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幼馴染
ハイリスクレッド
ショート・ショートストーリー✍ 16
VARRIO(西班牙語由来)
☆
加山 智佐(かやまちさ)
彼女と再会したのは、僕が高校三年生の
部活も引退し若干暇を持て余し始めた頃だった。
僕の地元では、市内の高校が姉妹校とか兄弟校とかの設定で各部活が交流戦を年に一度、9月の中旬ごろに行われていた。
この交流戦が終わると、三年生は部活引退となるのである。
ちなみに僕は、東工業高校の空手部だった。
兄弟校は、西工業高校であった。
さしても強い部でもなく、部員も団体戦を組むのもやっとの人数だった。
そんな部活でも楽しかった。
なので、部活引退後も気が向くと後輩達の練習相手になる為に練習に参加する日もあった。
10月の中旬ごろのある日、昼休みにクラスメイトが三人、僕に声をかけてきた。
テニス部のアキラに、バレーボール部のシュンペイとタカアキだ。
同じく部活引退後の暇人達である。
「タツヤ、放課後さ、アリスの広場、行かねぇ」
アリスの広場とは、不思議の国のアリスのブロンズ像がありそれを目印に若者達が集まる場所で、地元では一番賑やかな商店街にあるナンパと待合せのスポットである。
放課後から日暮れまでは、ティーンズがナンパしたり、されたり。
夜は、車を持った連中がナンパしたり、されたり。
「はぁ、四人で、ナンパするのかよ」
と、僕は、ちょっとわざとらしく不満気な返事をした。
「やる時は、二人、二人に別れるさ」
と、アキラが言う。
「じゃ、タカアキと俺や」
と、僕が言う。
「えぇ、俺、タツヤとがいいのに」
と、シュンペイが言う。
「なんでよ」
と、僕が言う。
「だってさ、タカアキとタツヤだと最強じゃん」
と、シュンペイが言う。
って、言うか何が最強なのかわからない。
まぁ、外見だけ言えば、アキラは日焼けのまっ黒の短足。
シュンペイは銀縁メガネに四角い顔。
タカアキは背が高くインテリ風。
僕は、ソフトマッチョなワイルド系である。
「まぁ、えぇがぁな、百パーじゃないし、相棒交換もありさ」
と、タカアキが言う。
そんな訳で僕等は放課後、アリスの広場へと繰り出した。
ナンパする相手は、女子校の生徒を目指すのである。
しかし、やむない時は男女共学校の女子生徒である。
特にこの時期のナンパは、11月の文化祭への招待状をゲットを目論むのだ。
他校の文化祭には、その高校の在校生からの招待状が無ければ校内へは入れないからだ。
もちろん、自校の制服で、生徒手帳の持参も必要なのだ。
僕はタカアキと二人でふらふらと商店街を歩き始めた。
しばらく歩くと、有名ドーナツ店の前にいる女子生徒二人を見つけた。
女子生徒二人は、自転車をドーナツ店の前に停めようとしている。
タカアキが足速に近づいていく。
少し間合いを置いて僕も近づいていく。
タカアキが声をかける。
びっく、と肩を震わせ手前に位置する女子生徒が振り向いた。
僕は、女子生徒の制服を見るなり若干ため息をついた。
んだよ、東商業高校じゃん。
男子は学ランの高校が多いので見分け難いが、女子は制服に違いが有り高校がわかるのだ。
東商業高校は男女共学校なのだ。
それでも、構わず、タカアキはナンパする為の台詞を吐いている。
その女子生徒は、黒髪で前髪パッンで後は三つ編みでひとつに纏めている。
続いて奥に位置した女子生徒が振り向いた。
茶髪がかった長い髪を纏めもせず、左へ流している。
ギラリッとタカアキを睨みつけていた。
僕は、荒んだ気を宿した視線だと感じた。
タカアキは、そんな視線も気にせず白々しい台詞を吐き続けている。
その女子生徒の視線が僕に向けられた。
女子生徒と僕の視線がぶつかり合った。
フッと女子生徒の荒んだ視線が緩んだと感じた。
視線を合わせたまま、女子生徒の首がカックンと右へ傾いた。
その仕草に、ハッとした僕は自分の首を左へカックンと傾け唇だけを動かした。
