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2.人間、現状を確認して(2度)絶望する
さて、気がついたら生き物を殺していて、レベルが25になってしまった美玲(みれい)。
そんな美玲が次にすることといえば、一度考えることを放棄したスキルの確認だろう。
「ええっと……ステータス?」
美玲には、何の事前情報もない。
だから、このステータスというのも勘で……いや、本による経験則で言ってみたただけなのだ。
だけど、その水色の透明なものは現れた。
「うわお」
ステータスの表示は、現れてしまった。
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名前:鴨志田(かもしだ)美玲(みれい)
レベル:25
スキル:意思疎通レベル1 文字翻訳レベル1 マップ インベントリ 魔法創造レベル1 浮遊レベル2
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そして、各スキルの説明がこれだ。
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・意思疎通
相手との信頼度が高いほどスムーズな会話が出来る。レベルが上がれば信頼度がなくても難しい言い回しがなければ意思疎通が出来るだろう。
・文字翻訳
この世界の文字を見るとレベルが上がり、レベルが上がるほど早く、正しく文章を読むことができる。書くことも出来るようになる。
・マップ
視界に入ったところが地図に書き込まれ、明らかになってくる。
・インベントリ
容量無限で時間停止機能付きのインベントリ。生き物は入らない。
・魔法創造
知識がない状態でも魔法を創ることができる。レベルが上がれば大きい魔法を想像することが出来る。
・浮遊
浮くことが出来る。レベルが上がれば上がるほど自由度が高くなる。
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「うん、結構贅沢だね、これ」
そして、美玲は次にインベントリを確認することにした。
「インベントリ」
すると、目の前にステータスと同じ透明の板……ただし緑色……が現れた。
『リストを確認しますか? YES NO
(※これが表示されるのは初回のみです。次からはステータス画面から移動して下さい)』
もちろん。美玲はYESを選択した。
すると、中に入っているのは……
・手紙
・食料(一ヶ月分)
・生き物図鑑
・シャツ五着
・ズボン五着
・下着五着
・靴下五着
・特級ポーション3本
・上級ポーション10本
・中級ポーション10本
・初級ポーション10本
・剣
・刀
・完全防御テント(期限:十年)
・……
たくさん入っている。
それはもうたくさん。
だけど、一番おかしいのは……
「手紙?」
美玲は取り出してみることにした。
「何何?」
美玲は、手紙を読みだした。
『すまん、手違いが起こってしまった!
くじの内容は人間がいる世界だったのじゃが、これを作った10万年前にはまだ生きていた人類がこのオーレリアでは絶滅していたんじゃ!
遺跡とかは破壊されていなければ残っているじゃろうが、なかなか遭えんと思う。
今、その世界を跋扈(ばっこ)しておるのは魔物と呼ばれておるもので、成長してかなり大きくなっておる。まあ、恐竜のようなものだと思っておくといい。
ともかく、手違いがあって人類がいなかったから、できる限りのサポートをさせてもらった!
インベントリもあるし、魔法も創り出すことができるようにした。
この世界の魔法は呪文を唱えることで発動するもので、それは創り出すときよりも、創り出して「これはこういうもの」と世界に認識された方が威力は高まる。
まあそんなわけだ。
せっかくの不老の体質、有意義に使ってくれ。長く生きていれば魔物以外の知的生命体も現れるようになるだろうし、自らで作ってもいいとは思うぞ?』
「……は?」
そして、読み終わった後、美玲は一言、そう告げた。
いや、一言では済まなかった。
「人間が、いない? とっくに絶滅している?
よくある転生、転移ものじゃあ当たり前にいるのに?
というか、あのたくさんのくじがある中で、私が人間のいない世界を引いたの? 噓でしょ? 今まで運が悪かったことなんて起きたことがないのに? まさかこんな重要なところではずれを引くわけ? ありえないでしょ!」
美玲は、一通り人間がいないことに対する不満をぶちかました。
そして……
「それに、不老? 不死じゃないのは嬉しいけど、殺されたりしなければ生き続けられるの? ディストピアでよくあるやつやんけ。しかも人間がいないし!」
次に、美玲は不老に対する不満を言うのだった。
あ、一つ訂正する。
先程、「一通り人間がいないことに対する不満をぶちかました」などと言ったが、美玲にはまだまだ不満はあるようだった。
「あーあ、これからどうなるのかな……」
ただ、さすがに不満を口に出すのはそこまでにしたらしい。
これからのことを考え始めた……死んだ魔物の上で。
「くくくっ!」
そして、そんな美玲の耳にとある声が聞こえてきた。
好奇心が芽生えた美玲は、それを探すことにする。
「あ、そうだ、一応的だったときのために剣でも用意しておこう」
美玲は準備満タンで、その声の主のもとへと歩き始めた。
「おっとっと」
……不安定な魔物の死体の上でときどきバランスを崩しながら。
「くっさ」
声が聞こえた方の地面に降り立った美玲は、かねてから我慢していた匂いについても不満を言った。
……うん、仕方のないことだと思う。
それにしても、今のところ美玲は不満を言ってばかりな気がするが、気のせいだろうか?
「くくっ!」
また聞こえてきた声を頼りに、美玲は探し、草の中にいた一匹の魔物を見つけた。
……卵の殻がついた。
「えーっと、卵でも食べてきたのかな?」
冗談だ。
さすがに美玲も分かっているはずだ。
「……はあ、今生まれてきたのか。面倒な個体を殺しちゃったなぁ……」
ついでに、美玲はちゃんと、この巨大な魔物が親であっただろうという自覚も持っていた。
「くくくっ!」
しばらくその個体を見ていた美玲は、その声で……そのあとに魔物が自分のもとへと歩いてきたことで……ようやく現状を認識した。
「まさか、私が母親だって認識されていたりしないよね?」
……そうじゃないと考えるのは、いささか無理があるだろう。