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蒼色ストライクス 8話「ないしょ電話」
朝の寮は、まだ眠りの余韻を残していた。
遠くから聞こえる鳥の声と、誰かがシャワーを浴びる音。
麻成は、まぶたの重さを感じながらゆっくり目を開けた。
枕元では、スマホの画面が薄く光っている。
通話時間 —— 6時間42分。
「……え?」
慌ててスマホを耳に近づけると、小さな寝息が聞こえた。
——光希だ。
昨夜、電話を切らずに寝落ちしたのだとようやく思い出す。
「おい……起きろよ……」
小声で呼ぶと、反対側からくぐもった声。
『ん……あさ……?』
寝起きの光希の声は妙に柔らかくて、麻成は一瞬固まってしまう。
「通話……まだ繋がってる」
『……え? あ、ほんとだ……っ!』
光希の声が急に跳ね上がる。
『うわああっ、寝落ちしてた!? ご、ごめん! 切るの忘れて……!』
「俺もだから。お互い様」
麻成は苦笑しつつも、胸の奥がほのかに温かかった。
——なんだよこれ。
まるで、恋人みたいじゃんか。
そんなことを考えていると——
ドンドン!!
突然ドアが激しく叩かれた。
「清水ー! 朝練行くぞー!」
チームメイトの声だ。
麻成は飛び上がる。
「やばっ……!」
光希も慌てて声を潜める。
『麻成!スピーカーにしないでね!? 絶対だよ!?』
「するわけねぇだろ!」
慌てて通話を切ろうとした——が。
ドアがガチャッと開いた。
「あれ麻成、起きて……って、あれ? 誰と電話してんの?」
入ってきたのは同部屋のチームメイト、小笠原蒼。
麻成は反射的に布団にスマホを押し込んだ。
「蒼!?別に誰でも……!」
だが、スマホからは容赦なく声が漏れる。
『麻成!? 切らないの!? どうしよ!?』
「……え、女子?笑」
「ちがうって!!」
蒼はニヤリと笑い、怪しむようにスマホを見る。
「寝起きの優しい声で話してたよね…?麻成そんな声出せたんだ?」
「違うって言ってるだろ!」
だが、スマホの向こうの光希もパニックだ。
『ま、麻成!僕の声、聞こえてない!?ねぇ、麻成っ!』
その声が聞こえた瞬間——
蒼は固まった。
そして。
麻成を見る。
「……ねぇ。今のって……金渕くん、だよね」
「……っ!!」
麻成の顔が一瞬で真っ赤になる。
蒼はニヤァァ……と悪魔の笑みを浮かべた。
「まさか〜〜〜?あの二人、最近仲良いと思ってたんだよ〜。
寝起き電話かぁ……しかも切り忘れ?」
「違うって!!ほんとに違うから!!」
そこへタイミング悪く、廊下から明るい声が飛び込んできた。
「麻成ー!朝練行くよー!」
光希の声だった。
蒼の耳まで赤くなる。
「……生声きた」
麻成は頭を抱える。
部屋の前まで来た光希は、勢いよく扉を開けた。
「麻成、おはよ——」
だけどそこでぴたりと止まった。
蒼と麻成の険悪な(?)視線の間に挟まれ、光希の頬がみるみる赤くなる。
「……もしかして……聞こえちゃいました……?」
「うん、ばっちり。ごめんねー⋯。」
「ぎゃー!!」
部屋じゅうが混乱に包まれ、麻成は頭を抱えながら叫んだ。
「だから違うって言ってんだろー!!」
蒼は肩を震わせながら笑っていた。
「いや〜、朝っぱらから良いもん見れたわ。そのまま付き合っちゃえば?」
「「ち、ちが……っ!!」」
二人の声が見事にハモった。
廊下中に響き渡るその声に、他の選手もひょこひょこ顔を出す。
「なに? どうしたの?」
「清水と金渕が朝からめっちゃ仲良くしてたってさ〜〜」
「ちょっと!!やめてくれ!!」
光希は顔を覆い、麻成は布団でうずくまった。
そうして、
——二人の“通話つなぎっぱなし事件”は、瞬く間に寮全体の噂となった。
しかし。
麻成は気づいていた。
光希が真っ赤な顔でこちらを見たとき、
ほんの少しだけ嬉しそうに見えたことを。
そして光希も気づいていた。
麻成が噂を否定しながらも、
光希を守るみたいに前に立ってくれたことを。
——恥ずかしい朝だったけれど、
二人の距離は確かにまた一歩近づいていた。
あとがき
この前は書かなかったけど、
私の最推し、山本祐大選手が福岡にトレードされました。
本当にその時は泣いて、一瞬記憶が飛ぶくらい、信じられないことでした。
ゆーだい本人がこんな小説読んでるわけないけど、
この文章もきっと本人には届かないだろうけど、
ちゃんと神奈川の田舎から応援してるからね!!!
5月某日 coco☆bay