『智佐』
女子生徒の瞳が、うん、と頷いた。
マジか。何年ぶりかに再会した幼馴染みをナンパしてしまうとは何ともバツが悪かった。
智佐は、タカアキに視線を戻すと、連れの女子生徒に構わずナンパされる事をオッケーした。
☆
智佐と連れの女子生徒とタカアキと僕は、そのままドーナツ店へと入った。
それぞれに、ドーナツとドリンクを注文して四人がけのテーブル席へ腰を降ろした。
僕の前に、智佐が座り、タカアキの前に、連れの女子生徒が座り、自己紹介をした。
連れの女子生徒の名前は、舞(まい)といい、智佐とは同級生で、高校二年生だった。
タカアキは、舞を気に入ったらしく呆れくらいの勢いで喋っていた。
僕は、そんなタカアキの喋りに合いの手を入れる程度に言葉を出すだけだった。
智佐は、僕の合いの手に、微笑み視線を向けてくるだけだった。
しかし、その視線にも不安定に荒んだ感じを受けていた。
1時間くらい経った所で、舞とタカアキがケータイを取り出してメールアドレスの交換を始めた。
それに合わせる様に、智佐がケータイを取り出し僕を見つめてきた。
うん、と頷きながら僕もケータイを取り出し智佐とメールアドレスの交換をした。
その日の夜から智佐と、僕は空白になっていた何年ぶりかの月日を、時間を埋める様にメールの会話を始めた。
僕が幼稚園児よりも幼い時、父親の仕事の都合で引っ越した先で智佐と出会った。
そこは古い住宅地であったためか、幼い子供がいなかった。
僕と、僕の弟。
智佐と、智佐の妹、だけだった。
しかし、僕の弟と智佐の妹は余りに幼過ぎて遊び相手はならなかった。
だから僕と、智佐はいつも二人で遊んでいた。
双方の家も行き来し、一緒におやつを食べ、一緒に食事をし、一緒に風呂に入り、一緒の布団で寝る事さえあった。
さすがに小学生ともなると、一緒に風呂や、一緒の布団で寝るはなくなったが時間が合えば止めどなくお喋りをしていた。
僕が中学二年になった時、父親が脱サラし、隣町へ引っ越しをし事業を始めた。
そこから僕と智佐に空白が生まれたのだ。
智佐からのメールはいつも深夜0時を過ぎてからだった。
2時や3時はあたり前で、夜も明けようとする5時や6時にもあった。
そんな時間にメールを受けながら、僕は、智佐の不安定に荒んだ視線を思い浮かべていた。
それでも、その不安定で荒んだ視線の理由を聞くことができなかった。
日にちは過ぎ、智佐の通う東商業高校の文化祭の二日前の早朝にメールがきた。
『文化祭の招待状を渡すから、会えない』
『大丈夫だよ、放課後に、アリスの広場でどう』
と返信する。
『りょうかい』
と返信がくる。
その日、放課後にアリスの広場へ向かい、智佐と会った。
顔を合わせた僕と智佐は、ゆっくり話をしょうと近くのカフェに向かおうと歩き始めようとした。
その時、背後から地鳴りのようなエンジン音が聞こえてきた。
僕は、そのエンジン音に振り返った。
玉虫色に塗装された中型のスクーターバイクが近づいてくる。
玉虫色のスクーターバイクがブレーキを掛け停車する。
バイクに股がった男はカレー皿をひっくり返した様なヘルメットを被り、斜めに釣り上がったサングラスを掛け、白いマスクをしている。
バイクの男はマスクを下へ下げると声を出した。
「チサ、チサ」
智佐は、シカトしている。
「おぇ、チサ、何しょんなら」
それでも、智佐は、シカトしていた。
僕は、智佐に視線を向ける。
智佐は、チッと舌打ちし顔を左右に振った。
そして、僕にだけ聞こえるように声を出した。
「無視して」
「誰」僕が問いかける。
「いいの、行こう」
そい言うと、智佐は歩き始めた。
それに合わせる様に僕も歩き始めた。
バイクの運転者はまだ何か声を出し喚いていたが智佐は俯いたまま歩き続けていた。
智佐の不安定に荒んだ視線に玉虫色のスクーターバイクの男が何か関係があるのだろうか。
そんな思いが僕の中に膨らんでいく。
それでも、智佐に聞くことができなかった。
結局、カフェで文化祭の招待状をもらい他愛も無い会話だけをして僕は、家路へついた。
