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小説ってなんだろうね
アユト
【主要キャラクター】
主人公: 本が大嫌いな中学生。時間割の「読書の時間」が苦痛で仕方ない。
図書室の主: 本の面白さを押し付けず、静かに見守ってくれる人物。
【あらすじ】(このまんま、本編にも出てくる)
「漢字を覚えるためには、小説読んだほうがいいよ」
国語の先生の言葉に、僕は心の中で大きくため息をついた。
時間割に組み込まれた、逃げ場のない「朝の読書時間」。周囲が静かにページをめくる中、僕の頭にあるのは「つまんない」「早く終わらないかな」ということだけ。文字の羅列を眺めるだけの15分間は、苦痛でしかなかった。
ある日、適当に図書室の棚から取った薄い一冊を机に置いていた時のこと。
隣の席のやつ(あるいは図書委員)が、僕の開いたままのページをちらりと見て言った。
「それ、面白いの?」
「……ううん。全然。小説の何が面白いのか、さっぱり分からない」
素直すぎる僕の返事に、相手は可笑しそうにクスッと笑って、ぽつりと呟いた。
「『小説ってなんだろうね』」
「え?」
「言葉の羅列に見える時もあるし、誰かの頭の中を覗いてる気分になる時もある。ただの暇つぶしの人もいれば、お守りみたいに持ってる人もいる。——君にとっての『小説』は、まだ始まってないだけかもね」
その言葉がなぜか頭から離れず、僕はその日、初めて自分の意思でその本の「次のページ」を開いてみることにした。
そこに書かれていたのは、大層な名作でも教訓でもなく——自分と同じように「学校なんて退屈だ」と思っている、どこかの誰かのちっぽけな物語だった。
「……あ、これ、ちょっと僕に似てる」
漢字を覚えるためでも、先生に褒められるためでもない。
「ただ、この続きがどうなるのか知りたい」
そう思った瞬間、僕の中で止まっていたページが、パタリと音を立ててめくられた。
**第1章:時間割の15分**
「漢字を覚えるためには、小説を読んだほうがいいぞ」
国語の先生が教壇の上でよく口にするその言葉を、僕はいつも右から左へと受け流していた。
そんな理由で本が読めるようになるなら、苦労はしない。そもそも、僕にとって「小説」なんてものは、ただ黒い文字がびっしりと並んだ退屈な紙の束でしかなかったのだから。
僕の通う中学校の時間割には、毎朝「読書の時間」という15分間が組み込まれていた。
8時15分から30分まで。逃げ場もなく、教室にいる全員が必ず本を開いて静かにしていなければいけない、僕にとって最も苦痛な15分間だ。
もともと、本を読むのが好きではなかった。
小学生の頃から、読む機会があっても頭に浮かぶのは「面白くない」「つまらない」の一点張り。図書室の匂いも、ページをめくるサクサクという音も、どこか自分とは無関係な世界の出来事に思えた。
(あと、八分か……)
チラリと黒板の上の時計を見上げる。針の進みがやけに遅い。
僕は机の上に置いた適当な文庫本に目を落とした。昨日、図書室の棚の目立つところから内容も見ずに引っ張り出してきた本だ。
文字の羅列を目で追ってはみるものの、言葉はただ頭を滑り落ちていくだけで、物語の景色なんて一つも浮かんでこない。
はあ、と小さなため息をついた、その時だった。
「それ、面白いの?」
ひそひそ声が横から聞こえてきた。
隣の席の女子——確か、図書委員をやっている葵(あおい)さんだ。彼女は自分の本から目を離さないまま、小声で僕に話しかけていた。
「……ううん。全然」
僕も先生に見つからないよう、教科書で口元を隠しながら素直に答えた。
「小説の何が面白いのか、さっぱり分からないんだ。みんなよくこんなの毎日読めるよね」
読書好きな彼女に対して少し失礼だったかもしれない、と一瞬焦ったけれど、葵さんは怒る風でもなく、クスッと小さく肩を揺らした。
「そっか」
彼女はそこで初めてこちらを向くと、静かに僕の机の上の本を見つめ、ぽつりと呟いた。
「……『小説ってなんだろうね』」
「え?」
予期せぬ言葉に、思わず聞き返してしまった。
