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二の足踏んで、一の足。
文集の選考に出して落とされたやつ
文字数制限ありで書いていたので、いつもより拙い文章です
私は、自分の意思がないらしい。
思えば幼少期も、すべて母親の言われた通りのことしかしていなかった。
ピアノも母親に言われて始めたことだし、ランドセルも「男の子だから」と言われ、
母が持ってきた黒色のものに決めた。でも、本当は淡い紫色のものが欲しかった。
男だって、かわいい色のものを背負ってもいいはずだ。
だが結局、私の小さな声なんて母親は聞いてくれなかった。
そんな色、男には似合わないと。
その言葉を聞いて、私の中のすべてが否定された気がした。
高校は、幼馴染の牧宮と同じところに行った。決められなかったからだ。
急に決めろなんて言われても、何ひとつ
決めてこなかった私は、ただ混乱するだけだった。
大学も、牧宮と同じところに行った。
それもやはり、決められなかったからだ。
いつでもどこでもついて回る私を、牧宮は突き放さなかった。
それどころか、母親と縁を切り、一人暮らしをすることになった私に
「ふたりで同じ家を借りて住もう」と言ってくれた。
ただ嬉しかった。自分が住む家でさえ、自分で決められなかったからだ。
そして、私はひとりで暮らしていても、何も決められないはずだ。
そんな時に牧宮がいてくれれば、どんなに心強いか。
そうして私たちは、ルームシェアをすることになった。
「遠藤、お前もうすぐで誕生日だろ?何か欲しいものとか無いか?」
ある日、牧宮に言われ思い出した。来月の十五日は、私の誕生日だ。
しかも、ルームシェアをしてから初めての誕生日。
何か、こういう時は大きなものを頼んだほうがいいのかもしれない。
そう思い考えてみるものの、何も思いつかなかった。
「何でもいいよ」
私がいつものように言うその一言を聞いて、牧宮は少しむっとした表情を見せる。
普段ははいはいで流してくれる言葉だが、
やはり今言うべき言葉ではなかったらしい。
あのな、と少し呆れたように牧宮は話し出した。
「俺、お前の誕生日ちゃんと祝いたいんだよ。
別に大きいものじゃなくても、高級なものじゃなくてもいい。
自分が欲しいものをちゃんと考えて、それを教えてほしい」
確かに私は、誕生日なんだから高いもの高級なものを頼まなければという
先入観があったのかもしれない。小さなものでも、自分が本当に欲しいものを...
考えてみたが、やはり思いつかなかった。
「...ごめん」
他に何も言わず、小さく謝るだけの私の肩に、牧宮がぽんと手を置いた。
「なにも焦る必要は無いさ。ちゃんと考えて、って言っただろ?
ゆっくり自分のペースでな。あ、でも誕生日には間に合わせろよ?」
そうは言われたものの、私に何かを選ぶという行為ができるのか、
自分でも甚だ疑問であった。昔からそうだから、
私は何も決められないのが当然だったから。
きっとこれからもそうなんだと。そうやって、私は自分から一線を引いた。
次の日、牧宮がカフェに行こうと誘ってきた。
行こうと言われたなら行く。私はいつも通り小さく頷いた。
手を引かれ、連れてこられたのは小さくてお洒落なカフェ。
牧宮は窓際の席に座りたがったため、私も窓際の席に座ることにした。
「うわ、ショートケーキ美味そう。俺これにしようかな。遠藤は?」
「じゃあ、私も同じのを」
いつものように言う私を、ストップとでも言いたげなハンドサインで
牧宮が制した。そして、ドリンクがすべて載っているメニュー表を差し出してくる。
「俺と同じの頼むなら、ドリンクも頼めよ?俺は頼まないけど」
一瞬牧宮が何を言っているのか分からなかったが、少し考えて気がついた。
私に選ばせてくれているんだ。小さなことから選ばせて、
決めさせようとしてくれているんだ。
私は、手元のメニュー表に目を落とした。
シンプルなコーヒーから、白熊を模したアイスが乗っているソーダまで。
様々なドリンクがある。一番最初に目についた
ソーダにしようとするも、値段に目が止まった。
少し高いだろうか?別のものにすべき?牧宮に聞いてみよう、
でも、私に選ばせてくれているんだから...ぐるぐると思考を巡らせながら、
助けを求めるように視線を上げて牧宮の顔を見る。
牧宮は、頬杖をついて私の方を見ていた。おかげで目がばっちり合ってしまった。
驚き、私はすぐに視線をメニュー表へと落とした。
一瞬見えた牧宮の表情は暖かくて、
どれにしてもいいと言われたような気がした。
目も合わせずに、自分のものさしを使って私を測っていた母とは違う。
勇気を出して、私はメニュー表を指さした。
「...これが、いいな」
車の音でかき消されてしまうような、小さな声。
「いいじゃん、可愛いな。ストローふたつもらうか、俺も飲みたくなったわ」
母には聞いてもらえなかった小さな声が、牧宮には届いた。
そして、自分の選択に共感してもらえたことが嬉しかった。
他人から見たら些細なことなのだろうが、私にはたまらなく嬉しかった。
注文したものが届き、ふたりでショートケーキを食べて、ふたりでソーダを飲んだ。
一見、ふたりで同じものを飲み食いしているというのはいつも通り。
だが、私にとっては忘れることのできない日になった。
あれから、休みの日には必ず外食をするようになった。
私は段々、自分が食べたいものを自分で決めて頼めるようになった。
牧宮はいつも私が頼んだものに対し、美味しそうなどの共感を示してくれた。
それが嬉しくて、決断に対する苦手意識は少しづつ薄れていっていた。
月日は流れ、誕生日当日。誕生日プレゼントは
結局決めることのできなかった私を、
牧宮はショッピングモールに連れて行った。
フロアガイドを見ながら、どこを見たいか聞いてくる。
色々なところを指さしては、でも、けれど、
なんてぼそぼそ言う私を、牧宮は急かすことなく待ってくれた。
「...ここ、見たいかも」
最終的に私が指さしたのは、ぬいぐるみが売っている店。
子供の頃、幾度となく通り過ぎ、入ることの出来なかった店。
「じゃあ、行くか」
牧宮は、いつものように笑ってそう言った。
エレベータで二階に上がると、すぐ右手側に目当ての店が見えた。
牧宮に手を引かれ店に入ると、あるぬいぐるみに目を奪われた。
子供の時、本当は欲しかったけど諦めたぬいぐるみだった。
私は衝動的にそれを手に取り、牧宮に言う。
「誕生日プレゼント、これがいい」
店内にかかる音楽よりも、車の音よりも大きい声で。
そんな私に、牧宮は一瞬驚いたような顔をするも、すぐにいつもの笑顔で言ってくれた。
「なにこれめちゃくちゃ可愛いな、いいじゃん!」
牧宮の言葉に、このぬいぐるみが欲しかった昔の自分が救われたようで、
胸がじんわり暖かくなった。
ずっと欲しかった、淡いピンク色をした熊のぬいぐるみ。
母親に否定された、男だが可愛いものが好きな自分。
牧宮にもらった誕生日プレゼントは、そのふたつだった。
多分すげえBLになったから落選したんだと思います。押忍。