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第2章:風の囁き《ペガススの記憶》
風の尾根――それは、空に最も近い場所。 切り立った崖の上に広がる草原は、常に風が吹き抜けていた。 誰も住まないその地は、かつてペガススが空を駆けた聖域とされていた。
ルミナは、アンドロメダの祠を後にしてから三日目の夜、そこに辿り着いた。 星霊の声は、風に混じって彼女を導いていた。
「この風は、誰かの寂しさを運んでいる気がする…」
尾根の頂に立ったとき、ルミナは空を見上げた。 そこには、まだ戻っていない星座の空白が広がっていた。 彼女はそっと手を伸ばす。 風が渦を巻き、星霊の記憶が流れ込む。
「私は自由だった。誰にも縛られず、空を駆けた。 だが、孤独だった。誰も私を理解しなかった。 私は星霊となり、空を守った。 だが今、私の翼は折れ、記憶は風に散った。 あなたは、私の孤独を知っているか?」
ルミナは目を閉じた。 彼女の心に、幼い頃の記憶がよみがえる。 星霊の声を聞けるがゆえに、誰にも理解されなかった日々。 孤独と、空への憧れ。
「私は、あなたの孤独を知ってる。 でも、今は…誰かと空を見上げることができる」
その言葉に、風が優しく吹いた。 尾根の空に、光が走る。 ペガスス座が、夜空に戻る。
ルミナの背に、星光の翼が現れる。 風が彼女を包み、魔法が目覚める。
ペガスス・ライド:味方全体の移動速度と回避力を上昇させる祝福の風。
星霊の声が、再び彼女に語りかける。
「ありがとう、星読の巫女。 あなたの心が、私の翼を癒した。 だが、次に待つ星霊は…牙を剥いている。 月夜に吠える者。孤独ではなく、怒りに生きる者だ」
ルミナは、風の尾根を後にした。 春の空に、二つの星座が輝いていた。 だが、次に向かうのは――月夜の森。 そこには、封印された星霊《ループス》が眠っている。