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もっと早く伝えたかった
街の喧騒から切り離されたような、静かな通学路。
その道筋には、二人の運命を分かつ決定的な瞬間が刻まれていた。
出会いは二年前のことである。
当時十四歳であった少年は、
路地裏で数人の不良に囲まれ、暴力の刃にさらされようとしていた。
絶体絶命の淵に立たされた少年の前に現れたのは、一人の青年であった。
二十歳という若さでありながら、
その眼差しには揺るぎない正義と落ち着きが宿っていた。
「……何してんだよ? 子供に手をあげるとか、大人としてどうなんすか」
低く、しかし通る声。
青年は少年の前に立ち、毅然とした態度で不良たちを退けた。
その日、少年にとって青年は単なる救助者ではなく、
憧れと敬意の対象へと変貌したのである。
それから二年間、二人の交流は密やかでありながらも確実に深まっていった。
時が流れ、少年の心にはある変化が生じていた。
それは自覚せざるを得ないほどの情動――青年に対する恋慕であった。
少年はその想いを胸の奥に秘めながら、
いつか言葉にする機会を待ち続けていたのである。
ある日の放課後。
少年は決意を固めた。
自分の想いを託すための手紙を書き上げ、
それをスクールバッグの底に大切に忍ばせた。
翌日、この手紙を彼に届けるという目的だけを胸に、
少年は登校の道を歩き始めた。
しかし、運命は残酷なまでの無慈悲さで少年の計画を打ち砕いた。
通学路の交差点。
居眠り運転に陥った大型トラックが、制御を失い突っ込んできたのである。
回避の術もなかった。
衝撃の瞬間、少年は自分の想いが届かないまま、その命を奪われた。
数日後。
青年の元に、少年の両親が訪れた。
彼らの手には、あの日、少年のバッグの中にあったはずの手紙が握られていた。
「……これを、読んでください」
震える声で差し出された封筒を、青年は受け取った。
ページをめくり、
そこに綴られた純粋すぎるほどの想いを目にした瞬間、青年の心は凍りついた。
少年が自分に向けた熱烈なまでの好意。
それを知る機会があったのなら、
どれほど早く自分の気持ちを伝えられただろうかという後悔が、
津波のように押し寄せた。
「……もっと早く、伝えておけばよかった」
青年は崩れ落ちるようにその場に座り込み、
溢れ出る涙を止めることができなかった。
届かなかった手紙の文字は、青年の胸に消えない傷跡として刻まれた。
少年の最期の日、彼が抱えていた想いは、
永遠に報われることのない切ない祈りとなって、静かに街の空へと溶けていった。