☆
智佐から招待状をもらった日の夜と次の日の夜は智佐からメールは来なかった。
そしてそのまま文化祭当日の朝がきた。
僕は智佐へ到着時間をメールし若干不安な気持ちで東商業高校へと向かった。
舞から招待状をもらっていたタカアキと待ち合わせ東商業高校の正門の前の受付けで、招待状と生徒手帳を示して制服のチェックを受けていた。
正門の周りには招待状も持たず何とか文化祭へ入り込もうとする他校の男子生徒達がたむろしている。
正門前の道路の向こうに4台のバイクが止まっている。
バイクの先頭に見覚えのある玉虫色のスクーターバイクに股がった男がこちらを睨んでいる。
舞と智佐が、僕とタカアキを迎えに現れた。
智佐が道路の向こうに止まっているバイクに気づき視線を向けた。
智佐と声をかけようとしたが、僕に視線を戻し、顔を左右に振りながら呟いた。
「見ないで」
うん、と頷き智佐と並び校内へと足を進めた。
他校の雰囲気とは違うものだと感じた。
まして女子生徒がいるという大きな違いを感じる。
ちなみに、東工業高校は一応男女共学校であるのだが女子生徒は一人もいなく男子高校と同じなのである。
催物場、展示室に喫茶室へと周っていくその廊下の掲示板が目に付き僕は足を止めた。
東商業高校の過去の進学先、就職先が実績として掲示されたいる。
掲示板の進学先を見つめていた僕に智佐が尋ねてくる。
「タツヤは、進学」
「うん、一応ね」
「県外なの」
「あぁ、神戸と福岡の受かった方にね」
僕の返事に、そぉ、と小さく言うと顔を伏せた。
智佐の伏せた顔には寂しさが宿っていた。
全てをひと回りし帰りに付いた僕を智佐が正門まで見送ってくれた。
正門前辺りにいた他校の男子生徒達はすでにいなくなっていたが、バイク4台はまだ止まっていた。
玉虫色のスクーターバイクの男の視線が智佐を睨んでいた。
僕は、バイクの男の視線に胸騒ぎを感じたが、また何も聞けず、言えず帰ってしまった。
文化祭後の3日間も、智佐からのメールは来なかった。
メールが来なくなって4日目の日、僕は神戸で大学の入学試験を受けていた。
入学試験を終えて帰宅した僕に、タカアキから電話がかかってきた。
『タツヤ、聞いたか』
『何およ』
『智佐ちゃん、怪我して入院してるってさ』
『はぁ、知らねぇよ』
『舞ちゃんから聞いたんよ』
『なんで怪我したんよ』
『わからんよ、聞いただけやし』
『病院は何処かわからんか』
『ちょっと待てや、舞ちゃんに聞いてみるから』
『すまん、頼むわ』
電話を切ったあとの僕の思考は停止していた。
その日、タカアキからの連絡はなかった。
☆
次の日の1時限目が終わった時、タカアキが僕の席へとやって来た。
「わかっで、智佐ちゃん日赤病院らしいわ」
と智佐の入院している病院を教えてくれた。
「そっか、タカアキ、ありがとうなぁ」
「あとな、なんで怪我したかも、舞ちゃんに探らせてるから」
「悪いなぁ、舞ちゃんにも、ありがとうって言っといて」
おぅ、と返事をするとタカアキは僕の肩をポンと叩いて自分の席へと戻った。
1分、1秒でも早く、智佐の入院する病院へ行きたい気持ちでの1日の授業はやたらと長く感じた。
6時限目の終りと供に僕は、駆け出し一目散に日赤病院へと向かった。
入院病棟の受付けで、智佐の入院している病室を教えてもらい駆け出したい気持ちを押さえて早足で足を進めた。
病室の前で入院患者の名前を確認し僕はドアをノックした。
室内から女性の声で返事が聞こえた。
そろりとドアを開ける。
静かに足を踏み入る。
個室である。
奥にあるベッドを隠す様にベージュのカーテンがゆらりと揺れ年配の女性が現れた。
見覚えのある懐かしい顔だった。
僕は、その場で頭を下げた。
頭を上げると年配の女性と視線があった。
智佐の母親である。
「お久しぶりです、澤です、澤 達矢です」
僕を見つめていた女性の首がカックンと右へ傾く。
「小さかった頃、智佐ちゃんと遊ばせてもらっていた、達矢です」
