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episode5
ある日曜の朝。
「おっはよー!」
「おは…って、お前朝から酢昆布食べんな!」
「だって好きなんだもん。酢昆布ウメ~ェ!」
「でた、ロウンの酢昆布うまいコール笑」
「もうコイツの主食酢昆布で良くない?」
「賛成」
普段通りの賑やかな朝に、それは突然やってきた。
朝食を食べ終わり、リビングで各々の時間を過ごしている時、どたばたと廊下を走ってくる音が聞こえた。
「おはよう皆!全員揃ってる!?」
勢いよくドアを開けて入ってきたのは、マネージャーのミンジュだった。全員が驚いて振り返る。
「ミンジュさん?どうしたの、そんなに慌てて」
「ごめんごめん、朝から会社に呼び出されてさ。それより、皆にビッグニュースがあるんだ!」
「ビッグニュース?」
揃って首を傾げる。ミンジュが一息ついて、そして言った。
「なんとこの度、始めてのワールドツアーが決まりました‼」
「え、ワールドツアー!?」
「俺達が!?」
「そう!でも驚くのはそこじゃない。なんと今回のツアーには、あの東京ドーム公演も含まれてるんだ!」
「東京ドーム!?」
日本人3人が声を揃える。ミンジュが効果音がしそうなほどの速さで頷いた。
「歴代最速だよ!凄いことだ!僕めちゃめちゃ嬉しい!」
「いやマネージャーが一番喜んでどうするんだよ」
シウがツッコむ。イユニがスマホをスクロールしながら呟いた。
「歴代の最速記録が2年弱…俺達は今大体半年くらい……え、ちょっとまって早すぎない??」
「そうなの、君らすっごく早いの。もう運営も世界もびっくりしちゃう」
「やばい、ミンジュが感動のあまりオネエになってる」
「なあなあ、東京ドームってことはさ、3人とも初めて帰国できるってことだよな?」
ロウンの声で、4人が3人の方を振り返る。シウが頷いた。
「1年ぶりくらいだな。カオル兄さんは?」
「え…えと、6年ぶりくらい、かなぁ」
「…」
セナがカオルの方を見て黙る。「…セナ?」とイユニが聞くと、セナはふいと顔をそらして「べつに」と素っ気なく呟いた。
【セナside】
―まずいことになったと、俺は自室に戻りながら思った。
いずれ来ることだろうと覚悟はしていたが、いざ目前まで迫ってみるとその覚悟も虚しく、不安ばかりが胸を埋めた。いつもより少し乱雑にドアを閉め、ベッドに身を投げる。
「ばれちゃう、かな」
日本に帰ったら、きっと家族の事や家の事を深掘りされるだろう。けれどそれを隠し通せる自信が俺には微塵もない。特にイユニ兄さんが厄介だ。他人のどんなに些細な変化でも見逃さないあの人から隠すなんて到底できたことじゃないだろう。深いため息が漏れ出す。
(カオル兄さんのあの顔も、絶対何かあるっぽいし…)
薄々気づいていたが、カオル兄さんにも何かがあるらしい。風呂に他人を絶対入れなかったり、一人だけ衣装の露出が少なかったりと、思い当たる節がいくつかあった。今ここで俺の事を打ち明けたら、カオル兄さんが切り出しにくくなるに決まっている。そうなっては兄さんの負担を増やすだけになってしまう。そんなことを考えていたら思考がキャパオーバーしたのか、何も考えられなくなってしまった。この状態になるとしばらくは何にも手がつかなくなるので、とりあえずスマホを手に取り、誠人さんにメッセージを打ち込む。
誠人さんは母の弟、つまり叔父にあたる人で、身寄りの無くなった俺を引き取ってくれた人だ。韓国を拠点とする大企業の社長であるが故に小さな頃は会うこともなかったが、韓国に来てデビューするまでは色々とお世話になっていた。まるで俺を本当の子のように思ってくれていて、初めて会った瞬間に抱きしめられたことは今でも頭に残っている。
『色々あって日本に帰ることになったんだけど、家の事どうしよう。メンバーの中に敏感な人がいて隠し通せそうにないんだ』
簡潔に打ち込み、画面を閉じて天井を見上げる。打ち明けたいけど、打ち明けられない。もどかしさを胸の内に閉じ込めて、そのまま真っ暗な眠りに沈んだ。
―このまま二度と目覚めなければいいのに、なんて思いながら。
【誠人さんについて】
30歳。電子機器メーカーの社長で、瀬那の母親・ユキの弟。温厚で人当たりがよく、社員にも好かれている。瀬那が韓国に来るまでは保護施設と連携して支援を行っていたが、来韓してからは自分の家に置いて面倒を見ている。他にも貧困国への支援活動や多額の寄付などを定期的に行っていて、とにかく優しい。ハイスぺイケメン。独身。(結婚するつもりはないとのこと)