗せてミニオムライスは完成
みぃが切っていた野菜はサラダとスープ用で分けられサラダ用はべりが皿に盛り付けていた
色とりどりの野菜が綺麗にステーキを彩っている
ステーキから溢れ出る肉汁でドレッシングは要らなそうだ
けれどわんこはまだ卵があるからと言って卵ドレッシングを作ってくれた
スクランブルエッグ手前でマヨネーズを加えてよく混ぜる
野菜にかけると黄色い卵がぽたぽたと野菜の階段を降りていく
あまり目立たない野菜ですらとても美味しそうに見える
全ての料理を全員分皿に盛りテーブルに並べる
テーブル一杯に広がった豪華な料理たちから登る湯気は食欲をそそらせる
「ではー!みなさーん!」
「いっただきまーす!!!」
「いっただきまーす!!!」
まず何から手を付けようか迷ってしまう
でもまずが自分が1番仕事をしたであろうミニオムライスを手前に持ってくる
黄色のふわふわ卵をナイフで横に切る
まだ熱い卵は更に湯気を出しとろりと横に流れ出た
その上にケチャップをかけるのが勿体なく感じてそのまま食べる
真ん中を大胆にスプーンですくう
卵8割チキンライス2割のスプーンを口に運ぶ
「うまっ…」
思わずそう口に出てしまった
べりたちがにこにこしてこちらを見ている
「なんだよ…」
「いいじゃんか…」
それにしても美味しいのだ
口の中で広がる卵の風味
チキンライスのケチャップの酸味と鶏肉の味が混ざり合って染み渡る
またオムライスを食べようかと思ったがここでやめておく
ステーキやスープも気になるからだ
次は少し水気が欲しくてスープに手を伸ばす
ジャガイモがコトコトと煮込まれた、温かいシチューのようなスープだ
スプーンは置き、そのまま口をつけていただく
スープの部分をまず味わう
ミルキーな濃厚スープがクセになる
飲み込んだ後の喉に残った温度感がまた良い
次はスプーンを使って具材も楽しむ
一口大の脂の乗ったヘラヌークの肉はとても柔らかい
口の中で噛まずともほろりととろける
スープの旨みをたっぷり含んだジャガイモはほっこりとしている
一息ついてスープを置く
次にメインであろうステーキだ
冷めてしまっていないかと心配だったがそんなことはなかった
しっかりと湯気が立っていて、早く食べてと呼んでいるようだ
そんな分厚さ3cmのステーキにフォークを刺してナイフで一口大に切っていただく
噛めば噛むほど溢れ出る肉汁
これでもかというほどの肉感
それに表面は良い感じにカリッと焼かれておりまさにカリッ、じゅわっという感じだ
口いっぱいに広がる肉の旨みに幸福感で満たされる
次はサラダをいただく
卵ドレッシングの贅沢にかかっている部分を口に運ぶ
卵の濃厚さとマヨネーズの相性は抜群で
野菜の甘みを引き立てるだけでなく独自の旨味も感じる
それは卵ドレッシングだけで飲んでみたいほどだった
そんな感じで全ての料理を食べ終わる
「ごちそうさまでしたー!!!」
みんな最初の頃より笑顔な気がする
もちろん、俺もそうなっているだろう
ここに来てよかったと
そう思えた
食事シーンのこだわりが強くて2000文字余裕で超えてしまいましたね…()
食事シーン書くの好きなんですよ、どうでしたか()
スクロールお疲れ様です!
では最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 設定資料集①
登場人物たちのステータスや能力の詳細です
以下注意事項
半分作者用で作ったようなものです
小説に出ていない情報もやや記載しているため絶対ネタバレしたくない人は閲覧しないでください
絶対この通りとは限りません、とりあえずのメモ程度です
ランク付け
SSS、SS、S、A、B、C、D、E、F
強い 弱い
---
ポイント
Fから1ポイントEは2ポイント
SSSは9ポイントの1〜9ポイントのステータス合計値を記載
参考までに、平均である全てBだった場合は25ポイントとなる
---
現段階では能力、攻撃、防御、素早さ、耐久の5つを評価
能力
その能力の強さ、使い勝手、メリットデメリットなどを加味して評価
攻撃
攻撃力、攻撃手段の多さ、通用する敵の多さなどを加味して評価
防御
受けたダメージの食らいにくさ、受け身手段などを加味して評価
素早さ
純粋な移動速度の速さ、身のこなしの速さなどを加味して評価
耐久
防御、素早さとその他体力などを加味してどれだけの戦いに耐えられるかを評価
---
登場人物名、能力、攻撃、防御、素早さ、耐久、合計値の順
beri、S、SS、D、B、C、28
わんこ、SSS、C、E、A、B、25
マンドラゴラ、B、C、A、A、S、27
フェンリル、SS、A、C、A、B、28
光、D、B、S、SS、S、30
みぃ、S、E、B、SSS、C、26
レイト、SS、F、E、E、C、17
フレア、B、S、C、C、S、27
夜春、C、B、S、S、B、28
---
能力詳細
beri
氷で物体を作ることができる
作る度に体内の水分を消費する
自分より大きな物は作れない
極端に細かい物は作れない(鍵などは場合による)
武器を作った場合それでダメージを与えた分自分を回復させる
わんこ
未知の可能性を秘めている
触れたものの能力レベルを強化する
同時に複数人触れた場合効果は2人なら半減、3人なら3分の1といったように減少する
ごく稀に能力を一時的に変化させる
マンドラゴラ
発生させた霧を吸い込んだ者に状態異常を起こす
例、幻覚、毒、麻痺、幻聴、動悸、目眩、嘔吐、など
敵味方関係なく発動する
故意で特定の効果を発生させることが出来るのは相手のレベルが自分より低い場合のみ
相手のレベルのほうが高い場合は効果が薄れたり効かなかったりする
この能力は特にレベルの影響を受けやすい
フェンリル
巨大な氷を出現させる
水を直接凍らせることも可能
凍らせた水の質量や出現させた氷の質量が大きければ大きいほど何らかの体調不良が現れる
あまり形は思い通りにならない
光
矢を刺した箇所を眩しく光らせる
自分はその影響を受けない
閃光にもなるが一時的なら灯りとしても使用できる
(その場合自分は恩恵を受けない)
みぃ
透明な直径1cmほどの糸状のものを出現させる
ある程度の負荷がかかっても千切れないが、自分より高レベルの者は千切りやすい
一度に3mまでしか出せず、それ以上は自身の身長を削る(最大10m)
いつでも糸は消滅させることができ、消滅させれば失った身長も戻る
レイト
素材を使ってポーションを作成する
素材の希少性が高いほど高レベルなポーションを作成できる
自分よりレベルの高い相手に使用すると効果が薄れる
フレア
斧を振るった箇所や血などの特定の箇所に炎を出現させる
自分が出現させた炎の影響は受けない
レベルによって受ける炎のダメージは変わらない
高レベルの相手の血は燃えにくい
出現させる度にダメージを受ける
夜春
自分より低レベルの者を誘惑、催眠にかけることができる
成功した場合、レベル差によっては好きに動かすことが出来る
レベル差1〜2、体を動かすのに違和感を与える
レベル差2〜4、+感情などにも少し干渉できる
レベル差5〜7、歩いているのを走らせたり程度はできるようになる
レベル差8〜10、+感情にかなり干渉できる
レベル差11以上、思い通り操れる
能力発動中は防御力、素早さ、耐久が大幅に下がる
大きい追加要素、更新がある場合は設定資料集②として出します
壊れた世界の救い方 第十三話「生命湧き出る温泉地」
フェンリル視点
あの後洗い物などの後片付けをしたあとべりたちに連れられて洞窟の奥まで入った
あんまり一気に行くもんじゃないと言われて2つのグループに分かれた
今ここにいるのはべり、光、僕の3人だ
今まで気づかなかった通路や部屋がいくつかある
どうやらべりたちも本当に奥まで行ったことはないらしい
「ここほんと長いね…」
「いやべりが言うんかい…」
「毎日風呂入るのだけでも往復5分はかかるよ」
「大変だ…」
光はそう言いながら洞窟の壁に矢を刺していく
ぼんわりと光った矢は松明の代わりに洞窟の中を明るく照らす
どうやら光には意味がないようだが
だから光が転ばないようにべりがしっかり手を握っている
「もうそろそろだね」
べりがそう言ったのとほぼ同時に顔に少し熱気を感じた
蒸気というか、そんな感じのものだ
少し蒸し暑くなってきた
「ここでーす!温泉!温泉!」
その場所はまるで大きな湖のようにして温泉が湧き出ていた
ひとつだけではなく大きな1つを中心にして小さなものも3つほどある
べり曰く全て温度が違ったり効能が違ったりするらしい
温泉の部屋は洞窟のはずなのに
入り口はちゃんと人が通れるサイズで穴が空いていた
入り口にかかった蔦をどかしてとりあえず入ってみる
もわんもわんとした熱気と湯気で部屋の中はいっぱいだ
しかし天井を見上げてみると空が見えた
「ここだけ地面が極端に|窪んでて《くぼんでて》洞窟と繋がってるんだ
「綺麗でしょ?」
夜空に光る星たちはキラキラと輝きながらこちらを見下ろしている
壁に括り付けられている松明の光と合間って雰囲気は抜群だ
どんな高級リゾートホテルに行ってもこんな場所ないだろう
「よしじゃあ入ろっか〜!!!」
「じゃあバスタオル1人1枚支給するのでこれ巻いて入ってね〜」
着替えは別室で行った
ちょうど温泉の隣に少し小さいが部屋が2つある
今まではわんこ、べりで使っていたのかこれからは男女で分けなきゃねとべりが言っていた
着替えている最中隣から話し声が聞こえてくる
「光温泉入ったことある〜?」
「楽しみでしょ〜!」
「私入ったことない!」
「楽しみ〜!」
先に温泉に向かってまずは1番でっかい温泉のお湯に浸かる
少し熱いくらいのお湯加減で1日の体の疲れが抜けていく気がする
「フェンリルはや!」
「じゃあ光はこっち入ってみよっかー」
べりがやけにニヤついた表情で光を案内する
べりは入ろうとせず光が先に入るように指示しているのがさらに怪しい
「いたぁああっ!?!?!?」
お湯に光の足が触った瞬間光が飛び跳ねた
どうやら電気風呂らしい
でもどういう原理なのだろうか
こんなところ電気が通っているはずがない
「じゃあネタバラシ!」
「こっち見て〜」
べりがその電気風呂のすぐ横にあった蓋を開ける
ここからでは少し見にくいが
黒い何かが大量に|蠢いて《うごめいて》いる
「わんこと一緒に捕まえたんだ!」
「電気うなぎー!」
「さいてー」
「さいてーだな」
それでもべりは楽しそうに笑っていた
いただいたファンアートです!
https://d.kuku.lu/n4h8jzg3y
夜春さんありがとうございました!
最後まで読んでくれてありがとうございましたー!
壊れた世界の救い方 第十四話「消えた少女」
わんこ視点
(皆温泉に浸かり布団を敷いて眠りについた)
コッケコッコォオオオオオ
今日も鶏の鳴き声で目が覚める
朝は私の時間だ
やるべき仕事がたくさんある
まず朝起きたら温泉へ向かう
道中はもう慣れて3分くらいで行き来できるようになった
朝風呂はやっぱり1日の始まりである
そしたら外に出て畑や家畜たちの面倒を見る
犬の自分が家畜の面倒を見ると言うと少しおかしい気もするが気のせいだ
ジョウロいっぱいに汲んだ水をやる
乾いた土に水が染み込んで色が変わっていくのを眺めている
そうしたら乾燥させたとうもろこしの粉を撒きにいく
毎日の目覚まし兼卵要因のにわとりちゃんのためだ
私は育てているにわとりちゃんだけは食べないと決めている
でも卵は美味しいので毎日ちゃんといただいておく
とった卵は洞窟に戻って湧水の流れる場所で冷やしておく
そしていつもなら洞窟の外に出てしばらくはあれがくるのを待っていた
しかし、毎日のように来ていたはずなのにここ2、3日は来ないのだ
「わんこおはよぉ…あれ?また夜春こないの?」
「そうなんだよね」
「街の方何かあったのかな?」
あれというのは夜春のことだ
夜春とは街に集まる色んな食材を持って
さまざまなところへ移動販売のようなことをしている子の名前である
いつも自分たちで作れないような調味料や牛乳などはそこで買っていた
なので来てくれないと結構不便するものである
「どうする?特にやることもないしさ」
「街、行ってみない?」
べりさんはそう言うが実際一度も街は行ったことがないし見たこともない
でも少し気になる気持ちはあった
「いつも夜春が来てた方向に歩けば着くんじゃないかな」
確か少し前
夜春はここは街から一直線で走ってこれるから楽だと言っていたことを思い出す
確かにそれなら何も知らなくても街に行くことができるかもしれない
「あとまだみんな寝てるけど」
「街知ってる人いるかもよ?」
「朝ごはん食べたらお昼のお弁当作って、みんなで行ってみようよ!」
「確かに!」
「そうしよう!」
朝ごはんは昨日の夜が豪華すぎたこともあり少し控えめ
野菜のスープだけをいただく
それでも朝は十分だ
お昼ご飯には少しこだわって、夜春から最後に買ったパンを使ってサンドイッチを作った
特製ソースに絡ませたお肉と新鮮な野菜を挟み込む
綺麗にラッピングしてバッグに詰めて準備は完了
「あぁちょっと待って一応水筒持ってく」
「みんなも武器持ってこうね?」
「何があるかわからないし…」
フェンリルは太刀を
光は弓を
マンドラゴラは何か小さな銃のようなもの
みぃは…
「みぃは私が守るからね♡」
「えぇなんかきんも」
「そんなこと言わなくても…」
多分べりさんと私が思っていることは同じだろう
何か悪い予感がする
だって毎日来てた夜春が急にこなくなるだなんて
何か一言あってもいいじゃないか
なかったということはつまりそういうことになってしまう
あまりこう言うことは考えたくなかったのだがしょうがない
気持ちを切り替えて家を出た
最近の楽しみは学校から帰ってきてみんなの書いてくれたファンレターを読むことです…
本当にいつもいつも感謝しかないです…
そして好評だった番外編
なんと多くの方の登場許可をいただきました!!!
許可くれた方々!!!ありがとうございます!!!
いっぱい遊んd(((((これからも頑張りますね!!!
では最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第十五話「道のりは命懸け」
beri視点
何か嫌な予感がする
万全の準備を整えてから家を出る
「街に行くんでしょ?」
「僕が案内するよ」
「え、本当?」
「ありがとう!!!助かる〜」
「いや、ただ場所知ってるだけだし…」
「逆に結構近いのに行ったことなかったん?」
みぃにとっては身近な場所らしい
どうも半分引きこもりの私とわんことは訳が違う
流石全く知らない場所から人様の家に押し寄せてくる集団の1人といったところだ
「あれ?べり?このまま進むの?」
フェンリルが遠くの方を指差してそう言った
よく目を凝らしてみると幅はそれほどでもないが大きな崖が横に広がっている
左右どちらをみても抜け道はない
まるで囲われるみたいにして崖があるのだ
「大丈夫」
みぃくるくると指を回しては透明な糸を出現させる
3mほどの長さまで伸ばすとみぃは走って崖の方まで行ってしまった
みんなで走って追いかけるとみぃが向こう岸の木の枝に糸を輪にして投げている
しかし長さが足りずかかる気配はない
「足りない…しょうがないな…」
そう言った次の瞬間みぃの身長が縮み始める
みぃの頭が私の胸下くらいまでの位置にきた
さらに長く伸びた糸をみぃは木の枝に見事ひっかける
「はい、1番この中で勇気があるのは?」
みぃがそう言うとみんなマンドラゴラをみぃのもとへ差し出した
「え???おれ???は???」
マンドラゴラはされるがままに体に糸を巻きつけられる
どうやらマンドラゴラを投げて向こう岸まで渡すつもりらしい
みんな自分じゃなくてよかったとほっとしながらマンドラゴラを結び終えた
半分涙目のマンドラゴラはじっとこちらを見つめている
「覚えとけよ…」
「いってらっしゃーい」
光がマンドラゴラに別れの挨拶をする
みぃは光と向き合ってうんと頷きマンドラゴラを突き飛ばした
勢いをつけて飛んでいったマンドラゴラは反対側の崖に直撃する
「いっでぇええええ」
それでもなんとか反対側の崖にしがみついている
「マンドラゴラ下見てみ?」
フェンリルがマンドラゴラを|揶揄う《からかう》ようにしてそう言った
「見るわけねぇだろ!!!ばかぁ!!!」
「じゃあマンドラゴラ糸消すからちゃんとつかまっててね〜」
「じゃないと奈落の底へ真っ逆さまだよ〜」
「このやろう…」
ぶつぶつと文句を言いながらもマンドラゴラは渡ることができた
糸が消えた瞬間みぃの身長がしゅっと戻る
「…で、これどうすんの?」
マンドラゴラが渡れたのはいいが
その…すごく痛そうだったしできればやりたくないところである
「あ、僕の能力で渡れちゃう?」
フェンリルは力いっぱい地面を踏みつける
そうするとじわじわと足の周りに氷が巻き付いていきやがて大きな塊となる
その塊は崖の間を塞ぐ大きさになり簡易的な橋となった
「は?最初からこれでいいじゃん…」
「俺が体張った意味返せよ…」
「まあまあ」
光がマンドラゴラの背中をぽんぽんと叩いている
涙目でこちらを睨むマンドラゴラの表情はどこか面白かった
壊れた世界の救い方 第十六話「急がば回れ」
光視点
「ひぇ…」
「どっと疲れたよ…」
情けない声を出しているマンドラゴラの背中をぽんぽんと叩く
私たちのために頑張ってくれたのはそうなのに
ちょっと面白かった
「じゃあ先に行こう?」
「できれば早いほうがいいし」
わんこは少し不安そうな口調で言った
よっぽどその夜春という人が心配なのだろう
けれどこの先の沼地からは嫌な気配を感じる
「うん、そうだね」
初めて足を踏み入れる場所は緊張するものだ
地面はだんだんとぐちゃぐちゃとして水気を含んだものへと変わり
若干だが生えている木の種類も別のものへと移り変わってきている
「きゃっ!?!?」
べりさんが急に叫び声を上げる
何かと思って見てみれば
かなりぬかるんでいるところで足が沈んで抜けなくなってしまったようだ
「えっやばい!まじで抜けない!!!」
「どうしよ!誰か引っ張って!」
しょうがないなぁと言わんばかりにマンドラゴラがべりさんに駆け寄る
だがしかし
べりさんの近くに足を踏み入れた瞬間その足がどっぷり浸かってしまった
しかもべりさん同様抜けないようだ
マンドラゴラと同じくべりさんを助けようとしていたわんこもそれを見て身を引く
「最悪…」
「どうすんのこれ?」
「引っ張る人も沈んじゃうんじゃ…」
べりさんが途中までそう言ったところで私の後ろをじっと見つめる
驚いたように大きく開いた青い瞳には茶色の何かが写っている
背後から漂う温度感に身が震える
何かがいる
「光危ない!」
近くにいたみぃが私を押し倒す
茶色の化け物はその上を通り過ぎべりさんの元へ向かう
べりさんに触れる直前にフェンリルの能力で茶色の化け物とべりさんの間に氷の壁を作る
「やばいなこれ…」
一度は化け物の攻撃を回避できたのは良いものの
フェンリルは化け物のヘイトを買ってしまったようだ
茶色の化け物はものすごい勢いでフェンリルに襲いかかる
「もー!!!」
私は急いで弓に矢をかけ化け物を射る
矢が見事命中した化け物は甲高い断末魔をあげてその場に倒れ込む
そして数秒後ドロップアイテムの袋が出現した
フェンリルはすっかり力が抜けてしまい膝から崩れ落ちた
そしてどうやら頭が痛いのか頭に手を当ててふらついている
私はフェンリルの様子を見に行くことにした
べりさんとマンドラゴラはみぃの糸でわんこが吊り上げている
「フェンリル大丈夫?」
「平気?」
「それともまた能力のやつ?」
「うぅ…そうっぽいかも…」
「でもこんなことでいちいちなってちゃ役に立たないね…」
「そのうち慣れるよ…」
手を差し出しフェンリルを起こす
べりさんとマンドラゴラも無事抜け出せたようで汚れた足を気にしている
「べりやばいじゃん真っ白の服なのに」
マンドラゴラが少し笑いながらそう言った
比較的地味な色合いをしているマンドラゴラはそこまででもないが
べりさんは真っ白の服を着ているのですごかった
「ここの近くに川あるしそっちから行く?」
「ちょっとだけ遠回りだけど」
「うんそうするぅ…」
すぐにでも汚れを落としたそうだ
私だったら水筒の水を使ってしまうが
べりさんはできない理由でもあるのだろうか
---
みぃ視点
「ここだよ〜」
ここからもう少し歩けば街に着くだろう
いつもならここから街のシンボルである翠緑の塔が見えたはずだが
今日は何故か見えない
かなり高い建物だから見えてもおかしくないはずなのに
べりはばしゃばしゃと川の水で服を洗っている
ワンピースのスカート部分がひどく汚れてしまっていた
わんこたちはその隣で水遊びをしている
その間僕は魚釣りをする
大きな岩がゴロゴロと転がっているこの場所では小魚がいるのだ
その辺に落ちていた枝に能力で出した糸をくくりつける
そこにいつも持ち歩いている釣り針を取り付けて岩と岩の間めがけて投げる
餌はついていない
だがこの釣り針はどうやら餌に見えるのか餌をつけずともかかるのだ
10数秒の時間が流れた時
かすかに握っていた枝が揺れる
軽く引き上げてみると思った通りの小魚が針に食いついていた
この魚は調理しないでそのまま生で食べても美味しい
小魚というだけあって薬指ほどの大きさしかないが骨まで全部食べられる
レイトやふりゃにムカついて家を出た時は
よくここに来て釣りをしていたのだ
「みぃ何してるのー?」
光がこちらへ歩いてきた
「わ!魚だ!」
「これ食べれるの?」
「うん」
「そのまま食べれるよ」
「…いる?」
最初はあげようとは思わなかったが
あまりに光が興味津々で見てくるのでとりあえず聞いてみた
「いる!みぃありがと!」
自分は生きたまま食べていたこともあったが
流石に光にそれは残酷すぎるので頭を軽く叩いておく
動かなくなった魚を光に差し出す
「うーん、お刺身は食べたことあったけど」
「そのままのも美味しいね!」
「ありがとう!」
「ごめん待たせたーいこー」
べりの泥は確かに落ちたが服は濡れている
マンドラゴラも同じだ
というか汚れてないはずの人たちも濡れてる
わんこは犬特有のあのぶるぶるをして水を飛ばしていた
どんだけ水遊びをしていたんだろう
釣りに集中していると、案外気づかない
皆さんに質問です
文字数なんですが
1000文字くらいがいいか
少し投稿頻度は減るかもだけど2000文字がいいのか
それとも文字数少なくて良いからはよ出せなのか
今までので良いなら今まで通り続けます()
少し気になったので教えてください()
最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 超番外編「お疲れ」
ご本人様には関係❌
ワンチャンこれR18のレーティング要らないけど一部から付けろって言われそうなのでつけてます
そして今回いつもよりセリフの割合多めです
ではどうぞ♡
※マッサージです
「あ゛ぁ゛っ♡やばいぃっ♡」
「あぁっ♡お゛っ♡」
「えーどう?」
「いやぁここ凝ってるわぁ」
「いつもいっぱい頑張ってるもんね?」
「うっうん!」
「そんなにかたい?」
「…ちょっと恥ずかしいなっあっあっあ゛♡」
「かっちかちだぞー?」
「ここは?きもちぃ?」
「あ゛ぁ゛っー!?」
そう言ってギュッと抑えられる
全身のツボが分かってるのかというほどに
ほんと弱点ピンポイントで狙ってくる
「いだいっ!やぁっ!」
「じゃあここがだめなんだぁ」
「えいっ」
「ひぁ゛あ゛♡!?!?」
「だめぇっ!そんないじわるしちゃぁっ♡」
「え?じゃあもっといじわるしちゃお♡」
「ほらっ」
「ん゛ぁっ♡」
「ほんとうにぃ゛っ♡む゛りぃ゛っ♡」
「はぁあ゛っ♡やめでっ♡」
「え?何?聞こえないよ?」
「やめて?もっとじゃないの?」
優しい口調でそう語りかけてくる
口調だけは優しい
そう口調だけは
「あ゛っもう゛むりぃッ、、、 ♡」
「だめだめだめっ♡だめだってぇっ♡」
「自分に素直になるって大事なことなんだよ〜?」
「ほぉらっ♡」
「むりっ♡むりむりむりむりっ♡」
「は゛ぁあっ♡」
「やばいっ♡やばいってぇ゛♡」
「えー?もしかして、(自主規制)じゃないの?」
「はぁあ゛?♡」
「うっさい////」
「って、待って待って待ってやばいっ♡」
「とまって!♡あ゛ぁあ゛♡どまっでぇ゛!!♡」
「やぁーだ♡(耳元囁き)」
「あ"ぁ゛!?!?っ…」
「はぁっ…はぁっ……はぁっ………///」
「かわいーね♡」
「がんばったね♡おつかれ♡」
「…ばかぁ…っ……♡」
誰と誰かは考えてみてください
一応答えは用意してあります
これの詳しくバージョンは後日公開します!