女性の表情がパッと開かれる。
「まぁ、達矢くん、大きゅうなってから」
懐かしさを漂わせた視線に変わり僕を迎え入れてくれた。
僕は、ベッドのそばまで行き智佐に視線を向けた。
智佐は眠っていた。
その姿は酷いものだった。
両足、右腕、腹部に包帯を巻かれている。
かなりの打撲傷のため鎮痛薬で眠っていると母親が教えてくれた。
左腕は肘から先が石膏で固められている。
複雑骨折だと言われた。
頭部にも包帯が巻かれ、左半分の顔面をガーゼが覆っている。
呆然と立ち尽くしている僕に、母親はベッドの傍にあった丸イスをすすめてくれた。
僕は力無く頷き、丸イスへ腰を降ろした。
黙ったまま智佐を見つめている僕に母親が尋ねてきた。
僕は、智佐と再会した話し、メールをやり取りしていた話し、文化祭へ招待してもらった話しをした。
ただ頷きながら僕の話しを聞き終えた母親は涙を流しながら智佐の話しをしてくれた。
高校一年生の終り頃から生活態度が変わり始め、夜なれば出かけ、朝帰りを始めた事、学校へも行かない日が増えていった事、荒んでゆく娘を止められなかった事。
そんな智佐が最近になり態度を改めようとし始めた事に気付いた事。
「達矢くんとの再会が智佐を良い方へ向かわせてくれたんだね」
その母親の言葉に僕は顔を左右に振った。
母親の視線が智佐の寝ている枕元に置かれている携帯電話へ向けられた。
その携帯電話はボロボロどころか破壊されているという有り様だった。
しかし、僕は智佐に何も言えず、何も聞いてやれなかった。
僕の胸は後悔と無念さで張り裂けそうだった。
せめてもと智佐が目覚めたらと、携帯電話の番号とメールアドレスを書き込んだメモを母親に渡し僕は病院を出た。
病院を出た僕はケータイを取り出して電源を入れた。
途端にメール着信音が鳴った。
『連絡よこせ』
タカアキからであった。
☆
タカアキのケータイを呼び出した。
直ぐに繋がるとタカアキの声が聞こえてきた。
『どうだった具合は』
『酷いもんだよ』
それ以上の言葉が出なかった。
『だいたいの経緯はわかっで』
タカアキが先に言葉で出してくれた。
『聞かせてくれ』
『うん、けど、直接聞いた方がえぇんじゃねぇの自分で』
『舞ちゃんにか』
『うん、今、一緒にいるから、タツヤ来いよ』
『何処へ』
『ポッポや、鳩ポッポ』
『そっか、わかった、これから行くわ』
ケータイを切り、ポケットに突っ込むと僕は駆け出した。
鳩ポッポとは喫茶店の名前である。
男が女をこの鳩ポッポへ誘うという事は本気の気持ちを示すと言われている喫茶店である。
鳩ポッポへ着くと、タカアキと舞が向き合って座っていた。
二人の座っているテーブルへ近づいて行くとタカアキが席をずらし舞と僕が向き合うようにしてくれた。
「ごめんな、邪魔して」
僕は舞に頭を下げた。
ううん、と舞は頭を振ると僕を見つめてきた。
「智佐は、うちの大切な友達やし力になりたいんよ」
ありがとう。と僕は頭を下げ病院での智佐の様子を話した。
そこで、智佐の母親と再会し智佐の生活の様子を聞いた事を話した。
舞は智佐の母親から聞いた話しの空白部分を埋める様に話してくれた。
高校一年生の終り頃から気持ちが不安定になった。そんな時期に、玉虫色のバイク男に声をかけられ、付き合いを始め、バイク仲間になってから荒んで行った事。
僕とタカアキにナンパされた頃から智佐の生活態度が良い方へ変わり始めた事。
舞の話しと、智佐の母親の話しが一致している。
さらに、智佐は、ワタシも大学へ行けるんかな。
と文化祭の日の夜に言い出した事。
舞が、何処の大学かを尋ねると、まだ決まってないけど、神戸か福岡と答え、もぅ直ぐわかるわ。
と笑っていた事。
僕は俯いたまま奥歯を噛み締めた。
そして、智佐は今の生活を改める為に玉虫色のバイク男に付き合いを辞め、バイク仲間から抜ける事を話しに出かけて行った事。
出かけて行った翌朝、全身に怪我を負い自宅近くの道に倒れていた事。
バイク仲間は、男8人で夜な夜な暴走行為をしている事。
