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    8.僕、トマトは生以外食べれない。
    
    
        8話目です。
10歳の頃って、食べれないもの多かったな…。
    
    
    扉を開けると、昨日一日過ごした部屋と全く同じ造りの部屋がそこにあった。
ベッドとサイドテーブルは4つずつ、壁沿いに本棚があって入口から離れたところに広いシャワールーム。鏡にうつしたみたいにまるで一緒。
「ベッド決めよーぜ。」
と部屋に入ってきたエイブリーが4つのベッドを見て言った。
「適当でいいんじゃない?どうせ隣同士で寝るでしょ。」
確かに、とエイブリーが頷く。
僕がベッドにボフンと座ると、エイブリーもその隣のベッドにひょいっと飛び乗った。
「なあ、今日のお前の箒凄かったな。ビューンって通りすぎたりいきなり降りてきたり。目で追うのでも大変だったぜ!」
「そりゃどうも。箒は大得意だったからね。」
そのあとは箒から話が広がってクィディッチや他の授業、先生の話になる。
僕らは久し振りの二人だけの時間を目一杯楽しんだ。
結局寝たのは2時頃だった。
そろそろヤバイかなと二人とも感じ始めたところで、おやすみと布団を被って目を閉じた。
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「起きろ~。そろそろ時間だぞ。」
「やだ~…。もうちょい寝る。」
「俺腹減った。朝飯行こう。」
エイブリーに体を揺さぶられて起きた。ぽやぽやする。寝ぼけ頭でシャツのボタンをとめ、ズボンを履き替える。ローブは…いいか。ネクタイも結べないからとりあえず首にかけた。
「お前、ネクタイどうしたんだよ。ローブも着てねえし。」
「ネクタイは結べない。ローブは重いし暑いから…。そんなことより大広間行こ。」
そうだなとエイブリーが扉の方へ足を進めたので僕もついて行った。
「おはよ~」
眠い目を擦りながらスリザリンのテーブルへ向かうと、既に朝食を食べ始めているアブくんとトムが居た。
ちょうどいいところに!
「アブくん、ネクタイ。」
人差し指でトントンと自分の胸元を叩いた。しょうがないな…という顔をしてアブくんがそこに座れと言った。スルスルとネクタイが抜かれきれいに締められていく。さすが!慣れてる。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
さて、朝ごはんでも食べようかな。どれにしよう…と悩んでいると、この間もご飯を取り分けてくれた先輩達がまたひょいひょいとプレートに盛り付けてくれた。彩りもいい、見た目も崩れてなくて綺麗。これは素敵!ただ、感嘆の声をもらした僕の目にひとつ、赤色が飛び込んできた。それは、トマトの入ったキッシュだった。しかも皮入りの。まずい。どうしよう。
僕は、加熱されているトマトが苦手だ。皮が残っているものはもっと苦手だ。ケチャップは食べれる。スープも、トマトソースも食べれる。でも、形が残っているものはどうもいただけない。あのぐじゅぐじゅとした舌触りに時折ある皮が気持ち悪い。どう切り抜けよう。このピンチを。
-そうだ。
僕は隣に座っている奴…トムを見た。こいつがいる!トムにお願いすれば…!
だが、トムはキッシュの乗ったプレートと僕を見て、ニヤリと笑った。終わった。そういえば僕は昨日部屋に帰っていない。そんな僕にこいつが何かしてくれる訳がない。
トム…ヘルプ!必死に目で訴えるが、トムは容赦なく口を開く。
「こいつ、これ大好きなんです。よかったな。ノア。」
トムはキッシュを指差して先輩に言った。こうなったら腹をくくるしかない。男見せろ!僕!
震える手でフォークを持ち、恐る恐る口に入れる。こうなれば一思いに…!
…おいしい!
驚きが混じった笑顔を浮かべた僕に先輩は
「そんなに好きだったのか…。」
と溢していた。
そんなことより、なんだこれ。皮を全然感じない。うまい!うまい!
結局僕はもう一つ取ってしまった。
チラッとトムを見ると、いかにも面白くないという顔で自分の皿へ顔を向けた。勝ったぞ!トムに!