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    嫌いな彼と
    
    
    
    目が覚めると、いつもより柔らかな光がカーテン越しに差し込んでいた。
 悠馬のベッドの中。
 隣に、あいつが静かに眠っている。
 少しだけ眉間に皺を寄せて寝ている癖は、昔のままだ。
 俺はしばらく、起こさないようにただじっと、その顔を眺めていた。
 昨夜のことを、夢だと思いたい自分と、
 本当にそうだったと信じたい自分が、まだ頭の中で交錯している。
 けれど――
 シーツの中で触れ合っている指先が、現実を教えてくれていた。
 しばらくして、悠馬が目を開けた。
「……久我」
 掠れた声で、名前を呼ばれる。
 それだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。
「おはよう」
「……うん。なんか、まだ実感ないな。こうして起きて、お前が隣にいるの」
 少し照れくさそうに笑うその顔が、昨夜よりも少し幼く見えた。
「俺も。……でも、ちゃんと覚えてる」
「何を?」
「全部。お前が、俺に触れた手の温度も、言葉も、声も……全部」
 そう言うと、悠馬の目が少し潤んだ。
「……あのとき、ちゃんと受け止められてたらな。あの夏にさ、勇気出してお前がくれた気持ちを、ちゃんと……」
「もう、いいよ。過去のことはさ」
 俺は手を伸ばして、悠馬の頭をそっと撫でた。
「今こうして、同じベッドにいる。それで十分だろ」
「……お前、ずるいな。そういうこと言うと、また好きになる」
「“また”じゃなくて、ずっと好きだったんだろ」
 悠馬は、恥ずかしそうに笑ってうつむいた。
「うん。……ごめん、ずっと好きだった。言えなかっただけで、ずっと」
 そうしてふたりは、何もない朝を、ただ静かに過ごした。
 熱も、言葉も、昨日よりゆっくり。
 でも、確かにひとつずつ積み上げていくように。
 ベッドから出る前、俺はもう一度、悠馬の手を握った。
「これから、どうなるかわかんねえけどさ」
「うん」
「お前のこと、ちゃんと“恋人”として好きでいる。
 前みたいに、ただの“友達”には戻れないから」
 悠馬は真っ直ぐ俺を見て、少しだけ震えながら頷いた。
「……俺も。ちゃんと、お前を“選んで”好きになってる。もう、逃げない」
 その言葉に、ようやく心がほどけた気がした。
 名前を呼び合って、触れて、確かめ合って――
 やっと、ちゃんと“ふたり”になれたんだと、思えた朝だった。