答え合わせはそこで!
壊れた世界の救い方 第十七話「遮二無二」
わんこ視点
その後出発しようと思ったが
フェンリルとマンドラゴラがどうしてもお腹が空いたというので
川でお弁当のサンドイッチを食べてからまた街へ向かう
「いつもならここから街にある塔が見えるんだよね」
「嫌な予感がする」
「なんともないといいけど」
肉球に嫌な汗をかきながら地面を踏む
もし夜春が大変な目に遭ってたらどうしよう
そう思うと今までの夜春との思い出が蘇ってくる
「わんこさーん!」
今にでもこの元気な声が聞こえてきそうだった
そうたしか
この元気な可愛らしい声の後は決まってこう言ってくれた
「いつものですね〜?」
何が欲しいですかではない
いつものですか、でもない
あまりに同じものを買いすぎて夜春からいつからかこう言われるようになったのだ
「うん!」
「いつもの!」
べりさんがそう言うと夜春はもう別の袋に用意していた商品を手渡してくれる
とんでもないほど気の使える人だった
「いつもありがとうね〜」
「えへへー、またご利用くださぁい!」
べりさんがお礼をすると夜春は決まってこう言った
少し照れくさそうにしながらもそう言った
にこにこ笑っている夜春が見えなくなるまで手を振って見送るのが決まりだった
今どうしているだろうか
忘れられていたらどうしよう
「わんこ?大丈夫?」
「さっきからずっと話しかけてるのに返事がないから」
「えっあっ、ごめん」
「どうした?」
べりさんが指を刺した先には煙が黙々と立っている場所が見える
煙だけなら少し前から見えていた
それを街からのものだと確信できるものがなかったので今まで黙っていた
しかし街の近くまで歩いてくるとそうは言えなくなってきた
「あとなんか建物がない気がするんだけど…」
「みぃ、街ってこんなんだったの?」
「そんなわけない」
「僕の知ってる街はもっとたくさんの人で賑わっていて」
「川のところですら見えるほどの高い塔が建ってた」
今見えるのは黒焦げた何かとその中心に建つ柱のようなものだけだ
その柱が元々塔だったというのか
そしてその柱にはなにか付いているように見えた
だがここからでは何かわからない
「心配、早く行こう」
べりさんはそう言うとみんなを置いて走って行ってしまった
すぐその後を追いかける
「夜春…夜春…」
今にも泣き出しそうな声でべりさんはそう呟いていた
それを聞いているとこちらまで心が痛くなる
街を囲っていた塀の真正面までやってきた
入り口の目の前に立ったべりさんは柱を見つめたまま止まっている
何があるのだろうと私も近づいて見て見る
「…!」
それは、人間だった
よく見た顔の、人間だった
これが夜春だとは思いたくなかった
しかしこれが夜春じゃないならなんなんだ
夜春は柱の上の方に括り付けられていた
ここから見るとちょうど横向きになっており
手首からは縄が擦れたのか出血していた
目からは光を失っている
そして夜春はゆっくりと視線をこちらに向けた
「夜春!!!」
私は必死にそう叫んだ
だが聞こえていないのか反応できないのか
夜春はこちらを向いたまま何もしなかった
「今助けるから…!!!」
「わんこ無茶言うな夜春がどこにいると思ってるんだ」
「あんな高いところ無理だろ」
「みぃの能力ですら引っ掛けられる場所ないし」
「何か考えないと」
マンドラゴラはつらつらとそう言うとフェンリルの肩に手を置く
「あそこまあで届くでっかい氷」
「作れないかな?」
「できないことはないんだけど…」
「能力の代償がやばいかも…」
「でも夜春の方が大変だし、他に何もなかったらやるつもりでいたよ」
光が背中に背負った矢を一本取り出す
両端を手で握って上下左右に捻ってみる
「これだ!」
「私が階段になるようにこれを柱に向かって打つよ!」
「そしたら登れるんじゃないかな!」
とても良い名案だと思ってみんなが頷いた
けれどべりさんはこう言った
「夜春に矢が刺さらない保証はできる?」
「もちろん、、、でもちょっと怖いかも」
「それだったら下の方だけ打ってもらって」
「そこからは自分で矢を刺して登れば良いんじゃない?」
「ほら、素材は木っぽいし刺さると思う」
光はべりさんに10本ほどの矢を渡した
地上から5m上までは光に矢を射ってもらい、素の上に足を置く
見ているこっちがハラハラしてくる
それでもなんとか矢を使って夜春に手が届くほどまで登った
しかし縄を解くにはまだ遠い
でももうべりさんの手元には矢がなかった
「べりさんしゃがんでー」
「よぉーし…」
光はそう言って弓を引く
狙うは縄の結び目だ
1cmでもずれれば夜春の腕がもっと酷いことになってしまうだろう
「それっ!!!」
矢は無事縄のみに命中
そこまでは良かった
30、31とテストなのでこれで2日分ということでお願いします()
最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 超番外編「戻ってくるな」
今回は結構ガチで注意です
全力で書いてます(R18をですよ)
もはや本編とは別の世界線の話です
beri視点
昨日、夜春から面白そうなものを買った
そう、この怪しいお薬だ
薬指ほどの大きさのピンク色の瓶に入っている
蓋はハートの彫刻がしてありとても凝った瓶である
夜春からはよく分からないものと言われたが面白そうなので買ってみた
もちろんそんなもの自分で飲むのは勇気がいる
ということで生贄を用意したいところだ
しかし普通に使ってたら面白くない
そこで良いことを思いついた
「夜春に飲ませよう…!」
瓶の裏を見ると4回分と書いてある
しかし効果が薄くては面白くないので半分に分けて2回分にしようと思う
そして今日の朝夜春にあげるつもりだったジュースに混ぜて
飲ませてしまおうという魂胆だ
もちろん1人では物足りないのでもう1人誰かいい人を探している
とりあえずはジュースを2杯用意して半分ずつ瓶の中身を入れる
さらさらとした液体はジュースの中に溶け込むと分からない
多分見た感じ変な味もしなさそうである
野菜ジュースだから多少変な味がしても言い訳が出来るのもまた良い
「べりさんおっはよー!」
「今日もいつものですねー?」
「うん!いつものねー!w」
「それと今日は美味しい野菜がいっぱい取れたからジュース作ったんだ!」
「飲んでってよ〜あんまり苦くないし美味しいよ〜」
「本当!?
「まぁべりさんが言うなら美味しいよね!」
そう言って私は夜春にコップを渡す
なんの疑いもなく夜春は中身を飲み干した
「どう…?大丈夫?」
「え?大丈夫って?」
「でも美味しいよ?」
「あぁ…そっか…」
効果がないのか
それとも即効性じゃないのか
そんなことを考えていると夜春が左右にふらつきだした
「あれ…あれ…」
危ないので肩を持って支える
「大丈夫?」
そう聞く頃には夜春は眠っていた
私は睡眠薬だったのかと思い夜春を布団に寝かせる
そしてもう一杯のジュースを見に行こうとキッチンに戻る
するとそこには空のコップが置いてあった
私が夜春を寝かせているうちに誰か飲んだんだろう
「あ、べりごめん飲んじゃった」
その声の持ち主はマンドラゴラだった
口の横がオレンジ色になっている
「美味しかったー?」
「え、うん」
「てか飲んでよかったやつ?」
「まあいいよ」
そして予想通りマンドラゴラもふらつきだした
「なんかめっちゃねむ…」
「ちょっと二度寝してくる…」
なんか面白くないなぁと思っていた
しかしそれは間違いだった
問題はその日の夜だ
2人はなかなか起きず結局夜まで寝ていた
ちょっと心配になって夜春の体をゆすってみる
「はぁっ…はぁっ…」
夜春は荒く呼吸をしている
そして体がやけに暑い
頬も紅く染まっている
「大丈夫?」
「っはぁっべりさぁん…」
「なんか…私おかしい…」
夜春はそう言って抱きついてきた
しかし様子がおかしい
私に顔を埋めるようにして抱きついてくるのだ
一旦無理やり引き剥がしてマンドラゴラの様子も確認する
「はっ…はぁっ…」
「べりっ…野菜ジュース絶対おかしいって…///」
「え?」
「睡眠薬入れたよ?実験でね」
「べりさんそれもしかして私が売ったやつじゃないよね!?」
「ごめん夜春から買ったやつ」
「あぁさいあくだぁああああ」
「あれすごい高い値段で押し売りされた薬なんだけど…その…」
「その?」
「そのっ…媚薬で…///」
「だめべりさん我慢できない…」
「どれだけ入れたのあれ…」
「2回分…」
「ばかぁっ///」
夜春は私を押し倒してきた
びっくりするほど強い力だった
「おいべり…俺のも入れたなんて言わないよな…」
「いれちゃったぁ♡」
「もう知らないから…っ//」
「べりが悪いよ///」
なぜかこの状況に興奮している自分がいた
こんな2人今まで見たことがない
でも流石に2人にボコボコにされるのは死んでしまう
ということで隣で昼から寝っぱなしのフェンリルに助けを求める
「フェンリル!フェンリル!起きて!」
「え?なに?」
「は?夜春もマンドラゴラもなにしてんの?」
夜春をぐいぐいとフェンリルの方へ押してやる
「これプレゼント…!」
「媚薬きめた夜春だよ…」
「え???」
「いやちょっと待って?急展開すぎついてけない置いてかないで」
夜春は上に来ていたコートを脱ぐ
そして服の上から順にボタンを外していく
その様は夜春が自分でやっているとは思えない
いや、やっていない
完全に薬で操られていた
本人の意思とはまるでかけ離れている
ただ荒い息を漏らしながら操られていた
そして自分はと言うと今マンドラゴラの下敷きになっている
マンドラゴラは私の頭のすぐ横に手を置いて
まさに床ドンをしている形だ
しかしマンドラゴラが上なのがどうも気に入らない
「ダメだよ」
「私の言うこと聞いて?」
マンドラゴラの腕を跳ね除け体制を崩させる
そしてその上に私が床ドンを仕返す
マンドラゴラの目にはハートが浮かんでいた
リクエストがあればこの先も書きます…
そして一つ前の番外編!答えを発表します!
受け:夜春
攻め:フェンリル
でございます!!!
当たった人おめでとうございます(?)
そして私が美味しいからと言う理由で夜春とフェンリルが連続登場となっておりますが
ずっとこれじゃないので安心(?)してください
他の方もちゃんとでます^_^
では最後まで読んでくれてありがとうございましたー!
壊れた世界の救い方 超番外編「戻ってくるな続」
前の続きです
やめろって言われたので書きました(意味不)
続きということはですよ
察してください()
できるだけ直接的な表現は避けておりますが限界があることをご理解ください(?)
あと一応グロも注意です
夜春視点
「ふぇ…ふぇる…♡」
こんなことになったのは初めてだ
初めて理性というものを理解した
でもすでに私の理性の糸は半分切れている
どくんどくんと薬の影響で頭が真っピンクになっている
まるで波が押し寄せるようにして薬に支配されていく
必死に抵抗しようとするも身体は言うことを聞かなかった
もはや自分の意思とは関係なしに服のボタンを外している
「はぁっ♡はぁっ♡」
「ふぇるもっ…脱いで…♡」
邪魔なものをどかすようにしてフェンリルの服も脱がしていく
「夜春!?」
動揺したフェンリルもかわいい
フェンリルは驚いたように目を見開いてこちらを見つめる
脱がしたフェンリルの服を顔に押し当てる
…良い匂い
いつからか私の心臓は薬の影響以上に激しく鼓動していた
完全に抑えられていたわけでもないが
少しは抑えられていたものも今消えようとしている
「ふぇる…♡もうびしょびしょだよ♡」
ただ欲求に塗れて溺れかける
もしくはもうすでに溺れている
「ふぇる?おっきくなっちゃったね…♡」
もう後のことなんて知らない
私はフェンリルを跨いで上に乗る
「あ゙ぁっ♡」
「ふぇるっ…♡」
「夜春…!?」
「えっ?だめだよ!!ぬいて!!」
逃げようとするフェンリルを必死で抑える
チラリと横を見る
隣にはどちらが上に来るかで揉めているべりさんとマンドラゴラがいた
「だめぇっ!マンドラゴラの下はやだ!」
「べりこわいもん…何されるか分からん!」
「え?ぐちゃぐちゃにして欲しいんでしょ?」
「素直に言いなよぉ…♡ねぇ…♡」
「…///」
やり取りを見ている隙にもフェンリルは必死に抵抗してくる
「やめてっ…僕もおかしくなるっ…んっ…///」
「だめだってぇ…///」
「そう?だめなの?」
「身体はこんなに正直みたいだよ…?♡///」
フェンリルはガクガクと震えている
しかし目はとろりと潤んでいる
フェンリル(のフェンリル)はもうそろそろ限界が近そうだ
「ばぁっ♡」
「ばぁっ♡」
「いけ♡」
「いっちゃえ♡」
「ざぁこざぁこ♡」
「夜春こそっ…もう無理なんじゃないのっ…♡///」
だんだんとフェンリルの言葉が乗り気になってくるのを感じた
わずかながら腰も揺れている
さらに激しさを増してやる
「ん゙っん゙あ゙あ゙っ…♡///」
「むりっ…///むりだってぇっ///ね゙ぇ゙え゙え゙♡」
「なんだっ♡ふぇるのほうが限界じゃん゙っ♡」
「ほんとざこすぎっ♡だってばぁ♡///」
「そんなこと言ってると痛い目見るよっ♡」
「えいっ」
フェンリルは急に私を横に押し倒す
足を広げられ思うがままにされる
「あ゙ぁ゙っ♡!?ばかぁっ…///♡」
「なにっしてんのっ///」
「あ゙っ♡あ゙っ♡」
「夜春が始めたんだからねっ…♡」
「ほらっほらっ」
「煽った相手にわからされちゃえっ♡」
「ほんとむりぃっ///」
「や゙だ゙っ///や゙だ゙っ///♡」
「とめてぇっ…///ん お あ ッ ッ ? ! ♡」
「このっ♡このっ♡」
「いんらんめっ/////」
「 い゙んらんじゃなあい゙ッ゙ッ゙!!♡」
「ん゙あ゙あ゙っ゙ーー!?!?」
「負けたね♡」
「もう、懲りてよね?♡」
「ご、ごめんらさぁい…っ///」
負けた
負けてしまった
でも、良かった…
最後に隣を見るとそこには文字通りにぐちゃぐちゃにされたマンドラゴラがいた
ゆっくりと呼吸をしている
今にも消えそうな声でこちらに助けを求めてくる
「ねっマンドラゴラ♡」
「こうするしかなかったんだよっ♡」
「大好き♡」
「あれ?夜春?見ちゃったならしょうがないよね♡」
私の記憶に最後残っているのは
すごく幸せそうなべりさんの笑顔と
キラリと鋭く光るナイフだった
壊れた世界の救い方 第十八話「教えて」
わんこ視点
「べりさんしゃがんでー」
「よぉーし…」
光はそう言って弓を引く
狙うは縄の結び目だ
1cmでもずれれば夜春の腕がもっと酷いことになってしまうだろう
「それっ!!!」
矢は無事縄のみに命中
そこまでは良かった
次の瞬間夜春が前から倒れるようにして下に落ちていく
それを見て慌てて受け止めようとしたべりさんは
急にピタリと動かなくなる
そして地面に叩きつけられた夜春の跡を追うようにべりさんも下へ落ちた
「べり!!!夜春!!!」
あわててみんなで駆けつけるも
誰がなんと声をかけても反応はなかった
私は何か心当たりを感じてべりさんの首元を確認する
ちょうどチョーカーで隠れて見えなかったが
それをずらすと紫色の紋様が見えた
これはたしか夜春の能力でできるものだ
「…わかった!これべりさん夜春に操られてる!」
「え?どういうこと?」
私がそういうと皆頭を悩ませた
「どうして助けようとしてるのにそれの邪魔するようなことするんだ…?」
フェンリルは夜春を見つめながらそう言う
「助けてほしくない理由でもあったのか…?」
「てか、回復はやくしないと」
「相当なダメージだろこれ」
マンドラゴラにそう言われ慌ててポーションを取り出す
蓋を開けて夜春の口元へと近づける
頭を軽く持ち上げて中身を流し込む
「げほっ…げほっ…」
「夜春!」
夜春は何が起こったのかといった顔でこちらを見上げている
「…わんこ…さん…?」
「そうだよ夜春!!!わんこだよ!!!」
夜春が目を覚ましたのと同時にべりさんも起き上がる
「いったぁあああい!!!」
べりさんは背中を押さえてこちらを振り返った
「夜春!?大丈夫!?」
あなたは大丈夫なんですかとでも言いたくなるくらいの勢いで
べりさんは夜春の元へと駆け寄った
「べっ…べりさん…」
「私…」
夜春は何か言いたげにしている
しかし忘れてしまったのか言いにくいことなのか黙ってしまった
「大丈夫、大丈夫だからね」
「夜春に何があっても守るからね」
べりさんはそっと夜春を抱きしめる
夜春の目からは涙が溢れた
その後どうしてもここにいたくないと夜春が言うので洞窟に連れて帰ることにした
しかし問題が一つある
寝る場所が足りなくなってしまったのだ
「今までは何故かあった敷布団で足りてたけど…」
「どうしよっか…」
毛布がないと寒いし床で寝るだなんて冷たすぎるし何より痛い
これは誰かの布団に一緒に入れるしかないだろう
「私べりさんと一緒にねる…」
「べりさんいやじゃない?」
「え?逆にいいの!?」
「ありがとう夜春♡」
「おえべりきも…」
みぃが引いている
「あ?夜春が言ったんだぞ?」
「なんか文句ある?」
「…」
みぃはべりさんに勝てないようだ
そしてこのまま洞窟での
べり
わんこ
フェンリル
光
マンドラゴラ
みぃ
夜春の
7人生活が始まろうとしていた
最後まで読んでくれてありがとうございました!
皆さんファンレターありがとうございます!
リクエストもどんどんくれていいですからね!
