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鬼火鬼太郎
全国を旅して妖怪退治してるゲタ化鬼太郎とオリキャラの話。ゲタ吉は三期イメージ
固定夢主です地雷注意
夏は夜と言うけれど、四季折々夜は美しい。柳がヒラヒラ大合唱、カエルが鳴いて風が揺る。どこか遠くで風鈴が鳴っている。
せっかくの風情を気の向くままに味わっていたいのに、さっきから髪の一房が電気を帯びて立ち上がっている。妖怪アンテナだ。近くに同族がいる。三、二、一。
林の陰から黄色と黒の塊が飛び出した。
「無様な登場ね」
「五月蝿いな…」
飛び出した塊は黄と黒の派手な着物を着た男。日本各地を渡り歩いて人に害なす妖怪を退治する、幽霊族の末裔だ。
「鬼火の鬼太郎ともあろうお方がまぁ、この有様は何?」
「…何だよそのダサい二つ名は」
「知らないの?鬼火の鬼太郎月夜に蛇子、ってね」
「はぁ…?」
相変わらず自分の名声に興味のないことで。
この人も人間も全くもって無責任。やれやれ。
「巷で謳われてる私たちの噂よ。鬼太郎は鬼火を使って妖怪退治、蛇子は月夜に後始末、だってさ。私があんたの尻拭いをしたことなんかあった?勝手なものね」
「仕方ないさ。人間は噂話が好きだから」
鬼太郎は身体中の悪意という悪意を抜かれたような顔で笑った。愛想じゃない、諦めの顔だ。私はこの笑顔が嫌い。負けず嫌いで勝ち気なくせに、変にからりと諦めている。妖怪は卑屈であっちゃならない。
幽霊族と言えば妖怪の中でも優れているけど、鬼太郎自体は日の浅い子供だ。まだまだ私が見守ってやらなきゃならない。親父さんからあまり無理をさせないよう仰せつかっている。
あの人はもうすっかり目玉だけになってしまったから、物理的に鬼太郎のことを止められない。気の毒な話だ。
「思考停止するんじゃないよ。それにさ、突然林から飛び出してきたりして、今日は随分と
無作法じゃあないの?」
「それは悪かったよ…ちょっと追われててさ」
「もう大丈夫なの?」
「ああ、指鉄砲を食らわしたからね。その反動で林からころげたんだ」「ふぅん」
蓋を開けてみると案外興味の湧かない話だ。爪を眺めはじめた私を不機嫌と取ったのか、鬼太郎は弁解するように着物を探った。
「どうだい、ひとつ」「何?」
ちゃぷんと軽い液体の音。天狗の酒だ。
「へぇ、あんたも偶には趣味がいいじゃない?」
「お褒めに預かり光栄だよ。今日は満月だし、月見酒ができる」「風流ね」「ああ本当に」
小さな徳利に酒を注ぐ。揺れる水面に月が咲く。まだまだ夜は長いのだ。楽しまなけりゃ損じゃあないか。