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和風幻想物語
矢夜衣(ヤヨイ)
朝の光が差し込む午前6時。
私は目覚ましも無しにのっそりと
布団から起き上がり、眩しく光る太陽を睨む。
窓の外では、建物一つ立っていない
真っ白なコンクリートが敷き詰められている。
ヨマ、と自分の名前が書かれた
部屋のドアの装飾を横目で見ながら
あくびをひとつして、部屋の隅の鏡を見つめる。
「…髪ボサボサだ。」
化け猫の証である猫耳が眠気で垂れており、
青い髪の毛が所々跳ねている。
自分の机の引き出しからくしを取り出して
髪を整えていく。
「お姉ちゃ〜ん!
ルトミさん起きてくれないよ〜!」
妹のあこの声が聞こえてくる。
あのバカ親父、また寝ぼけてるのか。
そんか悪態を心の中で呟きながらも
髪を整え終えて部屋を出る。
「今行く〜」
部屋を出てすぐ、異臭が鼻をつんざいた。
お父さんの部屋からだ。何か嫌な予感がし、
早足で部屋のドアへと一直線に向かっていく。
この匂いは、嗅いだことのある匂いだ。
ドアをバンッと乱暴に蹴り飛ばす。
「おいバカ親父!何…して………」
「お姉ちゃん…ルトミさん起きないの!」
お父さんがデスクに突っ伏していた。
いつものように大きな寝息を立てているはずの
お父さんが、動いていなかった。
「あこ、お父さん触らないで。」
「……………………?わかった!」
あこは何もわかっていないのか、
いつも通りの困ったような笑顔で
お父さんに声をかけていた。
ふとあこの手のひらに目がいく。
カプセル剤が大量に
入っている小瓶を持っていた。
「…あこ、それ見せて。」
「これ?いーよ。」
小瓶の中のカプセル剤を手に取り、
じっと見つめる。
99と書かれたカプセル剤。
何の薬だ?このバカ親父はいつから
こんな変な薬を飲んでいた?
どこから手に入れたんだ?
いや、それよりも。
「おい、バカ親父、起きろ。」
死んでいる。
息も脈も心臓の音も体温も、何も無い。
何で?何でこうなった?何故死んだ?
「お姉ちゃん、
ルトミさんどーして起きないの?」
あこの明るくて穏やかな声が、
無理矢理私の鼓膜に響いてきたようだった。
「…母さんに朝ごはん作ってもらいな。」
「え、お姉ちゃん…!ちょっと…!」
無理に笑顔を作り、
あこを半ば強引に部屋から出した。
言えるわけが無い。
私は震える手でお父さんの背中に触れる。
バラバラと音を立てて、
お父さんの体が崩れていく。
この世界では、死んだ生き物は触れると
崩れて砂になり、消えていくのだ。
お父さんが消えてしまった部屋の中、
ほこりがきらきらと舞っているだけ。
静かに部屋を後にして、階段を降りて
リビングへ向かう。
お母さんの|露露《るる》が
トーストを用意してくれていた。
「お母さんっ、父さんが…!」
落ち着いてなんていられなかった。
震える声を抑えようとするが、
言うことを聞いてくれなかった。
「………大丈夫、知ってるよ。
あこの説明から大体は察した。」
その一言で、体が動かなくなってしまった。
お父さんが、本当にいなくなった。
息が詰まって、頭痛がし、声を出せなかった。