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6話 過去
「Teriosが?今までそんな情報は聞いたことがありません」
雲居が近くのパソコンに駆け寄る。
「具体的な内容を教えてください」
「…3年前の春、俺はあいつ…|怜《れい》に勧められて通信制の高校に進学したんだ。怜も高校に行ったから自然と会う機会は減った。そんなある日、怜がユートピアで俺にメッセージを送ってきた。『外で会いたい』って…怜は俺のことをよく知っていたからおかしいと思ったんだ。俺に出てこいって言うなんて。だから、俺のとこまで来られない状況にあるんだって思って急いで家を出た。場所は、すぐに分かった。たまに外で会う時の決まった場所があったから。そこに、怜は居た。怜は…『ごめんね、迎えにくるから』って…それと、『僕を見つけたいなら、Teriosを探して』そう言った。その後、怜は行方不明になった。自室に、大量の血痕を残して…」
しばらくの沈黙の後、雲居がおそるおそる口を開いた。
「でも、それじゃあ亡くなったとは限らないんじゃ…」
「いや、致死量の、あるいはそれ以上の血だったよ。移動した血の痕跡があったけど、この出血量じゃ生きられないって」
「な、るほど…」
静かな部屋に雲居のタイピング音だけが響く。
「みなさん!事件の調査に取り掛かりましょう。過去に想いを寄せていたらキリが無いですよ」
水無月が声を響かせる。それは、自分に言い聞かせているようにも聞こえた。天堂がパンッと手を叩き気合を入れる。
「よし!じゃあ、葵は私と、ソラはここで、A.I.D.A.は…美桜と行ってくれ」
「えっ!ちょっと待って、行くってどこに?」
美桜があわてて、今にも出かけようとしている天童を引き留めた。
「決まってるだろ。調査だ」
「は…?」
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「美桜さん、機嫌を直してください」
「直すも何も、元から悪くないよ」
「そうですか。しかし、表情、呼吸、声のトーンから、あなたは苛立っている状態だと考えられます」
「…」
A.I.D.A.と美桜は二人で薄暗い裏路地を歩いていた。
「そんなことよりさ、本当にここにディオニュソスがいるの?」
「はい。100m先にディオニュソスのものと思われる生体反応があります」
「まじ…⁉︎」
美桜は立ち止まり、小さなガラス片を道ばたに打ち付ける。
「何をされたんですか?」
「外部からの通信を遮断する粒子を撒いたんだよ」
「なるほど。安心ですね。しかしそれでは私たちも連絡を取れないのでは?」
「おまえだったらインターネットに接続して雲居さんと連絡取れるだろ…」
ザリ…ザッ…暗闇に重い足音が響く。
「よぉ…また来たのか。…あ?そのちびっこいのはなんだ?」
そこに現れたのは、2mを超えた巨体だった。筋骨隆々の大きな身体は美桜と並ぶと一層逞しく見えた。
「…喧嘩売ってんの?」
「美桜さん、落ち着いてください。この方がディオニュソスです」
「ははっ…!おもしれぇ餓鬼だなぁ!そのちっさい背で威勢のいいことだ」
「はっ…どうせおまえは筋力しか知らない脳筋だろ」
ディオニュソスの顔が曇る。
「じゃあその筋力の力を見せてやろうか?」
A.I.D.A.が美桜に背を向け二人の間に割って入る。
「手は出さないという約束です」
「そのちびっことは約束してねぇ」
「彼も私たちの仲間です」
しばらくの沈黙の後、小さな舌打ちが聞こえた。
「…仕方ねぇ」
「美桜さん…」
振り向きざまに言うA.I.D.A.の言葉を美桜が遮る。
「わーったよ」
「ついてこい」
二人揃ってディオニュソスを追いかける。一歩が大きい。
「俺については聞いてるか?」
「…ディオニュソスってことぐらい」
一瞬、ディオニュソスが足を止めたように感じた。
「そうか。説明してないのか?」
「はい。あなたから直接説明していただいた方が分かりやすいと思いまして」
「あー…そうか…」
それ以来三人は全く話さなかった。
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「ようこそ、我が家へ。なんつってなぁ…ハハ」
そこにはただ段ボールが積み重ねられているだけであった。美桜は恐る恐る尋ねる。
「…家ってもしかして…こ、れ?」
ディオニュソスがドカッとそのダンボールの山に座る。
「寝れたらいーんだよ。で、どこから話そうか?」