番外編のリクエストとか!番外編のリクエストとかね!!(((
(by本編書くの久しぶりだなと思ってしまった番外編中毒の作者)
壊れた世界の救い方 第十九話「眠気」
夜春視点
私はべりさんが動いて目を覚ます
まだ眠いがうっすらと目を開けるとべりさんがこちらを見ていた
しばらくするとべりさんは起き上がり寝室を出て行く
前まではこの時間にはとっくに起きていたのだが
街が奇襲にあってから4日が経つ
しばらくやってないだけでも起きれなくなってしまうものだ
あの時のことを思い出すと、今すぐにでも泣き出しそうになってしまう
思い出したくない
あの日のことを
---
「夜春、これ今日の分よろしくね!」
「るみなさん今日多くない?」
「気のせいですか?」
るみなさんとは私がいろんな商品を売り歩くために買っている
ほぼ何でも屋さんみたいな人だ
普段は狩りをしたり採集をしたり
物珍しさを求めて別の街にまで足を運んだりしている
ここオードルフの街にはないようなものがたくさんあるらしい
「気のせいだよ〜」
「でもちょっと重いやつがあるかも」
「昨日頑張っちゃったからねぇ」
「まあ…頑張って!いってらっしゃい!」
「行ってきま〜す!」
毎日まだ太陽の頭が見えるか見えないかの時間帯
私はるみなさんから品物を受け取る
まず1番最初に向かうのはべりさんとわんこの住む洞窟だ
オードルフの街には外をぐるっと囲む高い塀がある
外に出れる場所は基本2つ
正面門と予備通路だけだ
あの日もいつも通り正面門へ向かった
「おい、そこのお前」
「…?」
「なんですか?」
「良いからちょっとこい」
見知らぬ男はそう言っていきなり腕を掴んでくる
「やだ!やめてくださいっ!」
「離してっ!」
まだ人通りが少ない早朝にそう叫んでも
誰も助けには来なかった
「ほら!今だ野郎ども!」
「襲撃開始!!!」
男が叫ぶと後ろから続々と物騒な武器を持って武装した男がやってくる
「しばくしばくしばくしばくしばくしばく」
「しばくしばくしなくしばくしばくしばく」
オードルフになんの恨みがあるのか
男たちはしばくしばくと連呼しながら押し寄せてきた
そして辺りは一瞬で焼け野原になる
聞こえてくるのは人々の叫び声で溢れている
知っている顔の人が次へ次へと殺されていく
「きゃぁああーーっっっっっっ!!!」
刺す
殴る
撃たれる
その度にどこかで血が舞った
綺麗なオードルフの街が汚れていく
奥の方では必死に戦うるみなさんが見える
しかし男たちはひっきりなしにやってくる
るみなさんが転んだ
蹴られた
殴られた
私は必死に目を逸らした
何も見たくない
何も見ない
「夜春!!!」
誰かがそう呼んだ
助けを求めているのか
私の状況を見てそう呼んだのか
しかしどうしようもなかった
だからといって何も変わらなかった
そしてなぜかここから記憶の空白がある
多分、男に殴られたかして気絶したんだと思う
次に気付いた頃には塔であったものに括り付けられていたのだ
---
少し寂しくなったので私も起きて寝室を出る
キッチンではべりさんが何か作っていた
「おはようべりさん」
包丁を動かす手を止めてこちらを振り返る
「おはよう夜春」
「大丈夫だった?寒くなかった?」
「よく寝れたかな?」
「よく寝れました」
「ありがとう」
「なら良かった」
「ここ座って」
べりさんは椅子をひとつ後ろに下げる
私がその椅子に座ると美味しそうな果物を出してくれた
ぶどうやりんご、みかんなどが盛り付けられた皿を見つめる
「食べてて良いよ」
「でも全部食べないでね?」
べりさんはにこにこしながらそう言った
「いただきます」
壊れた世界の救い方 第二十話「ルーティン」
夜春視点
洗いたてでまだ濡れている大粒のぶどうを一つ取る
味わって食べていると光さんが起きてきた
「べりさんおはよ…」
「ふわぁ…」
大きなあくびをしながら光さんはキッチンへ来た
「光〜みんなも起こして〜」
「そろそろご飯だよ〜」
「やったぁ!!!」
「起こす!!!」
びっくりするくらい大きな声で光さんはそう言うと寝室へ戻っていった
「みんなぁあああおはよぉおおおおごはんだよぉおおおおおお」
キッチンでもバッチリ聞こえた
私の眠気まですっかり覚めてしまった
「んーんーまだ寝たいぃ」
「朝ごはんいらないのー?」
「いるいるいる!」
みんなよっぽど朝ごはんが楽しみなんだろう
そんなに美味しいものが出るんだと思うとお腹が空いてきた
べりさんは棚から食器を出して盛り付けている
「べりさんおーはよ!できた?」
わんこさんは外からやってきた
畑の面倒でも見ていたのだろう
私がここに売り歩きに来ている時も何度か見かけたことがある
「できたよ!ささ、座って」
「わぁっいい匂い!」
1番最初に食器が置かれたわんこさんはそう言った
わんこさんの方を見てみると卵焼きの乗った食パン
その隣にはカルボナーラが添えられている
やがて私の前にも皿が置かれた
「べりさん!食べていい?」
「うん食べよっか!」
「いただきまーす!」
「いただきます!!!」
朝ごはんを食べた後にはみんなで洗濯物を手伝った
昨日やらずに寝てしまったのでずっと温泉前に置いてあるのだ
温泉の中にある湧水にそれを持って行ってじゃぶじゃぶと洗う
今みんなが来ているのはまんま部屋着なのでこのまま外に出るのはまずい
つまりこれが乾くまではこのままだろう
「みーんな服一着しかないのね…」
わんこさんがそう言った
「わんこは服着てないでしょーが!」
「えっへぇ」
街があればそこに服を買いに行っても良かったが
別の街に行くとしても場所を私は知らない
るみなさんがいれば良いのだが…
洗い終わったら外に服を干す
全員分の服を干すとそれだけで洞窟は大家族の家みたいに見える
「…何しよう」
「暇だね」
「もっかいねとく?」
「それはみぃが眠いだけだろ」
「じゃあ僕下の大きいとこ行って能力の練習してくるよ」
「みんなも行く?」
「服心配しなくて良いから思いっきり暴れれるぞ!」
確かに何かあった時のためにそれはいいかもしれない
私もみんなの能力に興味があったり自分の能力を鍛えたいと思った
「いいじゃん!みんなで行こう!」
やたらノリノリのマンドラゴラがそう言った
自信があるのだろうか
でも私はこの中の人たちなら1番強い自信がある
レベルは半分の人よりかは高いくらいだろうが
能力の強さなら負けない
わくわくしながら下の方にある大きな空洞へ向かうことにした
最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第二十一話「練習試合」
みぃ視点
温泉を通り越して少し行ったところ
まるで体育館のようにして広がった大きな空間は
それをするのにぴったりだった
マンドラゴラがしゃがんで床に何か書いている
みぃ、光
マンドラゴラ、フェンリル
べり、夜春
わんこ
よく見るトーナメントの表みたいにして並べてあった
そこに線が引っ張ってあり勝者は次の相手と戦う
僕の名前の横には光と書いてある
1番最初に戦うのは光らしい
「どこが1番最初にやる?左のから?」
「そうだね!てか、これ終わったらペア戦もやりたいかも」
なぜかみんなノリノリだった
いつ襲ってくるか分からない脅威のための練習としてという意味よりも
とりあえずわちゃわちゃ遊んでいたいという思いを感じた
みんなの熱意で僕もやりたくなってきたくらいだ
「じゃあまず光vsみぃかな!!!」
「両者|領域《フィールド》へどうぞ!」
フィールドだなんてかっこつけた言い方しちゃって
べりさんは威勢良くそう言った
特に武器は持たずにすたすたとフィールドへ出る
光はいつもの矢筒と弓を持って来た
矢筒には普段と同じくらいの量の矢が入っている
「では!!!両者整いました!!!」
「レディ!!!」
どこから持ってきたのか
べりさんが赤色の旗を振り下ろす
「ふぁいっ!!!」
旗が上がった瞬間に光は弓を引いた
相手が遠距離なら僕は有利である
身長を縮めてしまえば的が小さくなって当たりにくくなるからだ
急いで糸を生成して身長を限界まで縮める
その糸の両端を輪になるように結ぶ
決着はどちらかが
気絶するか10秒以上の拘束を受ける
もしくは残り体力20%になった時点で決まる
そこで今回僕が狙うのは気絶だ
糸を使えば首を絞めて気絶させることができるだろう
光は絶対に残り体力20%の方を狙っている
ずっとこちらに向けて矢を射ってくるからだ
そのせいでなかなか近付くことができない
そして次の瞬間視界が真っ白になった
それは2秒ほど続きだんだんとぼやけて見えてくる
やられたと思い逃げようとするも遅かった
もう既に僕の右足には矢が刺さっていた
その衝撃で床に転ぶ
今ので2割削られた
単純計算であと三発食らったらおしまいだ
刺さった矢を引き抜いて歩こうとするも右足が動かしづらい
何より痛い
あとでポーションを使わせてもらおう
「いけーー!!みぃー!!」
「がんばってー!」
糸を握り直して立ち上がる
目の前に飛んできた矢は糸で防ぐ
光のレベルは僕より低い
なかなか糸を切らせることはないだろう
カウボーイみたいにして輪っかを光の方へ投げる
急いで光も身を|躱した《かわした》がちょうどそこに輪は着地した
首にかかった
今だと思いその糸を思い切り引く
光は前方向に倒れた
「いったぁあい」
起きあがろうとする光の首を抑える
思い切り糸を引くと何か言おうとする光の声も薄れていって
やがて聞こえなくなった
死んではいないから大丈夫だ
「え、、、みぃこわ、、、」
「でもすごくいい練習にはなりそうだよね…?」
「確かにそれならやる意味ある」
「じゃあ次の方!」
わんこと僕で光を運ぶ
光はすぐに目を覚ました
「え?わたすまけた?」
「うんそうだね」
「おつかれ」
「えぇー!絶対勝ったと思ったのに」
次はマンドラゴラとフェンリルだ
今更ですが感動系は感動系でも感動シーンのない話にタグ入れるのはどうかと思いまして
とりあえず外してみました()
最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第二十二話「ご利用は計画的に」
フェンリル視点
みぃと光を見ていて少し怖くなった
勝つには気絶か拘束、攻撃をしてダメージを与えないといけないけど
それを相手も同時にやってくる
本当に敵が来た時の練習だと思って本気でやろう
これも大事な訓練だ
「マンドラゴラいける?」
「うん、フェンリルは?」
「いけるいける」
べりにフィールドへ行くようにと背中を押される
なんだか少し遊ばれているような気もした
「では両者整いました!!!」
「レディ!!」
「ふぁいっ!」
振り上げられた旗は音を立てる
その後は沈黙が続いた
お互い様子見に入っている
腰の太刀に手を当てる
するとマンドラゴラは胸の辺りのベルトから銃を取り出した
それをこちらに向けてすぐさま撃ってくる
しかし何もこちらに飛んでこない
そのまま太刀を引き抜いて急接近しながらマンドラゴラを斬りつける
マンドラゴラの左腕を少しかする
半袖なので、刃は直接触れて少しだけ血が飛ぶ
マンドラゴラは少し笑っているような気がした
こいつMなのか!?とか思ったが全然そんなことはなかった
何が起きたのかを一瞬で理解した
さっきマンドラゴラが撃ったのは、毒の霧だ
だから銃弾は見えないしこちらに飛んできもしない
しかしマンドラゴラに近づいた今それを吸い込んでしまったわけだ
今になって紫色の霧がふわふわと見える
すぐに距離を取ろうとマンドラゴラとの間に氷の塊を出現させた
これが後の命取りになりことも知らずに…
「やるじゃん…」
「まだまだだよ?」
マンドラゴラはそう言って能力を発動させた
心臓の奥深くでどくんどくんと波打つ音が聞こえる
だんだんとそれは大きくなっていき、手首の血管が紫色に浮き出てくる
頭がくらくらして立っているのもギリギリだ
氷に手を付いて座り込む
「お前強すぎだって…」
「へっへーん」
みるみるうちに体力は削られていく
もう残り75%だ
おそらく能力使用による代償のせいでこんなに重いんだろう
使わなければよかったと思ったがもう遅い
それならば散々使いまくってやろうじゃないか
僕を見下すマンドラゴラの頭上に氷の塊をゆっくりと生成する
空中に作るのは時間がかかるがマンドラゴラは気付いていない
ボーリングの球くらいの大きさで止めておく
「マンドラゴラ」
「なに?ギブ?」
「君がね!!!」
氷の塊をマンドラゴラの頭に落とす
ダメージも入っただろうが倒れ込んだマンドラゴラに追撃を仕掛ける
太刀を首元に当ててこう言う
「降参、だろ?」
「こ…降参…」
意外とあっさり終わってしまったがこれはこれでいいだろう
まだペア戦もあるみたいだしそれまでに回復をしておかねばならない
「勝者!!!フェンリル!!!」
「フェンリル大丈夫?マンドラゴラも、光とみぃと一緒に休んでてね」
そう言われてわんこからポーションを一つ受け取った
壊れた世界の救い方 第二十二話「お取り込み中」
夜春視点
もう私の番だ
べりさんは我先にとフィールドへ出ていってしまった
私は最近あまり触っていなかったムチを手に取った
少し懐かしいようなあの感覚を覚える
くるくると巻いて腰に装備しておく
私の1番の武器はこれじゃない
そう、催眠だ
べりさんのレベルの方がおそらく低い
いくつかは分からないが、少しは効くだろう
そこで拘束時間として時間を稼いで勝つ
これが作戦だ
「夜春〜!行ける〜?」
べりさんがこちらまでばっちり聞こえるような大きな声で言った
「いける!」
私はそう言ってフィールドへ急ぐ
わんこは口で赤い旗を掲げる
「では両者準備は万端のようです!!!」
わんこがそう言った途端にべりさんは水筒を取り出しゴクゴクと飲み始める
投げられた空の水筒をフェンリルがキャッチする
「ではレディ…」
真剣でかつ、少しピリつくような空気が流れた
緊張して冷や汗が伝った
「ふぁいっ!!!」
先行はべりさん
わざとだ
思った通りべりさんはすぐさま足からナイフを取り出しこちらに向かってくる
能力発動
さて効果は如何なものか
能力発動中は著しく防御力が低下して
一撃でも喰らえば致命傷レベルにまで下がるが
それ以上のメリットが生み出せる
「夜春ぅううう!!!このぉおおお!!」
べりさんはどうにも動かない足を押さえている
その隙にムチをべりさんの体にかけて後ろに回り込む
驚いた様子のべりさんは必死に動く手でムチにナイフを当てている
ムチを握っている左手からは血が流れた
そしてそのムチを思いっきりこちらの方向に引く
無数のトゲがついたムチが皮膚を攫う
「まだ負けないよ」
べりさんは辛そうな声でそう言うが
思ったよりレベル差があるのだろう
催眠は思ったよりもよく効く
今は体への効果しかないが、そのうち脳にも回る
「能力発動!」
べりさんの手には3mはある長さの槍があった
少し気を抜いていた私は槍に足を取られて転んでしまう
血塗れの左手で握られたナイフは今、私の首元にある
「この勝負、いただきっ!」
「させないよ?」
「能力強化!!」
べりさんの左手はカタカタと震え始める
そのままその手をべりさんの首にへと移動させる
「なっ…なんで…!?」
「動かない!!!」
少しやりすぎて少し喉が切れてしまったところでわんこにストップをかけられた
私の勝ちだ
「べりさんレベルいくつ?」
「え…7…だけど…」
絶対にそのせいだ
私の今のレベルは14
べりさんの倍だ
今まで続けてきた売り歩きのおかげだろう
何度も襲いかかってきたモンスターを倒していた
「私は14」
「べりさんどんまい…」
「えぇえー!絶対無理だったじゃんか!」
少し笑みを浮かべながらもべりさんは悔しそうだ
まあ色々あってもう次のラウンドへ行こうとしている
みぃvs光の勝者はみぃ
マンドラゴラvsフェンリルの勝者はフェンリル
そしてべりさんvs私の勝者は私夜春
トーナメント表を見る限りでは私は次にわんこさんと戦うことになっている
次のみぃフェンリルでどちらが勝つか分からないが
わんこさんに勝ったら次はそこだ
次の試合にわくわくしていたその時
外で大きな音がした
「え!?何事!?」
「ちょっと見に行ってくる!!!」
わんこさんは外へ走っていってしまった
それを追いかけるようにしてついていく
ななななななんと月下民以外の人
短編カフェの一般の方からファンレターをいただきました!!やったね!!
いやその本当に本当に嬉しいです
見てくれてる人いたんだぁあああありがとうございますぅううう
これからもよろしくお願いしますよ()
最後まで読んでくれてありがとうございました()
壊れた世界の救い方 第二十三話「跡地」
マンドラゴラ
「わんこ待ってよ…!」
わんこはどんどん進んでいく
慣れたよ様子でゴツゴツした地面を駆け上がる
そしてすぐキッチンへ出るはずだったのに
そのはずだったのに
どこかで道を間違えたのか行き着く先は外だった
「あれ…」
嫌な予感がする
後ろには巨大な影があって
俺の影を覆い隠すようにしてゆっくりと動いている
「わんこ…俺…」
「逃げていい…?」
「動かないで」
「動いたら向こうも襲ってくる」
わんこはそう言うが怖すぎる
得体の知れない謎の大きなモンスターが背後にいるというのに
しかもそれが分かっているというのに
俺は逃げ出せないでいた
「…!」
少し視線をずらすと洞窟から出てこようとしているべりたちが見える
しかし俺の後ろにいる何かを見るなりすぐ引き返していった
どんだけやばいやつがいるんだろう…
俺も今すぐべりたちの元へ逃げたい
「わんこ、これいつまで」
待ってればいいのと言いかけた
俺のすぐ右に巨大な岩が飛んでくる
モンスターの仕業だろう
「マンドラゴラ逃げるよ!!!」
わんこは急に動き出す
追いかけるようにして俺は洞窟まで戻った
そして後ろを振り返ると大きな音を立てて岩が落ちてきた
そう、洞窟の入り口にだ
岩のせいで急に真っ暗になり入り口が塞がれる
「あっぶねええええええ」
まだ震える足で洞窟を進んでいく
見覚えある道だ
そのまま行くと温泉もあった
べりたちはさっきの場所で固まっていた
「キッチンに寝室…畑も…家畜たちも…」
「全部なくなってたよね…」
頭を抱えるべりの背中を夜春がぽんぽんと叩いている
「もうこうなったらさ、みんなで別の街に引っ越さない?」
「るみなさんが行ってた街」
「探せばきっとあるよ」
あんなことをされては引っ越し以外の選択肢はない
だが少し心残りになるものだ
「うん…」
相当べりとわんこはここが長いんだろう
どこか悔しそうな表情を浮かべていた
ガンッ
ドンッ
絶対にあいつだ
地上から殴られているのか岩を投げられているのか
そんなような音がする
恐怖を掻き立てられるような音は長く続く
「ねえもう逃げなきゃやばいかもよ…」
「でもどこから逃げよう…」
皆で顔を見合わせる
まるで、お前何かできないかとでも言うようだった
ドンッ
ガンッ
ガラガラカラカラと天井が砕けて石が落ちてくる
洞窟ですらこんな早く壊されてしまうのか
そんなやつ真っ向に勝負できるはずがない
余計逃げなければいけない状況だ
「あ!!!そうだ!!!」
「裏道があったはず…!」
べりは急に立ち上がりその裏道とやらがあった場所まで走った
そう、あった場所に
裏道は落ちてきた岩で塞がれてしまっていたのだ
ドンッ
ドンッ
ドンッ
鈍い音が洞窟内で反響する
音だけで今にも押しつぶされてしまいそうな威圧感を感じる
「もうどうすればいいの…」
「ここで死ぬの?」
「そんなこと言わないでよ」
みぃはもう諦めかけている
光はまだ諦めずに周りをひたすら見回していた
ピシッ
その瞬間天井に大きなヒビが入った
「みんなこっち来て!」
フェンリルはドーム状に分厚い氷を生成する
その中に全員が逃げ込んだ
そしてまたドンドンと音が聞こえるたびに天井が崩れ落ちていく
ところどころ地上の光が差し込み始めた頃だ
洞窟が崩壊した
---
フェンリル視点
かなり大きめの氷を生成してしまった
少し歪んでいる部分もあるがまあドーム型の氷
分厚くしたせいで少し体調が優れない
上から降ってくるものに当たるとぽんぽんと音を立てている
いきなり洞窟が崩れてモンスターが落ちてくる
一瞬だけその姿を確認したが
すぐに上から降ってきたもので埋もれて見えなくなってしまった
「これ氷壊したら私たち下敷きになるよね…」
夜春が氷を指でなぞりながら言った
氷を壊そうとしてナイフを出したべりはそれを聞くなりナイフをしまう
「あっ、そんな心配しなくていいかもね」
みぃが何かを悟ったようにしてそう言った数秒後
巨大な拳が土や石などと一緒に氷を吹き飛ばした
あいつだ
5mはあるであろう身長に異様に広い肩幅
ごつい筋肉質の腕が特徴的な人型モンスターだ
「こいつ!ボスモンスターじゃん!!!」
わんこはモンスターの首元を指差す
何か首輪のようなものがついていた
「あれがボスモンスターの印」
「あの色だとレベルは15あたりかも…」
首輪の色は水色だ
僕の記憶ではボスモンスターの首輪の色はレベルや能力
その他ステータスなどを加味した強さを表すものだったはず
その中でもレベルの影響力が強いのは周知の事実だ
確か色を弱い順に並べると
1青色
2水色
3緑色
4黄緑
5黄色
6橙色
7赤色
8紫色
9白色
10黒色
この順だ
かなり数がある
その中でもこいつは下から2番目の強さらしい
もっとも僕たちのレベルが低いので強敵であることには変わりないが
「こ、こここれどうすんの!?!?」
「逃げる!?!?!?」
マンドラゴラは慌てている
僕も確認を取ろうと思い話そうとしたがその前にモンスターのほうが殴りかかってきた
呑気に話をしている場合ではないようだ
「ぐ ぁ" ぁ"ッッ!?」
逃げ遅れたマンドラゴラの足が巻き込まれる
地面とモンスターの拳は隙間なく触れていた
急いでマンドラゴラの腕を引っ張り連れ出した
マンドラゴラは何が起きたのか分かっていないようで
自分の足を見るなり困惑していた
「え…」
「えっ…?」
マンドラゴラを担いでその場を離れる
「絶対勝てない!!逃げるよ!!!」
負傷したマンドラゴラをおんぶしたまま走る
たまに後ろを振り返ったが
そこにあったのは家じゃなくなったものだ
今までの思い出と共に全て粉々にされていた
幸い相手の足は鈍くてそれ以上追いかけては来ずにそのまま見失った
今回長めです!!
土日分です!許してください()
そして私修学旅行に行って参ります
その3日間投稿ができないわけですね
でもべりさんの小説読みたいよぉおおおおって方
朗報です
なんと私が修学旅行に行っている間も
予約投稿で小説が投稿されます!!!
やったね!!!
私が修学旅行から帰ってきた時
たくさんのファンレターが見れることを楽しみにしてまs(((((
ファンレターくださi(((((((
誤字報告も助かってます()
ありがとうございます()
では今回も最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第二十四話「さよならを知らない」
マンドラゴラ
痛い?
痛い
痛い
できるだけ足は見ないように
何が起こっているか理解しては
さらに痛くなる気がする
折れた骨が曲がって肉に刺さるこの感覚
潰された部分が足に垂れ下がっている
気持ち悪い
フェンリルは俺のことを思って抱えて逃げてくれていると言うのに
多少なりとも揺れるせいでその度に激痛が走る
もういっそ置いていって死なせてくれた方がマシだ
「マンドラゴラあとちょっとだからね…」
「う、、うん、、、」
だんだんと痛みに慣れてきた頃
あいつの姿は見えなくなりフェンリルはその場に俺を下ろした
「わんこ!救急箱!!!」
わんこはフェンリルに言われる前からこちらに向かって来てくれた
わんこの首輪についている小さな箱を開け薬品を出す
小さな瓶には緑色の液体が入っている
「これひどいよ…薬だけじゃ治らない」
液体をかけられた瞬間少し染みて痛かった
だが潰されたことによる痛みの方が大きく直ぐにかき消される
薬のおかげで滴り落ちる血は止まる
表面上の見た目はかなり改善された
しかし折れた骨までを治すことはできないようだ
わんこは枝を拾ってきて俺の足に当てる
それを包帯で巻きつけて添え木にしてくれた
固定させられることで少しは痛みが引く
「ありがとう…」
「ごめんね、もっと早く逃げていたら」
「こんなことになってなかったかもしれないのに」
べりは涙目でそう謝った
別に誰も悪くないのに
何もかもを失ったような喪失感
無実の人を悪いように思わせ、泣かせてしまったこと
今までにないほど自分の無力さを感じた
胸が締め付けられるように苦しくなった
「大丈夫だよ、べりは悪くない」
光や夜春、みぃまでも俺を中心にみんなで囲った
なぜかこれが幸せな気がする
本当になぜだろう
ありがとう、みんな
しばらくの時間が経った
ずっとここにいても仕方ないと移動することにした
歩けない俺はフェンリルと光の肩を借りて立ち上がる
夜春はにこにこと笑って遠くを指差す
「ねぇみんな、街が見えるよ」
指差す方向をよく見てみれば
だんだんと暗くなる空をを負けじと照らす灯が見える
立ち並ぶ建物からは美味しいご飯の匂いが流れている気がした
そんな街から1人こちらに向かって走っている
ここまで見えると言うことは結構前から走っているだろう
「夜春ーー!!!!」
遠く大きな声でそう叫んでいた
「るみなさん!?!?」
やっと気付いたのか夜春はその人の方へ走っていく
「えっ?どうしよどうしよ本当に夜春じゃん!!!!」
「会いたかったぁああああ!!!!」
「夜春だあっ夜春だぁっ!」
「生きてたあぁっ、、良かったぁああ」
荒い呼吸を整えながらその人は夜春に抱きついた
夜春は優しくそっとその人を抱き返す
「こっちのセリフだよ…るみなさん…」
夜春からはそのるみなという人について詳しく話を聞いた
どうやらこの人は夜春が売り歩きをしていた頃からの仲で
売るための商品はほとんどるみなから買い取り
それを売ることで夜春は生計を立てていたという
オードルフの襲撃から2人は離れ離れになってしまっていて
お互い心配していたらしい
しかしこんなところで会うだなんて奇跡が過ぎない
「こちらの方々は夜春のお友達?」
「よろしくお願いします、るみなです」
1番近くにいたみぃに何か紙を渡す
それにはRuminaと書かれており地図のようなものが小さく載っていた
「私商売というか、ほぼ何でも屋なんですけど色々やってるんです」
「よければ来てください、怪我の方もおられるようですし」
るみなは俺の方を見てそう言った
少し恥ずかしい
そんなこんなで俺たちは新しい街へと向かうことにした
壊れた世界の救い方 第二十五話「マ虐」
マンドラゴラ視点
「ここにお掛けになってくださいねー」
るみなに連れられて街の中まで案内された
今いるのはるみなが営んでいるという何でも屋の中である
本当に何でも屋というだけあって
食料品から医薬品
武器防具によくわからないモンスターの素材まで
色んなものが店に置いてあった
「じゃあ見せてもらってもいいですか?」
「少し動かしますよ」
椅子に座らせられた俺の足を台に乗せる
添え木で固定してあるが動かすとまだ少し痛かった
「これはひどいですね」
「何したんですか?」
俺がなんて言えばいいのだろうと黙り込んでいると
光が最初に口を開いた
「マンドラゴラが粗相しました」
ってはぁ?違うわぼけ
それを聞いてみんなが笑う
るみなまでもそれを見て笑っている
「違います、粗相はしてないと思います」
「モンスターにぶん殴られただけです」
「じゃあそれが粗相ってことだね」
るみなは手を叩きながら爆笑している
何がそんなに面白いんだ
こちらはブチギレ案件である
「水色ボスモンスターにここまでやられたんだよ」
「家も粉々にされちゃった」
夜春が俺を庇うようにしてそう言ってくれる
流石だ、夜春
「え???水色に???」
「そりゃあ粗相だwww」
それを聞いてるみなは更に激しさを増して笑った
「はーお腹お腹いたいwwww」
るみなは服の袖で涙を拭っている
「でもあれ多分水色以上だと思う」
「星付きだよね、多分」
「星付き?」
なんだそれ
つい聞き返してしまった
首輪の色以外にも区別があるというのか
「うん、星付き」
「特に強いボスモンスターには星が付けられるんだよ」
「そっかぁ星付きならしゃあないな」
るみなの反応を見るに星付きは相当強いらしい
やっとのことでるみなは治療を始める
まずは添え木している枝を取って少し揺らした
「痛い痛い」
「何してるんですか」
「へーこりゃ星付きだ」
「殴られたの一発だろ?」
「多分そいつ最近結構暴れてるんだよ」
「何人もこんな怪我したやつがここに来たからね」
殴られただけの跡を見てそんなことまでわかるというのか
多分なにか回復系の能力なのだろう
魔法陣を出現させ、辺りは緑色の光に包まれた
そしてるみなは俺の足を揺らしてくる
痛いって…あれ?、痛くない
「どう?もう大丈夫だよ」
足を乗せていた台を横に移動させて俺を立たせる
なんともないくらいひょいと立てるし痛くない
すごい能力だ
「ありがとう」
「普通なら治療費として金取るんだけどね」
「夜春のお友達サービスだよ」
「またなんかあったらいらっしゃい」
案外良い人だった
そのあとは何でも屋で少し消耗品の買い足しをしたり
街の中の探索をしたりした
美味しそうなスイーツ屋さんを見つけた時にはみぃと光が吸い付いて動かなかった
しかしもう時間が時間なのもあって空いてない店がほとんど
また今度ねということで宿屋にやってきた
「7名様2部屋ですね、1泊30Gになります」
私が奢ったるぜ、とでも言いたげな顔でこちらを見ながら
夜春は財布を出して30Gを支払った
「夜春ありがとう〜今度何か美味しいもの作ってあげるからね」
「本当?やったぁ!!」
「…でさ、誰がどの部屋いく?」
部屋は2つ
大きめの部屋と小さめの部屋
4、3で別れるのが妥当だろう
「私べりさんとがいーな!」
「私も夜春とがいーな!」
「僕べりやだ…」
みぃはそう言って光と俺の近くへ来た
「えぇみぃひどーい!」
「わんこはどうする?こっち来ても良いんだよぉ???」
「じゃ、じゃあそうするね」
少し苦笑いをしながらわんこはそう言った
べり夜春わんこ
みぃ光フェンリルマンドラゴラ
大小二つの部屋に無事別れることができた
疲れていたのだろう
皆軽く部屋のシャワーを浴びて直ぐに寝た
最後まで読んでくれてありがとうございました!