暴走行為をする場所は、JR駅前の大通りである事。
僕は両拳を握り締め両目を硬く閉じ怒りの雄叫びを上げたい気持ちを押さえた。
少しずつ呼気を整え気持ちを落ちつせると僕は立ち上がり舞に礼を言った。
タカアキに向き直り、帰るわ。と言葉をかけた。
タカアキは、うん、と頷きながら「無茶すんなよ」と送り出してくれた。
その夜、僕は道場にいた。
☆
大学受験の為に稽古を休んでいた、武術道場である。
武は、力である。
術は、技である。
力は、自分よりも、自分の愛するモノ、大切なモノを守るためにある。
技は、自分の身体を練り、心を練るためのにある。
ちなみに、高校での空手部は、武ではない。
空手部は教育体育、スポーツである。
スポーツは、競技であり、ルールを重んじ行うのである。
競技ルールでは、愛するモノ、大切なモノを守り切る事は至難である。
しかし、高校生活を楽しむには良いものである。
僕は、武術道場に所属しながらも、心の練りの未熟さから愛すべき人、大切にするべき人を守り切る事ができなかった。
無念と自虐に苛まれ、自分の身体を虐め全身の武を目覚めさせる為に稽古に没頭した。
突く、打つ、蹴る。
受ける、掛ける、払う、崩す、投げる。
絡める、締める、固める、極める。
捌く、往なす、流す、乗る。
足を、脚を、腰を、肩を、腕を、拳を、全身を、捻る、う練らせる、強く、柔らかく、撓らせる。
身体の芯が、心の芯が、悲鳴をあげながら覚醒めてゆく。
翌日も、翌々日も身体を覚醒めさせるために武術道場へ足を向けた。
3日目の夜、武術道場から自宅へ戻った僕は私服に着替えるとJR駅前の大通りへと向かった。
玉虫色のバイク男とその仲間達を探すために。
JR駅前の大通りは、真ん中に路面電車のレールがあり両側が3車線の車道になっている。
僕は、JR駅を背にし左側の車道から探し始めた。
そこには多くのバイクが列をなし暴走行為をしていた。
歩道にたむろしている連中も多くいた。
そんな連中の間を通り抜けながら玉虫色のバイク男を探した。
探し始めて20分も過ぎた頃、反対車線にあるコンビニの前で騒いでいる連中の中に玉虫色のバイクを見つけた。
僕は近くの横断歩道を渡りコンビニの前に辿り着いた。
玉虫色のバイク男に近づく。
男が僕に顔を向けた。
視線がぶつかり合う。
しばらく睨み合うと男が声を出した。
「ナニみとんじゃ」
僕は黙ったまま睨み続けた。
「なんとかいえや、こらぁ」
声を荒げてくる。
「智佐の事で来ました」
僕の言葉に男は、ふっと思い出した様に顔をニヤッつかせた。
「なんじゃ、ちさと、おった、こうこうせいか」
「はい、これをお願いします」
そう言うと僕は男に一枚の紙を手渡した。
男は胡散臭そうに紙を受け取り内容を確認し始めた。
『タイマンを望む。翌、早朝5時に石井下公園にて』
男は内容を確認すると僕の顔に自分の顔を近づけてドスを効かせたつもりの声を出した。
「えぇかくごじゃ、うけたるわ」
僕は男の返事を聞くとそのまま自宅へ戻った。
時間は深夜1時を少し過ぎていた。
僕はデイバッグを取り出して翌日の用意をすると、翌、早朝5時までの時間をベッドに転がり身体を休めた。
石井下公園の西は市立図書館があり同じ並びにはオフィスビルが建ちならでいる。
北には樹木が茂り夏場には木陰を作りだす。
東と南は道路に面している。
僕は市立図書館を背にするベンチに腰を降ろし公園内にある時計で時刻を確認した。
5時までまだ20分ある。
デイバッグを降ろし中からオフロードバイク用のバイクグローブを取り出した。
このバイクグローブは運転者のプロテクターにもなっている為、拳の部分と掌底の部分が硬化プラスティック製で、手の平には滑り止めも施されている。
僕はこのバイクグローブを始めて見た時、まさしく格闘向きの機能だと思い自己満足で購入しておいたものである。
素手で決闘する事も考えたのだが、後の都合への支障を最小限度にしたいために着用する事にしたのだ。
