公開中
ミステリーと潰れる舞台 前編
新作『ネカフェのシャーロック・ホームズ』第2巻。今日が発売日だ。
誰にも言えない密かな楽しみを胸に浮かべて、わたしはるんるんと歩き出す。シャーロック・ホームズみたいな日村修と、凄腕の論破店員である和戸涼が事件を解決する物語。前作は2人の出会いと事件が描かれていて、結構面白かったのだ。
「きゃっ!?」
本屋『ミヤワキ』に向かう足取りを、誰かが引っ張って邪魔する。
「良美っ!」
「フーク!ちょっと、引っ張らないでよっ」
「いいから!」
---
ったく、フークは人使いが荒いな…
境界の図書館。ここは、ありとあらゆる本が置かれている図書館だ。
「何ぃ?あ、そうだ。『ネカフェのシャーロック・ホームズ』第2巻、貸してよ」
「はあ?貸すも何も、その本で事件が起こってるのよ。正式には、第1巻で」
「え、ってことは…」
ぞぞぞ、と鳥肌が立つ。
「そうよ。『ブック・パトロール』の仕事で呼んだけど、何か?」
「嫌だぁ!だって、面倒くさいもん!」
「じゃあ、その本はもう読めなくなるわね。第1巻に異変が起こってるから」
「嫌だぁ!」
くぅぅ、あの仕事、面倒くさいのに。それに、意外とややこしいし。ましてや、ミステリーの世界でなんて…
「ログ。どういうことが起きてるの?」
「良美、久シブリダナ。舞台ノネカフェガツブレタコトニナッテイル」
「えー!?ってことは、そもそもの物語が始まらないじゃない!」
そしたら、せっかくのこの気分が台無しになっちゃう。
---
本の中に入る。そこは、空き地だった。看板には、『売地』と書かれていた。
「1ヶ月前ニツブレタトイウコトニナッテイル」
「どうやっていくの、1ヶ月前なんて」
「まあ、簡単よ。マイナス数ページに行きたいって念じながら走るの」
プラスページが、未来へ向かっている。
なら、マイナスページが過去へ向かっている。そう解釈してよさそうだ。
「どうやって、再築し直すの」
「理由を聞けば簡単よ。単に収入不足なら、手伝えばいいのよ」
「えぇ、働くの」
「そうだけど」
なんで、働かなきゃなの…。はあ。
---
いろいろ工夫して、マイナス12ページぐらい遡った。『売地』の看板はなく、『営業中』の看板がある。
「つまり、これから潰れることになる、のよね」
「収入不足ノヨウダ。ドウヤラ、日村修ガイリビタッテ、ツブレタラシイ」
「えぇ。日村修って、主人公でしょ?それに、1人が入り浸るだけで潰れるとか、どんだけ経営難なの」
そりゃ、入り浸ったら少々赤字になる…のかもしれない。でも、それだけで潰れるのは、まずないんじゃないか。
「収入を増やせば…いいの?」
「ソウダナ」
「どうやって」
「何処かで稼いで、そのお金をここにおさめればいいのよ」
「どうやって稼ぐの」
フークはにやりと微笑み、言った。
「わたしたちが払うの」
お借りした作品:〖221B室のシャーロック・ネトゲ廃人。そして、事件〗
作・某探偵(ABC探偵)様
リンク https://tanpen.net/novel/fb10df8b-acd0-4d2c-a822-48856fa85d40/