おそらくこれが投稿された頃には私修学旅行2日目ですね
予約投稿に感謝感謝
壊れた世界の救い方 リクエスト番外編「◯◯しないと出られない部屋」
今回リクエストになります
リクエストくれた方ありがとぅ!!!
R18にしておくね!!!
flare視点
目が覚めるとここにいた
見知らぬベッドの上
隣にはレイトが寝ている
小さな部屋の壁には張り紙があった
--- ここは◯◯しないと出られない部屋です ---
は?
意味がわからない
俺何かしたっけ
--- 隣の方と一緒に次のお部屋へれっつらごー ---
完全にふざけている
ピンク色のドアが余計にだ
俺は何がなんでも早く出たいのでレイトを起こさずドアを開けた
ピピーーーーー
突然警報が鳴る
びっくりしてドアを閉めてしまった
それだけではない
レイトが起きた
「ん?何事?」
「最悪だよ」
「え?」
何も分かってないレイト
そう知らなくて良い
俺は急いで貼ってあった張り紙を剥がす
「一緒に出るぞ」
「は、はぁ…」
今度は警報は鳴らなかった
しかし今度はまた同じような部屋に出る
そして同じ場所に張り紙がしてあった
--- キスしないと出られない部屋 ---
「え?何これ」
レイトがそれを見つけてしまった
俺は仕方なく先ほど貼ってあった紙をレイトに差し出した
「なるほど…そりゃあ最悪だ…」
レイトは顔を|顰める《しかめる》
しばらくその張り紙と睨めっこをしたのちこう言った
「これドア物理的に壊せない?」
「燃えないかな、これ」
良い案かもしれない
どうしてもやりたくないのはお互い様らしい
少し安心した
「やってみる」
普段能力を使う時と同じように両手を軽く広げる
その手を勢いよく前に出して能力を発動させる
だが、空中に火の粉が舞っただけ
ドアはびくともしない
もう一回やってみる
さっきより勢いよく手を前に突き出したり
ゆっくり時間をかけてやってみたり
しかしドアが燃えることはなかった
「蹴ってみるか」
全然燃えないドアを見たレイトは足で思い切りドアを叩いた
何度蹴ってもまず音がしない
まるでそこにはドアなんてないみたいだ
「どうすんのこれ…」
「だるすぎ…」
「これの一回で済むなら良いんだけど」
「ふりゃの腕くらいならキスしても良いよ」
それで済むなら大歓迎だ
こんなところ早く出たいに決まってる
長袖の服を着たまんまの腕をレイトに差し出した
レイトは何の戸惑いもなくそれに口をつける
そして何かがカシャリと音を立てた
「開いた」
ドアノブを捻ってドアを押す
きぃっと音を立てながらドアは開いた
「…ふりゃ、来なくて良いよ」
レイトは次の部屋を見るなりそう言った
「俺が入らなくてもいけるん?」
「うんいける、多分」
ドアを閉められてしばらく放置された
レイトは中で何をしているのだろうか
20秒ほどでレイトは戻ってきた
「開いたよ」
「ありがとう?」
部屋に入ると空になったコップが2つ置いてあった
多分飲めってことだったんだろう
何が入っていたのか知らんが被害がレイトだけならそれでいい
「はぁっ…はぁっ…まあ次行こっ…」
レイトが何を飲んだのか
レイトが破ったであろう張り紙が読めた気がする
確かに俺はそんなの飲みたくない
しかもレイトとなんてお断りだ
次の部屋にいくと大きなベットがあった
もう嫌だ帰りたい
いや帰るためにやってるのか
でもこんなことならいっそ死んだ方がマシだ
「張り紙が…ない…」
しかもいやらしいことに張り紙がない
この状況を見て何をすれば良いか察しろってことだろう
最悪すぎる
でもさっき薬を飲んだレイトは乗り気だった
俺の腕をベットの方へ引っ張った
「レイトガチなの?」
「怒るよ?」
「でも出るためだよっ…」
「ふりゃ…♡」
おえっ
気持ち悪い
こんなことさせといてなんだが
作者も気持ち悪いです(え?)
「ふりゃっ…はやくして…♡」
レイトの目はとろとろにとろけている
そしてなんだ
服を脱ぐな
本当に最悪だ
レイトの力は本当に強く
いつもだったら燃やしているがそのままベットに入ってしまった
---
--- ご想像にお任せタイム ---
---
ドアが開いた
勝手にだ
そこは知らない場所だった
気まずすぎるレイトと一緒に何時間か彷徨ったのち
やっと帰ることができた
これからは日頃の行いに気をつけよう
今までにないほどそう固く
本当に固く
決意した
最後まで読んでくれてありがとうございました(白目)
壊れた世界の救い方 第二十六話「食の誘惑」
みぃ視点
暗いうちに目が覚めた
まだ光もマンドラゴラもフェンリルも寝ている
こっそりとベットを抜け出した
夜の街、綺麗なんだろうな
昨日探索した時に見つけたお店がある
開店時間は夜の24時から
飲食のお店らしかった
なぜそんなにその店に行きたいのかというと
それは店の前に飾ってあったメニューにあった
--- 夜にしか提供できない特別なお料理ご用意しております ---
--- お魚、お肉、野菜、果物まで ---
これのせいだ
そして今日はなんと取ってきたばかりの魚を入荷する予定らしい
僕はこれを食べるために早く起きたと言っても過言ではない
宿屋を出る時に横目で見た時計は2時を指していた
まだ間に合う
閉店は3時のなんと開店時間が3時間しかないお店だ
駆け抜けるようにしてまだ慣れない街を走っていく
それでもしっかり記憶していたので迷わず店まで辿り着いた
店のドアを開けようとしたその時
何か布のようなものを口に当てられる
「んんっ!?」
そのまま体が持ち上げられて、どんどん店から離れていく
勝手に抜け出したことがマンドラゴラとかにバレたのだろうか
必死に暴れて抵抗する
しかしだんだんと体に力が入らなくなってくる
息を吸おうと吸い込むとよくわからない甘い香りがする
だんだんと眠くなってそこで意識が途絶えた
---
光視点
窓からの太陽の日差しで目が覚める
ゆらゆらと揺れるカーテンを見つめてぼうっとしている
「あ、光おはよ」
もうすでに起きていたフェンリルとマンドラゴラがそう言った
「あれ?みぃは?」
「分からない、俺たちも今起きたところ」
「隣の部屋にでもいるんじゃないかな」
フェンリルはまだ寝ぼけているのかぼやぼやしている
マンドラゴラは結構前から起きていたのか
銃に詰めるための弾の整備をしていた
「そうなの?見に行ってくる」
鍵は持っていないのでドアの前に立って軽くノックする
そうすると夜春のはーいという声が聞こえてドアが開いた
中ではべりさんとわんこがアルプス一万尺をして遊んでいる
「あ、光だ」
「おはよ〜」
こちらに気付いたべりさんが挨拶をする
「みぃこっちにいないの?」
「なんかいなくなってるんだけど」
べりさんたちはキョトンとした顔をしている
少し周りを見回した後にわんこがこう言った
「みぃ来てないと思うんだけど…」
「そっか、ごめんね」
「入り口の辺にあった食堂にいるんじゃないかな」
「おっけー行ってみる」
食堂という言葉を聞いて少し思い当たることがあった
昨日街を探索していた時に見かけた店だ
みぃが異様に行きたそうにしていたけど、開店時間が遅くて諦めた
もしかしたらそこに行っちゃったのかなと思いながらも食堂へ向かう
他のお客さんたちがテーブルに座って色んなご飯を食べている
ラーメンやうどん
どんぶりものからたこ焼きまである
しかしどこを見てもみぃはいなかった
壊れた世界の救い方 第二十七話「なんでだよ」
みぃ視点
「ママ!ボク頑張ったよ!」
「お料理して!お料理して!」
「あらぁ偉いわね」
「じゃあ今作ってるスープに入れちゃいましょう」
戻りつつある薄い意識でそれを聞いていた
ん…待てよ
スープに入れちゃいましょう?
だんだんと熱い蒸気のようなものが足に触れる
何が起きたんだろうと目を覚ました
周りには大きな鍋を取り囲む10匹ほどのゴブリンが
俺を摘み上げている青色首輪のでかいゴブリンと目が合った
「あら!まだ生きているじゃない」
「スープにするには勿体無いわ」
「新鮮ならお刺身にしてしまいましょう」
「やったー」
「わーい」
「えっやめてよやめて!?!?」
そんなこと言っても聞いてくれるはずがなく
必死にゴブリンの腕を叩くが何も効いてない
「誰か助けてぇえええ」
「あれみぃ?」
「何してん?」
聞き覚えのある声が聞こえてくる
「?」
声の下方を振り返る
するとそこにはゴブリンの着ぐるみを着たるみながいた
「いやるみなこそ何してるの???」
るみなはポケットから閃光玉を取り出して投げた
目を瞑っていた僕は大丈夫だったが
青色首輪のゴブリンはびっくりして僕から手を離した
「あぶねっ」
鍋に落ちる寸前だった僕を鍋の端に立ったるみなが受け止めてくれる
「ありがとう…」
「良いよ、てか本当なんでここにいるの?帰るよ」
るみなが口笛を吹くと空から小ぶりのドラゴンが舞い降りる
その足にぶら下がった縄に捕まってその場を離れた
だんだんと街が見えてくる
近付くにつれて宿屋の外でキョロキョロしているマンドラゴラたちが見えた
「おーいここだよー!!!」
空を飛ぶのは楽しいものだ
ついテンションが上がってしまった
上を見上げたマンドラゴラたちに手を振る
「みぃなにしてんの!?!?」
「心配したんだよ!?」
「てか後ろのゴブリンなに???」
るみなさんはそう言われて着ぐるみの頭を取った
るみなですよーとでも言いたげに満面の笑みを浮かべている
「るみな…?」
地上に降りて僕を下ろすとるみなはどこかへ行ってしまった
マンドラゴラたちを集めて何が合ったのかを全て話した
夜中に外に出た僕が悪いのだが
こんなことになるなんて思いもしなかった
「みぃよかった…」
「今から別のお店行こうね?」
「スイーツとか!」
光は相当楽しみにしているらしい
ぴょんぴょん跳ねながら辺りをうろちょろしている
「そうだね〜行こっか〜」
そんな光の頭をぽんぽんを叩いてフェンリルは微笑んだ
「てかみぃ口に何かついてるよ?」
べりが僕の口をハンカチで拭うと黒いハンカチには白い粉がついた
「なんだろう…」
「怪しい薬でもキメたの??」
「なわけないでしょ!」
「多分布当てられた時に付いてたんだよ」
「そっかぁ」
そんなこんなで今日は街を精一杯楽しむことができる
次に何があるかわからないので今のうちだ
1日に小説3話書いてるんだぜ…すげえだろ…(予約投稿のため)
最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 二十八話「朝食に溺れて」
beri視点
「とりあえずみぃそれ落としに行ったら?」
「やばい人みたいだよ」
「わかった」
みぃはここから見える公園の水道まで走っていった
みんなは歩いてみぃについていく
「公園って良いよね」
「落ち着く」
木陰に座りながらわんこがそう言った
大きなあくびをしている
私も公園は好きだ
特に朝の人が少ないくらいの公園が1番好き
理由は雰囲気が良いからとしか言いようがない
特にこれという理由はないのだ
みぃが洗い終わると今度は美味しいスイーツのある店に行くことにした
そこはカフェみたいなところでモーニングもやっている
店の前のメニュー表を眺める
「私これ食べたーい!」
夜春はピザトーストのセットを指差す
カバンから財布を取り出して中身を確認している
「じゃあ俺はこれにしよ」
マンドラゴラはコーヒーとサンドイッチのセット
「えーみんな美味しそうじゃん」
「じゃあ僕これにするけど」
「みぃ一緒に食べない?」
「良いよ!!!」
フェンリルが選んだのは魚のフライのセットだ
大きなアジフライが2つもある
「べりさんとわんこさん何にする?」
「私夜春のピザトースト気になってるんだよね」
「それにしようかな」
私がそう言うと光はわんこのほうを振り向いた
「そういえばわんこさんって普通にご飯食べれるんですね」
「犬なのに」
「犬で悪いな!」
わんこは笑いながら返した
店で選ぶと言ってわんこと光は店に入っていった
注文が決まっている人たちもそれに続いた
「何名様ですか?」
「7人です」
「すみませんテーブル最大4人までの席しかなくて」
「別れてしまうんですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
「では案内しますね」
かわいい格好の店員さんについていく
店はそこまで広いわけではないが狭すぎるわけでもない
外にもテーブルがあってとってもおしゃれだ
テーブルは2つ隣のを使い男女で別れた
中心にメニューを置いて決めておいたものを注文する
まだ決めていなかった人たちは何故か皆ピザトーストにしていた
小さなケーキが付いてくるからだ
「こちらピザトーストになります」
「ごゆっくり」
ピザトーストが光、わんこ、夜春、私の分で4つ運ばれてきた
女子は全員ピザトーストだ
湯気立つパンの上にはトマトソースがたっぷりと塗られている
その上に焼き跡の綺麗なぷりっとしたコーンが散らばって
輪切りのピーマンの隙間を埋めるように熱々のチーズが乗っている
半分に切って両方を手で引っ張ってみる
チーズは引き伸ばされて長く伸びる
それが切れるまで伸ばした後に片方を口に運ぶ
熱々の具材がチーズと混ざり合ってとてもまろやかに感じる
トマトソースの酸味と相性抜群だ
表面はカリカリ中はふわふわに焼かれたパンの
優しい小麦の香りが鼻を抜ける
「うまあっ!!!」
思わずそう叫んだ
まだ食べていなかった夜春たちも
こちらを見るなりピザトーストに手をつける
「本当だ美味しい!」
デザートのケーキは選べたのでチーズケーキを選択した
上に載っていた果物と一緒にフォークで刺して食べてみる
濃厚なミルク感をダイレクトに感じられ
小さいケーキでも十分な満足感を得ることができた
「ごちそうさまでした!」
あまりのおいしさに他の人より早く食べ終わってしまった
壊れた世界の救い方 第二十九話「異変」
beri視点
私は早く食べ終わってしまったので他の人が食べ終わるのを待っていた
アジフライ美味しそうだなぁとみぃとフェンリルを見ている
みぃが再びアジフライにかぶりつく
「げほっげほっ」
みぃが急に咳き込んだ
心配したフェンリルが優しくみぃの背中を叩く
「げほっげほっ…」
みぃの咳は治まらなかった
アジフライが悪いのか
はたまたさっきみぃの口についてた何かがいけなかったのか
同じくアジフライを食べているフェンリルは咳をしていない
なので後者だろう
「ちょ、ちょっとトイレ連れてくね」
あんまりにもみぃが激しく咳をするのでフェンリルはトイレに連れてった
大丈夫だろうかと心配してわんこはその跡をついて行く
それなら私もとわんこを追いかけるようにして席を立った
「ゔっ…おえぇ…」
扉越しにでも聞こえてくる
あの白い粉の正体はなんだったんだろうか
「はぁっ…はぁっ…うっ…」
ぴしゃぴしゃと水が落ちる音がする
「みぃ!?血!?」
フェンリルが驚いて扉にもたれかかってきた
すりガラスからフェンリルの影が見える
「本当に大丈夫?」
「てか大丈夫じゃないよね」
「わんこどうする?」
「お医者さん呼ぶ?」
「それしかないよねえ」
わんこは店員さんの元へ行ってしまった
きっとこの辺りの病院か何かを聞きに行ったんだろう
その間も絶え間なく水の落ちるような音がする
「みぃ…?みぃ…!?」
「いやだっいやだっ!!!やめてっ!!!」
「いやぁあああっ!!!」
急にフェンリルの叫び声がする
これはいけないと思い私は思わずドアノブを握っていた
少し捻るとフェンリルの体重で扉が勝手に開く
倒れそうになるフェンリルの背中を支えた
その扉の先には口からは大きな牙が剥き出し
鋭く伸びた爪に2mほどの身長
赤い目を光らせたみぃ…みぃではないものが
そこに立っていた
「み…みぃ…?」
フェンリルはガタガタと震えている
わんこは夜春たちと一緒に戻ってきた
「べりさん!病院はあっちの…え…?」
みぃを見るなり皆が口を閉じた
もうそれはみぃではなかったから
マンドラゴラはすぐに扉を閉めた
「みんな外に逃げよう!!!」
「で…でもみぃが…!」
「あれがみぃに見えるのか???」
マンドラゴラは何かを知っているように思えた
しかし今はそんなことを気にしている暇はない
店員さん達にも呼びかけ店にいた人全員で外に逃げ出す
「鍵はちゃんと閉めました」
店長さんがそういった途端にドンドンと大きな音が響いた
扉のガラスの向こうではみぃだったものが必死に扉を叩いている
やがてガラスが割れ鍵が大きく歪み始める
もう持たないと察した私たちは近くにあるという防衛施設へ駆け込んだ
「みぃ…ごめん…」
マンドラゴラはひとつそう言った
壊れた世界の救い方 第三十話「見捨ててない」
フェンリル視点
怖い
怖い
怖い
あれはみぃ?
いや違う
みぃじゃない
どうして?
どうして
どうして?
どうして
どうして?
どうして
どうして!!!
全速力で僕たちは防衛施設へ逃げ込んだ
そんなものがある街ということは
こういうことは日常茶飯事なのだろうか?
その防衛施設の一部が見えてくる
だいぶ大きな建物だ
やたらと足が速い店長はもう到着していた
受付らしき場所で誰かと話している
「すみません、緊急です」
「ここをすぐ行ったところのカフェなんですが…」
受付の人が壁にあるレバーをがしゃりと下げる
するとすぐ横にあった巨大な6mほどのシャッターが上に上がっていく
「皆さんこちらへどうぞ」
「まず全身の検査を行いますので荷物はこちらへお願いします」
先に着いたべりたちが中に入っていく
怖くてまだ少し足がガタついている僕もすぐ次にシャッターをくぐった
肩からかけていたポシェットを台の上に置く
案内されるがままに進んでいくとまるで身体測定をするような場所に来た
もうすでにわんこは身長を計っている
すぐ横でその結果をメモされていた
防衛施設だからこそのセキリュティかなんかなのだろう
「こちらの方々先にレントゲンから撮らせていただきます〜」
列の途中で切り離されて僕と光はレントゲン室へ歩いた
よくわからない機械の前に立たされレントゲンを撮られる
「あれ…もう一度いいですか」
「あ、はい」
何かがおかしいのか何回か撮り直した
しかしあまりいい結果ではないらしくうーんと言った顔をしている
「どうかしたんですか?」
「こちらになるんですけど…」
そう言って一枚の紙を手渡される
そこにはどこかで見たようなことのある胸部のレントゲンが写っていた
しかしよくわからない場所に白い物体がある
「これのことですか」
「そうです」
「心当たりがなければ機械をメンテナンスしてからもう一度になるにですけど…」
心当たりなんてあるはずがない
それよりみぃのこともあって少しそれが怖かった
でも機械のせいかもしれないと自分に言い聞かせる
「メンテナンス後にお願いできますか」
「承知しました」
「ではあちらの部屋に戻っていただいて」
「身長などから先にお願いします」
光と一緒に戻る
みんな測定し終えていて椅子に座って待っていた
「ふぇるここのコーヒーめっちゃ美味しいよ」
べりがコーヒーの入った白いカップを少し揺らして見せてそう言った
お菓子も少し置いてある
ここで測り終えたら食べよう
「身長、クリアです」
「ではこちらの測定器へ」
四角いゲートの様なものをくぐらされる
光は緑色のランプが点灯してうまく行ったのに
「ピー」
「ちょっと待ってください」
僕はなぜか赤いランプが点灯していた
壊れた世界の救い方 第三十一話「ハート」
フェンリル視点
警報音に驚いてべりたちも駆けつけてくる
いつの間にか全員僕の周りを取り囲んでいた
「再検査ですね」
「は、はい…」
念入りに上着のポケットやカバンの中身をチェックされる
そうしてもう一度あのゲートをくぐった
ピー
赤いランプの点滅と共にまたその音が鳴る
この頃から何か嫌な予感というか
察しはついていたものだ
だが僕は信じなかった
「もう一回いいですか」
僕は自分からそう言ってゲートをくぐった
横向きに入ってみたり
少し大きく|跨いで《またいで》くぐってみたり
結果は変わらなかった
何度聞いたことだろう
あの警報音と共にランプが点滅する
隣の緑色のランプが暇そうにこちらを見ている
「ふぇる…」
夜春が心配そうな表情を浮かべてこちらを見つめる
その瞳は決して何かを軽蔑するようなものではなかった
僕は僕だ
何も問題はないはず
きっとこのゲートがおかしい
それを自分で言う前にマンドラゴラが口を開く
「俺がもう一回くぐってみていいですか」
マンドラゴラは僕の前を通ってゲートをくぐる
さっきまで少しも光はしなかった緑色のランプがぽっと点く
「フェンリルなんか変なもの食っただろ…」
「そんなわけないじゃん!」
「みんなと同じもの食べてるんだけど」
「おかしいですね」
「何も不審なものはないはずなのに…」
検査官が悩んでいると別のところからもう1人やってきた
見るに40代ほどの男性のようで
この検査官の上司といった雰囲気だった
「そこの方こちらへ」
男性の検査官に手招きされて別の部屋へと向かった
若い検査官に止められて
べりたちは先ほどの部屋で待っていることになった
「あのゲートよりより精密な身体検査を行います」
「こちらの検査専用着に着替えてきてください」
白いあのお風呂上がりに着るバスローブのようなものを手渡される
一室しかない更衣室でそれに着替えて出てくると
さっきまではなかった大きな機械が待っていた
中に人が入れそうな空間があって
その周りに棒状のものがたくさん付いた機械だ
あの赤ランプと緑ランプはない
しかしひとつ、不審に思った点がある
なぜかその機械の横に大量の刃物が用意されていることだ
この機械を稼働させるために使うのか
あるいはメンテナンスの道具なのか
その時には分からなかった
「こちらへどうぞ」
例の人が入れそうな空間の扉が開く
扉というより球を半分に切ったような
透明な横向きの蓋みたいな感じだ
「あまり動かないでくださいね」
「わかりました」
半分反射でそう答えた
あの男性の検査官は大きなレバーをがしゃりと下に下ろす
足元がふわりと持ち上がる
周りについていた棒がバーコードをスキャンするみたいに周りを飛び交った
そして首の少し下
お腹より上のあたりで一本の棒が動きを止める
ピー、ピー、ピー
そこは心臓だった
投稿あいてすみません!
