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大きな騒動へ
どこかで爆発があったのか大きな音のあとに窓が揺れだした。
「なんか外騒がしくない?」
「まさか」
外に出ると人だかりができていた。森の方から黒煙が上がっている。アリフェはなんだか嫌な予感がしていた。
「私、少し森の方に行きます」
「おい、待てって」
トリカの忠告を聞くことなくアリフェは走り出した。
「なんで話を聞かないのか。アイツ、性格オマエに似てるな。追いかけるぞ」
「そんなに似てないと思うけど。早く追いかけなくちゃ。行くよ」
魔術師と元騎士、魔法騎士は森の奥へと走り出した。
「ルーフ! どこですか?」
煙が上がっていた場所に近づくにつれて人の声が騒がしく、辺りが焦げ臭くなっていった。ようやくルーフの姿が見えたと思えば騎士団の人々が取り囲んでいる。
「何をしているのですか?」
何も知らない振りをして集団に近づく。
「見りゃ分かるだろ」
気がついた一人が荒々しくそう言った。
「そうですね、失礼しました。行きましょう、ルーフ」
アリフェが手招きをするとルーフは障害物を飛び越えて駆け寄ってきた。回りを見渡すと皆、唖然としている。騎士団の1人が
「何してくれてんの? その生き物はとっても危ないんだよ。嬢ちゃんは日が暮れる前にとっとと家に帰りな」
挑発するような発言にアリフェは眉をしかめた。残念そうに笑って
「残念なことに私は皆さんの思っているようなお嬢さんではないのです。この子は私の大切な友達ですので。ここで失礼します 」
と一礼して一気に走り出す。
後ろで「追いかけろ」や「捕えろ」だとかなんだと騒いでいるのを無視して森の外まで全速力で走った。撒いたことを確認してようやく一息ついた。
「ルーフ、けがはありませんか?」
バフッとひと鳴きしてルーフは尻尾を振っている。
「ふ~、追い付いた。アリフェ、大丈夫?」
ここで走ってきたネリネ達と合流する。
「えぇ、なんとか。ものすごく厄介なことになりました。向こうは何がなんでもルーフを捕えたいようです」
ヴゥ
ルーフが唸りだした。茂みから人影が現れゆっくりと拍手をしながらこちらにやってきている。
「ようやく見つけたよ。ウィザードウルフと魔術師君。あと、ネリネ君久しぶりだね。元気にしていたかい?」
「久しぶりだね、バラーニ副団長。お陰様で元気にやってるよ」
ネリネは皮肉っぽくそう言った。一触即発の禍々しい雰囲気にアリフェは足がすくんでいる。
「そうかい、そうかい。で、どうして君がいるのかな?トリカ君」
バラーニの視線はルーフからトリカに移った。
「お忘れですか? 副団長。|俺たち《魔法騎士小隊》にウィザードウルフの捕獲命令を出したのは紛れもない副団長ではないですか。偶然、俺が追いかけたらいた、それだけですよ」
「それではトリカ君。そこにいるウィザードウルフと魔術師君を捕えて騎士団本部に連れてきなさい」
バラーニはそれだけ言って音もなく去っていった。禍々しい雰囲気も和らいでいる。
「どうします?この際一度|ご挨拶《殴り込み》しに行きますか? せっかくなら使ってみたかった魔法試したいですし」
「辞めておいた方がいいかも。強い人たちの集まりだし、そもそも本部あるの町の中心部だから。そんなとこ爆発させたらどうなるかわかるでしょ?」
「そこまで言われたら何もできないですね。どうしてルーフ、いえ、ウィザードウルフが狙われているのですか?」
「それはだな」
調査という名目で捕獲したウィザードウルフの高等魔術と魔鉱石の固有魔法を組み合わせて強力な「高等複合魔術」を作り出そうとしているのだそう。ウィザードウルフの高等魔術は命の危機に瀕した際に個体のもつ全魔力を使ってあらゆるものを破壊し尽くすのだとか。高等複合魔術自体危険で代償が大きいというので秘密裏に進められていた。
「その事実を知ってるのさっきの副団長って人とアタシ達だけなんだよね。極秘資料見てたのバレちゃった」
ネリネはテヘッとした顔で飛んでもないことを言った。アリフェは困惑している。
「あちらがなにを考えているのか全く分かりません。高等複合魔術なんて代償が大きすぎますよ」
高等複合魔術は莫大な魔力だけでなく他の代償も必要な魔術なのだ。それを知っていたアリフェは事の重大さに気づく。
「先ほど私も捕えろとおっしゃっていましたね。まさかとは思いますが私を|贄《にえ》にするつもりでは?」
「贄って生け贄? 言い過ぎしゃないの?」
「それがそうでもないんです。大前提として私の考えが正しければの話ですが」
とアリフェが話したのはこうだった。
高等複合魔術にも種類が存在し、中でも最上位にあたる魔術はさまざまな魔法を組み合わせ、最終的に魔力を持った贄を捧げることでようやく完成するものである。複雑な分その力は強力で発動してしまえばこの世界が崩壊する可能性があるのだった。
「何考えているんだあの副団長は」
「魔王にでもなるつもりじゃない? あれならやりそう」
「あくまで可能性ってだけです。確証はないので憶測ですが」
「1つ考えがあるんだが」
トリカは考え付いた作戦を話し始めた。
バラーニ・ヒース
ハレスト騎士団 副団長
高等複合魔術計画を企画した張本人。自身が元魔術師だったこともあり魔術の情報にも長けている。
高等複合魔術
さまざまな魔法を組み合わせ、条件に見合う代償を支払うことで発動する魔術。魔術師の扱う魔術で一番強いもの。さまざまな種類があり、最上位の魔術を使いこなすのはほぼ不可能に近い。