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最後の約束
午後の光がゆっくりと傾き始める頃、公園のベンチには二人の影が長く伸びていた。
桜の木の下で、沙羅と玲央は並んで座り、しばらく無言の時間が流れた。
「…もう、時間だね」
沙羅が小さな声で言った。
彼女の目は少し潤んでいたが、必死に微笑みを保とうとしていた。
玲央は手に持った枯れ葉をくるくると回しながら、うつむいた。
「うん。あと30分か」
「早すぎるよ」沙羅の声が震えた。
「もっと一緒にいたかったな。もっとたくさん話したかった。もっと笑いたかった」
玲央はようやく顔を上げ、沙羅の方を向いた。
「僕もだ。沙羅ちゃんと過ごしたこの一年間、本当に楽しかった。学校で会えなくなるなんて、まだ信じられない」
沙羅は膝の上で指をもじもじと絡ませた。
「玲央くんが転校するって聞いた時、胸が張り裂けそうだった。毎日一緒に帰った道、あの喫茶店で勉強したこと、文化祭で一緒に出た劇…全部、宝物なのに」
「僕の宝物も沙羅ちゃんだよ」
玲央の言葉に、沙羅の頬がほんのり赤くなった。
「ずっとそう言ってほしかった」彼女は涙声になった。
「もっと早くに言ってくれたらよかった。もっとたくさん『好き』って伝えられたのに」
「ごめん」玲央も声をつまらせた。
「僕、言葉にするのが苦手で…でも、心の中では何度も何度も沙羅ちゃんのことを考えてた。朝起きて最初に思い浮かぶのも、夜寝る前に最後に考えるのも、全部沙羅ちゃんだった」
風が一陣吹き、桜の木の残り少ない葉がさらさらと音を立てた。
秋の訪れを告げるような、少し冷たい風だった。
「寒い?」
玲央が尋ねると、沙羅は小さく首を振った。
「玲央くんが隣にいてくれるから、寒くないよ」
「でも、もうすぐ僕はいなくなる」玲央の声に悔しさがにじんだ。
「新しい学校でも、沙羅ちゃんのことを忘れないよ。絶対に」
「私も」沙羅は強くうなずいた。
「玲央くんのこと、一生忘れない。たとえ離れていても、ずっとずっと好きでいるから」
二人の間にもう一度沈黙が訪れた。
しかし、この沈黙は苦いものではなく、お互いの気持ちが通い合う温かな時間だった。
遠くで時計台の鐘が鳴った。
午後四時。別れの時間が刻一刻と近づいていた。
「沙羅ちゃん」
「うん?」
「一つ、お願いがある」
「何?」
玲央は深く息を吸い込んだ。
「最後に…ハグしてもいい?」
沙羅の目にまた涙が浮かんだ。
しかし、今回は悲しみだけではなく、温かな喜びも混ざっていた。
「もちろん。私も…そうしたかった」
二人はゆっくりと立ち上がり、向き合った。
ためらいながら、そして確信を持って、互いに歩み寄った。
腕が自然に絡み合い、二人はしっかりと抱き合った。
沙羅は玲央のシャツの匂いを覚えようとした。
洗剤の爽やかな香りと、少し汗ばんだ玲央らしい匂い。
玲央は沙羅の髪の毛が風に揺れる感触を胸に刻み込んだ。
「暖かい」沙羅が囁いた。
「うん」玲央も小さく応えた。
長いようで短い時間、二人はただ抱き合っていた。
言葉はいらない。
この体温、
この鼓動、
この瞬間がすべてを物語っていた。
やがて、玲央がそっと沙羅の肩を離した。
しかし、手は彼女の肩に残したままだった。
「沙羅ちゃん、約束してくれる?」
「何の約束?」
「絶対にまた会おうって」玲央の目は真剣だった。
「今は離れ離れになるけど、これは終わりじゃない。きっとまたどこかで会えるよ」
沙羅は涙をこらえきれず、一粒、また一粒と頬を伝い落ちた。
「うん!絶対!大学になったら、あるいは大人になったら…どこかで必ず再開しよう!」
「約束だよ」玲央は微笑んだ。
「それまでの間、手紙を書くね。メールもする。電話もする。沙羅ちゃんの声を聞かないと、寂しすぎてやってられないから」
「私も毎日玲央くんにメールする!返事が遅かったら怒っちゃうからね!」
二人は笑い合った。涙ながらに、しかし確かな希望を胸に。
最後のチャイムが鳴り響いた。本当に時間だ。
「じゃあね、沙羅ちゃん」
「うん、じゃあね、玲央くん」
もう一度、軽く抱き合い、そしてゆっくりと離れた。
沙羅は数歩歩いてから振り返った。
「玲央くん!」
「なに?」
「今日のこと…ずっと忘れないからね!」
「僕もだ!絶対忘れない!」
玲央も叫び返した。
そして、二人はそれぞれの道を歩き始めた。
後ろ髪を引かれる思いで、何度も振り返りながら。
しかし、彼らの心には確かな約束があった。
これは終わりではなく、新しい始まりなのだ。
いつか必ずまた会える日が来ると信じて。
風がまた吹き、桜の木の最後の一枚の葉がひらりと舞い落ちた。
そして、遠く離れていく二人の背中を優しく見送るかのようだった。
「絶対会おうね」
沙羅が小さな声で呟くと、どこからか玲央の声が聞こえてくるような気がした。
「絶対に」
秋の夕日が、二人の未来を優しく照らし出していた。
終わり
最後までご覧いただきありがとうございます。
こういう現実であるのかわからないような感動系いいよね!
けど,困ってるのが書いてる時に泣いちゃう事。
書いてる間に泣いちゃうから進まない!っていうのがめちゃくちゃ困る。
次回もこういうの書きたい!