旅行に行っておりましたー!
詳細が気になる方はぜひ日記をご覧ください!
最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第三十二話「秘めやかに」
男性の検査官は大きなレバーをがしゃりと下に下ろす
足元がふわりと持ち上がる
周りについていた棒がバーコードをスキャンするみたいに周りを飛び交った
そして首の少し下
お腹より上のあたりで一本の棒が動きを止める
ピー、ピー、ピー
そこは心臓だった
---
フェンリル視点
「う…うそ…」
男も試験管が隣のレバーを下げる
すると目の前に何か画面が降りてきた
それには白黒のレントゲンのようなものが写っている
ちょうど心臓のところ
何か|蠢く《うごめく》サソリのような、ムカデのような
見たことのない生き物のシルエットが写っていた
--- 緊急治療を行います ---
天井の蛍光灯が赤く光る
赤く染まった部屋で警告音が繰り返し流れる
嫌な予感がした
---
目が覚めた
あのたくさん置いてあった刃物がなくなっていた
そして僕は今機械から降ろされ隣のベットで横たわっている
ガチャッ
「あれ…」
腕を動かそうとした
しかし途中で引っ掛かり金属の擦れる音がする
手首のほうに視線を向けると|枷《かせ》がかけられていた
足首も同様だった
「そこでじっとしていてくださいね」
男の検査官はあの置いてあった刃物を握っている
それはメスと言われるようなものではない
誰かを殺すためのナイフ
それが1番似合っていた
「やっ…やだぁっ…」
「たすけてっ!!」
ドンドンドン
扉を叩く音
僕は咄嗟に首を持ち上げ扉を見る
「えーなにこれ全然開かない」
「みぃどいて俺がやってみる」
ドドンッ
「ざっこ」
「は?」
マンドラゴラとみぃだ
2人はこの扉を開けようとしてくれているのか
大きな音を立てながら扉は揺れた
それに気づいた検査官はナイフを置いて扉に向かって歩いて行った
「安心してください」
「今から治療を行うところです」
「安心出来ねぇから言ってるんだよ」
「頭付いてんの?大丈夫ですかー?」
「みぃ落ち着いて…」
待ってくれていたみんなにもなにか起きたこと
それは2人が扉越しでも十分に伝わってきた
「あの若い検査官もだめだったんだぞ」
「今残ってる人全員なんだろ!おい!」
「本物の検査官たちをどこにやったんだよ!」
状況が理解できなかった
みぃは何を言っているんだろう
本物の検査官?
じゃあこいつは偽物か何かなのか?
でもここがおかしいことは薄々察していた
だってここ、病院じゃなくて
防衛施設のはずなんだから
壊れた世界の救い方 第三十三話「治療法」
マンドラゴラ視点
なかなか開かない扉をみぃはばこばこ蹴っている
「いい加減っ!開けろよっ!!!」
大きく蹴りを入れた
扉はびくともしなかった
「みぃもしかしてこれ」
「引いて開けるんじゃない…?」
みぃは何かに気づいたような顔をする
ドアノブを握ってゆっくりと引いてみた
するとドアはキィイッと音を立てて開く
「あ、ふぇる」
一方男の検査官は爆笑していた
「あ、ふぇるじゃないよ!!!助けて!!!」
みぃはフェンリルの方へと向かう
俺はそれを阻止しようとする男に毒の霧をお見舞いする
上手く吸い込んでくれたのか
能力を発動した瞬間に男はその場に倒れ込んだ
みぃはフェンリルにつけられていた枷を外して外に連れ出す
その後をついて行く
「どうする?みんなどこか分からないよ」
「どうするもこうするも全部探すしかないでしょもう…」
みぃは疲れましたと言わんばかりの表情を浮かべながら言った
それもそうだろう
フェンリルのいる部屋を見つけるまでにも走り回ったし
部屋を見つけてからにも扉で苦戦している
みんなと別れた時のあの騒動のせいもある
「はぁっ…はぁっ…」
急にフェンリルが床に倒れ込んだ
両手をついて荒く息をしている
「どうしたのフェンリル大丈夫?」
答える余裕もないのだろう
だんだんと床をつく手の力も弱くなり
次第に床で寝るような形になってしまった
「ふぇる?ふぇる!?」
あのみぃですらフェンリルのことを心配しだした
「多分僕と一緒だ」
「最初こうだった」
「ということはつまり…?」
「逃げなきゃ…やばいかも」
フェンリルの爪がだんだん鋭く伸びていく
口からははみ出すほどの牙が剥き出す
「やばい…やばい…逃げろっ!逃げてっ!」
みぃは俺の手を引いて走った
フェンリルを助けに来たはずだったのに
今ではフェンリルから逃げている
しばらく通路の続くがままに走っていた
すると誰かの話し声が聞こえてくるようになる
「もしかして…」
その声がする方に走ってみると大きな檻があった
そこにはべり、夜春、光、わんこがちゃんといた
知らない検査官もたくさんいる
「あれ!?みぃとマンドラゴラ!フェンリルは?」
先に気付いたわんこが振り返ってそう言った
その答えはすぐに見つかるはずだ
「あっ…」
わんこの声で俺たちに気付いた3人がこちらを見る
反応からしてもうわかっていた
喉元に鋭い爪が当たる
すぐにしゃがんで避けて自ら檻の中へと逃げてしまった
それを真似してみぃまで檻の中だ
フェンリルは檻をガリガリと引っ掻いたり噛みついたりしている
目は正気を失っていた
「みぃそういえばなんで治ったんだっけ」
「え?ん〜、放置」
「なんだよ…」
もっと早く治せる方法とかはないのか
しばらくこのままなのはだいぶ苦痛だし
フェンリルも放置して治るとは限らない
「この症状なら…!」
一緒に檻に入れられていた1人の検査官がビンを取り出す
薬指ほどの大きさのそのビンの蓋を開けてフェンリルの口へ投げ込んだ
驚いたフェンリルは口を開けたまま液体を飲み込んだ
空になったビンが床に転がる
フェンリルの異常に伸びた爪や牙は段々短くなり元に戻る
それと同時に目の正気も戻ってきた
「あれ…?みんな!!!」
フェンリルが檻を開ける
仲間との再会、素晴らしい感動シーンだろう
そのはずだった
壊れた世界の救い方 第三十四話「疑問と追究を」
マンドラゴラ視点
「!?」
渇いた銃声の音が響く
フェンリルはこちらに手を伸ばすも
途中で倒れてしまう
「フェンリル!?」
「この方はまだダメですよ」
「あっ、先輩」
「えっ…?」
見知らぬ女の言葉に反応したのはわんこだった
「わんこ先輩?」
「覚えてますか?」
「…!」
わんこの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちる
帰ってきた飼い主を出迎えるようにわんこは走って行った
「はてなさん!?」
「はてなさんなの!?」
女は口元に小さく微笑みを浮かべるとわんこの頭を撫でだした
「お久しぶりですね、わんこさん」
それを訳も分からず俺たちは見ていた
このはてなという女のことを覚えていたのはわんこだけなのだろうか?
考えても分からないだろうと諦める
倒れたフェンリルを起き上がらせようと背中に手を持っていく
背中には刺さった麻酔銃があった
「触らないでください」
はてなは急にこちらを向いてそう言った
手を止めるとはてなはゆっくり近づいてくる
「そこの方、お名前は」
「フェンリルです」
メモ帳を取り出して何かを記入すると
さっき検査官が投げたビンと似たようなものを取り出した
それを小さい注射器の中に移し替える
「これは直接注射させなきゃあまり効果がないんです」
「じゃないとまた再発しますよ」
みぃが焦ったような顔でこちらを見てくる
みぃもお願いしてもらうべきなのだろうか
「あの…僕もさっきなっちゃって放置してたんですけど…」
「どれくらい時間経ってます?」
「多分、2時間くらい」
「なら大丈夫ですよ」
「放置で治ったなら何か元々抗体のある人だったのかもしれませんね」
「ほへぇ…」
一体なんのことやら
分からないことが多すぎる
フェンリルやみぃのこれはなんなのか
この施設はなんなのか
そしてこのはてなという女はなぜここまでも詳しいのか
「さて…そういえば、なぜ皆さんここに?」
「この檻じゃなくてこの防衛施設にですよ」
俺たちは今までにあったことを全て話した
あまりにも話が長くなってしまったこともあり
その間に検査官たちはどこかへ行ってしまった
「なるほど…」
「フェンリルさんが感染したのは多分みぃさんの近くに居すぎたからですね」
「みぃさんの感染経路はその白い粉とやらで間違ってないです」
「あれはあいつの卵ですからね」
はてなの言葉で分からなかったことが線と線で結ばれていく
だがそれでも
なぜはてながここまで詳しいかはどうしても教えてくれなかった
満面の笑みで秘密ですと言われるだけだった
「別に教えても減るもんじゃないし…」
「しつこい人は嫌いですよ」
「…」
「教えられない理由があるんです」
「あなたの頭で考えてみたらどうですか」
「うぅ…」
その後なんやかんやでまたあの同じ宿屋に泊まり
1日を終えた
壊れた世界の救い方 超番外編「毒物監禁」
マンドラゴラ視点
「ごめんなさいいっっ!!!」
「もうしませんっっ!!!!!!」
「そんなこと言われても信用できません」
「何度目だと思ってるんですか」
「…3回」
「8回目ですよ」
「もういい加減頭に来ました」
「だっ…だからってこんなことしなくても…」
「あなたが嫌がるようなこと必死で考えたんですよ?」
「私のプリンだけじゃなく努力まで奪わないでください」
「うぅ…」
はてなは今、ものすごく怒っている
なぜならはてなが街の特売で買ってきたプリンを食べてしまったからだ
はてなによるとあまりたくさん売っていない貴重なものらしい
やはりそれだけあって美味しかった
1回目で味を占めてそれからは見るたびに食べてしまっている
その結果今回で8回目
ものすごく反省している
「じゃあこっち来てください」
はてなは手錠につけられた鎖を引っ張る
見覚えのない部屋まで連れてこられてその部屋に入るよう言われた
「これつけてくださいね」
「…はぁい」
はてなは俺の首に首輪をつける
長く伸びた縄の先は硬く結ばれていた
絶対にこの部屋から出す気はないらしい
「…それとこれも付けてください」
「罰なんですからね、監禁だけじゃ足りないですよね」
俺は服を脱がされベットに押し倒された
必死に抵抗するも首輪と手錠のせいで身動きが取れない
ほぼ一方的にあるものを付けられる
何がとは言わないが、下の方のものがぎゅうっと締め付けられる
「あとこれも」
そう言ってはてなから手渡されたものは初めて見るものだった
どこにつければ良いのかはてなに聞く
「…自分で考えたらどうですか」
じっとそれを見つめてみる
どこかに付けるものとは思えないのだ
何か丸い球体みたいな形のピンクのもの
球体とはいっても少し横に伸びた楕円だ
そしてはてなは何かスイッチのようなものを持っていた
俺がしばらく戸惑っていると
はてなはしびりを切らしたようにして説明書を取り出した
「分かりましたか…」
「…は、、、はい、、、」
少しこれを体内に入れるのは踏みとどまった
はてなが部屋を出て行ってからもすぐに入れられなかった
「嘘だろ…尻にこんなの…」
説明書は何度見ても同じことが書いてある
やるしかない
もしやらなかったら…
もっと酷い目に遭うだろう
なんとか苦戦しながらも入れることができた
本当に何がしたいのかわからない
少しほっとして枕元を見るとカメラが仕掛けてあった
しっかり括り付けられている
咄嗟に枕で隠そうとしたがそんなことしたら…
そんな時だった
ピッと高い機械音が鳴る
「あ ぁ゙ ぁ っ゙ ! ?」
さっき入れた球体が振動する
ぶるぶると震え続ける
「やばぁッッッ///♡とめてぇッッ♡」
だんだんと震えが小さくなる
とめてとは言ってみたものの、何か物足りない
「ふぅ…///ふぅ…///」
下に付けられたやつがきつくなってくる
いや、付けられたやつがきつくなってるんじゃない
こっちが大きく…なわけ…ない…か
「はぁ…ん゙え゙ッッ!?」
「あ゙ッ゙あ゙ッ゙///♡」
今度はもっと強く振動する
「とまっ゙で///!!!♡」
それは今までに感じたことがないほどのものだった
「ばぁ゙あ゙ッ゙///♡」
ぽたぽたと透明な液が垂れる
嘘だ、嘘だ、嘘だ…
全部はてなに見られていると思うと気分は最悪だ
気持ちいいとか、わるいとか、そういう話ではない
一瞬カメラを睨む
「ば ぐ゙ あ゙ ッッッ! ?」
「あ゙ぁ゙あ゙ッ゙お゙ぉ゙お゙ッッッ///♡」
頭がふわふわする
意識が朦朧としてきて勝手に口が開いてしまう
涎がぽたぽたと落ちてくる
「ばあ゙あ゙ぁ゙っ゙///♡ばあ゙あ゙ぁ゙っ゙///♡」
「らめぇっ///♡」
トドメというほど強く
大きな音を立ててそれは振動した
「だめっだめっあ゙ぁ゙あ゙あ゙っ゙」
「い゙ぐっ゙い゙ぐっ゙」
でもすぐに何かがおかしいことに気づいた
そう、はてなに付けられていたこれ
これのせいでイけないのだ
「ん゙ッ///♡くるっしいっ…///♡」
「いぎだいっいぎだいっ…///」
しばらくして振動は止まった
ドアが開いた
「はぁっ///♡はぁっ///♡」
「はえぇえ?はてなぁ…///」
「もっ…もうっ…」
「それ、外して欲しいなら」
「ちゃんとお願いしないとだめですよ」
「ごめんらしゃいっ」
「おねがいしますぅっ」
「はずしてくらしゃいっ///」
「…よくできました」
はてなはそう言って付いていたものを外してくれた
そして目の前であのスイッチを入れる
「あぁっーーーーーー!???/////♡」
「あへぇっ///♡はぁあっ///♡」
「…もうしないでくださいね」
「約束ですよ」
「はっ…はひぃ…」
なんかあんまり監禁っぽくないですね
また書こう(おい)
壊れた世界の救い方 第三十五話「星のバトン」
光視点
まだ朝も早い時間
登りかけた太陽の光が薄く地面を照らし始める頃
「ここも結構良いもんだな」
「そうだな」
「あいつ今頃どうしてるかね」
私は見た
2人の男の影を
話し声を
うそ…と、実際に口に出さずとも
心の中でそう言った
私にとってあの2人は良いものではなかった
急に押しかけてきて
家中のものを焼き尽くし
挙げ句の果てには連れを殺そうとした
「光早いね、おはよう」
宿屋の前をぶらぶらと歩いているとみぃが来た
まるで私の頭の中が読めているようで
少し怖いと思った
「おはようみぃ」
みぃはどうしたの?とでも聞きたげな顔をしている
宿屋を出た理由ならば、特にはない
けれどみぃは聞きたいのはそのことではないんだろう
「何かあった?」
「ううん、何も」
ほとんど間も開けずに食い気味で返事をした
絶対怪しかった
みぃは少し笑ったような顔をして話を続ける
「光は覚えてる?僕を取り残したあの2人の連中」
「ここにいる気がするんだよね」
「へ…へぇ…」
別に興味がないわけじゃない
だけど、見てしまった後だとこんな返事しかできないものだ
「みぃは、その、会いたいの?」
予想外の質問だっただろうか
みぃは少し困ったような表情を浮かべる
しかしそれはすぐに緩み口を開いた
「会いたいってわけじゃないけどね」
「でも少なくともあの2人は恩があるから」
「そうなんだね」
「はあぁ、めんどくさい話だよ」
みぃが背伸びをして体を伸ばす
その後に2人で揃って大きなあくびをした
「ふふ、まだ朝早いもんね」
「光の方が早く起きてるでしょー」
宿屋の部屋に戻った
そこには銃弾の整備をするマンドラゴラがいた
フェンリルはまだベットでぐっすり寝ている
「毎朝準備してるけど、あんまり使わないよね」
床に転がっている弾を指でころころと転がす
「こらっ触っちゃだめだよ」
「ごめんなさーい」
マンドラゴラはそれを銃の中に詰め
余った分はベルトに装着して体に巻いた
「この弾って強いの?」
「強くないよ、俺の能力が入ってるだけ」
毒の霧が入っているということだろうか
それを聴いてさっき弾を触った手を洗いたくなった
このまま朝ごはんは食べたくないな
「えぇーい!」
「あぁっ!?」
何事だろうと思いベットを見ると
そこにはフェンリルの上に飛び乗って
馬乗りになっているみぃがいた
フェンリルはどいてどいてと言わんばかりにみぃの足を叩いている
「おはようフェンリル」
マンドラゴラは笑いながらそう言った
「朝からこれはきついってぇ…」
まあフェンリルはあのこともあったから相当疲れてただろう
それはみぃもだけど
壊れた世界の救い方 第三十六話「ついてくついてく」
夜春視点
少し肌寒い
思い瞼を持ち上げて、薄く目を開くと窓から差す暖かい光があった
カーテンが揺れて光が動く
「んっ…まぶし…」
「起きた?夜春」
べりさんが布団の中に手を突っ込んでくる
「ひゃぁ!?」
「やめて!」
えーっと言ったような顔をしてべりさんは手を引っ込める
起きていたのはべりさんだけでない
わんこさんもちゃんと起きていた
はてなさんも何かガサゴソと準備をしている
はてなさんがいることは少し違和感だったが
たった1日のうちに慣れてしまった
昨日の夜はたくさんお話をしたものである
---
「はてなさんってすごいんだね…」
私はそう言った
でも、はてなさんはいい顔をしなかった
なんというか、どこか悲しげなそんな表情だった
「わんこさんも少しだけですし」
「皆さん本当に何も覚えてないんですね」
「?」
なんのことか分からない
いや、わからないことについて言われているのか
でもなぜか、私にとってはそれが当然のような気がした
「これは1から説明するのも面倒ですね」
「忘れているならそれでいいですし」
忘れているならそれでいい
その言葉が引っかかる
その後の会話は本当にくだらないといったらくだらないものだった
好きなものについて話したり
将来にしたいことなども話した
はてなさんは私の知らないことをたくさん知っていた
知らない場所、知らない人、知らない知識など
そんな物知りなはてなさんでもひとつ
わからないことがあるという
それを探すために仕事をしながらちょくちょく旅をしているらしい
「はてなさん面白そう!」
「私もそういうことしてみたいな」
ずっと同じことを繰り返して生活してきた私にとって
はてなさんのそれは目新しいものだった
「一緒についていっていい?」
「大変そうだけど、私たち今目標とかないしね」
わんこさんが言った
それに対してはてなさんはにこにこと笑みを浮かべる
「良いですよ、むしろ嬉しいです」
「仲間は何人いても良いですからね」
「やったぁ!」
嬉しかった
はてなさんは私の興味がある場所にも連れて行ってくれると言う
楽しみが過ぎるのでまずはどこに行くか聞いてみた
「ここから少し歩いたところにある洞窟です」
「とっても綺麗な水が流れているんですよ」
「ほへぇ…」
「そこで何をするの?」
「今も言ったように綺麗な水が流れているんですけどね」
「最近は本当にドス黒いような水になってしまったらしいんですよ」
「なのでそれの様子を見に行こうかと」
はてなさんはそう言うと鞄の中からファイルを取り出す
そのファイルは色んな紙という紙がひしめきあっていて溢れそうだ
とても重圧感のあるファイルの中から2枚抜き出される
「これです」
1枚はとても綺麗な写真だった
神秘的な洞窟の中を澄んだ水が流れている
2枚目はそれの真逆だった
岩の位置や形などから同じ場所なのは分かるが
澄んだ水などどこにもない
泥やヘドロに似てもつかないような黒いものに置き換えられていた
壊れた世界の救い方 第三十七話「九尾食堂」
みぃ視点
朝になって皆んな食堂へ降りていく
昨日は素通りしてしまったのだが
意外と美味しそうなものがたくさんある
食堂という少しばかり古臭い言い方をするが
テーブル席に座ってメニューを見て注文する
食堂というよりかはレストランに近い
しかしひとつだけレストランとは絶対に違うところがある
厨房も、注文も、皿洗いも、掃除ですら
全部1人で|賄って《まかなって》いたのである
「いらっしゃいませー!」
食堂に入ると厨房から元気よく声が響いた
使い込まれた木のテーブルの席につく
人数が多いので、隣同士の2つのテーブルに分かれた
僕とマンドラゴラと夜春とべりのテーブル
フェンリルとわんこと光とはてなのテーブルだ
「何にしようー!」
べりがメニュー表をテーブル一杯に大きく開く
朝食で利用する人がほとんどなのだろうに
無駄にメニューは豊富で
イタリアンから和食、洋食
少し高そうなものまであった
「ピザ食べたい!」
「マルゲリータ!」
夜春が指を指したのはかなりの大きさのピザだ
写真では隣にコップが置いてあったのだが
とても1人で食べるサイズではないのが分かる
「1人で食べれる?これ4人で食べてちょうど良いくらいでしょ」
「私も食べたいし!」
「確かに…」
「俺も別にピザでいいけど」
マンドラゴラがそう言う
この流れは僕もピザを食べなければならない流れだ
「あ、追加でサーモンペーストも付けれるってみぃ」
べりはこちらを誘惑するようにしてそう言ってきた
なぜ魚が好きなのがバレているんだと思ったが
心当たりが多すぎた
「…しょうがないな」
「食べるよ…」
「よし!!!決まりだ!!」
夜春が勢いよくメニューを閉じる
ベルを鳴らすと10秒ほど経ってから注文を聞きにやってきた
「ご注文は?」
黄金色の耳に9本の尻尾
黒いエプロンを巻いた男だった
「マルゲリータのサーモンペースト付きを1つ!」
「ちなみにどれくらいのサイズですか?」
これくらいの大きさですねと言いながら
両手で大きさを表現した
かなり大きくやっぱり4人で食べるサイズだ
「ありがとうございます」
「じゃあそれで!」
「マルゲリータを1つ、でよろしいですね?」
「はーい!」
男は厨房に駆け込んでいく
ちなみに、その間ももちろん客は増えていくばかりだった
男は注文があるたびに厨房から出て戻りを繰り返す
それでもピザが来たのはたったの10分後だった
「マルゲリータです」
カリカリに焼けた耳をチーズが食欲をそそる
僕の目の前にはサーモンペーストの入った器が出される
「ではー!」
「いただきまーす!」
壊れた世界の救い方 第三十八話「君もでしょ」
わんこ視点
ちゃんと椅子に座ってメニューを眺める
本当に多い種類の中、食べたいものを絞るのは大変だった
けれど本当に美味しそうに見えたのはこの肉まんだ
写真では中身にたくさんの具が入っており
表面にはかわいらしい肉球の焼印がしてある
「わんこ決まったー?」
フェンリルは悩んでいるようで
ずっとメニューをぺらぺらとやっている
「この肉まんにしようかなって」
そのページを開くとフェンリルは見入るようにして近づいた
「えぇ!美味しそう!」
「僕もこれ食べる〜」
こんな食堂に中華もあるなんて驚いたが
それより驚くのはここは1人で運営されていることだ
お客さんがたくさん入ってきているというのに
厨房で料理をしているのも注文をとっているのも1人しか見当たらない
「私はこれにします」
はてなさんは嬉しそうにメニューを指差す
メープルシロップのたっぷりかかったフレンチトーストだ
「じゃあわたすこれにするもん!」
ブルーベリーやいちご