「文字の羅列に見える時もあるし、誰かの頭の中を覗いてる気分になる時もある。暇つぶしの人もいれば、お守りみたいに持ち歩いてる人もいる。——君にとっての『小説』は、まだ始まってないだけかもね」
キーーン、コーン、カーーン……。
ちょうどその時、朝の読書の終わりを告げるチャイムが教室中に響き渡った。
クラスメイトたちが一斉に本を閉じ、ガタガタと席を立つ。
葵さんは「じゃあね」と短く言うと、自分の本を丁寧に鞄へ仕舞い、次の授業の移動のために席を立っていった。
取り残された僕は、机の上の文庫本を見つめたまま動けずにいた。
『君にとっての小説は、まだ始まってないだけかもね』
あの静かな声が、頭の中で何度もリフレインしていた。
**第2章:言葉の居場所**
朝の読書時間が終わっても、葵さんの言葉は刺さった棘(とげ)みたいに、僕の心の中に残り続けていた。
『君にとっての「小説」は、まだ始まってないだけかもね』
始まってないって、どういうことだろう。
小説なんて、表紙をめくれば1ページ目から勝手に始まっているものじゃないのだろうか。
その日の夜。自分の部屋の机に向かい、宿題の数学ドットを終わらせたあと、僕は鞄の底から昼間の文庫本を取り出した。
図書室で適当に選んだ、青い表紙の本。タイトルは『放課後の図書室で、僕らは透明になる』。いかにも気取ったタイトルで、昨日までの僕なら絶対に手を出さないような本だ。
いつもなら絶対に家で本なんて開かない。
だけど今夜は、なぜだかその青い表紙をめくってみたい衝動に駆られていた。
パタリ、とページを開く。
昨日までは「文字の羅列」にしか見えなかった黒い記号たちが、静かな部屋の中で少しずつ意味を持ち始める。
『今日も教室のすみっこで、僕は息をひそめている。誰にも気づかれないように、誰の邪魔にもならないように。まるで自分だけが透明人間になったみたいだ』
「……え」
指がぴたりと止まった。
書かれていたのは、魔法使いの冒険でも、大昔の歴史でもなかった。
クラスの賑やかな輪に入れず、休み時間になると何となく教科書を眺めてやり過ごしている——僕と同じような、どこにでもいる男の子のつぶやきだった。
(なにこれ……僕のことじゃん)
心臓が、トクンと小さく跳ねた。
漢字を覚えるためでも、先生に怒られないためでもない。
「この後、この子は雰囲気に耐えきれなくなって教室を逃げ出すのかな」
「図書室で誰かと出会うのかな」
続きが知りたい。
もっとこの「僕に似た誰か」の言葉を読んでみたい。
気がつくと、僕は次のページ、また次のページへと夢中で紙をめくっていた。
時計の針が夜の10時を指していることにも気づかないまま。
退屈で、苦痛でしかなかった「文字」が、僕の頭の中で鮮やかな景色になって広がっていく。
あの日、葵さんが言っていた「誰かの頭の中を覗いている気分」という言葉の意味が、ほんの少しだけ分かった気がした。
**第3章:ページの向こう側**
それからの僕は、朝の読書時間が苦痛ではなくなっていた。
相変わらず「漢字を覚えるため」なんて理由はピンとこないけれど、あの青い表紙の文庫本の続きが読みたくて、チャイムが鳴ると自然と本を開くようになった。
けれど、学校生活は良いことばかりじゃない。
ある日の午後、班でのグループワークでうっかりミスをしてしまい、クラスメイトからキツイ言葉を投げかけられてしまった。悪気はなかったのかもしれないけれど、胸の奥がギュッと締め付けられるように痛かった。
部活が終わって家に帰ってからも、モヤモヤとした気持ちが消えず、何をしても心が晴れない。
(……そうだ、あの本)
僕はすがるような気持ちで、机の上の文庫本を開いた。
ページの中の主人公も、やっぱり人間関係でつまずき、傷ついて泣いていた。
でも、彼はそこで諦めずに、不器用ながらも自分の言葉で自分の気持ちを相手に伝えようとしていたのだ。
『傷つかない方法を探すより、傷ついても届く言葉を探したい』
その一行を目にした瞬間、すーっと胸の中のモヤモヤが溶けていくのが分かった。
「……そっか」
