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第二話:最強の盾、あるいは浅草の姉貴分
「――逃がさねぇっつってんだろ、アカリッ!」
浅草の町を紅蓮の炎が切り裂く。
第7大隊長、新門 紅丸の放った一撃が、逃走中の灯の背中に迫った。だが、灯は振り返りもせず、空中に指先で円を描く。
「焔絵――『|墨衣《すみごろも》』」
黒い炎が膜のように広がり、紅丸の熱線を無造作に弾き飛ばした。
そのまま灯はくるりと空中で一回転し、魚政の店先にふわりと着地する。
「はい、干物二枚お買い上げ! 紅、今のはちょっと危なかったんじゃない?」
「……チッ、ノールックで防ぐんじゃねぇよ」
肩を並べて歩く二人の前に、唖然とした表情の集団が立ち尽くしていた。
青い発光ラインが特徴的な防火服――第8特殊消防隊の一行だ。
「……え、今、新門大隊長の攻撃を完全に防ぎましたよね?」
森羅日下部が、信じられないものを見る目で灯を凝視する。
第8の中隊長、火縄も眼鏡の奥で目を細めた。
「新門大隊長の攻撃を、あんなに軽々と……。彼女も第7の隊長格なのか?」
「あ? ああ、こいつは灯だ」
紅丸が面倒そうに紹介する。
「一等消防官だが、実力だけは小隊長クラス。……まぁ、中身はただの世話焼きおかんだ」
「おかんだなんて失礼ね! 初めまして、第8の皆さん。私は冬灯 灯。紅の幼馴染兼、お目付け役よ」
灯がにこりと笑うと、浅草の町人たちが次々と声をかけてくる。
「よっ、灯の姉貴! 今日も若と喧嘩か?」
「姉さん、こっちの火種もちょっと見てくれよ!」
「はいはい、後で行くから待っててね!」
甲斐甲斐しく応える灯の姿は、戦闘中の凛とした空気とは打って変わり、まさに「頼れる姉貴分」そのものだった。
「……アーサー、あの人……」
森羅がアーサーに声をかけアーサーが珍しく真剣な顔で呟く。
「あの『壁』……騎士王の俺でも、一筋縄ではいかぬほどの重圧を感じるぞ」
その時、灯が紅丸の襟元に手を伸ばした。
「紅、またベルトが緩んでる。大隊長なんだから、シャキッとしなさいよ」
「……うるせぇ。紺炉さんが、お前に任せるって言ってたんだよ」
また始まった、と紺炉が遠くで肩をすくめる。
第8の面々は、最強の男を子供のように扱う「浅草の灯火」の存在感に、ただただ圧倒されるばかりだった。
🔚