ホイップクリームが乗ったパンケーキに光はしたらしい
注文をして待っているうちに先にべりさんのところに料理が運ばれた
見てみるとそれは大きなピザだった
満面の笑みを浮かべた夜春がピザカッターを転がしている
マンドラゴラがそのうちの一切れを手に取って引っ張る
とろとろにとろけたチーズが糸を引く
じぃっと向こうを見つめているうちにこちらにも料理が運ばれてきた
まず1番最初に来たのは肉まんだ
フェンリルと私の分で2つ来た
「ありがとうございます!」
大きな一口で肉まんにかぶりつく
みんなみたいに器用にフォークやスプーンやらを持つことができないので
こういう食べ物は簡単で好きなのだ
それにしてもおいしい
噛めば噛むほど肉汁が溢れ出てくる
からしをすこし付けて食べてみると最高に美味しかった
次はフレンチトーストとホットケーキだ
2人とも甘いのが好きなのだろうか
とても幸せそうな顔をしながら頬張っていた
全員食べ終えて会計を済ませる
黒いエプロンを着た九尾の人が出てきて会計をしてくれた
忙しいだろうに
なぜ1人で経営しているんだろう
しかも先ほどまではあまり気にしなかったし
座っていたこともあり何も思わなかったが
まだだいぶ若いように見える
なんなら、みぃと同じくらいにまで見える
子供1人でやっていけるのもすごいが大丈夫なのか
人件費的な問題かとも思った
だがそれにしてはお客さんはたくさん来る
2人、いや3人以上いてもやっていけるはず
何か事情があるのだろうか
「ありがとうございました〜!」
胸ポケットに付けた名札が見える
そこにはLUAと書いてあった
壊れた世界の救い方 第三十九話「勧誘」
夜春視点
ご飯を食べた後、みんなは宿屋前のベンチに座って待っていた
私がお手洗いに行っていたのだ
何やらはてなさんを中心として何か会議が行われている
「だからなんですよ」
「ご一緒にどうですか?」
「そういうことか」
「まぁ次やることもないし…」
「目標という目標ないもんね」
「家も壊されちゃったし…」
はてなさんはみぃさんとマンドラゴラさんを説得しているようだった
それに乗っかってべりさんや光さんも一緒に来ることを勧めている
「ほら!洞窟だよ?」
「いっぱいお宝あるかもしれないじゃん!」
「もしかしたらかわいいしょたたちがいっぱi(((((」
そう言いかけたべりさんの頬をフェンリルが叩く
洞窟にショタがたくさんいるという発想にはなかなかならない
やはりべりさんちょっと変たi(((
「しょうがないなあ…」
「一緒に行くよ」
マンドラゴラは光さんたちの圧に負けてくれた
みぃはそれでもあまり行きたくなさそうな表情を浮かべていた
「じゃあさ、みぃはこれからどうするの?」
「私たち行っちゃうからひとりぼっちだよ?」
「別に、良い」
「本当かなぁ?」
「…」
べりさんがみぃに意地悪をする
それだけついてきてもらいたいものなのかと思った
けどべりさんが言っていることは合っている
これからすることもないし
みんなが行ってしまうならここからは1人になる
「ねー?行きたいよねぇ?」
「…」
「…」
「…楽しくなかったら、帰るから」
よしやったぞとでも言わんばかりの顔でガッツポーズをする
そんなべりさんたちのやり取りを遮ったのははてなさんだった
「すみません」
「もうひとつ決めなければいけないことがあるんですけど」
はてなさんが言ったことは簡単に言えば
大体同じ戦力になるように3チームに分けろ、ということだった
詳細はあまり気にしたくはなかった
嫌な予感しかしないからだ
それでも察しの悪いフェンリルはそれを聞いた
--- 「死ぬ時全滅するからですよ」 ---
なんの混じり気もない真面目な回答に
フェンリルは身を潜めた
「だから戦力も均等がいいんだね…」
そうは言えどもどうやって戦力を割り振るのか
そこが問題だった
「みなさんのレベルを教えていただけますか?」
「まずは合計値が同じになるように分けるので」
「微調整はそれから」
レベルは戦闘だけで上がるものじゃない
確かに1番経験値がもらえるのは戦闘によるもの
それでも誰かの命を守るため
もしくは命を奪うためにした戦闘以外のことでも経験値はもらえる
また、何かがきっかけでレベルが下がることもある
はてなさんが1人ずつ書き込んでいってできたリストだ《《》》
はてな:レベル18
beri:レベル9
わんこ:レベル8
夜春:レベル15
マンドラゴラ:レベル10
フェンリル:レベル6
みぃ:レベル5
光:レベル11
はてなさんがこれをみんなに見せる
1番最初に口を開いたのはフェンリルだった
「…レベル差キモくね?」
本当にその通りだった
はてなさんも苦笑いしかできていない
「みぃとフェンリルのレベルが極端に低いのあれのせいだよね…」
心当たりしかなかった
あの意味のわからない化け物になるやつ
みぃもフェンリルも共通してそれにかかっていた
「これは割り振り大変そうですね…」
はてなさんがペンをくるくると回してそう言った
壊れた世界の救い方 第四十話「未知」
はてな視点
はてな:レベル18
beri:レベル9
わんこ:レベル8
夜春:レベル15
マンドラゴラ:レベル10
フェンリル:レベル6
みぃ:レベル5
光:レベル11
私が作ったリスト
これを元にして3つのチームを組むはずだった
けど、今いるのは8人
3で割ると2人になってしまうところが1つ出る
「もう1人いれば3人ずつで分けれるんですがね…」
全員で頭を悩ませるも、あまり良い人は出てこなかった
Ruminaさんと交流があったことを初めて知ったが
あの人はあまり他人と絡んで物事をする人ではない
その時、宿屋からあの食堂の人が出てきた
「あ!LUAさんでしたっけ!」
わんこさんが大声で呼び止めた
「どうかしましたか?」
何かと思えばわんこさんはそのまま会話を続けた
どうすれば良いか分からずに立ち尽くすまま3分程度が過ぎていった
そろそろと思ったのか夜春さんがわんこさんを止めに入る
「わんこさん…?」
「もう良いかな…?」
「あ、LUA来るって」
「!?!?!?」
「え?何があったんです?早過ぎませんか?」
そこからはわんこさんによる説明が行われた
LUAさんはいわゆる強制労働をさせられているらしいのだ
家庭が厳しいからって子供をこんな忙しい場所で働かせるのはよくない
「連れていってくれるなら、お願いしたいです」
「どこまでもついていきます…」
連れ去ってくれとでもいうようだった
私はそんなLUAの手を握った
仕事のしすぎだろう
タコのできた指は少しゴツゴツしている
とても子供の手とは思えなかった
---
みぃ視点
「じゃあ…はやく決めよ?」
はてなさんたちはそうだったそうだったと慌てている
本題を忘れるだなんて信じられない
「LUAレベルは?」
「8です」
自分より高いのが気に食わないがしょうがない
本当なら僕はもっと高いレベルのはずだったんだから
「レベルだけを考えて振り分けてみますね」
はてなさんは忙しくペンを動かしている
そうして出来上がったチームがこれだ
アルファチーム
はてな、みぃ、LUA(31レベル)
ベータチーム
夜春、フェンリル、beri(30レベル)
ガンマチーム
光、マンドラゴラ、わんこ(29レベル)
僕は別にこれで良いように見える
しかもレベル18のはてなさんと一緒なのは嬉しい
「私たちのところ大丈夫これ」
わんこがそう言った
確かに1番レベル合計数が低いところではある
「わんこの能力強いし光も弓強いし」
「マンドラゴラだって上手くやれば強いんだから」
「結構強いチーム構成になってると思うよ」
夜春がそう言うならとわんこは口を閉じる
べりはそんな夜春の隣にべったりとくっついている
「夜春一緒だねぇよかったねぇ〜♡」
夜春は少し嫌そうな表情をするもここは仲がいい
フェンリルも2人がいればなんとかなりそうだ
「じゃあこれでとりあえずは決定でいいかな…?」
「はーい!」
LUAはにこにこと笑っている
なんとかやってけそうだ
それでも少し怖かった
洞窟…どんな感じだろう
楽しいかな
それとも強い敵がいっぱいいるのかな
期待と不安が入り混じるとはまさにこのことだった
壊れた世界の救い方 第四十一話「もう大丈夫」
アルファチーム-LUA視点
やっと
やっとだ
やっと抜け出して来れた
もうどうなったっていい
こんな私でも救われた
まだこの世界は捨てたもんじゃない
はてなさんとやらのところと一緒に洞窟に行くことになった
洞窟のことは多分
私が1番よく知っている
はてなさんたちと別れてから家に帰るまでの間
公園で1人そんなことを考えていた
この格好で行くのは馬鹿以外の何者でもない
薄っぺらい黒いエプロンの下にはズボンとTシャツだけだ
私が働いて稼いだお金も親が全てカジノで使ってしまうので
そのせいでお金がなかった
「そうだ、貯めておいたお金…どこだっけ」
まだバレてなければ自分の部屋の
空っぽのタンスの1番上
お給料をもらうときに少し避けて貯めておいたお金がある
まだ家は親がいなくて開いていないだろうけど木から登っていけば、入れる
私は走って家まで向かった
今頃親はカジノ三昧だろう
庭に植わった大きな木
枝という枝を握りしめて上へと登っていく
運がいいことに自分に部屋の窓は開いていた
けども少し木から自分の部屋の窓までは距離があった
9つの尻尾を枝に絡ませてできるだけ前のめりになる
「うぅっ…あと…少し…」
手が届いた
しかしその瞬間枝が折れて下半身が下へと引っ張られる
「うわぁあっ!!」
「え、LUA?どうしたの?」
あれは確か…みぃって人
同じアルファチームのみぃだ
「ごめん…ちょっと助けてくれない?」
みぃの能力はすごかった
強い糸を長く長く出してくれて
屋根の出っ張りにそれを引っ掛けてターザンロープみたいにして部屋に入った
「何をしてるん?ここLUAの家?」
「そうだよ、で、ここは私の部屋」
みぃの前だけどまあいいや
物が少なすぎる殺風景な部屋
何もない床にみぃは座った
「大変だね」
「え、あ、うん」
「でもありがとう」
タンスを開けると古くボロボロになったお菓子の箱があった
これだ
「それは何?」
「私が今まで貯めてきたお金」
「こうして取っておいてあったんだ」
エプロンを脱いでまだマシな服に着替える
流石にこのまま商店街に行くのは恥ずかしい
みぃはあまり深くは聞いて来なかった
お金があるのにこんなところに住んでいたり
身体中が怪我だらけだったこと
「今からどこに行くの?」
「出発は明日だけど」
「商店街に行く」
「洞窟には何回かいったことがあるんだ」
「そのときに服装のことで何回も後悔したからね」
今度はちゃんと玄関から家を出る
親からつまみ出されるようにして出ることがほとんどだったから
どこか新鮮な気がした
商店街までみぃは付いてきてくれた
そこからみぃは魚売り場へ駆け込んでしまったので1人で武具屋に行った
私が今持っているお金で買える1番良い服に武器
余ったお金で回復薬などの消費アイテムもいくつか買った
使ったことはなかったのでいくつかちゃんと聞いておいた
「これでよし」
今日はちゃんと家に帰る
ちゃんと家で寝る
そして朝早くから、抜け出すんだ
あの人たちのところへ
もう四十一話…早いですね
第一章は五十話で終わりです
最終話は長めにする予定です()
最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第四十二話「裏切り者」
ベータチーム-beri視点
1番最初の感覚は、腹部の痛み
何かに殴られたような?
もしくは叩かれたような
「ゔぇっ!?」
汚い声
誰のものだろう
それが自分のものだと気づくのには時間が必要だった
「おーきーろ!」
「おーきーろ!」
フェンリルと夜春の声
あぁ、そうか
ここは天国なんだ
「もうだめだ」
「どうする?置いてく?」
え、待って待って待って
置いてかないで?
その瞬間からだにやって力が入るようになる
上半身を素早く起こして目を開ける
「わっ、びっくりした」
「べりもう時間過ぎてるよ?」
「はやくしないと」
「え?天国は?」
「何言ってんの」
「確かに遅れたら天国に連れて行かれるかもしれないね」
それでやっと状況を理解した
どうやら私は昨日夜春たちと一緒に猫カフェに行ったところ寝てしまったらしい
うとうとしながらソファに座った記憶までしかないからだ
時計を見ると時間は7時20分
集合時刻は…7時
「やばーい!もっとはやく起こしてよ!!!」
「起こしてるんだけどなぁ…」
「じゃ、先行ってるねー」
フェンリルと夜春は先に出て行ってしまった
すぐに顔を洗って髪を結び
荷物を持って宿屋を飛び出した
「ごめん!!!遅れた!!!」
そこにいたのはデルタチームのわんこたち
そして夜春とフェンリルのみ
「あれ…?」
少し安心してしまったところはある
何せ自分が1番最後じゃなかったから
「アルファどこ行ったんだろ…」
心当たりがひとつあった
LUAさんのことだ
LUAだけはここの同じ宿で寝ていなかったから
朝来ないことを心配してみぃとはてなさんは様子見に行ったのかもしれない
「あ、来た」
夜春が遠くの方を指指して言った
そこには何かから逃げるようにして走るはてなさんとみぃがいた
「え、ど、どうしたの」
「はぁっ…はぁっ…」
話が聞けるような状況ではなかった
共通しているのは2人ともとても怯えるような表情をしている
「るっ…るあがぁっ…はぁっ…」
みぃは喋りかけるも途中で泣き出してしまった
相当なことがあったんだろう
ふいに全員と視線が合う
行くしかない
LUAの家の方は住宅街から少し離れた場所にあった
言い方は悪いが少し不気味で
治安が悪そうなところといった感じだろうか
スラム街という言葉がよく似合う
その中でも一際目立つ家がある
古い家のようだが庭までついていて他と比べると立派だ
LUAの家はそこらしい
みぃはこれから家に入るというのに
しゃがんで耳を塞いでその場から動かなくなってしまった
「やだ…やだ…」
「あぁあっ…うぅううっ…」
強がっているのか何かに同情しているのかわからない
それでも何か異様な雰囲気を感じる
「置いてくしか…ないか…」
LUAが緊急事態ということは慌てふためくはてなから嫌というほど感じていた
なのでその判断を下すしかなかったのだ
はてなさんはドアノブを握ろうとしなかった
前に居たのにも関わらず私の背中を押してドアノブを握らせた
「開けるよ…?」
ドアが高い音で軋む
玄関には脱ぎ捨てられた靴がひとつ
もうひとつは気付けばドアの前に転がっていた
相当急いでいたのだろう
「おじゃま…します…」
夜春はそう言って私が開けたドアの先へと進む
そんな夜春を先頭にしてみんなで家に入っていく
外で待っているみぃの泣き声が大きくなった気がした
壊れた世界の救い方 第四十三話「聞こえないふり」
ベータチーム-夜春視点
何故だろう
LUAさんは長い付き合いとか
特別仲がいいとかいうわけでもない
だけど助けなくちゃいけない
そんな気がしただけ
私はべりさんたちを押し退けて先に進んだ
殺風景な一階は不穏な空気に包まれていた
これから何かとんでもないことが起きるような
トゲトゲしていつつも荒々しい
それでかつどこか物悲しく淀んでいる
湿った空気が肺を満たす
「ここには何もないみたいだけど…」
ずっと鳴っているこの木の軋むような音
何か物を床に叩きつけるような音
何かの泣き声とも叫び声ともとれるような音
気付かない人なんて、いなかった
けど誰1人として過剰に反応しなかった
「行くしか…ないか…」
ごくりと唾を飲み込む
軋む階段を一段一段上がっていく
気付かれないように、ゆっくりと、ゆっくりと
半分あたりまで登ったところだった
…音が止まった
全てじゃない
もちろん後ろから来てるべりさんたちの息や足音は聞こえる
しかし元々の二階からの音が途絶えたのだ
私はそっとべりさんたちのほうを振り返る
べりさんたちは顔を真っ青にしてこちらを見てた
何か後ろにあるのかな
思った時にはもう遅かったね
---
アルファチーム‐LUA視点
朝早く、5時に起きた
父親はきっと酒に呑まれてぐっすりか
そこら辺の路上で寝ていることだろう
母親はキッチンで食器を割っているか愛人と電話をしている時間だ
そう、つまりここで問題なのはこの母親
母親にバレないようなんとか家を抜け出さなければならない
しかもこの荷物を持って
作戦はもうあらかじめ練ってある
それをメモにして書き留めておいたがさすが夜中に書いたもの
それはもうめちゃくちゃだった
①窓から降りる
②母親を殺す
③救急車を呼ぶ
④行かない
①はもう論外だ
重い荷物を持ったまま飛び降りたらひとたまりもない
荷物だけ先に下ろせたとしても
自分が安全に降りられる方法がない
②はできればやりたくない
だって、怖いから
まだ人を殺すという感覚は味わいたくない
あいつと同じだと思われたくない
③が正直1番まともではある
だが救急車がうちに止まったことがバレたら…
考えるだけでも恐ろしい
自分だけでなく救急隊員の方達も犠牲になってしまう
④これはなぜ書いたのかわからない
絶対に実行しないでおく
そしてしばらく悩んだ末
良いことを思いついた
いつも仕事に行くみたいにしてなんとかいけないかって
そう思った
私は荷物を持って階段を降りていった
壊れた世界の救い方 第四十四話「紅」
アルファチーム‐LUA視点
「LUA」
「はっ!はいぃ…」
急に声をかけられてびっくりする
後ろを向いているところを狙ったはずなのに
「どこ行くつもり」
「また…宿屋で…」
「そんな大荷物持って?」
「…」
全身の震えが止まらない
冷や汗がゆっくりと頬を滑る
「で?質問に答えられないの?」
「い、いや…今日は特べ…」
「どこに行くかって聞いてるんでしょうが!!!!!」
私が言い切る前に母はすごい剣幕で起こり始めた
いつもそう
両親揃ってアル中、薬中、ギャン中の三点セットだ
無理もない
この後母親に捕まったらどうなるかなんて私が1番よく分かっている
前なんて3日近く物置に閉じ込められた
ろくに食べ物も水もなかったせいで
やっと出してもらった頃にはすでに瀕死の状態だったらしい
まあそんな状態だったから出してもらった記憶はないんだけど
「このっ!役立たず!!!」
「親不孝者め!!!」
私は逃げるしかなかった
しかしそれと同時に逃げるという選択肢も
なかった
耳を思いっきり引っ張られる
また二階へと連れ戻される
「自分で歩けよ!!!このクズが!!!」
歩くかよ
自分で
背中をバンバン叩かれる
よろけて転ぶと次は金槌が飛んでくる
たすけてたすけてと心の中で叫ぶも
そんな人、私には存在しない
蹴られに蹴られ自分の部屋まで戻された
何回やめてと言っただろうか
でも話が通じるとは最初から思ってない
「お前反省するまで一生続けるからな!!!」
「いやだぁっ…やめてください…反省してます…」
「じゃあ勝手に抜け出そうとしてたのは本当だったんじゃないか!!!」
「もう一生このままにしてやる!!!」
火に油を注いだ
身体は痛い
だが精神はもうめちゃくちゃにされた後だ
何も痛くない
だから心の中だけではこんなに冷静でいられる
一瞬いなくなったかと思うとライターや縄、釘を持ってやってきた
縄で身体中を縛られて窓の手すりに固定される
足をライターで炙られ
釘を手首に打ち付けてくる
「あ゙ぁ゙あ゙ッッッッッいだいいだいいだいいいいいいいい」
足には火傷を負い
手首に釘が突き刺さる
涙で揺れる視界は紅かった
でもそんな中、私の耳は聞き逃さなかった
誰か来ている
そおっと階段を上がってきている
助けてくれ
もう誰でもいい
こいつを止めてくれ
その一心だった
あいつは手を止めた
階段の方を警戒している
気付いたのかという思いよりも
バレてしまったと私は思った
乱暴に釘やライターを投げ捨ててあいつは階段へ向かう
しばらくして戻ってきた時、あいつは手に包丁を持っていた
死ぬ
これほどまでにそう思ったことはない
今までもこんなことたくさんあったはずなのに
死って本当に身近な存在だったんだねって思わせてくれた
キラリと光る刀身はすでに紅かった
自分の血…ではない
嫌な予感がした
「お前もあいつらと一緒に死ねばいいんだよ」
「さっさと死ね!!!!!」
腹に何か冷たいものが入り込んでくる
硬い、無機質なもの
生々しいほどに包丁の形を立体的に理解する
どくん
どくんと患部が脈を打つ
どくん
どくんと部屋が紅で満たされる
紅
紅
紅
壊れた世界の救い方 第四十五話「憎悪のタペストリー」
ベータチーム‐beri視点
冷たい階段
段差に体重がかかり背中が痛い
やられたふりも楽じゃない
あいつが去った後すぐにみんな起き上がった
…夜春以外
「夜春大丈夫!?!?」
大きな声は絶対に出せない
けど、それでも緊張感のある切羽詰まった声でわんこは言った
はてなさんは冷静にポーチから回復薬を取り出している
夜春の体を起こして傷口を上に上げる
刺されたのは左腕だ
まだ血が止まらない
「これはまず止血薬からですね…」
はてなさんは回復薬をそっと置く
包帯を長く取るとそこに少し白っぽい緑の液体をかけ夜春の腕に巻いた
染みるのか顔を|顰める《しかめる》夜春の手をそっと握る
はてなさんが巻き終わってその上から回復薬をかける
夜春はぎゅっと私の手を握り返した
やはり相当痛いはずだろう
私を含めて夜春は6人の身代わりになったんだから
相手もその6人を殺す気で夜春を刺したはず
明らかにおかしいくらい後ろの人が倒れてもあいつは気にせずどっか行ったし
なんというか、夜春が怪我したとしても
これはまだ良い方なのではないかと思えた
「大丈夫…ありがとう…」
掠れたような声
夜春は起き上がる
「はやくLUAのところに行かないか…?」
「あんなやべえやつが居るってことは…LUA…」
マンドラゴラは本気だろうか
私はそのマンドラゴラの後ろで震えるフェンリル側の人間だった
「あんなやべえやつが居るところにたった6人で行こうってこと…?」
「じょ…冗談じゃない…」
そんなフェンリルを光は軽蔑するような目で見つめる
「え…6人も居るんだよ…?」
「えぇえ…でもぉ…」
私やフェンリルより光の方がずっと勇気があると思った
確かに、夜春をここまでさせた相手を許せるわけもない
ありがとう光
私は夜春を一番後ろに回した
つまり私が一番先頭
でももう何も怖くない
一番怖かったのは夜春のほうだ
だから私はやってやる
LUAを助けるんだ
一気に階段を駆け上がった
音を立てるだとかそんなのは気にしない
それよりもっと気にしなくちゃいけないことがあるから
--- 本当に一瞬だった ---
--- 視界が歪む ---
--- はてなさんにわんこの叫び声 ---
--- マンドラゴラやフェンリル、夜春が私の名前を叫んでいる ---
--- …気がする ---
--- ねえ ---
--- 君は… ---
--- 君だったなら… ---
--- 救って、くれたのかな ---
--- こんな世界 ---
---
???
