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推し短編
最近、私の最推しの挙動がおかしい気がする。
なんというか、調子が悪そうなのだ。
別に勘違いであればそれでいいのだけど、と溜息。
しがないリスナーでしかない私は|X《旧Twitter》のタイムラインを覗きながらつまらない|講義《呪文》を聞き流している所である。
本当は良くないとは分かってるけど真面目にしたって寝るだけなのだから許してほしい。
「であるからにして、この公式は――」
そう、私なんかの杞憂はこの講義ぐらいつまらないちっぽけなものなのだから。
そんなこんなで私の毎日の大半は変わり映えが無い。
毎日の楽しみと言えばさっきからずっと話題にしている最推し、紫乃宮永亜君に関することぐらいである。
「こんとあ~、今日も皆来てくれてありがとう」
この声を聴くことで毎日頑張れる。
まぁ、だからこそその最推しが辛そうだったら助けてあげたいんだけど......。
【ねぇねぇ、とあくん最近風邪とか流行ってるけど大丈夫そう?】
「そうだね。でも、こっちは大丈夫そうかな」
この通り探りを入れても何もない。
本人が何もない、大丈夫というんだからこっちからは何もできない。
「今日も声でなくてごめんね......」
謝らなくてもいい、もっと甘えていいんだよ? そう伝えてもやっぱり、いつも頼ってるのにこれ以上頼れないだって。
むしろこっちこそ頼ってばっかなのに、一人だけおんぶされてるみたいで寂しいって感じてしまう。
だが、そんなクソデカ感情をぶつけられる訳もなく今日もちょっとした寝不足にあくびをして朝を迎えるのです。
そして、噂も考え事も流れるものではやアニバーサリーの時期。
できれば、一緒に永亜君を応援してきた皆さんだけじゃなく永亜君を新しく知ってくれる人も沢山いる様な盛大なアニバがいいな、なんて思いながら布教活動はぬかりなく。
いつもより心が躍って踊ってしょうがなくて傍から見れば百面相のヤバイ奴っぽいけどそういうのがヲタクというものなので諦めてる。
「あぁ、うん。良いと思うよ」
ただ、永亜君は返事にちょっとずつ間ができて上の空な事が多くなって。
楽しそうなんだけど、でも合間に何か負の感情が見える様な気がして。
だけど、浮かれ気分の私はそんなの毛頭気にもならなくて。
「ごめん、アニバなのに歌えない。本当にごめんなさい」
枠に入るなり泣きそうになりながら、謝られた。
そんな事で、推しを不安にしてしまった、そんな私を許せなくて。
でも、これ以上自分自身で自分の記念日を台無しにさせれなくて。
【ゆっくりと思い出を振り返る記念日も、良いんじゃないかな】
本当はまだ取っておくつもりだったけど今までの画録を切り貼りしてそれぞれから集った神絵と拙い編集の動画をDMで送った。
暫く、その歌声だけが流れる。
「こんな凄いの、僕がもらったら駄目だって、いつもいつも......」
【そういう時は、ありがとう。だよ】
【もっと、私達に甘えてくれなきゃ寂しいよ】
多分、泣いてるのか鼻をすする音が聞こえる。
「僕、ずっと頼り方が分からなくてそのせいで謝ってばっかで皆を困らせてた」
そこで一息吸ってからまたゆっくりと考えながら永亜君は言葉を紡いだ。
「でも、もっと我儘言ったほうが皆と近づけるよね」
【そうだよ!!】
そうこなくっちゃ、と私まで笑顔になる。
「僕の、最初の我儘聞いてほしいな。僕の|歌《気持ち》を」
確かにいつもよりクオリティは低いかもしれない。
だけど、心が通じ合った、今までで一番心を震わせられた曲だった。
ありがとう、大好きだよ。