本の中の主人公が、画面の向こうから僕の背中をポンと押してくれた気がした。
ただの紙とインクでできた本なのに、今の僕にはどんな言葉よりも温かい「お守り」のように思えたのだ。
翌朝、図書室へ本を返しに行った。
カウンターには、静かに図書委員の作業をしている葵さんがいた。
僕が返却台にあの青い文庫本を置くと、彼女は僕の顔と本を見比べ、ふっと優しく微笑んだ。
「全部、読めたんだね」
「うん。……すごく、面白かった」
僕が素直に伝えると、葵さんは嬉しそうに目を細めた。
「あのさ、葵さん」
「なぁに?」
「僕、ちょっとだけ分かった気がするんだ。『小説』って、誰かの言葉が、めぐりめぐって自分の心のお守りになる場所なんだね」
僕の言葉を聞いた葵さんは、深く一度うなずいて言った。
「うん。最高の答えだと思うよ」
**第4章:開かれたページ**
季節がひとつ巡り、僕は中学二年生になった。
相変わらず時間割には「朝の読書時間」があるけれど、今の僕にとってその15分間は、一日のうちで最も待ち遠しい時間になっていた。カバンの中にはいつも、図書室で借りた一冊の本が入っている。漢字のテストの点数は……まあ、前より少し良くなったかな、というくらいだ。でも、そんなことはもうどうでもよかった。
新学期、僕は図書委員に立候補した。
あの日、僕に新しい世界を見せてくれた葵さんや図書室に、少しだけ恩返しがしたかったからだ。
ある日の放課後。カウンターで本の返却作業をしていると、本棚の前でずっとウロウロと迷っていた1年生の男子生徒が、意を決したようにこちらへ歩いてきた。手には薄い文庫本が一冊。
「……あの、すみません」
「はい、どうしたの?」
後輩は申し訳なさそうに眉をひそめながら、ぽつりと呟いた。
「朝の読書の時間用に本を探してるんですけど……正直、どれを選べばいいのか分からなくて。先生は『漢字を覚えるために小説を読め』って言うけど、つまんないし、小説の何が面白いのかさっぱり分からないんです」
昔の自分と全く同じ言葉。
まったく同じ、退屈そうで困り果てた目。
思わずくすっと笑ってしまうと、後輩は「何ですか」と不服そうに頬を膨らませた。
「ううん、ごめん。1年前の自分と全く一緒だなと思って」
僕は返却台の上に置かれた彼の本にそっと目を落とした。
「『小説ってなんだろうね』」
「え?」
「文字の羅列に見えることもあるし、遠い誰かの秘密を覗いてる気分になることもある。今の君にとっては、まだ始まってないだけかもしれない」
「始まってない……?」
「うん。でもね、いつか君の心にぴったりハマる一冊を開いてみたら——案外、悪くないよ」
後輩はぽかんと僕の顔を見た後、自分が手に持っている本へ視線を落とした。
「……僕に合う本、先輩と一緒に探してもらってもいいですか?」
「もちろん」
僕はカウンターを出て、彼と一緒に本棚のあいだへ歩き出した。
夕暮れの図書室に、柔らかい光が差し込んでいる。
世界には、まだ僕らの知らない物語が溢れている。
そして今日から始まるこの瞬間も、僕だけの特別なページのひとつなんだ。
(完)
最後まで読んでくれてマジ感謝!マジサンキュー!
ぶっちゃけ言っちゃうと、この話に出てくる主人公、昔の自分そのまんまなのよ(笑)。
昔の自分、マジで本とか無理ゲーだと思ってたわけ。学校の時間割に「朝の読書」とかいう謎の15分があってさ〜。「マジ退屈、早く終われし」って思いながら、ただ文字を目で追ってるフリして過ごしてたんよね。先生に「漢字覚えるために小説読め!」とか言われても、「は?そんなんで読むわけねーじゃん」って心の中で全力でツッコミ入れてたし!(ちょっと話盛ってるけどねw)
そんな読書大嫌いだった自分が、まさかこんな話書いて投稿しちゃうとか、マジ人生何があるか分かんねぇよね!
でもさ、誰かが書いた言葉が「あ、これマジでオレの気持ち言ってるわ……」って心に刺さる瞬間があってさ。勉強のためとかじゃなく、自分にブッササる一冊に出会えてから、自分の中で『小説』が始まったんだよね。
小説にはまった瞬間ある人教えてほしいな!
最後まで読んでくれて!
マジで…ありがとうございます!