--- … ---
--- まだ、早いかなぁ ---
--- 前の私だって…もう少しやれたよ? ---
--- まだ君は知らないんだからさ ---
--- まあ…もう終わるけど ---
---
ガンマチーム‐わんこ視点
「べりさんっ!?!?!?」
それはもう叫び声に近い
名前を呼ぶというより驚きで勝手に口から出てきた言葉
あとから駆けつけたマンドラゴラたちも困惑している
「駄目です来たら!!!」
あいつを押さえようとする夜春をはてなさんが必死になって止めている
フェンリルは血を吐きながらあいつと応戦している
その後ろで光さんが震える手を押さえながら弓を引いていた
「べりさん…べりさん…!!!」
体を揺する気にもならない
下手に触ったら駄目な気がする
壁に釘刺しにされたべりさんは
何度名前を呼んでも返事をしない
足元にはべりさんの血だまり
後ろにはそれでも戦うフェンリルたちの血飛沫が
私はべりさんの左胸に刺さった包丁を咥えて引き抜く
人形が倒れるみたいにして
固定するものがなくなったべりさんは壁からずり落ちた
「あの子は特別なんだよ!!!!!」
ずっとそう言っているのはあいつ
でもおかしいと思わない?
今お前が殺したべりさんだって
ここにいるみんな全員も
特別な人たちに決まってる
怒りに任せてあいつに突っ込んだ
できればべりさんみたいに
壁に釘刺しにしてやりたい
それを読んだ光はあいつの左胸に矢を放つ
べりさんとは反対側の壁
あいつは動かない
やった
やったんだ
でも、喜ぶにはまだ早い
本題はこいつなんかじゃない
マンドラゴラはひとつのドアを開ける
「えっ…る…るあ…」
マンドラゴラは膝から崩れ落ちた
マンドラゴラが何を見たか
私は知らない
「来るんじゃない」
マンドラゴラは繰り返してそう言った
でも何かを察したはてなさんは例のポーチを持って向かう
口に手を当て絶句するはてなさん
死んでないと…いいけど…
そんな声が部屋の中から聞こえてきた
すでにもう1人、手遅れがいるんだけどね
壊れた世界の救い方 第四十六話「花と散る」
アルファチーム‐みぃ視点
僕は結局、事後報告のような形で全てを教えられた
不思議なことに何も悲しくない
何かこれが当然のような
こうなることは決まっていた気がした
これが防衛本能だろうか?
夜春の話を聞いてもLUAの話を聞いてもべりの話を聞いても
僕は行かなくてよかった
そんなことが最初に脳裏に浮かんでくる
多分、あまり良くないこと
だけど良かったのは本当にそうだ
実際、嫌な予感がして救急車を呼んだのは僕であり
それで救われた命があったのだから
「意識不明の重体だって」
「でもまだ生きてる」
「LUAの方は?」
「今超濃治療薬の投与中」
「点滴で3つも同時に打ってる」
「そっか」
唯一というか
僕は当たり前なんだけど
怪我がなかった光と今病院に来ている
集中治療室前で僕らは待っていた
他のフェンリルたちも骨折ってたりして色々あったから
本当はそっちとこっちで別れるべきだったけど
流石に集中治療室に入るだなんて聞いて黙っていられなかった
30分ほどが経過した
手術室のランプが消える
2人ともまだ眠っていて、これから入院らしい
眠っているのは麻酔のせいか分からない
運がいいのか、配慮してくれたのか
フェンリルたちの病室とは真隣でとても近かった
結論から言えばこれは不便なことだった
フェンリルやべりがお互いの病室に行き来することはない
だけど僕や光は違う
付き添いみたいな形でお互い交代交代で病室を行き来していた
そしてその度に
「べり大丈夫?」
「LUA元気?」
聞いてくるのも無理はない
僕らに聞くか看護師さんに聞くしかないから
けれどそれに応えるたびに
心臓の奥底がきゅうっと締め付けられるような気がした
「大丈夫」
別に、嘘をついたからとかじゃない
嘘じゃないし
ただあえて補足を付けなかっただけ
大事な大事な、補足
おそらく一番話して欲しかったであろうこと
それでも僕の答えはひとつ
大丈夫だけだった
大丈夫なのは本当
だって本人がそう言ってるんだからね
僕はそれ以上何も知らないよ
先に退院できるようになったのははてなさんだった
その次にわんこ、マンドラゴラ、フェンリル
あの重傷組が残るのは予想がついていた
誰かが退院した時に備えて光と考えておいたことがある
それはこっちの病室には来ないでくれということだ
理由はウイルスとかばいきんが入るかもしれないとか
適当に考えたものだった
けどこれが大事なんだ
これを知ってるのは僕と光
それとお医者さんだけ
本人すら知らない
もちろん同じ病室のLUAだって
「LUAさん、明日には退院できますよ」
「おめでとうございます」
その日、光ははてなたちのいる場所へ帰った
話は聞いている
洞窟前のキャンプで過ごしているらしい
あとは小遣い稼ぎに少し探索をしているとか
無理はしないように
これが大前提で
「みぃは行かないの?」
「うん」
「私あと5日はかかりそうだけど…」
「うん」
「…なんか、ありがとう」
「…うん」
ずっと病院に居続けるわけにもいかないので
病院のすぐ近くの宿を連日予約してそこに泊まっている
光がいなくなるだけでも随分と寂しい
はやくべりにも退院してもらわなきゃね
壊れた世界の救い方 第四十七話「即時行動」
アルファチーム‐はてな視点
あれから1ヶ月が経とうとしている
もうべりさんは退院して、すっかり元通り
みんなからもあの洞窟に行く話が上がっている
「ねーいつ行く?」
「色々あってめっちゃ遅くなっちゃったしさ」
「できるだけ早い方がいいですね」
「調査隊の方にに調査を依頼したのですが」
「洞窟の状況は悪化するばかりらしいです」
今日の朝連絡が来ていた
依頼したのは昨日の夜のはずだったのにはやすぎる
写真までバッチリ撮ってくれていた
それをみんなに差し出す
「おぇえええ」
「きったねえ」
「本当に前は綺麗だったの?」
光さんがこちらを疑うような目で見てくる
「もちろんですよ」
「なんなら今も生き残っている場所はあるんです」
本当かなぁといった様子で皆目を合わせていた
「ほら、行かないと分からないですしね?」
それならもう今日のうちに移動してしまおうということで
洞窟の前にあるキャンプからもっと洞窟に近い場所
ほぼ休憩所のような場所までみんなで歩いた
「じめじめするね」
ふわふわの耳にブラシをかけながらフェンリルさんは言った
さっきまでいたところは比較的標高が高い
あまり雨が降らないのでからっとしている
でもあの水で溢れかえるような洞窟の近くは湿度も高くなる
「もう今のうちに寝て朝早く行かない?」
「ひま」
みぃさんはすごく眠そうだった
みんなもここにくるまでたくさん歩いたので随分と疲れたようだ
狭い小屋の中に各自寝袋を敷いて寝た
寝袋は敷くと言うのかわかんないけど
でも合ってると思う
蒸し暑くて敷いた寝袋の上で寝ることになったから
太陽が少しだけ顔を出した頃
窓からぼんわりと光が漏れる
私はべりさんに起こされた
「ねえはてなさん」
べりさんは私の元へ四つん這いになって歩いてくる
「もう朝ですよ?何しようとしてるんですか」
「は?違う違うそういうのじゃなくって!!!」
べりさんは日頃から疑われてもおかしくないような言動が多い
特にフェンリルさんやマンドラゴラさんに対してだ
(マンドラゴラさんに対してはちょっと面白いからいいですけど)
「はてなさんの能力が聞きたいんだけど」
「良い?」
「能力ですか?」
「分かんないですね」
全員が全員能力を自覚しているわけじゃない
私はそのせいで戦闘においてとても不利だった
だからここまでレベルを上げてもべりさんたちと同格なのだ
私の能力が分かって
もしそれが強かったら
そんな期待を胸に抱きつつも洞窟に行く
「分かんないかぁ…」
「洞窟の敵は強いですよ」
「それがきっかけで発覚することもあるらしいので」
そういう狙いもあるんだって、べりさんはニヤニヤしながら言った
あくまでメインは急に湧いて出てきた黒い物体の調査をすることだ
ニヤニヤしているべりさんの顔を目を細めて見つめる
そういえばキャラビジュですが…
顔だけならいけるかもですが、全員分用意するのは難しいかもしれません()
もしファンアート描きたいんだが💢って方がいたら
特徴や設定だけでも作って出そうと思いますのでよろしくお願いします
最後まで読んでくれてありがとうございました!
壊れた世界の救い方 第四十八話「ゲテモノ料理長」
フェンリル視点
朝になって、全員起きたところで僕たちは出発した
洞窟への道のりはそう遠くないらしい
はてなさんはまた調査を依頼しておいたとか言ってる
もしかしたらその調査してる人に会えるかも
直接話を聞けたらこれからに役立ちそうだし
「ふぁあ〜」
光が大きなあくびをしている
昨晩はよく眠れなかったのだろうか
まあ確かにあれだけ蒸し暑ければ無理もない
「もしかして、洞窟も暑い?」
汗をハンカチで拭きながらべりが言った
それを見てるだけでこっちも暑くなってくる
あれだけ暑かったのは湿気のせいだとすると
洞窟の中は地獄みたいに暑くなる
でもあんまり洞窟の中が暑いというイメージはなかった
「そんなことはないと思いますよ」
「洞窟は太陽の光が届かないので」
はてなさんはもう来たことがあるのだろうか?
曲がりくねって左右に分かれる道もどんどん突き進んでいく
そのおかげもあって10分も歩かずに到着した
洞窟の入り口にはご丁寧に看板が建てられている
--- 神秘の洞窟 ---
--- 入り口はこちら ---
「観光で来る人もいたんですね」
「今は全然いないんでしょうが」
はてなさんが看板に近づく
次の瞬間、看板の後ろの岩陰から何かが飛び出してきた
「ヴヴヴヴヴァアアアアアアア」
「!?」
高くかすれたような醜い鳴き声
黒いぶよぶよした皮膚にハエみたいな頭
気持ち悪い、初めて見る
「みなさんの力があればこいつなんて雑魚です」
「さっさと片付けちゃいましょう!」
一番近くにいたはてなさんは少し後ろに下がる
そして空いた動線を埋めるようにして遠距離組が叩き込む
光の弓矢にマンドラゴラの銃弾
べりの氷を先につけたみぃの糸が飛んでいく
まさに数うちゃ当たる状態だ
近距離組はなかなか近づけず
ただ唖然としてそれを見ていた
気づいた時には敵は袋へと姿を変えていた
「遠距離組の殺意えぐ…」
夜春がそう言うと遠距離組はにこにこと笑った
「袋開けまーす!」
おそらく一番仕事をしたであろう光が袋に触れる
何か違和感を感じたのか
袋から手を離すと糸を引いていた
「きもちわるぅうううい!!!」
光はそう言ってマンドラゴラのほうへ袋を蹴った
マンドラゴラは、え?俺?みたいな顔をしている
「そういうのは男の仕事ですよ」
「えっ、でも今はジェンダーレスの時代zy」
「良いから開けてください」
とぼとぼしたマンドラゴラが袋を開ける
そこには透明のどろどろしたものがたっぷり入っていた
中身の想像は付いていたがどうにも持ち運びに困る
「はてな…これは何…?」
「分からないです…」
正体不明の物体の扱いに困る中
1人LUAは何か荷物を漁っている
「これの中に入れたらどうです?」
LUAが差し出したのは空っぽの回復薬のビン
とても大きいサイズなのでピッタリ入りそうだ
そしてなぜ知っているのか分からないが
LUAはマンドラゴラがビンにそれを移し替えている間補足を入れてくれた
「まずあの敵はレントムと言って」
「それは結論から言えば食料になるんですよ」
「加熱すると固まって、食感だけで言えば豆腐みたいになります」
「クセのない味で好きに味付けして食べれますよ」
「今から食べます?」
LUAはそう言ってガスコンロを取り出す
いやいや、何持ってきてんの、ほんと
LUAの無駄に大きなリュックにはまだいろんなものが入っていそうだ
「今はいいかな…」
「え?でも朝ごはんまだですよね」
「…じゃあ」
僕は誘惑に負けてしまった
他のみんなも食べたそうにしてるしね!うん!!
そこからLUAのお料理講座を受けて完成したのがこれ
「レントムの体液のかつお昆布だし仕立て〜!!!」
「完成〜!」
LUAが小さな器に少しずつ盛り付けていく
手渡されたそれは薄茶色のぷるぷるだ
ぷるぷるといっても確かに豆腐の食感がしそうなぷるぷる具合
「てかあれ体液だったんだ…」
夜春が少し顔を顰める
「んっ…美味しいです!」
一番最初に受け取っていたはてなさんはもう食べている
美味しい美味しい言って食べている
「じゃあ僕も…」
スプーンですくって口に運ぶ
味は出汁の味しかしなかった
あのぷるぷるには味がないんだろう
しかし食感が面白くて確かに美味しい
かつおと昆布の出汁ととてもよく合う
「うまっ!」
「LUAすごい!うまい!」
LUAは赤面で照れている
「まだ半分くらいあるんで…次やる時は別の味付けにしますね…///」
さすが料理長と言ったところだ
(1人しかいなかったけど)
誰1人文句を言わないような料理
まさかこんな洞窟の入り口でそれを食べるなんて思いもしなかった
壊れた世界の救い方 第四十九話「ぷるぷるさん」
ベータチーム‐beri視点
洞窟の中は3つの分かれ道になっていた
はてなさんはこのために3チームを組ませたんだろう
はてなさんやわんこの背中に手を振る
「どうしようか」
フェンリルが懐中電灯を点ける
冷たく薄暗い洞窟がぼんわりと照らされる
「はてなさんもいないし…」
「とりあえず進んで黒いやつを見つければいいのかな」
夜春が小瓶を振っている
今日の任務は黒い物体を持ち帰ること
洞窟の奥部からその黒い物体は溢れ出しているようで
入手するにはある程度は進まないといけなかった
ふと、どこかで物音がする
「フェンリルげっぷした?」
「え?するわけないじゃん」
夜春でもフェンリルでもなさそうだ
「じゃあべりさん?」
「そんなわけあるか!」
げぇっ、げぇっと鳴くものは徐々に近づいてくる
次の瞬間
その音は真後ろで鳴る
鳥肌が立つ
「きゃぁあっ!?!?」
フェンリルの背中に捕まって腕を握る
そのままフェンリルの持っている懐中電灯を音のしたほうへ向ける
そこには真っ白の触手の塊に吸盤がついたような生き物がいる
気持ち悪過ぎる
あまりにも驚いてフェンリルは懐中電灯を落とし夜春は動けずにいる
「な…なにこれ…」
フェンリルはすぐに懐中電灯を拾い上げ夜春に投げる
鞘から太刀を勢いよく引き抜いてそのまま白いうねうねを切り付けた
緑色の液体が溢れる
1本切れた触手がジタバタと動く
まるでトカゲの尻尾みたいだ
そして私もぼーっと見てるわけにもいかない
フェンリルの太刀から逃げるあいつにナイフを突き刺した
吹き出す緑色の液体が鎮むと私はナイフを抜いた
「ナイスべり」
フェンリルとハイタッチを交わしたあと
呆然と立ち尽くしていた夜春と袋を開封する
「あれぇまた同じ?」
中身はあの透明のぷるぷる
入り口にいた敵より小さいから量も少ない
だがさっきのと変わってご丁寧にビンに入れられていた
何か違うのだろうか
「質が違うとか?」
夜春がビンをよく観察する
するとそこにはBと書いてあった
「このレントムもランク付けされてるのかな」
「あ、そういえばはてなさんが言ってた」
「レントムって言うのは大まかな種類の名前で」
「この洞窟にはその仲間が沢山いるみたいだよ」
「なるほどね!」
そうなるとさっき食べたレントムのランクが気になるところ
まあいずれ分かるだろう
もしかしたら袋に書いてあったかもしれない
また倒さなきゃだね
「じゃあこのレントム制覇目指そう!」
「こんな気持ち悪いやつの体液熱して食べようと思った人すごいよね…」
夜春は若干引き気味だった
「でも食べる以外の使い道もあるでしょ!」
「武具屋に行けば良い感じに加工してもらえるかもよ?」
「確かに…」
私たちベータチームは、こんな感じだったね
以上報告を終了します〜
壊れた世界の救い方 第五十話「深く呑み込め魔法の洞窟」
アルファチーム‐みぃ視点
「って感じらしいです」
「ベータチーム」
チームごとに分かれてからの調査から30分が経過
何かあったところからアルファに現状報告をすることを義務付けている
もし、そこに何かあってもすぐに助けられるようにだ
今はベータチームから送られてきた報告をはてなさんが流してくれた
「へー面白い」
「私でもレントムがランク付けされてたり種類があるのは知らなかったです」
LUAがこんな話に首を突っ込むのは無理もない
それはLUAが料理人だからとか言う話ではなく
ただアルファチームは面白いくらいに何もないのだ
ずっと靴の底くらい水の溜まった道が続いているだけだった
「ガンマチームは報告がないですね」
「私たちと同じような状況なんでしょうか?」
「それが良いのかもだけどね」
僕は正直戦いたくない
理由は簡単、死にたくないから
洞窟に来たのは面白そうだからだけど
こんなところで死んでるようじゃあ話にならない
でも今は面白くもなんともないんだけど
「はてなさんこれどれくらい歩いたら黒い物体があるとか分かるんです?」
「いえ、それは確かには分かりませんね」
「ですが私が調査依頼した方がいる道はこちらなので」
「会ったら是非話を聞きましょう」
はてなさんは歩いている最中時折クリスタルのようなものを取り出す
それをなぞったり耳に当てたりしている
僕には全く何をしているかわからなかったが
もしかしたらその調査隊の人と連絡をとっているのかもしれない
そういえば他のチームの報告を受ける時もこれを使っていた気がする
「はてなさんちょいちょいやってますけどそれなんですか?」
ナイスだ
LUAがまず聞いてくれた
「調査隊の方と連絡をとっているんです」
「意思結晶というもので、そうですね例えるなら電話です」
「各チーム1つは渡してあるんですよ」
電話、
それが何か聞いたことはないのに
なぜか意味を知っている
少し怖かった
「なんかすごそうですね」
「皆さん持ってないようですもんね」
「この意思結晶もこの洞窟で取れるんですよ」
「最近は冒険家たちが漁りに漁って探すの大変ですが」
全員が持っていたら便利だろうと思った
この暇な散歩道に少しは楽しみが生まれた
そこから僕ははてなさんの言った通り
少しでっぱっていて薄く光っている部分を探しながら歩いている
結局見つけることは出来なかったが、少し楽しかった
確か、そんな時だ
はてなさんの意思結晶が薄く点滅しだした
「報告ですかね」
はてなさんが意思結晶を取り出す
意思結晶を耳に当てるなりなんなりものすごい音が飛び込んできた
キーンという高い音
そこに負けまいと声を張るわんこの声があった
デルタチームの報告と考えられる
「ノイズやばくない?」
「洞窟の中ですし多分結界が貼られているのでこうなるんでしょうね」
「デルタチームの場所と私たちの今いる場所の間にあるって分かりました」
肝心な報告内容は一切聞き取れなかったがこれで十分らしい
「あっちにあるならアルファは大丈夫です」
「デルタチームやベータチームは心配ですが…」
またしばらく歩いていると
今度は少し濁った水が混ざるようになってきた
もしかして黒い物体が関係しているのだろうか
「近いですね」
「急ぎましょう」
---
ガンマチーム‐光視点
15分前
「ここ本当に洞窟〜?」
「植物多すぎじゃない?邪魔!」
「そんなこと言わないの」
「植物も一生懸命生きてるんだよ」
マンドラゴラってもしかして本当にマンドラゴラなのかな
さっきから邪魔そうな植物があっても無駄に優しい
通る時も優しく手で払いのけるだけだった
「あっ、これ薬草じゃない?」
見覚えのある植物だった
けど、若干色が違う気がする
「あーそうだね」
「てかレアなやつだよそれ」
「まじー!?」
それを聞いて私はすぐにその薬草を採った
大事に袋の中に入れる
「あれ、おんなじような奴さっきも見たよ」
わんこが少し戻り、先ほどのと同じ草を咥えて帰ってきた
ここら辺もしかしていっぱいあるのかもしれない
「ここにもある!」
「あ!あっちにも!」
10分くらいそれを続けていた
それだけでもう顔くらいの大きさの袋はいっぱいになった
「確かこれそのまま使うよりレントムと混ぜると効力が上がるんだよね」
LUAさんの荷物が異次元級に多かったこともあって
あの最初手に入れたレントムはデルタチームが持つことになったのだ
わんこの背中に括り付けてあったビンを下ろす
「もうこの中に入れちゃって良い?」
「荷物増やしたくないから」
「いんじゃねー」
私はビンの蓋を開けるとその中に全ての薬草を詰め込んだ
薬草がレントムに触れると、触れたところから溶けていく
全て溶かし終えた頃には液体は薄い黄色になっていた
混ざりきってないかもしれないからと
マンドラゴラはそのビンをシャカシャカと振った
ビンが大きいもんだから抱えるようにして振っている
すると中の液体はみるみる緑色に変わっていく
回復薬らしくなってきた
「すごいねー!」
「これは報告だよ〜!」
わんこがはてなさんから貰った意思結晶を取り出す
キラキラと光る水色のクリスタルだ
ここら辺でも取れると聞いて少し期待していたが今のところ見つからない
「あ、もしもしこちらデルタチーム」
「大量のレア薬草を発見」
「レントムを使い回復薬を作成しました」
「以上報告を終わります」
この意思結晶の不便なところ
こちらから連絡を入れた場合向こうの声は聞こえないらしい
だから、向こうの話を聞くにはこちらが連絡を切らないといけない
「はーなんか暇だねー」
「早く見つけて帰ろ〜」
マンドラゴラは暇すぎて石蹴りを始めた
真似して私も、そしてわんこも蹴り始めた
どこのチームが見つけてでも良いから早く帰りたかった
---
ペンタ視点
やっぱり、奥の方が粘度が高い
最深部に原因はありそうだ
1mおきくらいに洞窟の入り口から水をすくって集めている
それでわかったのは奥に向かえば向かうほど濁り
奥に向かえば向かうほど粘度が高くなるということ
そして俺もまだよくわかっていないが
特有の成分の濃度が高くなっている
「帰ったらこれの続き調べなきゃだな…」
今日はそれを調べるための
濃度の高い部分を採取しにきた
そして調査依頼をしてきたはてなという人も今日は来ているらしいので
一緒に協力して調査をすることになっている
サンプルは多い方がいい
採取地点も違うものがあったほうがいいだろう
できれば早く合流したいのだが
ここは入り口からかなり潜った場所
今から来るとすればもうしばらくかかりそうだ
そんなことを考えていると左腕に何かが刺さるような痛みが走る
まただ、こんなことばっかりだからすぐに服に穴が開く
腰に付けていたカタールを引き抜きそいつに突き刺す
一発で素材になってくれるような雑魚で良かった
だけどここら辺の雑魚はレントムしか落とさないので気に食わない
カタールに滴る緑色の液体を水溜りで軽く流す
こいつは長い間一緒に過ごしてきた相棒みたいなもの
元は俺も普通の短剣を使っていた
けど、一度あの"事件"が起こしてからもう握っていない
やっぱりカタールは持ちやすくて良い
多分これからもこいつを使うだろう
「あっ!ペンタさん!」
ふと後ろから声がする
握ったままのカタールを構えて振り向く
そこにはおそらく調査の依頼者と思われる人物がいた
「わっ!待ってくださいはてなですよ!」
「失礼」
カタールを腰のベルトに戻す
向こうはまだ黒い物体まで辿り着いていなかったようで
手には採取用の空っぽのビンがあった
「この先が例の場所ですが、もう採取し終わりました」
「そちらは3名だけです?」
「いいえ、9名います」
「3つに分けて探していたんですよ」
「採取終わってしまったんですね、全員呼び戻します」
何をするかと思えば意思結晶を出して入り口に集まるよう言っている
まさか、こんな高度なものを全員が持っているとは思わなかった
長い間この洞窟にいる俺ですら1つしか持っていない
多分ずっと俺が見てるのがバレたんだろう
はてなは意思結晶を微笑みながらしまう
「これ便利ですよね」
「…うん」
3つに分かれてと言っていたので
最低でも3つは持っている計算になる
まだこの洞窟も奥にはあるかもしれないと密かに希望を抱いていたが
この様子だと難しいだろうか
「今からは調査基地に向かって採取した物質の調査を行います」
「えーとその…なんと言いますか…」
「一緒に来て手伝ってくれませんか?」
長らく物体の調査をしているはずなのに
含まれている特有の物体
それがなんなのか分からないのにはまず1つ決定的な原因がある
それは俺が細かい作業が苦手だからだ
この人たちに手伝って貰えばそれも早く終わるんじゃないかと思ったわけだ
「もちろんです!」
「というか依頼しておいた側なのにここまでありがとうございます」
「いやいやとんでもない」
このはてなという人物
なぜか金は大量に持っている
今まで報酬が200Gくらいの依頼がほとんどだったのに
ここの調査依頼はなんと5000Gだったのだ
それを聞いて飛びついてしまったわけ
でももちろん、それに似合うような結果は出したいと思っている
自分自身、思い出の場所でもあるから…
「じゃあ今から行きましょう」
「ここから入り口までの裏道を知っていますよ」
「早く行って他の方たちも待ちましょうか」
俺はそう言って裏道まで案内をした
---
ベータチーム‐夜春視点
「…戻れだってぇええええ!!!」
「えー!!!」
「もう見つけたの?早くない?」
beriさんが意思結晶をぶんぶん振りながら怒っている
どうやら自分で見つけたかったらしい
フェンリルがしょうがないよと背中をポンポン叩いている
「うぅう…」
洞窟の入り口まで戻ると、もう既にアルファもデルタも待っていた
私たちベータが最後だったようだ
そんな中1人見慣れない顔を見つける
「はじめまして、調査隊のペンタです」
あっ、この人なんだ
見かけによらずしっかりしていそうだけど
やっぱりどこか抜けてそう
そんな感じがする
「はじめまして!」
どうやらペンタさんが既に物質を入手していたらしく
その研究を手伝ってほしいとのことだった
おしゃべりをしながら洞窟の上の山を登っていく
とりあえず何か話題を振ろうかと思い、話しかけてみる
「ペンタさん、調査隊って言うくらいなのに1人しかいないの?」
「うーん、まあ、今はそうなっちゃったかな」
ちょっとまずいことを聞いてしまったかもしれない
ペンタさんは急に暗い顔をして下を向いてしまった
「なんかごめんなさい…」
「いや全然大丈夫」
「あとさんって付けないで良いよ」
さっきまで敬語だったのに
そう言われるとタメで話したくなるものだ
「そういえば君の名前は?」
「夜春」
「夜に春で、夜春」
「夜春って言うんだね」
「よろしく」
ペンタはその後もみんなと話していた
自己紹介をしたり、ここまで来る道中のことを話したり
結構楽しかった
そして楽しい時間ほど早く感じる
最初はすごく高く見えた山でもすぐに頂上まで辿り着いた
「ここです」
ペンタが先に行ってドアの鍵を開ける
比較的新しそうな建物で、屋根はガラス張りになっている
展望台でもあるのだろうか?
