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    『回り路』
この文化祭で、一番興味のある出し物だ。
本当は誰かを誘おうと思ったけど、怖さを上げる為にやめた。
先の人が疲弊した状態で出てきて、安堵の顔を浮かべるのを見て、やはり後悔している。
有無を言わさず自分の順番が来た。
中に入ると、そこは少し狭く短い路で、受付が言っていた〈案内人〉っぽい人が立っていた。
「このお化け屋敷は少し特殊となっておりますので、今から説明します。」
〈案内人〉が、いかにもな口調で喋り始めた。
「まず、行き当たりに見える黒い幕のような物、あれが〈弁〉となっております。」
受付に渡された懐中電灯で、確かにそれが見えた。
「〈弁〉を通るたび、ここに似た暗い路に出ます。そして、時々何かが有ります。」
無機質な口調によりスラスラ入ってくる内容が、私の不安を随分と掻き立てる。
「何かの中には出口もありますが、それは鍵がないと開きません。
 【〈弁〉を通って乱数調整を繰り返し、鍵を見つけて出口から出る。】
 これが大まかなルールです。」
誰か連れてくるべきだった。絶対に。本当に。
「最後に、〈弁〉という名前の通り、通ったら同じ場所を戻ることはできません。
 そのため、鍵を手に入れても直ぐには出られないといった場合もあります。」
--- 1回目 ---
木の床、黒ビニールで隠された窓、多分白い天井。
〈案内人〉に見送られ、最初の〈弁〉を通った。
すると、左側に路があった。
構造としてはそれを繰り返して、教室の中を四角形に回るようにして行くのだろう。
そうだとしても、既に頂点の不安だった。
--- 2回目 ---
また左側。
ただでさえ今日は大雨なのに、ガサガサというBGMが気持ち悪い。
少し先を照らしても、何も置かれていない。
「無い」とむしろそこに意識が集中する。
気づけば足が震え、出来るだけ足音を消していた。
--- 3回目 ---
今度は目の前に出口が有った。
勿論、鍵が掛かっていて出られなかった。
左に続く路。
少し先を照らすと、向こうを向いた人間の頭部が有った。
それには髪が無く、目は青く懐中電灯の光を反射していた。
--- 4回目 ---
また左側。
おそらくこれで1周した。
歩くごとの足裏の感覚が、次第に敏感になってくる。
ふと振り返ると、ビニールで隠された入り口が有った。
何故それが入り口だと分かったのかは分からなかった。
--- 5回目 ---
木の床、黒ビニールで隠された窓、多分白い天井。
今度は地面に大量の毛糸が落ちていた。
水色、赤色、薄緑色…。
糸の隙間に何か見えないかと、視線が泳ぐ。
「無い」とむしろそこに意識が集中する。
--- 6回目 ---
また左側。
壁の下から大量の腕が横たわっていた。
反対側の壁に張り付き、踏まないように慎重に歩いた。
幸い、1つも動かなかった。
そうだとしても、既に頂点の不安だった。
--- 7回目 ---
今度は目の前に出口が有った。
勿論、鍵が掛かっていて出られなかった。
左に続く路。
少し先を照らしても、何も置かれていない。
気づけば足が震え、出来るだけ足音を消していた。
--- 8回目 ---
また左側。
おそらくこれで2周した。
少し先を照らすと、向こうを向いた人間の頭部が有った。
それには髪が無く、目は青く懐中電灯の光を反射していた。
何故それが人間の頭部と分かったのかは分からなかった。
--- 9回目 ---
木の床、黒ビニールで隠された窓、多分白い天井。
ただでさえ今日は大雨なのに、ガサガサというBGMが気持ち悪い。
左に続く路。
少し先を照らしても、何も置かれていない。
ふと振り返ると、壁にこの出し物のポスターが貼られていた。
--- 10回目 ---
また左側。
今度は地面に大量の毛糸が落ちていた。
水色、赤色、薄緑色…。
糸の隙間に何か見えないかと、視線が泳ぐ。
先程のポスターが挟まっていた。
--- 11回目 ---
今度は目の前に出口が有った。
勿論、鍵が掛かっていて出られなかった。
歩くごとの足裏の感覚が、次第に敏感になってくる。
少し先を照らしても、何も置かれていない。
「無い」とむしろそこに意識が集中する。
--- 12回目 ---
また左側。
おそらくこれで3周した。
少し先を照らすと、こちらを向いた人間の頭部が有った。
それには髪が無く、目は青く懐中電灯の光を反射しこちらを睨んでいた。
幸い、微塵も動かなかった。
--- 13回目 ---
今度は地面に大量の毛糸が落ちていた。
水色、赤色、薄緑色…。
糸の隙間に何か見えないかと、視線が泳ぐ。
先程の青い目が挟まっていた。
ただでさえ今日は大雨なのに、人のうめき声の様なBGMが気持ち悪い。
--- 14回目 ---
また左側。
木の床、黒ビニールで隠された窓、多分白い天井。
ふと振り返ると、壁にこの出し物のポスターが貼られていた。
幸い、微塵も動かなかった。
そうだとしても、既に頂点の不安だった。
--- 15回目 ---
今度は目の前に出口が有った。
勿論、鍵が掛かっていて出られなかった。
歩くごとの足裏の感覚が、次第に敏感になってくる。
足元には大量のポスターが落ちていた。
〈案内人〉に見送られ、何回目かの〈弁〉を通った。
--- 16回目 ---
また左側。
おそらくこれで4周した。
壁の下から大量の腕が横たわっていた。
反対側の壁に張り付き、踏まないように慎重に歩いた。
1つが動き出し、その中に鍵が有った。
--- 17回目 ---
木の床、黒くて向こうが見えない窓、多分もうない天井。
ただでさえ今日は大雨なのに、人のうめき声の様なBGMが気持ち悪い。
足元には大量のこちらを向いた人間の頭部が有った。
それには髪が無く、目は青く懐中電灯の光を反射しこちらを追いかけていた。
何故それが人間の頭部と分かったのかは分からなかった。
--- 18回目 ---
また右側。
今までと比べて、とても長い路だった。
歩くごとの足裏の感覚が、次第に敏感になってくる。
気づけば足が震え、出来るだけ足音を消していた。
おそらく、後ろに誰か居る。
--- 19回目 ---
今度は目の前にポスターが有った。
右に続く路。
行き当たりに出口が見えた。
〈案内人〉に見送られ、鍵を使って外に出た。
文化祭は終わっていた。