素手で格闘する場合、相手の骨の固い部分や歯などに当たり自分の手を痛めたり傷つけたりしてしまう可能性があるからだ。
特に相手の歯で裂傷した場合には、ばい菌が入り、化膿する事もありえる。
黒いスニーカーに黒いジーンズ、黒いパーカーで黒いオフロードバイクグローブの僕が、そこに立っていた。
再び公園内にある時計で時刻を確認する。
5時ジャストであった。
僕は玉虫色のスクーターバイクの音を待ち気持ちを集中させた。
その時、西の道路に面している柵を乗り越えた男の姿が目に入ってきた。
だぶだぶのカーゴパンツを腰までずらし、だぶだぶでカラフルな迷彩柄のパーカーをだらしなく着つけ、斜めに釣り上がったサングラスをかけた男だった。
☆
僕は公園の広場になっている中央へと進んだ。
広場の真ん中辺りで男と向き合い間合いをとり足を止め、自然体でいた。
男は右手の人差し指でサングラスを下へ下げるとニヤリッと口元を歪め声を出した。
「ほんまに、ひとりとは、あほじゃな、おまえ」
「なるほど、アンタは、一人じゃないって事だ」
僕の言葉に、ふんっと鼻をならし睨みつけてくる。
「なんで、智佐に暴力をふるった」
「はぁ、ぼうりょくってなんのことじゃ」
「とぼけるのか」
「あほ、せいさいじゃ、あれは」
「制裁」
「わいと、わかれたいいうし、なかまから、ぬけたい、いうから、みんなで、せいさいしてやったんじゃ」
僕は頭を振った。
「制裁の意味も知らんで、ノータリンだな、アンタ」
その言葉に男の顔色が変わった。
さらに、僕は言葉を続けた。
「しかも、たった一人の女の子を、男がよってたかって、アンタらクソだ」
男が眉間に皺を寄せ、いきなり殴り掛かってきた。
右手を大きく振り上げ拳を振り出してくる。
僕は自然体から右足を僅かに左斜め後ろへ引き、左肩で男の拳を軽くブロックする。
ブロックで磨り上げられた拳が流れて僕の側頭部に当たる。
急所は外れていたが衝撃はあった。
その衝撃に僕は顔を歪めた。
それを目にした男はニャリとし続けて、左の拳を振ってきた。
左の拳を僕は右腕で完璧にブロックすると同時に自分の左拳を脇腹へ突き込んだ。
硬化プラスティック製の拳が男の脇腹、肋骨の一番下の骨を砕く。
男は堪らず呻き両手で脇腹を押さえた。
無防備になった男の顔面へ、左耳の下へ右掌底を打ちつける。
その勢いで男が地面に崩れ落ちる。
まるでそれが合図だったかのように公園の北側の樹木の影から7人の男達が駆け込んできた。
その内の一人が金属バットを手にしている。
金属バットを手にしている一人が駆け込んできた勢いのまま僕に向かってきた。
どこを狙っているのかわからない程に金属バットを振り回してた。
それでも、僕には見えていた、スローモーションの様に金属バットの軌道は見えていた。
難なく躱し、股間を蹴り上げ地面に這わせた。
金属バットが手から離れ転がる。
その金属バットを拾い順番に男達が襲いかかってくる。
そんな事を繰り返して繰り返して、気がつくと始めのサングラスの男を含めた8人の男達は全員地面に倒れて藻掻いていた。
僕はその光景を確認すると、その場から駆け出した。
デイバッグを手に取り、駆けながら背中に背負い、駆けながらバイクグローブをはずしパーカーのポケットへ突っ込んだ。
JR駅へ向かって駆けた。
JR駅に辿り着くと、トイレの個室に飛び込んだ。
トイレの個室で着替えを済ました僕は新幹線改札口を通り抜けた。
福岡行の新幹線を待つ学ラン姿の僕がホームに立っていた。
残念ながらと言うか、当然と言うか、福岡での大学の入学試験の内容は散々なものだった。
疲れ果て帰宅すると、神戸での入学試験の結果が届いていた。
結果は、合格であった。よっしゃー。
それから、1年後。
僕は、神戸での大学生活をお謳歌していた。
智佐は、神戸の隣、明石市の短期大学へ進学してきた。
僕と、智佐は、神戸の街で、お茶をし、食事をし、映画を見、買い物をし、二人の時間を増やしていった。
そして、幼馴染みの、達矢と智佐では無く、恋人同士の達矢と智佐になった。
終り。