「じゃあえーっと、3チームに別れてるんだよね?」
「ちょうど良いな」
ペンタはどこか変わった実験道具をテーブルに置いていく
「このちょっと改造しすぎて物騒になった顕微鏡をアルファ」
「繋ぎすぎてどこかから漏れてきそうな試験管をベータ」
「多分ここまでする必要のなかっためっちゃ火力の出るガスバーナーをデルタ」
「いや|長え《なげえ》よ!!!」
マンドラゴラのキレのいいツッコミが飛ぶ
あまりに切れ味が良すぎてペンタが血反吐を吐いている
「まあまあいいじゃない!」
「このちょっと改造しすぎて物騒になった顕微鏡はあっちで使ってね」
「んで繋ぎすぎてどこかから漏れてきそうな試験管はあっち」
「多分ここまでする必要のなかっためっちゃ火力の出るガスバーナーは向こうね」
「だから長すぎだっt」
「なんか言った?」
「いえ、なにも…」
マンドラゴラが震えながらガスバーナーの方へ向かう
私は確か試験管のほうだ
べりさんとフェンリルと一緒に試験管を持って移動する
「これ危ないなあ」
試験管と試験管に穴が開けられていて
そこを繋ぐようにしてたくさんのチューブが差し込まれている
しかもその数一本や二本じゃない
そもそも試験管が10個ほどあってその全てが繋がれている
あんまりこういうことは言いたくないが絶対不便だろう
「これで何するんだろ…」
他のチームのところにペンタが周る
その中でも一番最後にペンタが来た
「君たちのところはこれをお願いするね」
絶対熱そうな液体が入った試験管の液体を手渡される
試験管の温度は少し熱いくらい
でも液体は沸騰しているようにしか見えない
「これをこの手順でお願い〜」
「他の薬品はここにあるから」
そう言ってペンタは大量の小さな引き出しがついた棚を指差す
本当にたくさんの種類がある
絶対にどれか間違えるだろう
今私がここで予想しておく
「うわぁあ…」
フェンリルが手順の書かれた本を開くなり嘆いている
そもそもの手順がアホみたいに多い上に
小さな字でたくさん補足が書かれている
「終わった…」
「私こういうの苦手だからフェンリルと夜春頼む」
べりさんはニコニコ笑ってウインクをする
「は…?無理なんですけど!」
「いやいやべりやれよ!」
それでも私たちは全員で実験を繰り返した
よく見れば同じようなことを繰り返しているだけで
思ったより簡単だった
それでもフェンリルが薬品を間違えて
どっかのアニメや映画みたいに爆発させたのは笑えた
…と同時に今までの努力が木っ端微塵になったので許せない
「え…いつになったら出してくれるの…!?」
「うーん実験が無事成功するまでかな!」
べりさんはどこから持ってきたのか
フェンリルに手錠をかけてペンタに用意してもらった檻にフェンリルを入れた
ちなみに、ペンタはノリノリだった
実験は2人でも余裕で終了し、結果をノートに記してペンタに提出する
まるで学校で理科の実験をやってる気分だった
他のチームのところが終わるまで暇になってしまった
「ほらーふぇんりるちゃんこっちでちゅよぉー?!」
「もぉお!出してよ!終わったじゃん!」
「えー?ままのゆうこときけないわるいこしゃんわー!」
「いっしょうそのままでしゅよー!」
「もうべりだめだ…夜春助けてぇ!」
「え…ちょっとご遠慮しようかな」
「なんで夜春まで!」
檻の中のフェンリルを見ているのもなかなか良いものだ
べりさんがこういうのをよく好んでいる理由がわからなくもない
ペンタも入れて3人でフェンリルの檻を囲っていた
「ペンタ〜!こっちも終わったよ!」
「え?はや!」
「うん…確かに終わったね」
「色んな意味で」
わんこたちのほうはたしかガスバーナー
あんなに大きなガスボンベを繋いで
金属でも溶かせそうなくらいおかしな色の炎を吹き出すガスバーナーだ
何か起こっても不思議じゃない
よく見ればマンドラゴラが涙目で座り込んでいた
「どうした?」
「マンドラゴラが盛大に火傷しちゃって…」
「でも実験は無事終了しました!」
「マンドラゴラのおかげで!」
そう言いながら光はペンタにノートを手渡す
わんこは大きな回復薬から少し取り出してマンドラゴラの傷口に塗っていた
「えっともしかしてこの補足実際にやったの?」
「うん、、、」
「ばかすぎる…色でも炎の温度は分かるって書いたでしょ!」
「一瞬触っただけでも焦げるくらいとかやらなくても分かるように!」
「でもそのおかげでできたんです!」
「マンドラゴラの体を張った実験に感謝を!」
ペンタが呆れた様子で次はアルファチームの方へ向かう
ここは結構難航しているように見える
顕微鏡が物騒すぎて扱いが難しいのと
ピントを合わせるのが異様に難しいらしいのだ
「あ、これここに手挟むと一発だよ」
ペンタはそう言って高速丸ノコが回転する中指を入れた
その様子をただ全員呆然と見ていた
ペンタが指を入れた瞬間レンズの部分が大きくがしゃりと動く
肝心なペンタの指は無傷
丸ノコはセンサーが付いているのだろうか
「これ他の人が勝手に使えないように改造しといたんだよね」
「言うの忘れてたわ〜ごめんごめん!」
「ごめんごめんじゃないですよもう…」
みぃなんて拗ねて部屋の端っこの方にうずくまっている
相当苦戦したんだろう
やがてアルファチームの実験も終わるとペンタが機械にデータを打ち込み始めた
カタカタとキーボードを叩く音がする
タンッ
「できた!」
ペンタが持ってきたのは1枚の紙
3チームすべての実験結果を組み合わせたものらしい
私には何一つとして理解できなかったけど
テーブルの真ん中にその紙をみんなで取り囲む
「それで…なんだ…?」
しばらく経ってフェンリルが質問を投げかける
みんなわかってないに決まってる
けれどもペンタだけはじっとその紙を見つめていた
「何かわかったの?」
私も聞いてみるけどペンタの反応はない
つーっとおでこに汗が流れていくのが見えた
まるで何かいけないもの
あるいはすごいものを見つけてしまったような表だ
「こ…これ…」
「み…見たことがない…」
「なんだよ!!!」
やっと口を開いたかと思えば見たことがない
うんそりゃあそうだろうねとしか言いようがなかった
でも話を聞くとその重大さが目に見えてくる
「俺はもうずっとこんな研究を続けてきた」
「誰も行ったことがない場所まで行ったし」
「誰も見たことがないようなものまで見てきた」
「けれど、その全てに新しい物質が見つかることは未だかつてなかった」
「ペンタが下手だったからじゃなくて?」
「そこは安心しろ専門家に頼んでる」
べりさんの問いにペンタは少し困ったような顔をして答えた
けどそこまでして徹底的に調べようとするところは褒めたい
「これで何が凄いかわかったか?」
まとめると
ペンタは長年色んな物質を調べたりして
それでも新しい物質が見つかることはなかったのに
今日こんなまぐれで見つかってしまって驚いている
ということかな…?
「…でこれをどうするの?」
「名前とかつけちゃう?」
「そうしよう!」
ペンタは半分置いてけぼりで勝手に名前が決まった
決まった名前は
「じゃあ魔素、で良いんだね?」
そう、魔素だ
こうなった経緯的にはなんか魔法みたいだね!
そうだね!でもなんか凄い濃度が高いらしいよ
ほらここに書いてある
なるほどじゃあ魔素でいいや
こんな感じだったはず
いかにもファンタジー系の物語に出てきそうな名前に決まった
「魔素ねぇ…」
「じゃあこれだけを取り出せるかちょっと頑張ってみるね」
ペンタが拾ってきた黒い物体を持ったまま別の部屋に入る
ガチャリと鍵がかけられてから1時間ほどが経った
「指スマ2!!!」
「よっしゃあかったぁあ」
「…暇だね」
「どうする?帰る?」
みんなが飽き始めていた頃だ
「やっと出来た…ちょっといつもの薬剤が使えなくて苦戦したよ」
それでも1時間でこれは良い方なのではないか
ペンタが持って行ったはずの黒い物体は全く別のものに変わっていた
多分、摘出された側の黒い物体はそのまま黒かったが
摘出した側の物体は粉っぽく
魔素なんて怖そうな名前が付いているのにも関わらずキラキラしている
イメージ的には金色の粉が赤、青、黄、などの色に光った感じ
「そしてねー、効果も分かりました!」
ペンタがちょっと悪そうな笑みを浮かべる
ビンの蓋を開けたかと思いきや私に向かって粉をかけてきた
「きゃぁあっ!?」
…ちょっと期待するよね
でも、面白いくらいに何もない
体のどこを見ても何も変わってない
もっとかわいくなったり羽が生えたりとか期待してたのに
何もなかった
「何が変わったの…?」
「じゃあ実験台は…マンドラゴラでいいか」
ペンタが私の目の前にマンドラゴラを引っ張ってくる
何をさせる気だろう
「マンドラゴラに能力使ってみてよ」
「え!?俺??やめて!?」
内心やりたくなかったが(大嘘)
仕方なくマンドラゴラに能力を使用する
マンドラゴラとのレベル差は私の方が高くレベル5の差がある
少し体を動かしたりができる程度だ
せっかくならちょっと遊んでやろうと腕を動かして服を脱がせる
差が5くらいじゃあんまり言うこと聞かないから無理だろうけど…
「えっ?何やめて夜春!!!」
驚いた
マンドラゴラが私の思う通りに動いている
それどころか通り越して私が想像した以上に…脱いでる
上着脱がそうとしただけなのに…
「あぁあさいあくううう」
能力をやめるとマンドラゴラはうずくまってしまった
べりさんが傷口に塩を塗るようにして
脱ぎ散らかされた服をマンドラゴラに被せる
「使う人間違えたな…」
ペンタがぽりぽり頭をかいている
間違えたとか言うレベルじゃない
まあペンタは私の能力知らなかったから100歩譲ってまだ許すけど…
「ってことでこんな感じだね」
「これみんなの分」
小指ほどの大きさのビンに詰められた魔素をペンタがみんなに配る
私にも渡された
「能力を強化する作用があるみたいなんだ」
「もしもの時に使ってね」
わんこさんの能力に似てるなと思った
まあまぐれかたまたまだろう
でもフェンリルや光も同じことを考えたらしくわんこさんに視線が集中する
「でもまだ最深部まで行ってないのにこの濃度とは…」
「最深部、どうなってるんだろう」
次の日、また同じ道を同じグループで分かれて進んだ
最終的に一番最初に最深部に辿り着いたのはアルファチーム
全員が予想していた結果だった
けれど洞窟は奥に進めば進むほど敵が増え
所々にあった薬草などは姿を消していく
アルファチームが最深部に到着したと連絡が入ったのはついさっき
なぜか聞こえてきた声はLUAのものだった
「ちょっと怖いよね」
「はてなさんとかみぃ大丈夫かな?」
フェンリルはそう言うがこちらベータチームにも余裕はなかった
さっきフェンリルは致命傷を負い全員が持っていた回復薬の8割は消費したし
できるだけ使わないように使わないようにしてきたせいで
私もべりさんも身体じゅうに深くはないが傷があった
「急ごう」
「せめてデルタとは合流したい」
光やわんこさん、マンドラゴラの話を聞けばデルタの方は大量に薬草があるらしい
出現する敵も弱いし色々あまり消耗してないと思われる
そしてこのベータが進む道は最終的にデルタと合流する形になるからだ
ペンタが歩き回って書き記した地図通りだとするとそうなる
「あっ、デルタからだ」
べりさんが意思結晶を取り出して耳に当てる
「えっ、まじ?」
「戻るわ」
「ねえそれじゃあ聞こえないって!」
「ごめんごめん、合流するはずだった道通り越してるんだって」
「だから今デルタ必死にこっちに向かって走ってる」
「くそわろた」
フェンリルに棒読みくそわろたと共に来た道を戻る
案外すぐにデルタチームとは合流することができた
そしてお互いの状況確認をする前にアルファチームからの報告が入る
「緊急事態」
「アルファチーム入り口まで戻ります」
「他チームはそのまま調査を続けるようにだそうです」
「以上」
「え?緊急事態?」
聞こえてきたのはまたLUAの声
でも気になるのは緊急事態ということよりも
他チームはそのまま調査を続けるようにだそうです
この部分だ
まるで誰かに言われてやっているみたい…
「どうするべき?調査続けるの???」
光はすっかり怯えてしまい
何もないのに弓を構えておろおろしている
「私は帰るべきだと思うんだけど…」
みんなわんこさんと意見は同じだった
アルファチームですら緊急事態に陥るような場所
このまま調査を続けるわけにはいかない
そしてはてなやみぃ
アルファチームについて行ったペンタも心配だ
「戻ろう」
今まで来た道を全速力で駆け抜けていく
来る時の時間の半分ほどで外に出た
が
そこには誰もいなかった
「やっぱり…」
わんこさんが顔を|顰めて《しかめて》アルファチームの道へと向かう
待って待ってという皆の声も無視して行ってしまうものだから
私たちもついていくしか道はなかった
--- ここでやめておけば ---
--- 良かったのにね ---
またしばらくしたら別シリーズで第二章ということで続きを出します!
第一章、最後まで読んでくれてありがとうございました〜!
壊れた世界の救い方 超番外編「動物の体の仕組み」
beri視点
今は真夜中の2時
シーンとした宿の空気に物足りなさを感じていた頃
みんなが動きだす
「べーりさんっ!」
小さな声ではてなさんがそう言いながら腕を掴む
「忘れてないですよね?」
「もっちろーん!」
今日はわんこの誕生日
盛大に祝ってあげようとずっと前から全員で計画を立てていたのだ
「ふわぁあ…はやいよ2人…」
マンドラゴラとフェンリルも集まる
わんこの様子を確認してから来た夜春も5分ほど経ってやってきた
「大丈夫、ちゃんと寝てる」
ドッキリ役の光をわんこのいる部屋に置いて準備を進める
「じゃあせーので電気をつけて誕生日おめでとう〜!!」
「って言うんだよ?」
念には念をで何度も確認をする
わんこの犬用ケーキの準備も万端だ
「ねえねぇはてなさん」
「ちょっとこっちきて」
ペンタがはてなを呼んで何か話している
はてなさんはニヤリと笑みを浮かべると何度も頷いた
何をするつもりだろう
「よーしじゃあフェンリルたちは外で待っててね〜」
「すぐケーキも持ってくから〜」
「え、えぇ」
ペンタに背中を押されてほぼ強制的に部屋の外に出される
しょうがないのでわんこの部屋の前で待つことにした
そう長くは待たずにケーキを持ったはてなさんがペンタと一緒に出てくる
「じゃあもういいかな…?」
光に合図をするためにドアを軽くノックする
鍵を開けてもらい中に入ってテーブルにケーキを置く
電源スイッチの前には夜春
ケーキのところにフェンリルとマンドラゴラ
わんこの隣にペンタと私
ソファに光とはてなさんと言ったところ
「じゃあ行くよ…?」
夜春が部屋の電気をつける
気付いたのか僅かにわんこの瞼が動いた気がした
でも起きる気配はないのでわんこをちょっとくすぐってみる
「きゃあっ!?」
飛び起きたわんこ
私は合図をかける
「せーの!」
--- 「お誕生日!おめでとう!!!」 ---
寝ぼけているのかまだ困惑しているわんこ
フェンリルとマンドラゴラがケーキの蓋を取る
やっと状況を理解したのかわんこはベットから降りた
「わぁ…みんなありがとう…!」
「じゃあケーキを切り分けますね」
「入刀!!!」
ペンタが包丁を握る
全員分切り終えるとみんなでテーブルを囲んで座った
「深夜だけど…いいよね!特別!」
「いただきます!!!」
たとえ犬用のケーキだとしても人間が食べて問題はない
というかめっちゃ美味しかった
まあわんこだし多分犬用じゃなくても食べれたんだろうけど
でも多分、これが原因だったんだろうなって今は思う
絶対元々のケーキにはないシロップがかかっており
やけに甘く、少し独特な風味があるシロップだった
---
わんこ視点
豪華な誕生日ケーキを食べて
その後には誕生日プレゼントをもらった
早速ラッピングを解いてみると
中にはずっと欲しかった首輪につけるアクセサリーが入っていた
「ありがとうみんなぁ…!!!」
ちょっとおしゃれな金属製の骨のアクセサリー
首輪につけてもらって鏡を見る
きらきらと輝く骨、やっぱり素晴らしい!
だけど心なしかみんなの雰囲気がおかしくなっていった
急にべりさんが夜春の太ももを触りだしたり
マンドラゴラが顔を真っ赤にしてうずくまっていたり
それを見てはてなさんやペンタさんはニコニコ笑っていた
「わかった、ペンタがやったでしょー!」
夜春がべりさんから逃げながらそう叫んだ
ペンタさんはどうかなぁなんて言っちゃって
確信犯だ
「まあ今日の主役はわんこだからね」
「いっぱい調べてきたんだよ?犬のこと」
「たっぷり遊んであげましょうか!」
はてなさんもペンタさんもノリノリ…
というか、2人だけじゃない
みんなの標的が私にすり替えられた気分
いつのまにかべりさんの手は夜春の太ももではなく私の尻尾を握っていた
「えへへぇ」
「///」
なぜかゾクゾクする
いつもわしゃわしゃ撫でられてる時はこんなことないのに…
「わんここっちにも寄越せって」
ペンタが耳をそっと撫でる
「ひゃっ///」
もしかして…
狙ってる…?
「ほーらよしよしよし〜!」
光までも私を触って撫で回す
いつもと少し違う触り方で…
「はーっ///」
「はーっ///」
「あれ?わんこ息荒くない?どうしたのぉ〜?」
ペンタさんがすっごく楽しそうな顔をする
でも最初からこんなだったのかもしれない
うん、絶対狙ってる
「どこ撫でてほしいんですか?先輩♡」
意地悪なはてなさん
知ってるくせに…
「耳と尻尾は感覚が鋭いんでしたよね」
「もちろんあ・れ・も♡」
「ひやぁ…///♡」
そのまま薬に操られたみんなに全身撫で回された
今思えば本当に恥ずかしい
ネタっぽくべりさんが口に出すたびに腕を軽く噛んでやってる
「ごめんてぇ♡」
「でもかわいかったよ?あのわんこ!」
「やめてってばー!!!」
これはR18にしなくてもよかったかもしれんな…
最後まで読んでくれてありがとうございました!