公開中
ナデシコと百合の花
花シリーズ、ついに完結…!
最後は、二人の女の子を花に例えたお話で終わります!
花シリーズのみんながこの話の中でみんな出てきます…( •̀ㅁ•́;)
ナデシコ目線
私は|撫子《なでしこ》って言う名前。
名前から分かるとおり、お母さんはなでしこの花が大好きだった!
無邪気な娘に育ってほしいって願いを込めて、お母さんとお父さんがつけてくれたこの名前、私はとっても気に入っている。
でも、私は今、自分のことが嫌い。
私、おかしいんだ。
女の子のことが好きになっちゃう。無邪気ってなんなのかわからないけれど、こんな変な私、無邪気じゃないのかもしれない。
親には到底話せないし、スクールカウンセラーなんて信じてないから、ネットでだけ自分が同性愛者ってことを出している。
ネットには案外そういう子が多くて、ほっとした。
でも、私は今、やばいことになっている。
隣の席の百合ちゃんに、恋をしてしまった!
「百合ちゃん、ここ、どういう…」
分からない問題を、頭の良い百合ちゃんに聞いたことがあったんだ。そしたら…
「まって、まず、勘でもいいから解いてみな。自分なりの答えを出して、私に見せて。どこが間違ってるかを教えてあげるから、そこからは自分で解きなさいね。」
甘やかされるばかりだった私は、今まで与えられるものを貰っていた。自分なり、なんて、よくわからなかった。
でも、そんな私に選択権を渡し、自分の力でやってみてという百合ちゃんに、一瞬で恋したんだ!
---
百合目線
私はド陰キャの|百合《ゆり》。撫子っていう隣の席のド陽キャが、この頃絡んでくる。
私は、いつも白百合の押し花の栞を持ち歩いていた。
母や父が私にこの名前をつけたのは、「白百合のように純潔であってほしい」、それだけだった。
単に花言葉に掛けただけの名前なんだから、あまり愛せない名前だ。
あと、それから、今私には悩みがある。
私はどうやら、バイのようであった。
男子も女子も恋愛対象になり得る、らしい。
小学生の時は女子が好きで、所謂レズなのだろうと思っていた。しかし、最近男の人にキュンとくる事も増えた。
この前ネットで見かけた人も、同性愛者で悩んでるって言っていたので、異性が好きになれるだけ特別なのか。と、妙に納得していた。
「おはよー百合ちゃん!」
あぁ、来やがった…。教室のうるさい量産モンスター、陽キャのトップ、撫子…。
挨拶には適当に。話を振られにくいように…
「あれ?おはよーぅ!聞こえてる?」
「うん」
「そうそう、聞いてー!…」
私の願いも虚しく、話題が軽く4,5個爆発したところで、|制止音《チャイム》が鳴った。
撫子は大人しく席につく。助かったぜ、チャイム…!
「ねえ、百合ちゃん。」
こっそりと撫子が話しかけてきた。
無視したいが、紙切れを渡されて、無視できない。
折り曲げられた紙切れを開けると、そこにはこう書いてあった。
《今日、体調悪い?》
---
撫子目線
「おはよー百合ちゃん!」
声でかめに言ったつもりだったんだけど、百合ちゃんには聞こえなかったみたい。
朝の教室を走って、自分の席まで行った。
「おはよっおはよっ」
なんども耳元で叫んだが、百合ちゃんはぴくりともしない。
「あれ?おはよーぅ!聞こえてる?」
「うん」
やっと、おとなしいお返事が帰ってきた。
「そうそう、聞いてー!…」
水泳教室のこと、昨日の夜眠れなかったこと、家の電気が壊れたこと、お気に入りの歌のこと、大好きなアニメのこと、百合ちゃんのお友達のこと、私の友達のこと、クラスの男子のこと…8つくらい話した当たりで、チャイムが鳴った。
「やば」
席に座る。そして百合ちゃんを眺めた。
顔が青っぽい。熱?風邪かな?
そう思って、お気に入りのシャーペンでメモ帳に《今日、体調悪い?》と書いて渡した。
百合ちゃんはそれを読んでびっくりしたように顔を上げた。きっと当たってたんだ!
私の渡したメモ用紙に、百合ちゃんがネイビーのシャーペンで何か書く。
《なんで分かったの?》
字がとても綺麗で、きゅんとした。
《顔が青ざめてるかなって思って
(ヽ´ω`)》
顔文字付きで書いたけど、どうだろう…?
気持ち悪く思わないかな?
《そっか。よく気づいたね。実は朝から風邪っぽくてさ。》
先生が授業しているのに、私たちはこんな手紙を交わしてる。罪悪感と楽しさが溢れ出しそうになる…!
《休みたい?それとも、このまま授業受ける?》
《結局この手紙で先生の話聞いてないし、一緒にサボろうよ。》
百合ちゃんからそう言われて、嬉しくなった!
---
百合目線
正直、小、中、ともにサボった経験なんかなかった。でも、撫子と手紙するくらいから、私はサボっちゃいたい。と思った。
純潔、なんて、クソ喰らえだ。
先生には、
「撫子さん、きついらしいので保健室へ行かせます」
と言ったあと、
「あと、私もきついので一応熱計ってもらえますか?」
と付け加えた。私にはもちろん熱がある。撫子は、|私《優等生》が「体調悪いらしい」と言ったので大丈夫。
保健室へ行くと、いつも通り保健の先生は酒飲んで寝ていた。
保健室の窓から、私達は抜け出したのだ。栞はもう、持って行かなかった。
高揚感に包まれる、というのはこういうことなんだろう。
わくわくして、どきどきして、楽しくて。撫子と私で、ずっと笑っていた。
道端のトイレで、制服から私服に着替えた。
私服というのは、その辺で買ったものだ。
その後、私達は遊びまくった。電車でお子さん連れの夫婦らしき人を見つけたので、声をかけた。
「何ヶ月ですか?」
妻は、夫に、どこの言葉かわからない言葉で話した。
「Narinig ko ang tungkol sa batang ito, Aji. Ilang buwan kaya? kasi.
