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チョコっとお菓子をあなたへ
冬真っ盛りの2月、世間は恋だのチョコだのバレンタイン1色に染まっていた。それと同時期に奏海と同じクラスの女子達も彼氏にあげるのだの友チョコを作るのだのバレンタインの話題で盛り上がっていた。当然ながら学校に菓子類の持ち込みは厳禁である。
「もうすぐバレンタインデーですが、みなさんに忠告しておきます。ご存じの通り学校にお菓子の持ち込みは禁止ですよ」
と先生が釘を刺す。それでも華の女子高生達は教師陣の目を掻い潜り愛しのあの人や友達にチョコを贈るのだとか。
言うなればバレンタインは闘いである。
「かなみんはバレンタイン、好きなヒトとかにお菓子作るの?」
終礼が終わり帰り道。友人の芽吹に話を振られた。
「いや、作らないけど。そもそも好きな人いないし」
「好きなヒトいないって絶対ウソだぁ。気になるヒトくらいいるでしょ?……それもいない……それなら部活で作ったりとかは?」
「今度みんなでクッキーを焼こうかと。逆に聞くけど芽吹ちゃんはどうするの?」
「気になってるヒトにあげよっかなって思ってるとこ。あっこれ誰にも秘密ね」
と恥ずかしそうに話す芽吹を見て奏海は同じ女子高生でありながらそういったことはできないなぁとぼんやり考えるのだった。
来る2月14日。教室の中は少しだけお菓子の甘い匂いがした。どれだけ持ってきてんだよとツッコミはさておき、男子も女子もどことなくそわそわしている気がする。恐らく先生も気づいているはずだ。バレンタインという闘いの火蓋は今、切られる。そもそもバレンタインデーで女性から男性へチョコレートを贈るなんてことは日本くらいであり、海外では男性から女性へ花を贈るのではなかったか。ここは日本でありこんなことを思うのはよくないのではと思ったがまだ何も言ってない。思ったことを口に出さずにそっと心の中にしまい込む。
休み時間にクラスの一部の男子が女子にチョコレートをたかりだす謎の光景に出くわすことがあった。
「せめてスモールチョコ1粒だけでも!お慈悲を!」
と懇願している姿はとても異様な光景に思えた。結局何も貰えなかったらしい。なぜそれで貰えると思ったのか、謎である。
ようやく訪れた昼休み。奏海は芽吹と鈴の友人3人でお弁当を食べていた。
「はい! これ友チョコということで。よかった食べて」
と鈴から手渡されたのは手作りと思われるブラウニーだった。丁寧にラッピングが施されていてなんだか鈴らしいと思った。
「いいの?」
「ありがと!じゃありんりんにお返しにこれを。かなみんにも」
と鈴からもスモールチョコの詰め合わせを貰った。バレンタイン仕様のおしゃれなパッケージだった。
思いがけず貰ってしまったチョコレート。奏海はお返しとして渡せるようなお菓子は持ち合わせていなかった。
「2人ともお菓子ありがとう。お返し楽しみにしてて」
「うん、楽しみにしてる」
数日後、部活で作ったクッキーをラッピングして2人に渡した。部員全員で作った自信作である。とても喜んでくれたようで何よりだった。
バレンタインの闘いはこれにて幕を下ろした。
バレンタインデーのお話。
登場人物
|野田 奏海《のだ かなみ》、|保倉 芽吹《ほくら めぶき》、|渡津 鈴《わたつ りん》
「寄り道」シリーズに登場します。ぜひそちらもどうぞ。