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騒動の前触れ
1つ季節が進んで実りの季節。この国の中心地で一番大きな町、ハレストにやってきた。丁度収穫祭の時期なのでどこもかしこもお祭り騒ぎのようだ。
「にぎやかだね~。アタシ、こういうところ楽しくて好きだよ」
「私は人混みはあまり好みませんが。そういえばここって騎士団の本拠地では?」
「うっ……まぁ、これっていうやましいことはしていないし、フード被っときゃ大丈夫でしょ」
広場では収穫を祝うために音楽隊が演奏を、テラスでは宴会が開催されていた。
「気分転換に図書館にでも行きましょう? 高等魔術の本が読みたいのです。これだけ人が多いんですもの。バレませんよ多分」
「その多分が怖いんだよね~。図書館ね~歴史書漁りに行こ」
国内最大級の国立図書館。この国で書かれた本の約9割がそろっているとかどうとか。ウキウキしながら国立図書館に向かっていた道中。
「なぁ、オマエ、ネリネじゃないか?」
すれ違いざまに男性に声をかけられた。服装からして騎士団の人間だ。
「ウゲッ、バレた?」
「あの、人違いでは?」
ネリネはフードを目深に被っている。よく観察しないと本人とは気づかれないはずだか。
「いや、確かにネリネだ。この3、いや4ヶ月どこに行っていたんだ?」
「ですから……」
人違いなのではないですか? と続けようとしたアリフェをそっとネリネは止め、被っていたフードを取った。
「いいよ、アリフェ。大丈夫。そうだね、アタシはネリネだよ。でも騎士団は辞めたことになっているでしょ?」
「それはそうだか、俺はオマエが辞めたって納得がいってないんだよ。あれはどう考えても辞めたんじゃなくて辞めさせられてるんだろ。本当はオマエも納得がいっていないはずだ」
「それはどういうことですか? 辞めさせられたって」
「部外者は黙っててくれ」
「いくらなんでも部外者はないよ。この子はアタシの仲間なんだから」
なんだか一触即発の雰囲気になってとっさにアリフェは
「ここで揉め事は騒ぎになってしまいますし場所を変えませんか?」
と一言添えるのだった。
一行は近くにあった酒場に入り、ルーフは近くの森に遊びに行った。夕刻までに戻ってくるように伝えてある。各々飲み物を注文して座席に座る。運良く半個室の場所が空いていたのが幸いだった。注文した飲み物がやってきてから話は始まった。
「話を戻しましょう。もう一度聞きます。ネリネが騎士団を辞めさせられたとはどういうことですか?」
「それはだな……」
「いいよ、トリカ。アタシから説明する。その前に自己紹介しなきゃじゃない?」
「そりゃそうか、俺はトリカ。トリカ・ナスターチ。ハレスト騎士団の魔法騎士小隊、小隊長だ」
トリカの所属している小隊は騎士団の中でも有名なところだった。
「アリフェ・モカメリアです。魔術師をしていて、ネリネとイヌのルーフと一緒に旅をしています。」
「じゃあ、順を追って説明するね」
今から半年程前、任務についていたネリネとトリカ。当時のネリネは魔法騎士小隊に所属していたのだそう。任務は大量発生した魔物の討伐と同時にとある生物の捕獲だった。魔物の討伐はギルドの手を借り、そう時間はかからなかった。それよりもとある生物の捕獲に手間取っていた。ようやく捕まえて本部に戻ると犯してもいない罪の濡れ衣を着せられていた。ネリネの人脈を駆使して罪の潔白を証明したまではいいが、騒動の責任を取って約4ヶ月前に辞めたとのこと。
「いろいろと頭にきちゃってずっと憧れてた騎士団を辞めちゃった。その頃はもう何もかもどうでも良くなってたのかも」
「そうだったのですね」
シリアスな展開になりそうなところをトリカが断ち切った。
「そういや、あのイヌ、ルーフって実際オオカミだろ? 不思議に思ったことはないか?」
「不思議に思ったことですか? 私の言ったことを瞬時に理解できる程頭がいいことでしょうか。あとは私のご飯を狙ってきたり、よく首元にこう頭を押し付けて来ることですかね?くすぐったいので止めさせたいのですけど」
先日、ルーフが魔法を使ったことは伏せてアリフェは話した。後半なんかほぼイヌじゃね? オオカミじゃなくね? とアリフェ以外の2人は思ったが黙った。触らぬなんとかにになんとやらだ。
「あのオオカミさ、騎士団から逃げ出した奴かもしれねぇっつたらどうする?」
「あっ、結局あの子逃げたんだ」
「どういうことです?」
「あのオオカミの正式名はウィザードウルフ。詳しくは知らないが魔術を扱うらしい。ある生物の捕獲ってソイツの事なんだよ」
アリフェは一瞬動揺した。動揺したのがバレているかは分からない。確かにルーフは頭がいいのか言ったことはすぐに理解するし、なんなら先日魔術を使う姿を見てしまっていた。全て心当たりしかなかった。
「その顔、なんか知ってんな?なぁネリネ、オマエも気づいてんだろ。ルーフがウィザードウルフだってこと」
ネリネは口を閉ざし黙秘を貫くようだ。地獄のような沈黙の時間が過ぎていく。
「それが本当ならば騎士団の方々はルーフもあの子を連れていた私も捕えるのですか?」
口を開いたのはアリフェだった。緊張が声に表れているのか声が震えている。
「どうだろうな、わからない。しっかしそんなのを森に放してて大丈夫なのか? 他のヤツらに見つかれば大騒動だぞ」
トリカは曖昧に答えた。
ハレスト
この国の中心地で一番大きな町。この町に行くと大抵何でも揃っている。国立の図書館と植物園が有名。この町のどこかに魔術品だけを販売する商店があるのだとか。
トリカ・ナスターチ
魔法騎士
ハレスト騎士団魔法騎士小隊 小隊長
趣味は鍛練とお菓子作り。年の離れた弟がおり、弟のためにお菓子作りをしていたらいつの間にかハマっていた。