(この子のことを聞いているわ、エイジ。何ヶ月になりますか?だって。)」
すると、夫が応える。
「おーけー、この子は8ヶ月だよ。」
「あら、上手く言えたじゃない…あ、Maganda ang sinabi mo, Aji!(上手く言えたわね、エイジ!)」
「ありがとう、梨花。」
夫は日本語を聞くことはできず、しゃべることしかできないようだ。
私や撫子は、口元が緩んだ。
---
撫子目線
電車の中でほっこりする体験をした。ああいう夫婦、憧れちゃう…!
駅から出て、すぐ、四人の男の人たちを見た。学生二人と、子供が二人。その子供の中の一人が、私に寄ってきたんだ!
「こんにちはぁ、おねぇさん」
「こっ、こら、幸!すみません💦」
「いえー、この子、弟さんですか?」
「はい…もう9歳なんだからしっかりして欲しいんだけど…」
長男っぽい彼は、同い年らしかった。
「僕は…15歳です…中3の。」
「私ら高1の15歳ですよ!同い年じゃないですか!」
百合ちゃんは幸くんにでれってしている、ギャップにキュンときながら、長男くんの方に向き直った。
「そちらも弟さん?」
「はい…こいつらは、信乃と愛。信乃が次男で愛が三男です。大変ですよ、中3が男で一つで育てなきゃなんだから…」
長男くんは一人で三人を育てているらしい。中3って言ったら受験生、絶対大変だろう…。陽キャの底力にて、ラインをゲットして、困ったときには呼ぶように伝えた。
街路樹に手をかざす不思議な女の人にも声をかけた。
百合ちゃんと、少し不気味がりながらも勇気を振り絞って声をかけると、振り返った彼女はすっごい美人だった。
「お綺麗ですね」
百合ちゃんが率先して言った。女の人は笑って、そう?と聞き返した。
「めちゃめちゃ綺麗ですよ!美容術、教えて下さいよ!」
私が明るく言うと、彼女はもっとはにかんで言った。
「綺麗の秘密は、不思議な出来事と、不思議な花と、不思議な人に出会うことだよ。」
彼女のその魅力には、惹かれる部分があった。
---
百合目線
その辺の百均に寄った。さっきのお姉さんに触発されたらしく、撫子のメイク用品を買いに来ていた。(百均のもので綺麗になれるかよ)
「あの人、悲しそうに花瓶を見てる。」
「気になるね。声をかけてみる?」
いかにも泣きそうな顔の男の人が、花瓶売り場の前で立っていた。
気になった私達は、とりあえず声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
顔を上げた男の人は、赤くなった鼻の頭を掻きながら、「はい」とだけ言った。
「なんで、花瓶の前で泣きそうになんか…」
「…学生の頃、友達を亡くしたんだ。彼の病室においてあったフリージアの花は、丁度こんな花瓶に挿してあったから、感極まっちゃって…」
撫子が、察したように、「あっ」と言う。
この人は、そっとしておいた方がいい。
「「すみません」」
私たちは二人同時に頭を下げて、
「辛いこと、話してくれてありがとうございました。失礼します。」
と、撫子が珍しくきっちりと言葉を放った。
夕暮れの中、おばあさんとおじいさんが猫と戯れているのを見かけた。
「猫、好きかい?」
じっとその様子を見つめていた私たちに、おばあさん達が声をかけてくれた。
「あっ、はい!」
撫子が元気よく返事をする。
「おばあさん達も、猫が好きなんですか?」
私が聞くと、おばあさんは、おじいさんの方を見て言った。
「この猫は…蓮の花弁を持ってきていたからねぇ…」
私たちにはよく分からなかったが、おばあさん達はすごく幸せそうな顔で微笑んでいた。
---
撫子目線
「サボってみて、どうだった?」
色んな人と関わって、その後、私の家に帰った。一緒に部屋で飲み物を飲んでいる百合ちゃんに、私が聞く。
「そうねぇ…色んな人と出会えて、楽しかったわ。まあ、親には、帰ったらこっぴどく怒られるだろうけど(笑)」
私は、百合ちゃんのこんなにほぐれた表情を初めて見た。
やっぱり、無邪気がどうとかじゃない!伝えたい。今日出会った素敵な人たちに背中を押されるように、私は自然と声に出した。
「百合ちゃん、私ね、百合ちゃんのことが好きだよ。」
「…!?」
「私、レズだからさ。」
百合ちゃんの方を見れなかった。恥ずかしい。きっと私は今、真っ赤になってる。
---
百合目線
流石にこの告白は予想できなかった。
でも、今までのどんなイケメンからの告白よりも、どんな可愛い娘からの告白よりも、撫子の告白は嫌じゃなかった。
私…もしかして…
恥ずかしそうに顔を赤らめる撫子を見ながら痛感する。
「私も…好きになってたんだ…」
無意識中に言葉にしてしまって、私はあたふたする。
「え」
びっくりしたように撫子は顔を上げた。
もう吹っ切ろう!
「わっ、私も好き!」
---
夕陽の中で、
二人の少女の恋が、動き出した
花シリーズ、終わったぜぇーっ!
もう最後は花がほとんど関係ないよね(笑)
ま、許してな☆